説明

無線通信システム

【課題】航空機内において、少ないアクセスポイント数、チャンネル数で乗客用座席に配置された複数の無線通信端末装置へ高画質、高音質あるいは高速の情報データ配信サービスを提供することを目的とする。
【解決手段】金属で覆われ電磁的に遮蔽された航空機という特殊な環境を生かして、映像、音声データや情報データを蓄積、配信するサーバと、前記サーバに接続され、マルチキャスト通信方式による無線通信方式で前記データを配信する少なくとも1以上の無線基地局と、前記無線基地局より配信された前記データを受信し、データサービスを提供する複数の無線端末装置とから構成された無線通信システムにより、乗客に快適な画像、音声、情報データサービスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機などの乗客キャビンエリア内におけるモバイルプラットホーム用のブロードバンドワイヤレス配信システムであって、乗客用座席に配置された複数の無線通信端末装置と、映像、音声、情報サービスを配信するサーバに接続された無線基地局(無線アクセスポイント、Wireless Access Point、)間で無線通信するための無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IEEE802.11a/b/gをはじめとする無線通信システムが普及しつつある。これらは無線ローカルエリアネットワーク(LAN)システムと呼ばれ、有線LANシステムに用いられているイーサネット(Ethernet)(登録商標)と同等のことを無線に置き換えたものであるといえる。
【0003】
無線LANシステムは、当初、携帯形や可搬形パーソナルコンピュータ、可搬形無線端末装置等での使用を想定されていたが、昨今では、配線の煩雑さをなくす目的から、使用位置が固定された端末装置に対するネットワークサービス提供にも無線LANシステムを用いることが考えられている。
【0004】
使用位置が固定された端末装置に対する無線LANサービスの提供形態の一例(以下、従来例という。)を図5に示す。
【0005】
この従来例では、航空機内において、各座席2に設置された無線端末装置3に対して映像、音声データや情報データを配信するために、無線LANシステムを利用している。映像、音声データや情報データは、当該システムのサーバ(図示せず)に蓄積されており、各座席に設置された各無線端末装置3へは、上記サーバに接続された無線基地局である複数のワイヤレスアクセスポイント(以下、アクセスポイント)51、52を介して各無線端末装置3へ配信される。
【0006】
図6は航空機胴体部(代表して2箇所のみ指示)に対して、機内スペースを複数のエリアに区切り、1の透視平面図であり、符号は図5に対応している。
【0007】
複数のアクセスポイン51,52つのエリアに対して1つのアクセスポイント、例えば51,52(代表して2箇所のみ指示)の様に割り当てる。楕円53,54(代表して2箇所のみ指示)で示された部分はアクセスポイントから発射された電波の略到達範囲を示している。上記アクセスポイントは指向性アンテナにより他のエリアにできる限り干渉、妨害を与えないように電波を発射し、自エリア内の各無線端末装置3とは決まったチャンネル用いて無線通信する。
【0008】
この従来例では1つのアクセスポイントに対して決められた周波数帯域(チャンネル)を時分割して特定の複数の無線端末装置3にデータを送信する方式を採用している。このようにすることで、一つのチャンネルで複数の無線端末装置に対してVOD(Video On Demand、見たいときに見たいビデオが見られるサービス)のような個別のデータ配信サービスを可能にしている。
【0009】
本願では、映像、音声データや情報データを特定の相手にデータを送信する方式はユニキャストと呼び、複数、不特定多数のユーザに配信する通信方式をマルチキャストと呼ぶが、上記のような一つのチャンネルを時分割で特定の複数の相手に映像、音声データや情報データを配信する通信方式は上記の意味ではユニキャストであるものとして記載する。(一般には、ユニキャストとは特定の相手にデータを送信すること、不特定多数の相手にデータを送信するブロードキャストと対比する際に用いる。複数の相手を指定してデータを送信することはマルチキャストと呼ばれる。IT用語辞典,e−Wordsより。)
このように通信エリアをセル化することにより、アクセスポイントの1つ1つが担当すべき無線端末装置の数が明確になる。また各アクセスポイントが指向性アンテナを備えることにより決められた狭いエリアをカバーすることが可能となり、電波障害による通信エラーを少なくすることができ、各無線端末装置に提供するデータ配信の通信品質が向上し、管理も容易になる
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0098745号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら上記の従来例のような時分割によるユニキャスト通信方式では、一つのアクセスポイントが一つチャンネルを時分割して複数の無線端末装置にデータ配信するため、一つの無線端末装置あたりの帯域は狭くなる。例えば1チャンネル当たり20Mbpsの通信速度であっても、一つのアクセスポイントがカバーするエリアの無線端末装置が20席ぶんであれば無線端末装置一つあたり1Mbpsとなり、映像、音声データを配信すれば画質、音質は低下し、あるいは映像、音声に遅延が生じる。また情報データであればデータ取得時間が極端に低下することになる。
【0011】
また、異なるアクセスポイントは、異なるチャンネルを使用してカバーすべき無線端末装置と通信するのであるが、異なるチャンネル間相互で干渉を起こすため、周波数の近いチャンネルを、隣接する異なるエリアに割り当てることはできないという課題もあった。
【0012】
あるいは、複数のチャンネルを使用するので、国に依っては使用するチャンネルに制限があり、多くのチャンネルを占有出来ないという課題もあった。
【0013】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、少ないアクセスポイント数、チャンネル数で乗客用座席に配置された複数の無線通信端末装置へ高画質、高音質あるいは高速の情報データ配信サービスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1に記載の無線通信システムは、
外部から略遮蔽された室内空間でなされる無線通信システムであって、
映像、音声データや情報データを蓄積、配信するサーバと、
前記サーバに接続され、マルチキャストによる無線通信方式で前記データを配信する少なくとも1以上の無線基地局と、
前記無線基地局より配信された前記データを受信し、データサービスを提供する複数の無線端末装置と、
から構成されたものである。
【0015】
本発明の請求項2に記載の無線通信システムは、
外部から略遮蔽された室内空間でなされる無線通信システムであって、
映像、音声データや情報データを蓄積、配信するサーバと、
前記室内空間をさらに電磁的に複数に区切られた空間において、前記区切られた複数の空間それぞれに少なくとも1以上配置され、それぞれ前記サーバに接続され、マルチキャストによる無線通信方式で前記データを配信する無線基地局と、
前記無線基地局より配信された前記データを受信し、データサービスを提供する複数の無線端末装置と、
から構成されたものである。
【0016】
本発明の請求項3に記載の無線通信システムは、
外部から略遮蔽された室内空間でなされる無線通信システムであって、
映像、音声データや情報データを蓄積、配信するサーバと、
前記サーバに接続され、マルチキャストによる無線通信方式で前記データを配信する複数でチャンネルが異なり、且つ略同一位置に配置された無線基地局と、
前記無線基地局より複数のチャンネルにより配信された前記データを選択して受信し、データサービスを提供する複数の無線端末装置と、
から構成されたものである。
【発明の効果】
【0017】
以上のように本発明は、金属で覆われた航空機という特殊な環境を考慮してマルチキャスト通信方式を採用することで、少ないアクセスポイント数、チャンネル数で乗客用座席に配置された複数の無線通信端末装置へ高画質、高音質あるいは高速の情報データ配信サービスを提供するという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施の形態1)
以下、本発明の第1の実施の形態について、図1から図3を用いて説明する。
【0019】
図1は本発明の航空機胴体部の透視平面図であり、11はアクセスポイント、2は乗客用座席であり、映像、音声データや情報データをアクセスポイント11より受信して乗客にデータサービスを提供する無線端末装置3が各座席に設置されている。
【0020】
また、図中、矢印は電波の発射方向を示し、楕円12は電波の略到達範囲を示している。
【0021】
図2は図1と同様本発明の航空機胴体部の透視平面図である。
【0022】
図1と異なる点は、一般に機内はファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミ−クラスに分けられており、それぞれの境界はギャレー4と呼ばれる客室乗務員がサービスを提供する厨房などの作業領域で仕切られ、クラスエリアごとに一つずつアクセスポイント21,22,23が配置されている。また、図中、矢印は電波の発射方向を示し、楕円24,25,26は電波の略到達範囲を示している。
【0023】
図3はIEEE802.11aを例にした20MHz幅のチャンネルごとのチャンネル識別番号、チャンネル中心周波数、及び規制地域を示す。
【0024】
以上のように構成された通信システムについて、図1、図2、図3を用いてその動作を説明する。
【0025】
本実施の形態の図1ではアクセスポイント11が1つであり、無線LANの電波の及ぶ範囲を機内全域として複数の不特定多数の無線端末装置に向かってデータを送信するマルチキャスト通信方式を採用している。このようにすることで、従来例のような1つのチャンネルを時分割することで帯域制限をすることなく、例えば1チャンネル当たり20Mbpsの通信速度であればその通信速度をそのまま維持できるので、映像、音声データを配信するのであれば遅延のない高画質、高音質のデータを送ることができ、また情報データであれば従来例に比べて高速データ転送が可能となる。
【0026】
また、旅客用航空機は機体が一般には軽量アルミ合金、つまり金属で覆われて出来ており、一つのアクセスポイントから発射する電波であっても、ちょうどシールドされた部屋の中で無線通信が為されているのと同じであって、電波が機体壁面の反射により機内全域に伝搬するので、一つのチャンネルで特定の相手にデータを送信し、多数の相手には多くのチャンネルを必要とするユニキャスト通信方式に比べてマルチキャスト通信方式は有利である。
【0027】
本実施の形態の図2ではアクセスポイント21,22,23が3つ配置されている。機内はファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミ−クラスに分けられており、それぞれの境界はギャレー4と呼ばれる客室乗務員がサービスを提供する厨房などの作業領域で仕切られており、金属性で電波伝搬にとっては障害物となる材料で出来たものも多く使われており、客室エリアごとに電磁的に遮蔽されているものと考えてもよい。従って図2の実施の形態では、各クラスの客室エリアつき1つずつのアクセスポイントが配置され、客室エリアごとに異なるチャンネルが割り当てられている。なお、ギャレーにより客室エリアごとに電磁的に十分な遮蔽効果が期待できれば必ずしも異なるチャンネルを割り当てる必要がないことは言うまでもない。
【0028】
図3で示されるように、使用出来るチャンネルは国ごとの電波法によりに制限されている。また、図2で示された実施の形態のように複数のチャンネルを使用する場合でも、隣接のチャンネル、例えば3チャンネルを使用する場合はチャンネル相互で干渉を避けるために隣接の2チャンネル、4チャンネルは実質上使用できないので使用出来るチャンネルはさらに制限を受ける。従って、一つのチャンネルで特定の相手にデータを送信し、多数の相手には多くのチャンネルを必要とするユニキャスト通信方式に比べて本実施の形態のように少ないチャンネル数で実現できるマルチキャスト通信方式は有利である。
【0029】
以上のように本実施の形態によれば、金属で覆われた航空機という特殊な環境を考慮してマルチキャスト通信方式を採用することで、少ないアクセスポイント数、チャンネル数で乗客用座席に配置された複数の無線通信端末装置へ高画質、高音質あるいは高速の情報データ配信サービスが可能となる。
【0030】
(実施の形態2)
以下、本発明の第2の実施の形態について、図4を用いて説明する。
【0031】
図4は本発明の図1,2同様の航空機胴体部の透視平面図である。
【0032】
なお、図1,2と同一要素のものについては同一符号を付し、説明を省略する。
【0033】
以上のように構成された通信システムについて、図4を用いてその動作を説明する。
【0034】
図4では、チャンネルの異なるアクセスポイント41,42,43を複数(本実施の形態図4では3個)、略同一箇所に配置している。このようにすることで実施の形態図1の場合に比べて実質上、アクセスポイントの数だけ通信帯域が拡大したことになり、つまりユーザは好みのチャンネルをその中から自由に選択出来る。
【0035】
なお、図中、矢印は電波の発射方向を示し、楕円44は電波の略到達範囲を示している。
【0036】
また、本実施の形態では複数のアクセスポイントを略同一箇所に配置しているので、前述のように隣接のチャンネル相互で干渉を避けるために、連続するチャンネルを使用しないチャンネルの選択が好ましい。
【0037】
以上のように本実施の形態によれば、少ないアクセスポイント数、チャンネル数で乗客用座席に配置された複数の無線通信端末装置へ高画質、高音質あるいは高速の情報データ配信サービスが可能となるだけでなく、さらに、配信されたデータ品質を確保し、且つ多くのチャンネルを選択することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明にかかる無線通信システムは、金属で覆われた航空機という特殊な環境を考慮してマルチキャスト通信方式を採用することで、少ないアクセスポイント数、チャンネル数で乗客用座席に配置された複数の無線通信端末装置へ高画質、高音質あるいは高速の情報データ配信サービスを提供する効果を有し、航空機などの乗客キャビンエリア内におけるモバイルプラットホーム用のワイヤレス配信システムのような、乗客用座席に配置された複数の無線通信端末装置と、映像、音声、情報サービスを配信するサーバに接続された無線基地局間で無線通信するための無線通信システム等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施形態における航空機胴体部の透視平面図
【図2】本発明の第1の実施形態における航空機胴体部の透視平面図
【図3】IEEE802.11aを例にしたチャンネル識別番号、チャンネル中心周波数、及び規制地域を示す図
【図4】本発明の第2の実施形態における航空機胴体部の透視平面図
【図5】従来の乗客用座席に固定された端末装置に対する無線LANサービスの提供形態の一例を示す図
【図6】従来例による無線通信システムの航空機胴体部の透視平面図
【符号の説明】
【0040】
2 乗客用座席
3 無線端末装置
4 ギャレー
11、21,22,23,41,42,43,51,52 アクセスポイント
12,24,25,26,44 電波の略到達範囲


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から略遮蔽された室内空間でなされる無線通信システムであって、
映像、音声データや情報データを蓄積、配信するサーバと、
前記サーバに接続され、マルチキャストによる無線通信方式で前記データを配信する少なくとも1以上の無線基地局と、
前記無線基地局より配信された前記データを受信し、データサービスを提供する複数の無線端末装置と、
から構成された無線通信システム。
【請求項2】
外部から略遮蔽された室内空間でなされる無線通信システムであって、
映像、音声データや情報データを蓄積、配信するサーバと、
前記室内空間をさらに電磁的に複数に区切られた空間において、前記区切られた複数の空間それぞれに少なくとも1以上配置され、それぞれ前記サーバに接続され、マルチキャストによる無線通信方式で前記データを配信する無線基地局と、
前記無線基地局より配信された前記データを受信し、データサービスを提供する複数の無線端末装置と、
から構成された無線通信システム。
【請求項3】
外部から略遮蔽された室内空間でなされる無線通信システムであって、
映像、音声データや情報データを蓄積、配信するサーバと、
前記サーバに接続され、マルチキャストによる無線通信方式で前記データを配信する複数でチャンネルが異なり、且つ略同一位置に配置された無線基地局と、
前記無線基地局より複数のチャンネルにより配信された前記データを選択して受信し、データサービスを提供する複数の無線端末装置と、
から構成された無線通信システム。
【請求項4】
前記異なる複数のチャンネルは互いに連続しないチャネルを選んで設定する請求項3に記載の無線通信システム。
【請求項5】
外部から略遮蔽された室内空間は、金属で覆われ電磁的に略遮蔽された空間である請求項1乃至請求項3に記載の無線通信システム。
【請求項6】
電磁的に略遮蔽された空間が、航空機のキャビンである請求項5に記載の無線通信システム。



【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2006−33564(P2006−33564A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211304(P2004−211304)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】