説明

無線LANアクセスポイント装置および無線音声通話システム

【課題】簡略な手順で無線LANを経由した通話を行う無線音声通話システムにおいて、1つのアクセスポイントで中継される通話の数を効率的に制限できるようにする。
【解決手段】受信した音声パケットの識別情報が、前記通話管理テーブルに登録されているとき、この音声パケットを転送する。音声パケットの識別情報が通話管理テーブルに登録されていないとき、この識別情報を前記通話管理テーブルに登録する。音声パケットの識別情報が通話管理テーブルに登録されておらず、通話管理テーブルに登録されている識別情報の数(通話数)が最大通話数に達して達している場合、受信した音声パケットの転送を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、Wi−Fiなどの無線LANを用いた音声通話を行うための無線LANアクセスポイント装置および無線音声通話システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットやLANを用いた音声通話が普及している。また、無線LANを用いた音声通話も実用化されている。これら音声通話の殆どは、相手装置に対して接続要求(INVITE)を送信してセッションを確立したのち音声通話を開始するいわゆるSIP手順(セッション確立プロトコル)に準拠したものであった。
【0003】
一方、無線LANの場合、占有できるチャンネル幅が限られているため、1つのアクセスポイントに多くの通話が集中すると、通信品質の低下などの支障を来してしまう。そこで、アクセスポイントやサーバが、SIP手順の接続要求を利用して通話の発生を事前に検出し、許容量を超える通話が発生しそうな場合には、たとえば話中にするなどしてこれを未然に防止する対策が提案されている(たとえば特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4273136号公報
【0005】
【特許文献2】特開2008−219200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、SIP手順は手順が多くユーザの操作も必要であるため面倒である。そこで、PTTスイッチをオンするのみで、相手装置と通信が可能なトランシーバや構内通話装置(インカム)のようなものが望まれている。これは、複数台(たとえば2台)の通話装置を対応づけておき、発話側の装置が受話側の装置に対して予告なく音声パケットを送りつけることで実現可能である。
【0007】
しかし、このような簡略な手順を用いた場合、アクセスポイントは、通話の開始、すなわち、サイズの大きい音声パケットの連続した発生を事前に知ることができないためこれを事前に禁止することができず、無線LAN上に音声パケットが自由に送出されてしまい、輻輳のために通信品質が低下してしまうという問題点があった。
【0008】
この発明は、簡略な手順で無線LANを経由した通話を行う無線音声通話システムにおいて、1つのアクセスポイントで中継される通話の数を効率的に制限できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、無線音声通話装置との間で通話の音声パケットを無線LANを介して送受信する無線LANアクセスポイント装置であって、前記無線音声通話装置の通話を識別する識別情報を登録する通話管理テーブルと、制御部と、を備え、
前記制御部は、
(1) 受信した音声パケットから前記通話識別情報を抽出して、前記通話管理テーブルに登録されている識別情報と比較する手順
(2) 前記受信した音声パケットから抽出された識別情報が、前記通話管理テーブルに登録されている識別情報のいずれかと一致するとき、前記受信した音声パケットの転送を許可する手順
(3) 前記受信した音声パケットから抽出された識別情報が、前記通話管理テーブルに登録されている識別情報のいずれとも一致しないとき、前記通話管理テーブルに登録されている識別情報の数(通話数)が所定の最大通話数に達しているかを判断する手順
(4) 前記通話管理テーブルに登録されている識別情報の数が前記最大通話数に達していない場合には、前記受信した音声パケットから抽出された識別情報を前記通話管理テーブルに登録し、前記受信した音声パケットの転送を許可する手順
(5) 前記通話管理テーブルに登録されている識別情報の数が前記最大通話数に達している場合には、前記受信した音声パケットから抽出された識別情報を有する音声パケットの前記無線LANによる伝送を禁止する手順
を実行することを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記制御部が、(6)通話管理テーブルに登録されている識別情報を有する音声パケットが所定時間以上受信されない場合、当該識別情報を前記通話管理テーブルから削除する手順をさらに実行することを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1、2の発明において、前記制御部が、受信したパケットのTOS(Type Of Service) フィールドに基づいて通話の音声パケットを判別することを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1〜3の発明において、前記(5)の手順が、前記無線音声通話装置に、この無線LANアクセスポイント装置との接続を解除する旨のメッセージを送信する手順を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1〜3の発明において、前記(5)の手順が、前記無線音声通話装置に、音声パケットの送信の停止を指示するメッセージを送信する手順を含むことを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明は、請求項1〜3の発明において、前記(5)の手順は、前記無線音声通話装置との接続を解除する手順を含むことを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明は、請求項6の発明において、前記制御部が、(7)所定の制限時間の経過後、または、前記通話管理テーブルに登録されている識別情報の数が前記最大通話数未満になった後、前記接続を解除した無線音声通話装置を再度接続する手順を実行することを特徴とする。
【0016】
請求項8の発明は、請求項1の発明において、前記(1)乃至(5)の手順は、前記無線音声通話装置から送られて来る上り通話の音声パケット、および、前記無線音声通話装置へ転送される下り通話の音声パケットの両方について行われ、前記通話管理テーブルには、前記上り通話および下り通話の音声パケットの識別情報が登録されることを特徴とする。
【0017】
請求項9の発明は、有線LAN(基幹LAN)と、該有線LANに接続された請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の無線LANアクセスポイント装置と、該無線LANアクセスポイント装置と無線LANで接続される無線音声通話装置と、を有する無線音声通話システムであって、前記無線音声通話装置は、通話の相手装置に対する通話開始要求を送信することなく、前記相手装置に対する音声パケットの送信を開始することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、簡略な手順で音声通話を行うシステムであっても、1つのアクセスポイントで中継する通話数を的確に制御することができ、音質の低下などの不都合を来すことがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施形態であるWi−Fi通話システムの構成図である。
【図2】アクセスポイントの概略ブロック図である。
【図3】Wi−Fi無線機の概略ブロック図である。
【図4】アクセスポイントに設定される通話管理テーブルを示す図である。
【図5】Wi−Fi無線機の動作を示すフローチャートである。
【図6】アクセスポイントの動作を示すフローチャートである。
【図7】Wi−Fi無線機の動作を示すフローチャートである。
【図8】アクセスポイントの動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面を参照してこの発明の実施形態であるWi−Fi通話システムについて説明する。図1はWi−Fi通話システムの構成図である。有線LAN2に、3つの無線アクセスポイント(以下単にアクセスポイントまたはAPと称する)4(4−1,4−2,4−3)が接続されている。アクセスポイント4は、各種のWi−Fi機器を無線LAN3で接続する。有線LAN2、アクセスポイント4、無線LAN3によりLAN1が構成される。なお、有線LAN2に接続されるアクセスポイント4の台数に制限はない。また、有線LAN2は全体がケーブルで接続されている必要はなく、途中無線LANで中継されていてもよい。また、LAN1そのものを無線LANで構成してもよい。なお、有線LAN2に接続されている通話管理サーバ7については後述する。
【0021】
アクセスポイント4の概略構成を図2に示す。アクセスポイント4は、マイクロコンピュータを含む制御部20を有する。この制御部20にWANポート21、無線通信インタフェース22、操作部25、表示部26が接続されている。制御部20は、プログラムを実行することで図6、図8のフローチャートに示されるような処理を実行する。WANポート21は有線LAN2に接続される。また、無線通信インタフェース22には、送信回路23、受信回路24が接続されている。送信回路23、受信回路24は、無線LAN3を介して、Wi−Fi無線機5を含むWi−Fi機器と通信する。操作部25は、ユーザによる設定操作等を受け付ける。表示部26は、現在の動作状態等を表示する。
【0022】
各アクセスポイント4は、IEEE802.11(たとえばIEEE802.11g)およびWi−Fi仕様に準拠している。各アクセスポイント4−1,4−2,4−3のサービスエリア(coverage area) 40−1,40−2,40−3は、それぞれ分離していてもよく、相互に重なっていてもよい。図1では、アクセスポイント4−1のサービスエリア40−1とアクセスポイント4−2のサービスエリア40−2が重なっており、アクセスポイント4−3のサービスエリア40−3は他と重なっていない。
【0023】
複数台のWi−Fi無線機5が、無線LAN3によってアクセスポイント4に接続される。アクセスポイント4とWi−Fi無線機5との接続は、Wi−Fiの一般的手順に基づいて行われる。Wi−Fi無線機5は、LAN1を介して他のWi−Fi無線機5や有線LAN2に接続される通信機器6と音声通話を行う機器である。図1では、1台の通信機器6が有線LAN2に接続され、3台のWi−Fi無線機5(5−1,5−2,5−3)がアクセスポイント4に接続されている。Wi−Fi無線機5−1は、アクセスポイント4−1のサービスエリア40−1内にあって、アクセスポイント4−1に接続されている。Wi−Fi無線機5−2は、アクセスポイント4−1のサービスエリア40−1およびアクセスポイント4−2のサービスエリア40−2の両方の範囲内にあり、アクセスポイント4−1に接続されている。また、Wi−Fi無線機5−3は、アクセスポイント4−3のサービスエリア40−3内にあって、アクセスポイント4−3に接続されている。
【0024】
Wi−Fi無線機5の概略構成を図3に示す。Wi−Fi無線機5は、マイクロコンピュータを含む制御部30を有する。この制御部30に無線通信インタフェース31、変復調器(CODEC)32、オーディオ回路33、操作部38および表示部39が接続されている。制御部30は、プログラムを実行することで図5、図7のフローチャートに示されるような処理を実行する。無線通信インタフェース31には、送信回路34、受信回路35が接続されている。送信回路34、受信回路35は、無線LAN3を介してアクセスポイント4と通信する。変復調器32は、無線通信インタフェース31から入力された音声パケットをデコードして音声信号に復調しオーディオ回路33に入力するとともに、オーディオ回路33から入力された通話音声信号を圧縮してパケット化し無線通信インタフェース31に入力する。オーディオ回路33は、マイク36から入力された通話音声をデジタル化して変復調器32に入力するとともに、変復調器32から入力された音声信号をアナログ化および増幅してスピーカ37から出力する。操作部38は、PTTスイッチ38Aを含みユーザによる操作を受け付ける。表示部39は、現在の動作状態等を表示する。
【0025】
Wi−Fi無線機5は、SIP手順などの事前の接続手順を経ることなく、通話相手に音声パケットを送信し、または、通話相手から音声パケットを受信することによって音声通話を開始する。
【0026】
Wi−Fi無線機5は、PTT(Push To Talk)スイッチ38Aがオンされると送話モードになり、マイク36から入力された音声をデジタル信号に変換してパケット化し、この音声パケットを通話相手となるWi−Fi無線機5または通信機器6のIPアドレスを宛先として無線LAN3に送出する。この音声パケットは、Wi−Fi無線機5が接続されているアクセスポイント2を介して伝送され、通話相手に受信される。
【0027】
一方、PTTスイッチ38Aがオンされていないとき、Wi−Fi無線機5は受話モードとなり、無線LAN3から音声パケットを受信すると、この音声パケットをデコードして音声信号化し、この音声信号をスピーカ37(またはイヤホン)から放音出力する。
【0028】
このように、Wi−Fi無線機5は、SIP手順を経ることなく直接通話相手に向けて音声パケットを送信するという簡略な手順で通話を行うため、ユーザは通話相手の電話番号を入力するなどの面倒な操作をすることなく、PTTスイッチ38Aをオンするのみで通話を開始することができる。なお、通話相手の識別情報(IPアドレスなど)は、各Wi−Fi無線機5、通信機器6に予め設定しておけばよい。
【0029】
Wi−Fi無線機5(および通信機器6)の音声パケットは、通話の音声パケットである旨を表すため、パケットのTOS(Type of Service) フィールドに特定の値が設定されている。アクセスポイント4などの中継機器は、TOSフィールドの値を見て通話音声パケットであるか否かを判別する。
【0030】
以上のようにWi−Fi無線機5は、操作が簡略で手軽に音声通話を行うことができるため、構内音声通話装置(いわゆるインカム)として好適である。
【0031】
なお、この実施形態では、Wi−Fi無線機5は、PTTスイッチ38Aをオンしたとき送話モードになって音声パケットを送信し、PTTスイッチ38Aをオフしたとき受話モードになって音声パケットを受信する半二重方式を想定しているが、電話のような全二重方式であっても構わない。
【0032】
ここで、アクセスポイント4は、IEEE802.11規格に基づいて無線LAN3で使用される周波数帯、1チャンネルあたりの周波数帯域幅(チャンネル幅)および伝送速度が規定されている。たとえばIEEE802.11gの場合、使用される周波数帯は2.4〜2.5GHz、1つのチャンネル幅は20MHz、伝送速度は最大54Mbpsである。したがって、同じアクセスポイント4を介して通信(通話)するWi−Fi無線機5の数(通話数)が増えれば、結果的に各々のWi−Fi無線機5のデータ通信速度が低下し、音質などの通信品質が劣化することになる。そこで、アクセスポイント4は、通信速度を維持するために、通話を許可するWi−Fi無線機5の最大数(最大通話数)を定め、これを超える通話(音声パケット)が到来した場合、その通話を禁止することで通話数の制限を行っている。
【0033】
通話の禁止はパケット伝送量が増加するのを防止することが目的であるため、音声パケットの無線伝送そのものを停止させる必要がある。この実施形態では、アクセスポイント4とWi−Fi無線機5との接続を解除し、音声パケットの無線伝送を不可能することによって通話の禁止を実現している。接続の解除は、アクセスポイント4から行ってもよく、アクセスポイント4がWi−Fi無線機5にその旨のメッセージを送信し、Wi−Fi無線機5から接続を解除するようにしてもよい。このように、アクセスポイント4とWi−Fi無線機5との接続を解除することにより、Wi−Fi無線機5が他のアクセスポイント4を用いて通話を行うことができるようになる場合がある。たとえば、図1に示すように、Wi−Fi無線機5−2が、アクセスポイント4−1を用いた通話が不可能でその接続を解除した場合、他のアクセスポイント4−2と接続をし直すことができ、このアクセスポイント4−2を介して通話を開始できる可能性がある。
【0034】
なお、アクセスポイント4とWi−Fi無線機5との接続を解除することなく、アクセスポイント4が下り通話の音声パケットの送信を停止し、または、Wi−Fi無線機5に上り通話の音声パケットの送信を停止させるようにしてもよい。
【0035】
以下、アクセスポイント4の通話制限処理について説明する。アクセスポイント4は、TOSフィールドに特定の値が設定されたパケットを受信すると、これを通話の音声パケットと判断し、この通話の情報を通話管理テーブル10(図4参照)に登録する。同じ識別情報を有する音声パケットが繰り返し到来した場合、これらを同じ通話であると判断する。異なる識別情報の通話音声パケットが到来すると、別の通話が発生したと判断する。通話管理テーブル10に登録されている通話が所定数(最大通話数)に達すると、その所定数(最大通話数)を超える通話を禁止する処理を行う。この処理を上り通話、下り通話に対してそれぞれ同様に行う。
【0036】
図4は、アクセスポイント4の制御部20に設定される通話管理テーブル10を示す図である。通話管理テーブルには、このアクセスポイント4を経由したWi−Fi無線機5の通話が登録される。Wi−Fi無線機5から送信された上りの通話、Wi−Fi無線機5へ送信される下りの通話は、それぞれ別の通話としてこのテーブル10に登録される。通話管理テーブル10には、各通話(レコード番号1,2,…)に対して、上り通話/下り通話の区別、MACアドレス、ポート番号、最終受信時刻の各フィールドが設定されている。MACアドレスは、Wi−Fi無線機5を識別するための情報(機器識別情報)である。なお、機器識別情報はMACアドレスに限定されない。たとえばIPアドレスであってもよい。上り通話の場合、MACアドレス(機器識別情報)は音声パケットの発信元の機器を識別する情報である。下り通話の場合、MACアドレス(機器識別情報)は通話音声の宛先の機器を識別する情報である。これら、上り通話/下り通話の区別、MACアドレスおよびポート番号で、同じ通話のパケットが識別される。すなわち、通話管理テーブル10に登録されている通話(レコード)と同じ情報を持つパケットを受信したとき、このパケットは上記登録されている通話の後続のパケットであると判断される。また、受信したパケットが、TOSフィールドに特定の値が設定されているが、通話管理テーブル10に登録されているどの通話とも情報が異なるとき、新たな通話が発生したと判断する。
【0037】
最終受信時刻は、その通話のパケットを最後に受信した時刻である。その通話の音声パケットを受信する毎に、この最終受信時刻は更新される。アクセスポイント4は、通話の音声パケットを一定時間以上受信しないと、その通話は終了したと判断し、その通話のレコードを通話管理テーブル10から削除する。
【0038】
なお、図4に示した通話管理テーブル10では、同じWi−Fi無線機5を用いた上り通話と下り通話を別の通話として登録するようにしているが、通話相手装置の識別情報のフィールドを更に設ける等して、上り通話と下り通話を組み合わせて1つの通話として登録するようにしてもよい。
【0039】
以下、フローチャートを参照してWi−Fi無線機5およびアクセスポイント4の動作について説明する。
【0040】
図5(A)〜(C)は、Wi−Fi無線機5の基本動作を説明するフローチャートである。図5(A)は電源オン時の動作を示している。Wi−Fi無線機5の電源がオンされると、まず、イニシャライズ動作として通話許可フラグをリセットする(S1)。この通話許可フラグは制御部のメモリに設定されており、本無線機がアクセスポイント4から通話を許可されていることを記憶する。
【0041】
次に、Wi−Fi無線機5は、アクセスポイント(AP)4があるか、すなわち、自身がアクセスポイント4のサービスエリア40内にいるかを探索する(S2)。アクセスポイント4があった場合には(S2でYES)、そのアクセスポイント4と接続を確立して(S3)、音声パケットの送受信を可能にする。そして通話許可フラグをセットして(S4)、電源オン時の動作を終了する。なお、S2でアクセスポイント4が発見できなかった場合は、発見できるまで、すなわち、Wi−Fi無線機5がアクセスポイント4のサービスエリア40に入るまでS2で探索を継続する。また、S2において、複数のアクセスポイント4が発見された場合、Wi−Fi無線機5は最も電波状態のよいものを選択して接続を確立する。
なお、Wi−Fi無線機5が持ち運ばれて、アクセスポイント4のサービスエリアから外れた場合には、図5(A)のS1に戻ってアクセスポイント4の探索を行う。
【0042】
図5(B)は、送話動作を示すフローチャートである。Wi−Fi無線機5は、ユーザによってPTTボタン38Aがオンされると(S10)、この送話動作を実行する。まず通話許可フラグがセットされているかを判断する(S11)。セットされていない場合には(S11でNO)そのまま動作を終了する。通話許可フラグがセットされている場合には(S11でYES)、マイク36から入力されデジタル化された音声信号をパケット化して通話音声パケットを作成する(S12)。通話音声パケットの宛先は予め決められた通話相手装置のIPアドレスが設定され、TOSフィールドには特定の値が設定される。このパケットを無線LAN3を用いてアクセスポイント4に送信する(S13)。
【0043】
図5(C)は受話動作を示すフローチャートである。PTTスイッチ38Aがオフされている間は受話モードであり、この動作が繰り返し実行されている。まず、S20でアクセスポイント4からTOSフィールドに特定の値が設定された通話音声パケットを受信したかを判断する(S20)。通話音声パケットを受信していない場合には(S20でNO)そのまま動作を終了する。通話音声パケットを受信した場合には(S20でYES)、そのパケットをデコードして音声信号を復調し(S21)、この音声信号をオーディオ回路33に入力してスピーカ37(またはイヤホン)から出力する(S22)。これにより、相手装置から送信された音声を受信して再生することができる。
【0044】
図6(A)はアクセスポイントの通話制御動作を示すフローチャートである。パケットを受信すると(S30)、このパケットがTOSフィールドに特定の値が設定された通話音声パケットであるかを判断する(S31)。通話音声パケットでない、すなわちTOSフィールドの値が特定値でない場合には(S31でNO)、この通話制御処理から抜けて通常の処理を実行する。受信したパケットが通話音声パケットであった場合には(S31でYES)、この通話音声パケットの識別情報(上り通話/下り通話の区別、MACアドレス、および、ポート番号)で通話管理テーブル10を検索し(S32)、このパケットの通話が既に通話管理テーブル10に登録されているかを判定する(S33)。
【0045】
このパケットの通話が既に登録されている場合には(S33でYES)、このパケットの転送を許可し(S34)、通話管理テーブル10のこの通話の最終受信時刻を更新する(S35)。一方、このパケットの通話が登録されていない場合には(S33でNO)、通話数に空きがあるか、すなわち現在の通話数が最大通話数に達していないかを判断する(S36)。
【0046】
通話数に空きがある場合には(S36でYES)、このパケットの転送を許可する(S37)とともに、通話管理テーブル10にこのパケットの通話情報を登録する(S38)。通話数に空きがない場合には(S36でNO)、この音声パケットの発信元(または宛先)であるWi−Fi無線機5に対して通話制限処理を行い(S39)、この通話音声パケットを破棄する(S40)。ここで、この実施形態では、S39の通話制限処理で、図6(B)に示すように、該当のWi−Fi無線機5に対して通話制限メッセージを送信する(S41)。
【0047】
図7は、通話制限メッセージを受信したWi−Fi無線機5の動作を示すフローチャートである。アクセスポイント4から通話制限メッセージを受信すると(S50)、通話許可フラグをリセットする(S51)。そして、そのアクセスポイント4との接続を解除し(S52)、他のアクセスポイント4があるか否かを検索する(S53)。他のアクセスポイント4が存在する場合には(S53でYES)、そのアクセスポイント4と接続を確立し(S54)、通話許可フラグをセットする(S55)。このS54,S55の動作は、図3(A)のS3,S4の動作と同様である。
【0048】
一方、他のアクセスポイント4が存在しない場合には(S53でNO)、その状態で一定の待機時間(たとえば3分)待機する(S56)。待機ののち元のアクセスポイント4と再度接続を確立し(S57)、通話許可フラグを再度セットして(S58)、この動作を終了する。なお待機時間は3分に限定されない。
【0049】
このように、通話を制限されたWi−Fi無線機5が、アクセスポイント4との接続を解除して他のアクセスポイント4に接続し直すことにより、他のアクセスポイント4を経由した通信が可能になる。また、この実施形態では、他のアクセスポイント4が見つからない場合に限って、一定時間待機して同じアクセスポイントに接続し直しているが、他のアクセスポイント4に対する接続を試みることなく、一定時間待機したのち、元のアクセスポイントに再接続するようにしてもよい。
【0050】
なお、S53、S54において、S52で接続を解除したアクセスポイント4と異なる他のアクセスポイント4であっても、上記一定時間以内に接続していたが通話制限メッセージを受け取って接続を解除したアクセスポイント4には、上記一定時間が経過するまで接続し直さないものとする。
【0051】
図8は、アクセスポイント4の通話管理テーブル10のメンテナンス動作を示すフローチャートである。アクセスポイント4の制御部は、定期的に(たとえば0.1秒ごとに)この処理を実行する。通話管理テーブル10の先頭のレコード(通話情報)から最終のレコードまで(S60、S64、S65)以下の処理を実行する。まずそのレコードの通話の最終通話時刻を読み出す(S61)。この時刻が一定時間(たとえば10秒)以上過去であり、通話がタイムアウトしているか否かを判定する(S62)。通話がタイムアウトしている場合には(S62でYES)、この通話のレコードを通話管理テーブルから削除する(S63)。タイムアウトしていない場合には(S62でNO)、このレコードについては何もしない。以上の処理により、終わった通話をテーブルから削除して通話数に空きを作ることができる。なおタイムアウト時間は10秒に限定されない。
【0052】
以上の実施形態では、通話数が最大通話数を超えた場合、アクセスポイント4がWi−Fi無線機5に対して通話制限メッセージを送信し、Wi−Fi無線機5が自主的にアクセスポイント4との接続を解除するようにしていた。上記実施形態とは逆に、最大通話数を超えて通話が発生したとき、アクセスポイント4がWi−Fi無線機5との接続を一方的に解除するようにしてもよい。図9を参照して、アクセスポイント4がWi−Fi無線機5との接続を解除する実施形態について説明する。
【0053】
図6(A)のS39の通話制限処理として、アクセスポイント4は、図6(B)の処理に代えて図9(A)の処理を実行する。図9(A)では、該当のWi−Fi無線機5の接続を解除し(S70)、そのWi−Fi無線機5の情報を通話制限テーブルに登録する(S71)。図9(B)に通話制限テーブル11の例を示す。通話制限テーブル11は、通話を禁止するため、すなわち音声パケットの送受信を拒否するために接続を解除したWi−Fi無線機5のMACアドレス(識別情報)および通話制限すなわち接続解除を開始した時刻(制限開始時刻)を記録するテーブルである。接続を解除されたWi−Fi無線機5は、Wi−Fi機器の通常の動作として、ビーコンなどを手がかりにこのアクセスポイント4に再度接続を試みる。しかし、アクセスポイント4は、そのWi−Fi無線機5がこのテーブル11に登録されている間は、そのWi−Fi無線機5からの接続要求を拒否する。これにより、最大通話数を超える通話(音声パケットの送受信)が発生することを防止する。
【0054】
図9(C)はアクセスポイント4の接続制御処理を示すフローチャートである。Wi−Fi無線機5を含むWi−Fi機器から接続要求を受信すると(S72)、このWi−Fi機器が通話制限テーブル11に登録されているWi−Fi無線機5であるかを判断する(S73)。接続を要求してきたWi−Fi機器が通話制限テーブル11に登録されているWi−Fi無線機5でなければ(S73でNO)、このWi−Fi機器との接続確立処理を実行する(S74)。接続を要求してきたWi−Fi機器が通話制限の対象として通話制限テーブル11に登録されているWi−Fi無線機5であった場合には(S73でYES)、この接続要求を無視して動作を終了する。
【0055】
図9(D)はアクセスポイント4の通話制限テーブル11のメンテナンス処理を示すフローチャートである。アクセスポイント4の制御部は、定期的に(たとえば0.1秒ごとに)この処理を実行する。通話制限テーブルの先頭レコード(Wi−Fi無線機5)から最終レコードまで(S80、S84、S85)以下の処理を実行する。まずそのレコードのWi−Fi無線機5に対する通話制限の開始時刻を読み出し(S81)、通話制限時間が経過しているか否かを判定する(S82)。通話制限時間はたとえば3分である。通話制限時間が経過している場合には(S82でYES)、このレコード(Wi−Fi無線機5)を通話制限テーブル11から削除する(S83)。まだ通話制限時間が経過していない場合には(S82でNO)、このレコードについては何もしない。
【0056】
なお、図9(D)のS82では、通話制限時間が経過していることを条件としてレコードを通話制限テーブル11から削除しているが、この条件に代えて、またはこの条件とともに、通話数に空きができたことを条件としてもよい。
【0057】
上記実施形態では、Wi−Fi無線機5に通話許可フラグを設け、PTTスイッチ38Aがオンされたとき、この通話許可フラグがオンしていることを条件として音声パケットの送信処理を実行するようにしている。上記実施形態の場合には、通話が制限されているときWi−Fi無線機5とアクセスポイント4との接続が解除される、すなわち、下位レイヤーで通信が禁止されるため、この通話許可フラグは必須ではないが、Wi−Fi無線機5とアクセスポイント4との接続を維持したままWi−Fi無線機5の送話を制限する(待機させる)場合、すなわち、上位レイヤーで通信を禁止する場合には、この通話許可フラグが有効である。
【0058】
以上は、Wi−Fi無線機5が、通話相手装置のIPアドレスを通話音声パケットの宛先アドレスとして書き込んで送信するシステムを例にあげて本発明を説明した。本発明は、音声パケットが異なる手順で転送されるシステムにおいても同様に適用が可能である。
【0059】
たとえば、図1に示したように有線LAN2上に通話管理サーバ7を設け、通話管理サーバ7が音声パケットの宛先を管理するようなシステムであってもよい。このシステムでは、Wi−Fi無線機5は、通話管理サーバ7宛に通話音声パケットを送信する。通話管理サーバ7は受信した音声パケットを予め設定されている1または複数の宛先に転送する。このようなパケット転送により、個々のWi−Fi無線機5に宛先を設定する必要が無くなるうえ、3台以上のWi−Fi無線機5間でグループ通話をする場合にトラフィックを節約することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 LAN
2 有線LAN
3 無線LAN
4 アクセスポイント
5 Wi−Fi無線機
6 通信機器
7 通話管理サーバ
10 通話管理テーブル
11 通話制限テーブル
40 (アクセスポイントの)サービスエリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線音声通話装置との間で通話の音声パケットを無線LANを介して送受信する無線LANアクセスポイント装置であって、
前記無線音声通話装置の通話を識別する識別情報を登録する通話管理テーブルと、
制御部と、
を備え、前記制御部は、
(1) 受信した音声パケットから前記通話識別情報を抽出して、前記通話管理テーブルに登録されている識別情報と比較する手順
(2) 前記受信した音声パケットから抽出された識別情報が、前記通話管理テーブルに登録されている識別情報のいずれかと一致するとき、前記受信した音声パケットの転送を許可する手順
(3) 前記受信した音声パケットから抽出された識別情報が、前記通話管理テーブルに登録されている識別情報のいずれとも一致しないとき、前記通話管理テーブルに登録されている識別情報の数が所定の最大通話数に達しているかを判断する手順
(4) 前記通話管理テーブルに登録されている識別情報の数が前記最大通話数に達していない場合には、前記受信した音声パケットから抽出された識別情報を前記通話管理テーブルに登録し、前記受信した音声パケットの転送を許可する手順
(5) 前記通話管理テーブルに登録されている識別情報の数が前記最大通話数に達している場合には、前記受信した音声パケットから抽出された識別情報を有する音声パケットの前記無線LANによる伝送を禁止する手順
を実行することを特徴とする無線LANアクセスポイント装置。
【請求項2】
前記制御部は、
(6) 通話管理テーブルに登録されている識別情報を有する音声パケットが所定時間以上受信されない場合、当該識別情報を前記通話管理テーブルから削除する手順
をさらに実行する請求項1に記載の無線LANアクセスポイント装置。
【請求項3】
前記制御部は、受信したパケットのTOS(Type Of Service) フィールドに基づいて通話の音声パケットを判別する請求項1または請求項2に記載の無線LANアクセスポイント装置。
【請求項4】
前記(5)の手順は、前記無線音声通話装置に、この無線LANアクセスポイント装置との接続を解除する旨のメッセージを送信する手順を含む請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の無線LANアクセスポイント装置。
【請求項5】
前記(5)の手順は、前記無線音声通話装置に、音声パケットの送信の停止を指示するメッセージを送信する手順を含む請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の無線LANアクセスポイント装置。
【請求項6】
前記(5)の手順は、前記無線音声通話装置との接続を解除する手順を含む請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の無線LANアクセスポイント装置。
【請求項7】
前記制御部は、
(7) 所定の制限時間の経過後、または、前記通話管理テーブルに登録されている識別情報の数が前記最大通話数未満になった後、前記接続を解除した無線音声通話装置を再度接続する手順
をさらに実行する請求項6に記載の無線LANアクセスポイント装置。
【請求項8】
前記(1)乃至(5)の手順は、前記無線音声通話装置から送られて来る上り通話の音声パケット、および、前記無線音声通話装置へ転送される下り通話の音声パケットの両方について行われ、
前記通話管理テーブルには、前記上り通話および下り通話の音声パケットの識別情報が登録される
請求項1に記載の無線LANアクセスポイント装置。
【請求項9】
有線LANと、
該有線LANに接続された請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の無線LANアクセスポイント装置と、
該無線LANアクセスポイント装置と無線LANで接続される無線音声通話装置と、
を有する無線音声通話システムであって、
前記無線音声通話装置は、通話の相手装置に対する通話開始要求を送信することなく、前記相手装置に対する音声パケットの送信を開始する無線通話管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−12793(P2013−12793A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142410(P2011−142410)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000100746)アイコム株式会社 (273)
【Fターム(参考)】