説明

熱伝導性シート及びその製造方法

【課題】発熱体からの放熱体の熱伝導の用途において、より好適に熱伝導性シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】熱伝導性シートは、熱伝導性高分子層12と、該高分子層12の一対の表面の内の少なくとも一方の表面上に形成される樹脂層13とを備える。熱伝導性高分子層12は、高分子マトリックスと、熱伝導性充填材とを含有する熱伝導性高分子組成物から成形される。樹脂層13は、高分子層12の表面に熱可塑性樹脂粉末14が付着した後に該粉末14が溶融することにより形成される。熱伝導性シートの製造方法は、熱伝導性高分子組成物を調製する工程、該組成物から熱伝導性高分子層12を成形する工程、該高分子層12の表面上に熱可塑性樹脂粉末14を付着させる工程、及び該粉末14を加熱して溶融させた後、溶融した熱可塑性樹脂を固化させて樹脂層13を形成する工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱体、例えば電子部品から発生した熱の放熱体への熱伝導に用いられる熱伝導性シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発熱体、例えば電子機器に実装されるCPU等の電子部品には、該電子部品の冷却を促進するために、ヒートシンク等の放熱体が装着されている。この放熱体は、発熱体から放熱体への熱伝導を促進するために、熱伝導性シートを介して発熱体に装着されている。この熱伝導性シートによって、発熱体から放熱体への熱伝導に寄与する伝熱面積が増大し、熱伝導の効率が高められる。
【0003】
熱伝導性シートでは一般的に、発熱体及び放熱体に対する追従性の向上と、密着性の向上とは、熱抵抗値の低下、すなわち熱伝導性能の向上に繋がる。そのため、より柔軟な熱伝導性シートが好ましい。ところが、熱伝導性シートの柔軟性を高めると、該シートの粘着性が高まる。そのため、熱伝導性シートの柔軟性及び粘着性に起因して、例えば該シートの保管時において複数のシートが積層された際にシート同士が粘着したり、シートの発熱体への取り付けが困難になったりすることから、熱伝導性シートの取り扱い性が低下するという問題が生じる。
【0004】
こうした実情に鑑み、特許文献1には、柔らかくて変形し易いシリコーン樹脂層上に、取り扱いに必要な強度を有するシリコーン樹脂層が積層された熱伝導性シートが開示されている。特許文献2には、柔軟なシリコーン樹脂組成物の硬化物に、該硬化物の破れ、しわ等の発生を防止するための、網目状物、樹脂製フィルム等からなる補強材が積層された熱伝導性シートが開示されている。特許文献3には、熱伝導性シートの粘着性の問題を改善するために、該シートの表面に窒化ホウ素粉体(ボロンナイトライド粉体)が付着した熱伝導性シートが開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された熱伝導性シートでは、柔らかくて変形し易い層と、該層と同様の材料により形成されたゴム状弾性体からなる層とから熱伝導性シートが構成されていることから、該シートに若干の粘着性が残るおそれがある。また、特許文献1に開示された、取り扱いに必要な強度を有するシリコーン樹脂層、及び特許文献2に開示された補強材は、柔らかくて変形し易い層に積層されており、該変形し易い層に固着されている。そのため、熱伝導性シート全体が圧縮されて前記変形し易い層がその表面に平行な方向に沿って広がる際に、その広がりに追従して前記シリコーン層及び補強材がそれらの表面に平行な方向に沿って延びるが、この延びには大きな荷重を要する。よって、発熱体と放熱体との充分な密着性を確保するため、比較的大きな圧縮荷重を熱伝導シートに加える必要があるという問題があった。
【0006】
また、熱伝導性シートでは一般的に、熱伝導性シートが製造された後、該シートが取り付けられる発熱体及び放熱体のサイズに合わせて裁断される。しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の熱伝導性シートでは、取り扱いに必要な強度を有するシリコーン樹脂層、及び補強材に起因して熱伝導性シートの裁断が困難であるという問題があった。更に、特許文献3に開示された熱伝導性シートでは、該シートの粘着性に起因して窒化ホウ素粉体がシートの表面に付着している。そのため、窒化ホウ素粉体が熱伝導性シートの表面から容易に脱落し、脱落した窒化ホウ素粉体の他部材及び作業者への付着が起きるといった問題があった。
【特許文献1】特開平2−196453号公報
【特許文献2】特開平7−14950号公報
【特許文献3】特開平6−96617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、発熱体からの放熱体への熱伝導の用途において、より好適に使用可能な熱伝導性シート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、高分子マトリックスと、熱伝導性充填材とを含有する熱伝導性高分子組成物から成形される熱伝導性高分子層と、前記熱伝導性高分子層の一対の表面の内の少なくとも一方の表面上に熱可塑性樹脂粉末が付着した後に該粉末が溶融することにより形成される樹脂層とを備える熱伝導性シートを提供する。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記樹脂層の一対の表面において外方に露出している表面上に突部が形成されている請求項1に記載の熱伝導性シートを提供する。
請求項3に記載の発明は、前記樹脂層の平均厚さが30μm以下に設定されている請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性シートを提供する。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記熱可塑性樹脂粉末がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂から選ばれる少なくとも一種から形成されている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱伝導性シートを提供する。
【0011】
請求項5に記載の発明は、前記熱伝導性高分子層が、ゲル状の軟質層と、該軟質層に比べて高い硬度を有する硬質層とを備える請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の熱伝導性シートを提供する。
【0012】
請求項6に記載の発明は、熱伝導性シートの製造方法であって、高分子マトリックスと、熱伝導性充填材とを含有する熱伝導性高分子組成物を調製する工程、前記熱伝導性高分子組成物から熱伝導性高分子層を成形する工程、前記熱伝導性高分子層の一対の表面の内の少なくとも一方の表面上に熱可塑性樹脂粉末を付着させる工程、及び前記熱可塑性樹脂粉末を加熱して該粉末を溶融させた後、溶融した熱可塑性樹脂を固化させて樹脂層を形成する工程を備える方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、発熱体からの放熱体への熱伝導の用途において、より好適に使用可能な熱伝導性シート及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明を熱伝導性シートに具体化した第1実施形態を図面に基づいて説明する。図1(a)及び(b)に示すように、熱伝導性シート11は、熱伝導性高分子組成物から成形される熱伝導性高分子層12と、該熱伝導性高分子層12の一対の表面12aの内の一方の表面12a上に形成されている樹脂層13とを備えている。以下の説明において、熱伝導性シート11を単にシート11と称し、熱伝導性高分子組成物を単に組成物と称し、熱伝導性高分子層12を単に高分子層12と称する。シート11は発熱体と放熱体との間に介在して用いられ、発熱した発熱体から放熱体への熱伝導を促進する。
【0015】
シート11には、熱伝導性及びハンドリング性が具備されている。熱伝導性は発熱体から放熱体への熱伝導のし易さを表す指標であり、主にシート11の熱伝導率、熱抵抗値、柔軟性、厚さ、並びに発熱体及び放熱体との密着性に起因している。シート11は、該シート11の熱伝導率が高いほど、熱抵抗値が小さいほど、厚さが薄いほど、且つ発熱体及び放熱体との密着性が高いほど、発熱体から放熱体への熱伝導を促進し、優れた熱伝導性を発揮する。また、シート11の柔軟性が高いほど、発熱体及び放熱体との密着性が高まるとともにシート11が圧縮され易く、低荷重でシート11の熱抵抗値を低下させることができる。
【0016】
ハンドリング性はシート11の運搬時などにおける該シート11の取り扱い易さを表す指標であり、主にシート11の粘着性に起因している。シート11は、該シート11の粘着性が小さいほど優れたハンドリング性を発揮し、運搬時などにおいて容易に取り扱われる。
【0017】
組成物は、高分子マトリックスと、熱伝導性充填材とを含有している。高分子マトリックスは、熱伝導性充填材を高分子層12内に保持する。高分子マトリックスの種類は特に限定されず、高分子層12に要求される性能、例えば機械的強度、耐熱性等の耐久性に応じて選択される。発熱体及び放熱体の形状への高分子層12の追従性が高いことから、高分子マトリックスとして、好ましくは高分子ゲル、ゴム、及び熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0018】
高分子ゲルとして、例えばシリコーンゲル、及びポリウレタンゲルが挙げられる。ゴムとして、例えば天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン共重合ゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ポリイソブチレンゴム、及びアクリルゴムが挙げられる。熱可塑性エラストマーとして、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、及びポリウレタン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらの具体例の内の一種のみが単独で用いられてもよいし、二種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0019】
高分子マトリックスとして熱硬化性の高分子材料が用いられる場合、高分子層12の成形の際に架橋剤が組成物に添加されて該組成物が硬化する。発熱体及び放熱体の形状への高分子層12の追従性が高いとともに、発熱体及び放熱体と高分子層12との密着性が高いことから、前記具体例の中でも、好ましくはシリコーン系、ポリイソブチレン系、及びアクリル系のゲル又はゴムから選ばれる少なくとも一種である。
【0020】
熱伝導性充填材は、高分子層12の熱伝導率を高めてシート11の熱伝導性を高める。熱伝導性充填材として、例えば金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、又は金属水酸化物の粉末が挙げられる。具体的には、熱伝導性充填材として、例えば酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素、石英、又は水酸化アルミニウムの粉末が挙げられる。また、熱伝導性充填材として、高い熱伝導性を有するとともに導電性を有する、炭素繊維、又はダイヤモンド、黒鉛、若しくはアルミニウムの粉末が挙げられる。これらの具体例の内の一種のみが単独で用いられてもよいし、二種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0021】
組成物中の熱伝導性充填材の含有量は、例えば高分子マトリックスの種類、及び高分子層12の組成に応じて適宜に設定されるが、好ましくは5〜90体積%である。熱伝導性充填材の含有量が5体積%未満の場合には、熱伝導性充填材が過剰に少ないことから、高分子層12が優れた熱伝導性を発揮することができないおそれがある。更に、熱伝導性充填材の材質に起因する、優れた難燃性などの物性を高分子層12が発揮することができないおそれがある。熱伝導性充填材の含有量が90体積%を超えると、組成物の粘度が過剰に高くなることから、高分子層12の成形が困難になるおそれがある。
【0022】
組成物は、例えば高分子層12の生産性、耐候性、及び耐熱性の向上を目的として、例えば可塑剤、補強材、着色剤、耐熱向上剤、カップリング剤、難燃剤、粘着剤、触媒、硬化遅延剤、劣化防止剤等を適量含有してもよい。
【0023】
高分子層12は四角板状を有しており、高分子マトリックスと熱伝導性充填材とを備えている。高分子層12は、熱伝導性充填材に起因して発熱体から放熱体への熱伝導を促進する。更に、高分子層12は、高分子マトリックスに起因して、適度な柔軟性を有するとともに粘着性を有している。
【0024】
高分子層12の熱伝導率は、発熱体から放熱体への熱伝導を効率的に行うことができることから、好ましくは1.0W/m・K以上である。また、日本工業規格であるJIS K 6253のタイプEの硬度計によって測定される高分子層12の硬度は、好ましくは60以下であり、より好ましくは5未満である。高分子層12の硬度が60を超える場合、発熱体及び放熱体の形状への追従性が十分に得られず、発熱体又は放熱体と高分子層12との密着性が低下してシート11の熱伝導性が低下するおそれがある。高分子層12の硬度が60以下の場合には、発熱体及び放熱体の表面が凹凸状を有する場合にも、発熱体及び放熱体の形状への高分子層12の追従性が良好となり、発熱体及び放熱体とシート11との密着性を十分に確保することができる。更に、60以下の硬度を有する高分子層12によってシート11の柔軟性が確保される。そのため、例えばシート11が取り付けられた発熱体に加わる衝撃をシート11が吸収することにより、発熱体を好適に保護することができる。
【0025】
高分子層12の厚さは特に限定されないが、好ましくは0.05〜5mmであり、より好ましくは0.05〜2.0mmである。高分子層12の厚さが0.05未満である場合、高分子層12に所望される硬度が得られ難くなったり、高分子層12の製造が困難になってシート11の生産性が低下し、該シート11の製造コストが嵩んだりするおそれがある。高分子層12の厚さが5mmを超えると、該高分子層12の厚さ方向における熱抵抗が高くなり、高分子層12に所望される熱伝導性が得られなくなるおそれがある。更に、高分子層12の単位面積当たりの質量が増加することから、シート11の製造コストが嵩んだり、該シート11が装着される例えば電子機器の軽量化が妨げられたりするおそれがある。高分子層12の厚さが0.05〜2.0mmに設定されることにより、該高分子層12の熱抵抗値を良好に低下させることができる。
【0026】
樹脂層13は高分子層12全体にわたって形成されており、高分子層12の一対の表面12aの内の少なくとも一方の表面12a上に熱可塑性樹脂粉末が付着した後に該粉末が溶融することにより形成される。熱可塑性樹脂として粉末状に形成可能な樹脂が挙げられ、例えばポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、及びポリカーボネート(PC)樹脂が挙げられる。更に、熱可塑性樹脂として、熱可塑性エラストマー、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、及びエステル系熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらの具体例の内の一種のみが単独で用いられてもよいし、二種以上が組み合わされて用いられてもよい。優れた柔軟性を有するとともに安価であることから、これらの具体例の中でも、好ましくはPE樹脂、PP樹脂、EVA樹脂、及びスチレン系熱可塑性エラストマーであり、より好ましくはPE樹脂、PP樹脂、及びEVA樹脂である。
【0027】
熱可塑性樹脂粉末の平均粒径は、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは30μm以下である。熱可塑性樹脂粉末の平均粒径が50μmを超えると、樹脂層13の平均厚さを50μm以下することが困難になる。更に、形成される樹脂層13の表面の凹凸が大きくなり、発熱体及び放熱体へのシート11の密着性が低下するおそれがある。熱可塑性樹脂粉末の平均粒径を30μm以下にすることにより、樹脂層13が薄く形成され、該樹脂層13に起因するシート11の熱伝導性の低下を抑制することができる。そのため、樹脂層13が省略されたシートと同等の熱伝導性を得ることができる。
【0028】
高分子層12の表面12aへの熱可塑性樹脂粉末の付着は不均一であり、不均一に付着した熱可塑性樹脂粉末の溶融、及び溶融した熱可塑性樹脂の固化によって樹脂層13が形成されることから、該樹脂層13の厚さは不均一である。樹脂層13の平均厚さは、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは30μm以下である。樹脂層13の平均厚さが50μmを超えると、過剰に厚い樹脂層13に起因してシート11の熱伝導性が低下するおそれがある。樹脂層13の平均厚さを30μm以下にすることにより、該樹脂層13に起因するシート11の熱伝導性の低下を抑制し、該樹脂層13が省略されたシートと同等の熱伝導性を得ることができる。
【0029】
本実施形態に係る樹脂層13では、図3(b)及び(c)に示すように、該樹脂層13の一対の表面13aにおいて外方に露出している表面13a上に複数の突部13bが形成されている。樹脂層13は、該樹脂層13中の熱可塑性樹脂に起因して、高分子層12に比べて低い粘着性を有するとともに高い硬度を有している。そのため、樹脂層13は、シート11の粘着性を低下させてハンドリング性を高めるとともに、高分子層12の補強材として作用する。
【0030】
シート11は、組成物を調製する工程と、該組成物から高分子層12を成形する工程と、該高分子層12の表面12a上に熱可塑性樹脂粉末14を付着させる工程と、樹脂層13を形成する工程とを経て製造される。
【0031】
組成物を調製する工程では、前記各成分が適宜に混合されて組成物が調製される。組成物の調製において、液状の高分子マトリックスが用いられる場合には周知の撹拌機が用いられ、固体状の高分子マトリックスが用いられる場合には周知の混練機が用いられる。
【0032】
高分子層12を成形する工程では、組成物を用いてシート状の高分子層12が成形される。高分子層12の成形方法は特に限定されず、具体例として、周知の成形方法、例えばバーコーター法、ドクターブレード法、コンマコーター法、カレンダー成形法、及びTダイ等を用いた押出成形法が挙げられる。
【0033】
熱可塑性樹脂粉末14を付着させる工程では、図3(a)に示すように、高分子層12の一対の表面の内の一方の表面上に熱可塑性樹脂粉末14が付着される。熱可塑性樹脂粉末14の付着方法として、例えば高分子層12の表面上に熱可塑性樹脂粉末14を落下させる方法、熱可塑性樹脂粉末14を高分子層12の表面に吹き付ける方法、及び熱可塑性樹脂粉末14が敷き詰められた容器内に高分子層12を入れて該高分子層12の表面を熱可塑性樹脂粉末14に接触させる方法が挙げられる。高分子層12は、高分子マトリックスに起因して粘着性を有している。そのため、熱可塑性樹脂粉末14は、高分子層12の表面に接触した際に該表面に付着する。
【0034】
高分子層12の表面12aへの熱可塑性樹脂粉末14の付着量は、該粉末14が高分子層12から脱落しない範囲内において適宜に設定される。熱可塑性樹脂粉末14の付着量は、該粉末14の例えば比重に依存しているが、例えば、好ましくは1〜30g/mの範囲である。
【0035】
樹脂層13を形成する工程では、まず高分子層12に付着した熱可塑性樹脂粉末14を加熱して該粉末14を溶融させた後、溶融した熱可塑性樹脂を固化させることにより樹脂層13が形成される。熱可塑性樹脂粉末14の加熱方法は特に限定されない。高分子マトリックスとして熱硬化性樹脂が用いられた際には、組成物をシート状に仮成形してシートを得た後、該シートの表面に熱可塑性樹脂粉末14を付着させ、更にシートを高温槽内に放置することが好ましい。この場合、シートの硬化による高分子層12の成形と、熱可塑性樹脂粉末14の溶融とを同時に行うことができる。また、高分子マトリックスとしてシリコーンゲル又はシリコーンゴムが用いられた際には、高分子層12の成形後に行われる2次加硫と、熱可塑性樹脂粉末14の溶融とが同時に行われてもよい。
【0036】
溶融した熱可塑性樹脂の固化手段は特に限定されず、例えば、冷却装置を用いて熱可塑性樹脂を冷却することなく、溶融した熱可塑性樹脂を室温(25℃)雰囲気下に放置することにより冷却して樹脂層13を形成してもよい。本実施形態では、熱可塑性樹脂粉末14の加熱温度及び加熱時間と、溶融した熱可塑性樹脂の冷却温度及び冷却時間とを適宜に調整することにより、以下の様にして樹脂層13の表面13a上に突部13bが形成される。
【0037】
即ち、例えば熱可塑性樹脂粉末14の加熱温度及び加熱時間の調整により、高分子層12の表面12aに付着した複数の熱可塑性樹脂粉末14の内の一部の熱可塑性樹脂粉末14のみが溶融したり、一つの熱可塑性樹脂粉末14の周縁部のみが溶融して中心部が溶融しなかったりする。そのため、樹脂層13中には、少なくとも一部が溶融していない熱可塑性樹脂粉末14が存在する。そして、樹脂層13中の熱可塑性樹脂粉末14によって、又は熱可塑性樹脂粉末14が樹脂層13の表面13a上に露出することによって突部13bが形成される。また、例えば溶融した熱可塑性樹脂の冷却温度及び冷却時間を調整することにより、溶融した熱可塑性樹脂が粒子形状を維持した状態で固化する。そのため、樹脂層13の表面13a上において粒子形状を維持した状態で固化した熱可塑性樹脂によって突部13bが形成される。
【0038】
シート11を発熱体及び放熱体に取り付ける際には、例えば基板上に配設された発熱体(例えば電子素子)上にシート11を載置する。このとき、例えば高分子層12が発熱体に対向している。続いて、シート11上に放熱体を載置した後、シート11が発熱体及び放熱体に密着するように、放熱体から発熱体に向かって荷重を加え、発熱体及び放熱体によってシート11を挟持する。
【0039】
前記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態に係るシート11は、高分子層12と、該高分子層12上に形成される樹脂層13とを備えている。樹脂層13は、高分子層12の表面12a上に熱可塑性樹脂粉末14が付着し、該粉末14が溶融した後に溶融した熱可塑性樹脂が固化することにより形成される。樹脂層13の粘着性は、該樹脂層13中の熱可塑性樹脂に起因して高分子層12に比べて低い。そのため、樹脂層13によりシート11のハンドリング性を高めることができる。
【0040】
また、樹脂層13は、前述したように熱可塑性樹脂粉末14の溶融及び溶融した熱可塑性樹脂の固化により形成される。そのため、樹脂層13の代わりに樹脂フィルムが高分子層12上に積層される場合に比べて、シート11の発熱体及び放熱体への取り付けの際にシート11に加えられる荷重を小さくすることができる。これは以下の理由による。即ち、本実施形態に係る高分子層12は、荷重が加えられた際に表面に平行な方向に広がり、樹脂層13は、荷重が加えられた際に表面に平行な方向に広がることなく容易に圧縮される。これに対して、樹脂層13の代わりに樹脂フィルムが用いられる場合には、該フィルムが高分子層12に固着されることから、高分子層12の広がりに追従してフィルムがその表面に平行な方向に延びる。しかしながら、樹脂フィルムは樹脂層13に比べて硬く、該フィルムがその表面に平行な方向に延びるのに大きな荷重を要する。そのため、樹脂フィルムが用いられた場合には、本実施形態に係るシート11に比べて圧縮に必要な荷重が大きくなる。
【0041】
更に、本実施形態に係るシート11は、樹脂層13の代わりに樹脂フィルムが高分子層12上に積層される場合に比べて容易に裁断可能である。これは以下の理由による。即ち、本実施形態に係る樹脂層13は通常、その製造方法に起因して、樹脂フィルムに比べて薄く形成されるとともに不均一な厚さに形成される。加えて、樹脂層13中には、例えば高分子層12上に付着した熱可塑性樹脂粉末14同士の間に存在し、溶融した熱可塑性樹脂中に混入した空気に起因する空隙が形成されている。そのため、樹脂層13は樹脂フィルムに比べて引き裂き強度が低く、容易に引き裂かれる。
【0042】
(2)樹脂層13は、高分子層12の表面12a上に熱可塑性樹脂粉末14が付着し、該粉末14が溶融した後に溶融した熱可塑性樹脂が固化することにより形成される。そのため、熱可塑性樹脂粉末14を高分子層12の表面12a全体にわたって付着させて該表面12a全体にわたって樹脂層13を形成したり、熱可塑性樹脂粉末14を高分子層12の表面12aの一部にのみ付着させて該表面12aの一部にのみ樹脂層13を形成したりすることができる。即ち、高分子層12上の所望の個所に樹脂層13を容易に形成することができ、シート11において高分子層12に起因する粘着性を有する個所と、樹脂層13に起因する粘着性を有しない個所とを容易に形成してシート11の設計のバリエーションを容易に広げることができる。
【0043】
(3)本実施形態の樹脂層13の一対の表面13aにおいて外方に露出している表面13a上に複数の突部13bが形成されている。そのため、各突部13bにより樹脂層13の表面粗さを高めて該樹脂層13の粘着性を低下させることができる。さらに、溶融していない熱可塑性樹脂粉末14が樹脂層13中に存在している場合、該熱可塑性樹脂粉末14と、該粉末14の周囲に位置する熱可塑性樹脂との間の界面に沿って樹脂層13が容易に引き裂かれることから、シート11をより容易に裁断することができる。
【0044】
(4)本実施形態に係るシート11では、樹脂層13は、高分子層12の一対の表面12aの内の一方の表面12a上のみに形成されている。そのため、高分子層12において、樹脂層13が形成されていないとともに外方に露出している表面12aは、高分子層12中の高分子マトリックスに起因して粘着性を有している。よって、シート11が発熱体及び放熱体に取り付けられる際には、高分子層12の露出している表面12aの粘着性に起因して、シート11を例えば発熱体に取り付けてシート11の位置ずれを防止することができる。
【0045】
(5)本実施形態に係るシート11は、組成物を調製する工程と、該組成物から高分子層12を成形する工程と、該高分子層12の表面12a上に熱可塑性樹脂粉末14を付着させる工程と、樹脂層13を形成する工程とを経て製造される。熱可塑性樹脂粉末14を付着させる工程では、高分子層12中の高分子マトリックスの粘着性に起因して、高分子層12に接触した熱可塑性樹脂粉末14は該高分子層12に付着する。そのため、接着剤及び粘着剤を用いることなく、熱可塑性樹脂粉末14を高分子層12に付着させることができる。よって、樹脂層13を容易に形成してシートを容易に製造することができる。
【0046】
(第2実施形態)
次に、本発明をシート11に具体化した第2実施形態を図面に基づいて説明する。第2実施形態では、第1実施形態との説明の重複を避けるために、第1実施形態と同一の部材については同一の符号を付してその説明を省略し、第1実施形態と同一の作用及び効果についてもその説明を省略する。
【0047】
図2(a)及び(b)に示すように、第2実施形態に係る高分子層12は、ゲル状の軟質層21と、該軟質層21に比べて高い硬度を有する硬質層22とから構成されている。具体的には、軟質層21の一対の表面21aの内の一方の表面21a上に硬質層22が形成されており、他方の表面21a上に樹脂層13が形成されている。
【0048】
軟質層21及び硬質層22はともに第1実施形態に係る組成物により形成されている。JIS K 6253のタイプEの硬度計によって測定される軟質層21の硬度は例えば5未満であり、硬質層22の硬度は例えば5〜50である。
【0049】
前記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(6)本実施形態に係る高分子層12は軟質層21及び硬質層22とから構成されており、硬質層22、軟質層21、及び樹脂層13が順に積層されている。そのため、ゲル状の軟質層21を、該軟質層21よりも高い硬度を有する硬質層22及び樹脂層13で挟持することにより、硬質層22及び樹脂層13が軟質層21の補強材として作用して該軟質層21の形状を容易に保持することができる。
【0050】
前記各実施形態は、以下のように変更して具体化されてもよい。
・ 前記各実施形態において、高分子層12の両方の表面12a上に樹脂層13が形成されてもよい。この場合、一対の樹脂層13によってシート11のハンドリング性をより向上させることができる。
【0051】
・ 前記各実施形態において、全ての熱可塑性樹脂粉末14が溶融してもよい。このとき、樹脂層13の表面13a上には、熱可塑性樹脂粉末14に起因する突部13bは形成されない。
【0052】
・ 前記各実施形態において、シート11が発熱体及び放熱体に取り付けられる際に樹脂層13が発熱体に対向してもよい。
・ 第1実施形態に係る高分子層12は一層で構成されており、第2実施形態に係る高分子層12は軟質層21と硬質層22との二層で構成されているが、高分子層12が三層以上で構成されてもよい。
【実施例】
【0053】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、実施形態はこれらの実施例に限定されない。
(実施例1)
実施例1においては、以下の工程に従って図2に示す構成を有するシート11を得た。即ち、まず軟質層21を形成する組成物として、高分子マトリックスとしての液状のシリコーンポリマー100質量部と、熱伝導性充填材としての酸化アルミニウム粒子との、プラネタリーミキサーによる脱泡を行いつつ30分の混練を行って組成物を調製した。液状のシリコーンポリマーとして東レダウコーニング株式会社製のCY52−291を用いた。酸化アルミニウム粒子として、45μmの平均粒径を有する酸化アルミニウム粒子800質量部と、3μmの平均粒径を有する酸化アルミニウム粒子300質量部と、1.6μmの平均粒径を有する酸化アルミニウム粒子100質量部とを用いた。
【0054】
また、硬質層22を形成する組成物として、高分子マトリックスとしての液状のシリコーンポリマー100質量部と、熱伝導性充填材としての酸化アルミニウム粒子300質量部及び水酸化アルミニウム粒子150質量部との、プラネタリーミキサーによる脱泡を行いつつ30分の混練を行って組成物を調製した。液状のシリコーンポリマーとして東レダウコーニング株式会社製のCY52−291を用いた。前記酸化アルミニウム粒子の平均粒径は1.8μmであり、水酸化アルミニウムの平均粒径は35μmであった。
【0055】
次いで、各組成物をコンマコーター法によるシーティングラインにてシート状に形成し、硬化炉で1次加硫(10分/120℃)を行って軟質層21及び硬質層22を成形した。軟質層21の平均厚さは1.2mmであり、JIS K 6253のタイプEの硬度計によって測定される軟質層21の硬度は5未満であった。硬質層22の平均厚さは0.20mmであり、JIS K 6253のタイプEの硬度計によって測定される硬質層22の硬度は50であった。そして、軟質層21及び硬質層22を積層して高分子層12を得た。高分子層12の平均厚さは1.4mmであり、熱伝導率は3W/m・Kであった。
【0056】
次に、図3(a)に示すように、熱可塑性樹脂粉末14としての20μmの平均粒子径を有するPE粉末(三井化学株式会社製のMIPELON(登録商標)XM200)を、樹脂層13の平均厚さが約20μmとなるように、3.0g/mの割合で高分子層12の一方の表面12a上に付着させた。PE粉末が付着した高分子層12を150℃の恒温槽に入れ、該温度雰囲気下においてPE粉末を1時間加熱して該粉末を溶融させた。
【0057】
続いて、図3(b)及び(c)に示すように、高分子層12を室温雰囲気下に5分間放置することにより、溶融したPEを冷却して固化させて樹脂層13を形成してシート11を得た。そして、一辺の長さが10mmである正方形状にシート11を裁断して試験片を得た。
【0058】
(実施例2)
実施例2においては、樹脂層13の平均厚さが約30μmとなるように、6.0g/mの割合で高分子層12の一方の表面12a上にPE粉末を付着させた以外は、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0059】
(実施例3)
実施例3においては、樹脂層13の平均厚さが約40μmとなるように、9.8g/mの割合で高分子層12の一方の表面12a上にPE粉末を付着させた以外は、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0060】
(実施例4)
実施例4においては、樹脂層13の平均厚さが約45μmとなるように、12.3g/mの割合で高分子層12の一方の表面12a上にPE粉末を付着させた以外は、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0061】
(比較例1)
比較例1においては、樹脂層13を省略した以外は実施例1と同様にして試験片を得た。
【0062】
(実施例5)
実施例5においては、以下の工程に従って図1に示す構成を有するシート11を得た。即ち、まず組成物として、液状のシリコーンポリマー(東レダウコーニング株式会社製、CY52−291)100質量部と、熱伝導性充填材としての黒鉛化PBO炭素繊維50質量部、酸化アルミニウム粒子、及び水酸化アルミニウム粒子200質量部と、触媒との、プラネタリーミキサーによる脱泡を行いつつ30分の混練を行って組成物を調製した。黒鉛化PBO炭素繊維の平均繊維径は10μmであり、該炭素繊維の平均繊維長は100μmであった。酸化アルミニウム粒子として、3.5μmの平均粒径を有する酸化アルミニウム粒子100質量部と、1.6μmの平均粒径を有する酸化アルミニウム粒子100質量部とを用いた。水酸化アルミニウム粒子の平均粒径は8μmであった。
【0063】
次いで、組成物を金型ブレス成形によりシート状に仮成形した。仮成形したシートを磁場発生装置内に載置し、8テスラの磁束密度を有する磁場を組成物に印加して黒鉛化PBO炭素繊維を高分子層12の厚さ方向に沿って配向させた。続いて、恒温槽内でシートの1次加硫(150℃/1時間)及び2次加硫工程(150℃/2時間)を行って高分子層12を得た。高分子層12の厚さは約0.75mmであり、JIS K 6253のタイプEの硬度計によって測定される高分子層12の硬度は20であり、高分子層12の熱伝導率は15W/m・Kであった。
【0064】
次に、熱可塑性樹脂粉末14としての20μmの平均粒子径を有するPE粉末を、樹脂層13の平均厚さが約20μmとなるように、3.0g/mの割合で高分子層12の一方の表面12a上に付着させた。そして、実施例1と同様にして樹脂層13を形成して試験片を得た。
【0065】
(実施例6)
実施例6においては、熱可塑性樹脂粉末14として20μmの平均粒子径を有するPP粉末を用い、1次加硫後のシートの表面上にPP粉末を付着させた後に2次加硫を行ってPP粉末を溶融させた以外は、実施例5と同様にして試験片を得た。PPの付着割合は実施例5のPE粉末と同じである。
【0066】
(実施例7)
実施例7においては、熱可塑性樹脂粉末14として20μmの平均粒子径を有するEVA粉末を用い、1次加硫前のシートの表面上にEVA粉末を付着させた後に1次加硫を行ってEVA粉末を溶融させた以外は、実施例5と同様にして試験片を得た。EVAの付着割合は実施例5のPE粉末と同じである。
【0067】
(比較例2)
比較例2においては、樹脂層13を省略した以外は実施例5と同様にして試験片を得た。
【0068】
(比較例3)
比較例3においては、樹脂層13の代わりに5μmの厚さを有するPEフィルムを高分子層12の一方の表面12a全体にわたって積層した以外は、実施例5と同様にして試験片を得た。
【0069】
そして、各例に係る試験片に関して以下の各項目の測定及び評価を行った。それらの結果を表1及び表2に示す。表1中の“シート”欄中の“軟質層の硬度(E)”欄は、JIS K 6253のタイプEの硬度計によって測定される軟質層21の硬度を示し、“硬質層の硬度(E)”欄は、前記硬度計によって測定される硬質層22の硬度を示す。表2中の“高分子層の硬度(E)”欄は、JIS K 6253のタイプEの硬度計によって測定される高分子層12の硬度を示す。また、各表中において、“樹脂層”欄中の“厚さ(μm)”は樹脂層13の平均厚さ(μm)を示すが、比較例3においては樹脂層13の代わりにPEフィルムが用いられることから、比較例3においてはPEフィルムの厚さを示す。
【0070】
<熱抵抗値>
実施例1〜4及び比較例1に係る試験片については、図4に示すように、基板24上の発熱体25及び放熱体26で試験片27を挟持し、放熱体26上に重り28を載置して、試験片27が表1に示す厚さになるまで圧縮されるように荷重を試験片27に加えた。これは、軟質層21の硬度が5未満であるために軟質層21が極めて柔軟であることから、一定の荷重を試験片27に加えた状態で熱抵抗値を測定した場合に比べて、一定の厚さに圧縮されるように試験片27に荷重を加えた状態で熱抵抗値を測定した方が、算出された熱抵抗値の信頼性が高まるためである。そして、発熱体25が発熱した状態で10分間放置した後、試験片27における発熱体25側の外面の温度Tと放熱体26側の外面の温度Tとを測定機29により測定した。そして、下記式(1)により試験片27の熱抵抗値を算出した。発熱体25は通常、CPUに代表される電子部品であるが、シートの性能評価の簡素化および迅速化のため、本試験では発熱体25として発熱量が4Wであるヒータを用いた。
【0071】
熱抵抗値(℃/W)=(T(℃)−T(℃))/発熱量(W)…(1)
一方、実施例5〜7及び比較例2、3に係る試験片27については、発熱体25として発熱量が25Wであるヒータを使用し、試験片27に一定の荷重(50N/cm)を加えた状態で各温度T及びTを測定した以外は、実施例1〜4及び比較例1の場合と同様にして熱抵抗値を算出した。これは、実施例5〜7及び比較例2、3に係る高分子層12が実施例1〜4及び比較例1に係る軟質層21の程度にまで柔軟でないことから、一定の荷重が加えられた状態での各試験片27の熱抵抗値を比較することができるためである。
【0072】
<ハンドリング性>
各例の試験片27の粘着性に基づいて、該試験片27のハンドリング性を評価した。各表の“ハンドリング性”欄において、“○”は、試験片27の粘着性が適度に低く、該試験片27の取り扱いが容易であったことを示し、“×”は、試験片27の粘着性が高く、該試験片27の取り扱いが困難であったことを示す。
【0073】
【表1】


表1に示すように、実施例1〜4に係るシート11においては、各項目について優れた評価及び結果が得られた。具体的には、実施例1〜4に係るシート11は、その粘着性をほとんど感じない程度にまで緩和することができ、ハンドリング性を向上させることができた。更に、硬質層22と樹脂層13とにより、ゲル状の軟質層21の形状を保持することができ、シート11のハンドリング性を向上させることができた。そのため、実施例1〜4に係るシート11は、発熱体25からの放熱体26への熱伝導の用途において、より好適に使用可能である。更に、実施例1及び実施例2に係るシート11の熱抵抗値は、実施例3及び実施例4に係るシート11の熱抵抗値に比べて低かった。この結果より、樹脂層13の平均厚さを30μm以下にすることにより、シート11の熱伝導性を高めることができることが分かった。
【0074】
一方、比較例1に係るシートでは、樹脂層13が省略されているとともに軟質層21が高い柔軟性を有していることから、シートの粘着性が高くてその取り扱いが困難であった。
【0075】
表2に示すように、実施例5〜7に係るシート11においては、各項目について優れた評価及び結果が得られた。具体的には、実施例5〜7に係るシート11は、その粘着性をほとんど感じない程度にまで緩和することができ、ハンドリング性を向上させることができた。更に、実施例5〜7に係る樹脂層13は比較例3に係るPEフィルムに比べて厚く形成されているが、実施例5〜7に係るシート11は、比較例3に係るシートに比べて熱抵抗値を大幅に低下させて熱伝導性を高めることができた。これは、比較例3に係るシートは、高分子層12上に積層されたフィルムにより、実施例5〜7に係るシート11に比べて圧縮され難くなったためと考えられる。
【0076】
一方、比較例2に係るシートでは、樹脂層13が省略されていることから、シートの粘着性が高くてその取り扱いが困難であった。比較例3に係るシートでは、前述したように熱抵抗値が高く、実施例5〜7に係るシートに比べて熱伝導性が劣っていた。
【0077】
更に、実施例1〜7に係るシート11では、比較例3に係るシートに比べてシート11の裁断を容易に行うことができた。これは以下の理由によるものと考えられる。即ち、溶融していない熱可塑性樹脂粉末14が樹脂層13中に存在しており、例えば該粉末14が樹脂層13の表面上に露出している。そのため、フィルムに比べて樹脂層13の引き裂き強度は測定不能な程に小さく、該樹脂層13がフィルムに比べて引き裂かれ易い。
【0078】
(実施例8)
実施例8においては、実施例1と同様にしてシート11を得た。そして、熱可塑性樹脂粉末14の付着前における軟質層21の表面21aと、樹脂層13の表面13aとの算術平均粗さRa、最大高さRy、及び十点平均粗さRzを、超深度形状測定顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK8500)を用いて測定した。測定領域は300μm四方(90000μm)であった。また、測定を異なる個所にて3回行った。軟質層21の表面における測定結果を表3に示し、樹脂層13の表面における測定結果を表4に示す。表3及び表4において、“長さ(X)(μm)”は測定領域のX軸方向における長さを示し、“長さ(Y)(μm)”は測定領域のY軸方向における長さを示し、“面積(μm)”は測定領域の面積を示す。更に、1回目の測定の際の軟質層21の表面21aの3D画像を図5に示し、1回目の測定の際の樹脂層13の表面13aの表面の3D画像を図6に示す。
【0079】
【表2】


表3、4及び図5、6に示すように、樹脂層13の表面粗さは、軟質層21の表面粗さに比べて高かった。これは、樹脂層13の厚さが不均一であり、且つ樹脂層13の表面13aに複数の突部13bが形成されているためと考えられる。そのため、表面粗さが適度に高い樹脂層13によりシート11の粘着性を低下させ、該シート11のハンドリング性を高めることができることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】(a)は第1実施形態に係る熱伝導性シートを示す斜視図、(b)は熱伝導性シートを示す断面図。
【図2】(a)は第2実施形態に係る熱伝導性シートを示す斜視図、(b)は熱伝導性シートを示す断面図。
【図3】(a)〜(c)は熱伝導性シートの電子顕微鏡写真を示す図。
【図4】熱抵抗値の求め方を示す概略図。
【図5】軟質層の表面粗さを示す図。
【図6】樹脂層の表面粗さを示す図。
【符号の説明】
【0081】
11…熱伝導性シート、12…熱伝導性高分子層、12a…表面、13…樹脂層、13a…表面、13b…突部、14…熱可塑性樹脂粉末、21…軟質層、22…硬質層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子マトリックスと、熱伝導性充填材とを含有する熱伝導性高分子組成物から成形される熱伝導性高分子層と、
前記熱伝導性高分子層の一対の表面の内の少なくとも一方の表面上に熱可塑性樹脂粉末が付着した後に該粉末が溶融することにより形成される樹脂層とを備えることを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項2】
前記樹脂層の一対の表面において外方に露出している表面上に突部が形成されている請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
前記樹脂層の平均厚さが30μm以下に設定されている請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂粉末がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、及びエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂から選ばれる少なくとも一種から形成されている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
前記熱伝導性高分子層が、ゲル状の軟質層と、該軟質層に比べて高い硬度を有する硬質層とを備える請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
熱伝導性シートの製造方法であって、
高分子マトリックスと、熱伝導性充填材とを含有する熱伝導性高分子組成物を調製する工程、
前記熱伝導性高分子組成物から熱伝導性高分子層を成形する工程、
前記熱伝導性高分子層の一対の表面の内の少なくとも一方の表面上に熱可塑性樹脂粉末を付着させる工程、及び
前記熱可塑性樹脂粉末を加熱して該粉末を溶融させた後、溶融した熱可塑性樹脂を固化させて樹脂層を形成する工程を備えることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−241440(P2009−241440A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91411(P2008−91411)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【Fターム(参考)】