説明

熱可塑性樹脂フィルムの製造方法

【課題】厚みムラ故障の発生を抑えつつ、フィルムを製造する。
【解決手段】フィルムは、幅方向中央部から両端部に向かうに従って膜厚及び伸びやすさが大きくなる分布を有する。フィルムをテンタ部に導入する。テンタ部では、幅方向への延伸処理をフィルムに施す。フィルムの幅方向両端部では中央部に比べ伸びやすくなる結果、延伸処理前後におけるフィルムの膜厚の減少量ΔTHは、幅方向の中央部から両端部に向かうに従い大きくなる。延伸処理前における幅方向についての膜厚の変動量により、膜厚の減少量ΔTHの幅方向における変動量を抑えるように延伸することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルム、特に液晶表示装置等に用いられる光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルム(以下、フィルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟性および軽量薄膜化が可能であるなどの特長から光学フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレート、特に57.5%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下、TACと称する)から形成されるTACフィルムは、その強靭性と難燃性とから写真感光材料のフィルム用支持体として利用されている。また、TACフィルムは、熱可塑性樹脂フィルムの中でも光学等方性に優れていることから、液晶表示装置の偏光板の保護フィルム,光学補償フィルム(例えば、視野角拡大フィルムなど)などの光学フィルムとして用いられている。
【0003】
主なフィルムの製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法とは、ポリマーをそのまま加熱溶解させた後、押出機で押し出してフィルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含んだポリマー溶液(以下、ドープと称する)を支持体上に流延して形成した流延膜が自己支持性を有するものとなった後、これを支持体から剥がしてフィルムとし、このフィルムを十分に乾燥する方法である。
【0004】
フィルムの光学特性を調節するため、或いはフィルムのシワやタルミ等の発生を抑えるため、フィルムの幅方向両端部(以下、耳部と称する)をクリップ等で把持し、幅方向に延伸するテンタが知られている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−160831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、テンタによる延伸処理が施されたフィルムにおいて、幅方向における膜厚のばらつきが生じる故障(以下、厚みムラ故障と称する)が多発した。
【0006】
発明者は、鋭意検討の結果、テンタによる延伸処理の前に所定の処理を行うことにより、この厚みムラ故障の発生を抑えることができることを見出した。本発明は、厚みムラ故障の発生を抑えつつ、熱可塑性樹脂フィルムを製造する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、長尺状であり、幅方向中央部から両端部に向かうに従って膜厚及び前記幅方向への伸びやすさが大きくなる熱可塑性樹脂フィルムを形成する形成工程と、前記熱可塑性樹脂フィルムを前記幅方向に延伸する延伸工程とを有し、前記延伸工程では、前記延伸前における前記膜厚の前記幅方向についての変動量により、前記幅方向への伸びやすさに起因し、前記幅方向中央部から両端部に向かうに従って大きくなる前記延伸前後の前記膜厚の減少量を抑えるように、前記熱可塑性樹脂フィルムを延伸することを特徴とする。
【0008】
前記幅方向両端部における前記伸びやすさをZe、前記幅方向両端部における前記膜厚をTHe、前記幅方向中央部における前記伸びやすさをZc、及び前記幅方向中央部における前記膜厚をTHcとするときに、式1を満たす前記熱可塑性樹脂フィルムに前記延伸工程を行うことが好ましい。また、(THe−THc)の値が4μm以上であることが好ましい。
(式1) 1<THe/THc≦1.5×Ze/Zc
【0009】
前記フィルム形成工程では、前記熱可塑性樹脂と溶剤とを含むドープをダイに設けられた吐出口から走行する支持体に向けて吐出して、前記支持体上に流延膜を形成し、自己支持性を有するものとなった前記流延膜を前記フィルムとして前記支持体から剥ぎ取ることが好ましい。また、前記支持体上の前記流延膜を冷却することが好ましい。或いは、前記フィルム形成工程では、溶融した前記熱可塑性樹脂をダイに設けられた吐出口から押し出して前記フィルムを形成し、前記フィルムを長手方向に延伸することが好ましい。加えて、前記形成工程では、前記幅方向に伸びるスリット状の前記吐出口の吐出幅を前記幅方向中央部から両端部に向かうに従って大きくなるように調節することが好ましい。
【0010】
前記熱可塑性樹脂がセルロースアシレートであることが好ましい。また、前記熱可塑性樹脂が環状ポリオレフィンであることが好ましい。
【0011】
前記形成工程及び前記延伸工程の間で、前記フィルムを巻き芯に巻き取る巻き取り工程を行うことが好ましい。また、前記形成工程及び前記延伸工程を連続して行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、延伸前における幅方向での膜厚の変動量により、幅方向への伸びやすさに起因し、幅方向中央部から両端部に向かうに従って大きくなる延伸前後の前記膜厚の減少量を抑えるように、前記フィルムを延伸するため、厚みムラ故障の発生を抑えつつ、フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(オフライン延伸装置)
オフライン延伸装置10は、図1に示すように、供給部11と、テンタ部12と、熱緩和部13と、冷却部14と、巻取部15とを備えている。供給部11には、後述する溶液製膜方法により製造され、ロール状となって巻き芯21巻き取られたフィルム20が収納されている。巻き芯21巻き取られたフィルム20は、供給ローラ22により、テンタ部12に送られた後、熱緩和部13、冷却部14、及び巻取部15に順次送られ、各部12〜15にて所定の処理が施される。
【0014】
図2及び図3に示すように、テンタ部12は、フィルム20の両端部(以下「耳部」という)20eを把持して、フィルム20を方向Z1に搬送しながら、フィルム20の方向Z2に延伸する延伸処理を行う。テンタ部12の構成及び延伸処理の詳細は後述する。
【0015】
図1に示すように、テンタ部12と熱緩和部13との間には耳切装置25が設けられる。耳切装置25はフィルム20の耳部20e(図3参照)を切断する。切断された耳部20eは、カットブロア26で細かく小片にカットされる。カットされた耳部20eは、図示しない風送装置によりクラッシャ27に送られ、粉砕されてチップになる。
【0016】
熱緩和部13には多数のローラ28が設けられており、これらローラ28によりフィルム20は冷却部14まで搬送される。また、熱緩和部13では、搬送中のフィルム20に対して乾燥風が吹き付けられる。冷却部14では、フィルム20が所定温度にまで冷却される。冷却されたフィルム20は、巻取部15に送られる。巻取部15には巻取ローラ30及びプレスローラ31が設けられており、フィルム20はプレスローラ31により押圧されながら巻取ローラ30に巻き取られる。
【0017】
(テンタ部)
図2及び図3に示すように、テンタ部12は、方向Z1の上流側から順に、予熱エリア36、延伸エリア37、緩和エリア38及び冷却エリア39に区画される。なお、緩和エリア38は省略してもよい。
【0018】
テンタ部12は、クリップ40、レール41,42、ダクト43、及びエア供給部45を備えている。レール41,42はフィルム20の搬送路の両側に設置され、それぞれのレール41,42は所定のレール幅で離間している。このレール幅は、予熱エリア36では一定であり、延伸エリア37では方向Z1に向かうに従って次第に広くなり、緩和エリア38では方向Z1に向かうに従って次第に狭くなり、冷却エリア39では一定である。
【0019】
図示しないチェーンは、レール41,42に沿って移動自在に取り付けられている。複数のクリップ40は、所定の間隔でチェーン全体に取り付けられている。なお、図3では、図の煩雑化を避けるため、クリップ40の一部のみを示す。チェーンはスプロケット48,49と噛み合っている。スプロケット48,49が回転することにより、クリップ40はレール41,42に沿って移動する。予熱エリア36のZ1方向上流側には、クリップ40によるフィルム20の耳部の把持を開始する把持開始手段(図示しない)が設けられ、冷却エリア39のZ1方向下流側には、クリップ40によるフィルム20の耳部の把持を解除する把持解除手段(図示しない)が設けられる。クリップ40がレール41,42に沿って移動することで、フィルム20は方向Z2へ搬送され、各エリア36〜39を順次通過し、各エリア36〜39において所定の処理が施される。
【0020】
図2に示すように、ダクト43は、フィルム20の搬送路の上方に設けられている。ダクト43とフィルム20の搬送路との間隔は略一定となっている。ダクト43には、フィルム20の搬送路と対向するスリット53が設けられる。方向Z2に伸びるように形成されるスリット53はZ1方向に所定の間隔で複数設けられている。また、ダクト43内は、仕切り板54により第1〜第4給気室43a〜43dに区画されている。なお、図2では、第1及び第2給気室43a、43bでは複数のスリット53を設け、第3及び第4給気室43c、43dでは1つのスリット53を設けたが、本発明はこれに限られず、第1給気室43aや第2給気室43bに1つのスリット53を設け、第3給気室43cや第4給気室43dに複数のスリット53を設けてもよい。また、同様の構造を有するダクトを、フィルム20の搬送路の下方に設けてもよい。
【0021】
エア供給部45は、ダクト43の第1〜第4給気室43a〜43dにエアを供給する。第1〜第4給気室43a〜43dに供給されたエアは、図示しない温調機により所定範囲内の温度に調節される。第1〜第4給気室43a〜43d内のエアは、風56〜59となって、スリット53を介して、各エリア36〜39を通過中のフィルム20に対して吹き付けられる。
【0022】
次に、本発明の作用について説明する。図1に示すように、供給ローラ22は、ロール状となって巻き芯21巻き取られたフィルム20を、テンタ部12に送る。図3に示すように、テンタ部12に送られたフィルム20は予熱エリア36に送られる。予熱エリア36のZ1方向上流側では、図示しない把持開始手段により、レール41、42に沿って走行するクリップ40はフィルム20の耳部20eを把持する。そして、クリップ40は、耳部20eを把持しながらZ1方向に走行することにより、フィルム20はZ1方向上流側から、予熱エリア36、延伸エリア37、緩和エリア38及び冷却エリア39を順次通過する。テンタ部12を通過したフィルム20は、耳切装置25により耳部20eが切断され、製品部20cがフィルム20となって、熱緩和部13、冷却部14を経て、巻取部15へ送られる。
【0023】
フィルム20の幅は、600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、フィルム20の幅が2500mmより大きい場合にも効果がある。また、フィルム20の膜厚は、40μm以上120μm以下であることが好ましい。
【0024】
図2に示すように、エア供給部45によってダクト43に供給されたエアは、スリット53を介して、風56〜59となって、各エリア36〜39を通過中のフィルム20に対して吹き付けられる。これにより、予熱エリア36、延伸エリア37におけるフィルム20の温度は、所定の範囲内となるまで上昇する。また、緩和エリア38、冷却エリア39では、フィルム20の温度は、所定の範囲内となるまで下降する。
【0025】
図3に示すように、フィルム20は方向Z2の長さがL1のまま予熱エリア36を通過する。その後、延伸エリア37では、フィルム20に延伸処理が施される。延伸処理により、フィルム20は方向Z2への張力が付与され、方向Z2の長さがL1からL2と次第に増大する。延伸エリア37を通過するフィルム20の残留溶媒量は、0重量%以上3重量%以下であることが好ましい。フィルム20の残留溶媒量は、対象となるフィルムからサンプルフィルムを採取し、採取時のサンプルフィルムの重量をx、サンプルフィルムを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で表される。
【0026】
延伸処理における延伸率ER(%)は(L2−L1)/L1×100で表される。延伸率ERは、0%より大きく400%以下であることが好ましい。延伸処理におけるフィルム20の温度は、100℃以上250℃以下であることが好ましい。
【0027】
緩和エリア38では、フィルム20に緩和処理が施される。緩和処理により、フィルム20に残留する応力が取り除かれ、フィルム20の方向Z2の長さがL2からL3と次第に減少する。その後、フィルム20は、方向Z2の長さがL3のまま冷却エリア39を通過する。冷却エリア39を通過するフィルム20の残留溶媒量は、0重量%以上3重量%以下であることが好ましい。
【0028】
供給部11からテンタ部12に送られるフィルム20は、方向Z2において中央部から両端部に向かうに従って伸びやすさが大きくなる分布を有する。ここで、伸びやすさとは、フィルム20を方向Z2に延伸したときの延伸前後における膜厚の減少量ΔTHであり、膜厚の減少量ΔTHが大きくなるにつれて伸びやすさが大きくなり、膜厚の減少量ΔTHが小さくなるにつれて伸びやすさが小さくなる。膜厚の減少量ΔTHは、(延伸前の膜厚/延伸後の膜厚)で表される。
【0029】
したがって、このような伸びやすさの分布を有するフィルム20を方向Z2に延伸すると、方向Z2の両端部では中央部に比べ伸びやすくなる結果、膜厚の減少量ΔTHは、方向Z2の中央部から両端部に向かうに従い大きくなる。本発明では、この伸びやすさ分布とともに、図4(A)に示す膜厚分布を有するフィルム20について延伸処理を施すため、この膜厚分布によって膜厚の減少量ΔTHの方向Z2の変動量を抑えるように、フィルム20を方向Z2に延伸することができる(図4(B)参照)。図4(A)〜(B)において、縦軸は膜厚THを表し、横軸は、方向Z2におけるフィルム20の位置を表す。なお、Pe1及びPe2はフィルム20の方向Z2の両端部を、Pcはフィルム20の方向Z2の中央部を表す。
【0030】
この延伸処理を経たフィルムは、幅方向における膜厚のムラが抑えられ、膜厚が略均一となる。したがって、本発明によれば、厚みムラ故障を抑えつつ、フィルムを製造することができる。
【0031】
方向Z2の両端部における膜厚及伸びやすさをTHe及びZeとし、方向Z2の中央部における膜厚及伸びやすさをTHc及びZcとするときに、式1を満たすことが好ましい。(THe/THc)の値が1未満である、或いは(1.5×Ze/Zc)を超えると、厚みムラ故障が生じてしまう。(THe/THc)の値の上限は、(1.3×Ze/Zc)以下であることが好ましく、(1.2×Ze/Zc)以下であることがより好ましく、(1.1×Ze/Zc)以下であることが特に好ましい。
(式1) 1<THe/THc≦1.5×Ze/Zc
【0032】
(THe−THc)の値が4μm以上10μm以下であることが好ましく、4μm以上8μm以下であることがより好ましく、4μm以上7μm以下であることが特に好ましい。
【0033】
方向Z2の中央部から両端部に向かうに従って膜厚が大きくなる膜厚分布を、フィルム20の耳部20e及び製品部20cの全体にかけて設けてもよいし、製品部20cのみに設けてもよい。
【0034】
本発明は、図5に示す溶液製膜設備80にて行われる溶液製膜方法に適用することができる。なお、上記実施形態と同一の装置、部材については、同一の符号を付し、その詳細の説明は省略する。溶液製膜設備80は、ストックタンク81、流延室82、テンタ部12、乾燥室83、冷却部14、及び巻取部15を有する。
【0035】
ストックタンク81は、モータ81aで回転する攪拌翼81bとジャケット81cとを備えており、その内部にはフィルム20の原料となるドープ91が貯留されている。ストックタンク81内のドープ91は、ジャケット81cにより温度が略一定となるように調整されているまた、攪拌翼81bの回転によって、ポリマーなどの凝集を抑制しつつ、ドープ91を均一な品質に保持している。ストックタンク81の下流には、ギアポンプ92及び濾過装置93が設置されており、これらを介してドープ91が流延ダイ95に送られる。
【0036】
流延室82には、流延ダイ95、支持体としての流延ドラム96、剥取ローラ97、温調装置98,99、及び減圧チャンバ100が設置されている。流延ドラム96は図示しない駆動装置によって、軸96aを中心にA1方向に回転する。流延ダイ95は、幅方向に伸びるように形成されるスリットを有する。この回転中の流延ドラム96の周面に向けて、流延ダイ95のスリットからドープ91が吐出し、流延ドラム96の周面に流延膜103が形成する。
【0037】
流延室82内及び流延ドラム96は、温調装置98,99によって、流延膜103が冷却固化(ゲル化)し易い温度に設定されている。そして、流延ドラム96が約3/4回転する間に、流延膜103は自己支持性を有するゲル強度に達し、剥取ローラ97によって流延ドラム96から剥ぎ取られ、湿潤フィルム104となる。流延ドラム96の周速度をV1、剥取ローラ97の周速度をV2とするときに、V2/V1が101%以上150%となるように、図示しない制御部が、流延ドラム96及び剥取ローラ97を回転駆動する。
【0038】
減圧チャンバ100は、流延ダイ95に対し、A1方向上流側に配置されており、減圧チャンバ100内を負圧に保っている。これにより、流延ビードの背面(後に、流延ドラム96の周面に接する面)側を所望の圧力に減圧し、流延ドラム96が高速で回転することにより発生する同伴風の影響を少なくし、安定した流延ビードを流延ダイ95と流延ドラム96との間に形成し、膜厚ムラの少ない流延膜103が形成される。
【0039】
流延ダイ95の材質は、電解質水溶液、ジクロロメタンやメタノールなどの混合液に対する高い耐腐食性、及び低い熱膨張率を有する素材から形成される。流延ダイ95の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。
【0040】
流延ドラム96の周面は、クロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。また、温調装置99は、流延ドラム96の周面の温度を所望の温度に保つために、流延ドラム96に伝熱媒体を循環させる。伝熱媒体は所望の温度に保持されており、流延ドラム96内の伝熱媒体流路を通過することにより、流延ドラム96の周面の温度が所望の温度に保持される。
【0041】
流延ドラム96の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。流延ドラム96の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム96の周面に施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0042】
厚み調整ボルト(ヒートボルト)を流延ダイ95の幅方向において所定の間隔で設け、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を備えられていることがより好ましい。このヒートボルトを用いて、両側縁部のスリット幅を、中央部のスリット幅よりも大きくすることにより、上記の膜厚分布を有するフイルムを製造することができる。
【0043】
流延室82内には、蒸発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)109と凝縮液化した溶媒を回収する回収装置110とが備えられている。凝縮器109で凝縮液化した有機溶媒は、回収装置110により回収される。回収された溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
【0044】
流延室82の下流には、渡り部111、ピンテンタ112、テンタ部12が順に設置されている。渡り部111では、複数の搬送ローラ113を用いて、湿潤フィルム104をピンテンタ112に導入する。ピンテンタ112は、湿潤フィルム104の両端部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。この走行中に湿潤フィルム104に対して乾燥風が送られ、湿潤フィルム104が走行しつつ乾燥され、フィルム20となる。
【0045】
湿潤フィルム104は、ピンテンタ112で、残留溶媒量が0.1重量%以上10重量%以下となるまで乾燥することが好ましい。残留溶媒量が150重量%以上320重量%以下の範囲のときに流延膜103を剥ぎ取り、ピンテンタ112で残留溶媒量が上記範囲となるまで乾燥することにより、テンタ部12におけるセルロースアシレート分子の配向制御がさらに効果的に行われる。すなわち、テンタ部12での延伸処理での、遅相軸の方向制御効果と、Re、Rthを高める効果と、光学ムラの改良効果とが高まる。ただし、本発明ではピンテンタ112での乾燥は、残留溶媒量が上記の範囲となるまで実施せずともよい。つまり、残留溶媒量が10重量%よりも高い状態の湿潤フィルム104をテンタ部12に送り込んでもよい。
【0046】
乾燥室83では、フィルム20に50℃以上200℃以下の乾燥風をあてて、フィルム20を乾燥する。乾燥室83では、残留溶媒量が0.01重量%以上5重量%以下となるまでフィルム20を乾燥することが好ましい。
【0047】
テンタ部12を、ピンテンタ112と乾燥室83との間に設けたが、本発明はこれに限られず、冷却部14と巻取部15との間にテンタ部12を設けてもよいし、ピンテンタ112と乾燥室83との間、及び冷却部14と巻取部15との間の両方に、テンタ部12を設けてもよい。また、溶液製膜設備80にて製造したフィルム20を巻き取った後、巻き芯から取り出されたフィルム20にテンタ部12において延伸処理を行う場合には、溶液製膜設備80におけるテンタ部12を省略してもよい。
【0048】
本発明のフィルム20には、上記のような溶液製膜方法によって得られるフィルムに限られず、溶融製膜方法によって得られるフィルムも含まれる。
【0049】
(溶融製膜設備)
次に、溶融製膜方法により熱可塑性樹脂フィルムを製造する製造設備(以下、溶融製膜設備と称す)について説明する。溶融製膜設備410は、図6に示すように、液晶表示装置等に使用できる熱可塑性フィルムFを製造する装置である。熱可塑性フィルムFの原材料であるペレット状の熱可塑性樹脂を乾燥機412に導入して乾燥させた後、このペレットを押出機414によって押し出し、ギアポンプ416によりフィルタ418に供給する。次いで、フィルタ418により異物がろ過され、ダイ420から溶融樹脂(溶融した熱可塑性樹脂)が押し出される。溶融樹脂は、第1キャスティングロール428とタッチロール424で挟まれて押圧成形された後、第1キャスティングロール428にて冷却固化されて所定の表面粗さのフィルム状とされ、さらに、第2キャスティングロール426、第3キャスティングロール427によって搬送されることで未延伸フィルムFaが得られる。この未延伸フィルムFaは、この段階で巻き取られてもよいし、連続的に長スパン延伸を行う横延伸部442に供給されてもよい。また、一度巻き取られた未延伸フィルムFaを再度横延伸部442に供給しても、連続的に長スパン延伸を行う横延伸部442に供給した場合と同様の効果が得られる。
【0050】
横延伸部442では、未延伸フィルムFaが搬送方向Y1と直交する幅方向Y2(図7参照)に延伸され、横延伸フィルムFbとされる。横延伸部442の上流側に予熱部436を設けてもよいし、横延伸部442の下流側に熱固定部444を設けてもよい。これにより、延伸中のボーイング(光学軸のズレ)を小さくできる。予熱温度は横延伸温度より高いこと、熱固定温度は横延伸温度より低いことが好ましい。すなわち、通常、ボーイングは幅方向中央部が進行方向に向かって凹となるが、予熱温度>横延伸温度、横延伸温度>熱固定温度とすることによりボーイングを低減できる。予熱処理、熱固定処理はどちらか一方でもよく、両方行ってもよい。
【0051】
横延伸の後に後熱処理を行なった後、熱処理ゾーン446で方向Y1に横延伸フィルムFbを収縮させる。熱処理ゾーン446では、図7に示すように、横延伸フィルムFbの側端部をチャックで把持しない状態で、方向Y2の収縮が起こらずに、方向Y1の収縮のみが起こるように複数のロール448a〜448dで横延伸フィルムFbを搬送する。このとき、図8に示すように、複数のロール448a〜448dは、ロールラップ長(D)とロール間長(G)の比(G/D)が0.01以上3以下となるように配置される。これにより横延伸フィルムFbと各ロール448〜448dとの摩擦により方向Y2の収縮が抑制される。そして、横延伸フィルムFbは、上流側のロール448aによる周速度(V1)と下流側のロール448dによる周速度(V2)の比(V2/V1)が0.6以上0.999以下で搬送しながら熱処理される。つまり、横延伸フィルムFbは熱処理ゾーンにて方向Y1に収縮する。
【0052】
横延伸フィルムFbが熱処理ゾーンにて熱処理されることで、配向角、レターデーションが調整された最終製品である熱可塑性フィルムFが製造される。このフィルムFは巻取部449によって巻き取られる。
【0053】
方向Y2への延伸の前又は後に方向Y1の延伸を行ってもよい。方向Y1の延伸は、方向Y1に並ぶ複数のニップロール対を用いてフィルムを搬送し、上流側のニップロール対の周速度より下流側のニップロール対の周速度を速くすることで達成できる。方向Y1におけるニップロール間の距離(L)と上流側のニップロール対でのフィルム幅Wの比(L/W)の大きさで延伸方式が異なり、L/Wが小さいと特開2005−330411号公報、特開2006−348114号公報記載のような方向Y1の延伸方式を採用できる。この方式は、Rthが大きくなり易いが装置をコンパクトにすることができる。一方、L/Wが大きい場合は特開2005−301225号公報記載のような方向Y1の延伸方式を用いることができる。この方式はRthを小さくできるが、装置が長大になり易い。
【0054】
なお、溶融製膜設備410にて、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を方向Y2において所定の間隔でダイ420に設け、このヒートボルトを用いて、両側縁部のスリット幅を、中央部のスリット幅よりも大きくすることにより、上記の膜厚分布を有するフィルムを製造することができる。
【0055】
(ポリマー)
本発明に用いることのできるポリマーは、熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状オレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状オレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状オレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状オレフィンである。
【0056】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表し、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0057】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0058】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「2位のアシル置換度」とする)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「3位のアシル置換度」という)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「6位のアシル置換度」という)である。
【0059】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が用いられてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0060】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位の水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れたドープを作製することができる。特に、非塩素系有機溶媒を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
【0061】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター、パルプのいずれかから得られたものでもよい。
【0062】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特には限定されない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレノイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0063】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブなど)などが挙げられる。
【0064】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度及び光学特性など物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール、エタノール、n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0065】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン、エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン、エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−、−CO−、−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
【0066】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒及び可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤(UV剤)、光学異方性コントロール剤、レターデーション制御剤、染料、マット剤、剥離剤、剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0067】
(環状オレフィン)
環状オレフィンはノルボルネン系化合物から重合されるものが好ましい。この重合は開環重合、付加重合いずれの方法でも行える。付加重合としては例えば特許3517471号公報記載のものや特許3559360号公報、特許3867178号公報、特許3871721号公報、特許3907908号公報、特許3945598号公報、特表2005−527696号公報、特開2006−28993号公報、国際公開第2006/004376号パンフレットに記載のものが挙げられる。特に好ましいのは特許3517471号公報に記載のものである。
【0068】
開環重合としては国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報、特許3220478号公報、特許3273046号公報、特許3404027号公報、特許3428176号公報、特許3687231号公報、特許3873934号公報、特許3912159号公報記載のものが挙げられる。なかでも好ましいのが国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報記載のものである。
【0069】
これらの環状オレフィンの中でも付加重合のものの方がより好ましい。
【0070】
(ラクトン環含有重合体)
下記(一般式1)で表されるラクトン環構造を有するものを指す。
【0071】
【化1】

【0072】
(一般式1)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0073】
(一般式1)のラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。
【0074】
(一般式1)で表されるラクトン環構造以外に、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記(一般式2)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0075】
【化2】

【0076】
(一般式2)中、R4は水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R5基、又は−C−O−R6基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R5及びR6は水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。
【0077】
例えば、国際公開第2006/025445号パンフレット、特開2007−70607号公報、特開2007−63541号公報、特開2006−171464号公報、特開2005−162835号公報記載のものを用いることができる。
【実施例】
【0078】
以下に示す条件で実験1〜7を行い、本発明の効果の有無について調べた。各実験の説明は実験1で詳細に行い、実験2〜7については、実験1と同じ条件の箇所の説明は省略する。
【0079】
(実験1)
所定の固形分を所定の溶媒に適宜添加し、攪拌溶解してドープAを調整した。ドープAの処方は次の通りである。
セルローストリアセテート(置換度2.8) 89.3重量%
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.1重量%
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 3.6重量%
の組成比からなる固形分(溶質)を
ジクロロメタン 80重量%
メタノール 13.5重量%
n−ブタノール 6.5重量%
からなる混合溶媒に適宜添加し、攪拌溶解してドープAを調製した。なお、ドープのTAC濃度は略23重量%になるように調整した。ドープを濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した後にストックタンクに入れた。
【0080】
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1重量%以下であり、Ca含有率が5ppm、Mg含有率が42ppm、Fe含有率が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンを15ppm含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.91であった。また、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基の水素が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8重量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であっ。このTACは、パルプから採取したセルロースを原料として合成されたものである。
【0081】
このドープAを用いて溶液製膜方法を行い、フィルム20を得た。フィルム20の幅は、1500mmであった。フィルム20の方向Z2両端部の膜厚THeは100μmであり、フィルム20の方向Z2中央部の膜厚THcは94μmであった。また、方向Z2両端部及び中央部におけるフィルム20の伸びやすさZe及Zcの比(=Ze/Zc)は1.06であった。得られたフィルム20について、図1に示すオフライン延伸装置10を用いて、テンタ部12において延伸処理を行った。予熱エリア36では、フィルム20の温度を150℃〜180℃に保持し、延伸エリア37では、フィルム20の温度を180℃〜200℃に保持しながら、方向Z2へフィルム20を延伸した。延伸率ERは40%であった。次いで、緩和エリア38では、フィルム20の温度を150℃〜200℃に保持しながら、緩和処理を行った。
【0082】
(実験2〜7)
実験2〜7では、各パラメータの値を表1に示す値にしたこと以外は、実験1と同様にした。
【0083】
(評価)
得られたフィルムについて、以下の評価を行った。
【0084】
1.厚みムラの評価
厚みムラについて以下基準に基づいて評価した。方向Z2の最大膜厚をTHmax、方向Z2の最小膜厚をTHmin、方向Z2の平均膜厚をTHaveとすると、厚みムラMは、(THmax−THmin)/THave×100で表される。
◎:Mが2%未満であった。
○:Mが2%以上5%未満であった。
×:Mが5%以上であった。
【0085】
2.ΔReの評価
フィルム20から方向Z2にサンプルフィルムを均等に20枚切り出し、面内レターデーションReを測定した。前記20枚のサンプルフィルムのうちReの最大値をRemax、Reの最小値をReminとすると、ΔReはRemax−Reminで表される。この変動量ΔReを以下基準に基づいて評価した。
○:ΔReが2nm以下であった。
×:ΔReが2nmより大きかった。
【0086】
面内レターデーションReの測定方法は次の通りである。面内レターデーションReは、サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(KOBRA21DH 王子計測(株))にて632.8nmにおける垂直方向から測定したレターデーション値を用いた。なおReは以下式で表される。
Re=|n1−n2|×d
n1は、Z1方向の屈折率,n2は方向Z2の屈折率,dはフィルムの厚み(膜厚)を表す。
【0087】
3.ΔRthの評価
フィルム20から方向Z2にサンプルフィルムを均等に20枚切り出し、厚み方向のレターデーションRthを測定した。前記20枚のサンプルフィルムのうちRthの最大値をRthmax、Rthの最小値をRthminとすると、ΔRthはRthmax−Rthminで表される。この変動量ΔRthを以下基準に基づいて評価した。
○:ΔRthが2nm以下であった。
×:ΔRthが2nmより大きかった。
【0088】
厚み方向レターデーションRthの測定方法は次の通りである。サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、エリプソメータ(M150 日本分光(株)製)で632.8nmにより垂直方向から測定した値と、フィルム面を傾けながら同様に測定したレターデーション値の外挿値とから下記式に従い算出した。
Rth={(n1+n2)/2−n3}×d
n3は厚み方向の屈折率を表す。
【0089】
実験1〜7における評価結果1〜3を、表1に示す。評価結果1は、厚みムラの評価結果を表し、評価結果2は、ΔReの評価結果を表し、評価結果3は、ΔRthの評価結果を表す。
【0090】
【表1】

【0091】
表1に示すとおり、本発明によれば、厚みムラ故障の発生を抑えつつ、フィルムを製造することができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】オフライン延伸装置を示す概略図である。
【図2】テンタ部の概要を示す側面図である。
【図3】テンタ部の概要を示す上面図である。
【図4】(A)及び(B)は、幅方向Z1におけるフィルムの膜厚分布の概要を示す説明図であり、(A)は延伸処理前、(B)は延伸処理後のものである。
【図5】溶液製膜設備を示す概略図である。
【図6】溶融製膜設備を示す概略図である。
【図7】熱処理ゾーンの概要を示す斜視図である。
【図8】熱処理ゾーンの概要を示す側面図である。
【符号の説明】
【0093】
10 オフライン延伸装置
12 テンタ部
20 フィルム
20e 耳部
20c 製品部
37 延伸エリア
53 スリット
56〜59 風

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状であり、幅方向中央部から両端部に向かうに従って膜厚及び前記幅方向への伸びやすさが大きくなる熱可塑性樹脂フィルムを形成する形成工程と、
前記熱可塑性樹脂フィルムを前記幅方向に延伸する延伸工程とを有し、
前記延伸工程では、前記延伸前における前記膜厚の前記幅方向についての変動量により、前記幅方向への伸びやすさに起因し、前記幅方向中央部から両端部に向かうに従って大きくなる前記延伸前後の前記膜厚の減少量を抑えるように、前記熱可塑性樹脂フィルムを延伸することを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記幅方向両端部における前記伸びやすさをZe、前記幅方向両端部における前記膜厚をTHe、前記幅方向中央部における前記伸びやすさをZc、及び前記幅方向中央部における前記膜厚をTHcとするときに、式1を満たす前記熱可塑性樹脂フィルムに前記延伸工程を行うことを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(式1) 1<THe/THc≦1.5×Ze/Zc
【請求項3】
(THe−THc)の値が4μm以上であることを特徴とする請求項2記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂フィルム形成工程では、前記熱可塑性樹脂と溶剤とを含むドープをダイに設けられた吐出口から走行する支持体に向けて吐出して、前記支持体上に流延膜を形成し、
自己支持性を有するものとなった前記流延膜を前記熱可塑性樹脂フィルムとして前記支持体から剥ぎ取ることを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記支持体上の前記流延膜を冷却することを特徴とする請求項4記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂フィルム形成工程では、
溶融した前記熱可塑性樹脂をダイに設けられた吐出口から押し出して前記熱可塑性樹脂フィルムを形成し、
前記熱可塑性樹脂フィルムを長手方向に延伸することを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記形成工程では、前記幅方向に伸びるスリット状の前記吐出口の吐出幅を前記幅方向中央部から両端部に向かうに従って大きくなるように調節することを特徴とする請求項4ないし6のうちいずれか1項記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂がセルロースアシレートであることを特徴とする請求項1ないし7のうちいずれか1項記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂が環状ポリオレフィンであることを特徴とする請求項1ないし7のうちいずれか1項記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記形成工程及び前記延伸工程の間で、前記熱可塑性樹脂フィルムを巻き芯に巻き取る巻き取り工程を行うことを特徴とする請求項1ないし9のうちいずれか1項記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記形成工程及び前記延伸工程を連続して行うことを特徴とする請求項1ないし9のうちいずれか1項記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−82987(P2010−82987A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254604(P2008−254604)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】