説明

焼結含油軸受材およびその製造法

【課題】モータ用として馴染み性に優れ、しかも摩擦係数が低く、かつ耐摩耗性、耐久性に優れた軸受材およびその製造方法の提供。
【解決手段】原料粉として50μm以下の金属微粉末中にバインダーを0.3〜15(重量)%混合して流動性のある造粒材あるいは熱可塑性のある金属射出成形用コンパウンドをもって焼結含油軸受材をプレスあるいは射出により成形する。これにより低通気度化が容易ではあるが流動性の悪い金属微粉末の欠点を補って金型内への充填を容易にし、軸受内表面(摺動面)に存在する油孔の殆どが20μm以下の微細な油孔となり、15%以上の高含油率、5×10−3darcy以下の低通気度を有した焼結含油軸受が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摺動特性に優れた焼結含油軸受材およびその製造法に関し、とくにAVや各種情報機器類等の高機能化したモータの軸受材として馴染み性に優れ、しかも摩擦係数が低く、かつ耐摩耗性向上をはかることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
従来、軸受内摺動面の摺動特性を向上させる目的で種々の提案がなされている。たとえば回転軸との摩擦係数を減少させ、馴染み性を良好にして摺動特性を向上させたものとして、鉄粉の表層に、鉄粉に対し10〜30重量%の銅を被覆し、この被覆鉄粉の粒度について80メッシュ以下、350メッシュ以下のものは30%以下で、その比表面積:サブシープサイザー法により450〜750cm/gとした焼結軸受用複合合金粉末および焼結含油軸受が知られている(WO99/08012号公報参照)。
【0003】
また潤滑油蒸発量を少なくするとともに油膜強度を高めて耐久性を向上させるための手段として、銅含有金属を焼結して成形した軸受の含浸潤滑油中にカルバジイミド化合物を配合するようにしたものが知られている(特開2000−73082号公報参照)。さらに油膜力の強化による軸受剛性の向上をはかるために軸受部材の内周面にラジアル軸受面が形成され、軸受部材の一方の端面に動圧溝を形成するようにし、しかも表面開孔率を10%以下とするとともに、他方の表面開孔率を20%以下となるよう規制したものが知られている(特開2005−164049号公報参照)。
【0004】
【特許文献1】WO99/08012号公報
【特許文献2】特開2000−73082号公報
【特許文献3】特開2005−164049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のものは鉄粉の表層に、特定の銅を被覆するために、通気度を幾分低く抑えることができるが、せいぜい5×10−3darcy程度であり、油膜強度を向上させる手段としては十分なものとはいえない。また上記の特許文献1中には 3×10^-11cm2(≒3×10^-3darcy)以上にすることにより給油量を適切に保持するとの記載があるが、従来の焼結含油軸受では 3×10^-11cm2(≒3×10^-3darcy)以下の場合には微細で均一な油孔が存在しないために十分な給油が行われず、軸受としての機能性の面で十分とはいえない。
【0006】
また特許文献2のものは油膜強度が幾分向上するものの、配合される化合物の分だけ軸受内含油量が減少することになり、結果的に軸受の耐久性向上には殆ど貢献しない。さらに特許文献3のものは、油膜強度を得るためにバニシ加工にて表面開孔率を調整する必要があるが、バニシ加工では微細な油孔が潰され粗大な油孔だけが残る事になるので開孔率ほど通気度は低くならず油膜強度は十分とは言えない。また、後加工であるため工程管理の煩雑さや特性の安定性、加えてコスト的な課題も残る。
【0007】
従来汎用の小型モータ用焼結含油軸受において、摺動特性は軸受の通気度や油孔状態の影響を大きく受け、軸受の通気度を低くすれば摺動時の油膜が強固になり摺動特性を向上させることができることについては理論的には知られているが、通気度を低くするために軸受の密度を高くすると軸受の含油量が減少し、軸受としての寿命が短くなる。またサイジング時の油孔調整によって通気度を低く抑える方法もあるが、軸受の含油率が高い場合には限界があり、十分な油膜強度を得るだけの低通気度に設定することは難しいところから油膜を強固にして摺動特性を向上するという課題を解決するのは容易ではない。
【0008】
さらに、この場合に金属の微粉末を用いた場合には油孔が細かくなり、軸受の通気度が低くなることは理論上知られている。しかし金属微粉末を原料粉として用いた場合に、たとえば成形時において金型内への充填が困難であるため、現実的には量産化がきわめて困難である等、通常の粉末冶金の工程においては満足できる特性を得ることができない。
【0009】
その理由は金属微粉末の流動性の悪さにある。そこで金属微粉末に粗粉を混ぜて量産化が可能な程度にまで金属微粉末の割合を減らせば流動性がある程度は改善されるが、逆に通気度が大きくなるために本発明における本来の目的を達成することができない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明にあっては、とくにCD−ROM、DVD−ROM、DVD−RAM等をはじめとした高精度でかつ高品位の駆動用スピンドルモータや静音で長寿命、低電力化が要求されるファンモータに適するよう、馴染み性に優れ、しかも摩擦係数が低く、かつ耐摩耗性・耐久性に優れた軸受材およびその製造法を開発したものである。具体的には、50μm以下の金属微粉末を原料とし、これにバインダ−を添加してプレス成形可能なまでに流動性を高めた造粒材をプレス成形し、或いは射出成形可能なまでに可塑性を高めたコンパウンドを射出成形して低通気度、かつ多孔質状態の焼結素材を用いることにより、目的とする焼結含油軸受材を作製することを特徴とするものである。
【0011】
すなわち50μm以下の金属微粉末中にバインダーを0.3〜5.0(重量)%混合した造粒材を、金型によりプレス成形した後焼結し、含油率:15%以上でかつ通気度:5×10−3darcy 以下としてなる焼結含油軸受材に関する。また50μm以下の金属微粉末にバインダーを5〜15(重量)%混練・造粒したコンパウンドを射出成形した後焼結し、含油率:15%以上でかつ通気度:5×10−3darcy 以下としてなる焼結含油軸受材に関する。更に好ましくは含油率:20%以上の高含油率でありながら通気度:5×10−3darcy以下としてなる焼結含油軸受材に関する。
【0012】
ここで含油率を15%以上とした理由は、含油率が15%以下では軸受内に含まれる油量が少なく軸受寿命の点で問題があるためであり、更に好ましくは含油率20%以上である。含油率が高いほど軸受内に多くの油を含み長寿命化が実現できるが、従来の焼結含油軸受では含油率を上げると必然的に通気度も大きくなり摺動時の油膜強度が低下し寿命以外の摺動特性に悪影響を及ぼす。
【0013】
本発明は、含油率と通気度の相反する二つの特性を両立させ、20%以上の高含油率であっても5×10−3darcy以下の低通気度を実現し、馴染み性に優れ、しかも摩擦係数が低く、かつ耐摩耗性、耐久性に優れた焼結含油軸受の量産を可能にする製造方法ならびに製品に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上記した通り、原料粉として50μm以下の金属微粉末中にバインダーを0.3〜5.0(重量)%混合して流動性のある造粒材、あるいはバインダーを5〜15(重量)%混練・造粒したコンパウンドをもって焼結含油軸受材を成形するために、油孔の微細化すなわち低通気度化が容易ではあるが流動性の悪い金属微粉末の欠点を補って金型内への充填を容易にし、これによって軸受内表面(摺動面)に存在する油孔の殆どが20μm以下の微細な油孔となり、高含油率でありながら5×10−3darcy 以下の低い通気度を有した焼結含油軸受が得られる。
【0015】
また摺動時に形成される油膜強度を向上させて摺動特性を向上させ、しかも馴染み性に優れ、しかも摩擦係数が低く、かつ耐摩耗性・耐久性に優れた軸受材の量産を可能にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下において本発明の具体的な内容を説明する
〔原料粉〕
本発明において原料粉として使用される金属微粉末としては、50μm以下の金属微粉末が用いられる。ここで用いられる金属微粉末としては銅粉、青銅粉、黄銅粉、洋白粉、鉄粉、銅ニッケル合金粉、銅被覆鉄粉、ステンレス粉およびそれら混合粉等が挙げられる。原料粉としての金属微粉末は、上記したように50μm以下の金属微粉末を用いるが、さらに好ましくはd50:1〜20μmの原料粉を用いる。
【0017】
ここでd50:1〜20μmとした理由は、d50:20μmを超える原料粉では原料粉末相互間の隙間によって形成される空孔の径が大きくなり、強固な油膜強度を得るためには多孔質密度を上げて含油率を下げる必要があり、20%以上の高含油率で低通気度の焼結含油軸受材を作ることが困難となること、またd50:1μm以下とした場合には粒径を小さくするほど高含油率で低通気度の焼結含油軸受材を作りやすくはなるものの、d50:1μm未満の金属粉末は著しく高価で焼結含油軸受材の原料粉としては現実的ではないこと、によるものである。
【0018】
〔造粒材〕
焼結含油軸受材として安定で、しかも優れた摺動特性を備えるには15%以上の含油率を有しながら低通気度である必要がある。そこで上記の金属微粉末をプレス成形での金型充填が容易となる程度に造粒する。また造粒は50μm以下の金属微粉末を原料とし、本来の焼結温度よりも低い温度で焼結をおこなうことにより緻密化までには至らない多孔質状態の焼結素材、すなわち造粒材を用いる必要がある。
【0019】
既述した原料粉により造粒材を生産する。原料粉を造粒するためにはバインダーを用い原料粉とバインダーとを正確に計量し、ミキシングして造粒する。ここで使用されるバインダーについては格別限定はされないが、例えばポリビニルピロリドン(PVP)やポリビニルアルコール(PVA)等を主材としたものが入手や取り扱い性の面で容易である。
【0020】
金属微粉末に対するバインダーの添加量については、0.3(重量)%未満では金属微粉末の結合力が十分ではなく、また反対に5.0(重量)%を超えても焼結品の変形が大きく強度も低くなることから0.3〜5.0(重量)%の範囲がよく、さらに好ましくは0.6〜2.2(重量)%の範囲が理想的といえる。なお実施時には原料粉末の形状、粒度、希望する造粒材の粒度、希望する含油率に従いバインダ−添加量を調整する。バインダーを添加した金属微粉末はあらかじめ既知の攪拌機により十分に攪拌(混練)して用いる。なおこの場合に造粒機として開発されたバーチカルグラニュレーター(株式会社パウレック)を用いると混合・練合・造粒を一つの容器内でおこなえる。
【0021】
なおこの場合における造粒の手段としては種々のものがあるが、一般的には圧縮造粒として、高圧ブリケッティングマシン「ブリケッタ」(新東工業株式会社の登録商標)、あるいはロールプレス((株)セイシン企業)が用いられる。また押出造粒として「ペレッタ」(新東工業株式会社の登録商標)が用いられる。さらに撹拌造粒としてはファインミキサーが用いられる。またバーチカルグラニュレーター((株)パウレック)なども用いることができる。
【0022】
またMIM成形用のコンパウンドのバインダ−としては、例えばポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアセタ−ル・・等の熱可塑性樹脂とパラフィンやステアリン酸などのワックス種を混合した多成分系のバインダ−を用いる。これらバインダ−と金属粉末を加圧ニ−ダ−等で加熱しながら加圧混練することによりバインダ−と金属粉が均一に分散した混練物を作製する。
【0023】
上記により混練された混練物をペレタイザ−等を用い射出成形機に投入可能なペレット状に加工してコンパウンドとする。この場合に、バインダ−量が5%未満では射出成形に必要な可塑性が十分でなく、また15%を超えるとバインダ−成分が多すぎるために成形時にバインダ−と金属粉末の乖離が発生し成形が困難になることから好ましくは5〜15%の範囲内が良い。なおこの場合に、実施時にはバインダ−添加量は金属原料粉末の比表面積、希望する含油率によって調整、決定され、また、バインダ−に用いるバインダ−種についても必要により選択され用いられる。
【0024】
〔軸受材の成形〕
50μ以下の金属微粉原料粉を造粒した造粒材を用いた軸受材の成形手段としてはプレスによる成形とMIMによる成形手段とがある。前者は在来の圧粉成形金型を用い、圧粉成形後焼結、サイジングし、その後潤滑油を含浸させるものであり、造粒された粒と粒との間に大きな空間ができ易いことから後記するMIM成形ほどの均一で微細な空孔のみとまではいかないものの、従来の粉末焼結含油軸受に比べれば通気度を低く抑えることができるので、ある程度の摺動特性の向上が見込まれる。
【0025】
焼結含油軸受に要求される特性とコストとを比較検討し、安価な造粒によるプレス成形か、あるいはある程度高価なMIM成形によるかを選択することにより、特性と価格のバランス性に優れた焼結含油軸受材を市場に提供することが可能となる。また後者は焼結含油軸受材の成形では初の試みである金型内への射出成形手段を用い、射出成形後に焼結、サイジングし、その後潤滑油を含浸させるものである。なおプレスによる成形手段を用いる場合においては在来の成形金型を用い、成形後の焼結、サイジング、潤滑油含浸に至るまで在来の手法と同一なので説明を省略し、以下においては射出成形機を用い、射出成形後に焼結、サイジングし、その後潤滑油を含浸させる手法についてのみ説明をする。
【0026】
コンパウンドを射出成形機により射出成形するには、従来主として高強度の機械構造部品や装飾品等の製造に用いられているMIM( Metal Injection Molding)成形技術が適用できる。一般的にMIMはダイキャストより融点の高い材料を比較的高精度、高密度、高強度かつ複雑な形状に成形するための工法であり、射出成形であるために複雑な三次元的形状物の成形に向き、また95%以上の相対密度が得られるために溶性材に匹敵する機械的、物理的特性を有している。
【0027】
しかしコンパウンド中に多量の樹脂等バインダーを含むところから、焼結の過程で12〜18%の高収縮(プレス成型による場合にはバインダー不要であるため焼結時の収縮が僅か1%程度)であり、収縮過程の多孔質状態では焼結品寸法がきわめて不安定で焼結品寸法の管理は容易ではない。更に、三次元的複雑形状で高密度の焼結材を得ることを目的としたMIM成形技術を円筒単純形状で低密度である焼結含油軸受を成形する手段として用いることは常識的には考えられないことであるが、本発明ではそれら常識にとらわれることなく、MIM成形技術を焼結含油軸受に応用することにより軸受の摺動特性が大幅に向上することを見いだした。
【0028】
そこで本発明においてはMIMで成形する金属粉末について、これを金属の微粉末と多量の樹脂等の流動性のあるバインダーとの混練物であるコンパウンドとして用い、これを軸受金型で射出成形し、取り出した成形品を、真空炉等により脱脂をおこなうものである。また成形品を真空炉内において脱脂のみならず焼結をも同時に実施して製品を得ることも可能である。
【0029】
〔射出成形〕
焼結含油軸受材のMIMによる成形については、本来はプラスチック樹脂材の射出成形に用いられている射出成形機を用いて成形することができる。射出成形機のシリンダー内で加熱と剪断により可塑化されたコンパウンドを、設置された金型内に射出し充填することにより成形する。射出成形品である軸受材の素材は、プレスによる圧粉成形品より強度が高く成形後のハンドリングに耐えるだけの十分な強度をもつ。
【0030】
〔脱脂〕
MIMにより射出成形された軸受材素材について、さらに脱脂がおこなわれる。脱脂は真空炉、雰囲気炉や大気炉内において加熱しバインダーを気化蒸発させたり、バインダ−成分を選択的に溶解する溶剤中で抽出脱脂を行う。なお脱脂に際しては金属酸化を嫌う材質の場合は、真空やアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気内、還元ガス雰囲気内、または溶剤抽出において実施するのが好ましい。またこの場合にバインダーを殆ど除去してしまうと保形性の面で脆弱になるので僅かに残す必要がある。
【0031】
〔焼結〕
焼結は上記したMIMによる成形素材の場合においても、あるいは圧粉成形による成形素材による場合のいずれの軸受材素材であっても真空炉、還元性雰囲気、不活性雰囲気などの焼結炉を用いて焼結をおこなう。軸受材の焼結手法そのものについては在来の焼結手法に基づいて実施されるが、加熱温度については、活性で焼結性に優れる微粉末を原料に用いるために従来と同じ焼結温度では緻密化が進みすぎてしまい十分な含油能力を確保することが難しくなるため、在来の一般的な圧粉軸受材の焼結の場合よりも低い温度、すなわち鉄系であれば700〜1,000℃の温度範囲内において焼結をおこなう必要がある。なおこの場合の焼結温度は用いる原料粉粒度、バインダ−添加量、要求される含油率に応じて調整することにより希望の含油率を持つ軸受材を得ることができる。
【0032】
焼結により軸受材素材の組織の各隣り合う金属粒子を拡散接合させることができ、各金属粒子が結合して多孔質の結晶体となる。かかる多孔質状態の焼結素材は数μm〜20μmの微細な空孔であるところから、緻密化が進んでいない多孔質の状態においても低通気度となる。
【0033】
なおコンパウンドを用いてMIMにより射出成形された軸受材素材は、成形時に圧縮応力がかからないために、通常の粉末冶金プレス成形による粉末冶金軸受材にみられるような両端面と中央部とで密度差がある所謂ニュートラルゾーンがなく、均一な密度分布と空孔分布とを有する軸受材素材が得られる。
【0034】
さらに軸受材素材をMIM成形により得る場合においては、前記した脱脂の工程に続いて焼結工程をも1つの炉内においておこなうようにすることも可能で、この場合には加工時間の短縮と工程の簡素化とをはかることができる。
【0035】
〔サイジング〕
焼結後の軸受材素材については、サイジングを施す。サイジング工程については一般的な粉末冶金により得られる焼結軸受材についてのサイジング工程と同一である。また潤滑油の含浸などサイジング以後の工程についても、従来の圧粉焼結軸受材の場合と同様であるが、本発明の焼結含油軸受の摺動面は従来の焼結含油軸受の摺動面に比較し油孔面積が小さく、かつ粗大な油孔がほとんど存在しない均一で微細な油孔となる。油孔面積が小さいということは摺動面が大きいことを意味し、馴染み性や油膜強度保持の点で有利となる。
【0036】
上記により得られた焼結含油軸受材は50μm以下の金属微粉末中にバインダーを0.3〜15(重量)%混合した造粒材を用いてプレス圧粉成形またはMIMを用いた射出成形手段により成形されるために、含油率:15%以上でかつ通気度:5×10−3darcy 以下の焼結含油軸受材とすることができ、また軸受内の摺動面における油孔の少なくとも90%以上について20μm以下とすることができる。
【0037】
またこの場合に使用される原料粉につき、これをd50:1〜20μmの範囲内のものを使用した場合には、摺動面において均一で微細な油孔を形成することが容易であり、高含油率でありながら低通気度の焼結含油軸受材を安定して作製することができる。
【0038】
[本発明の焼結含油軸受材の特性ー空孔]
図1に軸受材の組織図を示す。図1(A)は従来の粉末焼結軸受材の組織拡大図(イメージ図)であり、原料粉相互間の隙間となる空間が広く、大きな空孔となっており、通気度は「普通」である。図(B)は本発明のMIM成型による軸受材の組織拡大図(イメージ図)であり、脱脂・焼結後にバインダーが抜けて微細空孔が均質に形成されており、通気度は図(A)のものに比べて「極低」となっていることがわかる。
【0039】
図(C)は造粒粉軸受材の組織拡大図(イメージ図)であり、各造粒材内の空孔が焼結後に微細空孔となるほか、成型時の各造粒材相互間の空間部が大きな空孔となり、これにより大きな空孔と微細な空孔とが均質に混在した状態となり、通気度は「低」となっていることがわかる。
【0040】
[本発明の焼結含油軸受材の特性ー油孔]
図2に軸受材組織における油孔状態の対比写真(顕微鏡写真)をあらわす。図(A)は従来の軸受組織を、また図(B)は本発明による軸受組織をあらわしており、これにより従来の軸受組織に比べて本発明による軸受組織が28%もの高含油率でありながら油孔が少なく、かつ粗大油孔が存在しない極めて微細な油孔を持つことがわかる。
【0041】
[本発明の焼結含油軸受材の特性ーなじみ性]
図3に従来軸受材と本発明軸受材のなじみ性の比較実験結果をあらわす。図3(A)は面圧14.4kgf/cm2 に設定した場合の100r.p.mと200r.p.mのなじみ時間の比較をしたもので、従来軸受材に比較して本発明軸受材のなじみ時間がきわめて短く、また摩擦係数も低いことがわかった。
【0042】
また図3(B)には従来軸受材と本発明軸受材の摺動部概念図をあらわす。左側の従来軸受材は油孔が主に大きな油孔により構成されているが、右側の本発明軸受材にあっては大きな油孔が存在せず微細な油孔だけで構成され、しかもこの微細な各油孔はサイジング時に潰されやすいために、摺動部の総面積が従来軸受材に比して大きくなる。
【0043】
さらに図3(C)には従来軸受材と本発明軸受材のなじみ時における比較概念図をあらわす。ここで、ある荷重を受けるのに必要な平滑面の面積をSとすると、S=S1×n1(従来軸受材の凹凸数)=S2×n2(本発明軸受材の凹凸数)の関係式が成り立ち、凹凸数が多いほど個々の凸部の平滑面が小さくなり、摩耗深さhも小さくなる。
【0044】
しかるに本発明軸受材は従来軸受材に比して凹凸の大きさは同等で摺動部面積が大きいために、 n1<n2 → S1>S2 → h1>h2 となり、本発明軸受材はなじみ性に必要な摩耗深さが浅くて済むため、従来軸受材に比べてきわめて短時間でなじみが終了し、なじみ性に優れた焼結含油軸受材となる。
【0045】
[本発明の焼結含油軸受材の特性ー摩擦係数]
さらに図4には従来軸受材(従来材)と本発明軸受材(開発材)との摩擦係数比較試験結果の比較データをあらわす。上記のデータにより理解できるように本発明軸受材(開発材)は、面圧:3.7kgf/cm2 と面圧:11kgf/cm2 何れの条件においても従来軸受材(従来材)に比して低い摩擦係数であることがわかる。
【0046】
データ中からも油膜が破れやすい「高荷重」や「低速回転」などで従来軸受材との摩擦係数差が大きくなっていることから、本発明軸受材の油膜強度が大きくなっていることが読み取れ、本発明軸受材(開発材)の場合は、通気度が低く油膜強度が強固であるため、流体潤滑を維持しやすいことによるものと考えられる。
【0047】
[本発明の焼結含油軸受材の特性ー軸受摩耗量・温度]
図5には従来軸受材(従来材)と本発明軸受材(開発材)との軸受摩耗量および温度上昇の実験による比較データをあらわしたものである。これによれば本発明軸受材(開発材)の摩耗量は従来軸受材(従来材)に比して1/2〜1/3に減少している。これは前述したように荷重を受けるために必要な摩耗深さが浅くてすむためと、これに加えて油膜強度の向上により流体潤滑を維持しやすくなるためにより、なじみ面が短時間(少ない摩耗深さ)で済むことによるものと考えられる。
【0048】
また軸受材の温度上昇についても、本発明軸受材(開発材)は従来軸受材(従来材)に比して1/3〜1/5程度に抑えられている。これは流体潤滑により摩擦係数が低くなることに加え、本発明軸受材(開発材)の放熱効果も加わっているものと思われる。またこれまで焼結含油軸受に含浸されている含浸油は軸受温度を下げる効果があるとされてきたが、本発明軸受材(開発材)は従来軸受材(従来材)より含油率を高めることができるため冷却効果のある油をより多く保持することができる。
【0049】
さらに数μm程度の空孔が多数存在するため軸受の比表面積が従来軸受材(従来材)に比べて格段に大きく、また微細空孔であるが故に軸受内の油移動速度も速まることになり、一種の熱交換器的な機能も発揮されているものと思われる。
【実施例1】
【0050】
Cu系焼結含油軸受材のMIMによる成形

【実施例2】
【0051】
Fe−Cu系焼結含油軸受材のMIMによる成形

【実施例3】
【0052】
Cu系焼結含油軸受材の造粒粉を用いたプレス成形

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】軸受材の組織拡大図(イメージ図)。
【図2】軸受材組織における油孔状態の対比写真(顕微鏡写真)。
【図3】従来軸受材と本発明軸受材のなじみ性の比較実験結果をあらわす比較図。
【図4】従来軸受材(従来材)と本発明軸受材(開発材)との摩擦係数比較試験結果の比較データ。
【図5】従来軸受材(従来材)と本発明軸受材(開発材)との軸受摩耗量および温度上昇の実験による比較データをあらわしたグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50μm以下の金属微粉末中にバインダーを0.3〜5.0(重量)%混合した造粒材を、金型によりプレス成形した後焼結し、含油率:15%以上でかつ通気度:5×10−3darcy 以下としてなる焼結含油軸受材。
【請求項2】
50μm以下の金属微粉末と5〜15(重量)%のバインダーとを混練・造粒したコンパウンドを射出成形した後焼結し、含油率:15%以上でかつ通気度:5×10−3darcy 以下としてなる焼結含油軸受材。
【請求項3】
原料粉のメディアン径:d50が1〜20μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の焼結含油軸受材。
【請求項4】
軸受内の摺動面における油孔の少なくとも90%以上が20μm以下であるところの請求項1〜3の何れか1に記載の焼結含油軸受材。
【請求項5】
原料粉として50μm以下の金属微粉末中にバインダーを0.3〜5.0(重量)%混合して流動性のある造粒材とし、これを金型内でプレス成形し、かつその後焼結して得るようにした焼結含油軸受材の製造法。
【請求項6】
原料粉として50μm以下の金属微粉末と5〜15(重量)%のバインダ−とを混練・造粒して射出成形可能な可塑性をもつコンパウンドとし、これを金型内に射出成形し、かつ焼結して得るようにした焼結含油軸受材の製造法。
【請求項7】
原料粉のメディアン径:d50が1〜20μmの範囲内にあることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の焼結含油軸受材の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−7141(P2010−7141A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168766(P2008−168766)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(592128788)ポーライト株式会社 (16)
【Fターム(参考)】