説明

煙検出装置

【課題】1本のレーザ光に基づいて所望の空間内において発生する煙を検出することのできる煙検出装置を得る。
【解決手段】レーザ光を煙検出の対象領域に照射し、煙により散乱したレーザ光を画像として撮像し、画像処理を施すことで、対象領域内で煙が発生したことを検出する煙検出装置であって、レーザ光を照射するレーザ光源(10)と、レーザ光源から照射されたレーザ光を、複数本のレーザ回折光に変換して対象領域に立体的に照射させる回折格子(11)と、レーザ回折光が照射された対象領域を、レーザ回折光の照射方向とは異なる方向から撮像するカメラ(20)と、カメラにより撮像された画像の中から、レーザ回折光が煙によって散乱することで生じる線状の回折パターンを抽出することで、対象領域内で煙が発生したことを検出する画像処理部(30)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視カメラにより撮像された画像に対して画像処理を施すことにより、火災時の煙の発生を検出する煙検出装置に関し、特に、レーザ光の回折光を利用した煙検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火災発生時の初期消火、あるいは火災事故における逃げ遅れの防止の観点から、火災あるいは煙の早期発見が非常に重要となっている。そこで、煙検出装置の分野においては、監視カメラにより撮像された画像に対して画像処理を施すことで、煙の早期発見を行うことが研究されている。
【0003】
その一例として、煙検出の対象領域にレーザービーム(レーザ光)を照射し、煙により散乱したレーザービームの画像を捕らえ、画像処理結果から煙を検出する従来技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1では、レーザービーム照射装置から複数の平行光線のレーザービームを煙検出の対象領域に照射し、カメラでその照射エリアを撮像して得られた画像を解析することで、煙の有無を判断している。さらに、特許文献1では、煙が発生したことを検知するばかりでなく、画像中の煙に起因する部分の位置および大きさから、煙の発生状況や発生場所も特定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−154284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1では、複数の平行光線のレーザービームを照射するための光源を、あらかじめ設置しておく必要がある。また、平行光線のレーザービームで規定される特定の平面領域では、煙による散乱が生じるが、それ以外の空間で発生した煙は、レーザービームの乱反射が生じないため、未検出となり、検出領域が特定の平面領域に限られてしまうといった問題があった。
【0007】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、1本のレーザ光に基づいて所望の空間内において発生する煙を検出することのできる煙検出装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る煙検出装置は、レーザ光を煙検出の対象領域に照射し、煙により散乱したレーザ光を画像として撮像し、画像処理を施すことで、対象領域内で煙が発生したことを検出する煙検出装置であって、レーザ光を照射するレーザ光源と、レーザ光源から照射されたレーザ光を、複数本のレーザ回折光に変換して対象領域に立体的に照射させる回折格子と、レーザ回折光が照射された対象領域を、レーザ回折光の照射方向とは異なる方向から撮像するカメラと、カメラにより撮像された画像の中から、レーザ回折光が煙によって散乱することで生じる線状の回折パターンを抽出することで、対象領域内で煙が発生したことを検出する画像処理部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る煙検出装置によれば、回折格子を用いて複数本のレーザ回折光を対象領域に立体的に照射させることで、監視対象周辺の局所空間を立体的に監視することができ、1本のレーザ光に基づいて所望の空間内において発生する煙を検出することのできる煙検出装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1における煙検出装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1の煙検出装置における煙検出原理の説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1の煙検出装置における加算処理に関する説明図である。
【図4】本発明の実施の形態1における煙検出装置による一連の処理を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の煙検出装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における煙検出装置の構成図である。本実施の形態1における煙検出装置は、レーザ光源10、回折格子11、カメラ20、統括制御処理部30を備えている。また、統括制御処理部30は、外部機器制御部31、画像演算処理部32、フレームメモリ33、およびメインメモリ34を備えて構成されている。
【0013】
そこで、まず始めに、図1に示した各構成要素の機能について説明する。
レーザ光源10は、煙検出の対象領域の方角に向かって1本のレーザ光を照射する光源である。そして、このレーザ光源10から照射されたレーザ光は、回折格子11を通過することで、扇状の複数本のレーザ回折光に分散される。この回折格子11として、本実施の形態1では、透過型光ファイバ回折格子(ファイバグレーティング)を用いる。
【0014】
この回折格子11として用いられるファイバグレーティングは、光ファイバを円柱レンズとしてシート状に並べた透過型回折格子であり、スリット型回折格子よりも入射光のロスが極めて少ない特徴を有する。
【0015】
なお、1枚の回折格子11を用いた場合には、レーザ光を平面的に拡散することができる。さらに、図1に示すように、90度回転させた2枚の回折格子11を用いた場合には、レーザ光を立体的に拡散することができる。ファイバグレーティングのシート面に垂直な方向からレーザ光を照射することで、光の干渉によって回折光が生じ、この回折光を煙検出の対象領域に照射することができる。
【0016】
一方、カメラ20は、対象領域を撮像する手段であり、回折光の照射方向とは異なる方向から、対象領域を撮像する。また、図1においては、カメラ20の前に、レーザ光と同一波長を透過するバンドパスフィルタ21が設置されている。これにより、レーザ光として太陽光の吸収線に等しい波長を採用することで、太陽光の影響をうけることなく、屋外での監視を行うことができる。
【0017】
統括制御処理部30内の外部機器制御部31は、レーザ光源10からのレーザ光の照射タイミング、およびカメラ20からの画像取得タイミングを制御する。画像演算処理部32は、カメラ20で撮像された画像に基づいて、後述する一連の画像演算処理を施すことで、対象領域内の煙の有無を判断する。
【0018】
フレームメモリ33は、カメラ20で撮像された画像をフレーム単位で記憶させておく記憶部である。さらに、メインメモリ34は、画像演算処理部32により処理された画像を記憶させておく記憶部である。
【0019】
次に、本実施の形態1における煙検出装置による、煙を検出する原理について、具体的に説明する。本発明では、煙が発生していない通常の場合には、対象領域内の監視対象に反射した回折光が点状に観測されるが、煙が存在する場合には、回折光が煙によって散乱した線状の回折パターンとして観測されるという違いに基づいて、画像処理を用いて線状の回折パターンを検出することにより、煙を検出している。
【0020】
図2は、本発明の実施の形態1の煙検出装置における煙検出原理の説明図である。図2における(A1)(A2)(B1)(B2)の4つの図は、それぞれ、以下の内容を示している。なお、図中における4本の点線は、回折格子11を通過して分散された複数本のレーザ回折光を示しており、説明を簡略化するために、平面的に拡散された状態を模擬している。
【0021】
(A1):対象領域内に人が侵入した場合に、回折光が点状として観測される画像の例示図
(A2):(A1)の画像に対し、画像演算処理部32により後述する画像処理を施して特徴抽出を行った結果の例示図
(B1):対象領域内に煙が侵入した場合に、回折光が線状として観測される画像の例示図
(B2):(B1)の画像に対し、画像演算処理部32により後述する画像処理を施して特徴抽出を行った結果の例示図
【0022】
(A1)に示すように、対象領域内に人物等の剛体が侵入してきた場合には、回折光の反射パターンは、通常時とは異なる位置に点状として観測される。これに対して、(B1)に示すように、対象領域内に煙が侵入してきた場合には、煙による回折光の散乱により、回折光の反射パターンは、線状として観測される。
【0023】
従って、画像演算処理部32は、画像処理を行って、線状の反射パターンを抽出することで、煙の有無を検出できることとなる。この検出のための、具体的な画像処理手順としては、次の3ステップが考えられる。
【0024】
[ステップ1]差分処理
画像演算処理部32は、監視時に撮像した画像から、煙が発生していない状態であらかじめ撮像しておいた基準画像を引くことによる差分処理を行い、変化領域の抽出を行う。これにより、対象領域内に何らかが侵入した場合には、先の図2における(A1)あるいは(B1)における点状あるいは線状の部分を抽出することができる。
【0025】
[ステップ2]空間微分処理
次に、画像演算処理部32は、差分処理により抽出した変化領域に対して空間微分処理を施すことで、エッジ部分を抽出する。これにより、先の図2における(A2)に示したような円状部分、あるいは(B2)に示したような線状部分のエッジを抽出することができる。
【0026】
[ステップ3]煙検出処理
次に、画像演算処理部32は、空間微分処理後の画像に対して、エッジ部分が存在するか否かを判断するための定量的な検出処理を行う。一例として、画像演算処理部32は、空間微分処理後の画像をラベリングし、それぞれのラベルについて重心モーメントを求め、求まった重心モーメントが所定値以上となるものがあった場合には、線状のエッジが存在すると判断できる。
【0027】
あるいは、画像演算処理部32は、空間微分処理後の画像をラベリングし、それぞれのラベルの重心モーメントについての分散を求め、求まった分散が所定値以上である場合には、線状のエッジが存在すると判断できる。
【0028】
あるいは、画像演算処理部32は、主成分分析を行い、第1主成分、第2主成分を求め、この比から抽出領域の等方性を評価することで、線状のエッジが存在するか否かを判断できる。
【0029】
なお、上述した差分処理については、煙が移動することを考慮して、複数の時刻に撮像された画像を用いた複数の差分画像を加算処理することで、エッジ部の検出精度を向上させることが考えられる。図3は、本発明の実施の形態1の煙検出装置における加算処理に関する説明図である。
【0030】
図3において、(C1)〜(C4)は、基準画像に対して、それぞれ異なる時刻に撮像された画像を用いて差分処理を行うことで線状の反射パターンを抽出している様子を模式的に示したものである。すなわち、(C1)から(C4)まで時刻が徐々に進むことで、煙の位置が変わっており、この結果、線状の反射パターンとして抽出された部分が徐々にずれている状態を示している。
【0031】
これに対して、図3の(D)は、(C1)〜(C4)の各時刻の差分結果を加算したものであり、抽出される線状の反射パターンが、(C1)〜(C4)のそれぞれと比較して、より長く検出できている状態を示している。すなわち、このような加算処理を施すことで、(C1)〜(C4)の各時刻に存在した煙についてそれぞれ抽出した線状の反射パターンの総和を求めることができ、後段のステップ3の処理で、エッジとして検出しやすい長さを有するように、エッジ部分を抽出することができる。従って、設置環境に応じて、煙の移動速度に対応した適切な換算処理回数の設定を行うことで、検出精度の向上を図ることができる。
【0032】
図4は、本発明の実施の形態1における煙検出装置による一連の処理を示したフローチャートである。まず始めに、ステップS401において、外部機器制御部31は、レーザ光源10をOFFし、その後、カメラ20を起動することで、画像X(基準画像X)を取得させる。この基準画像は、フレームメモリ33に取り込まれ、その後、画像演算処理部32により、基準画像としてメインメモリ34に記憶される。
【0033】
次に、ステップS402において、画像演算処理部32は、加算処理を行うための繰り返し回数nを1に初期化する。次に、ステップS403において、外部機器制御部31は、レーザ光源10をONし、その後、カメラ20を起動することで、画像Yn(n=1のため、Y1に相当)を取得させる。この画像Y1は、フレームメモリ33に取り込まれ、その後、画像演算処理部32により、監視時の1枚目の画像として、メインメモリ34に記憶される。
【0034】
次に、ステップS404において、画像演算処理部32は、先のステップS401で取得した基準画像Xと、先のステップS403で取得した画像Y1とを用いて差分処理を実行し、差分画像Z1(=Y1−Z)を求め、メインメモリ34に格納する。
【0035】
次に、ステップS405において、画像演算処理部32は、繰り返し回数nが、加算処理回数としてあらかじめ設定されているNと等しいか否かを判断する。そして、nがNよりも小さい場合には、画像演算処理部32は、ステップS406にて、nを+1加算し、再度、ステップS403〜ステップS405の処理を繰り返す。
【0036】
そして、ステップS405において、最終的にn=Nとなった場合には、画像演算処理部32は、ステップS407以降の処理を行う。ステップS407において、画像演算処理部32は、メインメモリ34に順次格納された差分画像Z1〜ZNの加算処理を行い、加算結果の画像Gを得る。なお、N=1が設定されていた場合には、GとしてZ1が求まることとなる。
【0037】
次に、ステップS408において、画像演算処理部32は、画像Gに対して空間微分処理を行い、エッジ部を抽出する。次に、ステップS409において、画像演算処理部32は、抽出されたエッジのラベリングを行う。さらに、ステップS410において、画像演算処理部32は、上述した煙検出処理を行い、線状のエッジがある場合には、煙が存在すると判断する。
【0038】
このように、図4に示した一連の処理を、適宜繰り返すことにより、煙の発生を監視することができる。
【0039】
以上のように、実施の形態1によれば、監視対象周辺の局所空間を立体的に監視することができ、また、本来の検出対象である煙以外の侵入物があった場合にも、その影響を受け難い利点がある。
【0040】
また、回折光の波長と撮像波長を太陽光の吸収線と一致させることにより、屋外監視用途でも使用することができる。すなわち、太陽光下で本発明の煙検出装置を使用する場合には、太陽光の影響を抑えるために、カメラの前面にバンドパスフィルタを取り付け、バンドパスフィルタの通過帯域に波長を合わせたレーザを使用する。これにより、環境の不要な外乱を取り除くことができる。特に、屋外の場合、761nmを中心とした波長帯を用いることで、太陽の影響を最小とすることができる。
【0041】
なお、レーザ光は、監視環境の利用者に威圧感を与えるので、赤外レーザ光の使用が望ましい。そして、この場合のカメラは、赤外領域に感度があるものが必要となる。
【符号の説明】
【0042】
10 レーザ光源、11 回折格子、20 カメラ、21 バンドパスフィルタ、30 統括制御処理部(画像処理部)、31 外部機器制御部、32 画像演算処理部、33 フレームメモリ、34 メインメモリ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を煙検出の対象領域に照射し、煙により散乱したレーザ光を画像として撮像し、画像処理を施すことで、前記対象領域内で煙が発生したことを検出する煙検出装置であって、
前記レーザ光を照射するレーザ光源と、
前記レーザ光源から照射された前記レーザ光を、複数本のレーザ回折光に変換して前記対象領域に立体的に照射させる回折格子と、
前記レーザ回折光が照射された前記対象領域を、前記レーザ回折光の照射方向とは異なる方向から撮像するカメラと、
前記カメラにより撮像された画像の中から、前記レーザ回折光が前記煙によって散乱することで生じる線状の回折パターンを抽出することで、前記対象領域内で煙が発生したことを検出する画像処理部と
を備えたことを特徴とする煙検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の煙検出装置において、
前記回折格子は、回折方向を90度回転させた2枚の回折格子を重ねることで、前記複数本のレーザ回折光を得ることを特徴とする煙検出装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の煙検出装置において、
前記回折格子は、光ファイバを用いた透過型回折格子であることを特徴とする煙検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の煙検出装置において、
前記レーザ光源の波長は、太陽光の吸収線を含む波長で構成されており、
前記カメラの前面に設けられ、太陽光の吸収線のみ、あるいは吸収線近辺のみを透過させるバンドパスフィルタ
をさらに備えることを特徴とする煙検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の煙検出装置において、
前記画像処理部は、前記カメラにより撮像された前記画像に空間微分処理を施してエッジを抽出することで、前記線状の回折パターンを抽出することを特徴とする煙検出装置。
【請求項6】
請求項5に記載の煙検出装置において、
前記画像処理部は、前記空間微分処理により抽出された前記エッジの第1主成分と第2主成分の比を計算し、その比に基づいて煙の発生を特定することを特徴とする煙検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−73099(P2012−73099A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217822(P2010−217822)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【Fターム(参考)】