説明

熱伝導シート及び放熱装置

【課題】低い熱抵抗で発熱部材と放熱部材を熱接触させることができ、かつ耐熱性、耐湿性、及び剥離除去性に優れる熱伝導シート、及び高い放熱能力を持ち、且つ修理などのために発熱部材と放熱部材を取り外した際の熱伝導シートの除去が容易な放熱装置を提供する。
【解決手段】熱伝導シートを、スチレン−イソブテン共重合体(A)と、黒鉛粒子及び六方晶窒化ほう素粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機粒子(B)と、ポリイソブテン(C)とを含有して構成する。また放熱装置を、発熱体と、前記熱伝導シートと、放熱体とをこの順に積層して構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シート及び放熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多層配線板、半導体パッケージにおける配線や、電子部品の搭載密度の高密度化による発熱量の増大、半導体素子の高集積化による単位面積当たりの発熱量の増大のため、半導体パッケージからの熱放散をよくすることが望まれるようになっている。
【0003】
半導体パッケージのような発熱体とアルミや銅等の放熱体との間に、熱伝導グリース又は熱伝導シートを挟んで密着させることにより熱を放散する放熱装置が一般に簡便に使用されている。また一般に、熱伝導グリースより、熱伝導シートの方が放熱装置を組み立てる際の作業性に優れている。
【0004】
また、近年CPUのチップはマルチコア化、マルチチップ化により大面積化する傾向があり、また発熱体であるCPUと放熱体との圧着圧力は低圧化する傾向がある。そのため熱伝導シートには、圧着時の柔軟性が求められ、またチップ段差によって厚膜化しても低熱抵抗が得られるように高熱伝導率が求められている。
【0005】
発熱体と放熱体との密着方法には、常温でバネなどで加圧する方法、加熱圧着する方法等がある。いずれの場合でも密着させる時の温度で充分に柔軟であることが高い密着を得る上で重要である。加熱圧着する方法としては、金属インジウム等の低融点金属を用いて溶融圧着する方法がある。この場合、極めて熱伝導性に優れるが、修理等で一度剥離除去したい場合には発熱体から放熱体を除去しにくい場合がある。また用いた金属の融点を超えて液化した時の粘度が低いため、融点を超える温度に再加熱した場合に、溶融金属が流出してしまう恐れがあった。このような点では溶融しても粘性を保つことが可能な樹脂系は有利であるが、一般に樹脂系シートの熱伝導率は金属インジウム等に比べかなり劣る。
一方、常温でバネなどで加圧する方法として、冷却したい半導体素子等が動作して発熱すると温度が上がることを利用し、温度上昇に応じて液化して高い密着性を得る、いわゆるフェイズチェンジシートも一般に使用されている。しかし、一般にフェイズチェンジシートは熱伝導率が低く、また液化し薄くなる事で低熱抵抗化するため、チップ段差が生じてしまうマルチチップ化に対応することは困難である。
【0006】
また熱伝導シートとして、熱伝導フィラを充填した樹脂シートも知られている。熱伝導フィラを充填した樹脂シートの熱伝導率を向上させる手法の1つとして、熱伝導フィラとして、特に熱伝導性の大きな無機粉末を選択し、さらにそれをシート面に対し垂直に配向させた熱伝導シートが種々提案されている。
例えば、シート面に関してほぼ垂直な方向に熱伝導フィラ(窒化ホウ素)が配向した熱伝導シート(例えば、特許文献1参照)や、ゲル状物質に分散された炭素繊維がシート面に対して垂直に配向した構造の熱伝導シート(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−26202号公報
【特許文献2】特開2005−82721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、一般に樹脂系の熱伝導シートは、長年使用して熱や湿度にさらされると酸化劣化や加水分解、場合によっては可塑剤の揮発や架橋の進行等により硬くなる傾向があり、硬くなると温度変動に伴う部材の熱膨張率差等による変形に追従して変形できなくなる結果、密着性が悪くなったり、或いは硬くなった際に部材に固着してしまったりして、修理等で剥離除去したい場合に極めて除去しにくくなる傾向があった。
【0009】
本発明の目的は、発熱部材と放熱部材とを低い熱抵抗で柔軟に接触させることができ、かつ耐熱性、耐湿性及び剥離除去性に優れる熱伝導シートを提供することである。
また、本発明の目的は、高い放熱能力を持ち、且つ修理などのために発熱部材と放熱部材を取り外した際の熱伝導シートの除去が容易な放熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> スチレン−イソブテン共重合体(A)と、黒鉛粒子及び六方晶窒化ほう素粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機粒子(B)と、ポリイソブテン(C)とを含有する熱伝導シートである。
かかる熱伝導シートは、高い熱伝導性と、低熱抵抗での接触を可能にする柔軟性をあわせ持ち、更に耐熱性、耐湿性及び剥離除去性に優れ、放熱用途に好適である。
【0011】
<2> さらに難燃剤(D)を含有する前記<1>に記載の熱伝導シートである。
かかる熱伝導シートは、上記に加えて難燃性に優れる。
【0012】
<3> 前記無機粒子(B)の形状が鱗片状、楕球状又は棒状であり、その六員環面が前記鱗片の面方向、前記楕球の長軸方向又は前記棒の長軸方向に配向しており、前記無機粒子(B)の前記鱗片の面方向、前記楕球の長軸方向又は前記棒の長軸方向が、厚み方向に配向している前記<1>又は<2>に記載の熱伝導シートである。
かかる熱伝導シートは、上記に加えて更に膜厚方向の高熱伝導性を達成できる。
【0013】
<4> 前記無機粒子(B)は鱗片状である前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の熱伝導シートである。
かかる熱伝導シートは、上記に加えて更に無機粒子の配向が容易になるため、更に膜厚方向の高熱伝導性を達成することができる。
【0014】
<5> 熱可塑性を有する前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の熱伝導シートである。
かかる熱伝導シートは、上記に加えて発熱体と放熱体との接触が更に低熱抵抗で可能となる。
【0015】
<6> 前記スチレン−イソブテン共重合体(A)の含有率が5質量%〜25質量%であり、前記無機粒子(B)の含有率が50質量%〜75質量%であり、前記ポリイソブテン(C)の含有率が5質量%〜40質量%であり、前記難燃剤(D)の含有率が10質量%〜40質量%である前記<2>〜<5>のいずれか1項に記載の熱伝導シートである。
かかる熱伝導シートは、上記に加えて更に取り扱い性にも優れ、高い熱伝導性と、低熱抵抗での接触、耐熱性、耐湿性、剥離除去性及び難燃性に優れる。
【0016】
<7> 前記スチレン−イソブテン共重合体(A)と、前記無機粒子(B)と、前記ポリイソブテン(C)とを含み、前記無機粒子(B)の前記鱗片の面方向、前記楕球の長軸方向又は前記棒の長軸方向が一定の方向に配向している成形体の、前記配向している方向に対して60°〜90°の角度を有する面に対して平行に、前記成形体からスライスされた切片である前記<3>〜<6>のいずれか1項に記載の熱伝導シートである。
かかる熱伝導シートは、上記に加えて更に膜厚方向の高熱伝導性を達成できる。
【0017】
<8> 発熱体と、前記<1>〜<7>のいずれか1項に記載の熱伝導シートと、放熱体とがこの順に積層された放熱装置である。
かかる放熱装置は、高い放熱能力を有する上、修理などのために発熱部材と放熱部材を取り外した際の熱伝導シートの除去が容易である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、発熱部材と放熱部材とを低い熱抵抗で柔軟に接触させることができ、かつ耐熱性、耐湿性及び剥離除去性に優れる熱伝導シートを提供するができる。また高い放熱能力を持ち、且つ修理などのために発熱部材と放熱部材を取り外した際の熱伝導シートの除去が容易な放熱装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに本明細書において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0020】
<熱伝導シート>
本発明の熱伝導シートは、スチレン−イソブテン共重合体(A)の少なくとも1種と、黒鉛粒子及び六方晶窒化ほう素粒子からなる群より選ばれる無機粒子(B)の少なくとも1種と、ポリイソブテン(C)の少なくとも1種とを含有する樹脂組成物をシート状に成形してなる。
かかる構成であることで、低い熱抵抗で発熱部材と放熱部材を熱接触させることができ、かつ耐熱性、耐湿性及び剥離除去性に優れる。
【0021】
前記樹脂組成物をシート状に成形する方法は特に制限されず、通常用いられる方法から適宜選択することができる。中でも後述する熱伝導シートの製造方法によってシート状に成形されることが好ましい。
以下、熱伝導シートを構成する樹脂組成物について説明する。
【0022】
(A)スチレン−イソブテン共重合体
前記熱伝導シートはスチレン−イソブテン共重合体の少なくとも1種を含む。スチレン−イソブテン共重合体が例えばバインダとして主に機能することで、耐熱性及び耐湿性に優れ、かつ柔軟性に優れた熱伝導シートが得られると考えられる。
前記スチレン−イソブテン共重合体は、スチレンに由来する構成単位とイソブテン(「イソブチレン」ともいう)に由来する構成単位とを有するものであれば特に制限されず、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。中でも強度と柔軟性の観点から、ブロック共重合体であることが好ましい。
【0023】
前記スチレン−イソブテン共重合体として具体的には、例えばスチレン−イソブテン(別名:イソブチレン)-スチレントリブロックコポリマー(SIBS)や、スチレン−イソブテン(別名:イソブチレン)ジブロックコポリマー(SIB)を挙げることができる。
【0024】
前記スチレン−イソブテン共重合体におけるスチレンとイソブテンの共重合比率は特に制限されない。前記共重合比率は、強度と密着性の観点から、共重合体中のスチレン由来構成単位の含有率として5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、10質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
スチレン由来構成単位の含有率が5質量%以上であると熱伝導シートの強度がより向上する傾向がある。また30質量%以下であると熱伝導シートの柔軟性がより向上し密着性がより向上する傾向がある。
【0025】
前記スチレン−イソブテン共重合体は、スチレン及びイソブテンに由来する構成単位に加えて、必要に応じてその他の重合性化合物に由来する構成単位を含んでいてもよい。その他の重合性化合物としては、スチレン及びイソブテンと共重合可能であれば特に制限されない。例えば、プロピレン及びその誘導体、スチレン誘導体等を挙げることができる。
前記スチレン−イソブテン共重合体がその他の重合性化合物に由来する構成単位を含む場合、その含有率は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0026】
前記スチレン−イソブテン共重合体の重量平均分子量は特に制限されない。例えば凝集力と密着性のバランスの観点から、1万〜20万であることが好ましく、3万〜10万であることがより好ましい。
【0027】
前記熱伝導シートにおける前記スチレン−イソブテン共重合体の含有率は、例えばシート強度と密着性のバランスの観点から、3質量%以上40質量%以下であることが好ましく、4質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上25質量%以下であることがさらに好ましい。
スチレン−イソブテン共重合体の含有率が3質量%以上であると十分な凝集力が得られシート強度がより向上しハンドリング性がより向上する傾向にある。またスチレン−イソブテン共重合体の含有率が40質量%以下であると、熱伝導性、粘着性、密着性及び難燃性が低下することをより効果的に抑制できる傾向にある。
【0028】
さらに前記熱伝導シートは、熱伝導性、強度、粘着性、密着性及び難燃性のバランスの観点から、スチレン由来構成単位の含有率が5質量%以上30質量%以下であるスチレン−イソブテン共重合体を3質量%以上40質量%以下で含むことが好ましく、スチレン含有率が15質量%以上20質量%以下であるスチレン−イソブテン共重合体を5質量%以上25質量%以下で含むことがより好ましい。
【0029】
(B)無機粒子
前記熱伝導シートは、黒鉛粒子及び六方晶窒化ほう素粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機粒子を含む。前記無機粒子は例えば高熱伝導性フィラとして主に機能すると考えられる。
前記無機粒子の形状は特に制限されず、球状、鱗片状、楕球状及び棒状のいずれであってもよい。前記熱伝導シートにおいては、熱伝導性の観点から熱伝導シートの製造方法に応じて前記無機粒子の形状を選択することが好ましい。
【0030】
例えば熱伝導シートを、前記樹脂組成物を押出、圧延、塗工等の一般的な製造方法で形成する場合、一般的に黒鉛や六方晶窒化ほう素の結晶は鱗片状になりやすく、これがシート面に平行な方向に配向しやすいことから熱伝導性の高い方向がシート面と平行な方向になる傾向がある。従ってシート面に垂直な方向の熱伝導性を高める観点から、無機粒子の形状として球形造粒品等を選択するのが好ましい。
【0031】
また例えば熱伝導シートを、前記樹脂組成物に含まれる異方性形状の無機粒子を熱伝導シートの厚み方向に配向させる製造方法で形成する場合、黒鉛粒子及び六方晶窒化ほう素粒子から選択される無機粒子として、鱗片状、楕球状又は棒状といった異方性形状で、結晶中の六員環面が、鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向しているものを選択することが好ましい。
この場合無機粒子の形状として鱗片状がより好ましい。鱗片状の無機粒子を選択することで、より高い熱伝導性が達成できる。これは例えば鱗片状の無機粒子は、所定の方向への配向がより容易であるためと考えることができる。
かかる製造方法については後述する。
なお、結晶中の六員環面とは、六方晶系において六員環が形成されている面であり、(0001)結晶面を意味する。
【0032】
無機粒子の結晶中の六員環面が、鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向しているかどうかは、X線回折測定により確認することができる。
黒鉛粒子及び六方晶窒化ほう素粒子から選ばれる無機粒子の結晶中の六員環面の配向方向は、具体的には以下の方法で確認する。
【0033】
先ず、黒鉛粒子又は六方晶窒化ほう素粒子の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が、シートの面方向に対して実質的に平行に配向した測定用サンプルシートを作製する。測定用サンプルシート調製の具体的な方法としては、10体積%以上の黒鉛粒子又は六方晶窒化ほう素粒子と樹脂との混合物をシート化する。
ここで用いる「樹脂」とは、X線回折の妨げになるピークが現れない材料で、かつシート形状を形成可能な材料であれば特に制限されない。具体的には、アクリルゴム、NBR、SIBSなどバインダとしての凝集力を有している非晶質樹脂を使用できる。
【0034】
この混合物のシートが、元の厚みの1/10以下となるようにプレスし、プレスしたシートの所定枚数を積層して積層体を形成する。この積層体を更に1/10以下まで押しつぶす操作を3回以上繰り返す。この操作により、調製した測定用サンプルシート中では、黒鉛又は六方晶窒化ほう素の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が、測定用サンプルシートの面方向に対し実質的に平行に配向した状態になる。
【0035】
上記のように調製した測定用サンプルシートの表面に対してX線回折測定を行うと、黒鉛粒子及び六方晶窒化ほう素粒子のいずれの場合についても、2θ=77°付近に現れる黒鉛又は六方晶ほう素粒子の(110)面に対応するピークの高さを、2θ=27°付近に現れる黒鉛粒子又は六方晶窒化ほう素粒子の(002)面に対応するピークの高さで割った値が0〜0.02となる。
このことより、本発明において「結晶中の六員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している」とは、黒鉛粒子及び六方晶窒化ほう素か粒子ら選ばれ無機粒子と非晶質樹脂等とを含有した混合物をシート化したものの表面に対し、X線回折測定を行い、黒鉛粒子及び六方晶窒化ほう素粒子いずれの場合においても、2θ=77°付近に現れる黒鉛粒子又は六方晶窒化ほう素粒子の(110)面に対応するピークの高さを、2θ=27°付近に現れる黒鉛粒子又は六方晶窒化ほう素粒子の(002)面に対応するピークの高さで割った値が0〜0.02となる状態をいう。
【0036】
前記黒鉛粒子及び六方晶窒化ほう素粒子から選ばれる無機粒子の粒子径は特に制限されない。一般的には熱伝導シートの膜厚以下の範囲でなるべく大きいものを選択するのが効率的な熱伝導パスを形成できるため、好適である。具体的に無機粒子の粒子径は、重量平均粒子径として、熱伝導シートの膜厚の1/5倍〜1倍(但し、膜厚を超える無機粒子は含まない)であることが好ましい。
無機粒子の重量平均粒子径が、熱伝導シートの膜厚の1/5倍以上であると効率的な熱伝導パスが形成され、熱伝導性がより向上する。また熱伝導シートの膜厚以下であると、熱伝導性にムラが生じたり、密着性が低下したりすることを抑制できる。
【0037】
一方、無機粒子として、鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の六員環面が、鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向しているものを選択した上、鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向を熱伝導シートの厚み方向に配向させる方法として、例えば特開2008−280496号公報に記載されているような積層スライス法を用いる場合、無機粒子の粒子径は熱伝導シートの膜厚には特に制限されない。これは例えば原料粉としての無機粒子が、形成される熱伝導シートの膜厚を超える無機粒子を含んでいても、無機粒子ごとスライスして熱伝導シートを形成することで、結果的に無機粒子の粒子径が熱伝導シートの膜厚を超えないからである。またこのように粒子ごとスライスすると、膜を貫通する粒子が多数生じ、極めて効率的な熱伝導パスが形成され、熱伝導性がより向上する。
この場合、無機粒子の粒子径は、重量平均粒子径として、熱伝導シートの膜厚の1/5倍〜4倍であることが好ましい。
無機粒子の重量平均粒子径が、熱伝導シートの膜厚の1/5倍以上であると効率的な熱伝導パスが形成され、熱伝導性がより向上する。また熱伝導シートの膜厚以下であると、熱伝導性にムラが生じたり、密着性が低下したりすることを抑制できる。
【0038】
前記無機粒子は、黒鉛粒子及び六方晶窒化ほう素粒子から選択される。前記黒鉛粒子としては、例えば、球状黒鉛粉末、鱗片黒鉛粉末、人造黒鉛粉末、薄片化黒鉛粉末、酸処理黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末、炭素繊維フレーク等を用いることができる。中でも黒鉛粒子として好ましいのは、シート面に対し垂直に配向させる事を前提とした上で、結晶化度が高くかつ大粒径の鱗片が得やすい観点から、一度シート化した膨張黒鉛を粉砕して得る膨張黒鉛の粉砕粒子である。
また前記六方晶窒化ほう素粒子としては、球状造粒窒化ほう素粉末、板状窒化ほう素粉末、鱗片状窒化ほう素粉末等が挙げられる。中でも六方晶窒化ほう素粒子として好ましいのは、熱伝導シート面に対し垂直に配向させる事を前提とした上で、板状結晶を30μm以上の大きさまで成長させた板状窒化ほう素粒子である。
【0039】
前記無機粒子の粒子径分布は特に制限されず、横軸に粒子径を、縦軸に頻度をとった粒子径分布が単一のピークを有する単分散系であっても、粒子径分布が複数のピークを有する多分散系であってもよい。また粒子径分布が狭いものであっても、粒子径分布が広いものであってもよい。
前述のように膜厚に近い大粒子の方が効率的な熱伝導パスを形成でき、熱伝導性の観点から好適であるが、大粒子かつ粒度分布が狭いと形成される空隙部分も大きくなる傾向があるため、熱伝導性のバラツキが大きくなる傾向がある。このため、適度に存在する小粒子によって空隙部が適度に少なくなるよう、粒子径分布がある程度広い、もしくは多分散系の粒径分布であることがバラツキを抑制する観点からは好ましい。分布の広さ、もしくは多分散の好適な内容・程度は粒子形状などにより大きく異なるため、定量的に規定するのは困難であるが、このようなことから、膜厚に近い大粒子が形成する空隙より小さいものを空隙に収まる範囲の量含むような分布が特に好ましい。
【0040】
前記熱伝導シートにおける前記無機粒子の含有率は、例えば熱伝導性と密着性のバランスの観点から、40質量%以上85質量%以下であることが好ましく、45質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上75質量%以下であることがさらに好ましい。
無機粒子の含有率が40質量%以上であると熱伝導性がより向上する傾向にある。また無機粒子の含有率が85質量%以下であると粘着性及び密着性が低下することをより効果的に抑制できる傾向にある。
【0041】
また前記無機粒子の含有量に対する前記スチレン−イソブテン共重合体の含有率(スチレン−イソブテン共重合体/無機粒子)は、熱伝導性と柔軟性の観点から、6質量%〜50質量%であることが好ましく、10質量%〜40質量%であることがより好ましい。
【0042】
前記熱伝導シートにおいては、前記無機粒子の形状が鱗片状、楕球状又は棒状であり、その六員環面が前記鱗片の面方向、前記楕球の長軸方向又は前記棒の長軸方向に配向しており、前記無機粒子の前記鱗片の面方向、前記楕球の長軸方向又は前記棒の長軸方向が、熱伝導シートの厚み方向に配向していることが好ましい。これにより、熱伝導シートにおける膜厚方向の熱伝導性をより向上することができる。
ここで「熱伝導シートの厚み方向に配向」とは、熱伝導シートの厚み方向の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子及び六方晶窒化ほう素粒子から選ばれる無機粒子について見えている方向から、長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度(90度以上の場合は補角を採用する)を測定し、その平均値が60度〜90度の範囲になる状態をいう。
【0043】
(C)ポリイソブテン
前記熱伝導シートはポリイソブテンの少なくとも1種を含む。前記ポリイソブテンは例えば、耐熱性と耐湿性に優れた可塑剤兼粘着性付与剤として主に機能すると考えられる。すなわちスチレン-イソブテン共重合体のみでは不足する柔軟性と粘着性を補う役割と考えることができる。一方、見方を変えればスチレン−イソブテン共重合体はポリイソブテンのみでは不足する凝集力を補うとも言え、相互補完の関係と考えられる。
【0044】
本発明における前記ポリイソブテンは通常イソブテン(別名:イソブチレン、略名:ブテン)の単独重合体であり、一般的に知られているものは液状である。なお、イソブテン以外の共重合成分(但し、前記(A)成分と区別するためにスチレンは含まれない)を本発明の効果を損なわない程度(例えば、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下程度)含まれていてもよい。このような共重合成分としては2−ブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−2−ブテン、ペンテン、ヘキセン等の脂肪族オレフィン類;イソプレン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン等のジエン類が挙げられる。
本発明におけるポリイソブテンはイソブテンの単独重合体であることが特に好ましい。
【0045】
前記ポリイソブテンの分子量は特に制限されない。粘着力と耐熱性の観点から、数平均分子量(Mn)が1000以上であることが好ましく、1000以上5000以下であることがより好ましく、1000以上3000以下であることがさらに好ましい。
数平均分子量が1000以上であると仮固定に必要な粘着力を十分に得ることができ、また耐熱性に優れる傾向にある。また数平均分子量が5000以下であるとスチレン−イソブテン共重合体との相溶性に優れる傾向にある。なお、ポリイソブテンの数平均分子量はVPO法によって測定される。
【0046】
また前記ポリイソブテンの粘度は特に制限されない。粘着力と耐熱性の観点から、100℃における動粘度として、2.5×10−4/s以上5.0×10−3/s以下であることが好ましく、6.0×10−4/s以上4.5×10−3/s以下であることがより好ましい。
なお、100℃における動粘度はJIS K 2283規格に準拠して測定される。
【0047】
前記熱伝導シートにおけるポリイソブテンの含有率は、例えば粘着力、密着性、シート強度及び耐加水分解性の観点から、3質量%以上50質量%以下であることが好ましく、4質量%以上45質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。
ポリイソブテンの含有率が、3質量%以上であると粘着性及び密着性がより向上する傾向がある。またポリイソブテンの含有率が50質量%以下であると、シート強度、熱伝導性及び難燃性が低下することをより効果的に抑制できる傾向にある。
【0048】
また前記熱伝導シートにおけるポリイソブテンの含有量に対する前記スチレン−イソブテン共重合体の含有率は、粘着性と耐熱性及び強度の観点から、12.5質量%〜500質量%であることが好ましく、20質量%〜100質量%であることがより好ましい。
【0049】
また前記熱伝導シートは、粘着性、耐熱性、強度及び密着性の観点から、スチレン含有率が10質量%以上30質量%以下であるスチレン−イソブテン共重合体を数平均分子量が1000以上5000以下であるポリイソブテンに対して12.5質量%〜500質量%含むことが好ましく、スチレン含有率が15質量%以上25質量%以下であるスチレン−イソブテン共重合体を数平均分子量が1000以上3000以下であるポリイソブテンに対して20質量%〜100質量%含むことがより好ましい。
【0050】
さらに前記熱伝導シートにおける前記無機粒子の含有量に対する前記スチレン−イソブテン共重合体及びポリイソブテンの総含有率((スチレン−イソブテン共重合体+ポリイソブテン)/無機粒子)は、熱伝導性と柔軟性の観点から、13質量%〜130質量%であることが好ましく、15質量%〜90質量%であることがより好ましい。
【0051】
(D)難燃剤
前記熱伝導シートは難燃剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。難燃剤を含むことで熱伝導シートの難燃性がより向上する。
前記難燃剤としては特に限定されず、通常用いられる難燃剤から適宜選択して用いることができる。例えば、赤りん系難燃剤やりん酸エステル系難燃剤を挙げることができる。
中でも、りん酸エステル系難燃剤は安全性が高い上、可塑効果により密着性を向上する効果に優れるので特に好ましい。
【0052】
赤りん系難燃剤としては、純粋な赤りん粉末の他に、安全性や安定性を高める目的で種々のコーティングを施したもの、マスターバッチになっているもの等が挙げられ、具体的には、燐化学工業株式会社製、商品名:ノーバレッド、ノーバエクセル、ノーバクエル、ノーバペレット等が挙げられる。
【0053】
りん酸エステル系難燃剤としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート等の脂肪族リン酸エステル;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジル−2,6−キシレニルホスフェート、トリス(t−ブチル化フェニル)ホスフェート、トリス(イソプロピル化フェニル)ホスフェート、リン酸トリアリールイソプロピル化物等の芳香族リン酸エステル;レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビスジキシレニルホスフェート等の芳香族縮合リン酸エステル;などが挙げられる。
これらの中でもビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)が、耐加水分解性に優れ、かつ可塑効果により密着性を向上する効果に優れるので特に好ましい。
【0054】
前記難燃剤は1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
前記熱伝導シートが難燃剤を含む場合における難燃剤の含有率は特に制限されない。例えば難燃性とシート強度、熱伝導性、粘着性及び密着性とのバランスの観点から、熱伝導シート中に1質量%以上60質量%以下であることが好ましく、5質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。
難燃剤の含有率が、1質量%以上であると優れた難燃性が得られる傾向にある。また難燃剤の含有率が、60質量%以下であると、シート強度、熱伝導性、粘着性及び密着性の低下をより効果的に抑制できる傾向にある。
【0055】
前記熱伝導シートは、熱可塑性を有することが好ましい。熱可塑性を有していると、加温圧着時に高い密着性を得られるので、より低熱抵抗での接触を実現しやすい。
本発明において熱可塑性とは、加熱溶融により任意に形状を変えられるという意味であり、例えば、化学結合による架橋により3次元網目構造をもった高分子化合物や、常圧空気中では溶融しない高分子化合物をバインダの主成分に用いると加熱溶融により任意に形状を変えがたくなるため、熱可塑性に該当しない。ただし、これらのような高分子化合物であっても、熱可塑性成分中に分散していると、シート全体の熱可塑性が失われないため、ここで言う「熱可塑性を有する」条件を満たす上で、化学結合による架橋により3次元網目構造をもった高分子化合物や、常圧空気中では溶融しない高分子化合物が全く使用できないわけではない。逆に言えば、「熱可塑性を有する」ためには、バインダの主成分として、熱可塑性の高分子化合物を含むことが好ましい。
【0056】
前記熱可塑性の高分子化合物としては、密着性の観点からその軟化温度が160℃以下であることが好ましく、更に好ましくは130℃以下である。また、化学結合による架橋を起こす可能性が高い官能基や不飽和結合を持たない熱可塑性高分子化合物であることが好ましい。化学結合による架橋を起こす高分子化合物は、熱により架橋が進行し硬くなりやすい可能性がある。更に加水分解を起こしやすい結合、例えば、尿素結合、ウレタン結合、アミド結合、エステル結合等をなるべく含まない高分子化合物であることが好ましい。
【0057】
これらの観点において、バインダの主成分として具体的には、既述した本発明の熱伝導シートの必須成分であるスチレン−イソブテン共重合体及びポリイソブテンが好ましい。すなわち前記熱伝導シートはスチレン−イソブテン共重合体及びポリイソブテンをバインダの主成分として含み、熱可塑性を有することが好ましい。
【0058】
前記熱伝導シートはスチレン−イソブテン共重合体及びポリイソブテンに加えて、本発明の効果である耐熱性や耐加水分解性や密着等を損なわない範囲で他の熱可塑性高分子化合物を併用することもできる。
他の熱可塑性高分子化合物としては特に制約はない。中でも上記の条件をなるべく多く満たすものが一般的に好ましい。具体的には、ポリエチレン(パラフィン)、ポリプロピレン、脂環族飽和炭化水素樹脂、等のオレフィン系高分子化合物や、水添NBR、水添したSBS(別名:SEBS)、水添により二重結合を除去した飽和型エラストマ等を挙げることができる。これらを好適に併用することができる。またこれらは1種単独でも2種以上を併用してもよい。
【0059】
また他の熱可塑性高分子化合物として、アクリルゴム、クレゾールノボラック樹脂、フェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン環型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂等のフェノール系ポリマー(-OH基を含むが、自己架橋は起こし難い)などを挙げることもできる。これらは上記の観点で一部不完全なものであるが必要に応じて併用できる。
【0060】
前記熱伝導シートは、上記成分に加えて必要に応じて、酸化防止剤、ラジカルトラップ剤、pH調整剤等の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤の含有率は、必須成分の含有率を確保し本発明の効果をより効果的に得る観点から、5質量%以下であることが好ましい
【0061】
前記熱伝導シートの平均厚みは特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。具体的には50μm以上3000μm以下とすることができ、熱伝導性と密着性の観点から、100μm以上1000μm以下であることが好ましい。
なお、熱伝導シートの平均厚みは、マイクロメータを用いて任意に3箇所の厚みを測定し、その算術平均値として与えられる。
【0062】
前記熱伝導シートは、その面の少なくとも一方に保護フィルムを有していてもよく、両面に保護フィルムを有していることが好ましい。これにより、熱伝導シートの粘着面を保護することができる。
保護フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルナフタレート、メチルペンテンフィルム等の樹脂、コート紙、コート布、アルミ等の金属が使用できる。これらの保護フィルムは、2種以上組み合わせて多層フィルムとしてもよく、保護フィルムの表面が、シリコーン系、シリカ系等の離型剤等で処理されたものが好ましく用いられる。
【0063】
<熱伝導シートの製造方法>
前記熱伝導シートは、前記スチレン−イソブテン共重合体(A)と、前記無機粒子(B)と、前記ポリイソブテン(C)とを含むものであるが、前記無機粒子(B)の前記鱗片の面方向、前記楕球の長軸方向又は前記棒の長軸方向が一定の方向に配向している成形体の、前記配向している方向(配向方向)に対して60°〜90°の角度を有する面と平行に前記成形体からスライスされた切片であることが好ましい。
すなわち、前記熱伝導シートは、前記成形体の1つの面であって、前記無機粒子の配向方向に対して60°〜90°の角度を有する面と平行に、前記成形体をスライスして切片を得る工程を含む製造方法で得られることが好ましい。
前記熱伝導シートが、かかる製造方法でされたものであることで、効率的な熱伝導パスが形成され易く、そのため高熱伝導性と密着性に優れる。
【0064】
前記無機粒子が一定の方向に配向している成形体は、例えば特開2008−280496号公報に記載の方法で製造することができる。
また前記成形体をスライスする方法としては、例えば特開2008−280496号公報に記載を参照することができる。
【0065】
<放熱装置>
本発明の放熱装置は、発熱体と、前記熱伝導シートと、放熱体とをこの順に積層して構成される。前記熱伝導シートを介して発熱体と放熱体とが積層されていることで、発熱体からの熱を放熱体に効率よく伝導することができる。また発熱体から放熱体を取り外す際に容易に熱伝導シートを除去することができる。
【0066】
前記発熱体としては、前記熱伝導シートが特に好適に使用できる温度範囲が例えば−10〜120℃であることから、半導体パッケージ、ディスプレイ、LED、電灯等が好適な発熱体の例として挙げられる。
【0067】
一方、放熱体としては、アルミや銅のフィン・板等を利用したヒートシンク、ヒートパイプに接続されているアルミや銅のブロック、内部に冷却液体をポンプで循環させているアルミや銅のブロック、ペルチェ素子及びこれを備えたアルミや銅のブロックなどを挙げることができる。
【0068】
前記放熱装置は、発熱体と放熱体とに前記熱伝導シートの各々の面を接触させることで構成される。発熱体と熱伝導シートの一方の面及び放熱体と熱伝導シートの他方の面を接触させる方法は、それぞれを充分に密着させた状態で固定できる方法であれば特に制限されない。具体的には、発熱体と放熱体との間に熱伝導シートを挟んで0.1MPa〜2MPa程度に加圧可能なクリップなどで発熱体と放熱体の間を固定し、発熱体を発熱させるか、もしくはオーブン等による加温によって40℃〜170℃に加熱させることで組み立てられる方法であることが好ましい。より好ましい温度・圧力の範囲は、60℃〜150℃、0.15MPa〜1MPaである。
【0069】
圧力を0.1MPa以上又は加熱温度を40℃以上とすることで優れた密着性が得られる傾向にある。また圧力が2MPa以下又は加熱温度が170℃以下であることで密着の信頼性がより向上する傾向にある。これは熱伝導シートが過度に圧縮されて膜厚が薄くなったり、周辺部材の歪や残留応力が大きくなりすぎたりすることを抑制できるためと考えられる。
【0070】
また、発熱体と放熱体の間が別途ネジ、バネ、他の接着剤等の通常用いられる手段により固定されていることが、密着を持続させる上で好ましい。

【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0072】
(実施例1)
スチレン-イソブテン共重合体(A)として、スチレン−イソブテン(別名:イソブチレン)-スチレントリブロックコポリマー(SIBS)((株)カネカ製SIBSTER102T、スチレン由来構成単位の含有率15質量%):350g、無機粒子(B)として、鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成工業株式会社製、商品名:HGF−L、重量平均粒子径:270μm、前述のX線回折測定を用いた方法により、結晶中の六員環面が、鱗片の面方向に配向していることを確認した。):2156g、ポリイソブテン(C)として、ポリブテン200N(日油(株)製、数平均分子量2650、100℃における動粘度4.1×10−3/s)650g、難燃剤(D)としてビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(りん酸エステル系難燃剤、大八化学工業株式会社製、商品名:CR−741)844gを4L加圧ニーダに投入し、到達温度170℃の条件で混練し、組成物を得た。(A)、(B)、(C)、(D)の全体に対する含有率はこの順に8.8質量%、53.9質量%、16.3質量%、21.1質量%であった。
【0073】
この組成物を押出機に入れ、幅20cm、1.5〜1.6mm厚の平板形状に押出して一次シートを得た。
得られた一次シートを、40mm×150mmの型刃を用いてプレス打ち抜きし、打ち抜いたシートを61枚積層し、高さが80mmになるよう、高さ80mmのスペーサを挟んで積層方向に120℃で2分間圧力をかけ、成形体を得た。
次いで、この成形体の80mm×150mmの積層断面を木工用スライサーを用いてスライスし、縦80mm×横150mm×厚さ0.15mmの熱伝導シート(I)を得た。
【0074】
この熱伝導シート(I)の断面をSEMで観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から、鱗片の長軸方向(面方向)の熱伝導シート表面に対する角度(以下、「配向角度」ともいう)を測定したところ、配向角度の平均値は90度であり、黒鉛粒子の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。
【0075】
上記で得られた熱伝導シートについて以下のような評価を行なった。評価結果を表1に示す。
なお、耐熱性試験、HAST(Highly-Accelerated Temperature and Humidity Stress Test)耐性試験を以下の方法で行い、耐熱性試験及びHAST耐性試験の前後における熱抵抗、屈曲性、タック力及び剥離除去性の変化をそれぞれ信頼性の指標とした。
【0076】
(耐熱性試験)
熱伝導シートをテフロン(登録商標)シートに載せ、165℃に設定したESPECE製セーフティオーブンSPHH101型の中にいれて、100時間、熱処理した。
【0077】
(HAST耐性試験)
熱伝導シートをテフロン(登録商標)シートに載せ、110℃85%RHに設定したHIRAYAMA製 HASTTEST PC-R8D型の中にいれ、125時間処理した。
【0078】
(熱抵抗の測定)
熱伝導シートを厚さ1mm、直径13.75mmの銅板間に挟み、続いてこのサンプルの25℃での熱伝導率を、熱拡散率測定装置(NETZCH社製、装置名:LFA447)を用いて測定した。予め銅板の熱伝導率を測定しておき、当該装置の3層法により熱伝導シート部分の熱伝導率λ(W/mK)を求めた。測定セルとして、本装置のオプションである圧力セルを用い、25℃±2℃の室温下、0.1N・mのトルクでトルクドライバを用いて加圧し、測定を行った。予め感圧紙の変色から見積もった推定加圧は0.2MPaであった。
熱抵抗Rth(K・cm/W)は、この値と膜厚t(mm)から下式により求めた。なお、膜厚t(mm)は圧着サンプルの厚みから予め測定しておいた上下の銅板の厚みを引く事で求めた値であり、マイクロメータで測定を行った。サンプルは3個作製し、各3ショット測定し、その平均値を採用した。
Rth=10×t/λ
【0079】
得られた熱伝導シート(I)の初期熱抵抗は0.053(K・cm/W)と良好な値を示した。
また耐熱試験後の熱抵抗は0.048(K・cm/W)と良好な値を保持した。さらにHAST耐性試験後の熱抵抗は0.055(K・cm/W)と良好な値を保持した。
【0080】
(マンドレル試験)
柔軟性の指標とした屈曲性は以下の方法により求めた。
0.15mm厚の熱伝導シートを用い、25±2℃の室温下、JIS K5600に準拠した方法でマンドレル(屈曲性)試験を行った。割れや破断が生じた径を屈曲性の目安とした。
【0081】
得られた熱伝導シート(I)の初期屈曲性は2.0mm未満と良好であった。
また耐熱試験後の屈曲性は2.0mm未満と良好な値を保持した。手触りとしても初期との違いは感じられなかった。さらにHAST耐性試験後の屈曲性は2.0mm未満と良好な値を保持した。手触りとしても初期との違いは感じられなかった。
【0082】
また、タック性の指標としたタック力は以下の装置・条件で測定した。
(タック力の測定)
使用装置:RHESCA製タッキング試験機TAC2
温度:25℃
押し込み速度:120mm/分
引き上げ速度:600mm/分
荷重 490mN(50gf)
時間:10秒
【0083】
得られた熱伝導シート(I)の初期タック力は1.6kPaと仮固定に充分な値を示した。
また耐熱試験後のタック力は1.5kPaと仮固定に充分な値を保持した。さらにHAST耐性試験後のタック力は0.8kPaと初期より低下したが、仮固定に充分な値を保持した。
【0084】
(剥離除去性)
剥離除去性を次のように評価した。
15mm×10mmに打ち抜いた熱伝導シートを厚さ1mm、30mm角の銅板と、厚さ1mm、15mm×10mmのSiチップとの間に挟み、クリップ(PLUS社製 CP−107SI、はさみ力12N〜14N)2個で止めた状態(圧力換算値0.16〜0.18MPa)で125℃、30分の条件で圧着させた。
この試料に対し上記耐熱性試験とHAST耐性試験を行った試験後に、手で剥がした際の固着した残渣を調べ、下記評価基準に従って評価した。
〜評価基準〜
S(優良):残渣は見られなかった。
A(良):薄い残渣があったが、溶剤で軽く1度拭くだけで除去可能な状態であった。
B(普通):残渣があり、除去するのに溶剤で2回以上拭く必要がある状態であった。
C(悪):残渣が固着し、溶剤を使っても強く何度もこすらないと落ちない、又は研磨しないと落ちない状態であった。
なお、チップ面と銅面で差が生じた場合は悪い側の判定を採用した。
【0085】
得られたこの熱伝導シート(I)の耐熱試験後の剥離除去性は優良であり、残渣が認められず、S判定であった。またHAST耐性試験後の剥離除去性は優良であり、残渣が認められず、S判定であった。
【0086】
(実施例2)
スチレン−イソブテン共重合体(A)として、スチレン−イソブテン(別名:イソブチレン)ジブロックコポリマー(SIB)((株)カネカ製SIBSTER062M、スチレン由来構成単位含量20質量%):350gを用いた以外は実施例1と同様に操作し、縦80mm×横150mm×厚さ0.15mmの熱伝導シート(II)を得た。
(A)、(B)、(C)、(D)の全体に対する含有率はこの順に8.8質量%、53.9質量%、16.3質量%、21.1質量%であった。
【0087】
この熱伝導シート(II)の断面をSEMで観察し、任意の50個の黒鉛粒子(B)について見えている方向から、鱗片の長軸方向(面方向)の熱伝導シート表面に対する角度を測定したところ、角度の平均値は89度であり、黒鉛粒子(B)の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。
【0088】
得られた熱伝導シート(II)について、実施例1と同様にして以下のような評価を行なった。評価結果を表1に示す。
【0089】
得られた熱伝導シート(II)の初期熱抵抗は0.049(K・cm/W)と良好な値を示した。
また耐熱試験後の熱抵抗は0.048(K・cm/W)と良好な値を保持した。さらにHAST耐性試験後の熱抵抗は0.050(K・cm/W)と良好な値を保持した。
【0090】
得られた熱伝導シート(II)の初期屈曲性は2.0mm未満と良好であった。
また耐熱試験後の屈曲性は2.0mm未満と良好な値を保持した。手触りとしても初期との違いは感じられなかった。さらにHAST耐性試験後の屈曲性は2.0mm未満と良好な値を保持した。手触りとしても初期との違いは感じられなかった。
【0091】
得られた熱伝導シート(II)の初期タック力は2.3kPaと仮固定に充分な値を示した。
また、耐熱試験後のタック力は2.4kPaと仮固定に充分な値を保持した。さらにHAST耐性試験後のタック力は1.6kPaと初期より低下したが、仮固定に充分な値を保持した。
【0092】
得られた熱伝導シート(II)の耐熱試験後の剥離除去性は良好であり、薄いべたつき以外残渣が認められなかった。べたつきはヘキサンで軽く拭くことで容易に無くなった(A判定)。またHAST耐性試験後の剥離除去性は良好であり、薄いべたつき以外残渣が認められなかった。べたつきはヘキサンで軽く拭くことで容易に無くなった(A判定)。
【0093】
(実施例3)
ポリイソブテン(C)として、ポリブテン30N(日油(株)製、数平均分子量1350、100℃における動粘度6.6×10−4/s):650gを用いた以外は(実施例1)と同様に操作し、縦80mm×横150mm×厚さ0.15mmの熱伝導シート(III)を得た。(A)、(B)、(C)、(D)の全体に対する含有率はこの順に8.8質量%、53.9質量%、16.3質量%、21.1質量%であった。
【0094】
得られた熱伝導シート(III)の断面をSEMで観察し、任意の50個の黒鉛粒子(B)について見えている方向から、鱗片の長軸方向(面方向)の熱伝導シート表面に対する角度を測定したところ、角度の平均値は88度であり、黒鉛粒子(B)の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。
【0095】
得られた熱伝導シート(III)について、実施例1と同様にして以下のような評価を行なった。評価結果を表1に示す。
【0096】
得られた熱伝導シート(III)の初期熱抵抗は0.054(K・cm/W)と良好な値を示した。
また耐熱試験後の熱抵抗は0.053(K・cm/W)と良好な値を保持した。さらにHAST耐性試験後の熱抵抗は0.055(K・cm/W)と良好な値を保持した。
【0097】
得られた熱伝導シート(III)の初期屈曲性は2.0mm未満と良好であった。
また耐熱試験後の屈曲性は2.0mm未満と良好な値を保持した。手触りとしても初期との違いは感じられなかった。さらにHAST耐性試験後の屈曲性は2.0mm未満と良好な値を保持した。手触りとしても初期との違いは感じられなかった。
【0098】
得られた熱伝導シート(III)の初期タック力は1.5kPaと仮固定に充分な値を示した。
また耐熱試験後のタック力は1.5kPaと仮固定に充分な値を保持した。さらにHAST耐性試験後のタック力は0.8kPaと初期より低下したが、仮固定に充分な値を保持した。
【0099】
得られた熱伝導シート(III)の耐熱試験後の剥離除去性は優良であり、残渣が認められなかった(S判定)。またHAST耐性試験後の剥離除去性は優良であり、残渣が認められなかった(S判定)。
【0100】
(実施例4)
スチレン-イソブテン共重合体(A)として、スチレン−イソブテン(別名:イソブチレン)-スチレントリブロックコポリマー(SIBS)((株)カネカ製SIBSTER102T、スチレン由来構成単位含量15質量%):254g、黒鉛及び/又は六方晶窒化ほう素(B)として、鱗片状の六方晶窒化ほう素(モメンティブ株式会社製、商品名:PT−110、重量平均粒子径:35μm〜60μm、前述のX線回折測定を用いた方法により、結晶中の六員環面が、鱗片の面方向に配向していることを確認した。):3709g、ポリイソブテン(C)として、ポリブテン200N(日油(株)製、数平均分子量2650、100℃における動粘度4.1×10−3/s)472g、難燃剤(D)としてビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(りん酸エステル系難燃剤、大八化学工業株式会社製、商品名:CR−741)564gを4L加圧ニーダに投入し、到達温度170℃の条件で混練し、組成物を得た。(A)、(B)、(C)、(D)の全体に対する含有率はこの順に5.1質量%、74.2質量%、9.4質量%、11.3質量%であった。
【0101】
この組成物を用いこと以外は、実施例1と同様に操作し、縦80mm×横150mm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(IV)を得た。
【0102】
得られた熱伝導シート(IV)の断面をSEMで観察し、任意の50個の六方晶窒化ほう素粒子(B)について見えている方向から、鱗片の長軸方向(面方向)の熱伝導シート表面に対する角度を測定したところ、角度の平均値は89度であり、六方晶窒化ほう素粒子(B)の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。
【0103】
得られた熱伝導シート(IV)について、実施例1と同様にして以下のような評価を行なった。評価結果を表1に示す。
【0104】
得られた熱伝導シート(IV)の初期熱抵抗は0.24(K・cm/W)と電気絶縁性フィラを含む0.25mm厚のシートとしては良好な値を示した。
また耐熱試験後の熱抵抗は0.22(K・cm/W)と良好な値を保持した。さらに
【0105】
HAST耐性試験後の熱抵抗は0.23(K・cm/W)と良好な値を保持した。
【0106】
得られた熱伝導シート(IV)の初期屈曲性は2.0mm未満と良好であった。
また耐熱試験後の屈曲性は2.0mm未満と良好な値を保持した。手触りとしても初期との違いは感じられなかった。さらにHAST耐性試験後の屈曲性は2.0mm未満と良好な値を保持した。手触りとしても初期との違いは感じられなかった。
【0107】
得られた熱伝導シート(IV)の初期タック力は1.8kPaと仮固定に充分な値を示した。
また耐熱試験後のタック力は1.7kPaと仮固定に充分な値を保持した。さらにHAST耐性試験後のタック力は1.0kPaと初期より低下したが、仮固定に充分な値を保持した。
【0108】
得られた熱伝導シート(IV)の耐熱試験後の剥離除去性は優良であり、残渣が認められなかった(S判定)。またHAST耐性試験後の剥離除去性は優良であり、残渣が認められなかった(S判定)。
【0109】
【表1】



【0110】
(比較例1)
スチレン-イソブテン共重合体(A)とポリイソブテン(C)は用いず、代わりの樹脂として、固形カルボキシル基変性NBR(日本ゼオン(株)製、商品名:Nippol 1072、重量平均分子量:25万、カルボキシル基濃度:0.75(KOHmg/g))140g、アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:HTR−280改2DR、共重合質量比:82/10/3/5、Tg:−39℃、重量平均分子量:53万):288g、液状カルボキシル基変性NBR(日本ゼオン(株)製、商品名:Nippol DN601、重量平均分子量:6.8万、カルボキシル基濃度:0.75(KOHmg/g))143gを用い、更に硬化剤としてネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、商品名:EX-211(エポキシ当量:138)57gを用いた。これに、無機粒子(B)として、鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成工業株式会社製、商品名:HGF−L、質量平均径:270μm、前述のX線回折測定を用いた方法により、結晶中の六員環面が、鱗片の面方向に配向していることを確認した。):2156g、難燃剤(D)としてビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(りん酸エステル系難燃剤、大八化学工業株式会社製、商品名:CR−741)1228gを4L加圧ニーダに投入し、到達温度130℃の条件で混練し、組成物を得た。(A)、(B)、(C)、(D)の全体に対する含有率はこの順に0質量%、53.9質量%、0質量%、30.6質量%であり、スチレン-イソブテン共重合体(A)とポリイソブテン(C)は含んでおらず、バインダ成分はNBR系及びアクリル系の樹脂とその硬化剤からなっていた。
【0111】
得られた組成物をもちいたこと以外は実施例1と同様に操作し、1次シートを得た。
得られた一次シートを、40mm×150mmの型刃を用いてプレス打ち抜きし、打ち抜いたシートを61枚積層し、高さが80mmになるよう、高さ80mmのスペーサを挟んで積層方向に150℃で120分間圧力をかけ、熱硬化された成形体を得た。
次いで、この成形体の80mm×150mmの積層断面を木工用スライサーを用いてスライスし、縦80mm×横150mm×厚さ0.15mmの熱伝導シート(V)を得た。
【0112】
この熱伝導シート(V)の断面をSEMで観察し、任意の50個の黒鉛粒子(B)について見えている方向から、鱗片の長軸方向(面方向)の熱伝導シート表面に対する角度を測定したところ、角度の平均値は90度であり、黒鉛粒子(B)の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。
【0113】
得られた熱伝導シート(V)について、実施例1と同様にして以下のような評価を行なった。評価結果を表2に示す。なお、表2中「−」は未配合であることを示す。
【0114】
得られた熱伝導シート(V)の初期熱抵抗は0.051(K・cm/W)と良好な値を示した。
また耐熱試験後の熱抵抗は0.161(K・cm/W)と3倍以上悪化した。さらにHAST耐性試験後の熱抵抗は0.088(K・cm/W)と悪化が認められた。
【0115】
得られた熱伝導シート(V)の初期屈曲性は2.0mm未満と良好であった。
また耐熱試験後の屈曲性は8.0mmと顕著な悪化が認められた。手触りとしても硬く、脆くなったことが明確に分かった。さらにHAST耐性試験後の屈曲性は2.0mmと悪化が検出された。手触りとしても初期より硬くなったことが分かった。
【0116】
得られた熱伝導シート(V)の初期タック力は4.6kPaと仮固定に充分な値を示した。
また耐熱試験後のタック力は0.2kPaとタック力をほぼ失った。さらにHAST耐性試験後のタック力は0.2kPaとタック力をほぼ失った。
【0117】
得られた熱伝導シート(V)の耐熱試験後の剥離除去性は悪く、固着していた(C判定)。またHAST耐性試験後の剥離除去性は悪く、固着していた(C判定)。
【0118】
(比較例2)
スチレン-イソブテン共重合体(A)とポリイソブテン(C)は用いず、代わりの樹脂として、アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:HTR−280改2DR、共重合質量比:82/10/3/5、Tg:−39℃、重量平均分子量:53万):938gを用い、更に硬化剤としてビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鐵化学(株)製、YDF-8170C)62.9gを用いた。これに、黒鉛及び/又は六方晶窒化ほう素(B)として、鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成工業株式会社製、商品名:HGF−L、質量平均径:270μm、前述のX線回折測定を用いた方法により、結晶中の六員環面が、鱗片の面方向に配向していることを確認した。):2156g、難燃剤(D)としてビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(りん酸エステル系難燃剤、大八化学工業株式会社製、商品名:CR−741)845gを4L加圧ニーダに投入し、到達温度130℃の条件で混練し、組成物を得た。(A)、(B)、(C)、(D)の全体に対する含有率はこの順に0質量%、53.9質量%、0質量%、21.1質量%であり、スチレン-イソブテン共重合体(A)とポリイソブテン(C)は含んでおらず、バインダ成分はアクリル系の樹脂とその硬化剤から成っていた。
【0119】
得られた組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様に操作し、1次シートを得た。
得られた一次シートを、40mm×150mmの型刃を用いてプレス打ち抜きし、打ち抜いたシートを61枚積層し、高さが80mmになるよう、高さ80mmのスペーサを挟んで積層方向に70℃で2分間圧力をかけ、成形体を得た。この成形体を剥離処理されたPETフィルム及びアルミ箔でくるみ、170℃のオーブン中に8時間入れて熱硬化された成形体を得た。
次いで、この成形体の80mm×150mmの積層断面を木工用スライサーを用いてスライスし、縦80mm×横150mm×厚さ0.15mmの熱伝導シート(VI)を得た。
【0120】
得られた熱伝導シート(VI)の断面をSEMで観察し、任意の50個の黒鉛粒子(B)について見えている方向から、鱗片の長軸方向(面方向)の熱伝導シート表面に対する角度を測定したところ、角度の平均値は88度であり、黒鉛粒子(B)の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。
【0121】
得られた熱伝導シート(VI)について、実施例1と同様にして以下のような評価を行なった。評価結果を表2に示す。
【0122】
得られた熱伝導シート(VI)の初期熱抵抗は0.062(K・cm/W)と良好な値を示した。
また耐熱試験後の熱抵抗は0.072(K・cm/W)と少し悪化した。さらにHAST耐性試験後の熱抵抗は0.22(K・cm/W)と3倍以上悪化した。
【0123】
得られた熱伝導シート(VI)の初期屈曲性は2.0mm未満と良好であった。
また耐熱試験後の屈曲性は2.0mm未満と良好な値を保持した。手触りはごくわずかに硬くなった。さらにHAST耐性試験後の屈曲性は2.0mmと悪化が検出された。手触りとしても初期より硬くなったことが分かった。
【0124】
得られた熱伝導シート(VI)の初期タック力は0.6kPaとやや弱かった。
また耐熱試験後のタック力は0.3kPaとタック力をほぼ失った。さらにHAST耐性試験後のタック力は0.3kPaとタック力をほぼ失った。
【0125】
得られた熱伝導シート(VI)の耐熱試験後の剥離除去性は悪く、固着していた(C判定)。またHAST耐性試験後の剥離除去性は悪く、固着していた(C判定)。
【0126】
(比較例3)
スチレン-イソブテン共重合体(A)は用いず、代わりの樹脂として、アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:HTR−280改2DR、共重合質量比:82/10/3/5、Tg:−39℃、重量平均分子量:53万):531gを用い、更に硬化剤としてビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鐵化学(株)製、YDF-8170C)35.8gを用いた。これに、黒鉛及び/又は六方晶窒化ほう素(B)として、鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成工業株式会社製、商品名:HGF−L、質量平均径:270μm、前述のX線回折測定を用いた方法により、結晶中の六員環面が、鱗片の面方向に配向していることを確認した。):2156g、ポリイソブテン(C)として、ポリブテン200N(日油(株)製、数平均分子量2650、100℃における動粘度4.1×10−3/s)434g、難燃剤(D)としてビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(りん酸エステル系難燃剤、大八化学工業株式会社製、商品名:CR−741)846gを4L加圧ニーダに投入し、到達温度130℃の条件で混練し、組成物を得た。(A)、(B)、(C)、(D)の全体に対する含有率はこの順に0質量%、53.9質量%、10.9質量%、21.1質量%であり、スチレン-イソブテン共重合体(A)は含んでおらず、代わりの成分はアクリル系の樹脂とその硬化剤から成っていた。
【0127】
得られた組成物を用いたこと以外は、比較例2と同様に操作し、縦80mm×横150mm×厚さ0.15mmの熱伝導シート(VII)を得た。
【0128】
この熱伝導シート(VII)の断面をSEMで観察し、任意の50個の黒鉛粒子(B)について見えている方向から、鱗片の長軸方向(面方向)の熱伝導シート表面に対する角度を測定したところ、角度の平均値は89度であり、黒鉛粒子(B)の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。
【0129】
得られた熱伝導シート(VII)について、実施例1と同様にして以下のような評価を行なった。評価結果を表2に示す。
【0130】
得られた熱伝導シート(VII)の初期熱抵抗は0.043(K・cm/W)と良好な値を示した。
また耐熱試験後の熱抵抗は0.045(K・cm/W)と良好な値を保持した。さらにHAST耐性試験後の熱抵抗は0.061(K・cm/W)と少し悪化が認められた。
【0131】
得られた熱伝導シート(VII)の初期屈曲性は2.0mm未満と良好であった。
また耐熱試験後の屈曲性は2.0mm未満と良好な値を保持した。手触りとしても初期との違いは感じられなかった。さらにHAST耐性試験後の屈曲性は2.0mm未満と良好な値を保持した。手触りとしては初期よりわずかに硬くなったことが分かった。
【0132】
得られた熱伝導シート(VII)の初期タック力は7.9kPaと仮固定に充分な値を示した。
また耐熱試験後のタック力は0.6kPaとやや弱くなった。さらにHAST耐性試験後のタック力は0.3kPaとタック力をほぼ失った。
【0133】
得られた熱伝導シート(VII)の耐熱試験後の剥離除去性は良好であった(A判定)。またHAST耐性試験後の剥離除去性は良好であった(A判定)。
【0134】
(比較例4)
スチレン−イソブテン共重合体(A)は用いず、代わりの樹脂を特に用いず、ポリイソブテン(C)としての、ポリブテン200N(日油(株)製、数平均分子量2650、100℃における動粘度4.1×10−3/s)の配合量を1000gとその分増量した以外は(実施例1)と同様の配合により組成物を得た。(A)、(B)、(C)、(D)の全体に対する含有率はこの順に0質量%、53.9質量%、25.1質量%、21.1質量%であった。
【0135】
この組成物を押出機に入れ、幅20cm、1.5〜1.6mm厚の平板形状に押出そうとしたが、凝集力が無く、シート化できなかった。
【0136】
(比較例5)
ポリイソブテン(C)及びその他の樹脂を特に用いず、スチレン-イソブテン共重合体(A)としての、スチレン−イソブテン(別名:イソブチレン)-スチレントリブロックコポリマー(SIBS)((株)カネカ製SIBSTER102T、スチレン含有率15%)の配合量を1000gとその分増量した以外は(実施例1)と同様に操作し、縦80mm×横150mm×厚さ0.15mmの熱伝導シート(VIII)を得た。
(A)、(B)、(C)、(D)の全体に対する含有率はこの順に25.1質量%、53.9質量%、0質量%、21.1質量%であった。
【0137】
得られた熱伝導シート(VIII)の断面をSEMで観察し、任意の50個の黒鉛粒子(B)について見えている方向から、鱗片の長軸方向(面方向)の熱伝導シート表面に対する角度を測定したところ、角度の平均値は88度であり、黒鉛粒子(B)の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。
【0138】
得られた熱伝導シート(VIII)について、実施例1と同様にして以下のような評価を行なった。評価結果を表2に示す。
【0139】
得られた熱伝導シート(VIII)の初期熱抵抗は0.081(K・cm/W)とやや悪かった。
耐熱試験後の熱抵抗は0.085(K・cm/W)と悪化は認められなかった。さらにHAST耐性試験後の熱抵抗は0.082(K・cm/W)と悪化は認められなかった。
【0140】
得られた熱伝導シート(VIII)の初期屈曲性は2.0mm未満と良好であった。
また耐熱試験後の屈曲性は2.0mm未満と良好な値を保持した。手触りに変化は感じられなかった。さらにHAST耐性試験後の屈曲性は2.0mm未満と良好な値を保持した。手触りに変化は感じられなかった。
【0141】
得られた熱伝導シート(VIII)の初期タック力は0.3kPaとタック力がほとんどなかった。
また耐熱試験後のタック力は0.3kPaとタック力がほとんどなかった。さらにHAST耐性試験後のタック力は0.3kPaとタック力がほとんどなかった。
【0142】
得られたこの熱伝導シート(VIII)の耐熱試験後の剥離除去性は優良であり、残渣が認められず、S判定であった。またHAST耐性試験後の剥離除去性は優良であり、残渣が認められず、S判定であった。
【0143】
【表2】

【0144】
以上から、本発明の熱伝導シートは、優れた熱伝導性を有し、耐熱性、耐湿性及び剥離除去性に優れることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン−イソブテン共重合体(A)と、黒鉛粒子及び六方晶窒化ほう素粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機粒子(B)と、ポリイソブテン(C)とを含有する熱伝導シート。
【請求項2】
さらに難燃剤(D)を含有する請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記無機粒子(B)の形状が鱗片状、楕球状又は棒状であり、その六員環面が前記鱗片の面方向、前記楕球の長軸方向又は前記棒の長軸方向に配向しており、前記無機粒子(B)の前記鱗片の面方向、前記楕球の長軸方向又は前記棒の長軸方向が、厚み方向に配向している請求項1又は請求項2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記無機粒子(B)は鱗片状である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
熱可塑性を有する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項6】
前記スチレン−イソブテン共重合体(A)の含有率が5質量%〜25質量%であり、前記無機粒子(B)の含有率が50質量%〜75質量%であり、前記ポリイソブテン(C)の含有率が5質量%〜40質量%であり、前記難燃剤(D)の含有率が10質量%〜40質量%である請求項2〜請求項5のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項7】
前記スチレン−イソブテン共重合体(A)と、前記無機粒子(B)と、前記ポリイソブテン(C)とを含み、前記無機粒子(B)の前記鱗片の面方向、前記楕球の長軸方向又は前記棒の長軸方向が一定の方向に配向している成形体の、前記配向している方向に対して60°〜90°の角度を有する面に対して平行に、前記成形体からスライスされた切片である請求項3〜請求項6のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項8】
発熱体と、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の熱伝導シートと、放熱体とがこの順に積層された放熱装置。

【公開番号】特開2013−16647(P2013−16647A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148474(P2011−148474)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】