説明

無線タグ装置及び無線通信方法

【課題】無線タグ装置の検出時間を短縮することができるとともに、衝突確率を軽減することができる無線タグ装置及び無線通信方法を提供する。
【解決手段】無線タグ装置1は、無線ネットワーク上に情報が送信されていないかを確認し、情報が送信されていると確認された場合、所定の値をスロット時間に乗算した時間をバックオフ時間とし、且つ送信試行回数が増加するにしたがって短くなるようにバックオフ時間を設定し、情報が送信されていないと確認された場合、又は設定されたバックオフ時間が経過した場合、自身を識別するための無線タグIDをリーダ装置2へ送信し、リーダ装置2が無線タグIDを受信した場合に送信するビーコンフレームを受信し、ビーコンフレームが受信された場合、所定の期間だけリーダ装置2との通信を休止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線ネットワークを介してリーダ装置と互いに通信可能に接続され、自身を識別するための識別情報をリーダ装置へ定期的に送信する無線タグ装置及びその無線通信方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、多数のノードが共通のリソースをシェアして利用する無線アクセス方式としては、IEEE802委員会で規定されている無線LANシステムにおける無線アクセス方式がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
非特許文献1におけるCSMA/CA方式では、フレームサイズは送信データに応じて可変である。スロット構成ではない伝送媒体がDIFS(DCF Inter−Frame Space)以上にアイドル状態であれば、ノードはデータの伝送をすぐに開始する。一方、伝送媒体がビジー状態ならアイドル状態になるまで待ち、ノードはデータの送信を延期する。そして、伝送媒体がDIFSの間アイドル状態になるのを待ち、その後、バックオフアルゴリズムを実行する。バックオフアルゴリズムは、乱数を発生させることにより、送信待ち時間(バックオフ時間)をランダムに決定する。ノードは、バックオフ時間が経過した後、データを再送信する。
【0004】
非特許文献1におけるバックオフアルゴリズムは、「2進指数バックオフアルゴリズム」と呼ばれ、発生させる乱数の範囲CWが、最小値CWmin及び最大値CWmaxというパラメータで与えられる。初回の乱数発生時にはCWの値は最小値CWminに設定され、再送回数が増えるにつれて2倍に増加し、最大値CWmaxに達した後は一定値となる。トラフィックが多くなるにつれて、すなわち、伝送媒体が混みあうにつれてバックオフ時間を増やし、データの衝突を防ぐしくみになっている。
【0005】
このように、非特許文献1では、DIFSの規定時間だけ待った後、乱数でバックオフ時間を決めることにより、同時送信による衝突確率を下げている。また、バックオフ時間を遅らすことにより、レスポンス時間は長くなるが、システムの許容ノード数を増やしている。
【非特許文献1】「無線LAN 媒体アクセス制御/物理層 仕様」(Wireless LAN Medium Access Control(MAC) and Physical Layer(PHY) specifications)、IEEE Std 802.11、1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来の無線アクセス方式は、再送回数が増加するにしたがって衝突回避のためのバックオフ時間を増加させることで、衝突確率を軽減させている。しかしながら、この無線アクセス方式では、無線局の数が少ない場合には、複数の無線局が同一の乱数値を発生させる確率は少ないが、無線局の数が増えるに従って同一の乱数値を発生させる確率が高くなる。このとき、衝突の起きた無線局は次の衝突回避期間を決めるに当たり、乱数値の発生範囲を広げることになるので、大きな乱数値が選択される可能性が高くなる。したがって、再送回数が増加するにつれ、バックオフ時間が長くなる虞があり、これは、検出時間が限られているアプリケーションでは、無線局がリーダ装置の検出エリアから出てしまい検出できなくなることにつながる。
【0007】
例えば、アクティブタグを用いた人物監視のようなシステムでは、通信エリアが数メートルと限られている。そのため、この範囲内に存在している短い時間内(数秒以内)に確実に通信が可能であり、無線タグ装置等に用いられるような安価なCPU(中央演算処理装置)でも処理可能な簡単なバックオフアルゴリズムが必要である。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、無線タグ装置の検出時間を短縮することができるとともに、衝突確率を軽減することができる無線タグ装置及び無線通信方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る無線タグ装置は、無線ネットワークを介してリーダ装置と互いに通信可能に接続され、自身を識別するための識別情報を前記リーダ装置へ定期的に送信する無線タグ装置であって、前記無線ネットワーク上に情報が送信されていないかを確認する確認部と、前記確認部によって情報が送信されていると確認された場合、所定の値をスロット時間に乗算した時間をバックオフ時間とし、且つ送信試行回数が増加するにしたがって短くなるように前記バックオフ時間を設定するバックオフ時間設定部と、前記確認部によって情報が送信されていないと確認された場合、又は前記バックオフ時間設定部によって設定されたバックオフ時間が経過した場合、前記識別情報を前記リーダ装置へ送信する識別情報送信部と、前記リーダ装置が前記識別情報を受信した場合に送信する応答情報を受信する応答情報受信部と、前記応答情報受信部によって前記応答情報が受信された場合、所定の期間だけ前記リーダ装置との通信を休止する休止部とを備える。
【0010】
この構成によれば、無線ネットワーク上に情報が送信されていないかが確認され、情報が送信されていると確認された場合、所定の値をスロット時間に乗算した時間がバックオフ時間とされ、且つ送信試行回数が増加するにしたがって短くなるようにバックオフ時間が設定される。また、情報が送信されていないと確認された場合、又はバックオフ時間が経過した場合、自身を識別するための識別情報がリーダ装置へ送信される。そして、リーダ装置が識別情報を受信した場合に送信する応答情報が受信された場合、所定の期間だけリーダ装置との通信が休止される。
【0011】
したがって、送信試行回数、すなわち衝突回避のためのバックオフ処理回数が増えるにつれて、バックオフ時間が短く設定されるので、再送信する識別情報の優先度を上げることができ、リーダ装置における無線タグ装置の検出時間を短縮することができる。また、識別情報の送信が完了した無線タグ装置は、所定の期間だけリーダ装置との通信が休止され、識別情報を定期的に送信することを控えるので、システム全体の情報同士の衝突確率を軽減することができる。
【0012】
また、上記の無線タグ装置において、前記バックオフ時間設定部は、前記確認部によって情報が送信されていると確認された場合、所定の乱数値をスロット時間に乗算した時間をバックオフ時間とし、且つ送信試行回数が増加するにしたがって前記乱数値の選択範囲の上限値が小さくなるように前記バックオフ時間を設定することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、情報が送信されていると確認された場合、所定の乱数値をスロット時間に乗算した時間がバックオフ時間とされ、且つ送信試行回数が増加するにしたがって乱数値の選択範囲の上限値が小さくなるようにバックオフ時間が設定される。
【0014】
したがって、乱数値がスロット時間に乗算され、且つ送信試行回数が増加するにしたがって乱数値の選択範囲の上限値が小さくなるように設定されるので、識別情報同士の衝突確率をさらに軽減することができる。
【0015】
また、上記の無線タグ装置において、前記スロット時間は、所定の衝突緩衝時間と、固定長パケットを送信する際に要する時間とを加算した時間であり、前記バックオフ時間設定部は、所定の乱数値を前記スロット時間に乗算した時間と、所定の乱数値を前記衝突緩衝時間に乗算した時間とを加算した時間をバックオフ時間として設定することが好ましい。
【0016】
この構成によれば、スロット時間は、所定の衝突緩衝時間と、固定長パケットを送信する際に要する時間とを加算した時間であり、所定の乱数値をスロット時間に乗算した時間と、所定の乱数値を衝突緩衝時間に乗算した時間とを加算した時間がバックオフ時間として設定される。したがって、所定の乱数値をスロット時間に乗算した時間に、所定の乱数値を衝突緩衝時間に乗算した時間を加算したバックオフ時間が経過した後、識別情報の送信が開始されるので、複数の無線タグ装置が同時に識別情報の送信を開始するのを防止することができ、識別情報同士の衝突確率をさらに軽減させることができる。
【0017】
本発明に係る無線通信方法は、無線ネットワークを介してリーダ装置と互いに通信可能に接続され、自身を識別するための識別情報を前記リーダ装置へ定期的に送信する無線タグ装置の無線通信方法であって、前記無線ネットワーク上に情報が送信されていないかを確認する確認ステップと、前記確認ステップにおいて情報が送信されていると確認された場合、所定の値をスロット時間に乗算した時間をバックオフ時間とし、且つ送信試行回数が増加するにしたがって短くなるように前記バックオフ時間を設定するバックオフ時間設定ステップと、前記確認ステップにおいて情報が送信されていないと確認された場合、又は前記バックオフ時間設定ステップにおいて設定されたバックオフ時間が経過した場合、前記識別情報を前記リーダ装置へ送信する識別情報送信ステップと、前記リーダ装置が前記識別情報を受信した場合に送信する応答情報を受信する応答情報受信ステップと、前記応答情報受信ステップにおいて前記応答情報が受信された場合、所定の期間だけ前記リーダ装置との通信を休止する休止ステップとを含む。
【0018】
この構成によれば、無線ネットワーク上に情報が送信されていないかが確認され、情報が送信されていると確認された場合、所定の値をスロット時間に乗算した時間がバックオフ時間とされ、且つ送信試行回数が増加するにしたがって短くなるようにバックオフ時間が設定される。また、情報が送信されていないと確認された場合、又はバックオフ時間が経過した場合、自身を識別するための識別情報がリーダ装置へ送信される。そして、リーダ装置が識別情報を受信した場合に送信する応答情報が受信された場合、所定の期間だけリーダ装置との通信が休止される。
【0019】
したがって、送信試行回数、すなわち衝突回避のためのバックオフ処理回数が増えるにつれて、バックオフ時間が短く設定されるので、再送信する識別情報の優先度を上げることができ、リーダ装置における無線タグ装置の検出時間を短縮することができる。また、識別情報の送信が完了した無線タグ装置は、所定の期間だけリーダ装置との通信が休止され、識別情報を定期的に送信することを控えるので、システム全体の情報同士の衝突確率を軽減することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、送信試行回数、すなわち衝突回避のためのバックオフ処理回数が増えるにつれて、バックオフ時間が短く設定されるので、再送信する識別情報の優先度を上げることができ、リーダ装置における無線タグ装置の検出時間を短縮することができる。また、識別情報の送信が完了した無線タグ装置は、所定の期間だけリーダ装置との通信が休止され、識別情報を定期的に送信することを控えるので、システム全体の情報同士の衝突確率を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る無線タグ装置について図面を参照しながら説明する。
【0022】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る無線通信システムの構成を示すブロック図である。無線通信システムは、無線タグ装置1とリーダ装置2とを備える。図1に示す無線タグ装置1は、制御部11、ROM(リードオンリメモリ)12、RWM(リライタブルメモリ)13及び通信部14を備えて構成される。
【0023】
無線タグ装置1は、例えば、非接触ICチップを使った記憶媒体と、アンテナを埋め込んだプレート(タグ)とから構成されるRFID(Radio Frequency Identification)チップである。
【0024】
制御部11は、CPU等から構成され、通信部14の動作を制御するとともに、通信部14を介して受信した情報等に応じてROM12及びRWM13の動作を制御する。ROM12には、読み出すことはできるが、書き換えることはできない情報、例えば、無線タグ装置1自身を特定するための無線タグIDが製造時等に予め記憶される。RWM13には、書き換え可能な情報、例えば、無線タグIDを含むタグIDフレームの送信を試行した回数を示す試行回数情報が記憶される。なお、試行回数情報は必ずしも記憶する必要はない。通信部14は、アンテナ及び通信回路等から構成され、無線方式により双方向で種々の情報をリーダ装置2と送信及び受信する。
【0025】
制御部11は、無線ネットワーク上に情報が送信されていないかを確認するキャリアセンス処理を実行する。また、制御部11は、キャリアセンス処理において情報が送信されていると確認された場合、所定の乱数値をスロット時間に乗算し、且つ送信試行回数が増加するにしたがって乱数値の選択範囲の上限値が小さくなるようにバックオフ時間を設定する。なお、スロット時間とは、最小サイズのフレームを送信するのに要する時間である。また、制御部11は、情報が送信されていないと確認された場合、又は設定されたバックオフ時間が経過した場合、無線タグIDを含むタグIDフレームを作成する。通信部14は、制御部11によって作成されたタグIDフレームをリーダ装置2へ送信する。さらに、通信部14は、リーダ装置2がタグIDフレームを受信した場合に送信する応答情報(ビーコンフレーム)を受信する。さらにまた、制御部11は、通信部14によって応答情報が受信された場合、所定の期間だけリーダ装置2との通信を休止する。
【0026】
リーダ装置2は、CPU、ROM、RAM(ランダムアクセスメモリ)、アンテナ及び通信回路等を備え、無線方式により双方向で種々の情報を無線タグ装置1と送信及び受信する。リーダ装置2は、無線タグ装置1及びリーダ装置2が属するシステムを識別するためのシステムIDを含むビーコンフレームを定期的に送信する。なお、このシステムとしては、例えば、人物監視システムなどが含まれる。また、リーダ装置2は、無線タグ装置1によって送信されたタグIDフレームを受信し、無線タグ装置1に固有の無線タグIDを読み取る。
【0027】
図2は、情報の衝突がない場合におけるマルチアクセス通信の通信シーケンスを示す図である。
【0028】
図2においてリーダ装置2は、ビーコンチャンネルを用いてビーコン信号(ビーコンフレーム)を送信する(ステップa1)。なお、ビーコン信号には、システムを識別するためのシステムIDが含まれている。無線タグ装置1は、ビーコンチャンネルのキャリアセンスを定期的に行い、リーダ装置2から送信されるビーコン信号があるか否かを判断する(ステップa2)。
【0029】
ビーコン信号を検出した場合、無線タグ装置1は、システムが同一であるか否かを確認する。すなわち、無線タグ装置1は、受信したビーコン信号に含まれるシステムIDを抽出し、予め記憶しているシステムIDと一致するか否かを判断する。次に、無線タグ装置1は、通信チャンネルのキャリアセンスを行い、通信チャンネルの空き状態を確認する(ステップa3)。空き状態である場合、無線タグ装置1は、自身を識別するための無線タグIDが含まれるタグIDフレームを作成して送信する(ステップa4)。その後、無線タグ装置1は、ビーコンチャンネルにて応答情報の受信待ちを行う(ステップa5)。
【0030】
一方、リーダ装置2は、無線タグ装置1によって送信されたタグIDフレームを受信すると、タグIDフレームの受信が成功したことを知らせるため、受信した無線タグIDをビーコンフレームに埋め込んで無線タグ装置1へ送信する(ステップa6)。次に、無線タグ装置1は、自局の無線タグIDの埋め込まれたビーコンフレームを受信する。そして、無線タグ装置1は、自身の送信した無線タグIDがリーダ装置2に検出されたと判断し、所定の時間だけスリープ状態に入り、送信機能を停止する(ステップa7)。
【0031】
無線タグ装置1は、スリープ状態に移行してから所定の時間だけ経過すると、送信機能を回復させ、再びビーコンチャンネルのキャリアセンスを開始する。このように、マルチアクセス通信においては、ステップa1からステップa7までの処理が周期的に繰り返し行われる。
【0032】
次に、第1の実施形態における衝突回避処理について説明する。図3は、第1の実施形態における衝突回避処理について説明するためのフローチャートである。
【0033】
まず、無線タグ装置1は、通信チャンネルのキャリアセンスを行い、無線ネットワーク上における他の無線タグ装置のキャリアを確認する(ステップS1)。ここで、他の無線タグ装置のキャリアが検出されない場合(ステップS1でNO)、無線タグ装置1は、自身の無線タグIDを含むタグIDフレームを作成し、作成したタグIDフレームをリーダ装置2へ送信する(ステップS8)。一方、他の無線タグ装置のキャリアが検出された場合(ステップS1でYES)、無線タグ装置1は、バックオフ時間をスロット時間Stのn倍に設定する(ステップS2)。なお、nは16以下の整数でランダムに決定される乱数値である。また、スロット時間Stは、所定の衝突緩衝時間Ftと、固定長パケットを送信する際に要する時間Ptとを加算した時間とする。固定長パケットは、タグIDフレームである。
【0034】
次に、無線タグ装置1は、バックオフ時間が経過するまで待機した後、再度通信チャンネルのキャリアセンスを試みる(ステップS3)。ここで、他の無線タグ装置のキャリアが検出されない場合(ステップS3でNO)、ステップS8の処理へ移行する。一方、ステップS3の通信チャンネルのキャリアセンスにおいて、他の無線タグ装置のキャリアが検出された場合(ステップS3でYES)、無線タグ装置1は、バックオフ時間をスロット時間のm倍に設定する(ステップS4)。なお、mは8以下の整数でランダムに決定される乱数値である。
【0035】
次に、無線タグ装置1は、バックオフ時間が経過するまで待機した後、再度通信チャンネルのキャリアセンスを試みる(ステップS5)。ここで、他の無線タグ装置のキャリアが検出されない場合(ステップS5でNO)、ステップS8の処理へ移行する。一方、ステップS5の通信チャンネルのキャリアセンスにおいて、他の無線タグ装置のキャリアが検出された場合(ステップS5でYES)、無線タグ装置1は、バックオフ時間をスロット時間のp/16倍に設定する(ステップS6)。なお、pは16以下の整数でランダムに決定される乱数値である。
【0036】
次に、無線タグ装置1は、バックオフ時間が経過するまで待機した後、再度通信チャンネルのキャリアセンスを試みる(ステップS7)。ここで、他の無線タグ装置のキャリアが検出されない場合(ステップS7でNO)、ステップS8の処理へ移行する。一方、ステップS7の通信チャンネルのキャリアセンスにおいて、他の無線タグ装置のキャリアが検出された場合(ステップS7でYES)、ステップS6の処理へ戻る。以降、他の無線タグ装置のキャリアの検出が続く場合はステップS6,S7の処理を繰り返す。
【0037】
このように、同一チャンネル内の無線ネットワーク上に情報が送信されていないかが確認され、情報が送信されていると確認された場合、所定の値をスロット時間に乗算した時間がバックオフ時間とされ、且つ送信試行回数が増加するにしたがって短くなるようにバックオフ時間が設定される。また、情報が送信されていないと確認された場合、又はバックオフ時間が経過した場合、自身を識別するための無線タグIDがリーダ装置2へ送信される。そして、リーダ装置2が無線タグIDを受信した場合に送信するビーコンフレーム(応答情報)が受信された場合、所定の期間だけリーダ装置2との通信が休止される。
【0038】
したがって、送信試行回数、すなわち衝突回避のためのバックオフ処理回数が増えるにつれて、バックオフ時間が短く設定されるので、再送信する無線タグIDの優先度を上げることができ、リーダ装置2における無線タグ装置1の検出時間を短縮することができる。また、無線タグIDの送信が完了した無線タグ装置1は、所定の期間だけリーダ装置2との通信が休止され、無線タグIDを定期的に送信することを控えるので、システム全体の情報同士の衝突確率を軽減することができる。さらに、無線タグIDはデータ量が比較的少ないため、送信試行回数が増加するにしたがってバックオフ時間を短くしたとしても、他の無線タグ装置が送信する無線タグIDと衝突する確率は低くなる。
【0039】
また、情報が送信されていると確認された場合、所定の乱数値をスロット時間に乗算した時間がバックオフ時間とされ、且つ送信試行回数が増加するにしたがって乱数値の選択範囲の上限値が小さくなるようにバックオフ時間が設定される。
【0040】
したがって、乱数値がスロット時間に乗算され、且つ送信試行回数が増加するにしたがって乱数値の選択範囲の上限値が小さくなるように設定されるので、無線タグID同士の衝突確率をさらに軽減することができる。
【0041】
なお、本実施形態では、衝突緩衝時間と固定長パケットを送信する際に要する時間とを合わせた時間をスロット時間としているが、本発明は特にこれに限定されず、衝突緩衝時間を設けず、固定長パケットを送信する際に要する時間のみをスロット時間としてもよい。
【0042】
また、本実施形態では、試行回数が増加するにしたがって、乱数値の選択範囲の上限値が小さくなるように設定しているが、本発明は特にこれに限定されず、乱数値の選択範囲の下限値及び上限値を設定してもよい。例えば、図3のステップS2において、乱数値nを選択する際に、乱数値nの選択範囲を8<n≦16(nは整数)とし、ステップS4において、乱数値mを選択する際に、乱数値mの選択範囲を1<m≦8(mは整数)とし、ステップS6において、乱数値pを選択する際に、乱数値pの選択範囲を1<p≦16(pは整数)としてもよい。
【0043】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態における無線通信システムについて説明する。なお、第2の実施形態における無線通信システムの構成は、第1の実施形態と同じであるので説明を省略する。また、無線タグ装置1とリーダ装置2との間の通信シーケンスについても、第1の実施形態と同じであるので説明を省略する。
【0044】
ここで、第2の実施形態におけるバックオフ時間の設定について説明する。図4は、第2の実施形態におけるバックオフ時間の設定について説明するための模式図である。図4において、スロット時間Stは、第1の衝突緩衝時間Ft1と、第1の衝突緩衝時間Ft1に続く固定長パケット送信時間Ptと、固定長パケット送信時間Ptに続く第2の衝突緩衝時間Ft2とを含む。なお、固定長パケット送信時間Ptとは、固定長パケットを送信する際に要する時間のことである。ここで、複数の無線タグ装置が、スロット時間Stの開始時刻でタグIDフレームの送信を試みた場合、タグIDフレーム同士が衝突する確率が高くなる。
【0045】
そこで、第2の実施形態では、スロット時間Stに所定の乱数値を乗算した時間に、第1の衝突緩衝時間Ft1と第2の衝突緩衝時間Ft2とを合わせた衝突緩衝時間Ftに所定の乱数値を乗算した時間を加え、この時間をバックオフ時間として設定する。これにより、複数の無線タグ装置がスロット時間Stの開始時刻でタグIDフレームの送信を試みる場合に比して、タグIDフレーム同士の衝突確率をさらに軽減させる。
【0046】
次に、第2の実施形態における衝突回避処理について説明する。図5は、第2の実施形態における衝突回避処理について説明するためのフローチャートである。
【0047】
まず、無線タグ装置1は、通信チャンネルのキャリアセンスを行い、無線ネットワーク上における他の無線タグ装置のキャリアを確認する(ステップS11)。ここで、他の無線タグ装置のキャリアが検出されない場合(ステップS11でNO)、無線タグ装置1は、自身の無線タグIDを含むタグIDフレームを作成し、作成したタグIDフレームをリーダ装置2へ送信する(ステップS18)。一方、他の無線タグ装置のキャリアが検出された場合(ステップS11でYES)、無線タグ装置1は、バックオフ時間を、スロット時間Stのn倍と、衝突緩衝時間Ftのk/16倍とを加算した時間に設定する(ステップS12)。なお、n,kは16以下の整数でそれぞれランダムに決定される乱数値である。また、スロット時間Stは、所定の衝突緩衝時間Ftと、固定長パケットを送信する際に要する時間Ptとを加算した時間とする。
【0048】
次に、無線タグ装置1は、バックオフ時間が経過するまで待機した後、再度通信チャンネルのキャリアセンスを試みる(ステップS13)。ここで、他の無線タグ装置のキャリアが検出されない場合(ステップS13でNO)、ステップS18の処理へ移行する。一方、ステップS13の通信チャンネルのキャリアセンスにおいて、他の無線タグ装置のキャリアが検出された場合(ステップS13でYES)、無線タグ装置1は、バックオフ時間を、スロット時間のm倍と、衝突緩衝時間Ftのk/16倍とを加算した時間に設定する(ステップS14)。なお、mは8以下の整数でランダムに決定される乱数値であり、kは16以下の整数でランダムに決定される乱数値である。
【0049】
次に、無線タグ装置1は、バックオフ時間が経過するまで待機した後、再度通信チャンネルのキャリアセンスを試みる(ステップS15)。ここで、他の無線タグ装置のキャリアが検出されない場合(ステップS15でNO)、ステップS18の処理へ移行する。一方、ステップS15の通信チャンネルのキャリアセンスにおいて、他の無線タグ装置のキャリアが検出された場合(ステップS15でYES)、無線タグ装置1は、バックオフ時間を、スロット時間のp/16倍と、衝突緩衝時間Ftのk/16倍とを加算した時間に設定する(ステップS16)。なお、p,kは16以下の整数でそれぞれランダムに決定される乱数値である。
【0050】
次に、無線タグ装置1は、バックオフ時間が経過するまで待機した後、再度通信チャンネルのキャリアセンスを試みる(ステップS17)。ここで、他の無線タグ装置のキャリアが検出されない場合(ステップS17でNO)、ステップS18の処理へ移行する。一方、ステップS17の通信チャンネルのキャリアセンスにおいて、他の無線タグ装置のキャリアが検出された場合(ステップS17でYES)、ステップS16の処理へ戻る。以降、他の無線タグ装置のキャリアの検出が続く場合はステップS16,S17の処理を繰り返す。
【0051】
このように、スロット時間は、所定の衝突緩衝時間と、固定長パケットを送信する際に要する時間とを加算した時間であり、所定の乱数値をスロット時間に乗算した時間と、所定の乱数値を衝突緩衝時間に乗算した時間とを加算した時間がバックオフ時間として設定される。したがって、所定の乱数値をスロット時間に乗算した時間に、所定の乱数値を衝突緩衝時間に乗算した時間を加算したバックオフ時間が経過した後、無線タグIDの送信が開始されるので、複数の無線タグ装置が同時に無線タグIDの送信を開始するのを防止することができ、無線タグID同士の衝突確率をさらに軽減させることができる。
【0052】
なお、第1の実施形態と同様に、所定の乱数値をスロット時間に乗算したバックオフ時間が経過した後、再度キャリアセンスを試み、キャリアが検出されなかった場合、さらに、0〜衝突緩衝時間の範囲でランダムに選択した第2のバックオフ時間の後、再度キャリアセンスを行い、キャリアが検出されなければ送信するようにしても、同様の効果が得られる。
【0053】
また、本実施形態では、試行回数が増加するにしたがって、スロット時間に乗算する乱数値の選択範囲の上限値が小さくなるように設定しているが、本発明は特にこれに限定されず、乱数値の選択範囲の下限値及び上限値を設定してもよい。例えば、図5のステップS12において、乱数値nを選択する際に、乱数値nの選択範囲を8<n≦16(nは整数)とし、ステップS14において、乱数値mを選択する際に、乱数値mの選択範囲を1<m≦8(mは整数)とし、ステップS16において、乱数値pを選択する際に、乱数値pの選択範囲を1<p≦16(pは整数)としてもよい。
【0054】
さらに、第1及び第2の実施形態において、無線タグ装置1は、試行回数を記憶し、試行回数に応じてバックオフ時間を設定してもよい。この場合、試行回数が0であれば、スロット時間に乗算する値は、16以下の整数の中からランダムに選択され、試行回数が1であれば、スロット時間に乗算する値は、8以下の整数の中からランダムに選択され、試行回数が2以上であれば、スロット時間に乗算する値は、16以下の整数の中からランダムに選択されてさらに16で除算される。
【0055】
さらにまた、第1及び第2の実施形態において、無線タグ装置1は、情報が送信されていると確認された場合、所定の乱数値をスロット時間に乗算した時間をバックオフ時間とし、且つ送信試行回数が増加するにしたがって乱数値の選択範囲の上限値が小さくなるようにバックオフ時間を設定しているが、本発明は特にこれに限定されず、無線タグ装置1は、情報が送信されていると確認された場合、送信試行回数が増加するにしたがって小さくなる所定値を選択し、選択した所定値をスロット時間に乗算した時間をバックオフ時間として設定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る無線タグ装置及び無線通信方法は、再送信する識別情報の優先度を上げることができ、リーダ装置における無線タグ装置の検出時間を短縮することができ、無線ネットワークを介してリーダ装置と互いに通信可能に接続され、自身を識別するための識別情報をリーダ装置へ定期的に送信する無線タグ装置及びその無線通信方法などとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本実施形態に係る無線通信システムの構成を示すブロック図である。
【図2】情報の衝突がない場合におけるマルチアクセス通信の通信シーケンスを示す図である。
【図3】第1の実施形態における衝突回避処理について説明するためのフローチャートである。
【図4】第2の実施形態におけるバックオフ時間の設定について説明するための模式図である。
【図5】第2の実施形態における衝突回避処理について説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0058】
1 無線タグ装置
2 リーダ装置
11 制御部
12 ROM
13 RWM
14 通信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線ネットワークを介してリーダ装置と互いに通信可能に接続され、自身を識別するための識別情報を前記リーダ装置へ定期的に送信する無線タグ装置であって、
前記無線ネットワーク上に情報が送信されていないかを確認する確認部と、
前記確認部によって情報が送信されていると確認された場合、所定の値をスロット時間に乗算した時間をバックオフ時間とし、且つ送信試行回数が増加するにしたがって短くなるように前記バックオフ時間を設定するバックオフ時間設定部と、
前記確認部によって情報が送信されていないと確認された場合、又は前記バックオフ時間設定部によって設定されたバックオフ時間が経過した場合、前記識別情報を前記リーダ装置へ送信する識別情報送信部と、
前記リーダ装置が前記識別情報を受信した場合に送信する応答情報を受信する応答情報受信部と、
前記応答情報受信部によって前記応答情報が受信された場合、所定の期間だけ前記リーダ装置との通信を休止する休止部とを備えることを特徴とする無線タグ装置。
【請求項2】
前記バックオフ時間設定部は、前記確認部によって情報が送信されていると確認された場合、所定の乱数値をスロット時間に乗算した時間をバックオフ時間とし、且つ送信試行回数が増加するにしたがって前記乱数値の選択範囲の上限値が小さくなるように前記バックオフ時間を設定することを特徴とする請求項1記載の無線タグ装置。
【請求項3】
前記スロット時間は、所定の衝突緩衝時間と、固定長パケットを送信する際に要する時間とを加算した時間であり、
前記バックオフ時間設定部は、所定の乱数値を前記スロット時間に乗算した時間と、所定の乱数値を前記衝突緩衝時間に乗算した時間とを加算した時間をバックオフ時間として設定することを特徴とする請求項2記載の無線タグ装置。
【請求項4】
無線ネットワークを介してリーダ装置と互いに通信可能に接続され、自身を識別するための識別情報を前記リーダ装置へ定期的に送信する無線タグ装置の無線通信方法であって、
前記無線ネットワーク上に情報が送信されていないかを確認する確認ステップと、
前記確認ステップにおいて情報が送信されていると確認された場合、所定の値をスロット時間に乗算した時間をバックオフ時間とし、且つ送信試行回数が増加するにしたがって短くなるように前記バックオフ時間を設定するバックオフ時間設定ステップと、
前記確認ステップにおいて情報が送信されていないと確認された場合、又は前記バックオフ時間設定ステップにおいて設定されたバックオフ時間が経過した場合、前記識別情報を前記リーダ装置へ送信する識別情報送信ステップと、
前記リーダ装置が前記識別情報を受信した場合に送信する応答情報を受信する応答情報受信ステップと、
前記応答情報受信ステップにおいて前記応答情報が受信された場合、所定の期間だけ前記リーダ装置との通信を休止する休止ステップとを含むことを特徴とする無線通信方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−131490(P2008−131490A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316090(P2006−316090)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】