説明

熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び成形体の製造方法

【課題】植物性材料を多く含有しながら優れた流動性を得ると共に機械的特性にも優れた熱可塑性樹脂組成物の製造方法及びこれを用いた成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】植物性材料が50〜95質量%の組成物の製造方法であって、回転軸の円周方向に複数の混合羽根が立設された混合具を備えた第1混合溶融装置を用いて、酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)を溶融させながら、植物性材料と樹脂(A1)と有機過酸化物とを混合して第1組成物を得る工程と、同混合具を備えた第2混合溶融装置を用いて、酸変性されていない熱可塑性樹脂(A2)及び酸変性された熱可塑性樹脂(B)を共に溶融させながら、第1組成物と樹脂(A2)及び樹脂(B)とを混合して第2組成物を得る工程と、を備える。更に、本熱可塑性樹脂組成物の製造方法により得られた熱可塑性樹脂組成物を射出成形して成形体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び成形体の製造方法に関する。更に詳しくは、植物性材料を50〜95質量%と多く含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ケナフ等の成長が早く、二酸化炭素吸収量が多い植物性材料は、二酸化炭素排出量削減及び二酸化炭素の固定化等の観点から注目され、樹脂との複合用途で期待されている。しかし、特に多量の植物性材料を樹脂に混合し、更には、得られた複合材料を成形するには大きな困難を伴う。これは複合材料に従来の樹脂と同等の十分な流動性を付与することが難しいからである。
この問題について、植物性材料と樹脂とを混合する際に有機過酸化物を用いて流動性を向上させる技術が下記特許文献1〜3で知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭55−131031号公報
【特許文献2】特開昭61−155436号公報
【特許文献3】特開2007−169612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1及び上記特許文献2には、プロピレン系樹脂、不飽和カルボン酸変性等の変性プロピレン系樹脂、木粉や植物性繊維等の植物性材料等及び有機過酸化物を含む樹脂組成物が開示されている。これらの樹脂組成物では、変性プロピレン系樹脂と有機過酸化物とを併用することによって機械的特性と流動性とを両立させようとしている。しかし、上記いずれの文献においても、これらの樹脂組成物の製造方法について、樹脂組成物に含まれる各成分同士の混合については考慮されておらず、変性プロピレン系樹脂と有機過酸化物とを同時に混合する製造方法が示されているに過ぎない。また、上記特許文献3には、プロピレン系樹脂、変性プロピレン系樹脂及び木質系材料を含む樹脂組成物が開示されると共に、有機過酸化物の併用について言及されている。しかし、その樹脂組成物の製造方法においては各成分同士の混合について考慮されていない。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、植物性材料を50〜95質量%と多く含有しながら射出成形を行うことができる優れた流動性を得ると共に機械的特性にも優れた熱可塑性樹脂組成物の製造方法及びこれを用いた成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は以下に示す通りである。
(1)植物性材料と熱可塑性樹脂とを含有し、これらの合計を100質量%とした場合に該植物性材料が50〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
回転軸の円周方向に複数の混合羽根が立設された混合具を備えた第1混合溶融装置を用いて、該混合羽根の回転による剪断力により、酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)を溶融させながら、前記植物性材料と前記酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)と有機過酸化物とを混合して第1組成物を得る第1混合工程と、
回転軸の円周方向に複数の混合羽根が立設された混合具を備えた第2混合溶融装置を用いて、該混合羽根の回転による剪断力により、酸変性されていない熱可塑性樹脂(A2)及び酸変性された熱可塑性樹脂(B)を共に溶融させながら、前記第1組成物と酸変性されていない熱可塑性樹脂(A2)及び酸変性された熱可塑性樹脂(B)とを混合して第2組成物を得る第2混合工程と、を備えることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(2)前記第1混合工程における、前記植物性材料と前記酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)との合計を100質量部とした場合に、前記有機過酸化物は0.01〜0.5質量部である前記(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(3)前記第1混合工程で用いる前記酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)と、前記第2混合工程で用いる前記酸変性されていない熱可塑性樹脂(A2)と、の合計を100質量%とした場合に、前記第1混合工程で用いる前記酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)は20〜50質量%である前記(1)又は(2)に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(4)前記第1混合工程における、前記植物性材料と前記酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)との合計を100質量%とした場合に、該植物性材料は70〜98質量%である前記(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(5)前記第1混合工程で用いる前記酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)と、前記第2混合工程で用いる前記酸変性されていない熱可塑性樹脂(A2)及び酸変性された熱可塑性樹脂(B)と、の合計を100質量%とした場合に、該酸変性された熱可塑性樹脂(B)は1〜30質量%である前記(1)乃至(4)のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(6)上記植物性材料は、ケナフである前記(1)乃至(5)のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(7)更に、前記第2組成物を破砕してなる破砕物を加熱することなく押し固めてペレット化するペレット化工程を備える前記(1)乃至(6)のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(8)前記(1)乃至(7)のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法により得られた熱可塑性樹脂組成物を射出成形して成形体を得ることを特徴とする成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法によれば、植物性材料を50〜95質量%と多く含有しながら射出成形を行うことができる優れた流動性を得ると共に機械的特性にも優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。即ち、用いる熱可塑性樹脂のうちの酸変性されていない熱可塑性樹脂の一部のみを植物性材料と有機過酸化物と共に予め混合した後、他の成分を追加して混合することで、酸変性されていない熱可塑性樹脂の分子量低下を抑制すると共に、酸変性された熱可塑性樹脂の添加効果を阻害することなく、得られる熱可塑性樹脂組成物では、優れた流動性と機械的特性とが両立される。
第1混合工程における、植物性材料と酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)との合計を100質量部とした場合に、有機過酸化物が0.01〜0.5質量部である場合は、より優れた流動性と優れた機械的特性とを両立させることができる。
第1混合工程で用いる酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)と、第2混合工程で用いる酸変性されていない熱可塑性樹脂(A2)と、の合計を100質量%とした場合に、熱可塑性樹脂(A1)が20〜50質量%である場合は、より優れた流動性と優れた機械的特性とを両立させることができる。
第1混合工程における、植物性材料と酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)との合計を100質量%とした場合に、植物性材料が70〜98質量%である場合は、植物性材料を多く取り込むことができるとともに、より優れた流動性と優れた機械的特性とを両立させることができる。
第1混合工程で用いる酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)と、第2混合工程で用いる酸変性されていない熱可塑性樹脂(A2)及び酸変性された熱可塑性樹脂(B)と、の合計を100質量%とした場合に、酸変性された熱可塑性樹脂(B)が1〜30質量%である場合は、特に優れた機械的特性を得ることができる。
植物性材料がケナフである場合、ケナフは成長が極めて早い一年草であり、優れた二酸化炭素吸収性を有するため、大気中の二酸化炭素量の削減、森林資源の有効利用等に貢献できる。
更に、第2組成物を破砕してなる破砕物を加熱することなく押し固めてペレット化するペレット化工程を備える場合は、熱履歴を低減することで熱劣化を抑制し、優れた流動性と優れた機械的特性とが両立された熱可塑性樹脂組成物をその特性を維持したままペレットの形態として得ることができる。
本発明の成形体の製造方法によれば、植物性材料を50〜95質量%と多く含有しながら、射出成形性に優れると共に機械的特性にも優れた成形体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】混合溶融装置の一例を示す模式的な断面図である。
【図2】混合溶融装置に配設された混合羽根の一例を示す模式的な側面図である。
【図3】ローラーディスクダイ式成形機の要部の一例を示す模式的な斜視図である。
【図4】バーフロー長の測定に用いる金型及びキャビティの形状を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
[1]熱可塑性樹脂組成物の製造方法
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、植物性材料と熱可塑性樹脂とを含有し、これらの合計を100質量%とした場合に該植物性材料が50〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、下記第1混合工程と、下記第2混合工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
(1)第1混合工程
前記「第1混合工程」は、回転軸の円周方向に複数の混合羽根が立設された混合具を備えた第1混合溶融装置を用いて、混合羽根の回転による剪断力により、酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)を溶融させながら、植物性材料と酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)と有機過酸化物とを混合して第1組成物を得る工程である。
【0011】
前記「植物性材料」は、植物に由来する材料である。この植物性材料としては、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、各種針葉樹(スギ及びヒノキ等)、広葉樹及び綿花などの各種植物体から得られた植物性材料が挙げられる。この植物性材料は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかではケナフが好ましい。ケナフは成長が極めて早い一年草であり、優れた二酸化炭素吸収性を有するため、大気中の二酸化炭素量の削減、森林資源の有効利用等に貢献できるからである。
また、上記植物性材料として用いる植物体の部位は特に限定されず、非木質部、木質部、葉部、茎部及び根部等の植物体を構成するいずれの部位であってもよい。更に、特定部位のみを用いてもよく2ヶ所以上の異なる部位を併用してもよい。
【0012】
尚、本発明におけるケナフとは、木質茎を有する早育性の一年草であり、アオイ科に分類される植物である。学名におけるhibiscus cannabinus及びhibiscus sabdariffa等が含まれ、更に、通称名における紅麻、キューバケナフ、洋麻、タイケナフ、メスタ、ビムリ、アンバリ麻及びボンベイ麻等が含まれる。
また、本発明におけるジュートとは、ジュート麻から得られる繊維である。このジュート麻には、黄麻(コウマ、Corchorus capsularis L.)、及び、綱麻(ツナソ)、シマツナソ並びにモロヘイヤ、を含む麻及びシナノキ科の植物を含む。
【0013】
この植物性材料{混合前の植物性材料}の形状は特に限定されず、繊維状であってもよく、非繊維状であってもよい。繊維状の植物性材料(以下、単に「植物性繊維」ともいう)は、植物体から取り出された繊維であり、最大長さ(繊維長)Lと、Lに直行した最小長さ(繊維径)tの割合L/tが5.0以上である。この植物性繊維としては特にケナフ繊維が好ましい。一方、非繊維状の植物性材料(以下、単に「非繊維状植物性材料」ともいう)には、粉末状(粒状及び球状等を含む)、チップ状(板状及び薄片状等を含む)及び不定形状(破砕物状等を含む)などの形態が含まれる。この非繊維状植物性材料は前記L/tの平均値が5.0未満である。この非繊維状植物性材料としてはケナフコア粉末が好ましい。
前記最大長さLはJIS L1015における直接法と同様に、1つの植物性材料を伸張させずにまっすぐに伸ばして測定した値である。一方、最小長さtは植物性材料の前記Lに直行した最小長さを測定した値である。
【0014】
前記植物性繊維と非繊維状植物性材料とはいずれか一方のみを用いてもよく、併用をしてもよいが、これらのうちでは植物性繊維が好ましい。植物性繊維を用いることでより優れた流動性及び機械的特性を得ることができる。本発明で用いる植物性材料の前記L/tの平均値(200個の植物性材料を無作為に抽出して測定された平均値)は5.0以上であることが好ましく、5.0〜20,000がより好ましい。
【0015】
また、植物性繊維を用いる場合、その平均繊維長及び平均繊維径等は特に限定されないが、平均繊維長は0.5〜100mmが好ましく、0.7〜30mmがより好ましく、1〜10mmが特に好ましい。一方、平均繊維径は0.01〜1mmが好ましく、0.01〜0.15mmがより好ましく、0.01〜0.1mmが特に好ましい。
尚、本方法により得られる熱可塑性樹脂組成物では、上記混合前の植物性材料の形状及び大きさは、熱可塑性樹脂組成物内でそのまま維持されてもよく、維持されなくてもよい。維持されない場合としては、混合時に更に細かく粉砕されて熱可塑性樹脂組成物内に含まれる場合が挙げられる。
【0016】
前記「酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)」(以下、単に「樹脂A1」ともいう)は、第1混合工程で用いる熱可塑性樹脂であり、酸変性されていない樹脂である。この樹脂A1としては、特に限定されず種々のものを用いることができ、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリスチレン、アクリル樹脂(メタクリレート及び/又はアクリレート等を用いてなる樹脂)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、並びにABS樹脂などが挙げられる。このうちポリオレフィンとしては、アイソタクチックプロピレン単独重合体(以下、「PP単独重合体」という。)、エチレン−プロピレンブロック共重合樹脂(以下、「EPブロック共重合樹脂」という。)、ポリエチレン等が挙げられる。また、ポリエステルとしては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル、及びポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステルが挙げられる。これらのなかではポリオレフィンが好ましい。樹脂A1は前記のうちの1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
前記「有機過酸化物」は、分子内に−O−O−結合を有する有機化合物である。この有機過酸化物を第1混合工程においてのみ配合して、酸変性された熱可塑性樹脂と共存させることなく、酸変性されていない熱可塑性樹脂の一部のみを第1混合工程で用いることで、酸変性されていない熱可塑性樹脂の分子量低下を抑制すると共に、酸変性された熱可塑性樹脂の添加効果を阻害することなく、得られる熱可塑性樹脂組成物において優れた流動性と機械的特性との両立を達することができる。
【0018】
この有機過酸化物としては、ジアルキルパーオキサイド系有機過酸化物、パーオキシケタール系有機過酸化物、アルキルパーエステル系有機過酸化物、ケトンパーオキサイド系有機過酸化物、ジアシルパーオキサイド系有機過酸化物、ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物、パーオキシカーボネート系有機過酸化物等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、ジアルキルパーオキサイド系有機過酸化物が好ましい。
【0019】
ジアルキルパーオキサイド系有機過酸化物は、過酸化水素の2つの水素原子をアルキル基又はアラルキル基で置換した構造を有する有機過酸化物である。このジアルキルパーオキサイド系有機過酸化物としては、ビス〔(t−ブチルパーオキシ)イソプロピル〕ベンゼン、ジーt−ブチルパーオキサイド、t−ブチル−α−クミルパーオキサイド、ジ−α−クミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、ビス〔(t−ブチルパーオキシ)イソプロピル〕ベンゼンが好ましい。
【0020】
尚、前記第1混合工程では、酸変性された熱可塑性樹脂(B)を用いない。同様に、第2混合工程では、有機過酸化物を用いない。これは、酸変性された熱可塑性樹脂(B)と有機過酸化物とを混合すると、有機過酸化物によって酸変性された熱可塑性樹脂(B)が分解され、樹脂(B)による熱可塑性樹脂と植物性材料との接合性を向上させて機械的特性を向上させるという添加効果を十分に得難くなるからである。
【0021】
第1混合工程において用いる成分、即ち、植物性材料、樹脂(A1)及び有機過酸化物の各々配合量は特に限定されないが、植物性材料と樹脂(A1)との合計を100質量%とした場合に、植物性材料は70〜98質量%であることが好ましい。この範囲では、第1混合溶融装置を利用すると共に、有機過酸化物を用いることによって少量の樹脂(A1)に対して植物性材料を多く取り込み、十分な流動性を確保して混合することができる。この量は、70〜90質量%であることがより好ましく、75〜85質量%であることが特に好ましい。
また、植物性材料はその一部を後述する第2混合工程で配合することもできるが、その全量を第1混合工程において配合することが好ましい。
【0022】
更に、第1混合工程における、植物性材料と樹脂(A1)との合計を100質量部とした場合に、前記有機過酸化物は0.01〜0.5質量部とすることが好ましい。この範囲では、より優れた流動性及びより優れた機械的特性が両立された熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。これは有機過酸化物の適度な配合により、植物性材料の分解が適度に進行させることが一因と考えられる。この量は、0.03〜0.4質量部であることがより好ましく、0.05〜0.3質量部であることが特に好ましい。
【0023】
また、第1混合工程で用いる樹脂A1と、後述する第2混合工程で用いる樹脂A2と、の合計を100質量%とした場合に、樹脂A1は20〜50質量%であることが好ましい。この範囲では、より優れた流動性及び機械的特性を有する熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。この樹脂A1は、25〜50質量%がより好ましく、30〜50質量%が更に好ましく、30〜45質量%が特に好ましい。
【0024】
前記「第1組成物」は、第1混合工程によって得られる組成物であって、植物性材料と樹脂(A1)と有機過酸化物の分解物とが含まれた組成物である。この第1組成物のバーフロー長さは、特に限定されないが50〜180mmであることが好ましい。第1組成物の流動性を上記範囲のバーフロー長さとすることで、得られる熱可塑性樹脂組成物の流動性及び機械的特性を更に好適に両立させることができる。このバーフロー長さは、60〜180mmであることがより好ましく、70〜180mmであることが更に好ましい。
尚、バーフロー長さは、射出成形機にバーフロー金型(注入口径10mm、幅20mm且つ厚さ2mmの角渦巻き形状のキャビティを有する金型)を接続し、シリンダ温度190℃、型温度40℃、射出圧力150MPa、射出速度80mm/秒、計量値60(スクリューを60mm後退させて、シリンダに60mm分の被射出物の貯留域を確保)の条件で射出成形して得られた成形体の長さである。
また、第1混合溶融装置については、第2混合溶融装置と共に後述する。
【0025】
(2)第2混合工程
前記「第2混合工程」は、回転軸の円周方向に複数の混合羽根が立設された混合具を備えた第2混合溶融装置を用いて、混合羽根の回転による剪断力により、酸変性されていない熱可塑性樹脂(A2)及び酸変性された熱可塑性樹脂(B)を共に溶融させながら、第1組成物と酸変性されていない熱可塑性樹脂(A2)及び酸変性された熱可塑性樹脂(B)とを混合して第2組成物を得る工程である。
【0026】
前記「酸変性されていない熱可塑性樹脂(A2)」(以下、単に「樹脂A2」ともいう)は、第2混合工程で用いる熱可塑性樹脂であり、酸変性されていない樹脂である。この樹脂A2としては、前記第1混合工程で用いた樹脂A1と同様の熱可塑性樹脂を用いることができ、そのなかでもポリオレフィンが好ましい。また、樹脂A2の分子量等は特に限定されないが、前記樹脂A1における好ましい重量平均分子量をそのまま適用できる。
樹脂A1と樹脂A2とは、異なる種類の樹脂であってもよいが、同じ樹脂であることが好ましい。即ち、樹脂A1と樹脂A2とは共にポリオレフィンであることが好ましい。
【0027】
前記「酸変性された熱可塑性樹脂(B)」(以下、単に「樹脂B」ともいう)は、酸基が導入された熱可塑性樹脂である。この酸基の種類は特に限定されないが、通常、無水カルボン酸残基(−CO−O−OC−)及び/又はカルボン酸残基(−COOH)である。酸基はどのような化合物により導入されてもよいが、酸基を導入する化合物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸等の酸無水物、及びマレイン酸、イタコン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボン酸が挙げられる。これらは1種のみ用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらの化合物のうちでは、酸無水物が好ましく、無水マレイン酸及び無水イタコン酸がより好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。
【0028】
更に、樹脂Bを構成する骨格となる熱可塑性樹脂(以下、「骨格樹脂」という。)の種類は特に限定されず、種々の熱可塑性樹脂を用いることができる。この骨格樹脂としては、前記樹脂A1及び樹脂A2として例示した各種樹脂が挙げられ、なかでもポリオレフィンが好ましい。
樹脂Bの骨格樹脂と、樹脂A1及び樹脂A2と、は同種の樹脂であってもよく、異なる樹脂であってもよいが、同種であることが好ましく、いずれもポリオレフィンであることがより好ましい。ポリオレフィンは取扱いが容易であり、且つ優れた柔軟性及び賦形性等を有する。このポリオレフィンとしては、PP単独重合体、EPブロック共重合樹脂、ポリエチレン等が好ましい(樹脂Bにおいては骨格樹脂)。更に、樹脂Bの骨格樹脂、樹脂A1及び樹脂A2のいずれもがPP単独重合体及び/又はEPブロック共重合樹脂であることがより好ましく、更には、樹脂Bが無水マレイン酸を用いて変性されたPP単独重合体及び/又はEPブロック共重合樹脂であり、且つ樹脂A1及び樹脂A2がPP単独重合体及び/又はEPブロック共重合樹脂であることが特に好ましい。
【0029】
この樹脂Bの具体例としては、三菱化学株式会社製、商品名「モディック」(特に「モディック−AP P908」等が好ましい。)、三洋化成工業株式会社製、商品名「ユーメックス」(特に「ユーメックス1001」及び「ユーメックス1010」等が好ましい。)、三井化学株式会社製、商品名「アドマー」(特に「アドマーQE800」等が好ましい。)、並びに東洋化成工業株式会社製、商品名「トーヨータック」(特に「トーヨータックH−1100P−P」等が好ましい。)などが挙げられる。
【0030】
樹脂Bに導入される酸基の量は特に限定されないが、酸価を指標とした場合、酸価5以上(通常、80以下)であればよく、酸価15以上であることが好ましい。即ち、比較的酸価が高い樹脂Bであることが好ましい。このような樹脂Bであれば、樹脂Bの含有量を抑えながら、熱可塑性樹脂組成物の機械的特性を十分に向上させることができる。この酸価は15〜70であることが好ましく、特に20〜60、更に23〜30であることがより好ましい。尚、この酸価はJIS K0070により測定することができる。
【0031】
更に、この樹脂Bの分子量も特に限定されないが、重量平均分子量が10000〜200000、特に10000〜100000であることが好ましい。即ち、比較的分子量の小さい樹脂であることが好ましい。このような樹脂Bを用いることにより、樹脂Bの使用量を抑えながら、熱可塑性樹脂組成物の機械的特性を十分に向上させることができる。この重量平均分子量の下限値は15000、特に25000、更に35000であることが特に好ましく、重量平均分子量の上限値は200000、特に150000、更に100000であることが特に好ましい。また、この樹脂Bの重量平均分子量は35000〜60000であることが更に好ましい。尚、重量平均分子量はGPC法(標準ポリスチレン換算)により測定される。
【0032】
更に、樹脂Bの溶融粘度も特に限定されないが、160℃において4000〜30000mPa・sであることが好ましい。このような樹脂Bを用いることにより、樹脂Bの含有量を抑えながら、熱可塑性樹脂組成物の機械的特性を十分に向上させることができる。この溶融粘度は4000〜25000mPa・s、特に5000〜20000mPa・s、更に10000〜20000mPa・sであることがより好ましい。尚、溶融粘度は160℃においてB型粘度計(JIS K7117に基づき4号ローターを使用)により測定される。
【0033】
この第2混合工程で用いる樹脂Bの割合は特に限定されないが、樹脂A1と樹脂A2と樹脂Bとの合計を100質量%とした場合に、樹脂Bが0.5〜30質量%となる量を配合することが好ましい。この範囲では、樹脂Bの配合量を抑えながら、熱可塑性樹脂組成物の機械的特性を更に向上させることができる。この樹脂Bは、0.5〜20質量%がより好ましく、1〜10質量%が更に好ましく、1〜5質量%が特に好ましい。
【0034】
前記「第2組成物」は、第2混合工程によって得られる組成物であり、本方法による熱可塑性樹脂組成物である。この第2組成物は、そのまま熱可塑性樹脂組成物として用いることができるが、後述するように、ペレット化する等の更に他の工程を課すことができる。これらの工程については後述する。
【0035】
(3)混合溶融装置
前記「第1混合溶融装置」及び前記「第2混合溶融装置」は(第1混合溶融装置と第2混合溶融装置とをまとめていう場合には単に「混合溶融装置」という)、回転軸の円周方向に複数の混合羽根が立設された混合具を備えた装置である。混合溶融装置の混合羽根の回転による剪断力により、熱可塑性樹脂を溶融させながら、熱可塑性樹脂と他成分とを混合して混合物(第1混合工程においては第1組成物、第2混合工程においては熱可塑性樹脂組成物)を得ることができる装置である。第1混合溶融装置と第2混合溶融装置とは同じであってもよく異なっていてもよい。
この混合溶融装置は、通常、上記各混合を行うための混合室を備える。そして、上記混合具はこの混合室内に少なくとも混合羽根が配置される。このような混合溶融装置としては、特に下記混合溶融装置が好ましい。
【0036】
この混合溶融装置{以下、図1(図1は、特許庁の特許電子図書館から取得した国際公開04/076044号パンフレット図1を引用)及び図2(図2は、特許庁の特許電子図書館から取得した国際公開04/076044号パンフレット図2を引用)参照}としては、国際公開04/076044号パンフレットに記載の混合溶融装置1が好ましい。即ち、混合溶融装置1は、材料供給室13と、該材料供給室13に連接された混合室3と、該材料供給室13と該混合室3とを貫通して回転自在に設けられた回転軸5と、該材料供給室13内の該回転軸5に配設され且つ該材料供給室13に供給された混合材料(植物性材料等)を該混合室3へ搬送するらせん状羽根12と、該混合室3内の該回転軸5に配設され且つ該混合材料を混合する混合羽根10a〜10fと、を備える混合溶融装置が好ましい。即ち、この混合溶融装置1は、回転軸5の円周方向に複数の混合羽根10a〜10fが立設された混合具を備えた装置である。
【0037】
上記混合溶融装置1では、混合材料(混合するための材料)を混合溶融装置1(材料供給室13)へ投入し、混合溶融装置1の混合羽根10a〜10fを回転させることで、混合羽根により生じる剪断力や、熱可塑性樹脂及び他成分が共に混合室3の内壁へ向かって押し付けるように打撃し且つ押し進められ、材料同士の衝突するエネルギー(熱量)により短時間で熱可塑性樹脂が軟化され、更には溶融され、他成分と混合され、更には混練される。そして、第2混合工程後に得られる熱可塑性樹脂組成物(第2組成物)には射出成形が可能な優れた流動性が発現される。
【0038】
上記混合羽根10a〜10fは、上記回転軸5の円周方向の一定角度間隔の部位における軸方向において対向すると共に、回転方向において互いの対向間隔が狭まるような取付け角で該回転軸5に配設された少なくとも2枚の混合羽根(10a〜10f)によって構成され、該混合羽根10a〜10fの該回転軸5に対する取付け角は、該回転軸5に取り付けられる該混合羽根10a〜10fの根元部から半径方向外方の先端部まで同一であることが好ましく、更には、上記混合羽根10a〜10fが矩形板状をなすことが好ましい。
また、上記混合室3は、該混合室3を構成する壁に冷却媒体を循環させることができる混合室冷却手段を備えることがより更に好ましい。この構成により、混合室3内の過度な温度上昇を抑制でき、熱可塑性樹脂等の成分の分解及び熱劣化を抑制(更には防止)できる。
【0039】
また、上記第1混合工程及び上記第2混合工程の各々工程における混合条件等は特に限定されない。各混合工程では、混合を開始すると次第に回転軸5に生じる負荷が上昇し、その後、負荷の極大値を経て、負荷は次第に減少するという経過をたどる。本方法では、上記負荷の極大値を経てから継続する混合時間の長さを変えることにより混合状態を調整することが好ましい。
【0040】
前記負荷の極大値(トルクのピーク)を経てから継続する混合時間は、第1混合工程では5秒以上(通常、125秒以下)とすることが好ましく、10〜120秒とすることがより好ましく、15〜60秒とすることが更に好ましく、20〜40秒とすることがとりわけ好ましい。
この混合時間は、混合羽根の直径が20〜30cmである場合に特に適している。更に、回転軸5の回転数(とりわけ負荷の極大値に達するまでの間の回転数)は、1400〜2200rpmが好ましく、1500〜2000rpmがより好ましく、1600〜1900rpmが特に好ましい。また、第1混合工程では、負荷の極大値に達するまでの回転軸の回転数をR1とし、負荷の極大値に達した後の回転軸の回転数R2とした場合に、R2はR1に対してより小さい値に設定することが好ましく、R2/R1は、0.5〜0.9がより好ましく、0.6〜0.8が更に好ましい。即ち、負荷の極大値に達した後に回転軸の回転数を低下させて継続して混合を行うことがとりわけ好ましい。
【0041】
一方、上記負荷の極大値を経てから継続する混合時間は、第2混合工程では20秒以下(通常、1秒以上)とすることが好ましく、1〜15秒とすることがより好ましく、2〜10秒とすることが特に好ましい。この混合時間は、混合羽根の直径が20〜30cmである場合に特に適している。更に、回転軸の回転数(とりわけ負荷の極大値に達するまでの間の回転数)は、1400〜2200rpmが好ましく、1500〜2000rpmがより好ましく、1600〜1900rpmが特に好ましい。また、第2混合工程では、負荷の極大値に達するまでの回転軸の回転数をR1とし、負荷の極大値に達した後の回転軸の回転数R2とした場合に、R2はR1と同等にすることが好ましく、R2/R1は、0.8〜1.2がより好ましく、0.9〜1.1が更に好ましい。
【0042】
尚、前記負荷の測定は、回転軸に生じる負荷を測定する負荷測定手段を備えることがで、この測定を行うことができる。この負荷測定手段は、回転軸に生じる負荷を直接測定できるように、混合溶融装置自体に付設できる。更に、通常、回転軸を駆動するために備えられている駆動源(モーター等)に負荷測定手段を付設し、駆動源の負荷を測定することによって間接的に回転軸の負荷が測定してもよい。
具体的には、図1に例示されるように、回転軸5を回転させるための駆動源(モーター等)8が付設されており、駆動源8はプーリー6及びVベルト7を介して回転連絡されていることが好ましい。また、この駆動源8には負荷測定手段21が付設されていることが好ましい。更に、この負荷測定手段21は、駆動源8に電気的に接続されて、駆動源8の主軸に作用される負荷(トルク)を測定できるものであることが好ましい。
【0043】
(4)ペレット化工程
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法では、前記第1混合工程及び第2混合工程に加えて、更に、第2組成物を破砕してなる破砕物を加熱することなく押し固めてペレット化するペレット化工程を備えることができる。このペレット化工程を備えることで熱可塑性樹脂組成物(第2組成物)をペレット形状に賦形することができ、射出成形により適した形態とすることができる。
【0044】
第2組成物を破砕する方法は特に限定されず、例えば、乾式破砕方法及び湿式破砕方法を用いることができるが、乾式破砕方法が好ましい。乾式方法では、第2組成物に含まれた植物性材料の吸湿・吸水による乾燥を要さないからである。
また、破砕に用いることができる破砕機は、剪断式破砕機であってもよく、切断式破砕機であってもよく、衝撃式破砕機であってもよく、圧縮式破砕機であってもよく、更にその他の方法による破砕機であってもよい。即ち、破砕機としては、カッターミル、ターボミル、フェザミル、ロートプレックスミル、ラバチョッパ、ハンマーミル及びジョークラッシャー等が挙げられる。これらの破砕機は、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。併用する場合としては、1つの破砕機で塊状物を粗砕して粗砕物を得た後、別の破砕機で得られた粗砕物を更に細かく細分化する場合等が挙げられる。これらのなかでは、より細かく破砕(粉砕)でき、本方法における最適な粒度をより確保し易いために剪断式破砕機が好ましい。
【0045】
破砕物の大きさは特に限定されず、各々後述するペレット化工程に供することができればよいが、最大辺長が25mm以下(通常1mm以上)であることが好ましく、1〜20mmがより好ましく、1〜15mmが更に好ましく、2〜7mmが特に好ましい。この範囲であれば後続するペレット化工程におけるペレット生産性に優れ、更には、得られる成形体においても植物性材料による補強効果を特に良好に得ることができる。
尚、破砕機に換えて粉砕機により第2組成物を粉末状となるまで粉砕した場合には、植物性材料を含有させることによる補強効果を十分に引き出し難い傾向になる。このため、上記適度な大さに破砕することが好ましい。
更に、破砕に際しては、破砕による温度上昇を抑制することが好ましく、特に破砕時の破砕物の温度は100℃以下(通常0℃以上、更に好ましくは80℃以下)にすることが好ましい。この範囲では熱可塑性樹脂の劣化を効果的に抑制でき、得られる成形体の機械的特性を高く維持できる。
【0046】
更に、得られた破砕物は加熱することなく押し固めることでペレット化することが好ましい。これにより破砕物を溶融させて二軸押出し機等の一般的な方法を用いてペレット化を行う場合に比べて、破砕物への熱履歴を低減できるために得られる成形体の機械的特性をより高く維持できる。
加熱することなく押し固める方法としては、どのような装置及び手段を用いてもよいが、特に各種圧縮成形方法を用いることが好ましい。この圧縮成形方法としては、例えば、ローラー式成形方法及びエクストルーダ式成形方法などが挙げられる。
【0047】
ローラー式成形方法は、ダイとこのダイに接して回転されるローラーとを備えたローラー式成形機を用い、ローラーにより被圧縮物をダイ内に圧入した後、ダイから押し出してペレットを形成する方法である。ローラー式成形機には、ダイの形状が異なるディスクダイ式(ローラーディスクダイ式成形機)とリングダイ式(ローラーリングダイ式成形機)が挙げられる。一方、エクストルーダ式成形方法は、エクストルーダ式成形機を用いる方法であり、スクリューオーガの回転により被圧縮物がダイ内に圧入された後、ダイから押し出してペレットを形成する方法である。
これらの圧縮成形方法のなかでは、特にローラーディスクダイ式成形方法を用いる方法が好ましい。この圧縮成形方法で用いられるローラーディスクダイ式成形機は圧縮効率が高く特に好適である。
【0048】
更に、本方法では下記特定のローラーディスクダイ式成形部50(図3参照)を有するローラーディスクダイ式成形機(ペレット化装置)を用いてペレット化することが特に好ましい。ローラーディスクダイ式成形部50は、複数の貫通孔511が穿設されたディスクダイ51と、該ディスクダイ51上で転動されて該貫通孔511内に被圧縮物を押し込むプレスローラ52と、該プレスローラ52を駆動する主回転軸53と、を備え、上記ディスクダイ51は、上記貫通孔511と同方向に貫通された主回転軸挿通孔512を有し、上記主回転軸53は、上記主回転軸挿通孔512に挿通され且つ該主回転軸53に垂直に設けられたプレスローラ固定軸54を有し、上記プレスローラ52は、上記プレスローラ固定軸54に回転可能に軸支されて上記主回転軸53の回転に伴って上記ディスクダイ51表面で転動される。
このローラーディスクダイ式成形部50は、上記構成に加えて更に、上記プレスローラ52の表面に凹凸521を備えるものであることが好ましい。また、主回転軸53の回転に伴って回転される切断用ブレード55を備えることが好ましい。
【0049】
上記ローラーディスクダイ式成形機では、例えば、図3においては、主回転軸53の上方から投入された被圧縮物をプレスローラ52が備える表面凹凸521が捉えて貫通孔511内に押し込み、ディスクダイ51の裏面側から押し出される。押し出された紐状の第2組成物は、切断用ブレード55により適宜の長さに切断されてペレット化され、下方に落下されてペレット形態の熱可塑性樹脂組成物として回収される。
得られるペレットの形状及び大きさは特に限定されないが、柱状(その他の形状であってもよいが、円柱状が好ましい)であることが好ましい。また、その最大長さは1mm以上(通常20mm以下)とすることが好ましく、1〜10mmがより好ましく、2〜7mmが特に好ましい。
【0050】
尚、本発明の製造方法では、植物性材料及び熱可塑性樹脂以外にも他の成分を配合できる。他の成分としては、各種帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、着色剤等も配合できる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これら他の成分は、どの工程で配合してもよい。但し、本発明の方法では植物性材料と熱可塑性樹脂との混合を促進するための添加剤は何ら用いる必要がない。
【0051】
[2]成形体の製造方法
本発明の成形体の製造方法は、前記方法により得られた熱可塑性樹脂組成物を射出成形して成形体を得ることを特徴とする。即ち、本成形体の製造方法は、熱可塑性樹脂組成物を射出成形して成形体を得る成形工程を備える。
本製造方法の射出成形における射出成形機、これに付設された金型並びに各種成形条件及び使用する装置等は特に限定されず、目的とする成形体及び性状、使用されている熱可塑性樹脂の種類等により適宜のものとすることが好ましい。
【0052】
本発明の製造方法により得られる成形体の形状、大きさ及び厚さ等は特に限定されない。また、その用途も特に限定されない。この成形体は、例えば、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の内装材、外装材及び構造材等として用いられる。このうち自動車用品としては、自動車用内装材、自動車用インストルメントパネル、自動車用外装材等が挙げられる。具体的には、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、自動車用ドアトリム、シート構造材、シートバックボード、天井材、コンソールボックス、自動車用ダッシュボード、各種インストルメントパネル、デッキトリム、バンパー、スポイラー及びカウリング等が挙げられる。更に、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材が挙げられる。即ち、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥など)の表装材、構造材等が挙げられる。その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材及びパーティション部材等が挙げられる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
〈1〉熱可塑性樹脂組成物の製造
[1]実施例1
(1)第1混合工程
植物性材料として平均繊維長さ2mm(JIS L1015に準拠し、直接法にて無作為に単繊維を1本ずつ取り出し、置尺上で繊維長を測定し、合計200本について測定した平均値)のケナフ繊維480gと、樹脂A1としてPP(エチレン・プロピレン共重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「ノバテック NBC03HR」)120gと、有機過酸化物(化薬アクゾ株式会社製、品名「パーカドックス 14/40」)0.6gと、を第1混合溶融装置1(株式会社エムアンドエフ・テクノロジー製、WO2004−076044号に示された器機)の材料供給室(図1の符号13)に投入して、混合室(容量5L、図1の符号3)内で混合し混練した。
混合に際しては、回転軸の回転数を1750rpmに設定し、回転軸にかかる負荷が極大値となるまで50〜60秒間混合を行うと共に、負荷の極大値に達したところで回転軸の回転数を1200rpmに設定し、更に30秒間混合を継続して第1組成物を形成した(負荷の極大値に達した後、30秒間混合を行って混合溶融装置から第1組成物を排出した)。
【0054】
(2)第2混合工程
前記第1組成物450gと、樹脂A2としてPP(エチレン・プロピレン共重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「ノバテック NBC03HR」)135gと、樹脂Bとして酸変性PP(三菱化学株式会社製、品名「モディック P908」)15gと、を第2混合溶融装置1(株式会社エムアンドエフ・テクノロジー製、WO2004−076044号に示された器機、前記第1混合溶融装置と同じ)の材料供給室(図1の符号13)に投入して、混合室(容量5L、図1の符号3)内で混合し混練した。
混合に際しては、回転軸の回転数を1750rpmに設定し、回転軸にかかる負荷が極大値となるまで50〜60秒間混合を行うと共に、負荷の極大値に達した後も同じ回転数で混合を4秒間継続して第2組成物を形成した(負荷の極大値に達した後、4秒間混合を継続して混合溶融装置から第2組成物を排出した)。
【0055】
(3)ペレット化工程
前記(2)までに得られた第2組成物を破砕機(株式会社ホーライ製、型式「Z10−250」)を用いて5.0mm程度(5.0mmメッシュを通過するサイズ)に破砕した破砕物を得た。次いで、前記破砕物をローラーディスクダイ式成形部50を備えたローラーディスクダイ式成形機{株式会社菊川鉄工所製、形式「KP280」、貫通孔径(図3の符号511)4.2mm}に、フィダー周波数20Hzと投入し、直径約4mm且つ長さ約5mmの円柱状のペレットにした。その後、得られたペレットをオーブンにて100℃で24時間乾燥させて、実施例1の各熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0056】
[2]比較例1
(1)第1混合工程
有機過酸化物を用いないこと以外は、前記[1]実施例1における第1混合工程と同様にして第1混合物を得た。
(2)第2混合工程
前記[2](1)において得た第1組成物を用いたこと以外は、前記[1]実施例1における第2混合工程と同様にして第2混合物を得た。
(3)ペレット化工程
前記[2](2)において得た第2組成物を用いたこと以外は、前記[1]実施例1におけるペレット化工程と同様にして比較例1の各熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0057】
[3]比較例2
(1)混合工程
配合は前記実施例1と同様となるように各成分を用いたが、1回で全ての成分を混合する操作を行った。即ち、ケナフ繊維360gと、PP(エチレン・プロピレン共重合体、日本ポリプロ株式会社製、品名「ノバテック NBC03HR」)225gと、有機過酸化物(化薬アクゾ株式会社製、品名「パーカドックス 14/40」)0.45gと、酸変性PP(三菱化学株式会社製、品名「モディック P908」)15gと、を混合溶融装置1(株式会社エムアンドエフ・テクノロジー製、WO2004−076044号に示された器機)の材料供給室(図1の符号13)に投入して、混合室(容量5L、図1の符号3)内で混合し混練した。
混合に際しては、回転軸の回転数を1750rpmに設定し、回転軸にかかる負荷が極大値となるまで60秒間混合を行うと共に、負荷の極大値に達したところで回転軸の回転数を1200rpmに設定し、更に30秒間混合を継続して組成物を形成した(負荷の極大値に達した後、30秒間混合を行って混合溶融装置から組成物を排出した)。
(2)ペレット化工程
前記[3](1)において得た組成物を用いたこと以外は、前記[1]実施例1におけるペレット化工程と同様にして比較例2の熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0058】
〈2〉成形体の製造
前記〈1〉で得られた実施例1及び比較例1〜2の各熱可塑性樹脂組成物を射出成形機(住友重機械工業株式会社製、形式「SE100DU」)に各々投入し、シリンダ温度190℃、型温度40℃の条件で射出成形して厚さ4mm、幅10mm、長さ110mmの長方形板状の試験片を得た。
【0059】
〈3〉特性の評価
上記〈2〉で得られた試験片を用い、JIS 7171に準拠して、曲げ強さ及び曲げ弾性率を測定した。この試験では、各試験片を支点間距離(L)64mmとした2つの支点(曲率半径5mm)で支持しつつ、支点間中心に配置した作用点(曲率半径5mm)から速度2mm/分にて荷重の負荷を行った。その結果を表1に示した。
更に、上記射出成形機にバーフロー金型(図4に示す注入口611の口径が10mmであり、且つ、幅20mm且つ厚さ2mmの角渦巻き形状のキャビティ612を有する金型61)を接続し、シリンダ温度190℃、型温度40℃、射出圧力150MPa、射出速度80mm/秒、計量値60(スクリューを60mm後退させて、シリンダに60mm分の被射出物の貯留域を確保)の条件で射出成形して得られた成形体の長さをバーフロー長として測定した。その結果を表1に併記した。
【0060】
【表1】

【0061】
〈4〉実施例の効果
比較例1の結果から、有機過酸化物を用いず、2段階の混合を行った場合には、曲げ強さが72.4PMa、曲げ弾性率が5095MPaの成形体が得られるものの、バーフロー長が180mmと短いことが分かる。一方、比較例2の結果から、有機過酸化物を用いて、全ての成分を一括して混合すると、バーフロー長が210mmと長い、即ち、流動性において比較例1よりも約17%優れた熱可塑性樹脂組成物が得られることが分かる。しかし、比較例2の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られた成形体は、その曲げ強さが54.4PMa、曲げ弾性率が4957MPaであり、比較例1に比べて、曲げ強さが約25%低下していることが分かる。
【0062】
これに対して、実施例1は、第1混合工程で有機過酸化物を用い、第2混合工程で樹脂B(酸変性熱可塑性樹脂)を用いることで、曲げ強さ、曲げ弾性率及びバーフロー長のいずれも共に優れていることが分かる。即ち、曲げ強さは比較例2に対して約35%の向上であり、比較例1と比べても僅かに優れているうえに、バーフロー長さは比較例2と同じであり、比較例1よりも約17%も優れた流動性が得られることが分かる。
尚、本発明においては、上記の具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法並びに成形体の製造方法は、自動車関連分野及び建築関連分野などにおいて広く利用される。特に自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の内装材、外装材及び構造材等に好適であり、なかでも自動車用品としては、自動車用内装材、自動車用インストルメントパネル、自動車用外装材等に好適である。具体的には、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、自動車用ドアトリム、シート構造材、シートバックボード、天井材、コンソールボックス、自動車用ダッシュボード、各種インストルメントパネル、デッキトリム、バンパー、スポイラー及びカウリング等が挙げられる。更に、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材にも好適である。具体的には、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥など)の表装材、構造材等が挙げられる。その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材及びパーティション部材等としても好適である。
【符号の説明】
【0064】
1;混合溶融装置、3;混合室、5;回転軸、10及び10a〜10f;混合羽根、12;らせん状羽根、6;プーリー、7;Vベルト、8;駆動源(モーター)、13;材料供給室、21;負荷測定手段、50;ローラーディスクダイ式成形部(ペレット化部)、51;ディスクダイ、511;貫通孔、512;主回転軸挿通孔、52;プレスローラ、521;凹凸部、53;主回転軸、54;プレスローラ固定軸、55;切断用ブレード、61;金型、611;注入口、612;キャビティ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性材料と熱可塑性樹脂とを含有し、これらの合計を100質量%とした場合に該植物性材料が50〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
回転軸の円周方向に複数の混合羽根が立設された混合具を備えた第1混合溶融装置を用いて、該混合羽根の回転による剪断力により、酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)を溶融させながら、前記植物性材料と前記酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)と有機過酸化物とを混合して第1組成物を得る第1混合工程と、
回転軸の円周方向に複数の混合羽根が立設された混合具を備えた第2混合溶融装置を用いて、該混合羽根の回転による剪断力により、酸変性されていない熱可塑性樹脂(A2)及び酸変性された熱可塑性樹脂(B)を共に溶融させながら、前記第1組成物と酸変性されていない熱可塑性樹脂(A2)及び酸変性された熱可塑性樹脂(B)とを混合して第2組成物を得る第2混合工程と、を備えることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記第1混合工程における、前記植物性材料と前記酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)との合計を100質量部とした場合に、前記有機過酸化物は0.01〜0.5質量部である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記第1混合工程で用いる前記酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)と、前記第2混合工程で用いる前記酸変性されていない熱可塑性樹脂(A2)と、の合計を100質量%とした場合に、前記第1混合工程で用いる前記酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)は20〜50質量%である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記第1混合工程における、前記植物性材料と前記酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)との合計を100質量%とした場合に、該植物性材料は70〜98質量%である請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記第1混合工程で用いる前記酸変性されていない熱可塑性樹脂(A1)と、前記第2混合工程で用いる前記酸変性されていない熱可塑性樹脂(A2)及び酸変性された熱可塑性樹脂(B)と、の合計を100質量%とした場合に、該酸変性された熱可塑性樹脂(B)は1〜30質量%である請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
上記植物性材料は、ケナフである請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
更に、前記第2組成物を破砕してなる破砕物を加熱することなく押し固めてペレット化するペレット化工程を備える請求項1乃至6のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のうちのいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法により得られた熱可塑性樹脂組成物を射出成形して成形体を得ることを特徴とする成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−5783(P2011−5783A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152911(P2009−152911)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】