説明

熱処理装置

【課題】触媒活性化用の加熱器を熱処理用のもので共用でき、装置の大型化およびコスト増を抑制し得る熱処理装置を提供する。
【解決手段】 熱処理装置1Aは、ワークWが収容される熱処理炉20、加熱器32および送風機33が設けられる空調部23、並びに熱処理炉20および空調部23を連通する連通路24,25を有する断熱室2を備えている。この熱処理装置1Aは、還流経路5および触媒6を備える。還流経路5は、空調部23から流出した空気を、空調部23における加熱器32の設けられた位置よりも上流側の部分に戻すように構成される。触媒6は、ワークWを熱処理する際にワークWから発生する昇華物を分解するものである。触媒6は、空調部23における加熱器32の設けられた位置よりも下流側の部分に設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被処理物を熱処理する熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の熱処理装置として、FPD(フラットパネルディスプレイ)用ガラス基板等の被処理物が収容される熱処理部と、加熱器および送風機が設けられる空調部とが断熱室内に画成されたものがある(例えば特許文献1参照。)。熱処理部と空調部とは、連通路を介して互いに連通しており、熱処理装置は、空調部で加熱された空気を、送風機により連通路を介して熱処理部に送り込んで被処理物を熱処理するように構成される。
【0003】
また、断熱室の外部に、熱処理部内の空気を排気する排気ダクト、空調部に外気を吸い込むための吸気ダクト、および排気ダクトから分岐して吸気ダクトにつながる還流ダクトを備えている。
【0004】
このような熱処理装置は、例えばFPDの製造工程におけるフォトレジストや有機物薄膜のプリベーク、ポストベーク工程に用いられることがある。これらの工程では、ガラス基板等からなる被処理物が熱処理される際に、フォトレジスト等に含まれる揮発性成分が気化して多量の昇華物が発生し、この昇華物が再結晶化して熱処理装置周辺に飛散したり周辺に付着したりする等の問題があった。
【0005】
この問題の対策として、特許文献1では、前述の還流ダクトに、上述の昇華物を分解可能な触媒を設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4372806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の熱処理装置の構成では、還流ダクト内を流通する空気流は、すでに熱処理部で被処理物の熱処理に寄与し、触媒の活性温度よりも温度が低下した状態にある。したがって、特許文献1では、触媒を活性温度にするために、前述の空調部に設けられた加熱器とは別に、加熱器を還流ダクトに設けている。
【0008】
また、特許文献1の熱処理装置では、熱処理部を対流して風速が弱まった状態の空気を、排気ダクトおよび還流ダクトを介して吸気ダクトに戻すように構成されるため、還流ダクト内に流入する空気流は、熱処理部を対流して風速が弱まった状態にある。したがって、特許文献1では、前述の空調部に設けられた送風機とは別に、送風機(ブロワ)を還流ダクトに設けて、触媒を通過する空気流を十分に確保するようにしている。
【0009】
上述の特許文献1を含む従来技術では、触媒活性化用の加熱器が別途必要であり、装置が大型化し、コスト的に高くなる問題がある。また、還流用の送風機が別途必要であり、装置が大型化し、コスト的に高くなる問題がある。
【0010】
本発明の目的は、触媒活性化用の加熱器および還流用の送風機を熱処理用のもので共用でき、装置の大型化およびコスト増を抑制し得る熱処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る熱処理装置は、被処理物が収容される熱処理部、加熱器および送風機が設けられる空調部、並びに熱処理部および空調部を連通する連通路を有する断熱室を備えている。この熱処理装置は、連通路を通じて熱処理部と空調部との間で空気を循環させながら加熱することにより被処理物を熱処理するものである。
【0012】
この熱処理装置は、還流経路および触媒を備える。還流経路は、前記送風機の陽圧部から陰圧部にかけて前記空調部をショートカットするように形成するように構成される。触媒は、被処理物を熱処理する際に該被処理物から発生する昇華物を分解するものである。触媒は、空調部における加熱器の設けられた位置よりも下流側の部分に設けられる。
【0013】
この構成においては、空調部内の空気が、還流経路を通って空調部内に戻される。この空気は、加熱器により加熱された後、触媒を通過することになる。このため、触媒を活性化させるための加熱器を、熱処理用の加熱器で共用できる。
【0014】
また、この構成においては、還流経路は、送風機の陽圧部から陰圧部にかけて空調部をショートカットしている。このため、還流のための送風機を、熱処理用の送風機で共用できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、触媒活性化用の加熱器および還流用の送風機を熱処理用もので共用でき、装置の大型化およびコスト増を抑制することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱処理装置の概略を示す図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る熱処理装置の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1を用いて、本発明の実施形態に係る熱処理装置の概略を説明する。熱処理装置1Aは、断熱壁で空間が囲繞された断熱室2を備える。断熱室2は、熱処理炉(熱処理部)20、空調部23、ならびに熱処理炉20および空調部23を連通する連通路(後述する送り通路24および戻り通路25)を有する。
【0018】
断熱室2は、内部が仕切り壁21によって仕切られている。断熱室2内部の空間は、仕切り壁21よりも左側の部分に前記熱処理炉20が配置され、右側の部分は前記空調部23となっている。仕切り壁21には開口22が形成され、この開口22を介して戻り通路25を流通する空気流に、後述する還流経路5を通って空調部23内に戻される空気流が合流する。
【0019】
熱処理炉20は、筒状に形成されている。熱処理路20の側面には、図示しない複数の小さな排気孔(不図示)が穿設され、この排気孔を介して熱処理炉20の内部の空気が戻り通路25に排気される。
【0020】
熱処理炉20は、内部が仕切り壁26により仕切られている。熱処理炉20の内部の仕切り壁26より左側の部分には、ガラス基板等からなる複数の被処理物(以下、ワークという。)Wが収容されている。複数のワークWは上下に並んだ状態で、熱処理炉20内に設けた図示しない保持具により保持されている。熱処理炉20の内部の仕切り壁26より右側の部分は縦長の空間になっており、この空間に送り通路24が接続されている。仕切り壁26には開口が形成され、この開口内にフィルタ31が配設されていて、フィルタ31を通じた通気が可能となっている。
【0021】
このような熱処理炉20の構成で、ワークWを熱処理するための空気は、送り通路24を通って一旦前述の空間に流入した後、フィルタ31を介してこの空間からワークWの収容部への通気が可能となっている。
【0022】
空調部23の内部には、加熱器32および送風機33が設けられている。空調部23における加熱器32と送風機33の位置関係は、加熱器32が上流側で、送風機33が下流側となる配置で設けられている。加熱器32は、空調部23内の空気を加熱するものであり、送風機33は、空調部23内の空気をフィルタ31を通じて熱処理路20内に送り込むものである。加熱器32は、例えば電熱式のヒータを好適に用いることができ、送風機33は、例えばシロッコファンを好適に用いることができるが、これらに限定されることはない。
【0023】
送風機33は、ファンケーシング35内に収容されている。ファンケーシング35は、吸気口および排気口を有する。ファンケーシング35の吸気口は、戻り通路25の最下流部(すなわち、前述の開口22が形成された位置よりも下流側の部分)に開口し、ファンケーシング35の排気口は、送り通路24の入口に開口している。
【0024】
連通路は、送り通路24および戻り通路25から構成される。送り通路24は、空調部23における送風機33が設けられた位置よりも上流側の部分と前述の熱処理炉20内の仕切り壁26よりも右側の空間との間を連絡する。戻り通路25は、断熱室2の内部の仕切り壁21よりも左側の部分に形成された、断熱室2と熱処理炉20の間の間隙から構成され、前述の熱処理炉20の排気孔とファンケーシング35の吸気口との間を連絡する。
【0025】
送り通路24は、空調部23から熱処理炉20へワークWを熱処理する前の空気を送るためのものであり、戻り通路25は熱処理炉20から空調部23へワークWを加熱処理した後の空気を戻すためのものである。
【0026】
空調部23における触媒6が設けられた位置よりも下流側の部分には、吸気ダクト4が接続されている。吸気ダクト4は、外気を吸い込んで空調部23内に送り込むためのものである。なお、吸気ダクト4の接続箇所は空調部23に限られず、図2に、変形例に係る熱処理装置1Bを示すように、戻り通路25に吸気ダクト4を接続し、外気をこの戻り通路25内に送り込むようにしても機能的には同じである。
【0027】
還流経路5は、空調部23から流出した空気を、空調部23における加熱器32の設けられた位置よりも上流側の部分に戻すように構成される。還流経路5は、排気ダクト51および還流ダクト52から構成され、空調部23の陽圧部から陰圧部にかけてショートカットを形成している。
【0028】
排気ダクト51は、一端が空調部23における送風機32の設けられた位置よりも下流側の部分に接続されるとともに、他端が外部に解放されている。還流ダクト52は排気ダクト51から分岐して空調部23における加熱器32の設けられた位置よりも上流側に接続されている。排気ダクト51は、空調部23から流出した空気を直接外部に排出するためのものであり、還流ダクト52は、空調部23から流出した空気を再度空調部23内に送り込むためのものである。
【0029】
なお、前述の吸気ダクト4、排気ダクト51および還流ダクト52には、適所に風量調整用のダンパー8が設けられている。
【0030】
触媒6は、ワークWを熱処理する際にこのワークWから発生する昇華物を分解するものである。本実施形態では、活性金属が白金(Pt)やパラジウム(Pd)等の貴金属や、これらの貴金属の合金のようなものが採用される。これらの触媒6は、約150〜200℃程度の温度雰囲気下から触媒活性を示す。触媒6は、空調部23における加熱器32の設けられた位置よりも下流側の部分に配置される。したがって、還流経路5を通って空調部23内に戻された空気は、加熱器32により加熱された直後に、触媒6を通過することになる。このため、触媒6をより高温(例えば、約350℃)で活性化することが可能となる。
【0031】
なお、ワークWから発生する昇華物に触媒毒といわれる物質(Si、P、S等を含む有機化合物)が入っている場合には、触媒6が被毒することがある。このような場合は、触媒6の前に前処理材(アルミナ、セラミック等)を配設すれば良い。
【0032】
上記の構成で、送風機33によって送り通路24を介して熱処理炉20内に空気が送り込まれると、熱処理炉20内の空気は、戻り通路25を通って空調部23内に戻される。そして、空調部23内に戻された空気は、加熱器32により加熱された空気と混合され、その一部が送風機33によって熱処理炉20内に再度送り込まれる。すなわち、熱処理炉20内の空気は、循環しながら加熱されるようになっており、これにより熱処理炉20内に収容されたワークWが熱処理されるようになっている。
【0033】
また、熱処理炉20から空調部23内に戻された空気の残りは、排気ダクト51内に導出される。その一部が排気ダクト51から直接外部に排気される。これにより、熱処理炉20内が換気されるようになっている。それにともなって、吸気ダクト4から外気が吸気される。排気ダクト51内に導出された空気の残りは、該排気ダクト51から分岐した還流ダクト52を通って空調部23内に戻される。空調部23内に戻された空気は、加熱器32により加熱された後、触媒6に接触してその空気中に含まれるワークWから発生した昇華物が分解される。すなわち、加熱器32は、触媒6を通過する空気を活性化温度まで高める機能と前述したように熱処理炉20内の空気を循環させながら加熱する機能の2つの機能を有している。
【0034】
このようにして、熱処理炉20内に送り込まれる空気は、温度帯の異なる、還流経路5を通って還流する空気、熱処理炉20から空調部23内に戻された空気、および少量の外気が混合されることにより、熱処理に適した温度(例えば、約230℃)に維持される。
【0035】
以上説明したように、本実施の形態に係る熱処理装置1Aによると、触媒6を活性化させるための加熱器を、熱処理用の加熱器32で共用できる。したがって、触媒活性化用の加熱器32を熱処理用のもので共用でき、熱処理装置1Aの大型化およびコスト増を抑制し得る熱処理装置を提供することである。
【0036】
また、本実施の形態に係る熱処理装置1Aによると、還流経路は、送風機の陽圧部から陰圧部にかけて空調部をショートカットしている。このため、還流のための送風機を、熱処理用の送風機で共用できる。したがって、熱処理装置1Aの大型化およびコスト増を抑制することが可能となる。また、還流経路5を短くでき、断熱室2の外部へ張り出す体積が小さくて済むことも、熱処理装置1Aの大型化の抑制に寄与している。さらに、還流経路5が短いことは、還流経路5を通る空気量の削減につながり、結果として吸排気量も削減される。これにより、熱ロスが削減され、省エネ効果が期待できる。
【0037】
上述の実施形態では、熱処理部が熱処理炉から構成される場合を説明したが、熱処理部が解放された空間で形成される場合に対しても本発明の技術思想を適用することが可能である。
【0038】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0039】
1A,1B−熱処理装置
2−断熱室
4−吸気ダクト
5−還流経路
6−触媒
20−熱処理炉(熱処理部)
23−空調部
24−送り通路(連通路)
25−戻り通路(連通路)
32−加熱器
33−送風機
51−排気ダクト
52−還流ダクト
W−ワーク(被処理部物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物が収容される熱処理部、加熱器および送風機が設けられる空調部、並びに前記熱処理部および前記空調部を連通する連通路を有する断熱室を備え、該連通路を通じて前記熱処理部と前記空調部との間で空気を循環させながら加熱することにより前記被処理物を熱処理する熱処理装置において、
前記送風機の陽圧部から陰圧部にかけて前記空調部をショートカットするように形成された還流経路と、
前記空調部における前記加熱器の設けられた位置よりも下流側の部分に設けられ、前記被処理物を熱処理する際に該被処理物から発生する昇華物を分解する触媒と、
を有する熱処理装置。
【請求項2】
前記還流経路が、一端が前記空調部における前記送風機の設けられた位置よりも下流側の部分に接続されるとともに、他端が外部に解放された排気ダクトと、該排気ダクトから分岐して前記空調部における前記加熱器の設けられた位置よりも上流側に接続された還流ダクトとから構成される請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項3】
前記連通路が、前記空調部から前記熱処理部へ前記被処理物を熱処理する空気を送るための送り通路と、前記熱処理部から前記空調部へ前記被処理物を熱処理した後の空気を戻すための戻り通路とから構成される請求項1または2に記載の熱処理装置。
【請求項4】
前記空調部内に外気を吸い込むための吸気ダクトを有する請求項1〜3のいずれかに記載の熱処理装置。
【請求項5】
前記戻り通路内に外気を吸い込むための吸気ダクトを有する請求項3に記載の熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−78048(P2012−78048A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225459(P2010−225459)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【Fターム(参考)】