説明

無線通信装置、無線通信方法および経路情報テーブルの作成方法

【課題】アドホック無線ネットワークにおいて通信の効率化を図ることができる技術を提供する。
【解決手段】アドホック無線ネットワークにおける各ノードは、宛先ノードごとの隣接中継ノードと、2ホップ以上中継経路が共通する宛先ノードの組み合わせを経路情報テーブルに保有する。各ノードは、2ホップ以上中継経路が共通するパケットをマルチホップ統合パケットとして統合して送信し、1ホップのみ中継経路が共通するパケットを1ホップ統合パケットとして統合して送信する。また、この統合判定処理において、1ホップ統合パケットを最初に作成したノードに経路更新通知ができると判定された場合には、経路更新通知を行うことでそのノードの経路情報テーブルを更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線パケット通信において経路が重複するパケットを統合して送信する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線LANなどではCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance:搬送波感知多重アクセス/衝突回避)方式を用いて無線パケット通信が行われている。CSMA/CA方式では、共通の無線チャネルを共用して通信するために、他のノードが無線チャネルを使用していないか確認してからパケットの送信を行う。この際、送信ノードは、DIFSとバックオフ時間だけ待機し、この間に他の通信が行われなければパケットの送信を開始する。このように、パケット送信の間に待ち時間(オーバヘッド)が発生するため、細かいパケットを多数送ることは効率的ではない。
【0003】
このようなオーバヘッドを回避するために、同一の送受信ノード間で連続して複数のパケットを送信する場合には、DIFSよりも短いSIFS間隔でパケットを連続して(バースト的に)送信する技術が知られている。DIFSよりも短い間隔で続けてパケット送信するため、連続するパケットの間に他のノードが送信を開始することはない。また、連続するパケット送信の間隔が短くなるため、オーバヘッドを減らしスループットを向上させることができる。
【0004】
また、複数のパケットを連結してマルチキャストパケットとして送信することで、送信するパケット数を減らす技術が知られている(特許文献1)。この技術によれば、送信するパケット数を減らすことで、待ち時間によるオーバヘッドを回避することができる。
【0005】
また、ネットワーク内の経路情報をあらかじめ保有しておき、送信するパケットの宛先から同一の経路を通るパケットを統合して送信する技術も知られている(特許文献2)。この技術によっても、同様に、送信するパケットの数を減らすことができるので待ち時間によるオーバヘッドを回避することが可能である。
【0006】
ところで、アドホック無線ネットワークという形態のネットワークシステムが知られている。アドホック無線ネットワークは、基地局や専用線といった基盤インフラに依存せずに、移動端末同士が一時的に構築する自律型無線ネットワークである。ノード間で距離が離れている場合など直接通信(1ホップ通信)ができない場合には、途中に存在するノードを中継してマルチホップ通信することによって情報を交換する。つまり、各ノードは通信装置として機能するだけでなく、無線通信の中継機能(ルーティング機能)も持つことになる。
【0007】
アドホック無線ネットワークを構成する無線通信装置は、移動によりノード間の距離が変化し通信可能なノードが変化する。また、移動のみならず、障害物や干渉等による電波品質の急激な変動なども生じる。このような原因によって、アドホック無線ネットワークは、ネットワークトポロジーが頻繁に変化することに特徴がある。
【特許文献1】特開2005−57373号公報
【特許文献2】特開2005−223656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アドホック無線ネットワークにおいて、上述したような待ち時間によるオーバヘッドを
抑制するために、上記従来技術を適用すると以下のような問題が生じる。
【0009】
まず、複数のパケットをSIFS間隔でバースト的に送信する技術は、同一の送受信ノード間で行われる通信に適用されるものであるため、効果を発揮する場面が限られてしまう。また、異なる送信先に対してバースト的に送信することでオーバヘッドを抑制する技術も存在するが、1ホップ間での通信を効率化するものであり、マルチホップするパケットを連続して送信する際には適用できない。
【0010】
また、アドホック無線ネットワークにおいてマルチキャスト通信を実現するためには、マルチキャストグループを構築しなければならないが、この処理は煩雑である。さらに、アドホック無線ネットワークにおいては、ネットワークトポロジーが頻繁に変化するので、マルチキャストグループの更新も頻繁に行う必要が生じる。このように、マルチキャストを用いて通信待ち時間を削減する特許文献1の方法では、マルチキャストグループの作成及び更新にオーバヘッドを要するというデメリットが存在する。
【0011】
また、特許文献2記載の技術は共通する経路のパケットを統合して送信するが、ネットワークトポロジーが変化せず、かつ、経路情報をあらかじめ全て保有していることを前提としている。しかしながら、一般的に経路制御装置(ルータ)は、宛先アドレスごとに次に転送するアドレスのみを保有することが一般的であり、全ての経路についての情報を持つことは現実的ではない。また、アドホック無線ネットワークでは、経路が動的に確立されるため、経路情報をあらかじめ保有することは困難である。
【0012】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、アドホック無線ネットワークにおいて、効率的な通信を実現することのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明では、以下の手段または処理によって効率的な無線パケット通信を行う。
【0014】
本発明に係る無線通信装置は、アドホック無線ネットワークにおいて、中継経路が共通する複数のパケットを1つのパケットに統合して(まとめて)送信する無線通信装置である。アドホック無線ネットワークにおいては、無線通信装置(ノード)は他のノードと直接あるいは1又は複数の中継ノードを介して無線パケット通信を行う。本明細書中においては、パケットを送信するノードを送信ノード、送信ノードがパケット(情報)を送り届けたい相手のノードを宛先ノード、送信ノードから宛先ノードへパケットを送信する際にこのパケットを中継するノードを中継ノードと呼ぶ。
【0015】
本発明に係る無線通信装置は、経路情報記憶手段、統合パケット生成手段、およびパケット送信手段を備える。経路情報記憶手段は、あるノードにパケットを送信する場合に、1ホップ先のノード(以下、隣接ノードともいう)のうちどのノードにパケットを転送すればいいかを記憶する。経路情報記憶手段は、また、中継経路が2ホップ以上共通する宛先ノードの組み合わせ及びどの中継ノードまで中継経路が共通するかという情報を記憶する。
【0016】
統合パケット生成手段は、送信する複数のパケットの中継経路が、2ホップ以上先の中継ノードまで一致するか判定し、一致する場合にはこれら複数のパケットを統合して該経路上の中継ノードを宛先とする1つのパケット(以下、マルチホップ統合パケットという)を生成する。なお、マルチホップ統合パケットの宛先は、共通の中継経路上の最も遠い(ホップ数の多い)中継ノードであることが好ましい。また、統合パケット生成手段は、
これら複数のパケットの中継経路が2ホップ以上共通しない場合には、1ホップ先の中継ノードが一致するか判定し、一致する場合には複数のパケットを統合してその中継ノードを宛先とする1つのパケット(以下、1ホップ統合パケットという)を生成する。
【0017】
パケット送信手段は、統合パケット生成手段が生成した統合パケット(マルチホップ統合パケット及び1ホップ統合パケットの両方を指す。)を送信する。
【0018】
本発明に係る無線通信装置によれば、2ホップ以上先の中継ノードまで中継経路が共通するパケットを統合して送信することができ、複数のパケットを個別に送信する場合に比較して通信処理が効率化される。特に2ホップ以上先までパケットを統合して送信することによって、ホップごとにパケットの統合・復元をする必要がないため、効率的な通信が実現できる。
【0019】
また、1ホップ先の中継ノードは、アドホック無線ネットワークにおける既存のプロトコルを利用して取得することが容易である。したがって、本発明に係る無線通信装置は、経路情報が完全に取得できておらず2ホップ以上先の中継ノードまでの中継経路が分からない場合であっても、少なくとも1ホップだけは複数のパケットを統合して送信することが可能であり、これにより通信処理が効率化される。
【0020】
本発明に係る無線通信装置は、受信した統合パケットを復元する統合パケット復元手段をさらに有することが好ましい。本発明に係る無線通信装置は、自ノードが宛先として指定された統合パケットを受信した場合には、この統合パケット復元手段によって受信した統合パケットを復元することが好ましい。そして、統合パケット生成手段は、復元された複数のパケットの中継経路が共通するか判断し、共通する場合にはこれら複数のパケットを再び統合してマルチホップ統合パケット又は1ホップ統合パケットを上記と同様に生成することが好ましい。このような構成によれば、経路情報記憶手段に2ホップ以上先の経路に関する情報が構築されていない状況であっても、パケットの統合及び復元を繰り返すことで、複数のパケットを個別に送信する場合よりも通信処理を効率化することができる。また、経路情報記憶手段の蓄積状況によっては、送信ノードではマルチホップ統合できないと判定された場合であっても、中継経路上の中継ノードにおいてはマルチホップ統合可能と判定される場合もある。このような場合でも、中継経路の途中からマルチホップ統合パケットとすることができるので通信処理が効率化される。すなわち、全ての無線通信装置が経路情報を完全に取得できていない状況であっても、効率的な通信が実現される。
【0021】
本発明に係る無線通信装置において、1ホップ統合パケットには、内部に含まれる複数のパケットを最初に統合したノードのアドレスが統合元ノードとして格納されていることが好ましい。そして、1ホップ統合パケットを受信して復元した中継ノードが、復元して得た複数のパケットを統合して送信できないと判定した場合には、統合元のノードに経路更新通知を行う。すなわち、統合元ノードからこのノードまでは、1ホップごとに1ホップ統合パケットの生成と復元を繰り返してパケットが中継されているので、これらのパケットの中継経路は統合元ノードからこのノードまで共通することが判断できる。そこで、このノードは統合元ノードにその旨の通知を行う。この経路更新通知を受信したノードは、その通知内容に基づいて経路情報を更新する。
【0022】
また、1ホップ統合パケットを受信して復元した中継ノードが、復元して得た複数のパケットをマルチホップ統合パケットに統合できる場合、すなわちこの中継ノードから2ホップ以上先の中継ノードまでの経路が共通すると判定した場合には、1ホップ統合パケットに含まれる統合元ノードに対して経路更新通知を行う。このような状況では、統合元ノードからマルチホップ統合パケットに統合して送信することが可能であることが判断できる。そこで、このノードは統合元ノードにその旨の通知を行う。この経路情報更新通知に
は、複数の宛先ノードのアドレスと、これらの宛先ノードの中継経路がどの中継ノードまで共通するかという情報が含まれる。この経路情報更新通知を受信したノードは、この通知に基づいて経路情報を更新する。
【0023】
このような処理によって、統合元ノードに複数の宛先ノードの共通経路を通知することで、経路情報を動的に構築することができる。また、ネットワークトポロジーに変化が生じ経路が変更になった場合であっても、短時間で新しい経路情報を構築することが可能となる。
【0024】
なお、上記経路情報更新通知も中継ノードを介して統合元ノードまで送信されるが、この経路情報更新通知を中継したノードも、この通知に基づいて、経路情報記憶手段を更新することが好ましい。このような構成をとることで、経路情報更新通知の中継経路上のノードの経路情報が全て更新されるため、より迅速に経路情報を構築することが可能となる。
【0025】
本発明に係る無線通信装置において、統合パケット生成手段は、1ホップ統合パケットを生成する際に、統合する複数のパケットがパケット復元手段によって1ホップ統合パケットから復元されたものではない場合には、生成する1ホップ統合パケット内に自ノードのアドレスを統合元アドレスとして格納する。逆に、統合する複数のパケットがパケット復元手段によって1ホップ統合パケットから復元されたものである場合には、復元前の1ホップ統合パケットに含まれる統合元アドレスを、新たに生成する1ホップ統合パケットに格納する。このようにして、1ホップずつ統合パケットを生成・復元して中継する場合に、統合元のノードのアドレスが1ホップ統合パケット内に保持されて中継されていく。
【0026】
なお、本発明は上記処理の少なくとも一部を含む無線通信方法、または、かかる方法を実現するためのプログラムとして捉えることもできる。また、上記処理によって経路情報を記憶する経路情報テーブルを作成する方法、または、かかる方法を実現するためのプログラムとして捉えることも可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、アドホック無線通信ネットワークにおいて、通信の効率化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0029】
本実施形態では、複数の移動可能な無線通信装置からアドホック無線ネットワークが構成される。各無線通信装置は、共通の無線チャネルを用いて無線パケット通信を行う。そして、パケットの衝突を回避するために、各無線通信装置はCSMA/CA方式を利用して無線通信を行う。具体的には、IEEE802.11系の無線LANのアクセス方式を採用する。もっとも、他の無線通信方式を採用しても構わない。なお、移動可能な無線通信装置には、ノートパソコン、携帯電話機、PDA(Personal Data Assistant)等のよ
うにその装置自体を持ち運び可能なものの他、自動車等に固定されて設置されてはいるが、設置された対象物(自動車等)が移動体であるため移動する無線通信装置も含まれる。
【0030】
アドホック無線ネットワークでは、ネットワークを構成する全てのノード(無線通信装置)が中継機能(ルータ機能)を有する。すなわち、各ノードは、経路情報テーブルを有しており、その経路情報テーブルに基づいて、宛先ノードごとにどのノードを中継ノードとしてパケットの中継を行えばよいか判断できる。なお、アドホック無線ネットワークでは、ネットワークトポロジーが頻繁に変化するため、経路情報テーブルは常に更新される
必要がある。
【0031】
本実施形態では、共通の中継経路を有する複数のパケットを統合して送信することで、パケット送信の間に発生する待ち時間による無駄を解消する。なお、本明細書では、2ホップ以上中継経路が共通する複数のパケットを、2ホップ以上先のノードまで統合して送信することをマルチホップ統合送信という。また、マルチホップ統合送信の際に生成される、複数のパケットが統合されたパケットのことを、マルチホップ統合パケットという。また、次ホップが共通する複数のパケットを、次ホップまで統合して送信することを1ホップ統合送信という。また、1ホップ統合送信の際に生成される、複数のパケットが統合されたパケットのことを、1ホップ統合パケットという。
【0032】
以下では、パケットの統合処理について詳しく説明する。また、このパケットの統合処理は経路情報に基づいて行われるため、上記の目的に適した経路情報テーブルの作成・更新の方法についても詳しく説明する。
【0033】
<機能構成>
まず、本実施形態における無線通信装置1について説明する。無線通信装置1は、ハードウェア構成としては、バスを介して接続されたCPU(中央演算処理装置)、主記憶装置(RAM)、補助記憶装置(ROM)、通信インタフェースなどを備えるように構成されてもよい。
【0034】
図1は、無線通信装置1の機能ブロック例を示す図である。本実施形態における無線通信装置1は、補助記憶装置に記憶された各種のプログラム(OS、アプリケーション等)が主記憶装置にロードされCPUによって実行されることによって、パケット受信部2、パケット判定部3、パケットバッファ部4、統合パケット生成部7、統合パケット復元部6、経路情報テーブル5、パケット送信部8、経路更新部9として機能する。また、本実施形態における無線通信装置1の全部又は一部の機能は、専用のチップによって構成されても良い。
【0035】
パケット受信部2は、他のノード(無線通信装置)からパケットを受信する。パケット受信部2によって受信されたパケットは、パケット判定部3へと渡される。パケット判定部3は、受信したパケットを判定してその処理方法を決定する。
【0036】
パケット判定部3は、受信したパケットが自ノード宛の統合パケットである場合には、このパケットを統合パケット復元部6に渡す。統合パケット復元部6は、この統合パケットを個々のパケットに分解(復元)し、復元された個々のパケットは再びパケット判定部3によって処理方法が決定される。
【0037】
受信したパケットが自ノード宛の通常パケット(統合されていないパケットのことをいう)の場合は、パケット判定部3は、このパケットを上位層へと転送する。
【0038】
受信したパケットが自ノード宛ではない統合パケットである場合には、パケット判定部3は、このパケットをパケットバッファ部4にバッファする。
【0039】
受信したパケットが自ノード宛ではない通常パケットである場合には、パケット判定部3は、このパケットを統合処理の対象とするか否か判定する。この判定処理は、パケットの性質に基づいて行われる。例えば、パケット判定部3は、このパケットの許容遅延量が小さい場合やパケットサイズが大きい場合には統合処理の対象としないと判定する。許容遅延量が小さいパケットを統合処理の対象としないのは、統合するためにはバッファリングする必要があるがバッファリングすると遅延が大きくなるためである。また、大きいパ
ケットを統合処理の対象としないのは、パケットサイズが大きいパケットを統合してもオーバヘッド抑制の効果が少ないためである。また、パケットサイズには上限値が定められているので、上限に近いサイズのパケットは他のパケットと統合できない場合が多いためでもある。
【0040】
経路情報テーブル5には、パケットの中継経路に関する情報が格納される。図2はアドホック無線ネットワークにおける各ノードの位置関係の例を示す図である。図2において、直接通信(1ホップ通信)できるノード同士は直線でつながれている。図3は図2のノードcが有する経路情報テーブル5の例である。経路情報テーブル5には、宛先ノードごとに、次の転送ノードのアドレス(「転送先」)、宛先ノードまでのホップ数(「ホップ数」)、マルチホップ統合送信可能なノードのアドレス(「マルチホップ統合ノード」)、及びどのノードまでマルチホップ統合可能か(「マルチホップ統合送信宛先」)を示す情報が格納される。図3の経路情報テーブルを参照すると、例えば、ノードcからノードhまでパケットを送信する場合には、次に転送すべきノードはノードdであり4ホップでノードhまで到達することが分かる。また、例えば、ノードcからノードhまでパケットを送信する場合には、ノードg,i宛のパケットをノードgまで、ノードe,f宛のパケットをノードeまで統合して送信できることが分かる。
【0041】
なお、図3は経路情報テーブル5の例示であり、宛先ノードごとの次ホップノード、中継経路が2ホップ以上共通する宛先ノードの組み合わせ及びどのノードまでマルチホップ統合送信可能かという情報が格納されるのであれば、どのような具体的構造であっても構わない。
【0042】
統合パケット生成部7は、パケットバッファ部4に格納された複数のパケットを、経路情報テーブル5を参照して統合して送信することが可能か判定し、統合して送信可能な場合には統合パケットを生成する。本実施形態では、統合パケット生成の際には、2ホップ以上中継経路が共通する複数のパケットを統合したマルチホップ統合パケットを優先的に生成し、マルチホップ統合パケットを生成できないパケットを対象に1ホップだけ中継経路が共通する1ホップ統合パケットを生成する。このように、マルチホップ統合パケットを優先的に生成することで、複数のパケットを送信することによる通信待ち時間等のオーバヘッドを効果的に抑制することができる。
【0043】
統合パケット生成部7が行う複数のパケット中継経路に基づいてパケットを統合するパケット統合処理の詳細や、統合パケット生成部7が生成する統合パケット(マルチホップ統合パケット及び1ホップ統合パケット)のパケット構成は、後で詳細に説明する。
【0044】
パケット送信部8は、統合パケット生成部7によって生成された統合パケットや、パケット判定部3によって統合せずに送信すると判定されたパケットを送信する。パケット送信部8は、また、パケットバッファ部4に一定期間以上格納されたパケットも送信する。
【0045】
経路更新部9は、経路情報テーブル5の更新を行う。具体的には、他ノードに対して経路情報を通知する処理及び、他ノードからの通知にしたがって経路情報テーブル5を更新する処理を行う。この経路更新処理の詳細についても後で詳細に説明する。
【0046】
<パケット構造>
[1ホップ統合パケット]
図4は、1ホップ統合パケットの構造を説明する図である。1ホップ統合パケットは、統合パケットヘッダ20と、それに続く統合される通常のパケット21a〜21nによって構成される。
【0047】
統合パケットヘッダ20は、コントロールヘッダ201、受信者MACアドレス202、送信者MACアドレス203、統合パケット数204、統合元アドレス205、パケット1オフセット値206a、・・・、パケットnオフセット値206nから構成される。
【0048】
コントロールヘッダ201には、このパケットが1ホップ統合パケットであることを表す値が格納される。受信者MACアドレス202には、この1ホップ統合パケットを受信するノード、すなわち、統合された複数のパケットの共通の1ホップ先の中継ノードのMACアドレスが格納される。送信者MACアドレス203には、この1ホップ統合パケットを送信するノード、すなわち、この1ホップ統合パケットを生成したノードのMACアドレスが格納される。統合パケット数204には、この1ホップ統合パケットに統合されたパケットの数が格納される。統合元アドレス205には、この1ホップ統合パケットに含まれるパケットを最初に統合したノードのアドレスが格納される。1ホップ統合パケットは、後述するように復元された後に再び1ホップ統合パケットとして再統合される場合がある。この場合、統合元アドレス205に格納されるアドレスは再統合前と後とで同一のアドレスが使用される。パケット1オフセット値206aにはパケット21aの開始位置を示すオフセット値、パケットnオフセット値206nにはパケット21nの開始位置を示すオフセット値が格納される。
【0049】
本実施形態では、上述のようなパケット構造を取るが、例えば、通常のMACヘッダに、統合パケット数204、統合元アドレス205、パケット1オフセット値206a〜パケットnオフセット値206nを追加したヘッダと、統合される複数のパケットが連結されたペイロードとからなるパケット構造であっても良い。
【0050】
[マルチホップ統合パケット]
図5は、マルチホップ統合パケットの構造を説明する図である。マルチホップ統合パケットは、統合パケットヘッダ30と、それに続く統合される通常のパケット31a〜31nによって構成される。
【0051】
統合パケットヘッダ30は、コントロールヘッダ301、次ホップMACアドレス302、送信者MACアドレス303、転送先IPアドレス304、転送元IPアドレス305、統合パケット数306、パケット1オフセット値307a、・・・、パケットnオフセット値307nから構成される。
【0052】
コントロールヘッダ301には、このパケットがマルチホップ統合パケットであることを表す値が格納される。次ホップMACアドレス302には、このマルチホップ統合パケットを次に中継するノードのアドレスが格納される。送信者MACアドレス303には、このマルチホップ統合パケットを送信あるいは中継するノードのMACアドレスが格納される。転送先IPアドレス304には、このマルチホップ統合パケットが最終的に届けられるノードのIPアドレスが格納される。マルチホップ統合パケットは、この転送先IPアドレス304のノードまで復元されずに統合されたままの状態で送信される。転送元IPアドレス305には、このマルチホップ統合パケットを生成したノードのIPアドレスが格納される。統合パケット数306には、このマルチホップ統合パケットに統合されたパケットの数が格納される。パケット1オフセット値307aにはパケット31aの開始位置を示すオフセット値、パケットnオフセット値307nにはパケット31nの開始位置を示すオフセット値が格納される。
【0053】
本実施形態では、マルチホップ統合パケットは上記のような構造を取るが、これに限られるものではない。マルチホップ統合パケットは、2ホップ以上先のノードを宛先とするためIP層で処理されるべきであるため、ペイロードとして統合された複数のパケット31a〜31n、IPヘッダとして従来のIPヘッダ(転送先IPアドレス、転送元IPア
ドレスは含まれる)に統合パケット数及び各パケットのオフセット値を追加したものを利用し、さらにMACヘッダを付加した構造を取っても良い。
【0054】
<パケット判定処理>
無線通信装置1によって受信されたパケットは、まずパケット判定部3によって、どのように処理すべきかが判定される。すなわち、パケット判定部3は、受信したパケットを、上位層に渡すべきか、そのまま転送すべきか、統合パケットに統合可能か判定すべきか、ということを判定する。図6は、パケット判定部3が行うパケット判定処理の流れを示すフローチャートである。
【0055】
まず、パケット受信部2がパケットを受信し、受信したパケットをパケット判定部3へと渡す(S101)。パケット判定部3は、このパケットが自ノード宛であるか判定する(S102)。自ノード宛であると判定された場合(S102−YES)は、このパケットが統合パケットであるか判断する(S103)。統合パケットである場合(S103−YES)には、統合パケット復元部6がこのパケットを復元(分解)する(S104)。復元されたパケットは再びパケット判定部3によって処理内容が判定される(S103)。受信した自ノード宛のパケットが統合パケットではない場合(S103−NO)、パケット判定部3は、このパケットを上位層へ転送し(S105)、判定処理を終了する。
【0056】
受信したパケットが自ノード宛ではない場合(S102−NO)、このパケットが統合パケットであるか判断する(S106)。統合パケットではない場合(S106−NO)は、このパケットがパケットを統合するための条件に合致するか判断する(S107)。ここでのパケットを統合するための条件とは、例えば、許容遅延量が所定の閾値より小さいかや、パケットサイズが所定の閾値より小さいかという、パケット統合に適するか否かの条件である。パケットを統合するための条件に合致しない場合(S107−NO)は、このパケットはパケット送信部8に渡され(S108)、統合されない状態でパケット送信部8によって送信される。パケットを統合するための条件に合致する場合(S107−YES)や、このパケットが統合パケットである場合(S106−YES)には、このパケットをパケットバッファ部4にバッファする(S109)。パケットバッファ部4にバッファされたパケットは、後述する統合判定の対象となる。
【0057】
なお、上記では統合パケットをさらに統合することを想定している(S106−YES〜S109)が、統合パケットであると判定された場合(S106−YES)には、そのままパケット送信部8によって送信しても構わない。統合パケットをさらに統合すると、処理に時間がかかってしまうことも考えられるので、これを省略して処理を簡素化できる。
【0058】
<パケット統合処理>
図7は、本実施形態における無線通信装置1が行う、パケットの中継経路に基づいて統合パケットを生成する処理の流れを示すフローチャートである。
【0059】
統合パケット生成部7は、パケットバッファ部4から所定数の複数のパケットを取得する(S201)。
【0060】
そして、統合パケット生成部7は、取得した複数のパケットのうちからマルチホップ統合送信可能なパケットが存在するか判定する(S202)。具体的には、取得した複数のパケットのうちに、経路情報テーブル5に格納されているマルチホップ統合送信可能な宛先ノードの組み合わせが存在するか否かによって判定する。
【0061】
マルチホップ統合送信可能であると判定された場合(S202−YES)には、統合パ
ケット生成部7は、マルチホップ統合パケットを生成する(S203)。マルチホップ統合パケットの構造は既に説明したとおりである。なお、パケットバッファ部4より取得した複数のパケットから、統合パケットに統合するパケットを選択する方法は様々なものが考えられる。例えば、最も遠い(ホップ数の多い)ノードまで中継経路が共通するパケットを統合する方法(この場合、統合パケットに統合されるパケットの数は少なくなる)や、最も多くのパケットを1つの統合パケットにできるように統合する方法(この場合、統合パケットの宛先は近い(ホップ数が少ない)ノードとなる)など、統合するパケットを選択するアルゴリズムには様々なものが考えられる。なお、本実施形態では、最もホップ数の多いノードまで統合して送信できる統合パケットを生成する、ホップ数優先のアルゴリズムを用いる。
【0062】
マルチホップ統合パケットが生成された場合は他ノードに対して経路更新通知を行える場合があるので、経路更新通知が可能であるか判定する処理を行う(S204)。この、経路更新処理の詳細については後述する。
【0063】
統合パケット生成部7によって生成されたマルチホップ統合パケットは、パケット送信部8へと送られ(S208)、次の中継ノードへと送信される。
【0064】
パケットバッファ部4から取得した複数のパケットがマルチホップ統合送信不可能と判定された場合(S202−NO)は、これら複数のパケットを1ホップ統合送信可能か判定する(S205)。具体的には、経路情報テーブル5に基づいて、1ホップ先の中継ノードが共通するパケットが存在するか否か判定する。1ホップ統合送信可能である場合(S205−YES)は、これらのパケットを統合して1ホップ統合パケットを生成する(S206)。1ホップ統合パケットの構造は既に説明したとおりである。そして、作成された1ホップ統合パケットはパケット送信部8へと送られ(S208)、次の中継ノードへと送信される。
【0065】
パケットバッファ部4から取得した複数のパケットが1ホップ統合送信も不可能であると判定された場合(S205−NO)は、他のノードに対して経路更新通知を行える場合があるので、経路更新通知が可能であるか判定する処理を行う(S207)。この経路更新処理の詳細については後述する。
【0066】
そして、統合送信することができないと判定されたこれら複数のパケットはパケット送信部8へと送られ(S208)、通常のパケットとして次の中継ノードへ送信される。
【0067】
<経路更新処理>
上述したように、パケット統合処理において、他ノードに対して経路更新通知を行える場合がある。図8は、パケット統合処理のS204における経路更新処理の流れを示すフローチャートであり、図9は、パケット統合処理のS207における経路更新処理の流れを示すフローチャートである。
【0068】
図8に示す経路更新処理は、パケットバッファ部4から取得された複数のパケットがマルチホップ統合パケットに統合された後に行われる処理である。この経路更新処理においては、まず、マルチホップ統合パケットに統合された複数のパケットが、1ホップ統合パケットに統合されて自ノードに送信されてきたものであるかを経路更新部9が判定する(S301)。統合されたパケットが1ホップ統合パケットとして自ノードに送信されたものである場合(S301−YES)は、経路更新部9は、送信された1ホップ統合パケットの統合元ノードに対して、経路更新通知を行う(S302)。
【0069】
1ホップ統合パケットとして自ノードまで送られてきた複数のパケットをマルチホップ
統合パケットに統合して送信可能であるということは、本来統合元のノードからマルチホップ統合パケットに統合して送信可能であることを意味する。したがって、経路更新部9は、1ホップ統合パケットの統合元ノードを1ホップ統合パケットの統合元アドレス205から取得し、この統合元ノードに、統合された複数のパケットの複数の宛先ノードのアドレスと、マルチホップ統合パケットの宛先アドレス(このノードまでそれら複数の宛先ノードの中継経路は共通する)を経路更新通知として通知する。この経路更新通知を受け取った統合元ノードは、この通知に基づいて自ノードの経路情報テーブルを更新する。
【0070】
マルチホップ統合パケットに統合された複数のパケットが1ホップ統合パケットとして自ノードに送信されたものではない場合(S301−NO)は、経路更新通知は行わずにパケット統合処理のフローチャートに戻る。
【0071】
図9に示す経路更新処理は、パケットバッファ部4から取得された複数のパケットが統合送信(マルチホップ統合送信または1ホップ統合送信)できないと判定された後に行われる処理である。この経路更新処理においては、まず、1ホップ統合パケットとして送信されてきた複数のパケットを1ホップ統合パケットとして再統合できなかったか否かが経路更新部9によって判定される(S401)。すなわち、経路更新部9は、統合送信不可能な複数パケットが、1ホップ統合パケットに統合されて自ノードに送信されてきたものであるかを判定する(S401)。これらのパケットが1ホップ統合パケットとして自ノードに送信されたものである場合(S401−YES)、経路更新部9は、送信された1ホップ統合パケットの統合元ノードに対して、経路更新通知を行う(S402)。
【0072】
1ホップ統合送信を繰り返して自ノードまで送信された複数のパケットが自ノードにおいて統合送信不可能であるということは、これら複数のパケットの宛先ノードへの中継経路は、1ホップ統合パケットの統合元ノードから自ノードまで共通することを意味する。したがって、経路更新部9は、1ホップ統合パケットの統合元ノードに対して、これら複数の宛先ノードへの中継経路は、自ノードまで共通することを経路更新通知として通知する。この経路更新通知を受け取った統合元ノードは、この通知に基づいて自ノードの経路情報テーブルを更新する。なお、統合元ノードが自ノードの隣接ノードである場合には、経路更新通知を省略して良い。
【0073】
統合送信できないと判定された複数のパケットが、1ホップ統合パケットに統合されて自ノードに送信されてきたものではない場合(S402−NO)は、経路更新通知は行わずパケット統合処理のフローチャートに戻る。
【0074】
このように、パケット統合処理を行いつつ、経路更新処理を行うことで各ノードの経路情報テーブル5を動的に更新することが可能となる。
【0075】
<動作例>
[動作例1・経路情報テーブルが完全な場合]
次に、図2のようなネットワークトポロジーのときの、パケット統合処理の動作例について説明する。なお、全てのノードにおいて経路情報テーブルは完全にできあがっているものとして、パケット統合の処理に焦点を当てて説明する。
【0076】
まずノードcが行うパケット統合処理の例について説明する。ノードcの経路情報テーブルは図3に示すものである。ノードcが、ノードaからノードh宛のパケットを、ノードbからノードi宛のパケットを受信したとする。この場合、経路情報テーブルを参照することで、ノードhとノードiへの中継経路はノードgまで共通することが分かる。したがって、ノードcでは、これらのパケットを統合して、ノードg宛のマルチホップ統合パケットを生成する。
【0077】
ノードcが、ノードaからノードh宛のパケットを、ノードbからノードf宛のパケットを受信したとする。この場合、経路情報テーブルを参照することで、ノードhとノードfへの中継経路はノードeまで共通することが分かる。したがって、ノードcでは、これらのパケットを統合して、ノードe宛のマルチホップ統合パケットを生成する。
【0078】
同様にノードcでは、ノードf,g宛のパケットをノードe宛のマルチホップ統合パケットとして生成したり、ノードg,h宛のパケットをノードg宛のマルチホップ統合パケットとして生成したりする。
【0079】
次に、ノードeが行うパケット統合処理の例について説明する。ノードeの経路情報テーブルは図10に示すものである。ノードeが、ノードdからノードh宛のパケットを、ノードfからノードi宛のパケットを受信したものとする。これらのパケットの中継経路は2ホップ以上共通せずマルチホップ統合送信はできないことが、経路情報テーブルから判断できる。一方、これらのパケットの次ホップのノードはノードgで共通するため、ノードgを宛先とする1ホップ統合パケットを生成する。
【0080】
[動作例2・経路情報テーブルが不完全の場合]
次に、経路情報テーブルが不完全の場合のパケット統合の処理の動作および、経路情報テーブルを更新するための処理について説明する。図11は、パケット統合処理及び経路更新処理を説明するための図である。図11に示すように、ネットワーク内の各ノードは、各宛先ノードについて次にどのノードに対してパケットを転送すればよいかという情報は既に持っているが、2ホップ以上先の経路についての情報はまだ持っていないものとする(なお、図11では宛先ノードh,iについての経路情報のみを示している)。本動作例では、このような状況において、パケットを統合して送信しつつ経路情報テーブルを構築(更新)する処理を説明する。
【0081】
まず、ノードaからノードcにノードh宛のパケットPが送信される。また、ノードbからノードcにノードi宛のパケットQが送信される。ノードcでは、これらのパケットを統合して送信できるか否か判定する。まず、マルチホップ統合送信が可能か判定するが、ノードcの経路情報テーブルには2ホップ以上先の経路が共通するノードについての情報はないため、マルチホップ統合送信はできないと判定される。次に、これらのパケットを1ホップ統合送信可能か判定する。経路情報テーブルを参照すると、ノードh,iいずれも次ホップノードはノードdであるため、1ホップ統合送信可能と判定される。
【0082】
ノードcが生成する1ホップ統合パケットI1には、受信者MACアドレス202としてノードdのMACアドレス、送信者MACアドレス303としてノードcのMACアドレス、統合パケット数として2が格納される。また、このパケットPとパケットQはノードcにおいて初めて統合されたものであるので、統合元アドレス205にノードcのMACアドレスが格納される。
【0083】
ノードcが作成した1ホップ統合パケットI1は、宛先として指定されたノードdによって受信される。ノードdは、この1ホップ統合パケットI1が自ノード宛であるため復元処理を行う。復元することによってパケットP、パケットQが得られるが、どちらも自ノード宛のパケットではないため、ノードdはパケットバッファ部4に格納し統合処理の対象とする。
【0084】
ノードdにおいてもノードcでの場合と同様に、パケットPとパケットQはマルチホップ統合送信はできないが、ノードe宛に1ホップ統合送信することができると判定される。したがって、ノードdは、パケットPとパケットQを統合してノードe宛の1ホップ統
合パケットI2を生成する。この1ホップ統合パケットI2の、受信者MACアドレス202にはノードeのMACアドレスが、送信者MACアドレス203にはノードdのMACアドレスが格納される。
【0085】
また、1ホップ統合パケットI2に統合されたパケットPとパケットQは、ノードd宛に1ホップ統合パケットI1として送信されたものである。そして、その1ホップ統合パケットI1に統合元アドレス205としてノードcのMACアドレスが格納されている。したがって、ノードdは、パケットPとパケットQはノードcで初めて統合されたと判断でき、生成する1ホップ統合パケットI2の統合元アドレス205にはノードcのMACアドレスを格納する。
【0086】
ノードdが生成した1ホップ統合パケットI2は、宛先として指定されたノードeによって受信される。ノードeにおいても、ノードdと同様の処理が行われ、ノードg宛の1ホップ統合パケットI3が生成される。なお、1ホップ統合パケットI3の統合元アドレス205には、パケットPとパケットQを初めて統合したノードcのMACアドレスが格納される。
【0087】
1ホップ統合パケットI3を受信したノードgは、このパケットは自ノード宛である統合パケットであるため復元処理を行う。復元されたパケットP、パケットQは、自ノード宛ではないため統合処理の対象とする。ノードgの経路情報テーブルを参照すると、パケットPとパケットQとは、次ホップのノードが異なるため1つのパケットに統合できないことが判定できる。したがって、ノードgは、パケットPをノードh宛に、パケットQをノードi宛にそれぞれ通常のパケットとして送信する。
【0088】
また、ノードgは、1ホップ統合パケットI3を分解して得たパケットPとパケットQを1ホップ統合送信することができなかったため、経路更新通知を1ホップ統合パケットI3の統合元のノードに対して行う。統合元ノードは1ホップ統合パケットI3の統合元アドレス205を参照することで、ノードcであることが分かる。ノードh宛のパケットPとノードi宛のパケットQが1ホップ統合送信を繰り返してノードcからノードgまで到達したということは、本来ノードcにおいて、パケットPとパケットQをノードg宛にマルチホップ統合送信できたということである。したがって、ノードgは、ノードhとノードiへの中継経路は自ノード(ノードg)まで共通することをノードcに対して通知する。
【0089】
この経路更新通知を受信したノードcは、この通知に基づいて自ノードの経路情報テーブルを更新する。すなわち、ノードhとノードiの中継経路はノードgまで共通することを経路情報テーブルに格納する。なお、この経路更新通知は、ノードgからノードe,dを中継して、ノードcまで送信される。この経路更新通知を中継するノードe,dも、同様に経路情報テーブルを更新することができる。
【0090】
このように、2ホップ以上先の経路についての経路情報テーブルが完全に作成されていない場合であっても、1ホップ統合送信を繰り返すことで個別にパケットを送信する場合よりも通信効率を向上させることができる。また、1ホップ統合送信を行いながら、経路更新通知を用いて経路情報テーブルを構築することができる。上記の説明では、経路情報が未蓄積の状況を例に説明したが、経路情報が蓄積された状況でネットワークトポロジーが変化した場合でも同様に、経路更新通知を用いて、短時間で新たな経路情報を構築することができる。
【0091】
[動作例3・経路情報テーブルが不完全の場合]
次に、経路情報テーブルが不完全の場合のパケット統合の処理の動作および、経路情報
テーブルを更新するための処理の別の例を説明する。図12はパケット統合処理及び経路更新するための図である。本動作例では、ノードcの経路情報テーブルのみが不完全で、その他のノードの経路情報テーブルは正しいという点が、動作例2(図11)の場合と異なる。なお、図12には宛先ノードh,iについての経路情報のみが示されている。
【0092】
本動作例においても、ノードaからノードcにノードh宛のパケットPが送信され、ノードbからノードcにノードi宛のパケットQが送信される。ノードcでは、これらのパケットをマルチホップ統合送信はできないが、ノードdまで1ホップ統合送信可能であると判定される。
【0093】
ノードdの経路情報テーブルは正しく構築されているので、ノードh宛のパケットPとノードi宛のパケットQを、ノードgまでマルチホップ統合送信可能であると判定できる。したがって、ノードdは、ノードg宛のマルチホップ統合パケットを生成して送信する。このとき、ノードdでは、1ホップ統合パケットに統合されて送信されたパケットPとパケットQを、マルチホップ統合送信できたため、1ホップ統合パケットの送信元であるノードcに対して経路更新通知を行う。すなわち、ノードdは、統合元のノードcは本来ノードh,i宛のパケットをノードgまでマルチホップ送信できたことが判断できるので、その旨をノードcに対して通知する。
【0094】
この経路更新通知を受信したノードcは、この通知に基づいて自ノードの経路情報テーブルを更新する。すなわち、ノードhとノードiの中継経路はノードgまで共通することを経路情報テーブルに格納する。
【0095】
このように、マルチホップ統合送信可能である場合には、できるだけマルチホップ統合送信を用いることで通信処理の効率化が図れる。また、効率的な通信処理を行いつつ、経路情報テーブルの更新も行える。
【0096】
<実施形態の効果>
アドホック無線ネットワークにおいて、複数のパケットを統合して送信することによって、複数のパケットを送信する際に生じるDIFSやバックオフ時間などの送信待ち時間のオーバヘッドを削減して通信処理の効率化を図ることができる。この際、2ホップ以上経路が共通するノードを経路情報テーブルによって管理し、優先的にマルチホップ統合送信を利用することで、1ホップごとにパケットの復元および統合を行う無駄を省くことを可能としている。また、パケット統合の判断に用いる経路情報テーブルは、動的な経路確立に対応しており、あらかじめ経路情報テーブルに全ての経路情報を持つ必要はない。パケットを統合して送信する処理を行いながら、経路更新通知を行うことで、経路情報を動的に更新することができる。
【0097】
<変形例>
上述の説明では、2つのパケットを統合して統合パケットを生成する例のみを説明したが、3つ以上のパケットを統合して統合パケットを生成しても良い。また、統合するパケットの対象となるパケットは通常のパケットのみではなく、複数の統合パケットや、統合パケットと通常パケットとを統合して統合パケットを生成しても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本実施形態に係る無線通信装置の機能ブロックを示す図である。
【図2】アドホック無線ネットワークのネットワークトポロジーの例を示す図である。
【図3】経路情報テーブルの例を示す図である。
【図4】1ホップ統合パケットの構造を説明する図である。
【図5】マルチホップ統合パケットの構造を説明する図である。
【図6】パケット判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】パケット統合処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】経路更新処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】経路更新処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】経路情報テーブルの例を示す図である。
【図11】パケット統合処理及び経路更新処理を説明するための図である。
【図12】パケット統合処理及び経路更新処理を説明するための図である。
【符号の説明】
【0099】
1 無線通信装置
2 パケット受信部
3 パケット判定部
4 パケットバッファ部
5 経路情報テーブル
6 統合パケット復元部
7 統合パケット生成部
8 パケット送信部
9 経路更新部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
他のノードと直接あるいは1又は複数の中継ノードを介して無線パケット通信を行い、中継経路が共通する複数のパケットを1つのパケットに統合して送信する無線通信装置であって、
宛先ノードごとの1ホップ先の中継ノードと、中継経路が2ホップ以上共通する宛先ノードの組み合わせと、を経路情報として記憶する経路情報記憶手段と、
複数のパケットの中継経路が2ホップ以上先の中継ノードまで共通すると前記経路情報に基づいて判定された場合には、該2ホップ以上先の中継ノードを宛先とする1つのパケットであるマルチホップ統合パケットを生成し、2ホップ以上先の中継ノードまで中継経路が共通しないが1ホップ先の中継ノードが共通すると前記経路情報に基づいて判定された場合には、該1ホップ先の中継ノードを宛先とする1つのパケットである1ホップ統合パケットを生成する統合パケット生成手段と、
前記統合パケット生成手段が生成した統合パケットを送信するパケット送信手段と、
を有する無線通信装置。
【請求項2】
受信した統合パケットを復元する統合パケット復元手段をさらに有し、
自ノードが宛先として指定された統合パケットを受信した場合には、
前記統合パケット復元手段が統合パケットを復元し、
復元された複数のパケットの中継経路が共通すると前記経路情報に基づいて判定された場合には、前記統合パケット生成手段が該複数のパケットを再び統合する
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記1ホップ統合パケットには、該1ホップ統合パケットに含まれる複数のパケットを最初に統合したノードのアドレスが統合元ノードとして格納されており、
前記統合パケット復元手段によって1ホップ統合パケットから復元された複数のパケットの次の中継ノードが異なると判定された場合には、該1ホップ統合パケットに含まれる前記統合元ノードに、該1ホップ統合パケットに含まれる複数のパケットの宛先ノードへの中継経路が自ノードまで共通することを通知する経路通知手段と、
を有することを特徴とする請求項2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記1ホップ統合パケットには、該1ホップ統合パケットに含まれる複数のパケットを最初に統合したノードのアドレスが統合元ノードとして格納されており、
前記統合パケット復元手段によって1ホップ統合パケットから復元された複数のパケットの中継経路が2ホップ以上先の中継ノードまで共通すると判定された場合には、該1ホップ統合パケットに含まれる前記統合元ノードに、該1ホップ統合パケットに含まれる複数のパケットの宛先ノードへの中継経路が、前記2ホップ以上先の中継ノードまで共通することを通知する経路通知手段と、
を有することを特徴とする請求項2に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記統合パケット生成手段は、1ホップ統合パケットを生成する際に、
統合する複数のパケットが前記パケット復元手段によって1ホップ統合パケットから復元されたものでない場合には、生成する1ホップ統合パケット内に自ノードのアドレスを統合元アドレスとして格納し、
統合する複数のパケットが前記パケット復元手段によって1ホップ統合パケットから復元されたものである場合には、復元前の1ホップ統合パケットに含まれる統合元アドレスを、生成する1ホップ統合パケットに格納する
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の無線通信装置。
【請求項6】
他のノードと直接あるいは1又は複数の中継ノードを介して、中継経路が共通する複数
のパケットを1つのパケットに統合して送信する無線通信方法であって、
無線通信装置が、
宛先ノードごとの1ホップ先の中継ノードと、中継経路が2ホップ以上共通する宛先ノードの組み合わせと、を経路情報として取得し、
複数のパケットの中継経路が2ホップ以上先の中継ノードまで共通すると前記経路情報に基づいて判定された場合には、該経路上の中継ノードを宛先とする1つのパケットであるマルチホップ統合パケットを生成し、2ホップ以上先の中継ノードまで中継経路が共通しないが1ホップ先の中継ノードが共通すると前記経路情報に基づいて判定された場合には、該1ホップ先の中継ノードを宛先とする1つのパケットである1ホップ統合パケットを生成し、
生成された統合パケットを送信する、
ことを特徴とする無線通信方法。
【請求項7】
他のノードと直接あるいは1又は複数の中継ノードを介して、中継経路が共通する複数のパケットを1つのパケットに統合して送信する無線通信装置に無線通信を実行させるプログラムであって、
無線通信装置に対して、
宛先ノードごとの1ホップ先の中継ノードと、中継経路が2ホップ以上共通する宛先ノードの組み合わせと、を経路情報として取得させ、
複数のパケットの中継経路が2ホップ以上先の中継ノードまで共通すると前記経路情報に基づいて判定された場合には、該経路上の中継ノードを宛先とする1つのパケットであるマルチホップ統合パケットを生成させ、2ホップ以上先の中継ノードまで中継経路が共通しないが1ホップ先の中継ノードが共通すると前記経路情報に基づいて判定された場合には、該1ホップ先の中継ノードを宛先とする1つのパケットである1ホップ統合パケットを生成させ、
生成された統合パケットを送信させる、
ことを特徴とするプログラム。
【請求項8】
他のノードと直接あるいは1又は複数の中継ノードを介して無線パケット通信を行い、宛先ノードごとの1ホップ先の中継ノードと、中継経路が2ホップ以上共通する宛先ノードの組み合わせと、を記憶する経路情報テーブルに基づいてパケットを統合して送信する無線通信装置から構成される無線通信システムにおける経路情報テーブルの作成方法であって、
該無線通信システム内の各ノードが、
宛先ノードごとの1ホップ先の中継ノードを取得して経路情報テーブルに格納し、
送信ノードが、
1ホップ先の中継ノードが共通する複数のパケットを統合して1ホップ統合パケットを作成し、該1ホップ統合パケットに自ノードのアドレスを統合元アドレスとして格納し、
生成した1ホップ統合パケットを送信し、
1ホップ統合パケットを受信したノードが、
受信した1ホップ統合パケットを復元し、
復元して得られた複数のパケットの1ホップ先の中継ノードが共通するか判定し、
復元して得られた複数のパケットの1ホップ先の中継ノードが共通する場合には該複数のパケットを再び統合して新たな1ホップ統合パケットを生成し、復元前の1ホップ統合パケットに格納されている統合元アドレスを、該新たな1ホップ統合パケットに統合元アドレスとして格納し、
復元して得られた複数のパケットの1ホップ先の中継ノードが共通しない場合には、前記1ホップ統合パケットに含まれる統合元アドレスのノードに対して、復元された複数のパケットの宛先ノードへの中継経路が自ノードまで共通することを通知し、
前記通知を受信したノードが、
該通知に基づいて経路情報テーブルを更新する
ことを特徴とする経路情報テーブルの作成方法。
【請求項9】
他のノードと直接あるいは1又は複数の中継ノードを介して無線パケット通信を行い、宛先ノードごとの1ホップ先の中継ノードと、中継経路が2ホップ以上共通する宛先ノードの組み合わせと、を記憶する経路情報テーブルに基づいてパケットを統合して送信する無線通信装置から構成される無線通信システムにおける経路情報テーブルを作成させるためのプログラムであって、
該無線通信システム内の各ノードに、
宛先ノードごとの1ホップ先の中継ノードを取得させて経路情報テーブルに格納させ、
送信ノードに、
1ホップ先の中継ノードが共通する複数のパケットを統合して1ホップ統合パケットを作成させ、該1ホップ統合パケットに自ノードのアドレスを統合元アドレスとして格納させ、
生成した1ホップ統合パケットを送信させ、
1ホップ統合パケットを受信ノードに、
受信した1ホップ統合パケットを復元させ、
復元して得られた複数のパケットの1ホップ先の中継ノードが共通するか判定させ、
復元して得られた複数のパケットの1ホップ先の中継ノードが共通する場合には該複数のパケットを再び統合して新たな1ホップ統合パケットを生成し、復元前の1ホップ統合パケットに格納されている統合元アドレスを、該新たな1ホップ統合パケットに統合元アドレスとして格納させ、
復元して得られた複数のパケットの1ホップ先の中継ノードが共通しない場合には、前記1ホップ統合パケットに含まれる統合元アドレスのノードに対して、復元された複数のパケットの宛先ノードへの中継経路が自ノードまで共通することを通知させ、
前記通知を受信したノードに、
該通知に基づいて経路情報テーブルを更新させる
ことを特徴とするプログラム。
【請求項10】
他のノードと直接あるいは1又は複数の中継ノードを介して無線パケット通信を行い、宛先ノードごとの1ホップ先の中継ノードと、中継経路が2ホップ以上共通する宛先ノードの組み合わせと、を記憶する経路情報テーブルに基づいてパケットを統合して送信する無線通信装置から構成される無線通信システムにおける該経路情報テーブルの作成方法であって、
該無線通信システム内の各ノードが、
宛先ノードごとの1ホップ先の中継ノードを取得して経路情報テーブルに格納し、
送信ノードが、
1ホップ先の中継ノードが共通する複数のパケットを統合して1ホップ統合パケットを作成し、該1ホップ統合パケットに自ノードのアドレスを統合元アドレスとして格納し、
生成した1ホップ統合パケットを送信し、
1ホップ統合パケットを受信したノードが、
受信した1ホップ統合パケットを復元し、
復元して得られた複数のパケットの中継経路が2ホップ以上先の中継ノードまで共通するか判定し、
復元して得られた複数のパケットの経路が2ホップ以上先の中継ノードまで共通する場合には、1ホップ統合パケット内に格納されている統合元アドレスのノードに対して、復元して得られた複数のパケットの宛先ノードへの中継経路が前記2ホップ以上先の中継ノードまで共通することを通知し、
前記通知を受信したノードが、
該通知に基づいて経路情報テーブルを更新する
ことを特徴とする経路情報テーブルの作成方法。
【請求項11】
他の無線ノードと直接あるいは1又は複数の中継ノードを介して無線パケット通信を行い、宛先ノードごとの1ホップ先の中継ノードと、中継経路が2ホップ以上共通する宛先ノードの組み合わせと、を記憶する経路情報テーブルに基づいてパケットを統合して送信する無線通信装置から構成される無線通信システムにおける経路情報テーブルを作成させるためのプログラムであって、
前記無線通信システム内の各ノードに、
宛先ノードごとの1ホップ先の中継ノードを取得させて経路情報テーブルに格納させ、
送信ノードに、
1ホップ先の中継ノードが共通する複数のパケットを統合して1ホップ統合パケットを作成させ、該1ホップ統合パケットに自ノードのアドレスを統合元アドレスとして格納させ、
生成した1ホップ統合パケットを送信させ、
1ホップ統合パケットを受信したノードに、
受信した1ホップ統合パケットを復元させ、
復元して得られた複数のパケットの中継経路が2ホップ以上先の中継ノードまで共通するか判定させ、
復元して得られた複数のパケットの経路が2ホップ以上先の中継ノードまで共通する場合には、1ホップ統合パケット内に格納されている統合元アドレスのノードに対して、復元して得られた複数のパケットの宛先ノードへの中継経路が前記2ホップ以上先の中継ノードまで共通することを通知させ、
前記通知を受信したノードに、
該通知に基づいて経路情報テーブルを更新させる
ことを特徴とするプログラム。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−251811(P2007−251811A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75240(P2006−75240)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】