説明

焼結体およびその製造方法、光触媒、ガラス粉粒体混合物、並びに、スラリー状混合物

【課題】ガラスを原料として、2種以上の異なる光触媒化合物を必要十分な量で含有し、優れた光触媒活性を有する光触媒機能性素材を提供する。
【解決手段】 焼結体の製造方法は、組成が異なる2種以上のガラス粉粒体を混合して混合物を作製する工程と、混合物を加熱し、光触媒活性を有する結晶を含むガラスセラミックスの焼結体を作製する工程と、を備えている。得られる焼結体は、TiO結晶、WO結晶、ZnO結晶、RnNbO結晶、RnTaO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)、及びこれらの固溶体からなる群より選択される2種以上の結晶を含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスを利用した光触媒機能性の焼結体およびその製造方法、光触媒、ガラス粉粒体混合物、並びに、スラリー状混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛等の金属酸化物は、高い光触媒活性を有することが知られている。これら光触媒活性を有する化合物(以下、単に「光触媒化合物」と記すことがある)は、バンドギャップエネルギー以上のエネルギーの光が照射されると、電子や正孔を生成するため、光触媒化合物を含む成形体の表面近傍において、酸化還元反応が強く促進される。また、光触媒化合物を含む成形体の表面は、水に濡れ易い親水性を呈するため、雨等の水滴で洗浄される、いわゆるセルフクリーニング作用を有することが知られている。
【0003】
光触媒化合物としては、主に酸化チタンが研究されてきたが、酸化チタンはバンドギャップが3〜3.2eVであるため、波長400nm以下の紫外線を照射する必要があり、可視光では十分な光触媒活性が得られないという欠点があった。一方、酸化タングステン(例えばWO)は、バンドギャップが約2.5eVであり、可視光応答性の光触媒活性を持つことから紫外線が少ない屋内でも利用できる長所がある。
【0004】
ところで、光触媒化合物を基材に担持させる手法として、基材の表面に光触媒化合物を含む膜を成膜する技術や、光触媒化合物を基材中に含ませる技術などが検討されている。基材の表面に光触媒化合物を含む膜を成膜する方法としては、塗布によって塗布膜を形成する塗布法のほか、スパッタリング、蒸着、ゾルゲル、CVD(化学気相成長)等の方法が知られている。例えば、特許文献1では、合成樹脂を分散相とする水性エマルジョンに高濃度の無機チタン化合物を含有する光触媒性塗布剤が提案されている。また、特許文献2では、平均粒子径が0.01〜0.05μmの酸化タングステン微粒子をバインダーとともに含有する可視光応答型光触媒塗料が提案されている。さらに、特許文献3では、酸化亜鉛を含む光触媒塗料が提案されている。
【0005】
一方、光触媒化合物を基材中に含ませる技術として、酸化チタンに関するものであるが、例えば特許文献4では、SiO、Al、CaO、MgO、B、ZrO、及びTiOの各成分を所定量含有する光触媒用ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−81712号公報
【特許文献2】特開2009−56398号公報
【特許文献3】特開2007−302851号公報
【特許文献4】特開平9−315837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、多くの従来技術では、基材の表面に光触媒化合物を含む膜を成膜することによって、光触媒化合物を担持させるという考え方を採用している。しかし、このような考え方に立脚する手法に共通の課題として、基材と光触媒化合物を含む膜との密着性および膜自体の耐久性を確保することが難しい点が挙げられる。つまり、これらの手法で製造された光触媒機能性製品は、光触媒化合物を含む膜が基材から剥離したり、膜が劣化して光触媒機能が損なわれたりするおそれがある。例えば特許文献1〜3のように、塗料を用いて塗布膜を形成した場合、塗布膜に残留している樹脂や有機バインダーが、紫外線等によって分解されたり、光触媒化合物の触媒作用で酸化還元されたりする結果、塗布膜が経時的に劣化しやすく、耐久性が十分ではないという問題があった。また、膜中に担持させた光触媒化合物の活性を十分に引き出すためには、光触媒化合物をナノサイズの超微粒子に加工する必要があるが、ナノサイズの超微粒子は作製コストが高くなるとともに、表面エネルギーの増大によって凝集しやすくなり、取り扱いが難しいという問題点があった。
【0008】
一方、特許文献4で開示される光触媒用ガラスは、ガラス中に酸化チタンを含有させている点で他の従来技術とは考え方を異にしている。しかし、特許文献4の技術では、光触媒化合物である酸化チタンは結晶構造を有しておらず、アモルファスの形でガラス中に存在するため、その光触媒活性が弱く、不充分であった。
【0009】
そこで、本発明者は、ガラスから光触媒活性を有する結晶を析出させることによって、耐久性に優れ、取り扱いも容易な光触媒素材を提供できると着想した。ガラス中に光触媒活性を有する結晶を析出させる場合、目的の結晶を必要十分な量で析出させることが重要である。また、例えば紫外線応答型の酸化チタンと、可視光応答型の酸化タングステンの組み合わせなどのように、ガラス中に機能の異なる2種以上の結晶を同時に析出させることができれば、相互の機能が補完し合うことによって優れた特性の光触媒機能性材料を提供できると考えられる。しかし、光触媒化合物を多量に配合したガラスは、非常に不安定であり、一つのガラス組成から目的とする2種以上の光触媒化合物の結晶を同時に必要十分な量で析出させることは極めて困難であった。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ガラスを原料として、2種以上の異なる光触媒化合物を必要十分な量で含有し、優れた光触媒活性を有する光触媒機能性素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、組成が異なる2種以上のガラス粉粒体を混合して得られる混合物を加熱することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の(1)〜(29)に存する。
【0012】
(1)組成が異なる2種以上のガラス粉粒体を混合して混合物を作製する工程と、
前記混合物を加熱し、光触媒活性を有する結晶を含むガラスセラミックスの焼結体を作製する工程と、
を備えた焼結体の製造方法。
【0013】
(2)組成が異なる2種以上のガラス粉粒体を混合して混合物を作製する工程と、
前記混合物を所望形状の成形体に成形する工程と、
前記成形体を加熱し、光触媒活性を有する結晶を含むガラスセラミックスの焼結体を作製する工程と、
を備えた焼結体の製造方法。
【0014】
(3)前記光触媒活性を有する結晶は、TiO結晶、WO結晶、ZnO結晶、RnNbO結晶、RnTaO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)、及びこれらの固溶体からなる群より選択される2種以上の結晶を含む上記(1)又は(2)に記載の焼結体の製造方法。
【0015】
(4)前記光触媒を有する結晶が、ナシコン型の結晶を含む、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【0016】
(5)前記2種以上のガラス粉粒体として、少なくとも、
加熱により光触媒活性を有する第1の結晶を析出し得る第1のガラス粉粒体と、
加熱により前記第1の結晶とは異なる種類の、光触媒活性を有する第2の結晶を析出し得る第2のガラス粉粒体と、
を用いる上記(1)〜(4)のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【0017】
(6)前記第1の粉粒体及び第2の粉粒体は、それぞれ、TiO結晶、WO結晶、ZnO結晶、RnNbO結晶、RnTaO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)、及びこれらの固溶体からなる群より選択される1種以上の結晶を析出し得るものである上記(5)に記載の焼結体の製造方法。
【0018】
(7)前記ガラス粉粒体の粒径が、5nm〜5mmの範囲内である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【0019】
(8)Ag、Cu、Fe、Ce、Au、Pt、Pd、及びReからなる群より選ばれる1種以上の成分を含有する上記(1)〜(7)のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【0020】
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法により製造される光触媒機能性の焼結体。
【0021】
(10)紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現される上記(9)に記載の焼結体。
【0022】
(11)JIS R 1703−2:2007に基づくメチレンブルーの分解活性指数が3nmol/L/min以上である上記(9)又は(10)に記載の焼結体。
【0023】
(12)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法により製造される親水性の焼結体。
【0024】
(13)紫外領域から可視領域までの波長の光を照射した表面と水滴との接触角が30°以下である上記(12)に記載の焼結体。
【0025】
(14)上記(9)〜(13)のいずれかに記載の焼結体を有する光触媒。
【0026】
(15)粉粒状、又はファイバー状の形態を有する上記(14)に記載の光触媒。
【0027】
(16)上記(14)又は(15)に記載の光触媒と、溶媒と、を含有するスラリー状混合物。
【0028】
(17)上記(14)又は(15)に記載の光触媒を含む光触媒部材。
【0029】
(18)上記(14)又は(15)に記載の光触媒を含む浄化装置。
【0030】
(19)上記(14)又は(15)に記載の光触媒を含むフィルタ。
【0031】
(20)基材と、この基材上に設けられたガラスセラミックス層とを有するガラスセラミックス複合体であって、
前記ガラスセラミックス層が、上記(9)〜(13)のいずれかに記載の焼結体を含むことを特徴とするガラスセラミックス複合体。
【0032】
(21)組成が異なる2種以上のガラス粉粒体を含み、加熱により光触媒活性を有する結晶を析出し得るガラス粉粒体混合物。
【0033】
(22)前記光触媒活性を有する結晶は、TiO結晶、WO結晶、ZnO結晶、RnNbO結晶、RnTaO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)、及びこれらの固溶体からなる群より選択される2種以上の結晶を含む上記(21)に記載のガラス粉粒体混合物。
【0034】
(23)前記2種以上のガラス粉粒体として、少なくとも、
加熱により光触媒活性を有する第1の結晶を析出し得る第1のガラス粉粒体と、
加熱により前記第1の結晶とは異なる種類の、光触媒活性を有する第2の結晶を析出し得る第2のガラス粉粒体と、
を含有する上記(21)又は(22)のいずれかに記載のガラス粉粒体混合物。
【0035】
(24)前記第1のガラス粉粒体及び第2のガラス粉粒体は、それぞれ、TiO結晶、WO結晶、ZnO結晶、RnNbO結晶、RnTaO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)、及びこれらの固溶体からなる群より選択される1種以上の結晶を析出し得るものである上記(23)に記載のガラス粉粒体混合物。
【0036】
(25)前記結晶として、ナシコン型の結晶を含む、上記(21)から(24)のいずれかに記載のガラス粉粒体混合物。
【0037】
(26)上記(21)〜(25)のいずれかに記載のガラス粉粒体混合物を含有するスラリー状混合物。
【0038】
(27)光触媒活性を有する第1の結晶と、前記第1の結晶とは異なる種類の、光触媒活性を有する第2の結晶と、を含有する光触媒機能性の焼結体。
【0039】
(28)前記第1の結晶と、前記第2の結晶の含有比率が、質量比で1:x(ここで、xは0.01以上0.99の数を意味する)である上記(27)に記載の焼結体。
【0040】
(29)前記第1の結晶及び前記第2の結晶が、それぞれ、TiO結晶、WO結晶、ZnO結晶、RnNbO結晶、RnTaO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)及びこれらの固溶体からなる群より選択されるものである上記(27)又は(28)に記載の焼結体。
【発明の効果】
【0041】
本発明の焼結体の製造方法によれば、組成が異なる2種以上のガラス粉粒体を混合して混合物を作製した後、この混合物を加熱することによって、2種以上の光触媒結晶を豊富に含む焼結体を得ることができる。本発明方法では、ガラス粉粒体の組み合わせを変えることによって、複数種類の光触媒結晶を任意の組み合わせで含有する焼結体を容易に製造できる。従って、単一のガラス相から複数種類の光触媒結晶を析出させる場合にくらべて、光触媒結晶の結晶型の制御や、析出量の制御が格段に容易になり、優れた光触媒機能性素材を提供できる。また、優れた光触媒活性を有する焼結体を工業的規模で容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例2の焼結体についてのXRDパターンである。
【図2】実施例1のサンプルについて、紫外線照射の有無によるMB溶液の状態変化を示す図面(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0044】
[焼結体]
本発明の焼結体の製造方法によって得られる焼結体は、光触媒活性を有する結晶(以下、「光触媒結晶」と記すことがある)を含有するガラスセラミックスである。ここで、光触媒結晶としては、特に限定する趣旨ではないが、例えば、TiO結晶、WO結晶、ZnO結晶、RnNbO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)、RnTaO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)、TiP結晶、(TiO)結晶、LiTi(PO、NaTi(PO、KTi(PO、MgTi(PO、CaTi(PO、SrTi(PO、BaTi(PO、ZnTi(PO、ZnGeO結晶、ZnSiSO結晶等、及びこれらの固溶体を挙げることができる。
【0045】
本発明の焼結体は、2種以上の異なる種類の光触媒結晶を含有することができる。すなわち、本発明の焼結体は、少なくとも、光触媒活性を有する第1の結晶と、第1の結晶とは異なる種類の、光触媒活性を有する第2の結晶と、を含有することができる。この場合、例えば焼結体の使用目的や、光触媒結晶の特性を考慮して、光触媒結晶の組み合わせと、光触媒結晶の含有(析出)比率を容易に制御できることも本発明の長所である。同様の光触媒特性を持つ2種以上の光触媒結晶を組み合わせることにより、その光触媒特性を増強させた焼結体にすることができるし、異なる光触媒特性を持つ2種以上の光触媒結晶を組み合わせることによって、光触媒特性を相互に補完させて幅広い光触媒特性を持つ焼結体にすることができる。なお、焼結体は、異なる3種、さらに4種以上の光触媒結晶を含有していてもよい。
【0046】
本発明の焼結体は、特にTiO結晶、WO結晶、ZnO結晶、RnNbO結晶、RnTaO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)、及びこれらの固溶体からなる群より選択される2種以上の結晶を含むことが好ましい。これらの中でも好ましい組み合わせとしては、例えばTiO結晶とWO結晶の組み合わせ、TiO結晶とRnNbO結晶の組み合わせを挙げることができる。特に好ましい組み合わせとして、焼結体がTiO結晶とWO結晶とを含有することによって、紫外線から可視光線までの幅広い波長の光に対する応答性が得られる。この場合、第1の結晶としてのTiO結晶と、第2の結晶としてのWO結晶との含有比率が、質量比で1:x(ここで、xは0.01以上0.99の数を意味する)であることが好ましい。
【0047】
また、前記光触媒結晶には、ナシコン型の結晶、特にRnTi(PO、RTi(PO(ここで、RnはLi、Na、K、Rb、Csから選ばれる1種以上とし、RはMg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種以上とする)の一方または両方を含むことが望ましい。これらの結晶を含有することにより、光触媒特性が向上すると共に、機械的な強度や化学耐久性などが大幅に向上する。
【0048】
また、本発明の焼結体は、光触媒結晶をガラス全体積に対する体積比で1%以上98%以下の範囲内で含んでいることが好ましい。光触媒結晶の含有率が1%以上であることにより、焼結体が良好な光触媒特性を有することができる。一方で、上記結晶の含有率が98%以下であることにより、焼結体が良好な機械的な強度を得ることができる。焼結体の結晶化率は、体積比で好ましくは1%、より好ましくは5%、最も好ましくは10%を下限とし、好ましくは98%、より好ましくは95%、最も好ましくは90%を上限とする。前記結晶の大きさは、球近似したときの平均径が、5nm〜3μmであることが好ましい。熱処理条件をコントロールすることにより、析出した結晶相のサイズを制御することが可能であるが、有効な光触媒特性を引き出すため、結晶のサイズを5nm〜3μmの範囲とすることが好ましく、10nm〜1μmの範囲とすることがより好ましく、10nm〜300nmの範囲とすることが最も好ましい。結晶粒径及びその平均値はXRDの回折ピークの半値幅より、シェラーの式より見積もることができる。回折ピークが弱かったり、重なったりする場合は、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した結晶粒子面積から、これを円と仮定してその直径を求めて測定できる。顕微鏡を用いて平均値を算出する際には、無作為に100個以上の結晶直径を測定することが好ましい。
【0049】
本発明の焼結体は、紫外領域から可視領域までの波長の光によって光触媒活性が発現されることが好ましい。ここで、本発明でいう紫外領域の波長の光は、波長が可視光線より短く軟X線よりも長い不可視光線の電磁波のことであり、その波長はおよそ10〜400nmの範囲にある。また、本発明でいう可視領域の波長の光は、電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の電磁波のことであり、その波長はおよそ400nm〜700nmの範囲にある。これら紫外領域から可視領域までのいずれかの波長の光、またはそれらが複合した波長の光が焼結体の表面に照射されたときに触媒活性が発現されることにより、焼結体の表面に付着した汚れ物質や細菌等が酸化又は還元反応により分解されるため、焼結体を防汚用途や抗菌用途等に用いることができる。
【0050】
さらに、本発明の焼結体は、JIS R 1703−2:2007に基づくメチレンブルーの分解活性指数が3.0nmol/L/min以上であることが好ましい。光触媒には紫外線があたると強力な酸化力を生じ、触れた有機物を二酸化炭素や水に分解する性能がある。これを酸化分解性能と呼び、以下のようなセルフクリーニング性能試験により性能評価することができる。試験片に、有機色素(メチレンブルー)を溶かした水を接触させ、分光光度計で初期の吸光度(光が吸収される度合い)を測る。一定時間紫外線を照射し、吸光度の測定を行う操作を繰り返す。光触媒により色素が分解されるため、溶液は徐々に濃度が下がり透明となり、吸光度は下がる。この濃度の経時変化から色素の分解速度が算出でき、それが試験片のセルフクリーニング性能(酸化分解性能)の指標となる。
【0051】
また、本発明の焼結体は、紫外領域から可視領域までの波長の光を照射した表面と水滴との接触角が30°以下であることが好ましい。これにより、焼結体の表面が親水性を呈し、セルフクリーニング作用を有するため、焼結体の表面を水で容易に洗浄することができ、汚れによる光触媒特性の低下を抑制することができる。光を照射した焼結体表面と水滴との接触角は、30°以下が好ましく、25°以下がより好ましく、20°以下が最も好ましい。
【0052】
焼結体の形態は、特に限定されるものではなく、粉粒状やスラリー状、任意の形状に成形された成形物、任意の基材上に焼結体層が形成された複合体等の形態とすることができる。なお、焼結体をスラリー状にする場合、後述する原料のガラス粉粒体のスラリー状混合物と同様の方法で、同様の溶媒やバインダーなどを用いてスラリー状に調製することができる。
【0053】
次に、焼結体の製造方法について、第1の方法及び第2の方法を例示して説明するが、これらの方法に限定されるものではない。
【0054】
[第1の方法]
第1の方法は、組成が異なる2種以上のガラス粉粒体を混合して混合物を作製する工程(混合工程)と、前記混合物を加熱し、光触媒活性結晶を含むガラスセラミックスの焼結体を作製する工程(加熱工程)と、を備えている。
【0055】
<ガラス粉粒体>
第1の方法において、原料として用いる「組成が異なる2種以上のガラス粉粒体」としては、少なくとも、加熱により光触媒活性を有する第1の結晶を析出し得る第1のガラス粉粒体と、加熱により前記第1の結晶とは異なる種類の、光触媒活性を有する第2の結晶を析出し得る第2のガラス粉粒体と、を用いることができる。第1のガラス粉粒体及び第2のガラス粉粒体は、それぞれ、1種以上の光触媒結晶を析出し得るものであればよい。ガラス粉粒体が析出する光触媒結晶の種類は、任意である。また、2種以上のガラス粉粒体により析出される2種以上の光触媒結晶の組み合わせも特に制限はなく、任意の組み合わせにすることができる。なお、組成が異なり、異なる光触媒結晶を析出する3種、さらに4種以上のガラス粉粒体を用いてもよい。
【0056】
また、焼結体の原料として用いるガラス粉粒体中には、Ag、Cu、Fe、Ce、Au、Pt、Pd及びReからなる群より選ばれる1種以上の成分を含有することが好ましい。なお、ガラス粉粒体のガラス組成については、後述する。
【0057】
第1の方法に使用するガラス粉粒体の粒径は、混合により均一化しやすいこと、及び、加熱焼成の際にそれぞれのガラス粉粒体に由来するガラス相が完全に混和・一体化する過程で別々のガラスマトリックスの中から所望の光触媒活性を有する結晶を含む結晶相が形成されるようにするため、例えば5nm以上5mm以下の範囲内であることが好ましく、50nm以上500μm以下の範囲内であることがより好ましく、100nm以上100μm以下の範囲内であることが望ましい。なお、混合される各ガラス粉粒体の平均粒径は、同程度であってもよいし、異なる粒径であってもよいが、均一に混合しやすくする観点から、同程度であることが好ましい。
【0058】
<混合工程>
ガラス粉粒体を混合する混合工程は、特に限定する趣旨ではないが、例えば、ミキサーを用いて2種以上のガラス粉粒体を均質な状態になるまで混合すればよい。
【0059】
<加熱工程>
加熱工程では、ガラス粉粒体を加熱して焼成を行うことで、光触媒結晶を含む結晶相を有する焼結体を作製する。ここで、加熱工程の具体的な手順は特に限定されないが、ガラス粉粒体の混合物(以下、「混合物」と記すことがある)を設定温度へと徐々に昇温させる工程、混合物を設定温度に一定時間保持する工程、混合物を室温へと徐々に冷却する工程を含むことができる。このような熱処理によって、ナノからミクロン単位までの所望のサイズを有する光触媒結晶を焼結体の内部に均一に分散させて形成できる。
【0060】
加熱工程では、混合物をそのまま加熱してもよいし、任意の基材上に混合物を配置して加熱してもよい。基材を用いる場合、基材の材質は特に限定されないが、光触媒結晶と複合化させ易い点で、例えば、ガラス、セラミックス等の無機材料や金属等を用いることが好ましい。混合物を基材上に配置するには、例えば、混合物を含有するスラリーを、所定の厚み・寸法で基材上に配置することが好ましい。これにより、光触媒特性を有する焼結体を容易に基材上に形成することができる。ここで、形成される焼結体の層の厚さは、焼結体層が剥がれないように十分な耐久性を持たせる観点から、その厚みは、例えば500μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが最も好ましい。スラリーを基材上に配置する方法としては、例えばドクターブレード法やカレンダ法、スピンコートやディップコーティング等の塗布法、インクジェット、バブルジェット(登録商標)、オフセット等の印刷法、ダイコーター法、スプレー法、射出成型法、押し出し成形法、圧延法、プレス成形法、ロール成型法等が挙げられる。
【0061】
なお、混合物を基材上に配置する方法としては、上述のスラリーを用いる方法に限られず、混合物を基材に直接載せてもよい。また、有機又は無機バインダー成分と混合して、あるいはバインダー層を基材との間に介在させて配置することもできる。この場合、光触媒作用に対する耐久性の面で、無機バインダーが好ましい。
【0062】
加熱工程における熱処理の条件は、混合物を構成するガラス体の組成、混合された添加物の種類及び量等に応じ、適宜設定することができるが、熱処理と同時にガラスの結晶化処理を行うことができる温度を選択する。熱処理温度が低すぎると所望の結晶相を有する焼結体が得られないため、少なくともガラス体のガラス転移温度(Tg)より高い温度での焼成が必要となる。具体的に、熱処理温度の下限は、ガラス体のガラス転移温度(Tg)であり、好ましくはTg+50℃であり、より好ましくはTg+100℃であり、最も好ましくはTg+150℃である。他方、熱処理温度が高くなりすぎると光触媒結晶を含む結晶相が減少し光触媒特性が消失する傾向があるので、熱処理温度の上限は、好ましくはガラス体のTg+600℃であり、より好ましくはTg+500℃であり、最も好ましくはTg+450℃である。
【0063】
また、熱処理時間は、ガラスの組成や熱処理温度などに応じて設定する必要がある。昇温速度を遅くすれば、熱処理温度まで加熱するだけでいい場合もあるが、目安としては高い温度の場合は短く、低い温度の場合は、長く設定することが好ましい。具体的には、結晶をある程度まで成長させ、かつ十分な量の結晶を析出させ得る点で、好ましくは1分、より好ましくは3分、最も好ましくは5分を熱処理時間の下限とする。一方、熱処理時間が24時間を越えると、目的の結晶が大きくなりすぎたり、他の結晶が生成したりして十分な光触媒特性が得られなくなるおそれがある。従って、熱処理時間の上限は、好ましくは24時間、より好ましくは19時間、最も好ましくは18時間とする。なお、ここで言う熱処理時間とは、加熱工程のうち熱処理温度が一定(例えば、上記設定温度)以上に保持されている期間の長さを意味する。
【0064】
加熱工程は、例えばガス炉、マイクロ波炉、電気炉等の中で、空気交換しつつ行うことが好ましい。ただし、この条件に限らず、例えば不活性ガス雰囲気、還元ガス雰囲気、酸化ガス雰囲気等にて行ってもよい。
【0065】
[第2の方法]
第2の方法は、組成が異なる2種以上のガラス粉粒体を混合して混合物を作製する工程(混合工程)と、前記混合物を所望形状の成形体に成形する工程(成形工程)と、前記成形体を加熱し、光触媒活性を有する結晶を含むガラスセラミックスの焼結体を作製する工程(加熱工程)と、を備えている。なお、第2の方法で原料として使用する2種以上のガラス粉粒体、及び混合工程の内容は、上記第1の方法と同様であるため、説明を省略する。
【0066】
<成形工程>
成形工程は、混合物を所定の形状に成形する工程であり、例えば、混合物をスラリーの状態にした後、所定の形状に成形したり、混合物を型に入れて加圧したり(プレス成形)、混合物を耐火物の上に堆積させて成形する等の方法によることが可能である。この場合、混合物に有機又は無機バインダー成分を加えることによって、成形を容易にすることができる。
【0067】
<加熱工程>
第2の方法における加熱工程は、第1の方法と同様の熱処理条件及び熱処理時間で実施できる。
【0068】
[光触媒]
以上のようにして製造される焼結体は、そのまま、あるいは任意の形状に加工して光触媒として用いることができる。ここで「光触媒」は、例えば、バルクの状態、粉末状などその形状は問わない。また、光触媒は、紫外線等の光によって有機物を分解する作用と、水に対する接触角を小さくして親水性を付与する作用と、のいずれか片方又は両方の活性を有するものであればよい。この光触媒は、例えば光触媒材料、光触媒部材(例えば水の浄化材、空気浄化材など)、親水性材料、親水性部材(例えばパネル、タイルなど)等として様々な機械、装置、器具類等の用途に利用できる。特に、タイル、窓枠、建材等の用途に用いることが好ましい。これにより、これらの部材の表面に光触媒機能が奏され、表面に付着した菌類が殺菌されるため、これらの用途に用いたときに表面を衛生的に保つことができる。また、前記部材の表面は親水性を持つため、これらの用途に用いたときに表面に付着した汚れを雨滴等で容易に洗い流すことができる。
【0069】
また、本発明の焼結体は、用途に応じて、種々の形態に加工することができる。特に、例えばガラスファイバー(ガラスファイバー)の形態を採用することにより、光触媒結晶の露出面積が増えるため、焼結体の光触媒活性をより高めることができる。
【0070】
次に、光触媒の代表的な適用例として、ガラスファイバー及びガラスセラミックス複合体を挙げて説明する。
【0071】
[ガラスファイバー]
本発明のガラスファイバーは、ガラスファイバーの一般的な性質を有する。すなわち、通常の繊維に比べ引っ張り強度・比強度が大きい、弾性率・比弾性率が大きい、寸法安定性が良い、耐熱性が大きい、不燃性である、耐化学性が良いなどの物性上のメリットを有し、これらを活かした様々な用途に利用できる。また、繊維の内部及び表面に光触媒結晶を有するので、前述したメリットに加え光触媒特性を有し、さらに幅広い分野に応用できる繊維構造体を提供できる。ここで繊維構造体とは、繊維が、織物、編制物、積層物、又はそれらの複合体として形成された三次元の構造体をいい、例えば不織布を挙げられる。
【0072】
ガラスファイバーの、耐熱性、不燃性を活かした用途としてカーテン、シート、壁貼クロス、防虫網、衣服類、又は断熱材等があるが、本発明のガラスファイバーを用いると、さらに前記用途における物品に光触媒作用による、消臭機能、汚れ分解機能などを与え、掃除やメンテナンスの手間を大幅に減らすことができる。
【0073】
また、ガラスファイバーはその耐化学性から濾過材として用いられることが多いが、本発明のガラスファイバーは、単に濾過するだけでなく、光触媒反応によって被処理物中の悪臭物質、汚れ、菌などを分解するので、より積極的な浄化機能を有する浄化装置及びフィルタを提供できる。さらには、光触媒層の剥離・離脱による特性の劣化がほとんど生じないので、これらの製品の長寿命化に貢献する。
【0074】
次に、本発明のガラスファイバーの製造方法について説明する。本発明のガラスファイバーの製造方法は、組成が異なる2種以上のガラス粉粒体を混合して混合物を作製する工程(混合工程)と、前記混合物をファイバー状の成形体に成形する工程(成形工程)と、前記ファイバー状の成形体を加熱し、光触媒活性を有する結晶を含むガラスファイバーの焼結体を作製する工程(加熱工程)と、を含むことができる。なお、上記第1および第2の方法として説明した一般的な製造方法も矛盾しない範囲でこの具体例に適用できるため、それらを適宜援用して重複する記載を省略する。
【0075】
<混合工程>
上記第1及び第2の方法と同様に実施できる。
【0076】
<成形工程>
次に、混合工程で得られた混合物を樹脂に練りこみ、繊維形状に成形する。繊維体の成形方法は特に限定されず、公知の手法を用いて成形することができるが、例えば、巻き取り機に連続的に巻き取れるタイプの繊維(長繊維)に成形する場合は、公知のDM法(ダイレクトメルト法)又はMM法(マーブルメルト法)で紡糸すれば良く、繊維長数十cm程度の短繊維に成形する場合は、遠心法を用いたり、もしくは前記長繊維をカットしても良い。繊維径は、用途によって適宜選択すれば良い。ただ、細いほど可撓性が高く、風合いの良い織物になるが、紡糸の生産効率が悪くなりコスト高になり、逆に太すぎると紡糸生産性は良くなるが、加工性や取り扱い性が悪くなる。織物などの繊維製品にする場合、繊維径を3〜24μmの範囲にすることが好ましく、浄化装置、フィルタなどの用途に適した積層構造体などにする場合は繊維径を9μm以上にすることが好ましい。その後、用途に応じて綿状にしたり、ロービング、クロスなどの繊維構造体を作ることができる。
【0077】
<加熱工程>
次に、上記プロセスによって得られた繊維又は繊維構造体を加熱し、ガラス粉粒体を混和・一体化させるとともに樹脂成分を揮発させ、さらに繊維の中及び表面に所望の光触媒結晶を析出させる。加熱工程は、上記第1の方法及び第2の方法と同様の条件で実施できる。所望の結晶が得られたら結晶化温度領域外まで冷却し、異なる2種以上の光触媒結晶が分散した焼結体として、ガラスファイバー又は繊維構造体を得ることができる。
【0078】
加熱工程を行って結晶が生じた後のガラスファイバーは、そのままの状態でも高い光触媒特性を奏することが可能であるが、このガラスファイバーに対してエッチング工程を行うことにより、結晶相の周りのガラス相が取り除かれ、表面に露出する結晶相の比表面積が大きくなるため、ガラスファイバーの光触媒特性をより高めることが可能である。また、エッチング工程に用いる溶液やエッチング時間をコントロールすることにより、光触媒結晶相のみが残る多孔質体繊維を得ることが可能である。
【0079】
エッチングの方法としては、例えば、ドライエッチング、溶液への浸漬によるウェットエッチング、およびこれらの組み合わせなどの方法が挙げられる。浸漬に使用される酸性もしくはアルカリ性の溶液は、ガラスセラミックスの表面を腐食できれば特に限定されず、例えばフッ素又は塩素を含む酸(フッ化水素酸、塩酸)であってよい。なお、このエッチング工程は、フッ化水素ガス、塩化水素ガス、フッ化水素酸、塩酸等を、ガラスセラミックスの表面に吹き付けることで行ってよい。
【0080】
[ガラスセラミックス複合体]
本発明において、ガラスセラミックス複合体(以下「複合体」と記すことがある)とは、ガラスを熱処理して結晶を生成させることで得られるガラスセラミックス層と基材とを備えたものであり、このうちガラスセラミックス層は、具体的には非晶質固体及び結晶からなる焼結体の層である。ガラスセラミックス層は、異なる2種以上の光触媒結晶を含有しており、その結晶相はガラスセラミックスの内部及び表面に均一に分散している。
【0081】
ガラスセラミックス複合体の製造方法は、好ましい態様では、組成が異なる2種以上のガラス粉粒体を混合して混合物を作製する工程(混合工程)と、前記混合物を基材上に配置して加熱し、光触媒活性を有する結晶を含むガラスセラミックス層を基材上に形成する工程(加熱工程)と、を含むことができる。なお、上記第1および第2の方法として説明した一般的な製造方法も矛盾しない範囲でこの具体例に適用できるため、それらを適宜援用して重複する記載を省略する。
【0082】
<混合工程>
上記第1及び第2の方法と同様に実施できる。
【0083】
<加熱工程>
加熱工程では、混合物を基材上に配置した後に加熱して焼成を行うことで、複合体を作製する。これにより、2種以上の光触媒結晶を含む結晶相を有するガラスセラミックス層が基材上に形成される。ここで、加熱工程の具体的な手順は特に限定されないが、混合物を基材上に配置する工程と、基材上に配置された混合物を設定温度へと徐々に昇温させる工程、混合物を設定温度に一定時間保持する工程、混合物を室温へと徐々に冷却する工程を含んでよい。
【0084】
(基材上への配置)
まず、混合物を基材上に配置する。これにより、より幅広い基材に対して、光触媒特性及び親水性を付与することができる。ここで用いられる基材の材質は特に限定されないが、光触媒結晶と複合化させ易い点で、例えば、ガラス、セラミックス等の無機材料や金属等を用いることが好ましい。
【0085】
混合物を基材上に配置するには、粉砕ガラスを含有するスラリーを、所定の厚み・寸法で基材上に配置することが好ましい。これにより、ガラスセラミックス層を容易に基材上に形成することができる。ここで、形成されるガラスセラミックス層の厚さは、複合体の用途に応じて適宜設定できる。ガラスセラミックス層の厚みを広範囲に設定できることも、本発明方法の特長の一つである。ガラスセラミックス層が剥がれないように十分な耐久性を持たせる観点から、その厚みは、例えば500μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが最も好ましい。スラリーを基材上に配置する方法としては、例えばドクターブレード法やカレンダ法、スピンコートやディップコーティング等の塗布法、インクジェット、バブルジェット(登録商標)、オフセット等の印刷法、ダイコーター法、スプレー法、射出成型法、押し出し成形法、圧延法、プレス成形法、ロール成型法等が挙げられる。
【0086】
なお、混合物を基材上に配置する方法としては、上述のスラリーを用いる方法に限られず、混合物を基材に直接載せてもよい。
【0087】
(熱処理条件)
加熱工程における熱処理の条件は、混合物を構成するガラス体の組成、混合された添加物の種類及び量等に応じ、適宜設定することができるが、熱処理と同時にガラスの結晶化処理を行う必要がある。熱処理温度が低すぎると所望の結晶相を有する焼結体が得られないため、少なくともガラス体のガラス転移温度(Tg)より高い温度での加熱が必要となる。具体的に、熱処理温度の下限は、ガラス体のガラス転移温度(Tg)であり、好ましくはTg+50℃であり、より好ましくはTg+100℃であり、最も好ましくはTg+150℃である。他方、熱処理温度が高くなりすぎると光触媒結晶を含む結晶相が減少し光触媒特性が消失する傾向があるので、加熱温度の上限は、好ましくはガラス体のTg+600℃であり、より好ましくはTg+500℃であり、最も好ましくはTg+450℃である。
【0088】
また、熱処理時間は、混合物の組成や熱処理温度などに応じて設定する必要がある。昇温速度を遅くすれば、熱処理温度まで加熱するだけでいい場合もあるが、目安としては高い温度の場合は短く、低い温度の場合は、長く設定することが好ましい。具体的には、結晶をある程度まで成長させ、かつ十分な量の結晶を析出させ得る点で、好ましくは3分、より好ましくは5分、最も好ましくは10分を下限とする。一方、熱処理時間が24時間を越えると、目的の結晶が大きくなりすぎたり、他の結晶が生成したりして十分な光触媒特性が得られなくなるおそれがある。従って、熱処理時間の上限は、好ましくは24時間、より好ましくは19時間、最も好ましくは18時間とする。なお、ここで言う熱処理時間とは、加熱工程のうち焼成温度が一定(例えば、上記設定温度)以上に保持されている期間の長さを指す。
【0089】
[ガラス粉粒体混合物]
次に、本発明の焼結体の原料として用いられるガラス粉粒体混合物について、説明する。
本発明のガラス粉粒体混合物は、組成が異なる2種以上のガラス粉粒体の混合物であり、加熱により光触媒結晶(好ましくは2種以上の光触媒結晶)を析出し得るものである。この光触媒結晶は、ガラス粉粒体を構成する非晶質のガラスの内部及び表面に均一に分散して存在し、又は生成する。ガラス粉粒体は、例えば、スラリー状等の形態をとることができ、さらに本発明の焼結体やガラスセラミックス複合体の製造に使用できる。このようなガラス粉粒体は、原料組成物から得られたガラス体を粉砕することにより得られる。ガラス粉粒体は光触媒特性を有しておらず、ガラス粉粒体を加熱することにより、光触媒結晶を析出させることができる。
【0090】
<ガラス粉粒体の製造方法>
次に、ガラス粉粒体混合物を構成する各ガラス粉粒体の製造方法について説明する。ガラス粉粒体は、原料組成物を溶融し、固化させてガラス化するガラス化工程、及び、得られたガラス体を粉砕する粉砕工程を含むことができる。なお、ガラス粉粒体の製造方法は、以下に説明する工程以外の任意の工程を含むことができる。
【0091】
(ガラス化工程)
ガラス化工程では、所定の原料組成物を溶融し、固化させてガラス化することで、ガラス体を作製する。溶融は、所定の組成を有する原料を混合し、その融液を得る工程である。より具体的には、ガラス体の各成分が所定の含有量の範囲内になるように原料を調合し、均一に混合してから1250〜2000℃の温度範囲で1〜24時間溶融して攪拌均質化して融液を作製する。なお、原料の溶融の条件は上記温度範囲に限定されず、原料組成物の組成及び配合量等に応じて、適宜設定することができる。次に、溶融によって得られた融液を冷却してガラス化することで、ガラス体を作製する。具体的には、融液を流出して適宜冷却することで、ガラス化されたガラス体を形成する。ここで、ガラス化の条件は特に限定されるものではなく、原料の組成及び量等に応じて適宜設定されてよい。また、本工程で得られるガラス体の形状は特に限定されず、板状、粒状等であってよいが、ガラス体を迅速且つ大量に作製できる点では、板状であることが好ましい。
【0092】
(粉砕工程)
粉砕工程では、ガラス体を粉砕して粉砕ガラスを作製する。粉砕ガラスの粒子径や形状は、必要とされる精度に応じて適宜設定することができる。例えば、後の工程で任意の基材上に粉砕ガラスを堆積させた後、焼結を行う場合、粉砕ガラスの平均粒子径は数mmの単位でもよい。一方、焼結体を所望の形状に成形したりする場合は、粉砕ガラスの平均粒子径が大きすぎると成形が困難になるので、平均粒子径は出来るだけ小さい方が好ましい。そこで、粉砕ガラスの平均粒子径の上限は、好ましくは5mm、より好ましくは500μm、最も好ましくは100μmである。なお、粉砕ガラスの平均粒子径は、例えばレーザー回折散乱法によって測定した時のD50(累積50%径)の値を使用できる。具体的には日機装株式会社の粒度分布測定装置MICROTRAC(MT3300EXII)よって測定した値を用いることができる。
【0093】
なお、ガラス体の粉砕方法は、特に限定されないが、例えばボールミル、ジェットミル等を用いて行うことができる。また、目的とする粒径になるまで、粉砕機の種類を変えながら粉砕工程を行うことも可能である。
【0094】
以上のようにして得られるガラス粉粒体を2種以上組み合わせて均質に混合することによって、ガラス粉粒体混合物が得られる。
【0095】
[スラリー状混合物]
上記ガラス粉粒体混合物を、任意の溶媒等と混合することによってスラリー状混合物を調製できる。これにより、例えば基材上への塗布等が容易になる。具体的には、ガラス粉粒体混合物に、好ましくは無機もしくは有機バインダー及び/又は溶媒を添加することによりスラリーを調製できる。
【0096】
無機バインダーとしては、特に限定されるものではないが、紫外線や可視光線を透過する性質のものが好ましく、例えば、珪酸塩系バインダー、リン酸塩系バインダー、無機コロイド系バインダー、アルミナ、シリカ、ジルコニア等の微粒子等を挙げることができる。
【0097】
有機バインダーとしては、例えば、プレス成形やラバープレス、押出成形、射出成形用の成形助剤として汎用されている市販のバインダーが使用できる。具体的には、例えば、アクリル樹脂、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、メタクリル樹脂、ウレタン樹脂、ブチルメタアクリレート、ビニル系の共重合物等が挙げられる。
【0098】
溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、酢酸、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、ポリビニルアルコール(PVA)等の公知の溶媒が使用できるが、環境負荷を軽減できる点でアルコール又は水が好ましい。
【0099】
また、スラリーの均質化を図るために、適量の分散剤を併用してもよい。分散剤としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類、セロソルブ、カルビトール、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキソラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸アミル等のエステル類等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0100】
本発明のスラリー状混合物には、その用途に応じて、上記成分以外に例えば硬化速度、比重を調節するための添加剤成分等を配合することができる。
【0101】
本発明のスラリー状混合物におけるガラス粉粒体の含有量は、その用途に応じて適宜設定できる。従って、スラリー状混合物におけるガラス粉粒体の含有量は、特に限定されるものではないが、一例を挙げれば、十分な光触媒特性を発揮させる観点から、好ましくは2質量%、より好ましくは3質量%、最も好ましくは5質量%を下限とし、スラリーとしての流動性と機能性を確保する観点から、好ましくは80質量%、より好ましくは70質量%、最も好ましくは65質量%を上限とすることができる。
【0102】
本発明のスラリー状混合物は、ガラス粉粒体混合物を溶媒に分散させることによって製造できる。本発明のスラリー状混合物の製造方法は、さらに、ガラス粉粒体の凝集体を除去する工程を有することができる。ガラス粉粒体は、その粒径が小さくなるに従い、表面エネルギーが大きくなって凝集しやすくなる傾向がある。ガラス粉粒体が凝集していると、スラリー状混合物中での均一な分散ができず、所望の光触媒活性が得られないことがある。そのため、ガラス粉粒体の凝集体を除去する工程を設けることが好ましい。凝集体の除去は、例えば、スラリー状混合物を濾過することにより実施できる。スラリー状混合物の濾過は、例えば所定の目開きのメッシュなどの濾過材を用いて行うことができる。
【0103】
以上の方法で得られる本発明のガラス粉粒体混合物及びこれを含有するスラリー状混合物は、光触媒機能性素材として、例えば塗料、成形/固化が可能な混練物などに配合して使用することができる。
【0104】
[原料ガラスの組成]
次に、本発明の焼結体、ガラス粉粒体混合物、スラリー状混合物等の原料となるガラスの組成について説明する。ここでは、光触媒結晶の代表例として、TiO結晶、WO結晶、ZnO結晶、RnNbO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)又はRnTaO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)をそれぞれ析出するガラスの組成を挙げて説明するが、これらはあくまで例示であり、これらに限定されるものではない。なお、本明細書中において、ガラスを構成する各成分の含有量は特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成の全物質量に対するモル%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総物質量を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。また、本明細書における金属元素成分又は非金属元素成分の含有量は、ガラスを構成するカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると仮定し、それら酸化物でできたガラス全体の質量を100%として、金属元素成分又は非金属元素成分の質量を質量%で表したもの(酸化物基準の質量に対する外割り質量%)である。
【0105】
[TiO結晶を生成するガラス組成例]
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
TiO成分を15%以上99%以下の配合比率で含有し、さらに任意成分として、
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
成分を0%以上65%以下、及び/又は
成分を0〜65%、及び/又は
SiO成分を0〜65%、及び/又は
GeO成分を0〜65%(但し、酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、P成分、B成分、SiO成分、およびGeO成分のうち少なくとも1種以上の成分を1〜65%含有する);
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
LiO成分を0〜40%、及び/又は
NaO成分を0〜40%、及び/又は
O成分を0〜40%、及び/又は
RbO成分を0〜10%、及び/又は
CsO成分を0〜10%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
MgO成分を0〜40%、及び/又は
CaO成分を0〜40%、及び/又は
SrO成分を0〜40%、及び/又は
BaO成分を0〜40%、及び/又は
ZnO成分を0〜50%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
成分を0〜40%、及び/又は
Al成分を0〜30%、及び/又は
Ga成分を0〜30%、及び/又は
In成分を0〜10%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
ZrO成分を0〜20%、及び/又は
SnO成分を0〜10%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
Nb成分を0〜50%、及び/又は
Ta成分を0〜50%、及び/又は
WO成分を0〜50%、及び/又は
MoO成分を0〜50%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
Bi成分を0〜20%、及び/又は
TeO成分を0〜20%、及び/又は
LnaOb成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ce、Nd、Dy、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上、Ceを除く各成分についてはa=2且つb=3、Ceについてはa=1且つb=2とする)を合計で0〜30%、及び/又は
成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、Niからなる群より選択される1種以上とし、x及びyはそれぞれx:y=2:(Mの価数)を満たす最小の自然数とする)を合計で0〜10%、及び/又は
As成分及び/又はSb成分を合計で0〜5%;
F成分、Cl成分、Br成分、S成分、N成分、及びC成分からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分を、酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量比で10%以下;
Ag、Cu、Fe、Ce、Au、Pt、Pd及びReからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素成分を、酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量比で10%以下;
の配合比率で含有するガラス。
【0106】
[WO結晶を生成するガラス組成例]
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、
WO成分を10〜99%の配合比率で含有し、さらに任意成分として、
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
成分を0%以上65%以下、及び/又は
成分を0〜65%、及び/又は
SiO成分を0〜65%、及び/又は
GeO成分を0〜65%(但し、酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、P成分、B成分、SiO成分、およびGeO成分のうち少なくとも1種以上の成分を1〜65%含有する);
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
TiO成分を0〜60%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
LiO成分を0〜40%、及び/又は
NaO成分を0〜40%、及び/又は
O成分を0〜40%、及び/又は
RbO成分を0〜10%、及び/又は
CsO成分を0〜10%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
MgO成分を0〜40%、及び/又は
CaO成分を0〜40%、及び/又は
SrO成分を0〜40%、及び/又は
BaO成分を0〜40%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
Al成分を0〜30%、及び/又は
Ga成分を0〜30%、及び/又は
In成分を0〜10%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
ZrO成分を0〜20%、及び/又は
SnO成分、SnO成分、及びSnO成分を合計で0〜10%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
Nb成分を0〜50%、及び/又は
Ta成分を0〜50%、及び/又は
MoO成分を0〜50%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
ZnO成分を0〜50%、及び/又は
Bi成分を0〜20%、及び/又は
TeO成分を0〜20%、及び/又は
Ln成分(式中、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上とする)を合計で0〜30%、及び/又は
成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、Niからなる群より選択される1種以上とし、x及びyは、それぞれx:y=2:Mの価数、を満たす最小の自然数とする)を合計で0〜10%、及び/又は
As成分及び/又はSb成分を合計で0〜5%;
F、Cl、Br、S、N、及びCからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分を、ガラス全質量に対する外割り質量比で15%以下;
Ag、Cu、Fe、Ce、Au、Pt、Pd及びReからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素成分を、ガラス全質量に対する外割り質量比で10%以下;
の配合比率で含有するガラス。
【0107】
[ZnO結晶を生成するガラス組成例]
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、
ZnO成分を15〜70%の配合比率で含有し、さらに任意成分として、
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、SiO成分、GeO成分、B成分、及びP成分からなる群より選択される1種以上の成分を30〜70%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
LiO成分を0〜30%、及び/又は
NaO成分を0〜30%、及び/又は
O成分を0〜30%、及び/又は
RbO成分を0〜20%、及び/又は
CsO成分を0〜20%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
MgO成分を0〜30%、及び/又は
CaO成分を0〜30%、及び/又は
SrO成分を0〜30%、及び/又は
BaO成分を0〜30%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
Al成分を0〜35%、及び/又は
Ga成分を0〜35%、及び/又は
In成分を0〜10%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
ZrO成分を0〜20%、及び/又は
TiO成分を0〜40%、及び/又は
SnO成分、SnO成分、及びSnO成分 合計で0〜10%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
Nb成分を0〜20%、及び/又は
Ta成分を0〜20%、及び/又は
WO成分を0〜40%、及び/又は
MoO成分を0〜10%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
Bi成分を0〜20%、及び/又は
TeO成分を0〜20%、及び/又は
Ln成分(式中、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上とする)を、合計で0〜20%、及び/又は
成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、Niからなる群より選択される1種以上とし、x及びyは、それぞれx:y=2:Mの価数、を満たす最小の自然数とする)を、合計で0〜5%、及び/又は
As成分及び/又はSb成分 合計で0〜5%;
F、Cl、Br、S、N、及びCからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分を、ガラス全質量に対する外割り質量比で20%以下;
Ag、Cu、Fe、Ce、Au、Pt、Pd及びReからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素成分を、ガラス全質量に対する外割り質量比で10%以下;
の配合比率で含有するガラス。
【0108】
[RnNbO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)を生成するガラス組成例]
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、
Nb成分を5〜50%の配合比率で含有し、さらに任意成分として、
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、SiO成分、B成分、及びP成分からなる群より選択される1種以上の成分を30〜75%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、RnO及び/又はRO成分(ここで、Rnはアルカリ金属を意味し、Rはアルカリ土類金属を意味する)を5〜40%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、Ta成分を0〜35%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、TiO成分及び/又はZrO成分を0〜20%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、Al成分を0〜30%
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、
GeO成分を0〜20%、及び/又は
Ga成分を0〜20%、及び/又は
In成分を0〜10%、及び/又は
SnO成分を0〜10%、及び/又は
Bi成分を0〜20%、及び/又は
TeO成分を0〜20%、及び/又は
WO成分を0〜20%、及び/又は
MoO成分を0〜20%、及び/又は
As成分及び/又はSb成分を合計で0〜5%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、Ln成分(ここで、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上を意味する)を、合計で0〜10%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、M成分(ここで、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される1種以上を意味し、x及びyは、それぞれx:y=2:Mの価数、を満たす最小の自然数である)を、合計で0〜10%;
F、Cl、及びBrからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分を、ガラス全質量に対する外割り質量比で15%以下;
Ag、Cu、Fe、Ce、Au、Pt、Pd及びReからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素成分を、ガラス全質量に対する外割り質量比で5%以下;
の配合比率で含有するガラス。
なお、酸化物換算組成のモル比で、前記RnO及び/又はRO成分(Rn及びRは前記と同じ意味を有する)の合計量に対する前記Nb及び/又はTa、並びにTiO、ZrO及びAlからなる群より選択される1種以上の成分の合計量の比[(Nb+Ta+TiO+ZrO+Al)/(RnO+RO)]が1より大きいことが好ましい。
【0109】
[RnTaO(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)を生成するガラス組成例]
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、
Ta成分を5〜50%の配合比率で含有し、さらに任意成分として、
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、SiO成分、B成分、及びP成分からなる群より選択される1種以上の成分を30〜75%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、RnO及び/又はRO成分(Rn及びRは前記と同じ意味を有する)を5〜40%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、Nb成分を0〜35%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、TiO成分及び/又はZrO成分を0〜20%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、Al成分を0〜30%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、
GeO成分を0〜20%、及び/又は
Ga成分を0〜20%、及び/又は
In成分を0〜10%、及び/又は
SnO成分を0〜10%、及び/又は
Bi成分を0〜20%、及び/又は
TeO成分を0〜20%、及び/又は
WO成分を0〜20%、及び/又は
MoO成分を0〜20%、及び/又は
As成分及び/又はSb成分を合計で0〜5%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、Ln成分(ここで、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上を意味する)を、合計で0〜10%;
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、M成分(ここで、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、Niからなる群より選択される1種以上を意味し、x及びyは、それぞれx:y=2:Mの価数、を満たす最小の自然数である)を、合計で0〜10%;
F、Cl、Brからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分を、ガラス全質量に対する外割り質量比で15%以下;
Ag、Cu、Fe、Ce、Au、Pt、Pd及びReからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素成分を、ガラス全質量に対する外割り質量比で5%以下;
の配合比率で含有するガラス。
なお、酸化物換算組成のモル比で、前記RnO及び/又はRO成分(Rn及びRは前記と同じ意味を有する)の合計量に対する前記Ta及び/又はNb、並びにTiO、ZrO及びAlからなる群より選択される1種以上の成分の合計量の比[(Ta+Nb+TiO+ZrO+Al)/(RnO+RO)]が1より大きいことが好ましい。
【0110】
上記配合組成に挙げた各成分の内容は概ね以下のとおりである。
TiO成分は、TiOの結晶、又はリンとの化合物の結晶をガラスから析出させ、特に紫外線領域で強い光触媒活性を示す成分である。特に、WO結晶、ZnO結晶と組み合わせてTiO結晶を含有させた場合は、ガラスセラミックスに紫外線から可視光までの幅広い範囲の波長に対する応答性を持つ光触媒活性を付与できる。酸化チタンの結晶型としては、アナターゼ(Anatase)型、ルチル(Rutile)型及びブルッカイト(Brookite)型が知られているが、アナターゼ型およびブルッカイト型が好ましく、特に高い光触媒特性をもつアナターゼ型の酸化チタンを含有することが有利である。また、TiO成分は、P成分と組み合わせて含有させることによって、より低い熱処理温度でTiO結晶を析出させることが可能になり、光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減することができる。また、TiO成分は他の光触媒結晶の核形成剤の役割を果たす効果もあるので、他の光触媒結晶の析出に寄与する。しかし、TiO成分の含有量が多すぎると、ガラス化が非常に難しくなる。TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラス内に導入することができる。
【0111】
WO成分は、WOの結晶としてガラス中に析出し、結晶化ガラスに光触媒特性をもたらす成分である。WOは、波長480nmまでの可視光を吸収して光触媒活性を奏するため、結晶化ガラスに可視光応答性の光触媒特性を付与する。WOは、立方晶系、正方晶系、斜方晶系、単斜晶系および三斜晶系の結晶構造を持つことが知られているが、光触媒活性を有する限り、どの結晶構造のものでもよい。また、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、且つ他の光触媒結晶に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分である。しかし、WO成分の含有量が多すぎると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。WO成分は、原料として例えばWO等を用いてガラス内に導入することができる。
【0112】
ZnO成分は、ZnOの結晶としてガラス中に析出し、ガラスセラミックスに光触媒特性をもたらす成分である。また、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分である。また、ガラス転移温度を下げて光触媒結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、ZnO成分の含有量が多すぎると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。ZnO成分は、原料として例えばZnO等を用いてガラス中に導入することができる。
【0113】
Nb成分は、ニオブ酸塩の結晶としてガラス中に析出し、ガラスセラミックスに光触媒特性をもたらす成分である。また、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、且つ他の光触媒結晶に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分である。しかし、Nb成分の含有量が多すぎると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。ニオブ酸塩RnNbO(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)は、Nbと他の元素の酸化物との複合酸化物と考えられ、その結晶としては、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO)結晶、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO)結晶、ニオブ酸カリウム(KNbO)結晶などを挙げることができる。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラスに導入することができる。
【0114】
Ta成分は、タンタル酸塩の結晶としてガラス中に析出し、ガラスセラミックスに光触媒特性をもたらす成分である。また、ガラスの安定性を高める成分であり、且つ他の光触媒結晶に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、Ta成分の含有量が多すぎると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。タンタル酸塩RnTaO(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)は、Taと他の元素の酸化物との複合酸化物と考えられ、その結晶は、例えば、タンタル酸リチウム(LiTaO)結晶、タンタル酸ナトリウム(NaTaO)結晶、タンタル酸カリウム(KTaO)結晶などを挙げることができる。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラスに導入することができる。
【0115】
成分は、ガラスの網目構造を構成する成分であり、任意に添加できる成分である。ガラスセを、P成分が網目構造の主成分であるリン酸塩系ガラスにすることにより、より多くのTiO成分、WO成分又はZnO成分をガラスに取り込ませることができる。また、P成分を配合することによって、より低い熱処理温度で光触媒結晶を析出させることが可能であるとともに、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、Pの含有量が多すぎると光触媒結晶が析出し難くなる。P成分は、原料として例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、NaPO、BPO、HPO等を用いてガラス内に導入することができる。
【0116】
成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスの安定性を高める成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が多すぎると、光触媒結晶が析出し難い傾向が強くなる。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラス内に導入することができる。
【0117】
SiO成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスの安定性と化学的耐久性を高める成分であるとともに、Si4+イオンが析出した光触媒結晶の近傍に存在し、光触媒活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、SiO成分の含有量が多すぎると、ガラスの溶融性が悪くなり、光触媒結晶が析出し難くなる。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0118】
GeO成分は、上記のSiOと相似な働きを有する成分であり、ガラス中に任意に添加できる成分である。GeO成分は、原料として例えばGeO等を用いてガラス内に導入することができる。
【0119】
LiO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させ、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げて光触媒結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、LiO成分の含有量が多すぎると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0120】
NaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させ、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げて光触媒結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、NaO成分の含有量が多すぎると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。NaO成分は、原料として例えばNaO、NaCO、NaNO、NaF、NaS、NaSiF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0121】
O成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させ、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げて光触媒結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、KO成分の含有量が多すぎると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0122】
RbO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させ、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げて光触媒結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、RbO成分の含有量が多すぎると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。RbO成分は、原料として例えばRbCO、RbNO等を用いてガラス内に導入することができる。
【0123】
CsO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させ、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くさせる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げて光触媒結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、CsO成分の含有量が多すぎると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。CsO成分は、原料として例えばCsCO、CsNO等を用いてガラス内に導入することができる。
【0124】
MgO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げて光触媒結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、MgO成分の含有量が多すぎると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。MgO成分は、原料として例えばMgCO、MgF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0125】
CaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げて光触媒結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、CaO成分の含有量が多すぎると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。CaO成分は、原料として例えばCaCO、CaF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0126】
SrO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げて光触媒結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、SrO成分の含有量が多すぎると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0127】
BaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げて光触媒結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、BaO成分の含有量が多すぎると、かえってガラスの安定性が悪くなり光触媒結晶の析出も困難となる。BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(NO、BaF等を用いてガラス内に導入することができる。
【0128】
ここで、RO(式中、RはMg、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される1種以上)成分及びRnO(式中、RnはLi、Na、K、Rb、Csからなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる成分のうち2種類以上を含有することにより、ガラスの安定性が大幅に向上し、熱処理後のガラスセラミックスの機械強度がより高くなり、光触媒結晶がガラスからより析出し易くなる。従って、ガラスセラミックスは、RO成分及びRnO成分から選ばれる成分のうち2種類以上を含有することが好ましい。
【0129】
Al成分は、ガラスの安定性及びガラスセラミックスの化学的耐久性を高め、ガラスからの光触媒結晶の析出を促進し、且つAl3+イオンが光触媒結晶に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が多すぎると、溶解温度が著しく上昇し、ガラス化し難くなる。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラスに導入することができる。
【0130】
Ga成分は、ガラスの安定性を高め、ガラスからの光触媒結晶の析出を促進し、且つGa3+イオンが光触媒結晶に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が多すぎると、溶解温度が著しく上昇し、ガラス化し難くなる。Ga成分は、原料として例えばGa、GaF等を用いてガラスに導入することができる。
【0131】
In成分は、上記のAl及びGaと相似な効果がある成分であり、任意に添加できる成分である。In成分は、原料として例えばIn、InF等を用いてガラスに導入することができる。
【0132】
ZrO成分は、ガラスセラミックスの化学的耐久性を高め、光触媒結晶の析出を促進し、且つZr4+イオンが光触媒結晶に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、ZrO成分の含有量が多すぎると、ガラス化し難くなる。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラスに導入することができる。
【0133】
SnO成分、SnO成分、SnO成分は、光触媒結晶の析出を促進し、Ti4+、W6+、Zn2+等の還元を抑制して光触媒結晶を得易くし、且つ光触媒結晶に固溶して光触媒特性の向上に効果がある成分であり、また、光触媒活性を高める作用のある後述のAgやAuやPtイオンと一緒に添加する場合は還元剤の役割を果たし、間接的に光触媒の活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、SnO成分、SnO成分、SnO成分の含有量が多すぎると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。SnO成分、SnO成分、SnO成分は、原料として例えばSnO、SnO、SnO等を用いてガラスに導入することができる。
【0134】
MoO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、且つ光触媒結晶に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、MoO成分の含有量が多すぎると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。MoO成分は、原料として例えばMoO等を用いてガラス内に導入することができる。
【0135】
Bi成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げて光触媒結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、Bi成分の含有量が多すぎると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出が難しくなる。Bi成分は、原料として例えばBi等を用いてガラスに導入することができる。
【0136】
TeO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げて光触媒結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、TeO成分の含有量が多すぎると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出が難しくなる。TeO成分は、原料として例えばTeO等を用いてガラスに導入することができる。
【0137】
Ln成分(式中、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上とする)は、ガラスセラミックスの化学的耐久性を高める成分であり、且つ光触媒結晶に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。Ln成分の内、特にCe成分がTi4+、W6+、Zn2+等の還元を防ぎ、光触媒結晶の析出を促進するため、光触媒特性の向上に顕著に寄与する効果がある。しかし、Ln成分の含有量の合計が多すぎると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。Ln成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、Gd、GdF、Y、YF、CeO、CeF、Nd、Dy、Yb、Lu等を用いてガラスに導入することができる。
【0138】
成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、Niからなる群より選択される1種以上とし、x及びyはそれぞれx:y=2:Mの価数、を満たす最小の自然数とする)は、光触媒結晶に固溶するか、又はその近傍に存在することで、光触媒特性の向上に寄与し、且つ一部の波長の可視光を吸収してガラスセラミックスに外観色を付与する成分であり、任意成分である。
【0139】
As成分及び/又はSb成分は、ガラスを清澄させ、脱泡させる成分であり、また、光触媒活性を高める作用のある後述のAgやAuやPtイオンと一緒に添加する場合は、還元剤の役割を果たすので、間接的に光触媒活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量の合計が多すぎると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。As成分及びSb成分は、原料として例えばAs、As、Sb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラスに導入することができる。
【0140】
なお、ガラスを清澄させ、脱泡させる成分は、上記のAs成分及びSb成分に限定されるものではなく、例えばCeO成分やTeO成分等のような、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0141】
本発明において、ガラス中には、F成分、Cl成分、Br成分、S成分、N成分、及びC成分からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分が含まれていてもよい。これらの成分は、光触媒結晶に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の合計の含有量が多すぎると、ガラスの安定性が著しく悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。これらの非金属元素成分は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のフッ化物、塩化物、臭化物、硫化物、窒化物、炭化物等の形でガラス中に導入するのが好ましい。非金属元素成分の原料は特に限定されないが、例えば、F成分の原料としてZrF、AlF、NaF、CaF等、Cl成分の原料としてNaCl、AgCl等、Br成分の原料としてNaBr等、S成分の原料としてNaS,Fe,CaS等、N成分の原料としてAlN、SiN等、C成分の原料としてTiC、SiC又はZrC等を用いることで、ガラス内に導入することができる。なお、これらの原料は、2種以上を組み合わせて添加してもよいし、単独で添加してもよい。
【0142】
本発明において、ガラス中には、Ag、Cu、Fe、Ce、Au、Pt、Pd及びReから選ばれる少なくとも1種の金属元素成分が含まれていてもよい。これらの金属元素成分は、光触媒結晶の近傍に存在することで、光触媒活性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの金属元素成分の合計の含有量が多すぎるとガラスの安定性が著しく悪くなり、光触媒特性がかえって低下し易くなる。
【0143】
本発明において、ガラス中には、上記成分以外の成分をガラスセラミックスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。但し、PbO等の鉛化合物、Th、Cd、Tl、Os、Se、Hgの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、ガラスセラミックスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、このガラスセラミックスを製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【実施例】
【0144】
次に、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例に制約されるものではない。
【0145】
実施例1〜23:
表1に示すA〜Jの組成を有するガラス粉粒体を準備した。A〜Jのガラス粉粒体の原料としては、いずれも、例えば酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物等の通常のガラスに使用される高純度の原料を選定して用いた。これらの原料を、表1に示した組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の溶融難易度に応じて電気炉で1200℃〜1600℃の温度範囲で1〜24時間溶解し、攪拌均質化してからガラス融液を流水中に投下することで、粒状又はフレーク状のガラス体を得た。このガラス体をジェットミルで粉砕することで、粒子サイズ(平均粒径)が約10μmのガラス粉粒体A〜Jを得た。次に、A〜Jのガラス粉粒体を、表2に示す混合比で均一に混合し、ペレットに成形した後、表2に示す焼成条件で焼成した。すなわち、ペレットを表2の各実施例に記載された温度まで加熱し、その温度を記載された時間にわたり保持して焼成と同時に結晶化を行った。その後、冷却して目的の結晶を有するガラスセラミックスの焼結体を得た。各実施例の焼結体中に析出した主な結晶の種類を表2に併せて示した。
【0146】
ここで、実施例1〜23のガラスセラミックスの析出結晶の種類は、X線回折装置(フィリップス社製、商品名:X’Pert−MPD)で同定した。
【0147】
【表1】

【0148】
【表2】

【0149】
表2に表されるように、実施例1〜23の焼結体は、それぞれ、TiO結晶、WO結晶、ZnO結晶、RnNbO結晶、RnTaO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)、及びこれらの固溶体からなる群より選択される2種以上の結晶を含有していることが確認された。
【0150】
次に、析出した結晶の構造を調べるために、実施例2の焼結体について、X線回折分析(XRD)を行った。その結果を図1に示した。実施例2のXRDパターンでは、入射角2θ=25.3°付近をはじめ「○」で表されるアナターゼ型のTiO結晶のピークと、入射角2θ=24.2°付近をはじめ「□」で表されるNaTi(PO結晶のピークと、入射角2θ=23.5°付近をはじめ「△」で表されるWOの単斜晶または三斜晶のピークが確認できた。従って、実施例2の焼結体は、高い光触媒活性を有するTiO結晶、NaTi(PO結晶及びWO結晶を含有しており、これらの光触媒特性が組み合わされることによって、優れた光触媒活性を奏することが推察された。
【0151】
また、実施例1、2、9、10、11で得られた焼結体について、46質量%のフッ酸で1分間エッチングした後のサンプル(粒径1〜3mmの顆粒状)0.5gをメチレンブルー(MB)溶液に浸漬し、照度1mW/cmの紫外線を3〜10時間照射した場合のMB濃度と照射しなかった場合のMB濃度について、目視により下記の5段階の判定基準で評価した。MBの分解能力の評価結果は、表3に示した。
【0152】
(判定基準)
5:僅かに薄い,ほぼ変化がない
4:やや薄い
3:薄い
2:かなり薄い
1:透明に近い,ほぼ透明
【0153】
【表3】

【0154】
表3に示したように、実施例1、2、9、10、11の焼結体は優れたMB分解活性を有することが確認できた。
【0155】
また、実施例1のサンプルについて、紫外線照射の有無によるMB溶液の状態変化を示す写真を図2に示した。この図2に示されるように、紫外線照射した場合は、MB溶液の青色が消え透明になったが、紫外線を照射しない場合は青い色に変化がなかった。
【0156】
以上の実験結果が示すように、TiO結晶、WO結晶等の複数の光触媒結晶を組み合わせて含有する実施例1〜23のガラスセラミックスの焼結体は、優れた光触媒活性を有しており、かつ光触媒結晶が均一にガラスに分散しているため、剥離による光触媒機能の損失がなく、耐久性に優れた光触媒機能性素材として利用できることが確認された。
【0157】
以上のように、本発明の焼結体の製造方法によれば、組成が異なる2種以上のガラス粉粒体を混合して混合物を作製した後、この混合物を加熱することによって、2種以上の光触媒結晶を豊富に含む焼結体を得ることができる。本発明方法では、ガラス粉粒体の組み合わせを変えることによって、例えばTiO結晶、WO結晶、ZnO結晶、RnNbO結晶、RnTaO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)等の複数種類の光触媒結晶を任意の組み合わせで含有する焼結体を容易に製造できる。従って、単一のガラス相から複数種類の光触媒結晶を析出させる場合にくらべて、光触媒結晶の結晶型の制御や、析出量の制御が格段に容易になり、優れた光触媒機能性素材を提供できる。また、優れた光触媒活性を有する焼結体を工業的規模で容易に製造することができる。
【0158】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。当業者は本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を成し得、それらも本発明の範囲内に含まれる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成が異なる2種以上のガラス粉粒体を混合して混合物を作製する工程と、
前記混合物を加熱し、光触媒活性を有する結晶を含むガラスセラミックスの焼結体を作製する工程と、
を備えた焼結体の製造方法。
【請求項2】
組成が異なる2種以上のガラス粉粒体を混合して混合物を作製する工程と、
前記混合物を所望形状の成形体に成形する工程と、
前記成形体を加熱し、光触媒活性を有する結晶を含むガラスセラミックスの焼結体を作製する工程と、
を備えた焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記光触媒活性を有する結晶は、TiO結晶、WO結晶、ZnO結晶、RnNbO結晶、RnTaO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)、及びこれらの固溶体からなる群より選択される2種以上の結晶を含む請求項1又は2に記載の焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記光触媒活性を有する結晶が、ナシコン型の結晶を含む、請求項1から3に記載の焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記2種以上のガラス粉粒体として、少なくとも、
加熱により光触媒活性を有する第1の結晶を析出し得る第1のガラス粉粒体と、
加熱により前記第1の結晶とは異なる種類の、光触媒活性を有する第2の結晶を析出し得る第2のガラス粉粒体と、
を用いる請求項1から4のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記第1のガラス粉粒体及び第2のガラス粉粒体は、それぞれ、TiO結晶、WO結晶、ZnO結晶、RnNbO結晶、RnTaO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)及びこれらの固溶体からなる群より選択される1種以上の結晶を析出し得るものである請求項5に記載の焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記ガラス粉粒体の粒径が、5nm〜5mmの範囲内である請求項1から6のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記ガラス粉粒体に、Ag、Cu、Fe、Ce、Au、Pt、Pd及びReからなる群より選ばれる1種以上の成分を含有する請求項1から7のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の方法により製造される光触媒機能性の焼結体。
【請求項10】
紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現される請求項9に記載の焼結体。
【請求項11】
JIS R 1703−2:2007に基づくメチレンブルーの分解活性指数が3.0nmol/L/min以上である請求項9又は10に記載の焼結体。
【請求項12】
請求項1から8のいずれかに記載の方法により製造される親水性の焼結体。
【請求項13】
紫外領域から可視領域までの波長の光を照射した表面と水滴との接触角が30°以下である請求項12に記載の焼結体。
【請求項14】
請求項9から13のいずれかに記載の焼結体を有する光触媒。
【請求項15】
粉粒状、又はファイバー状の形態を有する請求項14に記載の光触媒。
【請求項16】
請求項14または15に記載の光触媒と、溶媒と、を含有するスラリー状混合物
【請求項17】
請求項14または15に記載の光触媒を有する光触媒部材。
【請求項18】
請求項14または15に記載の光触媒を有する浄化装置。
【請求項19】
請求項14または15に記載の光触媒を有するフィルタ。
【請求項20】
基材と、この基材上に設けられたガラスセラミックス層とを有するガラスセラミックス複合体であって、
前記ガラスセラミックス層が、請求項9から13のいずれかに記載の焼結体を含むことを特徴とするガラスセラミックス複合体。
【請求項21】
組成が異なる2種以上のガラス粉粒体を含み、加熱により光触媒活性を有する結晶を析出し得るガラス粉粒体混合物。
【請求項22】
前記光触媒活性を有する結晶は、TiO結晶、WO結晶、ZnO結晶、RnNbO結晶、RnTaO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)及びこれらの固溶体からなる群より選択される2種以上の結晶を含む請求項21に記載のガラス粉粒体混合物。
【請求項23】
前記2種以上のガラス粉粒体として、少なくとも、
加熱することにより光触媒活性を有する第1の結晶を析出し得る第1のガラス粉粒体と、
加熱することにより前記第1の結晶とは異なる種類の、光触媒活性を有する第2の結晶を析出し得る第2のガラス粉粒体と、
を含有する請求項21又は22に記載のガラス粉粒体混合物。
【請求項24】
前記第1のガラス粉粒体及び第2のガラス粉粒体は、それぞれ、TiO結晶、WO結晶、ZnO結晶、RnNbO結晶、RnTaO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)及びこれらの固溶体からなる群より選択される1種以上の結晶を析出し得るものである請求項23に記載のガラス粉粒体混合物。
【請求項25】
前記結晶として、ナシコン型の結晶を含む、請求項21から24のいずれかに記載のガラス粉粒体混合物。
【請求項26】
請求項21から25のいずれかに記載のガラス粉粒体混合物を含有するスラリー状混合物。
【請求項27】
光触媒活性を有する第1の結晶と、前記第1の結晶とは異なる種類の、光触媒活性を有する第2の結晶と、を含有する光触媒機能性の焼結体。
【請求項28】
前記第1の結晶と、前記第2の結晶の含有比率が、質量比で1:x(ここで、xは0.01以上0.99の数を意味する)である請求項27に記載の焼結体。
【請求項29】
前記第1の結晶及び前記第2の結晶が、それぞれ、TiO結晶、WO結晶、ZnO結晶、RnNbO結晶、RnTaO結晶(ここで、Rnはアルカリ金属を意味する)及びこれらの固溶体からなる群より選択されるものである請求項27又は28に記載の焼結体。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−178596(P2011−178596A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43626(P2010−43626)
【出願日】平成22年2月27日(2010.2.27)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】