説明

無端ベルト用エレメント検査方法及び検査装置

【課題】 純粋なエレメントのみの変位量を測定できるようにした無端ベルト用エレメント検査方法及び検査装置を提供する。
【解決手段】 ベルト式無段変速機に用いられる金属性無端ベルトの構成部品であるエレメントの検査方法において、前記エレメントを多数個積層して構成したエレメント積層体(32)の積層方向に圧力を加えて該エレメント積層体を保持する保持工程と、前記圧力を調整して、ベルト式無段変速機に実装したときに前記エレメントの両面に加えられる実際の荷重に相当する検査荷重(Pa)を設定する設定工程と、前記検査荷重が加えられた状態の前記エレメント積層体の一端側に所定の曲げ力(Pb、Pc)を与えて該エレメント積層体の一端側の変位量を測定する測定工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機(ベルト式CVT)に用いられる金属性無端ベルト(以下「CVTベルト」という。)、特に、その構成部品であるエレメントの検査方法及び検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、CVTベルトの外観図である。この図において、CVTベルト1は、複数枚(たとえば、12枚程度)の金属リング2aからなる二連のリング状積層体2に、多数個(たとえば、400個程度)の金属性のエレメント3aからなるエレメント積層体3を担持させて組み立てられ、アセンブリ化されている。
【0003】
図7は、エレメント3aの拡大図である。エレメント3aは、金属板を打ち抜き加工して所定形状に成型されたスチールブロック(金属小片)であり、たとえば、人体の上半身像を想起させるような形状、すなわち、頭部3b及び胸部3c並びにそれらの頭部3bと胸部3cの間を連結する首部3dを有する形状に成型されている。
【0004】
頭部3bの一方面側には突起3eが形成されており、また、同他方面側には窪み3fが形成されている。隣接するエレメント3aの突起3eと窪み3fとを嵌め合わすことにより、エレメント3a同士の位置合わせを行うようになっている。二連のリング状積層体2は、それぞれエレメント3aの頭部3bと胸部3cの間に形成された凹部3gに嵌め込まれる。
【0005】
このように、CVTベルト1は、12枚程度の金属リングからなる二連のリング状積層体2に、リング1周分に相当する、たとえば、400個程度のエレメント3aからなるエレメント積層体3を担持させて組み立てられ、アセンブリ化されたものである。かかる構造のCVTベルト1においては、たとえば、一部のエレメント3aに厚み(図7(b)の符号a参照)が過不足しているものや、隣接する突起3eと窪み3fが正しく嵌め合わされないものなどが混入していた場合には、CVTベルト1を自動変速機に組み付けた後で、その変速機内のベルト挟持部(プーリ)の押圧力を受けて、当該不良のエレメント3aと隣接エレメントの間に応力集中が発生したり、スリップが発生したりするという不都合がある。
【0006】
そこで、たとえば、特許文献1に記載されているような「無端金属ベルトの直進性測定装置およびその方法」が知られている。この従来技術では、CVTベルト1に組み付けられる前のエレメント3aを多数個積層し、それを金属リング2aと同一板厚及び同一板幅の有端状金属帯(同文献では“模擬フープ”と称している。)に担持させると共に、その担持物をガイド(後述の実施形態の治具31に相当するもの)に保持させた状態で測定装置にセットして所要の測定を行っている。この測定は、模擬フープに所定の張力を与えると共に、その模擬フープに担持された複数のエレメント3aに対して積層方向に所定の押圧力を与えたときに、エレメント3aがどれだけ、その積層方向からずれる(変位する)かを調べるというものである。
【0007】
【非特許文献1】宮地知巳著“理想の変速機CVTの性能を最大限に引き出す”、[online]、[平成14年8月25日検索]、インターネット<URL: http://www.idemitsu.co.jp/lube/cvt/cvtbody2.html>
【特許文献1】特開2003−83736号公報(〔0055〕及び図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記の従来技術にあっては多数個のエレメント3aを“模擬フープ”(金属リング2aと同一板厚及び同一板幅の有端状金属帯)に担持させた状態で所要の測定を行っているため、以下の問題点がある。
【0009】
測定結果は“模擬フープ”に担持された状態のエレメント3aの変位量となって現れるが、この変位量は“模擬フープ”の硬さ(横剛性)の影響も受けているため、純粋なエレメント3aのみの変位量ではなく、充分な測定精度が得られないという問題点がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、純粋なエレメントのみの変位量を測定できるようにした無端ベルト用エレメント検査方法及び検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ベルト式無段変速機に用いられる金属性無端ベルトの構成部品であるエレメントの検査方法において、前記エレメントを多数個積層して構成したエレメント積層体の積層方向に圧力を加えて該エレメント積層体を保持する保持工程と、前記圧力を調整して、ベルト式無段変速機に実装したときに前記エレメントの両面に加えられる実際の荷重に相当する検査荷重を設定する設定工程と、前記検査荷重が加えられた状態の前記エレメント積層体の一端側に所定の曲げ力を与えて該エレメント積層体の一端側の変位量を測定する測定工程とを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明では、エレメントを多数個積層して構成したエレメント積層体の積層方向に圧力を加えて該エレメント積層体を保持し、前記圧力を調整して、ベルト式無段変速機に実装したときに前記エレメントの両面に加えられる実際の荷重に相当する検査荷重を設定すると共に、前記検査荷重が加えられた状態の前記エレメント積層体の一端側に所定の曲げ力を与えて該エレメント積層体の一端側の変位量を測定して、その測定結果に基づいて前記エレメント積層体の良否を判定、たとえば、前記検査荷重が加えられた状態の前記エレメント積層体の一端側に所定の曲げ力を与えたときの該エレメント積層体の一端側の変位量が、所定量よりも大きいとき又は所定量よりも小さいときに前記エレメント積層体の不良を判定する。
したがって、従来技術の模擬フープような余分なパーツを含まない純粋なエレメントのみを測定対象としているため、測定精度の向上が図られる。しかも、いちいちエレメントを模擬フープに組み付ける必要もないから検査の際の手間を省くこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明における様々な細部の特定ないし実例および数値や文字列その他の記号の例示は、本発明の思想を明瞭にするための、あくまでも参考であって、それらのすべてまたは一部によって本発明の思想が限定されないことは明らかである。また、周知の手法、周知の手順、周知のアーキテクチャおよび周知の回路構成等(以下「周知事項」)についてはその細部にわたる説明を避けるが、これも説明を簡潔にするためであって、これら周知事項のすべてまたは一部を意図的に排除するものではない。かかる周知事項は本発明の出願時点で当業者の知り得るところであるので、以下の説明に当然含まれている。
【0014】
図1は、本実施形態における無端ベルト用エレメント検査装置(以下、単に検査装置という。)10の概念的な構成図である。なお、この図は検査装置10を真上から見下ろしたときの俯瞰図である。検査装置10の主要な構成要素は、以下のとおりである。
【0015】
まず、検査装置10は、二つの駆動機構11、12(保持手段、設定手段、測定手段)を備える。以下、これらの駆動機構11、12を便宜的に第一の駆動機構11及び第二の駆動機構12ということにすると、第一の駆動機構11は、モータ13と、このモータ13のシャフト14に螺合する金属ブロック15と、モータ13を駆動する第一駆動部16と、モータ13の回転方向を切り換える極性反転スイッチ17と、モータ13の駆動をオンオフする駆動スイッチ18と、モータ13の駆動電流の大きさからモータ13の負荷力を測定する第一測定部19と、第一測定部19の測定結果を表示する負荷力表示部20とを有する。
【0016】
ここで、第一の駆動機構11の金属ブロック15の内部には螺旋状のネジ穴が切られており、そのネジ穴にモータ13のシャフト14の外周に形成された雄ネジが螺合している。このため、第一の駆動機構11の金属ブロック15は、モータ13の回転(正確にはシャフト14の回転)に伴ってシャフト14の軸方向(矢印A方向)に移動するようになっている。以下、モータ13が正回転すると、第一の駆動機構11の金属ブロック15が図面の右方に移動(右移動)し、モータ13が逆回転すると、第一の駆動機構11の金属ブロック15が図面の左方に移動(左移動)するものとする。
【0017】
次に、第二の駆動機構12は、モータ21と、このモータ21のシャフト22に螺合する金属ブロック23と、モータ21を駆動する第二駆動部24と、モータ21の回転方向を切り換える極性反転スイッチ25と、モータ21の駆動をオンオフする駆動スイッチ26と、モータ21の駆動電流の大きさからモータ21の負荷力を測定する第二測定部27と、第二測定部27の測定結果を表示する負荷力表示部28とを有する。
【0018】
ここで、第二の駆動機構12の金属ブロック13の内部にも螺旋状のネジ穴が切られており、そのネジ穴にモータ21のシャフト22の外周に形成された雄ネジが螺合している。このため、第二の駆動機構12の金属ブロック13は、モータ21の回転(正確にはシャフト22の回転)に伴ってシャフト22の軸方向(矢印B方向)に移動するようになっている。以下、モータ22が正回転すると、第二の駆動機構12の金属ブロック23が図面の下方に移動(下移動)し、モータ21が逆回転すると、第二の駆動機構12の金属ブロック23が図面の上方に移動(上移動)するものとする。
【0019】
このように、二つの駆動機構11、12は、各々の金属ブロック15、23の移動方向が相違している。つまり、第一の駆動機構11の金属ブロック15の移動方向は図面の左右方向であるのに対して、第二の駆動機構12の金属ブロック23の移動方向は図面の上下方向である点で相違する。また、上下方向に移動する第二の駆動機構12については、その金属ブロック23の移動量を計測して、その計測値を表示するための移動量計測部29を備える点でも相違する。
【0020】
二つの駆動機構11、12の各々の金属ブロック15、23は、図示のように、所定長(図面の左右方向の長さ)の隙間(以下、検査スペース)30を間にして対向するように配置されている。第一の駆動機構11の金属ブロック15の移動方向(矢印A参照)は検査スペース30の長手方向であり、また、第二の駆動機構12の金属ブロック23の移動方向(矢印B参照)は検査スペース30の短手方向、つまり、第一の駆動機構11の金属ブロック15の移動方向(矢印A参照)と直交する方向である。
【0021】
検査スペース30は、CVTベルト1に組み付ける前の多数個のエレメント3aを検査するための空間である。この検査スペース30には、当該検査の際に、以下にその詳細を説明する治具31がセットされる。
【0022】
図2は、治具31の外観図であり、詳しくは、(a)は、治具31へのエレメント積層体の載置の仕方を示す図、また、(b)は、エレメント積層体32を載置した状態の治具31を示す図である。治具31は、検査スペース30の長さと同等又はそれよりも若干短い長さLの硬質矩形状柱材の上面に、該柱材の一端側から他端側まで連続する溝31aを形成したものであり、この溝31aに、多数個(たとえば、100個程度)のエレメント3aからなるエレメント積層体32を載置できるようになっている。
【0023】
図3及び図4は、検査手順を示す図である。
<治具31のセット>・・・・図3(a)
まず、第一の駆動機構11のモータ13を逆転させて(極性反転スイッチ17を逆転位置にして駆動スイッチ18をオンにする)、金属ブロック15を左方移動させ、検査スペース30を開放する。そして、この開放された検査スペース30に、エレメント積層体32を載置した治具31をセットする。
【0024】
<治具31の取り外し>・・・・図3(b)
次いで、第一の駆動機構11のモータ13を正転させて(極性反転スイッチ17を正転位置にして駆動スイッチ18をオンにする)、金属ブロック15を右方移動させる。この右方移動によって、金属ブロック15は、治具31に載置されているエレメント積層体32の左端面に当接し、さらに、金属ブロック15の右方移動を継続(つまり、第一の駆動機構11のモータ13の正転を継続)させることにより、ついには、治具31に載置されているエレメント積層体32の右端面が第二駆機構12の金属ブロック23に当接することになる。
【0025】
このとき、エレメント積層体32の両端面は、二つの駆動機構(第一及び第二の駆動機構11、12)の金属ブロック15、23の間に挟み込まれているので、第一の駆動機構11のモータ13の正転動作をもう少し継続して、第一の駆動機構11の金属ブロック15を若干右方移動させることにより、エレメント積層体32の積層方向に“圧力”(挟持力)を加えることができ、エレメント積層体32を、二つの駆動機構(第一及び第二の駆動機構11、12)の金属ブロック15、23の間でしっかりと保持することができる。
【0026】
このように、二つの駆動機構(第一及び第二の駆動機構11、12)の金属ブロック15、23の間でしっかりと保持された状態のエレメント積層体32は、もはや治具31が不要であり、この段階で、治具31を取り外すことができる。なお、上記の“圧力”は、二つの駆動機構(第一及び第二の駆動機構11、12)の金属ブロック15、23の間でエレメント積層体32をしっかりと保持することができる値であればよく、適当でよい。
【0027】
<検査荷重の設定>・・・・図3(c)
治具31が取り外されたエレメント積層体32に対して、その積層方向への適正な検査荷重Paを設定する。ここで、“検査荷重”とは、エレメント3aをCVTベルト1に組み付けた際に、そのエレメント3aの両面に加わる荷重のことである。
【0028】
検査荷重Paの設定は、第一の駆動機構11のモータ13を正転させて(極性反転スイッチ17を正転位置にして駆動スイッチ18をオンにする)、金属ブロック15を右方移動させることによって行う。金属ブロック15の右方移動に伴う押圧力が検査荷重Paとなり、この押圧力は第一の駆動機構11のモータ13の負荷力となる。ここで、モータの駆動電流とそのモータの負荷力との間には一定の相関関係があるから、第一の駆動機構11のモータ13の駆動電流の大きさを測定することによって、モータ13の負荷力、したがって、検査荷重Paを定量的に計測することができる。第一の駆動機構11の第一測定部19及び負荷力表示部20は、そのような原理に基づく検査荷重Paの測定手段である。
【0029】
<エレメント積層体32の検査>・・・・図4(a)、(b)
適正な検査荷重Paを設定すると、次に、エレメント積層体32に所定の曲げ力Pbを与えて、その曲げ力Pbに対応するエレメント積層体32の変形量を測定し、変形量が適正範囲に収まっているか否かを検査する。
【0030】
検査の実際を具体的に説明する。まず、第二の駆動機構12のモータ21を逆転させて(極性反転スイッチ25を逆転位置にして駆動スイッチ26をオンにする)、金属ブロック23を上方移動させる。このとき、金属ブロック23は、エレメント積層体32の右端面に検査荷重Paで強く接しているため、金属ブロック23の上方移動に伴い、エレメント積層体32の右端面が同方向に強制的に移動させられる。これにより、エレメント積層体32は、第一の駆動機構11の金属ブロック15に当接する左端面を支点とし、第二の駆動機構12の金属ブロック23に当接する右端面を揺動点として湾曲変形することとなり、その変形量は、第二の駆動機構12の金属ブロック23の上方への移動量として、移動量計測部29によって測定される。
【0031】
曲げ力Pbは、第二の駆動機構12の金属ブロック23の上方移動に伴う、エレメント積層体32の右端面の強制的な上方への移動力として作用する。この曲げ力Pbは、第二の駆動機構12のモータ21の負荷力でもあり、第二の駆動機構12のモータ21の駆動電流の大きさを測定することによって、モータ21の負荷力、したがって、曲げ力Pbを定量的に計測することができる。第二の駆動機構12の第二測定部27及び負荷力表示部28は、そのような原理に基づく曲げ力Pbの測定手段である。
【0032】
上記の検査では、エレメント積層体32の右端面を上方に強制移動させて、そのときのエレメント積層体32の右端面の移動量(金属ブロック23の移動量)を測定しているが、検査の正確さを期するために、逆方向への移動変化量も測定することが望ましい。すなわち、第二の駆動機構12のモータ21を正転させて(極性反転スイッチ25を正転位置にして駆動スイッチ26をオンにする)、金属ブロック23を下方移動させ、そのときのエレメント積層体32の右端面の移動量(金属ブロック23の移動量)も併せて測定することが望ましい。なお、このときの曲げ力はPcである。
【0033】
さて、エレメント積層体32は、多数個のエレメント3aを積層したものであるために一本の硬い棒ではなく、積層方向と直交する方向への若干の変位(変形)を許容する多少の柔軟性を有する積層体である。
【0034】
図5は、積層方向に所定の検査荷重Paが加えられたエレメント積層体32の変位量を示す特性図である。この図において、縦軸は変位量(金属ブロック32の上方または下方移動量)であり、横軸は曲げ力Pb、Pcである。
【0035】
この特性図からも理解されるように、積層方向に所定の検査荷重Paが加えられたエレメント積層体32の変位量は、曲げ力Pb、Pcが大きくなるほど増加し、曲げ力Pb、Pcがある値に達すると飽和する。
【0036】
特性線Cは設計上の理想値、特性線D及びEは理想値から大きくずれたNG値である。NG値(特性線D及びE)はいずれも「積層方向に所定の検査荷重Paが加えられたエレメント積層体32の変位量は、曲げ力Pb、Pcが大きくなるほど増加し、曲げ力Pb、Pcがある値に達すると飽和する。」という条件を満たしているが、理想値(特性線C)に対して、一方のNG値(特性線D)は飽和レベルが高すぎ、また、他方のNG値(特性線E)は飽和レベルが低すぎる。
【0037】
このことは、理想値(特性線C)に対して、一方のNG値(特性線D)は、エレメント積層体32が柔軟性過多(つまり“柔らかすぎる”)であることを示唆し、また、同様に理想値(特性線C)に対して、他方のNG値(特性線E)は、エレメント積層体32が柔軟性不足(つまり“硬すぎる”)であることを示唆している。
【0038】
柔軟性過多や柔軟性不足の原因は、たとえば、一部のエレメント3aに厚み(図7(b)の符号a参照)が過不足しているものや、隣接する突起3eと窪み3fが正しく嵌め合わされないものなどが混入しているからである。
【0039】
このような不良エレメント3aを含むCVTベルト1を自動変速機に組み付けた場合には、その変速機内のベルト挟持部(プーリ)の押圧力を受けて、当該不良のエレメント3aと隣接エレメントの間に応力集中が発生したり、スリップが発生したりするという不都合があるから、事前に良品のエレメント3aと交換しておかなければならない。
【0040】
本実施の形態においては、前記の検査手順により、積層方向に所定の検査荷重Paが加えられたエレメント積層体32の右端面に、強制的な上方移動力(曲げ力Pb)又は下方移動力(曲げ力Pc)を加えて、そのときの変位量(金属ブロック23の上方又は下方変位量)を計測し、その測定結果を、前記の特性図(図5)に当てはめることにより、エレメント積層体32の硬さの度合いを定量的に把握することができ、エレメント積層体32内の不良エレメント3aの存在を検出することができる。
【0041】
しかも、この検査手順においては、多数個のエレメント3aだけからなるエレメント積層体32を被検査対象としているため、前記の従来技術における模擬フープのような余計な検査対象を含んでいない。したがって、純粋なエレメント積層体32のみの変位量を測定することができ、検査品質を向上できるという格別の効果が得られる。さらに、従来技術のように検査の際にいちいち模擬フープにエレメント3aを組み付ける必要もないから大幅な手間の軽減も図ることができ、検査のコストを削減することもできる。
【0042】
なお、以上の実施形態においては、第一の駆動機構11と第二の駆動機構12の駆動源としてモータ13、21を用いたが、これは一例に過ぎない。たとえば、モータ12、21の代わりに油圧アクチュエータなどの他の駆動源を用いても構わない。
【0043】
さらに、以上の実施形態においては、エレメント積層体32の不良判定を人為的に行っていたが、つまり、積層方向に所定の検査荷重Paが加えられたエレメント積層体32の右端面に、強制的な上方移動力(曲げ力Pb)又は下方移動力(曲げ力Pc)を加えて、そのときの変位量(金属ブロック23の上方又は下方変位量)を計測し、その測定結果を、前記の特性図(図5)に当てはめることによってエレメント積層体32の良否を判定していたが、この判定を自動化することも可能である。たとえば、負荷力表示部20の表示値(検査荷重Pa)や、負荷力表示部28の表示値(曲げ力Pb、Pc)及び移動量計測部29の表示値(変位量)を電気信号で取り出せるようにし、それらの電気信号をパソコン等の電子機器に入力して、その電子機器内部で、前記の特性図(図5)に基づく判定処理を行えばよい。具体的には、検査荷重Paが所定値にある場合に、曲げ力Pb、Pcが所定の大きさとなったときの移動量計測部29の表示値(変位量)が所定の値(図5の特性線C参照)に一致し又は所定の許容範囲に収まっているか否かを判定すればよい。このようにした場合、当該電子機器及びその電子機器内部で実行される処理機能は、一体として本件発明の要旨に記載された判定手段を構成する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態における無端ベルト用エレメント検査装置10の概念的な構成図である。
【図2】治具31の外観図である。
【図3】検査手順を示す図である。
【図4】検査手順を示す図である。
【図5】積層方向に所定の検査荷重Paが加えられたエレメント積層体32の変位量を示す特性図である。
【図6】CVTベルトの外観図である。
【図7】エレメント3aの拡大図である。
【符号の説明】
【0045】
Pa 検査荷重
Pb 曲げ力
Pc 曲げ力
1 CVTベルト(金属性無端ベルト)
3a エレメント
10 検査装置(無端ベルト用エレメント検査装置)
11 第一の駆動機構(保持手段、設定手段、測定手段)
12 第二の駆動機構(保持手段、設定手段、測定手段)
32 エレメント積層体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト式無段変速機に用いられる金属性無端ベルトの構成部品であるエレメントの検査方法において、
前記エレメントを多数個積層して構成したエレメント積層体の積層方向に圧力を加えて該エレメント積層体を保持する保持工程と、
前記圧力を調整して、ベルト式無段変速機に実装したときに前記エレメントの両面に加えられる実際の荷重に相当する検査荷重を設定する設定工程と、
前記検査荷重が加えられた状態の前記エレメント積層体の一端側に所定の曲げ力を与えて該エレメント積層体の一端側の変位量を測定する測定工程と
を含むことを特徴とする無端ベルト用エレメント検査方法。
【請求項2】
前記測定工程の測定結果に基づいて前記エレメント積層体の良否を判定する判定工程を含み、該判定工程は、前記検査荷重が加えられた状態の前記エレメント積層体の一端側に所定の曲げ力を与えたときの該エレメント積層体の一端側の変位量が、所定量よりも大きいとき又は所定量よりも小さいときに前記エレメント積層体の不良を判定することを特徴とする請求項1記載の無端ベルト用エレメント検査方法。
【請求項3】
ベルト式無段変速機に用いられる金属性無端ベルトの構成部品であるエレメントの検査装置において、
前記エレメントを多数個積層して構成したエレメント積層体の積層方向に圧力を加えて該エレメント積層体を保持する保持手段と、
前記圧力を調整して、ベルト式無段変速機に実装したときに前記エレメントの両面に加えられる実際の荷重に相当する検査荷重を設定する設定手段と、
前記検査荷重が加えられた状態の前記エレメント積層体の一端側に所定の曲げ力を与えて該エレメント積層体の一端側の変位量を測定する測定手段と
を備えたことを特徴とする無端ベルト用エレメント検査装置。
【請求項4】
前記測定手段の測定結果に基づいて前記エレメント積層体の良否を判定する判定手段を含み、該判定手段は、前記検査荷重が加えられた状態の前記エレメント積層体の一端側に所定の曲げ力を与えたときの該エレメント積層体の一端側の変位量が、所定量よりも大きいとき又は所定量よりも小さいときに前記エレメント積層体の不良を判定することを特徴とする請求項3記載の無端ベルト用エレメント検査装置。
【請求項5】
ベルト式無段変速機に用いられる金属性無端ベルトの構成部品であるエレメントの検査方法において、
前記エレメントを多数個積層して構成したエレメント積層体の両端にそれぞれ配置された二つの金属ブロックの間に挟持力を作用させて、前記エレメント積層体を前記二つの金属ブロックの間で保持する保持工程と、
前記挟持力を調整して、ベルト式無段変速機に実装したときに前記エレメントの両面に加えられる実際の荷重に相当する検査荷重を設定する設定工程と、
前記検査荷重が加えられた状態の前記エレメント積層体の一端側に位置する金属ブロックに横方向の移動力を与えた際の前記エレメント積層体の一端側の変位量を測定する測定工程と
を含むことを特徴とする無端ベルト用エレメント検査方法。
【請求項6】
ベルト式無段変速機に用いられる金属性無端ベルトの構成部品であるエレメントの検査装置において、
前記エレメントを多数個積層して構成したエレメント積層体の両端にそれぞれ配置された二つの金属ブロックの間に挟持力を作用させて、前記エレメント積層体を前記二つの金属ブロックの間で保持する保持手段と、
前記挟持力を調整して、ベルト式無段変速機に実装したときに前記エレメントの両面に加えられる実際の荷重に相当する検査荷重を設定する設定手段と、
前記検査荷重が加えられた状態の前記エレメント積層体の一端側に位置する金属ブロックに横方向の移動力を与えた際の前記エレメント積層体の一端側の変位量を測定する測定手段と
を備えたことを特徴とする無端ベルト用エレメント検査装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−63996(P2006−63996A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243842(P2004−243842)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】