説明

炭素質電極基材の製造方法

【課題】反りがなくかつ層間剥離がない炭素質電極基材の製造方法を提供する。
【解決手段】抄紙後、連続して抄紙用フェルトの間に挟んで押圧し、熱ロールに接触させて乾燥した、2枚以上の炭素短繊維紙にフェノール樹脂を含浸後、該フェノール樹脂を炭素化して製造する、2枚以上の炭素短繊維紙がフェノール樹脂炭化物を介して積層されてなる炭素質電極基材の製造方法において、前記炭素短繊維紙が、炭素短繊維とバインダー繊維と、ポリエチレンパルプ又はビニロン繊維とを水に分散した分散液を抄紙したものであることを特徴とする炭素質電極基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚みが薄く、反りがなく、ガス透過度が高くかつ層間剥離がない炭素質電極基材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維をベースとした炭素質電極基材は、固体高分子型燃料電池用のガス拡散層に用いられる。ガス拡散層は、電極反応に使用される水素、酸素等の反応ガスを効率良く電極反応が行われる触媒層に運搬する必要がある。前記ガス拡散層は、炭素繊維を用いて紙状にしたものが主流となっている。
【0003】
特許文献1には、炭素繊維紙が、通常の紙と同様に水に分散させたシートを脱水させて得られるが、抄紙に表と裏ができ、それを1枚で焼成すると反る場合があることが記載されている。特許文献2には、炭素繊維紙の同一面が外側になるように2枚以上の炭素繊維紙を積層して、反りを防止する方法が記載されている。
【0004】
前記方法では、抄紙時の炭素繊維紙の下面を上にして、樹脂含浸、乾燥させたり、炭素繊維紙を2枚重ねることで樹脂含浸、乾燥させても反らないようにしているが、表層と内層で樹脂の付着状態が異なる場合がある。そのため、樹脂の多い面を外側にすると層間剥離が生じ易く、樹脂の少ない面を外側にすると繊維が毛羽立ち易くなる場合があり、更なる改善が望まれている。
【特許文献1】特開2005−297547号公報
【特許文献2】特開2003−151568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
反りがなくかつ層間剥離がない炭素質電極基材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の炭素質電極基材の製造方法は抄紙後、連続して抄紙用フェルトの間に挟んで押圧し、熱ロールに接触させて乾燥した、2枚以上の炭素短繊維紙にフェノール樹脂を含浸後、該フェノール樹脂を炭素化して製造する、2枚以上の炭素短繊維紙がフェノール樹脂炭化物を介して積層されてなる炭素質電極基材の製造方法において、前記炭素短繊維紙が、炭素短繊維とバインダー繊維と、ポリエチレンパルプ又はビニロン繊維とを水に分散した分散液を抄紙したものであることを特徴とする。
【0007】
本発明の炭素質電極基材は、前記炭素質電極基材の製造方法により製造され、以下の(1)〜(3)の条件を満足する。
【0008】
(1)嵩密度が0.20〜0.40g/cm3
(2)炭化樹脂比率が20〜35%
(3)剥離強さが25N/4cm2以上。
【発明の効果】
【0009】
反りがなくかつ層間剥離がない炭素質電極基材の製造方法が提供される。また、得られる炭素質電極基材は、厚みが薄く、ガス透過度も高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<炭素質電極基材の製造方法>
本発明の炭素質電極基材の製造方法は、抄紙後、連続して抄紙用フェルトの間に挟んで押圧し、熱ロールに接触させて乾燥した、2枚以上の炭素短繊維紙にフェノール樹脂を含浸後、該フェノール樹脂を炭素化して製造する、2枚以上の炭素短繊維紙がフェノール樹脂炭化物を介して積層されてなる炭素質電極基材の製造方法において、前記炭素短繊維紙が、炭素短繊維とバインダー繊維と、ポリエチレンパルプ又はビニロン繊維とを水に分散した分散液を抄紙したものであることを特徴とする。
【0011】
<炭素短繊維>
本発明で用いる炭素短繊維の原料である炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維及びレーヨン系炭素繊維等が挙げられるが、ポリアクリロニトリル系炭素繊維が好ましい。特に、用いる炭素繊維がポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維のみとすることが炭素質電極基材の機械的強度を比較的高くすることができるため、より好ましい。
【0012】
炭素短繊維の直径は、3〜9μmであることが、炭素短繊維の生産コスト、分散性の面から好ましい。4〜8μmであることが炭素質電極基材の平滑性の面からより好ましい。炭素短繊維の繊維長は、2〜12mmが好ましい。この範囲内であると分散性が良い。
【0013】
抄紙後、押圧前の炭素短繊維紙中の炭素短繊維の質量比率は、30〜90質量%であることが好ましい。機械強度の観点から30質量%以上であることが好ましく、繊維の脱落を防止するためには90質量%以下であることが好ましい。
【0014】
<バインダー繊維>
本発明の製造方法では、バインダー繊維を用いることが必須である。バインダー繊維は、炭素短繊維をつなぎとめるバインダー(糊剤)として使用される。バインダー繊維としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニルなどを用いることができる。特にポリビニルアルコールは抄紙工程での結着力に優れるため、炭素短繊維の脱落が少なくバインダーとして好ましい。
【0015】
抄紙後、押圧前の炭素短繊維紙中のバインダー繊維の質量比率は、5〜30質量%であることが好ましい。繊維の脱落を防止するためには5質量%以上であることが好ましく、シワなど外観不良発生を抑制するためには30質量%以下であることが好ましい。
【0016】
<ポリエチレンパルプ>
本発明の製造方法では、ポリエチレンパルプ又はビニロン繊維を用いることが必須である。ポリエチレンパルプは、炭素短繊維と一緒に分散し、炭素短繊維の再収束を防止する役割も果たす。また、フェノール樹脂は硬化の際に縮合水を生成するが、ポリエチレンパルプには、その水を吸収、排出する役割も期待できる。炭素短繊維との親和性、取り扱い性、コストの点から好ましい。
【0017】
さらに、架橋構造を効率的に形成するという点からポリエチレンパルプを用いることが好ましい。ポリエチレンパルプの表面自由エネルギーは炭素短繊維より大きいため、含浸樹脂が繊維に優先的に付着し、炭素化後、網状の架橋構造が形成されやすくなる。
【0018】
抄紙後、押圧前の炭素短繊維紙中のポリエチレンパルプの質量比率は、10〜70質量%であることが好ましい。ポリエチレンパルプを10質量%以上含有することで、炭素質電極基材に十分な機械強度とガス透過度を付与できる。また、ポリエチレンパルプは、フェノール樹脂を押圧下で硬化する際に生じるうねりやシワ等の外力に打ち勝つための補強材としても働くため、10質量%以上であることが好ましい。一方、ポリエチレンパルプを70質量%以下としておけば、炭素短繊維に付着するフェノール樹脂の不足により、炭素質電極基材が崩れやすくなったり、厚み制御が難しくなるのを防ぐことができる。
【0019】
<ビニロン繊維>
ビニロン繊維とは、ポリビニルアルコール繊維を熱処理やホルムアルデヒドでアセタール化することにより耐熱性、耐水性を高めた繊維である。ビニロン繊維は、炭素化により分解してなくなるが、その周りに付着したフェノール樹脂の形状は、そのまま残り、そのフェノール樹脂がフィラメント状炭化物を形成する。
【0020】
ビニロン繊維の繊度は、特に限定されないが、0.05〜1.5dtexのものが好ましい。繊度を0.05dtex以上とすることにより、ビニロン繊維一本あたりのフェノール樹脂の付着を十分なものとし、炭素化後、炭素質電極基材からフィラメント状樹脂炭化物が剥離することを防ぐことができる。繊度を1.5dtex以下とすることにより、炭素質電極基材表面が粗くなることを防ぎ、燃料電池としたときに炭素質電極基材と周辺部材との接触を良好なものとすることができる。
【0021】
ビニロン繊維の長さは、特に限定されないが、同時に用いる炭素短繊維と同程度のものが好ましい。バインダーとの結着性や分散性の点から、2〜12mmが好ましい。
【0022】
ビニロン繊維は、炭素短繊維と一緒に分散することで、炭素短繊維の再収束を防止する役割も果たす。そのため、水との親和性にも優れているものが好ましい。
【0023】
抄紙後、押圧前の炭素短繊維紙中のビニロン繊維の質量比率は、10〜60質量%であることが好ましい。抄紙後、押圧前の炭素短繊維紙中のビニロン繊維の質量比率を10質量%以上とすることにより、ビニロン繊維由来のフィラメント状炭化物による補強効果が十分となる。一方、60質量%以下であれば、フィラメント状炭化物とその他の炭化物のバランスがよく、炭素質電極基材の形態が満足いくものとすることができる。
【0024】
なお、ポリエチレンパルプ又はビニロン繊維は、その一方の使用に限らず、双方を使用しても良い。
【0025】
<炭素短繊維紙の抄紙>
炭素短繊維紙の抄紙方法としては、前記炭素短繊維、バインダー繊維、ポリエチレンパルプ又はビニロン繊維を分散させて抄造する湿式抄紙法を用いる。ポリエチレンパルプ又はビニロン繊維を上記量、バインダー繊維と共に湿式抄紙することで、炭素短繊維が単繊維に分散するのを助け、分散した単繊維が再び収束を防止するのを防ぐことができるため好ましい。
【0026】
なお、本発明の製造方法において、分散とは、炭素短繊維がおおむね一つの面を形成するように横たわっているという意味である。これにより炭素短繊維による短絡や炭素短繊維の折損を防止することができる。
【0027】
炭素短繊維とバインダー繊維と、ポリエチレンパルプ又はビニロン繊維とを混合して分散液を調製する方法としては、パルパー等の回転式の装置で混合し、離解、均一分散を行って分散液を調製する。このように有機高分子化合物を混ぜることにより、炭素繊維紙の強度を保持し、その製造途中で炭素短繊維紙から炭素短繊維が剥離したり、炭素短繊維の配向が変化したりするのを防止することができる。次に、この分散液を用いて、長網、短網、円網等のワイヤーを有する抄紙機で、抄紙を行う。これにより、炭素質電極基材に要求される目付精度・厚み精度を満足させることができる。
【0028】
また、本発明において行なう抄紙は、特に目付のコントロールが容易であるという点、生産性及び機械的強度の観点から連続抄紙することが好ましい。
【0029】
<押圧>
本発明の製造方法では、抄紙後の炭素短繊維紙を抄紙用フェルトの間に挟んで押圧することが必須である。
【0030】
湿式抄紙法で得られる抄紙後の炭素短繊維紙は、水分を多く含んでいるため、熱ロールで乾燥する前に含まれる水を絞るため、抄紙用フェルトの間に挟んで押圧する(図1)。
【0031】
図1に示す方法では、抄紙後の炭素短繊維紙1を連続して抄紙用フェルト2で搬送し、2つのローラにより、抄紙用フェルト2を介して押圧する。
【0032】
一般的な紙の場合は、パルプ同士が十分に絡み合っているため抄紙用フェルトの間に挟んで押圧することは問題ないが、炭素短繊維紙の場合は、紙がはがれたり抄紙用フェルトに張り付いたりする場合がある。このため、ポリエチレンパルプ又はビニロン繊維を混合して抄紙したものを抄紙用フェルトの間に挟んで押圧することが必須である。
【0033】
抄紙用フェルトの間に挟まずに乾燥したものは、水分率にバラツキが多いため、表・裏及び同一面内のバインダーの状態にムラが生じる。抄紙用フェルトの間に挟んで押圧することで、水分率を調整することができる。水分量を調整することでバ紙の表側と裏側でバインダーの効き方に差が生じるのを抑制することができ、後の工程でフェノール樹脂を含浸する際に、樹脂の付着状態を均一にすることができる。
【0034】
<抄紙用フェルト>
本発明の製造方法に用いる抄紙用フェルトは、水を多く含んでいる抄紙後の炭素短繊維紙を移送する機能、水分を搾り取る機能、面を平滑にする機能を有しているものが好ましい。例えば、日本フェルト株式会社製の抄紙用フェルトが挙げられる。
【0035】
<水分率>
本発明の製造方法では、押圧により、押圧後の炭素短繊維紙に含まれる水分率を60〜85質量%に調整することが好ましい。水分率が60質量%より小さい場合は、乾燥させたときのバインダーの効果が弱いため炭素繊維紙の強度が出ない場合がある。水分率が85質量%より大きい場合は、十分に水が絞れていないため、乾燥のムラが生じる場合がある。押圧後の炭素短繊維紙に含まれる水分率は、70〜80質量%がより好ましい。
【0036】
水分率は、押圧をコントロールすることで調整することができる。圧力は、0.05MPa〜1MPaであることが好ましく、より好ましくは、0.1MPa〜0.5MPaである。
【0037】
<水分率の測定方法>
水分率の測定方法としては、押圧後の炭素短繊維紙をサンプリングし、乾燥前後の重量を測定する方法と非接触式の水分計をラインにおいてモニターする方法があるが、特に限定はされない。本発明においては、加熱式水分計「MS−70」(エー・アンド・ディー社製)を使用し水分率を算出した。測定水分率は、以下の式で算出される。
水分率(%)=(1−乾燥後の重量/乾燥前の重量)×100。
【0038】
<乾燥>
本発明の製造方法では、前記押圧後、熱ロールに接触させて乾燥することが必須である。炭素短繊維と炭素短繊維をバインダー繊維でつなぎとめるためには、水分が残っている状態で熱を加えて乾燥する。熱を加えないで乾燥した場合は、バインダー繊維が膨潤しないため、炭素短繊維紙の強度が弱くなり好ましくない。
【0039】
前記乾燥は、例えば、図1に示すように、抄紙後の炭素短繊維紙1を押圧後、連続的に熱ロール3に接触させることで、水分を蒸発させることができる。熱ロール3の温度としては、100〜140℃が、安定に抄紙するための強度と伸度を保持できる点から好ましい。前記乾燥工程により、炭素短繊維紙を得ることができる。
【0040】
<フェノール樹脂の含浸方法>
本発明では、前記炭素短繊維紙にフェノール樹脂を含浸する。炭素繊維紙にフェノール樹脂を含浸する方法としては、炭素繊維紙にフェノール樹脂を含浸させることができればよく、特段の制限はないが、コーターを用いて炭素繊維紙表面にフェノール樹脂を均一にコートする方法、絞り装置を用いるdip−nip方法、もしくは炭素繊維紙とフェノール樹脂フィルムを重ねて、フェノール樹脂を炭素繊維紙に転写する方法が、連続的に行なうことができ、生産性及び長尺ものも製造できるという点で好ましい。
【0041】
<フェノール樹脂>
本発明で用いるフェノール樹脂としては、アルカリ触媒存在下においてフェノール類とアルデヒド類の反応によって得られるレゾールタイプフェノール樹脂を挙げることができる。
【0042】
レゾールタイプフェノール樹脂は、公知の方法によって酸性触媒下においてフェノール類とアルデヒド類の反応によって生成する、固体の熱融着性を示すノボラックタイプのフェノール樹脂を溶解混入させることもできる。この場合は硬化剤、例えばヘキサメチレンジアミンを含有した、自己架橋タイプのものが好ましい。
【0043】
前記フェノール類としては、例えば、フェノール、レゾルシン、クレゾール、キシレノール等が用いられる。前記アルデヒド類としては、例えばホルマリン、パラホルムアルデヒド、フルフラール等が用いられる。また、これらを混合物として用いることができる。これらはフェノール樹脂として市販品を利用することも可能である。
【0044】
<フェノール樹脂量>
炭素短繊維紙に付着させるフェノール樹脂の樹脂量は、前記炭素短繊維紙中の炭素短繊維100質量部に対し、70〜150質量部とすることが好ましい。70〜150質量部とすることで、炭素質電極基材中の炭化樹脂比率が25〜40質量%となり、ガス透過度が高い炭素質電極基材を製造することができる。
【0045】
<フェノール樹脂の硬化、炭素化>
フェノール樹脂を含浸した炭素短繊維紙は、そのまま炭素化することも可能である。しかし、炭素化する前にフェノール樹脂を硬化することがフェノール樹脂の炭素化時の気化を抑制し、炭素質電極基材の強度向上のために好ましい。硬化は、フェノール樹脂を含浸した炭素短繊維紙を均等に加熱できる技術であれば、いかなる技術も適用できる。その例としては、フェノール樹脂を含浸した炭素短繊維紙の上下両面から剛板を重ね、加熱する方法や上下両面から熱風を吹き付ける方法、また連続ベルトプレス装置や連続熱風炉を用いる方法が挙げられる。
【0046】
また、フェノール樹脂を硬化させるだけでなく、加熱により炭素短繊維紙表面を平滑にする工程を含んでいることが好ましい。炭素短繊維表面を平滑にする方法としては、特に限定されないが、上下両面から平滑な剛板にて熱プレスする方法や連続ベルトプレス装置を用いて行なう方法がある。中でも連続ベルトプレス装置を用いて行なう方法が、長尺の炭素質電極基材ができるという点で好ましい。
【0047】
連続ベルトプレス装置におけるプレス方法としては、ロールプレスによりベルトに線圧で圧力を加える方法と液圧ヘッドプレスにより面圧でプレスする方法があるが、後者の方がより平滑な炭素質電極基材が得られるという点で好ましい。効果的に表面を平滑にするためには、フェノール樹脂が最も軟化する温度でプレスし、その後加熱又は冷却によりフェノール樹脂を固定する方法がより好ましい。
【0048】
炭素短繊維紙に含浸されるフェノール樹脂の比率が多い場合は、プレス圧が低くても平滑にすることが容易である。このとき必要以上にプレス圧を高くすることは、炭素質電極基材としたときその組織が緻密になりすぎ、変形する場合があるため好ましくない。プレス圧が高く緻密になりすぎた場合は、焼成時に発生するガスがうまく排出されず炭素質電極基材の組織を壊す場合がある。
【0049】
剛板に挟んで、又、連続ベルトプレス装置で炭素短繊維紙に含浸したフェノール樹脂の硬化を行う際は、剛板やベルトにフェノール樹脂が付着しないようにあらかじめ剥離剤を塗っておくか、炭素短繊維紙と剛板やベルトとの間に離型紙を挟んで行なうことで、表面の平滑化を行うことができるため好ましい。表面を平滑にする工程がない場合も、良好な強度とガス透過度とをともに有する炭素質電極基材が得られる。
【0050】
炭素短繊維紙に含浸したフェノール樹脂又は硬化されたフェノール樹脂は、続いて炭素化される。炭素質電極基材の導電性を高めるために、不活性ガス中で炭素化する。炭素化は、炭素短繊維紙の全長にわたって連続して行なうことが好ましい。炭素質電極基材が長尺であれば、炭素質電極基材の生産性が高くなるだけでなく、その後工程のMembrane Electrode Assembly(MEA)製造も連続で行なうことができ、燃料電池のコスト低減化に大きく寄与することができる。
【0051】
炭素化は、不活性処理雰囲気下にて1000〜3000℃の温度範囲で、炭素短繊維紙の全長にわたって連続して焼成処理することが好ましい。本発明の炭素化においては、不活性雰囲気下にて1000〜3000℃の温度範囲で焼成する炭素化処理の前に行われる、300〜800℃の程度の不活性雰囲気での焼成による前処理を行っても良い。以上の工程により、目的の炭素質電極基材を得ることができる。
【0052】
<嵩密度>
本発明における炭素質電極基材の嵩密度は、0.20g/cm3〜0.40g/cm3であることが好ましい。嵩密度が0.20g/cm3より小さい場合は、炭素短繊維と炭素短繊維の結着が弱いため、セルに組み込んだ際、脱落や剥離が生じる場合があるため好ましくない。また、嵩密度が0.40g/cm3より大きい場合は、炭素質電極基材が硬くなりすぎるため、周辺部材との密着性が低下したり、ガスの透過性が下がる場合がある。
【0053】
なお、炭素質電極基材の嵩密度は、以下の式より算出される。
嵩密度(g/cm3)=目付(g/m2)/厚み(μm)。
【0054】
<炭化樹脂比率>
本発明における炭素質電極基材の炭化樹脂比率は20〜35%であることが好ましい。炭化樹脂比率が35%より大きい場合は、基材が硬くなりすぎるため、周辺部材との密着性が低下したり、ガスの透過性が下がるなどの問題がある。炭化樹脂比率が20%より小さい場合は、繊維同士の接着力が弱く、わずかな外力で繊維が基材から外れる場合がある。
【0055】
なお、炭素質電極基材の炭化樹脂比率は、以下の式より算出される。
炭化樹脂比率(%)=1−抄紙時炭素繊維目付×積層枚数/電極基材目付。
【0056】
<剥離強さ>
本発明における炭素質電極基材は、両面をテープで固定し、引き剥がしたときの層間の剥離強さが25N/4cm2以上であることが好ましい。剥離強さが25N/4cm2より小さい場合は、燃料電池に組み込んだ際、炭素質電極基材が2枚に剥がれて、そこに反応により発生した生成水が溜まり、電池性能が著しく低下するため好ましくない。
【0057】
なお、燃料電池に組み込んだ際、炭素質電極基材にかかる圧力が高いほど、剥がれやすくなるため、より高い剥離強さが必要となる。
【0058】
炭素質電極基材の剥離強度は、図2に示すように炭素質電極基材4(縦2cm×横2cm)の上下に両面テープ5を張り、上下の両面テープ5と金属治具6を貼り付ける。さらに上下の金属治具6をそれぞれフック7に引っ掛けたのち、上のフック7を引っ張り試験装置にて持ち上げる(下のフックは固定)。
【0059】
この際、炭素質電極基材に荷重がかかり、その界面がはがれ、2枚に分かれる。そのときの強度を炭素質電極基材の剥離強度とする。なお、引き剥がすときの引っ張り速度は、30mm/minで行う。
【0060】
<厚み>
本発明において、炭素質電極基材は、厚みが150μm以下であることが好ましく、140μm以下であることがより好ましく、130μm以下であることがさらに好ましい。前記範囲では、セルスタックの低コスト化、コンパクト化が可能であることから好ましい。貫通方向の電気抵抗も厚みが薄いほど低減でき、反応ガスの流速が保持されやすく、セル全体の性能も安定化する。
【0061】
<目付>
本発明において、炭素質電極基材は、炭素短繊維の目付(単位面積あたりの重量)が16〜40g/m2であることが好ましい。このとき、半分の目付の炭素繊維紙を2枚以上重ねて上記目付とすることがより好ましい。炭素短繊維は、導電性材料であると同時に、炭素質電極基材の補強材としての役目も果たしている。
【0062】
炭素短繊維の目付を16g/m2以上とすることにより、炭素質電極基材の強度を十分なものとすることができる。また、40g/m2以下とすることにより、厚みを150μm以下としても過剰に緻密な構造とならないため好ましい。
【0063】
また本発明において、炭素質電極基材は、連続的に巻き取ることも可能で、炭素質電極基材や燃料電池の生産性、コストの観点から好ましい。特に本発明の炭素質電極基材は、厚みを薄くできるので取り扱いやすく、連続的に巻きやすい。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0065】
<厚み測定方法>
炭素質電極基材の厚みは、厚み測定装置(商品名:「ダイヤルシックネスゲージ7321」、ミツトヨ製)を使用し、測定した。このときの測定子の大きさは直径10mmであり、測定圧力は1.5kPaで行った。
【0066】
<ガス透過度測定方法>
JIS規格P−8117に準拠した方法によって測定した。炭素質電極基材の試験片を0.645cm2の透過面積の孔を有するセルに挟み、孔から304Paの圧力で300mLのガスを流し、ガスが透過するのにかかった時間を測定し、以下の式より算出した。
【0067】
ガス透過度(ml/(cm2・hr・Pa))
=気体透過量(ml)/(気体透過孔面積(cm2)・透過時間(hr)・透過圧(Pa))。
【0068】
<貫通抵抗測定方法>
炭素質電極基材の厚さ方向の電気抵抗(貫通抵抗)は、試料36mmφを金メッキした銅板にはさみ、金メッキした銅板の上下から1.6MPaで2回加圧したのち、1MPaで加圧し、10mA/cm2の電流密度で電流を流したときの抵抗値を測定し、次式より求めた。
【0069】
貫通抵抗(Ω・cm2)=測定抵抗値(Ω)×試料面積(cm2)。
【0070】
(実施例1)
表1に示す配合で平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維(7μm径CF)、ポリビニルアルコール(PVA)及びポリエチレンパルプ(PEパルプ)を、水を分散媒体として均一に分散させ、湿式連続抄紙装置に連続的に抄紙した。引き続き、抄紙されたものを抄紙用フェルト(日本フェルト(株)製)の間に挟んで押圧し(圧力:0.2MPa)、押圧後に含まれる水分率を72質量%に調整した。その後、熱ロールに接触させて乾燥し、炭素繊維の目付が約13g/m2の長尺の炭素繊維紙を得て、ロール状に巻き取った。
【0071】
この炭素繊維紙にフェノール樹脂(商品名:「フェノライトJ−325」、DIC(株)製)の23質量%メタノール溶液を連続的に両面からコートし、最高温度90℃で1分間乾燥することにより、熱硬化性樹脂を含む炭素繊維紙を得てロール状に巻き取った。
【0072】
前記熱硬化性樹脂を含む炭素繊維紙の抄紙時における下面が表面にくるように2枚の炭素繊維紙を積層してから、離形剤コーティング基材で挟み、ダブルベルトプレス装置にて連続的に加熱プレス(プレス時最大荷重:20MPa)し、樹脂硬化炭素繊維紙を得た。続いて、上記樹脂硬化炭素繊維紙を、窒素ガス雰囲気中にて最高温度800℃の連続焼成炉に10分間通した後、最高温度1900℃の連続焼成炉において10分間加熱し、炭素化することで長さ100mの炭素質電極基材を連続的に得た。得られた炭素質電極基材の嵩密度は0.325g/cm3、炭化樹脂比率は32%であった。また、剥離強さは38N/4cm2であり、層間剥離が生じにくい炭素質電極基材が得られた。
【0073】
(実施例2)
表1に示す配合で平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維(7μm径CF)平均繊維径が4μm、平均繊維長が3mmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維(4μm径CF)、ポリビニルアルコール(PVA)及びビニロン繊維を、水を分散媒体として均一に分散させ、湿式連続抄紙装置により連続的に抄紙した。引き続き、抄紙されたものを抄紙用フェルトの間に挟んで押圧し(圧力:0.2MPa)、押圧後に含まれる水分率を76質量%に調整した。その後、熱ロールに接触させて乾燥し、炭素繊維の目付が約13g/m2の長尺の炭素繊維紙を得てロール状に巻き取った。
【0074】
その後、実施例1同様にフェノール樹脂を含浸させ、加熱プレス工程、炭素化工程を行うことで、長さ100mの炭素質電極基材を連続的に得た。得られた炭素質電極基材の嵩密度は0.283g/cm3、炭化樹脂比率は26%であった。また、剥離強さは46N/4cm2であり、層間剥離が生じにくい炭素質電極基材が得られた。
【0075】
(比較例1)
抄紙後の炭素短繊維紙を、抄紙用フェルトの間に挟んで押圧しなかった以外は、実施例2と同様の方法で炭素質電極基材を連続的に得た。なお、押圧後の炭素短繊維紙の水分率は88%であった。得られた炭素質電極基材の嵩密度は0.308g/cm3、炭化樹脂比率は28%であった。また、剥離強さは20N/4cm2であり、実施例と比較して層間剥離が生じやすい炭素質電極基材が得られた。
【0076】
(比較例2)
表1に示す配合で平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維(7μm径CF)平均繊維径が4μm、平均繊維長が3mmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維(4μm径CF)、ポリビニルアルコール(PVA)を、水を分散媒体として均一に分散させ、湿式連続抄紙装置により連続的に抄紙した。
【0077】
それ以外は、実施例2と同様の方法で炭素質電極基材を連続的に得た。なお、押圧後の炭素短繊維紙の水分率は88%であった。得られた炭素質電極基材の嵩密度は0.336g/cm3、炭化樹脂比率は28%であった。また、剥離強さは15N/4cm2であり、実施例と比較して層間剥離が生じやすい炭素質電極基材が得られた。
【0078】
実施例、比較例の結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明における抄紙後の炭素短繊維紙の押圧、乾燥工程を示す概略図である。
【図2】本発明における剥離強さの測定手段を示す概略図である。
【符号の説明】
【0081】
1 抄紙後の炭素短繊維紙
2 抄紙用フェルト
3 熱ロール
4 炭素質電極基材
5 両面テープ
6 金属治具
7 フック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙後、連続して抄紙用フェルトの間に挟んで押圧し、熱ロールに接触させて乾燥した、2枚以上の炭素短繊維紙にフェノール樹脂を含浸後、該フェノール樹脂を炭素化して製造する、2枚以上の炭素短繊維紙がフェノール樹脂炭化物を介して積層されてなる炭素質電極基材の製造方法において、
前記炭素短繊維紙が、炭素短繊維とバインダー繊維と、ポリエチレンパルプ又はビニロン繊維とを水に分散した分散液を抄紙したものであることを特徴とする炭素質電極基材の製造方法。
【請求項2】
前記押圧により、押圧後の炭素短繊維紙の水分率を60〜85質量%に調整する請求項1に記載の炭素質電極基材の製造方法。
【請求項3】
前記炭素短繊維が、ポリアクリロニトリル系炭素繊維である請求項1又は2に記載の炭素質電極基材の製造方法。
【請求項4】
前記バインダー繊維が、ポリビニルアルコールである請求項1から3のいずれか1項に記載の炭素質電極基材の製造方法。
【請求項5】
前記抄紙後、押圧前の炭素短繊維紙が、炭素短繊維を30〜90質量%、バインダー繊維を5〜30質量%含み、かつ、ポリエチレンパルプを10〜70質量%又はビニロン繊維を10〜60質量%含む請求項1から4のいずれか1項に記載の炭素質電極基材の製造方法。
【請求項6】
前記押圧における圧力が、0.05〜1MPaである請求項1から5のいずれか1項に記載の炭素質電極基材の製造方法。
【請求項7】
前記炭素短繊維紙に含浸により付着させるフェノール樹脂の量が、前記炭素短繊維紙中の炭素短繊維100質量部に対し、70〜150質量部である請求項1から6のいずれか1項に記載の炭素質電極基材の製造方法。
【請求項8】
前記炭素短繊維紙にフェノール樹脂を含浸後、炭素化する前に、フェノール樹脂を硬化する請求項1から7のいずれか1項に記載の炭素質電極基材の製造方法。
【請求項9】
前記2枚以上の炭素短繊維紙が、抄紙下面が表面にくるように積層する請求項1から8のいずれか1項に記載の炭素質電極基材の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の炭素質電極基材の製造方法により製造され、以下の(1)〜(3)の条件を満足する炭素質電極基材。
(1)嵩密度が0.20〜0.40g/cm3
(2)炭化樹脂比率が20〜35%
(3)剥離強さが25N/4cm2以上

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−31419(P2010−31419A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194709(P2008−194709)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】