説明

無線通信制御システム

【課題】フェールセーフな地上装置で簡単な処理でLCX5間で電波が干渉することを防いで地上と車上間で通信を行う。
【解決手段】複数のLCX5を制御区間毎に第1のチャンネルと第2のチャンネルのグループを交互に連続して設置し、各無線制御論理部6のシステム周期毎に出力されるデータを第1のチャンネルと第2のチャンネルで時分割して送信し、単一の周波数チャンネルで車上装置2にデータを送信しても隣接するLCX5間で電波の干渉が生じることを回避する。また、隣接する無線制御論理部6の境界伝送部の間で境界伝送データを授受して各LCX5にデータを伝送するときのタイミングに同期をとり、各無線制御論理部6が設けられた制御区間の境界において隣り合うLCX5で送信する電波が干渉することを防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軌道回路を使用しないで無線を利用した列車制御における無線通信制御システム、特に情報の伝送に漏洩同軸ケーブル(LCX)を用いた場合のLCX境界における干渉を防ぎ、フェールセーフな処理で地上と車上間における通信の確立に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線を利用した移動通信には、広い地域をセル状に細かく分割して、それぞれに基地局を設け、基地局の間隔エリア毎に周波数を割り当てるセルラー方式や無線機間の同期方式が一般的に使用されている。
【0003】
また、例えば特許文献1に示す移動通信システムは、通信範囲をm個のゾーンに分割し、同一周波数チャンネルで空間的に干渉を起こさないゾーンでタイムスロットを共用して通話信号を伝送して、隣接するゾーン間に生じる干渉を防止している。
【0004】
また、特許文献2に示された無線通信システムは、線路に沿って直線的に配置されて基地局装置に光ケーブルで並列に接続され、LCXを介して移動機と通信を行う複数の光無線中継装置に固有の識別番号を割り当て、中央制御装置が基地局装置から受信した上りデータに含まれる識別番号で移動機の進行方向を認識して下りデータを送信する光無線中継装置を基地局装置に指示し、上りデータに含まれる識別番号の光無線中継装置が基地局装置の末端である場合は隣接する基地局装置の光無線中継装置に下りデータを送信させて、移動機が通話エリアを移動する際にも基地局装置をスムーズに切り替えて通信の断時間を防いでいる。
【0005】
特許文献3に示されたLCXを利用した無線通信システムは、複数のエリアを連続して通過する移動機に対して、各エリアを管理する基地装置が全て同一周波数を用い、各基地装置で時分割したスロットにその基地装置のチャネルを割り当て、移動機が周波数スロットで送受信を行い、移動機がエリアを移動した場合にも周波数を切り替える必要がなく、ハンドオフに要する時間を短縮して通信の断時間を防いでいる。
【0006】
特許文献4に示された路車間通信システムは、移動局が走行する走行路に沿って設置され、移動局と通信を行う複数の路側アンテナと、複数の路側アンテナに無線信号を出力し、路側アンテナで捕捉した無線信号を受信する1個の無線装置と、複数の路側アンテナと無線装置との間に介在した光・無線変換伝送手段を設け、1個の無線装置が管轄する無線ゾーンで同一チャンネルにより通信を行い無線ゾーンの連続性を保つようにしている。
【特許文献1】特許第2959536号公報
【特許文献2】特開2002−77034号公報
【特許文献3】特開平11−289576号公報
【特許文献4】特開2001−244872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
セルラー方式の場合、移動局が高速移動しても通信が継続できるが、制御範囲あたりに複数の周波数を割り当てる必要がある。
【0008】
また、無線機間の同期方式の場合、送信側の無線機と受信側の無線機で高精度に同期させることが必要であり、無線機の構成と処理が複雑になってしまう。
【0009】
また、周波数帯が400MHz帯以下の場合は、LCXを使用して隣接するゾーン間の干渉を防ぐ方法があるが、LCXの使用はあくまで電波干渉を軽減する、あるいは干渉する区間を短縮することが目的であり、通信の目的がアナログの電波による音声通話であるなら雑音による音質低下や瞬断はある程度許容できるが、無線により列車制御を行う場合はLCXを使用しても干渉対策が必要である。さらに、現在ではLCXで高い伝送無線周波数帯域を使用できるようになったため、トンネル内での伝搬特性が良くなり、トンネル区間でLCXの干渉が発生する可能性も400MHz帯などと比べて高くなっている。
【0010】
この発明は、このような問題を解消し、LCX境界における干渉をノンフェールセーフな無線機で実現する方式でなくフェールセーフな地上装置で簡単な処理で干渉を防いで地上と車上間で通信を行う無線通信制御システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の無線通信制御システムは、地上と列車間で情報を授受する無線通信制御システムにおいて、列車が走行する走行路の路側に連続して設置された複数の漏洩同軸ケーブル(LCX)と、走行路の制御範囲毎に設けられた複数の無線制御論理部と、前記各LCXに接続された無線機とを有し、前記LCXは、制御区間毎に第1のチャンネルと第2のチャンネルのグループが交互に複数組設けられ、前記無線制御論理部は、それぞれFSCPUと伝送部を有し、前記FSCPUはあらかじめ設定されたシステム周期毎に前記伝送部と時分割でデータを授受し、前記伝送部と制御区間毎に設けられた各無線機は光ケーブルでリング状に接続され、前記伝送部は、前記FSCPUからシステム周期毎に出力されるデータを第1のチャンネルと第2のチャンネルで時分割して前記無線機に伝送することを特徴とする。
【0012】
前記無線制御論理部の伝送部は、制御区間毎に設けられた複数の無線機とデータを授受する対車上伝送部と、隣接する無線制御論理部の境界伝送部に接続されて境界伝送データを授受する境界伝送部とを有し、最上流の無線制御論理部の対車上伝送部は、前記FSCPUからシステム周期にしたがってデータ書込みがあると一定タイミングt1をおいて書き込まれたデータを第1のチャンネルと第2のチャンネルで時分割して前記無線機に伝送し、前記境界伝送部は、データ書込みをトリガーとして一定タイミングt1をおいて同期用の境界伝送データを下流側の無線制御論理部の境界伝送部に伝送し、最上流の無線制御論理部より下流側の無線制御論理部の境界伝送部は、上流側の境界伝送部から境界伝送データが送られるとFSCPUのシステム周期の初期時から境界伝送データを受信した時の時間差をオフセット時間として記憶し、また、境界伝送データを受信後、同期用の境界伝送データを隣接する無線制御論理部の境界伝送部に伝送し、上流側の境界伝送部から境界伝送データを受信したときのシステム周期の次のシステム周期が開始してFSCPUからデータ書込みがあると、対車上伝送部は境界伝送部に記憶したオフセット時間と一定タイミングt1をおいて書き込まれたデータを第1のチャンネルと第2のチャンネルで時分割に送信することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明は、複数のLCXを列車の制御区間毎に第1のチャンネルと第2のチャンネルのグループを交互に複数組連続して設置し、システム周期毎に出力されるデータを第1のチャンネルと第2のチャンネルで時分割して送信するから、単一の周波数チャンネルで車上装置にデータを送信しても、同じ制御区間に設けた隣接するLCX間で電波の干渉が生じることを回避することができ、地上から列車に安定してデータを送信することができとともに、列車で無線チャンネルの切り替えが不要となり、LCX境界の通過が容易になる。
【0014】
また、無線制御論理部の伝送部と制御区間毎に設けられた各無線機を光ケーブルでリング状に接続してインテリジェントな伝送部を有するいわゆるLANの形態をとらないから、構成を単純化することができる。
【0015】
さらに、隣接する無線制御論理部の境界伝送部の間で境界伝送データを授受して対車上伝送部から各無線機にデータを伝送するときのタイミングに同期をとるから、各無線制御論理部が設けられた制御区間の境界において隣り合うLCXで送信する電波が干渉することを防ぎ、連続して地上と列車で通信を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1はこの発明の地上と列車間で情報を授受する無線通信制御システムの構成を示すブロック図である。図に示すように、無線通信制御システムは、列車1に搭載された車上装置2と地上装置3を有する。車上装置2は列車1の位置を計測し、計測した列車位置を示す列車位置情報と列車識別情報や列車長情報などの列車情報を、無線を利用して地上に送信し、地上装置3から送信される列車制御情報を受信して列車1の速度を制御する。
【0017】
地上装置3は列車1が走行する走行路4の路側に連続して設置された複数の漏洩同軸ケーブル(LCX)5と、走行路4の制御範囲毎に設けられた複数の無線制御論理部6と、各LCX5に接続された無線機7とを有する。LCX5は制御区間毎にAチャンネルのLCX5とBチャンネルのLCX5のグループが交互に複数組、例えば2組設けられている。無線制御論理部6はそれぞれFSCPU8と、境界伝送部9と対車上伝送部10からなる伝送部11を有する。FSCPU8はあらかじめ設定されたシステム周期毎に伝送部11と時分割でデータを伝送部11に出力し、伝送部11から送られるデータを入力する。境界伝送部9は光ケーブル12により隣接する無線制御論理部6の境界伝送部9に接続されて境界伝送データを授受する。対車上伝送部10は制御区間毎に設けられた無線機7とデータを授受する。この対車上伝送部10と制御区間毎に設けられた各無線機7の接続はLANの形態をとらず、制御区間毎に設けられた各無線機7は対車上伝送部10と光ケーブル13でリング状に接続され、単純に構成されている。この光ケーブル13は制御区間毎に設けられたLCX5の第1のチャンネル及び第2のチャンネルに対応した伝送チャンネルを有する。
【0018】
この地上装置3で無線制御論理部6から車上装置2への下りデータは無線機7がデータの送信と次の無線機7への中継を行ってブロードキャストな送信を可能とする。また、車上装置2から無線制御論理部6への上りデータはデータを受信したLCX5に接続された無線機7は受信データを次の無線機7に送り、各無線機7が無線制御論理部6まで次々に中継する。
【0019】
また、各制御区間のLCX5の境界ではオーバーラップ区間を設け、この区間では車上装置2が両方のLCX5と通信をすることによりLCX5の境界の通過も円滑に行う。
【0020】
この無線制御論理部6のFSCPU8からシステム周期毎に時分割で出力されるデータを対車上伝送部10で無線機7とLCX6を介して車上装置2に送信し、LCX6と無線機7を介して車上装置2から送信されデータを受信するとき、図2のタイムチャートに示すように、車上装置2に対する送信をAチャンネルのLCX5を介して行った後に受信許可としてAチャンネルとBチャンネルのLCX5を介して車上装置2からのデータを受信し、その後、BチャンネルのLCX5を介して車上装置2に対する送信を行った後に受信許可としてAチャンネルとBチャンネルのLCX5を介して車上装置2からのデータを受信し、その後、アイドリング状態となり、FSCPU8のシステム周期毎に車上装置2に対する送信をAチャンネルのLCX5とBチャンネルのLCX5で時分割して単一の周波数チャンネルで電波の干渉を起こさないようにしている。
【0021】
この地上装置3の無線制御論理部6で車上装置2とデータを送受信するときの処理を図3の信号シーケンス図を参照して説明する。
【0022】
1つの無線制御論理部6に接続するLCX5をAチャンネルとBチャンネルの2群に分けて車上装置2に送信するデータを時分割で伝送することによりLCX5の信号が干渉することを回避しても、各無線制御論理部6のシステム周期は非同期であり、制御区間の境界においては隣り合うLCX5で電波の干渉が生じてしまう。そこで、隣接する無線制御論理部6の間で車上装置2に送信するときに同期をとり、各無線制御論理部6内と同様に車上装置2に送信するデータを時分割で伝送する。そこで図3に示すように、最上流の無線制御論理部6aはFSCPU8aからシステム周期にしたがって伝送部11aにデータ書込みがあると、対車上伝送部10aはデータが書込みから一定タイミングt1をおいて書き込まれたデータをAチャンネルで送信し、境界伝送部9aもデータ書込みをトリガーとして一定タイミングt1をおいて同期用の境界伝送データを下流側の無線制御論理部6bの境界伝送部9bに伝送する。対車上伝送部10aはデータをAチャンネルで送信した後、所定タイミングをおいてBチャンネルで送信して、図2に示すように、システム周期毎に車上装置2に対する送信をAチャンネルのLCX5とBチャンネルのLCX5で時分割して繰り返す。
【0023】
一方、無線制御論理部6bの境界伝送部9bは上流側の境界伝送部9aから境界伝送データが送られるとFSCPU8bのシステム周期の初期時から境界伝送データを受信した時の時間差t21をオフセットとして記憶し、また、境界伝送データを受信後、同期用の境界伝送データを隣接する無線制御論理部6a,6cの境界伝送部9a,9cに伝送する。そして境界伝送部9aから境界伝送データを受信したときのシステム周期の次のシステム周期が開始してFSCPU8bから伝送部11bにデータ書込みがあると、対車上伝送部10bは境界伝送部9bに記憶したオフセットt21と一定タイミングt1をおいて書き込まれたデータをAチャンネルとBチャンネルで時分割に送信する。
【0024】
また、無線制御論理部6cの境界伝送部9cは上流側の境界伝送部9bから境界伝送データが送られるとFSCPU8cのシステム周期の初期時から境界伝送データを受信した時の時間差t31をオフセットとして記憶する。また、境界伝送データを受信後、同期用の境界伝送データを隣接する無線制御論理部6bの境界伝送部9bに伝送する。そして境界伝送部9bから境界伝送データを受信したときのシステム周期の次のシステム周期が開始してFSCPU8cから伝送部11cにデータ書込みがあると、対車上伝送部10cは境界伝送部9cに記憶したオフセットt31と一定タイミングt1をおいて書き込まれたデータをAチャンネルとBチャンネルで時分割に送信する。なお、実用上は、境界通信データ容量により遅延が発生するため、送信時間と同期条件により調整時間t21〜t23,t31〜t33をその分調節する必要があるが、処理の説明のため特に図3には示していない。
【0025】
この処理を無線制御論理部6a〜6cのシステム周期毎に繰り返して、隣接する無線制御論理部6の間で車上装置2に送信するときにラフな同期をとり、車上装置2に送信するデータを時分割で伝送して、無線制御論理部6a〜6cが設けられた制御区間の境界において隣り合うLCX5で電波の干渉が生じることを防ぎ、連続して地上装置3と車上装置2で通信を行うことができる。
【0026】
前記説明では列車1が走行する走行路4の路側にLCX5を連続して設置した場合について示したが、LCX5の代わりにアンテナを走行路4に沿って連続して設置しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の地上と列車間で情報を授受する無線通信制御システムの構成を示すブロック図である。
【図2】対車上伝送部でデータを送受信するタイミングを示すタイムチャートである。
【図3】無線制御論理部で車上装置をデータを送受信するときの処理を示す信号シーケンス図である。
【符号の説明】
【0028】
1;列車、2;車上装置、3;地上装置、4;走行路、5;LCX、
6;無線制御論理部、7;無線機、8;FSCPU、9;境界伝送部、
10;対車上伝送部、11;伝送部、12;光ケーブル、13;光ケーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上と列車間で情報を授受する無線通信制御システムにおいて、
列車が走行する走行路の路側に連続して設置された複数の漏洩同軸ケーブル(LCX)と、走行路の制御範囲毎に設けられた複数の無線制御論理部と、前記各LCXに接続された無線機とを有し、
前記LCXは、制御区間毎に第1のチャンネルと第2のチャンネルのグループが交互に複数組設けられ、
前記無線制御論理部は、それぞれFSCPUと伝送部を有し、前記FSCPUはあらかじめ設定されたシステム周期毎に前記伝送部と時分割でデータを授受し、前記伝送部と制御区間毎に設けられた各無線機は光ケーブルでリング状に接続され、
前記伝送部は、前記FSCPUからシステム周期毎に出力されるデータを第1のチャンネルと第2のチャンネルで時分割して前記無線機に伝送することを特徴とする無線通信制御システム。
【請求項2】
前記無線制御論理部の伝送部は、制御区間毎に設けられた複数の無線機とデータを授受する対車上伝送部と、隣接する無線制御論理部の境界伝送部に接続されて境界伝送データを授受する境界伝送部とを有し、
最上流の無線制御論理部の対車上伝送部は、前記FSCPUからシステム周期にしたがってデータ書込みがあると一定タイミングt1をおいて書き込まれたデータを第1のチャンネルと第2のチャンネルで時分割して前記無線機に伝送し、前記境界伝送部は、データ書込みをトリガーとして一定タイミングt1をおいて同期用の境界伝送データを下流側の無線制御論理部の境界伝送部に伝送し、
最上流の無線制御論理部より下流側の無線制御論理部の境界伝送部は、上流側の境界伝送部から境界伝送データが送られるとFSCPUのシステム周期の初期時から境界伝送データを受信した時の時間差をオフセット時間として記憶し、また、境界伝送データを受信後、同期用の境界伝送データを隣接する無線制御論理部の境界伝送部に伝送し、上流側の境界伝送部から境界伝送データを受信したときのシステム周期の次のシステム周期が開始してFSCPUからデータ書込みがあると、対車上伝送部は境界伝送部に記憶したオフセット時間と一定タイミングt1をおいて書き込まれたデータを第1のチャンネルと第2のチャンネルで時分割に送信することを特徴とする請求項1記載の無線通信制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−68256(P2010−68256A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232765(P2008−232765)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】