説明

潤滑装置

【課題】流体を掻き上げてキャッチタンクに供給する回転部材が相対的に低回転数の場合に、相対的に高回転数にされる第2の回転部材によってキャッチタンクに流体を供給する潤滑装置を提供する。
【解決手段】所定のケーシング2の内部に配置された第1の回転部材19によって、ケーシング2の内部に貯留している流体を掻き上げることにより、その流体を所定の箇所に供給するように構成された潤滑装置において、第1の回転部材19の回転数が低回転数の場合に高回転数となりかつ流体が供給される第2の回転部材29がケーシング2の内部に配置されるとともに、第1の回転部材19から飛散させられた流体を流入させかつ第2の回転部材29の回転数が高回転数の場合にその第2の回転部材29から飛散した流体を流入させるキャッチタンク32が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、潤滑油やロングライフクーラントなどの流体によって潤滑必要箇所を潤滑あるいは冷却する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の変速機などの動力伝達機構は、それらに円滑な動作をおこなわせるため、また、摩耗や発熱を抑制するため、潤滑油による潤滑や冷却をおこなうのが通常である。その潤滑油の供給方法の一例として、ケーシングの底部に貯留された潤滑油を回転部材で掻き上げて被潤滑部に供給する掻き上げ潤滑方式が知られている。この掻き上げ潤滑方式では、回転部材が掻き上げた潤滑油の少なくとも一部を受け入れて一時的に貯留することにより、ケーシング底部に貯留される潤滑油の油面高さを調整したり、その受け入れた潤滑油を潤滑必要箇所に供給したりするキャッチタンクを備えたものが知られている。その一例が特許文献1に記載されている。その特許文献1には、デフリングギアにより潤滑油を掻き上げてキャッチタンクに供給し、そのキャッチタンクから潤滑必要箇所に、具体的にはモータに供給するように構成された装置が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、ロータとステータとオイルを貯留するオイル貯留部とロータの回転により掻き上げられたオイルを受けて、そのオイルを潤滑必要箇所に供給するオイル受け部とステータの一端に掻き上げたオイルをオイル受け部に導くオイルガイドとを備えた装置が記載されている。また、ロータの幅をドライブユニットの駆動力の仕様上必要とされる幅よりも広くすることにより、ロータの回転による掻き上げ量を多くすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−159314号公報
【特許文献2】特開2009−236126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載されている装置は、デフリングギアの回転によって潤滑油を掻き上げるように構成されている。したがって、車両の速度が、例えばある程度の低車速域にある場合には、言い換えれば、デフリングギアがある程度低回転数の場合には、キャッチタンクに十分に潤滑油が供給されず、オイル貯留部における油面高さが上昇し、これが原因となって撹拌抵抗や動力損失が増大する虞がある。また、キャッチタンクに十分に潤滑油が供給されないので、例えばキャッチタンクからモータに潤滑油を供給するように構成されている場合には、そのモータの冷却が不十分になる虞がある。
【0006】
また、特許文献2に記載されている装置は、オイル貯留部に貯留されたオイルをロータの回転によって掻き上げ、その掻き上げたオイルをオイルガイドによってオイル受け部に導き、オイル受け部から潤滑必要箇所に供給するように構成されている。この特許文献2に記載された技術は、オイルを掻き上げるロータによるオイルの掻き上げ量を確保するための技術である。また、ロータによるオイルの掻き上げ量を増大させるために、ロータの幅を仕様上必要とされる幅より広くしたとしても、その掻き上げたオイルをステータの軸線方向における端部やオイルガイドに当接させる必要があり、したがって、その幅は掻き上げたオイルがステータの軸線方向における端部やオイルガイドに当接できる幅に留まる可能性がある。
【0007】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであり、流体を掻き上げてキャッチタンクに供給する第1の回転部材が相対的に低回転数でキャッチタンクに十分な量の流体を供給できない場合に、相対的に高回転数にされる第2の回転部材によってキャッチタンクに流体を供給することのできる潤滑装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、所定のケーシングの内部に配置された第1の回転部材によって、前記ケーシングの内部に貯留している流体を掻き上げることにより、その流体を所定の箇所に供給するように構成された潤滑装置において、前記第1の回転部材の回転数が低回転数の場合に高回転数となりかつ前記流体が供給される第2の回転部材が前記ケーシングの内部に配置されるとともに、前記第1の回転部材から飛散させられた前記流体を流入させかつ前記第2の回転部材の回転数が高回転数の場合にその第2の回転部材から飛散した流体を流入させるキャッチタンクが設けられていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記第2の回転部材は、ステータとそのステータの内周側に回転自在に保持されたロータとを備えたモータを含み、前記ロータの回転数が高回転数の場合に、前記ロータの軸線方向における少なくともいずれか一方の端部に前記流体を飛散させて前記キャッチタンクに流入させる流体供給手段が設けられていることを特徴とする潤滑装置である。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記モータの軸線方向におけるいずれか一方の端部側から前記モータに前記流体が供給され、いずれか他方の端部側から飛散した前記流体を前記キャッチタンクに流入させることにより、前記モータに対する前記流体の供給経路と前記キャッチタンクに向けて前記モータから飛散する前記流体の経路とを異ならせるようになっていることを特徴とする潤滑装置である。
【0011】
請求項4の発明は、請求項2または3の発明において、前記流体供給手段は、前記ロータに供給された前記流体を、前記ロータの回転にともなって生じる遠心力によってその内周側から外周側に向けて前記流体を流動させる溝が形成されているエンドプレートを含み、前記ロータの軸線方向での両端部に前記エンドプレートがそれぞれ設けられ、それらのエンドプレートを含む前記ロータの軸線方向における長さが前記ステータの軸線方向における長さよりも長くなっていることを特徴とする潤滑装置である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、第1の回転部材が相対的に低回転数の場合に高回転数になる第2の回転部材から飛散した流体がキャッチタンクに流入させられる。すなわち、第1の回転部材が相対的に低回転数で、いわゆる掻き上げ量が少なく液面高さが上昇する場合に、第2の回転部材からキャッチタンクに流体が供給される。その結果、第1の回転部材が相対的に低回転数の場合における流体の液面高さの上昇を抑制でき、言い換えれば、第1の回転部材を浸漬する流体の液面高さを減少させて第1の回転部材の撹拌損失や動力損失が増大することを抑制もしくは低減することができる。また、第2の回転部材からキャッチタンクに流体を供給できるので、第1の回転部材が相対的に低回転数の場合であっても、流体を必要箇所に供給して潤滑や冷却をおこなうことができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、第1の回転部材が相対的に低回転数でロータの回転数が相対的に高回転数になる場合に、ロータの軸線方向に設けられた流体供給手段によって、流体がキャッチタンクに供給される。すなわち、流体供給手段によってキャッチタンクに流体を供給するので、ロータから飛散した流体がステータの端部に衝突することを回避もしくは抑制することができる。したがって、ロータによる流体のいわゆる掻き上げ効率や掻き上げ性能を向上させることができる。そして、キャッチタンクに導入される液量を確保することができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明による効果と同様の効果に加えて、モータの軸線方向における一方の端部側から、モータに流体が供給され、他方の端部側から飛散した流体がキャッチタンクに供給される。すなわち、モータへの流体の供給経路と、モータからキャッチタンクへ向けて飛散する流体の経路とが異なるようになっている。したがって、モータに供給される流体の流動とモータからの流体の流動もしくは飛散とが対向することを回避もしくは抑制することができる。その結果、キャッチタンクに貯留される流体の量が増大させることができる。言い換えれば、ロータの回転による流体のいわゆる掻き上げ性能を向上させることができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、請求項2または3の発明による効果と同様の効果に加えて、ロータの軸線方向での両端部にエンドプレートがそれぞれ設けられて、その軸線方向における長さがステータのコールエンドを含む軸線方向における長さよりも長くなる。したがって、ロータの回転によってその半径方向外側に流出もしくは飛散した流体がステータの端部に衝突することを回避もしくは抑制することができる。すなわち、ロータからの流体の流出もしくは飛散が、ステータの端部によって阻害されない。したがって、いわゆる掻き上げ効率や掻き上げ性能を向上させることができる。そして、キャッチタンクに導入される液量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明に係る潤滑装置を前述した第1モータ・ジェネレータに適用した例を模式的に示す図である。
【図2】前述した図1に示す構成を改良した他の例を模式的に示す図である。
【図3】前述した図1および図2に示す構成を改良した更に他の例を模式的に示す図である。
【図4】いわゆるツーモータ式のハイブリッド装置を搭載した車両のハイブリッドトランスアクスルを模式的に示す図である。
【図5】シングルピニオン型の遊星歯車機構についての共線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明をより具体的に説明する。この発明は、潤滑油やロングライフクーラント(LLCと呼ばれることがある)などの流体によって潤滑必要箇所を潤滑あるいは冷却する装置に関するものである。したがって、この発明に係る潤滑装置は、基本的な構成として、潤滑油やLLCなどの流体を掻き上げる第1の回転部材と、第1の回転部材の回転数が低回転数の場合に高回転数となる第2の回転部材と、第1の回転部材が掻き上げた流体および第2の回転部材が高回転数の場合にその第2の回転部材から飛散した流体が流入するキャッチタンクとを備えている。
【0018】
また、この発明では、前述した第2の回転部材は、ステータとロータとを備えたモータを含み、そのロータの回転数が相対的に高回転数の場合に、ロータの軸線方向における少なくともいずれか一方の端部に、流体をキャッチタンクに流入させる流体供給手段が設けられている。その流体供給手段は、要は、ロータから飛散した流体がステータの端部に衝突したりすることを回避して、流体をキャッチタンクに流入させる、すなわち供給するためのものである。したがって、流体供給手段は、ロータの端部に設けられて、ロータに供給された流体をその内周側から外周側に向けて流動させるエンドプレートであってもよい。
【0019】
さらに、この発明では、ロータに供給する流体の流動方向と、ロータからの流体の飛散の方向とが異なるようになっている。すなわち、モータへの流体の供給経路と、モータからキャッチタンクへ向けて飛散する流体の経路とが対向しないようになっている。
【0020】
したがって、このような構成の潤滑装置においては、第1の回転部材が相対的に低回転数であり、第1の回転部材によって掻き上げられてキャッチタンクに供給される流体の量が相対的に少ない場合に、相対的に高回転数になる第2の回転部材から、すなわちモータから飛散した流体がキャッチタンクに供給される。言い換えれば、第1の回転部材からキャッチタンクに供給される流体の量が相対的に少なく、ケーシングにおける流体の液面高さが上昇する場合に、相対的に高回転数のモータの回転によって流体がキャッチタンクに供給される。そのため、ケーシングにおける流体の液面高さが上昇することを抑制することができる。これにより、第1の回転部材が相対的に低回転数の場合に、第1の回転部材の撹拌損失や動力損失が増大することを抑制もしくは低減することができる。また、第1の回転部材が低回転数の場合であっても、キャッチタンクに供給する液量を確保し、潤滑必要箇所に流体を供給して、潤滑あるいは冷却することができる。
【0021】
また、ロータの端部に設けられた流体供給手段によって、具体的には、例えばロータの端部に設けられたエンドプレートによって流体が飛散させられてキャッチタンクに供給されるので、その飛散した流体がステータの端部に衝突して、流体のキャッチタンクへの供給が阻害されることを回避もしくは抑制することができる。したがって、いわゆる掻き上げ効率や掻き上げ性能を向上させることができる。さらにまた、モータから飛散した流体の経路と、モータに供給される流体の経路とが対向しないように構成されているので、これによっても、いわゆる掻き上げ効率や掻き上げ性能を向上させることができる。
【0022】
つぎに、この発明を更に具体的に説明する。この発明で対象とする車両は、エンジンと電動機とを搭載したハイブリッド車両であり、そのエンジンは要は燃料を燃焼して機械的な動力を出力する熱機関であり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいはガスを燃料としたガスエンジンなどがその例である。また、電動機は、電力が供給されて走行のためのトルクを出力するものであり、この発明では特にエンジンを始動する際に反力を受けるように配置されている。すなわち、エンジンが出力したトルクを駆動輪に対して出力する出力部材にその電動機が連結されている。
【0023】
図4に、その一例を模式的に示してあり、ここに示す例は、いわゆるツーモータ式のハイブリッド装置を搭載した車両のハイブリッドトランスアクスルの例である。図4において、ハイブリッドトランスアクスル1は所定のケーシング2を有し、その底部に潤滑油を貯留するオイル溜め部が形成されている。そして、その内部でエンジン3の出力軸4に動力分配機構5が連結されている。動力分配機構5は、三つの回転要素によって差動作用をおこなうように構成されたいわゆる差動機構であり、それらの三つの回転要素は、歯車やローラである。図4に示す例では、遊星歯車機構によって動力分配機構5が構成されている。したがって動力分配機構5は、外歯歯車であるサンギア6と、そのサンギア6に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギア7と、これらサンギア6およびリングギア7の間に配置されてこれらサンギア6とリングギア7とに噛み合っているピニオンギアを自転かつ公転できるように支持しているキャリア8とを回転要素として備えている。
【0024】
エンジン3の出力軸4はクラッチ9を介してキャリア8に連結されており、またサンギア6には第1モータ・ジェネレータ(MG1)10が連結されている。この第1モータ・ジェネレータ10は、一例として永久磁石式の交流同期電動機であって、この第1モータ・ジェネレータ10は、詳細は図示しないが、インバータを介して蓄電装置に接続されている。そして、第1モータ・ジェネレータ10は、蓄電装置から電力が供給されることによりモータとして機能し、また強制的に回転させられることにより発電を行って蓄電装置に充電するように構成されている。なお、この第1モータ・ジェネレータ10のロータ軸11は中空軸11であって、詳細は図示しないが、その内部をキャリヤ軸12が回転自在に貫通している。このキャリヤ軸12の一方の端部は前述したキャリア8に連結され、また他方の端部は、機械式オイルポンプ(O/P)13に連結されている。機械式オイルポンプ13は、前述したオイル溜め部に貯留された潤滑油を吸い上げて油圧を発生させ、またその圧油を各部に送油するように構成されており、その機械式オイルポンプ13から中空軸11の内部に潤滑油が供給されるようになっている。
【0025】
さらに、出力部材であるリングギア7は、出力軸14に連結されて一体化されている。その出力軸14にカウンタギア15が取り付けられており、そのカウンタギア15にカウンタドリブンギア16が噛み合っている。このカウンタドリブンギア16は、前記キャリヤ軸12と平行でかつ回転自在に配置されたカウンタ軸17に取り付けられている。そのカウンタ軸17には出力ギア18が更に取り付けられており、その出力ギア18は、デフリングギア19に噛み合っている。このデフリングギア19は、終減速機であるデファレンシャルギア20のデフケース21に一体化されたギアであり、したがってこのデファレンシャルギア20から左右の駆動輪22,23に駆動トルクを伝達するように構成されている。また、ディファレンシャルギア21は、前述した第1モータ・ジェネレータ10の鉛直方向で下方に設けられており、言い換えれば、ハイブリッドトランスアクスル1の下方に設けられており、デフリングギア19がオイル溜め部に貯留された潤滑油を掻き上げて前述した第1モータ・ジェネレータ10に供給するようになっている。したがって、デフリングギア19がこの発明における第1の回転部材に相当する。
【0026】
さらに、出力軸14にモータリダクション機構24が連結されている。図4に示す例では、遊星歯車機構によってモータリダクション機構24が構成されており、したがってモータリダクション機構24は、外歯歯車であるサンギア25と、そのサンギア25に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギア26と、これらサンギア25およびリングギア26の間に配置されてこれらサンギア25とリングギア26とに噛み合っているピニオンギアを自転かつ公転できるように支持しているキャリヤ27とを備えている。
【0027】
前述した出力軸14は、リングギア26に連結されており、サンギア25には、第2モータ・ジェネレータ28が連結されている。また、キャリア27はケーシング2などに固定されている。この第2モータ・ジェネレータ(MG2)28は、前述した第1モータ・ジェネレータ10と同様に、一例として永久磁石式の交流同期電動機によって構成され、インバータを介して前述した蓄電装置に接続されている。そして、第2モータ・ジェネレータ28の出力トルクをリングギア26およびカウンタギア15ならびにカウンタドリブンギア16そして出力ギア18を介してデファレンシャルギア20に伝達し、ここから左右の駆動輪22,23に駆動トルクを伝達するようになっている。なお、出力ギア18に対してデフリングギア19が大径であるから、第2モータ・ジェネレータ28からデファレンシャルギア20に到る歯車機構は減速機構を構成している。
【0028】
図5に示す共線図は、シングルピニオン型の遊星歯車機構についての共線図であり、サンギア6およびリングギア7ならびにキャリア8を示す三本の直線が互いに平行に描かれ、サンギア6を示す線とリングギア7を示す線との間にキャリア8を示す線が配置され、そのサンギア6を示す線とキャリア8を示す線との間隔を「1」とし、キャリア8を示す線とリングギア7を示す線との間隔が遊星歯車機構のギア比に一致する間隔とされている。そして、それらの線と直交する基線より上側の長さが正回転方向の回転数を示し、下側の長さが負回転方向の回転数を示している。したがって、基線は回転数が「0」であることを示す線となっている。
【0029】
例えば、エンジン3が所定回転数であり、リングギア7、すなわちリングギア7に前述した伝動機構を介して連結されたデフリングギア19の回転数が相対的に低回転数である場合、キャリア7を示す線における基線より上側のエンジン3の所定回転数の点と、リングギア7を示す線における基線より上側のリングギア7の回転数の点とを結ぶ直線が遊星歯車機構の動作状態を示すことになる。その直線を図5に実線で示してある。したがってサンギア6およびこれに連結されている第1モータ・ジェネレータ10の回転数は、上記の直線とサンギア6を示す線との交点で表される回転数となる。
【0030】
また、エンジン3が所定回転数の場合に、第1モータ・ジェネレータ10の回転数を低下させると、サンギア6を示す線における基線より上側の第1モータ・ジェネレータ10の回転数の点と、キャリア7を示す線における基線より上側のキャリア7およびこれに連結されたエンジン3の回転数の点とを結ぶ直線が遊星歯車機構の動作状態を示すことになる。その直線を図5に破断線で示してある。したがってリングギア7、すなわちデフリングギア19の回転数は、上記の直線とリングギア7を示す線との交点で表される回転数となる。したがって、第1モータ・ジェネレータ10の回転数を相対的に高回転数にすると、リングギア7およびリングギア7に前述した伝動機構を介して連結されたデフリングギア19の回転数を相対的に低回転数にすることができる。これとは反対に、第1モータ・ジェネレータ10の回転数を相対的に低回転数にすると、リングギア7およびデフリングギア19の回転数を相対的に高回転数にすることができる。したがって、この第1モータ・ジェネレータ10が、この発明における第2の回転部材に相当する。
【0031】
図1に、この発明に係る潤滑装置を前述した第1モータ・ジェネレータに適用した例を模式的に示してある。第1モータ・ジェネレータ10は、従来知られている永久磁石式同期電動機と同様に、ロータ29とその外周側にいわゆるエアギャップを空けて同心円状に配置されたステータ30とを備えている。図1に示す例では、第1モータ・ジェネレータ10のロータ軸11は、その両端部に配置された軸受(図示せず)によって所定のケーシング2に回転自在に保持されている。ロータ軸11の軸線方向でのほぼ中央部に、積層鋼板が回り止めした状態で嵌合させられてロータ29が形成されている。これらの積層鋼板は、薄い環状板であり、ロータ軸11に密着するように軸線方向に荷重を掛けて締め付けた状態で取り付けられている。
【0032】
このロータ軸11は、前述したように中空軸11であって、そのロータ軸11におけるロータ29の両端部に近い箇所に油孔(図示せず)が形成されており、これらの部分が油路になっている。そして、図1に矢印Aで示したように、前述した機械式オイルポンプ13からロータ軸11に潤滑油が供給されるようになっている。なお、潤滑油に換えてLLCなどの冷却用流体を用いてもよい。この油路における潤滑油にロータ29の回転によって遠心油圧が生じると、その遠心油圧によって油孔からロータ29およびステータ30に潤滑油が供給されるように構成されている。すなわち、潤滑油は、ロータ29の軸線方向での端部において、図1に矢印Bで示したように、その内周側から外周側に向けて流動するようになっている。
【0033】
ロータ29の外周部に近い箇所には、永久磁石(図示せず)が嵌め込まれている。このロータ29の外周側に前述したステータ30が配置されている。ステータ30は、従来の永久磁石式同期電動機におけるステータ30と同様に環状をなすものであって、前述したケーシング2に固定されており、詳細は図示しないが、複数の電磁コイルを備え、その電磁コイルに流す電流を変化させて磁界を変化させることにより、ロータ29にトルクを生じさせるように構成されている。図1に示す例では、その電磁コイルの端部は、すなわちコイルエンド31は、ロータ29の軸線方向での端部よりも突出している。また、ロータ29の外周面とステータ30の間には、従来知られている一般的なモータと同様に、僅かな隙間であるいわゆるエアギャップが形成されている。
【0034】
また、ロータ29よりも鉛直方向で上方、かつロータ29の回転数が相対的に高回転数の場合に、ロータ29から流出もしくは飛散させられた潤滑油をその内部に流入させることができる位置に、キャッチタンク32が設けられている。このキャッチタンク32は、ロータ29がいわゆる掻き上げた潤滑油をその内部に流入させて、すなわち導入して一時的に貯留し、第1モータ・ジェネレータ10や潤滑必要箇所に供給するためのものである。具体的に説明すると、キャッチタンク32は、ロータ29よりも鉛直方向で上方、かつロータ29の一方の端部側に、ロータ29から所定の距離を隔ててその少なくとも一部がケーシング2に固定されて設けられている。その所定の距離は、油孔からロータ29に供給された潤滑油が、ロータ29の回転にともなう遠心力によってその半径方向で外側に流出もしくは飛散させられ、その流出もしくは飛散させられた潤滑油をキャッチタンク32の内部に導入することができる距離である。これは、使用する潤滑油や、ロータ29の回転数に応じて予め実験などにより求めておくことができる。
【0035】
また、図1に示すように、キャッチタンク32は、ロータ29に対向する面に、前述した流出もしくは飛散させられた潤滑油をその内部に流入させる流入孔33が、すなわち開口部33が形成されている。そして、詳細は図示しないが、キャッチタンク32には、その内部に導入した潤滑油を第1モータ・ジェネレータ10や潤滑必要箇所に供給するための供給孔が設けられている。この供給孔は、キャッチタンク32の内部に導入した潤滑油を水頭圧によって第1モータ・ジェネレータ10や潤滑必要箇所に向けて供給あるいは吐出するものであり、したがってキャッチタンク32は、その内部に導入された潤滑油を供給孔から第1モータ・ジェネレータ10や潤滑必要箇所に供給して、第1モータ・ジェネレータ10や潤滑必要箇所を潤滑あるいは冷却するように構成されている。具体的には、キャッチタンク32の供給孔から第1モータ・ジェネレータ10に向けて供給される潤滑油は、図1に矢印Aで示したように、第1モータ・ジェネレータ10の鉛直方向で上方から、すなわちステータ30の鉛直方向で上方から供給されるようになっている。
【0036】
つぎに前述したように構成されたこの発明に係る潤滑装置の作用について説明する。デフリングギア19が相対的に低回転数の場合に、第1モータ・ジェネレータ10は、前述した図5に示したように、相対的に高回転数にされる。第1モータ・ジェネレータ10は、その中空のロータ軸11が油路とされており、この油路に、図1に矢印Aで示したように、機械式オイルポンプ13から潤滑油が供給される。そして、その油路における潤滑油は、第1モータ・ジェネレータ10の回転によって生じる遠心油圧により油孔を通ってロータ29およびステータ30に供給される。遠心油圧は第1モータ・ジェネレータ10の回転数に、すなわちロータ29の回転数に応じて増減するから、第1モータ・ジェネレータ10が相対的に高回転数にされると、その遠心油圧が増大して、油孔からロータ29およびステータ30に向けて流動する潤滑油量が増大する。
【0037】
また、ロータ29に供給された潤滑油は、図1に矢印Bで示したように、ロータ29を潤滑あるいは冷却するとともに、そのロータ29の回転によってロータ29の半径方向で外側に流出もしくは飛散させられる。その流出もしくは飛散させられた潤滑油は、前述したキャッチタンク32に捕捉され、すなわちキャッチタンク32の流入孔33からその内部に流入されて、その供給孔から第1モータ・ジェネレータ10や潤滑必要箇所に供給される。言い換えれば、デフリングが相対的に低回転数であり、したがってその回転によりキャッチタンク32に潤滑油を掻き上げられない、もしくはキャッチタンク32に掻き上げる油量が相対的に少ないことにより、オイル溜め部の油面高さが上昇する場合に、第1モータ・ジェネレータ10からキャッチタンク32に潤滑油が供給される。
【0038】
その結果、デフリングギア19が相対的に低回転数の場合であっても、デフリングギア19を浸漬する潤滑油の油面高さの上昇を抑制でき、デフリングギア19が相対的に低回転数の場合におけるデフリングギア19の撹拌損失や動力損失が増大することを抑制もしくは低減することができる。また、デフリングギア19が相対的に低回数の場合に、第1モータ・ジェネレータ10からすなわちロータ29からキャッチタンク32に潤滑油を供給できるので、デフリングギア19が相対的に低回転数の場合であっても、潤滑油を第1モータ・ジェネレータ10や潤滑必要箇所に供給して潤滑や冷却をおこなうことができる。
【0039】
図2に、前述した図1に示す構成を改良した他の例を模式的に示してある。ここに示す例は、ロータ29の軸線方向での少なくとも一方の端部側に、図2に示す例では両端部側に、例えばエンドプレート34,35を設けた例である。このエンドプレート34,35は、詳細は図示しないが、ロータ軸11に嵌合させられるように全体として環状に形成されている。このエンドプレート34,35には、前述した油孔から流出させられた潤滑油をロータ29の軸線方向での端部において、その内周側から外周側に向けて流動させる油路が設けられており、その油路における潤滑油の遠心油圧により、ロータ29を構成している積層鋼板に軸線方向の締め付け力を付与するものである。したがって、エンドプレート34,35には、不可避的に幅があり、その幅をロータ29に付与することによってロータ29の軸線方向における幅d1をステータ30におけるコイルエンド31を含む幅d2よりも広くするようになっている。
【0040】
エンドプレート34,35は、ロータ29の軸線方向における幅d1を、ステータ30のコイルエンド31を含む幅d2よりも広くして、ロータ29と一体回転するエンドプレート34,35の回転によりその半径方向で外側に流出もしくは飛散させられた潤滑油が、コイルエンド31に衝突することを回避してキャッチタンク32に導入されるように構成されていればよい。したがって、エンドプレート34,35が、この発明における流体供給手段に相当する。また、流体供給手段は、要は、第1モータ・ジェネレータからの潤滑油の飛散が、コイルエンド31などに阻害されずにキャッチタンクに流入されればよいので、前述したエンドプレート34,35に換えて、例えば絶縁材料によって形成された任意の幅を有する部材をロータ29の軸線方向での少なくとも一方の端部に設けてもよい。また、ロータ29の軸線方向における端面に、突部を設けることにより、その突部から飛散した潤滑油がキャッチタンクに流入されるように構成してもよい。
【0041】
したがって、前述した構成では、機械式オイルポンプ13から油路に供給された潤滑油は、ロータ29の回転によって生じる遠心油圧によって油孔から流出し、図2に矢印Bで示したように、エンドプレート34,35におけるロータ29に対向する面とは反対側の面、あるいはエンドプレート34,35における前述した油路を流動させられ、また、エンドプレート34,35の回転にともなう遠心力によって、その半径方向で外側に流出もしくは飛散させられる。また、エンドプレート34,35から流出もしくは飛散させられた潤滑油は、エンドプレート34,35の幅により、ステータ30の端部、すなわちコイルエンド31に衝突することが防止もしくは抑制される。言い換えれば、ロータ29の軸線方向での端部にエンドプレート34,35を設けることにより、エンドプレート34,35を含むロータ29の幅d1がステータ30の幅d2よりも広くなるので、エンドプレート34,35からの潤滑油の流出もしくは飛散が、ステータ30あるいはステータ30のコイルエンド31によって阻害されることを防止もしくは抑制することができる。その結果、エンドプレート34,35から流出もしくは飛散させられた潤滑油がコイルエンド31に衝突しないので、キャッチタンク32に供給される潤滑油量を増大させることができる。すなわち、エンドプレート34,35がない場合に比較して、ロータ29あるいはエンドプレート34,35による潤滑油のいわゆる掻き上げ効率を向上させることができる。
【0042】
図3に、前述した図1および図2に示す構成を改良した更に他の例を模式的に示してある。ここに示す例は、キャッチタンク32からステータ30の鉛直方向で上方に潤滑油が供給された場合に、その潤滑油が流動する方向を、ロータ29およびステータ30の軸線方向でのキャッチタンク32が設けられた端部側に比較して、これとは反対の端部側に多く流動するように構成した例である。具体的には、例えばステータ30の外周面36に、その軸線方向に対して傾斜した傾斜面あるいは油路が形成されており、キャッチタンク32から供給された潤滑油が、そのキャッチタンク32側の端部から反対側の端部に向けて流動するようになっている。
【0043】
したがって、前述した構成では、キャッチタンク32からステータ30の外周面36に供給された潤滑油は、図3に矢印Aで示したように、ステータ30のキャッチタンク32側の端部から反対側の端部に向けて流動させられる。すなわち、ロータ29およびステータ30の軸線方向におけるキャッチタンク32側の端部では、キャッチタンク32からロータ軸11に対する潤滑油の供給量が減少させられる。そして、反対側の端部では、キャッチタンク32からロータ軸11に対する潤滑油の供給量が増大させられる。その結果、ロータ29あるいはエンドプレート34,35からの潤滑油の流出もしくは飛散の方向と、キャッチタンク32からの潤滑油の流動方向とが対向することを回避もしくは抑制することができる。具体的には、ロータ29およびステータ30の軸線方向におけるキャッチタンク32側の端部では、機械式オイルポンプ13からロータ軸11に供給され、ロータ29の回転によってその半径方向で外側に流出もしくは飛散させられた潤滑油を、キャッチタンク32に供給することができる。また、これとは反対側の端部では、キャッチタンク32から供給された潤滑油をロータ軸11側に供給することができる。すなわち、潤滑油の供給方向といわゆる掻き上げられた潤滑油の飛散の方向とを定めることにより、ロータ29あるいはエンドプレート34,35によるいわゆる潤滑油の掻き上げ効率や掻き上げ性能を向上させることができる。
【0044】
したがって、この発明に係る潤滑装置によれば、デフリングギア19が相対的に低回転数の場合に、第1モータ・ジェネレータ10が相対的に高回転数にされるので、そのロータ29の回転により潤滑油をキャッチタンク32に供給することにより、デフリングギア19が潤滑油に浸漬されてその撹拌損失や動力損失が増大することを抑制もしくは低減することができる。また、ロータ29にエンドプレート34,35が設けられているので、ロータ29あるいはエンドプレート34,35の回転により流出もしくは飛散させられた潤滑油が、コイルエンド31に衝突することを回避することができる。さらにまた、ステータ30の外周面36に、キャッチタンク32側の端部からその反対側の端部に向けて潤滑油が流動するように傾斜面が形成されているので、いわるゆ掻き上げた潤滑油の流動方向とキャッチタンク32から供給される潤滑油の流動方向とが対向することを回避でき、これによりいわゆる掻き上げ効率や掻き上げ性能を向上させることができる。
【符号の説明】
【0045】
1…ハイブリッドトランスアクスル、 10…第1モータ・ジェネレータ、 19…デフリングギア、 29…ロータ、 30…ステータ、 31…コイルエンド、 32…キャッチタンク、 34,35…エンドプレート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のケーシングの内部に配置された第1の回転部材によって、前記ケーシングの内部に貯留している流体を掻き上げることにより、その流体を所定の箇所に供給するように構成された潤滑装置において、
前記第1の回転部材の回転数が低回転数の場合に高回転数となりかつ前記流体が供給される第2の回転部材が前記ケーシングの内部に配置されるとともに、前記第1の回転部材から飛散させられた前記流体を流入させかつ前記第2の回転部材の回転数が高回転数の場合にその第2の回転部材から飛散した流体を流入させるキャッチタンクが設けられていることを特徴とする潤滑装置。
【請求項2】
前記第2の回転部材は、ステータとそのステータの内周側に回転自在に保持されたロータとを備えたモータを含み、
前記ロータの回転数が高回転数の場合に、前記ロータの軸線方向における少なくともいずれか一方の端部に前記流体を飛散させて前記キャッチタンクに流入させる流体供給手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の潤滑装置。
【請求項3】
前記モータの軸線方向におけるいずれか一方の端部側から前記モータに前記流体が供給され、いずれか他方の端部側から飛散した前記流体を前記キャッチタンクに流入させることにより、前記モータに対する前記流体の供給経路と前記キャッチタンクに向けて前記モータから飛散する前記流体の経路とを異ならせるようになっていることを特徴とする請求項2に記載の潤滑装置。
【請求項4】
前記流体供給手段は、前記ロータに供給された前記流体を、前記ロータの回転にともなって生じる遠心力によってその内周側から外周側に向けて前記流体を流動させる溝が形成されているエンドプレートを含み、
前記ロータの軸線方向での両端部に前記エンドプレートがそれぞれ設けられ、それらのエンドプレートを含む前記ロータの軸線方向における長さが前記ステータの軸線方向における長さよりも長くなっていることを特徴とする請求項2または3に記載の潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−179667(P2011−179667A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46933(P2010−46933)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】