説明

無段変速機の制御装置

【課題】車両停止時の変速の際や微速走行時において燃費の悪化を抑制しながら、無段変速機の変速比を最大変速比γmaxに確実に保持することが可能な制御を実現する。
【解決手段】車速が判定閾値B以下で、かつ、当該無段変速機の変速比が判定閾値A以上のときに、最大変速比判定条件が成立したと判定して、プライマリシーブ油圧の下限ガード処理を解除して、プライマリシーブ油圧を、通常制御時のプライマリ側油圧アクチュエータの油圧以下に下げる。このような制御により、車両停止時に無段変速機の変速比を確実に最大変速比γmaxに保持することができる。しかも、セカンダリシーブ油圧を上げることなく、変速比を最大変速比γmaxにすることができるので、燃費の向上をはかることができる。また、微速走行時に、変速比が増速しなくなり、駆動力不足による発進不良を回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン(内燃機関)を搭載した車両において、エンジンが発生するトルク及び回転速度を車両の走行状態に応じて適切に駆動輪に伝達する変速機として、エンジンと駆動輪との間の変速比を自動的に最適設定する自動変速機が知られている。車両に搭載される自動変速機としては、例えば、クラッチやブレーキなどの摩擦係合要素と遊星歯車装置とを用いて変速比(ギヤ比)を設定する遊星歯車式変速機や、変速比を無段階に調整するベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)がある。
【0003】
ベルト式無段変速機は、プーリ溝(V溝)を備えたプライマリプーリ(入力側プーリ)とセカンダリプーリ(出力側プーリ)とにベルトを巻き掛け、一方のプーリのプーリ溝の溝幅を拡大すると同時に、他方のプーリのプーリ溝の溝幅を狭くすることにより、それぞれのプーリに対するベルトの巻き掛け半径(有効径)を連続的に変化させて変速比を無段階に設定するように構成されている。このベルト式無段変速機において伝達されるトルクは、ベルトとプーリとを相互に接触させる方向に作用する荷重に応じたトルクとなり、従ってベルトに張力を付与するようにプーリによってベルトを挟み付けている。
【0004】
また、ベルト式無段変速機の変速比の制御は、上記のように、プーリ溝の溝幅を拡大・縮小させることによって行われる。具体的には、プライマリプーリ及びセカンダリプーリをそれぞれ固定シーブと可動シーブとによって構成し、可動シーブをその背面側に設けた油圧アクチュエータにより軸方向に前後動させることで変速比を制御するようにしている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0005】
このようなベルト式無段変速機においては、変速コントロールバルブを用いて変速比を制御している。変速コントロールバルブには、ライン圧PLが元圧として供給され、そのライン圧PLをリニアソレノイドバルブが出力する制御油圧をパイロット圧として制御してプライマリプーリの油圧アクチュエータに供給する。このようにして、変速コントロールバルブの出力油圧を制御することにより、プライマリプーリの油圧アクチュエータの油圧(以下、プライマリシーブ油圧ともいう)を制御することで、プライマリプーリの溝幅つまりプライマリプーリ側のベルトの巻き掛け半径が変化して変速比が制御される。
【0006】
また、セカンダリプーリの油圧アクチュエータにはベルト挟圧力コントロールバルブが接続されている。ベルト挟圧力コントロールバルブには、ライン圧PLが元圧として供給され、そのライン圧PLをリニアソレノイドバルブが出力する制御油圧をパイロット圧として制御してセカンダリプーリの油圧アクチュエータに供給する。このようにして、ベルト挟圧力コントロールバルブの出力油圧を制御することにより、セカンダリプーリの油圧アクチュエータの油圧(以下、セカンダリシーブ油圧ともいう)を制御することで、ベルト挟圧力が制御される。なお、以上のプライマリシーブ油圧及びセカンダリシーブ油圧とライン圧PL(元圧)との関係を図8に示す。
【0007】
このようにプライマリシーブ油圧とセカンダリシーブ油圧とをそれぞれ独立に油圧制御するベルト式無段変速機の制御装置では、推力比τ(τ=[セカンダリシーブ油圧×セカンダリ側油圧シリンダの受圧面積]/[プライマリシーブ油圧×プライマリ側油圧シリンダの受圧面積])と、セカンダリシーブの推力(セカンダリシーブ油圧(例えばセンサによる検出値)×油圧シリンダの受圧面積)とからプライマリシーブ油圧を算出しており、ベルト滑りの防止のためにプライマリシーブ油圧に下限ガード値を設けている。なお、推力比τと変速比γとの関係を図9に示す。
【0008】
一方、ベルト式無段変速機の制御装置においては、実際の変速比(実変速比)と目標変速比との偏差に基づいて変速比のフィードバック制御を行っている。また、フィードバック制御が不可になる微速走行時には、例えば、プライマリシーブ油圧とセカンダリシーブ油圧とが所定の比率となるように(例えば図9に示す推力比τが最大となるように)、フィードフォワード制御をのみを行って最大変速比γmaxを成立させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−153104号公報
【特許文献2】特開2003−262267号公報
【特許文献3】特開2007−224992号公報
【特許文献4】特開2008−051317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、ベルト式無段変速機が搭載された車両において、車両停止時の変速の際にはベルト式変速機の変速比を最大変速比(最低速側の変速比)γmax(図9参照)に保持しているが、最大変速比γmaxを保持するためにプライマリシーブ油圧を上記した下限ガード以下にまで下げる必要がある場合には、セカンダリシーブ油圧を上げて最大変速比γmaxを保持している。このため、燃料消費率(燃費)が悪化する場合がある。すなわち、最大変速比γmax付近でセカンダリシーブ油圧を上げるには元圧(ライン圧PL:図8参照)を上昇させる必要があり、その元圧PLの上昇のためにエンジンの回転数を上昇させる必要があるので燃費の悪化を招く。
【0011】
また、微速走行時においても、ベルト式変速機の変速比を最大変速比γmaxに保持するようにしているが、微速走行時にはフィードフォワード制御のみの制御となってしまうため、油圧ばらつきや推力比のばらつきにより、変速比が最大変速比γmaxから離れて増速(変速比が小さい側に変化)する場合がある。こうした状況になると、駆動力不足になって、微速走行状態からの加速時や停止後の発進の際に発進不良が起こることがある。
【0012】
本発明はそのような実情を考慮してなされたもので、車両停止時の変速の際や微速走行時において燃費の悪化を抑制しながら、無段変速機の変速比を確実に最大変速比γmaxに保持することが可能な制御の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、プライマリプーリと、セカンダリプーリと、前記プライマリプーリとセカンダリプーリとの間に巻き掛けられたベルトと、前記プライマリプーリのシーブを移動してプーリ溝の溝幅を変化させるプライマリ側油圧アクチュエータと、前記セカンダリプーリのシーブを移動してプーリ溝の溝幅を変化させるセカンダリ側油圧アクチュエータとを備えた車両用無段変速機に適用され、前記プライマリ側油圧アクチュエータの油圧及び前記セカンダリ側油圧アクチュエータの油圧を制御する油圧制御手段と、推力比(推力比=[セカンダリ側油圧アクチュエータによる推力]/[プライマリ側油圧アクチュエータによる推力])を用いて前記プライマリ側油圧アクチュエータの油圧を設定する手段とを有する制御装置を前提としており、このような無段変速機の制御装置において、車速が判定閾値以下で、かつ、前記無段変速機の変速比が判定閾値以上のときに、最大変速比判定条件が成立したと判定して、前記推力比を用いて設定したプライマリ側油圧アクチュエータの油圧以下の油圧を設定することを特徴している。
【0014】
より具体的には、前記最大変速比判定条件が成立したと判定したときに、前記プライマリ側油圧アクチュエータの油圧(以下、プライマリシーブ油圧ともいう)を、通常制御時のプライマリ側油圧アクチュエータの油圧以下に下げることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、最大変速比判定条件が成立したと判定したときに、推力比を用いて設定したプライマリ側油圧アクチュエータの油圧以下の油圧を設定(具体的には、プライマリシーブ油圧を通常制御時のプライマリ側油圧アクチュエータの油圧以下に設定)するので、車両停止時に無段変速機の変速比を確実に最大変速比γmaxに保持することができる。しかも、セカンダリシーブ油圧を上げることなく、変速比を最大変速比γmaxにすることができるので、燃費の向上をはかることができる。また、微速走行時(例えば5km/h以下の走行時)においても、推力比を用いて設定したプライマリ側油圧アクチュエータの油圧以下の油圧を設定することにより、無段変速機の変速比を確実に最大変速比γmaxに保持することができるので、油圧ばらつきや推力比のばらつきによる影響を受けることがなく、変速比が増速することがなくなる。これによって駆動力不足による発進不良を回避することができる。
【0016】
ここで、無段変速機の変速比が最大変速比γmaxである場合、プライマリプーリの溝幅が最大の状態であり、プライマリプーリ側でベルトが殆ど滑らない状態(機械的なロックにより反力を保てる状態)となるので、推力バランスをくずして、プライマリシーブ油圧を通常制御時のプライマリ側油圧アクチュエータの油圧以下に下げても、ベルト滑りが生じることはない。
【0017】
なお、プライマリシーブ油圧を通常制御時のプライマリ側油圧アクチュエータの油圧以下に下げた場合に、油圧ばらつき等によって、上記機械的なロックにより反力を保てなくなる状態が生じる可能性がある場合は、その油圧ばらつき等に対する余裕分を実験・計算等によって取得しておき、当該プライマリシーブ油圧を通常制御時のプライマリ側油圧アクチュエータの油圧以下に下げる場合の下限値(最大油圧下げ量)を設定するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を適用するベルト式無段変速機が搭載された車両の一例を示す概略構成図である。
【図2】油圧制御回路のうちベルト式無段変速機のプライマリプーリの油圧アクチュエータ及びセカンダリプーリの油圧アクチュエータの油圧を制御する油圧制御回路の回路構成図である。
【図3】ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。
【図4】下限ガード処理の解除制御の一例を示すフローチャートである。
【図5】下限ガード処理の解除制御の一例を示すタイミングチャートである。
【図6】下限ガード値の変更制御の一例を示すフローチャートである。
【図7】下限ガード値の変更制御の一例を示すタイミングチャートである。
【図8】プライマリシーブ油圧及びセカンダリシーブ油圧とライン圧PLとの関係を示す図である。
【図9】推力比と変速比との関係(推力比−変速比特性)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は、本発明を適用する車両の概略構成図である。
【0021】
この例の車両は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両であって、走行用動力源であるエンジン(内燃機関)1、流体伝動装置としてのトルクコンバータ2、前後進切換装置3、ベルト式無段変速機(CVT)4、減速歯車装置5、差動歯車装置6、及び、ECU(Electronic Control Unit)8などが搭載されており、そのECU8、後述する油圧制御回路20、プライマリプーリ回転数センサ105、セカンダリプーリ回転数センサ106、及び、油圧センサ109などによって無段変速機の制御装置が実現されている。
【0022】
エンジン1の出力軸であるクランクシャフト11はトルクコンバータ2に連結されており、エンジン1の出力が、トルクコンバータ2から前後進切換装置3、ベルト式無段変速機4及び減速歯車装置5を介して差動歯車装置6に伝達され、左右の駆動輪(図示せず)へ分配される。
【0023】
これらエンジン1、トルクコンバータ2、前後進切換装置3、ベルト式無段変速機4、油圧制御回路20、及び、ECU8の各部について以下に説明する。
【0024】
−エンジン−
エンジン1は、例えば多気筒ガソリンエンジンである。エンジン1に吸入される吸入空気量は電子制御式のスロットルバルブ12により調整される。スロットルバルブ12は運転者のアクセルペダル操作とは独立してスロットル開度を電子的に制御することが可能であり、その開度(スロットル開度)はスロットル開度センサ102によって検出される。また、エンジン1の冷却水温は水温センサ103によって検出される。
【0025】
スロットルバルブ12のスロットル開度はECU8によって駆動制御される。具体的には、エンジン回転数センサ101によって検出されるエンジン回転数Ne、及び、運転者のアクセルペダル踏み込み量(アクセル操作量Acc)等のエンジン1の運転状態に応じた最適な吸入空気量(目標吸気量)が得られるようにスロットルバルブ12のスロットル開度を制御している。より詳細には、スロットル開度センサ102を用いてスロットルバルブ12の実際のスロットル開度を検出し、その実スロットル開度が、上記目標吸気量が得られるスロットル開度(目標スロットル開度)に一致するようにスロットルバルブ12のスロットルモータ13をフィードバック制御している。
【0026】
−トルクコンバータ−
トルクコンバータ2は、入力軸側のポンプインペラ21と、出力軸側のタービンランナ22と、トルク増幅機能を発現するステータ23と、ワンウェイクラッチ24とを備え、ポンプインペラ21とタービンランナ22との間で流体を介して動力伝達を行う。
【0027】
トルクコンバータ2には、当該トルクコンバータ2の入力側と出力側とを直結するロックアップクラッチ25が設けられている。ロックアップクラッチ25は、係合側油室26内の油圧と解放側油室27内の油圧との差圧(ロックアップ差圧)ΔP(ΔP=係合側油室26内の油圧−解放側油室27内の油圧)によってフロントカバー2aに摩擦係合される油圧式摩擦クラッチであって、前記差圧Δを制御することにより、完全係合・半係合(スリップ状態での係合)または解放される。
【0028】
ロックアップクラッチ25を完全係合させることにより、ポンプインペラ21とタービンランナ22とが一体回転する。また、ロックアップクラッチ25を所定のスリップ状態(半係合状態)で係合させることにより、駆動時には所定のスリップ量でタービンランナ22がポンプインペラ21に追随して回転する。一方、ロックアップ差圧ΔPを負に設定することによりロックアップクラッチ25は解放状態となる。
【0029】
そして、トルクコンバータ2にはポンプインペラ21に連結して駆動される機械式のオイルポンプ(油圧発生源)7が設けられている。
【0030】
−前後進切換装置−
前後進切換装置3は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構30、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1を備えている。
【0031】
遊星歯車機構30のサンギヤ31はトルクコンバータ2のタービンシャフト28に一体的に連結されており、キャリア33はベルト式無段変速機4の入力軸40に一体的に連結されている。また、これらキャリア33とサンギヤ31とは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ32は後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。
【0032】
前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は、後述する油圧制御回路20によって係合・解放される油圧式摩擦係合要素であって、前進用クラッチC1が係合され、後進用ブレーキB1が解放されることにより、前後進切換装置3が一体回転状態となって前進用動力伝達経路が成立(達成)し、この状態で、前進方向の駆動力がベルト式無段変速機4側へ伝達される。
【0033】
一方、後進用ブレーキB1が係合され、前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置3によって後進用動力伝達経路が成立(達成)する。この状態で、入力軸40はタービンシャフト27に対して逆方向へ回転し、この後進方向の駆動力がベルト式無段変速機4側へ伝達される。また、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1がともに解放されると、前後進切換装置3は動力伝達を遮断するニュートラル(遮断状態)になる。
【0034】
−ベルト式無段変速機−
ベルト式無段変速機4は、入力側のプライマリプーリ41、出力側のセカンダリプーリ42、及び、これらプライマリプーリ41とセカンダリプーリ42との間に巻き掛けられた金属製のベルト43などを備えている。
【0035】
プライマリプーリ41は、有効径が可変な可変プーリであって、入力軸40に固定された固定シーブ411と、入力軸40に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ412とによって構成されている。セカンダリプーリ42も同様に有効径が可変な可変プーリであって、出力軸44に固定された固定シーブ421と、出力軸44に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ422とによって構成されている。
【0036】
プライマリプーリ41の可動シーブ412側には、固定シーブ411と可動シーブ412との間のV溝幅を変更するための油圧アクチュエータ413が配置されている。また、セカンダリプーリ42の可動シーブ422側にも同様に、固定シーブ421と可動シーブ422との間のV溝幅を変更するための油圧アクチュエータ423が配置されている。
【0037】
以上の構造のベルト式無段変速機4において、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413の油圧を制御することにより、プライマリプーリ41及びセカンダリプーリ42の各V溝幅が変化してベルト43の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(γ=プライマリプーリ回転数(入力軸回転数)Nin/セカンダリプーリ回転数(出力軸回転数)Nout)が連続的に変化する。また、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423の油圧は、ベルト滑りが生じない所定の挟圧力でベルト43が挟圧されるように制御される。これらの制御はECU8及び油圧制御回路20によって実行される。
【0038】
−油圧制御回路−
次に、油圧制御回路20のうち、ベルト式無段変速機4のプライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413の油圧制御回路、及び、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423の油圧制御回路などについて図2を参照して説明する。
【0039】
図2に示す油圧制御回路20は、プライマリレギュレータバルブ201、セレクトバルブ202、ライン圧モジュレータバルブ203、ソレノイドモジュレータバルブ204、リニアソレノイドバルブ(SLP)205、リニアソレノイドバルブ(SLS)206、変速コントロールバルブ207、及び、ベルト挟圧力コントロールバルブ208などを備えている。
【0040】
この例の油圧制御回路20において、オイルポンプ7が発生した油圧はプライマリレギュレータバルブ201により調圧されてライン圧PLが生成される。プライマリレギュレータバルブ201には、リニアソレノイドバルブ(SLS)206が出力する制御油圧がセレクトバルブ202を介して供給され、その制御油圧をパイロット圧として作動する。そして、プライマリレギュレータバルブ201により調圧されたライン圧PLは、ライン圧モジュレータバルブ203、変速コントロールバルブ207、及び、ベルト挟圧力コントロールバルブ208に供給される。
【0041】
ライン圧モジュレータバルブ203は、プライマリレギュレータバルブ201により調圧されたライン圧PLをそれよりも低い一定の油圧(ライン圧LPM2)に調圧する調圧弁である。ライン圧モジュレータバルブ203が出力するライン圧LPM2は、リニアソレノイドバルブ(SLP)205、リニアソレノイドバルブ(SLS)206、及び、ソレノイドモジュレータバルブ204に供給される。
【0042】
ソレノイドモジュレータバルブ204は、ライン圧モジュレータバルブ203により調圧されたライン圧LPM2をそれよりも低い一定の油圧(モジュレータ油圧PSM)に調圧する調圧弁である。ソレノイドモジュレータバルブ204が出力するモジュレータ油圧PSMは、変速コントロールバルブ207及びベルト挟圧力コントロールバルブ208に供給される。
【0043】
リニアソレノイドバルブ(SLP)205、リニアソレノイドバルブ(SLS)206は、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブである。リニアソレノイドバルブ(SLP)205、リニアソレノイドバルブ(SLS)206は、ECU8から送信されたデューティ信号(デューティ値)によって決まる電流値に応じて制御油圧(出力油圧)を出力する。リニアソレノイドバルブ(SLP)205が出力する制御油圧は、変速コントロールバルブ207に供給される。リニアソレノイドバルブ(SLS)206が出力する制御油圧は、プライマリレギュレータバルブ201、及び、ベルト挟圧力コントロールバルブ208に供給される。
【0044】
なお、リニアソレノイドバルブ(SLP)205、リニアソレノイドバルブ(SLS)206を、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブとしてもよい。
【0045】
次に、変速コントロールバルブ207及びベルト挟圧力コントロールバルブ208について説明する。
【0046】
−変速コントロールバルブ−
図2に示すように、ベルト式無段変速機4のプライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413(以下、プライマリ側油圧アクチュエータ413ともいう)には、変速コントロールバルブ207が接続されている。
【0047】
変速コントロールバルブ207には、軸方向に移動可能なスプール271が設けられている。スプール271の一端側(図2の下端側)には、圧縮コイルばね272が圧縮状態で配置されているとともに、その一端側に制御油圧ポート273が設けられている。この制御油圧ポート273には上述したリニアソレノイドバルブ(SLP)205が接続されており、そのリニアソレノイドバルブ(SLP)205が出力する制御油圧が制御油圧ポート273に印加される。さらに、変速コントロールバルブ207には、ライン圧PLが供給される入力ポート274、及び、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に接続(連通)される出力ポート275が設けられている。
【0048】
変速コントロールバルブ207は、リニアソレノイドバルブ(SLP)205が出力する制御油圧をパイロット圧としてライン圧PLを調圧制御してプライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に供給する。つまり、リニアソレノイドバルブ(SLP)205によって制御された変速コントロールバルブ207の出力油圧Pin(以下、プライマリシーブ油圧Pinともいう)がプライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に供給される。これにより、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に供給される油圧が制御され、ベルト式無段変速機4の変速比γが制御される。
【0049】
具体的には、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイドバルブ(SLP)205が出力する制御油圧が増大すると、スプール271が図2の上側に移動する。これにより、変速コントロールバルブ207の出力油圧Pinが増大し、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に供給される油圧が増大する。その結果、プライマリプーリ41のV溝幅が狭くなって変速比γが小さくなる(アップシフト)。
【0050】
一方、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイドバルブ(SLP)205が出力する制御油圧が低下すると、スプール271が図2の下側に移動する。これにより、変速コントロールバルブ207の出力油圧Pinが低下し、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に供給される油圧が低下する。その結果、プライマリプーリ41のV溝幅が広くなって変速比γが大きくなる(ダウンシフト)。
【0051】
この場合、例えば、アクセル開度Accおよび車速Vをパラメータとして予め設定された変速マップから目標変速比を算出し、実際の変速比が目標変速比となるように、それら実際の変速比と目標変速比との偏差に応じてベルト式無段変速機4の変速制御を行う。具体的には、リニアソレノイドバルブ(SLP)205の制御油圧を制御することにより、ベルト式無段変速機4のプライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413の油圧を調圧制御して、ベルト式無段変速機4の変速比γを連続的に制御する。
【0052】
−ベルト挟圧力コントロールバルブ−
図2に示すように、ベルト式無段変速機4のセカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423(以下、セカンダリ側油圧アクチュエータ423ともいう)には、ベルト挟圧力コントロールバルブ208が接続されている。
【0053】
ベルト挟圧力コントロールバルブ208には、軸方向に移動可能なスプール281が設けられている。スプール281の一端側(図2の下端側)には、圧縮コイルばね282が圧縮状態で配置されているとともに、その一端側に制御油圧ポート283が設けられている。この制御油圧ポート283には上述したリニアソレノイドバルブ(SLS)206が接続されており、そのリニアソレノイドバルブ(SLS)206が出力する制御油圧が制御油圧ポート283に印加される。さらに、変速コントロールバルブ207には、ライン圧PLが供給される入力ポート284、及び、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423に接続(連通)される出力ポート285が形成されている。
【0054】
そして、ベルト挟圧力コントロールバルブ208は、リニアソレノイドバルブ(SLS)206が出力する制御油圧をパイロット圧としてライン圧PLを調圧制御してセカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423に供給する。つまり、リニアソレノイドバルブ(SLS)206によって制御されたベルト挟圧力コントロールバルブ208の出力油圧Pd(以下、セカンダリシーブ油圧Pdともいう)がセカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423に供給される。これによって、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423に供給される油圧が制御され、ベルト式無段変速機4のベルト挟圧力が制御される。
【0055】
具体的には、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423に所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイドバルブ(SLS)206が出力する制御油圧が増大すると、スプール281が図2の上側に移動する。これにより、ベルト挟圧力コントロールバルブ208の出力油圧Pdが増大し、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423に供給される油圧が増大する。その結果、ベルト挟圧力が増大する。
【0056】
一方、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423に所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイドバルブ(SLS)206が出力する制御油圧が低下すると、スプール281が図2の下側に移動する。これにより、ベルト挟圧力コントロールバルブ208の出力油圧Pdが低下し、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423に供給される油圧が低下する。その結果、ベルト挟圧力が低下する。
【0057】
この場合、例えば、伝達トルクに対応するアクセル開度Acc及び変速比γをパラメータとし、ベルト滑りが生じないように予め設定された必要油圧(ベルト挟圧力に相当)のマップにしたがって、リニアソレノイドバルブ(SLS)206の制御油圧を制御することにより、ベルト式無段変速機4のセカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423の油圧(セカンダリシーブ油圧Pd)を調圧制御してベルト挟圧力を制御する。
【0058】
ここで、この例において、プライマリレギュレータバルブ201によって調圧されるライン圧PLは、図8に示すように、ベルト式無段変速機4の変速比γがロー側(大きい側)の領域では、セカンダリシーブ油圧Pdに対して所定マージンだけ高い値で、変速比γがハイ側(小さい側)の領域では、プライマリシーブ油圧Pinに対して所定マージンだけ高い値となるように制御される。このような制御により、セカンダリシーブ油圧Pd及びプライマリシーブ油圧Pinを得ることが可能な必要最小限の油圧を設定することができ、無駄な油圧出力によるエネルギロスを防止することができる。
【0059】
−ECU−
ECU8は、図3に示すように、CPU81、ROM82、RAM83及びバックアップRAM84などを備えている。
【0060】
ROM82には、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU81は、ROM82に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAM83はCPU81での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM84はエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0061】
これらCPU81、ROM82、RAM83、及び、バックアップRAM84はバス87を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース85及び出力インターフェース86に接続されている。
【0062】
ECU8の入力インターフェース85には、エンジン回転数センサ101、スロットル開度センサ102、水温センサ103、タービン回転数センサ104、プライマリプーリ回転数センサ105、セカンダリプーリ回転数センサ106、アクセル開度センサ107、CVT油温センサ108、セカンダリシーブ油圧Pdを検出する油圧センサ109、及び、シフトレバー9のレバーポジション(操作位置)を検出するレバーポジションセンサ110などが接続されており、その各センサの出力信号、つまり、エンジン1の回転数(エンジン回転数)Ne、スロットルバルブ12のスロットル開度θth、エンジン1の冷却水温Tw、タービンシャフト27の回転数(タービン回転数)Nt、プライマリプーリ回転数(入力軸回転数)Nin、セカンダリプーリ回転数(出力軸回転数)Nout、アクセルペダルの操作量(アクセル関度)Acc、油圧制御回路20の油温(CVT油温Thc)、ベルト式無段変速機4のセカンダリシーブ油圧Pd、及び、シフトレバー9のレバーポジション(操作位置)などを表す信号がECU8に供給される。
【0063】
出力インターフェース86には、スロットルモータ13、燃料噴射装置14、点火装置15及び油圧制御回路20などが接続されている。
【0064】
ここで、ECU8に供給される信号のうち、タービン回転数Ntは、前後進切換装置3の前進用クラッチC1が係合する前進走行時にはプライマリプーリ回転数(入力軸回転数)Ninと一致し、セカンダリプーリ回転数(出力軸回転数)Noutは車速Vに対応する。また、アクセル操作量Accは運転者の出力要求量を表している。なお、車速Vは車速センサによって検出するようにしてもよい。
【0065】
また、シフトレバー9は、駐車のためのパーキング位置「P」、後進走行のためのリバース位置「R」、動力伝達を遮断するニュートラル位置「N」、前進走行のためのドライブ位置「D」、前進走行時にベルト式無段変速機4の変速比γを手動操作で増減できるマニュアル位置「M」などの各位置に選択的に操作されるようになっている。
【0066】
マニュアル位置「M」には、変速比γを増減するためのダウンシフト位置やアップシフト位置、あるいは、変速範囲の上限(変速比γが小さい側)が異なる複数の変速レンジを選択できる複数のレンジ位置等が備えられている。
【0067】
レバーポジションセンサ110は、例えば、パーキング位置「P」、リバース位置「R」、ニュートラル位置「N」、ドライブ位置「D」、マニュアル位置「M」やアップシフト位置、ダウンシフト位置、あるいはレンジ位置等へシフトレバー9が操作されたことを検出する複数のON・OFFスイッチ等を備えている。なお、変速比γを手動操作で変更するために、シフトレバー9とは別にステアリングホイール等にダウンシフトスイッチやアップシフトスイッチ、あるいはレバー等を設けることも可能である。
【0068】
そして、ECU8は、上記した各種のセンサの出力信号などに基づいて、エンジン1の出力制御、上述したベルト式無段変速機4の変速比制御及びベルト挟圧力制御、並びに、ロックアップクラッチ25の係合・解放制御などを実行する。さらに、ECU8は、後述する[下限ガード処理の解除制御(プライマリシーブ油圧Pinを下げる制御も含む)]または[下限ガード値の変更制御(プライマリシーブ油圧Pinを下げる制御も含む)]を実行する。
【0069】
なお、エンジン1の出力制御は、スロットルモータ13、燃料噴射装置14、点火装置15及びECU8などによって実行される。
【0070】
−下限ガード処理の解除制御−
まず、ECU8は、ベルト式無段変速機4のベルト滑りを防止するために、プライマリシーブ油圧Pinの下限を制限する下限ガード処理を実行する。
【0071】
通常制御時におけるプライマリシーブ油圧Pinの下限ガード値は、例えば、ある変速比でベルト滑りが生じない状態で伝達できるトルク(無段変速機の伝達トルク)の最小値(下限値)に基づいて算出される。また、通常制御時の下限ガード値は、例えば、変速比をパラメータとして実験・計算等によって取得した値をマップ化したものをECU8のROM82内に記憶しておき、現在の変速比(実変速比)に基づいてマップを参照して求める。ただし、この例では、車両停止時の変速の際や微速走行時には、そのような下限ガード処理を解除することで、微速走行時において最大変速比γmaxを保持する。
【0072】
その具体的な制御の一例を図4のフローチャート及び図5のタイミングチャートを参照して説明する。図4の制御ルーチンはECU8において所定周期毎に繰り返して実行される。
【0073】
まず、ステップST101において、車速が微速判定閾値B以下であり、かつ、ベルト式無段変速機4の目標変速比がγmax判定閾値A以上であるという条件が成立している否かを判定し、その判定結果が否定判定である場合は通常制御時の下限ガード処理を継続する(ステップST104〜ステップST105)。
【0074】
ここで、γmax判定閾値Aについて説明する。まず、最大変速比γmaxは、例えば回転数センサで計測可能な場合は回転数比(out/in)で判断しており、また、回転数センサに載らない極低車速ではPinの値(油圧センサ)やシーブ位置(シーブ位置センサ)などで判断している。そして、この例では、それら回転数センサ、油圧センサやシーブ位置センサのセンサ値や各センサから計算される変速比γがγmaxに相当する値になる場合に「目標変速比がγmax判定閾値A以上である」と判定する。
【0075】
一方、ステップST101の判定結果が肯定判定である場合([車速≦B]かつ[目標変速比≧A]である場合)は、その肯定判定となった時点ta1(図5参照)で、最大変速比γmax判定(γmax判定ON)を行う(ステップST102)。この最大変速比γmax判定ONと同時に、プライマリシーブ油圧Pinの下限ガード処理を解除する(ステップST103)。さらに、ベルト式無段変速機4の変速比を確実に最大変速比γmaxに保持できるように、γmax判定時のプライマリシーブ油圧Pinを通常制御時の下限ガード値以下に下げる(例えば図7の破線出示す実油圧参照)。つまり、プライマリシーブ油圧Pinを通常制御時のプライマリ側油圧アクチュエータ413の油圧以下に下げる。
【0076】
ここで、γmax判定時のプライマリシーブ油圧Pinの下げ量は、油圧ばらつきや推力比のばらつき等を考慮し、ベルト式無段変速機4の変速比を確実に最大変速比γmaxに保持できるように、実験・計算等により適合した値を設定する。
【0077】
また、プライマリシーブ油圧Pinの下げ量(シーブ油圧下げ量)は、γmax判定時のプライマリシーブ油圧Pinに応じて設定するようにしてもよい。この場合、例えば、プライマリシーブ油圧Pinをパラメータとし、ベルト式無段変速機4の変速比を確実に最大変速比γmaxに保持できるように、油圧ばらつきや推力比ばらつき等を見込んだシーブ油圧下げ量を、実験・計算等により取得してマップ化しておき、γmax判定時に、油圧センサ109の出力信号から得られる現在のセカンダリシーブ油圧Pd(セカンダリシーブの推力)及び最大変速比γmaxでの推力比τ(図9参照)に基づいて現在のプライマリシーブ油圧Pinを算出し、そのプライマリシーブ油圧Pinの算出値に基づいて前記マップを参照してシーブ油圧下げ量を設定するようにしてもよい。
【0078】
そして、ベルト式無段変速機4の変速比を最大変速比γmaxに保持している状態(停止または微速走行状態)から、車速が上昇し、これに伴って目標変速比が上昇する状況となり、上記した条件(車速が微速判定閾値B以下であり、かつ、ベルト式無段変速機4の変速比がγmax判定閾値A以上である)が不成立になった場合(ステップST101の判定結果が否定判定となった場合)は、その時点ta2(図5参照)で、γmax判定OFFと判定し(ステップST104)、下限ガード処理解除を中止して、通常制御時の下限ガード処理を実行(再開)する。
【0079】
以上のように、この例の制御によれば、車両停止時や微速走行時にプライマリシーブ油圧Pinを下限ガード値以下(通常制御時のプライマリ側油圧アクチュエータ413の油圧以下)に下げることができ、車両停止時にベルト式無段変速機4の変速比を確実に最大変速比γmaxに保持することができる。これによって次回の発進の際の発進性能を向上させることができる。しかも、セカンダリシーブ油圧Pdを上げることなく、変速比を最大変速比γmaxにすることができるので、燃費の向上をはかることができる。
【0080】
また、微速走行時(例えば5km/h以下の走行時)においても、プライマリシーブ油圧Pinを下限ガード値以下(通常制御時のプライマリ側油圧アクチュエータ413の油圧以下)に下げることにより、油圧ばらつきや推力比のばらつきによる影響を受けることがなく、ベルト式無段変速機4の変速比を確実に最大変速比γmaxに保持することができるので、変速比が増速しなくて済む。これによって駆動力不足による発進不良を回避することができる。
【0081】
−下限ガード値の変更制御−
次に、ECU8が実行する下限ガード値の変更制御の一例について、図6のフローチャート及び図7のタイミングチャートを参照して説明する。図6の制御ルーチンはECU8において所定周期毎に繰り返して実行される。
【0082】
なお、この例の制御に用いる通常制御時のプライマリシーブ油圧の下限ガード値は、例えば、ある変速比でベルト滑りが生じない状態で伝達できるトルク(無段変速機の伝達トルク)の最小値(下限値)に基づいて算出される。また、通常制御時の下限ガード値は、例えば、変速比をパラメータとして実験・計算等によって取得した値をマップ化しておき、現在の変速比(実変速比)に基づいて前記マップを参照して算出するという処理によって求めるようにすればよい。
【0083】
まず、ステップST201において、車速が微速判定閾値B以下であり、かつ、ベルト式無段変速機4の目標変速比がγmax判定閾値A以上であるという条件が成立している否かを判定し、その判定結果が否定判定である場合は通常制御時の下限ガード値で下限ガード処理を継続する(ステップST204〜ステップST205)。
【0084】
ステップST201の判定結果が肯定判定である場合([車速≦B]かつ[目標変速比≧A]である場合)は、その肯定判定となった時点tb1(図7参照)で、最大変速比γmax判定(γmax判定ON)を行う(ステップST202)。この最大変速比γmax判定ONと同時に、プライマリシーブ油圧Pinの下限ガード値を、通常制御時の下限ガード値よりも小さい値に変更する(ステップST203)。さらに、ベルト式無段変速機4の変速比を最大変速比γmaxに確実に保持できるように、γmax判定時のプライマリシーブ油圧Pinを通常制御時の下限ガード値以下に下げる(図7の破線で示す実油圧)。つまり、プライマリシーブ油圧Pinを通常制御時のプライマリ側油圧アクチュエータ413の油圧以下に下げる。
【0085】
なお、γmax判定時のプライマリシーブ油圧Pinの下げ量、及び、γmax判定閾値Aについては、上記した[下限ガード処理の解除制御]の場合と同じであるので、その詳しい説明は省略する。
【0086】
そして、ベルト式無段変速機4の変速比を最大変速比γmaxに保持している状態(停止または微速走行状態)から、車速が上昇し、これに伴って目標変速比が上昇する状況となり、上記した条件(車速が微速判定閾値B以下であり、かつ、ベルト式無段変速機4の変速比がγmax判定閾値A以上である)が不成立になった場合(ステップST201の判定結果が否定判定となった場合)は、その時点tb2(図7参照)でγmax判定OFFと判定し(ステップST204)、プライマリシーブ油圧Pinの下限ガード値を、通常制御時の下限ガード値にγmaxに戻して下限ガード処理を実行する。
【0087】
この例の制御においても、車両停止時や微速走行時にプライマリシーブ油圧Pinを下限ガード値以下(通常制御時のプライマリ側油圧アクチュエータ413の油圧以下)に下げることができ、車両停止時にベルト式無段変速機4の変速比を確実に最大変速比γmaxに保持することができる。これによって次回の発進の際の発進性能を向上させることができる。しかも、セカンダリシーブ油圧Pdを上げることなく、変速比を最大変速比γmaxにすることができるので、燃費の向上をはかることができる。また、微速走行時においても、プライマリシーブ油圧Pinを下限ガード値以下(通常制御時のプライマリ側油圧アクチュエータ413の油圧以下)に下げることにより、油圧ばらつきや推力比のばらつきによる影響を受けることがなく、ベルト式無段変速機4の変速比を確実に最大変速比γmaxに保持することができるので、変速比が増速しなくて済む。これによって駆動力不足による発進不良を回避することができる。
【0088】
−他の実施形態−
以上の例では、ガソリンエンジンを搭載した車両の無段変速機の制御装置に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、ディーゼルエンジン等の他のエンジンを搭載した車両の無段変速機の制御装置にも適用可能である。また、車両の動力源については、エンジン(内燃機関)のほか、電動モータ、あるいはエンジンと電動モータの両方を備えているハイブリッド形動力源であってもよい。
【0089】
また、本発明は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に限れられることなく、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両、4輪駆動車にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、車両に搭載される無段変速機の制御装置に利用可能であり、さらに詳しくは、プライマリ側油圧アクチュエータの油圧と前記セカンダリ側油圧アクチュエータの油圧とをそれぞれ独立して油圧制御する無段変速機の制御装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 エンジン
4 ベルト式無段変速機
41 プライマリプーリ
411 可動シーブ
413 油圧アクチュエータ
42 セカンダリプーリ
421 可動シーブ
423 油圧アクチュエータ
43 ベルト
101 エンジン回転数センサ
105 プライマリプーリ回転数センサ
106 セカンダリプーリ回転数センサ
20 油圧制御回路
201 プライマリレギュレータバルブ
203 ライン圧モジュレータバルブ
205 リニアソレノイドバルブ(SLP)
206 リニアソレノイドバルブ(SLS)
207 変速コントロールバルブ
208 ベルト挟圧力コントロールバルブ
200 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリプーリと、セカンダリプーリと、前記プライマリプーリとセカンダリプーリとの間に巻き掛けられたベルトと、前記プライマリプーリのシーブを移動してプーリ溝の溝幅を変化させるプライマリ側油圧アクチュエータと、前記セカンダリプーリのシーブを移動してプーリ溝の溝幅を変化させるセカンダリ側油圧アクチュエータとを備えた車両用無段変速機に適用され、前記プライマリ側油圧アクチュエータの油圧及び前記セカンダリ側油圧アクチュエータの油圧を制御する油圧制御手段と、推力比を用いて前記プライマリ側油圧アクチュエータの油圧を設定する手段とを有する制御装置において、
車速が判定閾値以下で、かつ、前記無段変速機の変速比が判定閾値以上のときに、最大変速比判定条件が成立したと判定して、前記推力比を用いて設定したプライマリ側油圧アクチュエータの油圧以下の油圧を設定することを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の無段変速機の制御装置において、
前記最大変速比判定条件が成立したと判定したときに、前記プライマリ側油圧アクチュエータの油圧を、通常制御時のプライマリ側油圧アクチュエータの油圧以下に下げることを特徴とする無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−174930(P2010−174930A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15731(P2009−15731)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】