説明

無段変速機

【課題】無段変速機全体の変速比のレンジをトロイダル変速機構単体の変速比のレンジよりも大きく確保するとともに、トロイダル変速機構の故障時の異走を確実に防止する。
【解決手段】無段変速機Tの低速用クラッチC1を係合すると第2変速部T2の変速比が大きくなり、高速用クラッチC2を係合すると第2変速部T2の変速比が小さくなり、後進用クラッチC3を係合すると第2変速部T2の変速比が負になる。従って、トロイダル変速機構よりなる第1変速部T1および前記第2変速部T2の変速比の組み合わせによって無段変速機T全体の変速比のレンジを拡大し、トルク増幅作用を有するトルクコンバータを必要とせずに車両の発進を可能にすることができるだけでなく、車両の前後進の切り換えが第2変速部T2で行われるので、第1変速部T1が故障して変速比が意図する変速比からずれても、車両が意図する方向と逆方向に進行する異走が発生することがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロイダル変速機構を備えた無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンにトルクコンバータを介して接続されたメインシャフト上にトロイダル変速機構を設け、メインシャフトに対して平行に配置されたカウンタシャフト上に前進用クラッチおよび後進用クラッチを有する前後進切換機構を設け、トロイダル変速機構で変速比を変更するとともに、前後進切換機構の前進用クラッチおよび後進用クラッチを選択的に係合して前後進を切り換える無段変速機が、下記特許文献1により公知である。
【0003】
またエンジンに接続されたメインシャフト上にトロイダル変速機構を設け、メインシャフトに一定変速比を有する一定変速機を介して接続されたカウンタシャフト上に遊星歯車機構を設け、トロイダル変速機構の出力部とカウンタシャフトとを直結モードクラッチを介して接続するとともに、遊星歯車機構のサンギヤをトロイダル変速機構の出力部に接続し、リングギヤをカウンタシャフトに接続し、キャリヤを動力循環モードクラッチを介して一定変速機に接続したものが、下記特許文献2により公知である。
【0004】
特許文献2の無段変速機によれば、動力循環モードクラッチを締結してトロイダル変速機構の変速比を変更することで、前進側および後進側の両方で無限大を含む変速比を得ることができ、また直結モードクラッチを締結することで、トロイダル変速機構の変速比に応じた変速比を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−75863号公報
【特許文献2】特開平11−223257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで上記特許文献1に記載された無段変速機は、変速機全体の変速比のレンジがトロイダル変速機構の変速比のレンジによって決められてしまうため、発進に必要なトルクを確保するためにエンジンおよびトロイダル変速機構の間にトルク増幅機能を有するトルクコンバータを設ける必要があり、そのために発進時の効率が低下する問題がある。
【0007】
また上記特許文献2に記載された無段変速機は、駆動力がトロイダル変速機構および一定変速機を循環する動力循環構造を採用したために、トロイダル変速機構を通過するトルクが大きくなって骨格が大型化する問題があるだけでなく、無限大の変速比を挟んで前進側の変速比および後進側の変速比を得る構造であるために、故障によりトロイダル変速機構の変速比が意図する変速比からずれると、車両が意図する方向と逆方向に進行する異走が発生する可能性がある。
【0008】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、無段変速機全体の変速比のレンジをトロイダル変速機構単体の変速比のレンジよりも大きく確保するとともに、トロイダル変速機構の故障時の異走を確実に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、駆動源に接続されたメインシャフト上に設けられた第1変速部と、駆動輪に接続されたカウンタシャフト上に設けられた第2変速部とから成り、前記第1変速部は、前記メインシャフトと共に回転する入力ディスクと、前記メインシャフトに相対回転自在に支持された出力ディスクと、前記入力ディスクおよび前記出力ディスク間に挟持された一対のパワーローラとを備え、前記一対のパワーローラを揺動させて前記入力ディスクおよび前記出力ディスクとの接触点の位置を変化させることで変速比を変更するトロイダル変速機構であり、前記第2変速部は、前記出力ディスクに接続された第1要素と、前記第1要素に接続された第2要素と、前記第2要素に接続されてケーシングに固定された第3要素とを有する第1遊星歯車機構と;前記第2要素と一体に回転する第4要素と、前記第4要素に接続された第5要素と、前記第5要素に接続されてケーシングに固定された第6要素とを有する第2遊星歯車機構と;前記第2要素を前記カウンタシャフトに結合可能な低速用クラッチと;前記第1要素を前記カウンタシャフトに結合可能な高速用クラッチと;前記第5要素を前記カウンタシャフトに結合可能な後進用クラッチとを備え、低速モードでは前記低速用クラッチを係合して前記高速用および後進用クラッチを係合解除し、高速モードでは前記高速用クラッチを係合して前記低速用および後進用クラッチを係合解除し、後進モードでは前記後進用クラッチを係合して前記低速用および高速用クラッチを係合解除することを特徴とする無段変速機が提案される。
【0010】
尚、実施の形態のエンジンEは本発明の駆動源に対応し、実施の形態の第1遊星歯車機構P1のサンギヤ31、リングギヤ32およびキャリヤ33はそれぞれ本発明の第1要素、第3要素および第2要素に対応し、実施の形態の第2遊星歯車機構P2のサンギヤ37、リングギヤ38およびキャリヤ39はそれぞれ本発明の第4要素、第6要素および第5要素に対応する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、一対のパワーローラを揺動させて入力ディスクおよび出力ディスクとの接触点の位置を変化させると、第1変速部を構成するトロイダル変速機構の変速比が変更される。また第2変速部の低速用クラッチ、高速用クラッチおよび後進用クラッチのうち、低速用クラッチを係合すると第2変速部の変速比が大きくなり、高速用クラッチを係合すると第2変速部の変速比が小さくなり、後進用クラッチを係合すると第2変速部の変速比が負になる。従って、第1、第2変速部の変速比の組み合わせによって無段変速機全体の変速比のレンジを拡大し、トルク増幅作用を有するトルクコンバータを必要とせずに車両の発進を可能にすることができるだけでなく、車両の前進走行および後進走行の切り換えが第2変速部だけで行われることで、第1変速部のトロイダル変速機構が故障して変速比が意図する変速比からずれても、車両が意図する方向と逆方向に進行する異走が発生することがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】無段変速機のスケルトン図。(実施の形態)
【図2】無段変速機のスケルトン図。(比較例)
【図3】第2変速部の速度線図(実施の形態および比較例)
【図4】第1変速部の変速比と無段変速機の変速比との関係を示す図(実施の形態および比較例)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1〜図4に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
図1に示すように、自動車用の無段変速機Tは、エンジンEから駆動輪W,Wに至る動力伝達経路の上流側に配置された第1変速部T1と、第1変速部T1の下流側に配置された第2変速部T2と、第2変速部T2の下流側に配置された減速部T3とを備えており、第1変速部T1はメインシャフト11上に配置され、第2変速部はカウンタシャフト12上に配置され、減速部T3は減速シャフト13を備える。
【0015】
エンジンEのクランクシャフト14はフライホイール15を介してメインシャフト11に接続される。カウンタシャフト12に固設した第1減速ギヤ16は、減速シャフト13に固設した第2減速ギヤ17に噛合し、減速シャフト13に固設したファイナルドライブギヤ18はディファレンシャルギヤDのケースに固設したファイナルドリブンギヤ19に噛合する。減速シャフト13、第1減速ギヤ16、第2減速ギヤ17、ファイナルドライブギヤ18およびファイナルドリブンギヤ19は前記減速部T3を構成する。ディファレンシャルギヤDから左右に延びる車軸20,20に駆動輪W,Wが接続される。
【0016】
無段変速機Tは実質的に同一構造の第1トロイダル変速機構21Fおよび第2トロイダル変速機構21Rを備える。第1トロイダル変速機構21Fは、メインシャフト11に固定された概略コーン状の入力ディスク22と、メインシャフト11に相対回転自在に支持された概略コーン状の出力ディスク23と、ローラ軸24まわりに回転自在に支持されるとともにトラニオン軸25,25まわりに傾転自在に支持されて前記入力ディスク22および出力ディスク23に当接可能な一対のパワーローラ26,26とを備える。入力ディスク22および出力ディスク23の対向面はトロイダル曲面から構成されており、パワーローラ26,26がトラニオン軸25,25まわりに傾転すると、入力ディスク22および出力ディスク23に対するパワーローラ26,26の接触点が変化する。
【0017】
第2トロイダル変速機構21Rは、メインシャフト11に相対回転自在に支持したドライブギヤ27を挟んで、前記第1トロイダル変速機構21Lと実質的に面対称な構造を備える。ドライブギヤ27は、第1、第2トロイダル変速機構21L,21Rの出力ディスク23,23に一体に結合される。
【0018】
第2無段変速機構21Rの入力ディスク22は、メインシャフト11にローラスプラインを介して相対回転不能かつ軸方向摺動可能に支持される。メインシャフト11の軸端にシリンダ28が同軸に設けられており、このシリンダ28の内部に摺動自在に嵌合する第2無段変速機構21Rの入力ディスク22との間に油室29が形成される。従って、油室29に油圧を供給すると、第2無段変速機構21Rの入力ディスク22と、第1、第2無段変速機構21F,21Rの出力ディスク23,23とが、第1無段変速機構21Fの入力ディスク22に向けて押圧され、入力ディスク22,22および出力ディスク23,23とパワーローラ26…との間のスリップを抑制する荷重を発生させることができる。
【0019】
第2変速部T2は、シングルピニオン型の第1遊星歯車機構P1と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車機構P2と、低速用クラッチC1と、高速用クラッチC2と、後進用クラッチC3とを備える。
【0020】
第1遊星歯車機構P1は、サンギヤ31と、リングギヤ32と、キャリヤ33と、キャリヤ33に回転自在に支持されてサンギヤ31およびリングギヤ32に同時に噛合する複数のピニオン34…とを備える。リングギヤ32はケーシング41に固定される。第1変速部T1のドライブギヤ27に噛合するドリブンギヤ35と前記サンギヤ31とが固設された第1スリーブ36がカウンタシャフト12の外周に相対回転自在に嵌合しており、第1スリーブ36は前記高速用クラッチC2を介してカウンタシャフト12に結合可能である。
【0021】
第2遊星歯車機構P2は、サンギヤ37と、リングギヤ38と、キャリヤ39と、キャリヤ39に回転自在に支持されてサンギヤ37およびリングギヤ38に同時に噛合する複数のピニオン40…とを備える。リングギヤ38はケーシング41に固定される。サンギヤ37と第1変速部T1のキャリヤ33とが固設された第2スリーブ42がカウンタシャフト12の外周に相対回転自在に嵌合しており、第2スリーブ42は前記低速用クラッチC1を介してカウンタシャフト12に結合可能である。第2遊星歯車機構P2のキャリヤ39は前記後進用クラッチC3を介してカウンタシャフト12に結合可能である。符号43は、カウンタシャフト12固設されたパーキングギヤである。
【0022】
次に、図2に基づいて比較例の無段変速機Tの構造を説明する。
【0023】
比較例の無段変速機Tも第1変速部T1、第2変速部T2および減速部T3を備えており、第1変速部T1および減速部T3の構造は実施の形態の無段変速機Tと同じであり、第2変速部T2の一部の構造だけが実施の形態と異なっている。
【0024】
即ち、実施の形態では第1遊星歯車機構P1のリングギヤ32および第2遊星歯車機構P2のリングギヤ38が共にケーシング41に結合されているが、比較例では第1遊星歯車機構P1のリングギヤ32が第2遊星歯車機構P2のキャリヤ39に結合されており、その他の構成は同一である。
【0025】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0026】
先ず、第1変速部T1の第1トロイダル変速機構21Fおよび第2トロイダル変速機構21Rの作用を説明する。パワーローラ26,26が矢印a方向に傾転すると、入力ディスク22との接触点がメインシャフト11に対して半径方向外側に移動するとともに、出力ディスク23との接触点がメインシャフト11に対して半径方向内側に移動するため、入力ディスク22の回転が増速して出力ディスク23に伝達され、第1変速部T1の変速比が連続的にOD側に変化する。一方、パワーローラ26,26が矢印b方向に傾転すると、入力ディスク22との接触点がメインシャフト11に対して半径方向内側に移動するとともに、出力ディスク23との接触点がメインシャフト11に対して半径方向外側に移動するため、入力ディスク22の回転が減速して出力ディスク23に伝達され、第1変速部T1の変速比が連続的にLOW側に変化する。
【0027】
従って、エンジンEのクランクシャフト14からメインシャフト11に入力された駆動力は、第1変速部T1の変速比のレンジ内の任意の変速比で無段階に変速されてドライブギヤ27から第2変速部T2のドリブンギヤ35に伝達される。
【0028】
一方、第2変速部T2は、前進低速変速段、前進高速変速段および後進変速段を切り換え可能な有段変速機として機能する。
【0029】
低速用クラッチC1が係合して高速用および後進用クラッチC2,C3が係合解除した状態では、第1遊星歯車機構P1のキャリヤ33および第2遊星歯車機構P2のサンギヤ37が第2スリーブ42および係合した低速用クラッチC1を介してカウンタシャフト12に結合されるため、第1変速部T1からドリブンギヤ35を経て第1スリーブ36に入力した駆動力は、第1遊星歯車機構P1で回転方向を変えずに減速されてカウンタシャフト12に伝達され、そこから第1減速ギヤ16→第2減速ギヤ17→減速シャフト13→ファイナルドライブギヤ18→ファイナルドリブンギヤ19→ディファレンシャルギヤD→車軸20,20の経路で駆動輪W,Wに伝達される。
【0030】
また高速用クラッチC2が係合して低速用および後進用クラッチC1,C3が係合解除した状態では、第1変速部T1からドリブンギヤ35を経て第1スリーブ36に入力した駆動力は直接カウンタシャフト12に伝達され、そこから第1減速ギヤ16→第2減速ギヤ17→減速シャフト13→ファイナルドライブギヤ18→ファイナルドリブンギヤ19→ディファレンシャルギヤD→車軸20,20の経路で駆動輪W,Wに伝達される。
【0031】
また後進用クラッチC3が係合して低速用および高速用クラッチC1,C2が係合解除した状態では、第2遊星歯車機構P2のキャリヤ39が係合した後進用クラッチC3を介してカウンタシャフト12に結合されるため、第1変速部T1からドリブンギヤ35を経て第1スリーブ36に入力した駆動力は、第1遊星歯車機構P1および第2遊星歯車機構P2で回転方向を逆方向に変えた状態で減速されてカウンタシャフト12に伝達され、そこから第1減速ギヤ16→第2減速ギヤ17→減速シャフト13→ファイナルドライブギヤ18→ファイナルドリブンギヤ19→ディファレンシャルギヤD→車軸20,20の経路で駆動輪W,Wに伝達される。
【0032】
以上のように、第2変速部T2の高速用クラッチC2だけが係合して高速モードが確立した状態では、第2変速部T2の変速比が1に固定されるため、無段変速機T全体の変速比は、第1変速部T1の変速(=可変値)×第2変速部T2の変速比(=1)×減速部T3の変速比(=固定値)を乗算したものとなる。
【0033】
一方、第2変速部T2の低速用クラッチC1だけが係合して低速モードが確立した状態では、第2変速部T2の変速比が1よりも大きい値に固定されるため、無段変速機T全体の変速比は、第1変速部T1の変速比(=可変値)×第2変速部T2の変速比(>1)×減速部T3の変速比(=固定値)を乗算したものとなり、前記高速モードが確立した状態での変速比よりも高変速比側にシフトする。
【0034】
よって低速モードおよび高速モードを組み合わせることにより、トロイダル変速機構よりなる第1変速部T1の変速比のレンジを拡大することなく、無段変速機T全体の変速比のレンジを広げるとともに、そのレンジを高変速比側にシフトすることが可能となり、エンジンEおよび無段変速機T間にトルク増幅作用を有するトルクコンバータを配置することなく、充分な高変速比を実現して車両のスムーズな前進発進を可能にすることができる。
【0035】
また第2変速部T2の後進用クラッチC3だけが係合して後進モードが確立した状態では、第2変速部T2の変速比が−1よりも小さい負値に固定されるため、無段変速機T全体の変速比は、第1変速部T1の変速比(=可変値)×第2変速部T2の変速比(<−1)×減速部T3の変速比(=固定値)を乗算したものとなり、エンジンEおよび無段変速機T間にトルク増幅作用を有するトルクコンバータを配置することなく、充分な高変速比を実現して車両のスムーズな後進発進を可能にすることができる。
【0036】
図2に示す比較例の無段変速機Tも、図1に示す実施の形態の無段変速機Tと同様に、低速用クラッチC1、高速用クラッチC2および後進用クラッチC3の選択的な係合により、低速モード、高速モードおよび後進モードを切り換えることができる。
【0037】
図3(A)は、実施の形態の第2変速部T2の1共線4要素の速度線図を示すものであり、第1遊星歯車機構P1のリングギヤ32および第2遊星歯車機構P2のリングギヤ38がケーシング41に固定されて回転が停止している。第1変速部T1から第1遊星歯車機構P1のサンギヤ31に入力された回転は、高速用クラッチC2の係合によりカウンタシャフト12に直接出力される。また低速用クラッチC1の係合により、第1遊星歯車機構P1のサンギヤ31の回転は、一体に結合された第1遊星歯車機構P1のキャリヤ33および第2遊星歯車機構P2のサンギヤ37を介して、減速されてカウンタシャフト12に出力される。また後進用クラッチC3の係合により、第1遊星歯車機構P1のサンギヤ31の回転は、第2遊星歯車機構P2のキャリヤ39を介して、減速されて逆回転となってカウンタシャフト12に出力される。
【0038】
図3(A)において、λ1は、第1遊星歯車機構P1のサンギヤ31の歯数Zsおよびリングギヤ32の歯数Zr1の比Zr1/Zs1であり、λ2は、第2遊星歯車機構P2のサンギヤ37の歯数Zs2およびリングギヤ38の歯数Zr2の比Zr2/Zs2である。
【0039】
図4(A)は、横軸に無段変速機T全体の変速比をとり、縦軸に第1変速部T1の変速比をとったもので、破線のラインは無段変速機Tの変速比が無限大、つまり出力回転数=0の状態を示している。同図から明らかなように、低速モード、高速モードおよび後進モードの何れの場合も出力回転数=0の破線ラインを横切っておらず、よってトロイダル変速機構よりなる第1変速部T1が故障して変速比が意図せぬ状態になっても、無段変速機T全体の変速比が前進側から後進側に、あるいは後進側から前進側に破線ラインを横切ることはない。これにより、トロイダル変速機構よりなる第1変速部T1が故障した場合に、車両が意図せぬ方向に逆走する事態を未然に回避することができる。
【0040】
また図4(A)に斜線を施した領域では、第1変速部T1の変速比を調整することで、低速モードでも高速モードでも同じ変速比を達成することができるため、車両の運転状態に応じて低速モードおよび高速モードの有利な方を採用することができる。
【0041】
図3(B)は、比較例の第2変速部T2の1共線4要素の速度線図を示すものであり、第2遊星歯車機構P2のリングギヤ38がケーシング41に固定されて回転が停止している。第1変速部T1から第1遊星歯車機構P1のサンギヤ31に入力された回転は、高速用クラッチC2の係合によりカウンタシャフト12に直接出力される。また低速用クラッチC1の係合により、第1遊星歯車機構P1のサンギヤ31の回転は、一体に結合された第1遊星歯車機構P1のキャリヤ33および第2遊星歯車機構P2のサンギヤ37を介して、減速されてカウンタシャフト12に出力される。また後進用クラッチC3の係合により、第1遊星歯車機構P1のサンギヤ31の回転は、一体に結合された第1遊星歯車機構P1のリングギヤ32および第2遊星歯車機構P2のキャリヤ39を介して、減速されて逆回転となってカウンタシャフト12に出力される。
【0042】
図4(B)に示す比較例は、低速モード、高速モードおよび後進モードの何れの場合も出力回転数=0の破線ラインを横切っておらず、よってトロイダル変速機構よりなる第1変速部T1が故障して変速比が意図せぬ状態になっても、無段変速機T全体の変速比が前進側から後進側に、あるいは後進側から前進側に破線ラインを横切ることはない。これにより、トロイダル変速機構よりなる第1変速部T1が故障した場合に、車両が意図せぬ方向に逆走する事態を未然に回避することができる。また斜線を施した領域では、第1変速部T1の変速比を調整することで、低速モードでも高速モードでも同じ変速比を達成することができるため、車両の運転状態に応じて低速モードおよび高速モードの有利な方を採用することができる。
【0043】
以上のように、実施の形態および比較例は共に上記作用効果を奏することが可能であるが、それぞれ得失を有している。図4(A)の実施の形態および図4(B)の比較例を比較すると明らかなように、低速モードおよび後進モードの変速比のレンジを同一に設定した場合に、比較例の方が実施の形態に比べて高速モードの変速比のレンジを大きく確保できるので、比較例の無段変速機T全体の変速比のレンジR1を、実施の形態の無段変速機T全体の変速比のレンジR2よりも大きくすることができる。
【0044】
その理由は、低速モードにおいて、比較例は第1、第2遊星歯車機構P1,P2の両方が減速に寄与するために大きな減速比が稼げるのに対し、実施の形態では第1遊星歯車機構P1だけ減速に寄与するために大きな減速比が稼げないからである。その反面、低速モードにおいて、比較例は第1、第2遊星歯車機構P1,P2の両方のフリクションによって伝達効率が低くなるが、実施の形態では減速に寄与しない第2遊星歯車機構P2のフリクションが減少することで伝達効率が高くなる。
【0045】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0046】
例えば、実施の形態のトロイダル変速機構はダブルキャビティ型のものであるが、シングルキャビティ型のものであっても良い。
【0047】
また第2変速部T2の第1遊星歯車機構P1および第2遊星歯車機構P2の組み合わせは、1共線4要素の速度線図を構成するものであれば、実施の形態に限定されるものではない。
【0048】
また実施の形態では第1遊星歯車機構P1のリングギヤ32と第2遊星歯車機構P2のリングギヤ38とが別部材で構成されているが、それらを一部材で構成しても良い。
【0049】
また本発明の駆動源は実施の形態のエンジンEに限定されず、モータ・ジェネレータやエンジンおよびモータ・ジェネレータの両方であっても良い。
【符号の説明】
【0050】
11 メインシャフト
12 カウンタシャフト
22 入力ディスク
23 出力ディスク
26 パワーローラ
31 サンギヤ(第1要素)
32 リングギヤ(第3要素)
33 キャリヤ(第2要素)
37 サンギヤ(第4要素)
38 リングギヤ(第6要素)
39 キャリヤ(第5要素)
41 ケーシング
C1 低速用クラッチ
C2 高速用クラッチ
C3 後進用クラッチ
E エンジン(駆動源)
P1 第1遊星歯車機構
P2 第2遊星歯車機構
T1 第1変速部
T2 第2変速部
W 駆動輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源(E)に接続されたメインシャフト(11)上に設けられた第1変速部(T1)と、駆動輪(W)に接続されたカウンタシャフト(12)上に設けられた第2変速部(T2)とから成り、
前記第1変速部(T1)は、
前記メインシャフト(11)と共に回転する入力ディスク(22)と、前記メインシャフト(11)に相対回転自在に支持された出力ディスク(23)と、前記入力ディスク(22)および前記出力ディスク(23)間に挟持された一対のパワーローラ(26)とを備え、前記一対のパワーローラ(26)を揺動させて前記入力ディスク(22)および前記出力ディスク(23)との接触点の位置を変化させることで変速比を変更するトロイダル変速機構であり、
前記第2変速部(T2)は、
前記出力ディスク(23)に接続された第1要素(31)と、前記第1要素(31)に接続された第2要素(33)と、前記第2要素(33)に接続されてケーシング(41)に固定された第3要素(32)とを有する第1遊星歯車機構(P1)と;
前記第2要素(33)と一体に回転する第4要素(37)と、前記第4要素(37)に接続された第5要素(39)と、前記第5要素(39)に接続されてケーシング(41)に固定された第6要素(38)とを有する第2遊星歯車機構(P2)と;
前記第2要素(33)を前記カウンタシャフト(12)に結合可能な低速用クラッチ(C1)と;
前記第1要素(31)を前記カウンタシャフト(12)に結合可能な高速用クラッチ(C2)と;
前記第5要素(39)を前記カウンタシャフト(12)に結合可能な後進用クラッチ(C3)とを備え、
低速モードでは前記低速用クラッチ(C1)を係合して前記高速用および後進用クラッチ(C2,C3)を係合解除し、高速モードでは前記高速用クラッチ(C2)を係合して前記低速用および後進用クラッチ(C1,C3)を係合解除し、後進モードでは前記後進用クラッチ(C3)を係合して前記低速用および高速用クラッチ(C1,C2)を係合解除することを特徴とする無段変速機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−72503(P2013−72503A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212512(P2011−212512)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】