説明

漏電検知装置、漏電検知装置における閾値等の設定方法

【課題】漏電を迅速に検知できるとともに、浮遊容量の影響を受けずに漏電を正確に検知できる漏電検知装置を提供する。
【解決手段】漏電検知装置100は、カップリングコンデンサC1にパルスを供給するパルス発生器2と、カップリングコンデンサC1の電圧を検出する電圧検出部6と、漏電の有無を判定する判定部8とを備える。判定部8は、カップリングコンデンサC1の充電量が飽和するまでの所定時刻t1において、電圧検出部6が検出した電圧を閾値V1と比較し、その比較結果に基づいて漏電の有無を判定する。生産工程では、漏電用抵抗Ro、浮遊容量用コンデンサCoおよびスイッチSWを接続し、スイッチSWを閉じた場合と開いた場合のそれぞれについて、各時刻毎にカップリングコンデンサC1の電圧を検出し、一致する電圧を閾値V1として設定し、当該電圧に対応する時刻を所定時刻t1として設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電源の漏電を検知する漏電検知装置に関し、また、漏電有無を判定する際の基準となる閾値等を設定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車においては、モータや車載機器を駆動するための高電圧の直流電源が搭載される。この直流電源は、接地されている車体と電気的に絶縁されているが、何らかの原因で直流電源と車体との間が電気的に接続されると、直流電源から車体を介してグランドへ電流が流れ、漏電(あるいは地絡)が生じる。そこで、この漏電等を検知するための検知装置が、直流電源に付設される。後掲の特許文献1〜3には、電気自動車等に搭載されるこのような検知装置が記載されている。
【0003】
特許文献1の地絡検出装置では、車体と組電池との間の静電容量を閾値と比較することで、車体と組電池との地絡を検出する。この場合、車両の静電容量をバッテリコントローラにより推定し、推定した車両の静電容量に基づいて、閾値を設定する。このように、車両の静電容量に基づいて閾値を設定することにより、車体の静電容量の影響を受けずに、車体と電源との地絡を正確に検出することができる。
【0004】
特許文献2のカップリングコンデンサ式漏電検出装置では、対地絶縁車載回路中の所定の一点に、カップリングコンデンサを通じて交流電圧印加回路部から漏電検出用交流電圧を印加し、交流電圧印加回路部とカップリングコンデンサとの接続点の電圧変化を電圧圧縮回路部により一度圧縮した後、バンドパスフィルタ回路により必要周波数成分を抽出し、その後、電圧増幅を行ってから、漏電検出を行う。これにより、対地絶縁車載回路の電位変動に関わらず、高精度の漏電検出が可能となる。
【0005】
特許文献3の漏電検出装置では、主回路と接地回路との間に交流電圧を印加する交流電源と、この交流電源によって印加された交流電圧により主回路と接地回路との間で消費される電力を検出する電力検出回路と、この電力検出回路によって検出された電力に基づき主回路に漏電が発生しているかどうかを判定する漏電判定回路とが設けられている。このように、主回路に交流電圧を印加してその消費電力を検出することで、浮遊容量が大きい場合にも、正確な漏電検出を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−53365号公報
【特許文献2】特開2004−347372号公報
【特許文献3】特開2006−78449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、直流電源の漏電を検知する漏電検知装置において、漏電を迅速に検知できるようにすることにある。また、本発明の他の課題は、浮遊容量の影響を受けることなく、漏電を正確に検知できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る漏電検知装置は、一端が直流電源に接続されるカップリングコンデンサと、このカップリングコンデンサの他端にパルスを供給するパルス発生器と、上記パルスにより充電されるカップリングコンデンサの電圧を検出する電圧検出部と、直流電源の漏電の有無を判定する判定部とを備える。そして、判定部は、パルス発生器から1つのパルスが出力されて電圧検出部が電圧の検出を開始してから、カップリングコンデンサの充電量が飽和するまでの間の所定時刻において、電圧検出部が検出した電圧を予め定められた閾値と比較し、その比較結果に基づいて漏電の有無を判定する。
【0009】
このようにすると、カップリングコンデンサが飽和する前の時点で、判定部による漏電有無判定が可能となり、漏電検知を迅速に行うことができる。
【0010】
また、本発明に係る漏電検知装置における閾値等の設定方法では、カップリングコンデンサの一端とグランドとの間に、直流電源を擬似的に漏電状態にするための漏電用抵抗と、擬似的に浮遊容量を作り出すための浮遊容量用コンデンサおよびスイッチの直列回路とを並列に接続した状態で、スイッチを閉じ、パルス発生器からパルスを出力した後、各時刻毎に、電圧検出部によりカップリングコンデンサの電圧を検出する。また、スイッチを開き、パルス発生器からパルスを出力した後、各時刻毎に、電圧検出部によりカップリングコンデンサの電圧を検出する。そして、スイッチを閉じた場合の各時刻毎の検出電圧と、スイッチを開いた場合の各時刻毎の検出電圧とを比較して、一致する電圧と、当該電圧に対応する時刻とを抽出し、抽出した電圧に基づいて閾値を設定し、抽出した時刻に基づいて所定時刻を設定する。
【0011】
これにより、閾値および所定時刻は浮遊容量の有無に無関係となるので、浮遊容量の影響を受けることなく、漏電を正確に検知することができる。
【0012】
上記設定方法において、さらに、パルスのパルス幅を、所定時刻に至るまでの時間に設定し、電圧検出部は、パルスの立下りのタイミングで、カップリングコンデンサの電圧を検出するようにしてもよい。
【0013】
また、本発明の他の形態に係る漏電検知装置は、上述した漏電検知装置において、カップリングコンデンサの一端とグランドとの間に接続され、直流電源を擬似的に漏電状態にするための漏電用抵抗と、この漏電用抵抗と並列に接続された、擬似的に浮遊容量を作り出すための浮遊容量用コンデンサおよびスイッチの直列回路と、閾値および所定時刻を設定する設定部とをさらに備えている。そして、スイッチを閉じ、パルス発生器からパルスを出力した後、各時刻毎に、電圧検出部によりカップリングコンデンサの電圧を検出する。また、スイッチを開き、パルス発生器からパルスを出力した後、各時刻毎に、電圧検出部によりカップリングコンデンサの電圧を検出する。設定部は、スイッチを閉じた場合の各時刻毎の検出電圧と、スイッチを開いた場合の各時刻毎の検出電圧とを比較して、一致する電圧と、当該電圧に対応する時刻とを抽出し、抽出した電圧に基づいて閾値を設定するとともに、抽出した時刻に基づいて所定時刻を設定する。
【0014】
この場合も、パルスのパルス幅を、所定時刻に至るまでの時間に設定し、電圧検出部は、パルスの立下りのタイミングで、カップリングコンデンサの電圧を検出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の漏電検知装置によれば、カップリングコンデンサの充電量が飽和するまでに、漏電を迅速に検知することができる。また、本発明の設定方法によれば、浮遊容量の影響を受けずに閾値や時刻を設定できるので、漏電を正確に検知できる漏電検知装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る漏電検知装置を示した回路図である。
【図2】漏電時および非漏電時における検出電圧の波形図である。
【図3】浮遊容量のある場合とない場合における検出電圧の時間的変化を示した図である。
【図4】パルスと検出電圧の各波形を示したタイミングチャートである。
【図5】閾値等の設定手順を示したフローチャートである。
【図6】本発明の他の実施形態に係る漏電検知装置を示した回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。ここでは、本発明を電気自動車に搭載される漏電検知装置に適用した場合を例に挙げる。
【0018】
図1に示すように、漏電検知装置100は、制御部1、パルス発生器2、放電回路3、放電回路4、メモリ5、抵抗R1〜R3、コンデンサC1、C2を備えている。
【0019】
制御部1は、CPUから構成されており、電圧検出部6、設定部7、判定部8およびタイマ9を有している。パルス発生器2は、制御部1からの指令に基づき、所定周波数のパルスを生成する。抵抗R1は、パルス発生器2の出力側に接続されている。抵抗R1には、抵抗R2が直列に接続されている。抵抗R2の値は、抵抗R1の値と比較して十分に小さい。コンデンサC1の一端は、直流電源Bの負極に接続されており、コンデンサC1の他端は、抵抗R2に接続されている。このコンデンサC1は、漏電検知装置100と直流電源Bとを直流的に分離するカップリングコンデンサである。直流電源Bの正極は図示しない負荷に接続されている。
【0020】
カップリングコンデンサC1の一端(直流電源Bとの接続点)とグランドGとの間には、直流電源Bを擬似的に漏電状態にするための漏電用抵抗Roが接続される。また、擬似的に直流電源Bと車体との間の浮遊容量を作り出すための浮遊容量用コンデンサCoと、スイッチSWとの直列回路が、漏電用抵抗Roと並列に接続される。
【0021】
漏電検知装置100は、その使用に先立ち、当該装置の生産工程などにおいて、検知処理に必要な閾値(詳細は後述)などが設定される。上述した漏電用抵抗Ro、浮遊容量用コンデンサCoおよびスイッチSWから構成される回路は、このような閾値などを設定するためのもので、漏電検知装置の生産工程において漏電検知装置100に接続される設備ユニットを構成する。なお、漏電用抵抗Roの値、および浮遊容量用コンデンサCoの値は、例えば、実験的に求めた値をもとにして決定される。
【0022】
放電回路3は、トランジスタQ1、抵抗R4、抵抗R5からなる。トランジスタQ1のコレクタは、抵抗R1と抵抗R2との接続点に接続されている。トランジスタQ1のエミッタは、接地されている。トランジスタQ1のベースは、抵抗R4を介して、制御部1に接続されている。抵抗R5は、トランジスタQ1のベースとエミッタとにまたがって接続されている。この放電回路3は、後述するように、カップリングコンデンサC1および浮遊容量用コンデンサCoの電荷を強制的に放電するための回路である。
【0023】
抵抗R3の一端は、抵抗R1と抵抗R2との接続点に接続されている。抵抗R3の他端は、制御部1に接続されている。コンデンサC2は、抵抗R3の他端とグランドとの間に接続されている。このコンデンサC2は、フィルタ用のコンデンサであって、抵抗R3とともに、制御部1に入力される電圧のノイズを除去するフィルタ回路を構成する。
【0024】
放電回路4は、トランジスタQ2、抵抗R6〜R8からなる。トランジスタQ2のコレクタは、抵抗R6を介して、抵抗R3とコンデンサC2との接続点に接続されている。トランジスタQ2のエミッタは、接地されている。トランジスタQ2のベースは、抵抗R7を介して、制御部1に接続されている。抵抗R8は、トランジスタQ2のベースとエミッタとにまたがって接続されている。この放電回路4は、後述するように、コンデンサC2の電荷を強制的に放電するための回路である。
【0025】
メモリ5は、ROMやRAM等からなり、記憶部を構成する。このメモリ5には、後述の方法により設定された閾値や時刻が記憶される。
【0026】
制御部1において、電圧検出部6は、抵抗R1、R2の接続点nから抵抗R3およびコンデンサC2を介して、制御部1に取り込まれた電圧に基づいて、カップリングコンデンサC1の電圧を検出する。
【0027】
設定部7は、判定部8における漏電有無判定の基準となる閾値を設定するとともに、パルス発生器2から出力されるパルスの幅を設定する。
【0028】
判定部8は、電圧検出部6が検出した電圧を、設定部7で設定された閾値と比較し、その比較結果に基づいて漏電の有無を判定する。
【0029】
タイマ9は、パルス発生器2から出力されるパルスごとに、当該パルスが出力されてからの経過時間を計測する。
【0030】
次に、上述した構成からなる漏電検知装置100の漏電検知動作について説明する。最初に、図1における漏電用抵抗Ro、浮遊容量用コンデンサCoおよびスイッチSWから構成される回路を考慮しない場合の、漏電検知装置100の基本動作を説明する。
【0031】
パルス発生器2から出力されるパルスは、抵抗R1および抵抗R2を介して、カップリングコンデンサC1に供給される。このパルスによりカップリングコンデンサC1が充電され、n点の電位が上昇する。このn点の電位は、抵抗R3およびコンデンサC2を介して、制御部1に入力される。電圧検出部6は、この入力電圧に基づいて、カップリングコンデンサC1の電圧を検出する。この検出された電圧を、以下では「検出電圧」という。
【0032】
直流電源BからグランドGへの漏電が生じていない場合は、図2の実線に示すように、検出電圧は急峻に上昇する。このため、時刻toでパルスが立ち上がってから、時刻t1でパルスが立ち下がるまでの間に、検出電圧は閾値V1を超える。一方、直流電源BからグランドGへの漏電が生じている場合(漏電用抵抗Roが接続されているのと同じ状態)は、漏電経路へ電流が流れるため、図2の破線に示すように、検出電圧は緩やかに上昇する。このため、時刻toから時刻t1までの間に、検出電圧は閾値V1を超えない。
【0033】
電圧検出部6は、パルスが立ち下がる時刻t1において、カップリングコンデンサC1の電圧を検出する。漏電が生じていない場合は、検出電圧はVaとなり、漏電が生じている場合は、検出電圧はVbとなる。判定部8は、検出電圧と閾値V1とを比較し、検出電圧が閾値V1以上(Va)であれば、漏電なしと判定し、検出電圧が閾値V1未満(Vb)であれば、漏電ありと判定する。
【0034】
なお、パルスが立ち下がる時刻t1では、制御部1から放電回路3、4に制御信号が出力される。この制御信号により、放電回路3、4のトランジスタQ1、Q2はそれぞれ導通状態となる。このため、カップリングコンデンサC1および浮遊容量用コンデンサCoの充電電荷は、トランジスタQ1を通して放電され、コンデンサC2の充電電荷は、トランジスタQ2を通して放電される。その結果、検出電圧は、図2のように時刻t1以降は減少する。
【0035】
以上が、漏電検知装置100の基本的な動作である。次に、図2における閾値V1と、時刻t1(パルス幅)の設定方法について説明する。本実施形態では、以下のような方法を採用することにより、直流電源BとグランドG(車体)との間に浮遊容量が存在した場合でも、漏電検知の精度が浮遊容量の影響を受けないようにしている。
【0036】
図3の実線は、浮遊容量が存在しない場合の、検出電圧の時間的変化を表しており、一点鎖線は、浮遊容量が存在する場合の、検出電圧の時間的変化を表している。浮遊容量が存在しない場合は、パルス発生器2から出力されるパルスによって、カップリングコンデンサC1のみが充電される。このため、検出電圧は実線のように、最初は速く、その後は緩やかに上昇してゆく。一方、浮遊容量が存在する場合は、浮遊容量が充電された後にカップリングコンデンサC1が充電される。このため、検出電圧は一点鎖線のように、最初は緩やかに、その後は速く上昇する。
【0037】
そして、カップリングコンデンサC1の充電量が飽和するまで、すなわち、検出電圧が飽和電圧Vsに至るまでのある時点で、実線の曲線と一点鎖線の曲線とが交差する。すなわち、時刻t1において、浮遊容量が存在しない場合の検出電圧と、浮遊容量が存在する場合の検出電圧とが一致する。そこで、このときの検出電圧V1を、図2における閾値V1として設定する。また、このときの時刻t1を、図2における時刻t1(すなわち、パルス幅)として設定する。これらの閾値V1および時刻t1は、浮遊容量の存在・不存在に影響されない値である。
【0038】
このようにして設定された時刻t1に基づき、パルス発生器2は、図4(a)に示すように、t1のパルス幅をもったパルスを出力する。このパルスにより充電されるカップリングコンデンサC1の電圧は、 図4(b)のように変化する。そして、パルスの立ち下りのタイミングXで、電圧検出部6がカップリングコンデンサC1の電圧を検出するとともに、判定部8が検出電圧と閾値V1とを比較して、漏電有無の判定を行う。
【0039】
次に、上述した閾値V1および時刻t1の設定方法を、図5のフローチャートに基づいて、更に具体的に説明する。
【0040】
図5の手順の実行に先立って、漏電検知装置100の生産工程において、図1に示したように、漏電検知装置100に、漏電用抵抗Ro、浮遊容量用コンデンサCo、スイッチSW、直流電源Bが接続される。この準備が完了すると、図5の手順が実行される。
【0041】
まず、図5のステップS1において、スイッチSWをオンにする。これにより、浮遊容量用コンデンサCoが、漏電検知装置100に接続される。また、漏電検知装置100には、漏電用抵抗Roも接続されている。したがって、スイッチSWのオンにより、直流電源BとグランドG間に浮遊容量が存在する状況下で、直流電源Bに漏電が生じた状態が作り出される。
【0042】
次に、ステップS2において、制御部1からの指令に基づき、パルス発生器2がパルス幅t1のパルスを1つ発生する。これと同時にタイマ9がスタートし、ステップS3で、電圧検出部6が各時刻毎にカップリングコンデンサC1の電圧を検出する。そして、検出した各時刻毎の電圧をメモリ5に記憶する。次のステップS4では、パルスが立ち上がってから一定時間が経過したかどうかを、タイマ9の計時値に基づいて判定する。この一定時間は、カップリングコンデンサC1の充電量が飽和するまでの時間よりも短い時間である。一定時間が経過してなければ、ステップS3へ戻って、電圧の検出を継続し、一定時間が経過すれば、ステップS5へ移って、電圧の検出を停止する。このとき、タイマ9も停止する。
【0043】
次に、ステップS6において、スイッチSWをオフにする。これにより、浮遊容量用コンデンサCoは、漏電検知装置100から切り離される。一方、漏電用抵抗Roは、漏電検知装置100に接続されたままである。したがって、スイッチSWのオフにより、直流電源BとグランドG間に浮遊容量が存在しない状況下で、直流電源Bに漏電が生じた状態が作り出される。
【0044】
次に、ステップS7において、制御部1からの指令に基づき、パルス発生器2がパルス幅t1のパルスを1つ発生する。これと同時にタイマ9がスタートし、ステップS8で、電圧検出部6が各時刻毎にカップリングコンデンサC1の電圧を検出する。そして、検出した各時刻毎の電圧をメモリ5に記憶する。次のステップS9では、パルスが立ち上がってから一定時間が経過したかどうかを、タイマ9の計時値に基づいて判定する。この一定時間は、ステップS4での一定時間と同じである。一定時間が経過してなければ、ステップS8へ戻って、電圧の検出を継続し、一定時間が経過すれば、ステップS10へ移って、電圧の検出を停止する。このとき、タイマ9も停止する。その後、ステップS11へ進む。
【0045】
ステップS11では、設定部7が、ステップS3で記憶した各時刻毎の電圧と、ステップS8で記憶した各時刻毎の電圧とをメモリ5から読み出し、各時刻毎に双方の電圧を比較する。そして、ステップS12において、一致する電圧(図3のV1)と、当該電圧に対応する時刻(図3のt1)とを抽出する。その後、ステップS13において、ステップS12で抽出した電圧を、閾値V1としてメモリ5に設定する。また、ステップS12で抽出した時刻を、電圧検出部6による電圧検出および判定部8による漏電有無判定の時刻t1(すなわちパルス幅t1)として、メモリ5に設定する。
【0046】
以上により、閾値V1と時刻(パルス幅)t1の設定が完了する。そして、上述した図5の手順に従った設定作業を、個々の漏電検知装置100に対して行う。
【0047】
なお、上記の説明では、1つのパルスの期間において、一致する電圧および時刻を抽出し、これらを設定値としたが、複数のパルスの各期間において、一致する電圧および時刻をそれぞれ抽出し、それらの平均値を設定値としてもよい。このようにすると、閾値と時刻の設定精度が向上する。
【0048】
以上のように、本実施形態では、パルス発生器2からパルスが出力されて電圧検出部6が電圧検出を開始してから、カップリングコンデンサC1の充電量が飽和するまでの間の所定時刻t1において、検出電圧と閾値V1とを比較し、その比較結果に基づいて漏電の有無を判定する。このため、コンデンサC1が飽和する前の時点で、判定部8による漏電有無判定が可能となり、漏電検知を迅速に行うことができる。
【0049】
また、本実施形態では、漏電検知装置100の生産工程において閾値などを設定する際に、漏電用抵抗Roと、浮遊容量用コンデンサCoと、スイッチSWとを漏電検知装置100に接続して、擬似的に漏電を作り出す。そして、スイッチを閉じたとき(浮遊容量あり)とスイッチを開いたとき(浮遊容量なし)の各場合について、カップリングコンデンサC1の電圧を検出し、一致する電圧と当該電圧に対応する時刻とを抽出し、抽出した電圧に基づいて閾値V1を設定し、抽出した時刻に基づいて所定時刻t1を設定する。これにより、閾値V1および時刻t1は浮遊容量の有無に無関係となるので、浮遊容量の影響を受けることなく、漏電を正確に検知することができる。
【0050】
なお、本実施形態では、図5のステップS13において、ステップS12で抽出した電圧を、そのまま閾値V1として設定したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ステップS12で抽出した電圧に対して、一定の係数を乗じた値、または一定の値を加算もしくは減算した値を、閾値V1として設定してもよい。
【0051】
同様に、時刻t1に関しても、ステップS12で抽出した時刻を、そのまま所定時刻t1として設定することに代えて、ステップS12で抽出した時刻に対して、一定の係数を乗じた値、または一定の値を加算もしくは減算した値を、所定時刻t1として設定してもよい。
【0052】
次に、本発明の他の実施形態に係る漏電検知装置を、図6を参照して説明する。図6では、図1と同一部分に同一符号を付してある。
【0053】
図6において、図1と相違する点は、漏電用抵抗Roと、浮遊容量用コンデンサCoと、スイッチSWとが、漏電検知装置200に組み込まれている点である。すなわち、図1の場合は、これらの部品は、生産工程において個々の漏電検知装置100に共通に使用される設備を構成するものであったが、図6の場合は、これらの部品は、個々の漏電検知装置200に内蔵されている。その他の構成については、図1と同じであるので、重複部分の説明は省略する。
【0054】
図6における漏電用抵抗Ro、浮遊容量用コンデンサCoおよびスイッチSWを考慮しない場合の、漏電検知装置200の基本動作は、図1の漏電検知装置100のそれと同じである。
【0055】
また、漏電用抵抗Ro、浮遊容量用コンデンサCoおよびスイッチSWを用いて、閾値V1と時刻(パルス幅)t1を設定する手順は、図5のフローチャートで説明した手順と同じである。
【0056】
図6の漏電検知装置200においても、図1の漏電検知装置100と同様に、カップリングコンデンサC1が飽和する前の時点で、判定部8による漏電有無判定が可能となり、漏電検知を迅速に行うことができる。また、設定される閾値V1および時刻t1は浮遊容量の有無に無関係となるので、浮遊容量の影響を受けることなく、漏電を正確に検知することができる。
【0057】
本発明では、以上述べた以外にも種々の実施形態を採用することができる。例えば、図1および図6では、カップリングコンデンサC1および浮遊容量用コンデンサCoの電荷を強制的に放電するための放電回路3と、コンデンサC2の電荷を強制的に放電するための放電回路4とを設けた例を示したが、本発明では、これらの放電回路3、4を省略してもよい。
【0058】
また、前記の実施形態では、パルス発生器2から出力されるパルスの立ち下りのタイミングにおいて、電圧検出部6がカップリングコンデンサC1の電圧を検出し、判定部8が漏電の有無を判定したが、本発明はこれに限定されない。例えば、パルスが立ち下がる前の予め定められた時点で、電圧検出部6による電圧検出および判定部8による漏電有無判定を行ってもよい。
【0059】
また、図1の実施形態では、漏電検知装置100に浮遊容量用コンデンサCoを接続して、閾値等の設定を行う例を示したが、浮遊容量用コンデンサCoを設けずに、次のような方法を採用することも可能である。
【0060】
すなわち、生産工程では、浮遊容量なしの状態で、図5のステップS7〜S10の手順に従って、カップリングコンデンサC1の電圧検出と、メモリ5への記憶を行う。次に、漏電検知装置100が車両に搭載されて、実際の浮遊容量が存在する状態で、再度、カップリングコンデンサC1の電圧検出と、メモリ5への記憶を行う。その後、図5のステップS11〜S13に従って、搭載前と搭載後の検出電圧を比較し、閾値V1と時刻t1の設定を行う。このようにすると、個々の車両の浮遊容量に応じた設定が行われるので、車両毎に閾値V1や時刻t1を精度よく設定することができる。
【0061】
さらに、前記の実施形態では、車両に搭載される漏電検知装置に本発明を適用した例を挙げたが、本発明は、車両以外の用途に用いられる漏電検知装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 制御部
2 パルス発生器
5 メモリ
6 電圧検出部
7 設定部
8 判定部
9 タイマ
100、200 漏電検知装置
C1 カップリングコンデンサ
Ro 漏電用抵抗
Co 浮遊容量用コンデンサ
SW スイッチ
B 直流電源
G グランド
V1 閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が直流電源に接続されるカップリングコンデンサと、
前記カップリングコンデンサの他端にパルスを供給するパルス発生器と、
前記パルスにより充電される前記カップリングコンデンサの電圧を検出する電圧検出部と、
前記直流電源の漏電の有無を判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、前記パルス発生器から1つのパルスが出力されて前記電圧検出部が電圧の検出を開始してから、前記カップリングコンデンサの充電量が飽和するまでの間の所定時刻において、前記電圧検出部が検出した電圧を予め定められた閾値と比較し、その比較結果に基づいて漏電の有無を判定することを特徴とする漏電検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の漏電検知装置における前記閾値および前記所定時刻の設定方法であって、
前記カップリングコンデンサの一端とグランドとの間に、前記直流電源を擬似的に漏電状態にするための漏電用抵抗と、擬似的に浮遊容量を作り出すための浮遊容量用コンデンサおよびスイッチの直列回路とを並列に接続した状態で、
前記スイッチを閉じ、前記パルス発生器からパルスを出力した後、各時刻毎に、前記電圧検出部により前記カップリングコンデンサの電圧を検出し、
前記スイッチを開き、前記パルス発生器からパルスを出力した後、各時刻毎に、前記電圧検出部により前記カップリングコンデンサの電圧を検出し、
前記スイッチを閉じた場合の各時刻毎の検出電圧と、前記スイッチを開いた場合の各時刻毎の検出電圧とを比較して、一致する電圧と、当該電圧に対応する時刻とを抽出し、
前記抽出した電圧に基づいて前記閾値を設定し、前記抽出した時刻に基づいて前記所定時刻を設定することを特徴とする漏電検知装置における閾値等の設定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の設定方法において、さらに、
前記パルスのパルス幅を、前記所定時刻に至るまでの時間に設定し、
前記電圧検出部は、前記パルスの立下りのタイミングで、前記カップリングコンデンサの電圧を検出することを特徴とする漏電検知装置における閾値等の設定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の漏電検知装置において、
前記カップリングコンデンサの一端とグランドとの間に接続され、前記直流電源を擬似的に漏電状態にするための漏電用抵抗と、
前記漏電用抵抗と並列に接続された、擬似的に浮遊容量を作り出すための浮遊容量用コンデンサおよびスイッチの直列回路と、
前記閾値および前記所定時刻を設定する設定部と、
をさらに備え、
前記スイッチを閉じ、前記パルス発生器からパルスを出力した後、各時刻毎に、前記電圧検出部により前記カップリングコンデンサの電圧を検出し、
前記スイッチを開き、前記パルス発生器からパルスを出力した後、各時刻毎に、前記電圧検出部により前記カップリングコンデンサの電圧を検出し、
前記設定部は、
前記スイッチを閉じた場合の各時刻毎の検出電圧と、前記スイッチを開いた場合の各時刻毎の検出電圧とを比較して、一致する電圧と、当該電圧に対応する時刻とを抽出し、
抽出した電圧に基づいて前記閾値を設定するとともに、抽出した時刻に基づいて前記所定時刻を設定することを特徴とする漏電検知装置。
【請求項5】
請求項1または請求項4に記載の漏電検知装置において、
前記パルスのパルス幅は、前記所定時刻に至るまでの時間に設定されており、
前記電圧検出部は、前記パルスの立下りのタイミングで、前記カップリングコンデンサの電圧を検出することを特徴とする漏電検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−168070(P2012−168070A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30398(P2011−30398)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(510123839)オムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社 (110)
【Fターム(参考)】