説明

熱収縮性ポリ乳酸系フィルム

【課題】環境問題を発生することなく、溶断シール部の耐破断性を向上させ、かつ、収縮後の袋状の四隅に生じる角状箇所の固さを低下させることを目的とする。
【解決手段】生分解性芳香族脂肪族ポリエステルと、D−乳酸とL−乳酸との構成割合が98.0:2.0〜85.0:15.0又は、2.0:98.0〜15.0:85.0であるポリ乳酸系重合体との樹脂混合物からなり、上記生分解性芳香族脂肪族ポリエステルを構成するジカルボン酸成分の50〜90モル%が脂肪族ジカルボン酸であり、上記生分解性芳香族脂肪族ポリエステルの含有量が、上記樹脂混合物の70〜90重量%である層を中心層とし、D−乳酸とL−乳酸との構成割合が95.0:5.0〜88.0:12.0、又は、5.0:95.0〜12.0:88.0であるポリ乳酸系重合体を最外層とする熱収縮性ポリ乳酸系フィルムを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱収縮性のポリ乳酸系フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、包装業界において、ニ軸方向に熱収縮する熱収縮性フィルムが、商品の包装用、例えば、楕円ボトル、丸筒ボトル、チューブ等の化粧品容器の包装用、納豆やプリン等の容器を2〜4個程紙製の台紙上に並べての集合包装用、乾電池の集合包装用に使用されている。
【0003】
これらの熱収縮性フィルムに用いられる材質としては、ポリプロピレン、電子照射されたポリエチレン、ポリ塩化ビニル(PVC)等が知られており、産業界で広く利用され、消費されている。
【0004】
しかし、これらのフィルムは、熱収縮性フィルムとしての特性は非常に優れているが、使用後に自然環境下に廃棄されると、その安定性のため、分解されることなく残留し、景観を損ない、魚、野鳥等の生活環境を汚染する等の問題を引き起こす。
【0005】
これに対し、環境問題を生じない分解性樹脂からなる材料が種々、検討されている。その1つとして、ポリ乳酸があげられる。ポリ乳酸は、土壌中において、自然に加水分解が進行して土中に原形が残らず、また、微生物により無害な分解物となることが知られている。
【0006】
しかし、上記ポリ乳酸は、素材が本来有する剛性のため、加工性に問題を有する場合がある。
【0007】
その改良方法として、ポリ乳酸に軟質系生分解性樹脂をブレンドする方法が知られている。例えば、特許文献1には、ポリ乳酸に脂肪族ポリエステルをブレンドすることが開示され、特許文献2には、ポリ乳酸にポリカプロラクトンをブレンドすることが開示され、特許文献3には、ポリ乳酸/脂肪族ポリエステルのブレンド系において、ポリ乳酸のL−乳酸とD−乳酸との組成比を調整することが開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、透明性を確保するため、ポリ乳酸/脂肪族ポリエステルのブレンド系からなる層の外側にポリ乳酸からなる層を積層することが開示され、特許文献5には、熱的特性の異なる樹脂の積層フィルムが開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開平9−169896号公報
【特許文献2】特開平8−300481号公報
【特許文献3】特開2001−11214号公報
【特許文献4】特開2001−47583号公報
【特許文献5】特開2003−72010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記のいずれの場合においても、熱収縮性フィルムとして商品を包装する場合、溶断シール部から破断したり、収縮後の袋状の四隅に生じる角状箇所が固くなって、人体に傷をつけたりする場合がある。
【0011】
そこで、この発明は、環境問題を発生することなく、溶断シール部の耐破断性を向上させ、かつ、収縮後の袋状の四隅に生じる角状箇所の固さを低下させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、生分解性芳香族脂肪族ポリエステルと、D−乳酸とL−乳酸との構成割合が98.0:2.0〜85.0:15.0又は、2.0:98.0〜15.0:85.0であるポリ乳酸系重合体との樹脂混合物からなり、上記生分解性芳香族脂肪族ポリエステルを構成するジカルボン酸成分の50〜90モル%が脂肪族ジカルボン酸であり、上記生分解性芳香族脂肪族ポリエステルの含有量が、上記樹脂混合物の70〜90重量%である層を中心層とし、D−乳酸とL−乳酸との構成割合が95.0:5.0〜88.0:12.0、又は、5.0:95.0〜12.0:88.0であるポリ乳酸系重合体を最外層とする熱収縮性ポリ乳酸系フィルムを用いることにより、上記課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0013】
この発明にかかる熱収縮性ポリ乳酸系フィルムは、ポリ乳酸系重合体を有する特定の中心層と、ポリ乳酸系重合体を有する特定の最外層とを有するので、環境問題を発生することなく、溶断シールの耐破断性を向上させ、かつ、収縮後の袋状の四隅に生じる角状箇所の固さを低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明にかかる、熱収縮性ポリ乳酸系フィルムは、所定のポリ乳酸系重合体と、所定の生分解性芳香族脂肪族ポリエステルからなる層を中心層とし、所定のポリ乳酸系重合体を最外層とし、これらの中心層と最外層とを有する積層フィルムである。
【0015】
まず、上記中心層について説明する。
上記の中心層を構成するポリ乳酸系重合体とは、乳酸の重合体、具体的には構造単位がL−乳酸又はD−乳酸の単独重合体、すなわち、ポリ(L−乳酸)又はポリ(D−乳酸)、又は、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸の両方を有する共重合体、すなわち、ポリ(DL−乳酸)や、これらの混合体をいう。
【0016】
上記ポリ乳酸系重合体の重合法としては、縮重合法、開環重合法等公知の方法を採用することができる。例えば、縮重合法では、L−乳酸又はD−乳酸あるいはこれらの混合物を直接脱水縮重合して、任意の組成を持ったポリ乳酸を得ることができる。
【0017】
また、開環重合法(ラクチド法)では、乳酸の環状2量体であるラクチドを、必要に応じて重合調節剤等を用いながら、所定の触媒の存在下で開環重合をして任意の組成をもつポリ乳酸系重合体を得ることができる。
【0018】
上記ラクチドには、L−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、D−乳酸とL−乳酸との2量体であるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて、混合し、重合することにより、任意の組成や結晶性を有するポリ乳酸を得ることができる。
【0019】
D−乳酸とL−乳酸との構成割合が100:0又は0:100であるポリ乳酸系重合体は、非常に高い結晶性樹脂となり、融点も高く、耐熱性、機械的物性に優れる傾向となる。しかし、熱収縮性フィルムとして使用する場合には、結晶性が非常に高くなると、延伸時に延伸配向結晶化が進行してしまい、熱収縮率を調整することが困難となりやすい。また、延伸条件において非結晶状態のフィルムを得た場合であっても、収縮時の熱によって結晶化が進み、収縮仕上り性が低下する傾向がある。これに対し、D−乳酸とL−乳酸との両方を構成成分として有するポリ乳酸系重合体の場合、含有量の少ない光学異性体の含有割合が増加するにしたがって、結晶性が低下することが知られている。
【0020】
このため、熱収縮性フィルムとして使用する場合、重合時に使用されるD−乳酸とL−乳酸との混合割合を調整することが好ましい。また、D−乳酸とL−乳酸との混合割合の異なる2種類以上のポリ乳酸系重合体を混合することによって、D−乳酸とL−乳酸との混合割合を調整することができる。
【0021】
この発明において、上記中間層を構成する樹脂に使用されるポリ乳酸系重合体のD−乳酸とL−乳酸との構成割合は、98.0:2.0〜85.0:15.0、又は、2.0:98.0〜15.0:85.0がよく、97.0:3.0〜87.0:13.0、又は、3.0:97.0〜13.0:87.0が好ましい。D−乳酸とL−乳酸との構成割合を上記範囲内とすることにより、延伸時の配向結晶化を適宜に調整することが可能となり、また、収縮時の結晶化も低減するので、良好な収縮仕上り性を得ることが可能となる。
【0022】
上記ポリ乳酸系重合体の重量平均分子量の好ましい範囲としては50,000〜400,000であり、より好ましくは100,000〜250,000である。重量平均分子量が小さすぎると、破断しやすくなる傾向がある。一方、重量平均分子量が大きすぎると、成形加工がしずらくなる傾向がある。
【0023】
上記のポリ乳酸系重合体としては、(株)島津製作所製:ラクティシリーズ、三井化学(株)製:レイシアシリーズ、カーギル・ダウ(株)製:Nature Worksシリーズ等があげられる。
【0024】
次に、上記の中心層を構成する生分解性芳香族脂肪族ポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸成分及び脂肪族ジカルボン酸成分からなるジカルボン酸成分と、脂肪族ジオール成分とから得られるポリエステルである。
【0025】
上記芳香族ジカルボン酸としては、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等があげられ、また、上記脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等があげられる。さらに、上記脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等があげられる。これらの芳香族ジカルボン酸成分、脂肪族ジカルボン酸成分、脂肪族ジオール成分は、それぞれ単独の化合物を用いてもよく、2つ以上の化合物を用いてもよい。これらの中でも、芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、脂肪族ジカルボン酸成分としてアジピン酸、及び脂肪族ジオール成分として1,4−ブタンジオールを用いるのがより好ましい。
【0026】
上記生分解性芳香族脂肪族ポリエステルを構成するジカルボン酸成分中の脂肪族ジカルボン酸の含有割合は、50〜90モル%が必要で、50〜70モル%が好ましい。50モル%より少ないと、得られる生分解性芳香族脂肪族ポリエステルの生分解性を発現させることが困難となる場合がある。一方、90モル%より多いと、結晶加速度が早くなり、延伸性が低下していく傾向がある。
【0027】
このような生分解性芳香族脂肪族ポリエステルとしては、ポリブチレンアジペートとテレフタレートとの共重合体(ビー・エー・エス・エフ(BASF)社製:エコフレックス(Ecoflex))や、テトラメチレンアジペートとテレフタレートとの共重合体(イースマンケミカル(EasmanChemicals)社製:イースターバイオ(EastarBio))等があげられる。
【0028】
この発明にかかる生分解性芳香族脂肪族ポリエステルを構成する上記ポリ乳酸系重合体と上記生分解性芳香族脂肪族ポリエステルとの樹脂混合物に対する上記生分解性芳香族脂族ポリエステルの含有量は、70〜90重量%がよく、75〜85重量%が好ましい。70重量%より少ないと、得られるフィルムの剛性を低下させることが不十分となる場合がある。一方、90重量%より多いと、自然収縮、すなわち、常温で放置している期間に生じるフィルムの収縮が大きくなってしまう傾向がある。
【0029】
次に、上記最外層について説明する。
上記の最外層を構成するポリ乳酸系重合体とは、上記の中心層を構成するポリ乳酸系重合体と同様のものを使用することができる。ただし、D−乳酸とL−乳酸との構成割合は、95.0:5.0〜88.0:12.0、又は、5.0:95.0〜12.0:88.0がよく、94.0:6.0〜90.0:10.0、又は、6.0:94.0〜10.0:90.0が好ましい。
【0030】
上記の中心層を構成する、ポリ乳酸系重合体と脂肪族芳香族ポリエステルとは、延伸時の変形挙動が異なるので、両樹脂の混合物を延伸することにより平面荒れが生じ、ヘーズが大幅に低下する傾向がある。この傾向は、ポリ乳酸系重合体以外の成分が増えるにしたがって大きくなり、透過光の拡散が起きるため、ヘーズが上昇し、透明性が低下する。この表面荒れを抑えることにより、透明性を保持することができるが、この方法として、上記のD−乳酸とL−乳酸との構成割合を有する層を最外層に設けることがあげられる。
【0031】
上記の最外層を構成するポリ乳酸系重合体を構成するポリ乳酸系重合体のD−乳酸又はL−乳酸の量が5.0%より少ないと、結晶性が高くなってしまい、熱収縮時に不具合を生じる。すなわち、熱収縮時に結晶化が同時に進行するので、温度ムラの大きい熱風シュリンカーを用いると、収縮率がフィルム位置で不均一となり、仕上り性が低下する。一方、蒸気シュリンカーを用いると、収縮不均一による仕上り性の低下は特に目立たないものの、結晶化の影響でフィルムが白化し、最近の外観重視のフィルムには好ましくない。
【0032】
一方、上記の最外層を構成するポリ乳酸系重合体を構成するポリ乳酸系重合体のD−乳酸又はL−乳酸の量が12.0%より多いと、結晶性がほぼなくなってしまうため、熱収縮直後に製品同士がぶつかり合うと、フィルムが融着し、穴が開いてしまうというトラブルが生じやすくなる。
【0033】
ところで、最外層を上記のポリ乳酸系重合体を用いることにより、得られるフィルムの滑り性を向上させることが可能となる。また、さらなる滑り性の改良法として、無機粒子を添加してもよい。この無機粒子の例としては、シリカ、タルク、カオリン等の無機粒子があげられる。
【0034】
この無機粒子の平気粒子径は、0.5〜5μmが好ましい。また、添加量は、最外層を構成する樹脂100重量部に対し、0.01〜5重量部が好ましく、0.05〜3重量部がより好ましい。
【0035】
上記無機粒子は、延伸時に表面に移行することにより、表面が荒らされるので、フィルムに滑り性が付与される。しかし、この表面への移行の度合いは、延伸条件に依存するが、本発明のように、最外層の結晶性を調整することによって、最小限の添加量で最大限の効果を見出すことができる。
【0036】
上記最外層中の上記ポリ乳酸系重合体の含有量は、90重量%以上が好ましく、95重量%以上がより好ましく、100重量%が特に好ましい。90重量%未満だと、上記フィルムを延伸したとき、表面荒れが顕著となり、外層としての役割を果たすことができない傾向がある。
【0037】
上記最外層の厚みは、表面荒れの凹凸の大きさより上回る程度の厚みを設ける必要があり、具体的には、1μm以上、好ましくは2μm以上とすることにより、透明性の改良することができる。また、滑り性や耐熱融着性をも付与する場合、3μm以上がより好ましく、4μm以上がさらに好ましい。一方、厚みの上限は、フィルム全体厚みの25%以下がよく、20%以下が好ましい。25%を超えると、収縮後にフィルムが硬くなってしまう傾向がある。
【0038】
ところで、この発明にかかるフィルムの外側に形成される2つの最外層は、同一厚み及び同一組成を有すると、収縮特性やカール防止等の点から好ましいが、必ずしも同一である必要はない。
【0039】
さらに、この発明にかかるフィルムは、上記の中心層及び2つの最外層の3層構造に限定されるものではなく、上記中心層をフィルムの内層の1つとして有し、かつ、表面の外層として上記最外層を有していれば、この発明の特性を阻害しない限り、他の内層が存在してもよい。
【0040】
次に、この発明にかかるフィルムの製造方法について説明する。上記中心層を構成する樹脂混合物や、上記最外層を構成する樹脂であるポリ乳酸系重合体からシートを形成する方法は、上記樹脂混合物又は樹脂を押出機によって溶融させ、必要に応じて、押出機の途中のベント溝や注入溝からの液添加によって可塑剤を所定量添加し、押出す製造方法が一般的に用いられる。押出しに際しては、Tダイ法、チューブラ法等の既存の方法を採用することができる。その際、分解による分子量の低下を考慮して温度設定をする必要がある。
【0041】
なお、上記の樹脂混合物又は樹脂には、諸物性を調整する目的で、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、光吸収剤、滑剤、無機充填剤、着色剤、顔料等を添加してもよい。
【0042】
上記可塑剤の例としては、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)アジペート、ジ(n−オクチル)アジペート、ジ(n−デシル)アジペート、ジブチルジクリコールアジペート、ジブチルセバケート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ(n−ヘキシル)アゼレート、ジ(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジ(2−エチルヘキシル)ドデカンジオネート等の脂肪酸エステル系可塑剤、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジ(2−エチルヘキシル)フタレート等のフタル酸エステル系可塑剤、トリ(2−エチルヘキシル)トリメリテート等のトリメリット酸エステル系可塑剤等があげられる。
【0043】
次に、上記の方法で得られた中心層及び最外層を積層する方法としては、この発明の目的を損なわなければ、特に限定されないが、例えば、下記の4つの方法等があげられる。
(1)2または3台以上の押出機を用い、マルチマニホールドまたはフィードブロック方式の口金で積層化し、溶融シートとして押し出す共押出法。
(2)巻き出した一方の層の上にもう一方の樹脂をコーティングする方法。
(3)適温にある各層をロールやプレス機を使って熱圧着する方法。
(4)接着剤を使って貼合せる方法。
【0044】
上記の方法で得られた積層フィルムは、冷却ロール、空気、水等で冷却された後、熱風、温水、赤外線、マイクロウエーブ等の適当な方法で再加熱され、2軸延伸される。この2軸延伸方法としては、同時2軸延伸や逐次2軸延伸があげられる。生産設備的には、チューブラ法やテンター型同時2軸延伸によって同時2軸延伸が可能となり、ロール延伸により縦方向に延伸した後にテンターによって横方向に延伸する方法をとることにより、逐次2軸延伸が可能となる。
【0045】
これらの中でも、ロール延伸により縦方向に延伸した後にテンターによって横方向に延伸する逐次2軸延伸方法が、最も一般に用いられる。この方法の場合、結晶性の早い脂肪族ポリエステルを用いると、1軸目のロール延伸時に配向結晶化が進行してしまい、2軸目の延伸が困難となる。その一方、上記芳香族脂肪族ポリエステルを用いると、結晶性が脂肪族ポリエステルに比べて低いため、1軸目のロール延伸時の配向結晶化を抑えることによって、2軸目も良好に延伸することが可能となる。
【0046】
延伸温度は、樹脂混合比、ポリ乳酸系重合体の結晶性、得られる熱収縮性フィルムの要求用途に応じて変える必要があるが、一般的に70〜95℃の範囲で制御される。また、延伸倍率は、樹脂混合比、ポリ乳酸系重合体の結晶性、得られる熱収縮性フィルムの要求用途に応じて変える必要があるが、フィルムの厚みの精度、収縮後の仕上がり等を考慮すると、延伸倍率は2〜6倍が好ましい。
【0047】
また、面倍率は、フィルムの厚みの精度、収縮後の仕上がり等を考慮すると、4〜16倍がよく、9〜15倍が好ましい。
【0048】
上記方法で得られるフィルムのヘーズは、用途によって異なるが、PETボトルやガラス瓶用のラベル用途に用いられ、フィルムの裏側に印刷することによって、透明性が非常に要求される場合には、10%以下がよく、7%以下が好ましく、5%以下がさらに好ましい。10%を超えると、十分な透明性を与えられない場合がある。
【実施例】
【0049】
以下に、実験例及び比較例等を示して本発明を詳述するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお実験例及び比較例中の物性値及び評価は、以下の方法により測定し、評価を行った。ここで、フィルムの引き取り(流れ)方向をMD、それと直交方向をTDと記載する。
【0050】
[測定方法及び評価方法]
[熱収縮率]
フィルムより、各々MD及びTDに100mm幅の標線を入れたサンプルを切り出し、80℃温水バスに10秒間浸漬し、収縮量を測定した。熱収縮率は、収縮前の原寸に対する収縮量の比率を%値で表示した。
【0051】
[自然収縮率]
フィルムを室温23℃の部屋に5時間放置後、TD方向の測定用として、MD方向の幅が50mm、TD方向の幅が1000mmのサンプルを切り取った。次に、このサンプルを、室温30℃の恒温槽に30日間放置後、TD方向の収縮量を測定した。自然収縮率は、収縮前の原寸に対する収縮量の比率を%値で表示した。また、MD方向の自然収縮率は、TD方向の場合と同様にして測定した。なお、表中の評価は、下記の基準で判断した。
○:MD方向、TD方向のいずれか一方向の自然収縮率が1.5%より小さい
×:MD方向、TD方向の両方向共、自然収縮率が1.5%以上である
【0052】
[引張弾性率]
フィルムを5mm幅、長さ300mmの短冊状に切り出し、東洋精機(株)製:テンシロンII型引張試験機を用いて、温度23℃、相対湿度50%下で、チャック間250mm、引張速度5mm/minで引張試験を行い、降伏点強度の1/2の強度とひずみを求めて算出した。
【0053】
[全ヘーズ]
JIS K 7105にしたがって、フィルムを測定した。
【0054】
[溶断シール強度]
L型自動包装機(ハタナカ(株)製:HP−10Z)を用いて、溶断シール温度及び時間を設定185℃、指示195℃×1.5秒にて溶断シールを行い、溶断シール部が、中央部で試験長さ方向に垂直になるように、フィルムから15mm×100mm長さの短冊状サンプルを切り出し、インテスコ万能試験機205型を用いて、チャック間距離40mm、引張速度500mm/分で引張試験を行い、シール部が破断する応力(N/15mm)を測定した。
【0055】
[収縮仕上り性]
得られたフィルムを、L型自動包装機(ハタナカ(株)製:HP−10Z)を用いて包装し、得られた包装体をシュリンクトンネル(ハタナカ(株)製:HT−03310)にて、115℃の熱風トンネルに5〜7秒間潜らせて、収縮包装した。収縮後の仕上りを目視にて観察し、下記の基準で評価した。
(1)タイト感
○:包装体に密着している、
×:包装体に密着していない部分がある。
(2)角の状態
○:柔らかい、
×:硬かったり、ゴワゴワしたりする。
【0056】
(原材料)
[芳香族脂肪族ポリエステル]
・BASF社製:Ecoflex(テレフタル酸:24モル%、アジピン酸26モル%、1,4−ブタンジオール:50モル%)、以下、「Eco」と略する。
[脂肪族ポリエステル]
・ポリブチレンサクシネート…昭和高分子(株)製:ビオノーレ1030、以下、「BN」と略する。
【0057】
[ポリ乳酸系重合体]
・ポリ乳酸系重合体1…カーギルダウ社製:NatureWorks4050、L−乳酸/D−乳酸=94.5/5.5、重量平均分子量:20万、以下、「PLA1」と略する。
・ポリ乳酸系重合体2…カーギルダウ社製:NatureWorks4060、L−乳酸/D−乳酸=88.0/12.0、重量平均分子量:20万以下、「PLA2」と略する。
【0058】
[充填剤]
・シリカ…水澤化学(株)製:ミズカシルP527、平均粒子径:1.8μm
【0059】
(実施例1〜2、比較例1〜4)
表1に示す割合で各樹脂を混合して、中心層を構成する樹脂混合物を調整し、また、表1に示す割合で各樹脂及びシリカを混合して、最外層を構成する樹脂混合物を調整した。次いで、中心層の樹脂混合物と最外層の樹脂混合物とを別々の押出機にて、190〜210℃にて混練し、200℃でTダイ内で合流させ、最外層/中心層/最外層の2種3層構造からなる溶融体を約36℃のキャスティングロールにて急冷し、未延伸シートを得た。この未延伸シートを表1に記載の条件で、長手方向の延伸を行い、続けて幅方向の延伸を行って、表1に示すフィルムを得た。
得られたフィルムを用いて、上記の評価を行った。その結果を表1に示す。
なお、比較例3においては、長手方向(MD)の延伸はできたものの、幅方向(TD)の延伸で、破断が生じた。このため、上記の評価は行わなかった。
また、比較例4においては、長手方向(MD)の延伸を行おうとしたところ、ロールにシートが融着取られしたため、延伸することができなかった。このため、幅方向(TD)の延伸は行わず、また、上記の評価も行わなかった。
【0060】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性芳香族脂肪族ポリエステルと、D−乳酸とL−乳酸との構成割合が98.0:2.0〜85.0:15.0又は、2.0:98.0〜15.0:85.0であるポリ乳酸系重合体との樹脂混合物からなり、
上記生分解性芳香族脂肪族ポリエステルを構成するジカルボン酸成分の50〜90モル%が脂肪族ジカルボン酸であり、
上記生分解性芳香族脂肪族ポリエステルの含有量が、上記樹脂混合物の70〜90重量%である層を中心層とし、
D−乳酸とL−乳酸との構成割合が95.0:5.0〜88.0:12.0、又は、5.0:95.0〜12.0:88.0であるポリ乳酸系重合体を最外層とする熱収縮性ポリ乳酸系フィルム。


【公開番号】特開2006−88518(P2006−88518A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−276687(P2004−276687)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】