説明

熱可塑性樹脂フィルムの製造方法

【課題】 靱性、品位、光学等方性に優れた熱可塑性樹脂フィルムの製造方法、および、これを用いた熱可塑性樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂の溶融製膜方法において、下記工程(1)〜(3)をこの順に含む熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
工程(1):溶融した熱可塑性樹脂をダイからシート状に吐出する。
工程(2):ダイから吐出後のシートが支持体に接触する前に、シートの製膜方向とは異なる少なくとも1方向に延伸する。
工程(3):工程(2)を経たシートを支持体に接触させ支持体上で冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は靱性、品位、光学等方性に優れた熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、代表的なフィルムの製造方法として溶融製膜法と溶液製膜法が挙げられる。従来より光学用途に用いられるフィルムは、品位に優れることから溶液製膜法で製造されることが多かったが、近年表示画像装置の価格低下に伴い、生産性・コストに優れる溶融製膜法によるフィルム化が必要になってきた。
【0003】
光学用フィルムを溶融製膜法にて製造する場合、第1の問題としてダイで発生する口金スジが挙げられる。口金スジの改善については、例えばダイリップ部分の素材をタングステンカーバイトにすることや、リップエッジの曲率を小さくする改善方法が特許文献1や特許文献2に開示されているが、更なる改善が必要であった。また、テンターなどを用いて後工程で延伸を行い、スジを低減させる方法も知られているが、延伸により位相差が発現するため光学用フィルムの製造方法には適切でない場合があった。
【0004】
第2の問題として、光学等方性の低下が挙げられる。溶融製膜法ではダイからの吐出直後にフィルムが製膜方向に強く配向する。これにより、位相差制御を必要とする用途や光学等方性を必要とする用途で使用が困難な場合があった。これらの改善方法として例えば、ロールとの密着性を付与しキャスト時の配向を抑制する方法として、エアー・ナイフ、エアー・チャンバー、静電キャスト等のキャスト方法や、両端部への空気の吹き付けや、ダイ・リップ〜冷却ドラム間の距離(エア・ギャップ)を可能な限り短くすることが知られているが、光学的に等方性のフィルムを得るには更なる改善が必要であった。
【0005】
第3の問題として、靱性の低下が挙げられる。光学用フィルムは、その高い品位要求に応えるため、異物欠点を除去するため製膜工程で精密な濾過が必要となる。濾過精度の向上に伴う濾圧の上昇を低減させるため、原料となる光学用樹脂の分子量を低下させる場合があり、これによりフィルムの靱性が低下する場合があった。これらの改善方法として例えば、光学用樹脂に弾性体粒子を含有させて靱性を向上させる方法が特許文献3に記されている。しかしこの方法ではフィルムの硬度が低下し光学用部材として使用できない場合があった。また、テンターなどを用いて後工程で延伸を行い、靱性を向上させる方法も知られているが、延伸により位相差が発現するため光学用フィルムの製造方法には適切でない場合があった。
【特許文献1】特開2006−103239号公報
【特許文献2】特開2006−224462号公報
【特許文献3】特開2000−178399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。すなわち、本発明の目的は、靱性、品位、光学等方性に優れた熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するための本発明は、下記工程(1)〜(3)をこの順に含む熱可塑性樹脂フィルムの製造方法によって達成される。
【0008】
工程(1):溶融した熱可塑性樹脂をダイからシート状に吐出する。
【0009】
工程(2):ダイから吐出後のシートが支持体に接触する前に、シートの製膜方向とは異なる少なくとも1方向に延伸する。
【0010】
工程(3):工程(2)を経たシートを支持体に接触させ支持体上で冷却する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法により製膜した熱可塑性樹脂フィルムは、靱性、品位、光学等方性に優れるため、光学用フィルムとして好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
従来、溶融製膜法では吐出直後にダイのスリット幅より支持体上でのフィルム幅が短くなるいわゆるネックイン現象が生じていた。これは一般に、口金からの吐出速度より支持体の走行速度が速いため、ダイから吐出後のシートが製膜方向に延伸されることにより生じるフィルム幅の減少であり、静電キャスト等のキャスト方法を用いても、通常、ダイのスリット幅に対し支持体上でのフィルム幅は0.60〜0.9倍程度に減少する。これまで、溶融製膜フィルムを包装材料用フィルムや磁気材料用フィルムとして用いる場合、このネックイン現象はあまり重大な問題とならなかった。しかし、近年光学用フィルムが溶融製膜法で製造されるようになりネックイン現象が大きな問題となった。すなわち光学用フィルムでは分子の配向により生じる位相差を精密に制御する必要があり、キャスト時の配向を低減させる製膜方法が必要であった。
【0013】
これら従来の方法に対し、本発明の製膜方法は溶融製膜法におけるキャスト方法を工夫し、以下の工程(1)〜(3)をこの順に有する製膜方法とすることで、光学等方性に優れ、かつ、靱性、品位にも優れた熱可塑性樹脂フィルムの製膜を可能にせしめたものである。
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、下記工程(1)〜(3)をこの順に含むことを特徴とする。
【0015】
工程(1):溶融した熱可塑性樹脂をダイからシート状に吐出する。
【0016】
工程(2):ダイから吐出後のシートが支持体に接触する前に、シートの製膜方向とは異なる少なくとも1方向に延伸する。
【0017】
工程(3):工程(2)を経たシートを支持体に接触させ支持体上で冷却する。
【0018】
ダイから吐出されたシートが支持体上で冷却される前に、シートの製膜方向とは異なる少なくとも1方向に延伸することにより、フィルムの光学等方性および平面性を維持し、かつ、靱性を改良することができる。また、延伸により、ダイで発生する口金スジも減少するため好ましい。延伸方向はシートの製膜方向とは異なる少なくとも1方向であれば特に問題はないが、製膜方向と延伸方向とのなす角度が30°以上150°以下であることが好ましく、60°以上120°以下であることがさらに好ましい。延伸方法としては特に限定されないが、ダイから吐出後のシートの端部をクリップで把持し搬送しながら任意の方向に延伸を行う方法、図1に示すように、吐出後のフィルムの幅方向端部をニップして延伸する装置を設け延伸を行う方法(詳細は後述)、吐出後のフィルムの幅方向端部にエアをあて延伸を行う方法、図2に示すように、ピンの付いた回転体により延伸を行う方法(詳細は後述)、などを用いることができる。
【0019】
図1は本発明の工程(1)および工程(2)に記載の、ダイから吐出されたシートの延伸工程を示した概略図である。ダイ11から吐出されたシート12は、端部を一対の回転するガイドロール13にニップされ、幅方向に応力を受けて延伸される。延伸は図1に示すように製膜方向に複数のガイドロールを設置し行ってもよいし、一対のガイドロールで行ってもよい。ここでは、シートの幅方向片端のみの概略図を示したが、もう一方の端部にも同様の装置が設けてあることが好ましい。また、図1では製膜方向と垂直方向に延伸する例を示したが、ガイドロールを傾けて斜め方向に延伸を行っても構わない。ガイドロールのシートとの接触部の材質は、特に限定されず、金属ロール、シリコンロールなどを用いることができる。また、シートの把持性を向上させるため、表面に凹凸処理を設けたロールを使用してもよい。また、製膜安定性を向上させるため、把持部のみ局所的に冷却して、把持部のシート強度を向上させてもよい。
【0020】
図2は本発明の工程(1)および工程(2)に記載の、ダイから吐出されたシートの延伸工程を示した概略図である。ダイ21から吐出されたシート22は、端部をピンの付いた回転体23に保持され、フィルムの幅方向に延伸される。延伸は図2に示すように製膜方向に複数の回転体を設置し行ってもよいし、一対の回転体で行ってもよい。また、図2に示すようにシートの両面から、一対のピン付き回転体で挟み込むようにシート端部を把持してもよいし、シートの片面側からのみピンを刺して端部を把持してもよい。ここでは、シートの幅方向片端のみの概略図を示したが、もう一方の端部にも同様の装置が設けてあることが好ましい。シート両端部の回転体の回転速度を変えることにより、シートの幅方向以外の任意の斜め方向に延伸することも可能である。ここで、回転体は駆動していても駆動していなくてもよいが、延伸条件を高度に制御可能なことから駆動式であることが好ましい。
【0021】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、工程(2)における延伸工程の延伸倍率E(倍)が0.9倍以上2.0倍以下であることが好ましい。さらに好ましくは1.1倍以上1.5倍未満である。延伸倍率が0.9倍未満では、本発明の効果が得られない場合がある。延伸倍率が2.0倍を超えると、フィルム幅方向の厚みムラが悪化する場合がある。ここでの延伸倍率とは、ダイから吐出直後の延伸方向と平行な任意の2点間距離をL、支持体上での該2点間の距離をLとしたとき、LをLで除した値である。従って、1.0倍以下の延伸とは、本発明の製造方法における延伸操作を行わない時、フィルムの幅がネックイン現象により、ダイのスリット幅よりも減少した支持体上でのフィルム幅を、例えば、これを製膜方向と直行する方向(以下、幅方向と記す。)にダイのスリット幅以下まで延伸した場合のことをいう。
【0022】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、工程(2)の延伸工程において、延伸時のシートの温度をT(℃)、工程(1)の吐出工程において溶融時の温度をT(℃)、熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、TがTg以上T以下であることが好ましい。より好ましくは、Tg+10℃以上T−10℃以下である。TがTg未満では、フィルムに位相差が発生し光学等方性フィルムとして使用できない場合がある。TがTを超えると、フィルム幅方向の厚みムラが悪化したり、靱性改善の効果が得られない場合がある。シートの温度T(℃)は、接触式または非接触式の温度計により測定可能である。本発明の製造方法においては、延伸時のシートが上記の温度範囲にあればよく、ダイから吐出されたシートが大気中でダイ周辺の雰囲気温度に冷却される過程の中で、シートが該温度範囲にある時に延伸を行えばよい。さらに、ダイから吐出直後のシートを加熱してもよい。加熱装置としては熱風ヒーターや赤外線加熱装置などが挙げられるが、フィルムのばたつきが無く工程安定性に優れることから、輻射伝熱を利用した赤外線加熱装置などが好ましい。
【0023】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、工程(2)の延伸工程において延伸速度V(%/秒)が−10%/秒以上300%/秒以下であることが好ましい。ただし、延伸速度の負の値は、延伸倍率が1.0倍未満の時の延伸速度を示す。延伸速度は吐出したシートの状態によって適宜設定されるものであるが、速すぎると破れが発生する場合があり、遅すぎるとシートの平面性が損なわれる場合がある。
【0024】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、工程(3)の冷却工程において支持体表面の温度をT(℃)、熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、TがTg−100℃以上、Tg+50℃以下であることが好ましい。より好ましくはTg−50℃以上、Tg+30℃以下である。支持体表面の温度TがTg−100℃未満であるとシートが支持体上で急冷され、平面性が悪化する場合がある。Tg+50℃を超えると、シートの強度が弱く支持体からの剥離時に平面性が悪化する場合がある。
【0025】
本発明の製造方法に用いる熱可塑性樹脂は、透明性、耐熱性、機械特性など、光学用途に必要な特性を満たしていれば特に構造は限定されず、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミド等の樹脂を用いることができる。これらの樹脂のうち1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上をブレンド、アロイして使用することができる。特に本発明の製造方法に用いる熱可塑性樹脂として、アクリル系ポリマーを用いると透明性及び光学等方性に優れるため好ましい。アクリル系ポリマーとしては、下記構造式(a)〜(c)で表される構造単位のうち少なくとも1つ以上を含有するアクリル系ポリマーが耐熱性に優れるため好ましい。
【0026】
【化1】

【0027】
(上記式中、R1、R2は、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基または、カルボキシル基、または炭素数2〜5のカルボキシアルキル基を表す。また、上記式中、X1、X2は、同一または相異なるCHまたはC=Oを表す。Xは、O、またはNRを表す。Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基または、カルボキシル基、または炭素数2〜5のカルボキシアルキル基を表す。)
特に耐熱性の点から、R、Rは水素またはメチル基またはカルボキシメチル基が好ましく、とりわけメチル基が好ましく、X、Xは、C=Oが好ましい。また、透明性の観点からXは、Oが好ましい。
【0028】
【化2】

【0029】
(上記式中、R、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基または、カルボキシル基、または炭素数2〜5のカルボキシアルキル基を表す。)
特に耐熱性の点から、Rはメチル基が好ましい。
【0030】
【化3】

【0031】
(上記式中、Rは炭素数6〜15の脂環式構造を含有する置換基を表す。)
特に低吸湿性の点から、Rは下記構造式(e)、(f)で表される置換基であることが好ましい。
【0032】
【化4】

【0033】
【化5】

【0034】
構造式(a)〜(c)の中でも、特に構造式(d)に示す環化構造を有するアクリル系ポリマーを用いると、透明性、耐熱性、生産性に優れ、また、光学等方性に優れたフィルムを得ることができるため好ましい。
【0035】
特に耐熱性の点からは、R、Rは水素またはメチル基が好ましく、とりわけメチル基
が好ましい。
【0036】
【化6】

【0037】
(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
次に、上記構造式(d)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル系ポリマー(あ)の製造方法の例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
すなわち、後の加熱工程により上記構造式(d)で表されるグルタル酸無水物単位を与える不飽和カルボン酸単量体(i)および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(ii)と、その他のビニル系単量体単位を含む場合には該単位を与えるビニル系単量体(iii)とを重合させ、共重合体(ア)とした後、かかる共重合体(ア)を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し、脱アルコールおよび/または脱水による分子内環化反応を行わせることにより製造することができる。この場合、典型的には共重合体(ア)を加熱することにより2単位の不飽和カルボン酸単位のカルボキシル基が脱水されて、あるいは隣接する不飽和カルボン酸単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位からアルコールの脱離により1単位の前記グルタル酸無水物単位が生成される。この際用いられる不飽和カルボン酸単量体(i)としては、特に限定はなく、他のビニル化合物(iii)と共重合させることが可能な、構造式(g)の不飽和カルボン酸単量体が使用できる。
【0039】
【化7】

【0040】
(上記式中、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
特に、熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種、または2種以上用いることができる。なお、上記構造式(g)で表される不飽和カルボン酸単量体(i)は共重合すると上記構造式(d)で表される構造の不飽和カルボン酸単位を与える。
【0041】
また、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(ii)としては特に制限はないが、好ましい例として、下記構造式(h)で表されるものを挙げることができる。
【0042】
【化8】

【0043】
(上記式中、Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。R10は水素原子または炭素数1〜6の脂肪族、もしくは脂環式炭化水素基を示す。)
これらのうち、炭素数1〜6の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基または置換基を有する該炭化水素基をもつアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが熱安定性が優れる点で特に好適である。なお、上記構造式(h)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は、共重合すると上記構造式(d)で表される構造の不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を与える。
【0044】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(ii)の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられ、中でもメタクリル酸メチルが最も好ましく用いられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。
【0045】
また、本発明で用いるアクリル系ポリマー(あ)の製造においては、本発明の効果を損なわない範囲で、スチレン、アクリルアミド、メタクリルアミドなど、他のビニル系単量体(iii)を用いてもかまわないが、透明性、複屈折、耐薬品性の点で芳香環を含まない単量体がより好ましく使用できる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0046】
アクリル系ポリマー(あ)の重合方法については、基本的にはラジカル重合による、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の重合方法を用いることができるが、不純物がより少ない点で溶液重合、塊状重合、懸濁重合が特に好ましい。
【0047】
重合温度については、特に制限はないが、色調の観点から、不飽和カルボン酸単量体および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体を含む単量体混合物を95℃以下の重合温度で重合することが好ましい。また、重合温度の下限は、重合が進行する温度であれば、特に制限はないが、重合速度を考慮した生産性の面から、通常50℃以上である。重合収率あるいは重合速度を向上させる目的で、重合進行に従い重合温度を昇温することも可能である。また重合時間は、必要な重合度を得るのに十分な時間であれば特に制限はないが、生産効率の点から60〜360分間の範囲が好ましい。
【0048】
本発明において、アクリル系ポリマー(あ)の製造時に用いられるこれらの単量体混合物の好ましい割合は、該単量体混合物を100質量部として、不飽和カルボン酸単量体(i)が5〜50質量部、より好ましくは9〜33質量部、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(ii)は好ましくは50〜95質量部、より好ましくは67〜91質量部、これらに共重合可能な他のビニル系単量体(iii)を用いる場合、その好ましい割合は0〜5質量部であり、より好ましい割合は0〜3質量部である。
【0049】
不飽和カルボン酸単量体量(i)が5質量部未満の場合には、共重合体(ア)の加熱などによる上記構造式(d)で表されるグルタル酸無水物単位の生成量が少なくなり、本発明のアクリル系フィルムの耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。一方、不飽和カルボン酸単量体量(i)が50質量部を超える場合には、共重合体(ア)の加熱による環化反応後に、不飽和カルボン酸単位が多量に残存する傾向があり、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0050】
また、本発明のアクリル系フィルムに使用するアクリル系ポリマー(あ)は、質量平均分子量が8万〜15万であることが好ましい。このような分子量を有するアクリル系ポリマー(あ)は、共重合体(ア)の製造時に、共重合体(ア)を所望の分子量、すなわち質量平均分子量で5万〜15万に予め制御しておくことにより、達成することができる。質量平均分子量が、15万を超える場合、後工程の環化時に着色する傾向が見られる。一方、質量平均分子量が、5万未満の場合、アクリル系フィルムの機械的強度が低下する傾向が見られる。
【0051】
本発明に好ましく用いられるアクリル系ポリマー(あ)の製造に用いる共重合体(ア)を加熱し、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコールにより分子内環化反応を行いグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体を製造する方法としては、特に制限はないが、ベントを有する加熱した押出機に通して製造する方法や不活性ガス雰囲気または減圧下で加熱脱気できる装置内で製造する方法が生産性の観点から好ましい。中でも、酸素存在下で加熱による分子内環化反応を行うと、黄色度が悪化する傾向が見られるため、十分に系内を窒素などの不活性ガスで置換することが好ましい。また、これらに窒素などの不活性ガスが導入可能な構造を有した装置であることがより好ましい。例えば、二軸押出機に、窒素などの不活性ガスを導入する方法としては、ホッパー上部および/または下部より、10〜100リットル/分程度の不活性ガス気流の配管を繋ぐ方法などが挙げられる。
【0052】
なお、環化時の温度は、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコールにより分子内環化反応が生じる温度であれば特に限定されないが、好ましくは180〜300℃の範囲、特に200〜280℃の範囲が好ましい。
【0053】
また、この際の環化時間も特に限定されず、所望する共重合組成に応じて適宜設定可能であるが、通常、1分間〜60分間、好ましくは2分間〜30分間、とりわけ3〜20分間の範囲が好ましい。特に、押出機を用いて、十分な分子内環化反応を進行させるための加熱時間を確保するため、押出機スクリューの長さ/直径比(L/D)が40以上であることが好ましい。L/Dの短い押出機を使用した場合、未反応の不飽和カルボン酸単位が多量に残存するため、加熱成形加工時に反応が再進行し、成形品にシルバーや気泡が見られる傾向や成形滞留時に色調が大幅に悪化する傾向がある。
【0054】
さらに本発明では、共重合体(ア)を上記方法等により加熱する際にグルタル酸無水物への環化反応を促進させる触媒として、酸、アルカリ、塩化合物の1種以上を添加することができる。その添加量は特に制限はなく、共重合体(ア)100質量部に対し、0.01〜1質量部程度が適当である。
【0055】
アクリル系ポリマー(あ)は、ガラス転移温度(Tg)が120℃以上であることが耐熱性の面で好ましい。ガラス転移温度を上げる方法としては、特に限定されないが、アクリル系ポリマー(あ)中の、例えば、前記構造式(d)で表される様な環化構造単位の含有量を増やすことが効果的である。また、得られたフィルムを延伸により配向させることも有効である。
【0056】
本発明のアクリル系ポリマー(あ)としては、上記構造式(d)で表されるグルタル酸無水物単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位からなる共重合体を好ましく使用することができる。不飽和カルボン酸アルキルエステル単位とグルタル酸無水物単位の含有量は、特に制限はないが、耐熱性が向上することから、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位とグルタル酸無水物単位の合計を100質量部としたときに、好ましくは不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜90質量部およびグルタル酸無水物単位10〜50質量部からなり、より好ましくは、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位55〜80質量部およびグルタル酸無水物単位20〜45質量部からなる。グルタル酸無水物単位が10質量部未満である場合、耐熱性向上効果が小さくなるだけでなく、十分な低複屈折性(光学等方性)や耐薬品性が得られない傾向がある。
【0057】
また、本発明のアクリル系ポリマー(あ)における各成分単位の定量には、プロトン核磁気共鳴(H−NMR)測定機を用いることができる。H−NMR法では、例えば、グルタル酸無水物単位、メタクリル酸、メタクリル酸メチルからなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素と、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。また、上記に加えて、他の共重合成分としてスチレンを含有する共重合体の場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0058】
また、本発明のアクリル系ポリマー(あ)は、アクリル系ポリマー(あ)中に他の不飽和カルボン酸単位および/または、共重合可能な他のビニル系単量体単位を含有することができる。
【0059】
上記の熱可塑性重合体100質量部中に含有される他の不飽和カルボン酸単位量は10質量部以下、すなわち0〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0〜5質量部、最も好ましくは0〜1質量部である。不飽和カルボン酸単位が10質量部を超える場合には、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0060】
また、共重合可能な他のビニル系単量体単位量は上記熱可塑性重合体100質量部中、5質量部以下、すなわち0〜5質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0〜3質量部である。特に、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体単位を含有する場合、含有量が上記範囲を超えると、無色透明性、光学等方性、耐薬品性が低下する傾向がある。
【0061】
また、本発明のアクリル系フィルムには本発明の目的を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤および酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、無機粒子及び有機粒子からなる添加剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、適用する用途が要求する特性に照らし、その添加剤保有の色が熱可塑性重合体に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。
【0062】
次に製膜方法について説明する。
【0063】
熱可塑性樹脂を溶融して製膜する方法として、一般に、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、ホットプレス法等の製造方法が知られているが、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法には、生産性および品位の観点からT−ダイ法が用いられる。
T−ダイ法による製造法の場合、単軸あるいは二軸押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置等が使用できる。着色が低減できるため、L/D=15以上120以下の二軸混練押出機が好ましい。本発明の製造方法における溶融押出温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。溶融剪断速度は1,000S−1以上5,000S−1以下が好ましい。また、溶融押出装置を使用し溶融混練する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し減圧下での溶融混練あるいは窒素気流下での溶融混練を行うことが好ましい。溶融した熱可塑性樹脂を移送する方法としては、押出機の吐出圧力をそのまま利用してもよいし、押出機後にギアポンプを設置し、ギアポンプにより移送してもよいが、吐出ムラに起因する厚みムラが低減することから、ギアポンプを用いることが好ましい。ギアポンプにより移送された溶融した熱可塑性樹脂は、欠点の原因となる異物を除去しフィルムの品位を向上させるため、濾過を行うことが好ましい。濾過精度は50μm以上の異物を除去できることが好ましい。さらに好ましくは10μm以上、最も好ましくは5μm以上である。濾過精度が粗いと、フィルムに異物起因の欠点が発生し、光学用フィルムとして使用できない場合がある。濾過精度は細かいほどフィルム品位の観点からは好ましいが、細かすぎると濾圧の上昇により製膜が困難になる場合がある。濾過精度の異なる複数のフィルターにより段階的に濾過を行うと濾過寿命が延長されるため好ましい。濾過は、150℃以上300℃以下の温度で行うことができる。フィルターは、例えば、焼結金属、多孔性セラミック、サンド、金網等の中から適宜選択し用いることができる。
【0064】
次に、溶融した熱可塑性樹脂をダイからシート状に吐出する(工程(1))。ダイの温度は150℃以上350℃以下であることが好ましい。ダイから吐出するシートは単膜であっても、積層されていてもよい。積層方法は、積層ピノールを用いる方法やマルチマニホールド型の口金を用いて積層し吐出する方法など公知の方法を用いることができる。
【0065】
続いて、ダイから吐出後のシートが支持体に接触する前に、シートの製膜方向とは異なる少なくとも1方向に延伸する(工程(2))。ダイから吐出されたシートが支持体上で冷却される前に、シートの製膜方向以外の少なくとも1方向に延伸することにより、フィルムの光学等方性および平面性を維持し、かつ、靱性を改良できるため好ましい。また、延伸により、ダイで発生する口金スジも減少するため好ましい。延伸方向はシートの製膜方向とは異なる少なくとも1方向であれば特に問題はないが、製膜方向と延伸方向のなす角度が30°以上150°以下であることが好ましく、60°以上120°以下であることがさらに好ましい。延伸方法としては特に限定されないが、ダイから吐出後のシートの端部をクリップで把持し搬送しながら任意の方向に延伸を行う方法、図1に示したような、吐出後のフィルムの幅方向端部をニップして延伸する装置を設け延伸を行う方法、吐出後のフィルムの幅方向端部にエアをあて延伸を行う方法、図2に示したような、ピンの付いた回転体により延伸を行う方法、などを用いることができる。
【0066】
また工程(2)で延伸を行うゾーンの長さ、即ち、ダイから吐出されたシートが支持体に接触するまでのフィルムパス長は0.05m以上1m以下であることが好ましい。0.05m未満では十分に延伸を行えない場合があり、1mを超えると平面性が悪化する場合がある。
【0067】
フィルムに靱性を付与するため、後工程でテンターなどを用いてフィルムの幅方向に延伸する方法もあるが、テンターでの延伸ではフィルムの平面性の悪化を防ぐため延伸温度を十分に上げられず、分子が強く配向してフィルムの面内位相差や厚み方向の位相差が発生し光学等方性フィルムとして使用できない場合がある。一方、本発明の製造方法では、ダイから吐出直後に高温で延伸を行うため、位相差を発生させることなく靱性の改善が可能であり、さらに、続く工程(3)で支持体上にて冷却するため平面性も良好なフィルムを得ることが可能となる。
【0068】
支持体上で冷却を行う工程(3)において、支持体にはドラムやエンドレスベルトなど公知の方法を用いることができるが、生産性に優れることからドラムが好ましい。支持体表面の温度T(℃)は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、Tg−100℃以上、Tg+50℃以下であることが好ましい。より好ましくはTg−50℃以上、Tg+30℃以下である。支持体表面の温度TがTg−100℃未満であるとシートが支持体上で急冷され、平面性が悪化する場合がある。Tg+50℃を超えると、シートの強度が弱く支持体からの剥離時に平面性が悪化する場合がある。支持体上にシートを密着させる手段としては静電印加法、エアーチャンバー法、エアーナイフ法、プレスロール法、タッチロール法など公知の方法を用いることができる。支持体上で除冷、固化されたシートを支持体上から剥離して巻取り、本発明の熱可塑性樹脂フィルムを得る。
【0069】
得られたフィルムは、後工程で延伸、ハードコート層や反射防止層の積層などの処理を行ってもよい。
【0070】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、面内の位相差(Ret)が50nm以下であることが好ましい。より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下である。面内の位相差が50nmを超えると、画面表示素子の光学等方性部材として用いたとき、色調が変化するため使用できない場合がある。
【0071】
また、厚み方向の位相差(Rth)が−20nm以上20nm以下であることが好ましい。より好ましくは−10nm以上10nm以下、さらに好ましくは−5nm以上である。厚み方向の位相差が20nmを超える、または、−20nm未満であると、画面表示素子の光学等方性部材として用いたとき、斜め方向からの視認性が低下する場合がある。50nm以下の面内の位相差および、−20nm以上20nm以下の厚み方向の位相差は、上述した工程(2)で延伸時のシートの温度を高く保つことにより達成される。さらに、熱可塑性樹脂として、構造式(a)〜(c)および(d)に示したアクリル系ポリマーを用い製膜することにより位相差を低減させることが可能となる。尚、ここでいう面内の位相差Ret、および厚み方向の位相差Rthとは、波長590nmの光線に対するフィルム面内の直交軸方向の屈折率をそれぞれnx、ny(ただしnx>ny)とし、波長590nmの光線に対するフィルムの厚み方向の屈折率をnz、フィルムの厚みをd(nm)としたときに、下式で定義される。
【0072】
面内の位相差Ret(nm)=d×(nx−ny)
厚み方向の位相差Rth(nm)=d×{(nx+ny)/2−nz}
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、その使用用途により適宜選択されるべきものであるが、20μm以上300μm以下であることが好ましい。フィルムの厚みが20μm未満であるとフィルム強度が低下し加工性が悪化する傾向にある。厚みの上限は特に限定はないが、300μmを超えると生産性が低下しやすい。
【0073】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、JIS−K7127(1999)に準拠した測定において、製膜方向および幅方向の破断伸度が、いずれも5%以上であることが好ましく、より好ましくは10%以上である。伸度が低いと成形、加工時の破断が生じやすくなくなる。破断伸度の上限は特に限定されるものではないが、現実的には2,500%程度が上限である。破断伸度を大きくするには異物や発泡に起因するフィルム中の欠点を抑制することが有効である。また、ポリマーに屈曲成分を導入することや、可塑剤などの添加も破断伸度の増加に有効であるが、耐熱性や剛性が低くなる場合がある。
【0074】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、JIS−K7127(1999)に準拠した測定において、少なくとも一方向の引張弾性率が2.5GPa以上であることが好ましい。より好ましくは、3.0GPa以上である。引張弾性率が2.5GPa未満であるとフィルムの剛性が十分とはいえず、製膜工程や後加工工程において、フィルムにかかる張力により変形して位相差が発現し、画像表示素子の光学等方性部材として用いたとき、色調が変化する場合がある。また、薄膜化が困難になることがある。
【0075】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、フィルムの幅方向に厚みムラを測定したとき、各5mm区間中の厚み変動が1.0μm以下であることが好ましい。より好ましくは0.5μm以下である。フィルム面内の厚み変動が1.0μmを超えるとき、フィルムに口金スジが多く、表示装置用フィルムとして好適に用いることができない。厚み変動は小さいほど好ましいが、現実的には0.01μm程度が下限である。厚み変動を低減させるためには、本発明の工程(2)でダイから吐出後のシートが支持体に接触する前に、シートの製膜方向とは異なる少なくとも1方向に延伸することが有効である。厚みの連続測定方法は、アンリツ株式会社製フィルムシックネステスタ「KG601A」および電子マイクロメータ「K306C」を用いて測定できる。
【0076】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、全光線透過率が90%以上であることが好ましい。より好ましくは93%以上である。また、現実的な上限としては、99%程度である。90%未満であると輝度が低下するため画像表示用部材として使用できない場合がある。また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、透明性を表す指標の1つであるヘイズ値(濁度)が、2%以下であることが好ましい。2%を超えると輝度が低下するため画像表示用部材として使用できない場合がある。より好ましくは1.5%以下、最も好ましくは0.5%以下である。かかる全光線透過率およびヘイズ値にて表される優れた透明性を達成するには、可視光を吸収する添加剤や共重合成分を導入しないようにすることや、ポリマー中の異物を高精度濾過により除去し、フィルム内部の光の拡散や吸収を低減させること、製膜時のフィルム接触部(塗布基材、搬送ロールなど)の表面粗さを小さくしてフィルム表面の表面粗さを小さくすることが有効である。また、熱可塑性樹脂の屈折率を小さくすることによりフィルム表面の光の拡散や反射を低減させることが有効であり、構造式(a)〜(c)および(d)に示したアクリル系ポリマーを用いると、透明性に優れたフィルムを得ることができる。尚、全光線透過率およびヘイズ値は、JIS−K7361−1(1997)およびJIS−K7136(2000)に従い、測定した値である。
【0077】
かくして得られるフィルムは、その優れた透明性、品位、靱性を活かして、電気・電子部品、光学フィルター、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができる。
【0078】
ここで、光学フィルターとはディスプレイ機器用の部材であり、特に液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイなどフラットパネルディスプレイに用いられる部材を示す。例えば、プラスチック基板、レンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、紫外線吸収フィルム、赤外線吸収フィルム、電磁波シールドフィルムや、プリズムシート、プリズムシート基材、フレネルレンズ、光ディスク基板、光ディスク基板保護フィルム、導光板、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、タッチパネル用導電フィルムが例示できる。
【0079】
上記成形品の具体的用途としては、例えば、各種カバー、各種端子板、プリント配線板、スピーカー、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、また、透明性、耐熱性に優れている点から、映像機器関連部品としてカメラ、VTR、プロジェクションTV等のファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ等、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板保護フィルム、光スイッチ、光コネクター等、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、タッチパネル用導電フィルム、カバー等、これら各種の用途にとって極めて有用であり、特に光学等方性に優れるため偏光板保護膜として有用である。
【実施例】
【0080】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0081】
なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0082】
1.ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で測定した。サンプル量は5mgとした。
【0083】
尚、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、JIS−K7121(1987)に従い、求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)である。
【0084】
2.透明性(全光線透過率、ヘイズ値)
東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを用いて、23℃での全光線透過率(%)、ヘイズ値(%)を3回測定し、平均値で透明性を評価した。光源にはハロゲンランプ(12V50W)を用い、全光線透過率はJIS−K7361−1(1997)、ヘイズはJIS−K7136(2000)に準じて測定を行った。
【0085】
3.破断伸度・引張弾性率
JIS−K7127(1999)に規定された方法によりロボットテンシロンRTA100(オリエンテック社製)を用いて、25℃、65%RH雰囲気で5回測定を行い、平均値を求めた。ただし、試験片は幅10mmで長さ50mmの試料とした。試験を開始してから荷重が1Nを通過した点を伸びの原点とした。
【0086】
4.フィルム厚み
マイクロ厚み計(アンリツ社製)を用いて5点測定し、平均値を求めた。
【0087】
5.面内の位相差Ret、厚み方向の位相差Rth
王子計測(株)製の自動複屈折系(KOBRA−21ADH)を用い、波長590nmの光線に対する樹脂フィルム面内の直交軸方向の屈折率をnx、ny(ただしnx≧ny)、波長590nmの光線に対する樹脂フィルムの厚み方向の屈折率nzを測定し、樹脂フィルムの厚みをd(nm)とした時に下記式から求めた。測定回数は1回。
【0088】
面内の位相差Ret(nm)=d×(nx−ny)
厚み方向の位相差Rth(nm)=d×{(nx+ny)/2−nz}
6.厚み変動
厚み変動は、アンリツ株式会社性フィルムシックネステスタ「KG601A」および電子マイクロメータ「K306C」を用いて測定した。フィルムの搬送速度0.3m/分、サンプリング間隔0.1秒として測定を行い、フィルムの幅方向に300mm区間にわたって0.25mmおきに厚みデータをサンプリングした。任意の5mm区間中の厚みの最小値と最大値の差を厚み変動ΔD(μm)としたとき、測定した300mm区間内で最大のΔD(μm)をΔDmaxとした。
【0089】
(実施例1)
(1)アクリル系ポリマーの調製
アクリル系ポリマー(あ−1)
先ず、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤を、次の様にして調整した。
【0090】
メタクリル酸メチル20質量部、
アクリルアミド80質量部、
過硫酸カリウム0.3質量部、
イオン交換水1500質量部
を反応器中に仕込み、反応器中を窒素ガスで置換しながら、単量体が完全に重合体に転化するまで、70℃に保ち反応を進行させた。得られた水溶液を懸濁剤とした。容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、上記懸濁剤0.05質量部をイオン交換水165質量部に溶解した溶液を供給し、系内を窒素ガスで置換しながら400rpmで撹拌した。
【0091】
次に、下記仕込み組成の混合物質を、反応系を撹拌しながら添加した。
【0092】
メタクリル酸 :27質量部
メタクリル酸メチル :73質量部
t−ドデシルメルカプタン :1.2質量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル:0.45質量部
添加後、70℃まで昇温し、内温が70℃に達した時点を重合開始時点として、180分間保ち、重合を進行させた。
【0093】
その後、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合体を得た。この共重合体の重合率は97%であり、質量平均分子量は9万であった。上記共重合体に添加剤(NaOCH3)を0.2質量%配合し、2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=44.5)を用いて、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数100rpm、原料供給量5kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、ペレット状のアクリル系ポリマー(あ−1)を得た。アクリル系ポリマー(あ−1)の分子量は9万、Tgは140℃であった。
【0094】
(2)製膜
100℃で3時間乾燥したアクリル系ポリマー(あ−1)を45mmφの一軸押出機(S1)(設定温度250℃)で溶融してギアポンプで移送し、濾過精度50μmのフィルターで濾過した後、Tダイ(設定温度250℃、スリット間隙0.6mm、スリット幅400mm)を介してシート状に押出した。
【0095】
ダイから吐出後のシートを図1に示した装置を用いて表1に示す条件でフィルムの幅方向に1.2倍の延伸を行った(工程(2))。このフィルムをタッチロール式の製膜機を用い、130℃の冷却ロールに片面を完全に接着させるようにして冷却し、アクリル系フィルムを得た。このとき、Tダイのリップ間隙/フィルム厚み=15となるよう、冷却ロールの速度を調整した。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0096】
(実施例2〜4)
実施例1において、ダイから吐出後のシートの延伸条件を表1に示すとおり変更する以外は実施例1と同様の方法で製膜を行い、アクリル系フィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
(実施例5)
80℃で3時間乾燥したアクリルポリマー、スミペックスHT−50Yを45mmφの一軸押出機(S1)(設定温度230℃)で溶融してギアポンプで移送し、濾過精度50μmのフィルターで濾過した後、Tダイ(設定温度230℃、スリット間隙0.6mm、スリット幅400mm)を介してシート状に押出した。
【0097】
ダイから吐出後のシートを図1に示した装置を用いて表1に示す条件でフィルムの幅方向に1.2倍の延伸を行った(工程(2))。このフィルムをタッチロール式の製膜機を用い、100℃の冷却ロールに片面を完全に接着させるようにして冷却し、アクリル系フィルムを得た。このとき、Tダイのリップ間隙/フィルム厚み=15となるよう、冷却ロールの速度を調整した。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0098】
(実施例6)
100℃で6時間乾燥したシクロオレフィン系ポリマー、TOPAS6013を45mmφの一軸押出機(S1)(設定温度260℃)で溶融してギアポンプで移送し、濾過精度50μmのフィルターで濾過した後、Tダイ(設定温度260℃、スリット間隙0.6mm、スリット幅400mm)を介してシート状に押出した。
【0099】
ダイから吐出後のシートを図1に示した装置を用いて表1に示す条件でフィルムの幅方向に1.2倍の延伸を行った(工程(2))。このフィルムをタッチロール式の製膜機を用い、130℃の冷却ロールに片面を完全に接着させるようにして冷却し、シクロオレフィン系フィルムを得た。このとき、Tダイのリップ間隙/フィルム厚み=15となるよう、冷却ロールの速度を調整した。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0100】
(比較例1)
実施例1において、ダイから吐出後のシートの延伸を行わない以外は実施例1と同様の方法で製膜を行い、アクリル系フィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0101】
(比較例2)
比較例1で得られたフィルムを温度150℃、幅方向の延伸倍率1.2倍に設定したテンターに導入した。テンター内でフィルムが軟化して破断し、サンプルを得ることができなかった。
【0102】
(比較例3)
比較例1で得られたフィルムを温度130℃、幅方向の延伸倍率1.2倍に設定したテンターに導入した。得られたフィルムの物性を表1に示す。テンター内でフィルムが軟化し、得られたサンプルは平面性が悪化した。
【0103】
(比較例4)
実施例5において、ダイから吐出後のシートの延伸を行わない以外は実施例5と同様の方法で製膜を行い、アクリルフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0104】
(比較例5)
比較例4で得られたフィルムを温度85℃、幅方向の延伸倍率1.2倍に設定したテンターに導入した。得られたフィルムの物性を表1に示す。延伸により、位相差が発現した。
【0105】
(比較例6)
実施例6において、ダイから吐出後のシートの延伸を行わない以外は実施例6と同様の方法で製膜を行い、シクロオレフィン系フィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0106】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、透明性に優れるため、例えば、各種カバー、各種端子板、プリント配線板、スピーカー、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、また、映像機器関連部品としてカメラ、VTR、プロジェクションTV等のファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ等、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板保護フィルム、光スイッチ、光コネクター等、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルム、カバー等、に用いることができるが、特に光学等方性に優れるため、基板フィルムや、偏光板保護フィルムとして極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】ダイから吐出後のシート端部を、回転するガイドロールでニップして、シートを延伸を実施するための装置の概略図である。
【図2】ダイから吐出後のシート端部を、ピンの付いた回転体によって保持して、シートを延伸を実施するための装置の概略図である。
【符号の説明】
【0109】
11:ダイ
12:ダイから吐出後のシート
13:ガイドロール
21:ダイ
22:ダイから吐出後のシート
23:ピンの付いた回転体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)〜(3)をこの順に含む熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
工程(1):溶融した熱可塑性樹脂をダイからシート状に吐出する。
工程(2):ダイから吐出後のシートが支持体に接触する前に、シートの製膜方向とは異なる少なくとも1方向に延伸する。
工程(3):工程(2)を経たシートを支持体に接触させ支持体上で冷却する。
【請求項2】
工程(2)における延伸工程の延伸倍率をE(倍)としたとき、Eが下記式(I)を満たす、請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
0.9≦E≦2.0 ・・・(I)
【請求項3】
工程(2)の延伸工程において、延伸時のシートの温度をT(℃)、工程(1)の吐出工程において、溶融時の温度をT(℃)、熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、下記式(II)を満たす、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
Tg≦T≦T ・・・(II)
【請求項4】
工程(2)の延伸工程において、延伸速度をV(%/秒)としたとき、下記式(III)を満たす、請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
−10≦V≦300 ・・・(III)
【請求項5】
工程(3)の冷却工程において、支持体表面の温度をT(℃)、熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)としたとき、下記式(IV)を満たす、請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
Tg−100≦T≦Tg+50 ・・・(IV)
【請求項6】
熱可塑性樹脂がアクリル系ポリマーである、請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
アクリル系ポリマーが、下記構造式(a)〜(c)で表される構造単位のうち少なくとも1つ以上を含有するアクリル系ポリマーを含む、請求項6に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【化1】

(上記式中、R1、R2は、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基または、カルボキシル基、または炭素数2〜5のカルボキシアルキル基を表す。また、上記式中、X1、X2は、同一または相異なるCHまたはC=Oを表す。Xは、O、またはNRを表す。Rは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基または、カルボキシル基、または炭素数2〜5のカルボキシアルキル基を表す。)
【化2】

(上記式中、R、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基または、カルボキシル基、または炭素数2〜5のカルボキシアルキル基を表す。)
【化3】

(上記式中、Rは炭素数6〜15の脂環式構造を含有する置換基を表す。)
【請求項8】
アクリル系ポリマーが、下記構造式(d)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル系ポリマーを含む、請求項6または7に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【化4】

(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
【請求項9】
アクリル系ポリマーが不飽和カルボン酸アルキルエステル単位とグルタル酸無水物単位とを含んでなり、アクリル系ポリマーを100質量部としたとき、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜90質量部およびグルタル酸無水物単位10〜50質量部を含有する、請求項6〜8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−230030(P2008−230030A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72383(P2007−72383)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】