説明

炭化装置、及び炭化装置の温度制御方法

【課題】排ガス処理部の処理能力を維持した場合であっても、処理対象物の処理量を向上させることのできる炭化装置を提供する。
【解決手段】炭化装置は、処理対象物を収容する熱分解槽と、熱分解槽を加熱するヒータと、ヒータによる加熱を制御する制御手段と、処理対象物から発生した排気ガスを処理する排ガス処理手段とを備える。制御手段は、ヒータを制御して、逐次設定温度が高くなる3設定温度で熱分解槽を加熱させる。第1の設定温度は、処理対象物を脱水させるため温度、第2の設定温度は、脱水させた処理対象物を乾燥し炭化させるための温度、第3の設定温度は、炭化させた処理対象物の安定化と処理対象物の臭気を減少するため温度とする。そして、各温度設定においては、その温度を所定時間維持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、廃棄物や汚泥などの処理対象物を加熱処理して炭化する炭化装置、及び当該炭化装置の温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化装置は、投入された処理対象物を加熱処理して炭化させる装置である。炭素を多く含有する処理対象物を低酸素又は無酸素状況下で高温加熱処理することで炭化物を生成する。当該炭化物は、その熱量から固形燃料、還元剤、融雪剤、又は活性炭として再利用が可能となる。
【0003】
この炭化装置は、処理対象物が投入される熱分解槽と、当該熱分解槽を加熱するヒータと、投入された処理対象物を撹拌する撹拌部とを有する。更に、この炭化装置は、処理対象物の加熱処理中に発生した排気ガスを処理する排気ガス処理部を有する。排気ガスは、処理対象物の水分等を含む。この排気ガス処理部は、排気ガスから煤塵やその他の微粒子を除いて消臭し、冷却した後に機外へ放出する(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
このような炭化装置の能力は、投入可能な処理対象物の収容可能量もさることながら、排気ガス処理部の排気ガス処理能力にも依存する。即ち、排気ガス処理部で処理しきれない量の排気ガスが単位時間当たりに発生する量の処理対象物は、環境を考慮すると効率よく処理ができなくなる。
【0005】
従って、炭化装置の能力を向上させるためには、排気ガス処理部の単位時間当たりに処理可能な排気ガスの量を向上させる必要があった。しかし、そのような排気ガス処理部は、その処理可能量に応じて高価となり、炭化装置のコストを押し上げていた。
【0006】
ここで、従来の炭化装置では、処理対象物から炭化物を生成することを目的とする場合、処理対象物を炭化させるため高温で加熱処理を開始することが一般的である。処理対象物を高温で加熱処理する場合には、発生する排気ガスの容量が大きくなる。そのため、処理対象物から炭化物を生成することを目的とする場合、高性能な排気ガス処理部を備えるか、その処理量を少なくしなくてはならない。排気ガスの容量は、その温度に比例するからである。
【0007】
このように、従来の炭化装置を用いて炭化物を生成しようとすると、処理対象物の一回当たりの処理量を少なくするか、または、より高性能な排気ガス処理部を必要とし、炭化装置の価格と処理コストが上がってしまっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−128269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、上述のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、排気ガス処理部の処理能力を維持した場合であっても、処理対象物の処理量を向上させることのできる炭化装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1記載の本発明に係る炭化装置は、処理対象物を収容する熱分解槽と、前記熱分解槽を加熱するヒータと、前記ヒータによる加熱を制御する制御手段と、前記処理対象物から発生した水分を主成分とする排気ガスを処理する排ガス処理手段と、を備え、前記制御手段は、前記処理対象物を脱水させる第1の設定温度と、前記第1の設定温度よりも高く、前記処理対象物を乾燥し炭化させる第2の設定温度と、前記第2の設定温度よりも高く、前記炭化させた処理対象物の安定化とその臭気を減少する第3の設定温度と、に逐次設定温度を高くして、前記熱分解槽を加熱させること、を特徴とする。
【0011】
前記制御手段は、前記第1の設定温度、前記第2の設定温度、及び前記第3の設定温度に到達すると、それぞれ前記ヒータによる加熱を一度停止させるようにしてもよい(請求項2記載の発明に相当)。
【0012】
前記第2の設定温度は、165℃乃至240℃であるようにしてもよい(請求項3記載の発明に相当)。
【0013】
前記制御手段は、前記第2の設定温度を、逐次温度が高くなる複数の設定温度に更に分けて各設定温度を所定時間維持させるようにしてもよい(請求項4記載の発明に相当)。
前記制御手段は、第3の設定温度を300℃に設定して、その温度を所定時間維持させるようにしてもよい(請求項5記載の発明に相当)。
【0014】
また上記課題を解決するために、請求項6記載の本発明に係る温度制御方法は、処理対象物を収容する熱分解槽をヒータで加熱して、前記処理対象物から発生した排気ガスを処理する炭化装置の温度制御方法であって、前記処理対象物を脱水させる第1の設定温度まで加熱して当該温度を所定時間維持する脱水工程と、前記脱水させた処理対象物を乾燥し炭化させる第2の設定温度まで加熱して当該温度を所定時間維持する炭化工程と、前記炭化させた処理対象物の安定化と処理対象物の臭気を減少する第3の設定温度まで加熱して当該温度を所定時間維持する安定化工程と、を実行するように前記ヒータによる前記熱分解槽の加熱を制御すること、を特徴とする。
【0015】
前記第1の設定温度、前記第2の設定温度、及び前記第3の設定温度に到達すると、それぞれ前記ヒータによる加熱を一度停止させるようにしてもよい(請求項7記載の発明に相当)。
【0016】
前記炭化工程では、前記熱分解槽を165℃乃至240℃に徐々に加熱して所定時間維持するようにしてもよい(請求項8記載の発明に相当)。
【0017】
前記炭化工程では、逐次温度が高くなる複数の設定温度に更に分けて各設定温度を所定時間維持させるようにしてもよい(請求項9記載の発明に相当)。
【0018】
前記安定化工程では、温度を300℃に温度を設定し、その温度を所定時間維持させるようにしてもよい(請求項10記載の発明に相当)。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、逐次設定温度が高くなる3設定温度で熱分解槽を加熱させ、処理対象物を脱水させるための第1の設定温度と、脱水させた処理対象物を乾燥し炭化させるための第2の設定温度と、炭化させた処理対象物の安定化とその臭気を減少するための第3の設定温度とを所定時間維持させるように温度制御した。即ち、処理対象物を脱水させるための第1の設定温度まで加熱して当該温度を所定時間維持する脱水工程と、脱水させた処理対象物を乾燥し炭化させるための第2の設定温度まで加熱して当該温度を所定時間維持する炭化工程と、前記炭化させた処理対象物の安定化及びその臭気を減少するための第3の設定温度まで加熱して当該温度を所定時間維持する安定化工程とを経る。
【0020】
これにより、第2及び第3の設定温度よりも設定温度が低い、第1の設定温度で処理対象物を脱水させ、第2の設定温度で処理対象物を徐々に乾燥させながら炭化させるので、単位時間当たりの排気ガスの総発生容量を低く抑えることができる。従って、排気ガス処理手段の排気ガス処理能力に比べて比較的大量の処理対象物の処理を行うことができ、処理対象物の処理能力が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】炭化装置の構成を示す図である。
【図2】炭化装置のコントローラの詳細構成を示すブロック図である。
【図3】間欠撹拌を示すグラフである。
【図4】加熱スケジュールを示すグラフである。
【図5】加熱スケジュールデータを示すデータ構造図である。
【図6】炭化装置の間欠撹拌の制御動作を示すフローチャートである。
【図7】炭化装置の加熱制御の動作を示すフローチャートである。
【図8】炭化装置の加熱制御の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る炭化装置の好適な実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。図1は、炭化装置1の構成を示すブロック図である。
【0023】
炭化装置1は、内部に投入された処理対象物100を加熱処理してから所定時間後に攪拌する。攪拌は、比較的低速で行うか、間欠攪拌であってもよい。処理対象物100の加熱処理とともに、加熱処理の過程で発生した水蒸気等の排気ガスを廃熱処理して機外に排出する。炭素化合物を多く含有する処理対象物100においては、低酸素又は無酸素状態で加熱乾燥して水蒸気を飛ばすことにより炭化物を生成することができる。
【0024】
処理対象物100には、炭化装置1内の加熱処理により燃焼可能な全てが含まれ、例えば、残飯、麺類、魚、野菜屑、肉、果物、鶏卵殻、又は魚の骨等の生ごみ、ビニール袋、又は発泡トレイ等のプラスチックごみ、紙袋、紙パック、段ボール、新聞紙、又は紙おむつ等の紙製ごみ、牛糞等の畜産廃棄物、汚泥等が挙げられる。
【0025】
この炭化装置1は、熱分解槽2を筐体内部に有し、排気ガス処理部8を筐体外部に有する。排気ガス処理部8を筐体内部に配してもよい。
【0026】
熱分解槽2は、処理対象物100を収容して加熱乾燥させる。この熱分解槽2は、両端が閉じられた略U字状の樋形状を有し、湾曲側を下方に向けて設置されている。換言すると、熱分解槽2の内壁面は、炭化装置1の上方に向いている。この熱分解槽2は、炭化装置1のベースに図示しない架台が設置され、その架台により支持されている。
【0027】
処理対象物100は、熱分解槽2内、即ち熱分解槽2の内壁面で囲まれる収容空間に収容される。炭化装置1の上面には熱分解槽2内に通じる投入口3が開口している。この投入口3を通じて処理対象物100が熱分解槽2内へ収容される。投入口3には、開閉可能な蓋体31が取着されている。蓋体31を閉じることによって熱分解槽2内の密閉性を高められる。
【0028】
また、炭化装置1の上面には、熱分解槽2内に通じる排気口6が開口している。この排気口6は、ダクトを介して排気ガス処理部8に通じている。排気口6は、処理対象物100から発生した排気ガスをダクトを通じて排気ガス処理部8へ導出させる。
【0029】
排気ガス処理部8は、排気ガスから煤塵及びその他の微粒子を除去し、排気ガスを消臭及び冷却してから機外へ排出する。この排気ガス処理部8は、集塵装置81、消臭機82、冷却ファン83、及び活性炭吸着部84を有する。
【0030】
集塵装置81は、排気ガスと当該ガスに含まれる煤塵及びその他の微粒子とを分離する。例えば、排気ガスの旋回流を生じさせ、遠心力により煤塵及びその他の微粒子を排気ガスから分離させる。更に、集塵装置81の出口にフィルターを配し、このフィルターにより排気ガスから煤塵及びその他の微粒子を除去する。消臭機82は、集塵装置81から排出された排気ガスに触媒を接触させ、更に加熱して酸化させることで消臭する。冷却ファン83は、排気ガスの送管に対して冷風を当てて排気ガスの温度を下げてから、機外へ排出する。排気ガスに有害物質が含まれている場合には、活性炭吸着部84により除去する。
【0031】
熱分解槽2による加熱乾燥は、槽内部に設けられた加熱機構により行われる。熱分解槽2を形成する壁の内部には、中空部21が設けられている。中空部21には、オイル22が一定の高さまで充填されている。更に、中空部21には、ヒータ23と温度センサ24が配されている。ヒータ23のジュール熱によりオイル22を加熱し、オイル22の熱を熱分解槽2の内壁面に伝達させることで、この内壁面に接触している処理対象物100及び熱分解槽2の収容空間内の処理対象物100を加熱乾燥させる。従って、熱分解槽2の内壁面は、熱伝導性の高いステンレス、鋳鉄、又はアルミ合金等で構成されている。熱分解槽2の外壁面は、図示しない断熱材で覆われ、熱を熱分解槽2の外部へ放出することを防止している。
【0032】
ヒータ23による加熱は、温度センサ24の検知により出力された温度データより管理されており、熱分解槽2の温度は適正に保たれる。この温度センサ24は、処理対象物100が接し、熱分解槽2に充填されているオイル22の温度を計測している。そのため、温度センサ24は、その熱感知部を熱分解槽2の内壁面の近傍に位置させることが望ましい。このように、温度センサ24は、処理対象物100の温度を間接的に測定しているので、設定温度も処理対象物100自体の厳密な温度値ではなく、各設定温度で目的とする工程を実行する基準値として使用する。
【0033】
尚、温度センサ24の計測位置は、上述した熱分解槽2の加熱部分の他にも、処理対象物100又は熱分解槽2の収容空間の雰囲気中の温度であってもよい。
【0034】
さらに、熱分解槽2内には、撹拌部4が配されている。撹拌部4は、熱分解槽2内の処理対象物100を撹拌する。この撹拌部4は、回転軸41とパドルアーム42とブレード43を有する。
【0035】
回転軸41は、熱分解槽2のU字底部分を円周とした円の中心位置に長手方向に沿って延びるように架設されている。この回転軸41は、熱分解槽2の両端面を貫き、熱分解槽2の外部で回転可能に軸受け支持されている。
【0036】
この回転軸41は、炭化装置1の内部に設置されているモータ5の駆動力が伝達されて軸回転する。回転軸41にはスプロケットが取着され、モータ5の駆動軸と当該スプロケットとの間にはローラーチェーンが架設されることにより、モータ5の駆動力が伝達されて回転軸41が軸回転する。
【0037】
パドルアーム42は、回転軸41の円周表面より半径方向に放射状に延びている。このパドルアーム42は、回転軸41の回転方向に所定の位相差をもって複数配列されており、かつ回転軸41の軸方向に多段に配列されている。例えば、パドルアーム42が同段から放射状に4本延びているものとすると、その位相差は90度である。
【0038】
ブレード43は、パドルアーム42の先端にその延び方向を横断するように取り付けられている。ブレード43が熱分解槽2に衝突しないように、パドルアーム42とブレード43の長さは調節されている。
【0039】
この撹拌部4は、回転によりパドルアーム42で処理対象物100を撹拌し、ブレード43で処理対象物100を熱分解槽2の内周面に押し付けていく。
【0040】
このような炭化装置1において、熱分解槽2内の温度は、炭化装置1に設置されたコントローラ7により制御される。具体的には、コントローラ7は、ヒータ23に対する電力供給をオンオフする。また、コントローラ7は、撹拌部4による撹拌を制御する。具体的には、コントローラ7は、モータ5に対する電力供給をオンオフする。
【0041】
図2は、炭化装置1のコントローラ7の詳細構成を示す図である。
【0042】
コントローラ7は、操作部71、撹拌制御部72、タイマー73、温度維持制御部74、加熱制御部75、及び加熱スケジュール記憶部76を有する。操作部71は、キースイッチや運転スイッチ等の各種の入力が可能なボタンやつまみ等を有するマンマシンインターフェースである。
【0043】
撹拌制御部72は、撹拌部4に間欠撹拌又は連続撹拌させる。図3は、撹拌部4による間欠撹拌を示すグラフである。図3に示すように、撹拌部4は、所定角度又は所定回転数だけ回転して所定時間停止する。撹拌部4は、この所定時間毎の撹拌と停止とを繰り返す。撹拌部4は、撹拌制御部72の制御により熱分解槽2内の処理対象物100を間欠撹拌することができる。
【0044】
この撹拌制御部72は、撹拌部4に間欠撹拌駆動をさせる場合、モータ5に対する電力供給をオンオフする例えば電磁リレー等のスイッチと、所定時間をカウントするカウンタとを有する。撹拌制御部72は、タイマーからパルスの供給を受ける度にカウント数をアップし、カウント数が予め定められた所定数に達すると、モータ5に対する電力供給をオンからオフへ、又はオフからオンにし、カウント数をリセットする。オンからオフに対するカウント数とオフからオンに対するカウント数とは異なっていてもよい。
【0045】
即ち、撹拌制御部72は、所定間隔で所定時間だけスイッチに駆動信号を出力し、スイッチをオンにする。モータ5は、スイッチがオンになっている間は電源から電力供給を受けて駆動する。撹拌時間、即ちモータ5に電力を供給する時間は、例えば、回転軸41が120度回転するのに要する時間とする。これにより、撹拌部4は、120度回転して一定時間停止する間欠撹拌を繰り返す。または、1時間当たり5〜6回程度撹拌と停止とを繰り返すのに要する時間とする。
【0046】
加熱制御部75と温度維持制御部74とは、熱分解槽2内の温度を複数ステップで上昇させ、各ステップで定められた時間だけその温度をホールドさせる。即ち、この加熱制御部75と温度維持制御部74とは、各ステップの設定温度までの加熱とその温度の一定時間の維持とを制御するものである。各ステップの設定温度に到達すると、ヒータ23による加熱を一度停止させ、その後は設定温度を維持するためにヒータ23への電力供給のオンオフを繰り返させるものである。
【0047】
このホールド時間を設ける理由をやや詳しく述べると、次の通りである。ホールド期間を設けない場合には、急激な温度上昇となる場合があり、その場合には、温度の滞留時間が少なく処理対象物全体に熱が伝わりにくくなり、しかも一部では急激な反応が起きるので排気ガス量が急に増えたり、あるいは、その成分が不安定になって、排気ガス処理が困難になる。しかし、ホールド時間を設けると、処理対象物表面から中心まで熱が伝わり、安定した熱伝導が行われて、排気ガスの発生とその成分が安定し、排気ガス処理が容易になる。処理対象物の性状は多種多様なので、ホールド時間の設定は調整出来るようにするとよい。
【0048】
図4は、熱分解槽2による加熱スケジュールの一例を示すグラフである。図4に示すように、熱分解槽2内は、大きく逐次3ステップ、細かくは逐次6ステップの設定温度に上昇する。
【0049】
第1設定温度(本発明の第1の設定温度に相当)については、熱分解槽2内を140℃まで上昇させ、この140℃を30分間維持する。
【0050】
第2設定温度は、炭化工程を実行するための温度制御であり、細かくは逐次4ステップの設定温度を有する。第2設定温度については、第2−1設定温度である165℃まで熱分解槽2内の温度を上昇させ、この165℃を30分間維持する。さらに、第2設定温度では、第2−1設定温度から第2−2設定温度である190℃まで熱分解槽2内の温度を上昇させ、この190℃を30分間維持する。さらに、第2設定温度では、第2−2設定温度から第2−3設定温度である215℃まで熱分解槽2内の温度を上昇させ、この215℃を15分間維持する。さらに、第2設定温度では、第2−3設定温度から第2−4設定温度である240℃まで熱分解槽2内の温度を上昇させ、この240℃を15分間維持する。
【0051】
第3の設定温度については、安定化工程を実行するため、熱分解槽2内を300℃まで上昇させ、この300℃を60分間維持する。
【0052】
この加熱スケジュールのうち、第1設定温度は、処理対象物100を脱水する脱水工程である。この第1設定温度では、処理対象物100を脱水するために必要な限度の温度に熱分解槽2の温度を抑えている。第1設定温度で設定されている温度は、140℃を例示しているが、水分を飛ばすことのできる温度であればよく、処理対象物110℃乃至140℃であればよい。
【0053】
処理対象物100が炭化される第2−1乃至第2−4設定温度は、例えば165℃乃至240℃である。そのため、この炭化加熱のための温度で発生する排気ガスは、処理対象物100が高温下におかれているよりも、その容量が小さくなる。また、この加熱スケジュールでは、処理対象物100を乾燥し炭化するための温度段階を複数のステップ、例えば、4ステップの設定温度に分けている。処理対象物100を徐々に乾燥し炭化するためである。このように、比較的低温から徐々に高温にしていくことで、と、時間は掛かるが、いきなり高温にする場合に比べて単位時間当たりの排気ガスの発生容量を少量化することができるとともに、低温を維持する場合と比べて乾燥時間を削減できる。
【0054】
ここで、各ステップの温度差25℃乃至30℃とすることが好ましい。第1設定温度を120℃に設定すれば、ステップ間の温度差を30℃に、また、140℃であれば温度差を25℃にするとよい。
【0055】
例えば、各設定温度での排気ガス発生重量を同量であると仮定し、第1設定温度を120℃且つガス発生容量をA(=a×(273+120)/273 ;aは一定排気ガス発生重量及び一定圧力下での定数)とする。この場合、各ステップの温度差が30℃なら、第2−1設定温度で発生する排気ガスの容量は、ボイルシャルルの法則に基づき1.110A(=a×(273+120+30)/273)、同じく第2−2設定温度では1.220A、第2−3設定温度では1.330A、第5設定温度では1.440Aとなり、第2−4設定温度までの排気ガスの総発生容量は6.10Aとなる。
【0056】
また、第1設定温度を140℃とし、他の条件が同条件であれば、各ステップの温度差が25℃なら、第1設定温度で発生する排気ガスの容量は1.073A、第2−1設定温度では1.165A、第2−2設定温度では1.256A、第2−3設定温度では1.348A、第2−4設定温度では1.440Aとなり、第2−4設定温度までの排気ガスの総発生容量は6.28Aとなる。
【0057】
一方、加熱処理開始当初より第5設定温度まで加熱させた場合、同重量の処理対象物100から発生する排気ガスの総発生容量は、1.440A×5=7.20Aとなる。
【0058】
第1乃至第2−4設定温度までの加熱及び維持の総時間を2時間とすると、単位時間(/h)当たりの排気ガス発生容量は、この炭化装置1では、単位時間当たり3.05A〜3.14Aとなるが、加熱処理開始当初より第2−4設定温度まで加熱させた場合は、単位時間当たり3.60Aとなる。即ち、この炭化装置1では、単位時間当たり約15%の排気ガス容量の削減を達成している。
【0059】
第3設定温度は、炭化した処理対象物100を安定化させるとともに、処理対象物100の臭気を減少する安定化工程である。安定化とは、処理対象物100を実質的に均一な性状を有する炭化物にすることである。この安定化工程では、炭化した処理対象物100を安定化し、その臭気を減少するため熱分解槽2の温度を高めている。この場合、処理対象物100の重量が徐々に減少し、水分がなくなるため重量も減っていく。
【0060】
このように、この加熱スケジュールは、大きく3設定温度に分かれ、且つそのうちの炭化工程を、更に複数ステップの設定温度、例えば4ステップの設定温度に分けて加熱制御を行っている。即ち、炭化装置1は、いきなり処理対象物100を炭化させようとはせず、まず処理対象物100を脱水し、その後、脱水した処理対象物100を徐々に加熱して多量の排気ガスが発生しないようにしながら、炭化させるものである。
【0061】
炭化処理の前に、脱水に必要な温度110℃乃至145℃で処理対象物100を加熱する脱水工程を設けることで、処理対象物100からは、水分が蒸発して炭化に必要な温度に比べて低温の排気ガスが発生する。低温の排気ガスであるから、その容量は、炭化に必要な温度で処理対象物100を加熱した場合に発生する排気ガスに比べて小さい。
【0062】
この脱水に必要な限度の温度をしばらく維持し、その後に炭化工程のために設定温度を逐次上げることにより、緩やかな速度で排気ガスを発生させ終えるので、排気ガスの処理が容易になる。
【0063】
次に、通常の生ごみ処理機において中間生成物として生成される処理対象物100の一例について、その排気ガス量を検討する。この処理対象物は、容量:500(リットル)、見掛け比重:0.1、含水率:10%、重量:50Kg、炭水化物重量:25Kgとし、処理時間::14h、1時間当たり処理量:1.79Kg/h(2Kg/hとして計算)とする。また、常温から300℃までの最大ガス発生温度は300℃になるので、300℃で1時間のガス発生量を求めるものとする。ここで、当該処理対象物の性状は、ばらつきがあるので、安全率を経験則で1.5とし、その性状は次の通りとする。
【0064】
【表1】

【0065】
また、水が水蒸気になるときの体膨張係数:1.24であるから、重量:5Kgであれば、仮に1時間で水が全て蒸気になったとすれば、その発生ガス量:6.222Nm/hとなる。この処理対象物100の排気ガスの容量は、水蒸気とそれ以外のガスの発生量を加え、1時間あたり計算値で17.897Nm/hとなり、100℃に換算すると、17.897Nm/h×(273+100)/273=24.452m/hとなる。さらに、排気ガス量は、300℃では水分が蒸発しているので、計算値:24.502m/hとなる。
【0066】
このように、加熱スケジュールを大きく脱水工程、炭化工程及び安定化工程の3設定温度に分け、炭化工程の前に脱水工程を加え、炭化工程において複数の設定温度とそれらの維持過程を設けて比較的緩速で炭化することで、排気ガスの発生容量は低く抑えられる。
【0067】
尚、加熱制御部75は、この加熱スケジュールを、加熱スケジュールデータ77に従うことで実現させる。加熱スケジュールデータ77は、不揮発性メモリからなる加熱スケジュール記憶部76に記憶されている。
【0068】
図5は、加熱スケジュールデータ77を示すデータ構造図である。図5に示すように、加熱スケジュールデータ77には、各段階の設定温度を示す値とホールド時間を示す値とが対にして記録されている。
【0069】
加熱制御部75は、加熱スケジュールデータ77に記録された目的の設定温度まで熱分解槽2内の温度を上昇させる。加熱制御部75は、その設定温度と対になって記録されているホールド時間が経過すると、次工程に移り、加熱スケジュールデータ77に記録された次の設定温度まで熱分解槽2内の温度を上昇させる。
【0070】
この加熱制御部75は、例えば、ヒータ23に対する電力供給をオンオフする電磁リレー等のスイッチと、温度センサ24から出力された温度データと加熱スケジュールデータ77に記録された設定温度とを比較する比較回路と、所定時間をカウントするカウンタと、カウントされた時間と加熱スケジュールデータ77に記録されたホールド時間とを比較する比較回路とを有する。
【0071】
このような加熱制御部75は、ヒータ23に対する電力供給をオンにして加熱を開始させ、温度センサ24から出力された温度データの値と加熱スケジュールデータ77の目的段階の設定温度を示す値とが一致すると、ヒータ23に対する電力供給をオフにする。そして、電力供給をオフにしてからカウントを開始し、カウント数が示す時間と加熱スケジュールデータ77の現段階のホールド時間とが一致すると、次段階の温度上昇処理に遷る。
【0072】
ホールド時間中の温度維持は、温度維持制御部74により行われる。温度維持制御部74は、温度センサ24から出力された温度データが示す値が加熱スケジュールデータ77に記録された現工程の設定温度が示す値よりも所定値ほど低いと、ヒータ23に電力を供給させ、これら値が一致又は温度データが示す値が所定値ほど高くなると、ヒータ23の電力供給をオフにする。尚、加熱制御部75による温度上昇処理中は、温度維持制御部74は待機状態とされる。また、ここでいう所定値は、例えば2℃とする。
【0073】
図6は、炭化装置1の間欠撹拌の制御動作を示すフローチャートである。
【0074】
尚、間欠撹拌の前工程において、操作者は、蓋体31を開けて水切りを行った処理対象物100を熱分解槽2内に投入して蓋体31を再び閉じる。そして、操作部71に配されたキースイッチを押下することでコントローラ7を作動させ、操作部71に配された運転スイッチを押下することでコントローラ7に撹拌制御を開始させる。
【0075】
撹拌制御の開始後は、まず、撹拌制御部72は、モータ5を駆動させて撹拌部4に撹拌を開始させる(S01)。同時に、撹拌制御部72は、撹拌開始から所定の撹拌時間をカウントする(S02)。
【0076】
撹拌時間が経過すると、撹拌制御部72は、モータ5の駆動を停止させて撹拌部4の撹拌を停止させる(S03)。同時に、撹拌制御部72は、所定の停止時間をカウントする(S04)。そして、停止時間が経過すると、撹拌制御部72は、加熱制御部75による加熱スケジュールデータ77に従った温度制御が終了していなければ(S05,No)、このS01〜S04の動作を繰り返す。尚、このS05の判断は、S01〜S04の処理と並行して処理されるようにしてもよい。
【0077】
図7及び図8は、炭化装置1の加熱制御の動作を示すフローチャートである。
【0078】
尚、加熱制御の前工程において、操作者は、蓋体31を開けて水切りを行った処理対象物100を熱分解槽2内に投入して蓋体31を再び閉じる。そして、操作部71に配されたキースイッチを押下することでコントローラ7を作動させ、操作部71に配された運転スイッチを押下することでコントローラ7に加熱制御を開始させる。
【0079】
まず、加熱制御が開始されると、加熱制御部75は、X=1に初期化し(S10)、加熱スケジュール記憶部76から第X設定温度を示す値を読み出す(S11)。そして、ヒータ23に電力を供給させて熱分解槽2内の加熱を開始させる(S12)。
【0080】
熱分解槽2内の加熱を開始させると、加熱制御部75は、温度センサ24から出力されてくる温度データが示す値を取得し(S13)、その値と第X設定温度の値とを比較する(S14)。温度データが示す値が設定温度よりも低ければ(S14,No)、熱分解槽2内の加熱を維持する。
【0081】
一方、温度データが示す値が第X設定温度の値と一致するか当該設定温度を超えていれば(S14,Yes)、加熱制御部75は、ヒータ23に対する電力供給を遮断することで熱分解槽2内の加熱を終了する(S15)。
【0082】
同時に、加熱制御部75は、第X設定温度と対のホールド時間を示す値を読み出し(S16)、タイマー73からタイミングパルスの供給を受けて時間をカウントする(S17)。そして、加熱制御部75は、一定タイミング毎に時間のカウント数とホールド時間を示す値とを比較する(S18)。S18においては、カウント数がホールド時間を示す値に到達するまで(S18,Yes)、S17〜S18を繰り返す(S18,No)。
【0083】
一方、ホールド時間中において、温度維持制御部74は、温度センサ24から出力されてくる温度データが示す値を取得し(S19)、第X設定温度から温度データが示す値を差し引いた差分をとる(S20)。差分が所定温度以上であれば(S21,Yes)、温度維持制御部74は、ヒータ23に対して電力を供給することで熱分解槽2内の加熱を行わせる(S22)。
【0084】
そして、温度維持制御部74は、温度センサ24から出力されてくる温度データが示す値を取得し(S23)、温度データが示す値から設定温度を差し引いた差分が所定温度に達していれば(S24,Yes)、温度維持制御部74は、ヒータ23に対する電力供給を遮断することで熱分解槽2内の温度維持のための加熱を終了させる(S25)。
【0085】
このS19〜S25の処理は、加熱制御部75によるホールド時間の到達検知まで(S26,Yes)、繰り返す(S26,No)。
【0086】
カウント数がホールド時間を示す値に到達すると(S18,Yes)、加熱制御部75は、Xが最終次を示す値でなければ(S27,No)、X=X+1とし(S28)、加熱制御部75と温度維持制御部74とはS11以降を繰り返す。一方、Xが最終段を示す値であれば(S27,Yes)、熱分解槽2内の温度制御を終了する。
【0087】
以上のように、本実施形態に係る炭化装置1は、逐次設定温度が高くなる3設定温度で熱分解槽を加熱させ、処理対象物100を脱水させるための第1の設定温度と、脱水させた処理対象物100を乾燥し炭化させるための第2の設定温度と、炭化させた処理対象物100の安定化とその臭気を減少するための第3の設定温度とを所定時間維持させるように温度制御した。即ち、本発明に係る炭化装置においては、処理対象物100を脱水させるための第1の設定温度まで加熱して当該温度を所定時間維持する脱水工程と、脱水させた処理対象物100を乾燥し炭化させるための第2の設定温度まで加熱して当該温度を所定時間維持する炭化工程と、前記炭化させた処理対象物100の安定化及びその臭気を減少するための第3の設定温度まで加熱して当該温度を所定時間維持する安定化工程とを経る。
【0088】
これにより、第2及び第3の設定温度よりも設定温度が低い、第1の設定温度で処理対象物を脱水させ、第2の設定温度で処理対象物100を徐々に乾燥させながら炭化させるので、単位時間当たりの排気ガスの総発生容量を低く抑えることができる。従って、排気ガス処理部8の排気ガス処理能力に比べて比較的大量の処理対象物100の処理を行うことができ、処理対象物の処理能力が向上する。
【符号の説明】
【0089】
1 炭化装置
2 熱分解槽
3 投入口
4 撹拌部
5 モータ
6 排気口
7 コントローラ
8 排気ガス処理部
21 中空部
22 オイル
23 ヒータ
24 温度センサ
31 蓋体
41 回転軸
42 パドルアーム
43 ブレード
71 操作部
72 撹拌制御部
73 タイマー
74 温度維持制御部
75 加熱制御部
76 加熱スケジュール記憶部
77 加熱スケジュールデータ
81 集塵機
82 消臭機
83 冷却ファン
84 活性炭吸着部
100 処理対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物を収容する熱分解槽と、
前記熱分解槽を加熱するヒータと、
前記ヒータによる加熱を制御する制御手段と、
前記処理対象物から発生した水分を主成分とする排気ガスを処理する排ガス処理手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記処理対象物を脱水させる第1の設定温度と、
前記第1の設定温度よりも高く、前記処理対象物を乾燥し炭化させる第2の設定温度と、
前記第2の設定温度よりも高く、前記炭化させた処理対象物の安定化とその臭気を減少する第3の設定温度と、
に逐次設定温度を高くして、前記熱分解槽を加熱させること、
を特徴とする炭化装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記第1の設定温度、前記第2の設定温度、及び前記第3の設定温度に到達すると、それぞれ前記ヒータによる加熱を一度停止させること、
を特徴とする請求項1記載の炭化装置。
【請求項3】
前記第2の設定温度は、165℃乃至240℃であること、
を特徴とする請求項1又は2記載の炭化装置。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記第2の設定温度を、逐次温度が高くなる複数の設定温度に更に分けて各設定温度を所定時間維持させること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の炭化装置。
【請求項5】
前記制御手段は、
第3の設定温度を300℃に設定して、その温度を所定時間維持させること、
を特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の炭化装置。
【請求項6】
処理対象物を収容する熱分解槽をヒータで加熱して、前記処理対象物から発生した排気ガスを処理する炭化装置の温度制御方法であって、
前記処理対象物を脱水させる第1の設定温度まで加熱して当該温度を所定時間維持する脱水工程と、
前記脱水させた処理対象物を乾燥し炭化させる第2の設定温度まで加熱して当該温度を所定時間維持する炭化工程と、
前記炭化させた処理対象物の安定化と処理対象物の臭気を減少する第3の設定温度まで加熱して当該温度を所定時間維持する安定化工程と、
を実行するように前記ヒータによる前記熱分解槽の加熱を制御すること、
を特徴とする炭化装置の温度制御方法。
【請求項7】
前記第1の設定温度、前記第2の設定温度、及び前記第3の設定温度に到達すると、それぞれ前記ヒータによる加熱を一度停止させること、
を特徴とする請求項6記載の炭化装置の温度制御方法。
【請求項8】
前記炭化工程では、前記熱分解槽を165℃乃至240℃に徐々に加熱して所定時間維持すること、
を特徴とする請求項6又は7記載の炭化装置の温度制御方法。
【請求項9】
前記炭化工程では、逐次温度が高くなる複数の設定温度に更に分けて各設定温度を所定時間維持させること、
を特徴とする請求項6乃至8の何れかに記載の炭化装置の温度制御方法。
【請求項10】
前記安定化工程では、温度を300℃に温度を設定し、その温度を所定時間維持させること、
を特徴とする請求項6乃至9の何れかに記載の炭化装置の温度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−248432(P2010−248432A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101773(P2009−101773)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(599168693)千葉産業クリーン株式会社 (1)
【出願人】(508081628)株式会社シンキングエコ (1)
【Fターム(参考)】