説明

滑面材による道路構築工法

【課題】極めて平滑な滑動面が得られて耐摩耗性に優れ、かつ、寿命が長く、また、桁の温度変化による伸縮を安定的に伸縮装置へスムーズに伝達できるとともに、安価な構造で大きな強度が得られ、施工費・材料費とも安価に提供する。
【解決手段】土工部側の路面に配置された底版22の一部を橋台13に受けさせるとともに、該底版22の上に橋梁側の端部から土工部側へ延設されるプレキャスト製の延長床版16を配置し、該延長床版16と橋梁に一体の舗装を施工するようにした道路構築工法において、固定用金具17aを下面に垂設している滑面材17を延長床版16の下面に配置し、かつ、予め延長床版16の上面から滑面材17の下面に通じている注入孔25を設けておく。そして、底版22の上に配置された延長床版16及び滑面材17の注入孔25から底版22の上面と滑面材17の下面との隙間にグラウト材28を注入し、底版22の上面に滑面材17による平滑な滑動面を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は滑面材による道路構築工法に関するものであり、特に、既設のコンクリート構造物を利用して延長床板を構築する滑面材による道路構築工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
滑面形成による道路構築工法として、土工部側の路盤を整形してコンクリート製の底版(主床版)を配置し、該底版の一部を橋台に受けさせるとともに、該底版の上に橋梁側の端部から土工部側へ延設されるプレキャストコンクリート製の延長床版を配置し、該延長床版と橋梁に一体の舗装を施工する構築工法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1記載の発明は、従来の橋桁端に設けられる荷重支持型の鋼製フィンガージョイントの伸縮装置と比較して、車両が通過する際のショックが少ないので騒音の発生を抑止でき、構造も簡単で安価に構築できる。
【0004】
ところで、延長床版は橋梁側の温度変化で橋桁が伸び縮みを繰り返すために、底版面は高精度で、かつ、高品質な仕上がり面が要求される。このため、延長床版と底版の双方がプレキャスト製品となっている。しかし、プレキャスト製品は材料及び製作費が高いのでコストアップになるとともに、敷設や取り換え作業に比較的多くの時間を必要とする。
【0005】
そこで、既設のコンクリート構造物(底版)を利用して延長床版を構築する際に、該底版の上面に高精度・高品質の滑動面を容易、かつ、安価に形成することができる道路構築工法が本件出願人により既に提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
特許文献2に記載の道路構築工法は、土工部側の路面に配置された底版の一部を橋台に受けさせるとともに、該底版の上に橋梁側の端部から土工部側へ延設されるプレキャスト製の延長床版を配置し、該延長床版と橋梁に一体の舗装を施工するようにしたものであって、予め上記延長床版の上面から下面に注入孔を貫通して設けるとともに、該延長床版の下面に撥水・剥離性部材をコーティングしておき、前記底版の上に配置された延長床版の注入孔から前記底版の上面と延長床版の下面との隙間にグラウト材を注入し、前記底版の上面に平滑な滑動面を形成するようにしたものである。
【特許文献1】特開2004−084280号公報
【特許文献2】特許第3955053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の道路構築工法によれば、延長床版の注入孔から注入されたグラウト材は延長床版の下面で硬化し、表面は極めて平滑な滑動面となる。このため、既設橋の底版や場所打ちコンクリート製の底版を利用して延長床版を構築することが可能となるが、延長床版とグラウト材とが直接に触れているので、滑動面の擦り減りにより摩擦抵抗が大きくなり十分な滑動作用が得られない。また、グラウト材の厚さが薄いことから繰返しの衝撃荷重に対する十分な耐久性が期待できない。その結果、桁の温度変化による伸縮を安定的に伸縮装置へスムーズに伝達できないという課題があった。
【0008】
そこで、極めて平滑な滑動面が得られて耐摩耗性に優れ、かつ、寿命が長く、また、桁の温度変化による伸縮を安定的に伸縮装置へスムーズに伝達できるとともに、安価な構造で大きな強度が得られ、施工費・材料費とも安価に提供することができるようにするために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、土工部側の路面に配置された底版の一部を橋台に受けさせるとともに、該底版の上に橋梁側の端部から土工部側へ延設されるプレキャスト製の延長床版を配置し、該延長床版と橋梁に一体の舗装を施工するようにした道路構築工法において、固定用金具を下面に垂設している薄肉鋼板や高強度繊維系パネルなどを材料とした滑面材を上記延長床版の下面に配置し、かつ、予め上記延長床版の上面から前記滑面材の下面に通じている注入孔を設けるとともに、前記底版の上に配置された延長床版及び前記滑面材の注入孔から前記底版の上面と前記滑面材の下面との隙間にグラウト材を注入して前記固定用金具と該グラウト材を一体化し、前記底版の上面に前記滑面材による平滑な滑動面を形成することを特徴とする滑面材による道路構築工法。
【0010】
この構成によれば、延長床版及び前記滑面材の注入孔から注入されたグラウト材は延長床版の下面に配置された前記滑面材と底版との隙間に充填されて延長床版の下面には付着しない。また、前記滑面材の下面には固定用金具が垂設されており、これがグラウト材の注入時にインサートされ、かつ、グラウト材の硬化後は該グラウト材に定着し、定着した前記滑面材は安定した滑動面として確保される。さらに、延長床版はプレキャスト製で下面は極めて平滑に仕上げられているとともに、前記滑面材の上面も平滑に仕上げられているので、延長床版の下面と前記滑面材の上面との間は摩擦抵抗の少ない滑動面となる。また、さらに前記滑面材そのものに強度を有していることから衝撃荷重に対する耐久性が増す。
【0011】
請求項2記載の発明は、上記底版の表面と上記グラウト材との間に前記グラウト材の浸透を防ぎ、かつ、流動性を確保するプライマー処理をしてなる滑面材による道路構築工法を提供する。
【0012】
この構成によれば、底版の表面にはグラウト材の流動性を確保するプライマー処理がしてあるので、延長床版及び前記滑面材の注入孔から注入されたグラウト材は底版に浸透することなくプライマー材上を流動して底版と前記滑面材との間に密に充填される。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明は、延長床版及び前記滑面材の注入孔から注入されたグラウト材は延長床版の下面に配置された前記滑面材と底版との隙間に充填されて延長床版の下面には付着しない。また、前記滑面材の下面には固定用金具が垂設されており、これがグラウト材の注入時にインサートされ、かつ、グラウト材の硬化後は該グラウト材に定着し、前記滑面材は安定した滑動面として確保される。さらに、延長床版はプレキャスト製で下面は極めて平滑に仕上げられているとともに、前記滑面材の上面も平滑に仕上げられているので、延長床版の下面と前記滑面材の上面との間は摩擦抵抗の少ない滑動面となり、延長床版の下面に高精度・高品質の滑動面を容易、かつ、安価に形成することができてコストダウンに寄与できるとともに、工期の短縮化を図ることができる。さらに、桁の温度変化をスムーズに移設された伸縮装置へ伝達できる。
【0014】
また、さらに前記滑面材そのものに強度を有していることから衝撃荷重に対する耐久性が増し、橋梁部側の床版と土工部側の床版の繋ぎ部分におけるコンクリートのひび割れを防止して寿命の長い構造にすることができる。
【0015】
請求項2記載の発明は、延長床版及び前記滑面材の注入孔から注入されたグラウト材は底版に浸透することなく、プライマー処理材上を流動して底版と前記滑面材との間にスムーズに充填されるので、グラウト材をより確実に注入することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、極めて平滑な滑動面が得られて耐摩耗性に優れ、かつ、寿命が長く、また、桁の温度変化による伸縮を安定的に伸縮装置へスムーズに伝達できるとともに、安価な構造で大きな強度が得られ、施工費・材料費とも安価に提供することができるようにするという目的を達成するために、土工部側の路面に配置された底版の一部を橋台に受けさせるとともに、該底版の上に橋梁側の端部から土工部側へ延設されるプレキャスト製の延長床版を配置し、該延長床版と橋梁に一体の舗装を施工するようにした道路構築工法において、固定用金具を下面に垂設している薄肉鋼板や高強度繊維系パネルなどを材料とした滑面材を上記延長床版の下面に配置し、かつ、予め上記延長床版の上面から前記滑面材の下面に通じている注入孔を設けるとともに、前記底版の上に配置された延長床版及び前記滑面材の注入孔から前記底版の上面と前記滑面材の下面との隙間にグラウト材を注入して前記固定用金具と該グラウト材を一体化し、前記底版の上面に前記滑面材による平滑な滑動面を形成するようにしたことにより実現した。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の滑面材による道路構築工法について、好適な実施例をあげて説明する。図1乃至図3はそれぞれ橋台部付近の道路の縦断側面を示す。同図において、橋梁部10を形成している橋桁11は支承12を介して橋台13に載置され、橋梁床版14の端部に接続部15を介してプレキャスト製の延長床版16を配置する。この接続部15は鉄筋を複数箇所でクロスさせたメナーゼヒンジ15aと橋梁部10側の突出部分は現打ちコンクリート15bを打設して橋梁床版14に接続されている。
【0018】
土工部20は、締め固めた盛土21の上にコンクリート構造物である底版22を配置し、該底版22の一端を橋台13の上面まで延設して緩衝ゴム23を介してアンカーボルト24にて固定する。該底版22は、既設橋の改良工事の場合は既存の底版を利用してもよく、新設橋の場合でもプレキャスト製の底版ではなく、場所打ちコンクリート製の底版であってもよい。なお、底版22は踏掛け版と称されることもある。
【0019】
そして、底版22の上には、平板状の滑面材17を下面側に面密着させて設けている前記延長床版16が配置されている。該滑面材17は延長床版16の下面全体に設けられていてもよいし、あるいは部分的に設けられる。本例では延長床版16の先端側の一部を残して、滑面材17を該延長床版16の下面に部分的に配設した場合を示している。また、前記延長床版16及び滑面材17には、互いに対応した位置にその上面から下面に貫通して注入孔25,仮止め金具26と高さ調整金具27がそれぞれ所々に設けられている。さらに、鋼版17の下面には固定用金具17aが所々に垂設されている。
【0020】
前記該仮止め金具26は、工場から現場に設置してグラウト材28が硬化するまでの間、延長床版16と滑面材17との間を仮固定しておくもので、グラウト材28が硬化した後は取り除かれる。前記高さ調整金具27は、前記底版22に対する延長床版16及び滑面材17の高さ調整を行うもので、該高さ調整金具27のねじ込み量を変えると底版22に対する延長床版16と滑面材17の高さ及び傾斜を調整できる。なお、ねじ込み用のボルト部はグラウト材28が硬化した後は取り除かれる。前記固定用金具17aは、滑面材17の下面から下側に向けて突出させて該滑面材17に取り付けられたボルト等である。なお、固定用金具17aは、ボルト以外に、板状のブロック小片等を滑面材17に溶接や接着して使用する場合もある。
【0021】
そして、延長床版16あるいは滑面材17の下面と底版22の上面との隙間には後述する手順にて、前記注入孔25からグラウト材28を注入し、固定用金具17a及び高さ調整金具27を該グラウト材28内にインサートさせて該滑面材17とグラウト材28とを一体化して、該滑面材17を底版22に定着させる。なお、グラウト材28が注入される前、底版22上には、グラウト材28が底版22内に浸透するのを防ぎ、かつ、底版22上でのグラウト材28の流動性を確保するために、例えばエポキシ樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,ビニルエステル樹脂材等のプライマー処理材33を塗布するプライマー処理が施される。
【0022】
前記延長床版16の土工部20側の先端部は、伸縮装置29を介して固定用延長床版が接続されている。なお、該固定用延長床版グラウト材28の硬化したあとアンカーボルト31によって底版22に接続されて固定される。そして、橋梁部10から土工部20にかけて、伸縮装置29の部分を除いて連続的に舗装面32が施工される。
【0023】
ここで、前記延長床版16の下面と底版22の上面との隙間には、グラウト材28の充填部分を囲繞して該グラウト材28が外側に漏洩するのを防ぐ弾性止水帯40を設けてある。
【0024】
而して、底版22の上に、下面に滑面材17を仮止めした延長床版16を高さ調整金具27で高さを調整して配置した後、延長床版16の注入孔25からグラウト材28を注入する。この注入されたグラウト材28は、底版22上に該グラウト材28の浸透を防ぎ、かつ、流動性を確保するためのプライマー処理をしているので、プライマー処理材33上を流動して延長床版16あるいは滑面材17の下面と底版22の上面との隙間にスムーズに充填される。また、このとき隙間内の空気は弾性止水帯40に設けられた図示しない空気抜きパイプから外へ排出される。一方、グラウト材28は弾性止水帯40によりせき止められて、該弾性止水帯40にて囲繞された範囲より外へは漏洩しない。
【0025】
したがって、延長床版16あるいは滑面材17と底版22との隙間にはグラウト材28が高密度に充填される。前述したように、滑面材17の下面には固定用金具17aが垂設されているので、滑面材17の下面側においてはグラウト材28内には固定用金具17aがインサートされて該グラウト材28と滑面材17とが一体化されて定着する。また、延長床版16はプレキャスト製で下面は極めて平滑に仕上げられているので、滑面材17と対応していない延長床版16の下面の部分では、グラウト材28は延長床版16の下面を型枠代わりに充填されて硬化する。養生後はアンカーボルト31にて底版22と接続されて固定される。一方、滑面材17と対応している部分は、該滑面材17の平滑上面と延長床版16の下面とが接することにより極めて摩擦抵抗の少ない滑動面となる。
【0026】
斯くして、図1に示すような橋台部付近の道路において、既設若しくは場所打ちコンクリート製の底版22の上にグラウト材28及び滑面材17が一体的に固着され、延長床版16と滑面材17の上面との間に平滑で摩擦抵抗の少ない滑動面に形成される。したがって、橋梁部10の温度変化により橋桁11が伸縮して延長床版16が押し引きされた場合に、該延長床版16は滑面材17に対して極めて円滑に移動でき、橋梁部10の温度変化による収縮を伸縮装置29でスムーズに吸収することができる。また、耐酸水性に優れた滑面材17を使用した場合では、滑面に錆が発生することなく、長期に亘って良好な強度及び滑動面を維持することになる。
【0027】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る橋梁部付近の道路の縦断側面図。
【図2】本発明に係る橋梁部付近の道路の概略縦断拡大正面図。
【図3】図2のA−A矢視図。
【符号の説明】
【0029】
10 橋梁部
11 橋桁
13 橋台
14 橋梁床版
15 接続部
16 延長床版
17 滑面材
17a 固定用金具
20 土工部
21 締め固め盛土
22 底版
24 アンカーボルト
25 注入孔
26 仮止め金具
27 高さ調整金具
28 グラウト材
29 伸縮装置
30 補助床版
31 アンカーボルト
32 舗装面
33 プライマー処理材
40 弾性止水帯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土工部側の路面に配置された底版の一部を橋台に受けさせるとともに、該底版の上に橋梁側の端部から土工部側へ延設されるプレキャスト製の延長床版を配置し、該延長床版と橋梁に一体の舗装を施工するようにした道路構築工法において、
固定用金具を下面に垂設している薄肉鋼板や高強度繊維系パネルなどを材料とした滑面材を上記延長床版の下面に配置し、かつ、予め上記延長床版の上面から前記滑面材の下面に通じている注入孔を設けるとともに、前記底版の上に配置された延長床版及び前記滑面材の注入孔から前記底版の上面と前記滑面材の下面との隙間にグラウト材を注入して前記固定用金具と該グラウト材を一体化し、前記底版の上面に前記滑面材による平滑な滑動面を形成することを特徴とする滑面材による道路構築工法。
【請求項2】
上記底版の表面と上記グラウト材との間に前記グラウト材の浸透を防ぎ、かつ、流動性を確保するプライマー処理をしてなることを特徴とする請求項1記載の滑面材による道路構築工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−53511(P2010−53511A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216172(P2008−216172)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(592179067)株式会社ガイアートT・K (25)
【出願人】(593017887)石田工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】