説明

炭化珪素単結晶の製造方法、炭化珪素単結晶ウェーハ及び炭化珪素単結晶半導体パワーデバイス

【課題】残留応力を低減した炭化珪素単結晶を製造する炭化珪素単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】昇華法において用いる種結晶保持部材22に固着された種結晶13に炭化珪素単結晶40を成長させた後、化学的方法を用いて種結晶保持部材22を除去する。種結晶保持部材22は、黒鉛、アモルファスカーボン、炭素繊維、有機化合物炭化物、金属炭化物のいずれかからなる。また、化学的方法は、種結晶保持部材22を酸化性ガスと反応させる方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素単結晶の製造方法、炭化珪素単結晶ウェーハ及び炭化珪素単結晶半導体パワーデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素半導体は、シリコン半導体よりも絶縁破壊電圧が大きく、エネルギーバンドギャップが広く、また、熱伝導度が高いなど優れた特徴を有するので、発光素子、大電力パワーデバイス、耐高温素子、耐放射線素子、高周波素子等への応用が期待されている。
【0003】
前記炭化珪素半導体は、一般に、基板の表面を超平滑な鏡面状に研磨した炭化珪素単結晶ウェーハを製造した後、前記炭化珪素単結晶ウェーハの鏡面上に炭化珪素や金属窒化物をエピタキシャル成長させ、さらにその後、金属膜や酸化膜を成膜して形成する。
【0004】
前記炭化珪素単結晶ウェーハの製造工程は、炭化珪素単結晶インゴットを形成する単結晶育成工程(炭化珪素単結晶インゴット成長工程)と、前記炭化珪素単結晶インゴットから炭化珪素単結晶ウェーハを作製する炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程とからなる。前記炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程は、たとえば、円筒加工工程、平面加工工程(OF、IF加工)、インゴット切断工程、面取り(ベベリング)工程、ラッピング工程、研磨工程、CMP(Chemical Mechanical Polishing:機械的化学的研磨)工程、洗浄工程等からなる。
【0005】
前記炭化珪素単結晶ウェーハの製造工程の歩留まりを向上させることにより、高品質の炭化珪素単結晶ウェーハ(炭化珪素単結晶基板)を安定的に、かつ低コストで生産することができ、前記炭化珪素半導体を普及させることができる。
しかし、前記単結晶育成工程(炭化珪素単結晶インゴット成長工程)では、通常、2000℃超の厳しい温度環境で前記炭化珪素単結晶インゴットを形成するので、前記炭化珪素単結晶インゴットの内部に残留応力が形成される場合が多い。その場合、前記炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程で切断・研磨といった加工を行うと、炭化珪素単結晶は高硬度であるが脆性を有するため、前記残留応力に起因してクラック(割れ)を生じさせる。これが、炭化珪素単結晶ウェーハを作製する工程の歩留まりを低下させる。
【0006】
また、クラック(割れ)が生じた炭化珪素単結晶ウェーハを炭化珪素半導体の基板として用いた場合には、クラックが無い部分では高品質な炭化珪素単結晶をエピタキシャル成長させることができたとしても、クラックが存在する部分では高品質な炭化珪素単結晶をエピタキシャル成長させることができない。これが、炭化珪素半導体(デバイス)の製造における歩留まりの低下をもたらす。
【0007】
特許文献1〜8には、前記残留応力を低減するための方法が開示されている。たとえば、特許文献1、2には、炭化珪素単結晶インゴットまたは炭化珪素単結晶ウェーハを再度高温で焼鈍(アニール)して残留応力を低減することが開示されている。
特許文献1は、炭化珪素単結晶材の焼鈍方法及び炭化珪素単結晶ウェーハに関するものであり、非腐食性雰囲気ガス中において2000℃超2800℃以下の温度で焼鈍処理を実施する炭化珪素単結晶インゴットの焼鈍方法が開示されている。これにより、熱応力歪や加工歪のない炭化珪素単結晶を得ることができる。また、特許文献2は、炭化珪素単結晶ウェーハの製造方法および炭化珪素単結晶ウェーハに関するものであり、炭化珪素単結晶材を1300℃以上2000℃以下の温度で焼鈍熱処理を施した後に表面に研磨処理等々の機械加工を実施する炭化珪素単結晶ウェーハの焼鈍方法が開示されている。
しかし、これらの方法を用いても、炭化珪素単結晶ウェーハの作製工程で、前記炭化珪素単結晶インゴットの残留応力を十分に低減できず、クラック(割れ)を生じさせる場合がある。
【0008】
また、単結晶育成工程(炭化珪素単結晶インゴット成長工程)では、まず、種結晶を種結晶保持部材(台座)に固定する。前記固定方法としては、たとえば、種結晶保持部材(台座)に接着剤等を用いて種結晶の固定面を直接貼り付ける簡便な固定方法や、炭化珪素と反応し難く、価格が安く、取り扱いが容易であるカーボン材を固定用部材として用いる固定方法などがある。
前記種結晶と前記種結晶保持部材(台座)との間の密着性が悪い場合には、前記固定面での面内温度が均一でなくなり、局所的に高温とされる部分が発生する。面内温度のバラツキにより、前記種結晶に歪み(ストレス)が生じるとともに、局所的に高温とされた部分の炭化珪素が分解・昇華されて、前記種結晶に結晶欠陥を生じさせる。これは、その上に成長させる炭化珪素単結晶インゴットの品質を悪化させる。
【0009】
特許文献3、4には、前記種結晶と前記種結晶保持部材(台座)を密着性高く固定する方法が開示されている。特許文献3は、単結晶成長方法に関するものであり、種結晶と保持部がこれら間に介在する炭化層により機械的に結合された状態で該種結晶上に単結晶を成長させることが記載されている。また、特許文献4は、種結晶固定剤及びそれを用いた単結晶の製造方法に関するものであり、炭水化物と耐熱性微粒子と溶媒とからなる種結晶固定剤を用いて種結晶を種結晶載置部に固定することが記載されている。
【0010】
しかし、これらの方法を用いて密着性高く固定して場合には、加熱の際、前記種結晶と前記種結晶保持部材(台座)の熱膨張率の違いにより、その間に応力が発生し、室温まで冷却されたときに、これが残留応力となる場合がある。たとえば、炭化珪素とカーボン材の熱膨張率は室温から結晶成長温度(2000℃以上)までの温度範囲で完全には一致しない。そのため、カーボン材を前記種結晶保持部材(台座)として用いた場合には、熱膨張率が異なる温度領域で炭化珪素とカーボン材の間に応力が発生し、室温まで冷却されたときに、これが残留応力となる。種結晶に形成された残留応力は、種結晶上に成長させる炭化珪素単結晶インゴットに残留応力を生じさせる。
【0011】
特許文献5〜7は、残留応力を発生させないように種結晶と種結晶保持部材(台座)との間に緩衝材を配置する固定方法が開示されている。
たとえば、特許文献5は炭化珪素(SiC)単結晶及びその製造方法に関するものであり、種結晶と該種結晶を保持する台座との間に、両者間にはたらく熱応力を緩和するための応力緩衝材を配置することが記載されている。また、特許文献6は炭化珪素単結晶の製造方法および製造装置に関するものであり、炭化珪素単結晶インゴットを成長させる際の種結晶と、この種結晶を支持するための蓋体との間において、緩衝部材を介在させることが記載されている。さらにまた、特許文献7は炭化珪素単結晶の製造方法に関するものであり、種結晶を配する箇所のルツボ部材に、炭化珪素との室温における線膨張係数の差が1.0×10−6/K(ケルビン)以下である炭化珪素からなる部材を用いることが記載されている。
【0012】
しかし、これらの緩衝材を配置する固定方法では、炭化珪素単結晶インゴットの育成時に必要な種結晶と保持部材との間の密着性を犠牲するので、炭化珪素単結晶インゴットの育成中に部分的に種結晶が種結晶保持部材(台座)から剥がれる場合がある。また、種結晶を固定するために複雑な構成を必要とするとともに、固定作業に手間がかかることなどにより、製造コストを悪化させる場合がある。
【0013】
ところで、従来、炭化珪素単結晶ウェーハの作製工程では、種結晶保持部材(台座)に炭化珪素単結晶インゴットを成長させた種結晶を固定したまま、炭化珪素単結晶インゴットの切断・研磨といった加工を行っていた。炭化珪素単結晶インゴットを成長させた種結晶を種結晶保持部材(台座)に固定した状態では、炭化珪素単結晶インゴットに形成された残留応力が開放されず、内部に残される。そのため、この状態で切断・研磨といった加工を行うと、前記残留応力に起因してクラック(割れ)が生じた。これが、炭化珪素単結晶ウェーハを作製する工程の歩留まりを低下させていた。
これを避けるため、炭化珪素単結晶インゴットを成長させた種結晶を種結晶保持部材(台座)に固定した状態で残留応力を緩和するためのアニール処理を行うと、種結晶と種結晶保持部材(台座)との間の熱膨張率の差により発生する応力が、別の残留応力(ストレス)を形成し、これがクラック(割れ)を発生させた。
【0014】
種結晶保持部材から炭化珪素単結晶インゴットを取り外すことにより、炭化珪素単結晶インゴットに形成された残留応力が開放されて、前記問題は解決する。
しかし、種結晶保持部材(台座)と種結晶は一部または全部で非常に強く固着した状態となっているので、切断や切削などの機械的方法により前記種結晶保持部材を取り外そうとした場合には、種結晶保持部材(台座)へ印加する機械的負荷が、炭化珪素単結晶インゴットに新たに衝撃として付与され、炭化珪素単結晶インゴットと種結晶保持部材(台座)との間に存在していた残留応力とあいまって、高い発生率でクラック(割れ)を発生させた。
【特許文献1】特開2006−290705号公報
【特許文献2】特開2004−131328号公報
【特許文献3】特開平9−110584号公報
【特許文献4】特開平11−171691号公報
【特許文献5】特開2004−269297号公報
【特許文献6】特開2004−338971号公報
【特許文献7】特開2008−88036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、残留応力を低減した炭化珪素単結晶を製造する炭化珪素単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、鋭意研究を重ねて、炭化珪素単結晶の成長後に、機械的方法ではなく化学的方法により種結晶保持部材(台座)を除去することにより、炭化珪素単結晶の残留応力を低減することができることを見出した。また、残留応力を低減した炭化珪素単結晶を用いることにより、炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程においてクラック発生率を大幅に低減できることを見出した。さらに、化学的方法の中でも、特に、燃焼または酸化消耗による方法が好ましいことを見出した。
【0017】
つまり、上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。すなわち、
(1) 種結晶保持部材に固着された種結晶に炭化珪素単結晶を成長させた後、化学的方法を用いて前記種結晶保持部材を除去することを特徴とする炭化珪素単結晶の製造方法。
(2) 前記炭化珪素単結晶の成長が、昇華法を用いてされることを特徴とする(1)に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
(3) 前記種結晶保持部材が、黒鉛、アモルファスカーボン、炭素繊維、有機化合物炭化物、金属炭化物のいずれかからなることを特徴とする(1)または(2)に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
(4) 前記化学的方法が、前記種結晶保持部材を酸化性ガスと反応させる方法であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶ハの製造方法。
【0018】
(5) 前記化学的方法が、空気または酸素を含むガス雰囲気中で前記種結晶保持部材を燃焼または酸化消耗させる方法であることを特徴とする(4)に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
(6) 前記種結晶保持部材を燃焼または酸化消耗させるための加熱温度が500℃以上1800℃以下であることを特徴とする(5)に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
(7) 前記種結晶保持部材を燃焼または酸化消耗させた後、前記加熱温度から300℃まで−10℃/分以下の冷却速度で冷却することを特徴とする(6)に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
(8) 前記化学的方法が、前記種結晶保持部材を酸性液体、アルカリ性液体または有機溶剤のうち少なくともいずれかと反応させる方法であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【0019】
(9) 前記種結晶保持部材を除去した後、前記炭化珪素単結晶をアニールすることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
(10) (1)〜(9)のいずれかに記載の炭化珪素単結晶の製造方法により製造された炭化珪素単結晶に、切断、面取り、鏡面研磨、CMP加工のうち少なくともいずれかの加工を行って製造されることを特徴とする炭化珪素単結晶ウェーハ。
(11) (10)に記載の炭化珪素単結晶ウェーハ上に炭化珪素または/および金属窒化物をエピタキシャル成長させた薄膜エピタキシャル層が形成されてなることを特徴とする炭化珪素単結晶ウェーハ。
(12) (10)または(11)に記載の炭化珪素単結晶ウェーハが基板として用いられてなることを特徴とする炭化珪素単結晶半導体パワーデバイス。
【発明の効果】
【0020】
上記の構成によれば、残留応力を低減した炭化珪素単結晶を製造する炭化珪素単結晶の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態である炭化珪素単結晶の製造方法を説明するための図であって、炭化珪素単結晶成長装置の一例を示した断面模式図である。
図1に示すように、炭化珪素単結晶成長装置100は、真空容器1と、真空容器1の内部に配置されたルツボ6と、真空容器1を取り囲んで配置された加熱コイル3と、から概略構成されている。
【0022】
真空容器1は、その内部にルツボ6を内壁面1cから離間して配置できる収容部1aを備えており、収容部1aには導入管7と排気管8が接続されている。導入管7と排気管8により、任意のガスを収容部1aに導入・排気することができる。また、排気管8には、ターボ分子ポンプなど真空ポンプ(図示略)が取り付けられており、排気管8から排気して収容部1aを高真空の状態にすることができる。たとえば、排出管8から内部の空気を排気して減圧状態とした後、高純度のアルゴン(Ar)ガスを導入管7から収容部1aに供給し、再び減圧状態とすることにより、収容部1aをアルゴン(Ar)雰囲気の減圧状態とすることができる。
真空容器1の材料は、高真空を保つことができる材料を用いることが好ましく、たとえば、石英、ステンレスなどを挙げることができる。
【0023】
なお、真空容器1の内部に導入するガスは、アルゴン(Ar)やヘリウム(He)などの不活性ガスまたは窒素(N)ガスが好ましい。これらのガスは、炭化珪素と特別な反応を起こさず、また、冷却材としての効果もある。これらのガスを適宜混合して使用することにより、真空容器1の内部を理想的な温度分布となるように調整することができる。
【0024】
真空容器1の周囲には加熱コイル3が取り巻くように配置されている。加熱コイル3を加熱することにより、真空容器1を加熱することができ、さらには、ルツボ6を加熱することができる構成とされている。
加熱コイル3としては、高周波加熱コイルを用いることができる。高周波加熱コイルは、電流を流すことにより高周波を発生させて、被加熱物を加熱する。たとえば、真空容器1を1900℃以上の温度に加熱し、その内部のルツボ6および炭化珪素原料粉末5を加熱する。また、加熱コイル3は、たとえば、ルツボ6の上部より下部の温度を高くするように、その位置、巻き方および巻き数などが調節されており、被加熱物に温度勾配をつけて加熱することができる。
なお、加熱コイル3としては、抵抗加熱方式のコイルを用いても良い。
【0025】
ルツボ6全体を覆うように断熱材2がルツボ6に巻きつけられている。断熱材2は、ルツボ6を安定的に高温状態に維持するためのものである。断熱材2の材料としては、高温でも安定であり不純物ガスの発生の少ない材料を用いることが好ましく、例えば、ハロゲンガスによる精製処理を行った炭素繊維製の材料などを用いることができる。ルツボ6を安定的に高温状態に維持することができる場合には、断熱材2は取り付けなくてもよい。
【0026】
断熱材2には、ルツボ6の下部表面および上部表面の一部が露出するように孔部2c、2dが形成されている。また、ルツボ6は、孔部30cを備えた支持棒30上に配置されている。孔部30cと孔部2cは連通されており、真空容器1の外部に配置された放射温度計9により、ルツボ6の表面温度を測定できるようにされている。
なお、ルツボ6の表面温度は、孔部2c、2dに熱電対を差し込んで表面に熱電対の先端が触れるように配置して測定してもよい。
【0027】
図1に示すように、ルツボ6は、本体部21とその種結晶保持部材(蓋部)22とから構成されている。本体部21は、円筒形状(図示略)であり、円柱状に掘り込まれて形成された空洞部20を備えている。
空洞部20の内底面20b側には、炭化珪素粉末5が充填されている。また、空洞部20の開口部20a側には、炭化珪素単結晶インゴットを成長させるのに必要な空間が確保されている。
【0028】
種結晶保持部材(蓋部)22の一面側は中央部が円柱状に突出され、突出部10とされている。本体部21が種結晶保持部材(蓋部)22により蓋をされたとき、突出部10は、空洞部20の上部で内底面20b側へ向けて突出される。
突出部10の一面10aは、内底面20b側に種結晶13を配置するための面とされており、種結晶13が接着剤11により固着されている。これにより、種結晶13の一面(成長面)13aは、炭化珪素粉末5の開口部側の面5bと対向配置されている。
なお、炭化珪素単結晶を結晶成長させる一面(成長面)13aとして、(0001)Si面または(000−1)C面を用いる。なお、一面(成長面)13aを{0001}から30°程度まで傾いている面としてもよい。
【0029】
種結晶13としては、炭化珪素からなる単結晶(炭化珪素単結晶)を用いる。この炭化珪素単結晶としては、アチソン法、レーリー法、昇華法などで作られた円柱状の炭化珪素単結晶を短手方向に、厚さ0.3〜2mm程度で円板状に切断した後、切断面の研磨を行って成型したものを用いる。なお、この研磨の後に研磨ダメージを取り除くために、種結晶13の最終仕上げとして、犠牲酸化、リアクティブイオンエッチング、化学機械研磨などを行う事が望ましい。さらに、その後、有機溶剤、酸性溶液またはアルカリ溶液などを用いて、種結晶13の表面を清浄化することが好ましい。
【0030】
接着剤11としては、公知の接着剤を用いることができ、たとえば、フェノール系樹脂などを挙げることができる。これにより、後述する種結晶保持部材の除去工程で、種結晶保持部材を除去するときに同時に接着剤11を除去することができる。
なお、接着剤の代わりに、ネジ止めやピン止めのような取付部材を用いてもよい。その場合、前記取付部材の材料は、種結晶保持部材(蓋部)22と同じものとすることが好ましい。これにより、後述する種結晶保持部材の除去工程で、種結晶保持部材を除去するときに同時に前記取付部材を除去することができる。
【0031】
なお、グラッシーカーボンまたはダイアモンドライクカーボンなどの非晶質なカーボン膜を種結晶13の他面(接合面)13bに設けてもよい。非晶質なカーボン膜は、均一性に優れ、緻密で、ガスバリヤ性に優れ炭化珪素と密着性の高いので、炭化珪素単結晶インゴットの結晶欠陥を低減することができる。カーボン膜の膜厚は、炭化珪素からなる種結晶の昇華を抑制できる膜厚であれば得に限定されない。
【0032】
ルツボ6の本体部21の材料としては、高温で安定であり不純物ガスの発生の少ない材料を用いることが好ましく、黒鉛(グラファイト)、炭化珪素もしくは炭化珪素またはTaCによって被覆された黒鉛(グラファイト)などを用いることが好ましい。特に、黒鉛を用いることが好ましい。黒鉛は、2000℃近傍の高温でも耐えられ、価格が安く、取扱いおよび入手が容易であるためである。また、これらの材料をハロゲンガスによる精製処理して用いることがより好ましい。
【0033】
種結晶保持部材(蓋部)22は、黒鉛(グラファイト)、アモルファスカーボン、炭素繊維、有機化合物炭化物、金属炭化物の少なくともいずれかからなることが好ましい。これにより、化学的方法を用いて容易に除去することができる。
なお、本実施形態では、蓋部全体を種結晶保持部材22としているが、蓋部を突出部10と突出部以外の部分とに分割して、突出部10のみを種結晶保持部材22とする構成としてもよい。この構成とすることによっても、後述する種結晶保持部材22の除去工程で、突出部10以外の部分が除去されない場合でも、種結晶保持部材22が除去されることにより、突出部10以外の部分と炭化珪素単結晶インゴットを分離することができる。
【0034】
次に、本発明の実施形態である炭化珪素単結晶の製造方法について説明する。
本発明の実施形態である炭化珪素単結晶の製造方法は、炭化珪素単結晶成長工程と、種結晶保持部材の除去工程と、炭化珪素単結晶インゴットアニール工程と、を有する。
なお、得られた炭化珪素単結晶に対しては、その後、炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程を行い、炭化珪素単結晶ウェーハを作製する。
【0035】
<炭化珪素単結晶成長工程>
炭化珪素単結晶成長工程は、種結晶保持部材に固着された種結晶上に炭化珪素単結晶を成長させる工程である。図1を用いて説明する。
まず、種結晶保持部材(蓋部)22の突出部10の一面10aに接着剤11を塗布した後、接着剤11に炭化珪素からなる種結晶13の成長面と反対側の面13bを押し付けて、種結晶保持部材(蓋部)22の突出部10に種結晶13を貼り付ける。
【0036】
次に、炭化珪素粉末5を空洞部20の内底面20b側に充填する。次に、本体部21を種結晶保持部材(蓋部)22で蓋をして、ルツボ6を一体化する。
次に、ルツボ6を取り巻くように断熱材2を巻きつけた後、孔部2c、2dを形成する。そして、孔部2cに空洞部30cを連通させるように支持棒30を取り付け、真空容器1の内部にルツボ6を配置する。
【0037】
次に、排出管8に接続した真空ポンプ(図示略)を用いて真空容器1の内部を排気して、たとえば、4×10−3Pa以下の減圧状態とする。その後、導入管7から真空容器1の内部に高純度Arガスを一定時間導入して、真空容器1の内部をAr雰囲気で9.3×10Paという環境とする。
【0038】
次に、真空容器1の内部をAr雰囲気で9.3×10Paという環境に維持したまま、加熱コイル3を用いて、真空容器1を徐々に加熱して、真空容器1の内部の温度を室温から1800℃程度まで徐々に上げる。
その後、ルツボ6内の炭化珪素粉末5の温度を昇華温度である2000〜2400℃とした状態で、たとえば、50時間程度保持することにより、炭化珪素粉末5から発生させた昇華ガスを成長面13a上に徐々に堆積させて、炭化珪素単結晶を成長させることができる。なお、この時、種結晶13の成長面13aの温度は、炭化珪素粉末5の温度より50〜200℃低い温度、すなわち、1800〜2350℃となるように調整されている。これにより、種結晶13および炭化珪素単結晶の昇華(再蒸発)を抑制することができる。
【0039】
図2は、炭化珪素単結晶の成長過程を示した概略図である。図2(a)は炭化珪素単結晶の成長前の種結晶保持部材(蓋部)22を示した断面図であり、種結晶保持部材(蓋部)22の突出部10に接着剤11を介して種結晶13が固着されている。
図2(b)は炭化珪素単結晶の成長後の種結晶保持部材(蓋部)22を示した断面図であり、種結晶13の成長面13a上に炭化珪素単結晶40が成長されている。これにより、炭化珪素単結晶40と種結晶13からなる炭化珪素単結晶インゴット41が形成されている。
このように、炭化珪素単結晶の成長は、昇華法でされることが好ましい。これにより、残留応力を低減した炭化珪素単結晶40を形成できる。
【0040】
炭化珪素単結晶40の成長終了後、真空容器1を室温までゆっくりと冷却した後、炭化珪素単結晶インゴット41を取り出す。このとき、炭化珪素単結晶インゴット41と種結晶保持部材(蓋部)22は強固に固着している。
本実施形態では、接着剤11により育成開始時点で既に、種結晶13および種結晶保持部材(蓋部)22は強固に固着されているが、更に、2000℃超の高温の育成環境に曝されて種結晶13と種結晶保持部材(蓋部)22との間で反応が生じて炭化珪素多結晶等が形成されて、より強固に固着している。
【0041】
そのため、炭化珪素単結晶40の成長終了後に炭化珪素単結晶インゴット41と種結晶保持部材(蓋部)22を容易に除去することはできない状態とされている。
接着剤11の代わりに、仮にネジ止めやピン止めのような部材を用いたとしても、昇華ガスが隙間に入り込んで固化するため容易に取り外すことは出来ない状態とされている。
【0042】
<種結晶保持部材(蓋部)の除去工程>
種結晶保持部材(蓋部)の除去工程は、化学的方法により種結晶保持部材(蓋部)22を除去する工程である。
化学的方法としては、化学反応を用いる方法であれば特に限定されないが、たとえば、次の3つの方法を用いることが好ましい。
第1の化学的方法は、種結晶保持部材(蓋部)22を酸化性ガスと反応させる方法である。具体的には、空気または酸素を含むガス雰囲気中で種結晶保持部材(蓋部)22を加熱して、種結晶保持部材(蓋部)22を燃焼または酸化消耗させる方法である。
【0043】
まず、強固に固着した炭化珪素単結晶インゴット41と種結晶保持部材(蓋部)22を、加熱炉(図示略)の中心に配置する。
次に、加熱炉の内部に空気または酸素を含むガスを導入して、加熱炉の内部を酸化性ガス雰囲気で1.0×10Paという環境とした後に、加熱炉を加熱して、強固に固着した炭化珪素単結晶インゴット41および種結晶保持部材(蓋部)22を加熱する。この状態で一定時間保持することにより、種結晶保持部材(蓋部)22は接着剤11とともに燃焼または酸化消耗されて、炭化珪素単結晶インゴット41のみを残すことができる。
【0044】
図3は、種結晶保持部材(蓋部)22の除去工程を示した概略図である。図3(a)は加熱前の種結晶保持部材(蓋部)22を示した断面図であり、種結晶保持部材(蓋部)22の突出部10に接着剤11を介して種結晶13が固着されており、種結晶13の成長面13a上に炭化珪素単結晶40が成長されている。これにより、炭化珪素単結晶40と種結晶13からなる炭化珪素単結晶インゴット41が形成されている。
図3(b)は加熱後の種結晶保持部材(蓋部)22を示した断面図であり、種結晶保持部材(蓋部)22は接着剤11とともに燃焼または酸化消耗により除去されて、炭化珪素単結晶40と種結晶13からなる炭化珪素単結晶インゴット41のみが残されている。
【0045】
種結晶保持部材(蓋部)22の除去工程は、酸化性ガス雰囲気、たとえば、空気または酸素を含むガス雰囲気中で加熱して行うことが好ましい。これにより、種結晶保持部材(蓋部)22を効率的に燃焼または酸化消耗させることができる。
【0046】
前記加熱温度は500℃以上1800℃以下であることが好ましい。これにより、種結晶保持部材(蓋部)22および接着剤11を、容易に、かつ、完全に、燃焼または酸化消耗させることができる。
500℃未満の場合は、種結晶保持部材(蓋部)22および接着剤11を、完全に燃焼または酸化消耗させることができない。逆に、1800℃を超える場合には、炭化珪素単結晶インゴット41に残留応力を発生させる場合が生ずるので好ましくない。
【0047】
種結晶保持部材(蓋部)22を完全に除去するために要する処理時間は、種結晶保持部材(蓋部)22の体積を小さくするほど短縮できる。また、前記処理時間は、種結晶保持部材(蓋部)22の体積が同じでも酸化性ガスとの接触面積を大きくするほど短縮できる。さらにまた、前記処理時間は、加熱温度を高くするほど短縮できる。そのほか、前記処理時間は、種結晶保持部材(蓋部)22の種類、形状、表面状態などによって変化する。
【0048】
燃焼または酸化消耗後、−10℃/分以下の冷却速度で炭化珪素単結晶インゴット41を前記加熱温度から300℃まで冷却することが好ましい。これにより、炭化珪素単結晶インゴット41に残留応力を発生させないようにすることができる。冷却速度を−10℃/分より早くした場合には、炭化珪素単結晶インゴット41の表面と内部とで温度差が生じて、炭化珪素単結晶インゴット41に残留応力を発生させる場合が生ずるので好ましくない。特に、炭化珪素単結晶インゴット41のサイズが大きい場合には表面と内部とで温度差が生じやすいため、冷却速度を−10℃/分以下とすることが望ましい。
【0049】
種結晶保持部材(蓋部)22の燃焼または酸化消耗を行った場合、炭化珪素単結晶インゴット41の表面に酸化膜が形成される場合がある。この酸化膜はフッ酸で処理することにより容易に除去することができ、また、このフッ酸処理を行うことにより、炭化珪素単結晶インゴット41の表面をいわゆる犠牲酸化して清浄化することができる。
【0050】
第2の化学的方法は、種結晶保持部材(蓋部)22を酸性液体、アルカリ性液体または有機溶剤のうち少なくともいずれかと反応させる方法である。
たとえば、強固に固着した炭化珪素単結晶インゴット41および種結晶保持部材(蓋部)22を、酸性液体を満たした容器の中に浸漬する。この状態で、一定時間保持することにより、種結晶保持部材(蓋部)22および接着剤11のみを、容易に、かつ、完全に、溶解または酸化除去して、炭化珪素単結晶インゴット41のみを残すことができる。
酸性液体としては、発煙硫酸などを挙げることができ、アルカリ性液体としては、高温の水酸化カリウム融液などを挙げることができ、有機溶媒としては、加熱したジメチルスルホキシドなどを挙げることができる。
【0051】
第3の化学的方法として、反応性ガス中に材料を曝すガスエッチング法を用いても良い。これにより、種結晶保持部材(蓋部)22および接着剤11のみを、容易に、かつ、完全に、溶解または酸化除去して、炭化珪素単結晶インゴット41のみを残すことができる。しかし、この方法は時間を要するため、量産プロセスには若干不向きな方法である。
たとえば、300℃−1000℃程度に加熱し、COガスなどの反応性ガスを1L/分程度流しながら、除去したいカーボンの量に見合う時間だけ(数十時間以上)保持することでカーボンが完全に除去される。
【0052】
前記3つの化学的方法のうちで、第1の化学的方法、すなわち、空気または酸素を含むガス雰囲気中で種結晶保持部材(蓋部)22を加熱して、種結晶保持部材(蓋部)22を燃焼または酸化消耗させる方法が、処理が簡便であるとともに、同時に複数個の処理が可能であり、かつ、焼鈍効果を期待できることから最も好ましい。
なお、前記3つの化学的方法は、適宜組み合わせて用いても良い。
【0053】
なお、種結晶保持部材(蓋部)22の材料としてカーボンなどを用いた場合には、炭化珪素単結晶インゴット41から種結晶保持部材(蓋部)22を除去する方法として、切断や研削といった機械的方法も考えられるが、このような機械的方法は炭化珪素単結晶インゴット41に余計な衝撃を付与して、残留応力を形成するおそれがあるので好ましくない。
しかし、炭化珪素単結晶インゴット41に衝撃を与えないように機械的方法で種結晶保持部材(蓋部)22を一部取り除いた後、前記3つの化学的方法のいずれかまたは前記3つの化学的方法を適宜組み合わせて用いても良い。これにより、処理時間を短縮できる。
例えば、種結晶保持部材(蓋部)22の炭化珪素単結晶インゴット41を形成した面と反対側の面22bを、機械的方法を用いて一定量研削する。その後、残った種結晶保持部材(蓋部)22を前記いずれかの化学的方法で完全に除去するといった方法が適用可能である。
【0054】
<炭化珪素単結晶インゴットアニール工程>
種結晶保持部材(蓋部)22を除去した後、炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程の前に、炭化珪素単結晶インゴット41をアニールすることが好ましい。たとえば、アニール温度は2000℃とし、この状態で30時間保持する。これにより、炭化珪素単結晶インゴット41の残留応力を更に低減することができる。なお、炭化珪素単結晶インゴット41の残留応力が十分低減されている場合には、この工程を行わなくても良い。
【0055】
<炭化珪素単結晶ウェーハ形成工程>
次に、炭化珪素単結晶インゴット41を用いて、炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程を行う。
炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程は、切断、面取り、鏡面研磨、CMP加工のうち少なくともいずれかの加工を含むものであり、たとえば、円筒加工工程、平面加工工程(OF、IF加工)、インゴット切断工程、面取り(ベベリング)工程、ラッピング工程、研磨工程、CMP(Chemical Mechanical Polishing:機械的化学的研磨)工程、洗浄工程等からなる
【0056】
炭化珪素単結晶インゴット成長工程後、炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程を行う前に、炭化珪素単結晶インゴット41から種結晶保持部材(蓋部)22および接着剤11が除去されるとともに、炭化珪素単結晶インゴット41がアニール処理されているので、炭化珪素単結晶インゴット41、すなわち炭化珪素単結晶40の残留応力は大幅に低減されている。これにより、炭化珪素単結晶ウェーハ形成工程で、切断・研磨などの機械的加工を行って機械的負荷を加えても、炭化珪素単結晶ウェーハに容易にクラック(割れ)を発生させることはなく、クラック発生率を大幅に低減することができる。これにより、残留応力を低減した高品質の炭化珪素単結晶ウェーハを効率的に形成することができる。
さらに、これにより、前記炭化珪素単結晶ウェーハ上に薄膜成長を行ってエピタキシャル層を形成した炭化珪素単結晶ウェーハ(エピタキシャルウェーハ)またはこれらの炭化珪素単結晶ウェーハを用いた炭化珪素単結晶半導体およびその電子デバイス(炭化珪素単結晶半導体パワーデバイス)を、クラックを発生させることなく高い歩留まりで製造することができる。
【0057】
なお、本実施形態では、炭化珪素単結晶40を昇華法で作製する場合を一例として説明したが、炭化珪素単結晶40の成長方法は、これに限られるものではなく、たとえば、高温CVD法を用いても良い。高温CVD法には、高温高圧環境の特殊炉で製造する方法と、マイクロ波プラズマCVD法などのプラズマCVDで作製する方法とがあるが、これらはいずれも種結晶を用いる製造方法なので、本発明を適用することができる。
【0058】
本発明の実施形態である炭化珪素単結晶の製造方法は、種結晶保持部材(蓋部)22に固着された種結晶13に炭化珪素単結晶を成長させた後、化学的方法を用いて種結晶保持部材(蓋部)22を除去する構成なので、炭化珪素単結晶40の残留応力を低減することができ、炭化珪素単結晶40からクラックを発生させずに炭化珪素単結晶ウェーハを作製することができる。
【0059】
本発明の実施形態である炭化珪素単結晶の製造方法は、炭化珪素単結晶40の成長が、昇華法を用いてされる構成なので、残留応力を低減した炭化珪素単結晶40を形成できる。
【0060】
本発明の実施形態である炭化珪素単結晶の製造方法は、種結晶保持部材(蓋部)22が、黒鉛(グラファイト)、アモルファスカーボン、炭素繊維、有機化合物炭化物、金属炭化物のいずれかからなる構成なので、種結晶保持部材(蓋部)22の除去工程で、化学的方法を用いて容易に、かつ、完全に種結晶保持部材(蓋部)22を除去することができる。これにより、炭化珪素単結晶40からクラックを発生させずに炭化珪素単結晶ウェーハを作製することができる。
【0061】
本発明の実施形態である炭化珪素単結晶の製造方法は、前記化学的方法が、種結晶保持部材(蓋部)22を酸化性ガスと反応させる方法である構成なので、種結晶保持部材(蓋部)22の除去工程で、化学的方法を用いて容易に、かつ、完全に種結晶保持部材(蓋部)22を除去することができる。これにより、炭化珪素単結晶40からクラックを発生させずに炭化珪素単結晶ウェーハを作製することができる。
【0062】
本発明の実施形態である炭化珪素単結晶の製造方法は、前記化学的方法が、前記空気または酸素を含むガス雰囲気中で種結晶保持部材(蓋部)22を燃焼または酸化消耗させる方法である構成なので、種結晶保持部材(蓋部)22の除去工程で、化学的方法を用いて容易に、かつ、完全に種結晶保持部材(蓋部)22を除去することができる。これにより、炭化珪素単結晶40からクラックを発生させずに炭化珪素単結晶ウェーハを作製することができる。
【0063】
本発明の実施形態である炭化珪素単結晶の製造方法は、前記加熱温度が500℃以上1800℃以下である構成なので、種結晶保持部材(蓋部)22の除去工程で、化学的方法を用いて容易に、かつ、完全に種結晶保持部材(蓋部)22を除去することができる。これにより、炭化珪素単結晶40からクラックを発生させずに炭化珪素単結晶ウェーハを作製することができる。
【0064】
本発明の実施形態である炭化珪素単結晶の製造方法は、種結晶保持部材(蓋部)22を燃焼または酸化消耗させた後、前記加熱温度から300℃まで−10℃/分以下の冷却速度で冷却する構成なので、残留応力を低減した炭化珪素単結晶40を形成できる。これにより、炭化珪素単結晶40からクラックを発生させずに炭化珪素単結晶ウェーハを作製することができる。
【0065】
本発明の実施形態である炭化珪素単結晶の製造方法は、前記化学的方法が、種結晶保持部材(蓋部)22を酸性液体、アルカリ性液体または有機溶剤のうち少なくともいずれかと反応させる方法である構成なので、種結晶保持部材(蓋部)22の除去工程で、化学的方法を用いて容易に、かつ、完全に種結晶保持部材(蓋部)22を除去することができる。これにより、炭化珪素単結晶40からクラックを発生させずに炭化珪素単結晶ウェーハを作製することができる。
【0066】
本発明の実施形態である炭化珪素単結晶の製造方法は、種結晶保持部材(蓋部)22を除去した後、炭化珪素単結晶40をアニールする構成なので、残留応力を低減した炭化珪素単結晶40を形成できる。これにより、炭化珪素単結晶40からクラックを発生させずに炭化珪素単結晶ウェーハを作製することができる。
【0067】
本発明の実施形態である炭化珪素単結晶ウェーハは、先に記載の炭化珪素単結晶の製造方法により製造された炭化珪素単結晶に、切断、面取り、鏡面研磨、CMP加工のうち少なくともいずれかの加工を行って製造される構成なので、残留応力を低減した炭化珪素単結晶ウェーハとすることができる。これにより、クラック発生率を低減して、炭化珪素単結晶ウェーハの製造効率を向上させることができる。
【0068】
本発明の実施形態である炭化珪素単結晶ウェーハは、先に記載の炭化珪素単結晶ウェーハ上に炭化珪素または/および金属窒化物をエピタキシャル成長させた薄膜エピタキシャル層が形成されてなる構成なので、残留応力を低減した炭化珪素単結晶ウェーハとすることができる。これにより、クラック発生率を低減して、炭化珪素単結晶ウェーハの製造効率を向上させることができる。
【0069】
本発明の実施形態である炭化珪素単結晶半導体パワーデバイスは、先に記載の炭化珪素単結晶ウェーハが基板として用いられてなる構成なので、残留応力を低減した炭化珪素単結晶半導体パワーデバイスとすることができる。これにより、クラック発生率を低減して、炭化珪素単結晶半導体パワーデバイスの製造効率を向上させることができる。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
(実施例1)
本実施形態の炭化珪素単結晶の製造方法を用いて、以下のようにして、炭化珪素単結晶ウェーハ(実施例1サンプル)を製造した。なお、種結晶保持部材(蓋部)としては、ルツボの本体部の蓋をするために用いられる体積約150cmの黒鉛(カーボン)製の蓋型部材を用いた。
【0071】
まず、炭化珪素単結晶インゴット成長工程を行って、前記種結晶保持部材(蓋部)上に炭化珪素単結晶インゴットを形成した。
次に、前記種結晶保持部材(蓋部)の除去工程を行った。具体的には、空気中で1800℃に加熱して50時間保持することにより、前記種結晶保持部材(蓋部)の酸化消耗を実施して、前記種結晶保持部材(蓋部)を完全に除去した。その後、冷却速度を−5℃/分として、室温まで冷却した後、炭化珪素単結晶インゴットを取り出した。
100枚の炭化珪素単結晶インゴットを作製したところ、9枚の炭化珪素単結晶インゴットでクラック(割れ)が生じていた。すなわち、前記種結晶保持部材(蓋部)の除去工程終了時のクラック発生率は9%であった。
【0072】
次に、クラックが発生しなかった炭化珪素単結晶インゴットを切断して炭化珪素単結晶ウェーハを作製する炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程を行って、炭化珪素単結晶ウェーハ(実施例1サンプル)を製造した。
なお、炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程としては、円筒加工(平面研削含む)、平面加工(OF、IF加工)、インゴット切断、面取り(ベベリング)、ラッピング、研磨(CMP含む)、洗浄からなる加工工程を用いた。このとき、炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程終了時のクラック発生率は約33%であった。そのため、炭化珪素単結晶ウェーハ製造工程全工程のクラック発生率は39%であった。
処理時間の面では、前記種結晶保持部材(蓋部)の除去工程において、複数の前記種結晶保持部材(蓋部)を一度に除去できることから、大幅に製造効率を向上させることができた。炭化珪素単結晶インゴット1個当りの前記種結晶保持部材(蓋部)を除去する工程の処理時間は約6分であり、後述する比較例4の機械加工により前記種結晶保持部材(蓋部)を除去する工程の処理時間に対して1/10であった。
【0073】
(実施例2)
前記種結晶保持部材(蓋部)の除去工程の後、前記種結晶保持部材(蓋部)を分離した炭化珪素単結晶インゴットを1500℃でアニールを施した他は実施例1と同様にして、炭化珪素単結晶ウェーハ(実施例2サンプル)を製造した。このとき、炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程終了時のクラック発生率は約19%であった。そのため、炭化珪素単結晶ウェーハ製造工程全工程のクラック発生率は約26%であった。
【0074】
(比較例1)
前記種結晶保持部材(蓋部)の除去工程を行わない他は実施例1と同様にして、炭化珪素単結晶ウェーハ(比較例1サンプル)を製造した。このとき、炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程終了時のクラック発生率は90%であった。そのため、炭化珪素単結晶ウェーハ製造工程全工程のクラック発生率は90%であった。
【0075】
(比較例2)
前記種結晶保持部材(蓋部)の除去工程を行わず、炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程で円筒加工(平面研削含む)を実施しなかった他は実施例1と同様にして、炭化珪素単結晶ウェーハ(比較例2サンプル)を製造した。このとき、炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程終了時のクラック発生率は90%であった。そのため、炭化珪素単結晶ウェーハ製造工程全工程のクラック発生率は90%であった。
円筒加工を実施せず、炭化珪素単結晶インゴット育成後に切断加工を実施しても、比較例1と同じクラック発生率でクラックが生じていたことから、育成した炭化珪素単結晶インゴットに内部に残留応力が存在しており、円筒加工か切断加工かという区別なく加工の衝撃が加わることにより、前記残留応力がクラックという形態で開放されたと考えた。
【0076】
(比較例3)
炭化珪素単結晶インゴット成長工程の後、前記種結晶保持部材(蓋部)の除去工程で冷却速度を21℃/分とした他は実施例1と同様にして、炭化珪素単結晶ウェーハ(比較例3サンプル)を製造した。
このとき、炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程終了時のクラック発生率は75%であった。そのため、炭化珪素単結晶ウェーハ製造工程全工程のクラック発生率は75%であった。
【0077】
(比較例4)
前記種結晶保持部材(蓋部)の除去工程で、機械加工により前記種結晶保持部材(蓋部)の除去を行った他は実施例1と同様にして、炭化珪素単結晶ウェーハ(比較例4サンプル)を製造した。
前記種結晶保持部材(蓋部)の除去工程では、まず、前記種結晶保持部材(蓋部)を種結晶との境界部分の近傍で切断し、更にその後、前記種結晶保持部材(蓋部)の残った部分を研磨によって完全に除去した。前記種結晶保持部材(蓋部)の除去に要した時間は平均1時間であった。
前記種結晶保持部材(蓋部)の除去工程終了時のクラック発生率は約16%であった。
【0078】
更に、前記炭化珪素単結晶インゴットを切断して炭化珪素単結晶ウェーハを作製する炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程を行った。このとき、炭化珪素単結晶ウェーハ作製工程終了時のクラック発生率は約33%であった。そのため、炭化珪素単結晶ウェーハ製造工程全工程のクラック発生率は約44%であった。
以上の条件及び結果を表1、表2にまとめた。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、炭化珪素単結晶の製造方法、炭化珪素単結晶ウェーハ及び炭化珪素単結晶半導体パワーデバイスに関するものであって、炭化珪素デバイスの量産実用化にコスト的・品質的に大きく寄与することが期待できるものであり、大電力パワーデバイス、耐高温素子材料、耐放射線素子材料、高周波素子材料等の用途として使用可能な高品質な炭化珪素単結晶を製造する産業において利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の炭化珪素単結晶の製造方法を説明する図であって、炭化珪素単結晶成長装置の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の炭化珪素単結晶の製造方法を説明する図であって、炭化珪素単結晶の成長工程図である。
【図3】本発明の炭化珪素単結晶の製造方法を説明する図であって、種結晶保持部材(蓋部)の除去工程図である。
【符号の説明】
【0083】
1…真空容器、2…断熱材、2c、2d…孔部、3…加熱コイル、5…炭化珪素粉末、5b…開口部側の面、6…ルツボ、7…導入管、8…排出管、9…放射温度計、10…突出部、10a…一面、11…接着剤、13…種結晶、13a…一面(成長面)、13b…他面(接合面)、20…空洞部、20a…開口部、20b…内底面、21…本体部、22…種結晶保持部材(蓋部)、22b…炭化珪素単結晶と反対側の面、30…支持棒、30c…孔部、40…炭化珪素単結晶、41…炭化珪素単結晶インゴット、100…炭化珪素単結晶成長装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶保持部材に固着された種結晶に炭化珪素単結晶を成長させた後、化学的方法を用いて前記種結晶保持部材を除去することを特徴とする炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記炭化珪素単結晶の成長が、昇華法を用いてされることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記種結晶保持部材が、黒鉛、アモルファスカーボン、炭素繊維、有機化合物炭化物、金属炭化物のいずれかからなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記化学的方法が、前記種結晶保持部材を酸化性ガスと反応させる方法であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記化学的方法が、空気または酸素を含むガス雰囲気中で前記種結晶保持部材を燃焼または酸化消耗させる方法であることを特徴とする請求項4に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記種結晶保持部材を燃焼または酸化消耗させるための加熱温度が500℃以上1800℃以下であることを特徴とする請求項5に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記種結晶保持部材を燃焼または酸化消耗させた後、前記加熱温度から300℃まで−10℃/分以下の冷却速度で冷却することを特徴とする請求項6に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記化学的方法が、前記種結晶保持部材を酸性液体、アルカリ性液体または有機溶剤のうち少なくともいずれかと反応させる方法であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項9】
前記種結晶保持部材を除去した後、前記炭化珪素単結晶をアニールすることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の炭化珪素単結晶の製造方法により製造された炭化珪素単結晶に、切断、面取り、鏡面研磨、CMP加工のうち少なくともいずれかの加工を行って製造されることを特徴とする炭化珪素単結晶ウェーハ。
【請求項11】
請求項10に記載の炭化珪素単結晶ウェーハ上に炭化珪素または/および金属窒化物をエピタキシャル成長させた薄膜エピタキシャル層が形成されてなることを特徴とする炭化珪素単結晶ウェーハ。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の炭化珪素単結晶ウェーハが基板として用いられてなることを特徴とする炭化珪素単結晶半導体パワーデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−64918(P2010−64918A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232328(P2008−232328)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】