潜在性硬化剤の製造方法、及び接着剤の製造方法
【課題】保存性が高く、かつ硬化性が高い潜在性硬化剤を提供する。
【解決手段】水反応性モノマーと親油性モノマーと主硬化剤とを含有する油相液を水相液中に分散させる。親油性モノマーによって主硬化剤は水から保護されるので、主硬化剤が多量に含まれていても油相液は均一に分散して縣濁液となる。該縣濁液を加熱して油相液の液滴を重合させると液滴が硬化して樹脂粒子となり、樹脂粒子の内部に主硬化剤が保持された第一の潜在性硬化剤が得られる。親油性モノマーの重合物は強度が高いので、主硬化剤は樹脂粒子の内部に安定して保持される。従って、第一の潜在性硬化剤、又は第一の潜在性硬化剤を洗浄した後の第二の潜在性硬化剤を接着剤に添加した時の保存性は高い。
【解決手段】水反応性モノマーと親油性モノマーと主硬化剤とを含有する油相液を水相液中に分散させる。親油性モノマーによって主硬化剤は水から保護されるので、主硬化剤が多量に含まれていても油相液は均一に分散して縣濁液となる。該縣濁液を加熱して油相液の液滴を重合させると液滴が硬化して樹脂粒子となり、樹脂粒子の内部に主硬化剤が保持された第一の潜在性硬化剤が得られる。親油性モノマーの重合物は強度が高いので、主硬化剤は樹脂粒子の内部に安定して保持される。従って、第一の潜在性硬化剤、又は第一の潜在性硬化剤を洗浄した後の第二の潜在性硬化剤を接着剤に添加した時の保存性は高い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着剤の製造方法と、該接着剤に用いられる潜在性硬化剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、接着剤には熱硬化性樹脂を硬化させる硬化剤が添加されており、接着剤の保存性を高めるために、従来より硬化剤をカプセル化した潜在性硬化剤が用いられている。
潜在性硬化剤としては、例えばポリウレア樹脂粒子内にアルミニウムキレートのような硬化剤が保持されたものが公知である(例えば、特許文献3を参照)。
【0003】
しかし、ポリウレア樹脂粒子は接着剤中の有機溶剤や、低分子の熱硬化性樹脂との親和性が大きい為、粒子内にこれらが浸透しやすく、上記潜在性硬化剤を用いる場合には、有機溶剤の種類や添加量、熱硬化性樹脂の種類に制限があった。
また、ポリウレア樹脂粒子は機械的強度が弱いため、接着剤を硬化させる際に硬化剤を放出しやすい反面、多量の硬化剤を保持させることができないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−238158号公報
【特許文献2】特開平8−131816号公報
【特許文献3】国際公開第2005/033173号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は接着剤を硬化させる時の反応性が高く、かつ保存性に優れた潜在性硬化剤と接着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、樹脂中に分散された状態で加熱されると、含有している主硬化剤と、前記樹脂中の補助硬化剤とが接触反応して前記樹脂を硬化させる潜在性硬化剤の製造方法であって、加水分解性の主硬化剤と、水と反応して重合する水反応性モノマーと、加熱によって重合する親油性モノマーとを含有する油相液を作成し、水を主成分とする水相液に前記油相液を分散して、前記水相液中に前記油相液の液滴が分散された懸濁液を作成し、前記懸濁液を加熱し、前記水反応性モノマーを重合させると共に、前記親油性モノマーを重合させ、水反応性モノマー重合物と親油性モノマー重合物からなる樹脂粒子に前記主硬化剤が含有された第一の潜在性硬化剤を作成した後、前記第一の潜在性硬化剤を、前記加水分解性の主硬化剤を溶解する第一の有機溶剤が含有された有機洗浄液に浸漬して第二の潜在性硬化剤を作成する潜在性硬化剤の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤の製造方法であって、前記油相液の作成は、前記主硬化剤としてアルミニウムキレートを用いる潜在性硬化剤の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤の製造方法であって、前記油相液の作成は、前記水反応性モノマーとしてイソシアネートを用いる潜在性硬化剤の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤の製造方法であって、前記油相液の作成は、前記アルミニウムキレートを前記イソシアネートの重量以上含有させる潜在性硬化剤の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤の製造方法であって、前記油相液の作成は、前記親油性モノマーとして、ビニルモノマーと、アクリルモノマーのいずれか一方又は両方を用いる潜在性硬化剤の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤の製造方法であって、前記油相液の作成は、前記ビニルモノマーとしてジビニルベンゼンを用いる潜在性硬化剤の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤の製造方法であって、前記樹脂粒子の洗浄は、前記有機洗浄液に、トルエンと、有機カルボニル化合物のいずれか一方又は両方を含有させる潜在性硬化剤の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤の製造方法であって、前記有機カルボニル化合物として、酢酸エチルと、メチルエチルケトンのいずれか一方又は両方を用いる潜在性硬化剤の製造方法である。
本発明は接着剤の製造方法であって、前記潜在性硬化剤の製造方法で製造された前記潜在性硬化剤を、前記加水分解性の主硬化剤を溶解する第二の有機溶剤と、熱硬化性樹脂と、前記補助硬化剤とを含有するバインダーに分散させる接着剤の製造方法である。
本発明は接着剤の製造方法であって、前記主硬化剤としてアルミニウムキレートを用い、前記熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用い、前記補助硬化剤としてシランカップリング剤を用いる接着剤の製造方法である。
本発明は接着フィルムの製造方法であって、前記接着剤の製造方法で製造された接着剤の塗布層を形成した後、前記塗布層から前記第二の有機溶剤を除去し、前記塗布層をフィルム化する接着フィルムの製造方法である。
【0007】
本発明は上記のように構成されており、樹脂粒子は親油性モノマーの重合物を含有することで、水反応性モノマー重合物だけで構成された場合に比べて機械的強度が高くなっているので、少ない樹脂量で多量の主硬化剤を内部に保持させることができる。
【0008】
その一例を述べるとDVBを油相液に添加した場合には、添加しない場合に比べて5倍程度もアルミニウムキレートの含有量を増加させることができた。主硬化剤の保持量が多いと、少ない量の潜在性硬化剤で接着剤を硬化可能なので、潜在性硬化剤の添加量を少なくすることができる。
【0009】
主硬化剤としてアルミニウムキレートを用いる場合には、補助硬化剤としてシランカップリング剤を用いると、アルミニウムキレートとシランカップリング剤との反応によってカチオンが生成され、熱硬化性樹脂はそのカチオンによってカチオン重合する。カチオン重合は硬化反応が低温で早く進行するので、潜在性硬化剤が含有している主硬化剤と、補助硬化剤とが接触反応すると、接着剤は低温短時間で硬化する。
【0010】
水反応性モノマーとしてイソシアネートを用いた場合、水反応性モノマー重合物はポリウレアである。ポリウレアのような熱応答性樹脂は、ガラス転移温度以上に加熱されると、水素結合が破断して分子鎖がゆるむと考えられる。その為、樹脂粒子がポリウレアを含有する場合は、接着剤を加熱したときに速やかに粒子内の主硬化剤が、粒子外の補助硬化剤と接触反応する。
【0011】
親油性モノマーが、ビニルモノマーやアクリルモノマーのようにラジカル重合性モノマーの場合は、重合開始剤としては、例えば加熱によってラジカルを放出するラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤は加熱によってラジカルを放出し、該ラジカルによって親油性モノマーがラジカル重合する。
【0012】
樹脂粒子の表面又は全部が十分に硬化しなかった場合、第一の潜在性硬化剤をそのまま接着剤に添加すると、接着剤中の第二の有機溶剤が樹脂粒子の十分に硬化しなかった部分に浸透し、室温でも主硬化剤が接着剤中に放出されてしまう。
洗浄後の潜在性硬化剤(第二の潜在性硬化剤)からは、それ以上主硬化剤が有機溶剤に放出されないので、接着剤に添加された時の室温保存性が高い。
【0013】
有機洗浄液に用いる第一の有機溶剤の種類は特に限定されないが、例えば接着剤に用いる第二の有機溶剤と同じもので洗浄すれば、少なくとも、接着剤中で第二の有機溶剤に溶解可能なものを予め除去することができる。
【0014】
第二の有機溶剤としては、接着剤の含有樹脂(例えば熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等)の溶解性が高く、かつ、低温乾燥できる有機溶剤が好ましく、そのような有機溶剤としては酢酸エチルとMEK等の有機カルボニ化合物と、トルエンとが挙げられる。
【0015】
接着フィルムの製造工程で有機溶剤を除去するために接着剤を加熱する場合には、加熱温度を接着剤の硬化開始温度以下に設定すれば、接着剤を硬化させずにフィルム化することができる。
親油性モノマーの配合量や種類、重合条件を変えることで、低温領域での硬化温度調整も可能である。例えば、本発明により得られた接着剤を加熱乾燥してフィルム化する場合、硬化開始温度をフィルム化の加熱温度よりも高く設定しておけば、熱硬化性樹脂を重合させずにフィルム化することができる。
【発明の効果】
【0016】
保存性が高く、かつ、使用時には硬化速度が速い接着剤が得られる。従来と比べて硬化剤製造時の溶剤添加量が少なくて済むため、環境負荷低減に効果がある。樹脂粒子の粒径を数μm単位で制御可能なので、ファインピッチの配線接続用の接着剤にも使用できる。第一、第二の潜在性硬化剤は固体粉末であるため、ニーズに合わせた接着剤の組成を設計することが可能である。親油性モノマーを添加することで、水反応性モノマー重合物以外の特性を潜在性硬化剤に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明により製造された接着剤のDSCチャートである。
【図2】本発明により製造された潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明により製造された潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真(拡大)である。
【図4】比較例の潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図5】親油性モノマーの配合量を変えた時のDSCチャートである。
【図6】親油性モノマーの種類を変えた時のDSCチャートである。
【図7】第二の潜在性硬化剤を添加した接着剤のDSCチャート(DVB置換率30%)である。
【図8】第二の潜在性硬化剤を添加した接着剤のDSCチャート(DVB置換率40%)である。
【図9】参考例のDSCチャートである。
【図10】本発明により製造された潜在性硬化剤のTEM写真である。
【図11】潜在性硬化剤の洗浄時間を変えた場合のDSCチャートである。
【図12】DVB置換率を変えた場合のDSCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の異方導電性フィルムを製造する製造方法について説明する。
後述する有機洗浄液に用いる有機溶剤を第一の有機溶剤とし、熱硬化性樹脂を溶解可能な有機溶剤を第二の有機溶剤とすると、異方導電性フィルムを製造する場合には、熱硬化性樹脂が第二の有機溶剤に溶解され、導電性粒子が分散されたバインダー液に、後述するように熱硬化性樹脂を硬化させる潜在性硬化剤(第一又は第二の潜在性硬化剤)を分散させて液状の接着剤を作成する。
【0019】
潜在性硬化剤は樹脂粒子の内部に主硬化剤を含有しており、その主硬化剤と反応して熱硬化性樹脂を硬化させる補助硬化剤がバインダー液に添加されていたとしても、室温では潜在性硬化剤が含有している主硬化剤と補助硬化剤とが接触反応しないので、接着剤は硬化しない。
接着剤を剥離フィルム表面に塗布して塗布層を形成後、乾燥して第二の有機溶剤を除去すると塗布層がフィルム化し、異方導電性フィルムが得られる。
【0020】
上述したように、接着剤は硬化せず、異方導電性フィルムも室温では硬化しないが、使用の際に接着剤や異方導電性フィルムを加熱すると、潜在性硬化剤が含有している主硬化剤と補助硬化剤とが接触反応して熱硬化性樹脂が重合する。
【0021】
次に、上記の潜在性硬化剤を形成する工程について説明する。
上述した主硬化剤に、加水分解性の水反応性モノマーと、加熱による重合する親油性モノマーと、水難溶性の有機溶剤とを添加し、主硬化剤を主成分とする油相液を作成する。
水に、分散剤と、界面活性剤が添加された水相液を作成し、上記油相液を、該油相液量以上の水相液に添加して懸濁液を作成し、攪拌する。
【0022】
主硬化剤は加水分解性物質であり、主硬化剤が加水分解すると発熱して油相液がゲル化してしまうが、主硬化剤は油相液中の親油性モノマー及び有機溶剤で保護されるため、加水分解が抑制され、油相液はゲル化せずに液滴となって水相液中に均一に分散する。
【0023】
液滴の表面では水反応性モノマーが水と接触しているため、水反応性モノマーの加水分解がおこって中間生成物が生成され、該中間生成物が加水分解前の水反応性モノマーと反応し、水反応性モノマーの重合物が生成される(界面重合反応)。
懸濁液を加熱すると親油性モノマーが重合すると共に、水反応性モノマーの重合が促進され、内部に主硬化剤を保持したまま液滴が硬化する。
【0024】
このとき、懸濁液の加熱温度を油相液に添加した有機溶剤の沸点以上に設定すると(例えば、有機溶剤に酢酸エチルを使用する場合において、酢酸エチルの沸点77℃に対し、加熱温度が80℃)、液滴中から有機溶剤が蒸発除去され、親油性モノマーの重合物と、水反応性モノマーの重合物からなる樹脂粒子中に、該重合物の合計重量以上の主硬化剤が保持された第一の潜在性硬化剤が得られる。
【0025】
懸濁液中の液滴を硬化させて樹脂粒子を形成する場合には、油相液の分散性が悪いと液滴の粒径を小さくすることができず、その結果樹脂粒子の粒径も大きくなる。上述したように、本願では水相液に均一に分散されるので、第一の潜在性硬化剤の樹脂粒子の粒径を数μm単位と小さくすることができる。
【0026】
第一の潜在性硬化剤を含む水相液(重合液)に蒸留水を加水して洗浄した後、第一の潜在性硬化剤粒子を重合液からろ別する。
上記加水分解性の主硬化剤を溶解する第一の有機溶剤を有機洗浄液とし、重合液からろ別した第一の潜在性硬化剤を有機洗浄液に浸漬すると、樹脂粒子内部に保持されず、その表面に付着しているだけの主硬化剤や、重合度が低く、その結果、溶剤浸透性の大きい主硬化剤の部位が有機溶剤(有機洗浄液)中に抽出される。
【0027】
上述したように樹脂粒子は多量の主硬化剤を含有しているため、有機洗浄液で洗浄後も樹脂粒子の内部に多量の主硬化剤が保持され、第二の潜在性硬化剤が得られる。
上述したように、第一の潜在性硬化剤の樹脂粒子の粒径を数μm単位と小さくすれば、第二の潜在性硬化剤の樹脂粒子の粒径も数μm単位と小さくなる。
【実施例】
【0028】
<第一の潜在性硬化剤>
水反応性モノマーであるイソシアネート(三井武田ケミカル(株)社製の商品名「D−109」)と、親油性のラジカル重合性モノマー(親油性モノマー)であるジビニルベンゼン(メルク(株)社製)の合計重量70質量部(重量部)に対し、主硬化剤であるアルミニウムキレート(川研ファインケミカル(株)社製の商品名「アルミキレートD」)350質量部と、有機溶剤である酢酸エチル70質量部とを混合し、更にラジカル重合開始剤(日本油脂(株)社製の商品名「パーロイルL」)をジビニルベンゼン配合量の1重量%添加して油相液を作成した。
【0029】
蒸留水800質量部に、分散剤であるポリビニルアルコール((株)クラレ社製の商品名「PVA205」)4質量部と、界面活性剤(日本油脂(株)社製の商品名「ニューレックスR−T」)0.05質量部とを混合して水相液を作成し、この水相液に上記油相液を分散させた懸濁液を80℃に加熱しながら攪拌し、第一の潜在性硬化剤を得た。尚、第一の潜在性硬化剤の樹脂粒子の粒径は5μm以下(体積換算平均粒子径2.3μm程度)になるようにした。
【0030】
熱硬化性樹脂である脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学工業(株)社製の商品名「CEL2021P」)90質量部と、補助硬化剤であるシランカップリング剤(信越化学工業(株)社製の商品名「KBM5103」)12質量部に、有機洗浄液で洗浄する前の第一の潜在性硬化剤を2質量部添加して実施例1の接着剤を作成した。
【0031】
第一の潜在性硬化剤の代わりにアルミニウムキレートを直接接着剤に添加して比較例1の接着剤を作成し、油相液にジビニルベンゼンを添加せずに潜在性硬化剤を作成し、この潜在性硬化剤を実施例1の第一の潜在性硬化剤の代わりに接着剤に添加して比較例2の接着剤を作成した。
【0032】
これら3種類の接着剤について、DSC分析(Differential scanning calorimetry、示差走査熱分析)を行った。DSCチャートを図1に示す。尚、図1中の符号E1、C1、C2はそれぞれ実施例1、比較例1、2のDSCチャートを示す。
【0033】
DSCチャートが立ち上がる温度を発熱開始温度とし、チャートがピークに達する温度を発熱ピーク温度とし、チャートの最大強度を発熱ピーク強度とした。「発熱開始温度」と「発熱ピーク温度」と「発熱ピーク強度」を、DVB置換率と共に下記表1に記載する。
【0034】
【表1】
【0035】
DVB置換率とはDVB(ジビニルベンゼン)の配合量(重量)を、DVBの配合量とイソシアネートの配合量との合計で除した値に100を乗じた値である。発熱開始温度は熱硬化性樹脂の重合反応が開始する温度であり、発熱ピーク温度は熱硬化性樹脂の重合反応がピークになる温度である。
【0036】
上記表1と図1から分かるように、アルミニウムキレートを直接添加した場合も、DVBを添加せずに潜在性硬化剤を作成した場合も、発熱開始温度は室温であったが、DVBを添加して潜在性硬化剤を作成した実施例1では、発熱開始温度が室温よりも高く、保存性が高いことがわかった。また、実施例1の接着剤は比較例1、2と比べてピーク幅も狭く、短時間で接着剤の硬化が進行することがわかる。
【0037】
次に、上記実施例1の第一の潜在性硬化剤と、比較例2の潜在性硬化剤の樹脂粒子の状態を観察した。図2と図3は実施例1の第一の潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真であり、図4は比較例2の潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【0038】
実施例1の第一の潜在性硬化剤は粒子形状及び粒子の表面状態にも問題が無かったが、比較例2の潜在性硬化剤は粒子の表面に多数の凹凸が見られた。
粒子表面に多数の凹凸があるということは、均一な界面重合によって形成した粒子表面ではないため、室温保存性に悪影響を与えるから、この観察結果からも親油性モノマーを油相液に添加すれば室温保存性に優れた潜在性硬化剤が得られることがわかる。
【0039】
<親油性モノマーの配合量>
DVBの配合量を変えた以外は、上記実施例1と同じ条件でDVB置換率20%と、40%の第一の潜在性硬化剤を作成し、これら2種類の第一の潜在性硬化剤を用いて、実施例1と同じ条件で実施例2、3の接着剤を作成した。
【0040】
実施例2、3の接着剤と、上記実施例1と比較例2の接着剤についてDSC分析を行った。DSCチャートを図5に示す。尚、図5中の符号E1〜E3とC2はそれぞれ実施例1
〜3と、比較例2のDSCチャートを示す。それらのDSCチャートから読み取った「発熱開始温度」と「発熱ピーク温度」と「発熱ピーク強度」を、DVB置換率と一緒に下記表2に記載する。
【0041】
【表2】
【0042】
DVBの配合量が増すほど、発熱開始温度も発熱ピーク温度も高温側にシフトしており、発熱ピーク温度が90℃以下の低温硬化型接着剤を作成するためには、DVB置換率を少なくとも50%以下にする必要があることがわかる。
【0043】
<親油性モノマーの種類>
DVBに代え、それぞれ3種類のアクリルモノマーを用いた以外は上記実施例1と同じ条件で3種類の第一の潜在性硬化剤を作成し、これら3種類の第一の潜在性硬化剤を用いて実施例4〜6の接着剤を得た。尚、アクリルモノマーの配合量は、イソシアネートとの合計量100質量部に対し、それぞれ30質量部とした。
【0044】
また、アクリルモノマーとしては、1,6−HDDA(1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、新中村化学(株)社製の商品名「A−HDN」)と、A−TMPT(トリメチロールプロパントリアクリレート、新中村化学(株)社製の商品名)と、A−TMMT(テトラメチロールメタンテトラアクリレート、新中村化学(株)社製の商品名)を用いた。
【0045】
これら3種類の接着剤についてDSC分析を行い、得られたDSCチャートを図6に示す。尚、図6中の符号E4〜E6はそれぞれ実施例4〜6のDSCチャートを示す。それらDSCチャートから読み取った「発熱開始温度」と「発熱ピーク温度」と「発熱ピーク強度」を、アクリルモノマーの種類と一緒に下記表3に記載する。
【0046】
【表3】
【0047】
上記表3から明らかなように、発熱開始温度は室温よりも高く、発熱ピーク温度は90℃未満であった。この結果から、親油性モノマーとしてDVBのようなビニルモノマーの代わりにアクリルモノマーを用いた場合でも室温保存性が高く、かつ、接着剤の硬化性が高い潜在性硬化剤が得られることがわかる。
【0048】
<保存安定性試験>
上記実施例1で作成した第一の潜在性硬化剤を用い、実施例1とは接着剤の組成を変えて実施例7〜9の接着剤を作成した。各接着剤の組成を下記表4に記載する。
【0049】
【表4】
【0050】
上記表4中の「CEL2021P」はダイセル化学工業(株)社製の商品名であり、脂環式エポキシ樹脂である。「EP807」はジャパンエポキシレジン(株)社製の商品名であり、ビスフェノールF型エポキシ樹脂である。「KBM5103」は信越化学工業(株)社製の商品名であり、シランカップリング剤である。
【0051】
上記実施例7〜9の接着剤について、振動式粘度計(株式会社エー・アンド・デイ社製の商品名「SV−10」)を用い、30℃で保存したときの粘度増加を測定し、その測定結果を上記表4に記載した。
【0052】
上記表4から分かるように、実施例7〜9の接着剤は5時間までは粘度増加が少なく接着剤の硬化が起こらないが、実施例7の接着剤は10時間未満で硬化してしまった。
【0053】
上記脂環式エポキシ樹脂は初期粘度が252cP/25℃と低く、初期粘度が低い樹脂は有機溶剤と同様に樹脂粒子壁の浸透性が高いので、熱硬化性樹脂として脂環式エポキシ樹脂だけを用いた実施例7では、潜在性粒子内に該エポキシ樹脂が浸透し、接着剤の硬化反応が30℃でも進行したと推測される。
【0054】
これに対し、上記ビスフェノールF型エポキシ樹脂(3000〜4500cP/25℃)のように初期粘度が高い樹脂を接着剤に含有させると粘度増加が遅く、特に、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を脂環式エポキシ樹脂の等量以上配合した場合には、DSCチャートで確認した硬化開始温度が50℃程度の低温型接着剤においても48時間保存してもほとんど粘度の増加が進行しない高い保存性が確認された。
【0055】
<洗浄試験>
上記実施例1、3で作成した第一の潜在性硬化剤(DVB率30%、40%)を水で洗浄後、トルエンと、酢酸エチルと、PGMAC(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート )と、MEK(メチルエチルケトン)の4種類の有機洗浄液に液温30℃、粒子濃度1%の条件で4時間浸漬して洗浄を行い、8種類の第二の潜在性硬化剤を作成した。
【0056】
脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学工業(株)社製の商品名「CEL2021P」)86質量部と、シランカップリング剤(信越化学工業(株)社製の商品名「KBM403」)6質量部に、上記8種類の第二の潜在性硬化剤と、上記2種類の第一の潜在性硬化剤とをそれぞれ8質量部ずつ添加し、実施例10〜19の接着剤を作成した。
【0057】
実施例10〜19のうち、実施例10〜14はDVB置換率30%の場合であり、実施例15〜19はDVB置換率40%の場合である。また、実施例10、15は第一の潜在性硬化剤を洗浄せずに用いた場合である。実施例11、16はトルエンを、実施例12、17は酢酸エチルを、実施例13、18はPGMACを、実施例14、19はMEKをそれぞれ有機洗浄液として用いた場合である。
【0058】
実施例10〜14の接着剤と、実施例15〜19の接着剤についてそれぞれDSC分析を行った。実施例10〜14の接着剤のDSCチャートを図7に示し、実施例15〜19の接着剤のDSCチャートを図8に示す。
【0059】
尚、図7中の符号E10〜E14はそれぞれ実施例10〜14のDSCチャートを示し、図8中の符号E15〜E19はそれぞれ実施例15〜19のDSCチャートを示す。各DSCチャートから読み取った「発熱開始温度」と「発熱ピーク温度」と「発熱ピーク強度」を下記表5、表6に記載する。
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
図7、図8から明らかなように、本発明により製造された第一、第二の潜在性硬化剤はいずれも発熱開始温度が室温を超えており、室温保存性を有することがわかる。
特に、洗浄後の第二の潜在性硬化剤を用いた実施例11〜14、16〜19は発熱開始温度も発熱ピーク温度も高く、しかも、発熱ピーク幅も狭くなっており、洗浄前に比べて保存性が高く、かつ、硬化時の反応性も高いことがわかる。
【0063】
DVB置換率が30%の場合と40%の場合を比較すると、該置換率が30%である実施例11〜14は、置換率が40%である実施例16〜19よりも発熱開始温度が低く、発熱ピーク幅が狭く、硬化時の反応性が高い。これはDVBの置換率が低い方が樹脂粒子が含有している主硬化剤が、補助硬化剤と接触反応しやすいことを示す。
【0064】
また、有機洗浄液の種類について検討すると、DVB置換率30%の場合は、トルエンと酢酸エチルを用いた場合の発熱ピーク強度が特に高かった、DVB置換率40%の場合はMEKを用いた場合の発熱ピーク強度が特に高かった。発熱ピーク強度が高いほど接着剤硬化時の反応性が高いことを示しており、反応性を考慮するとトルエンと酢酸エチルとMEKが有機洗浄液として適していることがわかる。
【0065】
<洗浄試験:参考例>
本発明と比較するために、特開2006−70051号公報に記載された潜在性硬化剤のように、油相液に親油性モノマーを添加せずに作成した潜在性硬化剤物を、上記実施例11〜14と同じ条件で洗浄した。
【0066】
洗浄前と洗浄後の潜在性硬化剤を用いて、実施例11〜14と同じ配合で参考例1〜4の接着剤を作成し、DSC分析を行った。参考例1〜4のDSCチャートを図9に示し、DSCチャートから読み取った「発熱開始温度」と、「発熱ピーク温度」と、「発熱ピーク強度」と、「ピーク面積」とを、洗浄液の種類と共に下記表7に記載する。
【0067】
【表7】
【0068】
尚、参考例1は洗浄前の潜在性硬化剤を用いた接着剤であり、参考例2〜4はそれぞれMEK、酢酸エチル、トルエンで洗浄した潜在性硬化剤を用いた接着剤であり、図9中の符号s1〜s4はそれぞれ参考例1〜4のDSCチャートを示している。
【0069】
油相液に親油性モノマーを含有させずに潜在性硬化剤を作成した場合、元々、洗浄前の潜在性硬化剤の発熱ピーク温度が100℃以上と高い。有機洗浄液として、最も粒子内浸透性の小さいトルエンを用いた参考例4についても、発熱ピーク温度は108℃と高い。また、有機洗浄液としてMEKを用いた参考例2は発熱チャートが最もブロード(幅広)になった。
【0070】
これに対し、上記表6に示したように、本発明により製造された接着剤は、有機洗浄液としてMEKを用いた場合でも、発熱チャートが狭いので、参考例に比べて熱応答性が高く、短時間で硬化することが分かる。
【0071】
本発明により製造された接着剤と、参考例の接着剤とでこのような差が生じた理由は、本発明により製造される第一の潜在性硬化剤は、粒子内のアルミニウムキレート剤含有量が大きく、有機洗浄液で洗浄後も低温硬化に必要な量の硬化剤を粒子内に残すことができるからである。
【0072】
<元素分析>
本発明により製造された洗浄後の潜在性硬化剤(第二の潜在性硬化剤)を粉体の試料とし、該試料全面を、膜厚10nm設定でOs(オスミウム)コートした後、TEM(透過型電子写真顕微鏡)を用いて元素分析を行った。TEM写真を図10に示し、5箇所の元素分析の測定結果を下記表8に記載する。
【0073】
【表8】
【0074】
尚、上記表8中の「Al/Os」の欄は、Alのカウント数とOsのカウント数との比を示す。
【0075】
上記表8から分かるように、全ての測定箇所でAlが高濃度に残留している。Alは主硬化剤(金属キレート)由来であるから、本発明により製造された潜在性硬化剤には、主硬化剤が高濃度で、かつ、均一に残留することが分かる。
【0076】
<洗浄処理時間>
第一の潜在性硬化剤を有機洗浄液(酢酸エチル)に浸漬する洗浄浸漬を4時間から1時間と8時間にそれぞれ変えた以外は、実施例12と同じ条件で、実施例20、21の接着剤を作成し、DSC分析を行った。そのDSCチャートを図11に示し、当該DSCチャートから読み取った「発熱開始温度」と、「発熱ピーク温度」と、「発熱ピーク強度」と、「ピーク面積」とを下記表9に記載する。
【0077】
【表9】
【0078】
上記表9から明らかなように、処理時間を変えても、「発熱開始温度」と、「発熱ピーク温度」と、「発熱ピーク強度」と、「ピーク面積」等の硬化剤特性が同等であり、処理時間を延ばしても、処理後の硬化剤特性は安定していることが分かった。
即ち、本発明により製造された潜在性硬化剤は、有機溶剤中に溶剤が粒子内に浸透した後、その状態で処理溶剤に対して良好な耐溶剤性を有している。おそらく、溶剤への硬化剤抽出は一定量で停止するのであろう。
【0079】
溶剤浸漬処理では潜在性硬化剤粒子表層部の溶剤抽出され易い部分の主硬化剤のみが除去されることになるため、洗浄処理を行った潜在性硬化剤は、有機洗浄液に対する耐溶剤性が向上している。
従って、洗浄処理後は有機洗浄液を乾燥除去する工程が必要なく、洗浄後の潜在性硬化剤をそのまま接着剤等に添加して使用することもできる。
【0080】
<DVB置換率>
上記実施例2、3と同じ条件でDVB置換率が20%、40%の第一の潜在性硬化剤を作成した。その第一の潜在性硬化剤を、上記実施例11〜14、16〜19と同じ条件で有機洗浄液(酢酸エチル)に浸漬して洗浄して第二の潜在性硬化剤を作成した。得られた第二の潜在性硬化剤を用い、実施例11〜14、16〜19と同じ配合割合で、実施例22、23の接着剤を作成した。
【0081】
実施例22、23の接着剤と、実施例12の接着剤(DVB置換率30%)についてDSC分析を行った。そのDSCチャートを図12に示し、当該DSCチャートから読み取った「発熱開始温度」と、「発熱ピーク温度」と、「発熱ピーク強度」と、「ピーク面積」とを下記表10に記載する。
【0082】
【表10】
【0083】
上記表10から明らかなように、DVB置換率が40%と高い場合、ブロードなピークとなった。DVB重合部分とイソシアネート界面重合によるポリウレア−ウレタン重合部分は共重合していないため、実際には相分離状態となっている。そのため、一定量以上のDVBを配合すると、耐溶剤性、熱応答性の低下が生じる。以上のことから、DVB置換率は40%未満が望ましいことが分かる。
【0084】
以上は、親油性モノマーとしてDVBとアクリルモノマーを用いる場合について説明したが、親油性モノマーとしては、水反応性モノマーと反応性がなく、加熱によって重合するものであれば特に限定されるものではない。例えば、水反応性モノマーがイソシアネートの場合は、化学構造中にヒドロキシル基及びアミノ基を持たない、2官能以上で親油性があるモノマーを広く用いることができる。
【0085】
第一、第二の潜在性硬化剤は、界面重合法を利用して製造されるため、その形状は球状であり、その粒子径は硬化性及び分散性の点から、好ましくは0.5μm以上100μm以下である。
第一、第二の潜在性硬化剤は、その界面重合時に使用する有機溶剤を実質的に含有していないこと、具体的には、1ppm以下であることが、硬化安定性の点で好ましい。
【0086】
油相液における主硬化剤の配合量は特に限定されないが、接着剤硬化時の低温硬化性を実現するためには、主硬化剤の配合量(重量)を、水反応性モノマーの重量以上にすることが好ましい。
【0087】
主硬化剤に用いるアルミニウムキレート剤としては、下記一般式(1)に表される、3つのβ−ケトエノラート陰イオンがアルミニウムに配位した錯体化合物が挙げられる。
【0088】
【化1】
【0089】
ここで、R1、R2及びR3は、それぞれ独立的にアルキル基又はアルコキシル基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、オレイルオキシ基が挙げられる。
【0090】
化学式(1)で表されるアルミニウムキレート剤の具体例としては、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビスオレイルアセトアセテート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0091】
以上は、主硬化剤としてアルミニウムキレートを用いる場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、接着剤中の補助硬化剤がシランカップリング剤であり、熱硬化性樹脂としてカチオン重合可能な樹脂を用いる場合には、種々の金属キレートや金属アルコラートを用いることができる。金属キレートと金属アルコラートの中心金属はアルミニウムに限定されず、ジルコニウム、チタニウム、アルミニウム等種々のものを用いることができるが、これらのなかでも特に反応性の高いアルミニウムが好ましい。
【0092】
水反応性モノマーは水と反応して液滴表面で界面重合するものであれば特に限定されないが、具体的にはイソシアネート化合物、特に、一分子中に2個以上のイソシアネート基、好ましくは3個のイソシアネート基を有する多官能イソシアネート化合物が好ましい。
【0093】
3官能イソシアネート化合物の更に好ましい例としては、トリメチロールプロパン(TMP)1モルにジイソシアネート化合物3モルを反応させた下記化学式(1)のTMPアダクト体、ジイソシアネート化合物3モルを自己縮合させた化学式(2)のイソシアヌレート体、ジイソシアネート化合物3モルのうちの2モルから得られるジイソシアネートウレアに残りの1モルのジイソシアネートが縮合した化学式(3)のビュウレット体が挙げられる。
【0094】
【化2】
【0095】
【化3】
【0096】
【化4】
【0097】
上記化学式(1)〜(3)において、置換基Rは、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた部分である。このようなジイソシアネート化合物の具体例としては、トルエン2,4−ジイソシアネート、トルエン2,6−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ−m−キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンジフェニル−4,4'−ジイソシアネートが挙げられる。
【0098】
このような多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得られる樹脂は、界面重合の間にイソシアネート基の一部が加水分解を受けてアミノ基となり、そのアミノ基とイソシアネート基とが反応して尿素結合を生成してポリマー化するポリウレア樹脂である。
【0099】
このような水反応性モノマーの重合物と、親油性モノマーの重合物からなる樹脂粒子内部相に保持された主硬化剤とからなる潜在性硬化剤は、硬化のために加熱されると、明確な理由は不明であるが、保持されている主硬化剤は、接着剤中の補助硬化剤や熱硬化性樹脂と接触できるようになり、硬化反応を進行させることができる。
【0100】
尚、第一の潜在性硬化剤は、その構造上最表面にも主硬化剤が存在することになると思われるが、最表面に存在する主硬化剤は界面重合の際に系内に存在する水により活性が弱くなっていると考えられる。従って、洗浄前の第一の潜在性硬化剤もある程度は潜在性を獲得できたと考えられる。
【0101】
油相液には必要に応じて有機溶剤を添加することができる。有機溶剤は沸点が低い揮発性有機溶剤が好ましい。ここで、揮発性有機溶剤を使用する理由は以下の通りである。即ち、通常の界面重合法で使用するような沸点が300℃を超える高沸点溶剤を用いた場合、界面重合の間に有機溶剤が揮発しないために、イソシアネート−水との接触確率が増大せず、それらの間での界面重合の進行度合いが不十分となるからである。
【0102】
そのため、界面重合させても良好な保形性の重合物が得られ難く、また、得られた場合でも重合物に高沸点溶剤が取り込まれたままとなり、接着剤に配合した場合に、高沸点溶剤が接着剤の硬化物の物性に悪影響を与えるからである。このため、この製造方法においては、油相を調製する際に使用する有機溶剤として、揮発性のものを使用する。
【0103】
このような揮発性有機溶剤としては、主硬化剤と水反応性モノマーと親油性モノマーにとって良溶媒(それぞれの溶解度が好ましくは0.1g/ml(有機溶剤)以上)であって、水に対しては実質的に溶解せず(水の溶解度が0.5g/ml(有機溶剤)以下)、大気圧下での沸点が100℃以下のものが好ましい。このような揮発性有機溶剤の具体例としては、アルコール類、酢酸エステル類、ケトン類等が挙げられる。中でも、高極性、低沸点、貧水溶性の点で酢酸エチルが好ましい。
【0104】
揮発性有機溶剤の使用量は特に限定されないが、多すぎると作業環境に悪影響を与えるだけでなく、希釈効果により生成粒子内の硬化剤量が低下するため、揮発性有機溶剤の配合量は水反応性モノマーの倍量以下(質量部)とすることが望ましい。
【0105】
水相液に用いる分散剤はポリビニルアルコール以外にも、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン等の通常の界面重合法において使用されるものを使用することができる。分散剤の使用量は、通常、水相の0.1質量%以上10.0質量%以下である。
【0106】
懸濁液を作成する乳化条件はとしては、例えば、油相の大きさが好ましくは0.5μm以上100μm以下となるような撹拌条件(撹拌装置ホモジナイザー;撹拌速度8000rpm以上)で、通常、大気圧下、温度30℃以上80℃以下、撹拌時間2時間以上12時間以下、加熱撹拌する条件を挙げることができる。
【0107】
本発明により製造された第一、第二の潜在性硬化剤は、従来のイミダゾール系潜在性硬化剤と同様の用途に使用することができ、上述したように、補助硬化剤であるシランカップリング剤と、熱硬化性樹脂と併用することにより、低温速硬化性の接着剤を与えることができる。
【0108】
補助硬化剤であるシランカップリング剤は、特開2002−212537号公報の段落0007〜0010に記載されているように、アルミニウムキレート剤と共働して熱硬化性樹脂(例えば、熱硬化性エポキシ樹脂)のカチオン重合を開始させる機能を有する。
【0109】
このような、シランカップリング剤としては、分子中に1つ以上3つ以下の低級アルコキシ基を有するものであり、分子中に熱硬化性樹脂の官能基に対して反応性を有する基、例えば、ビニル基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基等を有していてもよい。
【0110】
なお、アミノ基やメルカプト基を有するカップリング剤は、上記潜在性硬化剤がカチオン型主硬化剤であるため、そのアミノ基やメルカプト基が発生カチオン種を実質的に捕捉しない場合に使用することができる。
【0111】
このようなシランカップリング剤の具体例としては、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0112】
熱硬化性樹脂としては、熱硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型尿素樹脂、熱硬化型メラミン樹脂、熱硬化型フェノール樹脂等を使用することができる。中でも、硬化後の接着強度が良好な点を考慮すると、熱硬化型エポキシ樹脂を好ましく使用することができる。
【0113】
このような熱硬化型エポキシ樹脂としては、液状でも固体状でもよく、エポキシ当量が通常100以上4000以下であって、分子中に2以上のエポキシ基を有するものが好ましい。例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、エステル型エポキシ化合物、脂環型エポキシ化合物等を好ましく使用することができる。また、これらの化合物にはモノマーやオリゴマーが含まれる。
【0114】
接着剤には、必要に応じてシリカ、マイカなどの充填剤、顔料、帯電防止剤などを含有させることができる。また、接着剤には、数μmオーダーの粒径の導電性粒子、金属粒子、樹脂コア表面を金属メッキ層で被覆したもの、それらの表面を絶縁薄膜で更に被覆したもの等を、全体の1質量%以上10質量%以下の配合量で配合することが好ましい。これにより、本発明の製造方法で製造された接着剤を異方導電性接着ペースト、異方導電性フィルムとして使用することが可能となる。
【技術分野】
【0001】
本発明は接着剤の製造方法と、該接着剤に用いられる潜在性硬化剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、接着剤には熱硬化性樹脂を硬化させる硬化剤が添加されており、接着剤の保存性を高めるために、従来より硬化剤をカプセル化した潜在性硬化剤が用いられている。
潜在性硬化剤としては、例えばポリウレア樹脂粒子内にアルミニウムキレートのような硬化剤が保持されたものが公知である(例えば、特許文献3を参照)。
【0003】
しかし、ポリウレア樹脂粒子は接着剤中の有機溶剤や、低分子の熱硬化性樹脂との親和性が大きい為、粒子内にこれらが浸透しやすく、上記潜在性硬化剤を用いる場合には、有機溶剤の種類や添加量、熱硬化性樹脂の種類に制限があった。
また、ポリウレア樹脂粒子は機械的強度が弱いため、接着剤を硬化させる際に硬化剤を放出しやすい反面、多量の硬化剤を保持させることができないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−238158号公報
【特許文献2】特開平8−131816号公報
【特許文献3】国際公開第2005/033173号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は接着剤を硬化させる時の反応性が高く、かつ保存性に優れた潜在性硬化剤と接着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、樹脂中に分散された状態で加熱されると、含有している主硬化剤と、前記樹脂中の補助硬化剤とが接触反応して前記樹脂を硬化させる潜在性硬化剤の製造方法であって、加水分解性の主硬化剤と、水と反応して重合する水反応性モノマーと、加熱によって重合する親油性モノマーとを含有する油相液を作成し、水を主成分とする水相液に前記油相液を分散して、前記水相液中に前記油相液の液滴が分散された懸濁液を作成し、前記懸濁液を加熱し、前記水反応性モノマーを重合させると共に、前記親油性モノマーを重合させ、水反応性モノマー重合物と親油性モノマー重合物からなる樹脂粒子に前記主硬化剤が含有された第一の潜在性硬化剤を作成した後、前記第一の潜在性硬化剤を、前記加水分解性の主硬化剤を溶解する第一の有機溶剤が含有された有機洗浄液に浸漬して第二の潜在性硬化剤を作成する潜在性硬化剤の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤の製造方法であって、前記油相液の作成は、前記主硬化剤としてアルミニウムキレートを用いる潜在性硬化剤の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤の製造方法であって、前記油相液の作成は、前記水反応性モノマーとしてイソシアネートを用いる潜在性硬化剤の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤の製造方法であって、前記油相液の作成は、前記アルミニウムキレートを前記イソシアネートの重量以上含有させる潜在性硬化剤の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤の製造方法であって、前記油相液の作成は、前記親油性モノマーとして、ビニルモノマーと、アクリルモノマーのいずれか一方又は両方を用いる潜在性硬化剤の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤の製造方法であって、前記油相液の作成は、前記ビニルモノマーとしてジビニルベンゼンを用いる潜在性硬化剤の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤の製造方法であって、前記樹脂粒子の洗浄は、前記有機洗浄液に、トルエンと、有機カルボニル化合物のいずれか一方又は両方を含有させる潜在性硬化剤の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤の製造方法であって、前記有機カルボニル化合物として、酢酸エチルと、メチルエチルケトンのいずれか一方又は両方を用いる潜在性硬化剤の製造方法である。
本発明は接着剤の製造方法であって、前記潜在性硬化剤の製造方法で製造された前記潜在性硬化剤を、前記加水分解性の主硬化剤を溶解する第二の有機溶剤と、熱硬化性樹脂と、前記補助硬化剤とを含有するバインダーに分散させる接着剤の製造方法である。
本発明は接着剤の製造方法であって、前記主硬化剤としてアルミニウムキレートを用い、前記熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用い、前記補助硬化剤としてシランカップリング剤を用いる接着剤の製造方法である。
本発明は接着フィルムの製造方法であって、前記接着剤の製造方法で製造された接着剤の塗布層を形成した後、前記塗布層から前記第二の有機溶剤を除去し、前記塗布層をフィルム化する接着フィルムの製造方法である。
【0007】
本発明は上記のように構成されており、樹脂粒子は親油性モノマーの重合物を含有することで、水反応性モノマー重合物だけで構成された場合に比べて機械的強度が高くなっているので、少ない樹脂量で多量の主硬化剤を内部に保持させることができる。
【0008】
その一例を述べるとDVBを油相液に添加した場合には、添加しない場合に比べて5倍程度もアルミニウムキレートの含有量を増加させることができた。主硬化剤の保持量が多いと、少ない量の潜在性硬化剤で接着剤を硬化可能なので、潜在性硬化剤の添加量を少なくすることができる。
【0009】
主硬化剤としてアルミニウムキレートを用いる場合には、補助硬化剤としてシランカップリング剤を用いると、アルミニウムキレートとシランカップリング剤との反応によってカチオンが生成され、熱硬化性樹脂はそのカチオンによってカチオン重合する。カチオン重合は硬化反応が低温で早く進行するので、潜在性硬化剤が含有している主硬化剤と、補助硬化剤とが接触反応すると、接着剤は低温短時間で硬化する。
【0010】
水反応性モノマーとしてイソシアネートを用いた場合、水反応性モノマー重合物はポリウレアである。ポリウレアのような熱応答性樹脂は、ガラス転移温度以上に加熱されると、水素結合が破断して分子鎖がゆるむと考えられる。その為、樹脂粒子がポリウレアを含有する場合は、接着剤を加熱したときに速やかに粒子内の主硬化剤が、粒子外の補助硬化剤と接触反応する。
【0011】
親油性モノマーが、ビニルモノマーやアクリルモノマーのようにラジカル重合性モノマーの場合は、重合開始剤としては、例えば加熱によってラジカルを放出するラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤は加熱によってラジカルを放出し、該ラジカルによって親油性モノマーがラジカル重合する。
【0012】
樹脂粒子の表面又は全部が十分に硬化しなかった場合、第一の潜在性硬化剤をそのまま接着剤に添加すると、接着剤中の第二の有機溶剤が樹脂粒子の十分に硬化しなかった部分に浸透し、室温でも主硬化剤が接着剤中に放出されてしまう。
洗浄後の潜在性硬化剤(第二の潜在性硬化剤)からは、それ以上主硬化剤が有機溶剤に放出されないので、接着剤に添加された時の室温保存性が高い。
【0013】
有機洗浄液に用いる第一の有機溶剤の種類は特に限定されないが、例えば接着剤に用いる第二の有機溶剤と同じもので洗浄すれば、少なくとも、接着剤中で第二の有機溶剤に溶解可能なものを予め除去することができる。
【0014】
第二の有機溶剤としては、接着剤の含有樹脂(例えば熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等)の溶解性が高く、かつ、低温乾燥できる有機溶剤が好ましく、そのような有機溶剤としては酢酸エチルとMEK等の有機カルボニ化合物と、トルエンとが挙げられる。
【0015】
接着フィルムの製造工程で有機溶剤を除去するために接着剤を加熱する場合には、加熱温度を接着剤の硬化開始温度以下に設定すれば、接着剤を硬化させずにフィルム化することができる。
親油性モノマーの配合量や種類、重合条件を変えることで、低温領域での硬化温度調整も可能である。例えば、本発明により得られた接着剤を加熱乾燥してフィルム化する場合、硬化開始温度をフィルム化の加熱温度よりも高く設定しておけば、熱硬化性樹脂を重合させずにフィルム化することができる。
【発明の効果】
【0016】
保存性が高く、かつ、使用時には硬化速度が速い接着剤が得られる。従来と比べて硬化剤製造時の溶剤添加量が少なくて済むため、環境負荷低減に効果がある。樹脂粒子の粒径を数μm単位で制御可能なので、ファインピッチの配線接続用の接着剤にも使用できる。第一、第二の潜在性硬化剤は固体粉末であるため、ニーズに合わせた接着剤の組成を設計することが可能である。親油性モノマーを添加することで、水反応性モノマー重合物以外の特性を潜在性硬化剤に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明により製造された接着剤のDSCチャートである。
【図2】本発明により製造された潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明により製造された潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真(拡大)である。
【図4】比較例の潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図5】親油性モノマーの配合量を変えた時のDSCチャートである。
【図6】親油性モノマーの種類を変えた時のDSCチャートである。
【図7】第二の潜在性硬化剤を添加した接着剤のDSCチャート(DVB置換率30%)である。
【図8】第二の潜在性硬化剤を添加した接着剤のDSCチャート(DVB置換率40%)である。
【図9】参考例のDSCチャートである。
【図10】本発明により製造された潜在性硬化剤のTEM写真である。
【図11】潜在性硬化剤の洗浄時間を変えた場合のDSCチャートである。
【図12】DVB置換率を変えた場合のDSCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の異方導電性フィルムを製造する製造方法について説明する。
後述する有機洗浄液に用いる有機溶剤を第一の有機溶剤とし、熱硬化性樹脂を溶解可能な有機溶剤を第二の有機溶剤とすると、異方導電性フィルムを製造する場合には、熱硬化性樹脂が第二の有機溶剤に溶解され、導電性粒子が分散されたバインダー液に、後述するように熱硬化性樹脂を硬化させる潜在性硬化剤(第一又は第二の潜在性硬化剤)を分散させて液状の接着剤を作成する。
【0019】
潜在性硬化剤は樹脂粒子の内部に主硬化剤を含有しており、その主硬化剤と反応して熱硬化性樹脂を硬化させる補助硬化剤がバインダー液に添加されていたとしても、室温では潜在性硬化剤が含有している主硬化剤と補助硬化剤とが接触反応しないので、接着剤は硬化しない。
接着剤を剥離フィルム表面に塗布して塗布層を形成後、乾燥して第二の有機溶剤を除去すると塗布層がフィルム化し、異方導電性フィルムが得られる。
【0020】
上述したように、接着剤は硬化せず、異方導電性フィルムも室温では硬化しないが、使用の際に接着剤や異方導電性フィルムを加熱すると、潜在性硬化剤が含有している主硬化剤と補助硬化剤とが接触反応して熱硬化性樹脂が重合する。
【0021】
次に、上記の潜在性硬化剤を形成する工程について説明する。
上述した主硬化剤に、加水分解性の水反応性モノマーと、加熱による重合する親油性モノマーと、水難溶性の有機溶剤とを添加し、主硬化剤を主成分とする油相液を作成する。
水に、分散剤と、界面活性剤が添加された水相液を作成し、上記油相液を、該油相液量以上の水相液に添加して懸濁液を作成し、攪拌する。
【0022】
主硬化剤は加水分解性物質であり、主硬化剤が加水分解すると発熱して油相液がゲル化してしまうが、主硬化剤は油相液中の親油性モノマー及び有機溶剤で保護されるため、加水分解が抑制され、油相液はゲル化せずに液滴となって水相液中に均一に分散する。
【0023】
液滴の表面では水反応性モノマーが水と接触しているため、水反応性モノマーの加水分解がおこって中間生成物が生成され、該中間生成物が加水分解前の水反応性モノマーと反応し、水反応性モノマーの重合物が生成される(界面重合反応)。
懸濁液を加熱すると親油性モノマーが重合すると共に、水反応性モノマーの重合が促進され、内部に主硬化剤を保持したまま液滴が硬化する。
【0024】
このとき、懸濁液の加熱温度を油相液に添加した有機溶剤の沸点以上に設定すると(例えば、有機溶剤に酢酸エチルを使用する場合において、酢酸エチルの沸点77℃に対し、加熱温度が80℃)、液滴中から有機溶剤が蒸発除去され、親油性モノマーの重合物と、水反応性モノマーの重合物からなる樹脂粒子中に、該重合物の合計重量以上の主硬化剤が保持された第一の潜在性硬化剤が得られる。
【0025】
懸濁液中の液滴を硬化させて樹脂粒子を形成する場合には、油相液の分散性が悪いと液滴の粒径を小さくすることができず、その結果樹脂粒子の粒径も大きくなる。上述したように、本願では水相液に均一に分散されるので、第一の潜在性硬化剤の樹脂粒子の粒径を数μm単位と小さくすることができる。
【0026】
第一の潜在性硬化剤を含む水相液(重合液)に蒸留水を加水して洗浄した後、第一の潜在性硬化剤粒子を重合液からろ別する。
上記加水分解性の主硬化剤を溶解する第一の有機溶剤を有機洗浄液とし、重合液からろ別した第一の潜在性硬化剤を有機洗浄液に浸漬すると、樹脂粒子内部に保持されず、その表面に付着しているだけの主硬化剤や、重合度が低く、その結果、溶剤浸透性の大きい主硬化剤の部位が有機溶剤(有機洗浄液)中に抽出される。
【0027】
上述したように樹脂粒子は多量の主硬化剤を含有しているため、有機洗浄液で洗浄後も樹脂粒子の内部に多量の主硬化剤が保持され、第二の潜在性硬化剤が得られる。
上述したように、第一の潜在性硬化剤の樹脂粒子の粒径を数μm単位と小さくすれば、第二の潜在性硬化剤の樹脂粒子の粒径も数μm単位と小さくなる。
【実施例】
【0028】
<第一の潜在性硬化剤>
水反応性モノマーであるイソシアネート(三井武田ケミカル(株)社製の商品名「D−109」)と、親油性のラジカル重合性モノマー(親油性モノマー)であるジビニルベンゼン(メルク(株)社製)の合計重量70質量部(重量部)に対し、主硬化剤であるアルミニウムキレート(川研ファインケミカル(株)社製の商品名「アルミキレートD」)350質量部と、有機溶剤である酢酸エチル70質量部とを混合し、更にラジカル重合開始剤(日本油脂(株)社製の商品名「パーロイルL」)をジビニルベンゼン配合量の1重量%添加して油相液を作成した。
【0029】
蒸留水800質量部に、分散剤であるポリビニルアルコール((株)クラレ社製の商品名「PVA205」)4質量部と、界面活性剤(日本油脂(株)社製の商品名「ニューレックスR−T」)0.05質量部とを混合して水相液を作成し、この水相液に上記油相液を分散させた懸濁液を80℃に加熱しながら攪拌し、第一の潜在性硬化剤を得た。尚、第一の潜在性硬化剤の樹脂粒子の粒径は5μm以下(体積換算平均粒子径2.3μm程度)になるようにした。
【0030】
熱硬化性樹脂である脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学工業(株)社製の商品名「CEL2021P」)90質量部と、補助硬化剤であるシランカップリング剤(信越化学工業(株)社製の商品名「KBM5103」)12質量部に、有機洗浄液で洗浄する前の第一の潜在性硬化剤を2質量部添加して実施例1の接着剤を作成した。
【0031】
第一の潜在性硬化剤の代わりにアルミニウムキレートを直接接着剤に添加して比較例1の接着剤を作成し、油相液にジビニルベンゼンを添加せずに潜在性硬化剤を作成し、この潜在性硬化剤を実施例1の第一の潜在性硬化剤の代わりに接着剤に添加して比較例2の接着剤を作成した。
【0032】
これら3種類の接着剤について、DSC分析(Differential scanning calorimetry、示差走査熱分析)を行った。DSCチャートを図1に示す。尚、図1中の符号E1、C1、C2はそれぞれ実施例1、比較例1、2のDSCチャートを示す。
【0033】
DSCチャートが立ち上がる温度を発熱開始温度とし、チャートがピークに達する温度を発熱ピーク温度とし、チャートの最大強度を発熱ピーク強度とした。「発熱開始温度」と「発熱ピーク温度」と「発熱ピーク強度」を、DVB置換率と共に下記表1に記載する。
【0034】
【表1】
【0035】
DVB置換率とはDVB(ジビニルベンゼン)の配合量(重量)を、DVBの配合量とイソシアネートの配合量との合計で除した値に100を乗じた値である。発熱開始温度は熱硬化性樹脂の重合反応が開始する温度であり、発熱ピーク温度は熱硬化性樹脂の重合反応がピークになる温度である。
【0036】
上記表1と図1から分かるように、アルミニウムキレートを直接添加した場合も、DVBを添加せずに潜在性硬化剤を作成した場合も、発熱開始温度は室温であったが、DVBを添加して潜在性硬化剤を作成した実施例1では、発熱開始温度が室温よりも高く、保存性が高いことがわかった。また、実施例1の接着剤は比較例1、2と比べてピーク幅も狭く、短時間で接着剤の硬化が進行することがわかる。
【0037】
次に、上記実施例1の第一の潜在性硬化剤と、比較例2の潜在性硬化剤の樹脂粒子の状態を観察した。図2と図3は実施例1の第一の潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真であり、図4は比較例2の潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【0038】
実施例1の第一の潜在性硬化剤は粒子形状及び粒子の表面状態にも問題が無かったが、比較例2の潜在性硬化剤は粒子の表面に多数の凹凸が見られた。
粒子表面に多数の凹凸があるということは、均一な界面重合によって形成した粒子表面ではないため、室温保存性に悪影響を与えるから、この観察結果からも親油性モノマーを油相液に添加すれば室温保存性に優れた潜在性硬化剤が得られることがわかる。
【0039】
<親油性モノマーの配合量>
DVBの配合量を変えた以外は、上記実施例1と同じ条件でDVB置換率20%と、40%の第一の潜在性硬化剤を作成し、これら2種類の第一の潜在性硬化剤を用いて、実施例1と同じ条件で実施例2、3の接着剤を作成した。
【0040】
実施例2、3の接着剤と、上記実施例1と比較例2の接着剤についてDSC分析を行った。DSCチャートを図5に示す。尚、図5中の符号E1〜E3とC2はそれぞれ実施例1
〜3と、比較例2のDSCチャートを示す。それらのDSCチャートから読み取った「発熱開始温度」と「発熱ピーク温度」と「発熱ピーク強度」を、DVB置換率と一緒に下記表2に記載する。
【0041】
【表2】
【0042】
DVBの配合量が増すほど、発熱開始温度も発熱ピーク温度も高温側にシフトしており、発熱ピーク温度が90℃以下の低温硬化型接着剤を作成するためには、DVB置換率を少なくとも50%以下にする必要があることがわかる。
【0043】
<親油性モノマーの種類>
DVBに代え、それぞれ3種類のアクリルモノマーを用いた以外は上記実施例1と同じ条件で3種類の第一の潜在性硬化剤を作成し、これら3種類の第一の潜在性硬化剤を用いて実施例4〜6の接着剤を得た。尚、アクリルモノマーの配合量は、イソシアネートとの合計量100質量部に対し、それぞれ30質量部とした。
【0044】
また、アクリルモノマーとしては、1,6−HDDA(1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、新中村化学(株)社製の商品名「A−HDN」)と、A−TMPT(トリメチロールプロパントリアクリレート、新中村化学(株)社製の商品名)と、A−TMMT(テトラメチロールメタンテトラアクリレート、新中村化学(株)社製の商品名)を用いた。
【0045】
これら3種類の接着剤についてDSC分析を行い、得られたDSCチャートを図6に示す。尚、図6中の符号E4〜E6はそれぞれ実施例4〜6のDSCチャートを示す。それらDSCチャートから読み取った「発熱開始温度」と「発熱ピーク温度」と「発熱ピーク強度」を、アクリルモノマーの種類と一緒に下記表3に記載する。
【0046】
【表3】
【0047】
上記表3から明らかなように、発熱開始温度は室温よりも高く、発熱ピーク温度は90℃未満であった。この結果から、親油性モノマーとしてDVBのようなビニルモノマーの代わりにアクリルモノマーを用いた場合でも室温保存性が高く、かつ、接着剤の硬化性が高い潜在性硬化剤が得られることがわかる。
【0048】
<保存安定性試験>
上記実施例1で作成した第一の潜在性硬化剤を用い、実施例1とは接着剤の組成を変えて実施例7〜9の接着剤を作成した。各接着剤の組成を下記表4に記載する。
【0049】
【表4】
【0050】
上記表4中の「CEL2021P」はダイセル化学工業(株)社製の商品名であり、脂環式エポキシ樹脂である。「EP807」はジャパンエポキシレジン(株)社製の商品名であり、ビスフェノールF型エポキシ樹脂である。「KBM5103」は信越化学工業(株)社製の商品名であり、シランカップリング剤である。
【0051】
上記実施例7〜9の接着剤について、振動式粘度計(株式会社エー・アンド・デイ社製の商品名「SV−10」)を用い、30℃で保存したときの粘度増加を測定し、その測定結果を上記表4に記載した。
【0052】
上記表4から分かるように、実施例7〜9の接着剤は5時間までは粘度増加が少なく接着剤の硬化が起こらないが、実施例7の接着剤は10時間未満で硬化してしまった。
【0053】
上記脂環式エポキシ樹脂は初期粘度が252cP/25℃と低く、初期粘度が低い樹脂は有機溶剤と同様に樹脂粒子壁の浸透性が高いので、熱硬化性樹脂として脂環式エポキシ樹脂だけを用いた実施例7では、潜在性粒子内に該エポキシ樹脂が浸透し、接着剤の硬化反応が30℃でも進行したと推測される。
【0054】
これに対し、上記ビスフェノールF型エポキシ樹脂(3000〜4500cP/25℃)のように初期粘度が高い樹脂を接着剤に含有させると粘度増加が遅く、特に、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を脂環式エポキシ樹脂の等量以上配合した場合には、DSCチャートで確認した硬化開始温度が50℃程度の低温型接着剤においても48時間保存してもほとんど粘度の増加が進行しない高い保存性が確認された。
【0055】
<洗浄試験>
上記実施例1、3で作成した第一の潜在性硬化剤(DVB率30%、40%)を水で洗浄後、トルエンと、酢酸エチルと、PGMAC(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート )と、MEK(メチルエチルケトン)の4種類の有機洗浄液に液温30℃、粒子濃度1%の条件で4時間浸漬して洗浄を行い、8種類の第二の潜在性硬化剤を作成した。
【0056】
脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学工業(株)社製の商品名「CEL2021P」)86質量部と、シランカップリング剤(信越化学工業(株)社製の商品名「KBM403」)6質量部に、上記8種類の第二の潜在性硬化剤と、上記2種類の第一の潜在性硬化剤とをそれぞれ8質量部ずつ添加し、実施例10〜19の接着剤を作成した。
【0057】
実施例10〜19のうち、実施例10〜14はDVB置換率30%の場合であり、実施例15〜19はDVB置換率40%の場合である。また、実施例10、15は第一の潜在性硬化剤を洗浄せずに用いた場合である。実施例11、16はトルエンを、実施例12、17は酢酸エチルを、実施例13、18はPGMACを、実施例14、19はMEKをそれぞれ有機洗浄液として用いた場合である。
【0058】
実施例10〜14の接着剤と、実施例15〜19の接着剤についてそれぞれDSC分析を行った。実施例10〜14の接着剤のDSCチャートを図7に示し、実施例15〜19の接着剤のDSCチャートを図8に示す。
【0059】
尚、図7中の符号E10〜E14はそれぞれ実施例10〜14のDSCチャートを示し、図8中の符号E15〜E19はそれぞれ実施例15〜19のDSCチャートを示す。各DSCチャートから読み取った「発熱開始温度」と「発熱ピーク温度」と「発熱ピーク強度」を下記表5、表6に記載する。
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
図7、図8から明らかなように、本発明により製造された第一、第二の潜在性硬化剤はいずれも発熱開始温度が室温を超えており、室温保存性を有することがわかる。
特に、洗浄後の第二の潜在性硬化剤を用いた実施例11〜14、16〜19は発熱開始温度も発熱ピーク温度も高く、しかも、発熱ピーク幅も狭くなっており、洗浄前に比べて保存性が高く、かつ、硬化時の反応性も高いことがわかる。
【0063】
DVB置換率が30%の場合と40%の場合を比較すると、該置換率が30%である実施例11〜14は、置換率が40%である実施例16〜19よりも発熱開始温度が低く、発熱ピーク幅が狭く、硬化時の反応性が高い。これはDVBの置換率が低い方が樹脂粒子が含有している主硬化剤が、補助硬化剤と接触反応しやすいことを示す。
【0064】
また、有機洗浄液の種類について検討すると、DVB置換率30%の場合は、トルエンと酢酸エチルを用いた場合の発熱ピーク強度が特に高かった、DVB置換率40%の場合はMEKを用いた場合の発熱ピーク強度が特に高かった。発熱ピーク強度が高いほど接着剤硬化時の反応性が高いことを示しており、反応性を考慮するとトルエンと酢酸エチルとMEKが有機洗浄液として適していることがわかる。
【0065】
<洗浄試験:参考例>
本発明と比較するために、特開2006−70051号公報に記載された潜在性硬化剤のように、油相液に親油性モノマーを添加せずに作成した潜在性硬化剤物を、上記実施例11〜14と同じ条件で洗浄した。
【0066】
洗浄前と洗浄後の潜在性硬化剤を用いて、実施例11〜14と同じ配合で参考例1〜4の接着剤を作成し、DSC分析を行った。参考例1〜4のDSCチャートを図9に示し、DSCチャートから読み取った「発熱開始温度」と、「発熱ピーク温度」と、「発熱ピーク強度」と、「ピーク面積」とを、洗浄液の種類と共に下記表7に記載する。
【0067】
【表7】
【0068】
尚、参考例1は洗浄前の潜在性硬化剤を用いた接着剤であり、参考例2〜4はそれぞれMEK、酢酸エチル、トルエンで洗浄した潜在性硬化剤を用いた接着剤であり、図9中の符号s1〜s4はそれぞれ参考例1〜4のDSCチャートを示している。
【0069】
油相液に親油性モノマーを含有させずに潜在性硬化剤を作成した場合、元々、洗浄前の潜在性硬化剤の発熱ピーク温度が100℃以上と高い。有機洗浄液として、最も粒子内浸透性の小さいトルエンを用いた参考例4についても、発熱ピーク温度は108℃と高い。また、有機洗浄液としてMEKを用いた参考例2は発熱チャートが最もブロード(幅広)になった。
【0070】
これに対し、上記表6に示したように、本発明により製造された接着剤は、有機洗浄液としてMEKを用いた場合でも、発熱チャートが狭いので、参考例に比べて熱応答性が高く、短時間で硬化することが分かる。
【0071】
本発明により製造された接着剤と、参考例の接着剤とでこのような差が生じた理由は、本発明により製造される第一の潜在性硬化剤は、粒子内のアルミニウムキレート剤含有量が大きく、有機洗浄液で洗浄後も低温硬化に必要な量の硬化剤を粒子内に残すことができるからである。
【0072】
<元素分析>
本発明により製造された洗浄後の潜在性硬化剤(第二の潜在性硬化剤)を粉体の試料とし、該試料全面を、膜厚10nm設定でOs(オスミウム)コートした後、TEM(透過型電子写真顕微鏡)を用いて元素分析を行った。TEM写真を図10に示し、5箇所の元素分析の測定結果を下記表8に記載する。
【0073】
【表8】
【0074】
尚、上記表8中の「Al/Os」の欄は、Alのカウント数とOsのカウント数との比を示す。
【0075】
上記表8から分かるように、全ての測定箇所でAlが高濃度に残留している。Alは主硬化剤(金属キレート)由来であるから、本発明により製造された潜在性硬化剤には、主硬化剤が高濃度で、かつ、均一に残留することが分かる。
【0076】
<洗浄処理時間>
第一の潜在性硬化剤を有機洗浄液(酢酸エチル)に浸漬する洗浄浸漬を4時間から1時間と8時間にそれぞれ変えた以外は、実施例12と同じ条件で、実施例20、21の接着剤を作成し、DSC分析を行った。そのDSCチャートを図11に示し、当該DSCチャートから読み取った「発熱開始温度」と、「発熱ピーク温度」と、「発熱ピーク強度」と、「ピーク面積」とを下記表9に記載する。
【0077】
【表9】
【0078】
上記表9から明らかなように、処理時間を変えても、「発熱開始温度」と、「発熱ピーク温度」と、「発熱ピーク強度」と、「ピーク面積」等の硬化剤特性が同等であり、処理時間を延ばしても、処理後の硬化剤特性は安定していることが分かった。
即ち、本発明により製造された潜在性硬化剤は、有機溶剤中に溶剤が粒子内に浸透した後、その状態で処理溶剤に対して良好な耐溶剤性を有している。おそらく、溶剤への硬化剤抽出は一定量で停止するのであろう。
【0079】
溶剤浸漬処理では潜在性硬化剤粒子表層部の溶剤抽出され易い部分の主硬化剤のみが除去されることになるため、洗浄処理を行った潜在性硬化剤は、有機洗浄液に対する耐溶剤性が向上している。
従って、洗浄処理後は有機洗浄液を乾燥除去する工程が必要なく、洗浄後の潜在性硬化剤をそのまま接着剤等に添加して使用することもできる。
【0080】
<DVB置換率>
上記実施例2、3と同じ条件でDVB置換率が20%、40%の第一の潜在性硬化剤を作成した。その第一の潜在性硬化剤を、上記実施例11〜14、16〜19と同じ条件で有機洗浄液(酢酸エチル)に浸漬して洗浄して第二の潜在性硬化剤を作成した。得られた第二の潜在性硬化剤を用い、実施例11〜14、16〜19と同じ配合割合で、実施例22、23の接着剤を作成した。
【0081】
実施例22、23の接着剤と、実施例12の接着剤(DVB置換率30%)についてDSC分析を行った。そのDSCチャートを図12に示し、当該DSCチャートから読み取った「発熱開始温度」と、「発熱ピーク温度」と、「発熱ピーク強度」と、「ピーク面積」とを下記表10に記載する。
【0082】
【表10】
【0083】
上記表10から明らかなように、DVB置換率が40%と高い場合、ブロードなピークとなった。DVB重合部分とイソシアネート界面重合によるポリウレア−ウレタン重合部分は共重合していないため、実際には相分離状態となっている。そのため、一定量以上のDVBを配合すると、耐溶剤性、熱応答性の低下が生じる。以上のことから、DVB置換率は40%未満が望ましいことが分かる。
【0084】
以上は、親油性モノマーとしてDVBとアクリルモノマーを用いる場合について説明したが、親油性モノマーとしては、水反応性モノマーと反応性がなく、加熱によって重合するものであれば特に限定されるものではない。例えば、水反応性モノマーがイソシアネートの場合は、化学構造中にヒドロキシル基及びアミノ基を持たない、2官能以上で親油性があるモノマーを広く用いることができる。
【0085】
第一、第二の潜在性硬化剤は、界面重合法を利用して製造されるため、その形状は球状であり、その粒子径は硬化性及び分散性の点から、好ましくは0.5μm以上100μm以下である。
第一、第二の潜在性硬化剤は、その界面重合時に使用する有機溶剤を実質的に含有していないこと、具体的には、1ppm以下であることが、硬化安定性の点で好ましい。
【0086】
油相液における主硬化剤の配合量は特に限定されないが、接着剤硬化時の低温硬化性を実現するためには、主硬化剤の配合量(重量)を、水反応性モノマーの重量以上にすることが好ましい。
【0087】
主硬化剤に用いるアルミニウムキレート剤としては、下記一般式(1)に表される、3つのβ−ケトエノラート陰イオンがアルミニウムに配位した錯体化合物が挙げられる。
【0088】
【化1】
【0089】
ここで、R1、R2及びR3は、それぞれ独立的にアルキル基又はアルコキシル基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、オレイルオキシ基が挙げられる。
【0090】
化学式(1)で表されるアルミニウムキレート剤の具体例としては、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビスオレイルアセトアセテート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0091】
以上は、主硬化剤としてアルミニウムキレートを用いる場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、接着剤中の補助硬化剤がシランカップリング剤であり、熱硬化性樹脂としてカチオン重合可能な樹脂を用いる場合には、種々の金属キレートや金属アルコラートを用いることができる。金属キレートと金属アルコラートの中心金属はアルミニウムに限定されず、ジルコニウム、チタニウム、アルミニウム等種々のものを用いることができるが、これらのなかでも特に反応性の高いアルミニウムが好ましい。
【0092】
水反応性モノマーは水と反応して液滴表面で界面重合するものであれば特に限定されないが、具体的にはイソシアネート化合物、特に、一分子中に2個以上のイソシアネート基、好ましくは3個のイソシアネート基を有する多官能イソシアネート化合物が好ましい。
【0093】
3官能イソシアネート化合物の更に好ましい例としては、トリメチロールプロパン(TMP)1モルにジイソシアネート化合物3モルを反応させた下記化学式(1)のTMPアダクト体、ジイソシアネート化合物3モルを自己縮合させた化学式(2)のイソシアヌレート体、ジイソシアネート化合物3モルのうちの2モルから得られるジイソシアネートウレアに残りの1モルのジイソシアネートが縮合した化学式(3)のビュウレット体が挙げられる。
【0094】
【化2】
【0095】
【化3】
【0096】
【化4】
【0097】
上記化学式(1)〜(3)において、置換基Rは、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた部分である。このようなジイソシアネート化合物の具体例としては、トルエン2,4−ジイソシアネート、トルエン2,6−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ−m−キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンジフェニル−4,4'−ジイソシアネートが挙げられる。
【0098】
このような多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得られる樹脂は、界面重合の間にイソシアネート基の一部が加水分解を受けてアミノ基となり、そのアミノ基とイソシアネート基とが反応して尿素結合を生成してポリマー化するポリウレア樹脂である。
【0099】
このような水反応性モノマーの重合物と、親油性モノマーの重合物からなる樹脂粒子内部相に保持された主硬化剤とからなる潜在性硬化剤は、硬化のために加熱されると、明確な理由は不明であるが、保持されている主硬化剤は、接着剤中の補助硬化剤や熱硬化性樹脂と接触できるようになり、硬化反応を進行させることができる。
【0100】
尚、第一の潜在性硬化剤は、その構造上最表面にも主硬化剤が存在することになると思われるが、最表面に存在する主硬化剤は界面重合の際に系内に存在する水により活性が弱くなっていると考えられる。従って、洗浄前の第一の潜在性硬化剤もある程度は潜在性を獲得できたと考えられる。
【0101】
油相液には必要に応じて有機溶剤を添加することができる。有機溶剤は沸点が低い揮発性有機溶剤が好ましい。ここで、揮発性有機溶剤を使用する理由は以下の通りである。即ち、通常の界面重合法で使用するような沸点が300℃を超える高沸点溶剤を用いた場合、界面重合の間に有機溶剤が揮発しないために、イソシアネート−水との接触確率が増大せず、それらの間での界面重合の進行度合いが不十分となるからである。
【0102】
そのため、界面重合させても良好な保形性の重合物が得られ難く、また、得られた場合でも重合物に高沸点溶剤が取り込まれたままとなり、接着剤に配合した場合に、高沸点溶剤が接着剤の硬化物の物性に悪影響を与えるからである。このため、この製造方法においては、油相を調製する際に使用する有機溶剤として、揮発性のものを使用する。
【0103】
このような揮発性有機溶剤としては、主硬化剤と水反応性モノマーと親油性モノマーにとって良溶媒(それぞれの溶解度が好ましくは0.1g/ml(有機溶剤)以上)であって、水に対しては実質的に溶解せず(水の溶解度が0.5g/ml(有機溶剤)以下)、大気圧下での沸点が100℃以下のものが好ましい。このような揮発性有機溶剤の具体例としては、アルコール類、酢酸エステル類、ケトン類等が挙げられる。中でも、高極性、低沸点、貧水溶性の点で酢酸エチルが好ましい。
【0104】
揮発性有機溶剤の使用量は特に限定されないが、多すぎると作業環境に悪影響を与えるだけでなく、希釈効果により生成粒子内の硬化剤量が低下するため、揮発性有機溶剤の配合量は水反応性モノマーの倍量以下(質量部)とすることが望ましい。
【0105】
水相液に用いる分散剤はポリビニルアルコール以外にも、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン等の通常の界面重合法において使用されるものを使用することができる。分散剤の使用量は、通常、水相の0.1質量%以上10.0質量%以下である。
【0106】
懸濁液を作成する乳化条件はとしては、例えば、油相の大きさが好ましくは0.5μm以上100μm以下となるような撹拌条件(撹拌装置ホモジナイザー;撹拌速度8000rpm以上)で、通常、大気圧下、温度30℃以上80℃以下、撹拌時間2時間以上12時間以下、加熱撹拌する条件を挙げることができる。
【0107】
本発明により製造された第一、第二の潜在性硬化剤は、従来のイミダゾール系潜在性硬化剤と同様の用途に使用することができ、上述したように、補助硬化剤であるシランカップリング剤と、熱硬化性樹脂と併用することにより、低温速硬化性の接着剤を与えることができる。
【0108】
補助硬化剤であるシランカップリング剤は、特開2002−212537号公報の段落0007〜0010に記載されているように、アルミニウムキレート剤と共働して熱硬化性樹脂(例えば、熱硬化性エポキシ樹脂)のカチオン重合を開始させる機能を有する。
【0109】
このような、シランカップリング剤としては、分子中に1つ以上3つ以下の低級アルコキシ基を有するものであり、分子中に熱硬化性樹脂の官能基に対して反応性を有する基、例えば、ビニル基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基等を有していてもよい。
【0110】
なお、アミノ基やメルカプト基を有するカップリング剤は、上記潜在性硬化剤がカチオン型主硬化剤であるため、そのアミノ基やメルカプト基が発生カチオン種を実質的に捕捉しない場合に使用することができる。
【0111】
このようなシランカップリング剤の具体例としては、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0112】
熱硬化性樹脂としては、熱硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型尿素樹脂、熱硬化型メラミン樹脂、熱硬化型フェノール樹脂等を使用することができる。中でも、硬化後の接着強度が良好な点を考慮すると、熱硬化型エポキシ樹脂を好ましく使用することができる。
【0113】
このような熱硬化型エポキシ樹脂としては、液状でも固体状でもよく、エポキシ当量が通常100以上4000以下であって、分子中に2以上のエポキシ基を有するものが好ましい。例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、エステル型エポキシ化合物、脂環型エポキシ化合物等を好ましく使用することができる。また、これらの化合物にはモノマーやオリゴマーが含まれる。
【0114】
接着剤には、必要に応じてシリカ、マイカなどの充填剤、顔料、帯電防止剤などを含有させることができる。また、接着剤には、数μmオーダーの粒径の導電性粒子、金属粒子、樹脂コア表面を金属メッキ層で被覆したもの、それらの表面を絶縁薄膜で更に被覆したもの等を、全体の1質量%以上10質量%以下の配合量で配合することが好ましい。これにより、本発明の製造方法で製造された接着剤を異方導電性接着ペースト、異方導電性フィルムとして使用することが可能となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂中に分散された状態で加熱されると、含有している主硬化剤と、前記樹脂中の補助硬化剤とが接触反応して前記樹脂を硬化させる潜在性硬化剤の製造方法であって、
加水分解性の主硬化剤と、水と反応して重合する水反応性モノマーと、加熱によって重合する親油性モノマーとを含有する油相液を作成し、
水を主成分とする水相液に前記油相液を分散して、前記水相液中に前記油相液の液滴が分散された懸濁液を作成し、
前記懸濁液を加熱し、前記水反応性モノマーを重合させると共に、前記親油性モノマーを重合させ、水反応性モノマー重合物と親油性モノマー重合物からなる樹脂粒子に前記主硬化剤が含有された第一の潜在性硬化剤を作成した後、
前記第一の潜在性硬化剤を、前記加水分解性の主硬化剤を溶解する第一の有機溶剤が含有された有機洗浄液に浸漬して第二の潜在性硬化剤を作成する潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項2】
前記油相液の作成は、前記主硬化剤としてアルミニウムキレートを用いる請求項1記載の潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項3】
前記油相液の作成は、前記水反応性モノマーとしてイソシアネートを用いる請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項4】
前記油相液の作成は、前記アルミニウムキレートを前記イソシアネートの重量以上含有させる請求項3記載の潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項5】
前記油相液の作成は、前記親油性モノマーとして、ビニルモノマーと、アクリルモノマーのいずれか一方又は両方を用いる請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項6】
前記油相液の作成は、前記ビニルモノマーとしてジビニルベンゼンを用いる請求項5記載の潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂粒子の洗浄は、前記有機洗浄液に、トルエンと、有機カルボニル化合物のいずれか一方又は両方を含有させる請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項8】
前記有機カルボニル化合物として、酢酸エチルと、メチルエチルケトンのいずれか一方又は両方を用いる請求項7記載の潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の製造方法で製造された前記潜在性硬化剤を、前記加水分解性の主硬化剤を溶解する第二の有機溶剤と、熱硬化性樹脂と、前記補助硬化剤とを含有するバインダーに分散させる接着剤の製造方法。
【請求項10】
前記主硬化剤としてアルミニウムキレートを用い、前記熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用い、前記補助硬化剤としてシランカップリング剤を用いる請求項9記載の接着剤の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10のいずれか1項記載の製造方法で製造された接着剤の塗布層を形成した後、前記塗布層から前記第二の有機溶剤を除去し、前記塗布層をフィルム化する接着フィルムの製造方法。
【請求項1】
樹脂中に分散された状態で加熱されると、含有している主硬化剤と、前記樹脂中の補助硬化剤とが接触反応して前記樹脂を硬化させる潜在性硬化剤の製造方法であって、
加水分解性の主硬化剤と、水と反応して重合する水反応性モノマーと、加熱によって重合する親油性モノマーとを含有する油相液を作成し、
水を主成分とする水相液に前記油相液を分散して、前記水相液中に前記油相液の液滴が分散された懸濁液を作成し、
前記懸濁液を加熱し、前記水反応性モノマーを重合させると共に、前記親油性モノマーを重合させ、水反応性モノマー重合物と親油性モノマー重合物からなる樹脂粒子に前記主硬化剤が含有された第一の潜在性硬化剤を作成した後、
前記第一の潜在性硬化剤を、前記加水分解性の主硬化剤を溶解する第一の有機溶剤が含有された有機洗浄液に浸漬して第二の潜在性硬化剤を作成する潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項2】
前記油相液の作成は、前記主硬化剤としてアルミニウムキレートを用いる請求項1記載の潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項3】
前記油相液の作成は、前記水反応性モノマーとしてイソシアネートを用いる請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項4】
前記油相液の作成は、前記アルミニウムキレートを前記イソシアネートの重量以上含有させる請求項3記載の潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項5】
前記油相液の作成は、前記親油性モノマーとして、ビニルモノマーと、アクリルモノマーのいずれか一方又は両方を用いる請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項6】
前記油相液の作成は、前記ビニルモノマーとしてジビニルベンゼンを用いる請求項5記載の潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂粒子の洗浄は、前記有機洗浄液に、トルエンと、有機カルボニル化合物のいずれか一方又は両方を含有させる請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項8】
前記有機カルボニル化合物として、酢酸エチルと、メチルエチルケトンのいずれか一方又は両方を用いる請求項7記載の潜在性硬化剤の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の製造方法で製造された前記潜在性硬化剤を、前記加水分解性の主硬化剤を溶解する第二の有機溶剤と、熱硬化性樹脂と、前記補助硬化剤とを含有するバインダーに分散させる接着剤の製造方法。
【請求項10】
前記主硬化剤としてアルミニウムキレートを用い、前記熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用い、前記補助硬化剤としてシランカップリング剤を用いる請求項9記載の接着剤の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10のいずれか1項記載の製造方法で製造された接着剤の塗布層を形成した後、前記塗布層から前記第二の有機溶剤を除去し、前記塗布層をフィルム化する接着フィルムの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−191267(P2009−191267A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29813(P2009−29813)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【分割の表示】特願2008−35498(P2008−35498)の分割
【原出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【分割の表示】特願2008−35498(P2008−35498)の分割
【原出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】
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