説明

炭化水素製造施設を操作する方法およびシステム

炭化水素または化学製品を製造する施設を操作するシステムおよび方法において、該施設を数学的にモデル化し;線形および非線形のソルバーを用いて該数学モデルを最適化し;該最適解に基づいて一つまたはそれ以上の製品に対する処方または操作設定点を生成させるシステムおよび方法。一具体化例においては、該数学モデルはさらにプロセス変数および対応する係数を有する多数のプロセス方程式を含んで成り、好ましくは該プロセス変数および対応する係数を使用して線形プログラムの中にマトリックスをつくる。線形プログラムは回帰法または分配回帰法によって実行することができる。逐次行われる再帰計算過程に基づいて、プロセス変数および対応する係数の一部に対する修正値を線形ソルバーにより、また非線形ソルバーにより計算し、プロセス変数および対応する係数に対する修正値をマトリックスの中に代入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化水素製造施設を操作する方法およびシステムに関する。特に本発明は線形ソルバーおよび非線形ソルバーのシステムを含んで成るコンピュータ化されたプロセス・シミュレーターを使用する炭化水素製造施設を操作する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素製造施設は典型的にはガソリン、ディーゼル油、およびアスファルトのような所望の製品を製造するための多数の統合され制御された化学的および/または精製プロセスから成っている。プロセス変数、例えば供給原料の組成;多種多様な処理ユニットおよび装置:操作変数、例えば加工速度、温度、圧力等;製品の規格;市場での制約、例えば有用性および製品の価格;機械的な制約;輸送または貯蔵の際の制約;天候条件;等の要因が多数存在するため、このような統合されたプロセスを効果的に制御し最適化するうえで困難が生じる。例えば、供給原料の組成、例えば石油精製施設に供給される粗製原料油の硫黄含量は、供給するパイプラインまたはタンカーが一つのものから次のものに変わることにより変動する可能性がある。多くの場合精製された製品中の硫黄の量は限定されているとしても、粗製供給油中の硫黄含量の変動は、統合された工程の全体としての収益性を最適化しながら、低硫黄含量のディーゼル油のような適切な製品を製造し配合する上で困難を生じる可能性がある。従って、所望の製品を製造し収益性を最大にする上において精製工程の制御および最適化は重要である。
【0003】
精製工程の制御は典型的には既知のプロセス制御パラメータ、例えばしばしば高度に自動化されコンピュータ化された複雑なプロセス操作および制御技術によって実現される物質およびエネルギーの収支によって達成される。しかし多くの場合、制御の設定は所望の製品を製造し同時に最大の収益性が得られるようには最適化されていない。その結果、これまで炭化水素の製造工程に対して種々の最適化の技術および図式が適用されてきた。一般に最適化は、既知の関係式および拘束条件、例えば物質とエネルギーの収支、系の動力学等に基づいて或る与えられたプロセスに対し先ず数学的なモデルをつくるかそのシミュレーションを行ない、次いでその数学モデルを解いて1個またはそれ以上の所望の変数を最適化し、典型的には工程の最大の収益性を得るようにコンピュータ・シミュレーションによって達成される。上記のような多数のプロセス変数が与えられた場合、このような数学モデルは非常に大きく且つ複雑になる可能性がある。
【0004】
プロセスモデルは典型的には二つの範疇に分けることができる。これは両方とも科学的方法の原理、即ち或る一つの現象またはいくつかのグループの現象を観察して記述し、その現象を説明する仮説を組み立て、その仮説を用いて他の現象の存在を予測するか、或いは新しい観測結果を定量的に予測し、幾人かの独立した実験者によって適切に行われた実験によりその予測を実験的に試験することを含む原理に基づいている。第1の範疇は統計に基づいたモデル、例えばデータの多重回帰(多変数)を使用するモデルである。或る曲線(関数)にデータを当てはめる場合、回帰法(regression)は、係数、例えばラインと呼ばれる曲線に対する傾斜および切片を変化させることによって、予測した曲線に沿ったデータに対する実際のデータの誤差を最小にする技術である。下記に説明する再帰法(recursion)はこれと似ているが、ただ一つの式に対する方法ではなく、一組の式を用いる方法である。第2の範疇は第1原理に基づくモデル、例えば化学熱力学および/または動力学に関して現在認められている法則および理論を用いる方法である。
【0005】
統計モデルは、実際のプロセスを表すデータの組について現在認められている統計的方法を用いて開発された数学的関係(関数)または論理(もし〜ならば、それで(if then)的な表現)として定義することができる。一般に、統計的モデルは資源集約性が大きい傾向がある。何故ならば、これらの方法はプロセスから集められる実際のデータに基づいているからである。例えば統計モデルは、プロセスの試験と実行或いは実験計画のデータに基づいているが、これらを集めるためには多くの労力および実験施設の両方を集約しなければならず、典型的にはそのままでは自動化できない。或いはまた統計モデルはプロセスの日毎の操作収率に基づくこともあり、自動化してデータ源として予算化された日常的な実験室での試料を使用することもできるが、依然として統計的な解析が必要である。
【0006】
第1原理のモデルは現在認められている科学的な理論または法則(関係および論理)を用いる数学的な関係または論理として定義することができ、この場合これらの理論および法則は実験的な試験を繰り返すことによって既に証明されたものである。第1原理のモデルは典型的には統計モデルに比べて不一致が少ないが、依然として第1原理のモデルは次のような簡単化された式によって示されるように調整されなければならない。
【0007】
従属変数=A*(第1原理モデル)+B
ここでAおよびBは、体系的な誤差を補正するためにこのモデルが一層うまく現在の操作条件に近似するように調節される係数である。
【0008】
ひとたびモデルの範疇が選ばれ(即ち統計モデルか第1原理モデルか)、モデル化すべき与えられたプロセスに付随した多くの変数に基づきこのモデルが開発されると、所望の目的を達成するためにこのモデルを解く方法(或る場合にはソルバー(solver)または最適化法と呼ばれる)を使用しなければならない。前述のように、明白で最も普通に行われるビジネスの目的は収益性を最大にすることである。しかし、目的は二つ以上存在することができ、例えばプロセスの操作または顧客の製品に対する規格に対する規制的な要求に合致させる必要がある。このような目的はこのモデルに関する拘束条件と呼ばれる。またプロセスの装置等の技術的な設計の基準に基づく技術的な制約も存在する。従って、多数のビジネスの目的または技術的な制約が存在する場合、このような目的は典型的には収益性を最大にするという主要な目的に対する拘束条件になる。与えられた拘束条件下において収益性を最大にするためにモデルを解くことに関しては、図1に示されているように多くの選択肢が採られる。これはNEOS Guideの最適化の木(ツリー)(参照番号200)として知られており、Department of Energy − Argonne National LabとNorthwestern Universityによるものでworld wide webから入手できる。図1から分かるように、数学的なソルバーは離散的なソルバー210および連続的なソルバー220に分類することができ、連続的なソルバーはさらに非拘束的なソルバー225または拘束的なソルバー230に細分される。上記のように拘束条件が与えられた場合、プロセス・シミュレーターに使用される典型的なソルバーは連続的且つ拘束的なソルバー、例えば拘束された線形プログラム235または拘束された非線形プログラム240として知られているソルバーである。
【0009】
線形プログラムは、0でない有限の数の線形方程式および線形不等式(或るベクトルに関し)を仮定し、線形関数(同じベクトルに関し)を最大または最小にする問題を提示する。即ち、線形プログラム(LP)は次のように表わすことができる問題である(いわゆる標準形):
Ax = b
x ≧ 0
を条件として
cx を最小にせよ。
ここでxは解を見出だすべきベクトルであり、Aは既知の係数をもつマトリックス、cおよびbは既知係数のベクトルである。表現cxは目的関数と呼ばれ、式Ax=bは拘束条件と呼ばれる。勿論すべての項目は矛盾しない次元をもっていなければならず、必要に応じ記号は移項することができる。マトリックスAは一般に正方行列ではなく、従って単にAの逆行列をつくるだけではLPの解は得られない。Aは列の数の方が行の数よりも多く、従ってAx=bは極めて多くの場合不定であり、cxを最小化するxの選択には大きな許容度が残されている。また線形プログラムは最小化の場合と全く同じ容易さで最大化の問題を取り扱うことができる(実際にはベクトルcに−1を乗じる)。
【0010】
非線形プログラム(NLP)は次の形に書くことができる問題である。
【0011】
gi(x)= 0 i=1,...,ml、ここで ml ≧ 0
hj(x)≧ 0 j=ml+1,...,m、ここで m ≧ ml
を条件として
F(x)を最小にせよ。
【0012】
即ち、いくつかの変数(ここでxはベクトル)をもつスカラー値の関数Fが一つ存在し、これらの変数の値を限定または定義する役目をする一つまたはそれ以上のこのような他の関数を条件として(恐らく)、関数Fを最小にする問題である。Fは目的関数と呼ばれ、種々の他の関数は拘束条件と呼ばれる。最大化はFに−1を乗じることによって達成される。
【0013】
期待されるように、線形ソルバーを使用してモデルを解く際、モデル化されたプロセスが非線形の挙動を示す場合には誤差が起こる可能性がある。さらに、非線形ソルバーがモデルに対する解に収束するには多大の時間がかかり、特にモデルの中に含まれるプロセス変数に対する初期値または推定値が実際の収束解から遠く離れており、解に達するまで多数の繰り返し計算または再帰計算過程(recursion pass)を必要とする場合はそうである。本発明は、線形および非線形の両方のプロセスの挙動に対し正確なシミュレーションを行うことにより炭化水素製造設備の操作を最適化し、同時に迅速に解へ収束する方法およびシステムに対する必要を提示するものである。
【発明の開示】
【0014】
本発明の概要
本発明によれば、炭化水素または化学製品を製造する施設を操作する方法において、該施設を数学的にモデル化し;線形および非線形のソルバーを用いて該数学モデルを最適化し;該最適解に基づいて一つまたはそれ以上の製品に対する処方または操作設定点を生成させる方法が提供される。一具体化例においては、該数学モデルはさらにプロセス変数および対応する係数を有する多数のプロセス方程式を含んで成り、好ましくは該プロセス変数および対応する係数を使用して線形プログラムの中におけるマトリックスをつくる。線形プログラムは回帰法または分配回帰法によって実行することができる。逐次行われる再帰計算過程に基づいて、プロセス変数および対応する係数の一部に対する修正値を線形ソルバーにより、また非線形ソルバーにより計算し、プロセス変数および対応する係数に対する修正値をマトリックスの中に代入する。現在の再帰計算過程に対し線形プログラムによって計算されたプロセス変数および対応する係数についての修正値が、直前の再帰過程に対する対応する値と比較した場合、或る与えられた許容範囲に入るまで回帰計算が続けられる。一具体化例においては、製造施設は石油精製施設、または粗製物の蒸溜、炭化水素の蒸溜、改質、芳香族の抽出、トルエンの不均化、溶媒による脱アスファルト、流動触媒クラッキング(FCC)、ガス油の水素化、蒸溜生成物の水素化、異性化、硫酸のアルキル化、および熱電併給(電気−熱同時発生、cogeneration)操作のような該施設のユニットであり、これらに対し非線形ソルバーによりシミュレーションを行う。一具体化例においては、生成される処方は、水素、燃料ガス、プロパン、プロピレン、ブタン、ブチレン、ペンタン、ガソリン、改質ガソリン、灯油、航空燃料、高硫黄分ディーゼル油、低硫黄分ディーゼル油、高硫黄分ガス油、低硫黄分ガス油、およびアスファルトから成る群から選ばれる1種またはそれ以上の製品に対する処方である。
【0015】
また本発明においては、炭化水素または化学製品の製造施設を操作するコンピュータ化されたシステムにおいて、該システムは該施設の数学モデルをつくることを主目的とすコンピュータを含んで成り、該コンピュータは線形および非線形のソルバーを組み合わせて実行することにより該数学モデルを最適化し、最適解に基づいて製品に対する一つまたはそれ以上の処方を生成するシステムが提供される。一具体化例においては、該コンピュータは製造施設の内部においてインターフェースによりプロセス・コントローラーと接続され、最適解に基づいて設定点を与える。他の具体化例においては、水素、燃料ガス、プロパン、プロピレン、ブタン、ブチレン、ペンタン、ガソリン、改質ガソリン、灯油、航空燃料、高硫黄分ディーゼル油、低硫黄分ディーゼル油、高硫黄分ガス油、低硫黄分ガス油、およびアスファルトから成る群から選ばれる1種またはそれ以上の製品を製造するために、石油精製施設の内部で該コンピュータは製品配合システムを制御する。
【0016】
好適具体化例の詳細な説明
次に添付図面を参照して本発明の好適具体化例をさらに詳細に説明する。
【0017】
本発明は任意の炭化水素製造施設、例えば石油精製工場、化学工場等に適用することができる。計算システム上に施設または工場のモデル(時にはシミュレーターと呼ばれる)がつくられて最適化すべき全体のプロセスを表わすが、このようなモデルは連絡のために互いに操作的に連結された任意の数の適当なプログラミング層またはモデル・コンポーネント(しばしば製造工程の内部の別々の処理ユニットに対応する)、例えばサイト・モデル、サブモデル等を含んで成っていることができる。プロセス技術者は典型的には製造施設の実世界における性能の正確なシミュレーションを行うためにこのようなモデルをつくることに従事している。モデル・コンポーネントは好ましくはオブゼクト指向プログラミング法またはプログラミング技術、例えばイベント、メソッド、コール等によって操作的に連結されたコンピュータ・プログラムまたはアプリケーションを含んで成っている。本発明を実装する際の適切なコンピュータ言語はC++、C#、Java、Visual Basic for Application(VBA)、Net、Fortran等を含んでいる。適当なオブゼクト指向技術には、オブゼクト・リンキング・アンド・エンベッディング(object linking and embedding)(OLE)、コンポーネント・オブゼクト・モデル(component object models)(COM、COM+、DLL)、アクティブXデータ・オブゼクト(active X data objects)(ADO)、データ・アクセス・オブゼクト(data access objects)(DAO)、メタ言語(XML)等が含まれる。本発明に用いられる適当な計算プラットフォームはWindows XP、OSX等を含んでいる。
【0018】
図2は炭化水素製造施設の一つのモデルのブロック図であり、この施設はTexas Gulf CoastにあるAtofina Petrochemical, Inc.のPort Arthur Refineryのものである。炭化水素製造施設は典型的には多数の分離した処理ユニットを含んで成り、これが組み合わされて全体の製造施設になっている。複数工場モデル300はいくつかの操作的に連結されたサブモデルを含んで成り、これらのサブモデルは精製施設の内部で特定の処理ユニットをモデル化するのに使用される。複数工場モデル300は精製施設のサイトモデル305および水蒸気クラッキング装置のサイトモデル310を含んで成り、これらのモデルは例えば矢印307および309によって示されるデータ交換によって連絡のために互いに操作的に連結されている。精製施設のサイトモデル305は典型的な精油処理ユニット、例えば粗製原料ユニット、改質、芳香族抽出、溶媒による脱アスファルト、流動触媒クラッキング(FCC)、ガス油の水素化処理、溜出物の水素化処理、異性化、硫酸によるアルキル化、熱電併給システム(コゼネレーション)等の施設をモデル化するのに使用される。水蒸気クラッキング装置のサイトモデル310は、ナフサの水蒸気クラッキングを行ってエチレンおよびプロピレンを製造するための供給原料をつくる工程のモデル化を行うのに使用される。サイトモデル305および310は好ましくは線形プログラムであり、さらに好ましくはプロセス・インダストリー・モデリング・システム(process industry modelling system)(PIMS)、例えばAspen Technology Inc.から市販されているAspen PIMSTM Linear Program model、またはHaverly Systems,Inc.から市販されているGRTMPSである。ここではこれらの各々は一緒にしてPIMS−LPと呼ぶことにする。PIMS−LPはその下位の線形ソルバーであるCPLEX(R)またはXPRESS(R)のいずれかを使用し、回帰または分配回帰の機能またはそれと同様な機能(非線形機能)を与え、線形ソルバーの中で計算が少なくとも1回行なわれた後、PIMIS−SIとして知られているシミュレーターのインターフェース(SI)を介して下位の線形プログラムのマトリックスに使用者がアクセスできるようになっている。
【0019】
サイトモデルはさらに例えば上記に説明したような特定のユニットに関連した操作的に連結されたサブモデルを含んで成り、このようなサブモデルは任意の範疇(即ち第1原理または統計的な範疇)に属し、任意の適当なソルバー(例えば線形、非線形等)を使用することができる。例えば精製施設のサイトモデル305はさらにUOP DEMEX Process Unit(アスファルトを製造するための脱金属抽出ユニット、また溶媒による脱アスファルト・ユニットとも呼ばれる)シミュレーター315は矢印317および319によって示されているように連絡のために精製施設のLPと操作的に連結されており、矢印322および324で示されるようにTDP−BTX(トルエン不均化反応器およびベンゼン、トルエンおよびキシレンの精溜器)シミュレーター320は連絡のために精製施設のLPに操作的に連結されている。UOP DEMEX Process Unitのシミュレーター315は、好ましくはMicrosoft Corporation製のEXCELのようなスプレッドシートを実装し、UOP DEMEX Process Unitから入手できる試験−実行データに基づく非線形ソルバーを用いる統計的な多重回帰モデルであることが好ましい。TDP−BTXシミュレーター320は好ましくは非線形ソルバーを使用する第1原理のモデルであり、もっと好ましくはSimSciから入手できるPRO/II(R)である。水蒸気クラッキング装置サブモデル310はさらに水蒸気クラッキング装置の加熱器のシミュレーター325を含んでおり、これは矢印327および329で示されるように連絡のために水蒸気クラッキング装置のLPに操作的に連結されており、該シミュレーターは好ましくは第1原理によるTechnip−Coflexipから市販されているSPYRO(R)である。図2には示されていないが、例えばFCC、改質装置、およびガス油水素化装置のような装置に対しては、さらに他のサブモデル、好ましくはKBC Advance Technologyから入手できるProfimatics、Hyprotechから入手できるHYSYSまたは他の適当な市販のシミュレーターを用いることもできる。
【0020】
本発明の一具体化例は3層のシステムを含んで成り、この場合、非線形モデルのコンポーネントを使用してユニット・レベルにおける挙動をモデル化し(即ち、ユニット・レベルおよび製品の配合操作を最適化し)、線形モデルのコンポーネントを使用して工場レベルをモデル化し(即ち工場レベルの操作を最適化し)、さらにこれらの線形モデルは施設レベルにおける工場の間の挙動の重なりをモデル化する(即ち複数工場施設に対する統合製造プロセスを全体的に最適化する)ために連結されている。時宜を得た方法で拘束条件下において収益を最大にする正確な解を得るために、ここに記載されたようにLP法をNLP法と組み合わせると、使用者は時宜を得た正確な解を同時に得ることができる利点が見出だされている。LP法は典型的には、コストおよび材料の経路を迅速に記述できる(全体的な重なり合い)が、局所的なユニット・プロセスの操作(局所的な相互作用)を時間的に記述するのは困難である。NLP法は典型的にはプロセスを一層正確に反映できるが、速度が犠牲にされる。
【0021】
再帰法および分配再帰(Distributive Recursion)(DR)法は、異なった最適化法を結合して解を得る際のモデルの中の不正確なデータを改善するために開発された方法である。再帰法はモデルの解を求め、外部プログラムを使用して最適解を検査し、物理的性質のデータを計算し、計算されたデータを用いてモデルを修正し、再びそのモデルの解を求める方法である。計算されたデータの変化が規定された許容度の範囲内に入るまでこの方法を繰り返す。簡単な再帰法では、使用者の推測値と外部コンピュータ・プログラムで計算された最適解の値の差を修正し、再び最適化する。
【0022】
分配再帰(DR)法のモデル構造では、LPの解の外側からLPマトリックスの内側へと誤差の計算を移し、これによって連結された上手および下手のプロセス変数に対する誤差を視覚化する。初期的な物理的性質の推定値または推測値を用いて現在のマトリックスを解いた後、その解から新しい値を計算し、他のLPの解の中に挿入する。DRと簡単な再帰法との主な相違は、「誤差」と呼ばれる推測値と暫定的な解との間の差の取り扱いである。使用者がLPモデルの中の再帰プールの物理的性質を推測する際、典型的には使用者が正しくない推測をするために誤差が生じる。しかしDR再帰モデルでは、材料の上手の製造者は下手の製造者の要求を知っており、逆もまたそうである。そのためDRモデルでは、製造コストとモデル化された全体的な施設またはプロセスの一層完全な設計像との間に経済的な釣り合いをとることができる。
【0023】
上記に説明したように、一つまたは組み合わせられた最適化の方法を使用し、原料油を精製した製品または化学的な供給原料または化学製品に変える場合において最大の収益を見出だすことができる。しかし、LPおよびNLPの両方の最適化法を組み合わせて使用すると、時宜を得た方法で許容される品質の炭化水素製品を製造するための処方が得られる利点があることが見出だされている。この場合NLP法はさらにLP法以外のすべての方法を含むものと定義される。再帰法、DR法および同様な方法はLP法の中に非線形性を導入し、それぞれの逐次的な計算過程において、他の独立変数を一定に保ちながら或る一つの独立変数の限定された変化に対応した従属変数の変化を反映する一層正確な値を用いて線形プログラムのマトリックスを修正する。しかし本発明に従えば、線形プログラムのそれぞれの逐次的な計算過程に対し前の過程から得られた修正された値を代入する(そして収束して解が得られるまで再帰過程を続ける)のではなく、非線形シミュレーターから若干のプロセス変数に対して修正された値を得てこれを線形プログラムに通す。
【0024】
好ましくは本発明の一具体化例においては、拘束された線形コンポーネントを拘束された非線形モデルのコンポーネントと統合して使用する。例えばLPをNLPと統合して使用する。さらに好ましくは本発明においてはPIMS−LPとして知られている線形モデルのコンポーネントを拘束された非線形モデルのコンポーネントと統合して使用する。最も好ましくはPIMS−LPはさらに一つまたはそれ以上の非線形シミュレーターと統合されたマトリックスを有するCPLEX(R)線形ソルバーを含み、これをCPLEX(R)マトリックスに対して直接入出力できる実行時メモリーを通じて(データを再生したり或いは保存したデータを呼び出すのとは対照的に)直接接続された非線形シミュレーターと一緒に使用する。
【0025】
PIMS−LPは、EXCELスプレッドシートのようなスプレッドシートまたはACCESSデータベースのようなデータベースの周りで設計され(即ちPIMS−LPのマトリックスが一つまたはそれ以上のEXCELスプレッドシートおよび/またはACCESSデータベースの中に含まれたデータから生成され)、さらにPIMS−SIとして知られているアプリケーション・プログラミング用インターフェース(シミュレーター・インターフェース)を含んでいる。これによって他のモデルのコンポーネント(例えば非線形シミュレーター)とPIMS−LPとの間を接続して、例えばプロセス変数または下位のスプレッドシートの係数のような情報を交換または修正することができる。別法として、非線形シミュレーターのようなモデルのコンポーネントをEXCELのVisual Basic for Application(VBA)を介してPIMS−LPに接続することができる。
【0026】
本発明の一具体化例においては、水蒸気クラッキング装置のサブモデル310はPIMS−LPを介してPIMS−LPにアクセスし得る入出力スプレッドシートを含んだEXCELワークブック・インターフェースを使用し、SPYRO(R)シミュレーター325に操作的に結合されたPIMS−LPである。好ましくは4枚のスプレッドシートを使用し、2枚はPIMSの入力用(シート1)および出力用(シート2)であり、2枚はSPYRO(R)の入力用(シート3)および出力用(シート4)である。例えば入力用のスプレッドシートはPIMS−LPから例えば供給速度;供給流の性質(成分、比重、硫黄分等);ユニットの操作パラメータ(温度、圧力、比率、シベリティ(severity)、選択性等);および一般的なPIMS−LPの情報(繰り返し過程の数、許容外の事項、目的関数、解の状態、事例番号等)のようなSPYRO(R)シミュレーターへ情報を入力するためのものである。出力用のスプレッドシートはSPYRO(R)シミュレーターからPIMS−LPへの出力情報、例えば線形プログラムのマトリックスの中の係数の値を変えるベクトル(例えば収率基底ベクトル、供給流性質ベクトル、単位操作パラメータ・ベクトル等)、および計算過程の品質の情報に対する再帰行(recursion row)、容量行(capacity row)等のようなPIMS−LPの情報を出力するためのものである。収束するまでの処理時間を最低にするためには、これらの入力用および出力用のスプレッドシートはそれぞれの再帰計算過程の度毎に開き、保存し、閉じるのではなく、線形プログラムによる再帰計算を行う間開いたままにしておくことが好ましい。さらに好ましくはPIMS−LPのバージョン12.3以降のスイッチを使用してスプレッドシートを開いたままにしておく。線形プログラム(例えばPIMS−LP)と非線形シミュレーター(例えばSPYRO(R))の間のEXCELインターフェースに対して例えば次のような規則をつくることによって処理時間をさらに短縮することができる。即ち例えば非線形シミュレーターに対する1回の呼び出しで多重処理を行う;線形プログラムによる回帰計算過程が或る与えられた回数に達した後は非線形シミュレーターだけを走らせる;線形プログラムがうまく行きそうな場合に非線形シミュレーターだけを走らせる;各計算過程の間でコンポーネントの変動が与えられた許容範囲内にある場合には非線形シミュレーターを走らせず、変動が与えられた許容範囲内にあるコンポーネントに対しては新しい係数の再計算を行わない。このような規則はオブジェクト指向プログラミング技術によりEXCEL、VBAおよびイベント処理プロトコルを用いるメソッドとして適用することができる。下記の例は、EXCELのイベントが収束の速度を制御するのに使用されるメソッドをどのようにして始動させるかを示す例である。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明の一具体化例においては、精製施設のサイトモデル305は入力用および出力用のスプレッドシートを含むEXCELのワークブックを有するPIMS−SIインターフェースを使用してDEMEXシミュレーター315に操作的に結合されたPIMS−LPである。入力用のスプレッドシートは、下記の例に示されるように、PIMS−LPからの情報の入力をDEMEXシミュレーターに入力するものである。
【0029】
【表2】

【0030】
出力用のスプレッドシートは、下記の例に示されるように、SPYROシミュレーターからDEMEXへ情報を出力するものである。
【0031】
【表3】

【0032】
上記の方法は収束のための処理時間を最低にするために使用することができる。
【0033】
図3は、精製施設の処方ゼネレーター10と呼ばれる本発明の一具体化例である。この場合、炭化水素製品の規格(区域13と15との間のモデル化区域16によって示される)を生成するために、特に配合された製品、例えば石油精製施設からガソリン、ディーゼル油、#6オイル、およびアスファルトを製造するための処方をつくるために、統合された線形および非線形モデルのコンポーネントを使用して実世界の操作、実験、管理上のデータ(破線の区域15の内部で示されている)を有する実世界のプロセス(破線区域13の内部に示されている)がモデル化される。この処方ゼネレーター10はコネクター42および58を介してアクセスすることができる。図3の具体化例は粗製油の精製を目的としているが、その中の方法論は任意の炭化水素または他の化学製品の製造施設に適用することができる。
【0034】
図3の区域13はモデル化すべき天然の炭化水素および/または化学製品のプロセスまたは工場を表わし、これは該プロセス、即ち炭化水素および/または化学製品の合成プログラムへの入力即ち供給を含み、また該プロセスからの出力即ち製品を表わしている。石油精製の文脈においてもっと特定的に述べれば、粗製油供給物12は精製工程16で精製され、精製された製品22が得られる。粗製油供給原料12は種々の供給原料、例えば現場の在庫品として得られる原料、市場を通じて(例えばタンカー、パイプライン等により)入手できる供給原料、およびこれらの組合せを含んでいることができる。精製工程16は所望の精製品を製造するための精製工程、ユニット、および配合施設の任意の適当な組合せであることができる。精製工程16は多数の工程制御装置、例えば温度制御装置、圧力制御装置、組成制御装置、流量制御装置、液位制御装置、弁制御装置、装置制御装置等を含んで成っている。このような制御装置は、工業界においてはしばしば設定点と呼ばれるプロセス制御用の対応する設定値18を介してコンピュータで制御されることが好ましい。典型的にはプロセス制御用の設定値は、物理的に分離されてコンピュータのネットワークを介して連結されコネクター14を介してモデル化区域にアクセスできるコンピュータのデータ保存領域(例えばデータベース等)に保存されており、そのアクセスは、本明細書に記載された他のコネクターの場合と同様に、手動または自動的に行うことができ、データの入力および/または出力に使用することができる。精製工程16はしばしば同様な制御装置に対応している多数のプロセス・センサー、例えば温度センサー、圧力センサー、組成センサー、流量センサー、液位センサー、弁センサー、装置センサー等を含んで成っている。これらのセンサーは未処理のプロセス・データおよび拘束条件24を生成し、これは典型的には前述のコンピュータのデータ保存区域に保存され、コネクター20を介してモデル化区域16にアクセスされる。未処理のプロセス・データは手を加えないプロセス・データを意味し、センサーから直接取り出され、例えば物質および/またはエネルギー収支の調整のような修正または調整を行われていないデータである。未処理のプロセス・データは実世界におけるプロセスの操作条件のスナップ映像を与える。
【0035】
図3の操作、実験、管理に関するデータ区域15は、区域13によって表わされる天然の炭化水素および/または化学製品のプロセスに対する実世界の拘束条件を表わしており、さらに精製施設の操作手順40、精製施設の管理用の入力36、現在の供給情報28、および歴史的な供給情報30を含んで成り、これらはそれぞれコネクター34および38を介してモデル化区域16が利用することができる。精製施設の管理入力36は、典型的には自動的にではなく手動で入力されるいくつかの因子、例えば操作上の目標、最適化の目標、技術的サービス、および情報技術の入力を含んでいる。実質的には、これは精製施設の現在の操作に対する管理上の決定およびビジネスの目標を考慮してプロセスをモデル化するための関係の中に入れる場所である。精製施設における操作手順40は、精製装置の管理に関する決定と似ているが、設計、安全性、環境、および他の同様な拘束条件のような精製施設を操作する確立した指針である。現在の外部からの情報28は研究および開発の情報のような技術的なデータ、および製品および供給原料に対する実験室での試験結果(例えば組成物の評価)、並びに財務上の情報、例えば商品/製品の価格設定(例えばNew York Mercantile Exchange data)およびエネルギー・コスト(例えばPlatts Global Energy data)を含んでいることができる。歴史的な外部情報30は現在の外部情報28と同じまたは同様なデータ(例えば未処理のプロセス・データ、歴史的な製品の価格設定、季節的なコストおよび価格設定の傾向、エネルギーのコスト、粗製原料の試験等)を含むことができるが、傾向(動向データ)をモデル化の中に含ませることができるように歴史的な期間を包含している。現在の外部情報28および歴史的な外部情報30は、それらが典型的には実際の操作プロセス(未処理のプロセス・データ24として得られるデータ)に対して外部的な情報源から得られるか誘導されるので外部と呼ばれており、データ保存ユニット32に保存されそこからアクセスできることが好ましい。
【0036】
図3に示されておりここで詳細に説明されるように、モデル化区域16は区域13によって表わされる天然の炭化水素および/または化学製品のプロセス、および区域15によって表わされる操作、実験および管理に関するデータとフィードバック・ループの関係でコネクター14、20、34および38を介して操作的に結合されている。図3のモデル化区域16はさらにモデル作成段階26、ソルバーの配列43、およびモデル出力段階56を含んで成っている。モデル作成段階26では、典型的には一人またはそれ以上のプロセス技術者および/またはコンピュータ・プログラマーが関与したプロセス・シミュレーション・モデルが開発され或いはプログラム化される。前に説明したように、モデルは統計および/または第1原理に基づくような任意の範疇のものであることができ、さらに前述のような市販のコンポーネントを含む任意の数のモデルのコンポーネント(好ましくはプロセス内部のユニットに対応する)を含んで成っている。モデルは典型的には公知の数学的および技術的関係および拘束条件、例えば物質・エネルギー収支、化学反応速度論等、並びに前述のような実世界における操作の拘束条件に基づいている。モデルを作成する場合、精製施設の操作手順40、精製施設の管理のための入力36、現在の外部情報28および歴史的な外部情報30、および未処理のプロセス・データ24を含む実世界の操作データおよび拘束条件がプロセスからインポーとされる(取り込まれる)。
【0037】
モデル作成段階26で作成される数学モデルは、前述の一つまたはそれ以上の非線形シミュレーター(図2のシミュレーター315、320および325に対応)と統合された線形プログラム41(図2の線形プログラム305に対応)を含むソルバー配列43によって解かれる。好ましくは線形プログラム41は解に収束するために再帰法または分配再帰法を、さらに好ましくはPIMS−LPを使用する。線形プログラム41はさらにマトリックス・ゼネレーター44によって線形ソルバー46およびコンパレーター即ち評価段階48を含んで成っている。マトリックス・ゼネレーター44は一組の数学的な式および方程式からマトリックスを生成し、線形ソルバー46、好ましくはCPLEX(R)線形ソルバーを用いて解くのに適したマトリックスをつくるためのコンピュータ・アプリケーションまたはプログラムである。好ましくはマトリックス・ゼネレーター44はPIMS−LPのコンポーネントであり、CPLEX(R)線形ソルバーの入力要求即ちAPIに適合している。このマトリックスは前述の線形プログラムの標準形に対応し、従属および独立プロセス変数、並びに係数を含んでいる。即ちこれらの変数の各々に対する「調節因子」はマトリックス・ゼネレーター44によって確立される。2行2列のマトリックスの簡単な例は次の通りである。
【0038】
【数1】

【0039】
ここで下記の量は係数と独立変数との内積(ドット・プロダクト)である。
【0040】
ガソリンの収率 = aX + bY
ディーゼル油の収率 = cX + dY
またXおよびYはプロセス変数を表わし、a、b、cおよびdは対応する変数の値を調節する係数である。換言すれば、係数a、b、cおよびdは該関係式に対する相互作用を表わし、各関係は一つまたはそれ以上の独立変数(XおよびY)および一つまたはそれ以上の従属変数(ガソリンの収率およびディーゼル油の収率)をもっている。物理的には一つのベクトルは大きさおよび方向の両方を有する量、即ち速度を表わしている。例えば毎時5マイルの速度で移動しているということによって物体の速度を定義するのは不十分である。物体の方向も必要である。即ち物体は毎時5マイルで北東の方向に移動していると言わなければならない。しかし北東とはいくぶん曖昧であり、速度は依然として毎時5マイルであるとしても、物体は毎時4マイルで北の方に、そして同時に毎時3マイルで東の方にと言った方がより適切な言い方である。同様に、上記の簡単化されたマトリックスの例では、ガソリンの収率はプロセス・コンポーネントの中に分割されている。例えばFCCユニットを通してガス油を処理する場合、反応器の温度(X)が上昇すると、ガソリン(軽い成分)の収率が増加し(「a」は正の大きさをもつであろう)、触媒対ガソリンの比(Y)が増加すれば、ガソリンもまた増加し(「b」もまた正の大きさをもつであろう)、この場合すべての影響のサム・プロダクト(sum product)がガソリンの総量を与える。同様に、FCCによるディーゼル油の収率は温度の上昇と共に増加する(「c」も正の大きさをもつであろう)が、触媒対ガソリンの比が増加すると共に減少する(「d」は負の大きさをもつであろう)。従って炭化水素流はベクトルとして表わすことができ、これらの影響を与える処理コンポーネントのサム・プロダクトはそれらの収率を与える。好ましくはマトリックスの行は独立したプロセス変数から成り、マトリックスの列は従属したプロセス変数から成っている。各変数に対して係数が存在し、独立変数と従属変数との間に関係がない場合、係数は0である。
【0041】
モデル作成段階26において、マトリックスの変数および係数に対する初期値(或る場合には初期推定値と呼ばれる)は好ましくは歴史的なデータ、前のシミュレーションの結果、技術者の推測等に基づいて与えられる。これらの値は線形ソルバー46に通され、該変数および係数に対する計算値が得られる(1回目に通して得た値は1回目の再帰計算過程に対応し、2回目に通して得た値は2回目の再帰計算過程に対応する、以下同様)。任意の適当な線形ソルバー、例えばAspen Technology,Inc.、Frontline System,Inc.、ILOG,等から入手できるCPLEX(R)またはXPRESS(R)を用いることができる。変数に対する推定値が正しくないことが実質的に確かな時は、解に収束するためには多くの再帰計算回数または分配再帰計算回数が必要である。線形プログラムが或る解に収束したかどうかを決定するために、或る与えられた計算過程に対して計算された変数を一組の拘束条件または許容条件と比較する。線形プログラムが収束したかどうかを決定する場合、現在の計算過程の値を直前の計算過程の値と比較して差を決定する。この差が許容値より大きければ、評価は「偽」であり、この線形プログラムは許容し得る解に収束しなかったことになる。従って前述の係数を変更して変数を調節しなければならない。各変数に対し、逐次的な計算過程の間で得られる差を検討し、その線形ソルバーが変数の挙動を正確に表わしているかどうかを決定する。或る種の変数はこのモデルの中でLPによって修正されるようにプログラミングされており、他の変数はこのモデルの中でNLPによって修正されるようにプログラミングされている。このようなプログラミングは、モデル化された結果、実世界のプロセスの結果、或いは両方に対し時間の経過に伴う結果を反映するように修正することができる。線形の挙動を示す変数(およびLPの内部でプログラミングされた変数)に対しては、PIMS−LPではこのような変数に対する係数は変化しない。即ち、LP法を用い独立変数を段階的に変化させ典型的なLP法を用い目的関数を最大にする。最後に行った再帰計算過程における独立変数(またアクティビテイ(activity)と呼ばれる)の差が所望の許容度の範囲内で現在の計算過程と同じになったら再帰計算を中止する。このような場合、他の独立変数を同じ値に保った場合、個々の独立変数に関し係数は線形の方程式の傾斜に対応した一定の値になる。これに加えて、非線形の挙動を示すとされる(そして好ましくはNLPに対する入出力ファイルを介してそのままプログラミングされた)変数に対しては、非線形ソルバー52を外部からPIMS−LPの枠組みに付け加え、このような変数に対する係数を調節することができる。非線形ソルバー・システム52は二つ以上の非線形ソルバーを含んで成ることができ、好適な非線形ソルバー・システムまたはシミュレーターは前に図2に示して説明したものを含んでいる。線形プログラムにより或る与えられた計算過程を行った後、非線形ソルバー・システム52はコネクター50を介して非線形挙動を示す変数および対応する係数にアクセスする。PIMS−LPモデルからの出力データを入力として非線形モデルに入れる。非線形モデルは、各独立変数に対し、他のすべての変数を一定に保ちながら予め定められた段階または増分の大きさの範囲内で新しい線形係数(傾斜)を計算する。与えられた一つの計算過程の後でマトリックスの中に存在する係数がコネクター54を介してアクセスされて調節され、これによって次の回帰計算過程における線形プログラムに使用される係数に対する修正値が得られる。修正された係数(線形および非線形の変数の両方に対し)を用い、各回帰計算過程の間に評価段階48によって線形ソルバー46からの結果が検査され、すべての変数が許容範囲内にある場合線形プログラムは解に収束し、解はモデル出力段階56へ送られる。
【0042】
モデル出力段階56は、与えられた操作条件、供給原料、拘束条件等に対し最適化された目標、好ましくは最大の収益性を達成するように精製施設を操作しおよび/または製品を製造するための最適解を含んでいることが好適である。好ましくはモデル出力段階56は、水素、燃料ガス、液化石油ガス(LPG)、プロパン、プロピレン、ブタン、ブチレン、ペンタン、ガソリン、改質ガソリン、灯油、航空燃料、高硫黄分ディーゼル油、低硫黄分ディーゼル油、高硫黄分ガス油、低硫黄分ガス油、#6オイル、およびアスファルトのような製品に対する処方または配合組成を含んで成っている。モデル出力は好ましくはさらに所望の最適化を達成するための炭化水素および/または化学プロセスの操作および管理に関するデータ、情報、修正等を含んでいる。例えば好ましくはモデル出力は、区域13で表わされる炭化水素および/または化学製品のプロセスにフィードバックされ、手動か或いは好ましくは自動的にプロセスを制御して操作を行い所望の最適化を達成できるような修正されたプロセス制御用の設定18を含んでいる。また好ましくはモデル出力は供給原料の規格および管理計画、並びに精製施設の操作手順の修正および最適操作を達成するための指針をさらに含んでいる。
【実施例】
【0043】
下記の実施例は、前述のDEMEXユニットに対するマトリックスの小さい部分の一例である。抽出塔は、脱金属処理を行った油(DMO)、樹脂、およびアスファルトを含んで成る真空蒸留塔からの塔底部分を受け取るためにつくられている。これに加えて、抽出を行うために溶媒としてプロパンおよびブタンが加えられる。抽出塔の頂部から、DMOおよび樹脂が集められ、フラッシュ蒸発ドラムの方へ移され、DMOおよび樹脂の別々の製品がつくられる。抽出塔の底部からアスファルトが集められる。この例に対しては、従属変数は抽出塔からの製品の収率であり、独立変数は抽出塔の温度である。従って供給原料および製品に対するアクティビティ(独立変数)は、物質収支の拘束のために、加えると0にならなければならない。もっと特定的に言えば、抽出塔からの収率を記述する関係は次のようになる。
【0044】
【数2】

【0045】
温度は独立変数であり、従ってマトリックス中の列の要素になり、従属変数である収率はマトリックス中の行の要素になるであろう。質量が保存されるために温度のアクティビティの関係は0になる必要がある。
【0046】
【数2】

【0047】
以上、本発明の好適具体化例を示して説明したが、当業界の専門家は本発明の精神および範囲を逸脱することなくその変形を行うことができる。従って、本明細書に記載された具体化例は例示の目的のためのものであって本発明を限定するものではない。本発明の範囲内において本発明のシステムの多くの変更および修正が可能である。従って本発明の保護されるべき範囲は上記の具体化例に限定されるものではなく、添付特許請求の範囲によってだけ限定される。これらの特許請求範囲はその主要事項のすべての同等物を包含していなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】NEOS Guideによる最適化の木(ツリー)。
【図2】本発明によってモデル化されるプロセスのブロック図。
【図3】製品の処方をつくる本発明の具体化例を示す流れ図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素または化学製品を製造する施設を操作する方法において、
該施設を数学的にモデル化し;
線形および非線形のソルバーの組み合わせを用いて該数学モデルを最適化し;
該最適解に基づいて製品に対する一つまたはそれ以上の処方または操作設定点を生成させることを含んで成ることを特徴とする方法。
【請求項2】
該数学モデルはさらにプロセス変数および対応する係数を有する多数のプロセス方程式を含んで成ることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
該プロセス変数および対応する係数を使用して線形プログラムの中におけるマトリックスをつくることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
再帰法によって該線形プログラムを実行することを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
分配再帰法によって該線形プログラムを実行することを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項6】
逐次行われる再帰計算過程に基づいて、プロセス変数および対応する係数の一部に対する修正値を線形ソルバーにより計算することを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項7】
逐次行われる再帰計算過程に基づいて、プロセス変数および対応する係数の一部に対する修正値を非線形ソルバーにより計算することを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
プロセス変数および対応する係数に対する修正値をマトリックスの中に代入することを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
現在の再帰計算過程に対し線形プログラムによって計算されたプロセス変数および対応する係数についての修正値が、直前の再帰計算過程に対する対応する値と比較した場合、或る与えられた許容範囲に入るまで再帰計算を継続することを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
線形プログラムはPIMS−LPであることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
線形ソルバーはCPLEXまたはXPRESSであることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
マトリックスのプロセス変数および対応する係数は一つまたはそれ以上のスプレッドシートまたはデータベースに保存されていることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
非線形ソルバーはPIMS−SIを介してスプレッドシートにアクセスすることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
非線形ソルバーはVisual Basic for Application(VBA)を介してスプレッドシートにアクセスすることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項15】
製造施設は石油精製施設であることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項16】
粗製物の蒸溜、炭化水素の蒸溜、改質、芳香族の抽出、トルエンの不均化、溶媒による脱アスファルト、流動触媒クラッキング(FCC)、ガス油の水素化、蒸溜生成物の水素化、異性化、硫酸のアルキル化、および熱電併給操作から成る群から選ばれる石油精製施設の部分に対し非線形ソルバーによりシミュレーションを行うことを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項17】
生成される処方は、水素、燃料ガス、LPG、プロパン、プロピレン、ブタン、ブチレン、ペンタン、ガソリン、改質ガソリン、灯油、航空燃料、高硫黄分ディーゼル油、低硫黄分ディーゼル油、高硫黄分ガス油、低硫黄分ガス油、#6オイル、およびアスファルトから成る群から選ばれる1種またはそれ以上の製品に対する処方であることを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項18】
プロセス変数は精製施設に対する粗製供給原料の組成を含んでいることを特徴とする請求項17記載の方法。
【請求項19】
最適解に基づいて精製施設に対する1種またはそれ以上の粗製供給原料の中から選択を行うことを特徴とする請求項18記載の方法。
【請求項20】
炭化水素または化学製品の製造施設を操作するコンピュータ化されたシステムにおいて、該システムは該施設の数学モデルをつくることを主目的とするコンピュータを含んで成り、該コンピュータは線形および非線形のソルバーを組み合わせて実行することにより該数学モデルを最適化し、最適解に基づいて製品に対する一つまたはそれ以上の処方を生成することを特徴とするシステム。
【請求項21】
該コンピュータは製造施設の内部においてインターフェースによりプロセス・コントローラーと接続され、最適解に基づいて設定点を与えることを特徴とする請求項20記載のシステム。
【請求項22】
水素、燃料ガス、LPG、プロパン、プロピレン、ブタン、ブチレン、ペンタン、ガソリン、改質ガソリン、灯油、航空燃料、高硫黄分ディーゼル油、低硫黄分ディーゼル油、高硫黄分ガス油、低硫黄分ガス油、#6オイル、およびアスファルトから成る群から選ばれる1種またはそれ以上の製品を製造するために、該コンピュータは石油精製施設の内部で製品配合システムを制御することを特徴とする請求項21記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−503957(P2006−503957A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−546687(P2004−546687)
【出願日】平成15年7月8日(2003.7.8)
【国際出願番号】PCT/US2003/021311
【国際公開番号】WO2004/038535
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
JAVA
WINDOWS
【出願人】(505046112)フイナ・テクノロジー・インコーポレーテツド (9)
【Fターム(参考)】