説明

無機粉末ペーストの製造方法

【課題】溶剤中に、無機粉末成分と、無機粉末成分に吸着することにより無機粉末成分の分散性を向上させる作用を有する有機化合物とを含有してなる、無機粉末ペーストを製造するにあたり、無機粉末成分が微粒化されると、無機粉末成分の表面に有機化合物を十分に付着させることができなくなり、無機粉末ペーストの分散性が低下する。
【解決手段】少なくとも無機粉末成分を含む第1の被混合体1、および少なくとも溶剤と有機化合物とを含むが、無機粉末成分を含まない第2被混合体2を得た後、これらを混合する前に、第2被混合体2に対してせん断力を作用させる工程3を実施し、その後において、第1被混合体1と第2被混合体2とを混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無機粉末ペーストの製造方法に関するもので、特に、積層セラミック電子部品における内部導体を形成するための導電性ペーストの製造方法として有利に適用できる無機粉末ペーストの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶剤中に微小無機粉末を分散させた無機粉末ペーストを得るにあたって、無機粉末をペースト中に均一に分散させることが重要である。ペースト中に無機粉末を均一に分散させるための方法としては、たとえば、無機粉末の分散安定性を向上させるための分散剤としての有機化合物を無機粉末に吸着させる方法がある。この方法では、有機化合物を無機粉末に対して最適な状態でいかに付着させるかがポイントとなっている。
【0003】
無機粉末ペーストは、一般的に粘度が高く、そのため、無機粉末を均一に分散させることが困難である。そこで、分散時に低沸点の希釈用溶剤を添加し、無機粉末を均一に分散させた後に、希釈用溶剤のみを揮発除去するという方法が、たとえば特開2001‐67951号公報(特許文献1)に記載されている。特許文献1に記載のように、分散時に希釈用溶剤を用いて低粘度化することにより、無機粉末の表面に有機化合物を十分に吸着させることができる。
【0004】
しかしながら、無機粉末のさらなる微粒化により、上記の方法だけでは、無機粉末の表面に十分な有機化合物を付着させることができなくなってきている。そこで、本件発明者は、このような課題を解決するため、有機化合物に対してせん断力を付与することにより、高分子としての有機化合物をほぐしてやることにより、無機粉末に対して効率的に付着させることのできる状態を作り出すことができることを見出した。具体的には、ペーストに対して圧力を印加して噴射する湿式高圧処理装置やせん断式ミキサなどにより、せん断力を付与することになる。
【0005】
しかしながら、無機粉末が含まれた状態で、上記のようにせん断力を付与しても、所望の分散効果が得られないという新たな問題に遭遇することがわかった。これは、無機粉末が存在していると、無機粉末が含まれていない場合と同等のほぐした状態を得るためには、非常に大きいせん断力が必要となり、このような大きなせん断力を現存の設備で得ることは実質的に困難であるという問題である。
【特許文献1】特開2001‐67951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、上述した問題を解決し得る無機粉末ペーストの製造方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、溶剤中に、無機粉末成分と前記無機粉末成分に吸着することにより当該無機粉末成分の分散性を向上させる作用を有する有機化合物とを含有してなる、無機粉末ペーストを製造するための方法に向けられるものであって、上述した技術的課題を解決するため、少なくとも無機粉末成分を含む第1被混合体を得る工程と、少なくとも溶剤と有機化合物とを含むが、無機粉末成分を含まない第2被混合体を得る工程と、第2被混合体に対しせん断力を作用させる工程と、次いで、第1被混合体と第2被混合体とを混合する工程とを備えることを特徴としている。
【0008】
この発明は、上述のように、せん断力を作用させる工程を、無機粉末成分がない状態で実施することを特徴とするものであるが、この場合、無機粉末成分を含む第1被混合体と、有機化合物を含む第2被混合体とを別々に調製して、最後に混合しても、あるいは、最初に混合しておいて、そして、混合物から有機化合物を分離して、せん断力を作用させ、その後、再度混合してもよい。
【0009】
後者の実施態様の場合、少なくとも無機粉末成分と溶剤と有機化合物とを含む混合物を用意する工程と、混合物から少なくとも有機化合物を分離する工程とをさらに備える。そして、第1被混合体に含まれる無機粉末成分は、混合物から有機化合物を分離する工程を実施することによって、混合物から有機化合物を除去した後に残されたものであり、第2被混合体に含まれる有機化合物は、混合物から有機化合物を分離する工程を実施することによって、混合物から取り出されたものである。
【0010】
第1被混合体に含まれる無機粉末成分は、溶剤中に分散されている状態であることが好ましい。
【0011】
無機粉末成分は、平均粒径が10〜300nmの導電性金属粉末を含むことが好ましい。
【0012】
有機化合物は、その重量平均分子量が100〜50000であり、その酸塩基量が100〜2000μmol/gであることが好ましい。
【0013】
第2被混合体に対しせん断力を作用させる工程は、第2被混合体に対し圧力を印加しながら、第2被混合体を所定の噴射口から噴射させる工程を含み、第2被混合体に印加される圧力は50〜300MPaに選ばれることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、得ようとする無機粉末ペーストに含まれる成分のうち、少なくとも無機粉末を除いた状態の第2被混合体に対して、せん断力を作用させて有機化合物を無機粉末に対して吸着しやすい状態としてから、第2被混合体を、無機粉末成分を含む第1被混合体に混合するようにしているので、有機化合物に対して十分にせん断力を付与して無機粉末に吸着しやすい状態にすることが容易である。そのため、微小な無機粉末を用いても、優れた分散性を発揮することができ、良好な分散性を有する無機粉末ペーストを得ることができる。
【0015】
したがって、上記無機粉末成分が、平均粒径が10〜300nmの導電性金属粉末を含んでいると、この発明による分散性向上の意義が顕著となる。すなわち、平均粒径が10〜300nmといった微小な導電性金属粉末を含む場合であっても、この発明によれば、分散性が良好な導電性ペーストが得られる。よって、この発明によって製造された導電性ペーストを、積層セラミック電子部品における内部導体を形成するために用いると、導電性ペーストの塗膜の表面平滑性が向上し、それによるショート不良を生じさせにくくすることができる。
【0016】
この発明に係る無機粉末ペーストの製造方法が、少なくとも無機粉末成分と溶剤と有機化合物を含む混合物を用意する工程と、この混合物から少なくとも有機化合物を分離する工程とをさらに備え、前述した第1被混合体に含まれる無機粉末成分が、混合物から有機化合物を除去した後に残されたものであり、前述の第2被混合体に含まれる有機化合物が、混合物から取り出されたものである場合、混合物として、この発明に係る製造方法を適用して製造した無機粉末ペーストを用いれば、第2被混合体に対しせん断力を作用する工程とその後の第1被混合体と第2被混合体とを混合する工程とが繰り返されることができ、より分散性に優れた無機粉末ペーストを得ることができる。
【0017】
第1被混合体に含まれる無機粉末成分が、溶剤中に分散されている状態であると、無機粉末成分を含む第1被混合体のハンドリング性を向上させることができる。
【0018】
有機化合物の重量平均分子量が100〜50000であり、酸塩基量が100〜2000μmol/gであると、有機化合物を、無機粉末に吸着して分散性を向上させるのにより適したものとすることができる。
【0019】
第2被混合体に対しせん断力を作用させるにあたって、第2被混合体に対し圧力を印加しながら、第2被混合体を所定の噴射口から噴射させるようにし、このとき、第2被混合体に印加される圧力を50〜300MPaに選ぶようにすれば、第2被混合体に対しせん断力を確実に作用させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、この発明の第1の実施形態による無機粉末ペーストの製造方法を示す工程図である。得ようとする無機粉末ペーストは、溶剤中に、無機粉末成分と、この無機粉末成分に吸着することにより無機粉末成分の分散性を向上させる作用を有する有機化合物とを含有してなるものである。
【0021】
このような無機粉末ペーストを製造するため、少なくとも無機粉末成分を含む第1被混合体1を得る工程と、少なくとも溶剤と有機化合物とを含むが、無機粉末成分を含まない第2被混合体2を得る工程とが実施される。
【0022】
次に、第2被混合体2に対してせん断力を作用させるせん断作用印加工程3が実施され、その後で、第1混合体1と第2混合体2とを混合する混合工程4が実施され、それによって、無機粉末ペースト5が得られる。無機粉末ペースト5を得るため、必要に応じて樹脂がさらに加えられることがある。
【0023】
第1被混合体1は、無機粉末成分のほか、通常、溶剤を含み、好ましくは、無機粉末成分が溶剤中に分散されている状態とされる。また、第2被混合体2は、そこに有機化合物が必ず含まれることを条件としている。なお、第1被混合体1は、この第2被混合体2に含まれる有機化合物を含んでいてもよい。
【0024】
以下、無機粉末ペースト5が導電性ペーストである場合について説明する。
【0025】
無機粉末ペースト5として、導電性ペーストを製造しようとする場合、第1被混合体1は、無機粉末成分として、導電性金属粉末を含む。導電性ペーストが積層セラミック電子部品における内部導体を形成するために用いられる場合、導電性金属粉末を構成する金属成分としては、同時焼成するセラミックの焼成温度および雰囲気に耐えるものであればよく、たとえば、Ni、Pd、Ag、Au、PtもしくはCu、またはこれらの混合物もしくは合金を用いることができる。
【0026】
導電性ペースト中における固形成分としての導電性金属粉末の含有割合は、20〜70重量%に選ばれることが好ましい。この範囲で固形成分の含有割合を調整することにより、目的とする印刷塗膜厚みを安定して得ることができる。また、導電性金属粉末の粒径が、平均粒径で10〜300nmの範囲にあるとき、通常、凝集効果が顕著となるが、この発明によれば、分散性が向上されるため、平均粒径10〜300nmの場合、特に、この発明による分散性向上の効果が顕著となると言える。なお、この発明による効果を発揮させ得るか否かの観点から言えば、上記平均粒径には下限が存在しないことになるが、平均粒径が10nm未満となると、導電性ペーストが増粘しすぎてハンドリング性が低下してしまうので好ましくない。
【0027】
第1被混合体1において、導電性金属粉末以外に、導電性金属粉末の焼結を遅延化することを目的として、酸化物固形成分が無機粉末成分の一部として添加されてもよい。酸化物固形成分としては、たとえば、Ba、Ti、Zr、Dy、Mg、Si、Y等の各々の酸化物またはこれらの酸化物を混合したものを用いることができる。導電性ペースト中における酸化物固形成分の含有割合は、1〜40重量%の範囲で導電性金属粉末の焼結性に応じて適宜調整することができるが、特に、導電性金属粉末に対して5〜20重量%となるような添加量とすることが好ましい。
【0028】
第2被混合体2に含まれる溶剤としては、得られた導電性ペースト中に残る主溶剤と、導電性ペースト中には残らず、導電性ペーストを製造する過程においてだけ使用される希釈溶剤とを含むことが好ましい。有機化合物の吸着促進を図るため、主溶剤の溶解性パラメータは8.0〜10.5であることが好ましく、希釈溶剤の溶解性パラメータは7.4〜13.8であることが好ましい。具体的には、主溶剤としては、エステル系、テルペン系、ケトン系、エーテル系、アルコール系等の溶剤を用いることができ、希釈溶剤としては、ケトン系、アルコール系、炭化水素系等の溶剤を用いることができる。得られた導電性ペースト中の主溶剤の含有比率は10〜70重量%とすることが好ましい。
【0029】
第2被混合体2に含まれる有機化合物としては、分散剤、樹脂、添加剤等がある。有機化合物、特に分散剤は、その重量平均分子量が100〜50000であり、酸塩基量が100〜2000μmol/gのアニオン性分散剤であることが好ましく、たとえば、カルボン酸系化合物、スルホン酸系化合物、リン酸系化合物等が用いられる。分散剤の添加量は、粉末成分(導電性金属粉末および酸化物固形成分を含む。)に対して0.1〜10重量%に選ばれることが好ましい。
【0030】
樹脂としては、エチルセルロース樹脂を用いることが特に好ましいが、その他、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂等が用いられてもよい。樹脂の含有比率は、導電性ペーストに対して1〜10重量%に選ばれることが好ましい。
【0031】
添加剤は、導電性ペーストの粘度調整のために必要に応じて添加されるが、たとえばアミン系化合物等を用いることが好ましい。添加剤の添加量は、粉末成分に対して0.1〜10重量%となるように選ばれることが好ましい。
【0032】
第2被混合体2に対して実施されるせん断作用印加工程3では、たとえば湿式高圧処理装置が用いられ、第2被混合体2に対し圧力を印加しながら、第2被混合体2を所定の噴射口から噴射させることが行なわれる。このとき、第2被混合体2に印加される圧力は、50〜300MPaに選ばれることが好ましい。せん断作用印加工程3において、湿式高圧処理装置に代えて、せん断式ミキサが用いられてもよい。
【0033】
混合工程4では、上述のせん断作用印加工程3を終えた第2被混合体2を、第1被混合体1と衝突させることが行なわれる。このように、せん断作用を付与した後の第2被混合体2に第1被混合体1を衝突させることにより、第1被混合体1に含まれる無機粉末の表面に、第2被混合体2に含まれる分散作用を有する有機化合物を効率良く付着させることができる。この混合工程4では、第2被混合体2の温度を、25℃以上かつ溶剤の沸点未満になるように調整することが好ましい。
【0034】
図2は、この発明の第2の実施形態による無機粉末ペーストの製造方法を示す工程図である。図2において、図1に示す要素に相当する要素には同様の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0035】
第2の実施形態では、少なくとも無機粉末成分と溶剤と有機化合物とを含む混合物である混合スラリー11が用意され、この混合スラリー11からフィルタを通して有機化合物を溶剤とともに分離する分離工程12を備えることを特徴としている。そして、第1被混合体1に含まれる無機粉末成分は、分離工程12を実施することによって、混合スラリー11から有機化合物を除去した後に残されたものであり、第2被混合体2に含まれる有機化合物は、分離工程12を実施することによって、混合スラリー11から取り出されたものである。以後の工程は、第1の実施形態の場合と同様である。
【0036】
第2の実施形態において用意される混合スラリー11は、前述した第1の実施形態によって得られた無機粉末ペースト5としてもよく、さらには、第2の実施形態によって得られた無機粉末ペースト5としてもよい。このようにすることにより、せん断作用印加工程3が繰り返されることになり、そのため、得られた無機粉末ペースト5の分散性をより高めることができる。
【0037】
すなわち、第1被混合体1と第2被混合体2とを衝突させて混合する工程を単に1回しか実施しなかった場合には、無機粉末成分が未だ凝集した状態のまま残されていることがあるが、上述のように、せん断作用印加工程3が繰り返され、この繰り返し回数が増すほど、分散性をより高めることができる。なお、せん断作用印加工程3の好ましい繰り返し回数は、得ようとする無機粉末ペースト5の組成や無機粉末の粒径によって異なるため、得られた無機粉末ペースト5を予め評価しておき、無機粉末ペースト5の種類ごとに繰り返し回数を設定しておくことが好ましい。
【0038】
この発明に係る製造方法によって製造される無機粉末ペーストとして、代表的には、導電性ペーストがあるが、このような導電性ペーストを内部導体の形成のために用いて、たとえば、積層セラミックコンデンサ、積層セラミックインダクタ、積層セラミックLC部品、多層セラミック基板などの積層セラミック電子部品を製造することができる。
【0039】
次に、この発明による効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0040】
この実験例では、以下の表1〜表7に示す組成および処理条件をもって、試料1〜7に係る導電性ペーストを作製した。
(1)試料1
【0041】
【表1】

【0042】
(2)試料2
【0043】
【表2】

【0044】
(3)試料3
【0045】
【表3】

【0046】
(4)試料4
【0047】
【表4】

【0048】
(5)試料5
【0049】
【表5】

【0050】
(6)試料6
【0051】
【表6】

【0052】
(7)試料7
【0053】
【表7】

【0054】
表1〜表7において、「添加比率」の欄に示される「重量%/ペースト」は、得られた導電性ペースト中での重量%を示し、「重量%/粉末」は、加えられる粉末成分に対する重量%を示している。
【0055】
また、「溶解性パラメータ」は、Fedors法によって算出したものである。「酸塩基量」は、中和滴定により測定したものである。「重量平均分子量」は、テトラヒドロフラン(THF)にて溶解し、得られた溶液の分子量分布評価を高速液体クロマトグラフィで行なうことによって求めたものである。
【0056】
試料1〜7の各々に係る導電性ペーストの作製手順は次のとおりである。
【0057】
第1被混合体を得るため、表1〜表7の「第1被混合体」の欄に示すように、粉末成分に主溶剤を加え、試料によっては、さらに、希釈溶剤、分散剤、樹脂および/または添加剤を加え、これらをせん断式ミキサを用いて混合攪拌した。
【0058】
他方、第2被混合体を得るため、表1〜表7の「第2被混合体」の欄に示すように、主溶剤に分散剤を加え、試料によっては、さらに、希釈溶剤、分散剤、樹脂および/または添加剤を加え、これらを、せん断式ミキサを用いて混合攪拌した。
【0059】
次に、上記のようにして得られた第2被混合体にせん断力を作用させるため、湿式高圧処理装置を用い、表1〜表7の「処理条件」における「処理圧力」の欄に示した圧力をもって、第2被混合体を加圧噴射した。
【0060】
次に、第2被混合体を、加圧噴射後、表1〜表7の「処理条件」における「被混合体温度」の欄に示した温度となるように、ヒータまたはチラー水によって制御しながら、第1被混合体と衝突させることによって、導電性ペーストを得た。
【0061】
表1〜表7の「処理条件」における「処理回数」が複数回の試料については、上記のようにして得られた導電性ペーストをフィルタリングし、それによって、無機粉末成分を含むスラリーと、溶剤および有機化合物成分を含むが、無機粉末成分を含まない有機化合物溶液とに分離し、有機化合物溶液に対して、上述の場合と同様の条件にてせん断作用を加え、せん断作用後の有機化合物溶液を、上記無機粉末成分を含むスラリーに衝突させる処理を「処理回数」に示した回数だけ繰り返した。なお、処理回数は、処理時間で管理した。たとえば、X回処理したい場合には、処理時間=(導電性ペースト量)/(導電性ペースト処理速度)×Xで算出される処理時間分の処理を行なった。
【0062】
また、表7に示した試料7では、上述のような処理を行なわず、第1被混合体と第2被混合体とを単純に混ぜ合わせ、その後、せん断式ミキサで混合攪拌して、導電性ペーストを得た。
【0063】
次に、樹脂成分であるエチルセルロース樹脂と主溶剤とが重量比で20:80となるように予め混合して得られた有機ビヒクルを、各試料に係る導電性ペーストに加え、エチルセルロース樹脂の含有量が2重量%となる導電性ペーストが得られるように調合し、その後、せん断式ミキサを用いて混合攪拌した。
【0064】
次に、上記混合攪拌後の導電性ペーストを加温した状態で、粘度0.5Pa・s以下となるように調整した後、目開きが10μm、5μm、3μmおよび最終段に導電性金属粉末の平均1次粒径の2倍の目開きのメンブレン式フィルタを用いて、圧力1.5kg/cm未満の加圧ろ過により塊状物を除去するろ過処理を行なった。
【0065】
最後に、上記ろ過処理後の導電性ペーストに希釈溶剤を含む場合には、2.0×10-1気圧の減圧下で温度40℃に加熱して希釈溶剤を除去した後、ろ過処理後の導電性ペーストに対して、3μmのメンブレン式フィルタを用いて、圧力1.5kg/cm未満の加圧ろ過を適用して、再度塊状物を除去し、目的とする各試料に係る導電性ペーストを得た。
【0066】
このようにして得られた各試料に係る導電性ペーストを評価するため、以下のようにして、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0067】
すなわち、厚さ2μmの誘電体セラミックグリーンシート上に、各試料に係る導電性ペーストをスクリーン印刷法により印刷し、厚さ1μmの導電性ペーストからなる塗膜を形成した。ここで、3次元形状測定装置にて塗膜形状を観察し、塗膜表面粗さを測定した。その結果が表8に示されている。
【0068】
次に、導電性ペーストを乾燥させた後、450層の積層構造が得られるように、誘電体セラミックグリーンシートを積層し、圧着し、次いで、3.2mm×2.5mmの平面形状となるようにカットし、積層体チップを得た。次に、積層体チップを、最高温度280℃で脱脂処理した後、水素/窒素混合ガス中において1200℃の最高温度で焼成し、焼成後、外部電極を塗布および焼き付けにより形成し、各試料に積層セラミックコンデンサを得た。
【0069】
得られた各試料に係る積層セラミックコンデンサ100個について、静電容量をLCRメータにて測定し、ショート不良率を算出した。その結果が表8に示されている。表8に示したショート不良率について、10%未満であれば良品であり、10%以上であれば不良品であると判定できる。
【0070】
【表8】

【0071】
表8から、試料1〜6によれば、印刷塗膜平滑性が向上し、その結果、積層セラミックコンデンサのショート不良率が10%未満に抑制できることが確認される。これは、粉末成分への有機化合物の吸着状態が最適化され、導電性ペースト中の粉末成分の分散性が向上したことが原因である推測できる。
【0072】
これに対して、試料7では、試料1〜6に比べて、印刷塗膜平滑性が劣り、また、ショート不良率が大幅に増加している。これは、粉末成分への有機化合物の吸着状態が良好ではなく、導電性ペーストの分散性が低下したためであると推測される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】この発明の第1の実施形態による無機粉末ペーストの製造方法を示す工程図である。
【図2】この発明の第2の実施形態による無機粉末ペーストの製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0074】
1 第1被混合体
2 第2被混合体
3 せん断作用印加工程
4 混合工程
5 無機粉末ペースト
11 混合スラリー
12 分離工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤中に、無機粉末成分と前記無機粉末成分に吸着することにより当該無機粉末成分の分散性を向上させる作用を有する有機化合物とを含有してなる、無機粉末ペーストを製造するための方法であって、
少なくとも前記無機粉末成分を含む第1被混合体を得る工程と、
少なくとも前記溶剤と前記有機化合物とを含むが、前記無機粉末成分を含まない第2被混合体を得る工程と、
前記第2被混合体に対しせん断力を作用させる工程と、
次いで、前記第1被混合体と前記第2被混合体とを混合する工程と
を備える、無機粉末ペーストの製造方法。
【請求項2】
少なくとも前記無機粉末成分と前記溶剤と前記有機化合物とを含む混合物を用意する工程と、
前記混合物から少なくとも前記有機化合物を分離する工程と
をさらに備え、
前記第1被混合体に含まれる前記無機粉末成分は、前記混合物から前記有機化合物を分離する工程を実施することによって、前記混合物から前記有機化合物を除去した後に残されたものであり、
前記第2被混合体に含まれる前記有機化合物は、前記混合物から前記有機化合物を分離する工程を実施することによって、前記混合物から取り出されたものである、
請求項1に記載の無機粉末ペーストの製造方法。
【請求項3】
前記第1被混合体に含まれる前記無機粉末成分は、溶剤中に分散されている状態である、請求項1または2に記載の無機粉末ペーストの製造方法。
【請求項4】
前記無機粉末成分は、平均粒径が10〜300nmの導電性金属粉末を含む、請求項1ないし3のいずれかに記載の無機粉末ペーストの製造方法。
【請求項5】
前記有機化合物は、その重量平均分子量が100〜50000であり、その酸塩基量が100〜2000μmol/gである、請求項1ないし4のいずれかに記載の無機粉末ペーストの製造方法。
【請求項6】
前記第2被混合体に対しせん断力を作用させる工程は、前記第2被混合体に対し圧力を印加しながら、前記第2被混合体を所定の噴射口から噴射させる工程を含み、前記第2被混合体に印加される圧力は50〜300MPaに選ばれる、請求項1ないし5のいずれかに記載の無機粉末ペーストの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−49849(P2010−49849A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211304(P2008−211304)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】