説明

熱の漏れを抑えながら低温液体を保持し、取り出すための装置及び方法

本装置には、極低温液体を保持するための極低温空間を区画する二重壁真空断熱容器と、極低温空間内に配置された吸込み口を備えるポンプと、そのポンプから極低温空間外に配置された駆動装置まで延びる少なくとも1つの細長い部材を含む、ポンプ・アセンブリが含まれている。細長い部材には、同じ長さの構造的に同等の細長いステンレス鋼部材より低い熱伝導率を有する細長い非金属部分が含まれている。望ましい実施形態の場合、細長い部材は、駆動シャフト、及び、ポンプを支持して、駆動装置に対し固定状態に保持するための剛性構造部材の一方または両方とすることが可能である。本方法では、本装置を用いて、極低温空間への熱洩れを抑えることにより、極低温液体を保持するホールドタイムを延ばす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホールドタイムを改善するため、熱の漏れを抑えながら低温液体を保持し、取り出すための装置及び方法に関するものである。とりわけ、この装置には、ポンプが収容された断熱容器と、ポンプや駆動ユニット・アセンブリによって低温空間内へ熱が漏れるのを抑えるための手段が含まれている。
【背景技術】
【0002】
極低温では、気相で貯蔵される同じガスに比べて高い貯蔵密度を実現するため、ガスを液化形態で貯蔵容器に貯蔵することができる。例えば、ガスが自動車の燃料として用いられる場合に、自動車内に燃料を貯蔵するために利用可能な空間は制限されるので、貯蔵密度を高くすることが望ましい。
【0003】
液化形態でガスを貯蔵するもう1つの利点は、容器の製造と運転費用が低くなることである。例えば、貯蔵容器は、2MPa(約300psig)未満の飽和圧力において、極低温で液化ガスを貯蔵するように設計することが可能である。圧縮ガスは、一般に、20MPa(約3000psig)を超える圧力で貯蔵されるが、こうした高圧でガスを収容するように決められた容器は、容器の重量とコストを増大させる構造強度を必要とする。さらに、気相で貯蔵されるガスはその貯蔵密度が低下するため、同じモル量のガスを保持するには、容器のサイズ及び/または数をより大きくしなければならず、このため、ガスが気相で貯蔵される場合、貯蔵容器の重量が増すことになる。自動車用途において、輸送に際して液化ガスを保持するために、あるいは、自動車のエンジンで消費される燃料として用いるために自動車に搭載してガスを保持するために容器を用いる場合、余分な重量が運転コストに加わる。同じモル量のガスの場合、気相のガスを高圧で保持するための貯蔵用器の重量は、液化形態の同じガスをより低い圧力で保持するための貯蔵容器の重量に比べて、2ないし5倍重くなる。
【0004】
液化ガスの貯蔵にとって望ましい温度はそのガスによって異なる。例えば、大気圧において、天然ガスは、約113ケルビン度の温度で、液化形態で貯蔵することが可能であり、水素のようなより軽いガスは、大気圧において、約20ケルビン度の温度で、液化形態で貯蔵することが可能である。いかなる液体の場合にも、液化ガスの沸点は、液化ガスをより高い圧力に保つことによって上昇させることが可能である。「極低温」という用語は、本明細書では、2MPa(約300psig)未満の圧力で、ある特定の流体を液化形態で貯蔵することが可能な175ケルビン度未満の温度を表わすために用いられる。液化ガスを極低温に保持するため、貯蔵容器は断熱極低温空間を区画する。
【0005】
極低温で液化ガスを貯蔵することに関する問題は、極低温空間への熱伝達を阻止するのに十分な断熱を施すことである。従来の容器は、極低温空間に断熱を施すためのいくつかの技法を利用する。例えば、一般に、対流熱伝達を低減させるため、外壁と内壁の間の空間に断熱真空を設けた二重壁容器が用いられている。内壁と外壁の外側面は、放射熱伝達を低減させるため断熱材料を巻きつけることも可能である。外壁内に内壁を吊るすための支持体は、伝導熱伝達を低減させるため、熱伝達経路を延長するように設計される。
【0006】
極低温空間から液化ガスを取り出すのにポンプが用いられる。ガスが高温用途に必要とされる場合、気化した後で圧縮機を用いてガスを加圧するのに比べて、気化する前にポンプを用いて液化ガスに加圧するほうがより効率的である。液化ガスのポンピング用に設計されたポンプは、極低温空間内または外に配置することが可能である。
【0007】
極低温空間外にポンプを配置することに関する問題の1つは、ポンプに送られる前に、液化ガスが加熱され、気化するのを阻止するため、極低温空間からポンプに至る吸込み管を十分に断熱する必要があるという点である。吸込みラインにおいて気化する液化ガスがいかなる量であろうとも、ポンプの効率低下または動作不能、及び/または、キャビテーションが生じる可能性があり、このため、ポンプ自体が損傷する可能性がある。
【0008】
ポンプが極低温空間内に配置される場合、問題の1つは、熱がポンプ構造を介して極低温空間に伝達されるという点である。工業用途の場合の貯蔵容器は、自動車用燃料タンクとして典型的に用いられる容積よりはるかに大きい容積の固定設備である。こうした大型の固定貯蔵容器の場合、ポンプ構造を介した熱洩れ効果は顕著ではない。自動車に搭載して燃料を運ぶための容器のような、より小型の自動車用貯蔵容器の場合、より少量の液化ガスに対する熱漏れの効果が比例して大きくなるので、同じ量の熱洩れでも、ホールドタイムにより大きい影響を及ぼすことになる。大型の工業用貯蔵容器の場合、より長い熱伝達経路を設けることによって、ポンプ・アセンブリを延長して、熱漏れを低減させることも可能である。貯蔵容器が小さくなると、このアプローチは容器のサイズによって制限される。
【0009】
貯蔵容器への熱漏れを低減させるさらにもう1つの方法は、大型のポンプに比べて、ポンプの断面積が小さくなり、伝導熱伝達量が減少するように、より高速で動作する小型のポンプを用いることである。より高速で動作するポンプは、一般に、ポンプ吸い込み時に、ポンプ内における気化とキャビテーションを回避するのに、より多くの有効吸い込みヘッド(「NPSH」)を必要とする。固定工業用設備の場合、貯蔵容器は、一般に、かなり大きく、自動車用容器が直面する同じサイズ制約条件による制限を受けないので、固定貯蔵容器は、より高性能なNPSHを設けて、より高速でポンプを運転できるようにする深さに設計することが可能である。例えば、固定貯蔵容器は、利用可能なNPSHが増加するように垂直な長手方向軸を持つように向けることが可能である。小型の容器の場合、とりわけ、自動車用の場合、容器サイズや向きによって、利用可能なNPSHが制限され、このため、ポンプの運転可能速度が制限される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
時間が長いと、極低温空間への熱伝達によって、最終的には、極低温空間内に保持されている液化ガスの一部が気化することになり、これによって、さらに、極低温空間内の圧力が増大する。この圧力を逃がすため、従来の貯蔵容器では、一般に、圧力逃し弁を用いて、貯蔵容器から蒸気の一部を排気している。どんな設計を施しても、極低温空間への多少の熱伝達が生じることは認められている。しかしながら、排気が生じる前に液化ガスを保持させることができる時間として定義される「ホールドタイム」を延ばすためには、熱伝達量を減少させることが望ましい。ホールドタイムが長くなるほど、排気されて、無駄になる可能性のあるガスが減少し、エネルギの利用効率が高くなり(エネルギがガスの液化に消費されるので)、この結果、天然ガスと同様の燃料ガスの場合、未燃の燃料が環境中に排出される量を減少させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
極低温液体を保持し、取り出すための装置及び方法が提供される。この装置には、
(a)極低温液体を保持するための極低温空間を区画する二重壁真空断熱容器と、
(b)前記極低温空間内に配置された吸込み口を備えるポンプと、そのポンプから極低温空間外に配置された駆動装置まで延びる少なくとも1つの細長い部と材を含んでおり、前記細長い部材が、同じ長さの構造的に同等の細長いステンレス鋼部材より低い熱伝導率を有する細長い非金属部分を具備する、ポンプ・アセンブリが含まれている。
【0012】
非金属部材の構造要件は、細長い部材の機能によって決まる。細長い非金属部分が細長い金属部材と構造的に同等になるように特定する場合、本明細書では、同等とは、細長い部材の機能性に必要な構造要件によって決まるものと定義される。構造特性には、引張降伏強さと圧縮降伏強さ、さらには、剛性を含むことが可能であり、「構造強さ」は、本明細書では、細長い部材の機能性に必要な全てのこうした構造特性を含むものと定義される。「構造的同等性」は、全体としての細長い非金属部分と構造的に同等の金属部分との間で決まる。すなわち、細長い非金属部分の構造特性が、同じ長さの細長い金属部材と機能的に同等であり、細長い非金属部材の熱伝導率がより低い限りにおいて、非金属部分は、構造特性がステンレス鋼とは異なる材料から製造することが可能である。
【0013】
ポンプ・アセンブリの吸い込み入り口には、ピストン・シリンダの遠位端を被う端板に関連した一方向入り口弁と、遠位端とは反対側のポンプの近位端に関連した吐き出し口が含まれている。
【0014】
ポンプは、
シリンダ内で往復動可能であり、駆動シャフトに作動可能に接続されたピストンと、
ピストンと遠位端を被う端板との間の空間によって形成される第1の動作チャンバと、
ピストンと、駆動シャフトが貫く端板との間の環状空間によって形成される第2の動作チャンバと、
第1の動作チャンバから第2の動作チャンバへの流体流を可能にするため、流体通路内に配置された一方向通過弁が含まれる、
複動二段ポンプが望ましい。
【0015】
方法は、容器によって形成される、ポンプが配置されている極低温空間内に、液化ガスを保持するホールドタイムを延ばす。本方法には、
(a)容器を真空断熱するステップと、
(b)ポンプに断熱を施して、熱伝導率が、同じ長さで構造的に同等の細長いステンレス鋼部材より低い、細長い非金属部分を含む細長い部材を用いて、容器外部の駆動装置にポンプを接続することによって、極低温空間への熱漏れを低減させるステップが含まれている。
【0016】
この方法によれば、細長い部材は、ポンプを駆動する駆動シャフトと、ポンプを支持して、駆動装置との一定の関係を保つための剛性構造支持体の一方または両方とすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、断熱貯蔵容器と、貯蔵容器内に配置されたポンプを含む装置100の一部の一般的構成を示す断面図である。例示の貯蔵容器は、外壁102と内壁104を備えた二重壁構造を備えている。外壁102と内壁104との間の空間は、内壁104の内面によって形成される断熱極低温空間106のための真空空間とするため真空排気される。外壁102内に内壁104を支持するための既知構成がいくつか存在しており、支持構造108は、ただ単に、こうした構成の1つを表わしたものでしかない。自動車用貯蔵容器の場合、支持構造は、自動車の移動によって生じる荷重のシフトに対処できなければならず、支持体は、長手方向と半径方向の両方において全動荷重を支えるように設計しなければならない。
【0018】
外側スリーブ104Aと内側スリーブ102Aを含む二重壁スリーブが、ポンプ・アセンブリ110のシャフト部分を取り囲んで真空空間103に延び、外部環境から極低温空間106へポンプ・アセンブリ110を通って延びる熱伝達経路を形成している。
【0019】
ポンプ・アセンブリ110の例示の実施形態は、極低温空間内に配置された複動式往復ピストン・ポンプ120と外壁102の外に配置された駆動装置130とを含み、さらにそれぞれが駆動装置130からポンプ120まで延びる細長い駆動シャフト140と構造部材150を含んでいる。ポンプ・アセンブリ110は、吸込み口に、ポンプ120に侵入する可能性のある固体粒子のサイズを制限するためのポンプ120用フィルタ112を装備することが可能である。フィルタ112には、汚染物または凍結粒子がポンプに侵入するのを阻止するための孔あきスクリーンを含むことが可能である。汚染物は、例えば、製造プロセスまたは貯蔵容器に導入される燃料から生じる可能性がある。凍結粒子は、例えば、凍結二酸化炭素または極低温液体の温度で凍結する他の化合物などである。
【0020】
図2には、図1に示すのと同じ実施形態が示されているが、ポンプ120と駆動シャフト140の一方の端部の拡大断面図である。図が異なっても、同じ特徴を表わすのに、同様の参照番号が用いられており、ある特徴の説明が図の1つに関連して行われている場合、簡略化のため、同じ特徴が、別の図に描かれていても、それについての再度の説明は行わない。次に図2を参照すると、ポンプ120には、シリンダ122を形成する中空本体が含まれている。ピストン124が、駆動シャフト140に作動可能に接続されており、シリンダ122内で往復動可能である。一方向入り口弁125は、吸戻しストローク中(ピストン124がポンプ・アセンブリ110の駆動端に向かって移動しているとき)、吸込み通路を介して極低温空間106から第1の動作チャンバ126に液化ガスを吸い込むことができるように開く。同時に、吸戻しストローク中、第2の動作チャンバ128にある極低温液体が、圧縮され、一方向吐き出し弁129を通してそこから吐き出され、その後、吐き出し導管152に流入する。吸戻しストローク中、第2の動作チャンバ128内の流体圧は、第1の動作チャンバ126内の流体圧より高く、一方向通過弁127は閉じたままになる。一方向通過弁127は、ピストン124の本体内に取り付けるのが望ましい。
【0021】
ピストン124が吸込み端に向かって(ポンプ・アセンブリ110の駆動端から遠ざかるように)移動している伸張ストローク中、第1の動作チャンバ126内の圧力が上昇し、一方向入り口弁125は閉じたままになる。一方、第2の動作チャンバ128の容積が拡大し、一方向通過弁127が開いて、第1の動作チャンバ126から第2の動作チャンバ128への極低温液体の流入が可能になる。駆動シャフト140は、第2の動作チャンバ128を貫いて伸び、第2の動作チャンバ128の行程容積(動いた長さに応じた容積)は第1の動作チャンバ126の行程容積より小さい。従って、伸張ストローク中、第2の動作チャンバ128には、拡大した容積によって収容可能な量より多くの極低温液体が流入し、その結果、伸張ストローク中、第2の動作チャンバ128内に圧縮が生じ、一方向吐出し弁129と吐き出し導管152を介して、極低温液体の一部が吐き出される。この望ましい動作構成及び方法については、出願人が共同所有する米国特許第5,884,488号に開示されている。この構成によれば、ポンプは、伸張ストロークと吸戻しストロークの両方において、極低温液体を吐き出す働きが可能になる。第1の動作チャンバ126の行程容積が、第2の動作チャンバ128の行程容積の約2倍の場合、各ピストン・ストローク中に、ほぼ等しい量の極低温液体が吐き出され、ポンプ吐き出しの下流における導管内の圧力脈動を低減させることができる。
【0022】
もう一度図1を参照すると、例示の駆動装置は、駆動シャフト140に作動可能に接続され、ポンプ・ピストン124の往復動に適合させたリニア・ドライブである。一定速度で、かつ、エンジン速度と連動しない速度で、ピストン124を往復動させるには、油圧式駆動が望ましい。自動車用途の場合、油圧システムは、一般に、既に搭載されている。示されてはいないが、当該技術者にとって周知の他の実施形態の場合、駆動装置は、例えば、空気圧式、電気式、または、機械式といった他の駆動手段によって作動させることが可能である。
【0023】
駆動シャフト140は、同じ長さで構造が同等の細長いステンレス鋼部材よりも熱伝導率が低い、細長い非金属部分を含んでいるのが望ましい。例えば、図1、図2に示す駆動シャフト140の斜線部分は、こうした非金属材料から製造されている。例えば、ステンレス鋼に似た金属材料と比較すると、市場ではG−10またはG−11として知られる、ファイバグラス/エポキシ材料のような繊維強化プラスチックは熱伝導率が極めて低く、極低温における十分な圧縮強さと引張強さを有している。望ましい実施形態の場合、細長い非金属部分は、熱伝導率が100ケルビン度において3W/m*K以下である。下記の表1では、G−10の熱伝導率と引張降伏強さが304Lステンレス鋼と比較されている。G−10の引張降伏強さは304Lステンレス鋼より弱いが、熱伝導率がはるかに低いので、断面積を大きくしても、G−10で製造された細長い部材は、依然として、熱伝導率が構造的に同等のステンレス鋼部材より低い。
【0024】
【表1】

【0025】
駆動シャフト140の各端部には、駆動シャフト140を支持し、ガイドし、密封するため、軸受146、148が設けられている。図1に示すような望ましい実施形態の場合、駆動シャフトは、各端部142、144に、平滑な金属軸受面となる金属部材が含まれている。完全な複合材料から製造された駆動シャフトに比べると、駆動シャフトを支持し、密封するための所望の表面平滑性を実現するため、より優れた耐摩耗性、硬さ、機械加工性を得るには、金属端部を備える駆動シャフトのほうが望ましい。金属端部は、極低温において適正な構造特性と熱伝導特性の材料で製造されるのが望ましい。炭素鋼のように、金属によっては、極低温で比較的脆くなるため、適合しないものもある。ステンレス鋼やアンバー36、さらにはニッケル含有量の多い他の合金が、本極低温装置にとって望ましい構造材料の例である。こうした材料は、極低温において延性があり、必要な構造強さを有し、例えば、アルミ青銅合金または真鍮のような、構造的に適合する可能性のある他の金属に比べて熱伝導率が比較的低いためである。
【0026】
図2の拡大図には、金属端部142に細長い非金属部分を接合するための望ましい構成が示されている。細長い非金属部分の端部は、金属端部142の端部に設けられた相補形段付き穴と対になる段付き合わせ面を備えている。接着剤を用いて、この2つの部品を結合することが可能であり、段付き合わせ面は、一定の直径の合わせ面が用いられたる場合よりも、駆動シャフトの断面全体により均等に加重を伝達する。1つ以上のピン、ネジ、または、カラーといった、細長い非金属部分を金属端部に接合するための他の手段については、当該技術者にとって既知である。実施形態によっては、接合技法の組合せを用いることが可能なものもある。例えば、接着剤とピンの両方を用いて、非金属部分を金属端部に接合することが可能である。
【0027】
細長い非金属部分の材料強度が、金属端部より強い場合、熱伝導率を低下させるため、非金属部分は、金属端部142、144より小さい断面積を備えることが可能である。例えば、非金属部分は、中空で、金属端部と同じ直径とすることもできるし、あるいは、中実で、金属端部より小さい直径とすることも可能である。逆に、細長い非金属部分の材料強度が、金属端部より弱い場合には、非金属材料の熱伝導率が十分に低く、そのため、非金属部分全体としての熱伝導率が構造的に同等の細長いステンレス鋼部材より低くなる限りにおいて、構造的に同等になるように、その断面積を拡大させることも可能である。
【0028】
駆動シャフト140の場合と同様、図1、図2に斜線の断面が示された細長い構造部材150は、やはり、構造部材150の熱伝導率が、同じ長さで構造的に同等の細長いステンレス鋼部材より低くなるように、非金属材料で製造することが可能である。構造部材150によって、ポンプ120を駆動装置130に対し固定状態に支持するための支持体が得られる。ポンプ120と駆動装置130は、構造部材150の反対側の端部に取り付けるのが望ましい。すなわち、細長い構造部材150は、図1に示すように、ポンプ120から駆動装置130までの全距離にわたって延びるのが望ましい。
【0029】
図2Aに示すように、望ましい実施形態の場合、構造部材150は、駆動シャフト140と導管152が中空の中心を通って伸びることができるように、中空部材とすることが可能である。例示の実施形態の場合、構造部材150は、円形の横断面を備えるが、他の断面形状を用いることも可能である。さらにもう1つの実施形態の場合、単一の中空構造部材の代わりに、複数の中実または中空構造部材が、ポンプ120から駆動装置130まで伸びて、その間の距離を一定に保ち、同時に、駆動シャフトの挿入が可能な開放空間を生じさせることが可能である。図2Bには、駆動シャフト140、導管152、この例では中実のロッドとして示された細長い構造部材250を示す横断面図が示されている。他の実施形態の場合と同様、ポンプ・アセンブリ110を介した極低温空間への熱洩れを抑えるため、構造部材250は、非金属材料で製造することが可能である。
【0030】
望ましい実施形態の場合、駆動シャフトまたは構造部材の一部のような細長い非金属部材は、プラスチック母材内に配置されたファイバを含む複合材料から製造することが可能である。複合材料の知識に関する習熟者には明らかなように、多様なファイバやプラスチックから選択することが可能であり、材料の選択によって、複合材料の特性が決まる。本事例の場合、複合材料に関する2つの重要な特性は、予想される運転条件下における構造強度と熱伝導率である。例えば、予測される運転条件下において、本装置は、極低温の液体にさらされることになるが、非金属材料が、予測される運転温度で脆くなる可能性はない。
【0031】
非金属複合材料を利用する目的は、極低温空間への熱漏れを抑えることにある。従って、複合部材は、一般に、極低温装置用のステンレス鋼から製造される、従来の駆動シャフトに用いられる構造的に同等の鉄部材より熱伝導率が低いことが望ましい。複合材料の熱伝達係数が、ステンレス鋼のような金属材料より低くても、複合材料によって十分な構造強度が得られない場合には、総合的な熱伝導率がより高くなる可能性がある。すなわち、材料強さが不十分な複合構造部材は、熱を伝導するより広い断面積を必要とする可能性があり、その結果、ステンレス鋼で製造された構造的に同等の金属部材に比べて、総合的な熱伝導率が高くなることがある。従って、所望の結果を実現するには、構造強度と低熱伝達係数の組み合わせが必要になる。望ましい実施形態の場合、非金属構造部材の熱伝導率は、ステンレス鋼で製造される、構造的に同等の代替シャフト部材より低い。
【0032】
非金属構造シャフト部材用の複合材料には、ガラス、炭素、樹脂製の合成繊維、石英から構成されるグループから選択されたファイバを含むことが可能である。樹脂製の合成繊維の一例には、Kevlarの登録商標名でE.I.Dupont de Nemours and Companyによって販売されている材料のようなアラミド繊維がある。エポキシ樹脂を用いて、プラスチック母材とすることも可能である。他の実施形態では、プラスチック母材に、ポリエーテルエーテルケトンやポリフェニレン・サルファイドから構成されるグループから選択されたビスマレイミドまたは熱可塑性樹脂を含むことが可能である。
【0033】
ランダムな向きのファイバを用いることができるが、構造シャフト部材には、主として長手方向における強度が必要とされるので、向きを制御されたファイバを用いて、長手方向における剛性と構造強度を改善することが可能である。例えば、繊維織物マットまたは連続配向ストランドを用いることによって、長手方向における強度が増すように、少なくとも最低限の数のファイバのアライメントを確保することが可能である。
【0034】
複合材料用のファイバとプラスチック材料は、従来の金属コンポーネントより軽いコンポーネントになるように、選択することも可能である。軽い駆動シャフトでポンプを駆動すると、必要なパワーが少なくなるので、重量が軽くなるので駆動効率にとって有利である。さらに、自動車用装置の場合、利点がほんのわずかであっても、軽量化は望ましい。
【0035】
既述のように、装置100にとって特に有効な用途は自動車への装備である。この理由の1つは、自動車用途の場合、貯蔵容器のサイズが制約される可能性があり、容器が小さくなると、極低温空間への熱洩れが、より大きい容器への同量の熱洩れより深刻になる可能性があるということである。図3は、燃料としてエンジンに供給される液化燃料ガスを車内に貯蔵する自動車用燃料供給装置300の概略図である。装置100は、図1の装置と同じであり、液化燃料ガスは、吐き出し導管152を介してポンプから吐き出される。液化ガスは、気化器310によって気化され、導管312を介して高圧の気相で流れる。自動車用燃料供給装置300では、導管322を介して導管312と流体が通じている蓄積タンク320が用いられている。蓄積タンク320は、エンジンに、気相の燃料が十分な圧力で十分に供給されることを保証するための圧力容器である。燃料調整モジュール330には、導管332を介して燃料噴射弁340に送られる気体燃料の圧力を制御するための圧力調整装置が含まれている。自動車用燃料供給装置300は、気体燃料を消費する任意の自動車に用いることが可能であるが、装置100は、とりわけ、20MPaを超える圧力でガスを供給するのに効率が良く、有用であり、従って、自動車用燃料供給装置300に特に適した用途は、いわゆる、気体燃料が燃焼室内に直接噴射される直噴エンジンである。
【0036】
示されていない他の実施形態では、ポンプが、単動ピストン・ポンプ、別のタイプの容積式ポンプ、または、遠心力ポンプのような回転シャフトを利用するポンプでもよい。開示の駆動シャフト及び/または構造的構成によって、本構成と同じ利点を得ることが可能であり、駆動シャフトが往復動使用するか、回転するかは重要ではない。
【0037】
本発明の特定の要素、実施形態、用途について示し、解説してきたが、もちろん、当該技術者であれば、とりわけ、以上の教示に鑑みて、本開示の範囲から逸脱することなく修正を施すことができるので、本発明はそれらに制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ポンプが極低温空間内に配置された、液化ガス用貯蔵タンクの概略図である。
【図2】ポンプ及び駆動シャフトの一方の端部の拡大図である。
【図2A−2B】ポンプを支持し、駆動装置に対して固定状態に保持するための構造的構成の2つの実施形態を例示した、図2の切断線Aで見た駆動シャフトの縦軸に沿った横断面図である。
【図3】とりわけ、本発明の方法及び装置に適した用途である、内燃機関用燃料供給装置の概略図である。
【符号の説明】
【0039】
100 装置、102 外壁、103 真空空間、104 内壁、104A 外側スリーブ、102A 内側スリーブ、106 極低温空間、110 ポンプ・アセンブリ、120 複動式往復ピストン・ポンプ、122 シリンダ、124 ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温液体を保持し、取り出すための装置であって、
(a)前記極低温液体を保持するための極低温空間を区画する二重壁真空断熱容器と、
(b)前記極低温空間内に配置された吸込み口を備えるポンプを有し、かつ、前記ポンプから前記極低温空間外に配置された駆動装置まで延びる少なくとも1つの細長い部材を含んでおり、前記細長い部材が、同じ長さの構造的に同等の細長いステンレス鋼部材より低い熱伝導率を有する細長い非金属部分を具備する、ポンプ・アセンブリと、
(c)前記極低温空間内に配置され、前記ポンプ・アセンブリの吐き出し口に接続された一方の端部と、前記極低温空間外のもう一方の端部とを含む導管と
が含まれている装置。
【請求項2】
前記装置が、自動車に搭載可能であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記二重壁断熱容器が自動車に搭載可能な燃料タンクであり、前記極低温液体が前記自動車のエンジンに燃料として供給可能な液化燃料ガスであることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記細長い非金属部分の熱伝導率が100ケルビン度において3W/m*K以下であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記細長い部材が、一方の端部が前記ポンプに作動可能に接続され、もう一方の端部が前記駆動装置に作動可能に接続された駆動シャフトであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の装置。
【請求項6】
前記細長い非金属部分が中空であることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記駆動シャフトに、少なくとも2つの金属軸受面が含まれており、前記細長い非金属部分が前記2つ金属軸受面の間に延びていることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項8】
前記細長い非金属部分の横断面積が、前記金属軸受面における横断面積より小さいことを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記細長い非金属部分が、段付き合わせ面によって前記金属軸受面に結合されていることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項10】
少なくとも1つのピンを用いて、前記細長い非金属部分が前記金属軸受面のそれぞれに接続されていることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項11】
前記金属軸受面がステンレス鋼であることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項12】
前記細長い部材が、前記ポンプを支持するための剛性構造支持体となる中空本体であることと、駆動シャフトが、前記中空本体の軸に沿って、前記駆動装置から前記ポンプまで延びることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の装置。
【請求項13】
前記中空本体の前記細長い非金属部分が、前記駆動装置から前記ポンプまでの全距離にわたって延びることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記細長い非金属部分が、プラスチック母材内に配置されたファイバを含む複合材料製であることを特徴とする請求項5項と第12項の一方に記載の装置。
【請求項15】
前記ファイバが、ガラス、炭素、樹脂製の合成繊維、石英から構成されるグループから選択されることを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記プラスチック母材にエポキシ樹脂が含まれることを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項17】
前記プラスチック母材にビスマレイミドが含まれることを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項18】
前記プラスチック母材に、ポリエーテルエーテルケトン及びポリフェニレン・サルファイドから構成されるグループから選択された熱可塑性樹脂が含まれることを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項19】
前記ポンプが、往復ピストン・ポンプであることを特徴とする請求項5または12に記載の装置。
【請求項20】
前記吸込み口に、ピストン・シリンダの遠位端を被う端板に関連した一方向入り口弁と、前記遠位端の反対側の前記ポンプの近位端に関連した吐き出し口が含まれることを特徴とする請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記ポンプが、
シリンダ内で往復動可能であり、前記駆動シャフトに作動可能に接続されたピストンと、
前記ピストンと前記遠位端を被う前記端板との間の空間によって形成される第1の動作チャンバと、
前記ピストンと端板との間で、前記駆動シャフトが通る環状空間によって形成される第2の動作チャンバと、
前記第1の動作チャンバから前記第2の動作チャンバへの流体流を可能にするため、流体通路内に配置された一方向通過弁が含まれている、
複動二段ポンプであることを特徴とする請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記一方向通過弁が前記ピストン内に取り付けられることを特徴とする請求項21に記載の装置。
【請求項23】
前記第1の動作チャンバの行程容積が前記第2の動作チャンバの約2倍であることを特徴とする請求項21に記載の装置。
【請求項24】
ポンプが配置されている、容器内の極低温空間内に、液化ガスを保持するホールドタイムを延ばす方法であって、
(a)前記容器を真空断熱するステップと、
(b)同じ長さで構造的に同等の細長いステンレス鋼部材より熱伝導率が低い細長い非金属部分を含む細長い部材を用いて、容器外部の駆動装置に前記ポンプを接続することによって、前記極低温空間への熱漏れを低減させるように前記ポンプを断熱するステップと、
を含む方法。
【請求項25】
前記非金属構造部材が、プラスチック母材内にファイバを配置することによって製造された複合材であることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ファイバが、ガラス、炭素、樹脂製合成繊維、石英から構成されるグループから選択されることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記プラスチック母材にエポキシ樹脂が含まれることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記プラスチック母材にビスマレイミドが含まれることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記プラスチック母材に、ポリエーテルエーテルケトン及びポリフェニレン・サルファイドから構成されるグループから選択された熱可塑性樹脂が含まれることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記ポンプが往復ピストン・ポンプであることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項31】
前記細長い部材が駆動シャフトであることを特徴とする請求項24ないし30のいずれか1つに記載の方法。
【請求項32】
さらに、前記駆動シャフトを支持するための平滑な軸受面を構成する金属部材に前記細長い非金属部分の各端部を接合するステップが含まれることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項33】
さらに、前記金属部材をステンレス鋼で製造することを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記細長い部材が前記ポンプの剛性構造支持体であることを特徴とする請求項24ないし30のいずれか1つに記載の方法。
【請求項35】
前記細長い非金属部分の熱伝導率が100ケルビン度において3W/m*K以下であることを特徴とする請求項24ないし30のいずれか1つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−518026(P2007−518026A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545860(P2006−545860)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【国際出願番号】PCT/CA2004/002166
【国際公開番号】WO2005/061952
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(507001874)ウエストポート・パワー・インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】