説明

熱成形用積層シート、成形体、及び加飾成形体

【課題】 熱成形後も光沢値の高い鏡面状金属光沢を持ち、積層された層間での剥離が起こりにくい熱成形用積層シート及びその成形体を提供する。
【解決手段】 1)熱可塑性樹脂フィルム層と、2)反応率75%〜85%の範囲で反応させた硬化性樹脂層と、3)金属蒸着層または、金属薄膜細片と結着樹脂を含有し金属調の光沢を有する高輝性インキ層を有する装飾層と、4)支持基材樹脂層、とがこの順に積層された熱成形用積層シート、該熱成形用積層シートを熱成形することにより得られる成形体、及び、該成形体に樹脂を一体成形して得られる加飾成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光沢値の高い鏡面状金属光沢を有する積層シート、特に自動車関連部材、建材部材、家電品等の外装塗装不要のシートとして有用な鏡面性に優れた成形用積層シートの成形法及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に着色された樹脂成形部材を製造する場合、樹脂自体に顔料を練り込み、着色して射出成形等する方法のほか、成形した後、スプレー塗装等を施す方法がある。特に金属調の意匠を要求される場合は、顔料の練り込みの困難さ、顔料流れ跡が目立ちやすいなどの理由で、着色法より塗装法が採用されることが多い。塗装法の場合、塗膜を焼付け、架橋させれば、表面保護の効果も期待できる。しかしながら、現在の塗料は揮発性有機溶剤を用いるものが主流であるため、揮発性有機溶剤の排出に対する作業環境保護、外部環境保護の観点から、水系塗料あるいは粉体塗料を使用する等の無溶剤化が図られているが、金属調の意匠の表現は現状では困難である。これに対し、塗料を使用する代りに成形性支持樹脂層を積層した着色シートを、射出成形時に一体化して成形する方法が紹介されている。この方法によれば、金属調意匠の樹脂成形部材を無溶剤で製造することが可能である。
【0003】
光沢値の高い金属調の意匠性を有するシートとしては、アルミ蒸着したポリエチレンテレフタレートフィルムやポリプロピレンフィルム等をドライラミネートした積層シートが知られている。また、鱗片状でかつ表面が平滑なアルミニウム粒子を含有するアクリレート系エマルジョン層を有する積層シートが記載されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、これらのシートは平面として金属調意匠を有しているものの、蒸着面に展延性が十分にないため、真空成形またはインモールド成形等の成形加工を施した場合に、割れや光沢のムラを生ずる等、金属調の装飾層の意匠性の保持が不十分であった。
【0005】
また、金属薄膜細片を結着樹脂ワニス中に分散したインキ皮膜を有する積層シートを用いることが提案されている(例えば特許文献2参照)。この方法によれば、高い光沢値を持つシートが作成可能でかつ熱成形時の展延性を改善することができる。しかしながら、真空成形時の加熱や、深絞りによりシート自体の光沢値が大幅に低下し、成形前の良好な光沢を維持した成形体を得ることが出来ない問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平5−111991号公報
【特許文献2】特開2002−46230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、熱成形後も光沢値の高い鏡面状金属光沢を持ち、積層された層間での剥離が起こりにくい熱成形用積層シート及びその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、
熱可塑性樹脂フィルム層と、硬化性樹脂層と、装飾層と、支持基材樹脂層とを有する熱成形用積層シートにおいて、反応率が75%〜85%の硬化性樹脂層を用いることにより上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂フィルム層と、2)反応率75%〜85%の範囲で反応させた硬化性樹脂層と、3)金属蒸着層または、金属薄膜細片と結着樹脂を含有し金属調の光沢を有する高輝性インキ層を有する装飾層と、4)支持基材樹脂層、とがこの順に積層された熱成形用積層シートを提供する。
【0010】
また、本発明は、上記熱成形用積層シートを熱成形することにより得られる成形体を提供する。
【0011】
また、本発明は、得られた成形体に樹脂を一体成形して得られる加飾成形体をも提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の成形用積層シートにより、熱成形後も高い鏡面状金属光沢の意匠性を有し、積層フィルムの層間での剥離が起こりにくい、加飾用成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の熱成形用積層シートの成形方法及び該成形方法により得られた成形体について詳述する。
【0014】
〔熱可塑性樹脂フィルム層〕
本発明で熱成形用積層シートに使用する熱可塑性樹脂フィルム層は、加熱により展延
性を有する熱可塑性樹脂の層である。熱可塑性樹脂フィルム層は、透明または半透明の単層または多層フィルムが好適であり、着色剤を含有してもよい。
【0015】
具体的には、金型を用いたプレス成形加工を行うため、軟化点が30〜300℃の範囲である熱可塑性樹脂を主体とするフィルムが好ましく、さらに好ましい軟化温度は50〜250℃である。前記熱可塑性樹脂の例を挙げれば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレートやポリエチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、シリコン−アクリル樹脂、アイオノマー、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリルニトリル、アクリルニトリル−スチレン樹脂、メチルメタクリレート−スチレン樹脂、ナイロンなどのポリアミド樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、エチレン−アクリル酸樹脂、エチレン−エチルアクリレート樹脂、エチレン−ビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンなどの塩素樹脂、ポリフッ化ビニルやポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、メチルペンテン樹脂、セルロース系樹脂等が好ましく用いられる。
【0016】
これらの熱可塑性樹脂の中でも、一体成形可能性、耐候性の点から、ポリふっ化ビニリデン、ポリカーボネート樹脂またはアクリル系樹脂を主成分とするフィルムが好ましい。なお、本発明において主成分とは、構成成分のうちの50質量%以上を占める成分を言う。
【0017】
また、熱成形性及び装飾層の鮮鋭性が優れることから、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選択される1種または2種以上を主成分とするフィルムが好ましい。
【0018】
また、該フィルムの透明性を阻害しない範囲内で、前記例示の樹脂を2種類以上を混合若しくは多層化して用いても良い。
【0019】
熱可塑性樹脂フィルム層の厚みは特に制限しないが、硬化性樹脂層および装飾層がインキ等の展着層である場合の塗工性、および、熱成形性が良好なことから、30〜2000μmの範囲が好ましく、より好ましくは、50〜500μmである。
熱可塑性樹脂フィルム層は、また着色剤を含有してもよい。あるいは、衝撃強度や成形性が損なわれない範囲で、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐電防止剤、難燃剤および滑剤等の添加剤を配合してもよく、これらの添加剤は単独で使用しても2種類以上を併用してもよい。
【0020】
また、耐衝撃性を改善する目的で、熱可塑性樹脂フィルム層として用いられる前記例示の各種樹脂を、透明性を阻害しない範囲内でゴム変性体としても良い。ゴム変性体とする方法については特に限定されないが、各種樹脂の重合時にブタジエン等のゴム成分モノマーを添加して共重合する方法、及び、該樹脂と合成ゴム若しくは熱可塑性エラストマーとを熱溶融ブレンドする方法が挙げられる。また、熱可塑性樹脂フィルム層は、透明性を損なわない範囲内で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、潤滑剤等のフィルム用途に常用される各種添加剤を含有しても良い。更に、意匠性の観点から、顔料若しくは染料等の着色剤を含有し、意図的に透明性を低下させることもできる。熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は特に限定されず、常法によりフィルム化すれば良く、さらに、熱成形時の展延性を阻害しない範囲内で、一軸方向若しくは二軸方向に延伸処理を施しても良い。
【0021】
〔装飾層〕
本発明で使用する装飾層は、金属薄膜細片と結着樹脂を含有し金属調の光沢を有するインキ層(以下、高輝性インキ層と言う。)を有する構成が挙げられる。また、好ましい他の例としては、真空蒸着法、スパッタリング法、メッキ法などにより形成した金属薄膜層を有する構成が挙げられる。
【0022】
(高輝性インキ層)
金属薄膜細片を含有する金属調の光沢インキ(以下、高輝性インキと言う。)を用いた高輝性インキ層として装飾層(C)を形成すると、金属調の光沢を有する成形品を得ることができる。このような装飾層(C)において、高輝性インキ層の膜厚は薄すぎると隠蔽性に劣り意匠性が損なわれる傾向があり、厚すぎると、特に高輝性インキを使用した場合、金属片の配向が乱れることがある。このため、高輝性インキ層の膜厚としては、5μm以下が好ましく、0.05〜5μmがより好ましく、特に好ましくは0.2〜2μmである。
【0023】
(高輝性インキ)
前記高輝性インキとは、金属薄膜細片を結着樹脂中に分散してなり、鏡面状金属光沢を有するインキである。該インキ中の不揮発分に対する金属薄膜細片の含有量は3〜60質量%の範囲内が好ましい。金属薄膜細片を使用した高輝性インキは、該インキを印刷または塗布した際に金属薄膜細片が被塗物表面に対して平行方向に配向する結果、従来の金属粉を使用したメタリックインキでは得られない、高輝度の鏡面状金属光沢が得られる。
【0024】
(高輝性インキ中の金属薄膜細片)
前記高輝性インキに用いられる金属薄膜細片の金属としては特に限定されず、例えば、アルミニウム(Al)、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、銅(Cu)、真鍮(Cu−Zn)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、インジウム(In)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、シリコン(Si)、タンタル(Ta)、ニッケルクロム(Ni−Cr)、ステンレス鋼(SUS)、クロム銅(Cr−Cu)、アルミニウムシリコン(Al−Si)等が挙げられる。該金属を薄膜にする方法としては、アルミニウムのように融点の低い金属の場合は蒸着を、アルミニウム、金、銀、銅など展性を有する金属の場合は箔を、融点が高く展性に乏しい金属の場合はスパッタリング等を挙げることができる。なかでも、蒸着金属薄膜から得た金属薄膜細片が好ましく用いられる。
【0025】
前記金属薄膜の厚さは、0.01〜0.1μmが好ましく、さらに好ましくは0.02〜0.08μmである。インキ中に分散させる金属薄膜細片の面方向の大きさは5〜25μmが好ましく、さらに好ましくは10〜15μmである。金属薄膜細片の面方向の大きさが5μm未満の場合は、高輝性インキの塗膜の輝度が低下するほか、インキをグラビア方式あるいはスクリーン印刷方式で印刷または塗布する場合に、版の目詰まりの原因となる。
【0026】
以下に、金属薄膜細片の作製方法を、特に好ましい蒸着法を用いた場合を例として説明する。金属を蒸着する支持体フィルムには、ポリオレフィンフィルムやポリエステルフィルムなどを用いることができる。まず、支持体フィルム上に塗布等によって剥離層を設けた後、該剥離層上に所定の厚さになるよう金属を蒸着する。蒸着膜面には、酸化を防ぐためトップコート層を塗布する。剥離層およびトップコート層を形成するためのコーティング剤は、互いに同一のものを使用することができ、また、異なるものを使用することもできる。
【0027】
前記剥離層または前記トップコート層に使用する樹脂は、特に限定されない。具体的には、例えば、ニトロセルロース等のセルロース誘導体、アクリル樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド、ポリエステル、エチレン−ビニルアルコール(EVA)樹脂、塩素化ポリエチレン、塩素化EVA樹脂、石油系樹脂などを挙げることができる。剥離層またはトップコート層に使用する溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素;n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素;酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル等が好ましく用いられる。
【0028】
上記金属蒸着フィルムを、前記剥離層および前記トップコート層を溶解する溶剤中に浸漬して撹拌し、金属蒸着膜を分離する。さらに剥離した金属蒸着膜を溶剤中で撹拌することによって面方向の大きさが約5〜25μmの金属薄膜細片とし、濾別、乾燥する。剥離に用いられる溶剤は、前記剥離層および前記トップコート層を溶解するものであれば、それ以外に特に限定はない。金属薄膜をスパッタリングで作製した場合も、上記と同様な方法で金属薄膜細片とすることができる。金属箔を用いる場合は、溶剤中に浸漬してそのまま撹拌機で所定の大きさに粉砕すればよい。
【0029】
金属薄膜細片は、インキ中における分散性を高めるために表面処理するのが好ましい。表面処理剤としては、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の有機脂肪酸;メチルシリルイソシアネート等のイソシアネート類;ニトロセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、エチルセルロース等のセルロース誘導体が挙げられ、公知慣用の方法で金属薄膜細片の表面に吸着させる。
【0030】
(高輝性インキ中の結着樹脂)
前記高輝性インキに用いられる結着樹脂としては、従来のグラビアインキ、フレキソインキ、スクリーンインキ、あるいは塗料などに通常用いられているものを用いることができる。具体例としては、塗料用アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩素化オレフィン樹脂、エチレン−アクリル樹脂などの重合系樹脂;あるいは塗料用ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ウレア樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、石油系樹脂、セルロース誘導体樹脂等が好ましく用いられる。また、これらの樹脂にカルボン酸基、燐酸基、スルホン酸基、アミノ基、四級アンモニウム塩基などの極性基を化学的に結合させたものを、使用または併用してもよい。
【0031】
(高輝性インキ中の添加剤)
前記高輝性インキには、必要に応じて、意匠性、展延性を阻害しない限り、インキ中に消泡、沈降防止、顔料分散、流動性改質、ブロッキング防止、帯電防止、酸化防止、光安定性、紫外線吸収、内部架橋等を目的として、従来のグラビアインキ、フレキソインキ、スクリーンインキ、あるいは塗料等に使用されている各種添加剤を加えても構わない。このような添加剤としては、着色用顔料、染料、ワックス、可塑剤、レベリング剤、界面活性剤、分散剤、消泡剤、キレート化剤、ポリイソシアネート等を挙げることができる。
【0032】
(高輝性インキ中の溶剤)
前記高輝性インキに用いられる溶剤としては、従来のグラビアインキ、フレキソインキ、スクリーンインキ、あるいは塗料等に使用されている公知慣用の溶剤を使用することができる。具体的には、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素;n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素;酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールアルキルエーテル等を挙げることができる。
【0033】
(高輝性インキの調製方法)
一般にインキの配合原料を安定して分散させるには、ロールミル、ボールミル、ビーズミル、あるいはサンドミル等を使用して練肉することにより、顔料その他添加剤をサブミクロンまで微粒子化する。しかし、上述の高輝性インキにおいては、金属光沢を発現させるために配合する金属薄膜細片は5〜25μmの大きさが好ましく、上記練肉を行った場合は金属薄膜細片が微粒子化してしまい、金属光沢が極端に低下するおそれがある。したがって、高輝性インキを調製する場合には練肉は行わず、単に上記配合原料を混合してインキとすることが望ましい。そのためには、分散性を向上させる目的で、前記したように金属薄膜細片を表面処理しておくことが好ましい。
【0034】
(インキ層の印刷または塗工方法)
本発明で使用される熱成形用シートの高輝性インキ層、該インキ層にさらに積層してもよい他のインキ層、および接着剤の印刷または塗工の方式は、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷等の印刷方式;グラビアコーター、グラビアリバースコーター、フレキソコーター、ブランケットコーター、ロールコーター、ナイフコーター、エアナイフコーター、キスタッチコーター、キスタッチリバースコーター、コンマコーター、コンマリバースコーター、マイクロリバースコーター等の塗工方式を用いることができる。インキの膜厚は薄すぎると隠蔽性に劣り意匠性が損なわれる傾向があり、厚すぎると金属薄膜細片の配向が不均一になりやすい。このため、高輝性インキ層の膜厚としては、5μm以下が好ましく、0.05〜5μmがより好ましく、特に好ましくは0.2〜2μmである。
【0035】
高輝性インキ層にさらに他のインキ層を積層した場合も同様であり、該他のインキ層の膜厚としては、5μm以下が好ましく、0.05〜5μmがより好ましく、特に好ましくは0.2〜2μmである。
【0036】
該熱可塑性樹脂フィルム層と装飾層の密着性を制御する目的で、該熱可塑性樹脂フィルム層の表面にはコロナ処理やプライマー塗工等の表面処理を施しても良い。
【0037】
(金属薄膜層)
金属調の光沢を有する成形品を得るため、本発明では、熱成形用積層シートの装飾層として、金属薄膜層を有する構成を採用することも可能である。装飾層として金属薄膜層を形成する場合、熱可塑性樹脂フィルム層上に形成する方法と、支持基材樹脂層上に形成する方法があるが、意匠性の観点から、熱可塑性樹脂フィルム層上に形成する方法が好ましい。金属薄膜層の形成方法は特に限定されず、真空蒸着法、スパッタリング法、メッキ法などにより形成することができる。これら金属蒸着層や金属メッキ層等の金属薄膜の成分としては特に限定されず、例えば、アルミニウム(Al)、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、銅(Cu)、真鍮(Cu−Zn)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、インジウム(In)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、シリコン(Si)、タンタル(Ta)、ニッケルクロム(Ni−Cr)、ステンレス鋼(SUS)、クロム銅(Cr−Cu)、アルミニウムシリコン(Al−Si)等が挙げられる。
【0038】
装飾層が薄すぎると隠蔽性に劣り意匠性が損なわれる場合があり、厚すぎると熱成形時に色むらが発生しやすいことから、前記金属薄膜層の厚さは、0.01〜0.1μmが好ましく、さらに好ましくは0.02〜0.08μmである。また、熱可塑性樹脂フィルム層と金属薄膜層の密着性を制御する目的で、該熱可塑性樹脂フィルム層の表面には、コロナ処理やプライマー塗工等の表面処理を施しても良い。
【0039】
〔硬化性樹脂層〕
本発明の熱成形用積層シートの熱可塑性樹脂フィルム層と装飾層との間には、耐熱性、耐溶剤性、意匠性、耐候性等を向上させる目的で、反応率75%〜85%の範囲で反応させた硬化性樹脂層を設ける。硬化性樹脂層としては水酸基を含有した熱可塑性樹脂とポリイソシアネート化合物とを含有し、反応率を75%〜85%の範囲で反応させた硬化性樹脂層を設けることが好ましい。特に、装飾層が高輝性インキからなる場合、該硬化性樹脂層は、インキ保護層として特に有用である。
【0040】
前記水酸基を含有した熱可塑性樹脂とは、水酸基を含有したアクリル系重合体やフルオロオレフィン系重合体に代表されるビニル系重合体、ポリエステル、アルキッド樹脂、ポリウレタンなどの重合体が挙げられる。中でも、水酸基を含有したビニル系重合体が成形性と成形品の物性バランスが良好な点で特に好ましい。
【0041】
前記水酸基を含有した熱可塑性樹脂は、公知の方法で単独重合または共重合させて得られる。例えば、熱可塑性樹脂がビニル系重合体である場合、水酸基を有するビニル系単量体を公知の方法で単独重合または共重合させて得られる。水酸基を有するビニル系単量体は、分子内に不飽和二重結合と水酸基を有する化合物で有れば良く、例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシブチルなどの不飽和カルボン酸モノアルキルエステル化合物;不飽和カルボン酸とα−オレフィンエポキシドのようなモノエポキシ化合物との付加物;アクリル酸グリシジル又はメタクリル酸グリシジルとジオクチルアミンなどのジアルキル2級アミンとの付加物;アクリル酸グリシジル又はメタクリル酸グリシジルと酢酸、プロピオン酸などの脂肪酸との付加物;アクリル酸グリシジル又はメタクリル酸グリシジルと塩酸などの無機酸との付加物が挙げられる。
【0042】
前記水酸基を含有するビニル系重合体は、他の汎用のビニル系単量体を共重合させてもよい。他の汎用のビニル系単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸の炭素数1〜22のアルキルエステル又はシクロアルキルエステル;
【0043】
メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸の炭素数1〜22のアルキルエステル又はシクロアルキルエステル;
【0044】
アクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸メトキシブチル、アクリル酸メトキシエチル、
メタクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシブチル、メタクリル酸エトキシブチル等のアクリル酸又はメタクリル酸の炭素数2〜18のアルコキシアルキルエステル類;
【0045】
N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−tert−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアミノアルキルアクリレート系単量体またはアミノアルキルメタクリレート系単量体;
【0046】
アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド系単量体またはメタクリルアミド系単量体;
グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体;
スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物;
アクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル等が挙げられる。
【0047】
単独重合または共重合法としては、溶液ラジカル重合法、非水分散重合法又は塊状重合法等の公知の重合法を利用することができる。中でも、溶液ラジカル重合法が簡便で好ましい。溶液ラジカル重合法の一例としては、例えば、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素類、イソブタノール、n−ブタノール等のアルコール類、酢酸ブチル等のエステル類、メチルアミルケトン等のケトン類、セロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のエーテル類等の有機溶剤中で、N,N−アゾビスジイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物等のラジカル重合開始剤、n−ドデシルメルカプタン等の連鎖移動剤等を用いて、反応温度約50〜160℃で、約1〜30時間反応させる。
【0048】
(ポリイソシアネート化合物)
本発明で用いられるポリイソシアネート化合物は、1分子中にイソシアネート基を平均2個以上有する化合物である。数平均分子量(ポリスチレン換算の値)は10,000以下のものが好ましく、5,000以下がなお好ましく、特に好ましくは2,000以下である。中でも、1分子中に3つ以上のイソシアネート基を含有する、いわゆる3価以上のイソシアネート化合物を使用するのが好ましい。
【0049】
3価以上のイソシアネート化合物としては、具体的には、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトカプロエート、1,3,5−トリイソシアナトシクロヘキサン、2,4,6−トリイソシアナトシクロヘプタン、1,2,5−トリイソシアナトシクロオクタンなどの脂肪族トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトナフタレンなどの芳香族トリイソシアネート、ジイソシアネート類を環化三量化せしめて得られる、いわゆるイソシアヌレート環構造を有するポリイソシアネート類が挙げられる。
【0050】
ポリイソシアネート化合物としては、これら3価以上の有機ポリイソシアネート化合物に、2価のイソシアネート化合物類、即ち、ジイソシアネート類を併用することが好ましい。
【0051】
前記ジイソシアネート類としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類;
【0052】
水素添加キシリレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、1,3−ビスイソシアナートメチルシクロヘキサン、2−メチル−1,3−ジイソシアナートシクロヘキサン、2−メチル−1,5−ジイソシアナートシクロヘキサン、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート等の環状脂肪族ジイソシアネート類;
【0053】
トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートキシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチル−m−キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類が挙げられる。
【0054】
更に、3価以上のポリイソシアネート化合物は、ブロックポリイソシアネート、ビウレット構造を有するポリイソシアネート類、イソシアネート基含有ビニル系重合体類などとも併用することができる。
【0055】
ここで、ブロックポリイソシアネートとは、イソシアネート化合物の遊離のイソシアネート基をフェノール類、オキシム類、ラクタム類、アルコール類、メルカプタン類などのブロック剤で封鎖し、高温加熱時に反応して硬化できるようにしたものである。その具体例としては、2価以上のポリイソシアネートの2量体もしくは3量体、2価以上のポリイソシアネートと多価アルコール、低分子量ポリエステル樹脂もしくは水等とをイソシアネート基過剰の条件で反応させてなる付加物等が挙げられる。
【0056】
ビウレット構造を有するポリイソシアネート類は、遊離のイソシアネート基を有するポリイソシアネート類と、水とを反応せしめて得られる一群の化合物である。
イソシアネート基含有ビニル系重合体類とは、イソシアネート基含有ビニル単量体の単独重合体、又はイソシアネート基含有ビニル単量体をこれらと共重合可能なビニル系単量体類などと共重合せしめて得られる共重合体をいう。
【0057】
イソシアネート基含有ビニル単量体としては、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、3−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネートもしくは(メタ)アクリロイルイソシアネート等が挙げられる。また、イソシアネート基含有ビニル単量体と共重合可能なビニル系単量体としては、(メタ)アクリル系、ビニルエステル系、ビニルエーテル系、芳香族ビニル系もしくはフルオロオレフィン系のビニル系単量体が挙げられる。
【0058】
前記水酸基を含有した熱可塑性樹脂とポリイソシアネート化合物との配合比としては、前記水酸基を含有した熱可塑性樹脂の中の水酸基1当量当たりポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基が0.5〜1.5当量の範囲が好ましく、特に0.7〜1.2当量の範囲が硬化塗膜の各種性能のバランスから好ましい。
【0059】
(硬化触媒)
前記水酸基を含有した熱可塑性樹脂とポリイソシアネート化合物を反応硬化させる場合、必要に応じて公知の硬化触媒を添加することが出来る。
【0060】
具体的には、例えば、N−メチルモルフォリン、ピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、トリ−n−ブチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、1,4−ジエチルイミダゾール、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシランの如き各種のアミン化合物類;
【0061】
テトラメチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、トリメチル(2−ヒドロキシルプロピル)アンモニウム塩、シクロヘキシルトリメチルアンモニウム塩、テトラキス(ヒドロキシルメチル)アンモニウム塩、ジラウリルジメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、o−トリフルオロメチルフェニルトリメチルアンモニウム塩の如き、各種の4級アンモニウム塩類であって、且つ、代表的な対アニオンとしてのクロライド、ブロマイド、カルボキシレート、ハイドロオキサイドなどを有する、いわゆる4級アンモニウム塩類;
【0062】
ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫アセテート、ジオクチル酸鉛、ナフテン酸コバルトの如き、各種の有機金属化合物などがある。
【0063】
硬化触媒の添加量は特に制限はないが、あまり過剰に添加するとポットライフ(可使時間)が短くなり熱可塑性樹脂とポリイソシアネート化合物を含有する組成物がゲル化することがある。硬化触媒を添加する場合は、該組成物1000部に対して硬化触媒が0.01〜1部を添加することが好ましい。
【0064】
(硬化性樹脂層のイソシアネート反応率)
硬化性樹脂層は、反応率75%〜85%の範囲で半硬化させておく。反応率が75%より小さいと熱成形後の光沢度が低下し、また反応率が85%より大きいと、成形に必要な展延性が得られにくく、また硬化性樹脂層と装飾層間での剥離が起こりやすい。半硬化条件は、通常40〜80℃の範囲で20日〜1日程度行う。硬化は他の層の積層前後のどちらで行っても良いし、硬化を途中で止め他の層を積層しその後に残りの硬化を行っても良い。
【0065】
なお、ここでいう反応率は、硬化性樹脂層用組成物を適当な透明樹脂フィルム、例えば25μmPPフィルムを基材として塗布し、実際の乾燥・硬化条件と同様にして硬化させた試験用フィルムと完全硬化(110℃/2時間加熱処理)させた補正用フィルムの2種類を作製し、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いて透過法又はATR法でイソシアネート官能基の硬化前後のIRスペクトルの吸光度ピーク高さを測定し、次式(1)から求めた値である。
【0066】
【数1】

【0067】
(ただし、式(1)において、P0は「硬化前の試験用フィルムの吸光度ピーク高さ」であり、Pは「硬化後の試験用フィルムの吸光度ピーク高さ」であり、P1は「完全硬化後の補正用フィルムの吸光度ピーク高さ」である。)
【0068】
また、硬化性樹脂層に意匠性を付与するため、硬化性樹脂層中に着色剤を添加して着色層としてもよい。その場合に着色剤の添加量は、着色剤の種類、目的とする色調、硬化性樹脂層の厚み等により異なるが、装飾層を隠蔽しないように、硬化性樹脂層の全光線透過率は20%以上であることが好ましく、特に、全光線透過率が40%以上であることがより好ましい。硬化性樹脂層に添加できる着色剤としては、顔料が好ましい。ここで用いる顔料は特に限定されず、着色顔料、メタリック顔料、干渉色顔料、蛍光顔料、体質顔料、防錆顔料などの公知慣用の顔料を使用することができる。
【0069】
(硬化性樹脂層中の着色顔料)
前記着色顔料としては、例えばキナクリドンレッド等のキナクリドン系顔料、ピグメントレッド等のアゾ系顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ペリレンレッド等のフタロシアニン系顔料などの有機顔料;酸化チタンやカーボンブラックなどの無機顔料が挙げられる。メタリック顔料としては、アルミニウム粉、ニッケル粉、銅粉、真鍮粉、クロム粉等が挙げられる。干渉色顔料としては、真珠光沢状のパールマイカ粉や真珠光沢状の着色パールマイカ粉等が挙げられる。
【0070】
蛍光顔料としては、キナクリドン系顔料、アンスラキノン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、イソインドリノン系顔料、縮合アゾ系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、モノアゾ系顔料、不溶性アゾ系顔料、ナフトール系顔料、フラバンスロン系顔料、アンスラピリミジン系顔料、キノフタロン系顔料、ピランスロン系顔料、ピラゾロン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスアンスロン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、インダンスロン系顔料等の有機顔料;ニッケルジオキシンイエローや銅アゾメチンイエローなどの金属錯体;酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛等の金属酸化物;硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の金属塩;カーボンブラック、アルミニウム、雲母などの無機顔料が挙げられる。
【0071】
〔支持基材樹脂層〕
本発明で使用する支持基材樹脂層は、プレス成形(マッチモールド成形)を行うため、軟化温度が30〜300℃の範囲である熱可塑性樹脂を主体とするフィルムが好ましく、さらに好ましい軟化温度は50〜250℃である。前記熱可塑性樹脂の例を挙げれば、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル/アクリルゴム/スチレン(AAS)樹脂、アクリロニトリル/エチレンゴム/スチレン(AES)樹脂、(メタ)アクリル酸エステル/スチレン(MS)樹脂、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)樹脂、スチレン/イソプレン/ブタジエン/スチレン(SIBS)樹脂、ポリエチレン(PE)系樹脂やポリプロピレン(PP)系樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)系樹脂などの汎用樹脂、ならびにオレフィン系エラストマー(TPO)、ポリ塩化ビニル系エラストマー(TPVC)、スチレン系エラストマー(SBC)、ウレタン系エラストマー(TPU)、ポリエステル系エラストマー(TPEE)、ポリアミド系エラストマー(TPAE)等の熱可塑性エラストマー(TPE)等を用いることができる。また、前記例示の樹脂を2種類以上を混合若しくは多層化して用いても良い。なかでも、自動車外装部品を代表とする複雑な形状を有する成形体においても賦形性が優れていることから、ポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂およびそれらのブレンド品やAAS樹脂、ABS樹脂などが、より好ましく使用される。これらの樹脂には、衝撃強度などの改良を目的として、エチレンプロピレンゴム(EPR)、SBS、SIBS、スチレン/エチレン/ブタジエン/スチレン(SEBS)などのゴム系改質剤を添加しても構わない。支持基材樹脂層の厚みは特に制限しないが、例えば、10μm〜4000μmが好ましい。
【0072】
(支持基材樹脂層中の無機フィラー)
熱成形用積層シートは熱成形によって三次元形状の成形体となる。このとき支持基材樹脂層と熱可塑性樹脂フィルム層に使用される熱可塑性樹脂の成形収縮率が異なると、成形体に変形が起こり、良好な形状を保つことが難しい。この場合には、支持基材樹脂層の樹脂に無機フィラーを添加すると、成形収縮率を細かく制御することができ、支持基材樹脂層と熱可塑性樹脂フィルム層とで熱可塑性樹脂の成形収縮率の差を小さくすることができるので、成形中および成形後の変形を防ぐことができる。本発明で使用可能な無機フィラーの種類は特に限定されないが、タルク、炭酸カルシウム、クレー、珪藻土、マイカ、珪酸マグネシウム、シリカなどが挙げられる。
【0073】
支持基材樹脂層中の無機フィラーの添加量は、成形加工性と成形収縮率のバランスの点から、支持基材樹脂層中の樹脂に対する質量百分率にして5〜60質量%が好ましい。無機フィラーの粒径は、特に限定しないが、粒径が大きすぎると支持基材樹脂層の表面に凹凸が生じ、装飾層を有する加飾シートの場合、装飾鮮鋭性が損なわれるおそれがある。このため、装飾層の下地である支持基材樹脂層は平滑性が要求されるため、支持基材樹脂層に添加される無機フィラーの平均粒径は4μm以下が好ましく、さらに好ましくは2μm以下である。
【0074】
(支持基材樹脂層中の着色剤)
支持基材樹脂層に着色剤を含有させると、成形体の下地色の隠蔽性が良好となるので好ましい。ここで用いる着色剤は、特に限定されず、目的とする意匠に合わせて、一般の熱可塑性樹脂の着色に使用される慣用の無機顔料、有機顔料、染料などが使用できる。例えば、酸化チタン、チタンイエロー、酸化鉄、複合酸化物系顔料、群青、コバルトブルー、酸化クロム、バナジウム酸ビスマス、カーボンブラック、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、タルク等の無機顔料;アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、アンスラキノン系顔料、イソインドリノン系顔料、イソインドリン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、チオインジゴ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料などの有機顔料;金属錯体顔料等が挙げられる。また、染料としては、主として油溶性染料のグループから選ばれる1種または2種以上を使用することが好ましい。
【0075】
支持基材樹脂層に配合される着色剤の添加量は、着色剤の種類、目的とする熱成形用シートの厚みや色調等により異なるが、色相や下地色の隠蔽性を確保し、かつ衝撃強度を維持するために、支持基材樹脂層を構成する樹脂に対する質量百分率にして0.1〜20質量%の範囲が好ましく、より好ましくは、0.5〜15質量%の範囲である。樹脂に対して、着色剤の添加量が20質量%を超えると衝撃強さが低下し、着色剤の添加量が0.1質量%未満であると、色相や下地色の隠蔽性が十分でない傾向にある。
【0076】
(支持基材樹脂層中の他の添加剤)
さらに支持基材樹脂層には、その衝撃強度や成形性が損なわれない範囲で、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤等の添加剤を添加してもよく、これらの添加剤は単独で使用しても2種類以上を併用してもよい。
【0077】
〔表面保護層〕
本発明の熱成形用積層シートまたは加飾成形体には、熱可塑性樹脂フィルム層を挟んで硬化性樹脂層の反対面に、耐擦傷性、耐薬品性等の付与を目的として表面保護層を設けても良い。
【0078】
(熱成形用積層シートの製造方法)
本発明で用いる熱成形用積層シートを構成する各層を積層する方法及び順序は特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂フィルム層の一方の面にトップコート層、他方の面に硬化性樹脂層、装飾層、他のインキ層を塗工したのち、前記装飾層または他のインキ層の側に支持基材樹脂層を接合することにより得ることができる。
【0079】
また、装飾層が金属薄膜層からなる場合には、例えば、熱可塑性樹脂フィルム層の一方の面に塗工などによりトップコート層を、他方の面に真空蒸着法などにより金属薄膜層を形成したのち、前記金属薄膜層の側に支持基材樹脂層を接合することにより、熱成形用積層シートを得ることができる。
【0080】
前記装飾層または他のインキ層と支持基材樹脂層とを接合するには、両者の間に接着剤層又は粘着剤層を介して接着することが好ましい。この積層方法によれば、接着剤層又は粘着剤層が装飾層の裏側(すなわち支持基材樹脂層の側)となり、装飾層の金属調光沢を損なうことがない。
【0081】
トップコート層及び装飾層等のインキ層の積層方法は、公知の印刷又は塗工方法で行えばよく、例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷等の印刷方法、グラビアコーター、グラビアリバースコーター、フレキソコーター、ブランケットコーター、ロールコーター、ナイフコーター、エアナイフコーター、キスタッチコーター、キスタッチリバースコーター及びコンマコーター、コンマリバースコーター、マイクログラビアコーター等の塗工方法を用いることができる。
【0082】
接着剤層による接着方法としては、慣用の溶剤型接着剤を用いたドライラミネーション法、ウェットラミネーション法、ホットメルトラミネーション法等で積層することができる。前記接着剤層を構成する接着剤は、慣用のフェノール樹脂系接着剤、レゾルシノール樹脂系接着剤、フェノール−レゾルシノール樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、ポリウレタン系接着剤、ポリアロマチック系接着剤などの熱硬化性樹脂系接着剤;エチレン−不飽和カルボン酸共重合体などを用いた反応型接着剤;酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、塩化ビニル樹脂、ナイロン、シアノアクリレート樹脂等の熱可塑性樹脂系接着剤;クロロプレン系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、SBR系接着剤、天然ゴム系接着剤などのゴム系接着剤などが挙げられる。特に、アクリル樹脂とポリプロピレン系樹脂との接着性が良好であり、かつマッチモールド成形のときの伸びの追随性が良好なことから、アクリルウレタン系接着剤が好ましい。
【0083】
これら接着剤の塗工方式は、グラビアコーター、グラビアリバースコーター、フレキソコーター、ブランケットコーター、ロールコーター、ナイフコーター、エアナイフコーター、キスタッチコーター、キスタッチリバースコーター、コンマコーター、コンマリバースコーター、マイクロリバースコーター等の塗工方式を用いることができる。接着剤又は粘着剤の塗布量は、0.1〜30g/mの範囲が好ましく、特に好ましくは2〜10g/mである。2g/mより少なすぎると接着力が弱くなり、10g/mより多すぎると乾燥性が低下し外観不良となり易い。接着剤層の厚さとしては、0.1〜30μmの範囲が好ましく、より好ましくは、1〜20μm、特に好ましくは、2〜10μmである。
【0084】
また、接着剤層に代えて、粘着剤層を設けることもできる。粘着剤層を構成する粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ポリアルキルシリコン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤等が好ましく用いられる。
【0085】
また、支持基材樹脂層の接着面は、接着剤層を構成する接着剤との親和性を向上させる目的で、プラズマ処理、コロナ処理、フレーム処理、電子線照射処理、粗面化処理、オゾン処理、等の表面処理、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等のドライプレーティング処理が施されても良い。
【0086】
(熱成形用積層シートの成形方法)
本発明では、熱可塑性樹脂フィルム層と、硬化性樹脂層と、装飾層と、支持基材樹脂層とがこの順に積層された熱成形用積層シートを、金型を用いて成形し、成形により三次元形状を有する成形体を得る。更に、該成形品を射出成形金型内の雌型側にインサートし、射出樹脂と一体化するインサート射出成形法で加飾成形体を成形することができる。
【0087】
(圧空真空成形)
圧空真空成形は、加熱ゾーンで加熱されたシートに雄金型若しくは雌金型を押し当て、圧空及び真空圧を利用してシートを賦形する成形方法である。成形条件については、特に限定されるものでは無いが、遠赤外線ヒーターを用いた場合、ヒーター温度で200〜500℃、間接加熱時間を5〜30秒とし、該シートが所望の温度になるまで加熱する。また、金型温度は、得られる成形体の外観や収縮度合いを確認しながら決める必要があるが20〜80℃とし、金型による冷却時間を1〜60秒とすることが好ましい。成形圧力は0.1〜1MPaが好ましいが、型再現性や設備投資面の問題から0.3〜0.7Mpaがより好ましく使われる。尚、超高圧成形法の場合は30Mpa程度の成形圧力を掛け賦形するため、低温でも良好な型再現性が得られる。
【0088】
(マッチモールド成形)
マッチモールド成形は、加熱ゾーンで加熱されたシートを挟むようにして雌型と雄型をマッチングさせることにより成形を行うことを特徴とする。ここで用いられる金型には通常金型内の空気の逃げ道としての真空口が設けられているが、この穴を用いて補助的に真空吸引を行っても構わない。成形圧力という面では、サーボモーター、油圧等の力を利用できるので、通常の圧空成形に比べ10〜1000倍程度の力が掛けられることからシートが破れない限り充分な型再現性を得ることが出来る。また、より低温での成形が可能なため、本マッチモールド成形を行うことにより、シートと同様の光沢値の高い鏡面状金属光沢を維持した成形体が成形可能である。成形条件については、特に限定されるものでは無いが、遠赤外線ヒーターを用いた場合、ヒーター温度で200〜500℃、間接加熱時間を5〜30秒とし、該シートが所望の温度になるまで加熱する。また、金型温度については、得られる成形体の外観や収縮度合いを確認しながら決める必要があるが20〜100℃とし、雄型と雌型で挟み込む時間を10秒〜5分とすることが好ましい。また、成形終了後、得られた成形体をエアー等で冷却すると離型時に発生しやすい変形が防止できるため好ましい。
【0089】
(加飾成形体)
(インサート射出成形)
高光沢の成形用積層シートを、本発明の熱成形用積層シートの成形方法に従い、熱成形により成形体とした後、得られた成形体と樹脂を一体成形することにより高光沢を有する樹脂との成形体(以下、加飾成形体と言う。)を得ることができる。 加飾成形体は、成形体をその熱可塑性樹脂フィルム側が射出成形金型の雌型に接するように配置し、前記成形体の裏面側に射出樹脂を充填することにより一体成形する方法、若しくは射出金型内で熱成形を行った後、そのまま射出金型内で射出樹脂との一体化を行う方法により作製することができる。いずれも高光沢を有し、破断がなく、型再現性に優れた加飾成形体を得ることができる。
【0090】
目的とする射出成形体の形状が二次元形状、若しくは、該シートの最大展開率が120%未満の単純な三次元形状の場合には、該シートを成形体とせず、シート形状のまま射出成形金型内に挿入することによりインサート射出成形体とすることが出来る。
【0091】
射出樹脂としては、支持基材樹脂層との密着性の観点から、支持基材樹脂層と同系統の樹脂が好ましい。具体的には支持基材樹脂層がポリプロピレン系樹脂の場合、射出樹脂中にポリプロピレン樹脂が40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。前記射出樹脂がポリプロピレン樹脂を主成分とする場合、該ポリプロピレン樹脂としては、本発明の支持基材樹脂層に好ましく用いられる支持基材樹脂層(C)で前記に例示した各種樹脂を用いることが出来る。この場合、射出樹脂中に前記ポリプロピレン樹脂を40質量%以上含有し、その他に、一般的にポリプロピレン樹脂と溶融混合可能な各種樹脂を含有しても良い。
【0092】
ポリプロピレン樹脂と溶融混合可能な樹脂としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体及びスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体等のスチレン系エラストマー、エチレン−プロピレン共重合体及びエチレン−プロピレン−ジエン共重合体に代表されるエチレンプロピレンラバー等のオレフィン系エラストマーが挙げられる。支持基材樹脂層がABS樹脂の場合には射出樹脂中に40質量%以上のABS樹脂が含まれることが好ましいが、支持基材樹脂との接着性が十分であれば、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル/アクリルゴム/スチレン(AAS)樹脂、アクリロニトリル/エチレンゴム/スチレン(AES)樹脂、(メタ)アクリル酸エステル/スチレン(MS)樹脂等を主成分とする樹脂として用いても構わない。
【0093】
また、前記射出樹脂中には、射出成形体の変形を防ぐ目的で無機フィラーを添加することが出来る。該無機フィラーとしては、特に限定はされないが、タルク、炭酸カルシウム、クレー、珪藻土、マイカ、珪酸マグネシウム、シリカ等が上げられる。
【0094】
更に、前記射出樹脂中には、低温衝撃性やインモールド成形性が損なわれない範囲で、着色剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐電防止剤、難燃剤および滑剤等の添加剤を配合しても良く、これらの添加剤は単独で使用しても2種類以上を併用してもよい。
【0095】
射出樹脂の充填温度は特に限定されるものではないが、樹脂温度が低すぎると支持基材樹脂層と射出樹脂が剥がれ易くなり、樹脂温度が高すぎると射出成形体にヒケと呼ばれる反りが発生し易くなる。このため、ポリプロピレン樹脂の場合、射出樹脂の充填温度は180〜270℃が好ましく、200〜260℃がより好ましい。ABS樹脂の場合は200〜290℃が好ましく、210〜260℃がより好ましい。射出金型温度は、雄型と雌型共に20〜100℃とすることが好ましいが、射出成形体に反り等が発生する場合は雄型及び雌型に温度勾配を付けることが必要となる。また、射出金型内に挿入した成形体を、射出樹脂充填前にあらかじめ金型温度まで加温するため、射出遅延時間(型閉めから射出までの時間)を1〜100秒の範囲内で設定しても良い。
【実施例】
【0096】
以下に具体例をもって本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における物性評価は下記の測定法または試験法にて行った。また、実施例中の「部」及び「%」は、いずれも質量基準によるものとする。
【0097】
(評価金型)
低面183×204mm、天面51×66mmの、高さが50mm、斜面傾斜勾配がそれぞれ35、55、60、70°、天面と斜面の接合部がそれぞれ0.5,1,5,3mmR、斜面同士の接合部が5mmR、斜面と低面の接合部が1mmRの台形形状の雄型10を使用した。また、雌型は雄型とを合わせた際のクリアランスが400μのものを使用した。更に、雄型の水平面と斜面の接合部には直径0.5mmの真空孔を設け、雌型の底面と斜面の接合部には直径0.5mmのエアー抜き孔を設けた。尚、この金型には成形時のシートズリ込み防止用のため可動式クランプ機構がついている。
【0098】
(シート光沢値評価法)
シートの光沢値は、JIS−K7105に準拠し、入射角20°、受光角20°とした、20°グロス測定法で求めた。尚、光沢計は日本電色社製VGS−300Aを使用した。
【0099】
(成形体の光沢値評価法)
成形体の光沢値は、熱成形法による台形状成形体の天面の20°グロスをJIS−K7105に準拠した測定法で行い、以下の基準で評価した。光沢値は評価金型から得られた台形状成形体の鏡面側の雄面を天面とし評価を行った。また、熱成形用積層シートを成形したところ天面の展開率はマッチモールド型で成形を行った場合は約110%、圧空真空成形法で成形を行った場合は約120%であった。なお、ここでいう展開率は、元の面積に比して全体の面積が1.2倍になった場合を120%として表した。
◎:成形前の熱成形用積層シートの光沢値に対して、90%以上の光沢保持率を持つもの。
○:成形前の熱成形用積層シートの光沢値に対して、80%以上の光沢保持率を持つもの。
×:成形前の熱成形用積層シートの光沢値に対して、80%未満の光沢保持率を持つもの。
【0100】
但し、本発明で言う光沢保持率は、成形前の熱成形用積層シートの光沢値に対する成形後の成形体を上記方法で測定した光沢値を下記の式で算出した割合(%)とする。
【0101】
【数2】

【0102】
(架橋度測定方法)
反応率は、硬化性樹脂層用組成物を25μmPPフィルムを基材として塗布し、実際の乾燥・硬化条件と同様にして硬化させた試験用フィルムと完全硬化(110℃/2時間加熱処理)させた補正用フィルムの2種類を作製し、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いて透過法又はATR法でイソシアネート官能基の硬化前後のIRスペクトルの吸光度ピーク高さを測定し、次式(1)から求めた。
【0103】
【数3】

【0104】
(ただし、式(1)において、P0は「硬化前の試験用フィルムの吸光度ピーク高さ」であり、Pは「硬化後の試験用フィルムの吸光度ピーク高さ」であり、P1は「完全硬化後の補正用フィルムの吸光度ピーク高さ」である。)
【0105】
(剥離強度測定方法)
シートを1インチ幅×200mm長さの短冊状に切り出し、熱可塑性樹脂フィルム層と支持基材樹脂層の間で50mm長さ程度剥離させ、つかみ部を作製しておく。そのシートを引張り試験機(株式会社東洋精機製作所「ストログラフ」)に取り付け、剥離部分がT字になるように保持しながら、引張り速度300mm/分で測定を行う。強度が安定した部分の応力値を求め、剥離強度とした。
◎:20N/in以上の剥離強度を持つもの。
○:10N/in以上の剥離強度を持つもの。
×:10N/in未満の剥離強度を持つもの。
【0106】
(鏡面性に優れた熱成形用積層シートの作製)
(熱可塑性樹脂フィルム層)
透明または半透明の熱可塑性樹脂フィルム層A−1として、ヘイズ:0.1%、厚さ125μmのゴム変性PMMAフィルム(商品名「テクノロイS−001」、住友化学工業社製、Tg=125℃)を使用した。このシートの軟化温度は112℃であった。
【0107】
(硬化性樹脂層)
前記熱可塑性樹脂フィルム層(A)と装飾層(B)の密着性を向上させるため、アクリルポリオール樹脂「6KW−032E」(商品名、大日本インキ化学工業社製、固形分38%(溶剤:酢酸エチル)、水酸基価30KOHmg/g)46部と4−メチル−2−ペンタノン46部との混合溶液に、イソシアヌレート環含有ポリイソシアネート「BURNOCK DN−981」(商品名、大日本インキ化学工業株式会社製、固形分75%(溶剤:酢酸エチル)、官能基数3、NCO濃度14%)8部を混合(合計100部)し、硬化性樹脂層用溶液を調製した。この硬化性樹脂層用溶液は、下記の表面保護層用としても使用する。
【0108】
(表面保護層)
前記熱可塑性樹脂フィルム層A−1の硬化性樹脂層を積層するのとは反対面に硬化性樹脂層用と同じ塗料を塗工し、層厚み5μmの表面保護層を有する透明または半透明の熱可塑性樹脂フィルム層A−2とした。このシートの軟化温度は111℃であった。
【0109】
(装飾層)
アルミニウム薄膜細片(厚さ0.04μm、面方向の大きさ5〜25μm)を10部、酢酸エチル37.25部、メチルエチルケトン30部、イソプロピルアルコール31.5部、ニトロセルロース1.25部を混合(合計110部)して、アルミニウム薄膜細片スラリーを調製した。
【0110】
得られたアルミニウム薄膜細片スラリーを30部、結着樹脂としてカルボン酸含有塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂(UCC社製「ビニライトVMCH」)を3部、ウレタン樹脂(荒川化学製「ポリウレタン2593」不揮発分32%)を8部、酢酸エチル23部、4−メチル−2−ペンタノン26部、イソプロピルアルコール10部を混合(合計100部)し、不揮発分中のアルミニウム薄膜細片濃度35質量%である装飾層用溶液(高輝性インキ)を調製した。
【0111】
(接着剤)
装飾層を有する熱可塑性樹脂フィルム層と支持基材樹脂層を接着するため、主剤として、芳香族ポリエステルポリオール樹脂「LX−703VL」(商品名、大日本インキ化学工業社製)15部、硬化剤として、脂肪族ポリイソシアネート「KR−90」(商品名、大日本インキ化学工業社製)1部及び希釈剤として、酢酸エチル18部を混合(合計34部)し、ポリエステルウレタン系接着剤を調製した。
【0112】
(支持基材樹脂層)
支持基材樹脂層として住友化学社製低結晶性ポリプロピレン樹脂(エクセレンSP7834)、住友化学社製直鎖状低密度ポリエチレン「FV403」、三井化学社製エチレンプロピレンゴム(タフマー P0480)を70/10/20の割合でドライブレンドした後、押出機ホッパーより投入し、加工温度200℃にてTダイから押出成形し、40℃に加熱されたキャストロールを通した後、巻き取り、300μmの無延伸原反シートC−1を製造した。このシートの軟化温度は104℃であった。
【0113】
次に住友化学社製ランダムPP(ノーブレンFS3611)を押出機ホッパーより投入し、加工温度200℃にてTダイから押出成形し、40℃に加熱されたキャストロールを通した後、巻き取り、300μmの無延伸原反シートC−2を製造した。このシートの軟化温度は119℃であった。
【0114】
次に住友化学社製ブロックPP(ノーブレンAD571)/住友化学社製低密度ポリエチレン(スミカセンF101−1)、三井化学社製エチレンプロピレンゴム(タフマー P0480)を65/15/20の割合でドライブレンドした後、押出機ホッパーより投入し、加工温度230℃にてTダイから押出成形し、40℃に加熱されたキャストロールを通した後、巻き取り、300μmの無延伸原反シートC−3を製造した。このシートの軟化温度は156℃であった。
【0115】
(シートの積層方法)
前記熱可塑性樹脂フィルム層(A)に前記硬化性樹脂層用溶液をマイクログラビアコーターを使用し乾燥膜厚2.0μmとなるよう塗工及び乾燥した後、50℃で3日間エージング処理を行った。次に、装飾層(B)として前記高輝性インキを前記硬化性樹脂層上にグラビアコーターを使用して乾燥膜厚2.0μmとなるように塗工及び乾燥した。さらに、支持基材樹脂層(C)がシートの接着面にぬれ指数40dyne/cmとなるようにコロナ処理を施した後、ABSシートの場合は装飾層(B)側に、それ以外の樹脂の場合は支持基材樹脂層(C)側に前記接着剤をマイクログラビアコーターを用いて乾燥膜厚5μmとなるように塗布、乾燥し、前記ゴム変性PMMAフィルムの高輝性インキ塗工面とを貼り合わせ、50℃で3日間のエージング処理を行い、成形用積層シートを得た。熱可塑性樹脂フィルム層A−1を用いて得られた成形用積層シートの20°光沢値(測定角度20度)は997%であった。また、熱可塑性樹脂フィルム層A−2を用いて得られた成形用積層シートの20°光沢値(測定角度20度)は1020%であった。
【0116】
(成形方法)
(マッチモールド成形)
本実施例のマッチモールド成形には、方締め力10tonの(株)浅野研究所社製小型真空圧空成形機FK−0431−10を用いた。雌型及び雌型用可動式クランプ枠をプラグ可動装置(上側)に、雄型及び雄型用可動式クランプ枠を金型可動装置(下側)に取り付け、以下に示す手順でマッチモールド成形を実施した。
【0117】
(1)熱成形用積層シートの熱可塑性樹脂フィルム層(A)側が上になるよう成形機のクランプで固定する。
(2)上側ヒーターを該シート熱成形用積層シートの上方へ移動させる(下側ヒーターは不使用)。
(3)該熱成形用積層シートを所定温度になるまで加熱する。
(4)前記ヒーターを退避させる。
(5)雌型を下降、雄型を上昇させる。
(6)雌型の下降及び雄型の上昇を利用して、金型の可動式クランプ枠で該熱成形用積層シートを挟んだ後、そのまま雌型と雄型でシートを挟み込むようにして三次元形状とする。
(7)雌型と雄型で該シートを挟み込んだまま1分間保持する。
(8)雌型を上昇、雄型を下降させた後、三次元形状とした成形体をエアーで5秒間冷却する。
(9)成形機のクランプを開放する。
以上の(1)〜(9)の工程によりマッチモールド成形法により成形体を得た。
【0118】
加熱は、上面のヒーター温度を400℃設定とし、加熱時間の調節により、各実施例及び比較例で示すシート温度までシートを加熱後、成形を行った。尚、ヒーター−シート間距離は130mm、金型温度は雌型が95℃、雄型が75℃、真空・冷却時間は60秒間とした。
【0119】
(圧空真空成形)
本実施例の圧空真空成形には、方締め力10tonの(株)浅野研究所社製小型真空圧空成形機FK−0431−10を用いた。圧空が金型にうまく伝わるようにマッチモールド金型の雌型キャビを外し、キャビを覆っているボックスのみを残してマッチモールド成形と同様の方法で圧空真空成形を実施した。尚、圧空圧力は0.4Mpaとした。
【0120】
(インサート成形)
熱成形用積層シートを用いて本発明の熱成形より作製した成形体を、インキ層を有するシートの表面保護層が射出成形用金型の雌型に接触するように密着させ金型温度40℃で加熱後、230℃に加熱したノバテック社製ポリプロピレン樹脂(商品名「TX1868H5」)を主原料とした溶融樹脂を金型内に射出して一体成形し、加飾成形体を作製した。なお、射出成形機はファナック社製のオートショット50D、射出成形金型は90mm×100mm×厚さ3mmを用いた。
【0121】
(実施例1)
前記熱可塑性樹脂フィルム層に、前記硬化性樹脂層用溶液をマイクログラビアコーターを使用し乾燥膜厚2.0μmとなるよう塗工及び乾燥した後、50℃で4日間硬化処理を行った。次に、装飾層として前記高輝性インキを前記装飾保護層上にグラビアコーターを使用して乾燥膜厚0.7μmとなるように塗工及び乾燥した。さらに、支持基材樹脂層がシートの接着面にぬれ指数40dyne/cmとなるようにコロナ処理を施した後、支持基材樹脂層側に前記接着剤をマイクログラビアコーターを用いて乾燥膜厚5μmとなるように塗工及び乾燥し、前記ゴム変性PMMAフィルムの高輝性インキ塗工面とを貼り合わせ、50℃で3日間の硬化処理を行い、成形用積層シート(a)を得た。この条件での硬化性樹脂層の反応率は76%であった。得られた成形用積層シートの20°光沢値(測定角度20度)は997%であった。このシートを熱成形したときの光沢保持率は82%で剥離強度は26N/inであった。
【0122】
(実施例2)
前記熱可塑性樹脂フィルム層に、前記硬化性樹脂層用溶液をマイクログラビアコーターを使用し乾燥膜厚2.0μmとなるよう塗工及び乾燥した後、50℃で4日間硬化処理を行った。次に、装飾層として前記高輝性インキを前記装飾保護層上にグラビアコーターを使用して乾燥膜厚0.7μmとなるように塗工及び乾燥した後50℃4日間硬化性樹脂層の硬化処理を行った。さらに、支持基材樹脂層がシートの接着面にぬれ指数40dyne/cmとなるようにコロナ処理を施した後、支持基材樹脂層側に前記接着剤をマイクログラビアコーターを用いて乾燥膜厚5μmとなるように塗工及び乾燥し、前記ゴム変性PMMAフィルムの高輝性インキ塗工面とを貼り合わせ、50℃で3日間の硬化処理を行い、成形用積層シート(b)を得た。この条件での硬化性樹脂層の反応率は79%であった。得られた成形用積層シートの20°光沢値(測定角度20度)は997%であった。このシートを熱成形したときの光沢保持率は87%で剥離強度は18N/inであった。
【0123】
(実施例3)
前記熱可塑性樹脂フィルム層に、前記硬化性樹脂層用溶液をマイクログラビアコーターを使用し乾燥膜厚2.0μmとなるよう塗工及び乾燥した後、50℃で4日間硬化処理を行った。次に、装飾層として前記高輝性インキを前記装飾保護層上にグラビアコーターを使用して乾燥膜厚0.7μmとなるように塗工及び乾燥した後60℃3日間硬化性樹脂層の硬化処理を行った。さらに、支持基材樹脂層がシートの接着面にぬれ指数40dyne/cmとなるようにコロナ処理を施した後、支持基材樹脂層側に前記接着剤をマイクログラビアコーターを用いて乾燥膜厚5μmとなるように塗工及び乾燥し、前記ゴム変性PMMAフィルムの高輝性インキ塗工面とを貼り合わせ、70℃で4日間の硬化処理を行い、成形用積層シート(b)を得た。この条件での硬化性樹脂層の反応率は84%であった。得られた成形用積層シートの20°光沢値(測定角度20度)は997%であった。このシートを熱成形したときの光沢保持率は92%で剥離強度は10N/inであった。
【0124】
(比較例1)
前記熱可塑性樹脂フィルム層に、前記硬化性樹脂層用溶液をマイクログラビアコーターを使用し乾燥膜厚2.0μmとなるよう塗工及び乾燥した後、40℃で3日間硬化処理を行った。次に、装飾層として前記高輝性インキを前記装飾保護層上にグラビアコーターを使用して乾燥膜厚0.7μmとなるように塗工及び乾燥した後40℃2日間硬化性樹脂層の硬化処理を行った。さらに、支持基材樹脂層がシートの接着面にぬれ指数40dyne/cmとなるようにコロナ処理を施した後、支持基材樹脂層側に前記接着剤をマイクログラビアコーターを用いて乾燥膜厚5μmとなるように塗工及び乾燥し、前記ゴム変性PMMAフィルムの高輝性インキ塗工面とを貼り合わせ、40℃で3日間の硬化処理を行い、成形用積層シート(b)を得た。この条件での硬化性樹脂層の反応率は72%であった。得られた成形用積層シートの20°光沢値(測定角度20度)は997%であった。このシートを熱成形したときの光沢保持率は65%で剥離強度は40N/inであった。
【0125】
(比較例2)
前記熱可塑性樹脂フィルム層に、前記硬化性樹脂層用溶液をマイクログラビアコーターを使用し乾燥膜厚2.0μmとなるよう塗工及び乾燥した後、70℃で4日間硬化処理を行った。次に、装飾層として前記高輝性インキを前記装飾保護層上にグラビアコーターを使用して乾燥膜厚0.7μmとなるように塗工及び乾燥した後70℃2日間硬化性樹脂層の硬化処理を行った。さらに、支持基材樹脂層がシートの接着面にぬれ指数40dyne/cmとなるようにコロナ処理を施した後、支持基材樹脂層側に前記接着剤をマイクログラビアコーターを用いて乾燥膜厚5μmとなるように塗工及び乾燥し、前記ゴム変性PMMAフィルムの高輝性インキ塗工面とを貼り合わせ、70℃で3日間の硬化処理を行い、成形用積層シート(b)を得た。この条件での硬化性樹脂層の反応率は86%であった。得られた成形用積層シートの20°光沢値(測定角度20度)は997%であった。このシートを熱成形したときの光沢保持率は96%で剥離強度は7N/inであった。
【0126】
上記実施例1〜3、及び比較例1〜2の結果を、表1に示す。これより、本発明の積層シートの製造方法は、熱成形後も光沢値の高い鏡面状金属光沢を持ち、積層された層間での剥離が起こりにくい熱成形用積層シートの製造方法であることが分かる。
【0127】
【表1】








【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)熱可塑性樹脂フィルム層と、2)反応率75%〜85%の範囲で反応させた硬化性樹脂層と、3)金属蒸着層または、金属薄膜細片と結着樹脂を含有し金属調の光沢を有する高輝性インキ層を有する装飾層と、4)支持基材樹脂層、とがこの順に積層された熱成形用積層シート。
【請求項2】
前記2)硬化性樹脂層が、水酸基を含有する熱可塑性樹脂とポリイソシアネートとの反応により得られる樹脂を主成分とする請求項1記載の熱成形用積層シート。
【請求項3】
前記水酸基を含有する熱可塑性樹脂が、水酸基を有するビニル系重合体である、請求項2記載の熱成形用積層シート。
【請求項4】
前記1)熱可塑性樹脂フィルム層が、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とするフィルムである請求項1記載の熱成形用積層シート。
【請求項5】
前記熱成形用積層シートが、3)装飾層と4)支持基材樹脂層との間に接着剤層を有する請求項1〜3のいずれかに記載の熱成形用積層シート。
【請求項6】
前記4)支持基材樹脂層がポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂およびABS樹脂からなる群から選ばれる樹脂の少なくとも1種を主成分とする熱可塑性樹脂フィルム層である請求項1記載の熱成形用積層シート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの請求項に記載の熱成形用積層シートを熱成形することにより得られる成形体。
【請求項8】
請求項7記載の成形体に樹脂を一体成形して得られる加飾成形体。




【公開番号】特開2007−190702(P2007−190702A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−8534(P2006−8534)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】