説明

無糖質イースト菌発酵製品の製造方法

【課題】 肥満・糖尿病・高脂血症を予防するために糖質(デンプン)の摂取を極力おさえるための、おいしいイースト菌発酵製品を提供すること。
【解決手段】 少なくともブラン(ふすま)または大豆たんぱくと、グルテンと、乳成分とを必須成分とする原料組成物を増粘性成形剤を用いて成形した後、イースト菌発酵させて無糖質生地を調整し、焼き上げ又は乾燥固化することを特徴とする無糖質イースト菌発酵製品の製造方法。乳成分は乳糖を酵素分解して得られるグルコース及びガラクトースを含むのが好ましい。また、乳成分が牛乳またはスキムミルクであって、乳成分中乳糖を酵素処理した後原料組成物に添加するのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実質的に炭水化物(糖質)を含まないイースト菌発酵製品の製造方法に関する。本発明におけるイースト菌発酵製品にはイースト菌発酵を必須とするパン食品、ドーナツ、パスタ、うどん麺等の各種粉物発酵食品を含む。
【背景技術】
【0002】
従来から、イースト菌発酵の粉物の代表的製品として小麦、ライ麦等の全粒粉を使用したパンやクッキ−が市販されているが、これらは、精製粉による製品に比べ食物繊維が多く摂取できるだけで、炭水化物(糖質)含有量はほとんど変わらない。これに対し、ふすまに含まれる繊維質や各種ミネラル・ビタミンの利用もさることながら、それよりも糖質を含有せず、糖質の摂取を出来るだけ抑えたイースト菌発酵製品の提供が望まれている。
【0003】
WHO(世界保健機構)も指摘するように、今や肥満は世界中で流行病のように憂延し、心・血管疾患をはじめ糖尿病・高血圧などの増加を招く結果となっている。1970年代から、アメリカでは、肥満を防止するために低カロリ−・低脂肪食が推奨され、人々はこぞってこれを実践してきたが、返って益々肥満人口が増加し、現在に至っている。
【0004】
これは、それまで、FDA(アメリカ食品・薬品局)が、健康な食事指導のためにいわゆる食品ピラミッドを作成し、ピラミッドの底部(最も重要な食品)に糖質(食事全体の60%)、その上にタンパク、さらにその上に脂肪が来るような構成とし、糖質が最も重要視されていたからである。しかしながら、上述のように、炭水化物(糖質)の摂取量が増え、低カロリ−化が進むにつれて、返って肥満が増えるという結果を招くに至った。このような逆転現象に注目し、アトキンス博士は低炭水化物ダイエットを約30年前から提唱していた。
【0005】
最近になって、アトキンス博士以外にも、アガストン博士のサウス・ビ−チ・ダイエット(SOUTH BEACH DIET)など、低炭水化物ダイエットを薦める人達が増え、2003年5月、ダイエットに関するテレビ討論が行われて以来、アメリカでは、ハンバ−ガ−のパン部分やピザ・クッキ−を食べない人達が急増している。日本でも、近年、肥満や糖尿病及びその予備軍が急増しており、糖質、特に精製小麦粉や精白米の摂取制限の必要性が重要な問題となりつつある。
【0006】
【非特許文献1】ロバ−ト シ−. アトキンス. エム. デ− (RobertC.Atokins.M.D)著「ドクタ− アトキンズ ニュ− ダイエット レボリュ−ション(Dr.Atokins New Diet Revolution)」アボン ブックス ニュ−ヨ−ク(Avon books New York)出版
【非特許文献2】ア−サ− アガストン エム.デ−.(Arthur Agatston,M.D.)著「ザ サウス ビ−チ ダイエット(The South Beach Diet)」ロデイル(Rodale)出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、肥満・糖尿病・高脂血症を予防するために、糖質の摂取を極力押さえ、不足がちな食物繊維の摂取を増大させること、さらに小麦・米の主成分であるデンプンをバイオエタノールに変えることにより、地球環境の保全に役立たせ、かつ食品産業廃棄物中で大きな地位を占める「ブラン」を有効に利用することを満足する食品及びその素材が提案されるが、ブランは保水性に欠け、造形性が十分でないため、単一で食品素材とすることができない。
【0008】
また、植物性タンパクであるグルテンを用いて焙煎ブランのつなぎ目として用いたが、これだけでは、ぱさぱさした製品しか得られない。そこで、保水性を有し、しっとり感を与えるために、微量におおばこ種皮(サイリウム)粉末を配合することにより、糖質が実質的にゼロである食品素材を提案し(特許第3687049号)、種々の食品素材として利用し、数多くの実験的食品を創造してきた。
【0009】
しかしながら、食品として忘れてはならない、最も重要な要素は栄養素もさることながら、味覚であり、ブランとグルテンからなる食品素材の最大の欠点は味覚にあることが分かった。そこで、本発明は、ブランとグルテンとを主成分とする食品素材を利用してパン食品に代表される無糖質製品を製造するに、糖質を実質的に使用せず、イースト菌発酵により味覚に優れた粉物食品を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意研究の結果、ブランとグルテンを主成分とする食品素材にとっては牛乳またはスキムミルクの乳成分は味覚向上に優れた効果を発揮することを見出したが、そのままではイースト菌を使用しても食品作りに必須の発酵が思うように進まず、糖の添加が必要であることが分かった。しかしながら、本発明の目的は実質的に糖質を使用しないところにあり、イースト菌発酵のために糖を添加することは不本意であり、ブランとして焙煎ブランを使用する意義をなくさせるものである。
【0011】
そこで、本発明者はさらに研究の結果、牛乳またはスキムミルクの中に含まれる乳糖はそのままではイースト菌発酵に供しないが、グルコース及びガラクトースに分解するとイースト菌発酵に有効で、これらをイースト菌発酵に使用するとそれらが消費され、結果として実質的に糖質および糖を含まないイースト菌発酵食品が製造できることを見出した。また、発明者は大豆たんぱくは糖質を実質的に含まない成分であって、しかもブランと同様にグルテンおよび乳成分との相性に優れ、糖質を含まない味覚のよい発酵製品をイースト菌発酵で製造するに適することが同時に見出された。すなわち、本発明は、ブランおよび大豆たんぱくの少なくとも1種と、グルテンと、乳成分とを必須成分とする原料組成物を増粘性成形剤を用いて成形した後、イースト菌発酵させて実質的に無糖質生地を調整し、焼成又は乾燥固化させることを特徴とする無糖質イースト菌発酵製品の製造方法にある。
【0012】
本発明で使用する乳成分は乳糖を酵素分解して得られるグルコース及びガラクトースを含むのが好ましい。そこで、乳成分は原料に添加される牛乳またはスキムミルクを使用し、牛乳またはスキムミルク中の乳糖を酵素処理した後原料組成物に添加するのがよいが、牛乳に分解酵素を添加混合して原料組成物に添加してもよい。
【0013】
ブランは焙煎したものを使用すると、糖質が除去されるので、好ましい。ブランを焙煎した後、粉砕し、通常40〜60メッシュの粒子のものを使用するが、できる限り微細なナノ粉末とすることにより食感を向上させることができる。又、焙煎ブランまたは大豆たんぱくとグルテンとの割合(重量比)は、8:2〜5:5程度、好ましくは6:4〜3:7程度である。ブランまたは大豆たんぱく成分の一部としてぬか又はおから成分を混合してもよいが、多くともブランまたは大豆たんぱく成分の30重量%以下とするのが摂取による血糖値の実質的向上が見られないので好ましい。
【0014】
増粘性成形剤はブランおよび大豆たんぱくとグルテンからなる生地に成型性を与えるものであり、おおばこ種皮粉末(サイリウム)、アルギン酸ナトリウム、キサンタン、グアーガム、ペクチン、グルコマンナン、アラビアゴムなどを添加するのが好ましく、ブランとグルテンとの合計量1000に対して0.5〜5程度、好ましくは3〜5程度でよい。
【0015】
乳成分としては通常、牛乳またはスキムミルクが使用されるが、それだけでなく、哺乳類乳中の乳成分が使用できる。この乳成分中の乳糖はβ-ガラクトシダーゼによってガラクトースとグルコースに加水分解される。本発明においては、乳成分として使用する牛乳またはスキムミルクは、上記乳糖分解酵素を使用して処理した後乳糖をガラクトースとグルコースに加水分解し、これを添加するようにするのがよい。
【0016】
さらに、風味や栄養を良くするため、油脂、卵等を加えてもよい。油脂としては、バタ−やゴマ油などが挙げられるが、ふすまに対してはバタ−が好ましい。その他、ココア、シナモン等で風味をつけたり、ステビア、アスパルテ−ム等の糖質以外の甘味料なども適宜添加してもよい。
【0017】
本発明のパンまたはドーナツ素材は、焙煎ブランとグルテンとを8:2〜5:5程度の割合(重量比)で混合し、これに増粘性成形剤と、β-ガラクトシダーゼ入り牛乳と、イースト菌を加えて練り、発酵後無糖質生地を成型し、焼き上げてパン食品を得ることもできる。β-ガラクトシダーゼ入り牛乳は乳糖成分を十分に加水分解させるために、例えば、5〜10%のスキムミルク液を作り、ラクターゼY−AO(ヤクルト製)2〜5単位/mlの割合で加えた後2〜4時間インキューベートし、乳糖の分解処理を施すのが好ましい。
【0018】
他方、本発明のパスタ素材は、焙煎ブランとグルテンとを8:2〜5:5程度の割合(重量比)で混合し、これに増粘性成形剤と、β-ガラクトシダーゼ入り牛乳と、イースト菌を加えて練り、発酵後無糖質生地を成型し、乾燥固化してパスタ食品を得ることもできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によるイースト菌発酵製品は、粉物として糖質を実質的に含まないブランまたは大豆たんぱくを使用し、グルテンを加えて纏まりを良くし、しかも味覚向上のために加えた乳成分中の乳糖成分を分解利用してイースト菌発酵させ、乳糖を使用消費するので、実質的に糖質成分を含まないイースト菌発酵生地を調製することができる。また、実質的に糖質を含まず生地をイースト菌発酵させることができるので、食感において、糖質を使用して得られる従来の製品と比べて何らかの遜色もなく、これにより糖質の摂取量が抑えられ、継続して摂取することにより血糖値が降下し、便通も改善される。本発明において、重要なことは糖質を実質的に含まないブランまたは大豆たんぱくを基本成分として発酵食品と製造するにあたり、その発酵において、乳成分中の乳糖を有効利用してイースト菌を発酵させることにあり、当業者ならば、本発明の要旨を逸脱せず、本明細書の教示に従って種々変形可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
実施例1:焙煎ふすまとグルテンを6対4の割合で混合したもの1kgにおおばこ種皮粉末4gを加えてよく攪拌して濃いベージュ色粉末の食品素材を得た。この食品素材100部(重量部、以下特に断らなければ同様)に対し、イ−スト3部、全卵(食品素材100g当り1個の割合、以下同様)、バタ−10部を加え、β-ガラクトシダーゼ処理牛乳またはβ-ガラクトシダーゼ処理スキムミルク水溶液で硬さを調整しながら形を整え(使用量、90容量部)、室温(25℃)で30分間保持した後、オ−ブン(200〜210℃)で10分間焼き上げて、実質的に糖質及び糖を含まないパン食品を得た。
【0021】
実施例2:焙煎ふすま4と焙煎ぬか1に対しグルテン5の割合で混合したもの1kgにおおばこ種皮粉末1gを加え、よく攪拌して濃いベージュ色粉末の食品素材を得た。この食品素材100部に、イ−スト3部、全卵、バタ−10部を加え、β-ガラクトシダーゼ処理牛乳またはβ-ガラクトシダーゼ処理スキムミルク水溶液で硬さを調整しながら形を整え(使用量、90容量部)、室温で30分間保持した後、オ−ブン(210℃)で12分間焼き上げて、実質的に糖質及び糖を含まないパン食品を得た。
【0022】
実施例3:大豆たんぱく粉とグルテンを6対4の割合で混合したもの1kgにおおばこ種皮粉末4gを加えてよく攪拌してベージュ色粉末の食品素材を得た。この食品素材100部(重量部、以下特に断らなければ同様)に対し、イ−スト3部、全卵(食品素材100g当り1個の割合、以下同様)、バタ−10部を加え、β-ガラクトシダーゼ処理牛乳またはβ-ガラクトシダーゼ処理スキムミルク水溶液で硬さを調整しながら形を整え(使用量、90容量部)、室温(25℃)で30分間保持した後、乾燥固化させて、実質的に糖質及び糖を含まない棒状パスタを得た。
【0023】
実施例4:焙煎ふすま3と大豆たんぱく3に対しグルテン4の割合で混合したもの1kgにおおばこ種皮粉末1gを加え、よく攪拌してベージュ色粉末の食品素材を得た。この食品素材100部に、イ−スト3部、全卵を加え、β-ガラクトシダーゼ処理牛乳またはβ-ガラクトシダーゼ処理スキムミルク水溶液で硬さを調整しながら形を整え(使用量、90容量部)、室温で30分間保持した後、乾燥固化させて、実質的に糖質及び糖を含まない帯状パスタを得た。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、ブランを使用しても味覚に優れ、乳成分を使用しても乳糖を含まず、実質的に糖質を含まないイースト発酵のパン食品およびパスタが得られるため、肥満・糖尿病・高脂血症を予防することができるだけでなく、乳糖不耐症となりやすい大人にとって有効な食品を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブランおよび大豆たんぱくの少なくとも1種と、グルテンと、乳成分とを必須成分とする原料組成物を増粘性成形剤を用いて成形した後、イースト菌発酵させて実質的に無糖質の生地を調整し、焼成又は乾燥固化させることを特徴とする無糖質イースト菌発酵製品の製造方法。
【請求項2】
乳成分は乳糖を酵素分解して得られるグルコース及びガラクトースを含む請求項1記載の無糖粉物イースト菌発酵製品の製造方法。
【請求項3】
乳成分が牛乳またはスキムミルクであって、乳成分中乳糖を酵素処理した後原料組成物に添加する請求項1記載の無糖粉物製品の製造方法。
【請求項4】
補助成分として実質的に血糖値を上昇させない限度でおからおよびぬか成分を加える請求項1記載の無糖質製品の製造方法。

【公開番号】特開2009−124992(P2009−124992A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303141(P2007−303141)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(597160037)
【出願人】(504085565)
【出願人】(507386793)
【Fターム(参考)】