説明

炭素繊維炭素複合成形体及び炭素繊維強化炭素複合体材料並びにその製造方法

【課題】X軸及びY軸の面方向のあらゆる方向に優れた熱伝導率を示す炭素繊維強化炭素複合材料を得る。
【解決手段】ピッチ系炭素繊維をX軸及びY軸の面方向にランダムに分散させたシート状分散体を積層した炭素繊維積層体の炭素繊維の表面上に熱分解炭素を堆積して該炭素繊維の周囲を被覆することにより、前記炭素繊維積層体内に熱分解炭素が充填されていることを特徴とする炭素繊維炭素複合成形体及びこれを用いて得られる炭素繊維強化炭素複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維炭素複合成形体及び炭素繊維強化炭素複合体材料並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンや化合物半導体を用いた電子機器分野において、今日の技術進歩は著しく、使用する周波数や電力変換容量は、さらに高くなると予想される。それに伴い、電子機器から発生する熱量も増加の一途を辿っており、より多くの熱を、より速やかに、設計に従って放熱させることができる、いわゆる放熱材料が必要不可欠となってきている。
【0003】
現在、放熱材料として用いられているものは、銅モリブデン、銅タングステン、窒化アルミニウムなどである。これらの放熱材料の熱伝導率は、250W/mKよりも低く、上述の半導体技術の技術進歩により、銅や銀などの400W/mKよりもさらに高い熱伝導率を有する材料が要望されている。
【0004】
上述の半導体装置は、半田や銀ロウなどによって放熱材料と接合される。半田や銀ロウは、熱伝導率が数十W/mKと低く、また界面での接続による熱抵抗も生じるため、接合によって実質的な熱伝導率は、元の値よりも数割減少する。従って、放熱材料に要求される熱伝導率は、界面での熱伝導率損失を考慮して、450W/mK以上、好ましくは500W/mK以上であることが要望されている。
【0005】
熱伝導率が高い材料として、ダイアモンド成分から構成されているものや、グラファイトシートなどが知られている。しかしながら、これらの材料は、製造可能な厚みが数mm程度であり、放熱設計の段階で制約を生じてしまう。また、ダイアモンド成分は高価であるという問題がある。
【0006】
熱伝導率が高い他の材料として、炭素繊維強化炭素複合材料が知られている。炭素繊維強化炭素複合材料としては、炭素繊維と樹脂などの母材前駆体から作製されたプリプレグを用い、プリプレグを熱圧成形した後に黒鉛化処理するものや、プリプレグの母材前駆体を炭素化した後に、プリプレグ内部に熱分解炭素を含有させ、その後黒鉛化処理して形成させたものが知られている(特許文献1及び2など)。
【0007】
上記の方法により形成される炭素繊維強化炭素複合材料の熱伝導率は、炭素繊維を引き揃える形態、いわゆる炭素繊維成形体の構造によって極めて大きく異なる。その理由は、炭素繊維の引き揃え方向、密度、ウェーブの有無に関係して、熱分解炭素の含有の成り立ちが極めて大きく左右されるためである。例えば、熱分解炭素が、メタン、エタン、エチレン、プロパンなどの有機ガスの熱分解によって、これらの炭素成分と一部の水素などが炭素繊維の表面に付着することを応用していることに起因する。成形体の構造と密度によってガスの衝突回数は大きく影響を受け、成形体表面近傍でガス分解の大部分が完了するために成形体内部にまでガスが行き届かないことがある。また、行き届く場合でも、炭素繊維の種類によって形成される熱分解炭素の結晶形態が異なり、十分に高い熱伝導率とならないことがある。
【0008】
炭素繊維を引き揃える具体的な形態としては、炭素繊維を、(1)一方向に引き揃えた形態、(2)二方向に引き揃えた形態(編み込んだ平織りの形態や朱子織りの形態などを含む)、(3)X軸、Y軸、及びZ軸の方向にそれぞれ振り分けて編み込んだフェルトの形態などが挙げられる。
【0009】
上記の(1)の場合、炭素繊維を引き揃えた方向には700W/mK以上の熱伝導率が得られる。また、(3)の形態では、300〜400W/mKの熱伝導率が、X軸、Y軸、及びZ軸の三方向で得られる。
【0010】
炭素繊維強化炭素複合材料は、上述のように、放熱材料として用いられる。半導体から生じた熱を放熱する放熱材料は、一般に、台座の上に設けられ、その上に半導体が配置されている。半導体で生じた熱は、放熱材料を介して、台座に伝達される。半導体の発熱により生じた熱を、効率良く台座へ熱伝達するためには、熱が放熱材料中を放射状に広がりながら伝わることが重要である。
【0011】
上記(1)のように一方向に炭素繊維を引き揃えた形態では、半導体に対して炭素繊維が垂直になるように放熱材料を設置すると、その方向は700W/mK以上の熱伝導率を有する方向であるため、下方への熱伝達は速やかになる。しかしながら、台座への広がりが期待できず、半導体で発生した熱を台座に速やかに伝えることが難しくなる。
【0012】
また、半導体に対して、炭素繊維の方向が平行になるように設置した場合には、炭素繊維の軸方向に対して垂直方向の熱伝導率が100W/mK以下であるため、半導体からの熱を伝えることが難しくなる。
【0013】
また、上記(3)の形態のものでは、X軸とY軸のそれぞれの方向の熱伝導率の平均値が400W/mKを越えるものが報告されておらず、絶対的な熱伝導率が不足している。
【0014】
上記(2)の二方向に炭素繊維を引き揃えた形態や、編み込んだ平織りや朱子織りの形態のものにおいては、二方向に高い熱伝導率が得られることを前提に考えれば、半導体からの熱を垂直方向と横方向に優先して伝達させることが可能であり、放射状に広がりながら伝えることが可能であると考えられる。また、三方向の内の残りの一方向は、熱が伝わりにくいが、半導体においては、その周辺に熱に脆弱な機器もあることから、意識的に放熱材料の熱を伝えにくい方向をそのような機器の方向に向けることによって、機器を保護することも可能である。
【0015】
しかしながら、上記(2)の二方向に炭素繊維を引き揃えた形態の炭素繊維強化炭素複合材料においては、十分に高い熱伝導率が得られておらず、またX軸及びY軸の面方向において、熱伝導率に異方性があるという問題があった。例えば、X軸とY軸の間の中間方向では、X軸方向及びY軸方向に比べ、熱伝導率が低くなるという問題があった。
【特許文献1】特開2004−23088号公報
【特許文献2】特開2004−91256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、X軸及びY軸の面方向においてどの方向にも優れた熱伝導率を得ることができる炭素繊維炭素複合成形体及び炭素繊維強化炭素複合材料並びにその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の炭素繊維炭素複合成形体は、炭素繊維をX軸及びY軸の面方向にランダムに分散させた炭素繊維積層体の炭素繊維の表面上に熱分解炭素を堆積して該炭素繊維の周囲を被覆することにより、炭素繊維積層体内に熱分解炭素が充填されていることを特徴としている。
【0018】
本発明においては、熱分解炭素を充填する炭素繊維積層体として、炭素繊維をX軸及びY軸の面方向にランダムに分散させたものを用いている。面方向においてランダムな方向に炭素繊維が存在しているので、X軸及びY軸の面方向における熱伝導率の異方性が小さく、X軸及びY軸の面方向においてどの方向にも優れた熱伝導率を得ることができる。
【0019】
本発明における炭素繊維積層体は、炭素繊維をX軸及びY軸の面方向にランダムに分散させたシート状分散体を積層したもの、または後述するマット状分散体であることが好ましい。また、炭素繊維積層体に使用する炭素繊維としてはピッチ系炭素繊維を用いることが好ましく、ピッチ系炭素繊維を用いることにより、炭素繊維の表面上に、炭素繊維の周面に沿った、同心円状の緻密なオニオン構造を有する熱分解炭素の被覆層を形成することができる。この同心円状の被覆層を熱処理して黒鉛化すると、炭素繊維の長さ方向に沿って黒鉛の六員環構造を生成させることができ、炭素繊維の長さ方向に黒鉛を結晶成長させることができる。このため、炭素繊維の長さ方向に高い熱伝導率を得ることができる。
【0020】
また、本発明における炭素繊維積層体は、空隙率の高い炭素繊維積層体であるので、炭素繊維の表面上に多量の熱分解炭素を堆積させることができる。このため、多量の熱分解炭素を炭素繊維積層体内に充填することができ、黒鉛化しやすい熱分解炭素を多量に含有させることができるので、高い熱伝導率を得ることができる。例えば、体積比で、炭素繊維の5〜10倍の量の熱分解炭素を炭素繊維積層体中に充填させることができる。
【0021】
本発明の炭素繊維積層体に用いる炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維が好ましく、さらに短繊維であることが好ましい。例えば、10〜150mmの長さであることが好ましく、さらに好ましくは30〜100mmである。このような短繊維は、市販の炭素繊維を切断して製造することができる、また、平均直径は、8〜12μmの範囲内のものであることが好ましい。また、密度は、1.50〜2.00Mg/mであることが好ましい。
【0022】
本発明における熱分解炭素は、従来公知の方法で堆積させることができる。例えば、炭素数が1〜8、好ましくは炭素数3の炭化水素ガス、もしくは炭化水素とハロゲンの化合物などの炭化水素化合物を熱分解させて炭素繊維表面に堆積させることができる。炭化水素ガス及び炭化水素化合物のガスは、水素ガスなどで希釈して用いることが好ましい。この場合、炭化水素濃度は、5〜15体積%であることが好ましい。また処理温度は1300℃以下、圧力は100Torr以下、好ましくは50Torr以下である。処理温度が1300℃を越えると、熱分解炭素が気相中で反応するため、炭素繊維積層体の深層部に熱分解炭素を導入することができない場合がある。また、100Torrよりも圧力が高い場合には、原料ガスの平均自由工程の距離が大きくなるため、炭素繊維積層体へのガスの拡散が悪くなり、炭素繊維積層体の深層部に熱分解炭素を導入することができない場合がある。
【0023】
熱分解炭素を堆積させる方法として、従来の等温法、温度勾配法、圧力勾配法、パルス法などを採用することができる。熱分解炭素を堆積させる際の方法及び条件は重要ではなく、熱分解炭素を炭素繊維積層体の深層部に充填させることができる方法であればいずれの方法を用いてもよい。
【0024】
本発明における炭素繊維積層体は、上述のように、炭素繊維をX軸及びY軸の面方向にランダムに分散させたものである。このような炭素繊維積層体は、例えば、炭素繊維をX軸及びY軸の面方向にランダムに分散させた分散体に樹脂を含浸させてプリプレグとし、該プリプレグを複数枚積層して加圧成形した後、熱処理して製造することができる。また、炭素繊維に樹脂を塗布または含浸、又は、炭素繊維を樹脂中に浸漬させて炭素繊維表面に樹脂を付着させたものを、X軸及びY軸の面方向にランダムに分散させて分散体とし、この分散体を複数枚積層して加圧成形した後、熱処理して製造することができる。このとき、炭素繊維強化炭素複合成形体の熱伝導率を高めるために、炭素繊維としてピッチ系炭素繊維を使用することが好ましい。
【0025】
炭素繊維積層体の作製方法としては、例えば、炭素繊維の分散体100質量部に対して、20〜70質量部の樹脂を塗布し乾燥させる。20〜50質量部が更に好ましい。プリプレグとした場合、厚みは0.1〜2.0mmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜1.0mmの範囲である。このようなプリプレグを複数枚積層してこれを加圧成形する。積層するプリプレグとしては、10〜100枚であるのが好ましい。加圧成形は、ホットプレスで行うことが好ましく、圧力は0.01MPa以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.3MPa以上である。加圧成形する際の温度は、100〜300℃の範囲であることが好ましい。100〜200℃が更に好ましい。
【0026】
また、炭素繊維積層体の他の作製方法としては、短い炭素繊維を用いてカーディングを行い、バインダーでマット化することで、マット状分散体を得ることもできる。バインダーとしては、有機質バインダーの使用が好適である。ただし、一般的な成形断熱材のように、炭素繊維の密度差が生じているものやニードルパンチ処理により三次元に炭素繊維が配向しているものは好ましくなく、炭素繊維がX軸及びY軸の面方向にランダムに分散させた形態のもので、出来るだけ密度差の小さなものを使用することが好ましい。つまり、短い炭素繊維にカーディングを行いバインダーでマット化したマット状分散体を炭素繊維積層体とすることができる。このようなマット状分散体は、厚みのある分散体であるので、そのまま炭素繊維積層体として用いることができる。このように、炭素繊維をX軸及びY軸の面方向にランダムに分散させた形態のものを使用することが本発明の要点である。
【0027】
炭素繊維積層体の密度は、0.1〜0.4Mg/mの範囲であることが好ましい。炭素繊維積層体の密度が低すぎると、その後の工程において破損を伴うことが多く、形状を維持することができず、炭素繊維積層体の密度が高すぎると、熱分解炭素を炭素繊維積層体の内部まで堆積することが難しい。
【0028】
図1は、本発明における炭素繊維積層体の一例を示す模式図である。図1に示すように、ピッチ系炭素繊維をX軸及びY軸の面方向にランダムに分散させたシート状分散体1を積層させることにより、炭素繊維積層体2が形成される。
【0029】
上記の炭素繊維積層体、または、炭素繊維積層成型体に、熱分解炭素を充填した後の炭素繊維炭素複合成形体の密度は、1.50〜1.80Mg/mであることが好ましい。炭素繊維炭素複合成形体の密度が低すぎると、得られる熱伝導率が低くなり、密度が高すぎると、炭素繊維炭素複合成形体の内部と外周部における密度差が大きくなってしまう。
【0030】
熱処理された炭素繊維の結晶はオニオン構造を形成し、炭素繊維に堆積した熱分解炭素の厚みは、炭素繊維の断面直径よりも大きいことが好ましい。炭素繊維の断面直径よりも小さいと炭素繊維強化炭素複合成形体の密度が低くなり、得られる熱伝導率が低くなる。
【0031】
本発明においては、上記のようにして熱分解炭素を充填させた後、さらにピッチを含浸させることが好ましい。ピッチを含浸させることにより、炭素繊維炭素複合成形体に機械的強度を付与することができる。このようにして含浸されたピッチは、炭素繊維炭素複合成形体においてバインダーとして働き、比較的脆い熱分解炭素の被覆層を被覆し、炭素繊維炭素複合成形体の空隙部分を埋めることができる。ピッチを含浸させた後の炭素繊維炭素複合成形体の密度は、1.60〜2.00Mg/mであることが好ましい。密度が低すぎると熱伝導率が低くなり、この範囲よりも密度を高くする場合には特別な設備が必要となり現実的ではない。
【0032】
本発明の炭素繊維強化炭素複合材料は、上記本発明の炭素繊維炭素複合成形体にピッチを含浸させた後、熱処理して、炭素繊維炭素複合成形体の黒鉛結晶を成長させたことを特徴としている。
【0033】
本発明の炭素繊維強化炭素複合材料は、上記本発明のピッチを含浸させた後の炭素繊維炭素複合成形体の黒鉛結晶を成長させたものであるので、炭素繊維の方向に沿って良好な状態で黒鉛が結晶成長しており、優れた熱伝導率を得ることができる。
【0034】
また、炭素繊維がX軸及びY軸の面方向にランダムに分散された炭素繊維炭素複合成形体を用いているので、X軸及びY軸の面方向におけるあらゆる方向において高い熱伝導率を得ることができる。
【0035】
炭素繊維炭素複合成形体を熱処理して黒鉛結晶を成長させる際の熱処理温度は、2800℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは2800〜3100℃の範囲である。熱処理温度が低すぎると黒鉛結晶の発達が不十分で得られる熱伝導率が低くなる。
【0036】
黒鉛結晶を成長させた後の炭素繊維強化炭素複合材料において、X線回折による黒鉛結晶の112面の厚みは、6nm以上であることが好ましい。8nm以上であるとより好ましい。
【0037】
X線回折による黒鉛結晶の112面の厚みを6nm以上とすることにより、高い熱伝導率を得ることができる。
【0038】
本発明の炭素繊維強化炭素複合材料は、例えば、X軸及びY軸の面方向における熱伝導率として450W/mK以上の値を得ることができる。また、Z軸方向の熱伝導率として、例えば、50〜200W/mKの値を得ることができる。
【0039】
本発明の炭素繊維強化炭素複合材料の製造方法は、上記本発明の炭素繊維強化炭素複合材料を製造することができる方法であり、ピッチ系炭素繊維を用いて、密度が0.1〜0.4Mg/mである上記炭素繊維積層体を調製する工程と、炭素繊維積層体の炭素繊維の表面上に熱分解炭素を堆積させて、密度が1.50〜1.80Mg/mの炭素繊維炭素複合成形体を調製する工程と、炭素繊維炭素複合成形体に、密度が1.60〜2.00Mg/mとなるまでピッチを含浸させる工程と、ピッチを含浸させた炭素繊維炭素複合成形体を熱処理してX線回折による黒鉛結晶の112面の厚みが6nm以上となるまで熱処理する工程とを備えることを特徴としている。
【0040】
本発明によれば、上記本発明の炭素繊維炭素複合成形体を用いて、上記本発明の炭素繊維強化炭素複合材料を製造しているので、X軸及びY軸の面方向においてどの方向にも優れた熱伝導率を有する炭素繊維強化炭素複合材料とすることができる。
【0041】
本発明の放熱材料は、上記本発明の炭素繊維強化炭素複合材料または上記本発明の製造方法で製造された炭素繊維強化炭素複合材料を用いたことを特徴としている。
【0042】
本発明の放熱材料は、上記本発明の炭素繊維強化炭素複合材料または上記本発明の製造方法で製造された炭素繊維強化炭素複合材料を用いているので、X軸及びY軸の面方向のあらゆる方向において優れた熱伝導率を示す。従って、半導体装置を冷却するための放熱材料として好適に用いることができる。
【0043】
また、本発明の放熱材料は、上記本発明の炭素繊維強化炭素複合材料に金属を溶融して含浸させたものであってもよい。
【0044】
金属を溶融して含浸させることにより、炭素繊維強化炭素複合材料における空隙をさらに減少させることができ、電子部品などの端子に対する金属接合性を高めることができる。このような金属としては、例えば、銅、アルミニウム合金などが挙げられる。
【0045】
本発明における金属含浸は、従来公知の方法で含浸させることができる。例えば、無酸素銅を不活性ガス雰囲気中で溶解し、その中に炭素繊維強化炭素複合材料を漬け込み、1〜10MPaで加圧することによって得られる。
【0046】
また、本発明の放熱材料は、上記本発明の炭素繊維強化炭素複合材料、または炭素繊維強化炭素複合材料に金属を溶融して含浸させたものの表面を、鉄、銅、アルミニウム、または鉄合金、銅合金、アルミニウム合金で被覆させてものであってもよい。
【0047】
本発明における鉄、銅、アルミニウム、または鉄合金、銅合金、アルミニウム合金による被覆は、従来公知の方法で被覆させることができる。被覆させる方法として、従来の無電解、または、電気めっき法などを採用することができる。
【0048】
めっき法には、例えば、イオン化した金属を含んだ水溶液中で電気を流して、材料の表面に金属を電気化学的酸化還元反応により析出させる電気めっきや、析出させる金属を含む化合物と還元剤を溶液に溶かし、材料を溶液に漬けて材料表面で金属を析出させる無電解めっき法、異種金属のイオン化傾向の差(電位差)を利用する浸漬めっき法などがある。
【0049】
鉄、銅、アルミニウム、または鉄合金、銅合金、アルミニウム合金による被覆の方法及び条件は、放熱材料としての使用環境を満足することができる方法であればいずれの方法を用いてもよい。
【発明の効果】
【0050】
本発明の炭素繊維炭素複合成形体を用いて、本発明の炭素繊維強化炭素複合材料を形成することにより、X軸及びY軸の面方向のあらゆる方向において優れた熱伝導率を示す炭素繊維強化炭素複合材料とすることができる。
【0051】
本発明の製造方法によれば、X軸及びY軸の面方向のあらゆる方向において優れた熱伝導率を示す炭素繊維強化炭素複合材料を製造することができる。
【0052】
本発明の放熱材料は、本発明の炭素繊維強化炭素複合材料を用いたものであるので、X軸及びY軸の面方向のあらゆる方向において優れた熱伝導率を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
ピッチ系炭素繊維(12Kのフィラメントヤーン、平均直径9μm、密度1.93Mg/m)を30〜100mm程度となるように切断し、アセトン等を用いてサイジング剤を除去した。この炭素繊維を、ランダムな方向に分散させ、炭素繊維100質量部に対して30質量部のフェノール樹脂を用いて炭素繊維を固定し、X軸及びY軸の面方向にランダムに炭素繊維が分散したシート状のプリプレグ(厚み約0.5mm)を作製した。このプリプレグを乾燥機中で約100℃にて予備乾燥した。乾燥後のプリプレグを約100枚重ねて、ホットプレスを用いて圧力0.3MPa、温度150℃の条件で加圧し、成形した。次に、約2000℃で熱処理することにより、50mm×50mm×50mmの大きさの炭素繊維積層体を得た。この炭素繊維積層体の密度は、0.15Mg/mであった。
【0055】
上記の炭素繊維積層体に対して、易黒鉛化性のラフコラムナー組織を有する熱分解炭素を含有させた。炭素繊維積層体を構成する炭素繊維の表面上に熱分解炭素を堆積させて、該炭素繊維の周囲を被覆することにより、炭素繊維積層体内に熱分解炭素を充填させた。熱分解炭素を充填した後の炭素繊維炭素複合成形体の密度は、1.65Mg/mであった。
【0056】
次に、以上のようにして熱分解炭素を充填した炭素繊維炭素複合成形体に、易黒鉛化性の熱ピッチを含浸させ、この含浸と熱処理を5回繰り返し、ピッチを含浸させた。ピッチ含浸後の密度は、1.85Mg/mであった。
【0057】
上記のようにしてピッチを含浸させた後、約3000℃で熱処理し、炭素繊維炭素複合成形体を黒鉛化させた。
【0058】
表1に、炭素繊維積層体の密度及び体積率、熱分解炭素充填後の密度及び体積率、ピッチ含浸後の密度及び体積率、黒鉛化熱処理後の密度、黒鉛結晶のd(112)面の結晶厚み、黒鉛化熱処理後の炭素繊維強化炭素複合材料の熱伝導率を示す。なお、密度は各工程後の密度であり、体積率は体積%である。各工程後の密度、面間隔d(112)面、及び熱伝導率は、以下のようにして求めた。
【0059】
〔密度の測定〕
炭素繊維強化炭素複合材料から10mm×10mm×60mmの形状の試料を切り出し、表面をRz12μmよりも平滑に仕上げた状態で、秤を用いて質量を測定し、マイクロメーターを用いて長さを求めた。三方向の長さを乗して体積を求めた。密度は、質量を体積で除して求めた。
【0060】
〔熱伝導率の測定〕
JIS(日本工業規格)R1611−1997に準じ、熱伝導率=熱拡散率×比熱容量×かさ密度の式から熱伝導率を求めた。直径10mm×3mmの試料を作成し、ULVAC社製のレーザーフラッシュ法熱定数測定装置(TC−7000UVH)を用いて熱拡散率を測定した。
【0061】
なお、比熱容量は、「新・炭素材料入門」(炭素材料学会編、第45頁、表−1、黒鉛の熱力学的諸関数)から求めた。
【0062】
表1に示す熱伝導率の「X−Y面方向」は、X軸及びY軸の面方向のあらゆる方向から測定したときの最小の熱伝導率〜最大の熱伝導率を示している。また、「Z軸方向」は、Z軸方向の熱伝導率を示している。
【0063】
〔結晶構造(面間隔d(112))の測定〕
X線回折装置を用い、Cu−Kα線をNiフィルタで単色化し、高純度シリコンを標準物質として学振法により測定した。黒鉛結晶のd(112)面の測定は、炭素繊維強化炭素複合材料を粉末化し、この粉末を用いて測定した。
【0064】
(実施例2)
実施例1と同様にして、炭素繊維積層体に熱分解炭素を充填させ、次に易黒鉛化性のキノリン不溶分が少ないピッチの浸漬と熱処理を繰り返し、その後黒鉛化のための熱処理を行った。
【0065】
炭素繊維積層体の密度は0.25Mg/mであり、熱分解炭素充填後の密度は1.75Mg/mであり、ピッチの浸漬と熱処理後の密度は1.82Mg/mであった。また、黒鉛化処理後の黒鉛結晶のd(112)面の結晶厚みは8nmであった。
【0066】
実施例1と同様にして測定し、測定結果を表1に示した。
【0067】
(実施例3)
実施例1と同様にして、炭素繊維積層体に熱分解炭素を含有させ、その後ピッチの浸漬と熱処理を繰り返した後、黒鉛化の熱処理を行って、炭素繊維強化炭素複合材料を得た。
【0068】
炭素繊維積層体の密度は0.20Mg/mであり、熱分解炭素を含有させた後の密度は1.75Mg/mであり、ピッチを含浸させた後の密度は1.95Mg/mであり、黒鉛結晶のd(112)面の結晶厚みは8nmであった。
【0069】
実施例1と同様にして測定し、測定結果を表1に示した。
【0070】
(実施例4)
実施例1と同様にして炭素繊維積層体に熱分解炭素を含有させ、その後ピッチの浸漬と熱処理を繰り返し、その後黒鉛化のための熱処理を行った。炭素繊維積層体の密度は0.25Mg/mであり、熱分解炭素含有させた後の密度は1.65Mg/mであり、ピッチの浸漬と熱処理を行った後の密度は1.85Mg/mであり、黒鉛化熱処理後における黒鉛結晶のd(112)面の結晶厚みは8nmであった。
【0071】
実施例1と同様にして測定し、測定結果を表1に示した。
【0072】
(実施例5)
密度0.20Mg/mの炭素繊維積層体に熱分解炭素を充填させ、密度を1.50Mg/mとした。次いで、コールタールピッチの浸漬と熱処理を繰り返し、浸漬後の密度を1.85Mg/mとした。その後、黒鉛化のための熱処理を行った。黒鉛化熱処理後における黒鉛結晶のd(112)面の結晶厚みは8nmであった。得られた炭素繊維強化炭素複合成形体のX−Y平面における熱伝導率は、400〜450W/(m・K)、Z軸方向では140W/(m・K)であった。
【0073】
実施例1と同様にして測定した測定結果を表1に示した。
【0074】
(実施例6)
密度0.20Mg/mの炭素繊維積層体に熱分解炭素を充填させ、密度を1.65Mg/mとした。次いで、コールタールピッチの浸漬と熱処理を繰り返し、浸漬後の密度を1.85Mg/mとした。その後、黒鉛化のための熱処理を行った。黒鉛化熱処理後における黒鉛結晶のd(112)面の結晶厚みは6nmであった。得られた炭素繊維強化炭素複合成形体のX−Y平面における熱伝導率は、400〜450W/(m・K)、Z軸方向では100W/(m・K)であった。
【0075】
実施例1と同様にして測定し、測定結果を表1に示した。
【0076】
(実施例7)
実施例1のピッチ系炭素繊維であって、長さが30〜100mmである短い炭素繊維を用いてカーディングを行い、有機質バインダーでマット化することで、X軸及びY軸の面方向に炭素繊維がランダムに分散した、50mm×50mm×50mmのマット状分散体(密度は0.15Mg/m)を得た。易黒鉛化性のラフコラムナー組織を有する熱分解炭素を充填させ、密度を1.65Mg/mとした。次いで、コールタールピッチの浸漬と熱処理を繰り返し、浸漬後の密度を1.85Mg/mとした。その後、黒鉛化のための熱処理を行った。黒鉛化熱処理後における黒鉛結晶のd(112)面の結晶厚みは8nmであった。得られた炭素繊維強化炭素複合成形体のX−Y平面における熱伝導率は、450〜550W/(m・K)、Z軸方向では140W/(m・K)であった。
【0077】
実施例1と同様にして測定し、測定結果を表1に示した。
【0078】
また、上記実施例1〜7の炭素繊維強化炭素複合材料の表面に、それぞれ、鉄、銅、アルミニウム、鉄合金、銅合金、アルミニウム合金を、メッキ法により被覆し金属被覆炭素繊維強化炭素複合材料を得た。得られた金属被覆炭素繊維強化炭素複合材料は、放熱性に優れており、放熱部材として適したものであった。
【0079】
(比較例1)
密度0.05Mg/mの炭素繊維積層体の場合には、その後の工程において破損を伴うことが多く、形状を維持することができなかった。
【0080】
(比較例2)
密度0.5Mg/mの炭素繊維積層体の場合には、熱分解炭素を充填しても、密度1.00Mg/mと含有量が少なく、その後、約3000℃で熱処理を行ったが、得られた炭素繊維強化炭素複合成形体のX−Y平面における熱伝導率は、100W/(m・K)、Z軸方向では10W/(m・K)であった。
【0081】
【表1】

【0082】
表1に示すように、本発明に従い、ピッチ系炭素繊維で作製した炭素繊維積層体を用いた本発明の炭素繊維強化複合材料は、X軸及びY軸の面方向において高い熱伝導率が得られている。
【0083】
〔走査型電子顕微鏡(SEM)観察〕
図3は、本発明に従う実施例2の炭素繊維強化複合材料における断面を示すSEM写真である。図3に示すように、本発明に従う実施例においては、炭素繊維の周囲に熱分解炭素からなる被覆層が形成されている。この熱分解炭素からなる被覆層は、同心円状のオニオン構造を有している。
【0084】
以上のようにして作製した本発明の炭素繊維強化炭素複合材料は、図2に示すように、半導体装置を冷却させるための放熱材料として用いることができる。また、本発明の炭素繊維強化炭素複合材料は、アルミニウム合金または銅などの金属を溶融して含浸させて用いてもよい。
【0085】
図2は、台座5の上に、放熱材料4を介して半導体装置3を載せた状態を示す斜視図である。図2に示すように、台座5と半導体装置3の間に放熱材料4を設ける。半導体装置3から生じた熱は、放熱材料4を介して台座5に伝達される。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明に従う炭素繊維積層体を示す模式的斜視図。
【図2】半導体装置と台座の間に放熱材料を設けた構造を示す斜視図。
【図3】本発明に従う実施例における炭素繊維強化炭素複合材料の断面を示す走査型電子顕微鏡写真。
【符号の説明】
【0087】
1…シート状分散体
2…炭素繊維積層体
3…半導体装置
4…放熱材料
5…台座

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維をX軸及びY軸の面方向にランダムに分散させた炭素繊維積層体の炭素繊維の表面上に熱分解炭素を堆積して該炭素繊維の周囲を被覆することにより、前記炭素繊維積層体内に熱分解炭素が充填されていることを特徴とする炭素繊維炭素複合成形体。
【請求項2】
前記炭素繊維積層体は、炭素繊維をX軸及びY軸の面方向にランダムに分散させたシート状分散体を積層したものであることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維炭素複合成形体。
【請求項3】
前記炭素繊維積層体が、炭素繊維をX軸及びY軸の面方向にランダムに分散させた分散体に樹脂を含浸させてプリプレグとし、該プリプレグを複数枚積層して加圧成形した後、熱処理して得られるものであることを特徴とする請求項2に記載の炭素繊維炭素複合成形体。
【請求項4】
前記炭素繊維積層体が、炭素繊維を用いてカーディングを行い、バインダーでマット化して得られるマット状分散体であることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維炭素複合成形体。
【請求項5】
前記炭素繊維がピッチ系炭素繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭素繊維炭素複合成形体。
【請求項6】
密度が、1.50〜1.80Mg/mであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭素繊維炭素複合成形体。
【請求項7】
熱分解炭素を充填させた後、ピッチを含浸させたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭素繊維炭素複合成形体。
【請求項8】
密度が、1.60〜2.00Mg/mであることを特徴とする請求項7に記載の炭素繊維炭素複合成形体。
【請求項9】
請求項7または8に記載の炭素繊維炭素複合成形体の黒鉛結晶を成長させたことを特徴とする炭素繊維強化炭素複合材料。
【請求項10】
X線回折による黒鉛結晶の112面の厚みが6nm以上であることを特徴とする請求項9に記載の炭素繊維強化炭素複合材料。
【請求項11】
請求項9または10に記載の炭素繊維強化炭素複合材料を製造する方法であって、
密度が0.10〜0.40Mg/mである前記炭素繊維積層体を調製する工程と、
前記炭素繊維積層体の炭素繊維の表面上に熱分解炭素を堆積させて、密度が1.50〜1.80Mg/mの炭素繊維炭素複合成形体を調製する工程と、
前記炭素繊維炭素複合成形体に、密度が1.60〜2.00Mg/mとなるまでピッチを含浸させる工程と、
ピッチを含浸させた前記炭素繊維炭素複合成形体を、X線回折による黒鉛結晶の112面の厚みが6nm以上となるまで熱処理する工程とを備えることを特徴とする炭素繊維強化炭素複合材料の製造方法。
【請求項12】
請求項9または10に記載の炭素繊維強化炭素複合材料または請求項11に記載の方法で製造された炭素繊維強化炭素複合材料を用いたことを特徴とする放熱材料。
【請求項13】
前記炭素繊維強化炭素複合材に金属を含浸させたことを特徴とする請求項12に記載の放熱材料。
【請求項14】
前記金属が、銅またはアルミニウム合金であることを特徴とする請求項13に記載の放熱材料。
【請求項15】
前記炭素繊維強化炭素複合材料、または請求項13もしくは14に記載の放熱材料の表面に金属を被覆させたことを特徴とする放熱材料。
【請求項16】
被覆するための前記金属が、鉄、銅、アルミニウム、鉄合金、銅合金およびアルミニウム合金のうちから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項15に記載の放熱材料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−256117(P2009−256117A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104539(P2008−104539)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】