説明

無線基地局、無線通信システム、障害通知方法、および無線基地局のプログラム

【課題】障害の発生や通信品質についての関連情報を迅速に通知するために、アナライザ装置が必要となっていたが、障害が発生する度にアナライザ装置を現場に設置して調査すると、障害発生時のコスト面で問題があった。
【解決手段】無線基地局が、無線通信端末によるリアルタイム通信データを解析してリアルタイム通信品質を算出する通信データ解析手段と、算出されたリアルタイム通信品質が所定レベルより劣化したか否かを判定する品質判定手段と、品質判定手段により劣化したと判定された場合に第1の通信品質関連情報を予め定められた送出先に送出する送出手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば無線LAN(Local Area Network)機能搭載の携帯電話など、各種の無線通信端末を無線通信により収容する無線基地局、無線通信システム、障害通知方法、および無線基地局のプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線LANによる音声通話(VoWLAN:Voice over Wireless LAN)が可能な無線LAN端末が市場に普及しつつあり、企業オフィスや、医療、教育などの場面でも幅広く採用されている。そのような無線LANによる音声通話を実現するネットワークで最も問題となるのは、無線LANにおける特定の無線LAN端末間において、音声通話などのリアルタイム通信に通信品質劣化の障害が発生した場合である。
【0003】
こうした障害解析のための関連技術としては、無線LANアナライザ装置であるWildPackets Inc.のOmnipeekなどが挙げられる(非特許文献1参照)。このOmnipeekは、無線LAN上のパケットを傍受し、IEEE802.11規格に準じてその内容を解析し、その結果の画面出力、解析によるアドバイスの出力を行う。
【0004】
また、複数の伝送レートをサポートする無線通信システムとして、通信接続中の動作として、無線通信端末から電波強度、R値、送受信トラフィックの情報を取得し、その電波強度、R値、送受信トラフィックのそれぞれと予め定められた品質閾値とを比較して無線通信状態を確認するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−251660号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】"WildPackets"、[online]、WildPackets Inc.、[平成21年3月9日検索]、インターネット<URL:http://www.wildpackets.com>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した非特許文献1による障害解析方法では、無線ネットワーク層(レイヤ)以外の原因を考慮した障害解析を行うことができないという問題があった。
また、障害が発生する度にアナライザ装置を現場に設置して調査する必要があるため、障害発生時のコスト面における問題もあった。さらに、セキュリティの問題等でユーザの環境にアナライザ装置を設置すること自体が物理的に難しい場合もある。また、通信品質劣化の原因が一時的な干渉源の発生による電波干渉である場合は、障害が発生した時点のパケットを取得して解析しなければ障害の原因を特定することが難しいという問題もあった。
【0008】
また、上述した特許文献1のものは、電波強度、R値、送受信トラフィックの情報から無線通信状態を確認することで、伝送レートが時々刻々変化しても所定の通信品質を維持し続けるようにしようとするものであり、障害の発生を迅速に解析することについてまで考慮されたものではなかった。
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、アナライザ装置を現場に設置するといった手間を必要とせず、障害の発生や通信品質についての関連情報を迅速に通知することができる無線基地局、無線通信システム、障害通知方法、および無線基地局のプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために、本発明に係る無線基地局は、無線通信端末を無線通信により収容する無線基地局であって、上記無線通信端末によるリアルタイム通信データを解析してリアルタイム通信品質を算出する通信データ解析手段と、上記通信データ解析手段により算出されたリアルタイム通信品質が所定レベルより劣化したか否かを判定する品質判定手段と、上記品質判定手段により劣化したと判定された場合、第1の通信品質関連情報を予め定められた送出先に送出する送出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る無線通信システムは、上述した本発明に係る無線基地局と、上記無線基地局での通信における各種制御を行うシステム制御装置とを備えて構成されたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る障害通知方法は、無線通信端末を無線通信により収容する無線基地局における障害通知方法であって、上記無線通信端末によるリアルタイム通信データを解析してリアルタイム通信品質を算出する通信データ解析工程と、上記通信データ解析工程により算出されたリアルタイム通信品質が所定レベルより劣化したか否かを判定する品質判定工程と、上記品質判定工程により劣化したと判定された場合、第1の通信品質関連情報を予め定められた送出先に送出する送出工程と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る無線基地局のプログラムは、無線通信端末を無線通信により収容する無線基地局のプログラムであって、上記無線通信端末によるリアルタイム通信データを解析してリアルタイム通信品質を算出する通信データ解析処理と、上記通信データ解析処理により算出されたリアルタイム通信品質が所定レベルより劣化したか否かを判定する品質判定処理と、上記品質判定処理により劣化したと判定された場合、第1の通信品質関連情報を予め定められた送出先に送出する送出処理と、を上記無線基地局のコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、アナライザ装置を現場に設置するといった手間を必要とせず、障害の発生や通信品質についての関連情報を迅速に通知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態の無線基地局を概略的に示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態による無線LANシステムの構成例を示すブロック図である。
【図3】無線基地局1の構成例を示すブロック図である。
【図4】無線LAN端末2の構成例を示すブロック図である。
【図5】本実施形態の無線基地局1における通信開始後の動作を示すフローチャートである。
【図6】本実施形態での無線LAN端末2による通信開始後の動作を示すフローチャートである。
【図7】音声品質判定テーブル17a、24aの一例を示す図である。
【図8】無線LAN端末2による警告通知画面例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明に係る無線基地局、無線通信システム、障害通知方法、および無線基地局のプログラムを無線LAN(Local Area Network)システムに適用した一実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0017】
まず、本実施形態の概略について説明する。
本実施形態では、無線基地局が無線LAN端末の行う音声通信等のリアルタイム通信の品質劣化を検出して、ネットワーク管理者の端末や無線LAN端末に品質劣化時のデータや品質劣化要因等を通知する。
【0018】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
まず、本実施形態による無線LAN(Local Area Network)システムについてその概略について説明する。図1は、本実施形態における無線基地局1と無線LAN端末(無線通信端末)2との構成例を示すブロック図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態では、複数の無線基地局1(他の無線基地局は図示せず)が設けられ、複数の無線LAN端末2(他の無線LAN端末は図示せず)を収容して無線通信できるように構成されている。
【0020】
本実施形態は、音声通信(リアルタイム通信)を行う無線LAN端末2の音声品質(リアルタイム通信品質)の劣化を無線基地局1が検出した際に、通信品質情報を保存したり、管理者のメールアドレスや無線LAN端末に障害の発生やその関連情報を通知したりすることを特徴とする。
【0021】
無線基地局1は、無線LAN端末2との無線通信接続を制御する無線基地局であり、無線LAN端末2との無線通信データを常時取得して保存する通信データ取得部101と、通信データ取得部101により取得された無線通信データの詳細な情報や音声品質[R値:ITU−T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)のG.107で定義]を管理者のメールアドレスや無線LAN端末2に通知する通信品質通知部102とを備えている。
【0022】
ここで、R値は、ITU−TのG.107のE−modelの計算式により、音質、遅延、エコー等から算出される値である。また、E−modelは、受話器を用いた電話サービスの会話品質を決定する様々なパラメータを複合して推定するためのツールである。
【0023】
R値の算出は、R値の個々のパラメータを測定し、Ro:回線雑音,送受話室内騒音,加入者線雑音、Is:OLR(ラウドネス),側音,量子化歪、Id:送話者エコー,受話者エコー,全体遅延、Ie,eff:低ビットレート符号化,パケット/セル損失を算出し、
R=Ro−Is−Id−Ie,eff+A
という式で行われる。上式のAは、利便性を表す項目であり、規定値(A=0)とする。
【0024】
なお、R値の算出については、ITU−T勧告のG.107 Annex C[5]のBASICのソースコードを利用することにより、R値のパラメータを用意するだけで算出が可能である。また、R値のパラメータを入力するだけで簡単にR値を算出するツールも市販されている。
【0025】
通信データ取得部101は、無線基地局1における無線LAN端末2の送信/受信パケットからR値を算出するための情報を常時取得する。また、無線基地局1は、自局に帰属している各無線LAN端末2について、音声品質(R値)を算出する。
【0026】
通信品質通知部102は、予め登録された管理者の電子メール(E−mail)アドレス宛に品質劣化情報を含む電子メールを送信することで通知を行う。無線LAN端末2に対する通知では、IEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers)802.11で規格されている管理パケット[ビーコン(Beacon)のInformation Elements等]を使用する。
【0027】
管理者アドレス宛に送信する電子メールに含める管理者用の通信品質関連情報(第1の通信品質関連情報)には、品質劣化が発生した無線LAN端末2を特定する端末特定情報、音声通信相手を特定する相手先特定情報、品質劣化が発生した時刻、R値、品質劣化の要因(音質、遅延、エコー、パケットロス等の中で最も音声品質の劣化に影響を与えたもの)、品質劣化時の通信データが少なくとも含まれる。
【0028】
上記の端末特定情報や相手先特定情報には、例えばIP(Internet Protocol)アドレス、MAC(Media Access Control)アドレス、ESSID(Extended Service Set Identifier)、電話番号などを用いることができる。
また、上記の品質劣化の要因として、音声品質の劣化に最も影響を与えたのがどの要因であるかは、R値を上述のように算出する際に用いるパラメータの内、そのR値を劣化させるのに最も影響を与えたパラメータを判別するものであり、公知の判別方法を用いてよい。
【0029】
無線LAN端末2に対する通知として送信される端末用の通信品質関連情報(第2の通信品質関連情報)には、無線LAN端末2を特定する端末特定情報(MACアドレスなど)と、R値とが少なくとも含まれる。
【0030】
ビーコンは、稼働中の無線基地局1が無線LAN端末2に対してサポートしている機能やBSA(Basic Service Area)のID(SSID:Service Set IDentifier)を通知するために定期的に送信するフレームである。
【0031】
無線LAN端末2は、無線基地局1から受信した端末用の通信品質関連情報を基に、音声品質が閾値以下であるか否かを判定する音声品質判定部201と、音声品質判定部201の判定結果に基づいて他の無線基地局1への接続の許可/不許可を決定する接続許可決定部202とを備えている。
【0032】
音声品質判定部201は、無線基地局1から通知された音声品質(R値)を使用して判定を行う。
接続許可決定部202は、音声品質判定部201の判定結果に基づいて、音声品質が所定の閾値以下である場合、他の無線基地局1へ接続を要求し、取得された音声品質が所定の閾値以下で、かつ接続可能な他の無線基地局が存在しない場合、警告情報を通知する。
【0033】
このように、本実施形態は、音声品質の品質劣化が発生した際に、自動的に管理者のメールアドレス宛に管理者用の通信品質関連情報を送信することで、迅速な障害解析を可能としている。
また、無線LAN端末2に関しては、音声品質情報(R値)に基づく無線基地局1への接続判定を行うことで、音声通信の品質劣化を回避することが可能となる。
【0034】
次に、本実施形態による無線LANシステムの構成について説明する。
図2は本発明の実施の形態による無線LANシステムの構成例を示すブロック図であり、図3は無線基地局1の構成例を示すブロック図であり、図4は無線LAN端末2の構成例を示すブロック図である。
【0035】
図2に示すように、無線LANシステム100は、無線LAN端末2a,2b,2c,・・・と、無線LAN端末2を無線通信により収容する無線基地局1a,1b,・・・と、各無線基地局1での通信における各種制御を行うシステム制御装置3とを備えており、ファイルサーバ4やネットワーク管理者5と通信可能となっている。
【0036】
無線LANシステム100は、図2に示すように、システム制御装置3に無線基地局(AP:アクセスポイント)1a,1b,・・・が接続されており、この無線基地局1a,1b,・・・と無線LAN端末2a,2b,2c,・・・が無線通信可能となっている。
システム制御装置3は、複数の無線基地局1a,1b,・・・間におけるハンドオーバ等、無線LANシステム100としての通信における各種制御を行う。
【0037】
無線基地局1は、図3に示すように、無線LAN端末2a,2b,2c,・・・等との間で無線通信を行うためのアンテナ10及び無線通信部11と、システム制御装置3等との間で有線による通信を行うための有線通信部12と、無線基地局1全体の制御を行う制御部13[例えば、CPU(中央処理装置)等]と、音声通信等のリアルタイム通信であるか否かを判別するリアルタイム通信判定部14と、無線LAN端末2a,2b,2c,・・・の通信データを取得する通信データ取得部15と、取得した通信データに時刻情報を追加するタイマ16と、取得した通信データに基づいてリアルタイム通信の通信品質を解析する通信データ解析部17と、取得した通信データ等を記憶する記憶部18と、リアルタイム通信の品質を記憶する音声品質記憶部18aと、解析結果を管理者に通知するために、管理者の電子メールアドレス等を記憶した電子メール送信部19を備えて構成されている。また、通信データ解析部17には、音声品質判定テーブル17aが設けられている。
【0038】
無線LAN端末2a,2b,2c,・・・は、図4に示す無線LAN端末2のように、無線基地局1a,1b,・・・等との間で無線通信を行うためのアンテナ20及び無線通信部21と、無線通信部21による送信出力等の通信制御を行う通信制御部22と、無線LAN端末2全体の制御を行う制御部23(例えば、CPU等)と、無線基地局1a,1b,・・・から通知された音声品質を記憶する記憶部24と、各種情報の表示を行う表示部25と、ユーザからの操作入力を受ける操作入力部26と、音声通話を実施するための受話部27及び送話部28を備えて構成されている。また、記憶部24には、音声品質判定テーブル24aが設けられている。
【0039】
なお、図1に示す無線基地局1の通信データ取得部101及び通信品質通知部102の処理動作は、無線基地局1の制御部13が記憶部18に格納されたプログラムを実行することで実現可能である。また、図1に示す無線LAN端末2の音声品質判定部201、接続許可決定部202の処理動作は、無線LAN端末2の制御部23が記憶部24に格納されたプログラムを実行することで実現可能である。
【0040】
図5は、上述した無線LAN端末2との通信が確立された後の無線基地局1の動作を示すフローチャートである。図6は、上述した無線基地局1との間での通信が確立された後の無線LAN端末2の動作を示すフローチャートである。
図7は、無線基地局1の音声品質判定テーブル17aおよび無線LAN端末2の音声品質判定テーブル24aの一例を示す図であり、図8は図4の無線LAN端末2による警告通知画面の一例を示す図である。
これら図2〜図8を参照して、無線基地局1が音声通信の品質劣化を検出した際の動作について説明する。なお、図6及び図8に示す処理は、無線LAN端末2の制御部23が記憶部24に格納されたプログラムを実行することで実現され、図5に示す処理は、無線基地局1の制御部13が記憶部18に格納されたプログラムを実行することで実現される。
【0041】
まず、無線LAN端末2との通信が確立された後の無線基地局1の動作について、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0042】
無線基地局1に接続した無線LAN端末2が通信を開始すると、無線基地局1のリアルタイム通信判定部14は、無線LAN端末2の通信データに音声通信等のリアルタイム通信が含まれているか否かを判断する(リアルタイム通信判定手段)。音声通信を行っている場合(図5ステップS1;Yes)、制御部13が通信データ取得部15に無線LAN端末2の通信データの取得を開始させる(図5ステップS2)。無線LAN端末2の通信が音声通信以外の場合(図5ステップS1;No)は、通信データの取得を行わずに本フローを終了する。
【0043】
リアルタイム通信判定部14では、上述したステップS1によるリアルタイム通信が含まれるか否かの判断基準として、予め定められたシグナリングプロトコルやRTP(Real-time Transport Protocol:IETFのRFC 3550で規定)パケットの有無を常時モニタリングしている。このシグナリングプロトコルとしては、例えばSIP(Session Initiation Protocol;IETF(Internet Engineering Task Force)のRFC 3261で規定)、H.323(ITU−T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)のH.323勧告で規定)、MGCP(IETFのRFC 2705で規定)などを用いることができる。
【0044】
取得した通信データに対して、タイマ16からタイムスタンプを付与してから記憶部18に通信データを記憶する(図5ステップS3)。また、記憶部18に記憶する以外に、システム制御装置3を介してファイルサーバ4に通信データを送信して保存する構成であってもよい。
【0045】
記録した通信データに対して、通信データ解析部17が無線LAN端末2の通信品質としてのR値(E−modelの計算式により、音質、遅延、エコー等から算出)を算出し(通信データ解析手段)、無線品質記憶部18aに記憶する(図5ステップS4)。
【0046】
図7に、R値に応じて音声品質評価を決定するための音声品質決定テーブル17a、24aの一例を示す。図7に示すように、音声品質決定テーブルは、R値[0〜100]と音声品質評価[最低〜最高]とを対応付けて格納している。
【0047】
音声品質決定テーブルは、R値が「80より大、100以下」であれば、音声品質評価が「最高」であり、R値が「60より大、80以下」であれば、音声品質評価が「高」であり、R値が「40より大、60以下」であれば、音声品質評価が「中」であり、R値が「20より大、40以下」であれば、音声品質評価が「低(障害度:小)」であり、R値が「0以上、20以下」であれば、音声品質評価が「最低(障害度:大)」であることを格納している。
【0048】
無線LAN基地局1の制御部13は、図7に示すような音声品質決定テーブル17aを参照することで、音声品質(R値)が所定の閾値以下か判断する(図5ステップS5)(品質判定手段)。この判断では、例えば音声品質評価が「低」以下の場合に音声通信障害発生と判断するなど、音声品質評価が予め定められたレベルまで低下しているか否かにより、音声品質が閾値以下であるか否かを判断する。
【0049】
無線LAN端末2の音声品質(R値)が予め定められた閾値以下の場合(図5ステップS5;No)、電子メール送信部19は、音声品質(R値)などを含む上述した管理者用の通信品質関連情報を電子メールに記載し、予め登録された管理者アドレス宛に送信する。また、電子メールの送信時に、記憶部18に記憶した品質劣化時の通信データを添付して送信することも可能である。無線LAN端末2に対しては、IEEEの管理パケットを使って端末用の通信品質関連情報(無線LAN端末2のMACアドレス、R値など)を送信する(図5ステップS6)(送出手段)。
【0050】
無線LAN端末2の音声品質が予め定められた閾値より大きい場合(図5ステップS5;Yes)や、端末用の通信品質関連情報を通知した後、無線LAN端末2が他の無線基地局1にハンドオーバ、もしくは通信を終了していなければ(図5ステップS7;No)、通信データの取得を継続する(図5ステップS2)。無線LAN端末2がハンドオーバ、もしくは通信を終了した場合(図5ステップS7;Yes)は、通信データの取得を終了する。
【0051】
次に、通話を開始した後の無線LAN端末2の音声通信中の動作について、図6のフローチャートを参照して説明する。
【0052】
通話が開始された後、制御部23は、無線基地局1から通知される端末用の通信品質関連情報を無線通信部21により常時取得する(図6ステップS11)。制御部23は、端末用の通信品質関連情報にて通知されたMACアドレスが自身のMACアドレスと一致する場合(図6ステップS12;Yes)は、端末用の通信品質関連情報に含まれる音声品質(R値)が音声品質判定テーブル24aで予め定められた品質閾値より大きいか否かを判断する(図6ステップS13)。
【0053】
制御部23は、音声品質が予め定められた品質閾値以下であった場合(図6ステップS13;No)、他の無線基地局に接続が可能か問い合わせる(図6ステップS14)。音声品質が予め定められた閾値より大きい場合は、端末用の通信品質関連情報の取得を継続する(図6ステップS11)。
【0054】
制御部23は、音声品質が閾値以下で、他の無線基地局1にハンドオーバが可能な場合(図6ステップS15;Yes)、その無線LAN端末2と無線基地局1との通信をハンドオーバさせる(図6ステップS16)。
【0055】
制御部23は、他にハンドオーバが可能な無線基地局1が存在しない場合(図6ステップS15;No)、そのまま無線基地局1との通信を継続するが、音声品質に影響が発生していることを、図8に示すような画面(例えば、「*** 警告 *** パケットロスにより、音質低下が発生しています!」)を表示部25に表示させたり、受話部27のスピーカで音声によりユーザに報知したりする(図6ステップS17)。
【0056】
以上のように、上述した実施形態では、無線LAN基地局1が受信するシステム内の情報や通信データ等を利用することで、無線LAN端末2の音声通信に障害が発生した場合に、障害発生環境での調査を必要とせず、管理者が迅速に障害原因を確認することができる。
【0057】
また、本実施形態では、無線LAN端末2の通話中にシステム内の情報や通信データを利用することで、音声通信に障害が発生した場合に、自動的に音声品質を確保するための動作(ハンドオーバやユーザへの警告)を行うことができる。
【0058】
さらに、本実施形態では、音声品質が予め定められた閾値以下に低下した場合に、無線LAN端末2が警告音/警告表示を出力することにより、最適な無線基地局1へハンドオーバするための移動をユーザに促したり、ハンドオーバを望まない場合にそれ以上移動しないようにユーザに促したりすることができる。
【0059】
また、従来技術による障害解析方法では、無線ネットワーク層(レイヤ)以外の原因を考慮した障害解析を行うことができないという問題があった。具体的には、WPA(Wi-Fi Protected Access)やWPA2などのセキュリティシステムを利用した無線LANなど、パケットが暗号化される無線ネットワークにおいては、IPレイヤ以上のパケットを解析することができないという問題があった。
これに対し、本実施形態では、R値を用いて音声品質を確認し、R値が所定の閾値以下となった場合に、管理者用の通信品質関連情報[無線LAN端末2の端末特定情報や、通信相手の相手先特定情報、品質劣化が発生した時刻、R値、品質劣化の要因(音質、遅延、エコー等の中で最も音声品質の劣化に影響を与えたもの)]を管理者宛の電子メールに記載して送信する。
このため、障害発生時に無線LANアナライザ装置等を現場に設置する手間を必要とせず、音声通話の品質劣化が発生した時点で、通信品質についての各種関連情報を管理者や使用者が把握できるようになり、品質劣化の要因も容易に確認することができる。さらに、ユーザの環境に影響を与えず、余計なコストをかけずに迅速な障害解析ができる。
【0060】
以上のように、本実施形態による無線LANシステムは、無線LAN端末との無線通信接続を制御する無線基地局と、無線基地局での通信における各種制御を行うシステム制御装置を備えたことを特徴とする。
【0061】
本実施形態による無線LAN端末においては、無線基地局への帰属開始時や通話開始時、通話中に受信電波の低下を検出した場合等、複数の無線基地局を検索して無線基地局からの受信電波強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)や信号対雑音比(SNR:Signal to Noise Ratio)を比較し、最適な無線基地局を選択して接続している。
【0062】
本実施形態による無線基地局は、無線LAN端末との無線通信接続や有線端末との有線通信接続を制御する無線基地局であり、無線端末や有線端末から送信される通信データを常時取得する通信データ取得手段と、通信データ取得手段により取得された通信データから音声通信の有無を判断するリアルタイム通信判定手段と、リアルタイム通信判定手段により判別された音声通信の品質を解析する通信データ解析手段と、通信データ解析手段により解析した通信品質情報を管理者に通知する手段である、通信品質情報通知手段(送出手段)とを備えたことを特徴とする。
【0063】
上記した通信データ取得手段は、無線基地局における無線LAN端末の通信データを常時取得することが好ましい。
【0064】
上記したリアルタイム通信判定手段は、シグナリングプロトコル(例えばSIP、H.323、MGCPなど)やRTPパケットから音声通信を選別することが好ましい。
【0065】
上記した通信データ解析手段は、リアルタイム通信判定手段による音声通信の音声品質を示すR値を常時取得することが好ましい。
【0066】
上記した音声品質は、無線基地局に帰属している各無線LAN端末の音声品質を常時算出することにより求められることが好ましい。
【0067】
上記した通信情報通知手段は、通信データ解析手段に基づいて、音声通信の音声品質が予め定められた閾値以下であるか否かにより、管理者や無線LAN端末への情報通知の許可/不許可を決定し、管理者への通知方法としては、E−mailを使用することが好ましく、無線LAN端末への通知方法としては、IEEE802.11で規格されている管理パケット(Beacon、Probeなど)を使用することが好ましい。
【0068】
無線LAN端末は、無線基地局から通知された通信情報を元に、他の無線基地局に接続する許可/不許可を決定する接続許可決定手段を備えたことを特徴とする。
【0069】
上記した接続許可決定手段は、取得された無線通信状態が所定の閾値以下となった場合、接続可能な他の無線基地局への接続を要求し、接続可能な他の無線基地局が存在しない場合、無線LAN端末の使用者に警告情報を通知することが好ましい。
【0070】
このようにして、本実施形態では、音声通信等のリアルタイム通信に品質劣化が発生した際に、詳細な情報を管理者のメールアドレス宛に通知することで迅速な障害対応が可能となる。また、品質劣化を無線LAN端末に通知することで、音声通信に最適な無線基地局を選択することも可能となる。
【0071】
なお、上述した各実施形態は本発明の好適な実施形態であり、本発明はこれに限定されることなく、本発明の技術的思想に基づいて種々変形して実施することが可能である。
例えば、上述した実施形態では、音声品質が所定の閾値以下となった場合、ネットワーク管理者のメールアドレスにE−mailで通知することとして説明したが、ネットワーク管理者が端末装置で確認可能であるように通知できればこの方法に限定されず、例えば画面上に表示するための情報を送信する、音声により通知するなどであってもよい。
【0072】
また、上述した実施形態では、音声品質情報の測定パラメータとしてR値を用いることとして説明したが、音声品質を判定する基準となるものであればこのR値に限定されず、例えばより正確な音声通話品質試験であるPESQ(Perceptual Evaluation Speech Quality)(ITU−TのP.862で定義)を用いても、本発明は同様に実現することができる。
ここで、PESQは、ITU−TのP.862で規定されている受聴品質を推定する方法であり、音声サンプルを用意し、原音と被評価システムを通過した後の音とを比較する方法である。
【0073】
また、上述した実施形態では、無線基地局が通信データを記憶することを基準としていているが、通信データをファイルサーバ等に送信することで、無線基地局の記憶容量を超えるような場合であっても、通信データの保存が可能である。
【0074】
さらに、上述した実施形態では、システム制御装置3と無線基地局1との間が有線により通信されることとしているが、通信可能であればこれに限定されず、無線通信でもよい。
【0075】
さらにまた、本発明では、上述した実施形態における無線基地局1が備える手段や機能は、無線通信システム100全体として実現できればよく、例えばシステム制御装置3が備えてもよい。
【0076】
また、上述した各実施形態としての無線基地局を実現するための処理手順をプログラムとして記録媒体に記録することにより、本発明の各実施形態による上述した各機能を、その記録媒体から供給されるプログラムによって、無線基地局を構成するコンピュータのCPUに処理を行わせて実現させることができる。
この場合、上記の記録媒体により、あるいはネットワークを介して外部の記録媒体から、プログラムを含む情報群を出力装置に供給される場合でも本発明は適用されるものである。
すなわち、記録媒体から読み出されたプログラムコード自体が本発明の新規な機能を実現することになり、そのプログラムコードを記憶した記録媒体および該記録媒体から読み出された信号は本発明を構成することになる。
この記録媒体としては、例えばフレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、CD-RW、DVD-ROM、DVD-RAM、DVD-RW、DVD+RW、磁気テープ、不揮発性のメモリーカード、ROM等を用いてよい。
【0077】
この本発明に係るプログラムによれば、当該プログラムによって制御される無線基地局に、上述した実施形態における各機能を実現させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
また、上述した実施形態に示すように、本発明は、例えば無線LAN機能搭載の携帯電話、無線LANアクセスポイント、無線LANコントローラなどに利用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 無線基地局
13 制御部
14 リアルタイム通信判定部
15 通信データ取得部
16 タイマ
17 通信データ解析部
17a 音声品質判定テーブル
18 記憶部
18a 無線品質記憶部
19 電子メール送信部
2 無線LAN端末
23 制御部
24 記憶部
24a 音声品質判定テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信端末を無線通信により収容する無線基地局であって、
前記無線通信端末によるリアルタイム通信データを解析してリアルタイム通信品質を算出する通信データ解析手段と、
前記通信データ解析手段により算出されたリアルタイム通信品質が所定レベルより劣化したか否かを判定する品質判定手段と、
前記品質判定手段により劣化したと判定された場合、第1の通信品質関連情報を予め定められた送出先に送出する送出手段と、を備えたことを特徴とする無線基地局。
【請求項2】
前記第1の通信品質関連情報は、少なくとも
前記リアルタイム通信品質と、
当該リアルタイム通信品質である前記無線通信端末を特定する端末特定情報と、
該リアルタイム通信品質の劣化に影響を与えた品質劣化要因と、を含むことを特徴とする請求項1記載の無線基地局。
【請求項3】
前記リアルタイム通信品質は、前記リアルタイム通信における通信データから算出されるR値であり、
前記品質判定手段は、前記通信データ解析手段により算出されたR値と予め定められた閾値とを比較することにより、前記リアルタイム通信品質が所定レベルより劣化したか否かを判定することを特徴とする請求項1または2記載の無線基地局。
【請求項4】
前記無線通信端末による通信データに、予め定められたシグナリングプロトコルおよびRTP(Real-time Transport Protocol)パケットの少なくとも何れかが含まれるか否かにより、該無線通信端末による無線通信がリアルタイム通信であるか否かを判定するリアルタイム通信判定手段を備えたことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の無線基地局。
【請求項5】
前記送出手段は、前記品質判定手段により劣化したと判定された場合、予め定められたメールアドレスに、前記第1の通信品質関連情報を含む電子メールを送信することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の無線基地局。
【請求項6】
前記送出手段は、前記品質判定手段により劣化したと判定された場合、前記無線通信端末に、少なくとも該無線通信端末を特定する端末特定情報と、前記リアルタイム通信品質とを含む第2の通信品質関連情報を送信することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の無線基地局。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載の無線基地局と、前記無線基地局での通信における各種制御を行うシステム制御装置とを備えて構成されたことを特徴とする無線通信システム。
【請求項8】
無線通信端末を無線通信により収容する無線基地局における障害通知方法であって、
前記無線通信端末によるリアルタイム通信データを解析してリアルタイム通信品質を算出する通信データ解析工程と、
前記通信データ解析工程により算出されたリアルタイム通信品質が所定レベルより劣化したか否かを判定する品質判定工程と、
前記品質判定工程により劣化したと判定された場合、第1の通信品質関連情報を予め定められた送出先に送出する送出工程と、を備えたことを特徴とする障害通知方法。
【請求項9】
前記第1の通信品質関連情報は、少なくとも
前記リアルタイム通信品質と、
当該リアルタイム通信品質である前記無線通信端末を特定する端末特定情報と、 該リアルタイム通信品質の劣化に影響を与えた品質劣化要因と、を含むことを特徴とする請求項8記載の障害通知方法。
【請求項10】
前記リアルタイム通信品質は、前記リアルタイム通信における通信データから算出されるR値であり、
前記品質判定工程では、前記通信データ解析工程により算出されたR値と予め定められた閾値とを比較することにより、前記リアルタイム通信品質が所定レベルより劣化したか否かを判定することを特徴とする請求項8または9記載の障害通知方法。
【請求項11】
前記無線通信端末による通信データに、予め定められたシグナリングプロトコルおよびRTP(Real-time Transport Protocol)パケットの少なくとも何れかが含まれるか否かにより、該無線通信端末による無線通信がリアルタイム通信であるか否かを判定するリアルタイム通信判定工程を前記通信データ解析工程の前に備え、
前記通信データ解析工程は、前記リアルタイム通信判定工程でリアルタイム通信であると判定された場合に行われることを特徴とする請求項8から10の何れか1項に記載の障害通知方法。
【請求項12】
前記送出工程では、前記品質判定工程により劣化したと判定された場合、予め定められたメールアドレスに、前記第1の通信品質関連情報を含む電子メールを送信することを特徴とする請求項8から11の何れか1項に記載の障害通知方法。
【請求項13】
前記送出工程では、前記品質判定工程により劣化したと判定された場合、前記無線通信端末に、少なくとも該無線通信端末を特定する端末特定情報と、前記リアルタイム通信品質とを含む第2の通信品質関連情報を送信することを特徴とする請求項8から12の何れか1項に記載の障害通知方法。
【請求項14】
無線通信端末を無線通信により収容する無線基地局のプログラムであって、
前記無線通信端末によるリアルタイム通信データを解析してリアルタイム通信品質を算出する通信データ解析処理と、
前記通信データ解析処理により算出されたリアルタイム通信品質が所定レベルより劣化したか否かを判定する品質判定処理と、
前記品質判定処理により劣化したと判定された場合、第1の通信品質関連情報を予め定められた送出先に送出する送出処理と、を前記無線基地局のコンピュータに実行させることを特徴とする無線基地局のプログラム。
【請求項15】
前記第1の通信品質関連情報は、少なくとも
前記リアルタイム通信品質と、
当該リアルタイム通信品質である前記無線通信端末を特定する端末特定情報と、
該リアルタイム通信品質の劣化に影響を与えた品質劣化要因と、を含むことを特徴とする請求項14記載の無線基地局のプログラム。
【請求項16】
前記リアルタイム通信品質は、前記リアルタイム通信における通信データから算出されるR値であり、
前記品質判定処理では、前記通信データ解析処理により算出されたR値と予め定められた閾値とを比較することにより、前記リアルタイム通信品質が所定レベルより劣化したか否かを判定することを特徴とする請求項14または15記載の無線基地局のプログラム。
【請求項17】
前記無線通信端末による通信データに、予め定められたシグナリングプロトコルおよびRTP(Real-time Transport Protocol)パケットの少なくとも何れかが含まれるか否かにより、該無線通信端末による無線通信がリアルタイム通信であるか否かを判定するリアルタイム通信判定処理を、前記通信データ解析処理の前に前記無線基地局のコンピュータに実行させ、
前記通信データ解析処理は、前記リアルタイム通信判定処理でリアルタイム通信であると判定された場合に実行されることを特徴とする請求項14から16の何れか1項に記載の無線基地局のプログラム。
【請求項18】
前記送出処理では、前記品質判定処理により劣化したと判定された場合、予め定められたメールアドレスに、前記第1の通信品質関連情報を含む電子メールを送信することを特徴とする請求項14から17の何れか1項に記載の無線基地局のプログラム。
【請求項19】
前記送出処理では、前記品質判定処理により劣化したと判定された場合、前記無線通信端末に、少なくとも該無線通信端末を特定する端末特定情報と、前記リアルタイム通信品質とを含む第2の通信品質関連情報を送信することを特徴とする請求項14から18の何れか1項に記載の無線基地局のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−239239(P2010−239239A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82643(P2009−82643)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000227205)NECインフロンティア株式会社 (1,047)
【Fターム(参考)】