説明

無励磁作動形電磁ブレーキの動作音低減構造

【課題】アーマチュア吸引時にヨークとの衝突による動作音を低減し、製造コストを抑えることができるとともに、吸引力および吸引限界寿命の低下を抑制することができる無励磁作動型電磁ブレーキの動作音低減構造を提供する。
【解決手段】電磁コイルを巻回したヨーク51と、モータシャフト4とともに回転するブレーキハブ53と、前記ヨーク51とブレーキハブ53との相互間に、同軸上に配置され、かつ軸方向に移動可能なアーマチュア52と、前記アーマチュア52を前記ブレーキハブ53方向に押圧するバネ55と、前記アーマチュア52端面に装着されるとともに、その先端部を前記ヨーク51端面に軸方向に沿って設けられたガイドピン孔51cに挿入されたガイドピン56と、を備えた電磁ブレーキにおいて、前記ヨーク51に設けたガイドピン孔51cの周囲に同心状に座ぐり部51dを設け、前記座ぐり部51dに環状の弾性体57を配置したことにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型の電磁ブレーキにおける吸引時の衝突音を防止し得る無励磁作動形電磁ブレーキの動作音低減構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無励磁作動形電磁ブレーキの動作音としては、制動時の制動バネによる可動鉄心が回転円板に衝突する音と、吸引時の可動鉄心が固定鉄心に衝突する音がある。この可動鉄心が固定鉄心に衝突する音を低減する方法として特許文献1が知られている。
この特許文献1によると、可動鉄心か固定鉄心の一方に凹部を設け、この凹部に弾性体を埋設し、可動鉄心と固定鉄心が衝突する前に弾性体に当たるようにしている。しかしながら、可動鉄心か固定鉄心の一方に凹部を設ける必要があるため、凹部を設けるスペースを確保すると、外形が大きくなったり、凹部を加工することで製造コストが増加する不具合がある。
【0003】
そこで、特許文献1の改良として特許文献2が知られている。この特許文献2によると、衝突音発生箇所である吸着面の内側と外側に大きな段差(隙間)を設け、弾性体となるOリングを入れるスペースを確保している。そして、アーマチュアをガイドするガイドピンによってOリングを保持するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2669944号公報
【特許文献2】特許第3852818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2では、比較的大型の電磁ブレーキには有効であるが、小型の電磁ブレーキでは段差(隙間)が大きくなると、磁気抵抗の増加により吸引力が著しく低下し、吸引限界寿命が短くなるという問題が発生する。したがって、小型の電磁ブレーキには不向きの構造である。
【0006】
本発明は、アーマチュア吸引時にヨークとの衝突による動作音を低減し、製造コストを抑えることができるとともに、吸引力および吸引限界寿命の低下を抑制することができる無励磁作動型電磁ブレーキの動作音低減構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、電磁コイルを巻回したヨークと、モータシャフトとともに回転するブレーキハブと、前記ヨークとブレーキハブとの相互間に、同軸上に配置され、かつ軸方向に移動可能なアーマチュアと、前記アーマチュアを前記ブレーキハブ方向に押圧するバネと、前記アーマチュア端面に装着されるとともに、その先端部を前記ヨーク端面に軸方向に沿って設けられたガイドピン孔に挿入され、前記アーマチュアの軸方向の移動のみを案内するガイドピンと、を備えてなる無励磁作動型電磁ブレーキにおいて、前記ヨークに設けたガイドピン孔の周囲に同心状に座ぐり部を設け、前記座ぐり部に環状の弾性体を配置したことにある。
また、本発明は、前記座ぐり部の径を、前記弾性体の外径よりも大きくしたことにある。
さらに、本発明は、前記弾性体の内周を前記ガイドピンの外周に密着するように前記弾性体の内径を設定したことにある。
またさらに、本発明は、前記弾性体がOリングであることにある。
【発明の効果】
【0008】
請求項1によれば、ヨークに設けたガイドピン孔の周囲に同心状に座ぐり部を設け、前記座ぐり部に環状の弾性体を配置したので、ヨークとアーマチュアの間隙を最小限に抑えることができることから、磁気抵抗の増加を抑制し、吸引力の低下を防ぐことができる。
請求項2によれば、座ぐり加工時の加工精度が緩和され、製造コストの増加を抑えることができる。
請求項3によれば、位置ずれや組立途中での脱落を防止することができ、組立精度が向上する。
請求項4によれば、汎用部品を用いることにより部品交換が容易で、経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態による無励磁作動型電磁ブレーキの動作音低減構造を示す縦断面図である。
【図2】(a)は、モータシャフトに制動力を付与した状態を示す、図1のA部拡大断面図、(b)はアーマチュアを吸引してモータを作動させる状態を示す断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】図3のC−C線拡大断面図である。
【図5】本発明の他の実施の形態による弾性体を示す断面図である。
【図6】(a)は、モータシャフトに制動力を付与した状態を示す、図1のA部拡大断面図、(b)はアーマチュアを吸引してモータを作動させる状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図示の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1ないし図4において、1はモータで、このモータ1のモータケース2からは軸受3によって支持されたモータシャフト4の一端部が外部に延出されている。なお、モータシャフト4の他端部は、モータケース2の反対側の端面から外部に延出されてモータ1の出力軸(図示せず。)となっている。
【0011】
5はモータ1のモータケース2端面に組み付けられた電磁ブレーキで、この電磁ブレーキ5の軸線上には、前記モータシャフト4の一端部4aが挿通されている。
【0012】
前記電磁ブレーキ5は、電磁コイル50を内装し、前記モータシャフト4の一端部4aと同心状に、前記モータケース2端面に組み付けられた固定鉄心となるヨーク51と、前記モータシャフト4の一端部4aと同心状に配置され、前記ヨーク51に対して接離可能に配置された円板状のアーマチュア52と、前記モータシャフト4の端部に固定され、前記アーマチュア52を挟んで前記ヨーク51に対向する回転摩擦板としてのブレーキハブ53と、前記ブレーキハブ53に対向する前記アーマチュア52の板面に接着固定された摩擦材としてのブレーキシュー54と、前記アーマチュア52を前記ブレーキハブ53側に付勢するバネ55とで構成されている。
【0013】
前記電磁コイル50は、前記ヨーク51内側に形成された空洞部51aに、コイルを巻装して構成され、図示しない電源から通電されて、磁気回路を構成して、前記アーマチュア52を吸引して作動させるものである。前記バネ55は、前記ヨーク51の中心に形成されたモータシャフト4の挿通孔51bにモータシャフト4と同心状に軸方向に沿って内装されたコイルバネであり、前記アーマチュア52を前記ブレーキハブ53側に付勢している。前記バネ55の一端部は、前記ヨーク51の内径側一端部に係止され、前記バネ55の他端部は、前記アーマチュア52の板面に当接している。
【0014】
前記ヨーク51の周縁部には、円周方向に一定間隔で複数(図示例では3箇所)のガイドピン孔51cが設けられ、このガイドピン孔51cにそれぞれガイドピン56が圧入されている。前記アーマチュア52には、前記ガイドピン56に対応する位置に、ガイドピン56が挿通される挿通孔52aが形成されている。
前記ガイドピン孔51cの周囲には、一定深さの座ぐり部51dが設けられており、この座ぐり部51dには、Oリング等の環状の弾性体57が配置されている。この座ぐり部51dは、外径を弾性体57の外径よりも大きく形成されており、かつ弾性体57の内径を前記ガイドピン56に密着するように形成されている。電磁コイル50の作動時には、前記アーマチュア52は、弾性体57に係止され、弾性体57を弾性変形させた後に前記ヨーク51に当たるように構成されている。
【0015】
前記ブレーキハブ53は、円筒状の胴部53aと、胴部53aの一端部に形成された円板部53bとで構成され、円板部53bの前記アーマチュア52との対向面を摩擦板に構成している。前記胴部53aには、径方向に挿通されたネジ孔53cが形成され、このネジ孔53cにはモータシャフト4に向けて固定ネジ58が螺着され、ブレーキハブ53をモータシャフト4に固定している。
【0016】
次に、上記無励磁作動型電磁ブレーキの動作音低減構造の動作を説明すると、バネ55による付勢力でアーマチュア52を軸方向に移動させ、モータシャフト4と一緒に回転するブレーキハブ53に、ブレーキシュー54を押し当てる。こうして、ブレーキハブ53と、ブレーキシュー54との摩擦力でモータシャフト4にブレーキをかける。アーマチュア52はガイドピン56に係止されているので、摩擦力発生時、回転することはなく、図2(a)のギャップGの範囲内で軸方向に移動することができる。
【0017】
電磁コイル50に通電することで、ヨーク51を介して磁力を発生させ、アーマチュア52を吸引する。アーマチュア52が吸引されて、ブレーキシュー54がブレーキハブ53から離れてブレーキ摩擦力を解放する。こうして、モータシャフト4に対するブレーキ力が解除されてモータシャフト4が回転可能となる。このとき、アーマチュア52は、図2(b)のように、ブレーキハブ53とギャップGを生じ弾性体57に係止される。こうして、アーマチュア52がヨーク51と接触する前に弾性体57に当接して衝撃を吸収するので、大きな衝突音を発生することがない。
【0018】
環状の弾性体57は、ヨーク51に設けた座ぐり部51dに収容されるので加工が容易である。この座ぐり部51dと環状の弾性体57の間には、適度な隙間を設けることで、座ぐり加工時の加工精度が緩和され、製造コストの増加を抑えることができる。また、座ぐり部51dは、ガイドピン56が圧入されるガイドピン孔51cと同心状にすることで、ガイドピン孔51cと同時加工が可能となり、製造コストの増加を抑えることができる。
【0019】
前記ヨーク51の端面には、吸着面の外側と内側とで段差sを形成しており、この段差sによるエアギャップを設けることで、磁気抵抗となり、ブレーキを動作させる際のアーマチュア釈放動作遅れ時間の短縮を目的に適度な値に設定される。
【0020】
本構造では、環状の弾性体57が入るスペースが段差sに直接影響しない。また、環状の弾性体57が入るスペースを座ぐり部51dのみにすることで、磁気抵抗の増加を抑え吸引力の低下を抑えることができる。環状の弾性体57は、ガイドピン56に沿って密着した状態で収容することで、位置ずれや組立途中での脱落を防止できる等、組立制度が向上する。
【0021】
図5は環状の弾性体57の他の実施の形態で、ゴム製ワッシャを用いたものである。
また、図6(a)(b)は、アーマチュア52と弾性体57を常時接触状態にした他の実施の形態で、この場合、ブレーキ作動状態(図6(a))と、モータ1の作動状態(図6(b))を、弾性体57の伸縮で行うようにしている。これによって、吸引時の衝突音低減の他にも、釈放時にブレーキハブ53とブレーキシュー54が衝突する際の振動を、アーマチュア52を介して吸収することで、衝突音の低減およびブレーキ制動時の鳴き音低減にも効果がある。
【0022】
上記の実施の形態によれば、アーマチュア52吸引時にヨーク51の衝突による動作音を低減できるとともに、ガイドピン孔51cと同心状に座ぐり部51dを形成しているので、弾性体57が入るスペースを確保する上で、製造コストを抑えた安価な構造を提供することができる。弾性体57が入るスペースを座ぐり部51dによって確保するので、磁気抵抗の増加を抑え吸引力の低下、吸引限界寿命の低下を抑えることができる。
【0023】
なお、本発明は、上記実施の形態のみに限定されるものではなく、環状の弾性体57には、Oリング、ゴム製のワッシャに限らず、衝撃を吸収するものであれば、弾性を有する他の素材のものを用いることもできる。また、座ぐり部51dの形状も、環状の弾性体57を収容できるものであれば、どのような形状の凹部でも採用することができる。その他本発明の要旨を変更しない範囲内で適宜変更して実施し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0024】
1 モータ
2 モータケース
3 軸受
4 モータシャフト
5 電磁ブレーキ
50 電磁コイル
51 ヨーク
51c ガイドピン孔
51d 座ぐり部
52 アーマチュア
53 ブレーキハブ
54 ブレーキシュー
55 バネ
56 ガイドピン
57 弾性体








【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁コイルを巻回したヨークと、モータシャフトとともに回転するブレーキハブと、前記ヨークとブレーキハブとの相互間に、同軸上に配置され、かつ軸方向に移動可能なアーマチュアと、前記アーマチュアを前記ブレーキハブ方向に押圧するバネと、前記アーマチュア端面に装着されるとともに、その先端部を前記ヨーク端面に軸方向に沿って設けられたガイドピン孔に挿入され、前記アーマチュアの軸方向の移動のみを案内するガイドピンと、を備えてなる無励磁作動型電磁ブレーキにおいて、
前記ヨークに設けたガイドピン孔の周囲に同心状に座ぐり部を設け、前記座ぐり部に環状の弾性体を配置したことを特徴とする無励磁作動型電磁ブレーキの動作音低減構造。
【請求項2】
前記座ぐり部の径を、前記弾性体の外径よりも大きくしたことを特徴とする請求項1に記載の無励磁作動型電磁ブレーキの動作音低減構造。
【請求項3】
前記弾性体の内周を前記ガイドピンの外周に密着するように前記弾性体の内径を設定したことを特徴とする請求項1または2に記載の無励磁作動型電磁ブレーキの動作音低減構造。
【請求項4】
前記弾性体がOリングであることを特徴とする請求項1ないし3に記載の無励磁作動型電磁ブレーキの動作音低減構造。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−99534(P2011−99534A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255945(P2009−255945)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000103792)オリエンタルモーター株式会社 (150)
【Fターム(参考)】