点光源撮影画像の補正装置および補正方法
【課題】本来の画像自身が持つ情報を損なうことなく、原画像データから照明ムラの成分だけを取り除く。
【解決手段】最適分布算出手段53は、原画像データに任意の分布の照明ムラが加算されていると仮定して、推測した分布が照明ムラに従う適切な分布となるようにシミュレーション演算を行ない、照明ムラに従う最適な分布を抽出する。そして、画像修正手段54は、この最適な分布を元の原画像データから取り除いて、補正処理後の画像データを出力する。従来のように原画像データ全体をフィルタリングによりぼかすのではないので、本来の画像自身が持つ情報は損なわれない。そして、あたかも平行光で照明されたような照明ムラのない画像データを取得できる。
【解決手段】最適分布算出手段53は、原画像データに任意の分布の照明ムラが加算されていると仮定して、推測した分布が照明ムラに従う適切な分布となるようにシミュレーション演算を行ない、照明ムラに従う最適な分布を抽出する。そして、画像修正手段54は、この最適な分布を元の原画像データから取り除いて、補正処理後の画像データを出力する。従来のように原画像データ全体をフィルタリングによりぼかすのではないので、本来の画像自身が持つ情報は損なわれない。そして、あたかも平行光で照明されたような照明ムラのない画像データを取得できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点光源の照明により撮影して得た点光源撮影画像の補正装置および補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康への関心が高まる中、生活習慣病(成人病)の早期発見のための検査の一つとして、集団検診などで眼底画像による検査が実施されている。眼底画像とは、眼球の正面から光を通して撮影される画像であり、そこには血管,網膜,視神経乳頭部などが写っている。集団検診では、眼底画像で得られた血管径が一様ではない異常交叉部などから、高血圧症や糖尿病などの生活習慣病を診断したり、視神経乳頭部に着目して緑内障の傾向を判断することができる。
【0003】
眼底画像は一般的に、特許文献1に知られているような眼底カメラと呼ばれる機器で撮影されることが多い。眼底カメラは、光源からの光で照明された眼底(被写体)からの反射光を結像させ、眼底画像を撮影するもので、撮影時の照明光としてリング状の照明(リング照明)が用いられる。ところがリング照明の場合には、図13(a)に示すように、点光源から光が放射状に広がるため、反射平面において点光源の直下にある部位が最も明るく照明され、同じ眼底上において明暗に差が生じる。すなわち、照明光が平行光であれば(図13(b)を参照)、反射平面のどの位置にあっても同じ明るさで照明されるが、実際には点光源からリング状に照明されることが多いため、被写体に対してどうしても照明ムラが発生してしまうという欠点を抱えている。
【特許文献1】特開2005−296400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した問題を解決するためには、眼底カメラに組み込まれる光学系の焦点調整を行なうことで、ある程度の照明ムラを抑制することができる。しかし最悪の場合には、照明ムラの影響で、眼底画像に大きな黒いシミが現れてしまうことがあり、完全に照明ムラを取り除くことができない。
【0005】
また、別な解決方法として、点光源の照明により得られた眼底画像データの各画素に対して、行列のたたみ込み積分によるフィルタリング処理を施すことで、当該画像データに含まれる照明ムラをぼかす手法が広く知られている。これを一般的な眼底画像をあらわした図14で説明すると、図14(a)の処理前の原画像データには、矢印の部分に照明ムラが写っている。この原画像データを空間フィルタ回路によりコンボリューション処理すると、図14(b)の処理後の画像データが得られる。同じ矢印の部分に注目すると、図14(b)の処理後の画像データでは、フィルタリングにより照明ムラが抑えられていることがわかる。しかし、本来の画像自身が持つ情報も同様に損なわれてしまうので、結果的に画像データ全体がぼやけている。
【0006】
このように、従来は光学的および数学的な手法の何れを採用しても、本来の画像自身が持つ情報を損なうことなく、照明ムラの成分だけを取り除くことはできなかった。そのため、リング照明下でありながら、あたかも平行光によって照明されたような照明ムラのない眼底画像を取得する装置や方法が望まれていた。
【0007】
そこで本発明は、本来の画像自身が持つ情報を損なうことなく、照明ムラの成分だけを取り除くことができる点光源撮影画像の補正装置および補正方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明における点光源撮影画像の補正装置は、点光源からの照明光で撮影した被写体の原画像データを取得する原画像取得手段と、前記原画像データに加算されている照明ムラに従う分布を推測し、この推測した分布と実際の照明ムラに従う最適な分布との差が最小となるように演算を行なうことで、当該最適な分布を抽出する最適分布算出手段と、この最適分布算出手段で抽出した最適な分布を前記原画像データから取り除いて、補正処理した画像データを出力する画像修正手段とを備えている。
【0009】
この場合、前記最適分布算出手段は、初期設定による推測した分布を前記原画像データから減算した値の標準偏差を求め、この標準偏差がより小さくなると予測される分布を新たに設定し、この新たに設定推測した分布を前記原画像データから減算して、同様に標準偏差を求める手順を繰り返し、前記標準偏差が最小になるような前記最適な分布を求めて、この最適な分布を抽出するものであることが好ましい。
【0010】
また、前記画像修正手段で補正処理した画像データを、前記最適分布算出手段に前記原画像データとして再度取り込めるように構成するのが好ましい。
【0011】
本発明における点光源撮影画像の補正方法は、点光源からの照明光で撮影した被写体の原画像データを取得する第1のステップと、前記原画像データに加算されている照明ムラに従う分布を推測し、この推測した分布と実際の照明ムラに従う最適な分布との差が最小となるように演算を行なうことで、当該最適な分布を抽出する第2のステップと、この最適な分布を前記原画像データから取り除いて、補正処理した画像データを出力する第3のステップとを行なうものである。
【0012】
この場合、前記第2のステップで、初期設定による推測した分布を前記原画像データから減算した値の標準偏差を求め、この標準偏差がより小さくなると予測される分布を新たに設定し、この新たに設定推測した分布を前記原画像データから減算して、同様に標準偏差を求める手順を繰り返し、前記標準偏差が最小になるような前記最適な分布を求めて、この最適な分布を抽出するのが好ましい。
【0013】
また、前記補正処理した画像データを、前記第2のステップで前記原画像データとして再度取り込むのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記点光源撮影画像の補正装置または補正方法によれば、原画像データが照明ムラのない画像自身の情報に、任意の分布の照明ムラを加算したものであると仮定して、推測した分布が照明ムラに従う適切な分布となるようにシミュレーション演算を行ない、照明ムラに従う最適な分布を抽出する。そして、この最適な分布を元の原画像データから取り除けば、原画像データ全体をフィルタリングによりぼかすのではないので、本来の画像自身が持つ情報を損なうことなく、あたかも平行光によって照明されたような照明ムラのない画像データを取得することができる。
【0015】
また、各ピクセル毎に推測した分布と原画像データとの差を求めて、その標準偏差を求め、当該標準偏差が最小となるように推測した分布をその都度再設定して、最終的に照明ムラに従う最適な分布を求めることで、最適な分布を統計的な見地から効率よく抽出することが可能になる。
【0016】
さらに、照明ムラの除去を複数回行なった補正処理後の画像データを取得することが可能になり、より照明ムラの少ない画像データを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面に基づき、本発明における点光源撮影画像の補正装置および補正方法の好ましい実施形態について詳しく説明する。図1は、医療用の眼底撮影装置(眼底カメラ)1の全体構成を示し、同図において、Eは被検眼の眼底、2は第1の光学系、3は第2の光学系、4はスリット、5は第3の光学系、6は第2の光学系3を構成する分光素子、7は二次元撮像素子である。
【0018】
第1の光学系2は、眼底Eと二次元撮像素子とを結ぶ第1の光路O1上に、被検眼と対向する対物レンズ21と、穴あきミラー22と、絞り23と、リレーレンズ25と、フォーカスレンズ26と、結像レンズ27とを順に配置し、またこれとは別の第2の光路O2上に、光源31と、反射ミラー33と、照明光学系レンズ34と、前記穴あきミラー22とを順に配置して構成される。そして、この第1の光学系2では、光源31からの光が、反射ミラー33と照明光学系レンズ34を通り、穴あきミラー22で反射されて対物レンズ21を通過し、眼底Eを照明する。また眼底Eからの反射光は、対物レンズ21と穴あきミラー22の穴を通り、瞳と共役の位置に置かれた絞り23を通り、リレーレンズ25,フォーカスレンズ26および結像レンズ27で、眼底画像が結像されるようになっている。
【0019】
第3の光学系5は、結像レンズ27の出射方向に配置され、第1の光路O1上にあるミラー13と、このミラー13で分岐した光の一部を捕捉するカメラ14とを含んでいる。ここで用いるミラー13は、ハーフミラーまたはダイクロイックミラー(例えば可視光反射、赤外光透過)である。ミラー13がハーフミラーの場合には、眼底Eからの反射光の一部を90度曲げて反射し、カメラ14で眼底Eの映像を撮影して、直接モニター15で観察することができる。また、ミラー13がダイクロイックミラーの場合には、可視光が90度屈折して反射され、同様にモニター15で映像を観察することができ、赤外光がミラー13を透過する。
【0020】
本実施例では、眼底Eからの反射光の残りの部分がミラー13を透過し、スリット4を通り、分光素子6で分光されて二次元撮像素子7に結像し、その分光像を蓄積手段8に記憶蓄積する構成となっている。蓄積手段8は、一般的に使用されている半導体メモリ,磁気記録装置,光学的なメモリなど何れでもよい。
【0021】
点光源である光源31から光を眼底Eに照射すると、前記モニター15で眼底Eの映像が観察可能になる。これにより、対物レンズ21に対して被検眼を正しい位置に向かわせるアライメント調整を行なったり、フォーカスレンズ26を第1の光路O1に沿って移動させて、被検眼のフォーカス調整などを行なうことができる。そして、こうしたアライメント調整やフォーカス調整を行った後に、図示しない操作スイッチを押動操作すると、分光素子6を通して分光された眼底画像(分光像)が、二次元撮像素子7に取り込まれるようになっている。
【0022】
9は、前記第1の光学系2,第2の光学系3,スリット4,分光素子6,二次元撮像素子7などを走査する走査手段であり、制御装置10によって蓄積手段8とともに連動して制御される。制御装置10は、蓄積手段8で蓄積した分光像を解析する機能を備え、その解析結果が表示手段であるモニター12に表示されるようになっている。なお、制御装置10については、後ほど改めてその構成を詳しく説明する。
【0023】
前記スリット4は線状の開口を有し、二次元撮像素子7の1フレームには、スリット4に対応する眼底Eのなかの1ラインの像が、当該スリット4と直交する方向に分光されて結像する。すなわち、スリット4の方向が二次元撮像素子7のX軸方向だとすると、X軸方向は眼底Eのなかの1ラインに対応し、Y軸方向には、該1ライン上の各点での入射光を分光したスペクトルでの光強度が対応する。眼底Eのなかのラインの像を、スリット4と直交する方向に順次走査して、二次元撮像素子7で撮像すると、Nステップ走査すればNフレームの二次元分光像を得ることができる。
【0024】
上記の走査手段9の具体例は、特開2005−296400号公報に開示されているので、ここでは詳しく説明しない。一つの例としては、第1の光学系2の瞳孔共役面付近にミラーを設置し、このミラーを回転走査することにより、実質的に瞳孔の位置から眼球内を回転ミラーで走査するのと同等の効果を得ることで、曲面である眼底Eの画像を鮮明に結像させて、鮮明な眼底Eの分光像を取得することができる。また別な例として、スリット4と第2の光学系3と二次元撮像素子7とを一体的に走査してもよい。この場合、眼底画像がスリット4の位置に結像するので、これらのスリット4と第2の光学系3と二次元撮像素子7とを一体として走査すれば、鮮明な眼底Eの分光像を得ることができる。
【0025】
さらに別な例では、瞳孔の位置を中心として、第1の光学系2とスリット4と第2の光学系3と二次元撮像素子7とを一体的に回転走査する。この場合、第3の光学系5も含めて回転走査してもよく、二次元撮像素子7上に眼底Eの分光像が常に鮮明に結像する。
【0026】
いずれの場合においても、走査手段9の動作は制御装置10により制御され、同時に蓄積手段8に、二次元撮像素子7で取得した眼底Eの分光像が蓄積される。なお、第2の光学系3のなかの分光素子6は、基本的にはプリズムであるが、分光の分解能を高めるために、透過型の回折格子を使用する。または、プリズムと回折格子の組み合わせでもよい。
【0027】
次に、蓄積手段8に蓄積された分光像の処理について説明する。まず、分光感度を正規化するために、白色板または白色に塗装した擬似眼を被検眼の眼底Eに相当する位置に置いて、その分光像を二次元撮像素子7で取得する。制御装置10は、この分光像に基づき分光スペクトルの基準値を校正する。このようにして得られた分光像をもとに解析を行う。
【0028】
検眼に使用する光源31の照明光は可視光でもよいが、その場合は被検眼が縮瞳してしまうので、一般的には瞳孔を開くための薬物投与を行う。しかし、被検者に苦痛を与えるため、短時間の検査しかできない。そこで、目には感じない赤外線領域の照明光を使用する。赤外線領域の光の波長は700nmから1000nmである。
【0029】
眼底画像は一般にカラー画像であるため、これを光の三原色に分解することができる。とりわけ眼底画像では、主に緑色に網膜の血管走行に関する情報が含まれていることが多く、従来の先行文献(曲谷一成他,「カラー眼底写真の自動解析」,電気情報通信学会技術研究報告,第91巻,第431号,p.47〜52)などから、そのことが示されている。図1に示す眼底撮影装置1は、そうした様々な波長(例えば、緑であれば546.1nm)について、各波長毎に眼底画像を取得し、それをグレースケールで表示すると共に(二次元表示)、各ピクセルの輝度情報を元に、明るい輝度情報をもつピクセルは高く、暗い輝度情報をもつピクセルは低く表示することで、前記二次元表示された一枚の眼底画像を三次元的に表示する機能を備えている。なお、この三次元表示に際しては、各ピクセルの輝度情報に対応して表示を行なえばよく、例えば、暗い輝度情報をもつピクセルであるほど、高く表示するようにしてもよい。
【0030】
例えば、前記分光像解析の一実施例として、546.1nmの波長での分光像を画像化する。具体的な手法としては、蓄積手段8に蓄積された第1フレームから第Nフレームまでの分光像の中から、546.1nmの波長に相当する部分のデータを抽出して、順次、1枚の画面に並べてゆくことにより、546.1nmの波長で観測した眼底像を得ることができる。
【0031】
図2の(a)と(b)には、こうした特定の波長における眼底画像の二次元表示と、この二次元表示を基に作成した眼底画像の三次元表示がそれぞれ示されている。図2(a)の二次元表示では、中央部に他の部分よりも暗い照明ムラが確認できる。また図2(b)の三次元表示では、血管の走行が立体的に確認でき、また前記照明ムラが立体的に凹んでいる様子が確認できる。すなわち、図2(b)における三次元表示では、X−Y平面に広がる各ピクセル毎に、その輝度情報をZ軸方向に立体的にあらわしている。このような手法を用いることで、血管走行を立体的に視認することが可能になる。
【0032】
なお、カラー画像から特定の波長の分光像を取得する手段として、他に光学的フィルターを用いてもよい。しかし、フィルターを使うにはその装着スペースを必要とするだけでなく、違った波長の分光像を取得する場合には、フィルターの交換が必要になって、余分な手間がかかる。この上記の眼底撮影装置1では、700nmから1000nmにわたる様々な波長の分光像データが蓄積されているので、制御装置10の解析処理だけで、必要とする波長での観測結果を即座に得ることができる。
【0033】
次に、前記制御装置10の内部構成を、図3のブロック図に基づき説明する。同図において、例えばパーソナルコンピュータなどで構成される制御装置10は、そのソフトウェア的な機能として、二次元撮影素子7で光電変換された眼底Eの処理前の分光像データ(原画像データ)を取得し、これを蓄積手段8に記憶蓄積させる原画像取得手段41と、蓄積手段8にある各波長の分光像データから特定の分光像データを選択し、必要に応じて二次元のグレースケール表示や、各ピクセルの輝度情報に基づく三次元の表示をモニター12に行なわせる原画像選択手段42と、原画像選択手段42で選択された特定の波長の眼底画像データについて、照明ムラを数学的な手法で除去する画像補正手段43とを備えている。この中で、前記原画像取得手段41と前記原画像選択手段42は前述した通りのものであり、要は撮影対象となる画像を後段の画像補正手段43に出力できるものであればよい。本発明の実質的な特徴部分は、後述する画像補正手段43の各構成に含まれている。
【0034】
画像補正手段43は、原画像選択手段42から得られた眼底画像データに、任意の分布の照明ムラが加算されていると仮定し、平行光が照明されているのと同じ状態になるように、コンピュータシミュレーション技術を応用してその分布を求めると共に、求めた分布を眼底画像から取り除くことで、眼底画像データから照明ムラを除去する機能を備えている。より具体的には、ここでの画像補正手段43は、照明ムラの分布が正規分布であると仮定し、その分布の頂点座標,広がりおよびピーク値を初期値として設定する初期値設定手段51と、この設定した初期分布を眼底画像データから減算して、この眼底画像データの標準偏差を求める標準偏差算出手段52と、前記算出した標準偏差が最小となるような正規分布を、ガウス・ニュートン法(非線形最小二乗法)を用いて求める最適分布算出手段53と、この正規分布算出手段53で算出した標準偏差が最小となる正規分布を、元の眼底画像データから取り除いて照明ムラを除去する画像修正手段54とにより構成される。
【0035】
なお、これらの各構成において、照明ムラの分布は、点光源を照明したときの平面上の光の分布が、ガウス分布に従うことに基づいて正規分布を想定しているが、それ以外の分布を想定しても構わない。また、画像修正手段54で得た処理後の眼底画像データに残る照明ムラを、さらに画像補正手段43により繰り返し取り除くようにしてもよい。この場合、最初から決められた処理回数を繰り返してもよく、或いは無用な処理時間の増加を避けるために、最適分布算出手段53で得られた分布のピーク値が所定の高さになるまで、画像補正手段43による処理を繰り返し、その高さ以下になったら、画像補正手段43による処理を終了する構成にしてもよい。
【0036】
次に、本発明における点光源撮影画像の補正方法に対応した上記画像補正手段43の処理手順を、図4のフローチャートに基づき説明する。同図において、ステップS1にて、制御装置10の画像補正手段43は、原画像選択手段42から特定の波長の眼底画像データを取得する。この処理前の眼底画像データには、各ピクセルの位置情報(x,y)と、ピクセル毎の輝度情報(z)が含まれている。次に、画像補正手段43を構成する初期値設定手段51は、その処理前の眼底画像データに重畳されていると推測される照明ムラが、特定の分布(例えば、正規分布)に従うものと仮定して、これを最初に推測する初期分布として設定する(ステップS1)。この初期分布には、分布の頂点位置をあらわす座標と、正規分布の広がりと、頂点位置における輝度のピーク値が初期のパラメータ値として設定されている。
【0037】
次に、画像補正手段43の標準偏差算出手段52は、ステップS2の手順において、設定した初期分布を予め取得した眼底画像データから減算し、各ピクセル毎に算出される輝度情報の差の標準偏差を求める。ここで、元の眼底画像(原画像)データに照明ムラが存在しなければ、その眼底画像の標準偏差は眼底画像自身が持つ値の分散のみになるが、照明ムラがそれに加算されていれば、値の分散が拡大する。そこで、画像補正手段43の最適分布算出手段53は、次のステップS3において、設定した正規分布と眼底画像データとの差により算出した標準偏差の結果から、元の眼底画像データを参照しながら、標準偏差の値がより小さくなると予測される正規分布を新たに設定し、この新たに推測設定した正規分布を眼底画像データから減算して、同様に標準偏差を求める手順を繰り返し実行し、最終的にその標準偏差が最小となるような、照明ムラに関する最適な正規分布をガウス・ニュートン法を用いて決定する(ステップS4)。
【0038】
図5は、前記標準偏差を指標として、照明ムラに関する最適な分布を求める過程のグラフを示している。すなわちこの図5は、各ピクセル毎に算出される設定した正規分布と眼底画像データとの差の確率分布を示しており、(a)に示す初期分布に基づく結果では、標準偏差が0.0139となっており、(b)に示す最終的に決定した分布に基づく結果では、標準偏差が0.0005にまで最小化されている。また、図6は最終的に決定抽出した分布を示している。同図において、x−y軸は眼底画像データを構成する各ピクセルの位置に対応し、z軸は輝度情報に対応する。標準偏差の値が小さいほど、決定した分布は元の眼底画像データに加えられた照明ムラに近い特徴を有するものとなる。
【0039】
こうして、照明ムラの特徴に近似する最適な分布を最適分布算出手段53で抽出すると、画像補正手段43の画像修正手段54はステップS4において、この最適な分布を元の眼底画像データから取り除き、眼底画像データに含まれる照明ムラを除去する。図7は、図2の眼底画像から図4の分布に従う照明ムラを除去した処理後の眼底画像を示しており、ここでは中央部に存在していた照明ムラが除去され、全体的に明るくなった様子が確認できる。すなわち、点光源からの照明光で撮影したにも拘らず、あたかも平行光によって照明されたような照明ムラのない眼底画像を取得できる。また本手法では、いわゆるフィルタリング処理によるものとは異なり、本来の画像自身が持つ情報を失うことなく、照明ムラだけを効果的に取り除くことが可能になる。
【0040】
画像補正手段43は、必要に応じて上述したステップS1〜S4の手順を繰り返し実行してもよい。例えばステップS5において、前記ステップS3で決定した分布のピーク値が、予め決められた所定値を越えていたら、処理後の眼底画像データに未だ暗部などの好ましくない部分が残っていると判断して、再度この処理後の眼底画像データを元のデータとしてステップS1〜S4の各手順を実行する。こうして再び得られた眼底画像データに関し、ステップS3で決定した分布のピーク値が前記所定値以下であったら、最終的な処理後の眼底画像データを確定して全ての手順を終了する。
【0041】
図8は、照明ムラに対応した正規分布(ガウス分布)で一度処理を施した眼底画像の三次元表示をあらわしており、ここでは処理後の眼底画像の中央部に、まだ暗部が存在しているように見える(図中の円で囲んだ部分)。なおこの図では、暗部が凸状に膨らむように、原画像が反転表示されている。この処理後の眼底画像データを画像補正手段43で再補正すると、図9に示すような比較的整ったガウス分布が抽出できた。図10(a)は、1回目の画像補正後における眼底画像の二次元表示と三次元表示を示し、図10(b)は、2回目の画像補正後における眼底画像の二次元表示と三次元表示を示しているが、両者の比較において、2回目の画像補正後における眼底画像の方が、中心部付近にある暗部を完全に除去できている。これにより、複数回の画像補正を繰り返すことで、より平行光で照明したような眼底画像が得られるという効果を確かめることができた。
【0042】
なお、こうした照明ムラの除去を目的とした眼底画像データの補正は、暗い部分だけではなく、明るすぎる部分に対しても可能である。図11と図12は、そうした明るすぎる部分の補正前と補正後における眼底画像の例を示したものである。図11(a)は、補正前の眼底画像を示しているが、ここでは上部に明るすぎる部分が確認できる。一方、図11(b)は、補正後の眼底画像を示しており、前記明るすぎる部分が明らかに抑えられていることがわかる。図12は別な眼底画像の例を示しているが、ここでも補正前の眼底画像(図12(a))と比較して、補正後の眼底画像(図12(b))は、明るすぎる部分が効果的に抑制されており、その結果、網膜血管の走行状態がよく分かるようになっている。
【0043】
また、実際の処理手順において、暗い部分を明るく補正する場合には、取得した原画像データに対し、各ピクセル毎の輝度情報の値を一旦全て反転させてから(例えば、輝度情報が256階調で記録されている場合、0→255となり、255→0となる。式で言えば、(反転後の値)=255−(反転前の値))、最適なガウス分布を探し出し、得られたガウス分布を原画像データから減算し、その結果を再度反転させることで、補正後の画像データを求めるようにしているが、明るい部分を暗くする場合には、上述した反転および再反転の処理が不要になり、原画像データからそのまま最適なガウス分布を探し出し、得られたガウス分布を原画像データから減算すれば、補正後の画像データを求めることができる。
【0044】
以上のように、本実施形態における点光源撮影画像の補正装置は、眼底撮影装置1に組み込まれた画像補正手段43を含む制御装置10として構成され、これは点光源である光源31からの照明光で撮影した被写体(眼底E)の原画像データを取得する原画像取得手段41と、原画像データに加算されている照明ムラに従う分布を推測し、この推測した分布と実際の照明ムラに従う最適な分布との差が最小となるように演算を行なうことで、当該最適な分布を抽出する最適分布算出手段53と、この最適分布算出手段53で抽出した最適な分布を原画像データから取り除く画像修正手段54とを備えて構成される。
【0045】
このようにすると、最適分布算出手段53は、原画像データが照明ムラのない画像自身の情報に、任意の分布の照明ムラを加算したものであると仮定して、推測した分布が照明ムラに従う適切な分布となるようにシミュレーション演算を行ない、照明ムラに従う最適な分布を抽出する。そして、この最適な分布を画像修正手段54により元の原画像データから取り除けば、従来のように原画像データ全体をフィルタリングによりぼかすのではないので、本来の画像自身が持つ情報を損なうことなく、あたかも平行光で照明されたような照明ムラのない画像データを取得できる。
【0046】
そしてこれは、点光源である光源31からの照明光で撮影した被写体の原画像データを取得する第1のステップと、原画像データに加算されている照明ムラに従う分布を推測し、この推測した分布と実際の照明ムラに従う最適な分布との差が最小となるように演算を行なうことで、この最適な分布を抽出する第2のステップと、当該最適な分布を原画像データから取り除いて、補正処理後の画像データを出力する第3のステップとを実行する補正方法によっても実現する。
【0047】
また、ここでの最適分布算出手段53は、初期設定による推測した分布を原画像データから減算した値の標準偏差を求め、この標準偏差がより小さくなると予測される分布を新たに設定し、この新たに設定推測した分布を原画像データから減算して、同様に標準偏差を求める手順を繰り返し、この標準偏差が最小になるような最適な分布を求めて、この最適な分布を抽出するように構成している。
【0048】
こうすると、各ピクセル毎に推測した分布と原画像データとの差を求めて、その標準偏差を求め、当該標準偏差が最小となるように推測した分布をその都度再設定して、最終的に照明ムラに従う最適な分布を求めることができる。そのため、この最適な分布を統計的な見地から効率よく抽出することが可能になる。
【0049】
またこれは、前記第2のステップで、初期設定による推測した分布を原画像データから減算した値の標準偏差を求め、この標準偏差がより小さくなると予測される分布を新たに設定し、この新たに設定推測した分布を原画像データから減算して、同様に標準偏差を求める手順を繰り返し、この標準偏差が最小になるような最適な分布を求めて、この最適な分布を抽出する方法でも実現する。
【0050】
さらに、本実施形態では、前記画像修正手段54で補正処理した画像データを、最適分布算出手段53に原画像データとして再度取り込めるように構成している。
【0051】
このようにすると、照明ムラの除去を複数回行なった補正処理後の画像データを取得することが可能になり、より照明ムラの少ない画像データを得ることができる。
【0052】
そしてこれは、補正処理した画像データを、前記第2のステップで原画像データとして再度取り込む方法でも実現可能である。
【0053】
その他、従来の写真による眼底撮影では、インドシアニングリーンなどの蛍光物質を静脈投与する必要があり、薬物事態の副作用が懸念されるばかりでなく、静脈投与という身体的侵襲が加わる。本実施形態における画像補正手段43を、点光源である光源31からの照明光で眼底Eを撮影する眼底撮影装置1に組み込むことによって、完全な非侵襲的な検査を行なうことができる。
【0054】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲において種々の変形実施が可能である。例えば本実施形態における補正装置(画像補正手段43)は、眼底撮影装置1の一部として組み込まれているが、独立した装置として構成してもよく、その場合には種々の眼底撮影以外の撮影装置に接続することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
実施例では、点光源で照明された眼底画像の照明ムラを取り除く装置と方法について説明したが、被写体は眼底Eに限られるものではない。例えば胃や腸などを被写体とした内視鏡を始めとして、一乃至複数の点光源で被写体を照明する各種医療機器などにも、本発明の技術を広範囲に且つ有効に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】一般的な眼底撮影装置の概略図である。
【図2】図1の眼底撮影装置で得られる処理前の眼底画像の図であり、(a)は眼底画像の二次元表示を示し、(b)は眼底画像の三次元表示を示している。
【図3】本発明の好ましい一実施形態である制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】同上、制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】同上、設定した分布を眼底画像データから減算したときの各ピクセル毎の輝度情報に関する確率分布のグラフを示し、(a)は初期の結果を示し、(b)は最終的な結果を示している。
【図6】同上、抽出された照明ムラに対応する分布のグラフである。
【図7】同上、照明ムラを除去した処理後の眼底画像の図であり、(a)は眼底画像の二次元表示を示し、(b)は眼底画像の三次元表示を示している。
【図8】同上、画像補正手段で一度処理を施した眼底画像の三次元表示をあらわす図である。
【図9】同上、図8の眼底画像データを元にして、画像補正手段43が抽出した分布のグラフである。
【図10】同上、照明ムラを除去した処理後の眼底画像の図であり、(a)は1回目の画像補正後における眼底画像の二次元表示と三次元表示を示し、(b)は2回目の画像補正後における眼底画像の二次元表示と三次元表示を示している。
【図11】同上、特に明るすぎる部分の補正を目的とした眼底画像の例を示しており、(a)は画像補正前の眼底画像を示し、(b)は画像補正後の眼底画像を示している。
【図12】同上、特に明るすぎる部分の補正を目的とした眼底画像の別な例を示しており、(a)は画像補正前の眼底画像を示し、(b)は画像補正後の眼底画像を示している。
【図13】(a)は点光源からの光の広がりを示した図であり、(b)は平行光源からの光の広がりを示した図である。
【図14】一般的な眼底画像を示した図であり、(a)はフィルタリング処理前の眼底画像であり、(b)はフィルタリング処理後の眼底画像である。
【符号の説明】
【0057】
31 光源(点光源)
41 原画像取得手段
53 最適分布算出手段
54 画像修正手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、点光源の照明により撮影して得た点光源撮影画像の補正装置および補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康への関心が高まる中、生活習慣病(成人病)の早期発見のための検査の一つとして、集団検診などで眼底画像による検査が実施されている。眼底画像とは、眼球の正面から光を通して撮影される画像であり、そこには血管,網膜,視神経乳頭部などが写っている。集団検診では、眼底画像で得られた血管径が一様ではない異常交叉部などから、高血圧症や糖尿病などの生活習慣病を診断したり、視神経乳頭部に着目して緑内障の傾向を判断することができる。
【0003】
眼底画像は一般的に、特許文献1に知られているような眼底カメラと呼ばれる機器で撮影されることが多い。眼底カメラは、光源からの光で照明された眼底(被写体)からの反射光を結像させ、眼底画像を撮影するもので、撮影時の照明光としてリング状の照明(リング照明)が用いられる。ところがリング照明の場合には、図13(a)に示すように、点光源から光が放射状に広がるため、反射平面において点光源の直下にある部位が最も明るく照明され、同じ眼底上において明暗に差が生じる。すなわち、照明光が平行光であれば(図13(b)を参照)、反射平面のどの位置にあっても同じ明るさで照明されるが、実際には点光源からリング状に照明されることが多いため、被写体に対してどうしても照明ムラが発生してしまうという欠点を抱えている。
【特許文献1】特開2005−296400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した問題を解決するためには、眼底カメラに組み込まれる光学系の焦点調整を行なうことで、ある程度の照明ムラを抑制することができる。しかし最悪の場合には、照明ムラの影響で、眼底画像に大きな黒いシミが現れてしまうことがあり、完全に照明ムラを取り除くことができない。
【0005】
また、別な解決方法として、点光源の照明により得られた眼底画像データの各画素に対して、行列のたたみ込み積分によるフィルタリング処理を施すことで、当該画像データに含まれる照明ムラをぼかす手法が広く知られている。これを一般的な眼底画像をあらわした図14で説明すると、図14(a)の処理前の原画像データには、矢印の部分に照明ムラが写っている。この原画像データを空間フィルタ回路によりコンボリューション処理すると、図14(b)の処理後の画像データが得られる。同じ矢印の部分に注目すると、図14(b)の処理後の画像データでは、フィルタリングにより照明ムラが抑えられていることがわかる。しかし、本来の画像自身が持つ情報も同様に損なわれてしまうので、結果的に画像データ全体がぼやけている。
【0006】
このように、従来は光学的および数学的な手法の何れを採用しても、本来の画像自身が持つ情報を損なうことなく、照明ムラの成分だけを取り除くことはできなかった。そのため、リング照明下でありながら、あたかも平行光によって照明されたような照明ムラのない眼底画像を取得する装置や方法が望まれていた。
【0007】
そこで本発明は、本来の画像自身が持つ情報を損なうことなく、照明ムラの成分だけを取り除くことができる点光源撮影画像の補正装置および補正方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明における点光源撮影画像の補正装置は、点光源からの照明光で撮影した被写体の原画像データを取得する原画像取得手段と、前記原画像データに加算されている照明ムラに従う分布を推測し、この推測した分布と実際の照明ムラに従う最適な分布との差が最小となるように演算を行なうことで、当該最適な分布を抽出する最適分布算出手段と、この最適分布算出手段で抽出した最適な分布を前記原画像データから取り除いて、補正処理した画像データを出力する画像修正手段とを備えている。
【0009】
この場合、前記最適分布算出手段は、初期設定による推測した分布を前記原画像データから減算した値の標準偏差を求め、この標準偏差がより小さくなると予測される分布を新たに設定し、この新たに設定推測した分布を前記原画像データから減算して、同様に標準偏差を求める手順を繰り返し、前記標準偏差が最小になるような前記最適な分布を求めて、この最適な分布を抽出するものであることが好ましい。
【0010】
また、前記画像修正手段で補正処理した画像データを、前記最適分布算出手段に前記原画像データとして再度取り込めるように構成するのが好ましい。
【0011】
本発明における点光源撮影画像の補正方法は、点光源からの照明光で撮影した被写体の原画像データを取得する第1のステップと、前記原画像データに加算されている照明ムラに従う分布を推測し、この推測した分布と実際の照明ムラに従う最適な分布との差が最小となるように演算を行なうことで、当該最適な分布を抽出する第2のステップと、この最適な分布を前記原画像データから取り除いて、補正処理した画像データを出力する第3のステップとを行なうものである。
【0012】
この場合、前記第2のステップで、初期設定による推測した分布を前記原画像データから減算した値の標準偏差を求め、この標準偏差がより小さくなると予測される分布を新たに設定し、この新たに設定推測した分布を前記原画像データから減算して、同様に標準偏差を求める手順を繰り返し、前記標準偏差が最小になるような前記最適な分布を求めて、この最適な分布を抽出するのが好ましい。
【0013】
また、前記補正処理した画像データを、前記第2のステップで前記原画像データとして再度取り込むのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記点光源撮影画像の補正装置または補正方法によれば、原画像データが照明ムラのない画像自身の情報に、任意の分布の照明ムラを加算したものであると仮定して、推測した分布が照明ムラに従う適切な分布となるようにシミュレーション演算を行ない、照明ムラに従う最適な分布を抽出する。そして、この最適な分布を元の原画像データから取り除けば、原画像データ全体をフィルタリングによりぼかすのではないので、本来の画像自身が持つ情報を損なうことなく、あたかも平行光によって照明されたような照明ムラのない画像データを取得することができる。
【0015】
また、各ピクセル毎に推測した分布と原画像データとの差を求めて、その標準偏差を求め、当該標準偏差が最小となるように推測した分布をその都度再設定して、最終的に照明ムラに従う最適な分布を求めることで、最適な分布を統計的な見地から効率よく抽出することが可能になる。
【0016】
さらに、照明ムラの除去を複数回行なった補正処理後の画像データを取得することが可能になり、より照明ムラの少ない画像データを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面に基づき、本発明における点光源撮影画像の補正装置および補正方法の好ましい実施形態について詳しく説明する。図1は、医療用の眼底撮影装置(眼底カメラ)1の全体構成を示し、同図において、Eは被検眼の眼底、2は第1の光学系、3は第2の光学系、4はスリット、5は第3の光学系、6は第2の光学系3を構成する分光素子、7は二次元撮像素子である。
【0018】
第1の光学系2は、眼底Eと二次元撮像素子とを結ぶ第1の光路O1上に、被検眼と対向する対物レンズ21と、穴あきミラー22と、絞り23と、リレーレンズ25と、フォーカスレンズ26と、結像レンズ27とを順に配置し、またこれとは別の第2の光路O2上に、光源31と、反射ミラー33と、照明光学系レンズ34と、前記穴あきミラー22とを順に配置して構成される。そして、この第1の光学系2では、光源31からの光が、反射ミラー33と照明光学系レンズ34を通り、穴あきミラー22で反射されて対物レンズ21を通過し、眼底Eを照明する。また眼底Eからの反射光は、対物レンズ21と穴あきミラー22の穴を通り、瞳と共役の位置に置かれた絞り23を通り、リレーレンズ25,フォーカスレンズ26および結像レンズ27で、眼底画像が結像されるようになっている。
【0019】
第3の光学系5は、結像レンズ27の出射方向に配置され、第1の光路O1上にあるミラー13と、このミラー13で分岐した光の一部を捕捉するカメラ14とを含んでいる。ここで用いるミラー13は、ハーフミラーまたはダイクロイックミラー(例えば可視光反射、赤外光透過)である。ミラー13がハーフミラーの場合には、眼底Eからの反射光の一部を90度曲げて反射し、カメラ14で眼底Eの映像を撮影して、直接モニター15で観察することができる。また、ミラー13がダイクロイックミラーの場合には、可視光が90度屈折して反射され、同様にモニター15で映像を観察することができ、赤外光がミラー13を透過する。
【0020】
本実施例では、眼底Eからの反射光の残りの部分がミラー13を透過し、スリット4を通り、分光素子6で分光されて二次元撮像素子7に結像し、その分光像を蓄積手段8に記憶蓄積する構成となっている。蓄積手段8は、一般的に使用されている半導体メモリ,磁気記録装置,光学的なメモリなど何れでもよい。
【0021】
点光源である光源31から光を眼底Eに照射すると、前記モニター15で眼底Eの映像が観察可能になる。これにより、対物レンズ21に対して被検眼を正しい位置に向かわせるアライメント調整を行なったり、フォーカスレンズ26を第1の光路O1に沿って移動させて、被検眼のフォーカス調整などを行なうことができる。そして、こうしたアライメント調整やフォーカス調整を行った後に、図示しない操作スイッチを押動操作すると、分光素子6を通して分光された眼底画像(分光像)が、二次元撮像素子7に取り込まれるようになっている。
【0022】
9は、前記第1の光学系2,第2の光学系3,スリット4,分光素子6,二次元撮像素子7などを走査する走査手段であり、制御装置10によって蓄積手段8とともに連動して制御される。制御装置10は、蓄積手段8で蓄積した分光像を解析する機能を備え、その解析結果が表示手段であるモニター12に表示されるようになっている。なお、制御装置10については、後ほど改めてその構成を詳しく説明する。
【0023】
前記スリット4は線状の開口を有し、二次元撮像素子7の1フレームには、スリット4に対応する眼底Eのなかの1ラインの像が、当該スリット4と直交する方向に分光されて結像する。すなわち、スリット4の方向が二次元撮像素子7のX軸方向だとすると、X軸方向は眼底Eのなかの1ラインに対応し、Y軸方向には、該1ライン上の各点での入射光を分光したスペクトルでの光強度が対応する。眼底Eのなかのラインの像を、スリット4と直交する方向に順次走査して、二次元撮像素子7で撮像すると、Nステップ走査すればNフレームの二次元分光像を得ることができる。
【0024】
上記の走査手段9の具体例は、特開2005−296400号公報に開示されているので、ここでは詳しく説明しない。一つの例としては、第1の光学系2の瞳孔共役面付近にミラーを設置し、このミラーを回転走査することにより、実質的に瞳孔の位置から眼球内を回転ミラーで走査するのと同等の効果を得ることで、曲面である眼底Eの画像を鮮明に結像させて、鮮明な眼底Eの分光像を取得することができる。また別な例として、スリット4と第2の光学系3と二次元撮像素子7とを一体的に走査してもよい。この場合、眼底画像がスリット4の位置に結像するので、これらのスリット4と第2の光学系3と二次元撮像素子7とを一体として走査すれば、鮮明な眼底Eの分光像を得ることができる。
【0025】
さらに別な例では、瞳孔の位置を中心として、第1の光学系2とスリット4と第2の光学系3と二次元撮像素子7とを一体的に回転走査する。この場合、第3の光学系5も含めて回転走査してもよく、二次元撮像素子7上に眼底Eの分光像が常に鮮明に結像する。
【0026】
いずれの場合においても、走査手段9の動作は制御装置10により制御され、同時に蓄積手段8に、二次元撮像素子7で取得した眼底Eの分光像が蓄積される。なお、第2の光学系3のなかの分光素子6は、基本的にはプリズムであるが、分光の分解能を高めるために、透過型の回折格子を使用する。または、プリズムと回折格子の組み合わせでもよい。
【0027】
次に、蓄積手段8に蓄積された分光像の処理について説明する。まず、分光感度を正規化するために、白色板または白色に塗装した擬似眼を被検眼の眼底Eに相当する位置に置いて、その分光像を二次元撮像素子7で取得する。制御装置10は、この分光像に基づき分光スペクトルの基準値を校正する。このようにして得られた分光像をもとに解析を行う。
【0028】
検眼に使用する光源31の照明光は可視光でもよいが、その場合は被検眼が縮瞳してしまうので、一般的には瞳孔を開くための薬物投与を行う。しかし、被検者に苦痛を与えるため、短時間の検査しかできない。そこで、目には感じない赤外線領域の照明光を使用する。赤外線領域の光の波長は700nmから1000nmである。
【0029】
眼底画像は一般にカラー画像であるため、これを光の三原色に分解することができる。とりわけ眼底画像では、主に緑色に網膜の血管走行に関する情報が含まれていることが多く、従来の先行文献(曲谷一成他,「カラー眼底写真の自動解析」,電気情報通信学会技術研究報告,第91巻,第431号,p.47〜52)などから、そのことが示されている。図1に示す眼底撮影装置1は、そうした様々な波長(例えば、緑であれば546.1nm)について、各波長毎に眼底画像を取得し、それをグレースケールで表示すると共に(二次元表示)、各ピクセルの輝度情報を元に、明るい輝度情報をもつピクセルは高く、暗い輝度情報をもつピクセルは低く表示することで、前記二次元表示された一枚の眼底画像を三次元的に表示する機能を備えている。なお、この三次元表示に際しては、各ピクセルの輝度情報に対応して表示を行なえばよく、例えば、暗い輝度情報をもつピクセルであるほど、高く表示するようにしてもよい。
【0030】
例えば、前記分光像解析の一実施例として、546.1nmの波長での分光像を画像化する。具体的な手法としては、蓄積手段8に蓄積された第1フレームから第Nフレームまでの分光像の中から、546.1nmの波長に相当する部分のデータを抽出して、順次、1枚の画面に並べてゆくことにより、546.1nmの波長で観測した眼底像を得ることができる。
【0031】
図2の(a)と(b)には、こうした特定の波長における眼底画像の二次元表示と、この二次元表示を基に作成した眼底画像の三次元表示がそれぞれ示されている。図2(a)の二次元表示では、中央部に他の部分よりも暗い照明ムラが確認できる。また図2(b)の三次元表示では、血管の走行が立体的に確認でき、また前記照明ムラが立体的に凹んでいる様子が確認できる。すなわち、図2(b)における三次元表示では、X−Y平面に広がる各ピクセル毎に、その輝度情報をZ軸方向に立体的にあらわしている。このような手法を用いることで、血管走行を立体的に視認することが可能になる。
【0032】
なお、カラー画像から特定の波長の分光像を取得する手段として、他に光学的フィルターを用いてもよい。しかし、フィルターを使うにはその装着スペースを必要とするだけでなく、違った波長の分光像を取得する場合には、フィルターの交換が必要になって、余分な手間がかかる。この上記の眼底撮影装置1では、700nmから1000nmにわたる様々な波長の分光像データが蓄積されているので、制御装置10の解析処理だけで、必要とする波長での観測結果を即座に得ることができる。
【0033】
次に、前記制御装置10の内部構成を、図3のブロック図に基づき説明する。同図において、例えばパーソナルコンピュータなどで構成される制御装置10は、そのソフトウェア的な機能として、二次元撮影素子7で光電変換された眼底Eの処理前の分光像データ(原画像データ)を取得し、これを蓄積手段8に記憶蓄積させる原画像取得手段41と、蓄積手段8にある各波長の分光像データから特定の分光像データを選択し、必要に応じて二次元のグレースケール表示や、各ピクセルの輝度情報に基づく三次元の表示をモニター12に行なわせる原画像選択手段42と、原画像選択手段42で選択された特定の波長の眼底画像データについて、照明ムラを数学的な手法で除去する画像補正手段43とを備えている。この中で、前記原画像取得手段41と前記原画像選択手段42は前述した通りのものであり、要は撮影対象となる画像を後段の画像補正手段43に出力できるものであればよい。本発明の実質的な特徴部分は、後述する画像補正手段43の各構成に含まれている。
【0034】
画像補正手段43は、原画像選択手段42から得られた眼底画像データに、任意の分布の照明ムラが加算されていると仮定し、平行光が照明されているのと同じ状態になるように、コンピュータシミュレーション技術を応用してその分布を求めると共に、求めた分布を眼底画像から取り除くことで、眼底画像データから照明ムラを除去する機能を備えている。より具体的には、ここでの画像補正手段43は、照明ムラの分布が正規分布であると仮定し、その分布の頂点座標,広がりおよびピーク値を初期値として設定する初期値設定手段51と、この設定した初期分布を眼底画像データから減算して、この眼底画像データの標準偏差を求める標準偏差算出手段52と、前記算出した標準偏差が最小となるような正規分布を、ガウス・ニュートン法(非線形最小二乗法)を用いて求める最適分布算出手段53と、この正規分布算出手段53で算出した標準偏差が最小となる正規分布を、元の眼底画像データから取り除いて照明ムラを除去する画像修正手段54とにより構成される。
【0035】
なお、これらの各構成において、照明ムラの分布は、点光源を照明したときの平面上の光の分布が、ガウス分布に従うことに基づいて正規分布を想定しているが、それ以外の分布を想定しても構わない。また、画像修正手段54で得た処理後の眼底画像データに残る照明ムラを、さらに画像補正手段43により繰り返し取り除くようにしてもよい。この場合、最初から決められた処理回数を繰り返してもよく、或いは無用な処理時間の増加を避けるために、最適分布算出手段53で得られた分布のピーク値が所定の高さになるまで、画像補正手段43による処理を繰り返し、その高さ以下になったら、画像補正手段43による処理を終了する構成にしてもよい。
【0036】
次に、本発明における点光源撮影画像の補正方法に対応した上記画像補正手段43の処理手順を、図4のフローチャートに基づき説明する。同図において、ステップS1にて、制御装置10の画像補正手段43は、原画像選択手段42から特定の波長の眼底画像データを取得する。この処理前の眼底画像データには、各ピクセルの位置情報(x,y)と、ピクセル毎の輝度情報(z)が含まれている。次に、画像補正手段43を構成する初期値設定手段51は、その処理前の眼底画像データに重畳されていると推測される照明ムラが、特定の分布(例えば、正規分布)に従うものと仮定して、これを最初に推測する初期分布として設定する(ステップS1)。この初期分布には、分布の頂点位置をあらわす座標と、正規分布の広がりと、頂点位置における輝度のピーク値が初期のパラメータ値として設定されている。
【0037】
次に、画像補正手段43の標準偏差算出手段52は、ステップS2の手順において、設定した初期分布を予め取得した眼底画像データから減算し、各ピクセル毎に算出される輝度情報の差の標準偏差を求める。ここで、元の眼底画像(原画像)データに照明ムラが存在しなければ、その眼底画像の標準偏差は眼底画像自身が持つ値の分散のみになるが、照明ムラがそれに加算されていれば、値の分散が拡大する。そこで、画像補正手段43の最適分布算出手段53は、次のステップS3において、設定した正規分布と眼底画像データとの差により算出した標準偏差の結果から、元の眼底画像データを参照しながら、標準偏差の値がより小さくなると予測される正規分布を新たに設定し、この新たに推測設定した正規分布を眼底画像データから減算して、同様に標準偏差を求める手順を繰り返し実行し、最終的にその標準偏差が最小となるような、照明ムラに関する最適な正規分布をガウス・ニュートン法を用いて決定する(ステップS4)。
【0038】
図5は、前記標準偏差を指標として、照明ムラに関する最適な分布を求める過程のグラフを示している。すなわちこの図5は、各ピクセル毎に算出される設定した正規分布と眼底画像データとの差の確率分布を示しており、(a)に示す初期分布に基づく結果では、標準偏差が0.0139となっており、(b)に示す最終的に決定した分布に基づく結果では、標準偏差が0.0005にまで最小化されている。また、図6は最終的に決定抽出した分布を示している。同図において、x−y軸は眼底画像データを構成する各ピクセルの位置に対応し、z軸は輝度情報に対応する。標準偏差の値が小さいほど、決定した分布は元の眼底画像データに加えられた照明ムラに近い特徴を有するものとなる。
【0039】
こうして、照明ムラの特徴に近似する最適な分布を最適分布算出手段53で抽出すると、画像補正手段43の画像修正手段54はステップS4において、この最適な分布を元の眼底画像データから取り除き、眼底画像データに含まれる照明ムラを除去する。図7は、図2の眼底画像から図4の分布に従う照明ムラを除去した処理後の眼底画像を示しており、ここでは中央部に存在していた照明ムラが除去され、全体的に明るくなった様子が確認できる。すなわち、点光源からの照明光で撮影したにも拘らず、あたかも平行光によって照明されたような照明ムラのない眼底画像を取得できる。また本手法では、いわゆるフィルタリング処理によるものとは異なり、本来の画像自身が持つ情報を失うことなく、照明ムラだけを効果的に取り除くことが可能になる。
【0040】
画像補正手段43は、必要に応じて上述したステップS1〜S4の手順を繰り返し実行してもよい。例えばステップS5において、前記ステップS3で決定した分布のピーク値が、予め決められた所定値を越えていたら、処理後の眼底画像データに未だ暗部などの好ましくない部分が残っていると判断して、再度この処理後の眼底画像データを元のデータとしてステップS1〜S4の各手順を実行する。こうして再び得られた眼底画像データに関し、ステップS3で決定した分布のピーク値が前記所定値以下であったら、最終的な処理後の眼底画像データを確定して全ての手順を終了する。
【0041】
図8は、照明ムラに対応した正規分布(ガウス分布)で一度処理を施した眼底画像の三次元表示をあらわしており、ここでは処理後の眼底画像の中央部に、まだ暗部が存在しているように見える(図中の円で囲んだ部分)。なおこの図では、暗部が凸状に膨らむように、原画像が反転表示されている。この処理後の眼底画像データを画像補正手段43で再補正すると、図9に示すような比較的整ったガウス分布が抽出できた。図10(a)は、1回目の画像補正後における眼底画像の二次元表示と三次元表示を示し、図10(b)は、2回目の画像補正後における眼底画像の二次元表示と三次元表示を示しているが、両者の比較において、2回目の画像補正後における眼底画像の方が、中心部付近にある暗部を完全に除去できている。これにより、複数回の画像補正を繰り返すことで、より平行光で照明したような眼底画像が得られるという効果を確かめることができた。
【0042】
なお、こうした照明ムラの除去を目的とした眼底画像データの補正は、暗い部分だけではなく、明るすぎる部分に対しても可能である。図11と図12は、そうした明るすぎる部分の補正前と補正後における眼底画像の例を示したものである。図11(a)は、補正前の眼底画像を示しているが、ここでは上部に明るすぎる部分が確認できる。一方、図11(b)は、補正後の眼底画像を示しており、前記明るすぎる部分が明らかに抑えられていることがわかる。図12は別な眼底画像の例を示しているが、ここでも補正前の眼底画像(図12(a))と比較して、補正後の眼底画像(図12(b))は、明るすぎる部分が効果的に抑制されており、その結果、網膜血管の走行状態がよく分かるようになっている。
【0043】
また、実際の処理手順において、暗い部分を明るく補正する場合には、取得した原画像データに対し、各ピクセル毎の輝度情報の値を一旦全て反転させてから(例えば、輝度情報が256階調で記録されている場合、0→255となり、255→0となる。式で言えば、(反転後の値)=255−(反転前の値))、最適なガウス分布を探し出し、得られたガウス分布を原画像データから減算し、その結果を再度反転させることで、補正後の画像データを求めるようにしているが、明るい部分を暗くする場合には、上述した反転および再反転の処理が不要になり、原画像データからそのまま最適なガウス分布を探し出し、得られたガウス分布を原画像データから減算すれば、補正後の画像データを求めることができる。
【0044】
以上のように、本実施形態における点光源撮影画像の補正装置は、眼底撮影装置1に組み込まれた画像補正手段43を含む制御装置10として構成され、これは点光源である光源31からの照明光で撮影した被写体(眼底E)の原画像データを取得する原画像取得手段41と、原画像データに加算されている照明ムラに従う分布を推測し、この推測した分布と実際の照明ムラに従う最適な分布との差が最小となるように演算を行なうことで、当該最適な分布を抽出する最適分布算出手段53と、この最適分布算出手段53で抽出した最適な分布を原画像データから取り除く画像修正手段54とを備えて構成される。
【0045】
このようにすると、最適分布算出手段53は、原画像データが照明ムラのない画像自身の情報に、任意の分布の照明ムラを加算したものであると仮定して、推測した分布が照明ムラに従う適切な分布となるようにシミュレーション演算を行ない、照明ムラに従う最適な分布を抽出する。そして、この最適な分布を画像修正手段54により元の原画像データから取り除けば、従来のように原画像データ全体をフィルタリングによりぼかすのではないので、本来の画像自身が持つ情報を損なうことなく、あたかも平行光で照明されたような照明ムラのない画像データを取得できる。
【0046】
そしてこれは、点光源である光源31からの照明光で撮影した被写体の原画像データを取得する第1のステップと、原画像データに加算されている照明ムラに従う分布を推測し、この推測した分布と実際の照明ムラに従う最適な分布との差が最小となるように演算を行なうことで、この最適な分布を抽出する第2のステップと、当該最適な分布を原画像データから取り除いて、補正処理後の画像データを出力する第3のステップとを実行する補正方法によっても実現する。
【0047】
また、ここでの最適分布算出手段53は、初期設定による推測した分布を原画像データから減算した値の標準偏差を求め、この標準偏差がより小さくなると予測される分布を新たに設定し、この新たに設定推測した分布を原画像データから減算して、同様に標準偏差を求める手順を繰り返し、この標準偏差が最小になるような最適な分布を求めて、この最適な分布を抽出するように構成している。
【0048】
こうすると、各ピクセル毎に推測した分布と原画像データとの差を求めて、その標準偏差を求め、当該標準偏差が最小となるように推測した分布をその都度再設定して、最終的に照明ムラに従う最適な分布を求めることができる。そのため、この最適な分布を統計的な見地から効率よく抽出することが可能になる。
【0049】
またこれは、前記第2のステップで、初期設定による推測した分布を原画像データから減算した値の標準偏差を求め、この標準偏差がより小さくなると予測される分布を新たに設定し、この新たに設定推測した分布を原画像データから減算して、同様に標準偏差を求める手順を繰り返し、この標準偏差が最小になるような最適な分布を求めて、この最適な分布を抽出する方法でも実現する。
【0050】
さらに、本実施形態では、前記画像修正手段54で補正処理した画像データを、最適分布算出手段53に原画像データとして再度取り込めるように構成している。
【0051】
このようにすると、照明ムラの除去を複数回行なった補正処理後の画像データを取得することが可能になり、より照明ムラの少ない画像データを得ることができる。
【0052】
そしてこれは、補正処理した画像データを、前記第2のステップで原画像データとして再度取り込む方法でも実現可能である。
【0053】
その他、従来の写真による眼底撮影では、インドシアニングリーンなどの蛍光物質を静脈投与する必要があり、薬物事態の副作用が懸念されるばかりでなく、静脈投与という身体的侵襲が加わる。本実施形態における画像補正手段43を、点光源である光源31からの照明光で眼底Eを撮影する眼底撮影装置1に組み込むことによって、完全な非侵襲的な検査を行なうことができる。
【0054】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲において種々の変形実施が可能である。例えば本実施形態における補正装置(画像補正手段43)は、眼底撮影装置1の一部として組み込まれているが、独立した装置として構成してもよく、その場合には種々の眼底撮影以外の撮影装置に接続することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
実施例では、点光源で照明された眼底画像の照明ムラを取り除く装置と方法について説明したが、被写体は眼底Eに限られるものではない。例えば胃や腸などを被写体とした内視鏡を始めとして、一乃至複数の点光源で被写体を照明する各種医療機器などにも、本発明の技術を広範囲に且つ有効に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】一般的な眼底撮影装置の概略図である。
【図2】図1の眼底撮影装置で得られる処理前の眼底画像の図であり、(a)は眼底画像の二次元表示を示し、(b)は眼底画像の三次元表示を示している。
【図3】本発明の好ましい一実施形態である制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】同上、制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】同上、設定した分布を眼底画像データから減算したときの各ピクセル毎の輝度情報に関する確率分布のグラフを示し、(a)は初期の結果を示し、(b)は最終的な結果を示している。
【図6】同上、抽出された照明ムラに対応する分布のグラフである。
【図7】同上、照明ムラを除去した処理後の眼底画像の図であり、(a)は眼底画像の二次元表示を示し、(b)は眼底画像の三次元表示を示している。
【図8】同上、画像補正手段で一度処理を施した眼底画像の三次元表示をあらわす図である。
【図9】同上、図8の眼底画像データを元にして、画像補正手段43が抽出した分布のグラフである。
【図10】同上、照明ムラを除去した処理後の眼底画像の図であり、(a)は1回目の画像補正後における眼底画像の二次元表示と三次元表示を示し、(b)は2回目の画像補正後における眼底画像の二次元表示と三次元表示を示している。
【図11】同上、特に明るすぎる部分の補正を目的とした眼底画像の例を示しており、(a)は画像補正前の眼底画像を示し、(b)は画像補正後の眼底画像を示している。
【図12】同上、特に明るすぎる部分の補正を目的とした眼底画像の別な例を示しており、(a)は画像補正前の眼底画像を示し、(b)は画像補正後の眼底画像を示している。
【図13】(a)は点光源からの光の広がりを示した図であり、(b)は平行光源からの光の広がりを示した図である。
【図14】一般的な眼底画像を示した図であり、(a)はフィルタリング処理前の眼底画像であり、(b)はフィルタリング処理後の眼底画像である。
【符号の説明】
【0057】
31 光源(点光源)
41 原画像取得手段
53 最適分布算出手段
54 画像修正手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
点光源からの照明光で撮影した被写体の原画像データを取得する原画像取得手段と、
前記原画像データに加算されている照明ムラに従う分布を推測し、この推測した分布と実際の照明ムラに従う最適な分布との差が最小となるように演算を行なうことで、当該最適な分布を抽出する最適分布算出手段と、
この最適分布算出手段で抽出した最適な分布を前記原画像データから取り除いて、補正処理した画像データを出力する画像修正手段とを備えたことを特徴とする点光源撮影画像の補正装置。
【請求項2】
前記最適分布算出手段は、初期設定による推測した分布を前記原画像データから減算した値の標準偏差を求め、この標準偏差がより小さくなると予測される分布を新たに設定し、この新たに設定推測した分布を前記原画像データから減算して、同様に標準偏差を求める手順を繰り返し、前記標準偏差が最小になるような前記最適な分布を求めて、この最適な分布を抽出するものであることを特徴とする請求項1記載の点光源撮影画像の補正装置。
【請求項3】
前記画像修正手段で補正処理した画像データを、前記最適分布算出手段に前記原画像データとして再度取り込めるように構成したことを特徴とする請求項1または2記載の点光源撮影画像の補正装置。
【請求項4】
点光源からの照明光で撮影した被写体の原画像データを取得する第1のステップと、
前記原画像データに加算されている照明ムラに従う分布を推測し、この推測した分布と実際の照明ムラに従う最適な分布との差が最小となるように演算を行なうことで、当該最適な分布を抽出する第2のステップと、
この最適な分布を前記原画像データから取り除いて、補正処理した画像データを出力する第3のステップとを行なうことを特徴とする点光源撮影画像の補正方法。
【請求項5】
前記第2のステップで、初期設定による推測した分布を前記原画像データから減算した値の標準偏差を求め、この標準偏差がより小さくなると予測される分布を新たに設定し、この新たに設定推測した分布を前記原画像データから減算して、同様に標準偏差を求める手順を繰り返し、前記標準偏差が最小になるような前記最適な分布を求めて、この最適な分布を抽出することを特徴とする請求項4記載の点光源撮影画像の補正方法。
【請求項6】
前記補正処理した画像データを、前記第2のステップで前記原画像データとして再度取り込むことを特徴とする請求項4または5記載の点光源撮影画像の補正方法。
【請求項1】
点光源からの照明光で撮影した被写体の原画像データを取得する原画像取得手段と、
前記原画像データに加算されている照明ムラに従う分布を推測し、この推測した分布と実際の照明ムラに従う最適な分布との差が最小となるように演算を行なうことで、当該最適な分布を抽出する最適分布算出手段と、
この最適分布算出手段で抽出した最適な分布を前記原画像データから取り除いて、補正処理した画像データを出力する画像修正手段とを備えたことを特徴とする点光源撮影画像の補正装置。
【請求項2】
前記最適分布算出手段は、初期設定による推測した分布を前記原画像データから減算した値の標準偏差を求め、この標準偏差がより小さくなると予測される分布を新たに設定し、この新たに設定推測した分布を前記原画像データから減算して、同様に標準偏差を求める手順を繰り返し、前記標準偏差が最小になるような前記最適な分布を求めて、この最適な分布を抽出するものであることを特徴とする請求項1記載の点光源撮影画像の補正装置。
【請求項3】
前記画像修正手段で補正処理した画像データを、前記最適分布算出手段に前記原画像データとして再度取り込めるように構成したことを特徴とする請求項1または2記載の点光源撮影画像の補正装置。
【請求項4】
点光源からの照明光で撮影した被写体の原画像データを取得する第1のステップと、
前記原画像データに加算されている照明ムラに従う分布を推測し、この推測した分布と実際の照明ムラに従う最適な分布との差が最小となるように演算を行なうことで、当該最適な分布を抽出する第2のステップと、
この最適な分布を前記原画像データから取り除いて、補正処理した画像データを出力する第3のステップとを行なうことを特徴とする点光源撮影画像の補正方法。
【請求項5】
前記第2のステップで、初期設定による推測した分布を前記原画像データから減算した値の標準偏差を求め、この標準偏差がより小さくなると予測される分布を新たに設定し、この新たに設定推測した分布を前記原画像データから減算して、同様に標準偏差を求める手順を繰り返し、前記標準偏差が最小になるような前記最適な分布を求めて、この最適な分布を抽出することを特徴とする請求項4記載の点光源撮影画像の補正方法。
【請求項6】
前記補正処理した画像データを、前記第2のステップで前記原画像データとして再度取り込むことを特徴とする請求項4または5記載の点光源撮影画像の補正方法。
【図1】
【図3】
【図4】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図3】
【図4】
【図2】
【図5】
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【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−173894(P2007−173894A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364372(P2005−364372)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(505467661)テクノスマート株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(505467661)テクノスマート株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
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