説明

無段変速機の油圧制御回路

【課題】寒冷地においても無段変速機の迅速な起動がなし得る無段変速機の油圧制御回路を提供する。
【解決手段】無段変速機1の油圧サーボ機構3を制御する油圧制御回路10であって、前記油圧制御回路10が、前記油圧サーボ機構3のサーボ弁3aに昇温されたオイルを吹き付けて同サーボ弁3aを暖機するローフューズバルブ21が介装された暖機管20を備えてなるものである。これにより、サーボ弁3aの暖機が迅速になされ寒冷地における無段変速機1の迅速な起動がなし得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機の油圧制御回路に関する。さらに詳しくは、航空機や車両などのエンジンにより駆動される発電装置に用いられる無段変速機の駆動を制御する油圧制御回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、航空機の発電装置として航空機のエンジン出力により駆動される発電装置が知られている。この発電装置においては、エンジン出力、つまりエンジンの回転数が変動しても発電装置の回転数を一定とする必要があるところから、エンジンと発電装置との間に変速機が設けられている。
【0003】
この変速機としてトロイダル型無段変速機を用いる試みがなされている。このトロイダル型無段変速機においては、トロイド曲面に形成される一対の入力ディスクおよび出力ディスク間に傾転可能にパワーローラを配置し、このパワーローラの傾転角を制御することにより変速機の出力回転数が一定、つまり発電機の回転数が一定とされている。
【0004】
しかしながら、この傾転角の制御は油圧制御回路を用いてなされているところから、エンジンの始動直後においては、制御用オイルの流動性が充分ではないため、迅速な起動がなし得ないという問題がある。この問題は、寒冷地における始動においては大きな問題となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる従来技術の課題に鑑みなされたものであって、寒冷地においても無段変速機の迅速な起動がなし得る無段変速機の油圧制御回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の無段変速機の油圧制御回路は、無段変速機の油圧サーボ機構を制御する油圧制御回路であって、前記油圧制御回路が、前記油圧サーボ機構のサーボ弁に昇温されたオイルを吹き付けて同サーボ弁を暖機する暖機管を備えてなることを特徴とする。
【0007】
本発明の無段変速機の油圧制御回路においては、前記暖機管が、フローフューズバルブを備えてなるのが好ましい。
【0008】
また、本発明の無段変速機の油圧制御回路においては、油圧制御回路がオイル循環系から分岐されてなるのが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、油圧制御回路がサーボ弁を暖機する暖機管を備えているので、サーボ弁の暖機が迅速になされ、寒冷地においても無段変速機の迅速な起動がなし得るという優れた効果が得られる。
【0010】
また、フローフューズバルブを備えてなる本発明の好ましい形態によれば、油圧ポンプの低回転数時における油圧ポンプの保護がなされるという優れた効果も得られる。
【0011】
さらに、油圧制御回路がオイル循環系から分岐されてなる本発明の別の好ましい形態によれば、サーボ弁の暖機が加速され無段変速機のより迅速な起動がなし得るという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施形態に基づいて説明するが、本発明はかかる実施形態のみに限定されるものではない。
【0013】
本発明の一実施形態に係る傾転角調節機構2を有するトロイダル型無段変速機(以下、単に無段変速機という)1の油圧制御回路(以下、単に油圧制御回路という)10を含むオイル系統30を図1〜図3に示す。なお、本実施形態は、航空機用発電装置に適用されてなるものとされる。また、無段変速機1および傾転角調節機構2は、公知のものを好適に用いることができるので、その構成の詳細な説明は省略する。
【0014】
オイル系統30は、ハウジング40により構成されるオイルタンク41と、オイルを供給する主管路50と、オイルを戻す戻り管路(明瞭には図示はされていない)とを含む。ここで、無段変速機1、無段変速機1のパワーローラの傾転角を調節して無段変速機1の駆動を調節する傾転角調節機構2、および傾転角調節機構2を駆動する油圧サーボ機構3は、ハウジング40に収納されている。
【0015】
オイルタンク41は、具体的には、ハウジング40の下部および上部により構成され、下部が通常時にオイルを供給する通常時用オイルタンク41aとして機能し、上部がマイナスG時にオイルを供給するマイナスG時用オイルタンク41bとして機能する。ここで、通常時とは、重力の加速度がプラスの状態をいい、マイナスG時とは、重力の加速度がマイナスの状態をいう。
【0016】
主管路50は、通常時およびマイナスG時の双方において、油圧サーボ機構3、ベアリング潤滑機構、歯車潤滑機構、トラクションドライブ潤滑機構、ジェネレータ冷却機構などにオイルの供給がなし得るようにされている。
【0017】
主管路50は、具体的には、通常時用オイルタンク41aにオイル吸込み口が開口している供給管51に、上流側から第1ポンプ(例えばスカベンジ・ポンプ)52、第1空気分離器53、第2ポンプ(例えば潤滑ポンプ)54、フィルタ55、オイルクーラー56、第2空気分離器57をこの順で介装してなるものとされる。そして、第1ポンプ52の吐出側の供給管51にマイナスG時用オイルタンク41bにオイル吸込み口が開口し、かつ、マイナスG時用ポンプ62が介装されているマイナスG時にオイルを供給するマイナスG時用供給管61が接続されている。また、供給管51には、オイルクーラー56の前後に温度センサTi,Toが設けられている。なお、第1、2ポンプ52,54およびマイナスG時用ポンプ62は、駆動力伝達機構を介してエンジンの出力軸により駆動されるものとされる。
【0018】
ここで、第2空気分離器57を設けるのは、通常時からマイナスG時へ移行する際、あるいはその逆にマイナスG時から通常時に戻る際に生ずる無重力状態において、ハウジング40内の空気を第1ポンプ52が吸い込み、その空気が吸い込まれたオイルによる油圧サーボ機構3に動作不安定が生ずるのを避けるためである。
【0019】
空気分離器53,57は、例えばサイクロン式空気分離器とされる。
【0020】
なお、フィルタ55およびオイルクーラー56は、各種の潤滑系統に用いられている公知のものを好適に用いることができ、その構成に特に限定はない。
【0021】
第2ポンプ54の吐出側にはリリーフ弁54aが設けられている。このリリーフ弁54aからのリリーフオイルは、第1ポンプ52の吸込み側の供給管51に戻されている。
【0022】
フィルタ55には、オイルの流動性が悪い低温時にオイルをバイパスさせるフィルタバイパス弁55bを有するバイパス55aが設けられるとともに、フィルタ55の目詰まりを検知するポップアップインジケータ55cが設けられている。
【0023】
また、供給管51の第2空気分離器57の空気含有オイル出口下流側には、空気を含有しているオイルの一部をマイナスG時用ポンプ62の吸い込み側のマイナスG時用供給管61に戻す戻し管58が設けられている。この戻し管58には、調圧弁58aが介装されていて、その圧力が一定となるようにされている。つまり、第2ポンプ54から吐出されたオイルの一部を循環させるオイル循環系が設けられている。このように、第2空気分離器57からのオイルの一部をマイナスG時用ポンプ62の吸い込み側のマイナスG時用供給管61に戻して循環させることにより、オイルの昇温が促進される。
【0024】
油圧制御回路10は、図1に示すように、無段変速機1のパワーローラの傾転角を調節する傾転角調節機構2を制御する油圧サーボ機構3を有するものとされる。
【0025】
油圧制御回路10は、具体的には、供給管51に介装された第2空気分離器57の空気分離オイルを送出する空気分離オイル出口から分岐されサーボ弁3aに空気が分離除去されたオイルを供給するサーボ弁用管11と、サーボ弁3aから傾転角調節機構2の油圧シリンダ2aに駆動用オイルを供給する駆動オイル供給管12と、同油圧シリンダ2aから駆動用オイルをサーボ弁3aに戻す駆動オイル戻し管13とを主要部として備えてなるものとされる。
【0026】
このように、油圧制御回路10を第2空気分離器57の空気分離オイルを送出する空気分離オイル出口から分岐させているので、油圧サーボ機構に動作不安定を生じさせることはない。
【0027】
なお、駆動オイル供給管12と駆動オイル戻し管13とは、油圧シリンダ2aの動作方向により決定される。つまり、油圧シリンダ2aのピストンが進出するときに駆動オイル供給管12として機能した管は、ピストンが後退するときには駆動オイル戻し管13として機能する。
【0028】
サーボ弁3aは、図4に示すように、スプールを有するスプール弁3bと、スプールをスライドさせてその位置を調整するスプール弁駆動部3cとを備えてなるものとされる。
【0029】
スプール弁駆動部3cは、スプール弁3bの背圧を調整してスプールをスライドさせ、それによりスプールの位置を調整するようにされている。スプール弁駆動部3cは、具体的には、スプール弁3bの背圧を調整するフラッパと、フラッパに一体構成されたアマチュアと、アマチュアを変位させる電磁駆動機構とを備えたものとされる。なお、かかる構成とされたサーボ弁としては、例えばMOOG社のサーボバルブがあげられる。
【0030】
サーボ弁用管11には、サーボ弁3aに供給されるオイルを所定圧力に昇圧する油圧ポンプ14と、フィルタ15とが分岐点側(つまり上流側)からこの順で介装されている。このフィルタ15は、サーボ弁3aへのゴミの進入を防止するためのものである。
【0031】
油圧ポンプ14の吐出側のサーボ弁用管11には、同管11の圧力を調整するためにリリーフ弁16が設けられ、そしてこのリリーフ弁16からのリリーフオイルは、第2空気分離器57の上流側の供給管51に戻されている。つまり、リリーフオイル戻し管17が設けられている。このように、リリーフオイルを第2空気分離器57の上流側に戻すことにより、オイルの流動性が悪い低温時におけるオイルの昇温が促進されるとともに、無重力状態においても空気が除去されたオイルをサーボ弁用管路11に供給できる。また、フィルタ15には、フィルタポップアップインジケータ15aが設けられている。
【0032】
また、サーボ弁用管11の前記フィルタ15が設けられている下流側には、昇温されたオイルをサーボ弁3aに吹き付けてサーボ弁3aを暖機するために、フローフューズバルブ21を有する暖機管20が設けられている。また、このフローフューズバル21は、油圧ポンプの低回転数時における吐出圧力を低減させて油圧ポンプ14を保護する機能も有している。
【0033】
サーボ弁3aからのオイルを排出するオイル排出管18は、サーボ弁3aからのオイルが通常時用オイルタンク41aに戻されるようにされている。
【0034】
しかして、かかる構成とされたオイル系統30においては、通常時には図2に矢符で示す方向にオイルが供給され、油圧制御回路10により油圧サーボ機構3が制御されてパワーローラの傾転角を調節して無段変速機1の変速比制御がなされる一方、マイナスG時には図3に矢符で示す方向にオイルが供給され、油圧制御回路10により油圧サーボ機構3が制御されてパワーローラの傾転角を調節して無段変速機1の変速比制御がなされる。
【0035】
このように、この実施形態においては、昇温されたオイルをサーボ弁3aに吹き付けてサーボ弁3aを暖機するようにしているので、寒冷地においても無段変速機1の迅速な起動がなし得る。
【0036】
また、油圧制御回路10は、オイル循環系から分岐されているので、油圧サーボ機構3へ昇温されたオイルの供給が迅速になれる。このことは、暖機管20によるサーボ弁3aの暖機を加速させる効果も有する。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、トロイダル無段変速機の油圧制御回路に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態に係るオイル系統図である。
【図2】同オイル系統図の斜視図であって、通常時におけるオイルの流れを示す。
【図3】同オイル系統図の斜視図であって、マイナスG時におけるオイルの流れを示す。
【図4】油圧制御回路に用いられているサーボ弁の概略図である。
【符号の説明】
【0039】
1 無段変速機
2 傾転角調節機構
3 油圧サーボ機構
3a サーボ弁
10 油圧制御回路
11 サーボ弁用管
17 リリーフオイル戻し管
20 暖機管
21 フローフューズバルブ
30 オイル系統
40 ハウジング
41 オイルタンク
41a 通常時用オイルタンク
41b マイナスG時用オイルタンク
50 主管路
51 供給管
57 第2空気分離器
61 マイナスG時用供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無段変速機の油圧サーボ機構を制御する油圧制御回路であって、
前記油圧制御回路が、前記油圧サーボ機構のサーボ弁に昇温されたオイルを吹き付けて同サーボ弁を暖機する暖機管を備えてなることを特徴とする無段変速機の油圧制御回路。
【請求項2】
暖機管が、フローフューズバルブを備えてなることを特徴とする請求項1記載の無段変速機の油圧制御回路。
【請求項3】
油圧制御回路が、オイル循環系から分岐されてなることを特徴とする請求項1記載の無段変速機の油圧制御回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−247800(P2007−247800A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−72669(P2006−72669)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】