炭化珪素基板の製造方法
【課題】炭化珪素基板の平面形状を容易に調整することができる炭化珪素基板の製造方法を提供する。
【解決手段】第1の炭化珪素層11cの第1の裏面B1および第2の炭化珪素層12の第2の裏面B2の各々とベース部30の第1の主面Q1とが対向するように、ベース部30と第1および第2の炭化珪素層11c、12とが配置される際に、第1および第2の炭化珪素層11c、12の少なくともいずれかが平面視において第1の主面Q1の外側へ突出部PTとして部分的に突出する。第1および第2の裏面B1、B2の各々と第1の主面Q1とが加熱によって接合される。この加熱によって突出部PTの少なくとも一部が炭化されることで炭化部70が形成される。突出部PTが除去される際に炭化部70が加工される。
【解決手段】第1の炭化珪素層11cの第1の裏面B1および第2の炭化珪素層12の第2の裏面B2の各々とベース部30の第1の主面Q1とが対向するように、ベース部30と第1および第2の炭化珪素層11c、12とが配置される際に、第1および第2の炭化珪素層11c、12の少なくともいずれかが平面視において第1の主面Q1の外側へ突出部PTとして部分的に突出する。第1および第2の裏面B1、B2の各々と第1の主面Q1とが加熱によって接合される。この加熱によって突出部PTの少なくとも一部が炭化されることで炭化部70が形成される。突出部PTが除去される際に炭化部70が加工される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化珪素基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の製造に用いられる半導体基板として炭化珪素基板の採用が進められつつある。炭化珪素は、より一般的に用いられているシリコンに比べて大きなバンドギャップを有する。そのため炭化珪素基板を用いた半導体装置は、耐圧が高く、オン抵抗が低く、また高温環境下での特性の低下が小さい、といった利点を有する。
【0003】
半導体装置を効率的に製造するためには、ある程度以上の基板の大きさが求められる。米国特許第7314520号明細書(特許文献1)によれば、76mm(3インチ)以上の炭化珪素基板を製造することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7314520号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭化珪素基板の大きさは工業的には100mm(4インチ)程度にとどまっており、このため大型の基板を用いて半導体装置を効率よく製造することができないという問題がある。特に六方晶系の炭化珪素において、(0001)面以外の面の特性が利用される場合、上記の問題が特に深刻となる。このことについて、以下に説明する。
【0006】
欠陥の少ない炭化珪素基板は、通常、積層欠陥の生じにくい(0001)面成長で得られた炭化珪素インゴットから切り出されることで製造される。このため(0001)面以外の面方位を有する炭化珪素基板は、成長面に対して非平行に切り出されることになる。このため基板の大きさを十分確保することが困難であったり、インゴットの多くの部分が有効に利用できなかったりする。このため、炭化珪素の(0001)面以外の面を利用した半導体装置は、効率よく製造することが特に困難である。
【0007】
本発明者らは、上記のように困難をともなう炭化珪素基板の大型化に代わって、ベース部と、この上の互いに異なる位置に配置された複数の単結晶とを有する炭化珪素基板を用いることを検討している。ベース部は結晶欠陥密度が低くても差し支えないことが多く、よって大型のものを比較的容易に準備することができる。そしてベース部の上に配置される単結晶の数を増やすことで、必要に応じて単結晶基板を大きくすることができる。
【0008】
この場合、複数の単結晶、すなわち単結晶群の平面形状は、複数の単結晶の組み合わせによって構成される。よって炭化珪素基板の平面形状を調整するためには単結晶群の各々の平面形状を調整しなければない。このため単結晶群を有する炭化珪素基板の平面形状を調整することは、1つの単結晶からなる従来の炭化珪素基板の平面形状を調整することに比して、困難である。
【0009】
たとえば、その平面形状が円形である従来の炭化珪素基板は、円筒形状のインゴットから円板を切り出すことによって容易に得ることができる。しかしながら、単結晶群を有する炭化珪素基板の平面形状が円形形状とされる場合、各単結晶の平面形状が円形形状の一部となり、かつ互いに組み合わさることで円形形状が形成されるように、単結晶群の各々の平面形状を加工する必要がある。この結果、平面形状を円形形状に調整することが困難となる。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、炭化珪素基板の平面形状を容易に調整することができる炭化珪素基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の炭化珪素基板の製造方法は、以下の工程を有する。
互いに対向する第1および第2の主面を有するベース部が準備される。互いに対向する第1の表面および第1の裏面を有する第1の炭化珪素層が準備される。互いに対向する第2の表面および第2の裏面を有する第2の炭化珪素層が準備される。第1および第2の裏面の各々と第1の主面とが対向するように、ベース部と第1および第2の炭化珪素層とが配置される。ベース部と第1および第2の炭化珪素層とが配置される際に、第1および第2の炭化珪素層の少なくともいずれかが平面視において第1の主面の外側へ部分的に突出することによって突出部が設けられる。ベース部と第1および第2の炭化珪素層とが配置された後に、第1および第2の裏面の各々と第1の主面とが接合されるようにベース部と第1および第2の炭化珪素層とが加熱される。ベース部と第1および第2の炭化珪素層とが加熱されることによって突出部の少なくとも一部が炭化されることで、第1および第2の炭化珪素層が、炭化珪素が炭化されることによって得られる材料からなる炭化部と、炭化珪素からなる炭化珪素部とに区分される。突出部が除去される。突出部を除去する工程は、炭化部を加工する工程を含む。なお「炭化部を加工する工程」とは、炭化部の内部にまで作用する工程(たとえば炭化部を切断する工程)に限定されるものではなく、炭化部の界面に作用する工程であってもよい。
【0012】
本発明によれば、第1および第2の炭化珪素層のうち、平面視においてベース部の第1の主面から突出した突出部が除去されるので、ベース部の平面形状に対応した炭化珪素基板が得られる。またこの突出部を除去するための加工の少なくとも一部は、炭化珪素が炭化されることによって得られた材料からなる炭化部に対する加工である。炭化部に対する加工は、炭化珪素からなる部分に対する加工に比して、より容易に行うことができる。よって、突出部を除去するための加工をより容易に行うことができる。これにより、所望の平面形状を有する炭化珪素基板を容易に得ることができる。
【0013】
好ましくは、突出部が除去される際に、突出部に応力が加えられる。これにより、応力を加えるという簡便な方法を用いて突出部を除去することができる。
【0014】
好ましくは、炭化部を加工するために、応力によって炭化部が炭化珪素部との界面から剥離させられる。これにより、より小さい応力で炭化部を加工することができる。
【0015】
好ましくは、突出部が除去される際に、炭化部を炭化珪素部との界面から剥離させることによって生じた亀裂が炭化珪素部内へ進展させられる。これにより、剥離による炭化部の加工に続いて、炭化珪素部の加工を行うことができる。
【0016】
炭化部を加工するために、切削、研削、研磨のような機械加工と、レーザ加工と、放電加工との少なくともいずれかが行なわれてもよい。
【0017】
好ましくは、ベース部と第1および第2の炭化珪素層とが加熱される際に、1800℃以上2500℃以下の温度を有する雰囲気に突出部がさらされる。温度が1800℃以上とされることによって、より確実に炭化する工程を行うことができる。温度が2500℃以下であることによって、加熱によって第1および第2の炭化珪素層が受けるダメージを小さくすることができる。
【0018】
好ましくは、ベース部と第1および第2の炭化珪素層とが加熱される際に、突出部を取り巻く雰囲気が排気される。これにより炭化の進行を促進することができる。
【0019】
好ましくは、ベース部と第1および第2の炭化珪素層とを加熱する前に、第1の炭化珪素層の第1の表面と第2の炭化珪素層の第2の表面との各々の上に第1の保護膜が形成される。これにより第1および第2の表面が炭化されることを防止することができる。
【0020】
好ましくは、第1の保護膜はカーボンを主成分として含む第1の材料から作られている。第1の材料は、レジストの炭化により得られる材料、炭化珪素の炭化により得られる材料、ダイヤモンドライクカーボン、カーボンの少なくともいずれかを含んでもよい。これにより第1の保護膜の耐熱性が高められるので、第1および第2の表面が炭化されることをより確実に防止することができる。
【0021】
好ましくは、ベース部と第1および第2の炭化珪素層とが加熱される前に、ベース部の第2の主面の上に第2の保護膜が形成される。これによりベース部の第2の主面が炭化されることを防止することができる。
【0022】
好ましくは、第1および第2の炭化珪素層の各々は単結晶構造を有する。これにより複数の単結晶を含む炭化珪素基板を得ることができる。
【0023】
好ましくは、ベース部は炭化珪素からなる。これによりベース部の材料を、第1および第2の炭化珪素層と同じとすることができる。
【0024】
好ましくは、ベース部と第1および第2の炭化珪素層とは、ベース部の温度が炭化珪素の昇華温度となりかつ第1および第2の炭化珪素層の各々の温度がベース部の温度よりも低くなるように加熱される。これにより、ベース部から第1および第2の炭化珪素層の各々への、昇華再結晶による物質移動を生じさせることができ、この物質移動によってベース部と第1および第2の炭化珪素層の各々とを接合することができる。
【0025】
なお上記において第1および第2の炭化珪素層について言及しているが、このことは、第1および第2の炭化珪素層に加えてさらに1つ以上の炭化珪素層を用いる形態を除外するものではない。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、炭化珪素基板の平面形状を容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の構成を概略的に示す平面図である。
【図2】図1の線II−IIに沿う概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第1工程を概略的に示す平面図である。
【図4】図3の線IV−IVに沿う概略断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第2工程を概略的に示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第4工程を概略的に示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第5工程を概略的に示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第6工程を概略的に示す部分断面図である。
【図9】本発明の実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法の第1工程を概略的に示す部分断面図である。
【図10】本発明の実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法の第2工程を概略的に示す部分断面図である。
【図11】本発明の実施の形態3における炭化珪素基板の製造方法の第1工程を概略的に示す断面図である。
【図12】本発明の実施の形態3における炭化珪素基板の製造方法の第2工程を概略的に示す断面図である。
【図13】本発明の実施の形態3における炭化珪素基板の製造方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
【図14】本発明の実施の形態4における炭化珪素基板の製造方法の第1工程を概略的に示す断面図である。
【図15】本発明の実施の形態4における炭化珪素基板の製造方法の第2工程を概略的に示す断面図である。
【図16】本発明の実施の形態4における炭化珪素基板の製造方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
【図17】本発明の実施の形態5における炭化珪素基板の製造方法の第1工程を概略的に示す部分断面図である。
【図18】本発明の実施の形態5における炭化珪素基板の製造方法の第2工程およびその変形例を概略的に示す部分断面図である。
【図19】本発明の実施の形態6における半導体装置の構成を概略的に示す部分断面図である。
【図20】本発明の実施の形態6における半導体装置の製造方法の概略的なフロー図である。
【図21】本発明の実施の形態6における半導体装置の製造方法の第1工程を概略的に示す部分断面図である。
【図22】本発明の実施の形態6における半導体装置の製造方法の第2工程を概略的に示す部分断面図である。
【図23】本発明の実施の形態6における半導体装置の製造方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
【図24】本発明の実施の形態6における半導体装置の製造方法の第4工程を概略的に示す部分断面図である。
【図25】本発明の実施の形態6における半導体装置の製造方法の第5工程を概略的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
(実施の形態1)
図1および図2に示すように、本実施の形態の炭化珪素基板80は、ベース部30および単結晶群10p(図2)を有する。
【0029】
ベース部30は炭化珪素から作られている。またベース部30は、円形形状を有する板状の部材である。具体的にはベース部30は、互いに対向する第1の主面Q1および第2の主面Q2を有し、第1の主面Q1および第2の主面Q2はほぼ同一の円形形状を有する。
【0030】
単結晶群10pは、単結晶構造を有する炭化珪素から作られた単結晶11p〜18pおよび19から構成されている。また単結晶群10pは、ベース部30の第1の主面Q1上において互いに異なる位置に配置されおり、たとえばマトリックス状に並べられている。また単結晶群10pは第1の主面Q1の円形形状をほぼ埋めている。すなわち単結晶群10pは全体として、平面視において第1の主面Q1の形状とほぼ同様の円形形状を有し、かつ両者はほぼ重なり合っている。
【0031】
単結晶11pは互いに対向する表面F1および裏面B1を有し、同様に、単結晶12pは互いに対向する表面F2および裏面B2を有する。裏面B1およびB2の各々は、ベース部30に接合されている。単結晶群10pに含まれる他の単結晶も同様の構成を有する。なお表面F1およびF2などを含む単結晶群10pの表面(図1に示されている面)を第1の面F0と称し、裏面B1およびB2などを含む単結晶群10pの裏面(図1に示されている面と反対の面)を第2の面B0と称する。
【0032】
次に炭化珪素基板80の製造方法について説明する。
図3および図4を参照して、第1の加熱体61が準備される。第1の加熱体61は、後述するヒータからの放射熱を吸収して得た熱を再放射することによって、その近傍に配置された物体を加熱する機能を有する。第1の加熱体61は、たとえば、空隙率の小さいグラファイトから形成されている。
【0033】
第1の加熱体61上に、単結晶(炭化珪素層)11〜19、すなわち単結晶群10がマトリックス状に配置される。単結晶群10は、その一部が除去されることによって平面形状が調整されることで、上述した単結晶群10pとなるものである。すなわち単結晶11〜18のそれぞれは、その平面形状を除き単結晶11p〜18pとほぼ同じであり、また単結晶19の平面形状は、上記の平面形状の調整の前後でそのまま維持される。よって単結晶群10は、平面視において単結晶群10pを包含する形状(図1の円形形状を包含する形状)を有し、たとえば、複数の直線からなる外縁(図3においては4つの直線からなる正方形状の外縁)を有する。また単結晶群10は単結晶群10pと同様に、厚さ方向に互いに対向する第1の面F0および第2の面B0を有する。
【0034】
なお図3においては、便宜上、各々が正方形状を有する単結晶11〜19(単結晶群10)をマトリックス状に配置しており、単結晶群10全体も正方形状を有している。しかしながら、単結晶群10全体の形状がベース部30の円形形状よりも大きければ、単結晶群10全体の形状、および単結晶群10を構成する各々の単結晶の形状がどのような形態を有してもよいこと言うまでも無い。
【0035】
次に、互いに対向する第1の主面Q1および第2の主面Q2を有するベース部30が準備される。ベース部30は、炭化珪素からなり、この時点では、単結晶、多結晶、およびアモルファスのいずれの結晶構造を有してもよい。ベース部30の平面形状は、炭化珪素基板80(図1)の平面形状に対応したものとされ、本実施の形態においては円形形状とされる。この円形形状の直径は、大きな直径を有する炭化珪素基板80を得るために、好ましくは5cm以上であり、より好ましくは15cm以上である。好ましくはベース部30は単結晶群10と同様の結晶構造を有するが、ベース部30の欠陥密度は単結晶群10の欠陥密度に比して高くてもよく、よって大きなベース部30を比較的容易に準備することができる。
【0036】
次に、単結晶群10上にベース部30が載せられる。具体的には、単結晶群10の各々の裏面とベース部30の第1の主面Q1とが対向するように、ベース部30および単結晶11〜19が配置される。この配置によって、平面視においてベース部30の第1の主面Q1から単結晶群10が部分的に突出する。すなわち突出部PTが設けられる。
【0037】
なおこの時点ではベース部30は単結晶群10上に載せられているだけであって接合はされていない。このため両者の間にミクロ的には空隙GQが存在する。空隙GQの平均高さ(図4における縦方向の寸法)は、たとえば数十μmであり、この値は単結晶群10およびベース部30の各々の表面粗さおよび反りに依存する。
【0038】
図5を参照して、ベース部30上に第2の加熱体62が載せられる。第2の加熱体62は第1の加熱体61の機能と同様の機能を有するものである。次に第1の加熱体61、単結晶群10、ベース部30、および第2の加熱体62の積層体が容器60に収められる。容器60は、高い耐熱性を有することが好ましく、たとえばグラファイトから作られる。
【0039】
次にベース部30の温度が炭化珪素の昇華温度となり、かつ単結晶群10の温度がベース部30の温度よりも低くなるように、ベース部30と単結晶群10とが加熱される。このような加熱は、容器60の内部において、単結晶群10の温度がベース部30の温度よりも低くなるような温度勾配を設けることにより行うことができる。このような温度勾配は、たとえば、ヒータ69を第1の加熱体61よりも第2の加熱体62に近い位置に配置することで設けることができる。この加熱によって、ベース部30の第1の主面Q1から炭化珪素が昇華し、この昇華した炭化珪素が単結晶群10の第2の面B0上で再結晶する。これにより、単結晶群10の第2の面B0と、ベース部30の第1の主面Q1とが接合される。またこの接合に加えて、上記の加熱工程により、単結晶群10が部分的に炭化される。以下、この加熱工程について、より詳しく説明する。
【0040】
まず容器60中の雰囲気が排気される。好ましくは、容器60内の圧力が50kPa以下とされ、より好ましくは10kPa以下となるように、排気が継続的に行われる。
【0041】
次に単結晶群10およびベース部30が加熱される。この加熱は、少なくともベース部30の温度が炭化珪素の昇華温度以上となるように行われる。具体的にはヒータ69の設定温度が、1800℃以上、2500℃以下とされ、たとえば2000℃とされる。温度が1800℃以下であると炭化珪素を昇華させるための加熱が不十分となりやすく、温度が2500℃以上であると単結晶群10の表面荒れが著しくなりやすい。またこの加熱は、容器60内において、ベース部30から単結晶群10に向かって温度が低くなるような温度勾配が形成されるように行われる。この温度勾配は、好ましくは1℃/cm以上200℃/cm以下であり、より好ましくは10℃/cm以上50℃/cm以下とされる。
【0042】
このように温度勾配が設けられると、単結晶群10の第2の面B0と、ベース部30の第1の主面Q1との間に温度差が生じる。この温度差は、空隙GQの存在によって、より確実に形成される。この温度差に起因して、空隙GQ内への炭化珪素の昇華反応は単結晶群10に比してベース部30から生じ易くなり、また空隙GQ内からの炭化珪素材料の供給による再結晶反応はベース部30上に比して単結晶群10上に生じ易くなる。この結果、破線矢印HQ(図5)に示すように、昇華・再結晶反応にともなう空隙GQの移動が生じる。より詳しくは、まず空隙GQがベース部30中の多数のボイドへと分解され、そしてこのボイドを破線矢印HQに示す方向に移動させることでベース部30から消失させてもよい。
【0043】
上記の昇華・再結晶反応によって、ベース部30の全部もしくは一部は、単結晶群10の第2の面B0上にエピタキシャルに再形成された層となる。すなわちベース部30の全部もしくは一部の結晶構造は、初期の構造から、単結晶群10の結晶構造に対応した構造へと変化する。このベース部30の全部もしくは一部の再形成によって、単結晶群10の第2の面B0を部分的に覆うように、単結晶群10にベース部30が接合される。
【0044】
図6を参照して、上記の加熱工程により、単結晶群10にベース部30が接合されるだけでなく、さらに単結晶群10の突出部PTが部分的に炭化される。具体的には、単結晶群10の第2の面B0のうちベース部30に覆われていない部分からシリコン原子が脱離することによって、この部分から、単結晶群10の厚さよりも小さい深さにわたって炭化部70(図6)が形成される。よって炭化部70は、炭化珪素が炭化されることによって得られた材料からなり、この材料は炭化が十分に進行した場合においては炭素である。単結晶群10のうち炭化されなかった部分の材料は炭化珪素のまま保たれ、この部分を炭化珪素部90と称する。
【0045】
図7を参照して、ベース部30および単結晶群10からなる積層体が容器60(図6)から取り出される。上述した炭化によって、単結晶群10は炭化部70および炭化珪素部90に区分される。またその第2の面B0は、炭化珪素部90からなり、かつベース部30の平面形状に対応した形状を有する部分と、この部分の外側に露出する、炭化部70からなる部分とに区分される。
【0046】
図8を参照して、炭化部70および炭化珪素部90の間には、上記の炭化が進行した方向、すなわちおおよそ厚さ方向(図8の縦方向)に沿って、第2の面B0から単結晶群10の内部へと延びる界面IEが形成される。
【0047】
次に界面IEの剥離を促すように、単結晶群10に応力が加えられる。たとえば、単結晶群10のうちその第2の面B0が炭化珪素部90となっている部分(図8の左側の部分)が固定されながら、第2の面B0上で炭化部70押す力FCが加えられる。この力FCによって単結晶群10内に生じる応力により、界面IEが第2の面B0上の位置を始点として剥離する。すなわち炭化部70の界面を剥離する加工がなされる。
【0048】
この剥離により界面IEに沿って亀裂が生じ、この亀裂は炭化珪素部90内へと進展して最終的に第1の面F0に達する。すなわち破線矢印CR(図8)に示すように亀裂が進展する。この結果、単結晶群10のうち平面視において炭化部70が形成されていた部分が除去され、それ以外の部分が残存する。この残存部分は、平面視においてベース部30(図3)に対応する形状、すなわち炭化珪素基板80(図1)に対応する形状を有する。すなわち上記の諸工程によって単結晶群10(図3および図4:単結晶11〜19の集合)に対して炭化珪素基板80の平面形状が付与される。このようにして平面形状が付与された単結晶群10の側面は、亀裂の発生によって形成された面であるので、荒れた面となりやすい。よって必要に応じてこの側面が切削、研削もしくは研磨されてもよい。以上により炭化珪素基板80が得られる。
【0049】
本実施の形態によれば、単結晶群10のうち平面視においてベース部30の第1の主面Q1から突出した部分である突出部PTが除去されることで、ベース部30の平面形状に対応した炭化珪素基板80が得られる。この際に、破線矢印CR(図8)に示すように、炭化部70の界面IEに対する加工と、炭化珪素部90の内部に対する加工とが行われる。この前者、すなわち界面IEを剥離させる加工は、硬度の高い炭化珪素に対する加工に比して、容易に行うことができる。よって、単結晶群10の平面形状を調整する加工の一部を、より容易に行うことができる。これにより、所望の平面形状を有する炭化珪素基板80を容易に得ることができる。
【0050】
また単結晶群10は、平面視において互いに異なる位置に配置された複数の単結晶11〜19(図3)を含む。これにより、1つの単結晶のみが用いられる場合に比して、炭化珪素基板の面積を大きくすることができる。
【0051】
また単結晶群10を炭化する際に、単結晶群10の第2の面B0を部分的に覆うマスクとしてベース部30が機能することで、第2の面B0の炭化を部分的なものとすることができる。またベース部30は炭化珪素から作られているので、炭化珪素基板80の一部を構成するのに適している。
【0052】
またベース部30および単結晶群10は、ベース部30の温度が炭化珪素の昇華温度となりかつ単結晶群10の各々の温度がベース部30の温度よりも低くなるように加熱される。これにより、ベース部30から単結晶群10の各々への、昇華再結晶による物質移動を生じさせることができ、この物質移動によってベース部30と単結晶群10の各々とを接合することができる。
【0053】
また炭化部70(図6)は、単結晶群10の加熱という容易な方法によって形成することができる。この加熱の雰囲気の温度が1800℃以上とされると、より確実に炭化が行われる。またこの温度が2500℃以下とされると、加熱によって単結晶群10が受けるダメージを小さくすることができる。またこの雰囲気が排気されながら加熱が行なわれると、単結晶群10から脱離したシリコン原子が雰囲気中から除去されるので、単結晶群10から雰囲気中へのシリコン原子の脱離が促進される。すなわち炭化の進行を促進することができ、よって炭化珪素基板80を効率よく製造することができる。
【0054】
また界面IE(図8)の剥離は、単結晶群10の界面IEに応力を加えるという簡便な方法によって生じさせることができる。さらにこの剥離によって生じた亀裂が炭化珪素部90内へ進展することで、炭化珪素部90の所望の位置に亀裂を形成する加工を行うことができる。
【0055】
なお得ようとする炭化珪素基板が単結晶構造を有する必要のない場合、単結晶群10の代わりに、単結晶構造を有しない複数の炭化珪素層を用いることができる。この場合、複数の炭化珪素層は、たとえば、多結晶構造またはアモルファス構造を有する。
【0056】
また炭化珪素からなるベース部30の代わりに、炭化珪素以外の材料からなるベース部が用いられてもよい。炭化珪素以外の材料としては、たとえば、上記の加熱工程において溶融しない程度に高い融点を有する高融点金属を用いることができる。この場合、上述した温度勾配は必ずしも設けられる必要はない。
【0057】
またベース部の形状は円形形状に限定されるものではなく、炭化珪素基板の平面形状に対応した形状とされればよい。
【0058】
(実施の形態2)
本実施の形態の炭化珪素基板の構成は、実施の形態1のもの(図1および図2)とほぼ同様である。またその製造方法の前半は、実施の形態1の製造方法の前半(図7の構成を得る工程)と同様である。よって実施の形態1の要素と同一または対応する要素については、同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。以下に、本実施の形態の製造方法の後半について説明する。
【0059】
主に図9を参照して、破線CTに示すように、炭化部70および炭化珪素部90が切断されることで、突出部PTがおおよそ除去される。すなわち突出部PTの一部が除去される。この切断は、たとえば、切削、研削、研磨のような機械加工と、レーザ加工と、放電加工との少なくともいずれかによって行われる。
【0060】
この切断によって炭化部70(図9)の大部分が除去されるが、その一部である炭化部70f(図10)が残存する。次に、平面視において炭化部70fが存在する部分、すなわち、炭化部70fおよび炭化珪素部90fを有する部分PS(図10)が、たとえば切削や研削や研磨によって除去される。以上により炭化珪素基板80(図1および図2)が得られる。
【0061】
本実施の形態によれば、図9に示すように、単結晶群10の切断加工のうちの一部は、炭化部70の切断加工である。すなわち単結晶群10の切断加工のうちの一部は、炭化珪素ではなく炭化珪素が炭化された材料の切断加工となり、この加工は炭化珪素の切断加工に比して容易となる。よって単結晶群10の切断加工の一部を、より容易に行うことができる。これにより、所望の平面形状を有する炭化珪素基板80を容易に得ることができる。
【0062】
(実施の形態3)
本実施の形態においては、上記各実施の形態において説明した加熱が行われる前に、単結晶11〜19(図3)の各々の表面(たとえば図11の単結晶層11の表面F1)の上に、第1の保護膜71が形成される。
【0063】
好ましくは第1の保護膜71はカーボンを主成分として含む材料から作られる。この材料は、レジストの炭化により得られる材料、炭化珪素の炭化により得られる材料、ダイヤモンドライクカーボン、およびカーボンの少なくともいずれかを含んでもよい。レジストとしてはフォトレジストが用いられてもよい。たとえばこの材料がカーボンである場合、第1の保護膜71はスパッタ法により形成され得る。
【0064】
図12を参照して、実施の形態1の図5と同様の加熱が行なわれる。本実施の形態においては、第1の保護膜71によって、単結晶群10の第1の面F0からのシリコン原子の脱離、すなわち炭化が防止される。
【0065】
図13を参照して、ベース部30、単結晶群10、および第1の保護膜71の積層体が、容器60(図12)から取り出される。次に、たとえば研削や研磨によって、第1の保護膜71が除去される。
【0066】
この後、実施の形態1または2と同様の工程が行われることで、炭化珪素基板80(図1および図2)が得られる。なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態1または2の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0067】
好ましくは、第1の保護膜71はカーボンを主成分として含む材料から作られ、この材料は、レジストの炭化により得られる材料、炭化珪素の炭化により得られる材料、ダイヤモンドライクカーボン、およびカーボンの少なくともいずれかを含んでもよい。これにより、第1の保護膜71は高温下でも安定な膜となるので、第1の面F0が炭化されることをより確実に防止することができる。
【0068】
なお第1の保護膜71が形成されない場合、炭化部70が形成される際に第1の面F0がある程度の深さだけ炭化され得るが、この炭化された部分は、たとえば研削や研磨によって除去され得る。
【0069】
(実施の形態4)
図14を参照して、本実施の形態においては、上記各実施の形態において説明した加熱が行われる前に、ベース部30の第2の主面Q2上に、第2の保護膜72が形成される。第2の保護膜72の材料としては、上記の第1の保護膜71の材料と同様のものを用いることができる。
【0070】
図15を参照して、実施の形態3の図12と同様の加熱が行なわれる。本実施の形態においては、第2の保護膜72によって、ベース部30の第2の主面Q2からのシリコン原子の脱離、すなわち炭化が防止される。
【0071】
図16を参照して、第2の保護膜72、ベース部30、単結晶群10、および第1の保護膜71の積層体が、容器60(図15)から取り出される。次に、たとえば研削や研磨によって、第1の保護膜71が除去される。また必要に応じて第2の保護膜72が、たとえば研磨や研削によって除去される。
【0072】
好ましくは、第2の保護膜72はカーボンを主成分として含む材料から作られ、この材料は、レジストの炭化により得られる材料、炭化珪素の炭化により得られる材料、ダイヤモンドライクカーボン、およびカーボンの少なくともいずれかを含んでもよい。これにより、第2の保護膜72は高温下でも安定な膜となるので、ベース部の第2の主面Q2が炭化されることをより確実に防止することができる。
【0073】
なお上記においては第1の保護膜71および第2の保護膜72の両方が設けられる場合について説明しているが、両保護膜のうち第2の保護膜72のみが設けられてもよい。
【0074】
また第2の保護膜72が形成されない場合、炭化部70が形成される際にベース部の第2の主面Q2がある程度の深さだけ炭化され得るが、この炭化された部分は、炭化珪素基板の使用に際して支障がなければ残されてもよく、逆に支障がある場合は、たとえば研削や研磨によって除去され得る。
【0075】
(実施の形態5)
本実施の形態の炭化珪素基板の構成は、実施の形態1のもの(図1および図2)とほぼ同様である。またその製造方法の前半は、実施の形態1の製造方法の前半(図7の構成を得る工程)と同様である。よって実施の形態1の要素と同一または対応する要素については、同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。以下に、本実施の形態の製造方法の後半について説明する。
【0076】
図7を参照して、実施の形態1と同様に炭化工程が行われることで、炭化部70が形成される。本実施の形態においては、さらに炭化を進行させる。
【0077】
図17を参照して、上記の工程によって、単結晶群10は炭化部70aおよび炭化珪素部90aに区分される。炭化部70aは、第2の面B0から第1の面F0まで形成される。すなわち本実施の形態においては、突出部PT全体が炭化部70aとなる。
【0078】
図18を参照して、図中破線CSに沿って、炭化部70aおよび炭化珪素部90aの間の界面IEが剥離される。この剥離は、実施の形態1と同様に応力を加えることで生じさせることができる。この剥離の結果、炭化部70a、すなわち突出部PTが除去される。この後、必要に応じて90aの側面(界面IEであった面)が切削、研削もしくは研磨されてもよい。以上により炭化珪素基板80(図1および図2)が得られる。
【0079】
なお破線CS(図18)に沿う剥離の変わりに、破線CU(図18)に沿う切断が行われても良い。この切断は、実施の形態2と同様方法で行なうことができる。切断後の炭化部70aの残部(図18における破線CUと界面IEの間の部分)は、たとえば切削や研削や研磨によって除去される。
【0080】
なお本実施の形態においても、第1の保護膜71および第2の保護膜72(図15)の少なくともいずれかが用いられてもよい。また第1の保護膜71に対して、ベース部30と同様の平面形状が付与されてもよい。これにより炭化部70a(図17)の形成のための炭化が第2の面B0からだけでなく第1の面F0からも進行するので、炭化部70aをより効率よく形成することができる。
【0081】
(実施の形態6)
本実施の形態においては、炭化珪素基板80(図1および図2)を用いた半導体装置について説明する。炭化珪素基板80は、前述した実施の形態1〜5のいずれかによって準備され得る。よって実施の形態1〜5の要素と同一または対応する要素については、同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0082】
図19を参照して、本実施の形態の半導体装置100は、縦型DiMOSFET(Double Implanted Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)であって、ベース部30、単結晶11p、バッファ層121、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、p+領域125、酸化膜126、ソース電極111、上部ソース電極127、ゲート電極110、およびドレイン電極112を有する。半導体装置100の平面形状(図19の上方向から見た形状)は、たとえば、2mm以上の長さの辺からなる長方形または正方形である。
【0083】
ドレイン電極112はベース部30上に設けられ、またバッファ層121は単結晶11p上に設けられている。この配置により、ゲート電極110によってキャリアの流れが制御される領域は、ベース部30ではなく単結晶11pの上に配置されている。
【0084】
ベース部30、単結晶11p、およびバッファ層121は、n型の導電型を有する。バッファ層121におけるn型の導電性不純物の濃度は、たとえば5×1017cm-3である。またバッファ層121の厚さは、たとえば0.5μmである。
【0085】
耐圧保持層122は、バッファ層121上に形成されており、また導電型がn型のSiCからなる。たとえば、耐圧保持層122の厚さは10μmであり、そのn型の導電性不純物の濃度は5×1015cm-3である。
【0086】
この耐圧保持層122の表面には、導電型がp型である複数のp領域123が互いに間隔を隔てて形成されている。p領域123の内部において、p領域123の表面層にn+領域124が形成されている。また、このn+領域124に隣接する位置には、p+領域125が形成されている。複数のp領域123の間から露出する耐圧保持層122上には酸化膜126が形成されている。具体的には、酸化膜126は、一方のp領域123におけるn+領域124上から、p領域123、2つのp領域123の間において露出する耐圧保持層122、他方のp領域123および当該他方のp領域123におけるn+領域124上にまで延在するように形成されている。酸化膜126上にはゲート電極110が形成されている。また、n+領域124およびp+領域125上にはソース電極111が形成されている。このソース電極111上には上部ソース電極127が形成されている。
【0087】
酸化膜126と、半導体層としてのn+領域124、p+領域125、p領域123および耐圧保持層122との界面から10nm以内の領域における窒素原子濃度の最大値は1×1021cm-3以上となっている。これにより、特に酸化膜126下のチャネル領域(酸化膜126に接する部分であって、n+領域124と耐圧保持層122との間のp領域123の部分)の移動度を向上させることができる。
【0088】
なお上記においては単結晶11pを含む半導体装置について説明しているが、この代わりに他の単結晶(図1における単結晶12p〜18pおよび19のいずれか1つ)を含む半導体装置も、炭化珪素基板80を用いた半導体装置の製造方法によって同時に得られる。
【0089】
次に半導体装置100の製造方法について説明する。なお図21〜図25においては単結晶11pの近傍における工程のみを示すが、単結晶12p〜18pおよび19の各々の近傍においても、同様の工程が行なわれる。
【0090】
まず基板準備工程(ステップS110:図20)にて、炭化珪素基板80(図1および図2)が準備される。炭化珪素基板80の導電型はn型とされる。
【0091】
図21を参照して、エピタキシャル層形成工程(ステップS120:図20)により、バッファ層121および耐圧保持層122が、以下のように形成される。
【0092】
単結晶群10pの表面上にバッファ層121が形成される。バッファ層121は、導電型がn型のSiCからなり、たとえば厚さ0.5μmのエピタキシャル層である。またバッファ層121における導電型不純物の濃度は、たとえば5×1017cm-3とされる。
【0093】
次にバッファ層121上に耐圧保持層122が形成される。具体的には、導電型がn型のSiCからなる層が、エピタキシャル成長法によって形成される。耐圧保持層122の厚さは、たとえば10μmとされる。また耐圧保持層122におけるn型の導電性不純物の濃度は、たとえば5×1015cm-3である。
【0094】
図22を参照して、注入工程(ステップS130:図20)により、p領域123と、n+領域124と、p+領域125とが、以下のように形成される。
【0095】
まずp型の導電性不純物が耐圧保持層122の一部に選択的に注入されることで、p領域123が形成される。次に、n型の導電性不純物を所定の領域に選択的に注入することによってn+領域124が形成され、またp型の導電性不純物を所定の領域に選択的に注入することによってp+領域125が形成される。なお不純物の選択的な注入は、たとえば酸化膜からなるマスクを用いて行われる。
【0096】
このような注入工程の後、活性化アニール処理が行われる。たとえば、アルゴン雰囲気中、加熱温度1700℃で30分間のアニールが行われる。
【0097】
図23を参照して、ゲート絶縁膜形成工程(ステップS140:図20)が行われる。具体的には、耐圧保持層122と、p領域123と、n+領域124と、p+領域125との上を覆うように、酸化膜126が形成される。この形成はドライ酸化(熱酸化)により行われてもよい。ドライ酸化の条件は、たとえば、加熱温度が1200℃であり、また加熱時間が30分である。
【0098】
その後、窒素アニール工程(ステップS150)が行われる。具体的には、一酸化窒素(NO)雰囲気中でのアニール処理が行われる。この処理の条件は、たとえば加熱温度が1100℃であり、加熱時間が120分である。この結果、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、およびp+領域125の各々と、酸化膜126との界面近傍に、窒素原子が導入される。
【0099】
なおこの一酸化窒素を用いたアニール工程の後、さらに不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスを用いたアニール処理が行われてもよい。この処理の条件は、たとえば、加熱温度が1100℃であり、加熱時間が60分である。
【0100】
図24を参照して、電極形成工程(ステップS160:図20)により、ソース電極111およびドレイン電極112が、以下のように形成される。
【0101】
まず酸化膜126上に、フォトリソグラフィ法を用いて、パターンを有するレジスト膜が形成される。このレジスト膜をマスクとして用いて、酸化膜126のうちn+領域124およびp+領域125上に位置する部分がエッチングにより除去される。これにより酸化膜126に開口部が形成される。次に、この開口部においてn+領域124およびp+領域125の各々と接触するように導体膜が形成される。次にレジスト膜を除去することにより、上記導体膜のうちレジスト膜上に位置していた部分の除去(リフトオフ)が行われる。この導体膜は、金属膜であってもよく、たとえばニッケル(Ni)からなる。このリフトオフの結果、ソース電極111が形成される。
【0102】
なお、ここでアロイ化のための熱処理が行なわれることが好ましい。たとえば、不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスの雰囲気中、加熱温度950℃で2分の熱処理が行なわれる。
【0103】
図25を参照して、ソース電極111上に上部ソース電極127が形成される。また、酸化膜126上にゲート電極110が形成される。また、炭化珪素基板80の裏面上にドレイン電極112が形成される。
【0104】
次に、ダイシング工程(ステップS170:図20)により、破線DCに示すようにダイシングが行われる。これにより複数の半導体装置100(図19)が切り出される。
【0105】
なお本実施の形態における導電型が入れ替えられた構成、すなわちp型とn型とが入れ替えられた構成を用いることもできる。また縦型DiMOSFETを例示したが、本発明の半導体基板を用いて他の半導体装置が製造されてもよく、たとえばRESURF−JFET(Reduced Surface Field-Junction Field Effect Transistor)またはショットキーダイオードが製造されてもよい。
【0106】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0107】
PT 突出部、10 単結晶群、11〜19 単結晶(炭化珪素層)、30 ベース部、70,70a 炭化部、71 第1の保護膜、72 第2の保護膜、80 炭化珪素基板、90,90a 炭化珪素部、100 半導体装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化珪素基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の製造に用いられる半導体基板として炭化珪素基板の採用が進められつつある。炭化珪素は、より一般的に用いられているシリコンに比べて大きなバンドギャップを有する。そのため炭化珪素基板を用いた半導体装置は、耐圧が高く、オン抵抗が低く、また高温環境下での特性の低下が小さい、といった利点を有する。
【0003】
半導体装置を効率的に製造するためには、ある程度以上の基板の大きさが求められる。米国特許第7314520号明細書(特許文献1)によれば、76mm(3インチ)以上の炭化珪素基板を製造することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7314520号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭化珪素基板の大きさは工業的には100mm(4インチ)程度にとどまっており、このため大型の基板を用いて半導体装置を効率よく製造することができないという問題がある。特に六方晶系の炭化珪素において、(0001)面以外の面の特性が利用される場合、上記の問題が特に深刻となる。このことについて、以下に説明する。
【0006】
欠陥の少ない炭化珪素基板は、通常、積層欠陥の生じにくい(0001)面成長で得られた炭化珪素インゴットから切り出されることで製造される。このため(0001)面以外の面方位を有する炭化珪素基板は、成長面に対して非平行に切り出されることになる。このため基板の大きさを十分確保することが困難であったり、インゴットの多くの部分が有効に利用できなかったりする。このため、炭化珪素の(0001)面以外の面を利用した半導体装置は、効率よく製造することが特に困難である。
【0007】
本発明者らは、上記のように困難をともなう炭化珪素基板の大型化に代わって、ベース部と、この上の互いに異なる位置に配置された複数の単結晶とを有する炭化珪素基板を用いることを検討している。ベース部は結晶欠陥密度が低くても差し支えないことが多く、よって大型のものを比較的容易に準備することができる。そしてベース部の上に配置される単結晶の数を増やすことで、必要に応じて単結晶基板を大きくすることができる。
【0008】
この場合、複数の単結晶、すなわち単結晶群の平面形状は、複数の単結晶の組み合わせによって構成される。よって炭化珪素基板の平面形状を調整するためには単結晶群の各々の平面形状を調整しなければない。このため単結晶群を有する炭化珪素基板の平面形状を調整することは、1つの単結晶からなる従来の炭化珪素基板の平面形状を調整することに比して、困難である。
【0009】
たとえば、その平面形状が円形である従来の炭化珪素基板は、円筒形状のインゴットから円板を切り出すことによって容易に得ることができる。しかしながら、単結晶群を有する炭化珪素基板の平面形状が円形形状とされる場合、各単結晶の平面形状が円形形状の一部となり、かつ互いに組み合わさることで円形形状が形成されるように、単結晶群の各々の平面形状を加工する必要がある。この結果、平面形状を円形形状に調整することが困難となる。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、炭化珪素基板の平面形状を容易に調整することができる炭化珪素基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の炭化珪素基板の製造方法は、以下の工程を有する。
互いに対向する第1および第2の主面を有するベース部が準備される。互いに対向する第1の表面および第1の裏面を有する第1の炭化珪素層が準備される。互いに対向する第2の表面および第2の裏面を有する第2の炭化珪素層が準備される。第1および第2の裏面の各々と第1の主面とが対向するように、ベース部と第1および第2の炭化珪素層とが配置される。ベース部と第1および第2の炭化珪素層とが配置される際に、第1および第2の炭化珪素層の少なくともいずれかが平面視において第1の主面の外側へ部分的に突出することによって突出部が設けられる。ベース部と第1および第2の炭化珪素層とが配置された後に、第1および第2の裏面の各々と第1の主面とが接合されるようにベース部と第1および第2の炭化珪素層とが加熱される。ベース部と第1および第2の炭化珪素層とが加熱されることによって突出部の少なくとも一部が炭化されることで、第1および第2の炭化珪素層が、炭化珪素が炭化されることによって得られる材料からなる炭化部と、炭化珪素からなる炭化珪素部とに区分される。突出部が除去される。突出部を除去する工程は、炭化部を加工する工程を含む。なお「炭化部を加工する工程」とは、炭化部の内部にまで作用する工程(たとえば炭化部を切断する工程)に限定されるものではなく、炭化部の界面に作用する工程であってもよい。
【0012】
本発明によれば、第1および第2の炭化珪素層のうち、平面視においてベース部の第1の主面から突出した突出部が除去されるので、ベース部の平面形状に対応した炭化珪素基板が得られる。またこの突出部を除去するための加工の少なくとも一部は、炭化珪素が炭化されることによって得られた材料からなる炭化部に対する加工である。炭化部に対する加工は、炭化珪素からなる部分に対する加工に比して、より容易に行うことができる。よって、突出部を除去するための加工をより容易に行うことができる。これにより、所望の平面形状を有する炭化珪素基板を容易に得ることができる。
【0013】
好ましくは、突出部が除去される際に、突出部に応力が加えられる。これにより、応力を加えるという簡便な方法を用いて突出部を除去することができる。
【0014】
好ましくは、炭化部を加工するために、応力によって炭化部が炭化珪素部との界面から剥離させられる。これにより、より小さい応力で炭化部を加工することができる。
【0015】
好ましくは、突出部が除去される際に、炭化部を炭化珪素部との界面から剥離させることによって生じた亀裂が炭化珪素部内へ進展させられる。これにより、剥離による炭化部の加工に続いて、炭化珪素部の加工を行うことができる。
【0016】
炭化部を加工するために、切削、研削、研磨のような機械加工と、レーザ加工と、放電加工との少なくともいずれかが行なわれてもよい。
【0017】
好ましくは、ベース部と第1および第2の炭化珪素層とが加熱される際に、1800℃以上2500℃以下の温度を有する雰囲気に突出部がさらされる。温度が1800℃以上とされることによって、より確実に炭化する工程を行うことができる。温度が2500℃以下であることによって、加熱によって第1および第2の炭化珪素層が受けるダメージを小さくすることができる。
【0018】
好ましくは、ベース部と第1および第2の炭化珪素層とが加熱される際に、突出部を取り巻く雰囲気が排気される。これにより炭化の進行を促進することができる。
【0019】
好ましくは、ベース部と第1および第2の炭化珪素層とを加熱する前に、第1の炭化珪素層の第1の表面と第2の炭化珪素層の第2の表面との各々の上に第1の保護膜が形成される。これにより第1および第2の表面が炭化されることを防止することができる。
【0020】
好ましくは、第1の保護膜はカーボンを主成分として含む第1の材料から作られている。第1の材料は、レジストの炭化により得られる材料、炭化珪素の炭化により得られる材料、ダイヤモンドライクカーボン、カーボンの少なくともいずれかを含んでもよい。これにより第1の保護膜の耐熱性が高められるので、第1および第2の表面が炭化されることをより確実に防止することができる。
【0021】
好ましくは、ベース部と第1および第2の炭化珪素層とが加熱される前に、ベース部の第2の主面の上に第2の保護膜が形成される。これによりベース部の第2の主面が炭化されることを防止することができる。
【0022】
好ましくは、第1および第2の炭化珪素層の各々は単結晶構造を有する。これにより複数の単結晶を含む炭化珪素基板を得ることができる。
【0023】
好ましくは、ベース部は炭化珪素からなる。これによりベース部の材料を、第1および第2の炭化珪素層と同じとすることができる。
【0024】
好ましくは、ベース部と第1および第2の炭化珪素層とは、ベース部の温度が炭化珪素の昇華温度となりかつ第1および第2の炭化珪素層の各々の温度がベース部の温度よりも低くなるように加熱される。これにより、ベース部から第1および第2の炭化珪素層の各々への、昇華再結晶による物質移動を生じさせることができ、この物質移動によってベース部と第1および第2の炭化珪素層の各々とを接合することができる。
【0025】
なお上記において第1および第2の炭化珪素層について言及しているが、このことは、第1および第2の炭化珪素層に加えてさらに1つ以上の炭化珪素層を用いる形態を除外するものではない。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、炭化珪素基板の平面形状を容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の構成を概略的に示す平面図である。
【図2】図1の線II−IIに沿う概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第1工程を概略的に示す平面図である。
【図4】図3の線IV−IVに沿う概略断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第2工程を概略的に示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第4工程を概略的に示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第5工程を概略的に示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の第6工程を概略的に示す部分断面図である。
【図9】本発明の実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法の第1工程を概略的に示す部分断面図である。
【図10】本発明の実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法の第2工程を概略的に示す部分断面図である。
【図11】本発明の実施の形態3における炭化珪素基板の製造方法の第1工程を概略的に示す断面図である。
【図12】本発明の実施の形態3における炭化珪素基板の製造方法の第2工程を概略的に示す断面図である。
【図13】本発明の実施の形態3における炭化珪素基板の製造方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
【図14】本発明の実施の形態4における炭化珪素基板の製造方法の第1工程を概略的に示す断面図である。
【図15】本発明の実施の形態4における炭化珪素基板の製造方法の第2工程を概略的に示す断面図である。
【図16】本発明の実施の形態4における炭化珪素基板の製造方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
【図17】本発明の実施の形態5における炭化珪素基板の製造方法の第1工程を概略的に示す部分断面図である。
【図18】本発明の実施の形態5における炭化珪素基板の製造方法の第2工程およびその変形例を概略的に示す部分断面図である。
【図19】本発明の実施の形態6における半導体装置の構成を概略的に示す部分断面図である。
【図20】本発明の実施の形態6における半導体装置の製造方法の概略的なフロー図である。
【図21】本発明の実施の形態6における半導体装置の製造方法の第1工程を概略的に示す部分断面図である。
【図22】本発明の実施の形態6における半導体装置の製造方法の第2工程を概略的に示す部分断面図である。
【図23】本発明の実施の形態6における半導体装置の製造方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
【図24】本発明の実施の形態6における半導体装置の製造方法の第4工程を概略的に示す部分断面図である。
【図25】本発明の実施の形態6における半導体装置の製造方法の第5工程を概略的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
(実施の形態1)
図1および図2に示すように、本実施の形態の炭化珪素基板80は、ベース部30および単結晶群10p(図2)を有する。
【0029】
ベース部30は炭化珪素から作られている。またベース部30は、円形形状を有する板状の部材である。具体的にはベース部30は、互いに対向する第1の主面Q1および第2の主面Q2を有し、第1の主面Q1および第2の主面Q2はほぼ同一の円形形状を有する。
【0030】
単結晶群10pは、単結晶構造を有する炭化珪素から作られた単結晶11p〜18pおよび19から構成されている。また単結晶群10pは、ベース部30の第1の主面Q1上において互いに異なる位置に配置されおり、たとえばマトリックス状に並べられている。また単結晶群10pは第1の主面Q1の円形形状をほぼ埋めている。すなわち単結晶群10pは全体として、平面視において第1の主面Q1の形状とほぼ同様の円形形状を有し、かつ両者はほぼ重なり合っている。
【0031】
単結晶11pは互いに対向する表面F1および裏面B1を有し、同様に、単結晶12pは互いに対向する表面F2および裏面B2を有する。裏面B1およびB2の各々は、ベース部30に接合されている。単結晶群10pに含まれる他の単結晶も同様の構成を有する。なお表面F1およびF2などを含む単結晶群10pの表面(図1に示されている面)を第1の面F0と称し、裏面B1およびB2などを含む単結晶群10pの裏面(図1に示されている面と反対の面)を第2の面B0と称する。
【0032】
次に炭化珪素基板80の製造方法について説明する。
図3および図4を参照して、第1の加熱体61が準備される。第1の加熱体61は、後述するヒータからの放射熱を吸収して得た熱を再放射することによって、その近傍に配置された物体を加熱する機能を有する。第1の加熱体61は、たとえば、空隙率の小さいグラファイトから形成されている。
【0033】
第1の加熱体61上に、単結晶(炭化珪素層)11〜19、すなわち単結晶群10がマトリックス状に配置される。単結晶群10は、その一部が除去されることによって平面形状が調整されることで、上述した単結晶群10pとなるものである。すなわち単結晶11〜18のそれぞれは、その平面形状を除き単結晶11p〜18pとほぼ同じであり、また単結晶19の平面形状は、上記の平面形状の調整の前後でそのまま維持される。よって単結晶群10は、平面視において単結晶群10pを包含する形状(図1の円形形状を包含する形状)を有し、たとえば、複数の直線からなる外縁(図3においては4つの直線からなる正方形状の外縁)を有する。また単結晶群10は単結晶群10pと同様に、厚さ方向に互いに対向する第1の面F0および第2の面B0を有する。
【0034】
なお図3においては、便宜上、各々が正方形状を有する単結晶11〜19(単結晶群10)をマトリックス状に配置しており、単結晶群10全体も正方形状を有している。しかしながら、単結晶群10全体の形状がベース部30の円形形状よりも大きければ、単結晶群10全体の形状、および単結晶群10を構成する各々の単結晶の形状がどのような形態を有してもよいこと言うまでも無い。
【0035】
次に、互いに対向する第1の主面Q1および第2の主面Q2を有するベース部30が準備される。ベース部30は、炭化珪素からなり、この時点では、単結晶、多結晶、およびアモルファスのいずれの結晶構造を有してもよい。ベース部30の平面形状は、炭化珪素基板80(図1)の平面形状に対応したものとされ、本実施の形態においては円形形状とされる。この円形形状の直径は、大きな直径を有する炭化珪素基板80を得るために、好ましくは5cm以上であり、より好ましくは15cm以上である。好ましくはベース部30は単結晶群10と同様の結晶構造を有するが、ベース部30の欠陥密度は単結晶群10の欠陥密度に比して高くてもよく、よって大きなベース部30を比較的容易に準備することができる。
【0036】
次に、単結晶群10上にベース部30が載せられる。具体的には、単結晶群10の各々の裏面とベース部30の第1の主面Q1とが対向するように、ベース部30および単結晶11〜19が配置される。この配置によって、平面視においてベース部30の第1の主面Q1から単結晶群10が部分的に突出する。すなわち突出部PTが設けられる。
【0037】
なおこの時点ではベース部30は単結晶群10上に載せられているだけであって接合はされていない。このため両者の間にミクロ的には空隙GQが存在する。空隙GQの平均高さ(図4における縦方向の寸法)は、たとえば数十μmであり、この値は単結晶群10およびベース部30の各々の表面粗さおよび反りに依存する。
【0038】
図5を参照して、ベース部30上に第2の加熱体62が載せられる。第2の加熱体62は第1の加熱体61の機能と同様の機能を有するものである。次に第1の加熱体61、単結晶群10、ベース部30、および第2の加熱体62の積層体が容器60に収められる。容器60は、高い耐熱性を有することが好ましく、たとえばグラファイトから作られる。
【0039】
次にベース部30の温度が炭化珪素の昇華温度となり、かつ単結晶群10の温度がベース部30の温度よりも低くなるように、ベース部30と単結晶群10とが加熱される。このような加熱は、容器60の内部において、単結晶群10の温度がベース部30の温度よりも低くなるような温度勾配を設けることにより行うことができる。このような温度勾配は、たとえば、ヒータ69を第1の加熱体61よりも第2の加熱体62に近い位置に配置することで設けることができる。この加熱によって、ベース部30の第1の主面Q1から炭化珪素が昇華し、この昇華した炭化珪素が単結晶群10の第2の面B0上で再結晶する。これにより、単結晶群10の第2の面B0と、ベース部30の第1の主面Q1とが接合される。またこの接合に加えて、上記の加熱工程により、単結晶群10が部分的に炭化される。以下、この加熱工程について、より詳しく説明する。
【0040】
まず容器60中の雰囲気が排気される。好ましくは、容器60内の圧力が50kPa以下とされ、より好ましくは10kPa以下となるように、排気が継続的に行われる。
【0041】
次に単結晶群10およびベース部30が加熱される。この加熱は、少なくともベース部30の温度が炭化珪素の昇華温度以上となるように行われる。具体的にはヒータ69の設定温度が、1800℃以上、2500℃以下とされ、たとえば2000℃とされる。温度が1800℃以下であると炭化珪素を昇華させるための加熱が不十分となりやすく、温度が2500℃以上であると単結晶群10の表面荒れが著しくなりやすい。またこの加熱は、容器60内において、ベース部30から単結晶群10に向かって温度が低くなるような温度勾配が形成されるように行われる。この温度勾配は、好ましくは1℃/cm以上200℃/cm以下であり、より好ましくは10℃/cm以上50℃/cm以下とされる。
【0042】
このように温度勾配が設けられると、単結晶群10の第2の面B0と、ベース部30の第1の主面Q1との間に温度差が生じる。この温度差は、空隙GQの存在によって、より確実に形成される。この温度差に起因して、空隙GQ内への炭化珪素の昇華反応は単結晶群10に比してベース部30から生じ易くなり、また空隙GQ内からの炭化珪素材料の供給による再結晶反応はベース部30上に比して単結晶群10上に生じ易くなる。この結果、破線矢印HQ(図5)に示すように、昇華・再結晶反応にともなう空隙GQの移動が生じる。より詳しくは、まず空隙GQがベース部30中の多数のボイドへと分解され、そしてこのボイドを破線矢印HQに示す方向に移動させることでベース部30から消失させてもよい。
【0043】
上記の昇華・再結晶反応によって、ベース部30の全部もしくは一部は、単結晶群10の第2の面B0上にエピタキシャルに再形成された層となる。すなわちベース部30の全部もしくは一部の結晶構造は、初期の構造から、単結晶群10の結晶構造に対応した構造へと変化する。このベース部30の全部もしくは一部の再形成によって、単結晶群10の第2の面B0を部分的に覆うように、単結晶群10にベース部30が接合される。
【0044】
図6を参照して、上記の加熱工程により、単結晶群10にベース部30が接合されるだけでなく、さらに単結晶群10の突出部PTが部分的に炭化される。具体的には、単結晶群10の第2の面B0のうちベース部30に覆われていない部分からシリコン原子が脱離することによって、この部分から、単結晶群10の厚さよりも小さい深さにわたって炭化部70(図6)が形成される。よって炭化部70は、炭化珪素が炭化されることによって得られた材料からなり、この材料は炭化が十分に進行した場合においては炭素である。単結晶群10のうち炭化されなかった部分の材料は炭化珪素のまま保たれ、この部分を炭化珪素部90と称する。
【0045】
図7を参照して、ベース部30および単結晶群10からなる積層体が容器60(図6)から取り出される。上述した炭化によって、単結晶群10は炭化部70および炭化珪素部90に区分される。またその第2の面B0は、炭化珪素部90からなり、かつベース部30の平面形状に対応した形状を有する部分と、この部分の外側に露出する、炭化部70からなる部分とに区分される。
【0046】
図8を参照して、炭化部70および炭化珪素部90の間には、上記の炭化が進行した方向、すなわちおおよそ厚さ方向(図8の縦方向)に沿って、第2の面B0から単結晶群10の内部へと延びる界面IEが形成される。
【0047】
次に界面IEの剥離を促すように、単結晶群10に応力が加えられる。たとえば、単結晶群10のうちその第2の面B0が炭化珪素部90となっている部分(図8の左側の部分)が固定されながら、第2の面B0上で炭化部70押す力FCが加えられる。この力FCによって単結晶群10内に生じる応力により、界面IEが第2の面B0上の位置を始点として剥離する。すなわち炭化部70の界面を剥離する加工がなされる。
【0048】
この剥離により界面IEに沿って亀裂が生じ、この亀裂は炭化珪素部90内へと進展して最終的に第1の面F0に達する。すなわち破線矢印CR(図8)に示すように亀裂が進展する。この結果、単結晶群10のうち平面視において炭化部70が形成されていた部分が除去され、それ以外の部分が残存する。この残存部分は、平面視においてベース部30(図3)に対応する形状、すなわち炭化珪素基板80(図1)に対応する形状を有する。すなわち上記の諸工程によって単結晶群10(図3および図4:単結晶11〜19の集合)に対して炭化珪素基板80の平面形状が付与される。このようにして平面形状が付与された単結晶群10の側面は、亀裂の発生によって形成された面であるので、荒れた面となりやすい。よって必要に応じてこの側面が切削、研削もしくは研磨されてもよい。以上により炭化珪素基板80が得られる。
【0049】
本実施の形態によれば、単結晶群10のうち平面視においてベース部30の第1の主面Q1から突出した部分である突出部PTが除去されることで、ベース部30の平面形状に対応した炭化珪素基板80が得られる。この際に、破線矢印CR(図8)に示すように、炭化部70の界面IEに対する加工と、炭化珪素部90の内部に対する加工とが行われる。この前者、すなわち界面IEを剥離させる加工は、硬度の高い炭化珪素に対する加工に比して、容易に行うことができる。よって、単結晶群10の平面形状を調整する加工の一部を、より容易に行うことができる。これにより、所望の平面形状を有する炭化珪素基板80を容易に得ることができる。
【0050】
また単結晶群10は、平面視において互いに異なる位置に配置された複数の単結晶11〜19(図3)を含む。これにより、1つの単結晶のみが用いられる場合に比して、炭化珪素基板の面積を大きくすることができる。
【0051】
また単結晶群10を炭化する際に、単結晶群10の第2の面B0を部分的に覆うマスクとしてベース部30が機能することで、第2の面B0の炭化を部分的なものとすることができる。またベース部30は炭化珪素から作られているので、炭化珪素基板80の一部を構成するのに適している。
【0052】
またベース部30および単結晶群10は、ベース部30の温度が炭化珪素の昇華温度となりかつ単結晶群10の各々の温度がベース部30の温度よりも低くなるように加熱される。これにより、ベース部30から単結晶群10の各々への、昇華再結晶による物質移動を生じさせることができ、この物質移動によってベース部30と単結晶群10の各々とを接合することができる。
【0053】
また炭化部70(図6)は、単結晶群10の加熱という容易な方法によって形成することができる。この加熱の雰囲気の温度が1800℃以上とされると、より確実に炭化が行われる。またこの温度が2500℃以下とされると、加熱によって単結晶群10が受けるダメージを小さくすることができる。またこの雰囲気が排気されながら加熱が行なわれると、単結晶群10から脱離したシリコン原子が雰囲気中から除去されるので、単結晶群10から雰囲気中へのシリコン原子の脱離が促進される。すなわち炭化の進行を促進することができ、よって炭化珪素基板80を効率よく製造することができる。
【0054】
また界面IE(図8)の剥離は、単結晶群10の界面IEに応力を加えるという簡便な方法によって生じさせることができる。さらにこの剥離によって生じた亀裂が炭化珪素部90内へ進展することで、炭化珪素部90の所望の位置に亀裂を形成する加工を行うことができる。
【0055】
なお得ようとする炭化珪素基板が単結晶構造を有する必要のない場合、単結晶群10の代わりに、単結晶構造を有しない複数の炭化珪素層を用いることができる。この場合、複数の炭化珪素層は、たとえば、多結晶構造またはアモルファス構造を有する。
【0056】
また炭化珪素からなるベース部30の代わりに、炭化珪素以外の材料からなるベース部が用いられてもよい。炭化珪素以外の材料としては、たとえば、上記の加熱工程において溶融しない程度に高い融点を有する高融点金属を用いることができる。この場合、上述した温度勾配は必ずしも設けられる必要はない。
【0057】
またベース部の形状は円形形状に限定されるものではなく、炭化珪素基板の平面形状に対応した形状とされればよい。
【0058】
(実施の形態2)
本実施の形態の炭化珪素基板の構成は、実施の形態1のもの(図1および図2)とほぼ同様である。またその製造方法の前半は、実施の形態1の製造方法の前半(図7の構成を得る工程)と同様である。よって実施の形態1の要素と同一または対応する要素については、同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。以下に、本実施の形態の製造方法の後半について説明する。
【0059】
主に図9を参照して、破線CTに示すように、炭化部70および炭化珪素部90が切断されることで、突出部PTがおおよそ除去される。すなわち突出部PTの一部が除去される。この切断は、たとえば、切削、研削、研磨のような機械加工と、レーザ加工と、放電加工との少なくともいずれかによって行われる。
【0060】
この切断によって炭化部70(図9)の大部分が除去されるが、その一部である炭化部70f(図10)が残存する。次に、平面視において炭化部70fが存在する部分、すなわち、炭化部70fおよび炭化珪素部90fを有する部分PS(図10)が、たとえば切削や研削や研磨によって除去される。以上により炭化珪素基板80(図1および図2)が得られる。
【0061】
本実施の形態によれば、図9に示すように、単結晶群10の切断加工のうちの一部は、炭化部70の切断加工である。すなわち単結晶群10の切断加工のうちの一部は、炭化珪素ではなく炭化珪素が炭化された材料の切断加工となり、この加工は炭化珪素の切断加工に比して容易となる。よって単結晶群10の切断加工の一部を、より容易に行うことができる。これにより、所望の平面形状を有する炭化珪素基板80を容易に得ることができる。
【0062】
(実施の形態3)
本実施の形態においては、上記各実施の形態において説明した加熱が行われる前に、単結晶11〜19(図3)の各々の表面(たとえば図11の単結晶層11の表面F1)の上に、第1の保護膜71が形成される。
【0063】
好ましくは第1の保護膜71はカーボンを主成分として含む材料から作られる。この材料は、レジストの炭化により得られる材料、炭化珪素の炭化により得られる材料、ダイヤモンドライクカーボン、およびカーボンの少なくともいずれかを含んでもよい。レジストとしてはフォトレジストが用いられてもよい。たとえばこの材料がカーボンである場合、第1の保護膜71はスパッタ法により形成され得る。
【0064】
図12を参照して、実施の形態1の図5と同様の加熱が行なわれる。本実施の形態においては、第1の保護膜71によって、単結晶群10の第1の面F0からのシリコン原子の脱離、すなわち炭化が防止される。
【0065】
図13を参照して、ベース部30、単結晶群10、および第1の保護膜71の積層体が、容器60(図12)から取り出される。次に、たとえば研削や研磨によって、第1の保護膜71が除去される。
【0066】
この後、実施の形態1または2と同様の工程が行われることで、炭化珪素基板80(図1および図2)が得られる。なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態1または2の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0067】
好ましくは、第1の保護膜71はカーボンを主成分として含む材料から作られ、この材料は、レジストの炭化により得られる材料、炭化珪素の炭化により得られる材料、ダイヤモンドライクカーボン、およびカーボンの少なくともいずれかを含んでもよい。これにより、第1の保護膜71は高温下でも安定な膜となるので、第1の面F0が炭化されることをより確実に防止することができる。
【0068】
なお第1の保護膜71が形成されない場合、炭化部70が形成される際に第1の面F0がある程度の深さだけ炭化され得るが、この炭化された部分は、たとえば研削や研磨によって除去され得る。
【0069】
(実施の形態4)
図14を参照して、本実施の形態においては、上記各実施の形態において説明した加熱が行われる前に、ベース部30の第2の主面Q2上に、第2の保護膜72が形成される。第2の保護膜72の材料としては、上記の第1の保護膜71の材料と同様のものを用いることができる。
【0070】
図15を参照して、実施の形態3の図12と同様の加熱が行なわれる。本実施の形態においては、第2の保護膜72によって、ベース部30の第2の主面Q2からのシリコン原子の脱離、すなわち炭化が防止される。
【0071】
図16を参照して、第2の保護膜72、ベース部30、単結晶群10、および第1の保護膜71の積層体が、容器60(図15)から取り出される。次に、たとえば研削や研磨によって、第1の保護膜71が除去される。また必要に応じて第2の保護膜72が、たとえば研磨や研削によって除去される。
【0072】
好ましくは、第2の保護膜72はカーボンを主成分として含む材料から作られ、この材料は、レジストの炭化により得られる材料、炭化珪素の炭化により得られる材料、ダイヤモンドライクカーボン、およびカーボンの少なくともいずれかを含んでもよい。これにより、第2の保護膜72は高温下でも安定な膜となるので、ベース部の第2の主面Q2が炭化されることをより確実に防止することができる。
【0073】
なお上記においては第1の保護膜71および第2の保護膜72の両方が設けられる場合について説明しているが、両保護膜のうち第2の保護膜72のみが設けられてもよい。
【0074】
また第2の保護膜72が形成されない場合、炭化部70が形成される際にベース部の第2の主面Q2がある程度の深さだけ炭化され得るが、この炭化された部分は、炭化珪素基板の使用に際して支障がなければ残されてもよく、逆に支障がある場合は、たとえば研削や研磨によって除去され得る。
【0075】
(実施の形態5)
本実施の形態の炭化珪素基板の構成は、実施の形態1のもの(図1および図2)とほぼ同様である。またその製造方法の前半は、実施の形態1の製造方法の前半(図7の構成を得る工程)と同様である。よって実施の形態1の要素と同一または対応する要素については、同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。以下に、本実施の形態の製造方法の後半について説明する。
【0076】
図7を参照して、実施の形態1と同様に炭化工程が行われることで、炭化部70が形成される。本実施の形態においては、さらに炭化を進行させる。
【0077】
図17を参照して、上記の工程によって、単結晶群10は炭化部70aおよび炭化珪素部90aに区分される。炭化部70aは、第2の面B0から第1の面F0まで形成される。すなわち本実施の形態においては、突出部PT全体が炭化部70aとなる。
【0078】
図18を参照して、図中破線CSに沿って、炭化部70aおよび炭化珪素部90aの間の界面IEが剥離される。この剥離は、実施の形態1と同様に応力を加えることで生じさせることができる。この剥離の結果、炭化部70a、すなわち突出部PTが除去される。この後、必要に応じて90aの側面(界面IEであった面)が切削、研削もしくは研磨されてもよい。以上により炭化珪素基板80(図1および図2)が得られる。
【0079】
なお破線CS(図18)に沿う剥離の変わりに、破線CU(図18)に沿う切断が行われても良い。この切断は、実施の形態2と同様方法で行なうことができる。切断後の炭化部70aの残部(図18における破線CUと界面IEの間の部分)は、たとえば切削や研削や研磨によって除去される。
【0080】
なお本実施の形態においても、第1の保護膜71および第2の保護膜72(図15)の少なくともいずれかが用いられてもよい。また第1の保護膜71に対して、ベース部30と同様の平面形状が付与されてもよい。これにより炭化部70a(図17)の形成のための炭化が第2の面B0からだけでなく第1の面F0からも進行するので、炭化部70aをより効率よく形成することができる。
【0081】
(実施の形態6)
本実施の形態においては、炭化珪素基板80(図1および図2)を用いた半導体装置について説明する。炭化珪素基板80は、前述した実施の形態1〜5のいずれかによって準備され得る。よって実施の形態1〜5の要素と同一または対応する要素については、同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0082】
図19を参照して、本実施の形態の半導体装置100は、縦型DiMOSFET(Double Implanted Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)であって、ベース部30、単結晶11p、バッファ層121、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、p+領域125、酸化膜126、ソース電極111、上部ソース電極127、ゲート電極110、およびドレイン電極112を有する。半導体装置100の平面形状(図19の上方向から見た形状)は、たとえば、2mm以上の長さの辺からなる長方形または正方形である。
【0083】
ドレイン電極112はベース部30上に設けられ、またバッファ層121は単結晶11p上に設けられている。この配置により、ゲート電極110によってキャリアの流れが制御される領域は、ベース部30ではなく単結晶11pの上に配置されている。
【0084】
ベース部30、単結晶11p、およびバッファ層121は、n型の導電型を有する。バッファ層121におけるn型の導電性不純物の濃度は、たとえば5×1017cm-3である。またバッファ層121の厚さは、たとえば0.5μmである。
【0085】
耐圧保持層122は、バッファ層121上に形成されており、また導電型がn型のSiCからなる。たとえば、耐圧保持層122の厚さは10μmであり、そのn型の導電性不純物の濃度は5×1015cm-3である。
【0086】
この耐圧保持層122の表面には、導電型がp型である複数のp領域123が互いに間隔を隔てて形成されている。p領域123の内部において、p領域123の表面層にn+領域124が形成されている。また、このn+領域124に隣接する位置には、p+領域125が形成されている。複数のp領域123の間から露出する耐圧保持層122上には酸化膜126が形成されている。具体的には、酸化膜126は、一方のp領域123におけるn+領域124上から、p領域123、2つのp領域123の間において露出する耐圧保持層122、他方のp領域123および当該他方のp領域123におけるn+領域124上にまで延在するように形成されている。酸化膜126上にはゲート電極110が形成されている。また、n+領域124およびp+領域125上にはソース電極111が形成されている。このソース電極111上には上部ソース電極127が形成されている。
【0087】
酸化膜126と、半導体層としてのn+領域124、p+領域125、p領域123および耐圧保持層122との界面から10nm以内の領域における窒素原子濃度の最大値は1×1021cm-3以上となっている。これにより、特に酸化膜126下のチャネル領域(酸化膜126に接する部分であって、n+領域124と耐圧保持層122との間のp領域123の部分)の移動度を向上させることができる。
【0088】
なお上記においては単結晶11pを含む半導体装置について説明しているが、この代わりに他の単結晶(図1における単結晶12p〜18pおよび19のいずれか1つ)を含む半導体装置も、炭化珪素基板80を用いた半導体装置の製造方法によって同時に得られる。
【0089】
次に半導体装置100の製造方法について説明する。なお図21〜図25においては単結晶11pの近傍における工程のみを示すが、単結晶12p〜18pおよび19の各々の近傍においても、同様の工程が行なわれる。
【0090】
まず基板準備工程(ステップS110:図20)にて、炭化珪素基板80(図1および図2)が準備される。炭化珪素基板80の導電型はn型とされる。
【0091】
図21を参照して、エピタキシャル層形成工程(ステップS120:図20)により、バッファ層121および耐圧保持層122が、以下のように形成される。
【0092】
単結晶群10pの表面上にバッファ層121が形成される。バッファ層121は、導電型がn型のSiCからなり、たとえば厚さ0.5μmのエピタキシャル層である。またバッファ層121における導電型不純物の濃度は、たとえば5×1017cm-3とされる。
【0093】
次にバッファ層121上に耐圧保持層122が形成される。具体的には、導電型がn型のSiCからなる層が、エピタキシャル成長法によって形成される。耐圧保持層122の厚さは、たとえば10μmとされる。また耐圧保持層122におけるn型の導電性不純物の濃度は、たとえば5×1015cm-3である。
【0094】
図22を参照して、注入工程(ステップS130:図20)により、p領域123と、n+領域124と、p+領域125とが、以下のように形成される。
【0095】
まずp型の導電性不純物が耐圧保持層122の一部に選択的に注入されることで、p領域123が形成される。次に、n型の導電性不純物を所定の領域に選択的に注入することによってn+領域124が形成され、またp型の導電性不純物を所定の領域に選択的に注入することによってp+領域125が形成される。なお不純物の選択的な注入は、たとえば酸化膜からなるマスクを用いて行われる。
【0096】
このような注入工程の後、活性化アニール処理が行われる。たとえば、アルゴン雰囲気中、加熱温度1700℃で30分間のアニールが行われる。
【0097】
図23を参照して、ゲート絶縁膜形成工程(ステップS140:図20)が行われる。具体的には、耐圧保持層122と、p領域123と、n+領域124と、p+領域125との上を覆うように、酸化膜126が形成される。この形成はドライ酸化(熱酸化)により行われてもよい。ドライ酸化の条件は、たとえば、加熱温度が1200℃であり、また加熱時間が30分である。
【0098】
その後、窒素アニール工程(ステップS150)が行われる。具体的には、一酸化窒素(NO)雰囲気中でのアニール処理が行われる。この処理の条件は、たとえば加熱温度が1100℃であり、加熱時間が120分である。この結果、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、およびp+領域125の各々と、酸化膜126との界面近傍に、窒素原子が導入される。
【0099】
なおこの一酸化窒素を用いたアニール工程の後、さらに不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスを用いたアニール処理が行われてもよい。この処理の条件は、たとえば、加熱温度が1100℃であり、加熱時間が60分である。
【0100】
図24を参照して、電極形成工程(ステップS160:図20)により、ソース電極111およびドレイン電極112が、以下のように形成される。
【0101】
まず酸化膜126上に、フォトリソグラフィ法を用いて、パターンを有するレジスト膜が形成される。このレジスト膜をマスクとして用いて、酸化膜126のうちn+領域124およびp+領域125上に位置する部分がエッチングにより除去される。これにより酸化膜126に開口部が形成される。次に、この開口部においてn+領域124およびp+領域125の各々と接触するように導体膜が形成される。次にレジスト膜を除去することにより、上記導体膜のうちレジスト膜上に位置していた部分の除去(リフトオフ)が行われる。この導体膜は、金属膜であってもよく、たとえばニッケル(Ni)からなる。このリフトオフの結果、ソース電極111が形成される。
【0102】
なお、ここでアロイ化のための熱処理が行なわれることが好ましい。たとえば、不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスの雰囲気中、加熱温度950℃で2分の熱処理が行なわれる。
【0103】
図25を参照して、ソース電極111上に上部ソース電極127が形成される。また、酸化膜126上にゲート電極110が形成される。また、炭化珪素基板80の裏面上にドレイン電極112が形成される。
【0104】
次に、ダイシング工程(ステップS170:図20)により、破線DCに示すようにダイシングが行われる。これにより複数の半導体装置100(図19)が切り出される。
【0105】
なお本実施の形態における導電型が入れ替えられた構成、すなわちp型とn型とが入れ替えられた構成を用いることもできる。また縦型DiMOSFETを例示したが、本発明の半導体基板を用いて他の半導体装置が製造されてもよく、たとえばRESURF−JFET(Reduced Surface Field-Junction Field Effect Transistor)またはショットキーダイオードが製造されてもよい。
【0106】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0107】
PT 突出部、10 単結晶群、11〜19 単結晶(炭化珪素層)、30 ベース部、70,70a 炭化部、71 第1の保護膜、72 第2の保護膜、80 炭化珪素基板、90,90a 炭化珪素部、100 半導体装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第1および第2の主面を有するベース部を準備する工程と、
互いに対向する第1の表面および第1の裏面を有する第1の炭化珪素層を準備する工程と、
互いに対向する第2の表面および第2の裏面を有する第2の炭化珪素層を準備する工程と、
前記第1および第2の裏面の各々と前記第1の主面とが対向するように、前記ベース部と前記第1および第2の炭化珪素層とを配置する工程とを備え、
前記配置する工程において、前記第1および第2の炭化珪素層の少なくともいずれかが平面視において前記第1の主面の外側へ部分的に突出することによって突出部が設けられ、さらに
前記配置する工程の後に、前記第1および第2の裏面の各々と前記第1の主面とが接合されるように前記ベース部と前記第1および第2の炭化珪素層とを加熱する工程を備え、
前記加熱する工程によって前記突出部の少なくとも一部が炭化されることで、前記第1および第2の炭化珪素層が、炭化珪素が炭化されることによって得られる材料からなる炭化部と、炭化珪素からなる炭化珪素部とに区分され、さらに
前記突出部を除去する工程を備え、
前記除去する工程は前記炭化部を加工する工程を含む、炭化珪素基板の製造方法。
【請求項2】
前記除去する工程は、前記突出部に応力を加える工程を含む、請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項3】
前記加工する工程は、前記応力によって前記炭化部を前記炭化珪素部との界面から剥離させることによって行われる、請求項2に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項4】
前記除去する工程は、前記剥離させる工程によって生じた亀裂を前記炭化珪素部内へ進展させる工程を含む、請求項3に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項5】
前記炭化部を加工する工程は、機械加工、レーザ加工、および放電加工の少なくともいずれかによって行なわれる、請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項6】
前記加熱する工程は、1800℃以上2500℃以下の温度を有する雰囲気に前記突出部をさらす工程を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項7】
前記加熱する工程は、前記突出部を取り巻く雰囲気を排気する工程を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項8】
前記加熱する工程の前に、前記第1および第2の表面の上に第1の保護膜を形成する工程をさらに備える、請求項1〜7のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項9】
前記第1の保護膜は、カーボンを主成分として含む第1の材料から作られている、請求項8に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項10】
前記第1の材料は、レジストの炭化により得られる材料、炭化珪素の炭化により得られる材料、ダイヤモンドライクカーボン、およびカーボンの少なくともいずれかを含む、請求項9に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項11】
前記加熱する工程の前に、前記第2の主面の上に第2の保護膜を形成する工程をさらに備える、請求項1〜10のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項12】
前記第1および第2の炭化珪素層の各々は単結晶構造を有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項13】
前記ベース部は炭化珪素からなる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項14】
前記加熱する工程は、前記ベース部の温度が炭化珪素の昇華温度となりかつ前記第1および第2の炭化珪素層の各々の温度が前記ベース部の温度よりも低くなるように行われる、請求項13に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項1】
互いに対向する第1および第2の主面を有するベース部を準備する工程と、
互いに対向する第1の表面および第1の裏面を有する第1の炭化珪素層を準備する工程と、
互いに対向する第2の表面および第2の裏面を有する第2の炭化珪素層を準備する工程と、
前記第1および第2の裏面の各々と前記第1の主面とが対向するように、前記ベース部と前記第1および第2の炭化珪素層とを配置する工程とを備え、
前記配置する工程において、前記第1および第2の炭化珪素層の少なくともいずれかが平面視において前記第1の主面の外側へ部分的に突出することによって突出部が設けられ、さらに
前記配置する工程の後に、前記第1および第2の裏面の各々と前記第1の主面とが接合されるように前記ベース部と前記第1および第2の炭化珪素層とを加熱する工程を備え、
前記加熱する工程によって前記突出部の少なくとも一部が炭化されることで、前記第1および第2の炭化珪素層が、炭化珪素が炭化されることによって得られる材料からなる炭化部と、炭化珪素からなる炭化珪素部とに区分され、さらに
前記突出部を除去する工程を備え、
前記除去する工程は前記炭化部を加工する工程を含む、炭化珪素基板の製造方法。
【請求項2】
前記除去する工程は、前記突出部に応力を加える工程を含む、請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項3】
前記加工する工程は、前記応力によって前記炭化部を前記炭化珪素部との界面から剥離させることによって行われる、請求項2に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項4】
前記除去する工程は、前記剥離させる工程によって生じた亀裂を前記炭化珪素部内へ進展させる工程を含む、請求項3に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項5】
前記炭化部を加工する工程は、機械加工、レーザ加工、および放電加工の少なくともいずれかによって行なわれる、請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項6】
前記加熱する工程は、1800℃以上2500℃以下の温度を有する雰囲気に前記突出部をさらす工程を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項7】
前記加熱する工程は、前記突出部を取り巻く雰囲気を排気する工程を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項8】
前記加熱する工程の前に、前記第1および第2の表面の上に第1の保護膜を形成する工程をさらに備える、請求項1〜7のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項9】
前記第1の保護膜は、カーボンを主成分として含む第1の材料から作られている、請求項8に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項10】
前記第1の材料は、レジストの炭化により得られる材料、炭化珪素の炭化により得られる材料、ダイヤモンドライクカーボン、およびカーボンの少なくともいずれかを含む、請求項9に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項11】
前記加熱する工程の前に、前記第2の主面の上に第2の保護膜を形成する工程をさらに備える、請求項1〜10のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項12】
前記第1および第2の炭化珪素層の各々は単結晶構造を有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項13】
前記ベース部は炭化珪素からなる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項14】
前記加熱する工程は、前記ベース部の温度が炭化珪素の昇華温度となりかつ前記第1および第2の炭化珪素層の各々の温度が前記ベース部の温度よりも低くなるように行われる、請求項13に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2011−236064(P2011−236064A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106332(P2010−106332)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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