説明

無段変速機用部品のテーパ面の加工方法

【課題】無段変速機用部品のテーパ面の圧縮残留応力をばらつきが少なく、表面近傍で最大で、内部に行くに従って漸減させる加工方法を提供。
【解決手段】ベルト駆動式無段変速機の金属製ベルトの接触するシーブ面を有する部品2のテーパ表面3を焼入し、超硬合金等の切削工具で切削加工し、研磨材被覆テープ1を切削加工後の加工面に、押圧かつ摺接させて仕上げ加工を行うテープラップ加工を施す。さらに、テーパ表面を仕上げると共に、テーパ表面及びテーパ表面からの深さが30μmの間での圧縮残留応力が−500MPa〜−1200MPaの範囲となるようにテープラップ加工を施す。加工面の摺接方向はテーパ中心軸53a回りの回転方向で、摺接方向とは直角方向にオシレーションする。研磨材被覆テープを研磨材被覆ポリエステルテープとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無段変速機用部品の製法、特に金属製ベルトの接触するシーブ面を有するようなベルト駆動式無段変速機用部品の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、シーブ面にテーパを施した2枚のディスクによってプーリを形成しこのプーリの溝幅を油圧により減増して前記プーリに巻掛けられる金属製ベルトの回転半径を減増させ変速比を変化させるべく変速制御するベルト駆動式無段変速機用ディスクの製法が記載されている。このものは、ディスクの金属性ベルトの接触するシーブ面に数値制御旋盤によってプーリの回転中心と同心に約0.8〜0.4ミクロンの表面粗さにシーブ面の油の性状を一定に維持する螺旋状溝部を切削し、次に超仕上げ作業により残留応力を生じさせるべくディスクのシーブ面に研削を施している。即ち、無段変速機用部品の表面に焼入後、切削加工を行い、最後に超仕上げ(ラップ)を施して無段変速機用部品の表面に圧縮残留応力を付与している。
【0003】
このものの超仕上げ作業として、ラップ仕上げの場合について述べられており、ラップ仕上げ作業は、研削機にディスクのシーブ面に合致する形状の研削具を装着し、この研削具によってシーブ面を研削形成することが開示され、残留応力の状態は図7に示すように表面から内部に行くに従って残留応力が大きくなり、数十μm程度の深さで最大値となり、以降は残留応力が漸減したものが開示されている。
【0004】
特許文献1でのラップ仕上げについては、前述した程度のことしか記載されておらず具体的にどのようなラップ盤かは明確ではない。かかるラップ装置は例えば、JIS B 0105に示される超仕上げ盤、ラップ盤に相当するものと思われる。JIS B 0105においては、超仕上げ盤とは「回転する工作物に、粒度の細かいといしを当て、軸方向に微小な振動を与えながら軸方向に送って工作物の表面を仕上げる工作機械」とされ、また、ラップ盤は「と粒及び加工液を混合したラップ剤を、ラップといわれる工具と工作物の間に入れ、両者に圧力を加えながら滑り動かし、工作物の加工面を滑らかに仕上げる工作機械。なお、と粒及びラップの代わりに、といしを使用するものもある」と定義されている。
【特許文献1】特許第2686973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、無段変速機用部品は金属同士が接触するため、表面近傍の圧縮残留応力が最大になることが好ましい。また、圧縮残留応力のばらつきが少ないことが望ましい。しかし、図7に示した特許文献1の例では、圧縮応力の単位が不明であり、どの程度の圧縮応力を得られるか不明である。また、定性的に表面よりも数十μmの深さ位置に圧縮残留応力が最大となるように記載されており、かかる圧縮残留応力の分布は製品としては望ましくない。また、ラップ前、切削後の残留応力についての技術的な開示は全くない。
【0006】
そこで、本発明者等は、切削後の残留応力について測定した。その結果を図5に示す。切削後の残留応力は、表面で+400MPa〜−300MPaであり、ばらつきが多く、表面からの深さが10μm〜20μmで残留応力が最大となっている。さらに、このばらつきはそのままラップ仕上げ後のばらつきに反映される傾向にあった。また、このようなばらつきについては特許文献1には全く開示されていない。
【0007】
本発明の課題はかかる問題点に鑑みて、無段変速機用部品のテーパ面の圧縮残留応力が表面近傍で最大となり、さらには、表面及び表面近傍の圧縮残留応力のばらつきが少ない加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意研究の結果、前述したJIS B 0105に記載相当のラップ盤による加工では、前述したように、表面よりも数十μmの深さ位置に圧縮残留応力の最大値が発生し易く、また、切削後での圧縮残留応力にばらつきが残り易いのに対し、研磨材被覆テープを切削加工後の加工面に押圧かつ摺接させて仕上げ加工を行うテープラップ加工を用いて超仕上げを行うことにより、圧縮残留応力が表面近傍で最大になり、表面近傍の圧縮残留応力のばらつきが少なくなっていることを知得した。
【0009】
この知得により、本発明においては、ベルト駆動式無段変速機の金属製ベルトの接触するシーブ面を有する部品のテーパ表面を焼入後、超硬合金又はCBNからなる切削工具を用いたテーパ表面の切削加工により、油の性状を一定に保つための微少油溝を形成した後、前記切削加工後の加工面に研磨材被覆テープを押圧かつ摺接させて、仕上げ加工を行うテープラップ加工を施すといった、無段変速機用部品のテーパ面の加工方法を提供することにより前述した課題を解決した。なお、切削加工においては、超硬合金、CBN材料からなる切削工具の使用により加工精度の向上、加工時間の短縮、加工表面のばらつきを減少させることができる。
【0010】
さらに、前記テープラップ加工により、前記テーパ表面を仕上げると共に、前記テーパ表面及び前記テーパ表面からの深さが30μmの間での圧縮残留応力が−500MPa〜−1200MPaの範囲にすることができる(請求項2)。
【0011】
また、請求項3記載の発明においては、前記研磨材被覆テープに対する前記テーパ表面の加工面の摺接方向はテーパ中心軸回りの回転方向であり、かつ、前記摺接方向とは直角方向にオシレーションさせるのが好ましい。なお、引用文献1のものでは、オシレーションを与えることについては記載されておらず、また、引用文献1に記載の研削機にディスクのシーブ面に合致する形状の研削具を装着する旨の記載では、オシレーションを与える構成とすることは困難と思われる。これに対し、本発明においては、テープラップ装置を用いるのでオシレーションを容易に与えることができる。さらに、請求項4記載の発明においては、前記研磨材被覆テープは研磨材被覆ポリエステルテープとするのがよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、テーパ表面を焼入後、超硬合金又はCBNからなる切削工具を用いたテーパ表面の切削加工後、研磨材被覆テープを使用したテープラップ加工を施すので、無段変速機用部品の表面の面粗さを向上させると共に、圧縮残留応力を付与し、さらに表面近傍の圧縮残留応力を最大とできるものとなった。また、切削後の圧縮残留応力にばらつきがある場合でも、テープラップ加工後は表面近傍の圧縮残留応力のばらつきを低減できるものとなった。
【0013】
また、テーパ表面を仕上げ、テーパ表面及びテーパ表面からの深さが30μmの間の圧縮残留応力を−500MPa〜−1200MPaの範囲としたので、無段変速機用部品のシーブ面を安定化し、摩耗を防止し、耐力を高め、長寿命化を図れるものとなった。
【0014】
また、請求項3に記載の発明によれば、オシレーションさせることにより、圧縮残留応力の平均化、均一化がさらに、向上するので、圧縮残留応力の表面及び深さ方向のばらつきもより少ないものとなった。さらに、請求項4に記載の発明によれば、テープラップにより研磨量、面粗さの向上が図れるものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態の一例を図面を参照して説明する。図1は本発明のテープラップ加工をするためのテープラップ装置に被加工物を取付けた要部正面図、図2は図1のA方向からみた要部側面図、図3(a)はテープラップ装置のテープ部装着部の全体構成を示す概略正面図、(b)は(a)のB−B線に沿った概略断面図で、説明の便宜上シュー組立体、シリンダー及び本体の各部分の駆動連結関係を要部概略ブロック図で示す。図4は図3(a)のA方向からみて一部を切り欠いた概略側面図である。
【0016】
図1乃至図4に示すように、テープラップ装置は、比較的非圧縮性の研磨材被覆テープ1と、テープ1研磨材被覆面を被加工物(ベルト駆動式無段変速機の金属製ベルトの接触するシーブ面を有する部品)2のテーパ表面3に接触させ押圧する比較的剛性の先端面4を有するシュー組立体5と、本体6に支持されシュー組立体を往復動させる移動装置11とから構成されている。シュー組立体5の先端面4は、シュー組立体5に設けた回転される加工面である被加工物2表面3の半径方向に離隔した位置の2個の穴35、35’(3個以上の穴であってもよい)にそれぞれ挿入されたスプリング37、37’によって付勢されたピストン36、36’に支持されたものである。被加工物2は、図示しないテープラップ装置に取り付けられた本体6に取り付けられた(図示しない)ヘッドストックに回転可能に支持されたヘッドセンター52と、テールストック50に回転可能に支持されたテールセンター51とにより、センタリングされ、回転軸53a回りに回転(矢印53)される。
【0017】
シュー組立体5の先端面4は、回転される加工面である被加工物2表面3に対し半径方向に離隔した2個の穴35、35’(3個以上の穴であってもよい)に挿入されたスプリング37、37’によって付勢されたピストン36、36’に支持され、内周部39と外周部40との周速に差によらず、内周部39と外周部40とで研磨材被覆テープの加工面の表面に対する押し付け圧力を均等に制御され、効率的に均一な表面に仕上げることができるようにされている。
【0018】
研磨材被覆テープ1は比較的非圧縮性の研磨材被覆テープとし、ここでは研磨材被覆ポリエステルテープを使用した。なお、テープを被加工物2表面3に接触させ押圧する比較的剛性の先端面を有するシュー組立体5として剛性表面は90デュロメータAの値を超える硬度を有し、かつ精密に加工されたホーニング砥石材料で形成されたインサートストーンを使用した先端面4を有するシュー組立体5を設けるようにすると好ましい。加工面3はテーパ面であるが、平面であってもよい。
【0019】
テープラップ装置のテープ装着装置は、図3(a)、(b)、図4に示すように、それぞれ本体6に支持された、テープ供給ホルダ7、テープ巻取ホルダ8及びシュー組立体5を往復動させる移動装置11と、本体6に軸方向に移動可能に支持され、かつスプリング10bに押されてシュー組立体端部5’に当接する移動軸10を有し、シュー組立体5が移動装置11により往動するとき、シュー組立体5の比較的剛性の先端面4が研磨材被覆テープ1を介して被加工物2表面3を押圧するようにされ、シュー組立体5が移動装置11により復動したとき、移動軸10はシュー組立体端部5’に押されて、スプリング10bに抗して移動して、移動軸11に設けた第1のスプライン12と第2のスプライン13(図4)と噛み合う第1の歯車14と第2の歯車15(図4)を介してテープ巻送り軸43a,43b及びテープ巻取ホルダ8をそれぞれ回転させて、テープ巻送り軸43a,43bにより所定の長さだけの研磨材被覆テープ1を巻送らせた後、テープ巻取ホルダ8に巻取らせるようにされている。
【0020】
図1(a)、(b)に示すように、移動装置11はシリンダであり、シリンダ11を支持するシリンダ支持体111は本体6に固定され、シリンダ11のシリンダロッド11a端部がシュー組立体5に固定され、シュー組立体5はシリンダ支持体111に設けたスライド穴9’、9’に往復動可能に支持された案内スライド9、9上をシリンダロッド11aにより往復動可能にされている。シリンダ11のピストン11bが図示しない空圧装置の空気圧を受けて11b’に示す位置まで進むとき、シュー組立体5の先端面4は4’の位置までy方向に前進して、先端面4’がテープ1を介して被加工物2表面3を押圧するようにされ、被加工物2表面3が研磨材被覆テープ1によって極めて精密にミクロ仕上げされる。図3(b)に示すように、シリンダ支持体111は本体6に固定されたリニアスライド21のオシレーションスライド22上にシュー組立体5と共に搭載され、シュー組立体5の先端面4を横方向x方向に往復動させるオシレーション運動をさせるオシレーション装置20のオシレーション連結棒21がシリンダ支持体111に連結され、オシレーション連結棒21を介してリニアスライド22のオシレーションスライド23、シリンダ支持体111、シリンダ11及びシュー組立体5を全体として回転軸(x)方向(表面3を摺接する先端面4の摺接方向とは直角方向)にオシレーション運動をさせる。
【実施例】
【0021】
無段変速機の部品2のテーパ表面3を焼入後、CBNからなる切削工具を用いて、テーパ表面に切削加工を施した無段変速機用部品を、図1乃至図4に示すテープラップ装置に取付け、研磨材被覆テープ1をテーパ表面3に押圧かつ摺接させながらオシレーションさせて仕上げ加工を行った。図5は、本発明の切削加工後のテーパ表面の圧縮残留応力と表面からの深さの関係を示す図であり、図6は本発明のテープラップ加工後のテーパ表面の圧縮残留応力と表面からの深さの関係を示す図である。図5に示すように、切削加工後のテーパ面の圧縮残留応力は、テーパ表面で約+400MPa〜−300MPaであり、深さが約10μm〜20μm位置で約−900〜−1100MPaと最大値となり、それ以降は深さが深くなるに従って漸減している。また、表面は+の残留応力、即ち引張残留応力がかかっており、テーパ表面近傍の強度を著しく減じさせる。
【0022】
これに対し、図6に示すように、本発明のテープラップ加工後のテーパ面は、テーパ表面及びテーパ表面から30μmの間で約−600MPa〜−1100MPaと、切削加工後よりも高い圧縮残留応力となり、ばらつきも小さく、さらには、表面近傍で最大の圧縮残留応力を示し、その後は深くなるに従ってほぼ漸減している。また、深さ30μmより深い位置では、図5の切削後の残留応力とほぼ同じであり、本発明テープラップ加工においては、深さ30μm程度までの表面改質が行われ、より深い位置では影響が少ないものといえる。これに対して、従来の特許文献1のものでは、単位が不明であるが、100又は200μmという深い位置でも研削の場合と比べ残留応力に差が生じている。この点から見て、特許文献1のラップ加工は、かなり深い位置まで影響を受けており、本発明のテープラップ加工による作用・効果とは全く異なるものといえる。
【0023】
このように、本発明の加工方法によれば、テーパ表面の圧縮残留応力を切削後より大きくできるとともに、テーパ表面近傍での圧縮残留応力のばらつきが小さくなり、また、表面近傍で最大の圧縮残留応力を示し、その後は深さが深くなるに従ってほぼ漸減し、均一で安定した分布となることがわかる。従って、応力勾配も小さいので、内部クラック等の発生も少なく長寿命の部品を提供することができるものとなった。
【0024】
なお、本発明の実施の形態においては、切削後にテープラップ加工を行うようにしたが、切削後残留応力が大きく変化しない程度にペーパラップ、研磨等により面粗さを向上させた後、最終仕上げに、残留応力を与える本発明のテープラップ加工を施こすようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のテープラップ加工をするためのテープラップ装置に被加工物を取付けた要部正面図である。
【図2】図1のA方向からみた要部側面図である。
【図3】(a)はテープラップ装置のテープ部装着部の全体構成を示す概略正面図、(b)は(a)のB−B線にそった概略断面図で、説明の便宜上シュー組立体、シリンダー及び本体の各部分の駆動連結関係を要部概略ブロック図で示す。
【図4】図3(a)のA方向からみて一部を切り欠いた概略側面図である。
【図5】本発明の切削加工後の切削後のテーパ表面の圧縮残留応力と表面からの深さの関係を示す図である。
【図6】本発明のテープラップ加工後のテーパ表面の圧縮残留応力と表面からの深さの関係を示す図である。
【図7】従来のラップ加工後のテーパ表面の圧縮残留応力と表面からの深さの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 研磨材被覆テープ
2 ベルト駆動式無段変速機の金属製ベルトの接触するシーブ面を有する部品
3 テーパ表面
53a テーパ中心軸(回転軸)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト駆動式無段変速機の金属製ベルトの接触するシーブ面を有する部品のテーパ表面を焼入後、超硬合金又はCBNからなる切削工具を用いたテーパ表面の切削加工により、油の性状を一定に保つための微少油溝を形成した後、前記切削加工後の加工面に研磨材被覆テープを押圧かつ摺接させて仕上げ加工を行うテープラップ加工を施したことを特徴とする無段変速機用部品のテーパ面の加工方法。
【請求項2】
前記テープラップ加工により、前記テーパ表面を仕上げると共に、前記テーパ表面及び前記テーパ表面からの深さが30μmの間での圧縮残留応力が−500MPa〜−1200MPaの範囲となるように、テープラップ加工を施したことを特徴とする請求項1記載の無段変速機用部品のテーパ面の加工方法。
【請求項3】
前記研磨材被覆テープに対する前記テーパ表面の加工面の摺接方向はテーパ中心軸回りの回転方向であり、かつ、前記摺接方向とは直角方向にオシレーションされていることを特徴とする請求項1又は2記載の無段変速機用部品のテーパ面の加工方法。
【請求項4】
前記研磨材被覆テープは研磨材被覆ポリエステルテープであることを特徴とする請求項1又は2又は3記載の無段変速機用部品のテーパ面の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−168048(P2007−168048A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−371922(P2005−371922)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【出願人】(594142207)トヨタ自動車北海道株式会社 (10)
【Fターム(参考)】