説明

無段変速装置

【課題】可変ピッチプーリがV溝底に有する、Vベルトの歯と噛み合う歯車が、V溝底の軸に固定されていることから、このV溝底の軸に付属する歯とVベルトの歯が十分噛み合っていない場合、両方の歯のピッチが一致しないため、軸に付属する歯がVベルトに対し短時間に衝突を繰り返すような状況を生じさせてしまうことが避けられなかった。
【解決手段】プーリ軸14に対し進出状態になってチェーン13の被噛合部に噛合する可動歯17を、スペーサ15(或いはプーリ軸14)の外表面に開口する格納部21に配置し、可動歯17に加わる駆動力伝達トルクを、格納部21を介して剛性の高いプーリ軸14で受ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無段変速装置(Continuously Variable Transmission:CVT)に関し、特に、プーリに付属する歯と駆動力を伝達する駆動力伝達手段が噛み合って動作する無段変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Vベルトにより回転駆動力の伝達を行なう無段変速装置として、例えば、「無段変速機構」(特許文献1参照)が知られている。
【0003】
従来の「無段変速機構」は、Vベルトを用いて回転力の伝達を確実に行うために、駆動回転軸に付されたプーリと従動回転軸に付されたプーリとの間でVベルトにより回転駆動力の伝達を行い、且つ上記2つのプーリの内の少なくとも一方が可変ピッチプーリであるVベルト式無段変速機構において、Vベルトが歯付きVベルトであり、且つ少なくとも一方の可変ピッチプーリがV溝底に上記Vベルトの歯と噛み合う歯車を有することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−120950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の「無段変速機構」においては、可変ピッチプーリがV溝底に有する、Vベルトの歯と噛み合う歯車が、V溝底の軸に固定されていることから、このV溝底の軸に付属する歯とVベルトの歯が十分噛み合っていない場合、両方の歯のピッチが一致しないため、軸に付属する歯がVベルトに対し短時間に衝突を繰り返すような状況を生じさせてしまうことが避けられなかった。
【0006】
つまり、可変ピッチプーリのV溝底の軸に設置した歯と、この歯に噛み合って駆動力を伝達する駆動力伝達手段(Vベルトやチェーン等)のピッチが一致せずにズレが生じてしまうと、両者の協調した動きが阻害されてしまうことになり、状況によっては歯や駆動力伝達手段を傷付けてしまったり、歯の位置がずれてしまうことも起こり得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る無段変速装置は、プーリの軸部に対し進出状態になって駆動力伝達手段の被噛合部に噛合する可動噛合部を、駆動力伝達手段対向面に開口する格納部に配置し、可動噛合部に加わる駆動力伝達トルクを、格納部を介して剛性の高いプーリ軸で受けている。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、格納部に配置した可動噛合部が進出状態になって駆動力伝達手段の被噛合部に噛合し、可動噛合部に伝達された駆動力は格納部を介して剛性の高いプーリ軸で受け止められるため、可動噛合部と駆動力伝達手段の協調した動きが阻害されず、歯や駆動力伝達手段を傷付けてしまったり、歯の位置がずれてしまうことも無いので、無段変速装置が備えるロックアップ性能を低下させることなく発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の第1実施の形態に係る無段変速装置の構成を模式的に示す説明図である。
【図2】図1のドリブンプーリのプーリ軸にチェーンが巻き付いていない状態を示す説明図である。
【図3】図1のドリブンプーリのプーリ軸にチェーンが巻き付いている状態を示す説明図である。
【図4】図1の可動歯の装着状態をプーリ軸半径方向断面で示す説明図である。
【図5】図4の可動歯装着部分を拡大して示す断面説明図である。
【図6】この発明に係る可動歯と可動歯固定部品の構成と比較するために、この発明に係る可動歯と可動歯固定部品の構成を適用しなかった場合の比較例を示し、(a)は比較例における可動歯の装着状態をプーリ軸半径方向断面で示す説明図、(b)は(a)の可動歯装着部分を拡大して示す断面説明図である。
【図7】この発明の第2実施の形態に係る無段変速装置の可動歯の装着状態をプーリ軸半径方向断面で示す説明図である。
【図8】図7の可動歯装着部分を拡大して示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
(第1実施の形態)
図1は、この発明の第1実施の形態に係る無段変速装置の構成を模式的に示す説明図である。図1に示すように、無段変速装置(CVT)10は、ドライブプーリ(プライマリプーリ)11とドリブンプーリ(セカンダリプーリ)12と共に、ドライブプーリ11とドリブンプーリ12の間に掛け回された駆動力伝達手段13を有している。
【0011】
ドリブンプーリ12のプーリ軸14には、プーリ軸14を挿入させプーリ軸14と一体化した状態に円筒形のスペーサ(プーリ軸一体化部材)15が装着されており、スペーサ15には、スペーサ15を覆って可動歯固定部品(ロックガイド)16が装着されている。可動歯固定部品16に覆われたスペーサ15には、可動噛合部である可動歯(ロックエレメント)17が組み込まれており、可動歯17は、スペーサ15により、プーリ周方向への移動が規制されると共に、可動歯固定部品16により、プーリ径方向及び軸方向への移動が規制される。
このCVT10は、例えば、車両に備えられて、車両の走行速度を無段階に変化させることができる。なお、駆動力伝達手段13としては、ベルトやチェーン等が用いられるが、ここでは、駆動力伝達手段13としてチェーンを用いた例について説明する。
【0012】
駆動源であるエンジン(図示しない)からドライブプーリ11に入力した駆動力は、チェーン13を介してドリブンプーリ12へと伝達され、ドリブンプーリ12の駆動軸(図示しない)から出力される。ドライブプーリ11とドリブンプーリ12は、共に、固定プーリに対し可動プーリを移動させて、固定プーリと可動プーリの間にV字状断面溝(V溝)を形成すると共にV溝幅を変更することができる。そして、駆動する側であるドライブプーリ11と駆動される側であるドリブンプーリ12のV溝幅を連続的に変えることで、駆動する側と駆動される側のチェーン13の伝達ピッチを変化させ、これにより滑らかな無段階変速を行なうことができる。
【0013】
図2は、図1のドリブンプーリのプーリ軸にチェーンが巻き付いていない状態を示す説明図である。図3は、図1のドリブンプーリのプーリ軸にチェーンが巻き付いている状態を示す説明図である。
【0014】
図2及び図3に示すように、スペーサ15を覆うようにスペーサ外周面に装着された円筒状の可動歯固定部品16には、可動歯固定部品16の半径方向に移動自在に複数の可動歯17が組み込まれている。可動歯固定部品16に組み込まれた各可動歯17は、例えば、コイルスプリング等の付勢部材18により、可動歯固定部品16の外表面に対し退避自在に突出させており、CVT10のプーリ比が最Hi(例えば、オーバドライブ:OD)時、可動歯固定部品16の外表面から突出し、プーリ軸14に巻き付いたチェーン13と噛み合った状態(図3参照)になる。
【0015】
なお、可動歯17は、ドリブンプーリ12のプーリ軸14に配置されている場合に限らず、ドライブプーリ11に設けられていても良く、この場合、CVT10のプーリ比が最Lo時、可動歯固定部品16の外表面から突出し、プーリ軸14に巻き付いたチェーン13と噛み合った状態(図3参照)になる。
【0016】
チェーン13は、薄板リング状のチェーンリンク19を、2個一組のピン20を用いて、重ね合わせた状態で円環状に連結することにより形成されており、ピン20を連結軸として連結された各チェーンリンク19は、ピン20を軸としてピン周りに自在に回動(揺動)する。各チェーンリンク19は、可動歯17に巻き付く側の可動歯当接部分に、凹部(被噛合部)19aを有している。凹部19aは、可動歯17のプーリ軸外表面からの突出形状に対応して形成されていると共に、可動歯17のピッチと一致したピッチで配置されている。
【0017】
図4は、図1の可動歯の装着状態をプーリ軸半径方向断面で示す説明図である。図4に示すように、スペーサ15に装着された可動歯17は、プーリ軸半径方向断面が台形状で、上面がプーリ軸方向に長い長方形の突条凸部状に形成され、下端部に、プーリ軸周方向両側に突出する外向きフランジ(鍔)状の係止部17aを有している。
【0018】
この可動歯17は、スペーサ15に設けた格納部21に、格納部底面21aとの間に付勢部材18を介在させて配置されている。格納部21は、プーリ軸14のチェーン13に対向する面である、スペーサ外表面(駆動力伝達手段対向面)に開口して、プーリ軸方向に延びる溝状に形成されており、係止部17aを有する可動歯17を埋設状態に格納することができる形状及び大きさを有している。格納部21に配置された可動歯17は、その先端部を、可動歯固定部品16の全周に渡って設けられた周面を貫通する各開口16a内に位置させており、スペーサ外表面に対し進出退避自在に、プーリ軸半径方向に移動することが可能である。
【0019】
格納部21に配置された可動歯17は、付勢部材18の付勢力に付勢されて、先端部を可動歯固定部品16の外周面上方へ突出させた突出状態になるが、上方から押圧力が加わることにより、付勢部材18の付勢力に抗して先端部を可動歯固定部品16の外周面から突出させない格納状態(図中、破線参照)になる。
可動歯17が突出状態にあるとき、可動歯17の両係止部17a,17aは、その上面を、可動歯固定部品16の裏面に接触させており、これによって、可動歯17の上方移動が規制される。
【0020】
可動歯17の上方移動を規制する可動歯固定部品16は、裏面のプーリ軸周方向略中央に、下方に突出する柱部16bを有しており、この柱部16bの突出端面を、隣接する格納部21間のスペーサ15の外表面に当接させている。
なお、格納部21は、スペーサ15に形成することに限られるものではなく、スペーサ15を設けずに、直接、プーリ軸14に形成しても良い。この場合、格納部21は、プーリ軸14の外表面(駆動力伝達手段対向面)に開口する。
【0021】
このように、プーリ軸14と一体化したスペーサ15(或いはプーリ軸14)に設けた格納部21に配置された可動歯17は、CVT10のプーリ比が最Hi時及び最Lo時以外では、格納部21に埋設された状態に格納される一方、CVT10のプーリ比が最Hi時及び最Lo時の少なくとも一方のとき、即ち、チェーン13がプーリ軸14に巻き付いてプーリのV溝底に位置するとき、配置された格納部21から飛び出て進出状態になりチェーン13の凹部19aと噛み合った状態になる。
【0022】
可動歯17がチェーン13と噛み合った状態のとき、可動歯17には駆動力伝達荷重(トルク)が付加された状態になる。
図5は、図4の可動歯装着部分を拡大して示す断面説明図である。図5に示すように、可動歯17がチェーン13と噛み合った状態で、プーリ軸周方向に駆動力伝達荷重(トルク)tが付加されることになる可動歯17は、係止部17aの端面下部を、格納部21が設けられた、プーリ軸14と一体化したスペーサ15(或いはプーリ軸14)に当接させることになり、プーリ軸14と一体化したスペーサ15(或いはプーリ軸14)は、可動歯固定部品16の裏面に上面を接触させた係止部17aからの荷重を受けることになる。
そこで、可動歯固定部品16と可動歯17の寸法関係を、以下に示す条件に設定する。
【0023】
(1)可動歯固定部品16の柱部16bのプーリ軸周方向長さAを、隣接する格納部21間のスペーサ15の外表面のプーリ軸周方向長さBより短く(A<B)する(図4参照)。
このように設定することで、可動歯17が、可動歯17が格納される格納部21の上端部(荷重を受ける部位、図5参照)に当接する前に、可動歯固定部品16に当接するのを防ぐことができる。この結果、可動歯17に駆動力伝達荷重(トルク)tが付加されたとき、可動歯17は、格納部21に当接することになって可動歯固定部品16には当接しないので、後述する可動歯17のピッチズレ(段落番号0028,0029参照)を防止することができる。
【0024】
この結果、ピッチズレのために引き起こされる、軸に付属する歯がVベルトに対し短時間に衝突を繰り返すような状況を生じさせないので、駆動力が確実に伝達されると共に駆動力伝達手段が傷付くこともない。
(2)可動歯固定部品16の開口16a側の端面と開口16aから突出する可動歯17の係止部17a境界部との間隔aを、スペーサ15の開口16a側壁面と係止部17aのスペーサ15側壁面との間隔bより長く(a>b)する(図4参照)。
このように設定することで、上記(1)の場合(A<B)と同様の効果を得ることができる。
【0025】
(3)開口16aから突出して隣接する可動歯17の係止部17a境界部間距離L1を、隣接する可動歯17の間に位置する可動歯固定部品16の外周面隣接開口16a間距離L2より長く(L1>L2)する(図4参照)。
このように設定することで、隣接する両可動歯17,17間に位置する可動歯固定部品16が、隣接する両可動歯17,17に付加される駆動力伝達荷重(トルク)tを受け止める駆動力受けになるのを防ぐことができる。
【0026】
(4)格納部21に埋設状態にあって可動歯固定部品16の外周面から突出していない可動歯17の上面と、先端部側が格納部21から飛び出て可動歯固定部品16の外周面から突出している可動歯17の上面との移動距離H1を、格納部21に埋設状態にあって可動歯固定部品16の外周面から突出していない可動歯17の下端面と、先端部側が格納部21から飛び出て可動歯固定部品16の外周面から突出している可動歯17の下端面との移動距離H2より短く(H1<H2)する(図4参照)。
【0027】
このように設定することで、格納部21に配置される可動歯17の高さ(プーリ軸半径方向長さ)が、格納部21の底面21aから可動歯固定部品16の外周面の距離以下に確実に収まることになり、格納部21に埋設状態にある可動歯17は可動歯固定部品16の外側に突出することなく確実に格納部21に格納される。
ここで、可動歯17に駆動力伝達荷重(トルク)tが付加されたときに、可動歯17が可動歯固定部品16に当接した場合について説明する。
【0028】
図6は、この発明に係る可動歯と可動歯固定部品の構成と比較するために、この発明に係る可動歯と可動歯固定部品の構成を適用しなかった場合の比較例を示し、(a)は比較例における可動歯の装着状態をプーリ軸半径方向断面で示す説明図、(b)は(a)の可動歯装着部分を拡大して示す断面説明図である。
【0029】
図6に示す、この発明に係る可動歯と可動歯固定部品の構成を適用しなかった場合の比較例においては、可動歯1がチェーン(図示しない)の駆動力を伝達する際、その駆動力伝達荷重(トルク)tを可動歯固定部品2が直接受け止める構造になっている((b)参照)。このため、可動歯固定部品2の剛性が低いと、可動歯固定部品2の変形をもたらすことになり、この変形によって可動歯1のピッチズレを生じさせてしまうことになる。可動歯1のピッチズレが生じると、このような可動歯1と可動歯固定部品2の構成を有する無段変速装置における本来のロックアップ性能を低下させてしまう。
【0030】
一方、可動歯固定部品2の剛性を高めるために、可動歯固定部品全体の肉厚を増大させたり、高強度材を使用したりした場合、構成部品の大型化や重量増となって軽量コンパクト化ができないばかりでなく、コストアップが避けられなくなる。
【0031】
これに対し、この発明に係る無段変速装置10にあっては、図4に示すように、可動歯17は、プーリ軸14と一体化したスペーサ15(或いはプーリ軸14)に設けた格納部21に配置されていることから、可動歯17に加わる駆動力伝達トルクは、格納部21を介して、剛性の高いプーリ軸14と一体化したスペーサ15(或いは剛性の高いプーリ軸14それ自体)で受けることになるので、可動歯17のピッチズレを確実に防止することができる。よって、可動歯17とチェーン13の協調した動きが阻害されず、歯(可動歯17)やチェーン13を傷付けてしまったり、歯の位置がずれてしまうことも無いので、無段変速装置10が備えるロックアップ性能を低下させずに確実に発揮することができる。
【0032】
上述したように、可動歯固定部品16と可動歯17の寸法関係を(1)〜(4)の条件に設定することで、可動歯17に加わる駆動力伝達トルクを確実にプーリ軸14と一体化したスペーサ15(或いはプーリ軸14)で受け止めることができる。また、駆動力伝達トルクを受け止めるとき(即ち、CVT10のプーリ比が最Hi時及び最Lo時の少なくとも一方のとき)以外の変速を確実に行うことができる。
【0033】
なお、可動歯固定部品16は、プーリ軸14と一体化したスペーサ15(或いはプーリ軸14)上における回転方向を正・逆何れの方向も可能なフリー構造を有していても良い。可動歯固定部品16は、可動歯17を所定位置に位置決めするだけで回転方向の規制を設ける必要がないため、フリー構造とすることによって形状を簡素化することができ、製造コストを抑えることができる。
【0034】
(第2実施の形態)
図7は、この発明の第2実施の形態に係る無段変速装置の可動歯の装着状態をプーリ軸半径方向断面で示す説明図である。図8は、図7の可動歯装着部分を拡大して示す断面説明図である。
【0035】
図7及び図8に示すように、第2実施の形態に係る無段変速装置30は、可動歯固定部品16に代えて、柱部16bを設けていない可動歯固定部品31を有すると共に、スペーサ15に代えて、可動歯固定部品31に対応し、スペーサ外表面の高さを柱部16b相当分高く(プーリ軸半径方向長さを長く)したスペーサ外表面を有するスペーサ32を備えている。その他の構成及び作用は、第1実施の形態に係る無段変速装置10と同様である。
【0036】
スペーサ32には、複数の格納部33が設けられており、隣接する格納部33間のスペーサ32の外表面は、可動歯17の上方移動を規制する可動歯固定部品31の裏面のプーリ軸周方向略中央に接触している。
なお、プーリ軸14と一体化したスペーサ32(或いはプーリ軸14)に設けた格納部33は、第1実施の形態に係る無段変速装置10の格納部21の深さ(プーリ軸半径方向長さ)より深くなるが、格納部底面33aから、開口31aを通って突出状態にある可動歯17が両係止部17a,17aの上面を接触させる可動歯固定部品31の裏面迄の距離は、格納部21と変わりなく第1実施の形態に係る無段変速装置10と同様である。
【0037】
このような構成を有する可動歯固定部品31と可動歯17の寸法関係は、第1実施の形態に係る無段変速装置10の場合の(1)即ち(A<B)を除く、(2)即ち(a>b)と、(3)即ち(L1>L2)と、(4)即ち(H1<H2)の条件に設定する。
これにより、可動歯17がチェーン13と噛み合った状態で、プーリ軸周方向に駆動力伝達荷重(トルク)tが付加されることになる可動歯17は、係止部17aの端面下部のみならず係止部17aの端面全域を、格納部33が設けられた、プーリ軸14と一体化したスペーサ32(或いはプーリ軸14)に当接させることになり、プーリ軸14と一体化したスペーサ32(或いはプーリ軸14)は、可動歯固定部品31の裏面に上面を接触させた係止部17aからの荷重を受けることになる。
【0038】
この結果、第1実施の形態に係る無段変速装置10の格納部21に比べ、可動歯17に付加される駆動力伝達荷重(トルク)tを受ける部位の面積がより広くなるので、可動歯17のピッチズレを確実に防止することができ、無段変速装置30が備えるロックアップ性能を低下させずに確実に発揮することができる。
また、可動歯固定部品31は、可動歯固定部品16の柱部16bを設けていないので、可動歯固定部品16に比べ、更に簡素化した構造にすることができるので、製造が容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
この発明は、無段変速装置の変速領域が最Hi時及び最Lo時の少なくとも一方のとき、格納部に配置した可動噛合部が進出状態になって駆動力伝達手段の被噛合部に噛合し、可動噛合部に伝達された駆動力は格納部を介して剛性の高いプーリ軸で受け止められるため、可動噛合部と駆動力伝達手段の協調した動きが阻害されず、歯や駆動力伝達手段を傷付けてしまったり、歯の位置がずれてしまうことも無いので、無段変速装置が備えるロックアップ性能を低下させることなく発揮することができ、無段変速装置に最適である。
【符号の説明】
【0040】
10,30 無段変速装置
11 ドライブプーリ
12 ドリブンプーリ
13 チェーン
14 プーリ軸
15,32 スペーサ
16,31 可動歯固定部品
16a,31a 開口
16b 柱部
17 可動歯
17a 係止部
18 付勢部材
19 チェーンリンク
19a 凹部
20 ピン
21,33 格納部
21a,33a 格納部底面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共にプーリ溝幅を変更可能な二つのプーリの間に掛け回された駆動力伝達手段により、一方のプーリの回転駆動力を他方のプーリに伝達する無段変速装置であって、
前記駆動力伝達手段のプーリ巻き付き側に設けた被噛合部と、
前記駆動力伝達手段に対向する駆動力伝達手段対向面に開口してプーリ軸或いはプーリ軸一体化部材に設けられた格納部に、前記駆動力伝達手段対向面に対し進出退避自在にプーリ軸半径方向に移動可能に配置され、変速領域が最Hi時及び最Lo時の少なくとも一方のとき、前記格納部内に位置して進出状態になり前記被噛合部に噛合する可動噛合部と
を有する無段変速装置。
【請求項2】
前記可動歯固定部品は、前記駆動力伝達手段対向面上における回転方向を正・逆何れの方向も可能なフリー構造を有する請求項1に記載の無段変速装置。
【請求項3】
前記可動歯と前記可動歯固定部品の各々の寸法関係を、
前記可動歯固定部品の前記駆動力伝達手段対向面との接触部におけるプーリ軸周方向長さAを、前記駆動力伝達手段対向面のプーリ軸周方向長さBより短く、
前記可動歯固定部品の端面と前記可動歯固定部品から突出する前記可動歯の係止部境界部との間隔aを、前記駆動力伝達手段対向面の開口側壁面と前記係止部の前記駆動力伝達手段対向面側壁面との間隔bより長く、
前記可動歯固定部品の開口から突出して隣接する前記可動歯の係止部境界部間距離L1を、前記可動歯固定部品の外周面隣接開口間距離L2より長く、
前記可動歯固定部品から突出していない前記可動歯の上面と、前記可動歯固定部品から突出している前記可動歯の上面との移動距離H1を、前記可動歯固定部品から突出していない前記可動歯の下端面と、前記可動歯固定部品から突出している前記可動歯の下端面との移動距離H2より短く
設定する請求項1または2に記載の無段変速装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−203552(P2010−203552A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51193(P2009−51193)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】