説明

焼入装置

【課題】加熱室内の雰囲気汚染や部材の損耗を防止して水冷媒による好適な焼入処理を可能とした焼入装置を提供する。
【解決手段】被処理材を加熱処理する加熱室2と加熱処理した被処理材を浸漬して焼入れ処理する水槽部41を設けた焼入室4とを備え、加熱室2と焼入室4の間に冷媒遮断室3を設けるとともに、当該冷媒遮断室3を仕切扉53および仕切扉54によってそれぞれ加熱室2および焼入室4と遮断可能となし、かつ冷媒遮断室3を加熱するヒータ31と、冷媒遮断室3を排気する排気用ポンプユニット65を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼入装置に関し、特に焼入用冷媒として水を使用した焼入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
焼入用冷媒としては従来、油(鉱物油)が多用されている。これは、冷却歪を小さくすることが容易である等の理由による。一方、上記冷媒として、冷却能が大きく、安価で、扱いが容易な水を使用したいという要求は強く、特に真空浸炭した製品(被処理材)は冷却能に優れた水による焼入れが望まれている。
【0003】
なお、特許文献1には、焼入用冷媒として水を使用し、被処理材が投入される領域の水を、雰囲気ガスを巻き込むような流れにして、焼入れの際に生じる水蒸気が焼入装置内を汚染することが無いようにした焼入装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−97520
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、焼入用媒体として水を使用した場合の大きな問題として、従来の焼入装置では、前の処理サイクルでの被処理材投入時に生じ焼入室内に充満した水蒸気が、仕切扉を開けて次の被処理材を焼入室に搬入する際にこれに隣接する加熱室内に侵入してその雰囲気を汚染するとともに、水蒸気中の酸素が加熱室内に設けたカーボンヒータやカーボン繊維を酸化損耗させるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、加熱室内の雰囲気汚染や部材の損耗を防止して水冷媒による好適な焼入処理を可能とした焼入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では被処理材を加熱処理する加熱室(2)と加熱処理した被処理材を水冷媒で焼入れ処理する焼入室(4)とを備え、加熱室(2)と焼入室(4)の間に冷媒遮断室(3)を設けるとともに、当該冷媒遮断室(3)を第1仕切扉(53)および第2仕切扉(54)によってそれぞれ加熱室(2)および焼入室(4)と遮断可能となし、かつ冷媒遮断室(3)を加熱する加熱手段(31)と、冷媒遮断室(3)を排気する排気手段(65)を設ける。
【0008】
本発明において、第2仕切扉を開けて冷媒遮断室から焼入室へ被処理材を搬送した際に、焼入室から冷媒遮断室へ水蒸気が侵入するが、第1仕切扉を閉鎖しておけば、加熱室へ水蒸気が侵入することはない。冷媒遮断室へ侵入した水蒸気は加熱手段によってその凝縮が防止されるとともに排気手段によって装置外へ排出させられる。したがって、その後に第1仕切扉を開放しても水蒸気が加熱室へ侵入することはない。
【0009】
焼入装置は、被処理材を加熱処理する加熱室(2)と加熱処理した被処理材を油冷媒で焼入れ処理する焼入室(4)とを備え、加熱室(2)と焼入室(4)の間に冷媒遮断室(3)を設けるとともに、当該冷媒遮断室(3)を第1仕切扉(53)および第2仕切扉(54)によってそれぞれ加熱室(2)および焼入室(4)と遮断可能となし、かつ冷媒遮断室(3)を冷却する冷却手段(32)と、冷媒遮断室(3)で凝縮された油を排出する油排出路(33)を設ける構成とすることもできる。
【0010】
このような構成において、第2仕切扉を開けて冷媒遮断室から焼入室へ被処理材を搬送した際に、焼入室から冷媒遮断室へ油蒸気が侵入するが、第1仕切扉を閉鎖しておけば、加熱室へ油蒸気が侵入することはない。冷媒遮断室へ侵入した油蒸気は冷却手段によって凝縮させられ、油排出路を経て装置外へ排出させられる。したがって、その後に第1仕切扉を開放しても油蒸気が加熱室へ侵入することはない。
【0011】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明の焼入装置によれば、加熱室内の雰囲気汚染や部材の損耗を生じることなく水冷媒による好適な焼入処理を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態を示す焼入れ装置の全体概略断面図である。
【図2】参考例を示す焼入れ装置の全体概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態)
図1には焼入装置の全体構成を示す。図1において、焼入装置は前室1、加熱室2、冷媒遮断室3、焼入室4を備えている。前室1は仕切扉51によって大気と遮断可能であり、また仕切扉52によって加熱室2と遮断可能である。加熱室2と冷媒遮断室3との間は仕切扉53によって遮断可能となっており、冷媒遮断室3と焼入室4は仕切扉54によって遮断可能である。焼入室4は仕切扉55によって大気と遮断可能となっている。
【0015】
前室1と加熱室2は途中に真空弁62,63を介設した排気管64によって排気用ポンプユニット61に連結されている。また、冷媒遮断室3は途中に真空弁66を介設した排気管67によって排気手段たる排気用ポンプユニット65に連結されている。前室1内には被処理材を載置し受け渡すための昇降台11が設置されている。また、加熱室2には被処理材を加熱するための公知構造のヒータ21が設置されている。さらに冷媒遮断室3の室壁には後述のように室内を昇温するためのヒータ31が設置されている。
【0016】
焼入室4の下半部は冷媒である水を貯留した水槽部41となっている。水槽部41内の水はポンプ42によって熱交換器43に循環させられて、常に常温に保たれている。また、焼入室4の上半部内には被処理材を搬送する図略のハンガーを昇降させる昇降装置44が設置されている。ハンガーは、前室1と加熱室2の間の搬送用、加熱室2と冷媒遮断室3と焼入室4の間の搬送用がそれぞれ設けられている。
【0017】
このような焼入装置で焼入処理を行なう場合には、仕切扉51を開けて昇降台11に被処理材を載せて上昇させる。仕切扉51を閉めて前室1内を6Pa程度まで真空引きする。このとき加熱室2内は予め同程度に真空引きされている。前室1内に位置しているハンガーを昇降台11に合致させ、昇降台11下降時に被処理材をハンガーへ移行させる。仕切扉52を開いて被処理材をハンガーで加熱室2内へ搬送し、図略の昇降テーブル上へ置く。その後、ハンガーは前室1に戻され、仕切扉52が閉じられて、ヒータ21によって被処理材が1000℃以上に加熱される。この間に冷媒遮断室3は6Pa程度まで真空引きされている。
【0018】
加熱終了後は仕切扉53を開放し、冷媒遮断室3内で待機していたハンガーで加熱室2内の被処理材を冷媒遮断室3へ搬送する。その後、仕切扉53が閉じられて、冷媒遮断室3内が大気圧へ復圧される。焼入室4は大気圧であるから仕切扉54が開放され、ハンガーによって被処理材は焼入室4に搬送される。この時、焼入室4内に存在する水蒸気が冷媒遮断室3に侵入するが、仕切扉53が閉じられているから、加熱室2へ水蒸気が侵入することはない。仕切扉54が閉鎖されて、焼入室4では昇降装置44によってハンガーに載置されたままで被処理材は水中に浸漬されて焼入れ処理がなされる。
【0019】
焼入れ処理を終了すると、被処理材を載置したハンガーは昇降装置44によって水中から引き上げられる。そこで、仕切扉55を開けてハンガー上から被処理材を装置外へ取り出す。続いて仕切扉55が閉鎖されるとともに仕切扉54が開放されてハンガーが冷媒遮断室3内へ戻され、仕切扉54が再び閉鎖される。そしてヒータ31に通電されて冷媒遮断室3内が、水分が凝縮しない50℃以上、好ましくは100℃以上に昇温される。同時に冷媒遮断室3内は6Pa程度まで真空引きされる。これにより、焼入室4から侵入した水蒸気は冷媒遮断室3に残留することなく全て排出される。したがって、次の処理サイクルで仕切扉53が開いても加熱室2内へ水蒸気が侵入することはない。
【0020】
このようにして、焼入室4で生じた水蒸気は冷媒遮断室3までしか侵入せず、しかも冷媒遮断室3から全て装置外へ排出されるから、加熱室2内へ水蒸気が侵入して雰囲気を汚染したり、カーボンヒータ等の酸化損耗を生じることは無い。なお、本実施形態では焼入室4を大気圧としたが、窒素や圧縮空気を供給して焼入室4の室内圧を0.1MpaG〜0.2MPaG程度まで大気圧より高くしておくと、水槽部41の水の蒸発を抑えることができるとともに焼入れ性をさらに向上させることができる。
【0021】
(参考例)
焼入用冷媒として油を使用した場合には焼入れ装置の全体構成は図2に示すようなものになる。この場合、焼入室4の下半部は冷媒である油を貯留した油槽部45となっている。油槽部45内の油はポンプ42によって熱交換器43に循環させられて、常に200℃程度に保たれている。また、焼入室4は途中に真空弁68を介設した排気管67によって排気手段たる排気用ポンプユニット65に連結されている。加熱室2と焼入室4の間に位置する冷媒遮断室3の室壁には室内を5℃程度に維持するために冷却手段たるチラー水循環式の冷却ジャケット32が設置されている。また、冷媒遮断室3の底壁には真空弁33を介設した油排出路たるドレン管34が連結されている。他の構成は上記実施形態と同様である。
【0022】
このような焼入装置で焼入処理を行なう場合には、仕切扉51を開けて昇降台11に被処理材を載せて上昇させる。仕切扉51を閉めて前室1内を6Pa程度まで真空引きする。このとき加熱室2内は予め同程度に真空引きされている。前室1内に位置しているハンガーを昇降台11に合致させ、昇降台11下降時に被処理材をハンガーへ移行させる。仕切扉52を開いて被処理材をハンガーで加熱室2内へ搬送し、図略の昇降テーブル上へ置く。その後、ハンガーは前室1に戻され、仕切扉52が閉じられて、ヒータ21によって被処理材が1000℃以上に加熱される。この間に冷媒遮断室3も6Pa程度まで真空引きされている。
【0023】
加熱終了後は仕切扉53を開放し、冷媒遮断室3内で待機していたハンガーで加熱室2内の被処理材を冷媒遮断室3へ搬送する。その後、仕切扉53が閉じられる。焼入室4はこの間に6Pa程度まで真空引きされており、仕切扉54が開放されて、ハンガーによって被処理材は焼入室4に搬送される。この時、焼入室4に存在する油蒸気が冷媒遮断室3内に侵入するが、仕切扉53が閉じられているから、加熱室2へ油蒸気が侵入することはない。その後、仕切扉54が閉鎖され、昇降装置44によってハンガーに載置されたままで被処理材は油中に浸漬されて焼入れ処理がなされる。
【0024】
焼入れ処理を終了した後は、被処理材を載置したハンガーは昇降装置44によって油中から引き上げられる。そこで、焼入室4内を大気へ復圧し、仕切扉55を開けてハンガー上から被処理材を装置外へ取り出す。その後、仕切扉55を閉鎖して再び焼入室4を6Pa程度まで真空引きし、仕切扉54を開いてハンガーを冷媒遮断室3内へ戻す。そして、仕切扉54が閉鎖される。ここで、冷媒遮断室3は5℃程度に冷却されているから、焼入室4から侵入した油蒸気は凝縮して液体となり、ドレン管34を経て冷媒遮断室3に残留することなく全て排出される。したがって、次の処理サイクルで仕切扉53が開いても加熱室2内へ油蒸気が侵入することはない。
【0025】
このようにして、焼入室4で生じた油蒸気は冷媒遮断室3までしか侵入せず、しかも冷媒遮断室3から全て装置外へ排出されるから、加熱室2内へ油蒸気が侵入して雰囲気を汚染したり、蒸着炭化によるヒータ部の絶縁破壊等を生じることは無い。なお、本参考例では焼入室4を真空雰囲気として油冷媒中の脱気を図ったが、焼入れ性の向上が必要な場合には、窒素や圧縮空気を供給して焼入室4の室内圧を0.1MpaG〜0.2MPaG程度まで大気圧より高くしておくのが良い。
【0026】
上記実施形態および参考例において、焼入室4に水槽部41や油槽部45を設けず、被処理材に水や油の冷媒を直接吹きつけることによって焼入れを行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0027】
2…加熱室、3…冷媒遮断室、31…ヒータ(加熱手段)、4…焼入室、41…水槽部、53…仕切扉(第1仕切扉)、54…仕切扉(第2仕切扉)、65…排気用ポンプユニット(排気手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理材を加熱処理する加熱室と加熱処理した被処理材を水冷媒で焼入れ処理する焼入室とを備え、前記加熱室と前記焼入室の間に冷媒遮断室を設けるとともに、当該冷媒遮断室を第1仕切扉および第2仕切扉によってそれぞれ前記加熱室および前記焼入室と遮断可能となし、かつ前記冷媒遮断室を加熱する加熱手段と、冷媒遮断室を排気する排気手段を設けたことを特徴とする焼入れ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−26653(P2011−26653A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172593(P2009−172593)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】