説明

炊飯器

【課題】浸水工程において米に多くの水を吸収させ、炊飯時間を短縮することを目的とする。
【解決手段】鍋1と、水を気化し蒸気を生成する蒸気生成手段と、鍋1内の圧力を調整する圧力調整手段9とを備え、浸水工程を行う前に、蒸気生成手段により生成された蒸気と圧力調整手段9とを用いて鍋1内の圧力を大気圧より高い状態を所定時間保つスチーム処理工程を行うものである。このスチーム処理工程を行うことにより、鍋1内は加圧されて米表面だけでなく米全体に水を供給することができ、浸水工程終了後の米の含水率を上げることができる。これにより、鍋1に給水し所定時間放置して米に吸水させる浸水工程、炊き上げ工程、沸騰維持工程を行う時間を短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気を利用した炊飯器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の炊飯器は、米に水を吸収させる浸水工程、吸水した米に熱を加え米内のデンプンを糊化させる炊き上げ工程や沸騰維持工程、および鍋内に残った余分な水分を除去するとともにさらに糊化を促進させる蒸らし工程を実行し炊飯を行っている。
【0003】
炊飯とは、含水率15%前後の米に水を加え、加熱し、人間の胃が消化できる含水率65%前後のごはんに仕上げることである。炊飯時間を短縮すると、かたくて粘りがなくパサパサしたごはんに炊き上がってしまう。これは、米の約70%を占めるデンプンの糊化が十分に行われていないことに起因する。デンプンは、アミロースとアミロペクチンが固く結合した構造となっているため水を与えただけでは糊化は行われないが、吸水した状態のデンプンを加熱すると、アミロースとアミロペクチンの分子運動が活発化し、アミロース、アミロペクチンの順で結合が崩れ、その間に水の分子が入り込み、糊化が行われる。
【0004】
すなわち、水が吸収されたデンプンを加熱することにより糊化が行われるため、米の含水率を人間の胃が消化できる値まで早く高めることにより炊飯時間を短縮することができるが、浸水工程において常温程度の水を米に供給して長時間放置しても含水率は30%前後までしか上がらない。これは、前述したように常温ではアミロースとアミロペクチンの結合間に水分子が入りにくく、また、米内に存在するデンプンはヘミセルロースやセルロース等で構成される細胞壁に囲まれているためデンプンが吸水しにくいためである。常温よりも高温の水を供給すると水が持つ熱により吸水しやすくなるが、デンプンが糊化し始める60℃以上の水を供給すると、米表面が先に糊化してしまい水が米内部に浸透しにくくなってしまう。
【0005】
そこで、浸水工程前に100℃以上に加熱した蒸気を鍋内に投入し、米の含水率を上げる方法がある(例えば、特許文献1参照)。蒸気を供給すると、蒸気は米表面で急激に冷やされて凝縮し、米表面に水滴が付着する。米表面は、蒸気が持つ熱量と蒸気が凝縮したときの気化熱により加熱され水を吸収しやすい状態になり、米表面に付着した水滴をより多く吸収する。これにより、米の含水率を従来よりも上げることができ、浸水時間、炊き上げ工程の時間を短縮することができる。
【特許文献1】特開2005−168546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の構成では、蒸気は米表面で凝縮し水滴が付着するが、米内部のデンプンに水分を供給することはできず、米内部の含水率を高めることは難しかった。そのため、炊き上げ工程、沸騰維持工程において米に吸水させる時間を要し、炊飯時間を短縮することが難しかった。
【0007】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、炊飯工程の早い段階で米の含水率を上げ、炊飯時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の炊飯器は、米を収容する鍋と、水を気化し蒸気を生成する蒸気生成手段と、前記鍋内の圧力を調整する圧力調整手段とを備え、浸水工程を行う前に、前記蒸気生成手段により生成された蒸気と前記圧力調整手段とにより前記鍋内の圧力が大気圧より高い状態に所定時間保たれるスチーム処理工程を行うものである。
【0009】
スチーム処理工程において、米表面は、蒸気による熱と蒸気が液化したときの気化熱が加えられ吸水しやすい状態となり、また、米表面には蒸気が液化した水が存在するため、多くの水を吸収する。また、鍋内の圧力を大気圧よりも高圧にすることで水や米に圧力がかかり、その圧力により水が米の細胞壁を通過しやすくなり、より多くの水がデンプンに吸収される。さらに、圧力により米に小さな亀裂が入り、そこから細胞壁間の隙間を通って米の内部にあるデンプンにも水を供給することができる。また、スチーム処理工程後鍋に給水し所定時間放置して米に吸水させる浸水工程において、スチーム処理工程を経た米は吸水しやすい状態となっているため、より多くの水をすばやく吸収することができる。このため、浸水工程の時間を短縮しても含水率を上げることができる。
【0010】
また、炊き上げ工程前に米の含水率を上げることができるため、浸水工程後に加熱して沸騰させる炊き上げ工程、炊き上げ工程終了後に沸騰を維持して水を対流させ米全体に加水と加熱を同時に行い糊化を促進する沸騰維持工程において、すでに含水率が高くなっているため吸水に要する時間を短縮することができる。
【0011】
したがって、炊飯時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炊飯器によれば、炊飯時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
第1の発明は、米を収容する鍋と、水を気化し蒸気を生成する蒸気生成手段と、前記鍋内の圧力を調整する圧力調整手段とを備え、浸水工程を行う前に、前記蒸気生成手段により生成された蒸気と前記圧力調整手段とにより前記鍋内の圧力が大気圧より高い状態に所定時間保たれるスチーム処理工程を行うものである。
【0014】
スチーム処理工程は、圧力調整手段により鍋を密閉し蒸気生成手段により鍋内に蒸気を供給することで鍋内の圧力を大気圧より高くし、その状態を所定時間放置するものである。大気圧よりも高圧にすることで水や米にも圧力がかかり、その圧力により水が米の細胞壁を通過しやすくなり、より多くの水がデンプンに吸収される。また、圧力がかかることによって米に小さな亀裂が入り、そこから細胞壁間の隙間を通って米中心部のデンプンにも水を供給することができる。さらに、米表面は蒸気による熱と蒸気が液化したときの気化熱が加えられ吸水しやすい状態となり、米表面には蒸気が液化した水滴が付着しているので多くの水が吸水される。また、スチーム処理工程後鍋に給水し所定時間放置して米に吸水させる浸水工程において、スチーム処理工程を経た米は吸水しやすい状態となっているため、より多くの水をすばやく吸収することができる。このため、浸水工程の時間を短縮しても含水率を上げることができる。
【0015】
また、鍋を加熱して沸騰させる炊き上げ工程、および沸騰を維持して水を対流させ米全体に加水と加熱を同時に行い糊化を促進する沸騰維持工程において、すでに含水率が高くなっているため吸水に要する時間を短縮することができる。
【0016】
これらより、炊飯時間を短縮することができる。玄米など水を吸収しにくい種類の米においては特に、高圧にすることにより水をより多く吸収させることができ、上記効果を発揮することができる。
【0017】
また、沸騰維持工程は、スチーム処理工程終了後に供給された水がなくなると終了するので、沸騰維持工程の時間を短縮することで、供給する水量が減少し、その分加熱エネルギーの消費電力量を減らすことができる。
【0018】
また、スチーム処理工程では圧力調整手段により鍋が密閉された状態となるため、炊飯器外へ放出される蒸気は僅かであり、設置空間での結露の発生も抑えることができる。
【0019】
第2の発明は、前記第1の発明において、蒸気生成手段は、鍋と前記鍋を加熱する加熱手段とで構成されるものである。
【0020】
スチーム処理工程において、鍋を加熱手段により加熱し、鍋内の水を蒸発させることで蒸気を生成しているので、米および鍋の温度がすでに高くなっているため、浸水工程において給水しても鍋加熱手段による加熱を行わずに鍋の温度を米が吸水しやすい温度に維持することができ、加熱手段による加熱エネルギーの消費電力量を抑えることができる。
【0021】
また、鍋を加熱することにより鍋の温度が米の温度に比べて高くなるため、蒸気は鍋よりも米表面で多く結露し、米表面に多くの水を供給することができる。
【0022】
第3の発明は、前記第2の発明において、鍋内の蒸気を放出する蒸気孔を有し鍋の開口部を開閉する鍋蓋を備え、圧力調整手段は、蒸気孔開閉手段と、前記蒸気孔と、圧力検知手段とで構成されるものである。
【0023】
圧力検知手段は、鍋蓋に設けられた鍋内の蒸気を放出する蒸気孔を蒸気開閉手段で開閉し、圧力検知手段で検知した圧力が所望の圧力になるよう調整する。加熱手段により鍋を加熱することにより鍋内を蒸気で充満させて鍋内の圧力を高くするので、新たな構成は必要なく従来の圧力炊飯器の構成のままで実現することができる。
【0024】
第4の発明は、前記第1〜3の発明において、炊き上げ工程開始の指示が入力される炊飯スイッチと、スチーム処理工程終了後に前記鍋内に水が供給されたことを検知する水供給検知手段と、浸水工程を実行する所定時間が記憶される記憶手段と、前記検知手段が検知してからの経過時間を計測する計測手段とを備え、前記検知手段が検知してから前記計測手段が前記所定時間を計測するまでの間に前記炊飯スイッチにより炊き上げ工程の開始の指示が入力されない場合、前記水供給検知手段が検知してから前記計測手段が前記所定時間を計測するまでの間に前記炊飯スイッチにより炊き上げ工程の開始の指示が入力された場合よりも炊き上げ工程における加熱手段の加熱量が多いものである。
【0025】
スチーム処理工程が終了したことを水供給検知手段が検知し、水供給検知手段が検知してから経過した時間を計測手段が計測し、浸水工程開始から所定時間経過前に炊飯スイッチにより炊き上げ工程の開始の指示が入力されず米が長時間浸水されて過吸水した場合、所定時間経過前に炊飯スイッチにより炊き上げ工程の開始の指示が入力されたときよりも、鍋を加熱して鍋内の水を沸騰させる炊き上げ工程において加熱手段の加熱量(単位時間当たりの加熱エネルギー)を多くすることにより、急速に沸騰させて米の吸水量を減らし、米粒表面が崩れることなく弾力性のあるごはんに炊き上げることができ、また炊飯時間を短縮することができる。
【0026】
第5の発明は、前記第1〜3の発明において、鍋の温度を検知する鍋温度検知手段を備え、浸水工程において鍋温度検知手段により検知された温度が所定温度より低い場合、前記鍋温度検知手段により検知された温度が所定温度より高い場合よりも炊き上げ工程における加熱手段の加熱量が少ないものである。
【0027】
浸水工程における鍋の温度が低いとき、温度が高いときよりも米の吸水量が少ないため、鍋を加熱して鍋内の水を沸騰させる炊き上げ工程において加熱手段の加熱量(単位時間当たりの加熱エネルギー)を少なくしてゆっくり沸騰させることにより、炊き上げ工程においてゆっくり加熱が行われ、吸水に要する時間を確保することができる。これにより、吸水を行いながら糊化が進むので、温度が高い場合と同程度のかたさに炊き上げることができる。また浸水工程、沸騰維持工程を行う時間を従来よりも短縮できるため、炊き上げ工程の時間を長くしても、炊飯工程全体の時間を短縮することができる。
【0028】
第6の発明は、前記第1〜3の発明において、所望の炊き上がりのかたさが入力設定されるかたさ設定スイッチを備え、前記かたさ設定スイッチは、第1のかたさおよび前記第1のかたさよりも柔らかい第2のかたさが入力設定可能とし、前記第1のかたさが入力設定されている場合、前記第2のかたさが入力設定されている場合よりも炊き上げ工程における加熱手段の加熱量が多いものである。
【0029】
かたさ設定スイッチにより炊き上がりのかたさが設定され、鍋を加熱して鍋内の水を沸騰させる炊き上げ工程においてかたさ度が高いほど加熱手段の加熱量(単位時間当たりの加熱エネルギー)を多くすることにより、急速に沸騰させて米の吸水量を減らし、炊き上がりのごはんを設定されたかたさにすることができ、また炊飯時間を短縮することができる。
【0030】
第7の発明は、前記第1〜3の発明において、複数の各米種に対応する圧力値が記憶された記憶手段と、米種が入力される米種入力部とを備え、スチーム処理工程において、前記圧力調整手段は鍋内の圧力値を前記米種入力部により入力された米種に対応する圧力値になるよう調整するものである。
【0031】
米種入力部により入力された米種に適切な圧力値を記憶手段より読み出し、圧力調整手段により、スチーム処理工程における鍋の圧力値が読み出した圧力値になるよう鍋内の圧力を調整するので、各米種に適切な圧力で炊飯することができ、特に吸水しにくい米の場合は高圧にすることによりすばやく吸水するので、炊飯時間を短縮することができ、また、含水率が高くなるので十分に糊化し、食味が向上する。
【0032】
第8の発明は、前記第1〜3の発明において、記憶手段は複数の各米種に対応する所定時間を有し、浸水工程は、前記米種入力部により入力された米種に対応する所定時間実行されるものである。
【0033】
米種入力部により入力された米種に適切な時間浸水工程を行うので、吸水しやすい軟化米など場合は吸水時間を短縮することができるので、炊飯時間を短縮することができ、また、食味が向上する。
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0035】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における炊飯器本体12の断面図である。炊飯器本体12は、米や水等の被調理物を収容する鍋1を着脱自在に内部に有し、炊飯器本体12の上面を覆う蓋4を開閉自在に上部に有している。鍋1は、鍋1の底面に設けられた加熱コイル等の鍋加熱手段2、側面に設けられた鍋側面加熱手段3により加熱される。鍋温度検知手段7は、鍋1の底部に設けられ鍋1の温度を検知する。蓋4は、蓋4の下部を構成する蓋カバー4a、蓋カバー4aに着脱自在に設けられ蓋4が閉じられた状態のとき鍋1の開口部を覆う加熱板(鍋蓋)5、加熱板5を誘導加熱する加熱コイル等の加熱板加熱手段6、加熱板5の温度を検知する加熱板温度検知手段8を有している。
【0036】
蓋4が閉じられた状態のとき、鍋1と加熱板5の間には隙間ができるが、その隙間は加熱板5に取り付けられたループ状のパッキン5bで封止され、鍋1内は密閉される。
【0037】
圧力調整手段9は、加熱板5に設けられた鍋1内の蒸気を放出する蒸気孔5aと、球状の弁体9aを移動させて蒸気孔5aを開閉する蒸気孔開閉手段9bと、鍋1内の圧力を検知する圧力検知手段9cとにより構成され、蒸気孔5aを閉じて鍋1内に蒸気を充満させることより鍋1内の圧力を大気圧以上にし、蒸気孔5aを開放して蒸気孔5aと蓋4に設けられた蒸気口10とで構成される蒸気通路を通じて鍋1内の蒸気を機外へ放出することにより鍋1内の圧力を大気圧と同等にする。
【0038】
制御手段11は、加熱手段制御部11aと浸水時間計測部(計測手段)11bを有し、炊飯器本体12の前面に設けられた入力操作部13により入力された信号、および記憶手段(図示せず)に記憶された、スチーム処理工程を実行する所定時間α1、浸水工程を実行する所定時間α2、炊き上げ工程における温度上昇速度、スチーム処理工程での圧力値等の値に基づいて、炊飯工程を実行する。炊飯工程において、加熱手段制御部11aは鍋温度検知手段7および加熱板温度検知手段8の検知信号に基づいて鍋加熱手段2、鍋側面加熱手段3および加熱板加熱手段6を制御する。また、浸水時間計測部11bは、浸水工程開始からの経過時間を計測するものである。
【0039】
図2は、本発明の実施の形態1における炊飯器の入力操作部13の正面図である。入力操作部13は、使用者が所望の運転コース等を設定したり炊飯工程等をスタートさせたりするときに操作されるものであり、炊飯開始スイッチ13a等の各スイッチと、表示部14を有している。表示部14は、炊飯終了時や選択されたコース等を表示するメイン表示部14a、スチーム処理工程中であることを示すスチーム処理ランプ14b、浸水工程中であることを示す浸水ランプ14c、炊き上げ工程〜蒸らし工程中であることを示す炊飯ランプ14d等を有している。
【0040】
次に、本発明の実施の形態1における炊飯工程の各工程について説明する。本発明の実施の形態1における炊飯器の炊飯工程は、スチーム処理工程、浸水工程、炊き上げ工程、沸騰維持工程および蒸らし工程の順で構成される。
【0041】
スチーム処理工程では、図1に示すように米と蒸気生成用の少量の水が鍋1内に入れられ、鍋加熱手段2により鍋1内を加熱して水を蒸発させ蒸気を生成する。また、圧力調整手段9により蒸気孔5aが閉じられて蒸気が鍋1内から放出されないようにし、鍋1内の圧力を大気圧より高くする。
【0042】
鍋1内の圧力が大気圧より高いため100℃以上になった蒸気は、100℃より低い米表面で急激に冷やされて凝縮し、米表面に水滴が付着する。米表面は、蒸気が持つ熱と、蒸気が液化したときに生じる気化熱により加熱されて水を吸収しやすい状態になり、米表面に付着した水滴を吸収する。
【0043】
また、デンプンを形成するアミロースとアミロペクチンの結合力が強く、米内のデンプンは細胞壁に囲まれているため、米表面に水が存在するだけでは吸水されにくいが、鍋1内の圧力を高圧にすることにより、水や米にも高い圧力がかかり、その圧力により水が細胞壁を通過しやすくなり、より多くの水がデンプンに吸収される。さらに、米に圧力がかかることにより小さな亀裂が入り、そこから米の内部に水が入り、細胞壁間の隙間を通って米の中心部にあるデンプンにまで水を供給することができる。これらにより、米全体の含水率を上げることができる。
【0044】
浸水工程では、使用者により米量に対する所定量の水が鍋内に供給され、鍋加熱手段2等による加熱を行わない状態で所定時間α2の間放置される。図3は、本発明の実施の形態1における浸水工程時の炊飯器の断面図である。鍋1内に水が供給されたことは、鍋1内の炊飯水の温度が一気に下がり、糊化が行われない最高温度(55〜58℃程度)以下になったことを水供給検知手段である鍋温度検知手段7が検知することにより検知される。スチーム処理工程を経た鍋1や米の温度は高いため、鍋加熱手段2等による加熱を行わなくても所定温度(40度程度)に保持することができる。
【0045】
また、米表面は、スチーム処理工程を経て高温になっているため、供給された水によりが急速に冷却され、より吸水しやすい状態になる。そのため浸水工程において、スチーム処理工程を行わない場合に比べてより多く吸水させることができる。
【0046】
浸水工程を所定時間α2行うと、次に炊き上げ工程を実行する。図4は、本発明の実施の形態1における炊き上げ工程時の炊飯器の断面図である。
【0047】
炊き上げ工程では、浸水工程で水温が下がった状態の炊飯水を鍋加熱手段2、鍋側面加熱手段3および加熱板加熱手段6で加熱し、沸騰させる。また、圧力調整手段9により蒸気孔5aを閉じて鍋1内を密閉し、蒸気を充満させて鍋1内の圧力を大気圧よりも高め、炊飯水を100℃以上で沸騰させる。
【0048】
加熱途中で、鍋1の温度が60℃前後になるとデンプンの糊化が始まる。この炊き上げ工程において、スチーム処理工程を行っていない米は含水率が低いため吸水に時間を要し糊化に時間がかかる。また、炊飯時間を短縮するために急激に沸騰させると、米表面が先に糊化してしまい米内部への水や熱の伝達が十分に行えず、特に米中心部の糊化が完了しない状態で炊飯工程が終了するため、粘りのないパサパサしたごはんになってしまう。
【0049】
しかしながら、スチーム処理工程を経た米は、スチーム処理工程を行っていない米よりも含水率が高くなっているため、温度上昇速度を高めて急速に沸騰させ、吸水に必要な時間を短縮することができる。また、鍋1内の圧力が大気圧よりも高いため、100℃以上の水で炊き上げることができ、100℃の水で炊く場合に比べて加熱量が増え糊化を促進させることができる。鍋1内の水が沸騰したことを加熱板温度検知手段8が検知すると、沸騰維持工程に移る。
【0050】
沸騰維持工程では、圧力調整手段9により蒸気孔5aを開放して鍋1内の圧力を大気圧と同等にしながら、沸騰を維持する。図5は、本発明の実施の形態1における沸騰維持工程の炊飯器の断面図である。沸騰により水が対流するため、水が米同士の間を激しく流れることにより、鍋1内の米全体に水と熱がまんべんなく供給され糊化が促進される。また、鍋1内の水が蒸発すると、蒸気孔5aが開放されたことにより蒸気の流れができ、蒸気は米の間を通過して上昇して蒸気孔5aから炊飯器外へ放出され、蒸気が米の間を通過することによりさらに糊化が促進される。
【0051】
鍋1内の炊飯水が蒸発してほぼ無くなると鍋1の温度が急激に上昇する。この急激な上昇により所定の温度を鍋温度検知手段7が検知したとき、沸騰維持工程を終了し、次の蒸らし工程に移る。
【0052】
すなわち沸騰維持工程の時間は、浸水工程において鍋1内に供給する水量に依存する。スチーム処理工程を経た米の含水率はスチーム処理工程を経ていない米よりも高くなっているため、米の吸水に要する時間を短縮することができることから、浸水工程で供給する水量を少なくすることができる。これにより、炊き上げ工程、沸騰維持工程において水を加熱する加熱エネルギーの消費電力量を抑えることができる。
【0053】
蒸らし工程では、再び圧力調整手段9により蒸気孔5aを閉じて鍋1内の圧力を大気圧より高くし、鍋1内に100℃以上の蒸気を充満させる。100℃以上の高温蒸気は細かい粒子となって、鍋1内の米の隙間を通り鍋1内の底部にも行き渡り、米の一粒一粒を包み込む。これにより、ごはんの温度が高温に保たれて糊化がさらに進み、ごはんの甘みと香りが増す。蒸気を鍋1内に充満させながら鍋加熱手段2、鍋側面加熱手段3および加熱板加熱手段6により追い炊き加熱を行うので、ごはんの乾燥と焦げを抑えることができる。
【0054】
所定時間蒸らし工程を行った後、鍋1内の温度を所定温度(例えば、70℃前後)に維持する保温工程を行う。
【0055】
以下、図6を用いて本発明の実施の形態1における炊飯器について、動作および作用を説明する。図6は、本発明の実施の形態1における炊飯器の各工程における鍋内の温度変化を示す温度チャートである。
【0056】
時刻t0において、スチーム処理工程を開始し、米と蒸気生成用の少量の水が鍋1内に入れられ、鍋1が炊飯器本体12に収納され、蓋4が閉じられ、炊飯開始スイッチ13aが押圧されると、鍋加熱手段2により鍋1が加熱され、圧力調整手段9により蒸気孔5aが閉じられる。
【0057】
時刻t1において、鍋1内に蒸気が充満し、鍋1内の圧力が大気圧以上になり、100℃以上で水が沸騰すると、沸騰を所定時間α1維持する。このスチーム処理工程により、蒸気と圧力で米が吸水しやすい状態になり、蒸気が凝縮して米表面に付着した水滴を吸水する。
【0058】
時刻t2において、浸水工程を開始し、浸水ランプ14cを点滅させ、鍋1内に米量に応じた所定量の水を供給するよう使用者に対して報知する。鍋1内に水が供給されたことを鍋温度検知手段7により検知すると、浸水ランプ14cを点灯させ、浸水時間計測部11bが所定時間α2を計測するまで放置し米に吸水させる。この浸水工程において米表面が水により急速に冷却され、吸水しやすい状態となりさらに吸水する。また、スチーム処理工程において圧力をかけたことにより小さな亀裂が入っているため、そこから米内部にも水が浸入し米全体の含水率が高くなる。
【0059】
時刻t3において、使用者に炊飯スイッチ13aを押圧するよう炊飯ランプ14dを点滅させ、炊飯スイッチ13aが押圧されると、炊飯ランプ14dを点灯させ炊き上げ工程を開始する。圧力調整手段9により蒸気孔5aを閉じ、蒸気を充満させて鍋1内の圧力を大気圧以上にした状態で、鍋加熱手段2、鍋側面加熱手段3および加熱板加熱手段6により鍋1を加熱し鍋1内の水を沸騰させる。
【0060】
時刻t4において、鍋1内の水が沸騰し、沸騰維持工程を開始する。圧力調整手段9により蒸気孔5aを開放して蒸気を機外へ逃がし、沸騰を維持することにより水と熱を米に供給して糊化を促進させる。
【0061】
時刻t5において、鍋1内の水分がなくなり、鍋1の温度が急激に上昇し所定の温度に達したことを鍋温度検知手段7が検知すると、蒸らし工程を開始する。圧力調整手段9により蒸気孔5aを閉じて鍋1内の圧力を大気圧より高くし、蒸気を鍋1内に充満させ、糊化を完全にすることで、ごはんの甘みと香りが増す。
【0062】
時刻t6において、炊飯工程を終了し、保温工程に移行する。
【0063】
以上のように、スチーム処理工程を行うことにより、炊き上げ工程開始前に含水率を高くすることができるので、浸水工程、炊き上げ工程および沸騰維持工程を実行する時間を短くしても、十分に糊化されたごはんに炊き上げることができる。
【0064】
なお、本実施の形態1では、鍋1内に供給した水を鍋加熱手段7で加熱して蒸気を生成するため、蒸気を生成し鍋1内に供給する新たな構成は必要なく、従来の炊飯器の構成で実現することができるが、もちろん、蒸気を生成し鍋1内に供給する別部材を用いてもよい。別部材にすることで、蒸気を間欠投入することができ、蒸気と接触することで米表面が高温になるのを抑え、スチーム処理工程において米表面が糊化してしまうのを防ぐことができる。
【0065】
また、本実施の形態1では、入力操作部13に炊飯する米種を選択する米種入力部(図示せず)を設け、各米種に適切な圧力値を記憶手段にそれぞれ記憶しておき、選択された米種に応じた圧力値になるよう圧力調整手段9により調節することにより、各米種に適切な温度、圧力で炊飯することができる。例えば、玄米の場合は、白米が選択された場合よりも圧力値を高くすることにより、かたさやぱさつきがなく炊き上げることができる。また、軟質米と硬質米、新米と古米、白米と玄米などより細かく米種を選択できるようにすることにより、より各米種に対して適切な炊飯を行うことができる。
【0066】
また、本実施の形態1における炊飯器では、浸水工程において使用者が給水を行うようにしたが、予め設けられたタンク内に水を貯蔵しておき、浸水工程に入るとタンクから自動で給水されるようにしてもよい。
【0067】
また、本実施の形態1における炊飯器では、浸水工程終了後に再度使用者により炊飯スイッチ13aが押圧されることで炊き上げ工程を開始するようにしているが、所定時間α2が経過したらすぐに炊き上げ工程を行うことにより、吸水時間を一定に保つことができ、炊き上がりのごはんのかたさを一定にすることができる。
【0068】
また、本実施の形態1における炊飯器では、鍋加熱手段2、鍋側面加熱手段3および加熱板加熱手段6は、誘導加熱によるものを用いているが、それぞれ電気ヒーターやガス燃焼など熱源は何でもよく、鍋加熱手段2以外は設けなくてもよい。また、それぞれが単一のリング形状であってもよく、複数個に分割されてあってもよい。もちろん、複数個のコイルで構成されてもよい。
【0069】
また、鍋温度検知手段7および加熱板温度検知手段8は、通常運転での温度から異常時の高温度までの範囲を検知できるものであれば、どのような検知原理でもよい。
【0070】
また、本実施の形態1における炊飯器では、圧力制御手段9は加熱板5の蒸気孔5aを開閉することにより鍋1内の圧力を調節したが、鍋1内の圧力を制御できるものであればどのようなものでもよい。
【0071】
また、本実施の形態1における炊飯器では、水が供給されたことを鍋温度検知手段7により検知したが、給水されたことを検知できるものであればよく、例えば、スチーム処理工程終了後、蓋4が一旦開かれて水が供給され、再度閉じられたことを検知する蓋開閉検知手段(図示せず)を設け、蓋開閉検知手段により水が供給されたことを検知するようにしてもよい。
【0072】
また、本実施の形態1における炊飯器では、浸水工程において加熱を行わないようにしたが、鍋加熱手段2等で鍋1の温度を糊化が行われない最高温度(55〜58℃程度)以下に維持することにより、浸水工程においてより吸水を促進することができる。
【0073】
また、炊飯工程後の保温工程や、使用者が必要に応じてご飯を温めるための再炊き上げ工程等においても、スチーム処理工程を導入することで、同様の効果を奏することができる。
【0074】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2における炊飯器は、浸水工程における浸水時間が予め設定された所定時間α2より長くなった場合でも、炊き上げ工程の時間を短縮することにより炊き上がりのごはんのかたさを一定にするものである。
【0075】
スチーム処理工程を経た米は、スチーム処理工程を行わない場合に比べて吸水しやすい状態になっているため、浸水工程が予め設定されている所定時間α2より長く行われると、たとえ長くなった時間が短時間であっても、炊き上がりのかたさに大きく影響するほどの量を吸水してしまい、浸水工程の時間に依存してやわらかく炊き上がってしまう。
【0076】
そこで、炊き上げ工程において温度上昇速度を高くして急速に沸騰させることにより、炊き上げ工程において吸水する時間を短くし、また鍋1の温度を早期にデンプンが糊化しはじめる温度にすることで、米表面が糊化して吸水しにくくなり、炊き上げ工程における吸水量を減少させることができる。
【0077】
図7は、本発明の実施の形態2における炊飯器の浸水工程を実行する所定時間α2と炊き上げ工程時の温度上昇速度の関係を示すグラフである。
【0078】
本発明の実施の形態2における炊飯器は、浸水工程と炊き上げ工程における動作が実施の形態1における炊飯器と異なるものであり、以下、浸水工程と炊き上げ工程について説明する。その他の工程および構成については実施の形態1と同じであるので、説明を省略する。
【0079】
浸水工程では、スチーム処理工程の後、使用者により鍋1内に米量に対する所定量の水が供給される。所定量の水が供給されたことを鍋温度検知手段7により検知すると、浸水時間計測部11bにより経過時間を計測し始める。浸水時間計測部11bが浸水時間α2を計測すると、炊飯ランプ14dを点滅し使用者に炊飯スイッチ13aを押圧するよう報知する。
【0080】
浸水時間計測部11bが、記憶手段に予め記憶された所定時間α2に対する最大浸水時間α3(α3≧α2)を計測するまでの間に使用者により炊飯スイッチ13aが押圧されたとき、浸水時間は適切であるとして第1の温度上昇速度V1で加熱を行う炊き上げ工程を開始する。また、使用者が炊飯ランプ14dの点滅にすぐに気づかず、浸水時間計測部11bが、最大浸水時間α3以上計測したときに使用者に炊飯スイッチ13aが押圧されたとき、浸水時間が長いと判断して、第1の温度上昇速度V1よりも高い第2の温度上昇速度V2で加熱を行う炊き上げ工程を開始する。
【0081】
以下、本発明の実施の形態2における炊飯器の動作および作用について説明する。図8は、本発明の実施の形態2における炊飯器の各工程における鍋内の温度変化を示す温度チャートである。t0〜t2およびt4〜t6における動作は図6と同じであるため説明を省略する。
【0082】
時刻t2において、鍋1内に所定量の水が給水されると、浸水時間計測部11bにより浸水時間を計測し始める。所定時間α2を計測すると、炊飯ランプ14dを点滅させて使用者に炊飯スイッチ13aを押圧するよう報知する。
【0083】
所定時間α2に対する最大浸水時間α3が経過するまでの時刻である時刻t3に炊飯スイッチ13aが押圧されたとき、第1の温度上昇速度で加熱を行い炊き上げ工程を開始する(図8の実線)。また、使用者が炊飯ランプ14dの点滅に気づかず、最大浸水時間α3以上経過した時刻である時刻t3’に炊飯スイッチ13aが押圧されたとき、第1の温度上昇速度よりも高い第2の温度上昇速度V2で加熱を行い炊き上げ工程を開始する(図8の点線)。
【0084】
これにより、浸水時間が長くなっても、ごはんのかたさを所定のかたさに炊き上げることができ、また温度上昇速度を高くして加熱量(単位時間当たりの加熱エネルギー)を多くするので短時間で沸騰させることができ、炊き上げ工程の時間を短縮することができる。
【0085】
スチーム処理工程を経ていない米の場合、炊き上げ工程において急速に沸騰させると、米の中心が十分に吸水する前に米表面が糊化してしまい、内部に水を供給しにくくなり、米内部で十分な糊化が行われず、米の中心部が糊化されていないため芯が残ったごはんに炊き上がってしまう。しかし、スチーム処理工程を行った米は、米の内部も吸水しており、米全体の含水率が高くなっているため、炊き上げ工程での吸水を抑えても、芯が残らず全体的にかために炊き上げることができる。
【0086】
なお、本実施の形態2における炊飯器では、実際の浸水時間が最大浸水時間α3より長いか否かで温度上昇速度を決定したが、使用者により炊飯ランプ14dが点滅する前に炊飯スイッチ13aが押圧されたときは、押圧された後すぐに第1の温度上昇速度V1より低い第3の温度上昇速度V3で炊き上げ工程を実行するようにしてもよく、また、炊飯スイッチ13aが押圧されても所定時間α2が経過するまでは引き続き浸水工程を実行し、所定時間α2が経過すると直ちに第1の温度上昇速度V1で炊き上げ工程を行うようにしてもよい。
【0087】
また、浸水時間計測手段11bで計測した浸水時間α2に適切な温度上昇速度を図8に示すグラフ等を用いて求め、求めた温度上昇速度を用いて炊き上げ工程を行うことにより、より浸水時間に依存せず所定のかたさで炊き上げることができ、浸水時間が長くなっても、炊き上げ工程を短時間で行うので炊飯時間を短縮することができる。
【0088】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3における炊飯器は、浸水工程における水温に適切な温度上昇速度で炊き上げ工程を行うことにより、炊飯量および供給した水の温度に関わらず所定のかたさに炊き上げることができるものである。
【0089】
図9は、本発明の実施の形態3における炊飯器の所定の米量での炊飯工程の温度チャートである。
【0090】
浸水工程における鍋1の温度は、スチーム処理工程時に加熱された熱量が鍋と米に分配されるので、米量が多いほど低くなる。また、鍋1に供給された水の温度が低いと、浸水工程における鍋1の温度は低くなる。しかしながら、浸水工程では鍋1に対して、鍋加熱手段2等による加熱を行わないため、図9に示す実線の温度チャートに対応する米量での鍋1の温度をT1としたとき、その米量よりも多い米量を炊飯する場合は、T1より低いT2となる。鍋1の温度すなわち水温が低くなると、吸収される水量は低下してしまうため、所定のかたさよりもかたく炊き上がってしまう。
【0091】
そこで、米量が多いためや鍋1内に供給された水温が低いために浸水工程において鍋1内の温度が低い場合、炊き上げ工程において穏やかに沸騰させることにより、炊き上げ工程での吸水に要する時間を十分に設け、含水率を増加させるようにしている。スチーム処理工程を経た米は吸水しやすいため、少しの時間長くするだけで多くの水を吸水することができ、また浸水工程、沸騰維持工程を行う時間を従来よりも短縮できるため、炊き上げ工程の時間を長くしても、炊飯工程全体の時間を従来よりも短縮することができる。
【0092】
図10は、本発明の実施の形態3における浸水工程の温度と温度上昇速度の関係を示すグラフである。
【0093】
本発明の実施の形態3における炊飯器は、炊き上げ工程における動作が実施の形態1の炊飯器と異なるものであり、以下、炊き上げ工程について説明する。その他の工程および構成については実施の形態1と同じであるので、説明を省略する。
【0094】
炊き上げ工程において、浸水工程開始時に鍋温度検知手段7により検知した鍋1の温度が、基準温度T0より高い温度T1である場合は、第1の温度上昇速度V1で炊き上げ工程を実行し、鍋1の温度が、基準温度T0より低い温度T2である場合は、第1の温度上昇速度V1より低い第2の温度上昇速度V2で炊き上げ工程を実行する。
【0095】
このように、基準温度T0より低い温度T2である場合は、第1の温度上昇速度V1より低い第2の温度上昇速度V2で炊き上げ工程を行うので、加熱量(単位時間当たりの加熱エネルギー)が少なくなり炊き上げ工程においてゆっくり加熱が行われ、吸水に要する時間を確保することができ、吸水を行いながら糊化が進むので、温度Tが基準温度T0より高い場合と同程度のかたさに炊き上げることができる。
【0096】
以下、図9を用いて本発明の実施の形態3における炊飯器の動作および作用について説明する。その他の構成は実施の形態1および2と同じであり、図9におけるt0〜t3およびt4〜t6における動作は図6と同じであるため説明を省略する。
【0097】
時刻t3において、浸水工程開始時に鍋温度検知手段7により鍋1の温度が、基準温度T0より高い温度T1である場合は、第1の温度上昇速度V1で炊き上げ工程を実行する(図9の実線)。また、鍋1の温度が基準温度T0より低い温度T2である場合は、第1の温度上昇速度V1よりも高い第2の温度上昇速度V2で炊き上げ工程を実行する(図9の点線)。
【0098】
これにより、炊飯量や供給された水の温度に関わらず同程度のかたさに炊き上げることができる。
【0099】
なお、浸水工程における鍋1の温度に適切な温度上昇速度を図9に示すグラフ等を用いて求め、求めた温度上昇速度を用いて炊き上げ工程を行うことにより、より所定のかたさで炊き上げることができる。
【0100】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4における炊飯器は、炊き上げ工程における温度上昇速度を調節することで所望のかたさに炊き上げるものである。
【0101】
本発明の実施の形態4における炊飯器は、炊き上げ工程における動作が実施の形態1における炊飯器と異なるものであり、以下、炊き上げ工程について説明する。その他の工程および構成については実施の形態1と同じであるので、説明を省略する。
【0102】
入力操作部13は、ごはんのかたさを設定するかたさ設定スイッチ13bを有しており、メイン表示部14aの示すように「かため、ふつう、やわらかめ」の3段階で設定できる。
【0103】
記憶手段には、「ふつう」が設定されたときに用いる第1の温度上昇速度V1、「かため」が設定されたときに用いる第2の温度上昇速度V2、「やわらかめ」が設定されたときに用いる第3の温度上昇速度V3がそれぞれ対応付けられて記憶されている。
【0104】
炊き上げ工程において、「ふつう」が設定されていた場合、記憶手段から第1の温度上昇速度V1が呼び出され、第1の温度上昇速度V1で加熱が行われる。また、「かため」が設定されていた場合、第1の温度上昇速度V1よりも高い値である第2の温度上昇速度V2が呼び出され、第2の温度上昇速度V2で加熱が行われるため、加熱量(単位時間当たりの加熱エネルギー)が多くなり急速に沸騰する。さらに、「やわらかめ」が設定されていた場合、第1の温度上昇速度V1よりも低い値である第3の温度上昇速度V3が呼び出され、第3の温度上昇速度V3で加熱が行われるため、加熱量(単位時間当たりの加熱エネルギー)が少なくなり緩やかに沸騰する。
【0105】
以下、本発明の実施の形態4における炊飯器の動作および作用について説明する。その他の構成は実施の形態1〜3と同じであるので、説明を省略する。
【0106】
図11は、本発明の実施の形態4における炊飯器の所定の米量での炊飯工程の温度チャートである。t0〜t3およびt4〜t6における動作は図6と同じであるため説明を省略する。
【0107】
時刻t3において、「ふつう」が設定されていた場合、第1の温度上昇速度V1で加熱が行われる(図11の実線)。また、「かため」が設定されていた場合、第1の温度上昇速度V1よりも高い第2の温度上昇速度V2で加熱が行われ急速に沸騰する(図11の細い点線)。さらに、「やわらかめ」が設定されていた場合、第1の温度上昇速度V1よりも低い値である第3の温度上昇速度V3で加熱が行われ緩やかに沸騰する(図11の太い点線)。
【0108】
これにより、炊飯工程開始時に設定されたごはんの炊き上がりかたさに応じて、温度上昇速度を変えることにより、所望のかたさに炊き上げても、芯が残らずふっくらしたごはんに炊き上げることができる。特に、「かため」が設定された場合は炊き上げ工程において短時間で沸騰させるため、炊き上げ工程の時間を短縮することができる。
【0109】
また、スチーム処理工程を経ていない米の場合、浸水工程終了後の含水率が低いため炊き上げ工程において吸水に要する時間が必要になり、急激に沸騰させると米の内部まで吸水される前に米表面の糊化が行われてしまい、芯が残ったごはんが炊き上がってしまう。しかしながら、スチーム処理工程を経た米は炊き上げ工程前に含水率が高く、米中心部のデンプンが吸水しているため、炊き上げ工程において吸水に要する時間を短縮しても炊き上がったごはんは芯が残らない。
【0110】
なお、本実施の形態4における炊飯器では、炊き上げ工程の温度上昇速度を変化させることによりかたさを調節したが、例えば、浸水工程や沸騰維持工程の時間を変化させて吸水量を調節し、「かため」が設定された場合は時間を短くし、「やわらかめ」が設定された場合は時間を長くすることにより同様の効果を奏することができる。
【0111】
また、入力操作部13に炊飯する米種(白米、玄米、無洗米)や新鮮度(新米、普通米、古米)等を選択する米種入力部(図示せず)を設け、記憶手段に、各米種や新鮮度に適切な温度上昇速度をそれぞれ記憶しておき、選択された米種や新鮮度に応じた温度上昇速度で炊き上げ工程を実行することにより、芯が残らない適切なかたさに炊き上げることができる。
【0112】
なお、実施の形態1〜4における発明は、一つの炊飯器に実装してもよく、それぞれの上記効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
以上のように、本発明にかかる炊飯器は、炊き上げ工程を開始するまでに米の含水率を高めることができるので、炊飯時間を短縮することができ、加圧することにより調理を行う業務用炊飯器や調理器等の用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施の形態1における炊飯器本体12の断面図
【図2】同炊飯器の入力操作部の正面図
【図3】同炊飯器の浸水工程における断面図
【図4】同炊飯器の炊き上げ工程における断面図
【図5】同炊飯器の沸騰維持工程における断面図
【図6】同炊飯器の各工程における鍋内の温度変化を示す温度チャート
【図7】本発明の実施の形態2における炊飯器の浸水工程実行時間と炊き上げ工程の温度上昇速度の関係を示すグラフ
【図8】同炊飯器の各工程における鍋内の温度変化を示す温度チャート
【図9】本発明の実施の形態3における炊飯器の炊飯工程の温度チャート
【図10】同炊飯器の浸水工程の温度と温度上昇速度の関係を示すグラフ
【図11】本発明の実施の形態4における炊飯器の炊飯工程の温度チャート
【符号の説明】
【0115】
1 鍋
2 鍋加熱手段
5 加熱板(鍋蓋)
5a 蒸気孔
7 鍋温度検知手段(水供給検知手段)
9 圧力調整手段
9a 球状の弁体
9b 蒸気孔開閉手段
9c 圧力検知手段
11b 浸水時間計測部(計測手段)
13 入力操作部(米種入力部)
13a 炊飯スイッチ
13b かたさ設定スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米を収容する鍋と、水を気化し蒸気を生成する蒸気生成手段と、前記鍋内の圧力を調整する圧力調整手段とを備え、浸水工程を行う前に、前記蒸気生成手段により生成された蒸気と前記圧力調整手段とにより前記鍋内の圧力が大気圧より高い状態に所定時間保たれるスチーム処理工程を行うことを特徴とする炊飯器。
【請求項2】
蒸気生成手段は、鍋と前記鍋を加熱する加熱手段とで構成されることを特徴とする請求項1記載の炊飯器。
【請求項3】
鍋内の蒸気を放出する蒸気孔を有し鍋の開口部を開閉する鍋蓋を備え、圧力調整手段は、蒸気孔開閉手段と、前記蒸気孔と、圧力検知手段とで構成されることを特徴とする請求項2記載の炊飯器。
【請求項4】
炊き上げ工程開始の指示が入力される炊飯スイッチと、スチーム処理工程終了後に前記鍋内に水が供給されたことを検知する水供給検知手段と、浸水工程を実行する所定時間が記憶される記憶手段と、前記検知手段が検知してからの経過時間を計測する計測手段とを備え、前記検知手段が検知してから前記計測手段が前記所定時間を計測するまでの間に前記炊飯スイッチにより炊き上げ工程の開始の指示が入力されない場合、前記水供給検知手段が検知してから前記計測手段が前記所定時間を計測するまでの間に前記炊飯スイッチにより炊き上げ工程の開始の指示が入力された場合よりも炊き上げ工程における加熱手段の加熱量が多いことを特徴とする請求項1〜3記載のいずれか1項に炊飯器。
【請求項5】
鍋の温度を検知する鍋温度検知手段を備え、浸水工程において鍋温度検知手段により検知された温度が所定温度より低い場合、前記鍋温度検知手段により検知された温度が所定温度より高い場合よりも炊き上げ工程における加熱手段の加熱量が少ないことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項6】
所望の炊き上がりのかたさが入力設定されるかたさ設定スイッチを備え、前記かたさ設定スイッチは、第1のかたさおよび前記第1のかたさよりも柔らかい第2のかたさが入力設定可能とし、前記第1のかたさが入力設定されている場合、前記第2のかたさが入力設定されている場合よりも炊き上げ工程における加熱手段の加熱量が多いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項7】
複数の各米種に対応する圧力値が記憶された記憶手段と、米種が入力される米種入力部とを備え、スチーム処理工程において、前記圧力調整手段は鍋内の圧力値を前記米種入力部により入力された米種に対応する圧力値になるよう調整することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の炊飯器。
【請求項8】
記憶手段は複数の各米種に対応する所定時間を有し、浸水工程は、前記米種入力部により入力された米種に対応する所定時間実行されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の炊飯器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−151648(P2007−151648A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347618(P2005−347618)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】