説明

熱処理用サセプタおよび熱処理装置

【課題】フラッシュランプからの閃光照射時の基板の割れを防止することができる熱処理用サセプタおよび熱処理装置を提供する。
【解決手段】フラッシュランプから閃光を照射してフラッシュ加熱を行うときに半導体ウェハーWを保持するサセプタ72に、上方に向かって開口が広くなる円錐台形状の凹部78が形設されている。円錐台形状の上底面(凹部78の開口面)は半導体ウェハーWの平面サイズよりも大きく、下底面(凹部78の底面78a)は半導体ウェハーWの平面サイズよりも小さい。凹部78が形成されたサセプタ72によって半導体ウェハーWを保持するときには、凹部78のテーパ面78bによって半導体ウェハーWの周端部が支持されることとなる。その結果、半導体ウェハーWの下面とサセプタ72の上面と間に気体層を挟み込んだ隙間が形成されることとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体ウェハーや液晶表示装置用ガラス基板等(以下、単に「基板」と称する)を熱処理するときにその処理対象となる基板を保持する熱処理用サセプタおよびその熱処理用サセプタを備えた熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、イオン注入後の半導体ウェハーのイオン活性化工程においては、ハロゲンランプを使用したランプアニール装置が一般的に使用されていた。このようなランプアニール装置においては、半導体ウェハーを、例えば、1000℃ないし1100℃程度の温度に加熱(アニール)することにより、半導体ウェハーのイオン活性化を実行している。そして、このような熱処理装置においては、ハロゲンランプより照射される光のエネルギーを利用することにより、毎秒数百度程度の速度で基板を昇温する構成となっている。
【0003】
一方、近年、半導体デバイスの高集積化が進展し、ゲート長が短くなるにつれて接合深さも浅くすることが望まれている。しかしながら、毎秒数百度程度の速度で半導体ウェハーを昇温する上記ランプアニール装置を使用して半導体ウェハーのイオン活性化を実行した場合においても、半導体ウェハーに打ち込まれたボロンやリン等のイオンが熱によって深く拡散するという現象が生ずることが判明した。このような現象が発生した場合においては、接合深さが要求よりも深くなり過ぎ、良好なデバイス形成に支障が生じることが懸念される。
【0004】
このため、キセノンフラッシュランプ等を使用して半導体ウェハーの表面に閃光を照射することにより、イオンが注入された半導体ウェハーの表面のみを極めて短時間(数ミリセカンド以下)に昇温させる技術が提案されている。キセノンフラッシュランプの放射分光分布は紫外域から近赤外域であり、従来のハロゲンランプよりも波長が短く、シリコンの半導体ウェハーの基礎吸収帯とほぼ一致している。よって、キセノンフラッシュランプから半導体ウェハーに閃光を照射したときには、透過光が少なく半導体ウェハーを急速に昇温することが可能である。また、数ミリセカンド以下の極めて短時間の閃光照射であれば、半導体ウェハーの表面近傍のみを選択的に昇温できることも判明している。このため、キセノンフラッシュランプによる極短時間の昇温であれば、イオンを深く拡散させることなく、イオン活性化のみを実行することができるのである。
【0005】
キセノンフラッシュランプを使用した熱処理装置においては、極めて高いエネルギーを有する光を瞬間的に半導体ウェハーに照射するため、一瞬で半導体ウェハーの表面温度が急速に上昇し、ウェハー表面に急激な熱膨張が生じて半導体ウェハーが高い確率で割れていた。このようなキセノンフラッシュランプを使用した熱処理特有の割れを解決するために、例えば特許文献1,2には半導体ウェハーを保持するサセプタのウェハポケットの周縁部にテーパを形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−179510号公報
【特許文献2】特開2004−247339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2に開示されているような技術を用いることによって、キセノンフラッシュランプを使用した場合における半導体ウェハーの割れをある程度は防止できるようになったものの、半導体ウェハーの種類や熱処理条件(予備加熱温度、照射エネルギー)によって依然として相当な頻度で割れが生じていた。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、フラッシュランプからの閃光照射時の基板の割れを防止することができる熱処理用サセプタおよび熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、フラッシュランプから基板に閃光を照射することによって該基板の熱処理を行うときに該基板を保持する熱処理用サセプタにおいて、上方に向かって開口が広くなる円錐台形状の凹部を備え、前記円錐台形状の上底面は前記基板の平面サイズよりも大きく、下底面は該平面サイズよりも小さいことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、基板に対して閃光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置において、フラッシュランプを有する光源と、前記光源の下方に設けられ、前記フラッシュランプから出射された閃光を透過するチャンバー窓を上部に備えるチャンバーと、前記チャンバー内にて基板を略水平姿勢にて保持する保持手段と、を備え、前記保持手段は、請求項1の発明に係る熱処理用サセプタを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、熱処理用サセプタに上方に向かって開口が広くなる円錐台形状の凹部を備え、その円錐台形状の上底面を基板の平面サイズよりも大きく、下底面を該平面サイズよりも小さくしているため、該凹部に基板を保持すると熱処理用サセプタの表面と基板裏面との間に気体層の隙間が形成され、フラッシュランプからの閃光照射時の基板の割れを防止することができる。
【0012】
また、請求項2の発明によれば、熱処理装置の保持手段が請求項1の発明に係る熱処理用サセプタを有しているため、該熱処理装置にて閃光照射により熱処理を行うときに基板の割れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る熱処理装置の構成を示す側断面図である。
【図2】図1の熱処理装置のガス路を示す断面図である。
【図3】図1の熱処理装置のホットプレートを示す平面図である。
【図4】図1の熱処理装置の構成を示す側断面図である。
【図5】サセプタの一例を示す断面図である。
【図6】本発明に係る熱処理用サセプタの他の例を示す断面図である。
【図7】図6の熱処理用サセプタの平面図である。
【図8】本発明に係る熱処理用サセプタの他の例を示す断面図である。
【図9】図8の熱処理用サセプタの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
まず、本発明に係る熱処理装置の全体構成について概説する。図1は、本発明に係る熱処理装置1の構成を示す側断面図である。熱処理装置1は基板として円形の半導体ウェハーWに閃光を照射してその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール装置である。
【0016】
熱処理装置1は、半導体ウェハーWを収容する略円筒形状のチャンバー6を備える。チャンバー6は、略円筒状の内壁を有するチャンバー側部63、および、チャンバー側部63の下部を覆うチャンバー底部62によって構成される。また、チャンバー側部63およびチャンバー底部62によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。熱処理空間65の上方は上部開口60とされている。
【0017】
また、熱処理装置1は、上部開口60に装着されて上部開口60を閉塞する閉塞部材である透光板61、チャンバー6の内部において半導体ウェハーWを保持しつつ予備加熱を行う略円板状の保持部7、保持部7をチャンバー6の底面であるチャンバー底部62に対して昇降させる保持部昇降機構4、保持部7に保持される半導体ウェハーWに透光板61を介して光を照射することにより半導体ウェハーWを加熱する光照射部5、および、これらの構成を制御して熱処理を行う制御部3を備える。
【0018】
チャンバー6は、光照射部5の下方に設けられている。チャンバー6の上部に設けられた透光板61は、例えば、石英等により形成された円板形状部材であり、光照射部5から出射された光を透過して熱処理空間65に導くチャンバー窓として機能する。チャンバー6の本体を構成するチャンバー底部62およびチャンバー側部63は、例えば、ステンレススチール等の強度と耐熱性に優れた金属材料にて形成されており、チャンバー側部63の内側面の上部のリング631は、光照射による劣化に対してステンレススチールより優れた耐久性を有するアルミニウム(Al)合金等で形成されている。
【0019】
また、熱処理空間65の気密性を維持するために、透光板61とチャンバー側部63とはOリングによってシールされている。すなわち、透光板61の下面周縁部とチャンバー側部63との間にOリングを挟み込むとともに、クランプリング90を透光板61の上面周縁部に当接させ、そのクランプリング90をチャンバー側部63にネジ止めすることによって、透光板61をOリングに押し付けている。
【0020】
チャンバー底部62には、保持部7を貫通して半導体ウェハーWをその下面(光照射部5からの光が照射される側とは反対側の面)から支持するための複数(本実施の形態では3本)の支持ピン70が立設されている。支持ピン70は、例えば石英により形成されており、チャンバー6の外部から固定されているため、容易に取り替えることができる。
【0021】
チャンバー側部63は、半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部66を有し、搬送開口部66は、軸662を中心に回動するゲートバルブ185により開閉可能とされる。チャンバー側部63における搬送開口部66とは反対側の部位には熱処理空間65に処理ガス(例えば、窒素(N2)ガスやヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス等の不活性ガス、あるいは、酸素(02)ガス等)を導入する導入路81が形成され、その一端は弁82を介して図示省略の給気機構に接続され、他端はチャンバー側部63の内部に形成されるガス導入チャンネル83に接続される。また、搬送開口部66には熱処理空間65内の気体を排出する排出路86が形成され、弁87を介して図示省略の排気機構に接続される。
【0022】
図2は、チャンバー6をガス導入チャンネル83の位置にて水平面で切断した断面図である。図2に示すように、ガス導入チャンネル83は、図1に示す搬送開口部66の反対側においてチャンバー側部63の全周の約1/3に亘って形成されており、導入路81を介してガス導入チャンネル83に導かれた処理ガスは、複数のガス供給孔84から熱処理空間65内へと供給される。
【0023】
図1に示す保持部昇降機構4は、略円筒状のシャフト41、移動板42、ガイド部材43(本実施の形態ではシャフト41の周りに3本配置される)、固定板44、ボールネジ45、ナット46およびモータ40を有する。チャンバー6の下部であるチャンバー底部62には保持部7よりも小さい直径を有する略円形の下部開口64が形成されており、ステンレススチール製のシャフト41は、下部開口64を挿通して、保持部7(厳密には保持部7のホットプレート71)の下面に接続されて保持部7を支持する。
【0024】
移動板42にはボールネジ45と螺合するナット46が固定されている。また、移動板42は、チャンバー底部62に固定されて下方へと伸びるガイド部材43により摺動自在に案内されて上下方向に移動可能とされる。また、移動板42は、シャフト41を介して保持部7に連結される。
【0025】
モータ40は、ガイド部材43の下端部に取り付けられる固定板44に設置され、タイミングベルト401を介してボールネジ45に接続される。保持部昇降機構4により保持部7が昇降する際には、駆動部であるモータ40が制御部3の制御によりボールネジ45を回転し、ナット46が固定された移動板42がガイド部材43に沿って鉛直方向に移動する。この結果、移動板42に固定されたシャフト41が鉛直方向に沿って移動し、シャフト41に接続された保持部7が図1に示す半導体ウェハーWの受渡位置と図4に示す半導体ウェハーWの熱処理位置との間で滑らかに昇降する。
【0026】
移動板42の上面には略半円筒状(円筒を長手方向に沿って半分に切断した形状)のメカストッパ451がボールネジ45に沿うように立設されており、仮に何らかの異常により移動板42が所定の上昇限界を超えて上昇しようとしても、メカストッパ451の上端がボールネジ45の端部に設けられた端板452に突き当たることによって移動板42の異常上昇が防止される。これにより、保持部7が透光板61の下方の所定位置以上に上昇することはなく、保持部7と透光板61との衝突が防止される。
【0027】
また、保持部昇降機構4は、チャンバー6の内部のメンテナンスを行う際に保持部7を手動にて昇降させる手動昇降部49を有する。手動昇降部49はハンドル491および回転軸492を有し、ハンドル491を介して回転軸492を回転することより、タイミングベルト495を介して回転軸492に接続されるボールネジ45を回転して保持部7の昇降を行うことができる。
【0028】
チャンバー底部62の下側には、シャフト41の周囲を囲み下方へと伸びる伸縮自在のベローズ47が設けられ、その上端はチャンバー底部62の下面に接続される。一方、ベローズ47の下端はベローズ下端板471に取り付けられている。べローズ下端板471は、鍔状部材411によってシャフト41にネジ止めされて取り付けられている。保持部昇降機構4により保持部7がチャンバー底部62に対して上昇する際にはベローズ47が収縮され、下降する際にはべローズ47が伸張される。そして、保持部7が昇降する際にも、ベローズ47が伸縮することによって熱処理空間65内の気密状態が維持される。
【0029】
保持部7は、半導体ウェハーWを予備加熱(いわゆるアシスト加熱)するホットプレート(加熱プレート)71、および、ホットプレート71の上面(保持部7が半導体ウェハーWを保持する側の面)に設置されるサセプタ72を有する。保持部7の下面には、既述のように保持部7を昇降するシャフト41が接続される。サセプタ72は石英(あるいは、窒化アルミニウム(AIN)等であってもよい)により形成され、その上面には半導体ウェハーWの位置ずれを防止するピン75が設けられる。サセプタ72は、その下面をホットプレート71の上面に面接触させてホットプレート71上に設置される。これにより、サセプタ72は、ホットプレート71からの熱エネルギーを拡散してサセプタ72上面に載置された半導体ウェハーWに伝達するとともに、メンテナンス時にはホットプレート71から取り外して洗浄可能とされる。
【0030】
図5は、本発明に係る熱処理用サセプタに相当するサセプタ72の断面図である。サセプタ72には、平面視で半導体ウェハーWの直径よりも大きな外径を有する凹面形状の凹部76が形設されている。すなわち、サセプタ72を上方から見ると凹部76の凹面形状は半導体ウェハーWの平面サイズよりも大きい。凹部76を規定する凹面形状は所定の曲率半径を有している。
【0031】
このような凹部76が形成されたサセプタ72によって半導体ウェハーWを保持するときには、図5に示すように、凹部76の内壁面によって半導体ウェハーWの周端部が支持されることとなる。その結果、半導体ウェハーWの下面とサセプタ72の表面と間に気体層を挟み込んだ隙間が形成されることとなる。
【0032】
ホットプレート71は、ステンレススチール製の上部プレート73および下部プレート74にて構成される。上部プレート73と下部プレート74との間には、ホットプレート71を加熱するニクロム線等の抵抗加熱線が配設され、導電性のニッケル(Ni)ロウが充填されて封止されている。また、上部プレート73および下部プレート74の端部はロウ付けにより接着されている。
【0033】
図3は、ホットプレート71を示す平面図である。図3に示すように、ホットプレート71は、保持される半導体ウェハーWと対向する領域の中央部に同心円状に配置される円板状のゾーン711および円環状のゾーン712、並びに、ゾーン712の周囲の略円環状の領域を周方向に4等分割した4つのゾーン713〜716を備え、各ゾーン間には若干の間隙が形成されている。また、ホットプレート71には、支持ピン70が挿通される3つの貫通孔77が、ゾーン711とゾーン712との隙間の周上に120°毎に設けられる。
【0034】
6つのゾーン711〜716のそれぞれには、相互に独立した抵抗加熱線が周回するように配設されてヒータが形成されており、各ゾーンに内蔵されたヒータにより各ゾーンが個別に加熱される。保持部7に保持された半導体ウェハーWは、6つのゾーン711〜716に内蔵されたヒータにより加熱される。また、ゾーン711〜716のそれぞれには、熱電対を用いて各ゾーンの温度を計測するセンサ710が設けられている。各センサ710は略円筒状のシャフト41の内部を通り制御部3に接続される。
【0035】
ホットプレート71が加熱される際には、センサ710により計測される6つのゾーン711〜716のそれぞれの温度が予め設定された所定の温度になるように、各ゾーンに配設された抵抗加熱線への電力供給量が制御部3により制御される。制御部3による各ゾーンの温度制御はPID(Proportional,Integral,Differential)制御により行われる。ホットプレート71では、半導体ウェハーWの熱処理(複数の半導体ウェハーWを連続的に処理する場合は、全ての半導体ウェハーWの熱処理)が終了するまでゾーン711〜716のそれぞれの温度が継続的に計測され、各ゾーンに配設された抵抗加熱線への電力供給量が個別に制御されて、すなわち、各ゾーンに内蔵されたヒータの温度が個別に制御されて各ゾーンの温度が設定温度に維持される。なお、各ゾーンの設定温度は、基準となる温度から個別に設定されたオフセット値だけ変更することが可能とされる。
【0036】
6つのゾーン711〜716にそれぞれ配設される抵抗加熱線は、シャフト41の内部を通る電力線を介して電力供給源(図示省略)に接続されている。電力供給源から各ゾーンに至る経路途中において、電力供給源からの電力線は、マグネシア(マグネシウム酸化物)等の絶縁体を充填したステンレスチューブの内部に互いに電気的に絶縁状態となるように配置される。なお、シャフト41の内部は大気開放されている。
【0037】
図1に示す光照射部5は、複数(本実施の形態においては30本)のキセノンフラッシュランプ(以下、単に「フラッシュランプ」という)69およびリフレクタ52を有する光源である。複数のフラッシュランプ69は、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って互いに平行となるように平面状に配列されている。リフレクタ52は、複数のフラッシュランプ69の上方にそれら全体を覆うように設けられ、その表面はブラスト処理により粗面化加工が施されて梨地模様を呈する。また、光拡散板53(ディフューザ)は、表面に光拡散加工を施した石英ガラスにより形成され、透光板61との間に所定の間隙を設けて光照射部5の下面側に設置される。熱処理装置1には、メンテナンス時に光照射部5をチャンバー6に対して相対的に上昇させて水平方向にスライド移動させる照射部移動機構55がさらに設けられる。
【0038】
キセノンフラッシュランプ69は、その内部にキセノンガスが封入されその両端部にコンデンサーに接続された陽極および陰極が配設されたガラス管と、該ガラス管の外周面上に巻回されたトリガー電極とを備える。キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、通常の状態ではガラス管内に電気は流れない。しかしながら、トリガー電極に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には、コンデンサーに蓄えられた電気がガラス管内に瞬時に流れ、そのときのジュール熱でキセノンガスが加熱されて光が放出される。このキセノンフラッシュランプ69においては、予め蓄えられていた静電エネルギーが0.1ミリセカンドないし10ミリセカンドという極めて短い光パルスに変換されることから、連続点灯の光源に比べて極めて強い光を照射し得るという特徴を有する。
【0039】
なお、本実施形態の熱処理装置1は、半導体ウェハーWの熱処理時にフラッシュランプ69およびホットプレート71から発生する熱エネルギーによるチャンバー6および光照射部5の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造(図示省略)を備えている。例えば、チャンバー6のチャンバー側部63およびチャンバー底部62には水冷管が設けられており、光照射部5は内部に気体を供給する供給管とサイレンサ付きの排気管が設けられて空冷構造とされている。また、透光板61と光照射部5(の光拡散板53)との間隙には圧縮空気が供給され、光照射部5および透光板61を冷却するとともに、間隙に存在する有機物等を排除して熱処理時における光拡散板53および透光板61への付着を抑制する。
【0040】
次に、熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順について簡単に説明する。ここで処理対象となる半導体ウェハーWはイオン注入法により不純物が添加された半導体基板であり、添加された不純物の活性化が熱処理装置1による熱処理により行われる。
【0041】
まず、保持部7が図1に示すようにチャンバー底部62に近接した位置に配置される。以下、図1における保持部7のチャンバー6内における位置を「受渡位置」という。保持部7が受渡位置にあるとき、支持ピン70の先端は、保持部7を貫通して保持部7の上方に突出する。
【0042】
次に、弁82および弁87が開かれてチャンバー6の熱処理空間65内に常温の窒素ガスが導入される。続いて、搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介してイオン注入後の半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入され、複数の支持ピン70上に載置される。
【0043】
半導体ウェハーWの搬入時におけるチャンバー6への窒素ガスのパージ量は約40リットル/分とされ、供給された窒素ガスはチャンバー6内においてガス導入チャンネル83から図2中に示す矢印AR4の方向へと流れ、図1に示す排出路86および弁87を介してユーティリティ排気により排気される。また、チャンバー6に供給された窒素ガスの一部は、べローズ47の内側に設けられる排出口(図示省略)からも排出される。なお、以下で説明する各ステップにおいて、チャンバー6には常に窒素ガスが供給および排気され続けており、窒素ガスのパージ量は半導体ウェハーWの処理工程に合わせて様々に変更される。
【0044】
半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入されると、ゲートバルブ185により搬送開口部66が閉鎖される。そして、図4に示す如く、保持部昇降機構4により保持部7が透光板61に近接した位置(以下、「処理位置」という)まで上昇される。このとき、半導体ウェハーWは支持ピン70から保持部7のサセプタ72へと渡され、サセプタ72の凹部76内に保持される。このときには、サセプタ72の凹部76の内壁面によって半導体ウェハーWの周端部が支持される。
【0045】
ホットプレート71の6つのゾーン711〜716のそれぞれは、各ゾーンの内部(上部プレート73と下部プレート74との間)に個別に配設された抵抗加熱線により所定の温度まで加熱されている。保持部7が処理位置まで上昇して半導体ウェハーWが保持部7と接触することにより、その半導体ウェハーWは予備加熱されて温度が次第に上昇する。
【0046】
この処理位置にて約60秒間の予備加熱が行われ、半導体ウェハーWの温度が予め設定された予備加熱温度T1まで上昇する。予備加熱温度T1は、半導体ウェハーWに添加された不純物が熱により拡散する恐れのない、200℃ないし600℃程度、好ましくは350℃ないし550℃程度とされる。また、保持部7と透光板61との間の距離は、保持部昇降機構4のモータ40の回転量を制御することにより任意に調整することが可能とされている。
【0047】
約60秒間の予備加熱時間が経過した後、保持部7が処理位置に位置したまま制御部3の制御により光照射部5から半導体ウェハーWへ向けてフラッシュ光が照射される。このとき、光照射部5のフラッシュランプ69から放射される光の一部は直接にチャンバー6内へと向かい、他の一部は一旦リフレクタ52により反射されてからチャンバー6内へと向かい、これらの閃光照射により半導体ウェハーWのフラッシュ加熱が行われる。フラッシュ加熱は、フラッシュランプ69からの閃光照射により行われるため、半導体ウェハーWの表面温度を短時間で上昇することができる。
【0048】
すなわち、光照射部5のフラッシュランプ69から照射される光は、予め蓄えられていた静電エネルギーが極めて短い光パルスに変換された、照射時間が0.1ミリ秒ないし10ミリ秒程度の極めて短く強い閃光である。そして、フラッシュランプ69からの閃光照射によりフラッシュ加熱される半導体ウェハーWの表面温度は、瞬間的に1000℃ないし1100℃程度の処理温度T2まで上昇し、半導体ウェハーWに添加された不純物が活性化された後、表面温度が急速に下降する。このように、熱処理装置1では、半導体ウェハーWの表面温度を極めて短時間で昇降することができるため、半導体ウェハーWに添加された不純物の熱による拡散(この拡散現象を、半導体ウェハーW中の不純物のプロファイルがなまる、ともいう)を抑制しつつ不純物の活性化を行うことができる。なお、添加不純物の活性化に必要な時間はその熱拡散に必要な時間に比較して極めて短いため、0.1ミリセカンドないし10ミリセカンド程度の拡散が生じない短時間であっても活性化は完了する。
【0049】
また、フラッシュ加熱の前に保持部7により半導体ウェハーWを予備加熱しておくことにより、フラッシュランプ69からの閃光照射によって半導体ウェハーWの表面温度を処理温度T2まで速やかに上昇させることができる。
【0050】
フラッシュ加熱が終了し、処理位置における約10秒間の待機の後、保持部7が保持部昇降機構4により再び図1に示す受渡位置まで下降し、半導体ウェハーWが保持部7から支持ピン70へと渡される。続いて、ゲートバルブ185により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、支持ピン70上に載置された半導体ウェハーWは装置外部の搬送ロボットにより搬出され、熱処理装置1における半導体ウェハーWのフラッシュ加熱処理が完了する。
【0051】
既述のように、熱処理装置1における半導体ウェハーWの熱処理時には窒素ガスがチャンバー6に継続的に供給されており、そのパージ量は、保持部7が処理位置に位置するときには約30リットル/分とされ、保持部7が処理位置以外の位置に位置するときには約40リットル/分とされる。
【0052】
ところで、本実施形態では、フラッシュランプ69から閃光照射を行うときに、平面視で半導体ウェハーWの平面サイズよりも大きな凹面形状の凹部76に処理対象の半導体ウェハーWを保持している。このような凹面形状の凹部76に半導体ウェハーWを保持した状態にて閃光照射を行うと、ウェハー割れが生じる頻度を著しく低減することができた。本発明者等が比較のために、上面を凸面形状にしたサセプタにベアウェハー(パターン形成を行っていないウェハー)を保持してフラッシュランプ69から閃光照射を行ったところ、約50%の頻度にてウェハー割れが生じた。これに対して、本実施形態の凹部76を形成したサセプタ72にベアウェハーを保持して同条件にてフラッシュランプ69から閃光照射を行ったところ、100枚のベアウェハーについてウェハー割れは全く生じなかった。なお、上面が平面形状のサセプタ、すなわち従来より使用されているのと同じタイプのサセプタにベアウェハーを保持して同条件にてフラッシュランプ69から閃光照射を行ったときのウェハー割れ発生頻度は、凸面形状のサセプタと凹面形状のサセプタとの中間程度であった。
【0053】
このように凹面形状の凹部76を形成したサセプタ72にて半導体ウェハーWを保持して閃光照射を行うとウェハー割れの頻度を大幅に低減できる理由は以下のようなものと考えられる。すなわち、フラッシュランプ69からの閃光照射によりフラッシュ加熱される半導体ウェハーWの表面温度は瞬間的に1000℃ないし1100℃程度の処理温度T2まで上昇する一方、その瞬間の裏面温度は350℃ないし550℃程度の予備加熱温度T1からさほどには上昇しない。このため、ウェハー表面側のみに急激な熱膨張が生じ、半導体ウェハーWが上面を凸面とするように反る。次に瞬間には、半導体ウェハーWの表面温度が急速に下降する一方、表面から裏面への熱伝導により裏面温度も若干上昇する。その結果、閃光照射の瞬間に生じた半導体ウェハーWの上面を凸面とした反りが戻り、さらにその反動で下面を凸面とするような反りが生じる。このときに、凸面形状や平面形状のサセプタにて半導体ウェハーWを保持していた場合には、当該半導体ウェハーWの下面がサセプタ表面に激しく衝突することとなり、その結果ウェハー割れの頻度が高くなるものと考えられる。一方、本実施形態のように、凹面形状の凹部76を形成したサセプタ72にて半導体ウェハーWを保持すると、図5に示すように、サセプタ72の表面と半導体ウェハーWの下面との間に気体層の隙間が形成されることとなり、閃光照射直後に半導体ウェハーWが下面を凸面として反ったとしても当該下面がサセプタ72の表面に衝突しない、或いは衝突したとしても衝撃が小さいため、ウェハー割れの頻度が著しく低減するのである。
【0054】
また、凸面形状のサセプタにて半導体ウェハーWを保持すると凸面頂上にて点支持となるため、フラッシュ加熱時にウェハー反りが生じたときに強い応力集中が生じ、このこともウェハー割れの頻度を多くする要因になっているものと考えられる。対して、本実施形態のようにすれば、半導体ウェハーWの端縁部全体が凹部76の内壁面によって支持されるため、フラッシュ加熱時にウェハー反りが生じたときにも応力集中が緩和される。その結果、ウェハー割れの頻度増大も抑制されるものと考えられる。
【0055】
以上のようにしてフラッシュ加熱時におけるウェハー割れの発生頻度が低減すると、それに伴って歩留まりが飛躍的に向上する。また、従来よりも大きなエネルギーにてフラッシュランプ69から閃光照射を行うことができるため、より良好な活性化処理を促進することができる。
【0056】
上記実施形態においては、半導体ウェハーWの平面サイズよりも大きな凹面形状の凹部76を形成したサセプタ72を使用していたが、サセプタ72は以下のような形態であっても良い。図6は、本発明に係る熱処理用サセプタの他の例を示す断面図である。また、図7は、図6の熱処理用サセプタの平面図である。このサセプタ72にも、平面視で半導体ウェハーWの直径よりも大きな外径を有する凹面形状の凹部77が形設されている。但し、図6,7に示すサセプタ72においては、凹部77の凹面形状が平滑な凹面ではなく、凹部77の中心部を通る鉛直方向に沿った切断面にて切断したときの凹面形状の断面形状が階段状となる。この凹部77を上方から見たときには、図7に示すように、上方に向かうほど外径が大きくかつ幅が狭くなる複数の円環状段部が同心円状に配列されることとなる。すなわち、凹部77の形状をマクロに見れば凹面形状として捉えることができ、微視的に見れば断面が連続する階段形状にて構成されていると捉えることができる。なお、図6および図7においては、形状把握を容易にするために階段形状を誇張して記載しているが、実際にはより細かな段部が形成されており、各段部が細かくなるほど図5の凹面形状に近づく。
【0057】
図6,7に示すような凹部77を形成したサセプタ72にて半導体ウェハーWを保持してフラッシュランプ69から閃光照射行うようにしても、上記実施形態と同様にサセプタ72の表面と半導体ウェハーWの下面との間に気体層を挟み込んだ隙間が形成され、ウェハー割れの頻度を著しく低減することができる。もっとも、サセプタ72の材質は加工性にあまり優れない石英(あるいは、窒化アルミニウム等のセラミックス)であり、曲率半径の比較的大きな凹面を形設するよりも、階段形状の凹部77の方が加工が容易になり比較的安価に製作することができる。
【0058】
また、図8は、本発明に係る熱処理用サセプタのさらに他の例を示す断面図である。図9は、図8の熱処理用サセプタの平面図である。このサセプタ72には、上方に向かって開口が広くなる円錐台形状の凹部78が形設されている。そして、その円錐台形状の上底面(凹部78の開口面)は半導体ウェハーWの平面サイズよりも大きく、下底面(凹部78の底面78a)は半導体ウェハーWの平面サイズよりも小さい。従って、凹部78が形成されたサセプタ72によって半導体ウェハーWを保持するときには、図8に示すように、凹部78のテーパ面78bによって半導体ウェハーWの周端部が支持されることとなる。その結果、半導体ウェハーWの下面とサセプタ72の上面と間に気体層を挟み込んだ隙間が形成されることとなる。
【0059】
図8,9に示すような凹部78を形成したサセプタ72にて半導体ウェハーWを保持してフラッシュランプ69から閃光照射行うようにしても、上記実施形態と同様にサセプタ72の表面と半導体ウェハーWの下面との間に気体層を挟み込んだ隙間が形成され、ウェハー割れの頻度を著しく低減することができる。また、円錐台形状も比較的加工が容易な形状であるため、サセプタ72の製作費上昇を抑制することができる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明は上記の例に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、光照射部5に30本のフラッシュランプ69を備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプ69の本数は任意の数とすることができる。
【0061】
また、フラッシュランプ69はキセノンフラッシュランプに限定されるものではなく、クリプトンフラッシュランプであっても良い。
【0062】
また、上記各実施形態においては、アシスト加熱手段としてホットプレート71を使用していたが、半導体ウェハーWを保持する保持部7の下方に複数のランプ群(例えば複数のハロゲンランプ)を設け、それらからの光照射によってアシスト加熱を行うようにしても良い。
【0063】
また、フラッシュ加熱前に、保持部7が支持ピン70から半導体ウェハーWを受け取るときに、受け取る瞬間のみ上昇速度を低下して半導体ウェハーWの横滑りを防止するようにしても良い。もっとも、上記のサセプタ72においては凹部によって半導体ウェハーWを受け取るため、横滑りはほとんど生じない。
【0064】
また、上記各実施形態においては、半導体ウェハーに光を照射してイオン活性化処理を行うようにしていたが、本発明にかかる熱処理装置による処理対象となる基板は半導体ウェハーに限定されるものではない。例えば、窒化シリコン膜や多結晶シリコン膜等の種々のシリコン膜が形成されたガラス基板に対して本発明にかかる熱処理装置による処理を行っても良い。一例として、CVD法によりガラス基板上に形成した多結晶シリコン膜にシリコンをイオン注入して非晶質化した非晶質シリコン膜を形成し、さらにその上に反射防止膜となる酸化シリコン膜を形成する。この状態で、本発明にかかる熱処理装置により非晶質のシリコン膜の全面に光照射を行い、非晶質のシリコン膜が多結晶化した多結晶シリコン膜を形成することもできる。
【0065】
また、ガラス基板上に下地酸化シリコン膜、アモルファスシリコンを結晶化したポリシリコン膜を形成し、そのポリシリコン膜にリンやボロン等の不純物をドーピングした構造のTFT基板に対して本発明にかかる熱処理装置により光照射を行い、ドーピング工程で打ち込まれた不純物の活性化を行うこともできる。
【符号の説明】
【0066】
1 熱処理装置
4 保持部昇降機構
5 光照射部
6 チャンバー
7 保持部
61 透光板
65 熱処理空間
69 フラッシュランプ
71 ホットプレート
72 サセプタ
76,77,78 凹部
W 半導体ウェハー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラッシュランプから基板に閃光を照射することによって該基板の熱処理を行うときに該基板を保持する熱処理用サセプタであって、
上方に向かって開口が広くなる円錐台形状の凹部を備え、
前記円錐台形状の上底面は前記基板の平面サイズよりも大きく、下底面は該平面サイズよりも小さいことを特徴とする熱処理用サセプタ。
【請求項2】
基板に対して閃光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置であって、
フラッシュランプを有する光源と、
前記光源の下方に設けられ、前記フラッシュランプから出射された閃光を透過するチャンバー窓を上部に備えるチャンバーと、
前記チャンバー内にて基板を略水平姿勢にて保持する保持手段と、
を備え、
前記保持手段は、請求項1記載の熱処理用サセプタを有することを特徴とする熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−193011(P2011−193011A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101250(P2011−101250)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【分割の表示】特願2005−183229(P2005−183229)の分割
【原出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】