説明

無段変速機のプーリ構造

【課題】支持剛性に優れ、且つ小型化可能な無段変速機のプーリ構造を提供する。
【解決手段】
シャフト12の鍔部20の起立面24は、断面形状においてシャフト12の外周面と直交する垂線に比べて上方に行くに従って右側に傾斜し、固定プーリ14のフランジ部30には起立面24と噛み合うように傾斜した傾斜面38が形成されている。したがって、固定プーリ14に作用する荷重Fにより、起立面24と傾斜面38との噛み合い部分には、反力F1が発生する。また、固定プーリ14に作用する荷重Fによって、固定プーリ14には、起点Aの部分を中心として反時計方向のモーメントが発生して、固定プーリ14のフランジ部30部分がシャフト12から浮き上がろうとするが、反力F1により、その浮き上がりを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車などの車両等に用いられる無段変速機のプーリ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、無段変速機に用いられるCVTプーリーは、長い軸部を有する固定フランジと、その軸部に摺動可能に嵌め込まれた可動フランジとからなり、可動フランジが軸部を摺動することで二つのフランジの幅を無段階で調整することができる。
【0003】
従来は、固定フランジは軸部とフランジ部とを一体成形して製造していた。しかしながら、長い軸部を有する固定フランジを高強度の材料を用いて一体成形する場合には、鍛造能力の高い大型のプレス機械が必要となる。また、材料の加工度が高くなるため、加工の途中で軟化焼鈍を何度も行わねばならず、製造コストがアップするという問題があった。
【0004】
このような問題を解決する方法として、特許文献1に開示されたものがある。当該開示にかかる方法は、鍛造にてフランジ部を形成し、これと別体に軸部を形成した後これらを一体的に結合して、長い軸を有する固定フランジを形成することを特徴とするものである。しかしながら、この方法においてはフランジ部に短軸部を形成して、この短軸部の端面と別体成形した軸部の端面とを摩擦溶接、抵抗溶接により接合して一体とするので、別途溶接機が必要となるなどの問題があった。
【0005】
このような問題を解決する方法として、特許文献2に開示されたものがある。当該開示にかかるCVTプーリー用固定フランジは、中心に角形穴と角形穴に隣接する内向き環状凹部とを有するフランジ部と、角形穴に嵌入された中鍔と中鍔に隣接する外向き環状凹部とを有する軸部と、前記内向き環状凹部と外向き環状凹部とで形成された蟻溝に加圧して塑性流動変形によりフランジ部を軸部から抜け出し不能に固定する圧縮リングと、からなることを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−105368号公報
【特許文献2】特開2009−156363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このようなCVTプーリー用固定フランジにおいては、以下のような問題があった。
すなわち、角形穴に中鍔が嵌入するようにしてフランジ部が軸部に対して取り付けられているために、伝達ベルトなどの作用によりフランジ部に軸線方向に大きな力が作用した際には、フランジ部の可動フランジ側が軸部から浮き上がるように弾性変形してしまい、フランジ部の支持剛性が大きくなかった。また、フランジ部の支持剛性を増すために、フランジ部の軸線方向の長さを大きくすることも考えられるが、その場合には、固定フランジそのものが大きくなり、自動車などの車両等への搭載に支障が出る可能性があるなどの問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、支持剛性に優れ、且つ小型化可能な無段変速機のプーリ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題点を解決するために、本発明の無段変速機のプーリ構造は、次の構成を有している。
(1)シャフトと、そのシャフトに取り付けられたフランジ部とから成る無段変速機のプーリ構造であって、前記シャフトの外周に形成された鍔部と、前記フランジ部に形成され、前記シャフトが貫通する貫通孔と、前記貫通孔内面に形成され、内面及びフランジ部の前記シャフトへの挿入方向の前面側に開放すると共に、前記シャフトに挿入された際に、前記鍔部を収容可能な収納凹部と、前記鍔部の前記シャフトの外周部から起立した起立面と前記フランジ部を前記シャフトへの挿入した際にその起立面と対向する前記収納凹部内面との間に設けられた噛み合い部とから成ることを特徴とする。
【0010】
(2)(1)に記載する無段変速機のプーリ構造において、前記噛み合い部は、前記フランジ部の挿入方向とは反対側に向かって傾斜する前記起立面と、前記フランジ部を前記シャフトへの挿入した際に、前記起立面と噛み合うよう前記フランジ部に形成された傾斜面と、から構成されていることを特徴とする。
(3)(1)に記載する無段変速機のプーリ構造において、前記噛み合い部は、前記起立面と、前記フランジ部を前記シャフトへの挿入した際に、前記起立面と対向する前記フランジ部の対向面にそれぞれ形成された環状の溝と、前記フランジ部を前記シャフトへの挿入した際に、前記両溝間に狭持される環状の拘束部材と、から構成されていることを特徴とする。
【0011】
(4)シャフトと、そのシャフトに取り付けられたフランジ部とから成る無段変速機のプーリ構造であって、前記シャフトの外周に形成された鍔部と、前記フランジ部に形成され、前記シャフトが貫通する貫通孔と、前記鍔部よりも前記フランジ部の挿入側における前記シャフトの外周と、前記フランジ部を前記シャフトへの挿入した際にその外周と対向する前記貫通孔の内面との間に形成された空間と、前記空間に充填される充填部材とから構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記構成を有する本発明の無段変速機のプーリ構造の作用・効果について説明する。
本発明の無段変速機のプーリ構造では、
(1)シャフトと、そのシャフトに取り付けられたフランジ部とから成る無段変速機のプーリ構造であって、前記シャフトの外周に形成された鍔部と、前記フランジ部に形成され、前記シャフトが貫通する貫通孔と、前記貫通孔内面に形成され、内面及びフランジ部の前記シャフトへの挿入方向の前面側に開放すると共に、前記シャフトに挿入された際に、前記鍔部を収容可能な収納凹部と、前記鍔部の前記シャフトの外周部から起立した起立面と前記フランジ部を前記シャフトへの挿入した際にその起立面と対向する前記収納凹部内面との間に設けられた噛み合い部とから成るので、フランジ部の支持剛性を著しく向上させることができ、且つ全体を小型化することができて自動車などの車両等の搭載に支障が出る可能性がないなどの優れた効果を奏する。
【0013】
(2)(1)に記載する無段変速機のプーリ構造において、前記噛み合い部は、前記フランジ部の挿入方向とは反対側に向かって傾斜する前記起立面と、前記フランジ部を前記シャフトへの挿入した際に、前記起立面と噛み合うよう前記フランジ部に形成された傾斜面と、から構成されているので、簡単な構成で確実にフランジ部の支持剛性を向上させることができ、且つ全体を小型化することができて自動車などの車両等の搭載に支障が出る可能性がない。
【0014】
(3)(1)に記載する無段変速機のプーリ構造において、前記噛み合い部は、前記起立面と、前記フランジ部を前記シャフトへの挿入した際に、前記起立面と対向する前記フランジ部の対向面にそれぞれ形成された環状の溝と、前記フランジ部を前記シャフトへの挿入した際に、前記両溝間に狭持される環状の拘束部材と、から構成されているので、簡単な構成で確実にフランジ部の支持剛性を向上させることができ、且つ全体を小型化することができて自動車などの車両等の搭載に支障が出る可能性がない。
【0015】
(4)シャフトと、そのシャフトに取り付けられたフランジ部とから成る無段変速機のプーリ構造であって、前記シャフトの外周に形成された鍔部と、前記フランジ部に形成され、前記シャフトが貫通する貫通孔と、前記鍔部よりも前記フランジ部の挿入側における前記シャフトの外周と、前記フランジ部を前記シャフトへの挿入した際にその外周と対向する前記貫通孔の内面との間に形成された空間と、前記空間に充填される充填部材とから構成されているので、プーリ構造の剛性が向上し、且つ全体を小型化することができて自動車などの車両等の搭載に支障が出る可能性がない。また、精度が必要な箇所を低減することができて生産性が向上するなどの優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態1に係る車両用ベルト式無段変速機の一部を示す部分断面図である。
【図2】フランジ部に作用する反力の状況を説明するための図である。
【図3】(a)および(b)は、変形例を示す図である。
【図4】実施形態2に係る車両用ベルト式無段変速機の一部を示す断面図である。
【図5】(a)および(b)は、組み付け工程を示す図である。
【図6】実施形態3に係る車両用ベルト式無段変速機の一部を示す断面図である。
【図7】(a)および(b)は、組み付け工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態1)
以下、本発明に係る無段変速機のプーリ構造について、実施形態1を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は、適宜簡略化或いは変形誇張されて描画されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確ではない。
【0018】
図1は、本発明に係る無段変速機のプーリ構造を備える車両用ベルト式無段変速機の一部を示す部分断面図である。図1において、無段変速機のプーリ構造10は、シャフト12と、そのシャフト12に固定された固定プーリ14と、そのシャフト12上に移動可能に設けられた可動プーリ16とから構成される。また、固定プーリ14と可動プーリ16との間には、伝動ベルト18が狭持されている。このプーリ構造10では、固定プーリ14と可動プーリ16との間隔を変更すると、伝動ベルト18が狭持される位置が変わるため、この伝動ベルト18が掛けられた従動側のプーリ構造(図示せず)と共同することによって従動側のプーリ構造に伝わる回転数を無段階に変更することが可能である。
【0019】
前記シャフト12の外周面上には、それよりフランジ状に突出する鍔部20が形成されている。その鍔部20の図1において右側の起立面24は、断面形状においてシャフト12の外周面と直交する垂線に比べて上方に行くに従って右側に傾斜、つまりオーバーハング状態になるように傾斜している。また、起立面24とシャフト12とが交わるシャフト12の外周面上には、環状の溝22が形成されており、それにより、鍔部20が存在することにより発生する集中応力を分散するようにしている。さらに、前記鍔部20の外周面と前記起立面24の交点には、面取り面26が形成されている。
【0020】
前記固定プーリ14は、その中央部に前記シャフト12が貫通可能な貫通孔32が形成されたフランジ部30と、そのフランジ部30の外周面よりフランジ状に突出するコーン部34とからなり、前記フランジ部30と前記コーン部34に跨る、図1において右側側面は、傾斜面となっており、前記可動プーリ16との間で、前記伝動ベルト18を挟持可能となっている。前記フランジ部30には、前記貫通孔32およびフランジ部30の、図1において左側側面に開放した収納凹所36が形成され、従って、前記シャフト12に前記固定プーリ14を組み付けた際には、その収納凹所36内に前記鍔部20を収納可能である。また、前記収納凹所36を形成するフランジ部30の面は、前記シャフト12に前記固定プーリ14を組み付けた際に、前記起立面24と噛み合うように傾斜した傾斜面38となっている。なお、前記起立面24と傾斜面38とにより、この発明の噛み合い部が構成される。また、本実施例においては、前記シャフト12に前記固定プーリ14を組み付けた際には、その収納凹所36内に前記鍔部20を収納可能であるので、収納凹所36が存在しない場合に比べてプーリ構造10の軸線方向の長さを短くすることができ、全体として小型化することができる。
【0021】
前記シャフト12と前記固定プーリ14とは、前記鍔部20の外周部と前記フランジ部30の収納凹所36部分、前記シャフト12の外周面と前記フランジ部30の貫通孔32部分で、それぞれ締り嵌めとなっており、その締り代は、前記シャフト12の外周面と前記フランジ部30の貫通孔32部分に比べて前記鍔部20の外周部と前記フランジ部30の収納凹所36部分の方が大きくなるように設定されている。これにより、前記シャフト12と前記固定プーリ14とは、回転方向に固定される。
【0022】
前記シャフト12と、前記固定プーリ14とは、それぞれ部品として製作され、必要に応じて軟化焼鈍した肌焼き鋼などの素材に、冷間鍛造などの塑性加工、または切削加工を施したり、或いは塑性加工と切削加工を併用することにより形成される。
【0023】
以下に、本実施例のプーリ構造10の組立方法について説明する。
先ず、上記したように、前記シャフト12と前記固定プーリ14とを別体に形成する。次に、図示しないプレスなどの工具を用いて、図1において、前記シャフト12の右側端から前記固定プーリ14の貫通孔32に圧入して前記シャフト12に前記固定プーリ14を組み合わせる。そして、前記工具により前記固定プーリ14を前記鍔部20部分までさらに移動させて前記フランジ部30の収納凹所36内に前記鍔部20を嵌入させ、その後、前記起立面24と前記傾斜面38とを当接させると、組み付けが完了する。このとき、前記鍔部20の外周部と前記フランジ部30の収納凹所36部分、前記シャフト12の外周面と前記フランジ部30の貫通孔32部分で、それぞれ締り嵌めとなっているので、前記シャフト12と前記固定プーリ14とは、軸線方向および回転方向で強固に固定される。また、面取り面26により収納凹所36内への鍔部20の嵌入が案内されるので、組み立てが容易となる。
【0024】
次いで、このようなプーリ構造10において、前記固定プーリ14と可動プーリ16との間に伝動ベルト18を狭持すると、図2に示すように、前記固定プーリ14のコーン部34に作用する荷重Fによって、前記固定プーリ14には、起点Aの部分を中心として反時計方向のモーメントが発生する。それにより、前記フランジ部30部分が弾性変形し、特に前記可動プーリ16側の前記フランジ部30部分に前記シャフト12から浮き上がろうとするような弾性変形が生じようとする。しかし、本実施例のプーリ構造10においては、前記固定プーリ14に作用する荷重Fにより、前記起立面24と前記傾斜面38との噛み合い部分には、荷重Fの大きさに応じた反力F1が発生する。その反力F1により、前記固定プーリ14の前記フランジ部30部分の弾性変形、特に、前記可動プーリ16側の前記フランジ部30部分おける前記シャフト12からの浮き上がろうとするような弾性変形を確実に抑制することができる。したがって、前記固定プーリ14において、前記フランジ部30のコーン部34の支持剛性が著しく向上する。また、前記フランジ部30の支持剛性が向上するため、前記固定プーリ14の軸線方向の長さを短くすることができ、全体として小型化することができる。さらに、前記フランジ部30のコーン部34の支持剛性が向上するので、伝動ベルト10の片当たりが防止でき、伝達効率が向上する。
【0025】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限
定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0026】
たとえば、前述の実施例においては、起立面24と前記傾斜面38は、断面形状において直線的に形成されていたが、図3(a)に示すように、起立面240と傾斜面380は、断面形状が鋸歯状に形成されていても良い。また、図3(b)に示すように、シャフト12には、鍔部20の起立面から環状の庇部241が突出形成され、また、収納凹所36を形成するフランジ部30の面には、その環状の庇部241内に嵌入する環状の突起部381が形成されていても良い。
【0027】
(実施形態2)
以下、本発明の実施形態2係る無段変速機のプーリ構造について、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図4は、本実施例に係るプーリ構造10を示す断面図であり、図5は、その組み付け工程を説明する図である。なお、その説明中前述の実施例と同様の作用効果を奏するものには、同じ符号を付して説明する。
【0028】
図4において、鍔部20の図4において右側の起立面240には、環状の溝50が形成されている。また、シャフト12に固定プーリ14を組み付けた際に、前記起立面240と対面する収納凹所36を区画形成するフランジ部30の面380には、前記環状の溝50と対応して同じく環状の溝52が形成されている。また、前記環状の溝50、52の径と同径に形成された金属製環状なす拘束部材54は、前記シャフト12に固定プーリ14を組み付けた状態では、前記鍔部20の環状の溝50と前記フランジ部30の環状の溝52との間に狭持される。
【0029】
以下に、本実施例のプーリ構造10の組立方法について説明する。
先ず、上記したように、前記シャフト12と、前記固定プーリ14とを別体に形成する。次に、拘束部材54を前記シャフト12の右側端から挿入して、図5(a)に示すように、環状の溝50部分に配置する。そして、図示しないプレスなどの工具を用いて、図4において、前記シャフト12の右側端から前記固定プーリ14の貫通孔32に圧入して前記シャフト12に前記固定プーリ14を組み合わせる。さらに、前記工具により前記固定プーリ14を前記鍔部20部分までさらに移動させて前記フランジ部30の収納凹所36内に前記鍔部20を嵌入させ、その後、前記起立面240と、その起立面240と対面する前記収納凹所36を形成する前記フランジ部30の面380とを当接させると、組み付けが完了する。このとき、図5(b)に示すように、前記拘束部材54が塑性変形しながら前記環状の溝50、52内に進入して充填されるので、前記シャフト12の鍔部20に対して前記フランジ部30の半径方向の移動が規制され、それらを強固に連結固定できる。このとき、前記環状の溝50、52の半径方向の寸法精度が多少悪くても、前記拘束部材54が塑性変形しながら前記環状の溝50、52内に侵入して充填されるので、前記環状の溝50、52の位置寸法精度が悪くても前記シャフト12の鍔部20と、前記固定プーリ14のフランジ部30とを安定的に強固に連結できる。つまり、前記環状の溝50、52の位置寸法精度が緩和できて生産性に優れる。
【0030】
次いで、このようなプーリ構造10において、前記固定プーリ14と可動プーリ16との間に伝動ベルト18を狭持すると、前記固定プーリ14に作用する荷重Fにより、前記固定プーリ14には、反時計方向のモーメントが発生する。それにより、前記起立面240と対向する前記フランジ部30部分が弾性変形し、特に可動プーリ16側の前記フランジ部30部分が前記シャフト12から浮き上がろうとするような弾性変形が生じようとする。つまり、前記拘束部材54に剪断力が作用するが、前記拘束部材54が前記環状の溝50、52内に跨って存在して剪断力に抗するので、前記固定プーリ14の前記フランジ部30部分の弾性変形、特に、前記可動プーリ16側の前記フランジ部30部分における前記シャフト12から浮き上がろうとするような弾性変形を確実に防止することができる。したがって、前記固定プーリ14において、前記フランジ部30のコーン部34の支持剛性が向上する。また、それにより、前記固定プーリ14の軸線方向の長さを短くすることができ、全体として小型化することができる。
【0031】
以上、本発明の他の実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0032】
たとえば、前述の実施例においては、環状の溝50、52は、一条としたが、半径方向に間隔をおいて複数条形成し、複数の環状の溝間にそれぞれ拘束部材54を狭持するようにしても良い。また、環状の溝50、52の断面形状は、V字形に限らず、U字状、W字状など様々な形状でも差し支えない。また、拘束部材54の断面形状も前述の実施例においては円形としたが、楕円形状や四角形状、また環状の溝50、52の断面形状に合わせた形状とすることができる。
【0033】
(実施形態3)
以下、本発明の実施形態3係る無段変速機のプーリ構造について、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図6は、本実施例に係るプーリ構造10を示す断面図であり、図7は、その組み付け工程を説明する図である。なお、その説明中前述の実施例と同様の作用効果を奏するものには、同じ符号を付して説明する。
【0034】
図6において、固定プーリ14のフランジ部30には、貫通孔58が形成され、その内径は、シャフト12の外径よりもやや大きく形成されている。したがって、前記貫通孔58付近の前記シャフト12とフランジ部30との間には、空間62が形成されている。また、前記貫通孔58付近のフランジ部30には、環状の突出部60が突出形成されている。筒状金属製の連結部材64は、端部にフランジを有し、そのフランジの径は、前記突出部60の径より大きく、つまり、図6において右側から見たとき、前記突出部60を覆うに十分な大きさに形成されている。また、連結部材64の内径は、前記シャフト12の外径と略同じであり、外径は、前記貫通孔58の内径と略同じである。また、連結部材64の筒部の長さは、前記貫通孔58の軸線方向の長さよりやや大きく設定されている。
【0035】
以下に、本実施例のプーリ構造10の組立方法について説明する。
先ず、上記したように、前記シャフト12と、前記固定プーリ14とを別体に形成する。次に、図6において、前記シャフト12の右側端から前記固定プーリ14の貫通孔58に挿入して前記シャフト12に前記固定プーリ14を組み合わせる。図示しないプレスなどの工具を用いて、前記固定プーリ14を前記鍔部20部分までさらに移動させて前記フランジ部30の収納凹所36内に前記鍔部20を嵌入させ、その後、起立面と、その起立面と対面する前記収納凹所36を形成する前記フランジ部30の面とを当接させると、組み付けが完了する。
【0036】
このとき、図7(a)に示すように、前記貫通孔58付近の前記シャフト12とフランジ部30との間には、空間62が形成される。次に連結部材64を前記シャフト12の右側端から挿入して、その筒部を空間62に挿入する。この状態で治具66により連結部材64を図7(a)において左側方向に押圧すると、連結部材64の筒部が塑性変形して空間62に充填されると同時に、フランジがフランジ部30の突出部60を覆い包むように塑性変形し、組み立てが完了する。この場合、貫通孔58の寸法精度が多少悪くても連結部材64が塑性変形しながら空間62に充填されて前記シャフト12と前記固定プーリ14のフランジ部30とを強固に連結固定するので、前記貫通孔58の寸法精度が緩和できて生産性に優れる。また、前記鍔部20の外周部と前記フランジ部30の収納凹所36部分で締り嵌めとなっているので、前記シャフト12と前記固定プーリ14とは、軸線方向および回転方向で強固に固定される。なお、連結部材64がこの発明の充填部材に相当する。
【0037】
次いで、このようなプーリ構造10において、前記固定プーリ14と可動プーリ16との間に伝動ベルト18を狭持すると、前記固定プーリ14のコーン部34に作用する荷重Fにより、前記固定プーリ14には、反時計方向のモーメントが発生し、それにより、前記フランジ部30部分が弾性変形、特に可動プーリ16側の前記フランジ部30部分に前記シャフト12から浮き上がろうとするような弾性変形が生じようとするが、前記連結部材64が前記空間62に充填されると共に、フランジが突出部60を覆い包んでいるので、前記固定プーリ14の前記フランジ部30部分、特に、前記可動プーリ16側の前記フランジ部30部分における前記シャフト12から浮き上がろうとするような弾性変形を確実に防止することができる。したがって、前記固定プーリ14において、前記フランジ部30のコーン部34の支持剛性が向上し、前記固定プーリ14の軸線方向の長さを短くすることができ、全体として小型化することができる。
【0038】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明
は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で
実施することができる。
【符号の説明】
【0039】
10・・・プーリ構造
12・・・シャフト
20・・・鍔部
30・・・フランジ部
24・・・起立面
38・・・傾斜面
36・・・収納凹所
50、52・・・溝
54・・・拘束部材
62・・・空間
64・・・連結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、そのシャフトに取り付けられたフランジ部とから成る無段変速機のプーリ構造であって、
前記シャフトの外周に形成された鍔部と、
前記フランジ部に形成され、前記シャフトが貫通する貫通孔と、
前記貫通孔内面に形成され、内面及びフランジ部の前記シャフトへの挿入方向の前面側に開放すると共に、前記シャフトに挿入された際に、前記鍔部を収容可能な収納凹部と、
前記鍔部の前記シャフトの外周部から起立した起立面と、前記フランジ部を前記シャフトへの挿入した際にその起立面と対向する前記収納凹部内面との間に設けられた噛み合い部と、
から成ることを特徴とするプーリ構造。
【請求項2】
請求項1に記載する無段変速機のプーリ構造において、
前記噛み合い部は、
前記フランジ部の挿入方向とは反対側に向かって傾斜する前記起立面と、
前記フランジ部を前記シャフトへの挿入した際に、前記起立面と噛み合うよう前記フランジ部に形成された傾斜面と、から構成されていることを特徴とするプーリ構造。
【請求項3】
請求項1に記載する無段変速機のプーリ構造において、
前記噛み合い部は、
前記起立面と、前記フランジ部を前記シャフトへの挿入した際に、前記起立面と対向する前記フランジ部の対向面にそれぞれ形成された環状の溝と、
前記フランジ部を前記シャフトへの挿入した際に、前記両溝間に狭持される環状の拘束部材と、から構成されていることを特徴とするプーリ構造。
【請求項4】
シャフトと、そのシャフトに取り付けられたフランジ部とから成る無段変速機のプーリ構造であって、
前記シャフトの外周に形成された鍔部と、
前記フランジ部に形成され、前記シャフトが貫通する貫通孔と、
前記鍔部よりも前記フランジ部の挿入側における前記シャフトの外周と、前記フランジ部を前記シャフトへの挿入した際にその外周と対向する前記貫通孔の内面との間に形成された空間と、
前記空間に充填される充填部材と
から構成されていることを特徴とするプーリ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−180918(P2012−180918A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45415(P2011−45415)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】