説明

潤滑油組成物

【課題】エンジン使用中に形成された微粒子物質及び汚染物の環境への放出を減少、及び潤滑油の酸化防止性を維持する潤滑油組成物を使用してエンジンを操作する方法の提供。
【解決手段】(a)潤滑粘度を有する少なくとも1種の油、及び(b)一般式:


(式中、Rは直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキル等、R及びRは独立に水素、直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキル等、Rは独立に直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキル等であり、nは1又は2である)を有する、有効量の少なくとも1種のチオ官能化フェニレンジアミン化合物を含有する潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔優先権〕
本願は、2005年11月29日に出願された「潤滑油組成物」という名称の米国仮出願60/740,410に対して35 U.S.C.§119に基づく利益を主張し、該仮出願の内容を本明細書に引用して援用する。
【0002】
本発明は一般に、酸化防止剤として少なくともチオ官能化フェニレンジアミンを含有する潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
チオ官能化フェニレンジアミン化合物は知られている。例えば、米国特許第4,072,654号及び国際公開公報第WO 02/42262号並びにWO 04/031287号を参照されたい。これらの化合物は、酸化崩壊、熱崩壊、動力学的崩壊、光誘導劣化、及び(又は)オゾン誘導分解を防ぐエラストマー用安定剤として有用であると示されている。それらは又、エラストマーと接触する基体の接触変色を防ぐエラストマー用安定剤として適切であるとも示されている。
【0004】
潤滑油を発展させるに当り、それらに、例えば、酸化防止剤特性、耐摩耗性、及び沈着抑制特性を付与する添加剤を提供する試みが多数行われてきた。ジアルキルジチオ燐酸亜鉛(ZDDP)は、潤滑油用の疲労防止添加剤、耐磨耗添加剤、酸化防止添加剤、極圧添加剤、及び摩擦調節添加剤として、何年にもわたって使用されてきた。しかしながら、それらはそれらの亜鉛及び燐含量の故にいくつかの欠点を受けている。亜鉛の存在は排気中への微粒子の放出をもたらす。更に、内燃機関の操作中、潤滑油は、該ピストンが下降行程を行う時、シリンダーにへばりつくような手段により該燃焼室に入る。
【0005】
燐含有潤滑油組成物が該燃焼反応に入る時、燐は該排気流に入り、そこで触媒毒として作用するので、該触媒コンバータの耐用寿命を短縮する。更に、ジアルキルジチオ燐酸亜鉛は灰を生じ、該灰が自動車排気放出における微粒子物質をもたらすので、規制機関は亜鉛の環境への放出を減少させようとしている。かくして、エンジン使用中に形成された微粒子物質及び汚染を制限することが毒性学上の及び環境上の理由により重要であるのみならず、潤滑油の酸化防止性を維持することも又重要である。
【0006】
公知の亜鉛及び燐含有添加剤の前述した欠点を考慮して、亜鉛も燐も含有しないか又はそれらを少なくとも減少した量で含有する潤滑油添加剤を提供しようとする努力がなされてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、改良された特性を有するが一方又亜鉛及び燐の含量が減少した潤滑油組成物を提供することが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に従って、(a) 潤滑粘度の油、及び(b) 一般式:
【化1】


(式中、Rは直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルケニル、置換又は無置換のC−C30アリール、置換又は無置換のC−C30アリールアルキル、置換又は無置換のC−C30ヘテロアリール、置換又は無置換のC−C30複素環、又はC−C20エステルであり;R及びRは独立に水素、直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルケニル、置換又は無置換のC−C30アリール、置換又は無置換のC−C30アリールアルキル、置換又は無置換のC−C30ヘテロアリール、置換又は無置換のC−C30複素環、又はC−C20エステルであるが、但しR及びRの一つだけは水素であっても良いか或いはR及びRはそれらが結合している窒素原子と共に結びついて所望により1又はそれ以上の更なる複素環原子を含有する複素環基を形成することができ;Rは独立に直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルケニル、置換又は無置換のC−C30アリール、置換又は無置換のC−C30アリールアルキル、置換又は無置換のC−C30ヘテロアリール、置換又は無置換のC−C30複素環、又はC−C20エステルであり、nは1又は2である)を有する、有効量の少なくとも1種のチオ官能化フェニレンジアミン化合物を含む潤滑油組成物が提供される。
【0009】
本発明の第二態様に従って、(a) 潤滑粘度の油、及び(b) 一般式:
【化2】


(式中、R、R、R、R、及びnは前述の意味を有する)を有する、有効量の少なくとも1種のチオ官能化フェニレンジアミン化合物、を含む潤滑油組成物を用いて内燃機関を操作することを含む内燃機関の操作方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、酸化腐食保護に加えて沈着保護を提供する添加剤としてチオ官能化フェニレンジアミン化合物を含有する潤滑油組成物を有利に提供する。該潤滑油組成物は又、比較的低い量、例えば、重量で約0.1%未満、好ましくは約0.08%未満、より好ましくは約0.05%未満の燐を有しながら、かかる保護を提供することが出来る。従って、本発明の潤滑油組成物は、内燃機関で一般に使用されている燐のより高い潤滑油組成物よりも環境的に望ましくなることが出来るが、その理由は、それらが望ましい高沈着防止をも提供しながら、より長い触媒コンバータ寿命及び活性を促進するからである。これは、これらの潤滑油組成物における燐化合物を含有する添加剤の実質的な不存在による。本発明で使用されるチオ官能化フェニレンジアミン化合物は又、例えば、鉄(Fe)及び銅(Cu)等のような遷移金属の存在下、並びに金属の無い環境下の両方における酸化に対しても防止することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔好ましい態様の詳細な説明〕
本発明の潤滑油組成物は第一成分として潤滑粘度の油を含む。本発明で用いられる潤滑粘度の油は、任意の及びあらゆるこのような用途、例えば、エンジン油、マリンシリンダー油、作動油のような機能液、ギヤー油、変速装置液、例えば、自働変速装置液等、タービン潤滑剤、圧縮機潤滑剤、金属工作用潤滑剤、及び他の潤滑油及びグリース組成物用に潤滑油組成物を配合する際に使用される任意の現在知られている又は後で発見される潤滑粘度の油であっても良い。更に、本発明で用いられる潤滑粘度の油は、粘度指数向上剤、例えば、ポリマー状アルキルメタクリレート、オレフィン系共重合体、例えば、エチレン・プロピレン共重合体又はスチレン・ブタジエン共重合体、等及びそれらの混合物を所望により含有することが出来る。好ましい潤滑油組成物はエンジン油組成物である。
【0012】
当業者なら容易に理解するように、潤滑粘度の油の粘度は該用途に依存している。従って、本発明で用いられる潤滑粘度の油の粘度は、普通100℃において約2〜約2000センチストークス(cSt)で変動する。一般に、エンジン油として使用される油は個々に100℃で約2cSt〜約30cSt、好ましくは約3cSt〜約16cSt、最も好ましくは約4cSt〜約12cStの動粘度範囲を有し、所望の最終用途及び完成油における添加剤に依存して選択又は混合されて所望の等級のエンジン油、例えば、0W,0W−20,0W−30,0W−40,0W−50,0W−60,5W,5W−20,5W−30,5W−40,5W−50,5W−60,10W,10W−20,10W−30,10W−40,10W−50,15W,15W−20,15W−30又は15W−40のSAE(自動車技術者協会)粘度等級を有する潤滑油組成物を与える。ギヤー油として使用される油は、100℃において約2cSt〜約2000cStで変動する粘度を有することが出来る。
【0013】
基剤原料油は、蒸留、溶剤精製、水素処理、オリゴマー化、エステル化、及び再精製を含むがそれらに限定されない種々の異なる方法を使用して製造することが出来る。再精製された原料油は、製造、汚染、又は前回の使用により導入された物質が実質的に存在しなくなるべきである。本発明の潤滑油組成物の基油は、任意の天然又は合成潤滑基油であっても良い。適切な炭化水素合成油は、エチレンの重合から製造された油、又はポリアルファオレフィンのようなポリマーを提供する1−オレフィンの重合から製造された油、即ち、PAO油、又はフィッシャー・トロプシュ法におけるような一酸化炭素及び水素気体を使用した炭化水素合成手順から製造された油を含むが、それらに限定されない。例えば、適切な潤滑粘度の油は、あったとしても重質留分を少ししか含まないもの、例えば、あったとしても100℃で約20cSt以上の粘度を有する潤滑油留分を少ししか含まないものである。
【0014】
潤滑粘度の油は、天然潤滑油、合成潤滑油又はそれらの混合物から誘導することが出来る。適切な油には、合成ろう及び粗ろうの異性化により得られる基剤原料油、並びに粗原料の芳香族成分及び極性成分を(溶剤抽出するよりもむしろ)水素化分解することにより製造される水素化分解基剤原料油が含まれる。適切な油には、API(アメリカ石油協会)刊行物1509、第14版、付録I、1998年12月号に定義されたすべてのAPI区分I,II,III,IV及びVにおける油が含まれる。グループIV基油はポリアルファオレフィン(PAO)である。グループV基油は、グループI,II,III,又はIVに含まれない他のあらゆる基油を含む。グループII,III及びIV基油は本発明に使用するのに好ましいけれども、これらの好ましい基油はグループI,II,III,IV及びV基剤原料油又は基油の一つ以上を組合せることにより製造することが出来る。
【0015】
有用な天然油には、例えば、パラフィン系、ナフテン系又はパラフィン・ナフテン混合系の流動石油、溶剤処理又は酸処理鉱物潤滑油、石炭又は頁岩から誘導された油のような鉱物潤滑油、動物油、植物油、(例えば、菜種油、ひまし油及びラード油)、等が含まれる。
【0016】
有用な合成潤滑油は、重合及び共重合オレフィン、例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン・イソブチレン共重合体、塩素化ポリブチレン、ポリ(1−ヘキセン)、ポリ(1−オクテン)、ポリ(1−デセン)、等及びそれらの混合物;アルキルベンゼン、例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2−エチルヘキシル)ベンゼン、等;ポリフェニル、例えば、ビフェニル、テルフェニル、アルキル化ポリフェニル、等;アルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド及びそれらの誘導体、類似体及び同族体、等のような炭化水素油及びハロ置換炭化水素油を含むが、それらに限定されない。
【0017】
他の有用な合成潤滑油は、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブテン、ペンテン、及びそれらの混合物のような5個以下の炭素原子のオレフィンを重合することにより製造された油を含むが、それらに限定されない。かかるポリマー油を製造する方法は当業者に周知である。
【0018】
更なる有用な合成炭化水素油は、適切な粘度を有するアルファオレフィンの液状ポリマーを含む。特に有用な合成炭化水素油は、例えば、1−デセントリマーのようなC〜C12アルファオレフィンの水素化液状オリゴマーである。
【0019】
もう一つのクラスの有用な合成潤滑油は、アルキレンオキシドのポリマー、即ち、ホモポリマー、共重合体、及び該末端ヒドロキシル基が、例えば、エステル化又はエーテル化により変性されているそれらの誘導体を含むが、それらに限定されない。これらの油は、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドの重合により製造された油、これらポリオキシアルキレンポリマーのアルキル及びフェニルエーテル(例えば、約1,000の平均分子量を有するメチルポリプロピレングリコールエーテル、約500〜約1,000の分子量を有するポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、約1,000〜約1,500の分子量を有するポリプロピレングリコールのジエチルエーテル、等)、又は、例えば、テトラエチレングリコールの酢酸エステル、混合C−C脂肪酸エステル、又はC13オキソ酸ジエステルのような、それらのモノ及びポリカルボン酸エステルにより例示される。
【0020】
更にもう一つのクラスの有用な合成潤滑油は、ジカルボン酸、例えば、フタール酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマール酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸、等と、種々のアルコール、例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール、等とのエステルを含むがそれらに限定されない。これらエステルの具体例には、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)、フマール酸ジn−ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタール酸ジオクチル、フタール酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸ダイマーの2−エチルヘキシルジエステル、1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2−エチルヘキサン酸と反応させることにより形成された複雑なエステル、等が含まれる。
【0021】
合成油として有用なエステルは又、約5〜約12個の炭素原子を有するカルボン酸と、アルコール、例えば、メタノール、エタノール、等、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、等のようなポリオール及びポリオールエーテルとから製造されたエステルを含むが、それらに限定されない。
【0022】
例えば、ポリアルキル−、ポリアリール−、ポリアルコキシ−、又はポリアリールオキシ−シロキサン油及びシリケート油のようなシリコン系油は、もう一つの有用なクラスの合成潤滑油を構成する。これらの具体例は、テトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ(2−エチルヘキシル)シリケート、テトラ(4−メチルヘキシル)シリケート、テトラ(p−tert−ブチルフェニル)シリケート、ヘキシル(4−メチル−2−ペントキシ)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン、ポリ(メチルフェニル)シロキサン、等を含むが、それらに限定されない。更になお他の有用な合成潤滑油は、燐含有酸の液状エステル、例えば、トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェート、デカンホスフィオン酸のジエチルエステル、等、ポリマー状テトラヒドロフラン、等を含むが、それらに限定されない。
【0023】
潤滑粘度の油は、未精製、精製及び再精製の天然油又は合成油、又は上記に開示したタイプのこれら油の2種以上混合物から誘導することが出来る。未精製油は、更なる精製又は処理なしに天然又は合成源(例えば、石炭、頁岩、又はタールサンド・ビチューメン)から直接得られた油である。未精製油の例は、レトルト処理操作から直接得られた頁岩油、蒸留から直接得られた石油、又はエステル化法から直接得られたエステル油であって、それらの各々が更なる処理なしで次に使用されるものを含むが、それらに限定されない。精製油は、それらが一つ以上の性質を改良するために一つ以上の精製工程で更に処理されている点以外は、未精製油と同様である。これらの精製技術は、当業者に知られており、例えば、溶剤抽出、二次蒸留、酸又は塩基抽出、濾過、浸透、水素処理法、脱ろう、等を含む。再精製油は、精製油を得るために使用した方法と同様な方法で使用済み油を処理することにより得られる。かかる再精製油は又再生油又は再処理油としても知られており、使用済み添加剤及び油分解生成物の除去を対象にする技術によりしばしば更に処理される。
【0024】
ワックスのハイドロ異性化から誘導された潤滑油基剤原料油は又、単独で又は前述の天然及び(又は)合成基剤原料油との組合せで使用することが出来る。このようなワックス異性体油は、ハイドロ異性化触媒上における天然又は合成ワックス又はそれらの混合物のハイドロ異性化により製造される。
【0025】
天然ろうは典型的に鉱油の溶剤脱ろうにより回収された粗ろうであり、合成ろうは典型的にフィッシャー・トロプシュ法により製造されたワックスである。
【0026】
該潤滑油組成物に使用される潤滑粘度の油は、主要量、例えば、該組成物の全重量に基づいて、50重量%より多い量、好ましくは約70重量%より多い量、より好ましくは約80〜約99.5重量%の量、最も好ましくは約85〜約98重量%の量で存在することが出来る。
【0027】
本発明の潤滑油組成物を形成するために潤滑粘度の油中に配合される1種以上のチオ官能化フェニレンジアミン化合物は、一般式:
【化3】


(式中、Rは直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルケニル、置換又は無置換のC−C30アリール、置換又は無置換のC−C30アリールアルキル、置換又は無置換のC−C30ヘテロアリール、置換又は無置換のC−C30複素環、又はC−C20エステルであり;R及びRは独立に水素、直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルケニル、置換又は無置換のC−C30アリール、置換又は無置換のC−C30アリールアルキル、置換又は無置換のC−C30ヘテロアリール、置換又は無置換のC−C30複素環、又はC−C20エステルであるが、但しR及びRの一つだけは水素であっても良いか或いはR及びRはそれらが結合している窒素原子と共に結びついて所望により1又はそれ以上の更なる複素環原子を含有する複素環基を形成することができ;Rは独立に直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルケニル、置換又は無置換のC−C30アリール、置換又は無置換のC−C30アリールアルキル、置換又は無置換のC−C30ヘテロアリール、置換又は無置換のC−C30複素環、又はC−C20エステルであり、nは1又は2である)により表すことが出来る。一態様において、該窒素基、即ち、NHR及びNRは互いに関してパラ位置で芳香族環に結合している。
【0028】
ここに使用されるアルキル基の代表例には、一例として、該分子の残部に対して、1〜約30個の炭素原子、好ましくは1〜約12個の炭素原子、最も好ましくは1〜約6個の炭素原子を有する、不飽和有り又は無しの、炭素及び水素原子含有の、直鎖又は分枝鎖炭化水素基、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、1−メチルエチル(イソプロピル)、n−ブチル、n−ペンチル、1,1−ジメチルエチル(t−ブチル)、等が含まれる。
【0029】
ここに使用されるエステル基の代表例には、一例として、1〜20個の炭素原子を有するカルボン酸エステル、等が含まれる。
【0030】
ここに使用されるエーテル又はポリエーテル含有基の代表例には、一例として、−O−、アルキレンオキシド、ポリアルキレンオキシド、等、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド、等が含まれる。
【0031】
ここに使用されるシクロアルキル基の代表例には、一例として、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、パーヒドロナフチル、アダマンチル及びノルボルニル基橋かけ環式基、又はスピロ二環式基、例えば、スピロ(4,4)ノン−2−イル、等のような約3〜約12個の炭素原子を有する、置換又は無置換の非芳香族単環式又は多環式環構造が含まれる。
【0032】
ここに使用されるシクロアルケニル基の代表例には、一例として、少なくとも1個の炭素・炭素二重結合を有し、約3〜約12個の範囲で炭素原子を含有する、置換又は無置換の環式環含有基、例えば、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、等が含まれる。
【0033】
ここに使用されるアリール基の代表例には、一例として、約5〜約30個の範囲で炭素原子を有する置換又は無置換の芳香族基、例えば、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インデニル、ビフェニル、等が含まれる。
【0034】
ここに使用されるアリールアルキル基の代表例には、一例として、上記に定義したアルキル基に直接結合した上記に定義した置換又は無置換のアリール基、例えば、−CH、−C、等が含まれる。
【0035】
ここに使用される複素環基の代表例には、一例として、炭素原子及び1〜5個のヘテロ原子、例えば、窒素、燐、酸素、硫黄及びそれらの混合物を含有する、置換又は無置換の安定な3〜約15員環基が含まれる。ここに使用される適切な複素環基は、縮合、橋かけ又はスピロ環構造を含んでいても良い単環式、二環式、又は三環式環構造であることが出来、該複素環基における窒素、燐、炭素、酸素、又は硫黄原子は所望により種々の酸化状態に酸化されていても良い。更に、該窒素原子は所望により第四級化されていても良く、該環基は部分的にまたは完全に飽和されて(即ち、複素環芳香族又はヘテロアリール芳香族)いても良い。
【0036】
かかる複素環基の例は、アゼチジニル、アクリジニル、ベンゾジオキソリル、ベンゾジオキサニル、ベンゾフリル、カルバゾリル、シンノリニル、ジオキソラニル、インドリジニル、ナフチリジニル、パーヒドロアゼピニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサジニル、フタラジニル、ピリジル、プテリジニル、プリニル、キナゾリニル、キノキサリニル、キノリニル、イソキノリニル、テトラゾイル、イミダゾリル、テトラヒドロイソキノリル、ピペリジニル、ピペラジニル、2−オキソピペラジニル、2−オキソピペリジニル、2−オキソピロリジニル、2−オキソアゼピニル、アゼピニル、ピローリル、4−ピペリドニル、ピロリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、オキサゾリル、オキサゾリニル、オキサゾリジニル、トリアゾリル、インダニル、イソキサゾリル、イソキサゾリジニル、モルホリニル、チアゾリル、チアゾリニル、チアゾリジニル、イソチアゾリル、キヌクリジニル、イソチアゾリジニル、インドリル、イソインドリル、インドリニル、イソインドリニル、オクタヒドロインドリル、オクタヒドロイソインドリル、キノリル、イソキノリル、デカヒドロイソキノリル、ベンズイミダゾリル、チアジアゾリル、ベンゾピラニル、ベンゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、フリル、テトラヒドロフリル、テトラヒドロピラニル、チエニル、ベンゾチエニル、チアモルホリニル、チアモルホリニルスルホキシド、チアモルホリニルスルホン、ジオキサホスホラニル、オキサジアゾリル、クロマニル、イソクロマニル、等及びそれらの混合物を含むが、それらに限定されない。
【0037】
ここに使用されるヘテロアリール基の代表例には、一例として、上記に定義した置換又は無置換の複素環基が含まれる。該ヘテロアリール環基は、安定な構造を造り出す任意のヘテロ原子又は炭素原子において主要な構造に結合することが出来る。
【0038】
「置換アルキル」、「置換シクロアルキル」、「置換シクロアルケニル」、「置換アリールアルキル」、「置換アリール」、「置換複素環」、「置換ヘテロアリール環」、及び「置換環式環」における置換基は、同じでも又は異なっていても良く、一例として、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、カルボキシル、シアノ、ニトロ、オキソ(=O)、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のアルコキシ、置換又は無置換のアルケニル、置換又は無置換のアルキニル、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のアリールアルキル、置換又は無置換のシクロアルキル、置換又は無置換のシクロアルケニル、置換又は無置換のアミノ、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロアリール、置換ヘテロシクリルアルキル環、置換又は無置換のヘテロアリールアルキル、置換又は無置換の複素環、置換又は無置換のグアニジン、−COOR,−C(O)R,−C(S)R,−C(O)NR,−C(O)ONR,−NRCONR,−N(R)SOR,−N(R)SO,−(=N−N(R)R),−NRC(O)OR,−NR,−NRC(O)R−,−NRC(S)R,−NRC(S)NR,−SONR−,−SONR−,−OR,−ORC(O)NR,−ORC(O)OR,−OC(O)R,−OC(O)NR,−RNRC(O)R,−ROR,−RC(O)OR,−RC(O)NR,−RC(O)R,−ROC(O)R,−SR,−SOR,−SO,−ONO、(上記基の各々においてR、R及びRは同じでも又は異なっていても良く、水素原子、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のアルコキシ、置換又は無置換のアルケニル、置換又は無置換のアルキニル、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のアリールアルキル、置換又は無置換のシクロアルキル、置換又は無置換のシクロアルケニル、置換又は無置換のアミノ、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロアリール、「置換ヘテロシクリルアルキル環」、置換又は無置換のヘテロアリールアルキル、置換又は無置換の複素環、等であっても良い)を含む。
【0039】
及びRがそれらの結合している窒素原子と共に結びついて複素環を形成する有用なアミンには、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、等のような環状アミンが含まれる。
【0040】
チオ官能化フェニレンジアミン化合物及びそれらの誘導体の多くは知られており、公知の方法により得ることが出来る。例えば、米国特許第4,072,654号及び国際公開公報第WO 02/42262号並びにWO 04/031287号を参照されたい。例えば、本発明に使用されるチオ官能化フェニレンジアミン化合物は、(a) 一般式:
【化4】


(式中、R,R及びRは前述の意味を有する)のフェニレンジアミンを酸化物吸着剤と反応させ、(b) 工程(a)の生成物を充分な量の一般式H−S−R(式中、Rは前述の意味を有する)を有するチオールと反応させて該チオ官能化フェニレンジアミン化合物を形成することにより、得ることが出来る。この反応は、一般的に下の図式Iで示される。
【化5】


適切な酸化物吸着剤は、例えば、MnO,AgO及びFe、等及びそれらの混合物のような金属酸化物を含むが、それらに限定されない。
【0041】
該反応は普通、室温で該チオ官能化フェニレンジアミン化合物を形成するのに充分な時間をかけて行うことが出来る。所望なら、該反応は溶剤の存在下で行うことが出来る。適切な溶剤は、脂肪族炭化水素溶剤、芳香族炭化水素溶剤、ハロゲン化炭化水素溶剤、アルコール、エーテル、ケトン、等及びそれらの混合物を含むが、それらに限定されない。適切な溶剤の例には、ヘキサン、トルエン、ベンゼン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルム、ポリエチレングリコールエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、等及びそれらの混合物が含まれる。
【0042】
本発明の潤滑油組成物に使用されるチオ官能化フェニレンジアミン化合物は、潤滑剤配合物に現在使用されている市販の酸化防止剤に代る完全な又は部分的な代替え品として使用することが出来、モーター油に典型的に見出される他の添加剤と組み合わせて使用することが出来る。一般に、該チオ官能化フェニレンジアミン化合物は、潤滑油組成物中に該組成物の全重量に基づいて約0.05〜約30重量%、好ましくは約0.1〜約10重量%で変動する量で存在することが出来る。油配合物で使用されている他のタイプの酸化防止剤又は添加剤との組合せで使用される場合、改良された酸化防止性、耐摩耗性、摩擦性、洗浄力性、及び高温エンジン沈着性に関して相乗的及び(又は)付加的性能効果が得られる。このような他の添加剤は、潤滑油組成物を配合する際に使用される、現在知られている又は後に発見される如何なる添加剤であっても良い。潤滑油において典型的に見出される潤滑油添加剤は、例えば、分散剤、清浄剤、腐食/錆抑制剤、酸化防止剤、耐磨耗剤、消泡剤、摩擦調整剤、シール膨潤剤、乳化剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、等である。例えば、有用な潤滑油組成物添加剤の説明に関する米国特許第5,498,809号を参照して頂きたいが、その開示全体を本明細書に引用して援用する。
【0043】
分散剤の例には、ポリイソブチレンスクシンイミド、ポリイソブチレン琥珀酸エステル、マンニッヒ塩基無灰分散剤、等が含まれる。清浄剤の例には、金属の無灰アルキルフェネート、金属の無灰硫化アルキルフェネート、金属の無灰アルキルスルホネート、金属の無灰アルキルサリチレート、金属の無灰サリゲニン誘導体、等が含まれる。
【0044】
他の酸化防止剤の例には、アルキル化ジフェニルアミン、N−アルキル化フェニレンジアミン、フェニル−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−ナフチルアミン、ジメチルキノリン、トリメチルジヒドロキノリン及びそれらから誘導されたオリゴマー組成物、ヒンダードフェノール類、アルキル化ハイドロキノン、ヒドロキシル化チオジフェニルエーテル、アルキリデンビスフェノール、チオプロピオネート、金属のジチオカルバメート、1,3,4−ジメルカプトチアジアゾール及び誘導体、油溶性銅化合物、等が含まれる。かかる添加剤の代表的例は、Chemtura Corporationのような供給源から市販されているものであり、例えば、Naugalube(登録商標)438, Naugalube 438L, Naugalube 640, Naugalube 635, Naugalube680, Naugalube AMS, Naugalube APAN, Naugard PANA, Naugalube TMQ, Naugalube 531, Naugalube 431, Naugard(登録商標) BHT, Naugalube 403, Naugalube 420、等を含む。
【0045】
本発明の添加剤との組合せで使用できる耐磨耗添加剤の例には、有機ボラート、有機ホスフィット、有機ホスフェート、有機硫黄含有化合物、硫化オレフィン、硫化脂肪酸誘導体(エステル)、塩素化パラフィン、ジアルキルジチオ燐酸亜鉛、ジアリールジチオ燐酸亜鉛、ジアルキルジチオ燐酸エステル、ジアリールジチオ燐酸エステル、ホスホ硫化炭化水素、等が含まれる。かかる添加剤の代表的例は、Lubrizol 677A, Lubrizol 1095, Lubrizol 1097, Lubrizol 1360, Lubrizol 1395, Lubrizol 5139, Lubrizol 5604、等のようなThe Lubrizol Corporationから市販されているもの、及びIrgalube 353、等のようなCiba Corporationから市販されているものである。
【0046】
摩擦調整剤の例には、脂肪酸エステル及びアミド、有機モリブデン化合物、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、ジアルキルジチオ燐酸モリブデン、二硫化モリブデン、トリ−モリブデン・クラスター・ジアルキルジチオカルバメート、無硫黄モリブデン化合物、等が含まれる。かかる摩擦調整剤の代表的例は、Molyvan A, Molyvan L, Molyvan 807, Molyvan 856B, Molyvan 822, Molyvan 855、等のようなR.T. Vanderbilt Company, Inc.から市販されているもの;SAKURA-LUBE 100, SAKURA-LUBE 165, SAKURA-LUBE 300, SAKURA-LUBE 310G, SAKURA-LUBE 321, SAKURA-LUBE 474, SAKURA-LUBE 600, SAKURA-LUBE 700、等のような旭電化工業株式会社から市販されているもの;及びKetjen-Ox 77M, Ketjen-Ox 77TS、等のようなAkzo Nobel Chemicals GmbHから市販されているものである。
【0047】
消泡剤の例はポリシロキサン等である。錆抑制剤の例は、ポリオキシアルキレンポリオール、ベンゾトリアゾール誘導体、等である。粘度指数向上剤の例には、オレフィン共重合体、及び分散剤オレフィン共重合体、等が含まれる。流動点降下剤の例はポリメタクリレート、等である。
【0048】
上述したように、適切な耐磨耗化合物はジヒドロカルビルジチオホスフェートを含む。好ましくは、該ヒドロカルビル基は平均少なくとも3個の炭素原子を含有する。特に有用であるのは、該ヒドロカルビル基が平均少なくとも3個の炭素原子を含有する、少なくとも1種のジヒドロカルビルジチオ燐酸の金属塩である。ジヒドロカルビルジチオ燐酸塩が誘導され得る酸は、式:
【化6】


(式中、R及びRは、同じか又は異なっており、直鎖又は分枝状のアルキル、シクロアルキル、アラルキル、アルカリール、又は、上記任意の基の置換実質ヒドロカルビルラジカル誘導体であっても良く、該酸におけるR及びR基は各々平均で少なくとも3個の炭素原子を有する)の酸により表すことが出来る。「実質ヒドロカルビル」は、該ラジカルの炭化水素特性に実質的に影響しない、例えば、エーテル、エステル、チオ、ニトロ、又はハロゲンのような置換基、例えば、ラジカル部分当り1〜4個の置換基を含有するラジカルを意味する。
【0049】
適切なR及びR基の具体的例には、イソプロピル、イソブチル、n−ブチル、sec−ブチル、n−ヘキシル、ヘプチル、2−エチルヘキシル、ジイソブチル、イソオクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ブチルフェニル、o,p−ジペンチルフェニル、オクチルフェニル、ポリイソブチレン(分子量350)−置換フェニル、テトラプロピレン−置換フェニル、ベータ−オクチルブチルナフチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、クロロフェニル、o−ジクロロフェニル、ブロモフェニル、ナフテニル、2−メチルシクロヘキシル、ベンジル、クロロベンジル、クロロペンチル、ジクロロフェニル、ニトロフェニル、ジクロロデシル、及びキセニル基が含まれる。約3〜約30個の炭素原子を有するアルキル基及び約6〜約30個の炭素原子を有するアリール基が好ましい。特に好ましいR及びR基は4〜約18個の炭素原子を有するアルキルである。
【0050】
該ホスホロジチオ酸は、五硫化燐と脂肪族アルコール及び(又は)フェノールとの反応により容易に得ることが出来る。該反応は、約20℃〜約200℃で変動する温度で、約4モルの該アルコール又はフェノールを1モルの五硫化燐と混合させることを少なくとも含む。該反応が起こるに従って硫化水素を遊離することが出来る。アルコール、フェノール、又は両者の混合物、例えば、C〜C30アルコール、C〜C30芳香族アルコール、等の混合物を使用することが出来る。該燐酸塩を製造するのに有用な金属は、I族金属、II族金属、アルミニウム、鉛、錫、モリブデン、マンガン、コバルト、及びニッケルを含み、亜鉛が好ましい金属であるが、それらに限定されない。該酸と反応させることが出来る金属化合物の例には、酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、リチウムペントキシド、酸化ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムフェノキシド、酸化カリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、カリウムメトキシド、酸化銀、炭酸銀、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、マグネシウムエトキシド、マグネシウムプロポキシド、マグネシウムフェノキシド、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、カルシウムメトキシド、カルシウムプロポキシド、カルシウムペントキシド、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、亜鉛プロポキシド、酸化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、酸化カドミウム、水酸化カドミウム、炭酸カドミウム、カドミウムエトキシド、酸化バリウム、水酸化バリウム、バリウム水和物、炭酸バリウム、バリウムエトキシド、バリウムペントキシド、酸化アルミニウム、アルミニウムプロポキシド、酸化鉛、水酸化鉛、炭酸鉛、酸化錫、錫ブトキシド、酸化コバルト、水酸化コバルト、炭酸コバルト、コバルトペントキシド、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、等及びそれらの混合物が含まれる。
【0051】
或る場合に、該金属反応体と共に使用される、ある種の成分、特にカルボン酸又は金属カルボン酸塩、例えば、少量の金属酢酸塩又は酢酸の配合は、該反応を促進し改良された生成物を生ずるであろう。例えば、必要量の酸化亜鉛と組合わせた約5%までの酢酸亜鉛の使用は、ホスホロジチオ酸亜鉛の形成を促進する。
【0052】
ホスホロジチオ酸金属塩の製造は、技術的に周知である。例えば、米国特許第3,293,181;3,397,145;3,396,109;及び3,442,804を参照して頂きたいが、それらの内容をここに引用して援用する。又耐磨耗添加剤として有用であるのは、米国特許第3,637,499号に記載されているような、ジチオ燐酸化合物のアミン誘導体であるが、該米国特許の内容全体をここに引用して援用する。
【0053】
該亜鉛塩は、潤滑油組成物の全重量に基づいて約0.1〜約10重量%、好ましくは約0.2〜約2重量%の範囲の量で、潤滑油において耐磨耗添加剤として最も普通に使用される。それらは、公知技術に従って、例えば、通常アルコール及び(又は)フェノールとPとの反応により先ずジチオ燐酸を形成し、次に該ジチオ燐酸を適切な亜鉛化合物で中和することにより、製造することが出来る。
【0054】
一般に改良耐磨耗性を付与するための第二アルコール及び熱安定性を付与するための第一アルコールの混合物を含む、アルコールの混合物を使用することが出来る。一般に、任意の塩基性又は中性亜鉛化合物を使用することが出来るであろうが、該酸化物、水酸化物、及び炭酸塩が最も一般に使用される。市販用添加剤は、該中和反応における過剰の塩基性亜鉛化合物の使用により、頻繁に過剰の亜鉛を含有する。
【0055】
ジヒドロカルビルジチオ燐酸亜鉛(ZDDP)は、ジチオ燐酸のジヒドロカルビルエステルの油溶性塩であり、以下の式:
【化7】


(式中、R及びRは前述の意味を有する)により表すことが出来る。
【0056】
本発明の潤滑油組成物は、これらの添加剤を含有する場合、その中の添加剤がそれらに付随する正常な機能を提供するのに有効であるような量で、基油中に典型的に混合される。かかる添加剤の代表的有効量は表1に説明されている。
【表1】

【0057】
他の添加剤を使用する場合、1種又はそれ以上の本発明チオ官能化フェニレンジアミン化合物の(上記の高濃度量の)濃い溶液又は分散液を、1種又はそれ以上の他の添加剤と一緒に、含む添加剤濃縮物(添加剤混合物を構成する濃縮物は本明細書では添加剤パッケージと言及される)を準備し、それによりいくつかの添加剤を同時に基油に添加して潤滑油組成物を形成することが出来るようにすることが、必要ではないけれども、望ましいであろう。潤滑油中への該添加剤濃縮物の溶解は、例えば溶剤により、そして穏やかな加熱を伴う混合により促進することが出来るが、これは必須ではない。
【0058】
該濃縮物、即ち添加剤パッケージは典型的に、該添加剤パッケージを所定量の基潤滑剤と組み合わせる際に最終配合物において望ましい濃度を提供する適切な量で該添加剤を含有するように配合される。かくして、本発明の主体添加剤を他の望ましい添加剤と一緒に少量の基油又は他の相溶性溶剤に添加して、活性成分を、典型的に重量で約2.5〜約90パーセント、好ましくは約15〜約75パーセント、より好ましくは約25パーセント〜約60パーセントの添加剤という集合的量で適切な割合で、残りの基油と一緒に含有する添加剤パッケージを形成することが出来る。最終配合物は、残りは基油で、典型的に約1〜20重量パーセントの添加剤パッケージを使用することが出来る。
【0059】
本明細書で表現されている重量パーセントのすべては、(特に断りのない限り)、該添加剤の活性成分(AI)含量、及び(又は)任意の添加剤パッケージの全重量、又は各添加剤のAI重量プラス全油又は希釈剤の重量の合計となる配合物の全重量に基づいている。
【0060】
一般に、本発明の潤滑油組成物は、該添加剤を約0.05〜約30重量パーセントで変動する濃度で含有することが出来る。該油組成物の全重量に基づいて約0.1〜約10重量パーセントで変動する該添加剤の濃度範囲が好ましい。より好ましい濃度範囲は約0.2〜約5重量パーセントである。一態様において、該添加剤の油濃縮物は、潤滑油粘度のキャリヤー又は希釈剤油中に約1〜約75重量パーセントの該添加剤を含有することが出来る。
【0061】
以下の限定されない実施例は本発明の説明に役立つ。
【実施例1】
【0062】
この実施例は式:
【化8】


を有する化合物の製造を説明する。
【0063】
30.0グラムのN−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(132.56ミリモル、1.00当量)を周囲条件下で250mLの丸底フラスコに添加し、続いて30.0グラムのAgO(242.19ミリモル、1.83当量)及び150mLのアセトンを添加した。該反応は発熱性であった。24時間後、該混合物を濾過してすべての固体を除去し、10mLのアセトンを使用して該固体残渣を洗浄した。次に26.0グラムのドデシルチオール(128.46ミリモル、0.97当量)を該混合物に添加した。該反応混合物を室温で24時間攪拌し、該溶剤を減圧蒸留により除去した。得られた化合物は、溶離剤としてヘキサンを使用したシリカゲル上のフラッシュカラムクロマトグラフを用いて精製し、淡褐色液体としての生成物を得た。
式 :C2742S,Mn=426.70
収率:48.0グラム、81%
【実施例2】
【0064】
潤滑油組成物の製造
モーター油配合物に対して、50ppmのナフテン酸第二鉄と一緒に0.4重量%の実施例1のチオ官能化フェニレンジアミン及び更なる0.1重量%のSolvent Neutral 150基油を混合して、潤滑油組成物を形成した。該モーター油配合物は表2に示してある。
【表2】

【0065】
〔比較例A〕
潤滑油組成物の製造
表2に示したモーター油配合物に対して、50ppmのナフテン酸第二鉄と一緒に更なる0.1重量%のSolvent Neutral 150基油を添加して、潤滑油組成物を形成した。
【0066】
試験
実施例2及び比較例Aの潤滑油組成物の各々を、下記に説明する熱酸化エンジン油模擬試験(TEOST)及び加圧示差走査熱量測定(PDSC)試験を用いて、評価した。
【0067】
中・高温度熱酸化エンジン油模擬試験
該中・高温度熱酸化エンジン油模擬試験(MHT TEOST)は、モーターエンジン油の沈着物形成傾向を測定するために行った。エンジン油配合物を安定化させる際の本発明添加剤の改良された熱沈着抑制は、該MHT TEOSTにより明白に示された。この試験は、熱酸化性の触媒的条件下で8.5mlの試験油を繰返し通過させて連続的に応力を加えることにより、特別に構成されたスチールロッド上に形成された沈着物の質量を測定する。使用した機器は、Tannas Co.により製造され、0.15(x+16)mg(xは2又はそれ以上の繰返し試験結果の平均である)の典型的繰返し精度を有する。該TEOST試験条件は表3に記入してある。得られる沈着物の量が少なければ少ない程、該油の酸化安定性はますます良い。この試験の結果は表4に記載してある。
【表3】


【表4】


上記データから、潤滑油組成物にチオ官能化フェニレンジアミンを添加すると、基剤混合物配合物の全沈着物質量が顕著に減少することを理解することが出来る。
【0068】
加圧示差走査熱量測定(PDSC)
該PDSCは、加圧下Oガス中で測定した、潤滑油組成物における酸化防止剤の相対的酸化誘導時間(OIT)を測定する。使用したPDSC機器は、Mettler−Toledo,Inc(スイス)により製造されたMettler DSC27HPである。該PDSC法は、各試験を通して、一定の酸素圧力下でスチール試料容器を使用する。該機器は、100分のOITにわたり、95パーセントの信頼度で±2.5分の典型的繰返し精度を有する。該PDSC試験条件は表5に提供されている。PDSC試験の始めに、該スチール試料容器を酸素で加圧し、40℃/分の速度で所定の一定温度まで加熱する。該誘導時間は、該試料がその一定温度に到達する時から該エンタルピー変化が観察されるまで測定される。該酸化誘導時間が長ければ長い程、該油の酸化安定性はますます良い。実施例2及び比較例Aの潤滑油組成物のOIT結果を表6に記載する。
【表5】


【表6】


上記データから、本発明の範囲内のチオ官能化フェニレンジアミン化合物を含有する潤滑油組成物は酸化防止剤を含有しない潤滑油組成物よりも顕著に良い酸化安定性を示したことが理解できる。
【0069】
本明細書に開示された態様に種々の修正を行うことが出来ることは理解されるであろう。従って上記の説明は、制限的と解釈するべきではなく、単に好ましい態様の例示と解釈するべきである。例えば、本発明を操作するための最良の様式として実施された上述の機能は、説明目的だけのためになされたものである。他の処理及び方法は、本発明の範囲及び精神から離れることなく当業者により実施することが出来る。更に、当業者は別紙特許請求の範囲の範囲内及び精神内で他の修正を想像するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油組成物であって、
(a) 潤滑粘度を有する少なくとも1種の油、及び
(b) 一般式:
【化1】


(式中、Rは直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルケニル、置換又は無置換のC−C30アリール、置換又は無置換のC−C30アリールアルキル、置換又は無置換のC−C30ヘテロアリール、置換又は無置換のC−C30複素環、又はC−C20エステルであり;R及びRは独立に水素、直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルケニル、置換又は無置換のC−C30アリール、置換又は無置換のC−C30アリールアルキル、置換又は無置換のC−C30ヘテロアリール、置換又は無置換のC−C30複素環、又はC−C20エステルであるが、但しR及びRの一つだけは水素であっても良いか或いはR及びRはそれらが結合している窒素原子と共に結びついて所望により1又はそれ以上の更なる複素環原子を含有する複素環基を形成することができ;Rは独立に直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルケニル、置換又は無置換のC−C30アリール、置換又は無置換のC−C30アリールアルキル、置換又は無置換のC−C30ヘテロアリール、置換又は無置換のC−C30複素環、又はC−C20エステルであり、nは1又は2である)を有する、有効量の少なくとも1種のチオ官能化フェニレンジアミン化合物
を含む前記潤滑油組成物。
【請求項2】
が置換又は無置換のC−C30アリールである、請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
が置換又は無置換のC−C30アリールであり、Rが水素であり、Rが直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキルであり、nが1である、請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
が置換又は無置換のC−C30アリールであり、Rが水素であり、Rが直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキルであり、nが2である、請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
が置換又は無置換のフェニル基であり、Rが水素であり、Rが直鎖又は分枝状のC−Cアルキルであり、nが1である、請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
が置換又は無置換のフェニル基であり、Rが水素であり、Rが直鎖又は分枝状のC−Cアルキルであり、nが2である、請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
及びRが、それらが結合している窒素原子と共に結びついて所望により1又はそれ以上の更なる複素環原子を含有する複素環基を形成している、請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
潤滑粘度を有する少なくとも1種の該油が100℃で約1.5〜約2000センチストークス(cSt)の粘度を有する、請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
耐磨耗剤、清浄剤、錆止め、曇り止め剤、解乳化剤、金属不活性化剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、消泡剤、共溶剤、容器適合化剤、腐食抑制剤、無灰分散剤、染料、極圧剤、及びそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1種の潤滑油添加剤を更に含む、請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
酸化安定性を付与することが知られているアルキル化硫黄含有化合物、アルキル化油溶性銅化合物、アルキル化置換又は無置換フェニレンジアミン、アルキル化ヒンダードフェノール類、アルキル化ジフェニルアミン、及びそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1種の潤滑油添加剤を更に含む、請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
酸化安定性を付与することが知られている該アルキル化硫黄含有化合物がフェノチアジン、硫化オレフィン、チオカーバメート、硫黄含有ヒンダードフェノール類、ジアルキルジチオ燐酸亜鉛、及びそれらの混合物から成る群から選択される、請求項10記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
内燃機関を操作する方法であって、(a) 潤滑粘度の油、及び(b) 一般式:
【化2】


(式中、Rは直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルケニル、置換又は無置換のC−C30アリール、置換又は無置換のC−C30アリールアルキル、置換又は無置換のC−C30ヘテロアリール、置換又は無置換のC−C30複素環、又はC−C20エステルであり;R及びRは独立に水素、直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルケニル、置換又は無置換のC−C30アリール、置換又は無置換のC−C30アリールアルキル、置換又は無置換のC−C30ヘテロアリール、置換又は無置換のC−C30複素環、又はC−C20エステルであるが、但しR及びRの一つだけは水素であっても良いか或いはR及びRはそれらが結合している窒素原子と共に結びついて所望により1又はそれ以上の更なる複素環原子を含有する複素環基を形成することができ;Rは独立に直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルキル、置換又は無置換のC−C30シクロアルケニル、置換又は無置換のC−C30アリール、置換又は無置換のC−C30アリールアルキル、置換又は無置換のC−C30ヘテロアリール、置換又は無置換のC−C30複素環、又はC−C20エステルであり、nは1又は2である)を有する、主要量ではないが、沈着抑制有効量の少なくとも1種のチオ官能化フェニレンジアミン化合物、を含む潤滑油組成物を用いて内燃機関を操作することを含む、前記方法。
【請求項13】
該チオ官能化フェニレンジアミン化合物においてRが置換又は無置換のC−C30アリールである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
該チオ官能化フェニレンジアミン化合物においてRが置換又は無置換のC−C30アリールであり、Rが水素であり、Rが直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキルであり、nが1である、請求項12記載の方法。
【請求項15】
該チオ官能化フェニレンジアミン化合物においてRが置換又は無置換のC−C30アリールであり、Rが水素であり、Rが直鎖又は分枝状で置換又は無置換のC−C30アルキルであり、nが2である、請求項12記載の方法。
【請求項16】
該チオ官能化フェニレンジアミン化合物においてRが置換又は無置換のフェニル基であり、Rが水素であり、Rが直鎖又は分枝状のC−Cアルキルであり、nが1である、請求項12記載の方法。
【請求項17】
該チオ官能化フェニレンジアミン化合物においてRが置換又は無置換のフェニル基であり、Rが水素であり、Rが直鎖又は分枝状のC−Cアルキルであり、nが2である、請求項12記載の方法。
【請求項18】
潤滑粘度を有する少なくとも1種の該油が100℃で約1.5〜約2000センチストークス(cSt)の粘度を有する、請求項12記載の方法。
【請求項19】
該潤滑油組成物が耐磨耗剤、清浄剤、錆止め、曇り止め剤、解乳化剤、金属不活性化剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、消泡剤、共溶剤、容器適合化剤、腐食抑制剤、無灰分散剤、染料、極圧剤、及びそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1種の潤滑油添加剤を更に含む、請求項12記載の方法。
【請求項20】
該潤滑油組成物が酸化安定性を付与することが知られているアルキル化硫黄含有化合物、アルキル化油溶性銅化合物、アルキル化置換又は無置換フェニレンジアミン、アルキル化ヒンダードフェノール類、アルキル化ジフェニルアミン、及びそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1種の潤滑油添加剤を更に含む、請求項12記載の方法。
【請求項21】
酸化安定性を付与することが知られている該アルキル化硫黄含有化合物がフェノチアジン、硫化オレフィン、チオカーバメート、硫黄含有ヒンダードフェノール類、ジアルキルジチオ燐酸亜鉛、及びそれらの混合物から成る群から選択される、請求項20記載の方法。

【公開番号】特開2012−255160(P2012−255160A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−168104(P2012−168104)
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【分割の表示】特願2008−543346(P2008−543346)の分割
【原出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(508201282)ケムチュア コーポレイション (69)
【Fターム(参考)】