説明

火炎検知方法および火炎検知装置

比較的検出波長領域の狭い紫外線検出器を有効に用いて、簡易に、しかも効果的に火炎を検出することのできる火炎検知方法を提供する。 火炎の自発光成分における紫外領域の自発光スペクトルのうち、同じラジカル種の波長の異なる複数の自発光強度をそれぞれ計測し、計測されたそれぞれの波長の自発光強度の相互の比である発光強度比を求め、これらの発光強度比と火炎温度との関係、または発光強度比と燃焼に用いられる混合気の空気比との関係に基づいて火炎検知を行う。特に希薄燃焼による火炎の自発光成分のうち、燃焼による励起状態から基底状態への電子遷移AΣ→XΠのOH帯スペクトルを計測し、波長260nm付近のOH(2,0)、波長280nm付近のOH(1,0)、波長287nm付近のOH(2,1)、および波長306nm付近のOH(0,0)の発光強度比を求めて火炎の状態検知を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼による火炎、特に希薄燃焼による火炎の状態を検出するに好適な火炎検知方法および火炎検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高温空気燃焼のような低NOx燃焼は、燃料の予熱、予混合および不活性ガス等による希釈を行って実現することが多い。このように火炎が希釈されると、その火炎の検知が困難となる。自着火温度程度に予熱された空気中で高度に希釈した場合、一般的には燃料が燃焼しているか否かの判断は、気体中で化学反応が生じている度合いを検出して行われる。このような火炎の状態検知に、例えば燃焼炉内における燃焼火炎の発光スペクトル強度を分析し、その分析結果から燃焼状態を診断することが知られている。このようなシステムは、例えば特許出願公開番号が特開平11−325460号である日本国公開特許公報(特許文献1)に記載されている。
【0003】
また本発明者らは、先に検出波長領域が互いに異なる複数種類の紫外線検出器を用いて火炎中のNO,OH,CH等の各成分をそれぞれ正確に検出することを提唱した。このような検出方法は、例えば特許出願公開番号が特開2003−322562号である日本国特許出願(特許文献2)に記載されている。
【0004】
しかしながら上記特許文献2に示すような紫外線検出装置においては、例えば図7(上記特許文献2の図4)に示すように火炎の自発光スペクトルを良好に検出し得るものの、例えばそのカソード(陰極)を異なる材料で製作した検出波長領域の異なる複数種類の紫外線検出器を用いることが必要であることのみならず、その構成が大掛かりとなるという問題がある。
【発明の開示】
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、紫外領域における火炎の自発光特性に着目し、簡易に火炎の状態を検知することのできる火炎検知方法を提供することにある。
【0006】
更には比較的検出波長領域の狭い紫外線検出器を有効に用いて、火炎の状態を検出することのできる火炎検知方法を提供することにある。
【0007】
また本発明の別の目的は、燃焼による火炎の状態、特に希薄燃焼による火炎の状態を検出するに好適な簡易な構成の火炎検知装置を提供することにある。
【0008】
上述した目的を達成するべく本発明に係る火炎検知方法は、火炎の自発光成分における、例えばOHラジカルからの紫外領域の自発光スペクトルのうち、2つのピーク強度の比と局所当量比等の燃焼特性との関連性に着目したもので、燃焼による火炎、特に希薄燃焼による火炎の自発光成分から同じラジカル種の波長の異なる複数の自発光強度をそれぞれ計測し、計測されたそれぞれの波長の自発光強度の相互の比である発光強度比を求め、これらの発光強度比と火炎温度との関係、および発光強度比と希薄燃焼に用いられる混合気の空気比との関係の少なくとも一方に基づいて火炎の状態検知を行うことを特徴としている。
【0009】
好ましくは、希薄燃焼による火炎の自発光成分のうち、希薄燃焼による励起状態から基底状態への電子遷移に伴う特定ラジカル種からの自発光スペクトルを計測することにより自発光強度の計測を行うことを特徴としている。また、好ましくは電子遷移AΣ→XΠのOH帯スペクトルを計測し、特に波長260nm付近のOH(2,0)、波長280nm付近のOH(1,0)、波長287nm付近のOH(2,1)、および波長306nm付近のOH(0,0)の自発光強度比を求めて火炎の状態検知を行うことを特徴としている。また、好ましくは、波長が略310nm以下のOH帯スペクトルに着目して、火炎の状態を検知することを特徴としている。
【0010】
即ち、2原子分子のポテンシャルにおいて、2原子分子の電子基底状態ν”と電子励起状態ν’は、それぞれν”=0,1,2,3,…,ν’=0,1,2,3,…と多くの振動準位をとる。そして電子励起状態ν’=0,1,2,3,…にある2原子分子が電子基底状態ν”=0,1,2,3,…に戻る際、光を放出する。上述したOH(ν’,ν”)はそのときの準位を示しており、OH帯においては(0,0)でのスペクトルが最も強い光強度を持つ。
【0011】
換言すれば電子が高いエネルギ軌道から低いエネルギ軌道に移動するとき、そのエネルギの差分を光として放出する際、そのスペクトル成分がエネルギ軌道に固有な波長と光強度を有する。本発明に係る火炎検知方法は、このような火炎の自発光スペクトル中のピークをなす波長成分とその発光強度との関係に着目し、少なくとも2つのピークの発光強度比と火炎温度または空気比との関係から、特に希薄燃焼における火炎の状態を検出するものである。
【0012】
また本発明に係る火炎検知装置は、燃焼による火炎の自発光成分の中から同じラジカル種の波長の異なる複数の自発光強度をそれぞれ検出する紫外線検出器と、この紫外線検出器の検出信号からそれぞれの波長の自発光強度を求め、これら自発光強度の相互の比と火炎温度との関係、および該比と上記燃焼に用いられる混合気の空気比との関係の少なくとも一方に基づいて前記火炎の状態を検知する処理装置とを備えることを特徴としている。
【0013】
かくして本発明によれば、希薄燃焼火炎における自発光成分の、同じラジカル種の複数の自発光強度、具体的にはOHラジカルからの紫外領域における自発光スペクトルに着目しているので、例えば250〜450nmの波長域を検出する紫外線検出器、好ましくは250〜350nmの波長域を検出する紫外線検出器を用いるだけで、簡易に燃焼の火炎状態を、特に希薄燃焼の火炎を検知することができる。しかも火炎における上記波長域の自発光の強度は、一般的に燃焼炉の壁面からの放射強度よりも高いので、上述したように波長が略310nm以下のOH帯スペクトルの成分を検出することで、火炎検出時の背景となる上記燃焼炉壁面の影響を殆ど受けることなく火炎の有無、ひいては火炎の状態を確実に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る火炎検知方法に用いられる希薄燃焼装置と火炎検知装置の概略構成を示す図。
【図2】火炎検出に用いる紫外線検出器の概略構成を示す図。
【図3】紫外線検出器の駆動回路の構成例を示す図。
【図4】本発明に係る火炎検知装置で検知された火炎のOHラジカルの自発光スペクトルの例を示す図。
【図5】発光強度比Rと空気比および火炎温度との関係を示す図。
【図6】炉壁の放射エネルギと温度との関係を示す図。
【図7】火炎の自発光スペクトルを示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る火炎検知方法および火炎検知装置について説明する。
【0016】
図1は本発明方法が実施される希薄燃焼装置と、この希薄燃焼装置に組み込んだ火炎検知装置の概略構成を簡略化して示す図で、1は燃焼炉である。この燃焼炉1は、例えばその周囲を耐熱煉瓦やセラミックファイバ等で囲い、燃焼炉内体積を2.58×10−3とし、その上部に100×100mmの排気口を設けた矩形型のもので、その燃焼室熱負荷は1.16×10kW/mに設定されている。また燃焼炉1内に設けたバーナ2は、内径40mm、高さが60mmのウォールリセス型のものからなる。このバーナ2には、その直前に設けられた混合器3にて燃料(例えばプロパンガス)と空気とが、例えば0.8〜1.4の空気比にて混合されて供給されるようになっている。混合器3には、燃料タンクFから調量器V1、圧力計P1および流量計M1を経て燃料が供給されると共に、ブロワBから調量器V2および流量計M2を経て空気が供給される。
【0017】
一方、前記燃焼炉1の側壁面には、65mmおよび130mmの高さ位置にそれぞれ石英ガラスが嵌め込まれた炉内観測窓4a,4bが設けられている。この炉内観測窓4a,4bから視認することのできる前記燃焼炉1内の燃焼により自発光する火炎の光は、光ファイバ6を介してモノクロメータ5(分光器)に導かれる。このモノクロメータ5は、種々の波長成分をもつ入射光の中から希望の波長成分を取り出すための回折格子を備え、この回折格子と入射光とのなす角度に応じて選択された所定波長域の光成分をCCD等の受光素子により検出するように構成される。このようなモノクロメータ5により、バーナ2により希薄燃焼された燃料の火炎による自発光が受光検知され、その受光強度に相当する電圧(または電流)が変換される。このようにして検出される電気信号(紫外線強度)がA/D変換器7を介してコンピュータ(PC)8に取り込まれて後述するようにピーク波長間の発光強度比が求められ、更に火炎温度や空気比との関係が調べられて火炎の有無やその状態が検出される。
【0018】
尚、ここではモノクロメータ5におけるフィルタ(回折格子)として250〜450nmの波長域を検出し得るものを用いているが、火炎状態の検知には上記OH帯スペクトルの確認が可能な250〜350nmの波長域のデータを採用している。またコンピュータ8に入力される信号には、火炎の揺らぎやモノクロメータ5の暗電流に起因する雑音が含まれることから、入力信号(モノクロメータ5の出力信号)のアンサンブル平均と移動平均とを用いることで平滑化し、これを検出信号としている。
【0019】
このような希薄燃焼装置を用いて、先ず燃焼炉1内を十分に加熱し、炉内温度が安定した後、空気比が0.8となるように燃料流量および空気流量を設定して、そのときの希薄燃焼火炎の自発光強度を計測した。また空気流量を一定にした状態で燃料流量を徐々に減少させ、空気比が1.4になるか、或いは吹き消え限界となるまで複数回に亘って計測を繰り返したところ、空気流量が80L/min、空気比1.35において、例えば図4に示す如き自発光スペクトルが得られた。
【0020】
この図4に示す自発光スペクトルにおいて確認できたピークは、電子遷移AΣ→XΠにおけるOH帯スペクトルであり、特に波長260nm付近のOH(2,0)、波長280nm付近のOH(1,0)、波長287nm付近のOH(2,1)、および波長306nm付近のOH(0,0)の4ケ所であった。そこで最も強くピークの現れた波長306nm付近のOH(0,0)の発光強度を基準とし、波長260nm付近のOH(2,0)の発光強度、および波長280nm付近のOH(1,0)の発光強度との比(発光強度比)Rを求め、これらの発光強度比Rと空気比または火炎温度との関係を空気流量90L/min以下について調べたところ、図5に示す関係が得られた。図5においてR260(expr)が、波長306nm付近のOH(0,0)の発光強度と波長260nm付近のOH(2,0)の発光強度との比を示し、R280(expr)が、波長306nm付近のOH(0,0)の発光強度と波長280nm付近のOH(1,0)の発光強度との比を示す。尚、この流量においては、リセスバーナ2の内部に火炎が安定に存在していた。
【0021】
一方、燃焼炉1の炉壁は、その材料や表面状態によって放射率が異なるが、アルミナ等の耐火煉瓦等においては略1.0と看做すことができる。また炉壁が高温になるほど、例えば図6に示すように温度の上昇に伴ってどの波長の放射エネルギもほぼ一様に上昇する。ちなみに不輝炎のエネルギは最大で10W/m程度であり、CHに対応する波長(315nm付近,390nm付近,430nm付近)では、炉壁の放射率の影響を受け易くなる。そしてその温度が1600Kを越えるとS/N比が1に近くなるので、火炎からの光(可視波長範囲)は殆ど見えなくなる。従ってCHに対応する波長から希釈火炎を検知することは困難となる。従って炉壁に依存し難い波長での火炎検出が必要となる。
【0022】
このような観点から従来より一般にも火炎検出に用いる化学発光を検出するべく、OH,CH,Cや赤外線が用いられており、炭化水素火炎の検出に最も適した化学種は、専ら、CHであると考えられている。しかしこの種の化学種の自発光波長は431.4nmと比較的長く、目視確認には適しているが、希釈された火炎の検知には不向きである。
【0023】
この点、OHは火炎中のみならず、既燃の高温ガス中にも存在する。これ故、火炎の反応帯のでの検出には注意が必要である。しかしOHの自発光の波長306.4nmは、既燃ガス中の発光に比較して、火炎反応帯中で最も高い強度を持ち、後流の火炎帯からの発光を無視し得る程強い。尚、OHに比較してその強度が弱いが、260nmよりも短い波長においてはNOの発光を利用することも可能である。
【0024】
また前述した図6に示したように、炉壁の温度が高くなってくると、その放射エネルギはプランク(Planck)の式に従って強くなる。従ってOH分子中でのエネルギ分配が熱平衡であれば、前述した発光強度比R、例えば図6に示す波長281.1nmの強度I281と波長306.4nmの強度I306との比I281/I306は温度のみに依存し、その温度が高くなればなるほど強度比が大きくなる関係を有する。
【0025】
そこで前述した図1に示す希薄燃焼装置に着目すると、その計測はOH反応帯で行われている為、OHの励起状態から失活するまでの時間が400〜800nSec程度と非常に短いとしても、その分子中の電子エネルギの分配が十分に熱平衡状態に達しているとは考え難い。
【0026】
そこで火炎中のAΣ→XΠ(0,0)とOH(1,0)等との発光強度比Rをとってみたところ、前述した図5に示すような結果が得られた。尚、図5中、破線で示す曲線は、プランク(Planck)の黒体の単色射出性能をE(T,λ)として、
=E(T,281nm)/E(T,306nm)
=E(T,262nm)/E(T,306nm)
をそれぞれ計算し、これを併記したものである。R260(calc)が波長260nm付近のOH(2,0)に関する発光強度比の計算値、R280(calc)が波長280nm付近のOH(1,0)に関する発光強度比の計算値をそれぞれ示す。但し、ここでは熱電対によるガス温度計測が、壁面の影響等で正しい値を得ることができなかったので、熱化学平衡計算による断熱火炎温度を用いて計算した。
【0027】
このようにして求められた発光強度比Rと空気比および火炎温度との関係を検討して見たところ、雑音等の影響受けているものの、上述した計算に示す熱平衡を仮定した変化に近い傾向を示すことが確認できた。特に信号が大きいR280での発光強度比は、空気比の小さな過濃条件ではその比が殆ど変わらないが、1500〜1900℃程度の高い火炎温度において自発光強度比RI280に着目した場合、その値は0.20〜0.32の範囲に有り、しかも自発光検出の背景となる炉壁の放射強度に比較して十分に強い。従って、例えば波長が略310nmよりも短い自発光に注目することで、好ましくは波長が306nmよりも短い自発光に注目することで、希釈燃焼における火炎の状態検知に十分に利用できることが明らかとなった。
【0028】
本発明の他の実施形態として上述した高価なモノクロメータ5に代えて、例えば特公昭44−1039号の日本国特許公報に開示されているような放電管型の紫外線検出器9を複数組み合わせて用いることもできる。この紫外線検出器9は、図2に示すように紫外線を透過するガラス管中に、網目状の陽極(アノード)9aと陰極(カソード)9bとを所定の間隔を隔てて設けると共にペニング混合ガスを封入したものである。この種の放電管型の紫外線検出器9における検出可能な波長は、主に陰極9bの材質によって決定される。すなわち、陰極9bの材質の持つ仕事関数によって規定される波長よりも短い波長の紫外線を検出する。もし検出波長帯域を限定したい場合には、検出光が所定の光学的バンドパス・フィルタを通過した後に陰極9bに当たるように構成する。またこの紫外線検出器9の駆動回路としては、例えば特公昭47−7878号の日本国特許公報に開示されるようなものが用いられる。
【0029】
即ち、紫外線検出器9の駆動は、例えば図3に示すように構成された駆動回路を介して300V程度の交流電圧が印加されておこなわれる。すると紫外線検出器9は、或る強さ以上の特定波長の紫外線が照射されているときにだけ陽極(アノード)9aと陰極(カソード)9bとの間に放電電流を生起する。そしてこの放電電流により抵抗RLに電圧降下を生じせしめ、該抵抗RLに並列接続されたコンデンサCと協働して電圧または電流を発生する。
【0030】
ちなみにこの種の放電管型の紫外線検出器9は、一般的には紫外線の強さに応じた電流出力を得ることができない。しかし紫外線が強いほど紫外線検出器に放電が発生する確率が大きくなことから、例えば放電時間を計時することにより、紫外線の強さに応じた相対的な出力信号を得ることが可能である。
【0031】
また検出波長を可変可能な前記モノクロメータ5とは異なり上述の紫外線検出器9においては通常は特定の波長しか検出することができないが、OHラジカルからの紫外領域における自発光スペクトルと同じ検出波長を持つ紫外線検出器9を2台用いれば、モノクロメータ5よりも安価に装置を構成することができる。例えば一方の紫外線検出器9として波長306nm付近のOHラジカル発光の強さを検出するものを用い、他方の紫外線検出器9として波長280nm付近のOHラジカル発光の強さを検出するものを用いれば良い。これらの2台の紫外線検出器9からの検出結果から2つの波長の発光強度比を算出すれば、前述したように発光強度比と火炎温度または空気比との関係を求めることが可能となる。
【0032】
更に他の実施形態として、特殊な使い方ではあるが一台の紫外線検出器9の検出波長を変化させることも可能である。例えば306nmと280nmの両波長を検出可能な紫外線検出器9(例えば陰極9bの材料として銀を用いたもの)においては、高電圧を印加すると波長306nmに対する感度が高くなり、印加電圧を下げると波長306nmに対する感度が低下するという現象が生じる。この現象を利用することで、例えば計測中に印加電圧を切り替えることによって一台の紫外線検出器9を異なる二つの波長の紫外線の検出に用いることができる。
【0033】
上述の実施形態では、狭い検出波長帯域を有する紫外線検出器9を用いて特定波長でピークを生じる単一のラジカル発光ごとにそれぞれの発光強度を検出するものであった。これに対し次に述べる他の実施形態では、比較的広い検出波長帯域を有する紫外線検出器9を用いる。200nm以下の波長を持つ紫外線は大気中で減衰してしまって検出されないことを考慮すると、例えば、炭素製陰極9bを持つ紫外線検出器9は約200〜280nmの、銅製陰極9bを持つ紫外線検出器は約200〜300nmの、銀製電極9bを持つ紫外線検出器9は約200〜380nmの波長帯域の紫外線を、それぞれ検出することができる。したがって、炭素製陰極9bを持つ紫外線検出器9は波長260nmにピークを持つラジカル発光OH(2,0)の支配的な波長帯域の紫外線を検出する(炭素製陰極9bの限界波長280nm付近では検出感度が落ちるので280nmにピークを持つラジカル発光は支配的に作用しない)。銅製陰極9bを持つ紫外線検出器9は波長280nmにピークを持つラジカル発光OH(1,0)が支配的な波長帯域の紫外線を検出する。銀製陰極9bを持つ紫外線検出器9は波長306nmにピークを持つラジカル発光OH(0,0)が支配的な波長帯域の紫外線を検出する。そこで、上述の発光強度比R260の代替値として、(炭素製陰極9bを持つ紫外線検出器9の検出値)/(銀製陰極9bを持つ紫外線検出器9の検出値)を採用し、上述の発光強度比R280の代替値として、(銅製陰極9bを持つ紫外線検出器9の検出値)/(銀製陰極9bを持つ紫外線検出器9の検出値)を採用することができる。これにより、前述の実施例同様、発光強度比と火炎温度との関係、あるいは発光強度と空気比との関係、を求めることが可能となる。なお、この実施例においては検出する波長帯域が比較的広いので複数のラジカル発光を検出するおそれがある。例えば、銅製陰極9bを持つ紫外線検出器9は波長280nmにピークを持つラジカル発光OH(1,0)と共に波長287nmにピークを持つラジカル発光OH(2,1)を検出するおそれがある。このような場合、上述のように紫外線検出器9への印加電圧を変化させ波長に対する感度を変更して測定を行い、この測定データどうしの演算によって不要なラジカル発光による検出値への影響を減じることが可能である。
【0034】
以上のように本発明における火炎検知方法および火炎検知装置においては、希薄燃焼による火炎の自発光成分からAΣ→XΠのOH帯スペクトルを計測し、その自発光強度比Rを判定することで、希釈燃焼における火炎温度または空気比を確実に検出し得ることが明らかとなった。この故、各種の希薄燃焼の火炎検出を燃焼炉の壁面における熱放射の影響を受けることなしに簡易に、しかも確実に行うことが可能となる等の実用上多大なる効果が奏せられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼による火炎の自発光成分の中から同じラジカル種の波長の異なる複数の自発光強度をそれぞれ計測し、
計測されたそれぞれの波長の自発光強度の相互の比である発光強度比を求め、
該発光強度比と火炎温度との関係、および該発光強度比と上記燃焼に用いられる混合気の空気比との関係の少なくとも一方に基づいて火炎の状態検知を行うことを特徴とする火炎検知方法。
【請求項2】
前記自発光強度の計測は、燃焼による励起状態から基底状態への電子遷移に伴う特定ラジカル種からの自発光スペクトルを計測するものであることを特徴とする、請求項1に記載の火炎検知方法。
【請求項3】
前記自発光強度の計測は、電子遷移AΣ→XΠのOH帯スペクトルを計測するものであって、
波長260nm付近のOH(2,0)、波長280nm付近のOH(1,0)、波長287nm付近のOH(2,1)、および波長306nm付近のOH(0,0)の自発光強度の相互の比を求めて火炎の状態検知を行うものである請求項2に記載の火炎検知方法。
【請求項4】
波長が略310nm以下のOH帯スペクトルに着目して、火炎の状態を検知することを特徴とする請求項1に記載の火炎検知方法。
【請求項5】
燃焼による火炎の自発光成分の中から同じラジカル種の波長の異なる複数の自発光強度をそれぞれ検出する紫外線検出器と、
この紫外線検出器の検出信号からそれぞれの波長の自発光強度を求め、これら自発光強度の相互の比と火炎温度との関係、および該比と上記燃焼に用いられる混合気の空気比との関係の少なくとも一方に基づいて前記火炎の状態を検知する処理装置と
を具備したことを特徴とする火炎検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【国際公開番号】WO2005/045379
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515310(P2005−515310)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016405
【国際出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】