説明

無線基地局およびアンテナ選択方法

【課題】変化する伝搬環境に応じたアンテナ群を選択して指向性制御を行うことで、安定した通信を行うことができる無線基地局およびアンテナ選択方法を提供する。
【解決手段】外側8本のアンテナ素子の第1のアンテナ群と、内側8本のアンテナ素子の第2のアンテナ群とからなり、各アンテナ群は、それぞれ異なる半径を有する円周上に配されている。アンテナ選択部7は、フェージング変動判定部6で把握する伝搬路の変動状態に応じて、第1のアンテナ群に含まれるアンテナと第2のアンテナ群に含まれるアンテナとの中から、ビームを形成するためのアンテナを選択してウエイトを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アダプティブアレイアンテナを備えた無線基地局およびそのアンテナ選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アダプティブアレイアンテナを用いて通信を行う無線基地局では、アンテナ素子の配置によって、アダプティブアレイアンテナの効果が異なる。まず、アンテナ素子が配置される間隔が小さい場合には、アンテナ相関が高く、フェージング変動に対応することができる。一方、アンテナ素子が配置される間隔が大きい場合には、アンテナ相関が低く、高いダイバーシティ効果を得ることができる。
したがって、無線基地局にてダイバーシティ効果を高めたい場合は、上述したアンテナ相関を考慮し、数波長間隔に離してアンテナ素子を配置(グループA)している。しかしながら、アンテナ素子の間隔が離れているため、端末Aから送信される送信波(所望波)と、他の端末Bから送信される送信波(干渉波)とを分離するための指向性制御を行うことが困難であるという問題がある。そのため、グループAとは、異なる波長間隔でアンテナ素子を配置(グループB)し、所望の指向性制御ができない場合には、使用しているグループAのアンテナのいずれかをグループBのいずれかのアンテナ素子に切り替えることで指向特性を変更し、所望波と干渉波とを分離する無線基地局アンテナ装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−252734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した特許文献1に記載の無線基地局アンテナ装置は、単に使用しているアンテナ素子のいずれかを切り替えて指向特性を変更することで、所望波と干渉波を分離し、ダイバーシティ効果を確保するものである。そのため、無線基地局が、アンテナ素子のいずれかを単に切替えるだけでは、上述した端末Aが高速(例えば、80km/h以上)で移動しているような場合に生じる、高速なフェージング変動に対し、追従することができず、適切な指向性制御を行うことができないという問題がある。
【0004】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、変化する伝搬環境に応じたアンテナを選択することで、安定した通信を行うことができる無線基地局およびアンテナ選択方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の無線基地局は、複数のアンテナと、前記複数のアンテナから放射されるビームを形成するビーム形成部とを備える無線基地局において、前記複数のアンテナが、少なくとも、前記各アンテナが所定の間隔を有するように配された第1のアンテナ群と、前記第1のアンテナ群における前記所定の間隔とは異なる間隔で配された第2のアンテナ群とを構成し、前記ビーム形成部が、前記第1のアンテナ群に含まれるアンテナと前記第2のアンテナ群に含まれるアンテナとの中から、前記ビームを形成するためのアンテナを選択することを特徴とする。
【0006】
前記複数のアンテナは、前記第1のアンテナ群と前記第2のアンテナ群とがそれぞれ円周上に配されていることが好ましく、また、前記複数のアンテナは、前記第1のアンテナ群に含まれるアンテナと前記第2のアンテナ群に含まれるアンテナとで直線状になるように配されていることが好ましい。
【0007】
また、本発明の無線基地局は、相手側通信装置との伝搬路の変動状態を把握する第1の把握部とを更に備え、前記ビーム形成部は、前記把握部で把握する前記伝搬路の変動状態に応じて、前記ビームを形成するアンテナを選択することが好ましい。
【0008】
前記第1の把握部による前記伝搬路の変動状態の把握は、前記相手側通信装置からの受信無線信号の電力値の変動を把握することで行われることが好ましい。
また、前記第1の把握部による前記伝搬路の変動状態の把握は、前記相手側通信装置からの受信無線信号のドップラ変動を検出することにより行われることが好ましい。
【0009】
前記ビーム形成部が選択するアンテナは、前記相手側通信装置からの無線信号の受信に使用すると共に、前記相手側通信装置への無線信号の送信に使用することが好ましい。
また、前記ビーム形成部は、前記第1の把握部が把握する前記伝搬路の変動状態と共に、前記無線基地局の消費電力量に基づく使用可能なアンテナ本数に基づいてアンテナを選択することが好ましい。
【0010】
また、本発明の無線基地局は、前記複数のアンテナについて、それぞれのアンテナの受信品質情報を取得する取得部と、前記取得部において取得された各アンテナの受信品質に関する値の変動傾向を把握する第2の把握部とを更に備え、前記ビーム形成部は、前記第2の把握部において把握された、前記各アンテナにおける受信品質に関する値の変動傾向に応じて、前記第1のアンテナ群に含まれるアンテナと前記第2のアンテナ群に含まれるアンテナとの中から、前記ビームを形成するための少なくとも2以上のアンテナを選択することが好ましい。
【0011】
また、本発明の無線基地局は、前記第2の把握部において把握された、前記各アンテナにおける受信品質に関する値の変動傾向に基づいて、前記各アンテナ間の相関度を判定する判定部とを更に備え、前記ビーム形成部は、前記判定部において判定された前記アンテナ間の相関度に基づいて、前記ビームを形成するための2以上のアンテナを選択することが好ましい。
【0012】
前記判定部は、前記第2の把握部において把握された、前記各アンテナにおける受信品質に関する値の変動傾向において、受信品質に関する値が直前に取得された受信品質に関する値と比較して第1の所定値以上に低下している時点を検出し、アンテナ間における、当該検出した時点の時間差に応じて、前記相関度を判定することが好ましい。
【0013】
また、前記判定部は、前記第2の把握部において把握された、前記各アンテナにおける受信品質に関する値の変動傾向において、受信品質に関する値が第2の所定値以下となる時点を検出し、アンテナ間における、当該検出した時点の頻度に応じて、前記相関度を判定することが好ましい。
【0014】
また、本発明の無線基地局は、前記複数のアンテナにおける各アンテナのウェイトを算出する算出部とをさらに備え、前記ビーム形成部は、前記算出部におけるウェイトを算出する時間間隔と、前記判定部において判定された前記時点が生じる周期に基づいて前記無線通信に利用する少なくとも2以上のアンテナを選択することが好ましい。
【0015】
前記取得部は、前記複数のアンテナのそれぞれが受信する無線信号の受信電力を示す値を所定間隔で取得し、前記第2の把握部は、前記各アンテナにおける、前記受信電力を示す値が時間の経過に伴って変動する傾向を示す変動傾向を把握し、前記判定部は、前記各アンテナにおける変動傾向に応じて、前記各アンテナの前記受信電力を推定し、当該推定した推定受信電力値に基づいて、前記各アンテナ間の相関度を判定することが好ましい。
【0016】
また、本発明のアンテナ選択方法は、各アンテナが所定の間隔で配された第1のアンテナ群に含まれるアンテナと、各アンテナが前記第1のアンテナ群における前記所定の間隔とは異なる間隔で配された第2のアンテナ群に含まれるアンテナの中から、ビームを形成するためのアンテナを選択することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、変化する伝搬環境に応じたアンテナを選択することができるので、安定した通信を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の無線基地局におけるアンテナ素子1の配置位置の一例を示す図である。外側に配置されている8本のアンテナ素子1の第1のアンテナ群と、内側に配置されている8本のアンテナ素子1の第2のアンテナ群とからなる計16素子のアンテナアレイにより構成され、各アンテナ群は、それぞれ異なる半径を有する円周上に配されている。第1のアンテナ群の各アンテナ素子1は、所定の間隔を有するように配されており、第2のアンテナ群の各アンテナ素子1は、第1のアンテナ群の所定の間隔とは異なる間隔で配されている。また、第1のアンテナ群に含まれるアンテナ素子1と、第2のアンテナ群に含まれるアンテナ素子1とを選択することで、素子の配列が直線状になるように配されている。
【0019】
なお、ここで例示した第1のアンテナ群の各アンテナ素子1と、第2のアンテナ群の各アンテナ素子1は、同心円の円周上に配されているが、必ずしも同心円でなくても良い。また、第1のアンテナ群と第2のアンテナ群とを高低差を設けて配しても良い。また、ここで例示したアンテナアレイでは、外側に配される第1のアンテナ群と内側に配される第2のアンテナ群とでアンテナ素子数が同一であるが、必ずしも同一でなくても良い。
アンテナ素子数は、内側、外側共に3〜20本が好ましく、アンテナの素子間隔は、内側が0.1波長〜0.9波長、外側が1波長〜数10波長が好ましい。
【0020】
また、図2は、本発明の無線基地局の構成の一例を示すブロック図である。図2に示す無線基地局10は、上述した図1に示す第1のアンテナ群と第2のアンテナ群からなる複数のアンテナ素子1と、複数のアンテナ毎に設けられ、相手側通信装置からの無線信号をup/downコンバートする複数の無線(RF)部2と、送信制御部3と、受信制御部(ビーム形成部)4とにより構成されている。送信制御部3は、送信処理部5を備え、受信制御部4は、相手側通信装置との伝搬路の変動状態を把握するフェージング変動判定部(第1の把握部)6と、複数のアンテナの中からビームを形成するために用いるアンテナを選択するアンテナ選択部7と、選択されたアンテナから放射されるビームを形成するための処理を行う受信処理部8とを備えている。本実施例において、フェージング変動判定部(第1の把握部)6は、受信制御部4にて備えられているが、これに限られるものではなく、独立して構成しても良い。
【0021】
フェージング変動判定部6は、通信相手となる通信装置からの受信無線信号の受信レベルを測定し、メモリに記録されている受信レベル履歴(数フレーム前からの受信レベル)から、受信レベルが急激に低下する頻度を示す値として、時間当たりに、受信無線信号の受信レベルが急激に低下する回数Aを把握する。フェージング変動判定部6における受信レベルの判定は、1本のアンテナ素子で行っても良いし、複数のアンテナ素子で行っても良い。そして、把握した回数Aが、ある閾値Bよりも大きいか否かを判定し、判定結果をアンテナ選択部7に出力する。また、受信レベルが急激に低下する頻度を示す値として、時間当たりに、受信無線信号の受信レベルが急激に低下する回数Aを用いたが、これ以外に、フェージング変動判定部6は、受信レベルが急激に低下する時間間隔を把握し、当該把握した時間間隔が所定の時間間隔より大きいか否かを判定することで、受信レベルが急激に低下する頻度を把握してもよい。
【0022】
アンテナ選択部7は、フェージング変動判定部6が行った判定の判定結果に基づいて、利用するアンテナ群を選択し、さらに、第1のアンテナ群に含まれるアンテナ素子Iと第2のアンテナ群に含まれるアンテナ素子Iの中から、ビームを形成するために用いるアンテナ素子を選択する。アンテナ選択部7が選択するアンテナは、相手側通信装置からの無線信号の受信に使用すると共に、相手側通信装置への無線信号の送信に利用する。
【0023】
次に、フェージング変動判定部6の判定結果に基づく、アンテナ選択部7によるアンテナ選択方法の一例について図3のフローチャートを用いて説明する。
フェージング変動判定部6は、受信無線信号の受信レベルを測定し(ステップ101)、測定した受信無線信号の受信レベルから、受信レベルが急激に低下する頻度を示す値として、時間当たりに、受信無線信号の受信レベルが急激に低下する回数Aを把握する(ステップ102)。次に、把握した回数Aが、ある閾値Bよりも大きいか否かを判定し、判定結果をアンテナ選択部7に出力する(ステップ103)。フェージング変動判定部6において、回数Aが閾値Bよりも大きいと判定された場合(YESの場合)には、アンテナ選択部7では、アンテナ相関が高い、内側の円周上のアンテナ群(第2のアンテナ群)を選択する(ステップ104)。回数Aが閾値Bよりも小さいと判定された場合(NOの場合)には、全アンテナ素子を選択するか、もしくは外側の円周上のアンテナ群(第1のアンテナ群)を選択する(ステップ105)。そして、受信処理部8では、ウェイトを生成し、アンテナ選択部7で選択されたアンテナを用いて、通信相手となる通信装置から送信される受信無線信号を受信できるようにビームを形成する。
【0024】
受信レベルの変動の頻度(フェージング)が多く、内側のアンテナ素子1のみを用いて通信を行う場合は、アンテナ素子数分のゲイン向上と、ウエイト生成が正確に行えるという効果がある。このため、伝播環境の変化、特にフェージング変動に対する追従性が高まる。
一方、受信レベルの変動の頻度(フェージング)が少なく、外側のアンテナ素子のみを用いて通信を行う場合は、ダイバーシティ効果の高いウエイトを生成する。ダイバーシティの効果によって、よりスループットの高い変調クラスを使った通信を可能とすることができ、高い特性を維持しやすい。フェージング変動が少ない場合には、いずれのアンテナウエイトを用いても特性に影響はないので、外側、内側の全アンテナ素子1または1を用いることとしても良い。
【0025】
次に、アンテナ選択部7によるアンテナ選択の他の例について説明する。
アンテナ選択部7は、フェージング変動判定部6が、受信レベルの不安定性を判定し、その判定結果に基づいて、アンテナを選択しても良い。例えば、所定の時間内において、受信レベルが上下変動する変動値が所定値より大きくなる頻度が一定以上の割合で生じると判定された場合においては、外側の円周上のアンテナ群(第1のアンテナ群)を選択し、それ以外の場合には全アンテナ、もしくは内側のみのアンテナ群(第2のアンテナ群)を選択する。
【0026】
また、フェージング変動判定部6が、フェージング変動を、相手側通信装置の移動速度(ドップラ変動)で判定し、その判定結果に基づいて、アンテナ選択部7がアンテナを選択しても良い。例えば、移動速度(ドップラ変動)を検出し、移動速度がある閾値よりも速いときは内側のアンテナ素子を用いて通信を行うようにアンテナを選択し、移動速度が閾値以下の速度である場合には、外側(もしくは全アンテナ)を用いて通信を行うようにアンテナを選択する。
【0027】
また、アンテナウエイトを複数用意し、特性を比較してアンテナを選択しても良い。例えば、外側円周上のアンテナ群と内側円周上のアンテナ群で通信希望の相手側通信装置毎にそれぞれウエイト演算し、特性として出力SINR(信号対干渉雑音比)によって、どちらの方が特性向上するかを調査する。もしくは、FER(フレームエラーレート)がどちらの検波の場合に良くなったかを数フレーム時間比較し、良くなる方のアンテナ群を用いた通信に切り替える、などが考えられる。この場合、内側が外側に比べて特性が良くなった場合は、フェージングが速いと考え、内側のみでの検波を採用し、それ以外は全アンテナでのウエイト制御を行った検波を採用する。
【0028】
また、アンテナ選択部7は、フェージング変動判定部6が把握する伝搬路の変動状態と共に、無線基地局の消費電力量に基づいてアンテナ本数を削減して選択したり、対角線上のアンテナ素子を選択するなど、状況に一番適したアンテナを選択することができるものとする。
【0029】
また、図4は、本発明の無線基地局の他の構成例を示すブロック図である。図4に示す無線基地局20は、上述した図1に示す第1のアンテナ群と第2のアンテナ群からなる複数のアンテナ素子1と、複数のアンテナ毎に設けられ、相手側通信装置からの無線信号をup/downコンバートする複数の無線(RF)部2と、送信制御部3と、受信制御部(ビーム形成部)4とにより構成されている。送信制御部3は、送信処理部5を備える。受信制御部4は、複数のアンテナにおける各アンテナのウェイトを算出するウェイト算出部11と、複数のアンテナについて、各アンテナの受信品質を示す受信品質情報を所定の間隔ごとに取得する受信品質情報取得部(取得部)12と、受信品質情報取得部12において取得された各アンテナの受信品質に関する値の変動傾向を把握する受信品質変動傾向把握部(第2の把握部)13と、受信品質変動傾向把握部13において把握された、各アンテナにおける受信品質に関する値の変動傾向に基づいて、各アンテナ間の相関度を判定する相関判定部14と、相関判定部14において判定された各アンテナ間の相関度に基づいて複数のアンテナの中からビームを形成するために用いるアンテナを選択するアンテナ選択部7と、選択されたアンテナから放射されるビームを形成するための処理を行う受信処理部8とを備える。本実施例において、ウェイト算出部11と受信品質情報取得部12と受信品質変動傾向把握部13と相関判定部14は、受信制御部4にて備えられているが、これに限られるものではなく、独立して構成しても良い。
【0030】
受信品質情報取得部12は、通信相手となる通信装置からの受信無線信号の受信品質情報として、複数のアンテナの各アンテナにおいて測定される受信電力を示す値やSINR等の受信品質を示す値を取得する。受信品質変動傾向把握部13は、取得された各アンテナの受信品質情報に関する値の変動傾向を把握する。
【0031】
相関判定部14は、受信品質変動傾向把握部13において把握された、各アンテナにおける受信品質に関する値の変動傾向に基づいて、相関度を判定する。
【0032】
アンテナ選択部7は、相関判定部14において判定された各アンテナ間の相関度に基づいて、利用するアンテナ群を選択し、さらに、第1のアンテナ群に含まれるアンテナ素子Iと第2のアンテナ群に含まれるアンテナ素子Iの中から、ビームを形成するために用いるアンテナ素子を選択する。アンテナ選択部7が選択するアンテナは、相手側通信装置からの無線信号の受信に使用すると共に、相手側通信装置への無線信号の送信に利用する。
【0033】
次に、相関判定部14において判定された各アンテナ間の相関度に基づく、アンテナ選択部7によるアンテナ選択方法について図5のフローチャートを用いて説明する。なお、複数のアンテナは、アレイアンテナであり、ウェイト算出部11は、複数のアレイアンテナにおける各アンテナのウェイトを算出しているものとする。
【0034】
無線基地局の受信制御部4が、通信相手となる通信装置との通信を開始すると(ステップ201)、受信品質情報取得部12は、各アンテナの受信無線信号の受信品質情報を取得し、受信品質変動傾向把握部13は、取得された各アンテナの受信品質情報における受信品質に関する値の変動傾向を把握する(ステップ202)。相関判定部14は、受信品質変動傾向把握部13が把握した各アンテナの変動傾向に応じて、各アンテナ間における相関度の判定を行う(ステップ203)(相関度の判定に関する詳細は後述する)。そして、アンテナ選択部7は、相関判定部14において判定された受信品質に関する値の変動傾向に関する情報を利用して、ビームを形成するために用いるアンテナ素子を選択する(テップ204〜212)。
【0035】
図5のフローチャートでは、アンテナ選択部7におけるアンテナ選択方法として、アンテナ選択部7が、ウェイト算出部11がウェイトを算出したウェイト更新時間間隔と相関判定部14において判定された受信品質に関する値の変動傾向に関する情報を利用して、ビームを形成するために用いるアンテナ素子を選択している。まず、アンテナ選択部7は、ウェイト更新時間間隔と、各アンテナにおける変動傾向において、受信品質に関する値が所定値以下となる時点(タイミング)が生じる周期(落ち込み時間間隔)とを比較する(ステップ204)。比較の結果、落ち込み時間間隔がウェイト更新時間間隔よりも大きい場合(Yesの場合)(この場合、伝搬環境の変化に対応できない場合であるので、出来るだけ相関度の高いアンテナを選択することが好ましい)には、第2のアンテナ群のアンテナの相関度を調査し(ステップ205)、相関度が高いアンテナか否かを判定する(ステップ206)。アンテナ選択部7は、相関度が高いアンテナであると判定した場合(Yesの場合)、第2のアンテナ群の中から無線通信に利用する少なくとも2以上のアンテナを選択する(ステップ207)。アンテナ選択部7は、相関度が低いアンテナであると判定した場合(Noの場合)、他のアンテナ群のアンテナの相関度を調査し、最も相関度の高いアンテナ群の中から無線通信に利用する少なくとも2以上のアンテナを選択する(ステップ208)。
【0036】
ステップ204において、相関判定部14は、落ち込み時間間隔がウェイト更新時間間隔よりも小さい場合(Noの場合)には、第1のアンテナ群のアンテナの相関度を調査し(ステップ209)、相関度が低いアンテナか否かを判定する(ステップ210)。。アンテナ選択部7は、相関度が低いアンテナであると判定した場合(Yesの場合)、第1のアンテナ群の中から無線通信に利用する少なくとも2以上のアンテナを選択する(ステップ211)。アンテナ選択部7は、相関度が高いアンテナであると判定した場合(Noの場合)、最も相関度の低いアンテナ群の中から無線通信に利用する少なくとも2以上のアンテナを選択する(ステップ212)。
【0037】
そして、受信処理部8では、ウェイトを生成し、アンテナ選択部7で選択されたアンテナを用いて、通信相手となる通信装置と無線信号を当該生成されたウェイトを用いて送受信する。
【0038】
次に、相関判定部14が、受信品質変動傾向把握部13において把握された、各アンテナにおける受信品質に関する値の変動傾向を利用して、各アンテナ間の相関度を判定する方法(図2のフローチャートにおけるステップ203)について説明する。
【0039】
(各アンテナ間の相関度の判定方法1)
相関判定部14は、受信品質変動傾向把握部13において把握された、各アンテナにおける受信品質に関する値の変動傾向において、受信品質を示す値が直前に取得した受信電力を示す値と比較して所定値(第1の所定値)以上低下している時点を検出し、各アンテナ間における、当該検出した時点の時間差に応じて、相関度を判定する。このとき、あるアンテナにおいて検出された時点の直後に、他のアンテナにおいて所定値(第1の所定値)以上に低下している時点が検出された場合、時間差が小さければ相関度が高く、一方、他のアンテナにおいて所定値以上低下している時点との時間差が大きければ相関度は低くなる。
【0040】
(各アンテナ間の相関度の判定方法2)
相関判定部14は、受信品質変動傾向把握部13において把握された、各アンテナにおける受信品質に関する値の変動傾向において、受信電力を示す値が所定値(第2の所定値)以下となる時点を検出し、アンテナ間における、当該検出した時点の頻度、すなわち、時間当たりに、受信電力を示す値が所定値(第2の所定値)以下となる回数に応じて、相関度を判定するようにしても良い。
【0041】
(各アンテナ間の相関度の判定方法3)
相関判定部14は、2つのアンテナの受信信号同士を複素乗算して(複素共役を乗算する)求めた時間平均に応じて、相関度を判定するようにしても良い。相関度が高ければ、時間平均が高くなり、相関度が低ければ、時間平均が0に近い数値となる。
【0042】
(各アンテナ間の相関度の判定方法4)
相関判定部14は、各アンテナにおける、受信品質に関する値が時間の経過に伴って変動する傾向を示す変動傾向に応じて、各アンテナの受信品質に関する値それぞれに付与する重み係数を決定し、受信品質に関する値に重み係数を付与することにより算出される推定受信電力値に基づいて、各アンテナ間の相関度を判定、または推定するようにしても良い。
【0043】
以下に、推定受信電力値に基づいて各アンテナ間の相関度を判定する場合について説明する。
受信電力を示す値の変動傾向は、3種類の傾向A、B、Cを組合せることによって構成される。傾向A、B、Cについて、図6を参照しながら説明する。図6は、受信品質情報(受信品質に関する値)Xが、時間(1フレーム期間)の経過に伴って、X1からX2〜X5のいずれかへ変動する様子を模式的に示す。
傾向Aは、受信品質情報がX1からX2へ変動する場合、およびX1からX3へ変動する場合のように、受信品質情報が所定の閾値α内で変動したことを示す。ここで、所定の閾値αは、受信品質が安定した状態であると判断できる範囲(受信品質の雑音による揺らぎ幅程度)に設定される。傾向Bは、受信品質情報がX1からX4へ変動する場合のように、受信品質情報が所定の閾値αを超えて受信品質が上昇する方向に変動したことを示す。傾向Cは、受信品質情報がX1からX5へ変動する場合のように、受信品質情報が所定の閾値αを下回り受信品質が低下する方向に変動したことを示す。
【0044】
相関判定部14は、傾向A,B,Cの組合せによって変動傾向を判定する。図7(a)は、受信品質情報Xの変動を時間の経過に伴って示すグラフの一例である。図7(a)では、時刻t1からt6へと時間が経過するに伴って、新しい受信品質情報がプロットされている。図7(b)は、重み係数の決定手法を説明するための表である。
【0045】
X11からX12への変動は、所定の閾値α内での変動であるので、図7(b)に示すように、傾向Aとして示される。また、X12からX13への変動は、所定の閾値αを超えて受信品質が上昇する方向への変動であるので、図7(b)に示すように、傾向Bとして示される。同様に、X13からX16までの3回の変動それぞれは、3回の傾向Bとして示される。
相関判定部14は、1回の傾向Aと4回の傾向Bとの組合せ(ABBBB)に基づいて、変動傾向は向上型変動傾向であると判定し、X11〜X16それぞれに付与する重み係数D1〜D6を、時間の経過に伴って大きくして、D1<D2<D3<D4<D5<D6とする。
【0046】
また、相関判定部14は、変動傾向が、例えば、2回の傾向Aと3回の傾向Cの組合せ(ACACC)である場合には、変動傾向は低下型変動傾向であると判定し、重み係数D1〜D6を、時間の経過に伴って大きくして、D1<D2<D3<D4<D5<D6とする。
また、相関判定部14は、変動傾向が、例えば、5回の傾向Aの組合せ(AAAAA)である場合には、変動傾向は安定型変動傾向であると判定し、重み係数D1〜D6を均一な値、即ち、D1=D2=D3=D4=D5=D6≠0とする。
【0047】
相関判定部14は、受信品質情報X11〜X16と、X11〜X16に対応する重み係数D1〜D6とをそれぞれ乗算し、乗算値の平均値を算出することにより、推定受信電力値を算出する。そして、相関判定部14は、算出された推定受信電力値に基づいて変動傾向を推定し、当該推定した変動傾向から各アンテナ間の相関度を判定する。
【0048】
上述したように、本発明は、変化する伝搬環境に応じて、配置構成が異なるアンテナを使い分け、状況に一番適したアンテナを選択することで、安定した通信を可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の無線基地局におけるアンテナ素子の配置位置の一例を示す図である。
【図2】本発明の無線基地局の構成の一例を示すブロック図である。
【図3】フェージング変動判定部の判定結果に基づく、アンテナ選択部によるアンテナ選択の方法について説明するフローチャートである。
【図4】本発明の無線基地局の他の構成例を示すブロック図である。
【図5】相関判定部において判定された各アンテナ間の相関度に基づく、アンテナ選択部によるアンテナ選択方法について説明するフローチャートである。
【図6】受信品質情報Xが、時間の経過に伴って変動する様子を模式的に示す図である。
【図7】受信品質情報Xが時間の経過に伴って変動する傾向と、重み係数を決定する手法を説明する図である。
【符号の説明】
【0050】
1 アンテナ素子
2 無線(RF)部
3 送信制御部
4 受信制御部
5 送信処理部
6 フェージング変動判定部
7 アンテナ選択部
8 受信処理部
10,20 無線基地局
11 ウェイト算出部
12 受信品質情報取得部
13 受信品質変動傾向把握部
14 相関判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナと、前記複数のアンテナから放射されるビームを形成するビーム形成部と、を備える無線基地局において、
前記複数のアンテナは、
少なくとも、前記各アンテナが所定の間隔を有するように配された第1のアンテナ群と、前記第1のアンテナ群における前記所定の間隔とは異なる間隔で配された第2のアンテナ群と、を構成し、
前記ビーム形成部は、
前記第1のアンテナ群に含まれるアンテナと前記第2のアンテナ群に含まれるアンテナとの中から、前記ビームを形成するためのアンテナを選択する、
ことを特徴とする無線基地局。
【請求項2】
請求項1に記載の無線基地局において、
前記複数のアンテナは、前記第1のアンテナ群と前記第2のアンテナ群とが、それぞれ円周上に配されている、ことを特徴とする無線基地局。
【請求項3】
請求項1または2に記載の無線基地局において、
前記複数のアンテナは、前記第1のアンテナ群に含まれるアンテナと前記第2のアンテナ群に含まれるアンテナとで、直線状になるように配されている、ことを特徴とする無線基地局。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の無線基地局において、
相手側通信装置との伝搬路の変動状態を把握する第1の把握部と、を更に備え、
前記ビーム形成部は、前記第1の把握部で把握する前記伝搬路の変動状態に応じて、前記ビームを形成するアンテナを選択する、ことを特徴とする無線基地局。
【請求項5】
請求項4に記載の無線基地局において、
前記第1の把握部による前記伝搬路の変動状態の把握は、前記相手側通信装置からの受信無線信号の電力値の変動を把握することで行われる、ことを特徴とする無線基地局。
【請求項6】
請求項4に記載の無線基地局において、
前記第1の把握部による前記伝搬路の変動状態の把握は、前記相手側通信装置からの受信無線信号のドップラ変動を検出することにより行われる、ことを特徴とする無線基地局。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の無線基地局において、
前記ビーム形成部が選択するアンテナは、前記相手側通信装置からの無線信号の受信に使用すると共に、前記相手側通信装置への無線信号の送信に使用する、ことを特徴とする無線基地局。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の無線基地局において、
前記ビーム形成部は、前記第1の把握部が把握する前記伝搬路の変動状態と共に、前記無線基地局の消費電力量に基づく使用可能なアンテナ本数に基づいて、アンテナを選択する、ことを特徴とする無線基地局。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の無線基地局において、
前記複数のアンテナについて、それぞれのアンテナの受信品質情報を取得する取得部と、
前記取得部において取得された各アンテナの受信品質に関する値の変動傾向を把握する第2の把握部と、を更に備え、
前記ビーム形成部は、前記第2の把握部において把握された、前記各アンテナにおける受信品質に関する値の変動傾向に応じて、前記第1のアンテナ群に含まれるアンテナと前記第2のアンテナ群に含まれるアンテナとの中から、前記ビームを形成するための少なくとも2以上のアンテナを選択する、ことを特徴とする無線基地局。
【請求項10】
請求項9に記載の無線基地局において、
前記第2の把握部において把握された、前記各アンテナにおける受信品質に関する値の変動傾向に基づいて、前記各アンテナ間の相関度を判定する判定部と、を更に備え、
前記ビーム形成部は、前記判定部において判定された前記アンテナ間の相関度に基づいて、前記ビームを形成するための2以上のアンテナを選択する、ことを特徴とする無線基地局。
【請求項11】
請求項10に記載の無線基地局において、
前記判定部は、前記第2の把握部において把握された、前記各アンテナにおける受信品質に関する値の変動傾向において、受信品質に関する値が直前に取得された受信品質に関する値と比較して第1の所定値以上に低下している時点を検出し、アンテナ間における、当該検出した時点の時間差に応じて、前記相関度を判定する、ことを特徴とする無線基地局。
【請求項12】
請求項10に記載の無線基地局において、
前記判定部は、前記第2の把握部において把握された、前記各アンテナにおける受信品質に関する値の変動傾向において、受信品質に関する値が第2の所定値以下となる時点を検出し、アンテナ間における、当該検出した時点の頻度に応じて、前記相関度を判定する、ことを特徴とする無線基地局。
【請求項13】
請求項10ないし12のいずれか1項に記載の無線基地局において、
前記複数のアンテナにおける各アンテナのウェイトを算出する算出部と、をさらに備え、
前記ビーム形成部は、前記算出部におけるウェイトを算出する時間間隔と、前記判定部において判定された前記時点が生じる周期に基づいて前記無線通信に利用する少なくとも2以上のアンテナを選択する、ことを特徴とする無線基地局。
【請求項14】
請求項10ないし13のいずれか1項に記載の無線基地局において、
前記取得部は、前記複数のアンテナのそれぞれが受信する無線信号の受信電力を示す値を所定間隔で取得し、
前記第2の把握部は、前記各アンテナにおける、前記受信電力を示す値が時間の経過に伴って変動する傾向を示す変動傾向を把握し、
前記判定部は、前記各アンテナにおける変動傾向に応じて、前記各アンテナの前記受信電力を推定し、当該推定した受信電力値に基づいて、前記各アンテナ間の相関度を判定する、ことを特徴とする無線基地局。
【請求項15】
各アンテナが所定の間隔で配された第1のアンテナ群に含まれるアンテナと、各アンテナが前記第1のアンテナ群における前記所定の間隔とは異なる間隔で配された第2のアンテナ群に含まれるアンテナの中から、ビームを形成するためのアンテナを選択することを特徴とするアンテナ選択方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−177773(P2009−177773A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169538(P2008−169538)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】