説明

熱伝導シート、熱伝導シートの製造方法及び熱伝導シートを用いた放熱装置

【課題】高い熱伝導性及び高い柔軟性を保ちつつ、高い膜強度及び高い圧縮復元性を有する熱伝導シート、この熱伝導シートを生産性、コスト面及びエネルギー効率の点で有利に、且つ確実に得られる製造方法、及び高い放熱能力を持つ放熱装置を提供する。
【解決手段】0.1〜1mmol/gのカルボキシル基を有する有機高分子化合物(A)と、エポキシ当量が400以下であり、且つ1分子中の末端エポキシ基が2〜5個である硬化剤(B)と、の反応物と、
鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(C)と、を含有する組成物を含む熱伝導シートであって、前記黒鉛粒子(C)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が、熱伝導シート内部で、この熱伝導シートの厚み方向に配向している熱伝導シートとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シート、熱伝導シートの製造方法及び熱伝導シートを用いた放熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多層配線板や半導体パッケージに対する配線の高密度化や、電子部品の搭載密度の増大により、また、半導体素子自身も高集積化して単位面積あたりの発熱量が大きくなったため、半導体パッケージからの放熱性を良くすることが望まれるようになっている。
【0003】
一般的に使用されている放熱装置は、半導体パッケージのような発熱体とアルミニウムや銅などの放熱体との間に、熱伝導シート又は熱伝導グリースを挟んで密着させることによって放熱する仕組みであるが、熱伝導シートの方が放熱装置を組み立てる際の作業性に優れている。放熱性を良くするためには、熱伝導シートに高い熱伝導性及び被着体に密着できる柔軟性が求められるが、従来の熱伝導シートの熱伝導性及び柔軟性は必ずしも充分とは言えなかった。
【0004】
そのため、熱伝導シートの熱伝導性を向上させる目的で、ある一方向に熱伝導性の大きな黒鉛粉末をマトリックス材料中に配合した、様々な熱伝導性複合材料組成物及びその成形加工品が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、黒鉛を充填した熱可塑性樹脂成形品が、特許文献2には、黒鉛やカーボンブラックを含有するポリエステル樹脂組成物が開示されている。
また、特許文献3には、粒径が1〜20μmの人造黒鉛を配合したゴム組成物が、特許文献4には、結晶面間隔が0.33〜0.34nmの球状黒鉛を充填したシリコーンゴム組成物が開示されている。
【0006】
更に、特許文献5には、切断方向に対して垂直な方向に炭素繊維を配向させたゲル状物質及びその形状を保持するための弾性体を含有する成形体が、特許文献6には、厚み方向に黒鉛化炭素繊維等の熱伝導性繊維を傾斜配向させた高分子組成物を含有するシートが開示されている。
【0007】
一方、熱伝導シートには、前述のように高い熱伝導性及び被着体に密着できる柔軟性はもちろん、それに加えて、半導体パッケージの小型化に伴う薄膜化、また、被着面間のギャップ変動への追従性のニーズも生じてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−131033号公報
【特許文献2】特開平04−246456号公報
【特許文献3】特開平05−247268号公報
【特許文献4】特開平10−298433号公報
【特許文献5】特開2001−250894号公報
【特許文献6】特開2002−088171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、高い熱伝導性及び被着体に密着できる柔軟性に加えて、薄膜化に対応できる強度、及び、被着面間のギャップ変動に対応できる圧縮復元性を兼ね備えた熱伝導シートは、未だ得られていない。
【0010】
本発明は、高い熱伝導性及び高い柔軟性を保ちつつ、高い膜強度及び高い圧縮復元性を有する熱伝導シート、この熱伝導シートを生産性、コスト面及びエネルギー効率の点で有利に、且つ確実に得られる製造方法、及び高い放熱能力を持つ、この熱伝導シートを用いた放熱装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、黒鉛粒子を熱伝導シートの厚み方向に配向させることによって高い熱伝導性を有し、マトリックス材料として特定の有機高分子化合物を用いることによって高い柔軟性を有し、且つ特定の硬化剤を用いて有機高分子化合物を架橋させることにより、膜強度及び圧縮復元性が向上することを見出した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0012】
(1)0.1〜1mmol/gのカルボキシル基を有する有機高分子化合物(A)と、エポキシ当量が400以下であり、且つ1分子中の末端エポキシ基が2〜5個である硬化剤(B)と、の反応物と、
鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(C)と、を含有する組成物を含む熱伝導シートであって、前記黒鉛粒子(C)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が、熱伝導シート内部で、この熱伝導シートの厚み方向に配向している熱伝導シート。
(2)前記有機高分子化合物(A)の重量平均分子量が、250000〜1000000である上記(1)に記載の熱伝導シート。
【0013】
(3)前記有機高分子化合物(A)のガラス転移温度(Tg)が、−20℃以下である上記(1)又は(2)に記載の熱伝導シート。
(4)前記有機高分子化合物(A)が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物である上記(1)乃至(3)のいずれか一つに記載の熱伝導シート。
【0014】
(5)前記有機高分子化合物(A)の含有量が、組成物全体積の、25〜50体積%である上記(1)乃至(4)のいずれか一つに記載の熱伝導シート。
【0015】
(6)前記硬化剤(B)の含有量が、前記有機高分子化合物(A)におけるカルボキシル基の量に対して、0.2〜2当量である上記(1)乃至(5)のいずれか一つに記載の熱伝導シート。
【0016】
(7)熱伝導シート表面での前記黒鉛粒子(C)の配向方向への引張強度が、20〜30℃の温度範囲内で0.1MPa以上であり、且つ熱伝導シート表面でのアスカーC硬度が80以下である上記(1)乃至(6)のいずれか一つに記載の熱伝導シート。
(8)下記の工程により製造される熱伝導シートの製造方法。
(ア)0.1〜1mmol/gのカルボキシル基を有する有機高分子化合物(A)と、エポキシ当量が400以下であり、且つ1分子中の末端エポキシ基が2〜5個である硬化剤(B)と、の反応物と、
鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(C)とを、80〜100℃で15〜45分混練し、組成物を得る工程、
(イ)前記組成物を5〜10MPaの圧力で押し付け、主たる面に関して平行な方向に前記黒鉛粒子(C)が配向した1次シートを得る工程、
(ウ)前記1次シートを積層し、積層方向に0.1〜0.5MPaの圧力で押し付けながら、120〜170℃で、2〜8時間加熱し、成形体を得る工程、
(エ)前記成形体を、積層方向とは垂直な方向に0.1〜0.5MPaの圧力で押し付けながら、1次シートの積層面から出る法線に対し0〜30度の角度で、−20〜20℃の温度範囲でスライスする工程。
【0017】
(9)下記の工程により製造される熱伝導シートの製造方法。
(ア)0.1〜1mmol/gのカルボキシル基を有する有機高分子化合物(A)と、エポキシ当量が400以下であり、且つ1分子中の末端エポキシ基が2〜5個である硬化剤(B)と、の反応物と、
鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(C)とを、80〜100℃で15〜45分混練し、組成物を得る工程、
(イ)前記組成物を、5〜10MPaの圧力で押し付け、主たる面に関して平行な方向に前記黒鉛粒子(C)が配向した1次シートを得る工程、
(ウ)前記1次シートを、前記黒鉛粒子の配向方向を軸にして0.1〜0.5MPaの圧力で押し付けながら捲回して、120〜170℃で、2〜8時間加熱し、多層構造を有する成形体を形成する工程、
(エ)前記成形体を、積層方向とは垂直な方向に0.1〜0.5MPaの圧力で押し付けながら、1次シートの積層面から出る法線に対し0〜30度の角度で、−20〜20℃の温度範囲でスライスする工程。
【0018】
(10)上記(1)乃至(7)のいずれか一つに記載の熱伝導シート、又は、上記(8)若しくは上記(9)に記載の製造方法により得られる熱伝導シートを、発熱体と放熱体の間に介在させてなる放熱装置。
【発明の効果】
【0019】
前記(1)記載の熱伝導シートは、高い熱伝導性及び高い柔軟性を有し、且つ有機高分子化合物(A)と硬化剤(B)が反応しているため、高い膜強度及び圧縮復元性をも有しているので、放熱用途に好適である。
また、前記(2)〜(7)に記載の熱伝導シートは、前記(1)記載の発明の効果に加えて、更に高い柔軟性、膜強度及び圧縮復元性を達成できる。
【0020】
また、前記(8)又は(9)記載の熱伝導シートの製造方法は、高い熱伝導性、柔軟性、膜強度及び圧縮復元性を併せ持つ熱伝導シートを、生産性、コスト面及びエネルギー効率の点で有利に、且つ確実に製造できる。
更に、前記(10)記載の放熱装置は、高い放熱能力を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の1実施例である、放熱装置の概略断面図を示す。
【図2】引張強度の測定に用いるシートの切り抜きを説明する図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0023】
<熱伝導シート>
本発明の熱伝導シートは、0.1〜1mmol/gのカルボキシル基を有する有機高分子化合物(A)と、エポキシ当量が400以下であり、且つ1分子中の末端エポキシ基が2〜5個である硬化剤(B)と、の反応物と、
鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(C)と、を含有する組成物を含む熱伝導シートであって、前記黒鉛粒子(C)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が、熱伝導シート内部で、この熱伝導シートの厚み方向に配向している。
以下、本発明の熱伝導シートに用いられる材料を説明する。
【0024】
(有機高分子化合物(A))
本発明に用いられる有機高分子化合物(A)は、化合物1g中に、0.1〜1mmol、好ましくは0.3〜0.8mmol、より好ましくは0.4〜0.7mmolのカルボキシル基を有する。カルボキシル基の量が、0.1mmol以上であると膜強度及び圧縮復元性に優れ、1mmol以下であると柔軟性に優れる。
【0025】
本発明に用いられる有機高分子化合物(A)は、重量平均分子量が250000〜1000000であることが好ましく、より好ましくは300000〜700000、更に好ましくは400000〜600000である。重量平均分子量が、250000以上であると膜強度に優れ、1000000以下であると柔軟性に優れる。
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
【0026】
本発明に用いられる有機高分子化合物(A)は、ガラス転移温度(Tg)が、−20℃以下であり、好ましくは−70〜−20℃、より好ましくは−50〜−30℃である。ガラス転移温度が、−20℃以下であると、柔軟性に優れる。
ガラス転移温度(Tg)は、動的粘弾性測定(引張)を行い、それによって導き出されるtanδよりTgを算出する。
【0027】
本発明に用いられる有機高分子化合物(A)としては、化合物1g中に0.1〜1mmolのカルボキシル基を有するものであれば特に制限はない。例えば、アクリル酸ブチル及びアクリル酸エチルのいずれか又は両方を主要原料成分とした、カルボキシル基含有ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(所謂アクリルゴム)、ポリジメチルシロキサン構造を主構造に有するカルボキシル基含有高分子化合物(所謂シリコーンゴム)、ポリイソプレン構造を主構造に有するカルボキシル基含有高分子化合物(所謂イソプレンゴム、天然ゴム)、クロロプレンを主要原料成分としたカルボキシル基含有高分子化合物(所謂クロロプレンゴム)及びポリブタジエン構造を主構造に有するカルボキシル基含有高分子化合物(所謂ブタジエンゴム)等、柔軟で、一般的に「ゴム」と総称される、カルボキシル基を有する有機高分子化合物が挙げられる。
【0028】
これらの中でも、アクリル酸ブチル及びアクリル酸エチルのいずれか又は両方、並びにアクリル酸を、主な原料成分としたカルボキシル基含有ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物が、高い柔軟性を得易く、化学的安定性及び加工性に優れ、粘着性をコントロールし易く、且つ比較的廉価であるために好ましい。
なお、カルボキシル基を有する有機高分子化合物のカルボキシル基は、アクリル酸由来となる。従って、カルボキシル基の量は、次式で求められる。
(樹脂1g中に含まれるアクリル酸の量[g])/(アクリル酸の分子量)
【0029】
本発明に用いられる有機高分子化合物(A)として、具体的には、ナガセケムテックス株式会社製のアクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸(商品名:HTR−280改2DR、カルボキシル基量:0.69mol/g、重量平均分子量:53万、ガラス転移温度:−39℃)やアクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリル酸共重合体(商品名:HTR−811A改7DR、カルボキシル基含有量:0.42mmol/g、重量平均分子量:55万、ガラス転移温度=−41℃)等が挙げられる。
【0030】
有機高分子化合物(A)の含有量は、組成物全体積の25〜50体積%、好ましくは25〜40体積%、より好ましくは25〜35体積%である。含有量が、25体積%以上であると柔軟性に優れ、50体積%以下であると熱伝導性に優れる。
尚、本明細書における有機高分子化合物(A)の含有量(体積%)は、次式により求めた値である。
【0031】
有機高分子化合物(A)の含有量(体積%)=(Aw/Ad)/((Aw/Ad)+(Bw/Bd)+(Cw/Cd)+(Dw/Dd)+…)×100
Aw:有機高分子化合物(A)の質量組成(質量%)
Bw:硬化剤(B)の質量組成(質量%)
Cw:黒鉛粒子(C)の質量組成(質量%)
Dw:その他の任意成分(D)の質量組成(質量%)
Ad:有機高分子化合物(A)の比重(本発明においてAdは1.2で計算する)
Bd:硬化剤(B)の比重(本発明においてBdは1.2で計算する)
Cd:黒鉛粒子(C)の比重
Dd:その他の任意成分(D)の比重
【0032】
(硬化剤(B))
本発明に用いられる硬化剤(B)は、エポキシ当量が400以下、好ましくは100〜300、より好ましくは100〜200であり、且つ1分子中の末端エポキシ基が2〜5個、好ましくは2〜4個、より好ましくは2〜3個のエポキシ基を有する。前記エポキシ当量が400以下であると柔軟性に優れ、また1分子中の末端エポキシ基が2個以上であると膜強度及び圧縮復元性に優れ、5個以下であると柔軟性に優れる。
【0033】
硬化剤(B)としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ、ビフェニル型エポキシ、スチルベン型エポキシ、及びナフタレン型エポキシ等が挙げられるが、エポキシ当量が400以下で且つ1分子中の末端エポキシ基が2〜5個であれば、特に制限はない。
【0034】
上記特性を有する硬化剤(B)としては、例えば、ビスフェノールF型エポキシ(商品名:YDF−170、東都化成株式会社製、2官能、エポキシ当量:156g/eq.)や(商品名:EX−211、ナガセケムテックス株式会社製、2官能、エポキシ当量:138g/eq.)等が入手可能である。
【0035】
硬化剤(B)の含有量は、有機高分子化合物(A)におけるカルボキシル基の量に対して、0.2〜2当量、好ましくは0.2〜1当量、より好ましくは0.5〜1当量である。含有量が、0.2当量以上であると膜強度及び圧縮復元性に優れ、2当量以下であると柔軟性に優れる。
【0036】
(黒鉛粒子(C))
本発明に用いられる黒鉛粒子(C)は、その形状が、鱗片状、楕球状又は棒状のものが用いられ、中でも熱伝導性に優れるため鱗片状が好ましい。黒鉛粒子(C)の結晶中の6員環面の配向方向は、鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向である。これは、X線回折測定によって確認することができる。
【0037】
黒鉛粒子(C)の結晶中の6員環面の配向方向は、具体的には以下の方法で確認する。
先ず、黒鉛粒子の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が、シート又はフィルムの面方向に対して実質的に平行に配向した測定用サンプルシートを作製する。測定用サンプルシート調製の具体的な方法としては、10体積%以上の黒鉛粒子と樹脂との混合物をシート化する。ここで用いる「樹脂」とは、有機高分子化合物(A)及び硬化剤(B)を含む樹脂を使用できるが、非晶質樹脂のようなX線回折の妨げになるピークが現れない材料、また、形状を作ることが可能である材料であれば、樹脂でなくても用いることができる。この混合物のシートが、元の厚みの1/10以下となるようにプレスし、プレスしたシートを積層し、この積層体を更に1/10以下まで押しつぶす操作を3回以上繰り返す。この操作により、調製した測定用サンプルシート中では、黒鉛粒子の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が、測定用サンプルシートの面方向に対し実質的に平行に配向した状態になる。
【0038】
上記のように調製した測定用サンプルシートの表面に対し、X線回折測定を行うと、2θ=77°付近に現れる黒鉛の(110)面に対応するピークの高さを、2θ=27°付近に現れる黒鉛の(002)面に対応するピークの高さで割った値が0〜0.02となる。
【0039】
このことより、本発明において、「結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している」とは、黒鉛粒子、及び有機高分子化合物等を含有した組成物をシート化したものの表面に対し、X線回折測定を行い、2θ=77°付近に現れる黒鉛の(110)面に対応するピークの高さを、2θ=27°付近に現れる黒鉛の(002)面に対応するピークの高さで割った値が0〜0.02となる状態をいう。
【0040】
本発明に用いられる黒鉛粒子(C)は、例えば、鱗片黒鉛粉末、人造黒鉛粉末、薄片化黒鉛粉末、酸処理黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末、及び炭素繊維フレーク等の鱗片状、楕球状又は棒状の黒鉛粒子を用いることができる。これらの中でも、有機高分子化合物(A)と混合した際に、鱗片状の黒鉛粒子になり易いもの、具体的には、鱗片黒鉛粉末、薄片化黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末の鱗片状黒鉛粒子が、配向させ易く、粒子間接触も保ち易く、且つ高い熱伝導性を得易いために好ましい。
【0041】
黒鉛粒子(C)の長径の平均値は、特に制限されないが、熱伝導性の観点から、好ましくは0.1〜5mm、より好ましくは0.2〜2mm、特に好ましくは0.5〜1mmである。また、黒鉛粒子(C)の長径の平均値は、熱伝導シートの厚みに対して1〜5倍が好ましく、更には2〜4倍がより好ましい。
【0042】
尚、本発明において「長径の平均値」とは、熱伝導シートの厚み方向における断面を、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から長径を測定し、平均値を求めた結果をいう。
【0043】
黒鉛粒子(C)の含有量は、特に制限されないが、好ましくは、組成物全体積の10〜50体積%、より好ましくは35〜45体積%である。含有量が、10体積%以上であると熱伝導性に優れ、50体積%以下であると柔軟性に優れる。
【0044】
(熱伝導シートの物性)
本発明の熱伝導シートは、熱伝導シート表面での前記黒鉛粒子(C)の配向方向への引張強度が、20〜30℃の温度範囲内で0.1MPa以上であり、且つ前記熱伝導シート表面でのアスカーC硬度が80以下である。
前記黒鉛粒子(C)の配向方向への引張強度が、20〜30℃の温度範囲内で0.1MPa以上であると、取り扱い性が向上し、実装時におけるシートが破れにくくなるため好ましい。
本発明の熱伝導シート表面でのアスカーC硬度が80以下であると、被着体との密着性が良く、熱伝導率が高くなるため好ましい。
【0045】
引張強度の測定は、下記の様にして行える。
熱伝導シートを、図2に示すように、1次シート面から出る法線に対して垂直な方向に5cm、1次シート面から出る法線に対して平行な方向に1cmとなるように切り抜き、引張試験機(R&A株式会社製、商品名:RTM−100型テンシロン)を用い、1次シート面から出る法線に対して垂直な方向が3cm幅になるよう、両末端から1cmの箇所をつまみ、20〜30℃で、1次シート面から出る法線に対して垂直な方向に、5mm/分の引張速度で引っ張り、熱伝導シートの破断強度(引張強度)を測定する。
前記黒鉛粒子(C)の配向方向への引張強度は、有機高分子化合物(A)中のカルボキシル基の量を増やす、又は、添加する硬化剤(B)の量を増やすことにより上昇する傾向があり、有機高分子化合物(A)中のカルボキシル基の量を減らす、又は、添加する硬化剤(B)の量を減らすことにより減少する傾向がある。
【0046】
本発明の熱伝導シート表面でのアスカーC硬度は、以下の様にして測定できる。
1次シートを積層又は黒鉛粒子の配向方向を軸にして捲回した後、加熱して得られた成形体を、20〜30℃に1時間放置した後、成形体のスライス面(熱伝導シートの表面)の硬度を、20〜30℃の温度下、アスカーC硬度計を用いて測定する。
アスカーC硬度は、有機高分子化合物(A)中のカルボキシル基の量を増やす、又は、添加する硬化剤(B)の量を増やすことにより上昇する傾向があり、有機高分子化合物(A)中のカルボキシル基の量を減らす、又は、添加する硬化剤(B)の量を減らすことにより減少する傾向がある。
【0047】
<熱伝導シートの製造方法>
本発明における熱伝導シートの製造方法は、特に制限はないが、例えば、下記のように作製することができる。
(ア)混練工程
先ず、化合物1g中に0.1〜1mmolのカルボキシル基を有する有機高分子化合物(A)と、エポキシ当量が400以下であり、且つ1分子中の末端エポキシ基が2〜5個である硬化剤(B)との反応物と、鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(C)とを、80〜100℃で15〜45分混練し、組成物を得る。
混練方法は特に制限されるものではないが、例えば、ニーダー混練機による混合方法、及びロール混練機による混合方法等が挙げられる。
【0048】
前記混練は、十分に混練され且つ有機高分子化合物(A)と硬化剤(B)がこの時点では反応しない条件で行うことが必要である。具体的には、有機高分子化合物(A)及び反応性官能基がエポキシ基である硬化剤(B)を用いる場合は、80〜85℃で15〜30分の条件で混練することが好ましい。
【0049】
(イ)1次シート作製工程
次いで、前記組成物を5〜10MPaの圧力で押し付け、主たる面に関してほぼ平行な方向に黒鉛粒子(C)が配向した1次シートを得る。
組成物を5〜10MPaの圧力で押し付けて作製された1次シートの厚みは、熱伝導性の観点から黒鉛粒子(C)の長径の平均値の1〜20倍が好ましい。1次シートの厚みは、押し付ける圧力により調整できる。
【0050】
前記組成物を、プレス成形、圧延成形、又は押し出し成形することにより、前記黒鉛粒子(C)を主たる面に関して平行な方向に配向した1次シートを作製するが、プレス成形又は圧延成形が、確実に黒鉛粒子(C)を配向させ易いので好ましい。
【0051】
黒鉛粒子(C)が1次シートの主たる面に対して平行方向に配向した状態とは、前記黒鉛粒子(C)が1次シートの主たる面に対して寝ているように配向した状態をいう。
【0052】
1次シート面内での前記黒鉛粒子(C)の向きは、組成物を成形する際に組成物の流れる方向を調整することによってコントロールされる。つまり、組成物をプレスする方向、組成物を圧延ロールに通す方向、又は組成物を押し出す方向を調整することで、前記黒鉛粒子(C)の向きがコントロールされる。
黒鉛粒子(C)は、基本的に異方性を有する粒子であるため、組成物をプレス成形、圧延成形、又は押し出し成形することにより、通常、前記黒鉛粒子(C)の向きは揃って配置される。
【0053】
また、1次シートを作製する際、有機高分子化合物(A)、硬化剤(B)及び黒鉛粒子(C)を含有する組成物の成形前の形状が塊状物である場合は、塊状物の厚み(d0)に対し、成形後の1次シートの厚み(dp)が、dp/d0<0.15になるようプレス成形、又は圧延成形するか、また、押し出し成形機の出口における1次シート断面形状に相当する形状調整によって、1次シートの横幅(W)に対し厚み(dp’)が、dp’/W<0.15となるように成形することが好ましい。dp/d0<0.15、又はdp’/W<0.15となるよう成形することにより、前記黒鉛粒子(C)が1次シートの主たる面に関して平行方向に配向させ易くなる。
【0054】
(ウ)成形体の作製工程
次いで、前記1次シートを積層し、積層方向に0.1〜0.5MPaの圧力で押し付けながら、120〜170℃で2〜8時間加熱し、成形体を得る。
1次シートを積層する方法については特に制限はなく、例えば、複数枚の1次シートを積層する方法、又は1次シートを折り畳む方法等が挙げられる。積層する際は、1次シート面内での黒鉛粒子(C)の向きを揃えて積層する。積層する際の1次シートの形状は、特に制限はなく、例えば、矩形状の1次シートを積層した場合は、角柱状の成形体が得られ、円形状の一次シートを積層した場合は、円柱状の成形体が得られる。
【0055】
また、前記1次シートを、前記黒鉛粒子の配向方向を軸にして、0.1〜0.5MPaの圧力で押し付けながら捲回して、120〜170℃で2〜8時間加熱し、成形体を得ても良い。120〜170℃で2〜8時間加熱することにより、有機高分子化合物(A)と硬化剤(B)が反応し、硬化する。
【0056】
1次シートを積層する際の圧力は、この後の工程における1次シート面から出る法線に対し、0〜30度の角度でスライスする都合上、スライス面がつぶれて所要面積を下回らない程度に弱く、且つシート間がうまく接着する程度に強くなるよう調整される。好ましくは、0.1〜0.5MPaの圧力範囲で接着する。
【0057】
加熱に関しては、前工程で反応させなかった前記有機高分子化合物(A)と硬化物(B)を、確実に反応させる条件であることが必要である。具体的には、150〜170℃で、6〜8時間の条件で加熱することが好ましい。
【0058】
(エ)スライス工程
次いで、前記成形体を積層方向とは垂直な方向に0.1〜0.5MPaの圧力で押し付けながら、1次シート面から出る法線に対し0〜30度の角度で、−20〜20℃の温度範囲でスライスし、熱伝導シートを得る。
【0059】
スライスする際の圧力及び角度は、熱伝導性の観点から積層方向とは垂直な方向に0.1〜0.5MPaの圧力及び1次シート面から出る法線に対し0〜30度の角度であることが好ましい。更に、円形状の1次シートを積層した円柱状の成形体の場合は、上記圧力及び角度の範囲内で、かつら剥きのようにスライスしても良い。
【0060】
スライスする方法は、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられるが、熱伝導シートの厚みの平行を保ちやすい点で、ナイフ加工法が好ましい。しかし、いずれにおいても、0.1〜0.5MPaの圧力をかけて押し付ける盤面を有する必要がある。
【0061】
スライスする際の切断具は特に制限はないが、スリットを有する平滑な盤面と、このスリット部より突出した刃部とを有するスライス部材であって、前記刃部が、熱伝導シートの所望の厚みに応じてスリット部からの突出長さが調節可能であるものを使用すると、得られる熱伝導シートの表面近傍の黒鉛粒子の配向を乱し難く且つ所望の厚みが薄い熱伝導シートも作製し易いので好ましい。
【0062】
具体的には、上記スライス部材は、鋭利な刃を備えたカンナ又はスライサーを用いることが好ましい。これらの刃は、熱伝導シートの所望の厚みに応じて前記スリット部からの突出長さを調節可能とすることで、容易に所望の厚みとすることが可能である。
スライスする際の成形体の温度範囲は、スライスのし易さの観点から、好ましくは−20〜20℃、より好ましく−10〜0℃である。
【0063】
熱伝導シートの厚さは、用途等によって適宜設定されるが、好ましくは0.1〜3mm、より好ましくは0.2〜1mmである。熱伝導シートの厚さが、0.1mm以上であるとシートとして取り扱い易く、3mm以下であると放熱効果に優れる。また、前記成形体のスライス幅が熱伝導シートの厚さとなり、スライス面が熱伝導シートにおける発熱体や放熱体との当接面となる。
【0064】
<放熱装置>
本発明での放熱装置は、本発明の熱伝導シート又は、本発明の熱伝導シートの製造方法により得られた熱伝導シートを、発熱体と放熱体の間に介在させて得られる。
【0065】
図1を用いてより具体的に説明すると、熱伝導シート1を、基板2に設置された発熱体としての半導体チップ3に対しその一方の面を密着させ、他方の面を放熱体としてのヒートスプレッダ4に密着させている。
図面に示すように、熱伝導シート1はシート1枚に対し、発熱体及び放熱体が各々1個である必要はなく、1対複数でも複数対複数でも良い。
【0066】
尚、前記ヒートスプレッダ4は、シール材5により基板2に固着され、熱伝導シート1と半導体チップ3及びヒートスプレッダ4との密着性を、押しつけることで向上させている。
【0067】
この際に用いられる発熱体としては、その表面温度が200℃を超えないものが好ましい。表面温度が200℃を超える可能性が高いもの、例えば、ジェットエンジンのノズル近傍、窯陶釜内部周辺、溶鉱炉内部周辺、原子炉内部周辺、及び宇宙船外殻等に使用すると、本発明になる熱伝導シート又は、本発明の製造方法により得られた熱伝導シート中の有機高分子化合物が、分解してしまう可能性が高いので適さない。本発明の熱伝導シート又は、本発明の熱伝導シートの製造方法により製造された熱伝導シートが、特に好適に使用できる温度範囲は、−10〜120℃であり、半導体パッケージ、ディスプレイ、LED、及び電灯等が、好適な発熱体の例として挙げられる。
【0068】
一方、放熱体としては、例えば、アルミニウム又は銅のフィン、板等を利用したヒートシンク、ヒートパイプに接続されているアルミニウム又は銅のブロック、内部に冷却液体をポンプで循環させているアルミニウム又は銅のブロック、ペルチェ素子、及びこれを備えたアルミニウム又は銅のブロック等が使用できる代表的なものである。
【0069】
本発明の放熱装置は、発熱体と放熱体に、本発明の熱伝導シート又は、本発明の熱伝導シートの製造方法により得られた熱伝導シートの、各々の面を接触させることで成立する。発熱体、熱伝導シート及び放熱体を充分に密着させた状態で、固定できる方法であれば、接触させる方法に特に制限はないが、密着を持続させる観点から、ばねを介してねじ止めする方法、又はクリップで挟む方法等のように、押し付ける力が持続する接触方法が好ましい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。尚、各実施例において、引張強度、タック強度、圧縮復元率、及び熱伝導率は、以下の方法により求めた。
【0071】
(引張強度の測定)
熱伝導シートを、1次シート面から出る法線に対して垂直な方向に5cm、1次シート面から出る法線に対して平行な方向に1cmとなるように切り抜き、引張試験機(R&A株式会社製、商品名:RTM−100型テンシロン)を用い、1次シート面から出る法線に対して垂直な方向が3cm幅になるよう、両末端から1cmの箇所をつまみ、20〜30℃で、1次シート面から出る法線に対して垂直な方向に、5mm/分の引張速度で引っ張り、熱伝導シートの破断強度(引張強度)を測定した。
【0072】
(アスカーC硬度の測定)
1次シートを積層又は黒鉛粒子の配向方向を軸にして捲回した後、加熱して得られた成形体を、20〜30℃環境に1時間放置した後、成形体のスライス面の硬度を、アスカーC硬度計を用いて測定した。
【0073】
(圧縮復元率の測定)
圧縮試験機(株式会社島津製作所製、商品名:AUTOGRAPH)を用い、20〜30℃で、熱伝導シート表面を、1MPaの圧力で押し付けた際の熱伝導シートの厚さ:d1(mm)を測定し、次いで、圧力を解放した際の熱伝導シートの厚さ:d2(mm)を測定し、測定前の熱伝導シートの厚さ:d(mm)から、圧縮復元率:R(%)を次式により算出した。
R=(d2−d1/d−d1)×100
【0074】
(熱伝導率の測定)
熱伝導シートを、1cm角に切り抜き、発熱体であるトランジスタ(2SC2233)と放熱体であるアルミニウムブロックとの間に挟み、トランジスタを1MPaの圧力で押し付けながら電流を通じた際のトランジスタの温度:T1(℃)及びアルミニウムブロックの温度:T2(℃)を測定し、測定値と印加電力:W1(W)から、次式により熱抵抗値:X(K/W)を算出した。
X=(T1−T2)/W1
上記の式の熱抵抗値:X(K/W)と、熱伝導シートの厚さ:d(μm)、及び熱伝導率既知試料による補正係数:Cから、次式により熱伝導率:Tc(W/mK)を見積もった。
Tc=C×d/X
【0075】
(実施例1)
有機高分子化合物(A)としてカルボキシル基含有アクリル酸エステル共重合樹脂(アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体、ナガセケムテックス株式会社製、商品名:HTR−280改2DR、カルボキシル基含有量:0.69mmol/g、重量平均分子量:53万、Tg=−39℃)931g、硬化剤(B)としてビスフェノールF型エポキシ(東都化成株式会社製、商品名:YDF−170、2官能、エポキシ当量:156g/eq.)101g、黒鉛粒子(C)として鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成工業株式会社製、長径の平均値:500〜1000μm)2220g、及び難燃剤として芳香族縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製、商品名:CR−741)871gを、100℃で30分、ニーダー混練機(株式会社モリヤマ製、DS3−SGHM−E型加圧双腕型ニーダー)で混練し、組成物を得た。
【0076】
組成物全体積に対する各成分の配合比を、各成分の比重から計算したところ、有機高分子化合物(A)が29.3体積%、硬化剤(B)が3.2体積%、黒鉛粒子(C)が40体積%、及び難燃剤が27.5体積%であった。また、硬化剤(B)の含有量は、有機高分子化合物(A)中のカルボキシル基の量に対して、1当量であった。
【0077】
得られた組成物を0.5g程度の塊に千切りし、20mlの酢酸エチルに溶かし、組成物中の有機高分子化合物(A)が、酢酸エチル内に溶け出しているのを目視で確認し、組成物中の有機高分子化合物(A)と硬化剤(B)が、未反応であることを確認した。
【0078】
得られた組成物を50g程度の塊に千切ったものを、押し出し成形機(株式会社パーカー製、商品名:HKS40−15型押し出し機)及びロール成形機(日立機械エンジニアリング株式会社製、商品名:V2S−SR型シーティング熱ロール機)を用い、厚さ2mm状の1次シートを得た。
【0079】
得られた1次シートを、5cm角にカッターで切り出し、切り出したシートを150枚積層し、積層方向に0.3MPaの圧力をかけながら、170℃で、3時間加熱し、厚さ30cmの成形体を得た。
得られた成形体の一部から0.5g程度の塊を千切り取り、20mlの酢酸エチルに溶かし、成形体中の有機高分子化合物(A)が、酢酸エチル内に溶け出していないのを目視で確認し、成形体中の有機高分子化合物(A)と硬化剤(B)が、反応していることを確認した。
【0080】
次いで、この成形体をドライアイスで−10℃に冷却した後、5cm×30cmの積層断面を、0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名:超仕上げかんな盤スーパーメカ、スリット部からの刀部の突出長さ:0.11mm)を用いてスライス(1次シート面から出る法線に対して0度、即ち、黒鉛粒子(C)の配向方向に対して90度の角度でスライス)し、縦5cm×横30cm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(I)を得た。
【0081】
この熱伝導シート(I)の物性値を求めたところ、引張強度は0.5MPa、アスカーC硬度は80、圧縮復元率は90%、及び熱伝導率は30W/mKと良好な値を示した。
【0082】
この熱伝導シート(I)を、2cm角に切り抜き、4cm角の銅板に挟み、0.6MPaの圧力をかけながら、170℃で、3時間加熱して圧着し、20〜30℃の場所に1日放置した後に、熱伝導シートと銅板とを剥がすと、熱伝導シートの一部が銅板に付着残存することなく剥がすことが可能であった。
【0083】
(実施例2)
有機高分子化合物(A)としてカルボキシル基含有アクリル酸エステル共重合樹脂(アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリル酸共重合体、ナガセケムテックス株式会社製、商品名:HTR−811A改7DR、カルボキシル基含有量:0.42mmol/g、重量平均分子量:55万、Tg=−41℃)966g、硬化剤(B)としてビスフェノールF型エポキシ(東都化成株式会社製、商品名:YDF−170、2官能、エポキシ当量:156g/eq.)63g、黒鉛粒子(C)として鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成工業株式会社製、長径の平均値:500〜1000μm)2220g、及び難燃剤として芳香族縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製、商品名:CR−741)871gを、100℃で30分、ニーダー混練機(株式会社モリヤマ製、DS3−SGHM−E型加圧双腕型ニーダー)で混練し、組成物を得た。
【0084】
組成物全体積に対する各成分の配合比を、各成分の比重から計算したところ、有機高分子化合物(A)が30.5体積%、硬化剤(B)が2体積%、黒鉛粒子(C)が40体積%、及び難燃剤が27.5体積%であった。また、硬化剤(B)の含有量は、有機高分子化合物(A)中のカルボキシル基の量に対して、1当量であった。
得られた組成物を0.5g程度の塊に千切りし、20mlの酢酸エチルに溶かし、組成物中の有機高分子化合物(A)が、酢酸エチル内に溶け出しているのを目視で確認し、組成物中の有機高分子化合物(A)と硬化剤(B)が、未反応であることを確認した。
以下、実施例1と同様に操作し、縦5cm×横30cm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(II)を得た。
なお、実施例1と同様にして得られた成形体の一部から0.5g程度の塊を千切り取り、20mlの酢酸エチルに溶かし、成形体中の有機高分子化合物(A)が、酢酸エチル内に溶け出していないのを目視で確認し、成形体中の有機高分子化合物(A)と硬化剤(B)が、反応していることを確認した。
【0085】
この熱伝導シート(II)の物性値を求めたところ、引張強度は0.4MPa、アスカーC硬度は75、圧縮復元率は90%、及び熱伝導率は30W/mKと良好な値を示した。
実施例1と同様に操作し、この熱伝導シート(II)と銅板とを剥がすと、熱伝導シートの一部が銅板に付着残存することなく剥がすことが可能であった。
【0086】
(実施例3)
有機高分子化合物(A)としてカルボキシル基含有アクリル酸エステル共重合樹脂(アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体、ナガセケムテックス株式会社製、商品名:HTR−280改2DR、カルボキシル基含有量:0.69mmol/g、重量平均分子量:53万、Tg=−39℃)940g、硬化剤(B)としてビスフェノールF型エポキシ(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:EX−211、2官能、エポキシ当量:138g/eq.)89g、黒鉛粒子(C)として鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成工業株式会社製、長径の平均値:500〜1000μm)2220g、及び難燃剤として芳香族縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製、商品名:CR−741)871gを、100℃で30分、ニーダー混練機(株式会社モリヤマ製、DS3−SGHM−E型加圧双腕型ニーダー)で混練し、組成物を得た。
【0087】
組成物全体積に対する各成分の配合比を、各成分の比重から計算したところ、有機高分子化合物(A)が29.7体積%、硬化剤(B)が2.8体積%、黒鉛粒子(C)が40体積%、及び難燃剤が27.5体積%であった。また、硬化剤(B)の含有量は、有機高分子化合物(A)中のカルボキシル基の量に対して、1当量であった。
得られた組成物を0.5g程度の塊に千切りし、20mlの酢酸エチルに溶かし、組成物中の有機高分子化合物(A)が、酢酸エチル内に溶け出しているのを目視で確認し、組成物中の有機高分子化合物(A)と硬化剤(B)が、未反応であることを確認した。
以下、実施例1と同様に操作し、縦5cm×横30cm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(III)を得た。
なお、実施例1と同様にして得られた成形体の一部から0.5g程度の塊を千切り取り、20mlの酢酸エチルに溶かし、成形体中の有機高分子化合物(A)が、酢酸エチル内に溶け出していないのを目視で確認し、成形体中の有機高分子化合物(A)と硬化剤(B)が、反応していることを確認した。
【0088】
この熱伝導シート(III)の物性値を求めたところ、引張強度は0.3MPa、アスカーC硬度は70、圧縮復元率は85%、及び熱伝導率は30W/mKと良好な値を示した。
実施例1と同様に操作し、この熱伝導シート(III)と銅板とを剥がすと、熱伝導シートの一部が銅板に付着残存することなく剥がすことが可能であった。
【0089】
(比較例1)
有機高分子化合物(A)としてカルボキシル基含有アクリル酸エステル共重合樹脂(アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体、ナガセケムテックス株式会社製、商品名:HTR−280改2DR、カルボキシル基含有量:0.69mmol/g、重量平均分子量:53万、Tg=−39℃)の代わりに、カルボキシル基を含まないアクリル酸エステル共重合樹脂(アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/2−ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体、ナガセケムテックス株式会社製、商品名:HTR−811DR、重量平均分子量:42万、Tg=−43℃)を用いたこと以外は実施例1と同様にし、縦5cm×横30cm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(IV)を得た。
【0090】
組成物全体積に対する各成分の配合比を、各成分の比重から計算したところ、有機高分子化合物(A):30.6体積%、硬化剤(B):1.9体積%、黒鉛粒子(C):40体積%、及び難燃剤:27.5体積%であった。
以下、実施例1と同様に操作し、縦5cm×横30cm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(IV)を得た。
なお、実施例1と同様にして得られた成形体の一部から0.5g程度の塊を千切り取り、20mlの酢酸エチルに溶かし、成形体中の有機高分子化合物(A)が、酢酸エチル内に溶け出しているのを目視で確認し、成形体中の有機高分子化合物(A)と硬化剤(B)が、未反応であることを確認した。
【0091】
この熱伝導シート(IV)の物性値を求めたところ、アスカーC硬度は55、熱伝導率は20W/mKと良好な値を示したが、引張強度は0.04MPa、圧縮復元率は10%と低い値を示した。
実施例1と同様に操作し、この熱伝導シート(IV)と銅板とを剥がすと、非常に剥がれにくく、熱伝導シートの一部が銅板に付着残存した。
【0092】
(比較例2)
有機高分子化合物(A)としてカルボキシル基含有アクリル酸エステル共重合樹脂(アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体、ナガセケムテックス株式会社製、商品名:HTR−280改2DR、カルボキシル基含有量:0.69mmol/g、重量平均分子量:53万、Tg=−39℃)の代わりに、カルボキシル基含有アクリル酸エステル共重合樹脂(アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体、ナガセケムテックス株式会社製、商品名:HTR−280DR、カルボキシル基含有量:1.1mmol/g、重量平均分子量:90万、Tg=−37℃)を用いたこと以外は実施例1と同様にし、縦5cm×横30cm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(V)を得た。
【0093】
組成物全体積に対する各成分の配合比を、各成分の比重から計算したところ、有機高分子化合物(A):32.5体積%、黒鉛粒子(C):40体積%、及び難燃剤:27.5体積%であった。
以下、実施例1と同様に操作し、縦5cm×横30cm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(V)を得た。
なお、実施例1と同様にして得られた成形体の一部から0.5g程度の塊を千切り取り、20mlの酢酸エチルに溶かし、成形体中の有機高分子化合物(A)が、酢酸エチル内に溶け出していないのを目視で確認し、成形体中の有機高分子化合物(A)と硬化剤(B)が、反応していることを確認した。
【0094】
この熱伝導シート(V)の物性値を求めたところ、引張強度は0.7MPa、圧縮復元率は95%、熱伝導率は20W/mKと良好な値を示したが、アスカーC硬度は90と高すぎる値を示した。
実施例1と同様に操作し、この熱伝導シート(V)と銅板とを剥がすと、非常に剥がれにくく、熱伝導シートの一部が銅板に付着残存した。
【0095】
(比較例3)
硬化剤(B)としてビスフェノールF型エポキシ(東都化成株式会社製、商品名:YDF−170、2官能、エポキシ当量:156g/eq.)の代わりに、ビスフェノールA型エポキシ(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名:エピコート1001、2官能、エポキシ当量:474g/eq.)を用いたこと以外は実施例1と同様にし、縦5cm×横30cm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(VI)を得た。
なお、実施例1と同様にして得られた成形体の一部から0.5g程度の塊を千切り取り、20mlの酢酸エチルに溶かし、成形体中の有機高分子化合物(A)が、酢酸エチル内に溶け出していないのを目視で確認し、成形体中の有機高分子化合物(A)と硬化剤(B)が、反応していることを確認した。
【0096】
この熱伝導シート(VI)の物性値を求めたところ、引張強度は0.6MPa、圧縮復元率は90%、熱伝導率は20W/mKと良好な値を示したが、アスカーC硬度は95と高すぎる値を示した。
【0097】
(比較例4)
硬化剤(B)としてビスフェノールF型エポキシ(東都化成株式会社製、商品名:YDF−170、2官能、エポキシ当量:156g/eq.)の代わりに、フェノールノボラック型エポキシ(DIC株式会社製、商品名:N−770、6官能、エポキシ当量:186g/eq.)を用いたこと以外は実施例1と同様にし、縦5cm×横30cm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(VII)を得た。
なお、実施例1と同様にして得られた成形体の一部から0.5g程度の塊を千切り取り、20mlの酢酸エチルに溶かし、成形体中の有機高分子化合物(A)が、酢酸エチル内に溶け出していないのを目視で確認し、成形体中の有機高分子化合物(A)と硬化剤(B)が、反応していることを確認した。
【0098】
この熱伝導シート(VII)の物性値を求めたところ、引張強度は0.6MPa、圧縮復元率は80%、熱伝導率は20W/mKと良好な値を示したが、アスカーC硬度は90と高すぎる値を示した。
【0099】
(比較例5)
黒鉛粒子(C)として鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成工業株式会社製、平均粒子径:500〜1000μm)の代わりに、球状の天然黒鉛粉末(平均粒子径:20μm)を用いたこと以外は実施例1と同様にし、縦5cm×横30cm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(VIII)を得た。
なお、実施例1と同様にして得られた成形体の一部から0.5g程度の塊を千切り取り、20mlの酢酸エチルに溶かし、成形体中の有機高分子化合物(A)が、酢酸エチル内に溶け出していないのを目視で確認し、成形体中の有機高分子化合物(A)と硬化剤(B)が、反応していることを確認した。
【0100】
この熱伝導シート(VIII)の物性値を求めたところ、引張強度は0.3MPa、アスカーC硬度は80、圧縮復元率は90%と良好な値を示したが、熱伝導率は2W/mKと低い値を示した。
【0101】
この熱伝導シート(VIII)の厚み方向の断面を、蛍光顕微鏡を用いて観察したが、黒鉛粒子(C)の長軸方向における熱伝導シート表面に対する角度が明確でないため、割り出し難く、熱伝導シートの厚み方向への配向が認められなかった。
【符号の説明】
【0102】
1 熱伝導シート
2 基板
3 半導体チップ
4 ヒートスプレッダ
5 シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1〜1mmol/gのカルボキシル基を有する有機高分子化合物(A)と、エポキシ当量が400以下であり、且つ1分子中の末端エポキシ基が2〜5個である硬化剤(B)と、の反応物と、
鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(C)と、を含有する組成物を含む熱伝導シートであって、前記黒鉛粒子(C)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が、熱伝導シート内部で、この熱伝導シートの厚み方向に配向している熱伝導シート。
【請求項2】
前記有機高分子化合物(A)の重量平均分子量が、250000〜1000000である請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記有機高分子化合物(A)のガラス転移温度(Tg)が、−20℃以下である請求項1又は2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記有機高分子化合物(A)が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
前記有機高分子化合物(A)の含有量が、組成物全体積の、25〜50体積%である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の熱伝導シート。
【請求項6】
前記硬化剤(B)の含有量が、前記有機高分子化合物(A)におけるカルボキシル基の量に対して、0.2〜2当量である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の熱伝導シート。
【請求項7】
熱伝導シート表面での前記黒鉛粒子(C)の配向方向への引張強度が、20〜30℃の温度範囲内で0.1MPa以上であり、且つ熱伝導シート表面でのアスカーC硬度が80以下である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の熱伝導シート。
【請求項8】
下記の工程により製造される熱伝導シートの製造方法。
(ア)0.1〜1mmol/gのカルボキシル基を有する有機高分子化合物(A)と、エポキシ当量が400以下であり、且つ1分子中の末端エポキシ基が2〜5個である硬化剤(B)と、の反応物と、
鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(C)とを、80〜100℃で15〜45分混練し、組成物を得る工程、
(イ)前記組成物を5〜10MPaの圧力で押し付け、主たる面に関して平行な方向に前記黒鉛粒子(C)が配向した1次シートを得る工程、
(ウ)前記1次シートを積層し、積層方向に0.1〜0.5MPaの圧力で押し付けながら、120〜170℃で、2〜8時間加熱し、成形体を得る工程、
(エ)前記成形体を、積層方向とは垂直な方向に0.1〜0.5MPaの圧力で押し付けながら、1次シートの積層面から出る法線に対し0〜30度の角度で、−20〜20℃の温度範囲でスライスする工程。
【請求項9】
下記の工程により製造される熱伝導シートの製造方法。
(ア)0.1〜1mmol/gのカルボキシル基を有する有機高分子化合物(A)と、エポキシ当量が400以下であり、且つ1分子中の末端エポキシ基が2〜5個である硬化剤(B)と、の反応物と、
鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(C)とを、80〜100℃で15〜45分混練し、組成物を得る工程、
(イ)前記組成物を5〜10MPaの圧力で押し付け、主たる面に関して平行な方向に前記黒鉛粒子(C)が配向した1次シートを得る工程、
(ウ)前記1次シートを、前記黒鉛粒子の配向方向を軸にして0.1〜0.5MPaの圧力で押し付けながら捲回して、120〜170℃で、2〜8時間加熱し、多層構造を有する成形体を形成する工程、
(エ)前記成形体を、積層方向とは垂直な方向に0.1〜0.5MPaの圧力で押し付けながら、1次シートの積層面から出る法線に対し0〜30度の角度で、−20〜20℃の温度範囲でスライスする工程。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の熱伝導シート、又は、請求項8若しくは請求項9に記載の製造方法により得られる熱伝導シートを、発熱体と放熱体の間に介在させてなる放熱装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−132856(P2010−132856A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147514(P2009−147514)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】