説明

無機微粒子分散ペースト組成物

【課題】スクリーン印刷性に優れ、かつ、低温で脱脂可能な無機微粒子分散ペースト組成物を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル樹脂と無機微粒子と有機溶剤とを含有する無機微粒子分散ペースト組成物であって、前記(メタ)アクリル樹脂は、分子末端のみに水素結合性官能基を少なくとも1個有し、かつ、ポリスチレン換算による数平均分子量が5000〜50000であり、前記有機溶剤は、分子中に水酸基又はアセトキシ基を少なくとも1個有し、かつ、沸点が170〜280℃である無機微粒子分散ペースト組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷性に優れ、かつ、低温で脱脂可能な無機微粒子分散ペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性粉末、セラミック粉末等の無機微粒子をバインダー樹脂に分散させた無機微粒子分散ペースト組成物が、様々な形状の焼成体を得るために用いられている。特に、無機微粒子として蛍光体をバインダー樹脂に分散させた蛍光体ペースト組成物は、有機EL等に用いられ、近年需要が高まりつつある。
無機微粒子分散ペースト組成物は、例えば、スクリーン印刷、ドクターブレード等を用いた塗工法、シート状に加工するためのキャスティング法等により所定の形状に加工した後、脱脂、焼成を行うことで必要な形状の焼成体とすることができる。なかでも、スクリーン印刷は、特に大量生産に適した方法である。
【0003】
特にスクリーン印刷で用いられる無機微粒子分散ペースト組成物は、チキソ性を有することが好ましい。チキソ性とは、例えば、回転粘度計で粘度を評価した場合、高回転(歪速度が高い変位)では低粘度を示し、低回転(歪速度が低い変位)では高粘度を示す性質であり、無機微粒子分散ペースト組成物においては、塗工の際には粘度が充分に低く塗工が容易で、一方、塗工後に静置して乾燥させる際には粘度が充分に高く自然流延してしまわないという性質が求められる。
【0004】
無機微粒子分散ペースト組成物に用いるバインダー樹脂としては、チキソ性を有するエチルセルロース等のセルロース系樹脂を用いることが一般的である。しかし、無機微粒子を分散させ、スクリーン印刷でパターンを印刷後、脱脂、焼成を行い、無機微粒子層を得るというプロセスを考慮した場合、セルロース系樹脂は熱分解性が悪いため、より高温で脱脂しなければならず、生産工程で大きなエネルギーが必要となる等の問題があった。
【0005】
このような問題に対し、熱分解性がよく、低温で脱脂することが可能であるアクリル系樹脂を用いる方法が検討され、例えば、アクリル系樹脂を用いた無機微粒子分散ペースト組成物が開示されている。通常のアクリル系樹脂では充分なチキソ性が得られないため、特許文献1に開示されている無機微粒子分散ペースト組成物では、アクリル系樹脂にチキソ性付与剤を添加することでチキソ性を付与していた。
【0006】
このようなペースト組成物は、アクリル系樹脂に起因する粘着性が非常に強く、スクリーン印刷をした場合、延糸が発生し、取り扱い性が悪く、粘着性の少ないセルロース系樹脂を用いた場合と比較すると印刷像が薄く、また洗浄性が悪いという問題があった。アクリル系樹脂の添加量を減らすことで粘着性は低減化できるが、それに伴い粘度が著しく低下するため、高比重の無機微粒子を分散させると無機微粒子が沈降したり凝集したりするという、いわゆる貯蔵安定性が悪くなるという問題があった。
そこで、アクリル系樹脂の分子量を高めて少ない樹脂添加量で高粘度を保持し、貯蔵安定性を維持する方法も考えられたが、分子量を高くすると、より激しく延糸が発生したり、スクリーン透過性がさらに悪化し、スクリーン印刷性、取り扱い性が悪くなったりするという問題があった。
【0007】
また、他方では高沸点溶剤とイソブチルメタクリレートポリマーからなるバインダー樹脂に、ひまし油類等のチキソ性付与剤を添加することで、バインダー樹脂を増粘させ、チキソ性を付与する方法が開示されている(特許文献2参照)。しかし、これらに用いられるチキソ性付与剤はいずれも熱分解性が悪いため、無機微粒子分散ペースト組成物を低温で脱脂することができなかった。
【特許文献1】特開2006−190491号公報
【特許文献2】特開2000−144124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、スクリーン印刷性に優れ、かつ、低温で脱脂可能な無機微粒子分散ペースト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(メタ)アクリル樹脂と無機微粒子と有機溶剤とを含有する無機微粒子分散ペースト組成物であって、上記(メタ)アクリル樹脂は、分子末端のみに水素結合性官能基を少なくとも1個有し、かつ、ポリスチレン換算による数平均分子量が5000〜50000であり、上記有機溶剤は、分子中に水酸基又はアセトキシ基を少なくとも1個有し、かつ、沸点が170〜280℃である無機微粒子分散ペースト組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、以下のことを見出した。
分子末端のみに水素結合性官能基を少なくとも1個有し、かつ、ポリスチレン換算による数平均分子量が5000〜50000である(メタ)アクリル樹脂と、分子中に水酸基又はアセトキシ基を少なくとも1個有し、かつ、沸点が170〜280℃である有機溶剤とからなるバインダー樹脂組成物においては、(メタ)アクリル樹脂が水素結合性官能基を外側に配したミセル状の相分離構造を形成する。水素結合性官能基と有機溶剤との間において水素結合による相互作用が働くため、一般的な有機溶剤と一般的なアクリル系樹脂とを相溶させた場合と比較すると、少ない樹脂の量でより粘度を高めることができる。すなわち、従来のアクリル系樹脂を用いた場合で問題となった延糸や粘着力を抑えた状態で粘度を高めることが可能であり、樹脂の量が少ないため、より低温で容易に分解させることが可能である。
このバインダー樹脂組成物に無機微粒子を添加することにより、バインダー樹脂組成物は、歪み速度に応じて粘度が変化するいわゆるチキソトロピー粘度特性(チキソ性)を示す。これは粘度測定時に系に歪みが掛かった際、水素結合したアクリル−溶剤間を無機微粒子が移動し、その移動する速度に応じて、切断される水素結合の数が変化するためと考えられ、チキソ性はバインダー樹脂組成物の粘度と添加する無機微粒子の量とに依存し、バインダー樹脂組成物の粘度が同じ場合、添加する無機微粒子が多いほどチキソ性は高くなる。
これにより、スクリーン印刷性に優れ、かつ、低温で脱脂可能な無機微粒子分散ペースト組成物を得ることができると考え、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は、バインダー樹脂として(メタ)アクリル樹脂を含有する。
【0012】
上記(メタ)アクリル樹脂としては350〜400℃程度の低温で分解するものであれば特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート及びポリオキシアルキレン構造を有するモノマーからなる群より選択される少なくとも1種からなる重合体が好適に用いられる。ここで、例えば(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
なかでも、少ない樹脂の量で高い粘度を得ることができることから、ガラス転移温度(Tg)が高く、かつ、低温脱脂性に優れるメチルメタクリレートの重合体であるポリメチルメタクリレート(Tg105℃)や、メチルメタクリレート100重量部に対してメタクリレート(ポリメタクリレートのTg225℃)又はイソボロニルメタクリレート(ポリイソボルニルメタクリレートのTg180℃)を10重量部、好ましくは2〜3重量部の比で共重合させた共重合体や、炭素鎖長が10以下の(メタ)アクリレートの少なくとも1種からなる重合体が好適であり、特にポリメチルメタクリレートが好適である。
【0013】
上記(メタ)アクリル樹脂は、分子末端のみに水素結合性官能基を少なくとも1個以上有する。水素結合性官能基が(メタ)アクリル樹脂の分子側鎖に存在すると、(メタ)アクリル樹脂と有機溶剤とが相溶し、粘着力が高くなり、スクリーン印刷性が悪くなるが、水素結合性官能基が(メタ)アクリル樹脂の分子側鎖には存在せず、分子末端のみに存在することにより、(メタ)アクリル樹脂と有機溶剤とが相溶せず適度な相分離(ミクロ相分離)を発現し、充分な粘度(チキソ性)は有したまま粘着力が低下するため、延糸が発生したりせずスクリーン印刷性が向上する。
【0014】
上記水素結合性官能基としては特に限定されず、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。なかでも、熱分解時の影響が少ない等の理由から、水酸基、カルボキシル基が好適である。
また、上記水素結合性官能基は少なくとも1個有すればよいが、多いほど相分離構造は安定化し、無機微粒子分散ペースト組成物の粘着力が低下するため、延糸が発生したりせずスクリーン印刷性が向上し効果的である。
【0015】
上記(メタ)アクリル樹脂のポリスチレン換算による数平均分子量の下限は5000、上限は50000である。5000未満であると、(メタ)アクリル樹脂と有機溶剤とが適度な相分離(ミクロ相分離)を発現することができないために充分なチキソ性が得られず、50000を超えると、(メタ)アクリル樹脂と有機溶剤とが完全に相分離してしまい、また、本発明の無機微粒子分散ペースト組成物の粘着力が高くなり、延糸が発生したりし、スクリーン印刷性が悪くなる。好ましい上限は40000であり、より好ましい上限は30000である。特に、数平均分子量が5000〜10000であると、スクリーン印刷時に鮮明な像が得られるため好ましい。
従来の無機微粒子分散ペースト組成物では、印刷可能な粘度を保つために、比較的高い分子量の樹脂を用いていた。これに対し、本発明では、無機微粒子分散ペースト組成物を適度に相分離させることにより数平均分子量が小さい樹脂でも良好な印刷性能を発揮できるようになっただけでなく、焼成後の残渣を飛躍的に少なくすることが可能となった。
なお、ポリスチレン換算による数平均分子量の測定は、カラムとして例えばSHOKO社製カラムLF−804を用いてGPC測定を行うことで得ることができる。
【0016】
なお、本発明の無機微粒子分散ペースト組成物に用いるバインダー樹脂として、(メタ)アクリル樹脂重合反応の後の反応溶液をそのまま用いる場合には、重合溶液にモノマーやオリゴマー等の低分子量成分が含まれないことが好ましい。
【0017】
上記(メタ)アクリル樹脂の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量=Mw/Mn)は3以下であることが好ましく、より好ましくは2.5以下である。
分子量分布が3を超えると、重合溶液中のオリゴマー等の低分子量成分が可塑剤となり、無機微粒子分散ペースト組成物に充分な粘度が得られず、スクリーン印刷性が悪くなることがあり、また高分子量成分が糸曳性を悪化させる場合がある。
【0018】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物における(メタ)アクリル樹脂の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限は5重量%、好ましい上限は25重量%である。5重量%未満であると、無機微粒子分散ペースト組成物に充分な粘度が得られず、スクリーン印刷性が悪くなることがあり、25重量%を超えると、無機微粒子分散ペースト組成物の粘度、粘着力が高くなりすぎてスクリーン印刷性が悪くなることがある。
【0019】
上記(メタ)アクリル樹脂の分子末端のみに水素結合性官能基を導入する方法としては、例えば、水素結合性官能基を有する連鎖移動剤のもとで、上述した(メタ)アクリル系モノマーをフリーラジカル重合法、リビングラジカル重合法、イニファーター重合法、アニオン重合法、リビングアニオン重合法等の従来公知の方法で共重合する方法や、水素結合性官能基を有する重合開始剤のもとで、上述した(メタ)アクリル系モノマーをフリーラジカル重合法、リビングラジカル重合法、イニファーター重合法、アニオン重合法、リビングアニオン重合法等の従来公知の方法で共重合する方法が挙げられる。なお、これらの方法は併用してもよい。
また、(メタ)アクリル樹脂の分子末端のみに水素結合性官能基が導入されたことは、例えば、13C−NMRにより確認することができる。
【0020】
上記連鎖移動剤としては、上記水素結合性官能基を有するものであれば特に限定されず、例えば、水素結合性官能基として水酸基を有するメルカプトプロパンジオール、水素結合性官能基としてカルボキシル基を有するチオグリセロール、メルカプトコハク酸、メルカプト酢酸、水素結合性官能基としてアミノ基を有するアミノエタンチオール等が挙げられる。
【0021】
上記重合開始剤としては、上記水素結合性官能基を有するものであれば特に限定されず、例えば、P−メンタンヒドロペルオキシド(P−Menthane hydroperoxide)(日本油脂社製:パーメンタH)、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド(Diisopropylbenzene hydroperoxide)(日本油脂社製:パークミルP)、1、2、3、3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシド(1、2、3、3−Tetramethylbutyl hydroperoxide)(日本油脂社製:パーオクタH)、クメンヒドロペルオキシド(Cumene hydroperoxide)(日本油脂社製:パークミルH−80)、t−ブチルヒドロペルオキシド(t−Buthyl hydroperoxide(日本油脂社製:パーブチルH−69)、過酸化シクロヘキサノン(Cyclohexanone peroxide)(日本油脂社製:パーヘキサH)、1、1、3、3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−アミルハイドロパーオキサイド、Disuccinic acid peroxide(パーロイルSA)等が挙げられる。
【0022】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は、無機微粒子を含有する。
上記無機微粒子としては特に限定されず、例えば、銅、銀、ニッケル、パラジウム、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、チタン酸バリウム、窒化アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、CaO・Al・SiO系無機ガラス、MgO・Al・SiO系無機ガラス、LiO・Al・SiO系無機ガラス等の低融点ガラス、BaMgAl1017:Eu、ZnSiO:Mn、(Y、Gd)BO:Eu等の蛍光体、種々のカーボンブラック、金属錯体等が挙げられる。特に、蛍光体は熱劣化することが知られているが、本発明により低温脱脂が可能であることから、低温脱脂、低温焼成等熱劣化を抑えたプロセスで焼成体を得ることが可能である。
【0023】
上記無機微粒子の含有量としては特に限定されないが、無機微粒子分散ペースト組成物のうち(メタ)アクリル樹脂、有機溶剤等の無機微粒子以外の成分からなるバインダー樹脂組成物100重量部に対して好ましい下限が10重量部、好ましい上限が300重量部である。10重量部未満であると、充分なチキソ性が得られないことがあり、300重量部を超えると、無機微粒子を分散させることが困難となることがある。
【0024】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は、有機溶剤を含有する。
上記有機溶剤は、分子中に水酸基又はアセトキシ基を少なくとも1個有する。これにより、(メタ)アクリル樹脂と有機溶剤との適度な相分離(ミクロ相分離)を発現させやすくなり、スクリーン印刷に適した粘度(チキソ性)を維持しながら(メタ)アクリル樹脂の量を低減させることが容易となり、低温での脱脂が容易となる。
【0025】
上記有機溶剤は、沸点の下限が170℃、上限が280℃である。170℃未満であると、スクリーン印刷中に有機溶剤が揮発してしまい、スクリーン印刷性が悪くなり、280℃を超えると、本発明の無機微粒子分散ペースト組成物を低温で脱脂することができない。好ましい下限は200℃、好ましい上限は250℃である。
【0026】
上記(メタ)アクリル樹脂の溶解度パラメータをSP、上記有機溶剤の溶解度パラメータをSPとしたとき、上記有機溶剤は下記数式(1)又は下記数式(2)を満たすことが好ましい。
ここで、溶解度パラメータ(以下SP値ともいう)とは、Polymer Engineering&Science 14 147(1974)等に記載されているように物質の化学構造のみから推算した値であり、下記数式(3)により求めることができる。SP値が近いもの同士は相溶し、SP値が離れたもの同士は相分離する。
上記有機溶剤が下記数式(1)又は下記数式(2)を満たすことにより、(メタ)アクリル樹脂と有機溶剤との適度な相分離(ミクロ相分離)を発現させやすくなり、適度な粘度(チキソ性)が得られ、よりスクリーン印刷性に優れたものとなる。
【0027】
【数1】

【0028】
【数2】

【0029】
【数3】

【0030】
Ev:蒸発エネルギー(J/mol)
V:モル容積(m/mol)
Δei:原子又は原子団の蒸発エネルギー(cal/mol)
ΔVi:モル体積(cm/mol)
【0031】
上記有機溶剤としては特に限定されず、例えば、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール、テキサノール、イソホロン、乳酸ブチル、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、ベンジルアルコール、フェニルプロピレングリコール、クレゾール等が挙げられる。
なかでも、(メタ)アクリル樹脂と適度な相分離を発現しやすいことから、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール、テキサノールが好適であり、更にそのなかでも、(メタ)アクリル樹脂としてポリメチルメタクリレートを選択した場合に適度な相分離を発現しやすいことから、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール、テキサノールが特に好適であり、特に、(メタ)アクリル樹脂との相溶性の調整が容易であることから、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール、テキサノールが好適に用いられる。
なお、これらの有機溶剤は単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0032】
また、本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は、適度な相分離(ミクロ相分離)を安定化させるために、HLB値が10以上のノニオン系界面活性剤を含有することが好ましい。ここで、HLB値とは界面活性剤の親水性、親油性を表す指標として用いられるものであって、計算方法がいくつか提案されており、例えば、ノニオン系界面活性剤について、鹸化価をS、界面活性剤を構成する脂肪酸の酸価をAとしたとき、HLB値を20(1−S/A)で定義する。
上記HLB値が10以上のノニオン系界面活性剤としては特に限定されないが、脂肪鎖にアルキレンエーテルを付加させたものが好適であり、具体的には例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル等が好適である。なお、上記ノニオン系界面活性剤は、熱分解性がよいが、大量に添加すると無機微粒子分散ペースト組成物の熱分解性が低下することがあるため、含有量の好ましい上限は5重量%である。
【0033】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物の作製方法としては特に限定されず、従来公知の攪拌方法が挙げられ、具体的には例えば、各物質を3本ロール等で攪拌する方法等が挙げられる。
【0034】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物において、(メタ)アクリル樹脂と有機溶剤とが相溶せず適度な相分離(ミクロ相分離)を発現していることは、例えば、光散乱測定により確認することができ、具体的には例えば、静的光散乱測定により1〜4μmの相関長を示し、ポリマードメインの大きさを推測することが可能である。
【0035】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は、特に無機微粒子としてガラス粉末を用いたときのガラスペースト組成物、無機微粒子としてセラミック粉末を用いたときのセラミックペースト組成物、無機微粒子として蛍光体粉末を用いたときの蛍光体ペースト組成物、無機微粒子として導電性粉末を用いたときの導電ペースト組成物、無機微粒子としてガラス粉末又はセラミックス粉末を用いたときのグリーンシートとして好適である。このような用途で用いることにより、特にスクリーン印刷性に優れ、かつ、低温で脱脂可能なものとなる。
【0036】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は、280℃以下で蒸発する有機溶剤、400℃以下で解重合し分解する(メタ)アクリル樹脂を用いてなるため低温脱脂が可能となる。ここで、低温脱脂とは、バインダー樹脂の初期重量の99.5%重量が失われる脱脂温度が低温であることを意味し、本明細書においては窒素置換等をしない通常の空気雰囲気下で、脱脂温度が250〜400℃である場合を低温脱脂と定義する。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、スクリーン印刷性に優れ、かつ、低温で脱脂可能な無機微粒子分散ペースト組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
攪拌機、冷却器、温度計、湯浴及び、窒素ガス導入口を備えた2Lセパラプルフラスコに、メチルメタクリレート(MMA)100重量部、連鎖移動剤としてメルカプトプロパンジオール、有機溶剤としてブチルカルビトール100重量部とを混合し、モノマー混合液を得た。
【0040】
得られたモノマー混合液を、窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら湯浴が沸騰するまで昇温した。重合開始剤を酢酸エチルで希釈した溶液を加えた。また重合中に重合開始剤を含む酢酸エチル溶液を数回添加した。
【0041】
重合開始から7時間後、室温まで冷却し重合を終了させた。これにより、末端に水酸基を有する(メタ)アクリル樹脂のブチルカルビトール溶液を得た。得られた重合体について、カラムとしてSHOKO社製カラムLF−804を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分析を行ったところ、ポリスチレン換算による数平均分子量は表1のとおりであった。
このようにして得られた(メタ)アクリル樹脂のブチルカルビトール溶液に対し、表1に記載した組成比になるようにブチルカルビトールを更に添加し、高速分散機で分散させてバインダー樹脂組成物を作製した。
【0042】
得られたバインダー樹脂組成物に対して、ノニオン系界面活性剤として日光ケミカル社製BL−9EX、無機微粒子としてZnSiOを表1に記載した組成比になるよう添加し、高速撹拌装置を用いて充分混練し、3本ロールミルにてなめらかになるまで処理を行い、無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0043】
(実施例2〜13、比較例1〜4)
表1又は表2に記載された組成比になるように各成分を調整したこと以外は、実施例1と同様にしてバインダー樹脂組成物、及び、無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0044】
(実施例14〜16)
攪拌機、冷却器、温度計、及び、窒素ガス導入口を備えた2Lセパラプルフラスコに、メチルメタクリレート(MMA、三菱レイヨン社製)100重量部、連鎖移動剤としてドデシルメルカプタン(DDM、和光純薬社製)、有機溶剤としてブチルカルビトール100重量部を混合し、モノマー混合液を得た。
【0045】
得られたモノマー混合液を、窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら120℃に達するまでに昇温した。昇温後、重合開始剤としてP−メンタンヒドロペルオキシド(P−Menthane hydroperoxide 日本油脂社製:パーメンタH)を酢酸エチルで希釈した溶液を加えた。また重合中に重合開始剤を含む酢酸エチル溶液を数回添加した。
【0046】
重合開始から10時間後、室温まで冷却し重合を終了させた。これにより、末端に水酸基を有する重合体のブチルカルビトール溶液を得た。得られた重合体について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分析を行ったところ、ポリスチレン換算による数平均分子量は表3のとおりであった。重合体を含むブチルカルビトール溶液に対し、表3に記載した配合を行い、高速分散機で分散させてバインダー樹脂組成物を作製した。
【0047】
無機微粒子を表3に記載された組成比になるように配合し、高速撹拌装置を用いて充分混練し、3本ロールミルにてなめらかになるまで処理を行い、無機微粒子分散ペースト組成物を得た。
【0048】
(実施例17〜19)
攪拌機、冷却器、温度計、及び、窒素ガス導入口を備えた2Lセパラプルフラスコに、メチルメタクリレート(MMA、三菱レイヨン社製)100重量部、連鎖移動剤としてドデシルメルカプタン(DDM、和光純薬社製)、有機溶剤としてブチルカルビトール100重量部を混合し、モノマー混合液を得た。
【0049】
得られたモノマー混合液を、窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら95℃に達するまでに昇温した。昇温後、重合開始剤としてDisuccinic acid peroxide(パーロイルSA、日本油脂社製)を酢酸エチルで希釈した溶液を加えた。また重合中に重合開始剤を含む酢酸エチル溶液を数回添加した。
【0050】
重合開始から10時間後、室温まで冷却し重合を終了させた。これにより、末端にカルボキシル基を有する重合体のブチルカルビトール溶液を得た。得られた重合体について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分析を行ったところ、ポリスチレン換算による数平均分子量は表3のとおりであった。重合体を含むブチルカルビトール溶液に対し、表3に記載された組成比になるように各成分を調整し、高速分散機で分散させてバインダー樹脂組成物を作製した。
【0051】
無機微粒子を表3に記載された組成比になるように調整し、高速撹拌装置を用いて充分混練し、3本ロールミルにてなめらかになるまで処理を行い、無機微粒子分散ペースト組成物を得た。
【0052】
(比較例5)
攪拌機、冷却器、温度計、及び、窒素ガス導入口を備えた2Lセパラプルフラスコに、メチルメタクリレート(MMA、三菱レイヨン社製)100重量部、連鎖移動剤としてドデシルメルカプタン(DDM、和光純薬社製)、有機溶剤としてブチルカルビトール100重量部とを混合し、モノマー混合液を得た。
【0053】
得られたモノマー混合液を、窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら95℃に達するまでに昇温した。昇温後、重合開始剤としてジラウリルパーオキサイド(パーロイルL、日本油脂社製)を酢酸エチルで希釈した溶液を加えた。また重合中に重合開始剤を含む酢酸エチル溶液を数回添加した。
【0054】
重合開始から10時間後、室温まで冷却し重合を終了させた。これにより、末端にアルキル基を有する重合体のブチルカルビトール溶液を得た。得られた重合体について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分析を行ったところ、ポリスチレン換算による数平均分子量は表3のとおりであった。重合体を含むブチルカルビトール溶液に対し、表3に記載された組成比になるように各成分を調整し、高速分散機で分散させてバインダー樹脂組成物を作製した。
【0055】
無機微粒子を表3に記載された組成比になるように調整し、高速撹拌装置を用いて充分混練し、3本ロールミルにてなめらかになるまで処理を行い、無機微粒子分散ペースト組成物を得た。
【0056】
<評価>
実施例1〜19及び比較例1〜5で得られたバインダー樹脂組成物、及び、無機微粒子分散ペースト組成物について以下の評価を行った。結果を表4に示した。
【0057】
(1)スクリーン印刷性(粘度比法(チキソ性評価法))
無機微粒子分散ペースト組成物をHAAKE社製レオメーター(VISCOANALYSER VAR100)にて評価温度20℃、せん断速度掃引モード、10mmφパラレルプレート、ギャップ0.1mmの条件にて3.7×10−5〜3.0×10(1/s)のせん断速度領域における粘度を測定し、粘度比(0.6(1/s)での粘度η0.6)/(300(1/s)での粘度η300)を求めた。粘度比が2以上の場合、スクリーン印刷性に優れると判断した。
【0058】
(2)粘着力評価
26mm×76mmのスライドグラス上にアプリケータを用いて0.5ミルの均一厚みに無機微粒子分散ペースト組成物を塗工し、厚さ50μmのPETフィルムを貼り合わせ、23℃恒温室に3時間養生した。オリエンテック社製変角剥離治具を用いて剥離角度30°にてピール試験を行い、剥離速度300mm/minにて剥離にかかる荷重を評価し、粘着性を評価した。単位幅あたりの剥離抵抗が0.15N/cm以下の場合、粘着力が低いと判断した。
【0059】
(3)貯蔵安定性
得られた無機微粒子分散ペースト組成物を23℃で1ヶ月貯蔵した後、溶液の相分離(油状物の染み出し)、無機微粒子の沈降等の有無を目視にて確認し、以下の基準により評価した。
○:油状物の染み出し、無機微粒子の沈降等は確認されなかった。
×:無機微粒子分散ペースト組成物が完全に相分離し、無機微粒子の沈降が観察され、上澄み液の粘度が低下していた。
【0060】
(4)分解温度(TG・DTA評価)
バインダー樹脂組成物を熱分解装置(TAインスツルメンツ社製simultaneousSDT2960)を用いて空気雰囲気下にて昇温温度10℃/minで600℃まで加熱し、完全に熱分解が終了する温度を測定した。分解終了温度が400℃以下のものを低温脱脂性に優れると判断した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、スクリーン印刷性に優れ、かつ、低温で脱脂可能な無機微粒子分散ペースト組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル樹脂と無機微粒子と有機溶剤とを含有する無機微粒子分散ペースト組成物であって、
前記(メタ)アクリル樹脂は、分子末端のみに水素結合性官能基を少なくとも1個有し、かつ、ポリスチレン換算による数平均分子量が5000〜50000であり、
前記有機溶剤は、分子中に水酸基又はアセトキシ基を少なくとも1個有し、かつ、沸点が170〜280℃である
ことを特徴とする無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項2】
(メタ)アクリル樹脂の溶解度パラメータをSP、有機溶剤の溶解度パラメータをSPとしたとき、SPとSPとが下記数式(1)又は下記数式(2)を満たすことを特徴とする請求項1記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【数1】

【数2】

【請求項3】
(メタ)アクリル樹脂は、ポリメチルメタクリレートであることを特徴とする請求項1又は2記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項4】
有機溶剤は、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール、テキサノールからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項5】
更に、HLB値が10以上のノニオン系界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の無機微粒子分散ペースト組成物。

【公開番号】特開2008−45044(P2008−45044A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222487(P2006−222487)
【出願日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】