説明

熱可塑性樹脂組成物およびそれかなる繊維構造物

【課題】難燃性およびドリップ抑制の効果、生産安定性を満足する熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる繊維構造物を提供する。
【解決手段】下記(A)、(B)、(C)の成分から構成されるポリオルガノシロキサン組成物を1種または2種以上含有していることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(A)平均組成式(1):RmSiXn(4-m-n)/2 〔式中、Rは置換または非置換の一価の炭化水素基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m,nは1.0≦m<2.0、0<n≦1.5および1.0≦m+n≦3.0を満たす数であり、分子中に必ず1以上のOH基または加水分解性基を有する〕で示されるポリオルガノシロキサン。
(B)金属(アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く)を含有する縮合触媒。
(C)縮合触媒の失活剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性、ドリップ抑制の効果が高く、且つポリオルガノシロキサン樹脂が添加された、繊維構造物を安定的に製造可能な熱可塑性樹脂組成物およびそれかなる繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、易燃焼性樹脂、易燃焼性繊維などの素材の難燃化手法として、含塩素系難燃剤、含臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤、またはハロゲン系難燃剤とアンチモン系難燃剤を含有させた素材が数多く提案されている。しかしながら、これらの素材は難燃性には優れるもののハロゲン系難燃剤は燃焼時にハロゲン化ガスを発生する懸念があるなどの問題があり、これらの問題を解決するために数多くの検討がなされている。
【0003】
例えばハロゲン元素やアンチモン元素を含まないリン化合物を使用したリン系難燃剤を含有した素材が数多く提案されているが、難燃性はハロゲン系、アンチモン系難燃剤よりも低く、難燃性能は不十分である。
【0004】
これら問題を解決するためにハロゲン元素、アンチモン元素、リン元素を含まないシリコーン系化合物を使用した検討が行われている。このシリコーン系化合物とは1官能性のR3SiO0.5(M単位)、2官能性のR2SiO1.0(D単位)、3官能性のRSiO1.5(T単位)、4官能性のSiO2.0(Q単位)で示される構造単位のいずれかから構成されるものである。
【0005】
このシリコーン系化合物を利用して難燃性を付与する例として、非シリコーンポリマーとモノオルガノシロキサンとの混練物からなる溶融加工可能なポリマー組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
確かにこの例はハロゲン元素やアンチモン元素、リン元素を含まず、ある程度の難燃性を発現することが可能であるが、難燃性を発現するためには非シリコーンポリマーとモノオルガノシロキサンの配合比を10:1乃至1:5の範囲にすることが必要であり、モノオルガノシロキサンの添加量が多く、コストアップや非シリコーンポリマーの物性低下を招く問題がある。また、ドリップを抑制することはできないといった問題がある。
【0007】
また、芳香環を含有する非シリコーン樹脂(A)と、式R2 SiO1.0で示される単位と式RSiO1.5 で示される単位を持ち、重量平均分子量が10,000以上270,000以下であり、かつ、前記Rが炭化水素基であるシリコーン樹脂(B)とを含有する難燃性樹脂組成物が提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
この例もある程度の難燃性を発現することが可能であるが、製造時の熱によりシリコーン樹脂の縮合反応が起こり、シリコーン樹脂の物性変化による難燃性の低下や生産安定性を満足することはできないといった問題がある。
【0009】
一方、ポリオルガノシロキサンの縮合反応促進触媒(シラノール縮合反応促進触媒)として有機スズ化合物、有機チタネート化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機亜鉛化合物および有機コバルト金属塩などの有機酸金属塩(有機酸金属キレート化合物を含む)が広く知られている(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5参照)。これらの縮合反応促進触媒は、酸性触媒やアルカリ性触媒に比して取り扱いが容易であり、少量の添加でも速やかに反応が進行してポリオルガノシロキサンを製造することが可能である。なお、これらの縮合反応促進触媒は組成物を硬化させる目的で添加されるものであるため、一般に後処理を行なうことはない。
【0010】
しかしながら、有機酸金属塩からなる縮合反応促進触媒の存在下で製造されたポリオルガノシロキサンは、熱可塑性樹脂と溶融混合して熱可塑性樹脂組成物を製造する場合やポリオルガノシロキサンと熱可塑性樹脂が溶融混合された熱可塑性樹脂組成物を用いて溶融紡糸により繊維構造物を製造する場合に、製造時の熱によりポリオルガノシロキサンの縮合反応が容易に進行し、ポリオルガノシロキサンの物性変化による性能の低下や生産性が低下するという問題があり、現状の技術では難燃性およびドリップ抑制の効果、生産安定性を満足することはできていないのが現状である。
【特許文献1】特開昭54−36365号公報
【特許文献2】特開平10−139964号公報
【特許文献3】特開平02−133459号公報
【特許文献4】特開2003−41122号公報
【特許文献5】特開2005−200546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、上述のような現状に鑑み、熱可塑性樹脂組成物および繊維構造物の難燃性およびドリップ抑制の効果、生産安定性を満足させることが可能な熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる繊維構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂からなる樹脂組成物において、下記(A)、(B)、(C)の成分から構成されるポリオルガノシロキサン組成物を1種または2種以上含有していることを特徴とするものからなる。
(A)平均組成式(1):RmSiXn(4-m-n)/2 〔式中、Rは置換または非置換の一価の炭化水素基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m,nは1.0≦m<2.0、0<n≦1.5および1.0≦m+n≦3.0を満たす数であり、分子中に必ず1以上のOH基または加水分解性基を有する〕で示されるポリオルガノシロキサン。
(B)金属(アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く)を含有する縮合触媒。
(C)縮合触媒の失活剤。
【0013】
この熱可塑性樹脂組成物においては、ポリオルガノシロキサンのガラス転移点が100℃〜290℃の範囲であることが好ましい。
【0014】
また、上記熱可塑性樹脂組成物においては、ポリオルガノシロキサンの成分(A)が平均組成式(2):(C65m11m2SiXn(4-m1-m2-n)/2 〔式中、R1はフェニル基を除く置換または非置換の一価の炭化水素基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m1,m2,nは0.3≦m1≦1.8、0≦m2≦1.5、1.0≦m1+m2<2.0、0.2≦m1/(m1+m2)≦1.0、0<n≦1.5および1.0≦m1+m2+n≦3.0を満たす数であり、分子中に必ず1以上のOH基または加水分解性基を有する〕で示されるフェニル基含有ポリオルガノシロキサンである構成とすることができる。
【0015】
上記ポリオルガノシロキサン組成物の成分(B)としては、例えば、アルミニウム、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、ジルコニウム、パラジウム、スズ、水銀、鉛から選ばれる1種または2種以上の金属を含有する縮合触媒を使用できる。
【0016】
上記ポリオルガノシロキサン組成物の成分(C)としては、例えば、リンを含有する縮合触媒の失活剤を使用できる。
【0017】
本発明は、このような熱可塑性樹脂組成物を用いた繊維構造物についても提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、難燃樹脂素材や難燃繊維素材として、具体的には、産業用途、衣料用途、非衣料用途などにおいて、難燃性が高く、ドリップ抑制の効果に優れ、且つ生産安定性の高い熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる繊維構造物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
本発明は、熱可塑性樹脂からなる樹脂組成物において、下記(A)、(B)、(C)の成分から構成されるポリオルガノシロキサン組成物を1種または2種以上含有していることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物である。
(A)平均組成式(1):RmSiXn(4-m-n)/2 〔式中、Rは置換または非置換の一価の炭化水素基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m,nは1.0≦m<2.0、0<n≦1.5および1.0≦m+n≦3.0を満たす数であり、分子中に必ず1以上のOH基または加水分解性基を有する〕で示されるポリオルガノシロキサン。
(B)金属(アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く)を含有する縮合触媒。
(C)縮合触媒の失活剤。
【0020】
本発明における熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ポリアミドおよびポリオレフィンから選ばれた樹脂が好適に使用できる。
【0021】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびポリ乳酸から選ばれたものが好ましい。ポリ乳酸には、ポリ−L−乳酸、およびポリ−D−乳酸がある。また、ポリアミドとしては、−CONH−の繰り返し構造を持つナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12等が挙げられる。また、ポリオレフィンとしてはポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種類以上を併用しても良い。
【0022】
熱可塑性樹脂は、樹脂組成物中に主成分として含有されていることが好ましく、樹脂組成物に対して重量比で50%以上含有されていることが好ましく、70%以上含有されていることがさらに好ましい。しかし、ドリップ抑制の効果、難燃性、樹脂組成物の物性、生産安定性などの低下が無い範囲で、他の有機ポリマーや無機化合物とのブレンド、アロイ、コンポジットなどを用いることも可能である。
【0023】
次に本発明におけるポリオルガノシロキサンについて説明する。ポリオルガノシロキサンの合成では、出発原料としてオルガノクロロシラン、オルガノアルコキシシラン、それらのオリゴマーおよび平均組成式(1):RmSiXn(4-m-n)/2 〔式中、Rは置換または非置換の一価の炭化水素基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m,nは1.0≦m<2.0、0<n≦1.5および1.0≦m+n≦3.0を満たす数であり、分子中に必ず1以上のOH基または加水分解性基を有する〕で示されるポリオルガノシロキサンから選ばれる1種又は2種以上を使用する。すなわち、本発明におけるポリオルガノシロキサン樹脂は、シランモノマーを原料にしてもよく、予め一定の分子量まで重合したポリオルガノシロキサン樹脂を原料として、後述する縮合反応促進触媒を用いて更に高分子量化するものであってもよい。また、必要によっては、オルガノクロロシランもしくはオルガノアルコキシシランのオリゴマーまたは予め一定の分子量まで重合したポリオルガノシロキサン樹脂に加え、出発原料としてオルガノクロロシラン、オルガノアルコキシシランを併用することもできる。
【0024】
出発原料として用いるオルガノクロロシラン、オルガノアルコキシシランは、下記一般式で示されるものを用いることができる。
aSiX4-a
(Rは互いに同一又は異なる置換又は非置換の一価の炭化水素基を表すものであり、aは0〜3の整数であり、Xはアルコキシ基(−OR´、R´は置換又は非置換の一価の炭化水素基)または塩素原子(−Cl)から選択される加水分解性基を表すものである。)
Rは炭素原子数1〜10の置換または非置換の一価の炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数1〜8のアルキル基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン置換アルキル基などが好適である。特に、工業的にはメチル基とフェニル基が好ましく、得られるポリオルガノシロキサン樹脂を難燃剤に用いる場合には、Rがアリール基、特にはフェニル基であることが好ましい。
Xがアルコキシ基である場合、Xは−OR´で表される有機基であり、R´は炭素原子数1〜10の置換または非置換の一価の炭化水素基であることが好ましく、具体的には、R´として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基及びこれらの基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基等で置換したクロロメチル基、トリフルオロプロピル基、シアノエチル基が例示される。
【0025】
上記オルガノクロロシラン、オルガノアルコキシシランの具体例として、テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン等のアルキルクロロシラン;フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、トリフェニルクロロシラン、フェニルメチルジクロロシラン等のフェニルクロロシラン;トリフルオロプロピルトリクロロシラン、トリフルオロプロピルメチルジクロロシラン等のフッ化アルキルクロロシラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン;トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン等のフェニルアルコキシシラン;トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、トリフルオロプロピルメチルジエトキシシラン等のフッ化アルキルアルコキシシランが例示できる。
【0026】
ポリオルガノシロキサン樹脂は、難燃性の観点から該オルガノクロロシラン、オルガノアルコキシシランがアリール基、特にはフェニル基を含有するものであることが特に好ましい。すなわち、オルガノクロロシランがフェニルクロロシランとアルキルクロロシランを100/0〜1/99の比で混合したものであり、オルガノアルコキシシランがフェニルアルコキシシランとアルキルアルコキシシランを100/0〜1/99の比で混合したものであることが好ましい。ここで、フェニルクロロシラン、アルキルクロロシラン、フェニルアルコキシシランおよびアルキルアルコキシシランは前記に例示したシラン類が例示される。オルガノクロロシランがフェニルクロロシランとアルキルクロロシランの混合比あるいはフェニルアルコキシシランとアルキルアルコキシシランの混合比は100/0〜50/50であることが更に好ましく、100/0〜90/10であることが難燃性の点から特に好ましい。
【0027】
出発原料として用いるオルガノクロロシランまたはオルガノアルコキシシランのオリゴマーとしては、上記オルガノクロロシランまたはオルガノアルコキシシランの部分加水分解縮合物を挙げることができ、重合度が2〜10程度のメチルポリシリケート、重合度が2〜10程度のエチルポリシリケート、1,2−ジメチルテトラメトキシジシロキサン、1,2−ジフェニルテトラメトキシジシロキサン、1,2−ジメチルテトラエトキシジシロキサン、1,2−ジフェニルテトラエトキシジシロキサンが例示される。難燃性の観点からは、1,2−ジフェニルテトラメトキシジシロキサンまたは1,2−ジフェニルテトラエトキシジシロキサンを出発原料とすることが好ましい。
【0028】
本発明におけるポリオルガノシロキサン樹脂は、予め公知の酸性またはアルカリ性加水分解縮合触媒により加水分解縮合して得たポリオルガノシロキサン樹脂を出発原料の一部または全部に用いることにより、出発原料としたポリオルガノシロキサン樹脂よりも高分子量かつガラス転移点の高いポリオルガノシロキサン樹脂を得ることができるという利点がある。すなわち、出発原料として用いることができる平均組成式(1):RmSiXn(4-m-n)/2 〔式中、Rは置換または非置換の一価の炭化水素基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m,nは1.0≦m<2.0、0<n≦1.5および1.0≦m+n≦3.0を満たす数であり、分子中に必ず1以上のOH基または加水分解性基を有する〕で示されるポリオルガノシロキサンは、前記のオルガノクロロシラン、オルガノアルコキシシランまたはそれらのオリゴマー等を、公知の酸性またはアルカリ性加水分解縮合触媒により加水分解縮合して得たポリオルガノシロキサン樹脂であってもよい。公知の酸性又はアルカリ性加水分解触媒は例えば、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の酸性触媒あるいは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物、トリエチルアミン、テトラエチルアンモニウムヒドロキサイド等のアミン化合物などのアルカリ性触媒を使用することができる。なお、該ポリオルガノシロキサンの原料として前記のクロロシラン類を使用した場合は、副生する塩酸が触媒として作用する。なお、かかるポリオルガノシロキサンは25℃で固体であっても液状であってもよく、酸性触媒あるいは塩基性触媒を除去する目的で水またはpH4〜8の緩衝液による洗浄、中和等の処理が予めなされていてもよい。
【0029】
出発原料として用いることができる平均組成式(1):RmSiXn(4-m-n)/2 〔式中、Rは置換または非置換の一価の炭化水素基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m,nは1.0≦m<2.0、0<n≦1.5および1.0≦m+n≦3.0を満たす数であり、分子中に必ず1以上のOH基または加水分解性基を有する〕で示されるポリオルガノシロキサンにおいて、Rは互いに同一又は異なる置換又は非置換の一価の炭化水素基であり、炭素原子数1〜10の置換または非置換の一価の炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数1〜8のアルキル基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン置換アルキル基などが好適である。特に、工業的にはメチル基とフェニル基が好ましく、難燃性の観点から、Rがアリール基、特にはフェニル基であることが好ましい。
【0030】
XはOH基または加水分解性基であり、加水分解基として塩素原子(−Cl)またはアルコキシ基(−OR´)が挙げられる。Xがアルコキシ基である場合、Xは−OR´で表される有機基であり、R´は炭素原子数1〜10の置換または非置換の一価の炭化水素基であることが好ましく、具体的には、R´として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、ブチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基及びこれらの基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基等で置換したクロロメチル基、トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等が例示される。
【0031】
さらに、難燃性の観点から、前記の平均組成式(1)で示されるポリオルガノシロキサン樹脂は、平均組成式(2):(C65m11m2SiXn(4-m1-m2-n)/2 〔式中、R1はフェニル基を除く置換または非置換の一価の炭化水素基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m1,m2,nは0.3≦m1≦1.8、0≦m2≦1.5、1.0≦m1+m2<2.0、0.2≦m1/(m1+m2)≦1.0、0<n≦1.5および1.0≦m1+m2+n≦3.0を満たす数であり、分子中に必ず1以上のOH基または加水分解性基を有する〕で示されるフェニル基含有ポリオルガノシロキサンであることが好ましい。R1はフェニル基を除く一価の有機基であり、炭素原子数1〜8のアルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン置換アルキル基などが好適である。特に、工業的にはメチル基であることが好ましい。また、Xは段落0025に記載の基と同様の基が例示される。
【0032】
前記の平均組成式(2)で示されるポリオルガノシロキサン樹脂は、最も好適には、重量平均分子量Mwが500≦Mw≦3,000の範囲にあるフェニルポリシロキサンまたはフェニルシルセスキオキサンが挙げられる。さらに、難燃性および製造時の加水分解性の観点から、OH基または加水分解性基を1.0〜15重量%の範囲で含むことが特に好ましい。
【0033】
本発明におけるポリオルガノシロキサン樹脂は、出発原料である前記のオルガノクロロシラン、オルガノアルコキシシラン、それらのオリゴマーおよび前記の組成式(1)もしくは組成式(2)で示されるポリオルガノシロキサンから選ばれる1種類又は2種類以上を縮合反応促進触媒の存在下で、加水分解縮合反応あるいは縮合反応により、目的とする重合度または重量平均分子量のポリオルガノシロキサンを合成した後、加水分解反応または縮合反応後のポリオルガノシロキサンを含む溶液に縮合反応促進触媒の失活剤を添加することを、その製造方法上の特徴とするものである。
【0034】
本発明におけるポリオルガノシロキサン組成物に含有される(B)縮合反応促進触媒は、金属塩、より好ましくは有機酸金属塩を含有する縮合反応促進触媒である。なお、本発明で使用される縮合触媒からは公知のポリオルガノシロキサン樹脂の製造方法において塩基性触媒として使用される水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩は除かれる。これらのアルカリ性触媒を用いた場合、高分子量であり、ガラス転移点の高いポリオルガノシロキサン樹脂を容易に製造することができないためである。
【0035】
金属塩(アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩を除く)、より好ましくは有機酸金属塩(アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩を除く)を含有する縮合触媒は、従来公知の縮合触媒が好適に用いられる。該縮合触媒として、有機酸のアルミニウム塩,錫塩,鉛塩または遷移金属塩を挙げることができ、有機酸と前記の金属イオンがキレート構造に代表される錯塩を形成しているものでもよい。このような縮合触媒はアルミニウム,チタン,鉄,コバルト,ニッケル,亜鉛,ジルコニウム,コバルト,パラジウム,錫,水銀または鉛から選ばれる1種又は2種以上の金属を含有する縮合触媒が特に好適であって、有機酸ジルコニウム塩、有機酸錫塩、有機酸アルミニウム塩が最も好適に用いられる。
【0036】
該縮合触媒の具体例として、ジブチルスズジアセテ−ト,ジブチルスズジオクテ−ト,ジブチルスズジラウレート,ジブチルスズジマレート,ジオクチルスズジラウレート,ジオクチルスズジマレート,オクチル酸スズなどの有機酸スズ塩;テトラ(i−プロピル)チタネート、テトラ(n−ブチル)チタネート、ジブトキシビス(アセチルアセトナート)チタン,イソプロピルトリイソステアロイルチタネート,イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート,ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネートなどの有機酸チタン塩;テトラブチルジルコネート,テトラキス(アセチルアセトナート)ジルコニウム,テトライソブチルジルコネート,ブトキシトリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム,ナフテン酸ジルコニウム,オクチル酸ジルコニウムなどの有機酸ジルコニウム塩;トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム,トリス(アセチルアセトナート)アルミニウムなどの有機酸アルミニウム塩;ナフテン酸亜鉛,ギ酸亜鉛,亜鉛アセチルアセトナート,鉄アセチルアセトナート,ナフテン酸コバルト,オクチル酸コバルトなどの有機酸金属塩が挙げられる。
【0037】
これらの縮合触媒の使用量は任意であるが、本発明における製造方法により得られたポリオルガノシロキサン樹脂の固形分に対し、0.0001〜10質量%が好ましく、0.001〜1質量%であることが特に好ましい。前記下限未満の使用量では、高分子量のポリオルガノシロキサン樹脂を製造するための工程が長時間を要し、作業効率が低下する可能性がある。一方、該触媒の使用量が前記上限を超えると、高分子量のポリオルガノシロキサン樹脂を製造するための反応の制御が困難になり、後述する方法で触媒を失活させた場合であっても大量の金属イオンと失活剤がポリオルガノシロキサン組成物中に残留するため、製造後のポリオルガノシロキサン樹脂の物性が経時的に変化するおそれがある。さらに、工業上、大量の縮合触媒を使用することは経済的ではない。
【0038】
加水分解縮合反応または縮合反応の温度と時間は、原料の反応性や目標性能により変化するため特定することはできないが、通常は10〜150℃の温度で1〜29時間である。難燃性の観点から、ポリオルガノシロキサン樹脂が前記の縮合触媒を用いて高分子量となるように重合されていることが好ましく、具体的にはポリオルガノシロキサン樹脂の重量平均分子量Mwが1,000≦Mw≦10,000の範囲を満たす値に達するように温度と時間を調整することが好ましく、得られたオルガノポリシロキサン樹脂の重量平均分子量Mwが4,000≦Mw≦10,000の範囲を満たす値であることが特に好ましい。
【0039】
また、必要に応じてトルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類などの溶剤を使用することもできる。
【0040】
(C)縮合触媒の失活剤は、前記の縮合触媒を失活させ、ポリオルガノシロキサン組成物中に残留する該縮合触媒残渣により、製造後のポリオルガノシロキサン樹脂が経時で変化して難燃性、ドリップ抑制の効果、生産安定性を悪化させることを防止する目的で添加される。具体的には該縮合触媒残渣により製造時に受ける熱によってポリオルガノシロキサン樹脂の縮合反応が容易に進行し、シラノール基の減少、分子量増加、軟化点(ガラス転移点(Tg))の消失が起きる。シラノール基の減少や分子量増加は難燃性、ドリップ抑制の効果を悪化させ、軟化点の消失は加工温度でのポリオルガノシロキサン樹脂の不溶融化を招くため、例えば、二軸混練機や紡糸機を用いた加工時にフィルター詰まりによる濾過圧力の上昇や分散不良を起こし、生産性が低下する。
【0041】
かかる(C)失活剤は、前記した課題を解決することを目的に添加するものであり、前記の縮合触媒の金属イオンと配位結合を形成することにより、その触媒活性を失わせる化合物である。(C)失活剤は失活効果の観点から、リン原子、硫黄原子または窒素原子を含有する化合物が好適である。特に、リン酸、亜リン酸、リン酸エステル、亜リン酸エステル、ホスフィン、ホスフィンオキサイド等のリン化合物は前記の有機酸ジルコニウム塩、有機酸錫塩または有機酸アルミニウム塩からなる縮合触媒を失活させるのに好適である。具体的にはリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸水素アンモニウム等のリン酸塩類、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸アンモニウム、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸水素ナトリウム等の亜リン酸塩類、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(o−フェニルフェニル)ホスフェート、トリス(p−フェニルフェニル)ホスフェート、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、o−フェニルフェニルジクレジルホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、エチレングリコールジホスフェートなどのリン酸エステル類、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリストリデシルホスファイト、ジブチルハイドロジエンホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジフェニルホスファイト、トリス(クロロエチル)ホスファイト等の亜リン酸エステル類、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、トリス(2−クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(β−クロロプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモフェニル)ホスフェート、トリス(ジブロモフェニル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、ハロゲン置換燐酸アリールなどの含ハロゲン燐酸エステル類、トリメチルホスフィンオキサイド、トリエチルホスフィンオキサイド、トリプロピルホスフィンオキサイド、トリ−n−ブチルホスフィンオキサイド(TBPOと略記)、トリ−tert−ブチルホスフィンオキサイド(TTBPOと略記)、トリフェニルホスフィンオキサイド(TPPOと略記)、トリベンジルホスフィンオキサイド(TBZPOと略記)、トリシクロヘキシルホスフィンオキサイド(TCHPOと略記)、トリ(4−メチルフェニル)ホスフィンオキサイド(TPTPOと略記)、トリ(4−tert−ブチルフェニル)ホスフィンオキサイド(TTBPPOと略記)、トリクレジルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド類、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類、赤燐などを挙げることができる。赤燐は純粋なものでも常法で安定化したものでもよい。さらに、リン化合物として下記構造式(1)〜(5)(下記化1〜化5)で表されるリン化合物も例示することができる。
【0042】
【化1】

【0043】
【化2】

【0044】
【化3】

【0045】
【化4】

(式中、Rは各々独立に炭素原子数12〜15のアルキル基である。)
【0046】
【化5】

【0047】
これらリン原子を有する化合物は1種のみ用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いることも可能である。
【0048】
難燃性、ドリップ抑制効果、生産安定性等の観点から、(C)失活剤はトリ−n−ブチルホスフィンオキサイド(以下、TBPOと略記することもある。)、トリ−tert−ブチルホスフィンオキサイド(以下、TTBPOと略記することもある。)、トリフェニルホスフィンオキサイド(以下、TPPOと略記することもある。)、トリベンジルホスフィンオキサイド(以下、TBZPOと略記することもある。)、トリシクロヘキシルホスフィンオキサイド(以下、TCHPOと略記することもある。)、トリ(4−メチルフェニル)ホスフィンオキサイド(以下、TPTPOと略記することもある。)、トリ(4−tert−ブチルフェニル)ホスフィンオキサイド(以下、TTBPPOと略記することもある。)、トリクレジルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド類が特に好ましい。
【0049】
前記した(C)失活剤を加水分解反応後または縮合反応後のポリオルガノシロキサンを含む溶液に添加する際には、好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下の平均粒径に粉砕して添加することが好ましい。
【0050】
(C)失活剤は、加水分解反応または縮合反応によりポリオルガノシロキサン樹脂が所望の重合度に達した後、該反応溶液に添加することにより、縮合触媒を失活させ、加水分解反応または縮合反応を停止させ、経時的な再平衡化反応や熱処理により、得られたオルガノポリシロキサン樹脂の分子量変化またはガラス転移点(Tg)が低下または消失することを抑制するものである。
【0051】
(C)失活剤の添加量は、縮合触媒を失活させるのに十分な量であり、縮合触媒中の金属含有量1モルに対して、失活剤が0.5〜10.0モルとなる量を添加することが好ましい。縮合触媒を完全に失活させる場合、1.0〜10.0モルとなる量を添加することが好ましく、1.0〜5.0モルとなる量を添加することが特に好ましい。失活剤の量が前記下限未満では縮合触媒を完全に失活させることができない場合があり、前記上限を超えると、失活剤自体がルイス酸またはルイス塩基として作用することにより、得られたポリオルガノシロキサン樹脂の経時的な再平衡化反応等が起こり、特にポリオルガノシロキサン樹脂を難燃剤成分として使用する場合に好ましくない。
【0052】
(C)失活剤を添加した後のポリオルガノシロキサン樹脂の反応溶液は、必要に応じて、脱水、溶媒除去等の公知の方法で後処理を行なうことにより、所望の重量平均分子量Mwまたはガラス転移点(Tg)を有するポリオルガノシロキサン樹脂を得ることができる。
【0053】
次に本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法について説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は前記したポリオルガノシロキサン組成物を含有する樹脂組成物であり、公知の方法により熱可塑性樹脂組成物中に添加することができる。例えば、二軸押出機やバンバリーミキサーなどにより熱可塑性樹脂とポリオルガノシロキサン組成物を混合する方法が挙げられるが、熱可塑性樹脂中に混合、分散できればこれに限るものではない。ポリオルガノシロキサン組成物の添加量は操作性の観点から熱可塑性樹脂に対して50重量%以下であり、更に好ましくは30重量%以下である。
【0054】
次に本発明のポリオルガノシロキサン組成物を含有する繊維構造物について説明する。ここでいう繊維とは、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートの石油系ポリエステルのいずれかであるほか、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸の非石油系ポリエステルのいずれかである。繊維とシリコーン系化合物の配合比はドリップ抑制の効果、難燃性の観点から100:0.1以上100:10未満の範囲が好ましく、更に好ましくは100:1以上100:8以下である。ポリオルガノシロキサンを含有する繊維は繊維構造物中に主成分として含有していることが好ましく、繊維構造物に対して重量比で70%以上含有していることが好ましいがこの限りではなく、ドリップ抑制の効果や難燃性、樹脂組成物の物性低下や加工特性の低下が無い範囲で他の繊維との混紡や混繊などが可能である。
【0055】
また、本発明の繊維構造物はフィラメントやステープルとして好適に用いることが可能である。例えば衣料用途のフィラメントとしては単糸繊度が0.1dtexから十数dtexの範囲であり、総繊度として50dtexから300dtexでフィラメント数が10から100本の範囲である。また、このようにして得られたフィラメントは例えば一重組織である三原組織や変化組織、二重組織であるよこ二重組織やたて二重組織などの織物に製織し、繊維構造物として得ることができる。また、このときの繊維構造物の質量は例えば50g/m2以上500g/m2以下の範囲である。
【0056】
また、例えば産業用途のフィラメントとしては単糸繊度が十数dtexから数百dtexの範囲であり、総繊度として数百dtexから数千dtexでフィラメント数が10から100本の範囲である。また、このようにして得られたフィラメントは衣料用途と同様に例えば一重組織である三原組織や変化組織、二重組織であるよこ二重組織やたて二重組織などの織物に製織し、繊維構造物として得ることができる。また、このときの繊維構造物の質量は300g/m2以上1500g/m2以下の範囲である。
【0057】
このようにして本発明のポリオルガノシロキサン組成物を含有する繊維は織物や編み物、不織布などの布帛形態として得ることが可能であり、繊維製品として特にドリップ抑制の効果や難燃性が必要な繊維製品、例えばカーシートやカーマットなどの車両内装材、カーテン、カーペット、椅子張り地などのインテリア素材、衣料素材などでドリップが抑制され、且つ難燃性を発現する繊維製品として好適に用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、下記の例において、「部」または「%」とあるのはそれぞれ「重量部」または「質量%」である。ポリオルガノシロキサン樹脂の重量平均分子量、ガラス転移点は以下に示す方法によりそれぞれ測定した。また、ポリオルガノシロキサン樹脂の平均構造式は29Si−NMRを用いて同定した。
【0059】
〔重量平均分子量〕
下記分析装置により平均分子量ゲルパーミエイションクロマトグラフィーにより求めた標準ポリスチレン換算重量平均分子量で評価した。
装置:HLC−8120GPC(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgelG1000HHR(東ソー株式会社製)
測定温度:40℃(カラムオーブン温度)
流速:1cc/分
クロロホルム試料:オルガノポリシロキサン樹脂を1%クロロホルム溶液として使用
【0060】
[ガラス転移点]
装置:セイコーインスツルメンツ社製TG−DTA
測定温度範囲:40〜300℃
昇温速度:10℃/min
測定雰囲気:N2
【0061】
29Si−NMR]
JNM−EX400(日本電子株式会社製)を使用して、29Si−核磁気共鳴スペクトル分析を行い、オルガノポリシロキサン樹脂の平均構造式を同定した。
【0062】
〔濾層の構成〕
紡糸機パック内の濾層の構成は下記の通りである。
サンド:30#−モランダムサンド(昭和電工株式会社製);220g
フィルター:15μm−PRECISERLFW-15(株式会社渡辺義一製作所製);1枚
フィルター濾過面積:44.2cm2
ポリマー吐出量:40g/min
フィルター濾過量:0.90g/(cm2・min)
【0063】
〔実施例1]
撹拌機付きフラスコにフェニルシルセスキオキサン(分子量:2000、シラノール基含有量:6.0重量%)1000g及びトルエン700gを投入して、完全に溶解させた。次いでこれに、12%オクチル酸ジルコニウム(大日本インキ化学工業株式会社製)10gを加え、トルエンリフラックス温度(110℃)まで加熱した。系内から出てくる水分を抜きながら、7時間縮合反応を継続した。冷却後、触媒失活剤としてトリ−n−ブチルホスフィンオキサイド(TBPO)をオクチル酸ジルコニウム中のジルコニウム(Zr)金属イオン1molに対して5mol加え、1時間攪拌した。スプレードライヤーで乾燥させ、白色粉体を得た。得られた重合体の重量平均分子量は6,000であり、ガラス転移点は120℃であった。29Si−NMRで測定を行ったところ、ポリオルガノシロキサンの平均構造式は、
(C65(OH)SiO2/234(C65SiO3/266
であり、その平均組成式は、
(C65)Si(OH)0.341.33
であった。
【0064】
次に得られたポリオルガノシロキサンをオーブン中で290℃/15min/N2中で熱処理した後、重量平均分子量とガラス転移点を測定した結果、表1の通り、分子量の増加が抑制されており、ガラス転移点も残っており、触媒失活効果に優れる結果が得られた。次にポリオルガノシロキサン10重量%とIV(固有粘度):0.65のポリエチレンテレフタレート90重量%をL/D(スクリューの長さ/径比):32.5、混練温度280℃、スクリュー回転数200rpmの条件で二軸押出機を用いて混練し、樹脂組成物を得た後、3mm角のチップにカッティングした。得られたチップを真空乾燥機で150℃、12時間、2Torrで乾燥した後、紡糸温度290℃、紡糸速度1500m/min、口金口径0.23mm−孔深度0.15mm−孔数24である口金、吐出量40g/minの条件で紡糸を行い、未延伸糸を得た。また、この紡糸中の濾過圧力を測定し、紡糸3時間後の濾加圧力P1から紡糸開始時の濾過圧力P0を引いたΔPを算出し(ΔP=P1−P0)、濾圧上昇を評価した。その結果、ΔPは0kg/cm2であり、生産安定性に優れる結果となった。ついで延伸機を用いて加工速度400m/min、延伸温度90℃、セット温度130℃の条件で延伸糸の繊度が85dtex−24フィラメントになるような延伸倍率で延伸を行い、延伸糸を得た。その後、得られた延伸糸を筒編み機で編物の繊維構造物を作製し、炭酸ナトリウム0.2g/L、界面活性剤0.2g/L(グランアップUS20、三洋化成工業株式会社製)、処理温度/時間60℃/30分で精練し、JIS−L1091−D法(1992)に準じて接炎回数とドリップ回数を評価した。なお、ドリップ回数とは燃焼評価中に試料から滴下物が滴下した回数である。その結果、表1の通りドリップ回数は0回であり、接炎回数も3回以上であり、難燃性、ドリップ抑制効果に優れる結果が得られた。
【0065】
[実施例2]
触媒失活剤をトリフェニルホスフィンオキサイド(TPPO)に変更した以外は実施例1と同様にした。その結果、表1の通り、触媒失活効果は高く、紡糸時の濾圧上昇ΔPも0kg/cm2であった。また、得られた繊維の難燃性、ドリップ抑制効果も優れる結果が得られた。
【0066】
[実施例3]
触媒失活剤をトリベンジルホスフィンオキサイド(TBZPO)に変更した以外は実施例1と同様にした。その結果、表1の通り、触媒失活効果は高く、紡糸時の濾圧上昇ΔPも0kg/cm2であった。また、得られた繊維の難燃性、ドリップ抑制効果も優れる結果が得られた。
【0067】
[実施例4]
触媒失活剤をトリシクロへキシルホスフィンオキサイド(TCHPO)に変更した以外は実施例1と同様にした。その結果、表1の通り、触媒失活効果は高く、紡糸時の濾圧上昇ΔPも0kg/cm2であった。また、得られた繊維の難燃性、ドリップ抑制効果も優れる結果が得られた。
【0068】
[実施例5]
触媒失活剤をトリ-tert-ブチルホスフィンオキサイド(TTBPO)に変更した以外は実施例1と同様にした。その結果、表1の通り、触媒失活効果は高く、紡糸時の濾圧上昇ΔPも0kg/cm2であった。また、得られた繊維の難燃性、ドリップ抑制効果も優れる結果が得られた。
【0069】
[実施例6]
触媒失活剤をトリ(4-メチルフェニル)ホスフィンオキサイド(TPTPO)に変更した以外は実施例1と同様にした。その結果、表1の通り、触媒失活効果は高く、紡糸時の濾圧上昇ΔPも0kg/cm2であった。また、得られた繊維の難燃性、ドリップ抑制効果も優れる結果が得られた。
【0070】
[実施例7]
触媒失活剤をトリ(4-tert-ブチルフェニル)ホスフィンオキサイド(TTBPPO)に変更した以外は実施例1と同様にした。その結果、表1の通り、触媒失活効果は高く、紡糸時の濾圧上昇ΔPも0kg/cm2であった。また、得られた繊維の難燃性、ドリップ抑制効果も優れる結果が得られた。
【0071】
[比較例1]
触媒失活剤を添加しない以外は実施例1と同様にした。その結果、表1の通り、290℃/15minの熱処理による分子量は大幅に増加し、ガラス転移点も消失していた。また、紡糸時の濾圧上昇ΔPも55kg/cm2であり、生産安定性が悪く、糸を巻き取ることが不可能であった。
【0072】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる樹脂組成物において、下記(A)、(B)、(C)の成分から構成されるポリオルガノシロキサン組成物を1種または2種以上含有していることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(A)平均組成式(1):RmSiXn(4-m-n)/2 〔式中、Rは置換または非置換の一価の炭化水素基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m,nは1.0≦m<2.0、0<n≦1.5および1.0≦m+n≦3.0を満たす数であり、分子中に必ず1以上のOH基または加水分解性基を有する〕で示されるポリオルガノシロキサン。
(B)金属(アルカリ金属およびアルカリ土類金属を除く)を含有する縮合触媒。
(C)縮合触媒の失活剤。
【請求項2】
ポリオルガノシロキサンのガラス転移点が100℃〜290℃の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ポリオルガノシロキサンの成分(A)が平均組成式(2):(C65m11m2SiXn(4-m1-m2-n)/2 〔式中、R1はフェニル基を除く置換または非置換の一価の炭化水素基であり、XはOH基または加水分解性基であり、m1,m2,nは0.3≦m1≦1.8、0≦m2≦1.5、1.0≦m1+m2<2.0、0.2≦m1/(m1+m2)≦1.0、0<n≦1.5および1.0≦m1+m2+n≦3.0を満たす数であり、分子中に必ず1以上のOH基または加水分解性基を有する〕で示されるフェニル基含有ポリオルガノシロキサンであることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
ポリオルガノシロキサン組成物の成分(B)がアルミニウム、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、ジルコニウム、パラジウム、スズ、水銀、鉛から選ばれる1種または2種以上の金属を含有する縮合触媒であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
ポリオルガノシロキサン組成物の成分(C)がリンを含有する縮合触媒の失活剤であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を用いた繊維構造物。

【公開番号】特開2008−208161(P2008−208161A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43792(P2007−43792)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】