説明

無段変速装置

【課題】トロイダル型無段変速機と、遊星歯車式変速機とを同軸上に備え、入力側ディスクとキャリアとを低コストで一体に回転可能にできる無段変速装置を提供する。
【解決手段】無段変速装置は同軸上に配置されるトロイダル型無段変速機1と遊星歯車式変速機20とからなる。トロイダル型無段変速機1の後ろ側の入力側ディスク3と、遊星歯車式変速機20の第1キャリア21とが一体に回転する。入力側ディスク3の内周側に同心的に嵌合凹部41が形成され、前側支持板71に同心的に嵌合凸部42が形成されている。これら嵌合凹部41と嵌合凸部42とを嵌合させることで、入力側ディスク3と前側支持板71とが同軸上に配置される。この状態で入力側ディスク3と第1キャリア21の前側支持板71とが外周部で溶接されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能で、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とを組み合わせた無段変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用自動変速装置としてトロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とを組み合わせて無段変速装置を構成する事が、従来から提案されている。このような無段変速装置として、主に後輪駆動車(FR車)向けに、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とを同軸上に並べた同軸タイプのものが開発されている(例えば、特許文献1,2参照)。このような同軸タイプの無段変速装置は、軸方向長さが長くなる代わりに径方向の小型化(幅を狭くしたり、高さを低くしたりすること)が可能となり、FR車に適した変速機となる。
例えば、特許文献1の無段変速装置は、図5の概略断面図に示すように、トロイダル型無段変速機1と遊星歯車式変速機20とを備える。
【0003】
このうちのトロイダル型無段変速機1は、回転トルクが入力される入力軸2と、前記入力軸2に支持され、入力軸2と一体で回転する一対の入力側ディスク3,3と、前記入力側ディスク3,3との間に挟持される複数のパワーローラ4,4を介して入力側ディスク3,3から変更可能な変速比で回転トルクが伝達される出力側ディスク5と、前記パワーローラ4,4を挟持した状態の入力側ディスク3,3および出力側ディスク5に軸方向への押圧力を付与する押圧装置7を備えている。すなわち、トロイダル型無段変速機1は、互いの内側面(凹面3a,5a)同士を対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスク3,3および出力側ディスク5と、これらの両ディスク3,5間に挟持される複数のパワーローラを有する。
【0004】
また、入力側ディスク3,3および出力側ディスク5の回転中心に配置される入力軸2に対して捻れの位置にあり且つ互いに同心的に設けられた一対の枢軸(図示略)を中心に傾転するとともに、各パワーローラ4,4をスラスト軸受(図示略)を介して回転自在に支持する複数のトラニオン(図示略)を備える。また、入力側ディスク3,3および出力側ディスク5の凹面3a、5aは、それぞれパワーローラ4,4の周面4a、4aと油膜を介して接触している。
【0005】
また、この例では、一対の入力側ディスク3,3の間に出力側ディスク5が配置されるとともに、出力側ディスク5は、一対の出力側ディスク5をそれらの背面同士を重ねるように接合して一体化した状態となっており、1つの出力側ディスク5の両側面にそれぞれ入力側ディスク3,3に対向する凹面5a,5aが設けられている。
また、出力側ディスク5の内周側には、その入力軸2との間にトロイダル型無段変速機1の出力軸となる円筒状の中空軸8が設けられており、当該中空軸8内を入力軸2が貫通した状態となっている。そして、中空軸8と出力側ディスク5とが入力軸2に対して一体に回転自在に構成され、入力軸2に入力された回転トルクは、入力側ディスク3,3からパワーローラ4,4を介して出力側ディスク5,5に伝動されて中空軸8から出力される。なお、同軸上に配置される入力軸2および中空軸8は、トロイダル型無段変速機1の後ろ側(図中右側)に延出し、後述のように遊星歯車式変速機20に接続されている。
【0006】
そして、この際に、例えば、パワーローラ4,4の周面4aが入力側ディスク3,3の外周側に接触するとともに出力側ディスク5,5の内周側に接触した増速状態から中立位置を経て入力側ディスク3,3の内周側に接触するとともに出力側ディスク5,5の外周側に接触した減速状態まで変速比を変更することが可能となっている。
【0007】
また、遊星歯車式変速機20は、入力軸2および後ろ側(図中右側)の入力側ディスク3に結合固定された第1キャリア21を備えている。この第1キャリア21は、伝達軸22aを介して同軸上に前後に一体に回転可能に配置された2つの第1A遊星歯車22および第2遊星歯車23を自転自在および公転自在に支持するようになっている。
また、第1キャリア21には、第1A遊星歯車22と噛み合うとともに、後述の第1リング歯車25と噛み合う第1B遊星歯車24が支持されている。
【0008】
なお、一体に回転する第1A遊星歯車22、第1B遊星歯車24、第2遊星歯車23は、第1キャリア21に複数組が支持されている。
また、上述の中空軸8は、前後に一体に回転可能に配置された2つの第1A遊星歯車22および第2遊星歯車23のうちの前側の第1A遊星歯車22に対応する軸方向位置まで延出して配置され、当該中空軸8の端部に第1太陽歯車26が一体に回転可能に設けられている。
【0009】
そして、トロイダル型無段変速機1の中空軸8と一体に回転する第1太陽歯車26と、第1太陽歯車26に噛み合うとともに第2遊星歯車23と一体に回転する第1A遊星歯車22と、第1A遊星歯車22と噛み合う第1B遊星歯車24と、トロイダル型無段変速機1の入力軸2と一体に回転するとともに第1A遊星歯車22、第1B遊星歯車24および第2遊星歯車23を自転自在および公転自在に支持する第1キャリア21と、第1B遊星歯車24と噛み合う第1リング歯車25とから第1遊星歯車機構ユニットが構成されている。
【0010】
そして、入力軸2および中空軸8よりも後ろ側には、後述の2つの第2および第3太陽歯車27,28を前後に間隔をあけて並べた状態で一体に回転可能に支持する伝達軸29が設けられている。当該伝達軸29には、前側から順に同軸上で一体に回転可能に第2太陽歯車27、第3太陽歯車28が備えられている。なお、これら第2太陽歯車27、第3太陽歯車28は、第1太陽歯車26と同軸上に配置される。
【0011】
そして、第2遊星歯車23は、第2太陽歯車27と噛み合っており、第2太陽歯車27と第2遊星歯車23と、第2遊星歯車23を支持する第1キャリア21(第1遊星歯車機構ユニットのキャリアと第2遊星歯車機構ユニットのキャリアとを兼ねる)とから、第2遊星歯車機構ユニットが形成されている。なお、第2遊星歯車機構ユニットにはリング歯車が無い構成となっている。
【0012】
ここで、第1リング歯車25は、低速用クラッチ30を介して第3キャリア31に接続されている。したがって、第3キャリア31は、低速用クラッチ30を接続した状態では、第1リング歯車25と一体に回転する。また、第3キャリア31は、無段変速装置の出力軸40と一体に回転可能となっており、第3キャリア31の回転トルクが無段変速装置の出力として取り出されるようになっている。
【0013】
第3太陽歯車28には、上述のように第1リング歯車25に接続された際に第1リング歯車25と一体に回転可能な第3キャリア31に自転自在かつ公転自在に支持される第3A遊星歯車32が噛み合っている。また、第3A遊星歯車32には、第3キャリア31に第3A遊星歯車32と同様に支持される第3B遊星歯車33が噛み合っている。また、第3B遊星歯車33には、第3リング歯車34が噛み合っている。
【0014】
また、第3リング歯車34は、高速用クラッチ35を介してケーシング37に接続されるようになっており、高速用クラッチ35が接続された状態で、第3リング歯車34は固定の歯車となり、高速用クラッチ35が切断された状態では、フリーの歯車となる。
上記第3太陽歯車28、第3A遊星歯車32、第3B遊星歯車33、第3キャリア31、第3リング歯車34が第3太陽歯車ユニットを構成している。
【0015】
図6は、特許文献2の無段変速装置を示す概略断面図である。
図6に示す無段変速装置はトロイダル型無段変速機1と遊星歯車式変速機50とからなっている。トロイダル型無段変速機1は、基本構造が図5に示される例と同様となっている。なお、図6には、上述のトラニオン6およびスラスト軸受9が図示され、押圧装置7の図示が省略されている。
【0016】
そして、遊星歯車式変速機50は、入力軸2および後ろ側(図中右側)の入力側ディスク3に結合固定された第1キャリア51を備えている。この第1キャリア51は、伝達軸52aを介して同軸上に前後に一体に回転可能に配置された第1遊星歯車52および第2遊星歯車53を自転自在および公転自在に支持するようになっている。なお、一体に回転する第1遊星歯車52および第2遊星歯車53は、第1キャリア51に複数組が支持されている。
また、上述の中空軸8は、前後に一体に回転可能に配置された2つの第1および第2遊星歯車52,53のうちの前側の第1遊星歯車52に対応する軸方向位置まで延出して配置され、当該中空軸8の端部に第1太陽歯車54が一体に回転可能に設けられている。
【0017】
そして、トロイダル型無段変速機1の中空軸8と一体に回転する第1太陽歯車54と、第1太陽歯車54に噛み合うとともに第2遊星歯車53と一体に回転する第1遊星歯車52と、トロイダル型無段変速機1の入力軸2と一体に回転するとともに第1遊星歯車52および第2遊星歯車53を自転自在および公転自在に支持する第1キャリア51とから第1遊星歯車機構ユニットが構成されている。なお、第1遊星歯車機構ユニットおよび後述の第2遊星歯車機構ユニットには、リング歯車が無い構成となっている。
【0018】
そして、入力軸2の中空軸8よりも後ろ側となる部分の外周には、後述の3つの第2から第4太陽歯車55,56,57を前後に間隔をあけて並べた状態で一体に回転可能に支持する円筒状の伝達軸58が設けられている。当該伝達軸58には、前側から順に同軸上で一体に回転可能に第2太陽歯車55、第3太陽歯車56、第4太陽歯車57が備えられている。なお、これら第2太陽歯車55、第3太陽歯車56、第4太陽歯車57は、第1太陽歯車54と同軸上に配置される。また、伝達軸58内を入力軸2が貫通し、入力軸2の先端部は、後述の第4リング歯車66と一体に回転可能となるように第4リング歯車66に接合されている。
【0019】
そして、第2遊星歯車53は、第2太陽歯車55と噛み合っており、第2太陽歯車55と第2遊星歯車53と、第2遊星歯車53を支持する第1キャリア51(第1遊星歯車機構ユニットのキャリアと第2遊星歯車機構ユニットのキャリアとを兼ねる)とから、第2遊星歯車機構ユニットが形成されている。
【0020】
また、第3太陽歯車56には、無段変速装置のケーシング68に固定された状態の第3キャリア59に支持された複数の第3遊星歯車60が噛み合っている。また、第3遊星歯車60には、第3リング歯車61が噛み合っている。そして、これら第3太陽歯車56、第3キャリア59、第3遊星歯車60および第3リング歯車61により、第3遊星歯車機構ユニットが構成されている。
【0021】
また、第3リング歯車61は、高速用クラッチ62を介して無段変速装置の出力軸63に接続され、高速用クラッチ62が接続状態となっていると(なお、後述の低速用クラッチ67は切断状態)、第3リング歯車61と出力軸63とが一体に回転可能となる。
【0022】
また、第4太陽歯車57には、第4キャリア64に自転自在および公転自在に支持された第4遊星歯車65が噛み合っている。また、第4遊星歯車65には、トロイダル型無段変速機1の入力軸2と一体に回転可能な第4リング歯車66が噛み合っている。そして、これら第4太陽歯車57、第4キャリア64、第4遊星歯車65および第4リング歯車66により、第4遊星歯車機構ユニットが構成されている。
そして、第4キャリア64は、低速用クラッチ67を介して出力軸63に接続され、低速用クラッチ67が接続状態で、高速用クラッチ62が切断状態となっていると、第4キャリア64と出力軸63とが一体に回転可能となる。
【0023】
これらのような構成の無段変速装置においては、低速用クラッチ30,67を接続するとともに高速用クラッチ35,62の接続を断った、所謂低速モード状態では、トロイダル型無段変速機1の変速比を変える事により、無段変速装置全体としての変速比、すなわち、入力軸2と出力軸40,63との間の変速比が変化する。このような低速モード状態では、無段変速装置全体としての変速比は、無限大に変化する。すなわち、トロイダル型無段変速機1の変速比を調節する事により、入力軸2を一方向に回転させた状態のまま出力軸40,63の回転状態を、停止状態を挟んで、正転、逆転の両方に変換自在となる。このようなモードをギアードニュートラルモードと称する。
【0024】
これに対して、低速用クラッチ30の接続を断ち、高速用クラッチ35を接続した、所謂高速モード状態では、トロイダル型無段変速機1の変速比を変える事により、無段変速装置全体としての変速比が変化するが、この場合には、トロイダル型無段変速機1の変速比を大きくする程、無段変速装置全体としての変速比が大きくなる。このようなモードをパワースプリットモードと称する。
【0025】
これら変速比無限大状態を実現可能なギアードニュートラルモードとトロイダル型無段変速機への入力動力を小さくできるパワースプリットモードとを備える無段変速装置においては、無段変速装置のワイドレンジ化とトロイダル型無段変速機部分の小型化を図っている。なお、高速モード(パワースプリットモード)に代えて、トロイダル型無段変速機の出力をダイレクトに出力する直結モードを有する無段変速装置も知られている。
【0026】
ところで、上述のようにトロイダル型無段変速機1の入力軸2と同軸上に遊星歯車式変速機20,50が配置される無段変速装置においては、後ろ側の入力側ディスク3と第1キャリア21,51とが一体に回転可能に接合されることになる。
なお、第1キャリア21,51は、同軸上で一体に回転する第1A遊星歯車22(第1遊星歯車52)と第2遊星歯車23,53とを支持する2枚の円環板状の支持板を供えており、これらの支持板間に架け渡される軸周りに第1A遊星歯車22(第1遊星歯車52)と第2遊星歯車23,53とが回転自在に支持されている。
【0027】
また、第1キャリア21,51の前側の支持板と、後ろ側の入力側ディスク3とが一体に回転可能に接合される。また、第1キャリアは、後ろ側の入力側ディスク3を介して押圧装置7の押圧力を受けることになるが、第1キャリア21,51は、入力軸2に対してコッタやローディングナットで軸方向後ろ側への移動が規制されている。
【0028】
後ろ側の入力側ディスク3と、第1キャリア21,51の前側の支持板との接合、すなわち、一体に回転するように入力側ディスクから支持板へ動力伝達する構造は、これら入力側ディスク3と支持板とのそれぞれに設けられた爪(突出部)を噛み合わせることにより行われる(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特開2000−220719号公報
【特許文献2】米国特許5607372号明細書
【特許文献3】特開2004−308814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
ところで、入力側ディスクと第1キャリアとの間で爪を噛み合わせて、これら入力側ディスクと第1キャリアとを一体に回転させる構成とした場合に、爪を形成するための高い加工コストが問題となる。
また、第1キャリアの前後の支持板の内周側には、それぞれ第1太陽歯車と第2太陽歯車が挿入されるため、第1キャリアの内周側に配置される構成部材が少なく剛性が乏しいため変形が大きくなる。この大きな変形により爪が破損することが懸念され、第1キャリアが剛性確保のために重くなる。
【0031】
また、トロイダル型無段変速機において、ディスクとパワーローラの接触点には、押圧装置の押圧力に基づく、大きな押し付け力が作用しているとともに、ディスクとパワーローラとがほぼ点で接触するため、ディスクは均一に変形しない。すなわち、ディスク同士の間に配置されるパワーローラ部分が強く押されるため、ディスクが1回転する毎に、これらディスクの間に配置されているパワーローラの数だけ変形量の増減が繰り返される。
特に、ディスクの外周側は剛性が低く変形が大きくなるため、キャリアとディスクの接触部分ではフレッチングが発生する虞があり、剛性確保のために入力側ディスクが厚くなって重くなる。
【0032】
また、押圧装置によるローディング力の付与に伴なってディスクの外周が大きく変形した場合、実変速比が変形の無い場合より小さくなる。これよりレシオカバレッジが小さくなるが、レシオカバレッジが大きい方が燃費向上に有利なため、ディスクの変形は極力小さく抑えることが好ましい。
【0033】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、入力側ディスクと第1キャリアとの間の動力伝達に際し、低コストで製造でき、かつ、フレッチングの発生を防止できる構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0034】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の無段変速装置は、互いの内側面同士を対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、これらの両ディスク間に挟持される複数のパワーローラとを有するトロイダル型無段変速機と、
少なくとも太陽歯車と遊星歯車と当該遊星歯車を支持するキャリアとを備える遊星歯車式変速機とを備え、
トロイダル型無段変速機のディスクと遊星歯車式変速機のキャリアとが同軸上に並んで配置されるとともに、1つのディスクと1つのキャリアとが一体に回転自在に連結される無段変速装置において、
互いに一体に回転自在な前記ディスクと前記キャリアとには、当該ディスクと当該キャリアとが同軸上に配置された状態で、前記ディスクの内周部と前記キャリアとの内周部を互いに嵌合させる嵌合部が形成され、
当該ディスクの外周部と当該キャリアの外周部とが溶接されていることを特徴とする。
【0035】
請求項1に記載の発明においては、ディスクとキャリアとの間で動力伝達を行うために、これらディスクとキャリアとに爪を設ける必要がなく、これらディスクとキャリアとの製造コストの低減を図ることができる。また、キャリアの変形により爪が破損するようなことがない。
【0036】
ディスクの外周部とキャリアの外周部とが溶接されて一体に回転可能となっているので、内周側に比較して剛性が低いディスクの外周部を補強した状態とすることが可能となり、ディスク外周部の変形を抑制することができる。これにより、ディスク回転時の外周部で、変形量の増減が繰り返されるのを抑制し、ディスクとキャリアとの接触部分でのフレッチングの発生を抑制できる。
【0037】
ディスクの変形により実変速比が小さくなるのを防止することができ、これに伴ないレシオカバレッジが小さくなるのを防止できる。これによりレシオカバレッジが大きくなり燃費の向上を図ることができる。
また、例えば、ディスクと、当該ディスクとは独立して回転する軸とを同軸上に配置し、ディスクの中央部を前記軸が貫通した状態で、ディスクの内周側にラジアル軸受を設ける場合に、ディスクとキャリアとを溶接するものとすると、ディスクの回転を円滑にするためにラジアル隙間を設ける必要がある。
【0038】
この場合に、ディスクおよびキャリアが無段変速装置に組み込まれた状態で溶接すると、ディスクがラジアル隙間により僅かに径方向に移動可能な状態でキャリアと溶接されるため、ディスクとキャリアとの回転軸心が僅かにずれた状態で溶接されることが懸念される。ディスクとキャリアとの回転軸心にずれが生じてしまうと、無段変速装置における動力伝達効率の低下や、耐久寿命の低下を招く虞がある。
【0039】
そこで、ディスクとキャリアとが同軸上に配置された状態で嵌合する嵌合部を設け、嵌合部によりディスクとキャリアとが同軸上に保持された状態で溶接することで、溶接されるキャリアとディスクとの回転軸心のずれを防止することができ、回転軸心のずれによる問題の発生を防止できる。なお、嵌合部は動力伝達のためではなく、位置合わせのためのもので、キャリアおよびディスクと同心的な円形状の凹凸を用いることが可能であり、動力伝達の爪に比較して低コストに加工することができる。
【0040】
請求項2に記載の無段変速装置は、請求項1に記載の発明において、前記ディスクは、浸炭処理もしくは浸炭窒化処理が施されることにより表層部の炭素濃度が高められ、
前記ディスクの前記キャリアが溶接される部分の少なくとも表層部が除去加工され、前記ディスクの表層部より炭素濃度が低い除去加工部分に前記キャリアが溶接されていることを特徴とする。
【0041】
請求項2に記載の発明においては、溶接時にディスクの浸炭処理もしくは浸炭窒化処理された部分が焼入れ硬化するのを防止することができる。ディスクの表面硬度を高めるために、ディスクには、浸炭処理や浸炭窒化処理が施される場合があるが、このようなディスクに溶接を行った場合に、これら処理により炭素濃度の高くなった表層部が溶接の熱により焼き入れ硬化してしまい問題が生じる虞がある。
そこで、浸炭処理や浸炭窒化処理により炭素濃度が高くなったディスクの表層部のうちのキャリアとの溶接部分を溶接の前に例えば切削加工などで除去することにより、ディスクの溶接部分への熱の影響を低減することができる。
【0042】
請求項3に記載の無段変速装置は、請求項2に記載の無段変速装置において、前記ディスクの少なくとも表層部を除去加工する部分が、高周波熱処理により焼鈍しまたは焼戻しされた後に除去加工されていることを特徴とする。
【0043】
請求項3に記載の無段変速装置においては、上述のように浸炭処理や浸炭窒化処理が施されることで、ディスク表面の硬度が高くなることから、切削などにより表層部の除去加工が困難になったり、切削工具などの摩耗が早まるなどにより加工コストが高くなる問題が発生する虞があるが、除去加工を行う部分に対して高周波熱処理による焼鈍しまたは焼戻し加工を施すことで、除去加工を容易なものとすることができる。なお、高周波熱処理とすることで、部分的に狭い範囲を焼鈍したり、焼戻したりすることができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明の無段変速装置によれば、低コストにディスクとキャリアとを一体に回転自在に軸心を合わせて接合することができるとともに、フレッチングの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1実施形態の無段変速装置を示す要部断面図である。
【図2】前記無段変速装置の入力側ディスクの除去加工を説明するための図である。
【図3】前記無段変速装置の入力側ディスクの除去加工の変形例を説明するための図である。
【図4】前記無段変速装置の入力側ディスクの除去加工の変形例を説明するための図である。
【図5】従来の無段変速装置を示す概略断面図である。
【図6】図5に示す無段変速装置と構成が異なる従来の無段変速装置を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、図面を参照しながら、本発明の第1実施形態について説明する。なお、第1実施形態の無段変速機の特徴は、無段変速装置の後ろ側の入力側ディスクと、第1キャリアの前側支持板との接合構造にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、この実施の形態の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図5および図6と同1の符号を付して簡潔に説明するに留める。
【0047】
図1は本発明の実施の形態の無段変速機を示す要部断面図である。
図1に示すように、この例の無段変速装置は、図5に示す従来の無段変速装置と同様の基本構造を有するものであり、図1には、トロイダル型無段変速機1の後端部と、遊星歯車式変速機20の前端部が図示されている。
トロイダル型無段変速機1においては、後ろ側の入力側ディスク3の中央部に設けられた貫通孔の内部に入力軸2が貫通した状態の中空軸8が貫通している。
【0048】
入力側ディスク3、中空軸8、入力軸2が同軸上に配置されるとともに、それぞれ、独立して別々に回転可能となっている。入力側ディスク3と中空軸8との間には、ラジアル軸受が配置されている。入力側ディスク3は入力軸2に対して相対的に軸方向に僅かに移動可能となっている。入力側ディスク3の前面側がパワーローラ4と油膜を介して当接する凹面3aとなっている。
【0049】
また、入力側ディスク3の凹面3aの反対側となる背面(外側面)には、その中央部に、後述の前側支持板71の円筒状の嵌合凸部42と嵌合する円筒状の内周面を有する嵌合凹部41が形成されている。当該円筒状内周面を有する円柱状の嵌合凹部41は、入力側ディスク3と同軸上に形成されている。すなわち、入力側ディスク3に同心的に嵌合凹部41が形成されている。
【0050】
第1キャリア21は、トロイダル型無段変速機1の後側の入力側ディスク3と一体に回転可能に接続されるとともに、円環板状の前側支持板71と、当該前側支持板71の後側で、当該前側支持板71と平行でかつ同軸上に配置されるとともに円環板状の後側支持板72と、これら前側支持板71と後側支持板72との間で、これら前側支持板71および後側支持板72と平行でかつ同軸上に配置されるとともに円環板状の中間支持板73とを備える。
【0051】
また、これら前側支持板71と中間支持板73とを接続する接続壁部(図示略)と、中間支持板73と後側支持板72とを接続する接続壁部(図示略)とが備えられ、これら接続壁部同士は、軸方向に沿って連続した状態に設けられている。また、これら接続壁部は、前側支持板71と後側支持板72との間で、かつこれら前側支持板71および後側支持板72の開口がある中央部分を除く部分を三分割するようにそれぞれ三つ設けられている。また、接続壁部は、これら3つの支持板71,72,73の径方向に沿って配置されている。
【0052】
そして、これら接続壁部に仕切られた3つの空間にそれぞれ一体の第1A遊星歯車22および第2遊星歯車23が1つずつ配置されるとともに、第1A遊星歯車22に噛み合うとともに、第1リング歯車25に噛み合う第1B遊星歯車24が配置される。また、この第1B遊星歯車24は、第1A遊星歯車22と噛み合うように、前側支持板71と中間支持板73との間に配置されている。
【0053】
また、中間支持板73の中央部は、中空軸8と一体で円筒状の第1太陽歯車26の内周側に延出する概略円筒状に形成され、かつ、入力軸2が貫通し、当該入力軸2と一体に回転自在となるように接合されている。また、中間支持板73の後ろ側には、円筒状の第2太陽歯車27の内側でローディングナット75が入力軸2に螺合して中間支持板73を締結した状態となっている。このローディングナット75により第1キャリア21を入力軸2に固定するとともに第1キャリア21を介して入力側ディスク3を入力軸2に固定している。
【0054】
第1キャリア21の前側支持板71の中央部には、後ろ側の入力側ディスク3の上述の嵌合凹部41に嵌合する嵌合凸部42が同心的に形成されている。すなわち、嵌合凸部42と、前側支持板71とは、同軸上に配置されている。嵌合凸部42は、嵌合凹部41の円筒状の内周面に対応する円筒状に形成されるとともに、嵌合凹部41の内径が嵌合凸部42の外径にほぼ等しいものとなっている。
【0055】
入力側ディスク3の嵌合凹部41に前側支持板71の嵌合凸部42が挿入された状態で、嵌合凹部41の内周面と、嵌合凸部42の外周面とが当接した状態に嵌合凹部41と嵌合凸部42が嵌合している。また、円筒状の内周面を有する嵌合凹部41が入力側ディスク3と同軸上に形成され、円筒状の嵌合凸部42が前側支持板71(第1キャリア21)と同軸上に形成されているので、入力側ディスク3の嵌合凹部41に前側支持板71の嵌合凸部42を嵌合させた状態で、入力側ディスク3と前側支持板71を備える第1キャリア21とが同軸上に配置されている。
【0056】
したがって、嵌合凹部41と嵌合凸部42は、入力側ディスク3と第1キャリア21とが同軸上に配置された状態で、入力側ディスクの内周部と第1キャリア21の前側支持板71との内周部を互いに嵌合させる嵌合部となっている。
【0057】
また、嵌合凹部41と嵌合凸部42とを嵌合させた状態で、入力側ディスク3の背面と、前側支持板71の前面とが前記嵌合凹部41より外周側で当接した状態となっている。
また、入力側ディスク3に対して前側支持板71は、僅かに小径に形成されており、入力側ディスク3の外周面より僅かに内側に前側支持板71の外周面が配置されている。したがって、入力側ディスク3の背面の最外周部と、前側支持板71の外周面とで入隅の角部が形成され、この入隅の角部で、入力側ディスク3の外周部と前側支持板71の外周部とが溶接されている。
【0058】
これにより、入力側ディスク3と前側支持板71を備える第1キャリア21が一体に回転可能に接合されている。このような構成により、従来のように入力側ディスク3と前側支持板71とにそれぞれ爪を形成する必要がなく、コストの低減を図ることができる。また、入力側ディスク3や前側支持板71の変形により爪が破損することもない。
さらに、入力側ディスク3のパワーローラ4が押し付けられた際に最も変形量が大きくなる外周部が前側支持板71と溶接されることにより補強された状態となり、変形量を減少させることができるとともに、変形量の増減幅も減少させることができる。
【0059】
これにより、入力側ディスク3と前側支持板71との当接部分でのフレッチングを防止できる。入力側ディスク3の変形量を減少させることで、変形量が多いことにより実変速比が小さくなってしまうのを防止できる。そして、実変速比が小さくなるのを防止することで、レシオカバレッジの減少を抑制し、燃費の向上を図ることができる。
【0060】
上述のように入力側ディスク3が前側支持板71と溶接されて補強されることで、入力側ディスク3の強度を高めることができるので、入力側ディスク3の軽量化を測ることができる。また、前側支持板71も溶接されることで補強された状態となることから軽量化が可能となり、前側支持板71を備える第1キャリア21の軽量化を図ることもできる。
【0061】
また、入力側ディスク3のパワーローラ4が当接する部分が主に変形する不均一変形が少なくなることで、無段変速装置の動力伝達効率の向上と耐久性の向上を図ることができる。
また、上述のように嵌合部となる嵌合凹部41と嵌合凸部42を嵌合させることで、入力側ディスク3が前側支持板71と同軸上に配置される。
【0062】
この状態で入力側ディスク3と前側支持板71とを溶接するものとすれば、ラジアル隙間を有するラジアル軸受により入力側ディスク3が回転自在に支持されることにより、入力側ディスク3が径方向に僅かに移動可能な状態としても、入力軸2に中心位置を固定された状態の前側支持板71と、入力側ディスク3との軸心を合わせた状態で溶接が可能となる。
【0063】
これにより、溶接される入力側ディスク3と前側支持板71との軸心がずれることによる動力伝達効率の低下や耐久性の低下を防止することができる。
また、入力側ディスク3と前側支持板71の溶接は、変形量の大きい入力側ディスク3の外周側で行われ、入力側ディスク3と前側支持板71との嵌合は、剛性が高く変形量の小さい入力側ディスク3の内周側で行われることになる。
【0064】
これにより、嵌合凹部41と嵌合凸部42との嵌合部分では、変形が小さく、上述のような変形量の増減の繰返しにおける、変形量の変化が小さいことになる。
そして、嵌合部分において変形量の変化が小さいことから、嵌合凹部41と嵌合凸部42との間にフレッチングが生じるのを抑制することができる。
【0065】
なお、この例では、入力側ディスク3に嵌合凹部41を形成し、前側支持板71に嵌合凸部42を形成したが、互いに嵌合する凹凸ならば、入力側ディスク3に凸部を形成し、前側支持板71に凹部を形成するものとしてもよい。すなわち、どちらに凹部を形成してもよいし、どちらに凸部を形成してもよい。
また、入力側ディスク3と前側支持板71との溶接方法としては、レーザ溶接を使用することが好ましい。レーザ溶接では局部的に精度良く溶接ができるため、レーザ溶接には、溶接される部材の熱影響部を少なく抑えることができるという特徴があり、それに伴い被溶接部材の変形も少なくすることができる。
【0066】
また、溶接した後には、入力側ディスク3から第1キャリア21を取り外すことができなくなるので、トロイダル型無段変速機1が組み立てられた後に、その後ろ側に遊星歯車式変速機20を組み立てる場合に、第1キャリア21に組み付けられる部品を全て組み付けておくことが好ましい。なお、一体の第1A遊星歯車22および第2遊星歯車23と、第1B遊星歯車24とは、第1キャリア21の組み立て時に第1キャリア21に取り付けられている。また、第1キャリア21をトロイダル型無段変速機1側に組み付ける際に、既に中空軸8に一体に形成される第1太陽歯車26が存在することになり、第1キャリア21を取り付ける際に、これら遊星歯車と太陽歯車が存在することになる。
なお、溶接時にさらに第2太陽歯車が第1キャリア21に支持される第2遊星歯車23に噛み合わされて取り付けられていることが好ましい。
【0067】
そして、以上のような無段変速装置の組み立てにおいて、入力側ディスク3の製造時に、熱処理と、浸炭処理もしくは浸炭窒化処理とが行われ、パワーローラ4が強い押し付け力で押し付けられる入力側ディスク3の表面硬度が高められることになる。
ここで、浸炭処理もしくは浸炭窒化処理により入力側ディスク3の表層の炭素濃度が高められた状態で、溶接を行うと、炭素濃度の高い表層に溶接時の熱で焼き入れ硬化が起こってしまう。
【0068】
そこで、この例では、図2(a),(b),(c),(d)に示すように、入力側ディスク3の前側支持板71が溶接される部分では、炭素の濃度の高い表層部3cを除去するようになっている。
この例では、上述のように入力側ディスク3より前側支持板71の方が僅かに径が小さく、入力側ディスク3の背面の外周部に前側支持板71が溶接されることになる。
【0069】
そこで、図2(a)等に示す入力側ディスク3の外周部の断面図において、図2(b),(c)に示すように、入力側ディスク3の外周部の背面側を除去加工する。
この除去加工で生じた入力側ディスク3の背面の円環状の切欠部3では、炭素濃度の高い表層部3cよりも炭素濃度の低い深層側が露出し、この深層側が露出した切欠部3において、図2(d)に示すように、第1キャリア21の前側支持板71の外周面が溶接部(ビード)3eで入力側ディスク3の背面の外周部に溶接されることになる。
【0070】
なお、入力側ディスク3に切欠部3dを設けたことで、入力側ディスク3の背面には、外周部に円環状に段差が生じており、この段差に対応して前側支持板71の前面の外周には、円環状の突出部71aが形成されることになる。
また、入力側ディスク3の炭素濃度の高められた表層部の除去位置は、図2に示されるものに限られるわけではなく、例えば、図3(a),(b),(c),(d)に示すように、入力側ディスク3の外周部を前面(凹面3a)から背面まで除去するものとしもよい。
【0071】
すなわち、図3(a)等に示す入力側ディスク3の外周部の断面図において、図3(b),(c)に示すように、入力側ディスク3の外周部全体を除去加工する。
この除去加工で生じた切欠部3fにより、入力側ディスク3の径が少し小さくなり、入力側ディスク3より前側支持板71の径が僅かに大きくなる。
また、図2に示す場合と同様に、前側支持板71の前面の外周部には、円環状の突出部71bが形成されており、この突出部71bが、図3(d)に示すように、入力側ディスク3の除去加工で形成された外周面に沿って配置され、当該外周面の炭素濃度が最も低いと思われる中央部の溶接部(ビード)3gで当該突出部71bの先端部が溶接されている。
【0072】
また、図4(a)等に示すように、入力側ディスク3の背面の外周部に円環状の突出部3hを形成した状態で浸炭処理もしくは浸炭窒化処理を行い、この突出部3hを、4(b),(c)に示すように、除去加工して切欠部3iを形成する。突出部3hは、炭素濃度の高い表層部3cの厚さの2倍より径方向の幅が広く、かつ、入力側ディスク3の背面からの突出量が表層部3cの厚さより長い必要がある。なお、図示されている表層部3cは、仮想のものであり、実際には、例えば、元の材料の炭素濃度より炭素濃度が所定量以上高い部分を表層部3cとしてもよい。
なお、所定量は、元の材料の炭素濃度より高ければ任意に決定可能であるが、焼入れによる硬化の度合い等によって決定される。
【0073】
また、入力側ディスク3の突出部3hの除去は、入力側ディスク3の背面に沿って行われ、除去加工後に、入力側ディスク3の背面と除去加工により生じた切欠部3iとで段差がない平面となっていることが好ましい。
そして、切欠部3iの径方向の略中央部で、第1キャリア21の前側支持板71が溶接部(ビート)3jで溶接される。
【0074】
以上のように入力側ディスク3の前側支持板71が溶接される部位において、炭素濃度の高い表層部を除去することで、溶接部位が溶接時の熱で焼き入れ硬化するのを防止できる。なお、除去加工は、例えば、浸炭処理もしくは浸炭処理後の2次焼入れ前、2次焼入れ後の研削加工前、研削加工中(入力側ディスク3の従来と同様の研削加工の際に表装部の除去加工も研削加工として一緒に行う)、研削加工後のいずれの工程で行ってもよい。
【0075】
また、上述のように入力側ディスク3の表層部を除去する際に、入力側ディスク3の表層部は、浸炭処理や浸炭窒化処理や、各種熱処理によりかなり硬化されている可能性があり、切削などによる除去加工が困難であったり、除去加工に時間がかかったり、工具の摩耗が早く加工コストが高くなったりする可能性がある。
そこで、入力側ディスク3の除去加工を行うべき部分を、高周波熱処理により部分的に焼鈍しもしくは焼戻しを行うことにより、軟化させ、除去加工を容易とすることができる。
【0076】
なお、上記例では、従来の図5に示される基本構造を有する無段変速装置に本発明を適用したが、図5に示される無段変速装置と同様に入力側ディスクと第1キャリアとが一体に回転する図6に示す基本構造を有する無段変速装置にも本発明を適用することができる。さらに、トロイダル型無段変速機と、遊星歯車式無段変速機とが同軸上に配置され、かつ、入力側ディスクとキャリアとが一体に回転する無段変速装置ならば図5および図6に示す基本構造以外の構造を有する無段変速装置にも本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、遊星歯車式変速機とハーフトロイダル型無段変速機を用いた無段変速装置の他、遊星歯車式変速機とトラニオンが無いフルトロイダル型無段変速機を用いた無段変速装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 トロイダル型変速機
2 入力軸
3 入力側ディスク
4 パワーローラ
5 出力側ディスク
20 遊星歯車式変速機
21 第1キャリア(キャリア)
22 第1A遊星歯車(遊星歯車)
23 第2遊星歯車(遊星歯車)
24 第1B遊星歯車(遊星歯車)
26 第1太陽歯車(太陽歯車)
27 第2太陽歯車(太陽歯車)
41 嵌合凸部(嵌合部)
42 嵌合凹部(嵌合部)
71 前側支持板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの内側面同士を対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、これらの両ディスク間に挟持される複数のパワーローラとを有するトロイダル型無段変速機と、
少なくとも太陽歯車と遊星歯車と当該遊星歯車を支持するキャリアとを備える遊星歯車式変速機とを備え、
トロイダル型無段変速機のディスクと遊星歯車式変速機のキャリアとが同軸上に並んで配置されるとともに、1つのディスクと1つのキャリアとが一体に回転自在に連結される無段変速装置において、
互いに一体に回転自在な前記ディスクと前記キャリアとには、当該ディスクと当該キャリアとが同軸上に配置された状態で、前記ディスクの内周部と前記キャリアとの内周部を互いに嵌合させる嵌合部が形成され、
当該ディスクの外周部と当該キャリアの外周部とが溶接されていることを特徴とする無段変速装置。
【請求項2】
前記ディスクは、浸炭処理もしくは浸炭窒化処理が施されることにより表層部の炭素濃度が高められ、
前記ディスクの前記キャリアが溶接される部分の少なくとも表層部が除去加工され、前記ディスクの表層部より炭素濃度が低い除去加工部分に前記キャリアが溶接されていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速装置。
【請求項3】
前記ディスクの少なくとも表層部を除去加工する部分が、高周波熱処理により焼鈍しまたは焼戻しされた後に除去加工されていることを特徴とする請求項2に記載の無段変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−112105(P2011−112105A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267059(P2009−267059)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】