説明

炎症性腸疾患を治療するための抗体α4β7インテグリンおよびその使用

【課題】炎症性腸疾患を治療するための抗体α4β7インテグリンおよびその使用を提供すること。
【解決手段】粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患を有するヒトの治療における使用のための、α4β7インテグリンに対して結合特異性を有する免疫グロブリンまたはその抗原結合断片であって、該使用は、初回用量の後、1回以上の続いての用量で、該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片を投与する工程を含み、任意の2回の用量の最小の間隔が少なくとも1日間であり、体重1kg当たり8mg以下の免疫グロブリンまたは抗原結合断片が1ヶ月間に投与され、該免疫グロブリンまたは抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合しない、免疫グロブリンまたはその抗原結合断片。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性腸疾患を治療するための抗体α4β7インテグリンおよびその使用に関する。
【0002】
関連出願
本出願は、2000年4月14日に出願された米国特許出願第09/550,082号の継続出願である2000年12月27日に出願された米国特許出願第09/748,960号の継続出願である。上記各出願の全教示は参照により本明細書に取り込まれる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
インテグリンレセプターは、リンパ球の再循環と炎症部位への漸増の両方を調節するのに重要である(非特許文献1)。ヒトα4β7インテグリンは、数個のリガンドをもち、そのうちの1つは、腸間膜リンパ節の高内皮性小静脈、およびパイヤー斑(非特許文献2)上に発現する粘膜血管アドレシン(addressin) MAdCAM−1(非特許文献3;非特許文献4)である。このため、α4β7インテグリンは、腸粘膜リンパ様組織へのリンパ球移動を媒介するホーミングレセプターとして作用する(非特許文献5)。また、α4β7インテグリンは、フィブロネクチンおよび血管の細胞接着分子−1(VCAM−1)と相互作用する。
【0004】
炎症性腸疾患(IBD)、例えば潰瘍性大腸炎およびクローン病などは、胃腸管の炎症を伴う消耗性および進行性の疾患でありうる。米国だけで推定200万人の人々が罹患し、症状には、腹痛、痙攣、下痢および直腸からの出血が含まれる。IBD処置には、抗炎症薬(コルチコステロイドおよびスルファサラジンなど)、免疫抑制薬(6−メルカプトプリン、シクロスポリンおよびアザチオプリンなど)および手術(結腸切除など)が含まれている。非特許文献6および非特許文献7。しかしながら、かかる治療剤は、IBDの寛解を維持するには効果的ではない。
【0005】
マウスモノクローナル抗体Act−1(mAb Act−1)などのヒトα4β7インテグリンに対する抗体は、粘膜リンパ節内の高内皮性小静脈上に存在する粘膜アドレシン細胞接着分子−1(MAdCAM−1)へのα4β7インテグリンの結合を妨害する。Act−1は、最初に非特許文献8により、ヒト破傷風トキソイド特異的Tリンパ球で免疫したマウスから単離され、マウスIgG1/κ抗体であると報告された。非特許文献5による該抗体の最近の解析では、この抗体が、α4β7インテグリンを選択的に発現するヒト記憶CD4+Tリンパ球のサブセットに結合しうることが示された。しかしながら、ヒトにおける治療に適用するためにマウス抗体を使用することに伴う深刻な問題は、ヒトにおいて高度に免疫原性で、ヒト抗マウス抗体応答(HAMA)が急激に誘導されることであり、これは、患者におけるマウス抗体の有効性を低減し、継続投与を妨げ得る。HAMA応答は、マウス抗体の速やかなクリアランスをもたらし、いかなる治療効果をも大きく制限する。
【0006】
したがって、炎症性腸疾患およびその他の粘膜組織の炎症性疾患に対する治療アプローチの改善が必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Carlos,T.M.およびHarlan,J.M.,Blood,84:2068−2101(1994)
【非特許文献2】Streeter,P.R.ら、Nature 331:41−46(1988)
【非特許文献3】Berlin,C.ら、Cell 74:185−195(1993)
【非特許文献4】Erle,D.J.ら、J.Immunol.153:517−528(1994)
【非特許文献5】Schweighoffer,T.ら、J.Immunol.151:717−729(1993)
【非特許文献6】Podolsky,New Engl.J.Med.,325:928−937(1991)
【非特許文献7】Podolsky,New Engl.J.Med.,325:1008−1016(1991)
【非特許文献8】Lazarovits,A.I.ら、J.Immunol.133:1857−1862(1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、炎症性腸疾患を治療するための抗体α4β7インテグリンおよびその使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患を有するヒトの治療における使用のための、α4β7インテグリンに対して結合特異性を有する免疫グロブリンまたはその抗原結合断片であって、該使用は、初回用量の後、1回以上の続いての用量で、該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片を投与する工程を含み、任意の2回の用量の最小の間隔が少なくとも1日間であり、体重1kg当たり8mg以下の免疫グロブリンまたは抗原結合断片が1ヶ月間に投与され、該免疫グロブリンまたは抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合しない、免疫グロブリンまたはその抗原結合断片、
〔2〕該免疫グロブリンがヒト化免疫グロブリンである、〔1〕記載の使用のための免疫グロブリンまたはその抗原結合断片、
〔3〕該免疫グロブリンがヒト免疫グロブリンである、〔1〕記載の使用のための免疫グロブリンまたはその抗原結合断片、
〔4〕該ヒト化免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、非ヒト起源の抗原結合領域およびヒト起源の抗体の少なくとも一部を含んでなり、かつα4β7複合体に対して結合特異性を有するものであり、前記抗原結合領域は、以下のアミノ酸配列:
軽鎖:CDR1 配列番号:9
CDR2 配列番号:10および
CDR3 配列番号:11
の軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)ならびに以下のアミノ酸配列:
重鎖:CDR1 配列番号:12
CDR2 配列番号:13および
CDR3 配列番号:14
の重鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)を含んでなるものである、〔1〕または〔2〕記載の使用のための免疫グロブリンまたはその抗原結合断片、
〔5〕前記粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患が、炎症性腸疾患、膵炎、インスリン依存性糖尿病、乳腺炎、胆嚢炎、胆管炎、胆管周囲炎、慢性気管支炎、慢性静脈洞炎、喘息および対宿主性移植片病からなる群より選択されるものである、〔1〕〜〔4〕いずれか記載の使用、
〔6〕前記粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患が、炎症性腸疾患である、〔5〕記載の使用、
〔7〕炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎またはクローン病である、〔6〕記載の使用、
〔8〕前記免疫グロブリンまたはその抗原結合断片が、配列番号:6の重鎖可変領域を含んでなるものである、〔1〕、〔2〕、および〔4〕〜〔6〕いずれか1項記載の使用、
〔9〕前記免疫グロブリンまたはその抗原結合断片が、配列番号:8の軽鎖可変領域を含んでなるものである、〔1〕、〔2〕、および〔4〕〜〔9〕いずれか1項記載の使用、
〔10〕前記用量の各々が、独立して、a)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約50%以上の飽和および/またはb)循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約50%以上の阻害を達成するのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含んでなるものであり、前記飽和および/または阻害が前記用量の投与の後少なくとも約10日間維持されるものである、〔1〕〜〔9〕いずれか記載の使用、
〔11〕前記用量の各々が、該用量の投与の後少なくとも約10日間、少なくとも約1μg/mLの免疫グロブリンの血清濃度、または断片が投与される場合には比例した血清濃度を達成し、かつ維持するのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含んでなるものである、〔1〕〜〔10〕いずれか記載の使用、
〔12〕前記用量の各々が、独立して体重1kg当たり約0.1〜約8mgの免疫グロブリンまたは断片を含んでなるものである、〔1〕〜〔11〕いずれか記載の使用、
〔13〕該用量の間隔が少なくとも7日である、〔1〕〜〔12〕いずれか記載の使用、
〔14〕医薬が、1つ以上のさらなる治療剤と共に投与するためのものである、〔1〕〜〔13〕いずれか記載の使用、
〔15〕前記剤が、ステロイド類、免疫抑制剤、非ステロイド性抗炎症剤および免疫調節剤からなる群より選択されるものである、〔14〕記載の使用、
〔16〕前記剤が、アザチオプリン、6−メルカプトプリン、スルファサラジン、5−アミノサリチル酸、プレドニゾンおよびプレドニゾロンからなる群より選択されるものである、〔14〕記載の使用、
〔17〕ヒトにおける休止状態の炎症性腸疾患の再発および/または回帰の抑制用の医薬の製造のための、α4β7インテグリンに対して結合特異性を有する免疫グロブリンまたはその抗原結合断片の使用であって、該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合せず、該医薬は、初回用量の後、1回以上の続いての用量での投与のためのものであり、任意の2回の用量の最小の間隔が少なくとも約7日間であり、約1ヶ月間に投与される医薬の量が体重1kg当たり約8mg以下の免疫グロブリンまたは断片を含むものである、使用、
〔18〕該免疫グロブリンは、非ヒト起源の抗原結合領域およびヒト起源の免疫グロブリンの少なくとも一部を含んでなる、〔17〕記載の使用、
〔19〕該免疫グロブリンがヒト免疫グロブリンである、〔17〕記載の使用、
〔20〕休止状態が内科的療法または外科的療法によって誘導されている、〔17〕記載の使用、
〔21〕前記炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎またはクローン病である、〔17〕記載の使用、
〔22〕炎症性腸疾患を有するヒトの治療における使用のための、α4β7インテグリンに対して結合特異性を有する免疫グロブリンまたはその抗原結合断片であって、該使用は、初回用量の後、1回以上の続いての用量で該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片を投与する工程を含み、任意の2回の用量の最小の間隔が少なくとも1日間であり、体重1kg当たり8mg以下の免疫グロブリンまたは抗原結合断片が1ヶ月間投与されるものであり、該免疫グロブリンまたは抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合しない、免疫グロブリンまたはその抗原結合断片、
〔23〕該免疫グロブリンはヒト化免疫グロブリンである、〔1〕に記載の使用のための免疫グロブリンまたはその抗原結合断片、
〔24〕該免疫グロブリンはヒト免疫グロブリンである、〔1〕に記載の使用のための免疫グロブリンまたはその抗原結合断片、
〔25〕該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、非ヒト起源の抗原結合領域およびヒト起源の抗体の少なくとも一部を含んでなり、かつα4β7複合体に対して結合特異性を有するものであり、前記抗原結合領域は、以下のアミノ酸配列:
軽鎖:CDR1 配列番号:9
CDR2 配列番号:10および
CDR3 配列番号:11
の軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)ならびに以下のアミノ酸配列:
重鎖:CDR1 配列番号:12
CDR2 配列番号:13および
CDR3 配列番号:14
の重鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)を含んでなるものである、〔22〕または〔23〕記載の使用、
〔26〕該炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎またはクローン病である、〔22〕〜〔25〕いずれか記載の使用、
〔27〕炎症性腸疾患を有するヒトの治療用の医薬の製造のための免疫グロブリンまたはその抗原結合断片の使用であって、該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合せず、該医薬は、初回用量の後、1回以上の続いての用量での投与のためのものであり、任意の2回の用量の最小の間隔が少なくとも約1日間であり、体重1kg当たり約8mg以下の免疫グロブリンまたは断片が約1ヶ月間投与されるものであり、該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合せず、
さらに、該用量の各々が、独立して、
a)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約50%以上の飽和、
b)循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約50%以上の阻害、ならびに
c)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約50%以上の飽和、および循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約50%以上の阻害
からなる群より選択される少なくとも1つを達成するのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含んでなるものであり、ここで、
(i)該飽和が該用量の投与の後少なくとも約10日間維持されるものであるか、
(ii)該阻害が該用量の投与の後少なくとも約10日間維持されるものであるか、または
(iii)該飽和および該阻害の各々が該用量の投与の後少なくとも約10日間維持されるものである、使用、
〔28〕該用量の各々が、独立して、
a)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約60%以上の飽和、
b)循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約60%以上の阻害、または
c)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約60%以上の飽和、および循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約60%以上の阻害
を達成するのに充分な量の免疫グロブリンを含んでなるものである、〔27〕記載の使用、
〔29〕該用量の各々が、独立して、
a)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約70%以上の飽和、
b)循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約70%以上の阻害、または
c)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約70%以上の飽和、および循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約70%以上の阻害
を達成するのに充分な量の免疫グロブリンを含んでなるものである、〔27〕記載の使用、
〔30〕該用量の各々が、独立して、
a)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約80%以上の飽和、
b)循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約80%以上の阻害、または
c)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約80%以上の飽和、および循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約80%以上の阻害
を達成するのに充分な量の免疫グロブリンを含んでなるものである、〔27〕記載の使用、
〔31〕該用量の各々が、独立して、
a)該用量の投与の後少なくとも約14日間、該飽和が達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含むか、
b)該用量の投与の後少なくとも約14日間、該阻害が達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含むか、あるいは
c)該用量の投与の後少なくとも約14日間、該飽和および阻害が達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含む、〔27〕記載の使用、
〔32〕該用量の各々が、独立して、
a)該用量の投与の後少なくとも約30日間、該飽和が達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンを含むか、
b)該用量の投与の後少なくとも約30日間、該阻害が達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンを含むか、あるいは
c)該用量の投与の後少なくとも約14日間、該飽和および阻害が達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンを含む、〔27〕記載の使用、
〔33〕該用量の各々が、独立して、
a)該用量の投与の後少なくとも約60日間、該飽和が達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンを含むか、
b)該用量の投与の後少なくとも約60日間、該阻害が達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンを含むか、あるいは
c)該用量の投与の後少なくとも約14日間、該飽和および阻害が達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンを含む、〔27〕記載の使用、
〔34〕該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、ヒト化免疫グロブリンまたはその抗原結合断片である、〔27〕〜〔33〕いずれか記載の使用、
〔35〕該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、ヒト免疫グロブリンまたはその抗原結合断片である、〔27〕〜〔33〕いずれか記載の使用、
〔36〕任意の2回の用量の間隔が少なくとも14日である、〔1〕〜〔35〕いずれか記載の使用、
〔37〕任意の2回の用量の間隔が少なくとも1ヶ月である、〔1〕〜〔36〕いずれか記載の使用、
〔38〕任意の2回の用量の間隔が少なくとも40日である、〔1〕〜〔37〕いずれか記載の使用、
〔39〕任意の2回の用量の間隔が少なくとも50日である、〔1〕〜〔38〕いずれか記載の使用、
〔40〕任意の2回の用量の間隔が少なくとも60日である、〔1〕〜〔39〕いずれか記載の使用、
〔41〕該免疫グロブリンまたは抗原結合断片が、該ヒトに皮下投与または静脈内投与される、〔1〕〜〔40〕いずれか記載の使用、
〔42〕粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患の治療のための、免疫グロブリンまたはその抗原結合断片を含有する医薬組成物であって、該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合せず、該医薬組成物は、初回用量の後、1回以上の続いての用量での投与のためのものであり、任意の2回の用量の最小の間隔が少なくとも約1日間であり、約1ヶ月間に投与される医薬組成物の量が体重1kg当たり約8mg以下の免疫グロブリンまたは断片を含むものであり、該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合しない、医薬組成物、
〔43〕該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、ヒト化免疫グロブリンである、〔42〕記載の医薬組成物、
〔44〕該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、ヒト免疫グロブリンである、〔42〕記載の医薬組成物、
〔45〕該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、非ヒト起源の抗原結合領域およびヒト起源の抗体の少なくとも一部を含んでなり、かつα4β7複合体に対して結合特異性を有するものであり、前記抗原結合領域は、以下のアミノ酸配列:
軽鎖:CDR1 配列番号:9
CDR2 配列番号:10および
CDR3 配列番号:11
の軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)ならびに以下のアミノ酸配列:
重鎖:CDR1 配列番号:12
CDR2 配列番号:13および
CDR3 配列番号:14
の重鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)を含んでなるものである、〔41〕または〔42〕記載の医薬組成物、
〔46〕前記粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患が、炎症性腸疾患、膵炎、インスリン依存性糖尿病、乳腺炎、胆嚢炎、胆管炎、胆管周囲炎、慢性気管支炎、慢性静脈洞炎、喘息および対宿主性移植片病からなる群より選択されるものである、〔42〕〜〔45〕いずれか記載の医薬組成物、
〔47〕前記粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患が、炎症性腸疾患である、〔42〕〜〔45〕いずれか記載の医薬組成物、
〔48〕炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎またはクローン病である、〔47〕記載の医薬組成物、
〔49〕前記免疫グロブリンまたはその抗原結合断片が、配列番号:6の重鎖可変領域を含んでなるものである、〔42〕、〔43〕および〔45〕〜〔48〕いずれか1項記載の医薬組成物、
〔50〕前記免疫グロブリンまたはその抗原結合断片が、配列番号:8の軽鎖可変領域を含んでなるものである、〔42〕、〔43〕および〔45〕〜〔48〕いずれか1項記載の医薬組成物、
〔51〕前記用量の各々が、独立して、a)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約50%以上の飽和および/またはb)循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約50%以上の阻害を達成するのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含んでなるものであり、前記飽和および/または阻害が前記用量の投与の後少なくとも約10日間維持されるものである、〔42〕〜〔50〕いずれか記載の医薬組成物、
〔52〕前記用量の各々が、該用量の投与の後少なくとも約10日間、少なくとも約1μg/mLの免疫グロブリンの血清濃度、または断片が投与される場合には比例した血清濃度を達成し、かつ維持するのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含んでなるものである、〔42〕〜〔51〕いずれか記載の医薬組成物、
〔53〕前記用量の各々が、独立して体重1kg当たり約0.1〜約8mgの免疫グロブリンまたは断片を含んでなるものである、〔42〕〜〔52〕いずれか記載の医薬組成物、
〔54〕該用量の間隔が少なくとも7日である、〔42〕〜〔53〕いずれか記載の医薬組成物、
〔55〕1つ以上のさらなる治療剤と共に投与するためのものである、〔42〕〜〔54〕いずれか記載の医薬組成物、
〔56〕前記剤が、ステロイド類、免疫抑制剤、非ステロイド性抗炎症剤および免疫調節剤からなる群より選択されるものである、〔55〕記載の医薬組成物、
〔57〕前記剤が、アザチオプリン、6−メルカプトプリン、スルファサラジン、5−アミノサリチル酸、プレドニゾンおよびプレドニゾロンからなる群より選択されるものである、〔55〕記載の医薬組成物、
〔58〕ヒトにおける休止状態の炎症性腸疾患の再発および/または回帰を抑制するための、免疫グロブリンまたはその抗原結合断片を含む医薬組成物であって、該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合せず、該医薬組成物は、初回用量の後、1回以上の続いての用量での投与のためのものであり、任意の2回の用量の最小の間隔が少なくとも約7日間であり、約1ヶ月間に投与される医薬組成物の量が体重1kg当たり約8mg以下の免疫グロブリンまたは断片を含むものであり、該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合しない、医薬組成物、
〔59〕該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、ヒト化免疫グロブリンまたはその抗原結合断片である、〔58〕記載の医薬組成物、
〔60〕該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、ヒト免疫グロブリンまたはその抗原結合断片である、〔58〕記載の医薬組成物
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、炎症性腸疾患を治療するための抗体α4β7インテグリンおよびその使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、マウスAct−1軽鎖シグナルペプチド配列に連結されたマウス(Mus musculus)Act−1軽鎖可変領域のヌクレオチド配列(配列番号:1)および推定アミノ酸配列(配列番号:2)を示す図である。
【図2】図2は、マウスAct−1抗体重鎖可変領域のヌクレオチド配列(配列番号:3)およびアミノ酸配列(配列番号:4)を示す図である。可変領域のヌクレオチド配列は、推定マウスAct−1重鎖シグナルペプチド配列をコードするヌクレオチド配列に連結され、複合配列を生じている。(重鎖領域を増幅したプライマーの同一性は、縮重配列から推定し、シグナルペプチドのアミノ酸配列は、プライマー、下流配列および他のシグナルペプチドの配列に由来していた。図示したシグナルペプチドは、Act−1ハイブリドーマのものと同一でない場合がある。)
【図3】図3は、重鎖シグナルペプチドを有するヒト化Act−1抗体(LDP−02)の重鎖の一部のヌクレオチド配列(配列番号:5)およびアミノ酸配列(配列番号:6)を示す図である。
【図4】図4は、軽鎖シグナルペプチドを有するヒト化Act−1抗体(LDP−02)の軽鎖の一部のヌクレオチド配列(配列番号:7)およびアミノ酸配列(配列番号:8)を示す図である。
【図5】図5は、マウス抗体Act−1およびLDP−02の軽鎖相補性決定領域(CDR1、配列番号:9;CDR2、配列番号:10;CDR3,配列番号:11)および重鎖相補性決定領域(CDR1,配列番号:12;CDR2,配列番号:13;CDR3,配列番号:14)のアミノ酸配列を示す図である。
【図6】図6は、LDP−02の単回投与後の健常人における経時的な平均血清LDP−02レベル(μg/mL)を示すグラフである。平均血清LDP−02レベルは、0.15mg/kgの静脈内(IV)(−黒菱形−)注射または皮下(SC)(−黒四角−)注射による投与後、および0.5mg/kgの静脈内注射(−上向き黒三角−)による投与後36日目までに、無視できるほどになった。しかしながら、血清LDP−02は、1.5mg/kg(−x−)または2.5mg/kg(−*−)の静脈内注射による投与後36日目を過ぎてもなお測定可能であった。
【図7】図7は、LDP−02の投与後のα4β7シグナル(Act−1 mAbで検出)の持続的な損失を示すグラフである。約90%のα4β7シグナルが、LDP−02の投与後に急激に失われ(MESF約10%)、すべてのLDP−02投薬量の投与後も持続した。7日目から22日目の間に、α4β7シグナルは、0.15mg/kg IV投薬群(−黒四角−)および0.15mg/kg SC投薬群(−黒菱形−)で、ベースラインに戻り始めた。22日目から36日目の間では、α4β7シグナルは、0.5mg/kg IV(−上向き黒三角−)投薬群でベースラインに戻り始めた。試験した高LDP−02投薬量(1.5mg/kg(−x−)および2.5mg/kg(−*−))では、α4β7シグナルの損失は、単回IV投薬後36日間以上持続した。2.5mg/kg投薬群(−*−)では、α4β7シグナルの損失は、約70日目まで持続した(データは、本明細書の研究L297−007の付録に提供した)。MESF:平均可溶性蛍光当量(mean equivalent soluble fluorescence)。
【図8】図8は、LDP−02の単回投与後の潰瘍性大腸炎を有する患者における経時的な平均血清LDP−02レベル(μg/mL)を示すグラフである。平均血清LDP−02レベルは、LDP−02の投与後、急激に上昇した。血清LDP−02濃度は、LDP−02を0.15mg/kgで静脈内(−上向き三角−)注射または皮下(−黒丸−)注射により投与された患者において、投薬後10日までに1.0μg/mL未満まで低下した。しかしながら、血清LDP−02濃度は、0.5mg/kgの静脈内注射(−黒四角−)による投与後、約20日間、1.0μg/mL超を維持した。LDP−02の血清濃度は、2.0mg/kgの静脈内投与(−下向き黒三角−)後、約60日間、1μg/mL超を維持した。
【図9】図9は、LDP−02の投与後のα4β7シグナル(Act−1 mAbで検出)の持続的な損失を示すグラフである。約90%のα4β7シグナルが、LDP−02の投与後に急激に失われ(MESF約10%)、シグナルの損失の持続時間は投薬量に依存した。約10日目から、α4β7シグナルは、IV(−黒四角−)注射またはSC(−黒菱形−)注射による0.15mg/kg LDP−02投与群でベースラインに戻り始めた。しかしながら、α4β7シグナルは、0.5mg/kg(−上向き白三角−)静脈内投与群では30日目から60日目の間に、2.0mg/kg(−x−)静脈内投与群では第60日以降に、ベースラインに戻り始めた(データは、本明細書の研究L297−006の付録に提供した)。MESF:平均可溶性蛍光当量。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の概要
本発明は、抗体(例えば、ヒト化抗体、ヒト抗体)を投与する方法に関する。一局面において、本発明は、α4β7インテグリンに対する結合特異性を有する免疫グロブリンの有効量をヒトに投与する工程を含む、粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患を有するヒトの治療方法である。好ましい態様では、体重1kgあたり約8mg以下の免疫グロブリンを約1ヶ月間投与する。特定の態様では、免疫グロブリンは、マウスAct−1 mAbのCDRのアミノ酸配列を有する1つまたはそれ以上の相補性決定領域(CDR)を含み得る。LDP−02は、投与に好ましい抗体である。免疫グロブリンは、複数回の投薬で投与することができ、投薬の間隔は、少なくとも1日以上である。特定の態様では、投薬の間隔は、少なくとも約7、14もしくは21日または約1ヶ月である。一態様では、一投薬あたりの免疫グロブリンの投与量は、投薬後少なくとも約10日間で、循環リンパ球上のα4β7結合部位の約50%以上の飽和、および/または循環リンパ球の表面上でのα4β7インテグリン発現の約50%以上の阻害を達成するのに十分な量でありうる。別の態様では、一投薬あたりの免疫グロブリンの投与量は、投薬後約10日間で、少なくとも約1μg/mLの該免疫グロブリンの血清濃度を達成および維持するのに十分な量でありうる。
【0013】
免疫グロブリンは、単独で、または粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患を治療するための1つ以上の他の薬剤とともに投与することができる。例えば、免疫グロブリンは、ステロイド類、免疫抑制剤、非ステロイド系抗炎症剤または免疫調節剤とともに投与することができる。好ましい態様では、免疫グロブリンは、クローン病または潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を有するヒトを治療するために投与される。
【0014】
発明の詳細な説明
本発明は、被験体に抗体(免疫グロブリン)を投与する方法に関する。一局面では、投与される抗体は、α4β7インテグリンに対する結合特異性を有するヒトまたはヒト化抗体(例えば、哺乳動物α4β7(例えば、ヒト(ホモサピエンス)α4β7)である。好ましくは、ヒトまたはヒト化免疫グロブリンは、少なくとも約107-1、好ましくは少なくとも約108-1、およびより好ましくは少なくとも約109-1の親和性でα4β7インテグリンに結合しうる。一態様では、ヒト化免疫グロブリンは、α4β7インテグリンに結合する非ヒト起源の抗原結合領域と、ヒト定常領域由来の定常領域とを含む。別の態様では、α4β7インテグリンに結合するヒト化免疫グロブリンは、非ヒト起源の相補性決定領域と、ヒト起源の可変フレームワーク領域と、所望により、ヒト起源の定常領域とを含有する。例えば、ヒト化免疫グロブリンは、α4β7インテグリンに結合する非ヒト起源の抗体由来の相補性決定領域とヒト起源の軽鎖由来のフレームワーク領域とを含有する軽鎖、およびα4β7インテグリンに結合する非ヒト起源の抗体由来の相補性決定領域とヒト起源の重鎖由来のフレームワーク領域とを含有する重鎖を含有しうる。
【0015】
天然の免疫グロブリンは、2つの同一の軽鎖(約24kD)および2つの同一の重鎖(約55または70kD)が四量体を形成した共通のコア構造を有する。各鎖のアミノ末端部分は、可変(V)領域として知られており、各鎖の残りのより保存された定常(C)領域とは区別されうる。軽鎖の可変領域内には、J領域として知られるC末端部分がある。重鎖の可変領域内には、J領域に加えてD領域がある。免疫グロブリンにおけるアミノ酸配列のバリエーションのほとんどは、超可変領域または相補性決定領域(CDR)として知られる、抗原結合に直接関与するV領域内の3個の別個の部分に限定される。アミノ末端から順に、これらの領域を、それぞれCDR1、CDR2およびCDR3と称する。CDRは、より保存されたフレームワーク領域(FR)により定位置に保持される。アミノ末端から順に、これらの領域を、それぞれFR1、FR2、FR3、およびFR4と称する。CDR領域およびFR領域の位置および番号付けシステムは、Kabatら(Kabat,E.A.ら、Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版,U.S.Department of Health and Human Services,U.S.Government Printing Office(1991))により規定されている。
【0016】
ヒト免疫グロブリンは、重鎖のアイソタイプに応じてクラスおよびサブクラスに分けることができる。該クラスには、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEが含まれ、ここで、重鎖は、それぞれ、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)またはイプシロン(ε)型である。サブクラスには、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2が含まれ、ここで重鎖は、それぞれγ1、γ2、γ3、γ4、α1およびα2型である。選択されたクラスまたはサブクラスのヒト免疫グロブリン分子は、カッパ(κ)軽鎖またはラムダ(λ)軽鎖のいずれかを有する。例えば、Cellular and Molecular Immunology,Wonsiewicz,M.J.編,第45章,41−50頁,W.B.Saunders Co,Philadelphia,PA(1991);Nisonoff,A.,Introduction to Molecular Immunology,第2版,第4章,45−65頁,Sinauer Associates,Inc.,Sunderland,MA(1984)を参照のこと。
【0017】
本明細書で使用される「免疫グロブリン」という用語は、全抗体およびその生物学的機能性断片を含む。かかる生物学的機能性断片は、対応する完全長抗体の少なくとも1つの抗原結合機能(例えば、Act−1抗体のα4β7に対する特異性)を保持し、好ましくは、そのリガンド(例えば、MAdCAM−1、フィブロネクチン)の1つまたはそれ以上とα4β7との相互作用を阻害する能力を保持する。特に好ましい態様では、生物学的機能性断片は、粘膜アドレシン(MAdCAM−1)へのα4β7の結合を阻害しうる。本明細書に記載のようにして投与しうる生物学的機能性抗体断片の例には、単鎖抗体、Fv、Fab、Fab’およびF(ab’)2 断片などの、α4β7インテグリンに結合しうる断片が含まれる。かかる断片は、酵素的切断により、または組換え技術により作製することができる。例えば、パパインまたはペプシンでの切断により、それぞれFab断片またはF(ab’)2 断片が生じうる。必要な基質特異性を有する他のプロテアーゼもまた、Fab、F(ab’)2 または他の抗原結合性断片を作製するのに使用することができる。また、抗体は、天然の停止部位の上流に1つまたはそれ以上の停止コドンが導入された抗体遺伝子を用いて、種々の切形型で作製することができる。例えば、F(ab’)2 重鎖部分をコードするキメラ遺伝子を設計し、重鎖のCH1 ドメインおよびヒンジ領域をコードするDNA配列を含めることができる。
【0018】
本明細書で使用される「ヒト化免疫グロブリン」という用語は、異なる起源の免疫グロブリンの部分(ここで、少なくとも1つの部分がヒト起源である)を含有してなる免疫グロブリン(抗体)をいう。例えば、ヒト化抗体は、慣用技術(例えば、合成)により化学的に互いに連結されているか、または組換えDNA技術を用いて連続したポリペプチドとして調製された(例えば、キメラ抗体のタンパク質部分をコードするDNAを発現させて、連続したポリペプチド鎖を生成させうる)、必要な特異性を有するマウスなどの非ヒト起源の免疫グロブリン由来の部分と、ヒト起源の免疫グロブリン(例えば、キメラ免疫グロブリン)配列に由来する部分とを含有しうる。ヒト化免疫グロブリンの別の例は、非ヒト起源の抗体由来のCDRと、ヒト起源の軽鎖および/または重鎖由来のフレームワーク領域(例えば、フレームワーク変化を持つ、または持たないCDRグラフト抗体)とを含有する1つまたはそれ以上の免疫グロブリン鎖を含んでなる免疫グロブリンである。キメラまたはCDRグラフト単鎖抗体もまた、ヒト化免疫グロブリンという用語に包含される。例えば、Cabillyら、米国特許第4,816,567号明細書;Cabillyら、欧州特許第0,125,023 B1号明細書;Bossら、米国特許第4,816,397号明細書;Bossら、欧州特許第0,120,694 B1号明細書;Neuberger,M.S.ら、国際公開公報86/01533パンフレット;Neuberger,M.S.ら、欧州特許第0,194,276 B1号明細書;Winter,米国特許第5,225,539号明細書;Winter,欧州特許第0,239,400 B1号明細書;Queenら、欧州特許第0 451 216 B1号明細書;Padlan,E.A.ら、欧州特許出願第0,519,596 A1号明細書を参照のこと。また、単鎖抗体については、Ladnerら、米国特許第4,946,778号明細書;Huston,米国特許第5,476,786号明細書;およびBird,R.E.ら、Science,242:423−426(1988))を参照のこと。特定の態様では、ヒト化免疫グロブリンは、非ヒト起源(例えば、マウス起源)の可変領域およびヒト定常領域の少なくとも一部(例えば、Cγ1)を有する免疫グロブリン鎖(例えば、重鎖)、ならびに少なくとも1つのCDRが非ヒト起源(例えば、マウス起源)であり、フレームワーク領域(FR1、FR2、FR3、FR4)および、任意に定常領域(例えば、Cκ、Cλ)がヒト起源である免疫グロブリン鎖(例えば、軽鎖)を含みうる。
【0019】
ヒト化免疫グロブリンの抗原結合領域(非ヒト部分)は、α4β7インテグリンに対する結合特異性を有する非ヒト起源の免疫グロブリン(ドナー免疫グロブリンと称する)由来でありうる。例えば、好適な抗原結合領域は、マウスAct−1モノクローナル抗体(Lazarovits,A.I.ら、J.Immunol.,133(4):1857−1862(1984))由来でありうる。他の供給源には、齧歯類(例えば、マウス、ラット)、ウサギ、ブタ、ヤギまたは非ヒト霊長類(例えば、サル)などの非ヒト供給源から得られるα4β7インテグリン特異的抗体が含まれる。Act−1抗体またはLDP−02と同じまたは類似のエピトープに結合する抗体などの他のポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を作製しうる(例えば、Kohlerら、Nature,256:495−497(1975);Harlowら、1988,Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor,NY);およびCurrent Protocols in Molecular Biology,第2巻(増補27,‘94夏),Ausubelら編(John Wiley & Sons:New York,NY),第11章(1991))。
【0020】
例えば、抗体は、適当な哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ)中の適切な免疫原に対して生じうる。免疫する抗原の調製法、ならびにポリクローナルおよびモノクローナル抗体製造は、任意の適当な技術を用いて行うことができる。種々の方法が記載されている(例えば、Kohlerら、Nature 256:495−497(1975)およびEur.J.Immunol.6:511−519(1976);Milsteinら,Nature 266:550−552(1977);Koprowskiら,米国特許第4,172,124号明細書;Harlow,EおよびD.Lane,1988,Antibodies: A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory: Cold Spring Harbor,NY); Current Protocols In Molecular Biology,Vol.2(補遺27,1994年、夏),Ausubel,F.M.ら編(John Wiley & Sons:New York,NY),第11章,(1991)を参照)。例えば、適当な免疫化剤は、α4β7を有する細胞、α4β7を含有する膜画分、α4β7を含む適当な免疫原の免疫原断片、適当な担体を結合したβ7ペプチドなどを含む。抗体産生細胞(例えば、リンパ球)は、例えば、免疫された動物のリンパ節や脾臓から単離され得る。次いで、この細胞は適当な不死化細胞〔例えば、ミエローマ細胞株(例えば、SP2/0,P3×63Ag8.653)〕に融合させることができ、それによってハイブリドーマを形成させる。融合細胞は選択的な培養技術を用いて単離され得る。所望の特異性を有する抗体を産生する細胞は、適当なアッセイ(例えば、ELISA)を用いて選択され得る。必要な特異性の抗体(ヒト抗体、非ヒト抗体)を作製しまたは単離する他の適当な方法は、例えば、ライブラリー(例えば、ファージディスプレイライブラリー)から組み換え抗体を選択する方法を含む。ヒト抗体のレパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、XenoMouse(登録商標)(Abgenix,Fremont,CA)は、適当な方法を用いて作製することができる(例えば、国際公開第98/24893号パンフレット(Abgenix)、1998年6月11日公開;Kucherlapate,R.およびJakobovits,A.,米国特許第5,939,598号明細書;Jakobovitsら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:2551−2555(1993);Jakobovitsら,Nature,362:255−258(1993)を参照)。ヒト抗体のレパートリーを産生することができるトランスジェニック動物のさらなる製造方法が記載されている(例えば、Lonbergら、米国特許第5,545,806号明細書;Suraniら,米国特許第5,545,807号明細書;Lonbergら、国際公開第97/13852号パンフレット)。
【0021】
一つの態様において、ヒト化免疫グロブリンの抗原結合領域は、非ヒト起源のCDRを含む。この態様において、α4β7インテグリンに対して結合特異性を有するヒト化免疫グロブリンは、非ヒト起源の少なくとも一つのCDRを含む。例えば、ヒト化免疫グロブリンが非ヒト起源の1つ以上の免疫グロブリン由来の重鎖CDR1、CDR2および/またはCDR3、および/または軽鎖CDR1、CDR2および/またはCDR3を実質的に含むように、CDRは、非ヒト起源の免疫グロブリンの軽鎖および重鎖の可変領域に由来し得、得られたヒト化免疫グロブリンは、α4β7インテグリンに対して結合特異性を有する。好ましくは、選択された鎖の3つのCDR全てがドナーの対応する鎖のCDRと実質的に同じであり、より好ましくは、軽鎖および重鎖の6つのCDR全てが対応するドナーの鎖のCDRと実質的に同じである。好ましい態様において、非ヒト起源の1つ以上のCDRは、マウスAct−1 AbのCDRのアミノ酸配列(配列番号:9−14)を有する。
【0022】
ヒト起源のヒト化免疫グロブリンまたは免疫グロブリン鎖の一部(ヒト部分)は、任意の適当なヒト免疫グロブリンまたは免疫グロブリン鎖に由来し得る。例えば、ヒト定常領域またはその一部は、存在する場合、対立遺伝子変異体を含む、ヒト抗体のκもしくはλ軽鎖、および/またはγ(例えば、γ1、γ2、γ3、γ4)、μ、α(例えば、α1、α2)、δもしくはε重鎖から得ることができる。特定の定常領域(例えば、IgG1)、その変異体またはその一部は、エフェクター機能を調整するために選択され得る。例えば、変異した定常領域(変異体)を、融合タンパク質に組み込んで、Fcレセプターへの結合および/または補体を固定する能力を最小限にすることができる(例えば、Winterら、GB2,209,757B;Morrisonら,国際公開第89/07142号パンフレット;Morganら、国際公開第94/29351号パンフレット、1994年12月22日)。LDP−02は、ヒトFcγレセプターへの結合を低減するように改変された重鎖定常領域(ヒトγ1重鎖定常領域)を含有する。LDP−02Fc改変は、235位と237位にある(即ち、Leu235 →Ala235 およびGly237 →Ala237 )。
【0023】
存在する場合、ヒト起源の(例えば、軽鎖可変領域の)フレームワーク領域は、抗原結合領域ドナーの類似領域(例えば、軽鎖可変領域)との配列類似性を有するヒト抗体可変領域に由来することが好ましい。ヒト化免疫グロブリンのヒト起源部分に対するフレームワーク領域の他の供給源には、ヒト可変コンセンサス配列が含まれる(例えば、Kettleborough,C.A.ら,Protein Engineering 4:773−783(1991);Carterら,国際公開第94/04679号パンフレット、1994年3月3日公開))。例えば、非ヒト部分を得るのに使用される抗体または可変領域の配列は、Kabat,E.A.ら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版,米国保健社会福祉省、米国政府印刷局(1991)に記載のヒト配列と比較することができる。特に好ましい態様において、ヒト化免疫グロブリン鎖のフレームワーク領域は、非ヒトドナー抗体(例えば、マウスAct−1抗体)の可変領域と、少なくとも約65%の全配列同一性、好ましくは少なくとも約70%の全配列同一性を有するヒト可変領域由来である。ヒト部分は、非ヒトドナーの等価部分(例えば、FR)と比べた場合に、使用される特定の部分(例えば、FR)内で少なくとも約65%の配列同一性、好ましくは少なくとも約70%の配列同一性を有するヒト抗体にも由来し得る。アミノ酸配列同一性は、デフォルトパラメーターを使用するレーザージーンシステム(Lasergene system)(DNASTAR社、Madison,WI)などの、適当な配列アライメントアルゴリズムを用いて測定することができる。
【0024】
一つの態様において、ヒト化免疫グロブリンは、ヒト起源の抗体の1つ以上の鎖由来のフレームワーク領域(FR)を少なくとも1つ含む。したがって、FRは、ヒト起源の1つ以上の抗体由来のFR1および/またはFR2および/またはFR3および/またはFR4を含みうる。好ましくは、選択されたヒト化鎖のヒト部分は、ヒト起源の可変領域由来(例えば、ヒト免疫グロブリン鎖由来、ヒトコンセンサス配列由来)のFR1、FR2、FR3およびFR4を含む。
【0025】
ヒト化抗体を調製するのに使用するため、非ヒトおよびヒト起源の免疫グロブリン部分は、免疫グロブリンまたはそれらが由来する免疫グロブリン部分に、またはその変異体に同一の配列を有することができる。かかる変異体は、1つ以上の残基の付加、欠失、または置換により異なる変異体を含む。上記に示されるように、非ヒト起源のCDRは、非ヒトドナーにおいて実質的に同じであり、非ヒトドナーのCDRと同一であることが好ましい。ヒト起源のフレームワーク領域の残基をドナーの対応する位置の残基と置換するなどの、フレームワーク領域の改変を行うことができる。1つ以上のアミノ酸の欠失、挿入および置換を含む1つ以上の変異をフレームワーク領域において行うことができる。選択されたヒト化抗体または鎖について、適当なフレームワーク変異体を設計することができる。好ましくは、ヒト化免疫グロブリンは、非ヒトドナーのものと類似のまたはより良好な親和性でα4β7インテグリンを結合することができる。変異体は、非ヒトドナーまたはアクセプターのヒト鎖の突然変異誘発を含む、種々の適当な方法により作製することができる。
【0026】
ヒトα4β7インテグリンに対して結合特異性を有する免疫グロブリン(例えば、ヒトおよび/またはヒト化免疫グロブリン)は、α4鎖(例えば、mAb HP1/2(Pulido,ら,J Biol Chem 266:10241−10245(1991),マウスMAb21.6およびヒト化MAb21.6(Bendigら,米国特許第5,840,299号明細書))および/またはα4β7ヘテロダイマーのβ7鎖の決定因子(エピトープ)に結合することができる免疫グロブリン(抗原結合性断片を含む)を含む。例えば、特定の態様において、ヒトまたはヒト免疫グロブリンは、特異的にまたは選択的にα4β7複合体の決定因子を結合することができるが、α4鎖またはβ7鎖上の決定因子(エピトープ)を結合することはできない。一つの態様において、ヒトまたはヒト化免疫グロブリンは、α4β7ヘテロダイマー上の組み合わせエピトープ(combinatorial epitope)に対して結合特異性を有し得る。このような免疫グロブリンはα4β7を結合することができるが、例えば、α4β1を結合することはできない。α4β7複合体に対する結合特異性を有する抗体は、マウスAct−1抗体およびLDP−02と呼ばれるヒト化Act−1を含む(LeukoSite社,1998年2月19日公開の国際公開第98/06248号パンフレットおよび1996年8月15日に出願された米国出願第08/700,737号を参照、両方の教示は、すべて参照により本明細書に組み込まれる)。好ましい態様において、ヒト化免疫グロブリンは、結合作用(例えば、α4β7インテグリンに対する特異性を有する、同一または類似のエピトープ特異性を有する)、および/または阻害作用(例えば、インビトロおよび/またはインビボにおけるα4β7インテグリンのMAdCAM−1への結合を阻害する能力、あるいはα4β7インテグリンを有する細胞のそのリガンドへの結合を阻害する能力(例えば、MAdCAM−1を有する細胞)などの、インビトロおよび/またはインビボでのα4β7依存性接着を阻害する能力)などの、マウスAct−1抗体に特徴的な少なくとも1つの作用を有する。したがって、好ましいヒト化免疫グロブリンは、α4β7に対する結合について、マウスAct−1抗体の結合特異性、マウスAct−1抗体のエピトープ特異性(例えば、マウスAct−1、キメラAct−1抗体、またはヒト化Act−1(例えば、LDP−02)と(例えば、α4β7インテグリンを有する細胞上で)競合することができる)、および/または阻害作用を有し得る。前記方法に従って投与するのに特に好ましいヒト化Abは、LDP−02である。
【0027】
α4β7インテグリンに対する結合特性を有するヒトまたはヒト化免疫グロブリンの結合作用は、標準的な免疫学的な方法、例えば、ヒト化免疫グロブリンとα4β7インテグリン〔例えば、ヒトリンパ球(例えば、CD4+ α4hiβloサブセットのリンパ球)、α4β7インテグリンを発現するα4および/またはβ7をコードする核酸を含むヒトリンパ球系または組み換え宿主細胞などの、α4β7インテグリンを有する細胞上のα4β7インテグリンを含む膜画分〕との複合体形成をモニターするアッセイを用いる方法によって検出され得る。結合および/または接着アッセイあるいは他の適当な方法を、必要な特異性をもつ(例えば、ライブラリー由来の)免疫グロブリン(例えば、ヒトおよび/またはヒト化免疫グロブリン)の同定および/または単離手法(例えば、α4β7インテグリンを有する細胞とそのリガンド(例えば、MAdCAMを発現する第二の細胞、固定化MAdCAM融合タンパク質(例えば、MAdCAM−Igキメラ)との間の接着をモニターするアッセイ)または他の適当な方法に用いることもできる。
【0028】
ヒト化免疫グロブリンを調製するのに用いられる非ヒトおよびヒト起源の免疫グロブリン部分は、軽鎖、重鎖ならびに軽鎖および重鎖部分を含む。これらの免疫グロブリン部分は、(例えば、部分のデノボ合成より)免疫グロブリンから得るまたは由来しうる、または所望の特性(例えば、α4β7インテグリンを結合すること、配列類似性)を有する免疫グロブリンもしくはその鎖をコードする核酸を作製し、発現させることができる。所望のヒト化鎖をコードする遺伝子(例えば、cDNA)を作製するため、ヒトまたは非ヒト起源の所望の部分(例えば、抗原結合領域、CDR、FR、定常領域)を含むヒト化免疫グロブリンを合成および/または組み換え核酸を用いて作製することができる。鎖部分を調製するため、1つ以上の停止コドンを所望の位置に導入することができる。例えば、新たに設計されたヒト化可変領域をコードする核酸(例えば、DNA)配列を、PCR突然変異誘発方法を用いて、既存のDNA配列を改変するために構築することができる(例えば、Kamman,M.ら、Nucl.Acids Res. 17:5404(1989)を参照)。新規なCDRをコードするPCRプライマーを、同じ、または非常に類似したヒト可変領域に基づく、予めヒト化された可変領域のDNAテンプレートにハイブリダイズさせることができる(Sato,K.ら,Cancer Research 53:851−856(1993))。類似のDNA配列がテンプレートとしての使用に利用できない場合、可変領域配列をコードする配列を含む核酸を、合成オリゴヌクレオチドから構築することができる(例えば、Kolbinger,F.,Protein Engineering 8:971−980(1993)を参照)。シグナルペプチドをコードする配列も核酸(例えば、合成の際、ベクターに挿入する際)組み込むことができる。天然のシグナルペプチド配列が入手できない場合、他の抗体由来のシグナルペプチド配列を使用することができる(例えば、Kettleborough,C.A.,Protein Engineering 4:773−783(1991)を参照)。これらの方法、本明細書に記載の方法または他の適当な方法を用いて、容易に変異体を作製することができる。一つの態様において、(例えば、LDP−02の)クローン化された可変領域に突然変異を起こさせることができ、そして所望の特異性を有する変異体をコードする配列を選択することができる(例えば、ファージライブラリーから;例えば、Krebberら,米国特許第5,514,548号明細書;Hoogenboomら、国際公開第93/06213号パンフレット、1993年4月1日公開)を参照)。
【0029】
ヒトおよび/またはヒト化免疫グロブリンを、本発明の方法に従い、治療目的および/または診断目的で(例えば、ヒトに)投与することができる。例えば、粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患(例えば、クローン病または潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患)を治療するために、α4β7インテグリンに対して結合特異性を有するヒトおよび/またはヒト化免疫グロブリンの有効量をヒトに投与することができる。処置には、治療的または予防的な処置が含まれる(例えば、維持療法)。この方法によれば、疾患を予防又は遅延させる(例えば、発症を遅らせる、緩解または鎮静を延長する)ことができたり、あるいは疾患の重篤度を全体的または部分的に低減させることができる。
【0030】
一つの態様において、約1ヵ月間に体重1kgあたり約8mg以下の免疫グロブリンを投与する。さらなる態様では、約1ヵ月間に体重1kgあたり約7mg以下または約6mg以下または約5mg以下または約4mg以下または約3mg以下または約2mg以下または約1mg以下の免疫グロブリンを投与する。本明細書に用いられるように、「月」とは、暦の月をいい、28日、29日、30日および31日の期間を含む。ヒトまたはヒト化免疫グロブリンの抗原結合性断片を投与すべき場合、約1ヵ月間に投与される量は、断片のサイズにしたがって調整することができる。例えば、抗原結合性断片が完全抗体の重量の約半分のサイズである場合(例えば、kDaで測定)、約1ヵ月間に投与される量は体重1kgあたり約4mg以下であり得る。投与される免疫グロブリンまたは抗原結合性断片の量は、mg/kg体重としてまたは任意の他の適当な単位を用いて表現され得る。例えば、免疫グロブリンまたは抗原結合性断片の投与量は、体重1kgあたり抗原結合部位のモルとして表現され得る。抗原結合部位のモル数は、免疫グロブリンまたは断片のサイズ、量および結合価に依存し、容易に測定することができる。例えば、IgGおよびそのF(ab’)2 断片は2価であり、1ナノモルのIgGまたはF(ab’)2 断片を含む1用量は、2ナノモルの抗原結合部位を含む。抗体または抗原結合性断片のサイズは、任意の適当な方法(例えば、ゲル濾過)を用いて測定することができる。
【0031】
ヒトもしくはヒト化抗体または抗原結合性断片は、単回量または初回量後の1以上の二次投与量で投与され得る。反復投与が望ましい場合、所望の治療および/または診断効果を達成するために、投与間の間隔および免疫グロブリンまたは抗原結合性断片の量を調節することができる。例えば、投与すべき各用量は体重1kgあたり約8mgまでの免疫グロブリンまたは断片を独立して含有することができる。1回の投与量が体重1kgあたり約8mgの免疫グロブリンまたは断片を含む場合、次の用量が投与される前の最小限の間隔は約1ヵ月間である。好ましくは、各用量は、体重1kgあたり約0.1〜約8mgまたは約0.1〜約5mgの免疫グロブリンまたは断片を独立して含む。さらに好ましくは、各用量は、体重1kgあたり約0.1〜約2.5mgの免疫グロブリンまたは断片を含む。最も好ましくは、各用量は、体重1kgあたり約0.15mg、約0.5mg、約1.0mg、約1.5mgまたは約2.0mgの免疫グロブリンまたは断片を独立して含む。
【0032】
2つの投与の間隔(例えば、初回量と最初の二次投与量、1回目の二次投与量と2回目の二次投与量)はいずれも、個々に数秒または数分から約120日以上まで変化し得る。例えば、初回量を投与することができ、1回目の二次投与量を約1日後に投与することができる。その後、2回目および3回目の二次投与量を約1ヵ月の間隔で投与することができる。一般に、投与間の最小限の間隔は、少なくとも約1日間または少なくとも約7日間である。特定の態様において、投与間の最小限の間隔は、少なくとも約14日間、または少なくとも約21日間、または少なくとも約1ヵ月間(例えば、28日、29日、30日、31日)である。さらなる態様において、投与間の間隔は、少なくとも約40日、約50日、約60日、約70日、約80日、約90日、約100日、約110日または約120日であってもよい。
【0033】
各投与で投与されるヒトもしくはヒト化免疫グロブリンまたはその抗原結合性断片の量は、所望の薬動力学的または薬力学的な効果を生じるのに十分な量であり得る。種々のヒトおよび/またはヒト化免疫グロブリンまたはその抗原結合性断片の薬動力学的または薬力学的パラメーターは、適当な方法を用いて測定することができる。例えば、抗体および抗原結合性断片の薬力学的パラメーター(例えば、抗原飽和、抗原発現の抗体誘導阻害)を、適当な免疫アッセイを用いて測定することができる。例えば、本明細書に記載されるように、LDP−02の投与後のα4β7シグナル(即ち、α4β7への標識した抗体の結合)をフローサイトメトリーで測定した。そのアッセイの結果は、LDP−02の投与が、循環しているリンパ球表面上でα4β7の飽和および/またはα4β7の発現の阻害を生じ得ることを示した。
【0034】
したがって、各投与量は、用量投与後、少なくとも約10日間で、a)循環しているリンパ球(例えば、CD8+ 細胞)上のα4β7インテグリン結合部位の約50%以上の飽和および/またはb)循環しているリンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約50%以上の阻害を達成するのに十分な量の免疫グロブリンまたは断片を含むことができる。別の態様において、各用量は、用量投与後、少なくとも約10日間で、a)循環しているリンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約60%以上、約70%以上、約80%以上または約85%以上の飽和および/またはb)循環しているリンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約60%以上、約70%以上、約80%以上または約85%以上の阻害を達成および維持するのに十分な量の免疫グロブリンまたは断片を含むことができる。
【0035】
他の詳細な態様において、各用量は、循環リンパ球(例えば、CD8+細胞)上のα4β7インテグリン結合部位の所望の飽和度を達成するおよび/または用量の投与後少なくとも約14日、少なくとも約20日、少なくとも約25日または少なくとも約一ヶ月の期間、所望の程度で循環リンパ球の細胞表面上のα4β7インテグリンの発現を阻害するのに十分な量の免疫グロブリンまたは断片を含有しうる。さらなる態様において、各用量は、循環リンパ球(例えば、CD8+細胞)上のα4β7インテグリン結合部位の所望の飽和度を達成するおよび/または少なくとも約40日、約50日、約60日、約70日、約80日、約90日、約100日、約110日または約120日の期間、所望の程度で循環リンパ球の細胞表面上のα4β7インテグリンの発現を阻害するのに十分な量の免疫グロブリンまたは断片を含有しうる。
【0036】
所望の血清濃度を達成するあるいは標的抗原の発現を飽和するおよび/または阻害するのに必要な抗体の用量を決定する適切なアッセイが、容易に設計されうる。例えば、フローサイトメトリーに基づくアッセイが、α4β7に結合する免疫グロブリン(例えば、ヒトまたはヒト化)の投与後の被験体から単離された細胞の表面上のα4β7発現を測定するのに使用されうる。1つの態様において、ヒトα4β7に結合するマウス抗体が使用されうる。好ましくは、マウス抗体は、ヒトまたはヒト化免疫グロブリンにより結合されるエピトープとは異なるα4β7のエピトープに結合し得、α4β7に対するマウス抗体の結合はヒト化免疫グロブリンの先の結合により阻害(例えば、遮断)されない。これらの特性を有するマウス抗体または他の抗体は、本明細書に記載の方法または他の適切な方法を用いて調製および選択されうる。ヒトから単離された循環リンパ球(例えば、CD8+細胞)上のα4β7発現のレベルは、各抗体(すなわち、投与される免疫グロブリン、マウス抗体)を用いてフローサイトメトリーまたは他の適切な方法により測定または決定されうる。次いで、投与されるヒトまたはヒト化抗体がヒトに投与され得、投与後所定の時間に末梢血液が抜き取られ得、リンパ球が解析のために単離(例えば、密度勾配遠心分離法による)されうる。末梢血液リンパ球(例えば、CD8+細胞)は各抗体を用いて染色され得、各抗体により検出されたα4β7の量は、フローサイトメトリーまたは他の適切な方法により測定または検出されうる。ヒトまたはヒト化免疫グロブリンを用いて測定または決定されたα4β7インテグリンの量における減少は、a)投与された免疫グロブリンによる持続性のインテグリン占有(例えば、抗原飽和)および/またはb)リンパ球の表面上のα4β7発現の阻害(例えば、α4β7のダウンモジュレーション、α4β7の減少(shedding))を示す。マウス抗体を用いて測定または決定されたα4β7インテグリンの量に変化のないヒトまたはヒト化免疫グロブリンを用いて測定または決定されたα4β7インテグリンの量における減少は、投与されたヒトまたはヒト化免疫グロブリンによるα4β7の持続性の占有(例えば、飽和)を示す。マウス抗体を用いて測定または決定されたα4β7インテグリンの量における減少を有するヒトまたはヒト化免疫グロブリンを用いて測定または決定されたα4β7インテグリンの量における減少は、循環リンパ球の表面上のα4β7発現の阻害を示す。
【0037】
前記抗体の投与後の時間に関する該抗体の血清濃度などの薬物動態学のパラメーターが、ELISAまたは細胞ベースアッセイなどのイムノアッセイを用いて測定されうる。例えば、本明細書に記載されるように、抗体(LDP−02)の単回投与後の所定の時点でのヒト化抗α4β7免疫グロブリン(LDP−02)の血清濃度を、細胞ベースアッセイを用いて測定した。アッセイの結果、LDP−02の血清濃度はヒト化抗体の投与後約10日間以上高いまま(例えば、1μg/mL以上)でありうることが明らかになった。血清中にLDP−02が延長して存在することは、α4β7機能の持続性阻害、例えば、α4β7が媒介するMAdCAMへの白血球の接着の持続性阻害を生じる結果として優れた効能を示しうる。
【0038】
したがって、投与される各用量は、用量の投与後少なくとも約10日間少なくとも約1μg/mLの血清濃度を達成および維持するのに十分な量の免疫グロブリンまたは断片を含有しうる。詳細な態様において、各用量は、用量の投与後少なくとも約14日、少なくとも約20日、少なくとも約25日または少なくとも約一ヶ月間、少なくとも約1μg/mLの血清濃度を達成および維持するのに十分な量の免疫グロブリンまたは断片を含有しうる。さらなる態様において、各用量は、少なくとも約40、約50、約60、約70、約80、約90、約100、約110または約120日間、少なくとも約1μg/mLの血清濃度を達成および維持するのに十分な量の免疫グロブリンまたは断片を含有しうる。
【0039】
本明細書に記載されるように、ヒトまたはヒト化免疫グロブリンの抗原結合性断片は、インタクトであるかまたは天然の免疫グロブリンより実質的に小さいものであり得、それゆえにタンパク質1単位(μg)当たりより多くの抗原(α4β7)に結合しうる。したがって、優れた効能を示しうるヒトまたはヒト化免疫グロブリンの抗原結合性断片の血清濃度は、1μg/mL未満でありうる。したがって、ヒトまたはヒト化免疫グロブリンの抗原結合性断片の投与が所望である場合、用量は、インタクトな免疫グロブリンについて1μg/mLに比例する血清濃度に達するのに十分な量の抗原結合性断片を含有しうる。例えば、抗原結合性断片が重量によりインタクトな抗体の約半分の大きさである場合(例えば、kDaで測定する)、用量は、少なくとも約10日間約0.5μg/mLの血清濃度を達成および維持するのに十分な量を含有しうる。免疫グロブリンまたは抗原結合性断片の所望の血清濃度を、μg/mLとして、または他の適切な単位を使用して表しうる。例えば、投与される免疫グロブリンまたは抗原結合性断片の量は、血清容積当たりの抗原結合部位のモル(例えば、M)として表されうる。
【0040】
ヒトおよびヒト化免疫グロブリンは、本発明によりインビボ診断適用のため、または治療(予防を含む)適用におけるα4β7インテグリン機能を調節するために投与されうる。例えば、ヒトおよびヒト化免疫グロブリンは、被験体におけるα4β7インテグリンのレベルを検出および/または測定するために使用されうる。例えば、α4β7インテグリンに対する結合特異性を有するヒト化免疫グロブリンをヒトに投与することができ、形成される抗体−α4β7インテグリン複合体が適切な方法を用いて検出されうる。例えば、ヒト化抗体は、例えば、放射性核種( 125I、 111In、テクネチウム99m)、エピトープ標識(tag)、アフィニティー標識(例えば、ビオチン、アビジン)、スピン標識、酵素、蛍光基または化学発光基で標識され得、適切な検出方法が使用されうる。本方法の適用において、ヒト化免疫グロブリンは、α4β7インテグリンの反応性および/または発現に関して正常組織対炎症組織(例えば、ヒト由来)を解析する(例えば、放射線学的に)ため、またはIBDもしくは他の状態とα4β7の増加した発現(例えば、罹患組織における)との関連を検出するために使用されうる。本明細書に記載される免疫グロブリンは、正常組織対炎症組織におけるα4β7インテグリンの存在の評価のために本発明の方法により投与され得、それによって疾患の存在、疾患の発達および/または炎症性疾患における抗α4β7インテグリン療法の効能が評価されうる。
【0041】
ヒトおよびヒト化免疫グロブリン(抗原結合性断片を含む)は、α4β7インテグリンの結合機能および/または白血球(例えば、リンパ球、単球)浸潤機能を調節する(例えば、阻害する(低減または阻止する))ために個体に投与されうる。例えば、リガンド(すなわち1つ以上のリガンド)へのα4β7インテグリンの結合を阻害するヒトおよびヒト化免疫グロブリンは、組織、特に分子MAdCAMを発現する組織の白血球(例えば、リンパ球、単球)の浸潤(組織における白血球の漸増および/または蓄積を含む)に関連する疾患の治療方法により投与されうる。ヒト免疫グロブリンもしくはその抗原結合性断片またはヒト化免疫グロブリンもしくはその抗原結合性断片(すなわち、1つ以上の免疫グロブリンもしくは断片)の有効量が、かかる疾患を治療するために個体(例えば、ヒトまたは他の霊長類などの哺乳動物)に投与される。例えば、胃腸管(腸関連内皮を含む)、他の粘膜組織、または分子MAdCAM−1を発現する組織(例えば、小腸および大腸の粘膜固有層の細静脈などの腸関連組織;および乳腺(例えば、乳汁分泌乳腺))の白血球浸潤に関連する疾患を含む炎症性疾患は、本発明の方法により治療されうる。同様に、MAdCAM−1を発現する細胞(例えば、内皮細胞)への白血球の結合を生じる組織の白血球浸潤に関連する疾患を有する個体が、本発明により治療されうる。
【0042】
特に好ましい態様において、治療されうる疾患としては、したがって、潰瘍性大腸炎、クローン病、回腸炎、セリアック病、非熱帯性スプルー、セロネガティブ関節症に関連する腸症、微視的またはコラーゲン蓄積大腸炎、好酸球性胃腸炎、直腸結腸切除術後生じる回腸嚢炎、および回腸肛門吻合などの炎症性腸疾患(IBD)が挙げられる。
【0043】
膵炎およびインスリン依存性糖尿病は、本方法を用いて治療されうる他の疾患である。NOD(非肥満糖尿病)マウス、ならびにBALB/cマウスおよびSJLマウス由来の外分泌膵臓においていくつかの管によりMAdCAM−1が発現されることが報告されている。報告によれば、MAdCAM−1の発現はNODマウスの膵臓の炎症した島において内皮上で誘導され、MAdCAM−1は、インスリン炎の初期段階にNOD島内皮により発現された優勢アドレシン(addressin) であった(Hanninen, A. ら、J. Clin. Invest., 92: 2509-2515(1993))。さらに、島内でα4β7を発現するリンパ球の蓄積が観察され、MAdCAM−1は、炎症した島由来の管へのリンパ腫細胞のα4β7を介する結合に影響を与えた(Hanninen, A. ら、J. Clin. Invest., 92: 2509-2515(1993))。
【0044】
本発明の方法により治療されうる粘膜組織に関連する炎症性疾患の例としては、乳腺炎(乳腺)、胆嚢炎、胆管炎、胆管周囲炎(胆管および肝臓の周囲組織)、慢性気管支炎、慢性静脈洞炎、喘息、および対宿主性移植片病(例えば、胃腸管内)が挙げられる。クローン病で見られるように、炎症はしばしば粘膜表面を超えて拡大し、それゆえに過敏性肺炎、膠原病、類肉腫症、および他の特発性の状態などの間質性線維症を生じる肺の慢性炎症性疾患が、治療を受けうる。
【0045】
治療は、治癒的であり得、寛解もしくは静止状態を誘導し得、または進行中の疾患の再発もしくは回帰を阻止しうる。本方法により、治療は、例えば、一時的または慢性でありうる(例えば、進行中の疾患の長期にわたる治療、静止状態の疾患を維持する、静止状態を誘導および静止状態を維持する)。
【0046】
特に好ましい態様において、α4β7インテグリンに結合特異性を有するヒトまたはヒト化免疫グロブリンは、潰瘍性大腸炎またはクローン病などの炎症性腸疾患を有するヒトに投与される。免疫グロブリンは、進行中の疾患を治療するためおよび/または静止状態を維持する(すなわち、再発または回帰を阻害する)ために投与されうる。詳細な態様において、1つ以上の他の薬剤(例えば、ステロイド類(プレドニゾン、プレドニゾロン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH))、シクロスポリンA、FK506、TNFαに結合特異性を有する抗体(インフリキシマブ(infliximab)、CDP571)、アザチオプリン(azathioprene)、6−メルカプトプリン、5−アミノサリチル酸(5−ASA)または5−ASAを含む化合物(例えば、スルファサラジン(sulfsalazine)、オルサラジン(olsalazine)、バルサラジド(balsalazide) 、抗生物質(例えば、メトロニダゾル)、インターロイキン(IL−10、IL−11)、ニコチン、ヘパリン、サリドマイド、リドカイン(lidocane))または手術(例えば、腸切除)での治療により誘導されている炎症性腸疾患の静止状態を維持するために、ヒトまたはヒト化免疫グロブリンが投与されうる。
【0047】
ヒト免疫グロブリンもしくはその抗原結合性断片またはヒト化免疫グロブリンもしくはその抗原結合性断片は、有効量で投与される。治療に関して有効量は、所望の治療(予防を含む)効果を達成するのに十分な量(例えば、α4β7インテグリンが媒介するそのリガンドへの結合および/またはシグナル伝達を低減または阻止し、それにより白血球の接着および浸潤および/または関連する細胞応答を阻害するするのに十分な量;寛解を誘導するまたは疾患の再発もしくは回帰を阻止するのに十分な量)である。ヒト免疫グロブリンもしくはその抗原結合性断片またはヒト化免疫グロブリンもしくはその抗原結合性断片は、本明細書に記載される単回用量でまたは初期用量、続く1回以上の引き続く用量で投与されうる。特定の用量ならびに投与間で投与される免疫グロブリンまたは抗原結合性断片の量は、一般的健康、年齢、性別、体重および薬物に対する耐性ならびに疾患の型および重篤性などの個体の特徴に依存しうる。当業者は、これらのおよび他の因子に依存して適当な用量を決定しうるであろう。
【0048】
本方法により、ヒトまたはヒト化免疫グロブリンが、個体(例えば、ヒト)に単独でまたは他の薬剤(すなわち、1つ以上のさらなる薬剤)と共に投与されうる。ヒトまたはヒト化免疫グロブリンは、さらなる薬剤の投与前、投与と同時または投与後に投与されうる。1つの態様において、α4β7インテグリンのそのリガンドへの結合を阻害する1をこえるヒトまたはヒト化免疫グロブリンが投与される。別の態様において、内皮リガンドへの白血球の結合を阻害する抗MAdCAM−1抗体、抗VCAM−1抗体、または抗ICAM−1抗体などの抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体)が、α4β7インテグリンに結合するヒトまたはヒト化免疫グロブリンに加えて投与される。さらに他の態様において、さらなる薬理学的活性成分(例えば、5−アミノサリチル酸(5−ASA)または5−ASAを含む化合物(例えば、スルファサラジン、オルサラジン、バルサラジド)、他の非ステロイド抗炎症性化合物、またはステロイド抗炎症性化合物(例えば、プレドニゾン、プレドニゾロン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH))、免疫抑制剤(アザチオプリン、6−メルカプトプリン、シクロスポリンA、FK506)、免疫調節剤(例えば、TNFαに対する結合特異性を有する抗体(インフリキシマブ、CDP571)、サリドマイド、インターロイキン(例えば、組換えヒトIL−10、組換えヒトIL−11)、抗生物質(例えば、メトロニダゾル)、ニコチン、ヘパリン、リドカイン)が、本発明のヒト化免疫グロブリンと共に投与されうる。
【0049】
種々の投与経路が可能であり、必ずしも限定されないが、治療される疾患または状態に依存して、非経口(例えば、静脈内、動脈内、筋内、鞘内、皮下注射)、経口(例えば、食事)、局所、吸入(例えば、気管支内、鼻腔内または経口吸入、点鼻薬)、または直腸が挙げられる。非経口投与、特に静脈内注射および皮下注射が好ましい。
【0050】
ヒト免疫グロブリンまたはその抗原結合性断片および/またはヒト化免疫グロブリンまたはその抗原結合性断片が、粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患(例えば、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病)の治療のための医薬組成物または生理学的組成物の要素として個体に投与されうる。かかる組成物は、本明細書に記載されるα4β7インテグリンに結合特異性を有する免疫グロブリンまたは抗原結合性断片、および薬学的または生理学的に許容されうるキャリアを含有しうる。同時療法(co-therapy)のための医薬組成物または生理学的組成物は、α4β7インテグリンに結合特異性を有する免疫グロブリンまたは抗原結合性断片および1つ以上のさらなる治療剤を含有しうる。α4β7インテグリン機能に対する結合特異性を有する免疫グロブリンまたは抗原結合性断片と、さらなる治療剤とは、投与前に共に混合しうるかまたは別々に投与しうる異なる組成物の成分でありうる。処方は、選択された投与経路により変化するであろう(例えば、溶液、乳液、カプセル)。適切なキャリアは、免疫グロブリンまたはその抗原結合性断片および/またはさらなる治療剤と相互作用しない不活性成分を含みうる。レミントン(Remington) の製薬科学、Mack Publishing Company, Easton, PA に記載されているような標準の薬学処方技術が、使用されうる。非経口投与のための適切なキャリアとしては、例えば、滅菌水、生理食塩水、静菌食塩水(約0.9%ベンジルアルコールを含む食塩水)、リン酸緩衝化食塩水、ハンクス溶液、リンガー乳酸などが挙げられる。組成をカプセルに入れる(例えば、硬質ゼラチンまたはシクロデキストランのコーティング内など)方法は、当該分野で公知である(Baker, ら、「生物学的活性薬剤の制御された放出」、Jhon WileyおよびSons, 1986) 。吸入に関しては、薬剤は、可溶化され、投与のための適切なディスペンサー(例えば、アトマイザ、ネブライザ、加圧エーロゾルディスペンサー)内に充填されうる。
【0051】
本発明を以下実施例により説明するが、いかなる限定も意図しない。
【実施例】
【0052】
実施例
導入
LDP−02は、α4β7インテグリンに結合するヒト化IgG1モノクローナル抗体であり、ほとんどのTおよびBリンパ球の表面上に存在する細胞表面糖タンパク質である。α4β7は、ホーミング受容体MAdCAM−1との接着相互作用を介して、胃腸粘膜および腸関連リンパ組織へのリンパ球輸送を媒介する。α4β7−MAdCAM−1相互作用を遮断することにより、LDP−02は、血管系から胃腸粘膜への白血球の漸増を阻害し得、したがって、潰瘍性大腸炎およびクローン病などの炎症性腸疾患(IBD)を罹患する患者における炎症性活性に有利な効果を有する。
【0053】
この段落は、完結した2つのLDP−02臨床試験からの情報を示す。これらの試験は、健康な被験体において行なわれた1つの完結した相Iの研究(研究L297−007)および潰瘍性大腸炎(UC)を罹患した患者における1つの完結した相Ib/IIa試験(研究L297−006)を含む。表Iは、各研究を説明する。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例1:研究L297-007
「健康な男性ボランティアにおける皮下および静脈内経路により投与されたLDP-02の耐容性、薬動力学および薬物動態学を調査するプラセボ−対照、二重盲検、上昇用量研究」と題された研究L297-007は完了しており、最終的な結果をこのセクションで示す。
【0056】
研究設計
研究L297-007は、健康な男性ボランティアにおける無作為化、二重盲検、プラセボ−対照、上昇単一用量研究であった。全ての封入(inclusion )/排除(exclusion )判定基準に適合する18〜50歳の健康な男性ボランティアを、研究グループにより経時的に研究に登録し、各研究グループ内で、LDP-02またはプラセボ(すなわち、等張性クエン酸ナトリウム緩衝液)を無作為に割り当てて与えた。被験体の危険性を最小にするために、安全性および耐容性を次の用量レベルに増大させる前に各用量レベルで再検討した。治療グループおよび研究のために計画された被験体の数を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
研究1日目に、LDP-02またはプラセボを、大腿へのSC(グループ1 SC 用量のみ)または30分間一定速度でのIV注入のいずれかで投与した(グループ1〜4)。安全性評価には、有害事象の記録、身体検査、生命徴候、臨床検査(すなわち、血液学、血液化学、および尿検査)、血漿サイトカインレベル、および12リード心電図(ECG )が含まれた。さらに、これはLDP-02の最初の臨床試験であったので、連続心臓モニタリングを投薬前から投薬の4時間後まで行った。血液サンプルを得て、LDP-02に対する抗- 抗体応答、サイトカインレベル、血清LDP-02濃度(薬物動態学)、およびα4 β7 レセプターおよびリンパ球サブセットの飽和および結合部位占有(薬動力学)を評価した。研究評価を、治療の36日後までの特定の時間に行った。36日目の薬物動態学的および薬力学的(免疫学的)分析の結果の後、プロトコルを修正し、LDP-02を与えた被験体に対してさらに採血できるようにした。これらの採血を用いて、定量できなくなるまで(すなわち、定量の限界未満[BLQ] )LDP-02血清レベルを追跡し、α4 β7 飽和および記憶細胞集団がベースライン(投薬前)レベルに戻ったことを確認した。この修正は、終末相動力学の特徴が36日までに十分に確立されていない高用量グループで特に重要であった。
【0059】
研究結果
薬物動態学
血清LDP-02のアッセイを、確証された細胞ベースアッセイを用いて行った。標準およびサンプルを、α4 β7 抗原を発現する標的細胞株(HUT-78)とともにインキュベートした。洗浄の後、蛍光標識ポリクローナル抗ヒトIgG1を添加した。蛍光強度をフローサイトメトリーにより測定し、LDP-02標準の蛍光強度と比較した。次いで、LDP-02の効果的な血清濃度を、サンプルと既知の濃度のLDP-02で作成した検量線との比較により規定した。
【0060】
LDP-02血清濃度を決定するための血液サンプルを、投薬前、投薬の1、1.5 、3、8、12および24時間後、ならびに3、5、7、8、15、22、および36日後に収集した。LDP-02が36日目に依然として検出可能であることが知られていた場合、レベルがアッセイの定量の限界未満に低下するまでLDP-02を与えた被験体から採血した。LDP-02を与えた14名の被験体の内の13名が、投薬の最大226 日後までの追跡調査採血に関して回復した。
【0061】
個々の患者による時間経過におけるLDP-02濃度およびLDP-02用量グループによる平均薬物動態学的パラメータは、研究L297-007の付録に示す。時間経過における平均LDP-02血清濃度を、全ての治療グループの最終採血に対して図6にプロットする。
【0062】
【表3】

【0063】
4つの用量グループについて平均単一用量IV薬物動態学的パラメータの値を得た(C max 、t1/2z およびAUG )。追跡調査サンプル(すなわち、36日を超えて採取したもの)は、病巣が安全であった場合、濃度−時間プロフィールのいくつかのさらなる特徴付けを可能にした。約10日の2つのより低い用量グループ(0.15および0.5mg/kg)とより高い用量グループ(1.5 および2.5mg/kg)との間のt1/2z 値における差異は、より高い用量グループの「真の」終末期が特徴付けられなかったことにおいて説明され得た。より低い用量のLDP-02(0.15および0.5mg/kg)の非区画(non-compartmental)薬物動態学は、充分に特徴付けられ、用量が2.5mg/kgに上昇したときに非線状薬物動態学が明らかになった。
【0064】
LDP-02の薬力学的効果の評価
蛍光活性化細胞分取(FACS)解析を用いて、LDP-02投与の前および後の末梢血リンパ球上のα4 β7 部位の存在を測定した。抗体によって認識されるα4 β7 を検出するために、ビオチン標識ACT-1 、LDP-02のマウスホモログを患者血液サンプルに加え、PE- ストレプトアビジンを用いて検出した。標準化した平均等価可溶性蛍光(MESF)は、検出可能α4 β7 部位の数に比例する。
【0065】
時間経過における血清α4 β7 結合(MESF値および投与後の各時間点でのベースラインのパーセンテージ)は、個々の被験体および研究L297-007の付録の治療グループによって示される。
【0066】
FACS分析により測定されるように、各治療に関する時間経過における(すなわち、36日目まで)リンパ球上のα4 β7 インテグリンの平均飽和を図7に示す。図7から理解されるように、全てのLDP-02用量の投与後、少なくとも2週間、リンパ球上に遊離α4 β7 結合部位は検出されなかった。約7日目〜22日目に、0.15mg/kg のIV用量グループおよび0.15mg/kg のSC用量グループのα4 β7 シグナルは、ベースラインに戻り始めた。22日目〜36日目に、0.5mg/kgのIV用量グループのα4 β7 シグナルはベースラインに戻り始めた。より高い用量のLDP-02研究(1.5 および2.5mg/kg)でのα4 β7 シグナルの喪失は、単一IV投薬後36日よりも長く持続した。2.5mg/kg用量グループに関して、α4 β7 結合飽和は70日目まで続いた(研究L297-007の付録のデータを参照)。
【0067】
リンパ球上の遊離α4 β7 結合部位がベースライン(投薬前)レベルに戻っていることを確認するために、約200 研究日までの追跡調査採血を行った。遊離α4 β7 部位の最初の再現は、LDP-02血液濃度が検出不可能になったときに起こるようであった。
【0068】
結論
健康な男性被験体への0.15、0.50、1.50および2.5mg/kgのIV用量ならびに0.15mg/kg のSC用量でのLDP-02の投与は良好に耐容性を示した。
【0069】
全てのLDP-02用量の投与の後、リンパ球上の遊離α4 β7 結合部位は投薬後約2週間検出されなかった。α4 β7 結合部位の飽和は、0.15mg/kg のIVグループについて投与後約2週間および0.15mg/kg のSCおよび0.5mg/kgのIVグループについて投薬後約3週間継続した。効果の持続期間は、1.5mg/kgのIV用量で1ヶ月以上持続し、2.5mg/kgのLDP-02のIVで約70日目まで継続した。36日後に得られた追跡調査サンプルは、遊離α4 β7 結合部位の発現がベースライン(投薬前のレベル)に戻ったことを示した。LDP-02に対する抗イディオタイプ抗体は惹起されず、体液性免疫応答を開始しないことを示した。用量を2.5mg/kgまで増大させると、より低用量のLDP-02(0.15および0.15mg/kg )の非区画薬物動態学は明らかになった。
【0070】
研究L297-007の付録
治療グループによる被験体による時間経過におけるLDP-02血清濃度。
個々の被験体からのデータを表4〜9に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
【表6】

【0074】
【表7】

【0075】
【表8】

【0076】
【表9】

【0077】
研究L297-007:個々の患者からの治療グループデータによる平均薬物動態学的パラメータを表10〜14に示す。
【0078】
【表10】

【0079】
【表11】

【0080】
【表12】

【0081】
【表13】

【0082】
【表14】

【0083】
L297-007:治療グループによる被験体による時間経過における血清α4 β7 結合。個々の患者からのデータを表15〜20に示す。各被験体について、血液サンプリングの時間、サンプルのMESFおよびベースライン(投薬前)MESFの%を示す。
【0084】
【表15】

【0085】
【表16】

【0086】
【表17】

【0087】
【表18】

【0088】
【表19】

【0089】
【表20】

【0090】
実施例2.研究L297-006
「中程度に重篤な潰瘍性大腸炎を有する患者におけるLDP-02の安全性、耐容性、薬動力学、薬物動態学、および有効性を測定するための単一用量フェーズIb/IIa、プラセボ対照、無作為化、二重盲検研究」と題された研究は完了しており、ある最終的な結果をこのセクションで示す。
【0091】
研究原理
健康なボランティアにおけるフェーズI試験(実施例1.研究L297-007)からの結果は、0.15mg/kg のSCおよびIV、0.5mg/kgのIV、1.5mg/kgのIV、および2.5mg/kgのIVの用量のLDP-02が安全であり、充分に耐容性であることを示した。さらに、0.15mg/kg のIVまたはSC、および0.5mg/kgのIVの用量は、約100 〜130 時間のt1/2 を有することを示し、フローサイトメトリーデータは、未結合のα4 β7 が投薬後約2週間で0.15mg/kg の用量グループに再び現れ始めることを示した。これらのデータに基づいて、0.15mg/kg のSC、0.15mgのIV、0.5mg/kgのIV、および2.0mg/kgのIVのLDP-02用量を、潰瘍性大腸炎を有する患者における初期の研究において使用するために選択した。LDP-02の各用量が、次の用量レベルへの増大の前に、安全であり、良好に耐容性であることを決定するためにこの研究を設計した。
【0092】
研究設計
前記研究は、中程度に重篤な潰瘍性大腸炎を有すると診断された患者における無作為化、二重盲検、プラセボ−対照、上昇単一用量研究であった。肛門縁から25cm程度の最小の疾患を有すると潰瘍性大腸炎の診断を考証された患者が、潜在的に研究に適格であった。Truelove-Witts判定基準(Br Med J; 2: 1042-1048 (1955) )により規定されるような重篤な潰瘍性大腸炎を有する患者は除外した。全ての封入/排除判定基準に適合した潰瘍性大腸炎患者を、4つの研究グループに経時的に登録し、各研究グループ内で、LDP-2 またはプラセボ(すなわち、0.9 %塩化ナトリウム緩衝液)を無作為に割り当てて与えた。治療グループおよび登録された被験体の数を表21に示す。
【0093】
【表21】

【0094】
研究投薬(LDP-02またはプラセボ)を、大腿へのSCまたは30分間のIV注入のいずれかにより1日目に投与した。安全性評価には、有害事象の記録、身体検査、生命徴候、臨床検査(すなわち、血液学、血液化学、および尿検査)、血漿サイトカインレベル、およびECG が含まれた。血液を種々の時間点で採取し、LDP-02血清濃度を測定し、末梢血リンパ球上のα4 β7 結合レセプターを飽和し、ブロックするLDP-02の有効性を評価した。大腸の炎症を減少させるLDP-02の有効性を、臨床疾患観察、内視鏡外観、組織病理学、および免疫組織化学により測定した。
【0095】
研究結果
患者整理および個体グループ統計学
中程度の重篤度の潰瘍性大腸炎を有する29名の患者を研究に参加させ、28名が試験を完了した。1名の患者は、スクリーニング時にClostridium difficile 毒素陽性であることが見出されたが、検査結果の報告が遅れたため、前記患者を試験に参加させ、2.0mg/kgのIVのLDP-02を与えた。研究室結果が得られてから、患者を抗体で処置し、他の患者と交替させた。研究を中止した患者は他にはいなかった。患者を時間経過にともなって研究に補充したので、ベースライン潰瘍性大腸炎病歴に関して治療グループを平均化する試みは行なわなかった。このようにして、潰瘍性大腸炎疾患の重篤度および持続期間ならびに潰瘍性大腸炎の以前の薬物治療は、患者間および治療グループ間で異なっていた。これらのデータを表22に示す。
【0096】
【表22】

【0097】
疾患測定
これは、本来、用量範囲安全性および薬物動態学研究であったが、治療の効果を評価するために種々のパラメータを測定した。有効性評価には、改変Baron (内視鏡検査)スコアリングシステム、Mayo臨床疾患活性指数スコア、Powell-Tuck 疾患活性指数スコア、便通の頻度、および炎症性腸疾患質問票が含まれた。これらのパラメータに関するベースラインから30日目までの変化を表23に示す。30日目の評価がない患者については、得られた最後のベースライン後観察を30日に進ませて行った。
【0098】
【表23】

【0099】
表23に示される結果から理解されるように、種々の治療グループ間で応答に変動があった。0.5mg/kgのIVを与えた患者は、最高の応答を有しているようであった;中央内視鏡重篤度スコアは、2グレード減少し、Mayo臨床スコアは、便通頻度の減少とともに10ポイント減少した。0.5mg/kgのIVを与えた5名の患者の内の3名は、改変Baron S字結腸鏡検査スコアにおいて2ポイントの改善を有しており、内視鏡的応答と考えられた;2.0mg/kgのIVおよび0.15mg/kg のSCのグループの両方において1名のみの患者(1グループ当たり治療した総数5名と比べて)が内視鏡的応答を有していた。プラセボグループもまた、S字結腸鏡検査スコアおよびMayo臨床スコアにおける改善を経験したが、両方とも0.5mg/kgのIVグループと比べると規模は小さかった。8名の患者の内の2名は内視鏡的応答を経験した。
【0100】
30日目の改変Baron S字結腸鏡検査スコアおよびMayo臨床スコアにおいてゼロとして規定した、完全に寛解した患者の数を表24に報告する。
【0101】
【表24】

【0102】
プラセボグループの患者は誰も完全な寛解を経験せず、一方、LDP-02を与えたグループの2名の患者は完全な寛解を有していた。2名の患者は両方とも、同じグループであった;両方の患者には0.5mg/kgのLDP-02を単一投与した。前記患者の一方は、メサラミン治療を同時に与え、他方には低用量コルチコステロイド(1日当たり経口で20mgプレドニゾン)を同時に与えた。
【0103】
薬物動態学
血清におけるLDP-02のアッセイを、以前に記載されるようにCytometry Associates, Inc.により行った(研究L297-007)。注入の完了する前および直後(1日目)、および2、3、5、10、14、21、30および60日目に血液サンプルを収集し、LDP-02の薬物動態学的プロフィールを評価した。
【0104】
個々の患者による時間経過におけるLDP-02濃度およびLDP-02用量による平均薬物動態学的パラメータを研究L296-006の付録に示す。
【0105】
図8から理解されるように、0.15mg/kg のIVおよびSCグループのLDP-02の血清レベルは、投薬の約20日後に<1.0 μg/mLに低下する。2.0mg/kg用量グループに関して、LDP-02レベルは、約60日目まで上昇したままであった。表25は、治療グループによる重要な薬物動態学的パラメータを示す。
【0106】
【表25】

【0107】
これらの用量は、LDP-02の最大濃度に関する用量およびIV投与の後に測定された曲線下の領域と直線性があるようである。クリアランスおよび終末排除半減期(terminal elimination half life)は、投与されるIV用量には依存しないようである。分布の容積は、IVのLDP-02の用量の増大と共にわずかに減少するようである。
【0108】
LDP-02の薬力学的効果の評価
血液リンパ球上のα4 β7 部位の存在を測定するためのFACS分析を以前に記載した(研究L296-007)。時間経過における血清α4 β7 結合(すなわち、MESF値および各投与後時間点でのベースラインのパーセンテージ)は、個々の患者および研究L297-006の付録における治療グループにより示される。
【0109】
全ての治療の時間経過におけるベースラインMESFの平均パーセントを図9に示す。図9から理解されるように、ベースラインMESFのパーセントは、用量に依存する効果の持続期間とともにLDP-02のSCおよびIV投与の後に約10%に迅速に低下する。約10日目に始まって、α4 β7 シグナルは、0.15mg/kg のIVおよびSC用量グループについてはベースラインに戻り始めた。しかし、α4 β7 シグナルは、0.5mg/kgのIVおよび2.0mg/kgの用量グループについては30日から60日までの間にベースラインに戻り始めた。
【0110】
結論
中程度の重篤度の潰瘍性大腸炎を有する患者への0.15mg/kg のIVおよびSC、0.5mg/kgのIV、および2.0mg/kgのIVの用量でのLDP-02の投与は、良好に耐容性を示した。
【0111】
潰瘍性大腸炎を有する患者からの薬物動態学的および薬力学的なデータは、健康なボランティアで見出されたものと一致した。これらはLDP-02の最大濃度に関する用量およびIV投与の後に測定された曲線下の領域と直線性があるようである。クリアランスおよび終末排除半減期は、投与されるIV用量には依存しないようである。分布の容積は、IV LDP-02 の用量の増大と共にわずかに減少するようである。ベースラインMESFのパーセントは、用量に依存する効果の持続時間とともにLDP-02のSCおよびIV投与の後に、約10%に迅速に低下した。0.15mg/kg のIVおよびSC用量グループに関して、ベースラインMESFのパーセントは、投薬の約10日後にベースラインに戻り始めたが、0.5mg/kgのIVおよび2.0mg/kgの用量グループは、それぞれ約30日および約60日に生じ始めた。
【0112】
研究L297-006の付録
治療グループによる被験体による時間経過におけるLDP-02血清濃度。個々の被験体からのデータを表26〜30に示す。表26〜30に示されるデータはμg/mLである。
【0113】
【表26】

【0114】
【表27】

【0115】
【表28】

【0116】
【表29】

【0117】
【表30】

【0118】
治療グループによる薬物動態学的パラメータ。個々の被験体から得られたデータを表31〜34に示す。
【0119】
【表31】

【0120】
【表32】

【0121】
【表33】

【0122】
【表34】

【0123】
治療グループによる被験体による時間経過における血清α4 β結合。個々の被験体から得られたデータを表35〜40に示す。各被験体に関して、血液サンプリングの時間、サンプルのMESFおよびベースライン(投薬前)の%を示す。
【0124】
【表35】

【0125】
【表36】

【0126】
【表37】

【0127】
【表38】

【0128】
【表39】

【0129】
【表40】

【0130】
本発明をその好ましい態様に関して詳細に示し、記載してきたが、形態および詳細における種々の変化が特許請求の範囲により含まれる本発明の範囲から逸脱することなくなされうることを当業者は理解する。
【0131】
本発明の態様として、以下のものが挙げられる。
[1]非ヒト起源の抗原結合性領域およびヒト起源の抗体の少なくとも一部を含有する、α4 β7 インテグリンに対する結合特異性を有するヒト化免疫グロブリンまたはその抗原結合性断片の有効量を、粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患を有するヒトに投与することを含み、ここで該免疫グロブリンまたは断片は、初回投与の後、1回以上引き続き投与され、2つの投薬の最小の間隔はいずれも少なくとも約1日間であり、体重1kg当たり約8mg以下の免疫グロブリンまたは断片が約1ヶ月間に投与される、粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患を有するヒトの治療方法。
[2]前記免疫グロブリンまたは断片がα4 β7 インテグリンのα4 鎖に結合する、[1]記載の方法。
[3]前記免疫グロブリンまたは断片がα4 β7 インテグリンのβ7 鎖に結合する、[1]記載の方法。
[4]前記免疫グロブリンまたは断片がα4 β7 複合体に対する結合特異性を有する、[1]記載の方法。
[5]前記ヒト起源の免疫グロブリンの一部がヒト定常領域に由来する、[1]記載の方法。
[6]前記抗原結合性領域が齧歯類起源である、[5]記載の方法。
[7]前記抗原結合性領域が齧歯類起源の相補性決定領域を含有し、前記ヒト起源の抗体の一部がヒトフレームワーク領域に由来する、[1]記載の方法。
[8]前記抗原結合性領域が、以下のアミノ酸配列:
軽鎖:CDR1 配列番号:9
CDR2 配列番号:10
CDR3 配列番号:11
重鎖:CDR1 配列番号:12
CDR2 配列番号:13
CDR3 配列番号:14
の軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)の内の少なくとも1つおよび重鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)の内の少なくとも1つを含有する、[1]記載の方法。
[9]前記抗原結合性領域が、以下のアミノ酸配列:
軽鎖:CDR1 配列番号:9
CDR2 配列番号:10
CDR3 配列番号:11
重鎖:CDR1 配列番号:12
CDR2 配列番号:13
CDR3 配列番号:14
の軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)および重鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)を含有する、[8]記載の方法。
[10]前記ヒト化免疫グロブリンまたはその抗原結合性断片が重鎖および軽鎖を含有する、[1]記載の方法であって、
該軽鎖は、α4 β7 に結合する非ヒト起源の抗体に由来する相補性決定領域およびヒト起源の軽鎖に由来するフレームワーク領域を含有し、ここで各々の該相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)は以下のアミノ酸配列:
軽鎖:CDR1 配列番号:9
CDR2 配列番号:10
CDR3 配列番号:11
を含有する;かつ
該重鎖は、α4 β7 に結合する非ヒト起源の抗体に由来する相補性決定領域およびヒト起源の重鎖に由来するフレームワーク領域を含有し、ここで各々の該相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)は以下のアミノ酸配列:
重鎖:CDR1 配列番号:12
CDR2 配列番号:13
CDR3 配列番号:14
を含有する、方法。
[11]前記ヒト化免疫グロブリンまたはその抗原結合性断片が配列番号:6の重鎖可変領域を含有する、[10]記載の方法。
[12]前記ヒト化免疫グロブリンまたはその抗原結合性断片が配列番号:8の軽鎖可変領域を含有する、[10]記載の方法。
[13]前記投薬の各々が独立して体重1kg当たり約0.1 〜約8mgの免疫グロブリンまたは断片を含有する、[1]記載の方法。
[14]前記投薬の各々が独立して体重1kg当たり約0.1 〜約5mgの免疫グロブリンまたは断片を含有する、[1]記載の方法。
[15]前記投薬の各々が独立して体重1kg当たり約0.1 〜約2.5mg の免疫グロブリンまたは断片を含有する、[1]記載の方法。
[16]前記投薬の各々が独立して体重1kg当たり約0.15、約0.5 、約1.0 、約1.5 または約2.0mg の免疫グロブリンまたは断片を含有する、[1]記載の方法。
[17]投薬の間隔が少なくとも約7日間である、[1]記載の方法。
[18]投薬の間隔が少なくとも約14日間である、[1]記載の方法。
[19]投薬の間隔が少なくとも約21日間である、[1]記載の方法。
[20]投薬の間隔が少なくとも約28日間である、[1]記載の方法。
[21]投薬の間隔が少なくとも約30日間である、[1]記載の方法。
[22]前記投薬の各々が、独立してa )循環リンパ球上のα4 β7 インテグリン結合部位の約50%以上の飽和および/またはb )循環リンパ球の細胞表面上のα4 β7 インテグリン発現の約50%以上の阻害を達成するのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含有し、ここで該飽和および/または阻害は該投薬の投与の後少なくとも約10日間維持される、[1]記載の方法。
[23]前記投薬の各々が、独立してa )循環リンパ球上のα4 β7 インテグリン結合部位の約60%以上の飽和および/またはb )循環リンパ球の細胞表面上のα4 β7 インテグリン発現の約60%以上の阻害を達成するのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含有する、[22]記載の方法。
[24]前記投薬の各々が、独立してa )循環リンパ球上のα4 β7 インテグリン結合部位の約70%以上の飽和および/またはb )循環リンパ球の細胞表面上のα4 β7 インテグリン発現の約70%以上の阻害を達成するのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含有する、[22]記載の方法。
[25]前記投薬の各々が、独立してa )循環リンパ球上のα4 β7 インテグリン結合部位の約80%以上の飽和および/またはb )循環リンパ球の細胞表面上のα4 β7 インテグリン発現の約80%以上の阻害を達成するのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含有する、[22]記載の方法。
[26]前記投薬の各々が、独立して該飽和および/または阻害が該投薬の投与の後少なくとも約14日間達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含有する、[22]記載の方法。
[27]前記投薬の各々が、独立して該飽和および/または阻害が該投薬の投与の後少なくとも約20日間達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含有する、[22]記載の方法。
[28]前記投薬の各々が、独立して該飽和および/または阻害が該投薬の投与の後少なくとも約25日間達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含有する、[22]記載の方法。
[29]前記投薬の各々が、独立して該飽和および/または阻害が該投薬の投与の後少なくとも約30日間達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含有する、[22]記載の方法。
[30]前記投薬の各々が、独立して該飽和および/または阻害が該投薬の投与の後少なくとも約60日間達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含有する、[22]記載の方法。
[31]前記投薬の各々が、独立して体重1kg当たり約0.1 〜約8mgの免疫グロブリンまたは断片を含有する、[22]記載の方法。
[32]前記投薬の各々が、独立して体重1kg当たり約0.1 〜約5mgの免疫グロブリンまたは断片を含有する、[22]記載の方法。
[33]前記投薬の各々が、独立して体重1kg当たり約0.1 〜約2.5mg の免疫グロブリンまたは断片を含有する、[22]記載の方法。
[34]前記投薬の各々が、独立して、体重1kg当たり約0.15、約0.5 、約1.0 、約1.5 または約2.0mg の免疫グロブリンまたは断片を含有する、[22]記載の方法。
[35]投薬の間隔が少なくとも約7日間である、[22]記載の方法。
[36]投薬の間隔が少なくとも約14日間である、[22]記載の方法。
[37]投薬の間隔が少なくとも約21日間である、[22]記載の方法。
[38]投薬の間隔が少なくとも約28日間である、[22]記載の方法。
[39]投薬の間隔が少なくとも約30日間である、[22]記載の方法。
[40]ヒト化免疫グロブリンが投与され、前記投薬の各々が、該投薬の投与の後少なくとも約10日間、少なくとも約1μg/mLの免疫グロブリンの血清濃度を達成し、維持するのに充分な量の免疫グロブリンを含有する、[1]記載の方法。
[41]前記投薬の各々が、独立して該投薬の投与の後少なくとも約14日間、前記血清濃度を達成し、維持するのに充分な量の免疫グロブリンを含有する、[40]記載の方法。
[42]前記投薬の各々が、独立して該投薬の投与の後少なくとも約20日間、前記血清濃度を達成し、維持するのに充分な量の免疫グロブリンを含有する、[40]記載の方法。
[43]前記投薬の各々が、独立して該投薬の投与の後少なくとも約25日間、前記血清濃度を達成し、維持するのに充分な量の免疫グロブリンを含有する、[40]記載の方法。
[44]前記投薬の各々が、独立して該投薬の投与の後少なくとも約30日間、前記血清濃度を達成し、維持するのに充分な量の免疫グロブリンを含有する、[40]記載の方法。
[45]前記投薬の各々が、独立して該投薬の投与の後少なくとも約60日間、前記血清濃度を達成し、維持するのに充分な量の免疫グロブリンを含有する、[40]記載の方法。
[46]前記投薬の各々が、独立して体重1kg当たり約0.1 〜約8mgの免疫グロブリンを含有する、[40]記載の方法。
[47]前記投薬の各々が、独立して体重1kg当たり約0.1 〜約5mgの免疫グロブリンを含有する、[40]記載の方法。
[48]前記投薬の各々が、独立して体重1kg当たり約0.1 〜約2.5mg の免疫グロブリンを含有する、[40]記載の方法。
[49]前記投薬の各々が、独立して体重1kg当たり約0.15、約0.5 、約1.0 、約1.5 または約2.0mg の免疫グロブリンまたは断片を含有する、[40]記載の方法。
[50]投薬の間隔が少なくとも約7日間である、[40]記載の方法。
[51]投薬の間隔が少なくとも約14日間である、[40]記載の方法。
[52]投薬の間隔が少なくとも約21日間である、[40]記載の方法。
[53]投薬の間隔が少なくとも約28日間である、[40]記載の方法。
[54]投薬の間隔が少なくとも約30日間である、[40]記載の方法。
[55]1以上のさらなる治療剤の有効量を投与することをさらに含む、[1]記載の方法。
[56]前記治療剤が、ステロイド、免疫抑制剤、非ステロイド性抗炎症剤および免疫調節剤からなる群より選ばれる、[55]記載の方法。
[57]前記治療剤が、アザチオプリン、6- メルカプトプリン、スルファサラジン、5- アミノサリチル酸、プレドニゾンおよびプレドニゾロンからなる群より選ばれる、[55]記載の方法。
[58]粘膜組織の白血球浸潤に関連する前記疾患が、炎症性腸疾患、膵炎、インスリン依存性糖尿病、乳腺炎、胆嚢炎、胆管炎、胆管周囲炎、慢性気管支炎、慢性静脈洞炎、喘息および対宿主性移植片病からなる群より選ばれる、[1]記載の方法。
[59]前記粘膜組織の白血球湿潤に関連する疾患が炎症性腸疾患である、[1]記載の方法。
[60]前記炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎である、[59]記載の方法。
[61]前記炎症性腸疾患がクローン病である、[59]記載の方法。
[62]非ヒト起源の抗原結合性領域およびヒト起源の抗体の少なくとも一部を含有する、α4 β7 インテグリンに対する結合特異性を有するヒト化免疫グロブリンまたはその抗原結合性断片の有効量を、炎症性腸疾患を有するヒトに投与することを含み、ここで該免疫グロブリンまたは断片は、初回投与の後、1回以上引き続き投与され、2つの投薬の最小の間隔はいずれも少なくとも約1日間であり、体重1kg当たり約8mg以下の免疫グロブリンまたは断片が約1ヶ月間に投与される、炎症性腸疾患を有するヒトの治療方法。
[63]前記ヒト化免疫グロブリンまたはその抗原結合性断片が重鎖および軽鎖を含有する、[62]記載の方法であって、
該軽鎖は、α4 β7 に結合する非ヒト起源の抗体に由来する相補性決定領域およびヒト起源の軽鎖に由来するフレームワーク領域を含有し、ここで各々の該相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)は以下のアミノ酸配列:
軽鎖:CDR1 配列番号:9
CDR2 配列番号:10
CDR3 配列番号:11
を含有する;かつ
該重鎖は、α4 β7 に結合する非ヒト起源の抗体に由来する相補性決定領域およびヒト起源の重鎖に由来するフレームワーク領域を含有し、ここで各々の該相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)は以下のアミノ酸配列:
重鎖:CDR1 配列番号:12
CDR2 配列番号:13
CDR3 配列番号:14
を含有する、方法。
[64]炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎である、[63]記載の方法。
[65]炎症性腸疾患がクローン病である、[63]記載の方法。
[66]非ヒト起源の抗原結合性領域およびヒト起源の免疫グロブリンの少なくとも一部を含有する、α4 β7 インテグリンに対する結合特異性を有するヒト化免疫グロブリンまたはその抗原結合性断片の有効量をヒトに投与することを含み、ここで該免疫グロブリンまたは断片は投薬で投与され、投薬の最小の間隔は少なくとも約7日間であり、体重1kg当たり約8mg以下の免疫グロブリンまたは断片が約30日間に投与される、ヒトにおける静止状態の炎症性腸疾患の再発および/または回帰を阻害する方法。
[67]静止状態が内科的療法または外科的療法によって誘導されている、[66]に記載の方法。
[68]前記炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎である、[66]記載の方法。
[69]前記炎症性腸疾患がクローン病である、[66]記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患を有するヒトの治療における使用のための、α4β7インテグリンに対して結合特異性を有する免疫グロブリンまたはその抗原結合断片であって、該使用は、初回用量の後、1回以上の続いての用量で、該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片を投与する工程を含み、任意の2回の用量の最小の間隔が少なくとも1日間であり、体重1kg当たり8mg以下の免疫グロブリンまたは抗原結合断片が1ヶ月間に投与され、該免疫グロブリンまたは抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合しない、免疫グロブリンまたはその抗原結合断片。
【請求項2】
該免疫グロブリンがヒト化免疫グロブリンである、請求項1記載の使用のための免疫グロブリンまたはその抗原結合断片。
【請求項3】
該免疫グロブリンがヒト免疫グロブリンである、請求項1記載の使用のための免疫グロブリンまたはその抗原結合断片。
【請求項4】
該ヒト化免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、非ヒト起源の抗原結合領域およびヒト起源の抗体の少なくとも一部を含んでなり、かつα4β7複合体に対して結合特異性を有するものであり、前記抗原結合領域は、以下のアミノ酸配列:
軽鎖:CDR1 配列番号:9
CDR2 配列番号:10および
CDR3 配列番号:11
の軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)ならびに以下のアミノ酸配列:
重鎖:CDR1 配列番号:12
CDR2 配列番号:13および
CDR3 配列番号:14
の重鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)を含んでなるものである、請求項1または2記載の使用のための免疫グロブリンまたはその抗原結合断片。
【請求項5】
前記粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患が、炎症性腸疾患、膵炎、インスリン依存性糖尿病、乳腺炎、胆嚢炎、胆管炎、胆管周囲炎、慢性気管支炎、慢性静脈洞炎、喘息および対宿主性移植片病からなる群より選択されるものである、請求項1〜4いずれか記載の使用。
【請求項6】
前記粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患が、炎症性腸疾患である、請求項5記載の使用。
【請求項7】
炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎またはクローン病である、請求項6記載の使用。
【請求項8】
前記免疫グロブリンまたはその抗原結合断片が、配列番号:6の重鎖可変領域を含んでなるものである、請求項1、2、および4〜6いずれか1項記載の使用。
【請求項9】
前記免疫グロブリンまたはその抗原結合断片が、配列番号:8の軽鎖可変領域を含んでなるものである、請求項1、2、および4〜9いずれか1項記載の使用。
【請求項10】
前記用量の各々が、独立して、a)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約50%以上の飽和および/またはb)循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約50%以上の阻害を達成するのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含んでなるものであり、前記飽和および/または阻害が前記用量の投与の後少なくとも約10日間維持されるものである、請求項1〜9いずれか記載の使用。
【請求項11】
前記用量の各々が、該用量の投与の後少なくとも約10日間、少なくとも約1μg/mLの免疫グロブリンの血清濃度、または断片が投与される場合には比例した血清濃度を達成し、かつ維持するのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含んでなるものである、請求項1〜10いずれか記載の使用。
【請求項12】
前記用量の各々が、独立して体重1kg当たり約0.1〜約8mgの免疫グロブリンまたは断片を含んでなるものである、請求項1〜11いずれか記載の使用。
【請求項13】
該用量の間隔が少なくとも7日である、請求項1〜12いずれか記載の使用。
【請求項14】
医薬が、1つ以上のさらなる治療剤と共に投与するためのものである、請求項1〜13いずれか記載の使用。
【請求項15】
前記剤が、ステロイド類、免疫抑制剤、非ステロイド性抗炎症剤および免疫調節剤からなる群より選択されるものである、請求項14記載の使用。
【請求項16】
前記剤が、アザチオプリン、6−メルカプトプリン、スルファサラジン、5−アミノサリチル酸、プレドニゾンおよびプレドニゾロンからなる群より選択されるものである、請求項14記載の使用。
【請求項17】
ヒトにおける休止状態の炎症性腸疾患の再発および/または回帰の抑制用の医薬の製造のための、α4β7インテグリンに対して結合特異性を有する免疫グロブリンまたはその抗原結合断片の使用であって、該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合せず、該医薬は、初回用量の後、1回以上の続いての用量での投与のためのものであり、任意の2回の用量の最小の間隔が少なくとも約7日間であり、約1ヶ月間に投与される医薬の量が体重1kg当たり約8mg以下の免疫グロブリンまたは断片を含むものである、使用。
【請求項18】
該免疫グロブリンは、非ヒト起源の抗原結合領域およびヒト起源の免疫グロブリンの少なくとも一部を含んでなる、請求項17記載の使用。
【請求項19】
該免疫グロブリンがヒト免疫グロブリンである、請求項17記載の使用。
【請求項20】
休止状態が内科的療法または外科的療法によって誘導されている、請求項17記載の使用。
【請求項21】
前記炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎またはクローン病である、請求項17記載の使用。
【請求項22】
炎症性腸疾患を有するヒトの治療における使用のための、α4β7インテグリンに対して結合特異性を有する免疫グロブリンまたはその抗原結合断片であって、該使用は、初回用量の後、1回以上の続いての用量で該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片を投与する工程を含み、任意の2回の用量の最小の間隔が少なくとも1日間であり、体重1kg当たり8mg以下の免疫グロブリンまたは抗原結合断片が1ヶ月間投与されるものであり、該免疫グロブリンまたは抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合しない、免疫グロブリンまたはその抗原結合断片。
【請求項23】
該免疫グロブリンはヒト化免疫グロブリンである、請求項1に記載の使用のための免疫グロブリンまたはその抗原結合断片。
【請求項24】
該免疫グロブリンはヒト免疫グロブリンである、請求項1に記載の使用のための免疫グロブリンまたはその抗原結合断片。
【請求項25】
該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、非ヒト起源の抗原結合領域およびヒト起源の抗体の少なくとも一部を含んでなり、かつα4β7複合体に対して結合特異性を有するものであり、前記抗原結合領域は、以下のアミノ酸配列:
軽鎖:CDR1 配列番号:9
CDR2 配列番号:10および
CDR3 配列番号:11
の軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)ならびに以下のアミノ酸配列:
重鎖:CDR1 配列番号:12
CDR2 配列番号:13および
CDR3 配列番号:14
の重鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)を含んでなるものである、請求項22または23記載の使用。
【請求項26】
該炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎またはクローン病である、請求項22〜25いずれか記載の使用。
【請求項27】
炎症性腸疾患を有するヒトの治療用の医薬の製造のための免疫グロブリンまたはその抗原結合断片の使用であって、該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合せず、該医薬は、初回用量の後、1回以上の続いての用量での投与のためのものであり、任意の2回の用量の最小の間隔が少なくとも約1日間であり、体重1kg当たり約8mg以下の免疫グロブリンまたは断片が約1ヶ月間投与されるものであり、該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合せず、
さらに、該用量の各々が、独立して、
a)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約50%以上の飽和、
b)循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約50%以上の阻害、ならびに
c)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約50%以上の飽和、および循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約50%以上の阻害
からなる群より選択される少なくとも1つを達成するのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含んでなるものであり、ここで、
(i)該飽和が該用量の投与の後少なくとも約10日間維持されるものであるか、
(ii)該阻害が該用量の投与の後少なくとも約10日間維持されるものであるか、または
(iii)該飽和および該阻害の各々が該用量の投与の後少なくとも約10日間維持されるものである、使用。
【請求項28】
該用量の各々が、独立して、
a)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約60%以上の飽和、
b)循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約60%以上の阻害、または
c)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約60%以上の飽和、および循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約60%以上の阻害
を達成するのに充分な量の免疫グロブリンを含んでなるものである、請求項27記載の使用。
【請求項29】
該用量の各々が、独立して、
a)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約70%以上の飽和、
b)循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約70%以上の阻害、または
c)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約70%以上の飽和、および循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約70%以上の阻害
を達成するのに充分な量の免疫グロブリンを含んでなるものである、請求項27記載の使用。
【請求項30】
該用量の各々が、独立して、
a)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約80%以上の飽和、
b)循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約80%以上の阻害、または
c)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約80%以上の飽和、および循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約80%以上の阻害
を達成するのに充分な量の免疫グロブリンを含んでなるものである、請求項27記載の使用。
【請求項31】
該用量の各々が、独立して、
a)該用量の投与の後少なくとも約14日間、該飽和が達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含むか、
b)該用量の投与の後少なくとも約14日間、該阻害が達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含むか、あるいは
c)該用量の投与の後少なくとも約14日間、該飽和および阻害が達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含む、請求項27記載の使用。
【請求項32】
該用量の各々が、独立して、
a)該用量の投与の後少なくとも約30日間、該飽和が達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンを含むか、
b)該用量の投与の後少なくとも約30日間、該阻害が達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンを含むか、あるいは
c)該用量の投与の後少なくとも約14日間、該飽和および阻害が達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンを含む、請求項27記載の使用。
【請求項33】
該用量の各々が、独立して、
a)該用量の投与の後少なくとも約60日間、該飽和が達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンを含むか、
b)該用量の投与の後少なくとも約60日間、該阻害が達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンを含むか、あるいは
c)該用量の投与の後少なくとも約14日間、該飽和および阻害が達成および維持されるのに充分な量の免疫グロブリンを含む、請求項27記載の使用。
【請求項34】
該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、ヒト化免疫グロブリンまたはその抗原結合断片である、請求項27〜33いずれか記載の使用。
【請求項35】
該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、ヒト免疫グロブリンまたはその抗原結合断片である、請求項27〜33いずれか記載の使用。
【請求項36】
任意の2回の用量の間隔が少なくとも14日である、請求項1〜35いずれか記載の使用。
【請求項37】
任意の2回の用量の間隔が少なくとも1ヶ月である、請求項1〜36いずれか記載の使用。
【請求項38】
任意の2回の用量の間隔が少なくとも40日である、請求項1〜37いずれか記載の使用。
【請求項39】
任意の2回の用量の間隔が少なくとも50日である、請求項1〜38いずれか記載の使用。
【請求項40】
任意の2回の用量の間隔が少なくとも60日である、請求項1〜39いずれか記載の使用。
【請求項41】
該免疫グロブリンまたは抗原結合断片が、該ヒトに皮下投与または静脈内投与される、請求項1〜40いずれか記載の使用。
【請求項42】
粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患の治療のための、免疫グロブリンまたはその抗原結合断片を含有する医薬組成物であって、該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合せず、該医薬組成物は、初回用量の後、1回以上の続いての用量での投与のためのものであり、任意の2回の用量の最小の間隔が少なくとも約1日間であり、約1ヶ月間に投与される医薬組成物の量が体重1kg当たり約8mg以下の免疫グロブリンまたは断片を含むものであり、該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合しない、医薬組成物。
【請求項43】
該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、ヒト化免疫グロブリンである、請求項42記載の医薬組成物。
【請求項44】
該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、ヒト免疫グロブリンである、請求項42記載の医薬組成物。
【請求項45】
該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、非ヒト起源の抗原結合領域およびヒト起源の抗体の少なくとも一部を含んでなり、かつα4β7複合体に対して結合特異性を有するものであり、前記抗原結合領域は、以下のアミノ酸配列:
軽鎖:CDR1 配列番号:9
CDR2 配列番号:10および
CDR3 配列番号:11
の軽鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)ならびに以下のアミノ酸配列:
重鎖:CDR1 配列番号:12
CDR2 配列番号:13および
CDR3 配列番号:14
の重鎖可変領域の3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCDR3)を含んでなるものである、請求項41または42記載の医薬組成物。
【請求項46】
前記粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患が、炎症性腸疾患、膵炎、インスリン依存性糖尿病、乳腺炎、胆嚢炎、胆管炎、胆管周囲炎、慢性気管支炎、慢性静脈洞炎、喘息および対宿主性移植片病からなる群より選択されるものである、請求項42〜45いずれか記載の医薬組成物。
【請求項47】
前記粘膜組織の白血球浸潤に関連する疾患が、炎症性腸疾患である、請求項42〜45いずれか記載の医薬組成物。
【請求項48】
炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎またはクローン病である、請求項47記載の医薬組成物。
【請求項49】
前記免疫グロブリンまたはその抗原結合断片が、配列番号:6の重鎖可変領域を含んでなるものである、請求項42、43および45〜48いずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項50】
前記免疫グロブリンまたはその抗原結合断片が、配列番号:8の軽鎖可変領域を含んでなるものである、請求項42、43および45〜48いずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項51】
前記用量の各々が、独立して、a)循環リンパ球上のα4β7インテグリン結合部位の約50%以上の飽和および/またはb)循環リンパ球の細胞表面上でのα4β7インテグリン発現の約50%以上の阻害を達成するのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含んでなるものであり、前記飽和および/または阻害が前記用量の投与の後少なくとも約10日間維持されるものである、請求項42〜50いずれか記載の医薬組成物。
【請求項52】
前記用量の各々が、該用量の投与の後少なくとも約10日間、少なくとも約1μg/mLの免疫グロブリンの血清濃度、または断片が投与される場合には比例した血清濃度を達成し、かつ維持するのに充分な量の免疫グロブリンまたは断片を含んでなるものである、請求項42〜51いずれか記載の医薬組成物。
【請求項53】
前記用量の各々が、独立して体重1kg当たり約0.1〜約8mgの免疫グロブリンまたは断片を含んでなるものである、請求項42〜52いずれか記載の医薬組成物。
【請求項54】
該用量の間隔が少なくとも7日である、請求項42〜53いずれか記載の医薬組成物。
【請求項55】
1つ以上のさらなる治療剤と共に投与するためのものである、請求項42〜54いずれか記載の医薬組成物。
【請求項56】
前記剤が、ステロイド類、免疫抑制剤、非ステロイド性抗炎症剤および免疫調節剤からなる群より選択されるものである、請求項55記載の医薬組成物。
【請求項57】
前記剤が、アザチオプリン、6−メルカプトプリン、スルファサラジン、5−アミノサリチル酸、プレドニゾンおよびプレドニゾロンからなる群より選択されるものである、請求項55記載の医薬組成物。
【請求項58】
ヒトにおける休止状態の炎症性腸疾患の再発および/または回帰を抑制するための、免疫グロブリンまたはその抗原結合断片を含む医薬組成物であって、該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合せず、該医薬組成物は、初回用量の後、1回以上の続いての用量での投与のためのものであり、任意の2回の用量の最小の間隔が少なくとも約7日間であり、約1ヶ月間に投与される医薬組成物の量が体重1kg当たり約8mg以下の免疫グロブリンまたは断片を含むものであり、該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、α4β7に特異的に結合するが、α4β1には結合しない、医薬組成物。
【請求項59】
該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、ヒト化免疫グロブリンまたはその抗原結合断片である、請求項58記載の医薬組成物。
【請求項60】
該免疫グロブリンまたはその抗原結合断片は、ヒト免疫グロブリンまたはその抗原結合断片である、請求項58記載の医薬組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−184241(P2012−184241A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−105379(P2012−105379)
【出願日】平成24年5月2日(2012.5.2)
【分割の表示】特願2001−576078(P2001−576078)の分割
【原出願日】平成13年4月13日(2001.4.13)
【出願人】(500287639)ミレニアム ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (98)
【氏名又は名称原語表記】MILLENNIUM PHARMACEUTICALS, INC.
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】